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特許7295276L-トレオニン排出タンパク質の変異体及びそれを用いたL-トレオニン生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】L-トレオニン排出タンパク質の変異体及びそれを用いたL-トレオニン生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/31 20060101AFI20230613BHJP
   C07K 14/245 20060101ALI20230613BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230613BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230613BHJP
   C12P 13/08 20060101ALI20230613BHJP
   C12R 1/19 20060101ALN20230613BHJP
【FI】
C12N15/31
C07K14/245 ZNA
C12N1/21
C12N15/63 Z
C12P13/08 C
C12R1:19
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021569881
(86)(22)【出願日】2020-09-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-27
(86)【国際出願番号】 KR2020012154
(87)【国際公開番号】W WO2021049866
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2021-11-24
(31)【優先権主張番号】10-2019-0111509
(32)【優先日】2019-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】514199250
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダング コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ソ、チャン イル
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヒョ ジン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ジ スン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、ソル
【審査官】山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109852572(CN,A)
【文献】国際公開第2002/036797(WO,A2)
【文献】特開2000-189177(JP,A)
【文献】特表2009-517088(JP,A)
【文献】Accession No. WP_097344017,Database GenBank [online],2019年06月,インターネット<https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/WP_097344017.1>[検索日2022年9月20日]
【文献】Accession No. A0A3R0W092,Database UniProt [online],2019年04月,インターネット<https://rest.uniprot.org/unisave/A0A3R0W092?format=txt&versions=1>[検索日2022年9月20日]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列の53番目に相当する位置にトレオニンへの置換、又は配列番号1のアミノ酸配列の62番目に相当する位置に他のアミノ酸への置換を含み、配列番号1のアミノ酸配列と90%以上かつ100%未満の配列同一性を有し、L-トレオニン排出活性を有する、L-トレオニン排出タンパク質の変異体。
【請求項2】
前記他のアミノ酸は、セリン、アルギニン、アラニン、アスパラギン酸、リシン、プロリン、システイン、グリシン、トレオニン、イソロイシン、チロシン、バリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、グルタミン、アスパラギン、グルタミン酸又はトリプトファンから選択される、請求項1に記載のタンパク質の変異体。
【請求項3】
前記タンパク質の変異体は、配列番号93~112から選択されるいずれかのアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のタンパク質の変異体。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のタンパク質の変異体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項4に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項6】
配列番号1のアミノ酸配列の53番目に相当する位置にトレオニンへの置換、又は配列番号1のアミノ酸配列の62番目に相当する位置に他のアミノ酸への置換を含み、配列番号1のアミノ酸配列と90%以上かつ100%未満の配列同一性を有する、L-トレオニン排出タンパク質の変異体、前記変異体をコードするポリヌクレオチド、及び前記ポリヌクレオチドを含むベクターの少なくとも1つを含み、L-トレオニンを生産する微生物。
【請求項7】
前記微生物は、コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)又はエシェリキア属(Escherichia sp.)微生物である、請求項6に記載のL-トレオニンを生産する微生物。
【請求項8】
配列番号1のアミノ酸配列の53番目に相当する位置にトレオニンへの置換、又は配列番号1のアミノ酸配列の62番目に相当する位置に他のアミノ酸への置換を含み、配列番号1のアミノ酸配列と90%以上かつ100%未満の配列同一性を有する、L-トレオニン排出タンパク質の変異体、前記変異体をコードするポリヌクレオチド、及び前記ポリヌクレオチドを含むベクターの少なくとも1つを含む微生物を培地で培養するステップを含むL-トレオニン生産方法。
【請求項9】
前記方法は、培養された培地又は微生物からL-トレオニンを回収するステップをさらに含む、請求項8に記載のL-トレオニン生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、L-トレオニン排出タンパク質の変異体及びそれを用いたL-トレオニン生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L-トレオニン(L-Threonine, L-Thr)は、必須アミノ酸の一つであり、飼料添加剤などとして広く用いられており、また、輸液剤などの医薬品原料、健康食品素材などとして広く用いられている。
【0003】
現在は、微生物を用いた直接発酵法がL-トレオニン生産に主に用いられている。L-トレオニン生産に用いられる微生物として、初期には化学的又は物理的突然変異によるアナログ耐性を示す選択菌株が主に用いられていたが、1990年代に遺伝子組換え技術が急激に発展し、分子レベルの調節機序が解明されることにより、遺伝子操作技法を用いた組換え菌株が主に用いられている。
【0004】
一方、特定アミノ酸排出遺伝子の発現は、微生物における当該アミノ酸の生産性向上をもたらした。コリネバクテリウム属微生物のL-リシン排出遺伝子(lysE)の発現強化は、リシンの生産性を向上させた(特許文献1)。また、大腸菌において機能が知られていない遺伝子であるyahN遺伝子、yeaS遺伝子、yfiK遺伝子及びyggA遺伝子を強化することにより、L-グルタミン酸、L-リシン、L-トレオニン、L-アラニン、L-ヒスチジン、L-プロリン、L-アルギニン、L-バリン及びL-イソロイシンの生産性が向上するという特許(特許文献2)も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第97/023597号
【文献】欧州特許第1016710号明細書
【文献】韓国登録特許第10-0620092号公報
【文献】韓国登録特許第10-1783170号公報
【文献】韓国登録特許第10-1632642号公報
【文献】特開平05-227977号公報
【文献】韓国公開特許第10-2019-0003019号公報
【文献】韓国登録特許第10-1126041号公報
【文献】韓国登録特許第10-0058286号公報
【文献】韓国登録特許第10-0159812号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Daley DO et al., Global topology analysis of the Escherichia coli inner membrane proteome, Science. 2005 May 27; 308(5726):1321-3.
【文献】Pearson et al (1988)[Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85]: 2444
【文献】Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277
【文献】Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453
【文献】Devereux, J., et al, Nucleic Acids Research 12: 387 (1984)
【文献】Atschul, [S.] [F.,] [ET AL, J MOLEC BIOL 215]: 403 (1990)
【文献】Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, [ED.,] Academic Press, San Diego,1994
【文献】[CARILLO ETA/.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073
【文献】Smith and Waterman, Adv. Appl. Math (1981) 2:482
【文献】Schwartz and Dayhoff, eds., Atlas Of Protein Sequence And Structure, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358 (1979)
【文献】Gribskov et al(1986) Nucl. Acids Res. 14: 6745
【文献】J. Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory press, Cold Spring Harbor, New York, 1989
【文献】F.M. Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., New York
【文献】Sambrook et al., supra, 9.50-9.51, 11.7-11.8
【文献】TURBA E, et al, Agric. Biol. Chem. 53:2269~2271, 1989
【文献】Introduction to Biotechnology and Genetic Engineering, A. J. Nair., 2008
【文献】Nucleic Acids Rersearch, 18, (1990) 4631
【文献】DG Gibson et al., NATURE METHODS, VOL.6 NO.5, MAY 2009, NEBuilder HiFi DNA Assembly Master Mix
【文献】Appl. Microbiol.Biotechnol. (1999) 52:541-545
【文献】J Bacteriol. 1993 Feb;175(4):959-65
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、rhtCによりコードされるL-トレオニン排出タンパク質(RhtC)の排出能向上のために変異型rhtCを選択し、それによりL-トレオニン生産量が画期的に向上することを確認し、本出願を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願は、配列番号1の53番目又は62番目に相当する位置に他のアミノ酸への置換を含み、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも80%以上、100%未満の配列相同性を有し、L-トレオニン排出活性を有する、L-トレオニン排出タンパク質の変異体を提供することを目的とする。
【0009】
また、本出願は、前記L-トレオニン排出タンパク質の変異体をコードするポリヌクレオチドを提供することを目的とする。
さらに、本出願は、前記ポリヌクレオチドを含むベクターを提供することを目的とする。
【0010】
さらに、本出願は、前記L-トレオニン排出タンパク質の変異体、前記タンパク質の変異体をコードするポリヌクレオチド、及び前記ポリヌクレオチドを含むベクターの少なくとも1つを含む、L-トレオニンを生産する微生物を提供することを目的とする。
【0011】
さらに、本出願は、前記微生物を培地で培養するステップを含むL-トレオニン生産方法を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0012】
本出願のL-トレオニン排出タンパク質の変異体を用いて、L-トレオニンを生産する微生物を培養すると、従来の非変異タンパク質を有する微生物に比べて高収率でL-トレオニンを生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、これらを具体的に説明する。なお、本出願で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本出願で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本出願に含まれる。また、以下の具体的な記述に本出願が限定されるものではない。
【0014】
前記目的を達成するための本出願の一態様は、配列番号1のアミノ酸配列に少なくとも1つのアミノ酸置換を含むL-トレオニン排出タンパク質の変異体を提供する。
具体的には、本出願は、配列番号1のアミノ酸配列において、i)53番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換され、かつ/又はii)62番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたタンパク質の変異体を提供する。前記アミノ酸置換は、i)53番目のアミノ酸のトレオニンへの置換であってもよく、ii)62番目のアミノ酸のセリン、アルギニン、アラニン、アスパラギン酸、リシン、プロリン、システイン、グリシン、トレオニン、イソロイシン、チロシン、バリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、グルタミン、アスパラギン、グルタミン酸又はトリプトファンから選択されるアミノ酸への置換であってもよい。
【0015】
本出願における「トレオニン(Threonine, Thr)」とは、体内で合成されず、食品からのみ供給可能な必須アミノ酸の一つであり、腸管上皮保護物質であるムチン(mucin)を構成し、不足すると成長停止、体重減少をもたらすことがある。トレオニンは、飼料添加剤、輸液剤などの医薬品原料、健康食品素材などとして広く用いられている。他のアミノ酸と同様に、トレオニンにもD型とL型の立体異性体が存在し、自然に由来するトレオニンのほとんどはL型立体異性体であるL-トレオニン(L-Threonine, L-Thr)として存在する。本発明において、トレオニン(Threonine, Thr)はL-トレオニン(L-Threonine, L-Thr)と混用される。
【0016】
本出願における「L-トレオニン排出タンパク質(L-threonine exporter, L-threonine efflux protein)」は、L-トレオニンを細胞外に排出するように媒介するタンパク質であり、5つの膜貫通ドメイン(transmembrane domains)を有する内膜タンパク質として知られている。実験トポロジー(experimental topology)分析において、そのC末端が細胞質に存在することが示唆されている(非特許文献1)。前記L-トレオニン排出タンパク質は、例えば配列番号1、配列番号113又は配列番号115のアミノ酸配列を含むタンパク質であってもよい。配列番号1、配列番号113又は配列番号115のアミノ酸配列を含むタンパク質は、配列番号1、配列番号113又は配列番号115のアミノ酸配列を有するタンパク質、配列番号1、配列番号113又は配列番号115のアミノ酸配列からなるタンパク質と混用される。本出願において、前記L-トレオニン排出タンパク質は、RhtCタンパク質又はRhtCと混用される。
【0017】
本出願における配列番号1、配列番号113又は配列番号115は、L-トレオニン排出活性を有するアミノ酸配列である。具体的には、配列番号1、配列番号113又は配列番号115は、rhtC遺伝子によりコードされるL-トレオニン排出活性を有するタンパク質配列である。配列番号1、配列番号113又は配列番号115のアミノ酸配列は、公知のデータベースであるNCBIのGenBankからその配列が得られる。例えば、配列番号1は大腸菌(Escherichia coli, E.coli)由来のもの、配列番号113はシゲラ・フレクスネリ(Shigella flexneri)由来のもの、配列番号115はエシェリキア・フェルグソニイ(Escherichia fergusonii)由来のものであってもよいが、これらに限定されるものではなく、前記アミノ酸配列を含むタンパク質と同じ活性を有するタンパク質のアミノ酸配列であればいかなるものでもよい。配列番号113又は配列番号115は、配列番号1との相同性がそれぞれ99%であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0018】
また、本出願におけるL-トレオニン排出活性を有するタンパク質は、たとえ配列番号1、配列番号113又は配列番号115のアミノ酸配列を含むタンパク質であると定義したとしても、配列番号1、配列番号113又は配列番号115のアミノ酸配列の前後の無意味な配列付加、自然発生する突然変異、又はその非表現突然変異(silent mutation)を除外するものではなく、配列番号1、配列番号113又は配列番号115のアミノ酸配列を含むタンパク質と同一又は相当する活性を有するものであれば、本出願のL-トレオニン排出活性を有するタンパク質に含まれることは当業者にとって自明である。具体的には、本出願のL-トレオニン排出活性を有するタンパク質は、配列番号1、配列番号113又は配列番号115のアミノ酸配列であってもよく、それと80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の相同性又は同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。また、そのような相同性又は同一性を有し、前記タンパク質に相当する効能を示すアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質も本出願の変異対象となるタンパク質に含まれることは言うまでもない。
【0019】
すなわち、本出願に「特定配列番号で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質又はポリペプチド」、「特定配列番号で表されるアミノ酸配列を含むタンパク質又はポリペプチド」と記載されていても、当該配列番号のアミノ酸配列からなるポリペプチドと同一又は相当する活性を有するものであれば、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質であっても本出願に用いられることは言うまでもない。例えば、「配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド」は、配列番号1に相当する配列、又はそれと同一もしくは相当する活性を有する配列であれば「配列番号1のアミノ酸配列からなるポリペプチド」に属することは言うまでもない。
【0020】
本出願における「変異体(variant)」とは、少なくとも1つのアミノ酸の保存的置換(conservative substitution)及び/又は改変(modification)により前記列挙した配列(the recited sequence)とは異なるが、前記タンパク質の機能(functions)又は特性(properties)が維持されるタンパク質を意味する。変異体は、数個のアミノ酸置換、欠失又は付加により識別される配列(identified sequence)とは異なる。このような変異体は、一般に前記タンパク質のアミノ酸配列の少なくとも1つのアミノ酸を改変し、前記改変したタンパク質の特性を評価することにより識別することができる。すなわち、変異体の能力は、本来のタンパク質(native protein)より向上するか、変わらないか又は低下する。また、一部の変異体には、N末端リーダー配列や膜貫通ドメイン(transmembrane domain)などの少なくとも1つの部分が除去された変異体も含まれる。他の変異体には、成熟タンパク質(mature protein)のN及び/又はC末端から一部分が除去された変異体も含まれる。前記「変異体」には、変異型、改変、変異したタンパク質、変異型ポリペプチド、変異などの用語(英語表現では、modification、modified protein、modified polypeptide、mutant、mutein、divergent、variantなど)が用いられるが、変異を意味する用語であればこれらに限定されるものではない。本出願の目的上、前記変異体は、天然の野生型又は非変異タンパク質に比べて変異したタンパク質の活性が上昇したものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0021】
本出願における「保存的置換(conservative substitution)」とは、あるアミノ酸が類似した構造的及び/又は化学的性質を有する他のアミノ酸に置換されることを意味する。前記変異体は、少なくとも1つの生物学的活性を依然として有する状態で、例えば少なくとも1つの保存的置換を有する。このようなアミノ酸置換は、一般に残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性及び/又は両親媒性(amphipathic nature)における類似性に基づいて発生し得る。例えば、電荷を帯びた側鎖(electrically charged amino acid)を有するアミノ酸のうち正に荷電した(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、リシン及びヒスチジンが挙げられ、負に荷電した(酸性)アミノ酸としては、グルタミン酸及びアスパラギン酸が挙げられ、電荷を帯びていない側鎖(uncharged amino acid)を有するアミノ酸のうち非極性アミノ酸(nonpolar amino acid)としては、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン及びプロリンが挙げられ、極性(polar)又は親水性(hydrophilic)アミノ酸としては、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン及びグルタミンが挙げられ、前記非極性アミノ酸のうち芳香族アミノ酸としては、フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシンが挙げられる。
【0022】
また、変異体は、ポリペプチドの特性と二次構造に最小限の影響を及ぼすアミノ酸の欠失又は付加を含んでもよい。例えば、ポリペプチドは、翻訳と同時に(co-translationally)又は翻訳後に(post-translationally)タンパク質の移転(transfer)に関与するタンパク質のN末端のシグナル(又はリーダー)配列に結合されてもよい。また、前記ポリペプチドは、ポリペプチドを確認、精製又は合成できるように、他の配列又はリンカーに結合されてもよい。
【0023】
前記「他のアミノ酸に置換」は、置換前のアミノ酸とは異なるアミノ酸であれば限定されるものではない。すなわち、配列番号1、配列番号113又は配列番号115のアミノ酸配列の53番目のアミノ酸であるアラニンがアラニン以外の他のアミノ酸残基に置換されたもの、又は62番目のアミノ酸であるロイシンがロイシン以外の他のアミノ酸残基に置換されたものであれば限定されるものではない。なお、本出願における「特定アミノ酸が置換された」とは、他のアミノ酸に置換されたと表記していなくても、置換前のアミノ酸とは異なるアミノ酸に置換されたことを意味することは言うまでもない。
【0024】
前記変異体は、配列番号1、配列番号113又は配列番号115のアミノ酸配列において53番目又は62番目のアミノ酸の1つ以上のアミノ酸が置換前のアミノ酸とは異なるアミノ酸に置換されたものであってもよい。あるいは、前記変異体は、電荷を帯びていない側鎖(uncharged amino acid)を有する、置換前のアミノ酸とは異なるアミノ酸に置換された変異体であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0025】
具体的には、前記変異体は、配列番号1、配列番号113又は配列番号115のアミノ酸配列において、i)53番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されるか、又はii)62番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された変異体であってもよい。前記他のアミノ酸への置換は、i)53番目のアミノ酸のトレオニンへの置換であってもよく、ii)62番目のアミノ酸のセリン、アルギニン、アラニン、アスパラギン酸、リシン、プロリン、システイン、グリシン、トレオニン、イソロイシン、チロシン、バリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、グルタミン、アスパラギン、グルタミン酸又はトリプトファンから選択されるアミノ酸への置換であってもよい。より具体的には、前記変異体は、配列番号1、配列番号113又は配列番号115のアミノ酸配列において、i)53番目のアミノ酸がトレオニンに置換された変異体であってもよく、ii)62番目のアミノ酸がセリン、アルギニン、アラニン、アスパラギン酸、リシン、プロリン、システイン、グリシン、トレオニン、イソロイシン、チロシン、バリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、グルタミン、アスパラギン、グルタミン酸又はトリプトファンから選択されるアミノ酸に置換された変異体であってもよい。
【0026】
本出願が提供するL-トレオニン排出タンパク質の変異体とは、前述したL-トレオニン排出能を有するタンパク質の特異的位置のアミノ酸が置換され、L-トレオニン排出能が変異前のタンパク質に比べて向上した変異体を意味してもよい。
【0027】
配列番号1、配列番号113又は配列番号115のアミノ酸配列において、i)53番目のアミノ酸がトレオニンに置換されるか、又はii)62番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換された変異体は、配列番号93~112、114及び116のいずれかのアミノ酸配列を含むものであってもよく、具体的には配列番号93~112、114及び116のいずれかのアミノ酸配列から必須に構成される(consisting essentially of)ものであってもよく、より具体的には配列番号93~112、114及び116のいずれかのアミノ酸配列からなるものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0028】
前記変異体は、配列番号1、配列番号113又は配列番号115の53番目又は62番目に相当する位置に他のアミノ酸への置換を含み、配列番号1、配列番号113又は配列番号115のアミノ酸配列と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%以上、100%未満の配列相同性を有し、L-トレオニン排出活性を有するものであってもよい。
【0029】
また、前記変異体は、配列番号93~112、114及び116のいずれかのアミノ酸配列、又は前記アミノ酸配列において、53番目及び62番目のアミノ酸から選択される1つ以上のアミノ酸が固定されており、それと80%以上の相同性もしくは同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよいが、これらに限定されるものではない。具体的には、本出願の変異体には、配列番号93~112、114及び116のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%の相同性又は同一性を有するポリペプチドが含まれる。また、そのような相同性又は同一性を有し、前記タンパク質に相当する効能を示すアミノ酸配列であれば、53番目又は62番目のアミノ酸位置以外の一部の配列が欠失、改変、置換又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質も本出願に含まれることは言うまでもない。
【0030】
本出願における「相同性(homology)」又は「同一性(identity)」とは、2つの与えられたアミノ酸配列又は塩基配列が互いに関連する程度を意味し、百分率で表される。本出願における相同性及び同一性は、しばしば相互交換的に用いられる。
【0031】
保存されている(conserved)ポリヌクレオチド又はポリペプチドの配列相同性又は同一性は標準的な配列アルゴリズムにより決定され、用いられるプログラムにより確立されたデフォルトギャップペナルティが共に用いられてもよい。実質的には、相同性を有するか(homologous)又は同じ(identical)配列は、中程度又は高いストリンジェントな条件(stringent conditions)下において、一般に配列全体又は全長の少なくとも約50%、60%、70%、80%又は90%以上ハイブリダイズする。そのハイブリダイゼーションは、ポリヌクレオチドがコドンの代わりに縮退コドンを有するようにするものであってもよい。
【0032】
任意の2つのポリヌクレオチド又はポリペプチド配列が相同性、類似性又は同一性を有するか否かは、例えば非特許文献2のようなデフォルトパラメーターと「FASTA」プログラムなどの公知のコンピュータアルゴリズムを用いて決定することができる。あるいは、EMBOSSパッケージのニードルマンプログラム(EMBOSS: The European Molecular Biology Open Software Suite, 非特許文献3)(バージョン5.0.0又はそれ以降のバージョン)で行われるように、ニードルマン=ウンシュ(Needleman-Wunsch)アルゴリズム(非特許文献4)を用いて決定することができる(GCGプログラムパッケージ(非特許文献5)、BLASTP、BLASTN、FASTA(非特許文献6,7,8)を含む)。例えば、国立生物工学情報センターのBLAST又はClustalWを用いて相同性、類似性又は同一性を決定することができる。
【0033】
ポリヌクレオチドの相同性、類似性又は同一性は、例えば非特許文献9に開示されているように、非特許文献4などのGAPコンピュータプログラムを用いて、配列情報を比較することにより決定することができる。要約すると、GAPプログラムは、2つの配列のうち短いものにおける記号の総数で、類似する配列記号(すなわち、ヌクレオチド又はアミノ酸)の数を割った値と定義している。GAPプログラムのためのデフォルトパラメーターは、(1)二進法比較マトリックス(同一性は1、非同一性は0の値をとる)及び非特許文献10に開示されているように、非特許文献11の加重比較マトリックス(又はEDNAFULL(NCBINUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリックス)と、(2)各ギャップに3.0のペナルティ、及び各ギャップの各記号に追加の0.10ペナルティ(又はギャップオープンペナルティ10、ギャップ延長ペナルティ0.5)と、(3)末端ギャップに無ペナルティとを含む。
【0034】
また、任意の2つのポリヌクレオチド又はポリペプチド配列が相同性、類似性又は同一性を有するか否かは、定義されたストリンジェントな条件下にてサザンハイブリダイゼーション実験で配列を比較することにより確認することができ、定義される好適なハイブリダイゼーション条件は当該技術の範囲内であり、当業者に周知の方法(例えば、非特許文献12、13)で決定される。
【0035】
本出願における「L-トレオニン排出タンパク質の変異体」とは、L-トレオニン生産能を有する変異型ポリペプチド、L-トレオニン生産変異型ポリペプチド、L-トレオニンを生産する変異型ポリペプチド、L-トレオニン排出活性を有する変異型ポリペプチド、L-トレオニン排出活性変異体、L-トレオニン排出変異体、変異型RhtC、RhtC変異体、変異型L-トレオニン排出タンパク質などと混用される。また、前記タンパク質は、大腸菌(Escherichia coli, E.coli)由来のものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0036】
前記L-トレオニン排出タンパク質の変異体は、配列番号1、配列番号113又は配列番号115のアミノ酸配列において53番目及び/又は62番目の位置に変異を含んでもよく、配列番号1、配列番号113又は配列番号115にアミノ酸が付加、欠失したアミノ酸配列であっても、配列番号1、配列番号113又は配列番号115のN末端から53番目及び/又は62番目のアミノ酸に相当する位置のアミノ酸が置換された変異体であれば本出願に含まれる。前記L-トレオニン排出タンパク質の変異体は、配列番号1、配列番号113又は配列番号115のアミノ酸配列において53番目又は62番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたものであって、配列番号1、配列番号113又は配列番号115のアミノ酸配列を含むタンパク質や野生型微生物由来の変異前のL-トレオニン排出タンパク質に比べて、強化された活性を有する変異型L-トレオニン排出タンパク質であってもよい。このようなL-トレオニン排出タンパク質の変異体とは、前述した配列番号1、配列番号113もしくは配列番号115、及び/又は配列番号1、配列番号113もしくは配列番号115と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%以上の相同性もしくは同一性を有するアミノ酸において、配列番号1、配列番号113又は配列番号115の53番目又は62番目に相当する位置のアミノ酸が変異したものを意味する。
【0037】
前記53番目又は62番目のアミノ酸変異は、i)53番目のアミノ酸のトレオニンへの置換であってもよく、ii)62番目のアミノ酸のセリン、アルギニン、アラニン、アスパラギン酸、リシン、プロリン、システイン、グリシン、トレオニン、イソロイシン、チロシン、バリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、グルタミン、アスパラギン、グルタミン酸又はトリプトファンから選択されるアミノ酸への置換であってもよい。
【0038】
具体的には、前記L-トレオニン排出タンパク質の変異体は、配列番号1、配列番号113又は配列番号115のアミノ酸配列において、i)53番目のアミノ酸がトレオニンに置換されたものであってもよく、ii)62番目のアミノ酸がセリン、アルギニン、アラニン、アスパラギン酸、リシン、プロリン、システイン、グリシン、トレオニン、イソロイシン、チロシン、バリン、ヒスチジン、フェニルアラニン、メチオニン、グルタミン、アスパラギン、グルタミン酸又はトリプトファンから選択されるアミノ酸に置換されたものであってもよく、配列番号1、配列番号113又は配列番号115のアミノ酸配列を含むタンパク質や野生型微生物由来の変異前のL-トレオニン排出タンパク質に比べて、強化された活性を有するものであってもよい。
【0039】
本出願の目的上、前記L-トレオニン排出タンパク質の変異体を含む微生物は、L-トレオニン生産量が増加することを特徴とする。これは、野生型微生物がL-トレオニンを生産できないか、L-トレオニンを生産したとしても極微量しか生産できないのに対して、本出願のL-トレオニン排出タンパク質の変異体によりL-トレオニン生産量を増加させることができるということに意義がある。
【0040】
本出願の他の態様は、前記L-トレオニン排出タンパク質の変異体をコードするポリヌクレオチドを提供する。
前記L-トレオニン、配列番号1のアミノ酸配列を含むL-トレオニン排出活性を有するタンパク質及びその変異体については前述した通りである。
【0041】
本出願における「ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチド単量体(monomer)が共有結合により長く鎖状につながったヌクレオチドの重合体(polymer)であって、所定の長さより長いDNA又はRNA鎖であり、より具体的には前記変異体をコードするポリヌクレオチド断片を意味する。
【0042】
本出願のL-トレオニン排出タンパク質の変異体をコードするポリヌクレオチドは、本出願のL-トレオニン排出活性を有する変異型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列であればいかなるものでもよい。本出願において、L-トレオニン排出タンパク質のアミノ酸配列をコードする遺伝子はrhtC遺伝子であり、前記遺伝子は大腸菌(Escherichia coli, E. coli)、シゲラ・フレクスネリ(Shigella flexneri)又はエシェリキア・フェルグソニイ(Escherichia fergusonii)由来のものであってもよいが、これらに限定されるものではない。また、前記遺伝子は、配列番号1、配列番号113又は配列番号115のアミノ酸配列をコードする塩基配列であり、より具体的には配列番号1のアミノ酸配列をコードする塩基配列は配列番号2の塩基配列を含む配列であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0043】
具体的には、本出願のポリヌクレオチドは、コドンの縮退(degeneracy)により、又は前記ポリペプチドを発現させようとする生物において好まれるコドンを考慮して、ポリペプチドのアミノ酸配列が変化しない範囲でコード領域に様々な改変を行うことができる。具体的には、配列番号1、配列番号113又は配列番号115のアミノ酸配列において53番目又は62番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたL-トレオニン排出タンパク質の変異体をコードするポリヌクレオチド配列であればいかなるものでもよい。
【0044】
また、公知の遺伝子配列から製造されるプローブ、例えば前記塩基配列の全部又は一部に対する相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることにより、配列番号1、配列番号113又は配列番号115のアミノ酸配列において53番目又は62番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたL-トレオニン排出活性を有するタンパク質をコードする配列であればいかなるものでもよい。前記「ストリンジェントな条件(stringent condition)」とは、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを可能にする条件を意味する。このような条件は、文献(非特許文献14参照)に具体的に記載されている。例えば、相同性又は同一性の高い遺伝子同士、40%以上、具体的には90%以上、より具体的には95%以上、さらに具体的には97%以上、特に具体的には99%以上の相同性又は同一性を有する遺伝子同士をハイブリダイズし、それより相同性又は同一性の低い遺伝子同士をハイブリダイズしない条件、又は通常のサザンハイブリダイゼーション(southern hybridization)の洗浄条件である60℃、1×SSC、0.1%SDS、具体的には60℃、0.1×SSC、0.1%SDS、より具体的には68℃、0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度及び温度において、1回、具体的には2回~3回洗浄する条件が挙げられる。
【0045】
ハイブリダイゼーションは、たとえハイブリダイゼーションの厳格さに応じて塩基間のミスマッチ(mismatch)が可能であっても、2つの核酸が相補的配列を有することが求められる。「相補的」とは、互いにハイブリダイゼーションが可能なヌクレオチド塩基間の関係を表すために用いられるものである。例えば、DNAにおいて、アデノシンはチミンに相補的であり、シトシンはグアニンに相補的である。よって、本出願には、実質的に類似する核酸配列だけでなく、全配列に相補的な単離された核酸フラグメントが含まれてもよい。
【0046】
具体的には、相同性又は同一性を有するポリヌクレオチドは、55℃のTm値でハイブリダイゼーションステップが行われるハイブリダイゼーション条件と前述した条件を用いて検知することができる。また、前記Tm値は、60℃、63℃又は65℃であってもよいが、これらに限定されるものではなく、その目的に応じて当業者により適宜調節される。
【0047】
ポリヌクレオチドをハイブリダイズする適切な厳格さはポリヌクレオチドの長さ及び相補性の程度に依存し、変数は当該技術分野で公知である(例えば、非特許文献14)。
本出願のさらに他の態様は、前記L-トレオニン排出タンパク質の変異体をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0048】
前記L-トレオニン、配列番号1のアミノ酸配列を含むL-トレオニン排出活性を有するタンパク質及びその変異体については前述した通りである。
本出願における「ベクター」とは、好適な宿主内で標的ポリペプチドを発現させることができるように、好適な調節配列に作動可能に連結された前記標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列を含有するDNA産物を意味する。前記調節配列には、転写を開始するプロモーター、その転写を調節するための任意のオペレーター配列、好適なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、並びに転写及び翻訳の終結を調節する配列が含まれる。ベクターは、好適な宿主細胞内に形質転換されると、宿主ゲノムに関係なく複製及び機能することができ、ゲノム自体に組み込まれてもよい。
【0049】
本出願に用いられるベクターは、特に限定されるものではなく、当該技術分野で公知の任意のベクターが用いられる。通常用いられるベクターの例としては、天然状態又は組換え状態のプラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージが挙げられる。例えば、ファージベクター又はコスミドベクターとしては、pWE15、M13、MBL3、MBL4、IXII、ASHII、APII、t10、t11、Charon4A、Charon21Aなどを用いることができ、プラスミドベクターとしては、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系、pET系などを用いることができる。具体的には、pDZ、pACYC177、pACYC184、pCL、pECCG117、pUC19、pBR322、pMW118、pCC1BACベクターなどを用いることができる。
【0050】
例えば、細胞内染色体導入用ベクターにより、染色体内で標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを染色体内に挿入することができる。前記ポリヌクレオチドの染色体内への挿入は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば相同組換え(homologous recombination)により行うことができるが、これに限定されるものではない。前記染色体に挿入されたか否かを確認するための選択マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。選択マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選択、すなわち標的核酸分子が挿入されたか否かを確認するためのものであり、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性、表面ポリペプチドの発現などの選択可能表現型を付与するマーカーが用いられる。選択剤(selective agent)で処理した環境においては、選択マーカーを発現する細胞のみ生存するか、異なる表現形質を示すので、形質転換された細胞を選択することができる。
【0051】
本出願のさらに他の態様は、前記L-トレオニン排出タンパク質の変異体を含むか、それをコードするポリヌクレオチドを含み、L-トレオニンを生産する微生物を提供する。
本出願における「変異型ポリペプチドを含む微生物」又は「L-トレオニン排出タンパク質の変異体を含む微生物」とは、自然に弱いL-トレオニン生産能を有する微生物、又はL-トレオニン生産能のない親株にL-トレオニン生産能が付与された微生物を意味する。具体的には、前記微生物は、配列番号1、配列番号113又は配列番号115のアミノ酸配列に少なくとも1つのアミノ酸変異を含むL-トレオニン排出タンパク質の変異体を発現する微生物であり、前記アミノ酸変異は、N末端から53番目又は62番目のアミノ酸の他のアミノ酸への置換を含むものであってもよい。また、前記微生物は、配列番号1、配列番号113又は配列番号115のアミノ酸配列において53番目又は62番目のアミノ酸が他のアミノ酸に置換され、L-トレオニン排出活性を有する、変異型ポリペプチドを発現する微生物であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0052】
前記L-トレオニン、配列番号1のアミノ酸配列を含むL-トレオニン排出活性を有するタンパク質及びその変異体については前述した通りである。
本出願における、タンパク質が「発現するように/する」とは、標的タンパク質が微生物内に導入されるか、微生物内で発現するように改変された状態を意味する。前記標的タンパク質が微生物内に存在するタンパク質の場合、内在性活性又は改変前の活性に比べて活性が強化された状態を意味する。本出願の目的上、「標的タンパク質」は、前述したL-トレオニン排出能を有するタンパク質の変異体であってもよい。
【0053】
具体的には、「タンパク質の導入」とは、微生物が本来持っていなかった特定タンパク質の活性が現れるようにすること、又は当該タンパク質の内在性活性もしくは改変前の活性に比べて向上した活性が現れるようにすることを意味する。例えば、特定タンパク質をコードするポリヌクレオチドが微生物内の染色体に導入されることや、特定タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターが微生物内に導入されてその活性が現れることであってもよい。また、「活性の強化」とは、微生物が有する特定タンパク質の内在性活性又は改変前の活性に比べて活性が向上することを意味する。「内在性活性」とは、自然要因又は人為的要因により遺伝的に変異して微生物の形質が変化する場合に、形質変化の前に親株が本来有していた特定タンパク質の活性を意味する。
【0054】
具体的には、本出願の活性強化は、前記タンパク質変異体をコードする遺伝子の細胞内のコピー数を増加する方法、前記タンパク質変異体をコードする遺伝子の発現調節配列に変異を導入する方法、前記L-トレオニン排出活性を有するタンパク質変異体をコードする遺伝子発現調節配列を活性が強力な配列に置換する方法、染色体上のL-トレオニン排出活性を有する天然タンパク質をコードする遺伝子を前記タンパク質変異体をコードする遺伝子に代替する方法、前記タンパク質変異体の活性が強化されるように前記L-トレオニン排出活性を有するタンパク質をコードする遺伝子に変異をさらに導入する方法、及び微生物にタンパク質変異体を導入する方法からなる群から選択される少なくとも1つの方法で行われるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
前記遺伝子のコピー数を増加する方法は、特にこれらに限定されるものではないが、ベクターに作動可能に連結された形態で行われるか、宿主細胞内の染色体内に挿入されることにより行われてもよい。具体的には、本出願のタンパク質をコードするポリヌクレオチドが作動可能に連結された、宿主に関係なく複製されて機能するベクターが宿主細胞内に導入されることにより行われる。あるいは、前記ポリヌクレオチドが作動可能に連結された、宿主細胞内の染色体に前記ポリヌクレオチドを挿入することのできるベクターが宿主細胞の染色体内に導入されることにより行われる。前記ポリヌクレオチドの染色体内への挿入は、当該技術分野で公知の任意の方法、例えば相同組換えにより行うことができる。
【0056】
次に、ポリヌクレオチドの発現が増加するように発現調節配列を改変する方法は、特にこれらに限定されるものではないが、前記発現調節配列の活性がさらに強化されるように、核酸配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより配列上の変異を誘導して行うこともでき、より高い活性を有する核酸配列に置換することにより行うこともできる。前記発現調節配列には、特にこれらに限定されるものではないが、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、転写及び翻訳の終結を調節する配列などが含まれる。
【0057】
前記ポリヌクレオチド発現単位の上流には、本来のプロモーターに代えて強力なプロモーターが連結されるが、これに限定されるものではない。公知の強力なプロモーターの例としては、cj1~cj7プロモーター(特許文献3)、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、ラムダファージPRプロモーター、PLプロモーター、tetプロモーター、gapAプロモーター、SPL7プロモーター、SPL13(sm3)プロモーター(特許文献4)、O2プロモーター(特許文献5)、tktプロモーター、yccAプロモーターなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0058】
また、染色体上のポリヌクレオチド配列を改変する方法は、特にこれらに限定されるものではないが、前記ポリヌクレオチド配列の活性がさらに強化されるように、核酸配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより発現調節配列上の変異を誘導して行うこともでき、より高い活性を有するように改良されたポリヌクレオチド配列に置換することにより行うこともできる。
【0059】
このようなタンパク質活性の導入及び強化とは、対応するタンパク質の活性又は濃度が野生型や非改変の微生物菌株におけるタンパク質の活性又は濃度に比べて、一般に少なくとも1%、10%、25%、50%、75%、100%、150%、200%、300%、400%又は500%、最大で1000%又は2000%まで増加することを意味するが、これらに限定されるものではない。
【0060】
本出願における「非改変微生物」とは、微生物に自然に発生し得る突然変異を含む菌株を除外するものではなく、天然菌株自体、前記L-トレオニン排出タンパク質の変異体を含まない微生物、又は前記L-トレオニン排出タンパク質の変異体をコードするポリヌクレオチドを含むベクターで形質転換されていない微生物を意味する。
【0061】
本出願における、前記L-トレオニン排出タンパク質の変異体又はそれをコードするポリヌクレオチドを含む微生物は、前記ポリヌクレオチドを含むベクターでの形質転換により作製される組換え微生物であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0062】
本出願における「形質転換」とは、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞内に導入することにより、宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは、宿主細胞内で発現するものであれば、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置するか、染色体外に位置するかに関係なく、それらが全て含まれるものである。また、前記ポリヌクレオチドは、標的タンパク質をコードするDNAやRNAを含むものである。前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞内に導入されて発現するものであれば、いかなる形態で導入されるものでもよい。例えば、前記ポリヌクレオチドは、自ら発現する上で必要な全ての要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入されてもよい。通常、前記発現カセットは、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーター(promoter)、転写終結シグナル、リボソーム結合部位及び翻訳終結シグナルを含む。前記発現カセットは、自己複製可能な発現ベクターの形態であってもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入され、宿主細胞において発現に必要な配列と作動可能に連結されたものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0063】
また、前記「作動可能に連結」されたものとは、本出願の標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介するプロモーター配列と前記遺伝子配列が機能的に連結されたものを意味する。
【0064】
本出願における「L-トレオニンを生産する微生物」とは、自然に又は人為的に遺伝的改変が行われた微生物が全て含まれるものであり、外部遺伝子が挿入されるか、内在性遺伝子の活性が強化又は不活性化されるなどの原因により、特定機序が弱化又は強化された微生物であって、目的とするL-トレオニン生産のために遺伝的変異を起こすか、活性を強化した微生物であってもよい。本出願の目的上、前記L-トレオニンを生産する微生物は、前記L-トレオニン排出タンパク質の変異体を含み、培地中の炭素源から目的とするL-トレオニンを野生型や非改変微生物と比較して過剰量で生産する微生物を意味する。本出願における前記「L-トレオニンを生産する微生物」は、「L-トレオニン生産能を有する微生物」又は「L-トレオニン生産微生物」と混用される。
【0065】
前記L-トレオニンを生産する微生物は、組換え微生物であってもよい。前記組換え微生物については前述した通りである。
前記L-トレオニンを生産する微生物は、L-トレオニンを生産するものであればその種類が特に限定されるものではなく、具体的には、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、エシェリキア(Escherichia)属、エンテロバクター(Enterbacter)属、エルウィニア(Erwinia)属、セラチア(Serratia)属、プロビデンシア(Providencia)属及びブレビバクテリウム(Brevibacterium)属に属する微生物であってもよく、より具体的には、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属又はエシェリキア(Escherichia)属に属する微生物である。
【0066】
さらに具体的には、エシェリキア属(Escherichia)微生物は、大腸菌(Escherichia coli)であってもよく、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、コリネバクテリウム・クルジラクチス(Corynebacterium crudilactis)、コリネバクテリウム・デセルティ(Corynebacterium deserti)、コリネバクテリウム・エフィシエンス(Corynebacterium efficiens)、コリネバクテリウム・カルナエ(Corynebacterium callunae)、コリネバクテリウム・スタティオニス(Corynebacterium stationis)、コリネバクテリウム・シングラレ(Corynebacterium singulare)、コリネバクテリウム・ハロトレランス(Corynebacterium halotolerans)、コリネバクテリウム・ストリアツム(Corynebacterium striatum)、コリネバクテリウム・ポルティソリ(Corynebacterium pollutisoli)、コリネバクテリウム・イミタンス(Corynebacterium imitans)、コリネバクテリウムテス・テスツディノリス(Corynebacterium testudinoris)、コリネバクテリウム・フラベッセンス(Corynebacterium flavescens)などであり、特にコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)であるが、L-トレオニン排出活性を有するタンパク質が導入又は強化されてL-トレオニン生産量を増加させる、コリネバクテリウム属又はエシェリキア属に属する微生物であればいかなるものでもよい。
【0067】
本出願において、前記L-トレオニン排出活性を有するタンパク質又は前記タンパク質変異体が発現するように改変された、L-トレオニンを生産する微生物の親株は、L-トレオニンを生産する微生物であれば特に限定されるものではない。前記L-トレオニンを生産する微生物は、L-トレオニンの生産量を増加させるために、L-トレオニンの生合成経路を強化した微生物、L-トレオニンに対するフィードバック阻害を解除した微生物、L-トレオニンの生合成経路を弱化させる遺伝子を不活性化した微生物、L-トレオニンオペロンの活性を増加させた微生物、及び/又はL-トレオニンアナログに対する耐性を付与した微生物であってもよい。
【0068】
具体的には、前記L-トレオニンの生合成経路を強化するために、例えばトレオニン合成酵素をコードするthrC、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼをコードするppc遺伝子、グルコース取り込みに関与するgalP遺伝子、リシン感受性アスパルトキナーゼ3(lysine-sensitive aspartokinase 3)をコードするlysC遺伝子、ホモセリンデヒドロゲナーゼ(homoserine dehydrogenase)をコードするhom遺伝子、オキサロ酢酸(Oxaloacetate)pool増加を誘導するpyc遺伝子などの発現を微生物中で強化又は増加させてもよい。
【0069】
前記L-トレオニンに対するフィードバック阻害を解除するために、例えばlysC遺伝子、hom遺伝子、アスパルトキナーゼとホモセリンデヒドロゲナーゼ1の二官能性を有する(Bifunctional aspartokinase/homoserine dehydrogenase 1)thrA遺伝子などの遺伝子変異を微生物内に導入してもよい。
【0070】
前記L-トレオニンの生合成経路を弱化させる遺伝子を不活性化するために、例えばL-トレオニン生合成の中間体であるオキサロ酢酸(OAA)のホスホエノールピルビン酸(PEP)への変換に関与するpckA遺伝子、lysC遺伝子を抑制するtyrR遺伝子、グルコース取り込みに関与するgalP遺伝子の発現を抑制するgalR遺伝子、DNA-結合転写二重調節因子(DNA-binding transcriptional dual regulator)であるmcbR遺伝子などの発現を微生物中で弱化又は不活性化させてもよい。
【0071】
前記L-トレオニンオペロンの活性を増加させるために、アスパルトキナーゼ(aspartokinase)、ホモセリンデヒドロゲナーゼ(homoserine dehydrogenase)、ホモセリンキナーゼ(homoserine kinase)及びトレオニンシンターゼ(threonine synthase)をコードする遺伝子から構成されるトレオニンオペロン(特許文献6)を含むプラスミド、大腸菌由来のトレオニンオペロンなどを微生物に導入し(非特許文献15)、微生物中でトレオニンオペロン発現を増加させてもよい。
【0072】
また、前記微生物は、L-トレオニンアナログであるα-アミノ-β-ヒドロキシ吉草酸、D,L-トレオニンヒドロキサメートなどに対する耐性を有するものであってもよい。
【0073】
しかし、これらに限定されるものではなく、当該技術分野で公知の遺伝子発現調節方法によりL-トレオニン生産能を強化することができる。
本出願における「強化/増加」は、内在性活性に比べて活性が増加することが全て含まれる概念である。
【0074】
このような遺伝子の活性の強化又は増加は、当該分野で周知の様々な方法を適用することにより達成することができる。前記方法の例として、遺伝子の細胞内コピー数を増加させる方法、遺伝子の発現調節配列に変異を導入する方法、遺伝子の発現調節配列を活性が強力な配列に置換する方法、遺伝子の活性が強化されるように当該遺伝子に変異をさらに導入する方法、及び微生物に外来遺伝子を導入する方法からなる群から選択される少なくとも1つの方法が挙げられ、それらの組み合わせによっても達成することができるが、前記例に特に限定されるものではない。
【0075】
本出願における「不活性化」は、内在性活性に比べて活性が弱化することや、活性がなくなることが全て含まれる概念である。
このような遺伝子の活性の不活性化は、当該分野で周知の様々な方法を適用することにより達成することができる。前記方法の例として、前記遺伝子の活性を除去する場合をはじめとして、染色体上の遺伝子の全部又は一部を欠失させる方法、当該タンパク質の活性が低下するように突然変異させた遺伝子により染色体上の前記タンパク質をコードする遺伝子を代替する方法、前記タンパク質をコードする染色体上の遺伝子の発現調節配列に変異を導入する方法、前記タンパク質をコードする遺伝子の発現調節配列を活性が弱い配列や活性のない配列に置換する方法(例えば、前記遺伝子のプロモーターを内在性プロモーターより弱いプロモーターに置換する方法)、前記タンパク質をコードする染色体上の遺伝子の全部又は一部を欠失させる方法、前記染色体上の遺伝子の転写産物に相補的に結合させて前記mRNAからタンパク質への翻訳を阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスRNA)を導入する方法、前記タンパク質をコードする遺伝子のSD配列の前にSD配列と相補的な配列を人為的に付加することにより2次構造物を形成させてリボソーム(ribosome)の付着を不可能にする方法、当該配列のORF(open reading frame)の3’末端に逆転写するようにプロモーターを付加するRTE(Reverse transcription engineering)方法などが挙げられ、それらの組み合わせによっても達成することができるが、前記例に特に限定されるものではない。
【0076】
本出願のさらに他の態様は、前記L-トレオニンを生産する微生物を培地で培養するステップを含むL-トレオニン生産方法を提供する。
前記L-トレオニン、配列番号1のアミノ酸配列を含むL-トレオニン排出活性を有するタンパク質、その変異体、タンパク質の発現、及び微生物については前述した通りである。
【0077】
本出願における「培養」とは、前記微生物を適宜調節した環境条件で生育させることを意味する。本出願の培養過程は、当該技術分野で公知の好適な培地と培養条件で行われる。このような培養過程は、当業者であれば選択される菌株に応じて容易に調整して用いることができる。具体的には、前記培養は、回分、連続及び流加培養であるが、これらに限定されるものではない。
【0078】
本出願における「培地」とは、前記微生物を培養するために必要な栄養物質を主成分として混合した物質を意味し、生存及び発育に不可欠な水をはじめとする栄養物質や発育因子などを供給する。具体的には、本出願の微生物の培養に用いられる培地及び他の培養条件は、通常の微生物の培養に用いられるものであればいかなるものでもよく、好適な炭素源、窒素源、リン源、無機化合物、アミノ酸及び/又はビタミンなどを含有する通常の培地中で好気性条件下にて温度、pHなどを調節して本出願の微生物を培養することができる。
【0079】
本出願における前記炭素源としては、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトースなどの炭水化物、マンニトール、ソルビトールなどの糖アルコール、ピルビン酸、乳酸、クエン酸などの有機酸、グルタミン酸、メチオニン、リシンなどのアミノ酸などが挙げられる。また、デンプン加水分解物、糖蜜、ブラックストラップ糖蜜、米糠、キャッサバ、バガス、トウモロコシ浸漬液などの天然の有機栄養源を用いることができ、具体的にはグルコースや殺菌した前処理糖蜜(すなわち、還元糖に変換した糖蜜)などの炭水化物を用いることができ、その他適量の炭素源であればいかなるものでも用いることができる。これらの炭素源は、単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0080】
前記窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどの無機窒素源と、グルタミン酸、メチオニン、グルタミンなどのアミノ酸、ペプトン、NZ-アミン、肉類抽出物、酵母抽出物、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、カゼイン加水分解物、魚類又はその分解生成物、脱脂大豆ケーキ又はその分解生成物などの有機窒素源とを用いることができる。これらの窒素源は、単独で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできるが、これらに限定されるものではない。
【0081】
前記リン源としては、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム又はそれらに相当するナトリウム含有塩などが挙げられる。無機化合物としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化鉄、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸マンガン、炭酸カルシウムなどを用いることができ、それ例外に、アミノ酸、ビタミン及び/又は好適な前駆体などを用いることができる。これらの構成成分又は前駆体は、培地に回分式又は連続式で添加することができる。しかし、これらに限定されるものではない。
【0082】
本出願において、微生物の培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸、硫酸などの化合物を培地に好適な方法で添加することにより、培地のpHを調整することができる。また、培養中には、脂肪酸ポリグリコールエステルなどの消泡剤を用いて気泡生成を抑制することができる。さらに、培地の好気状態を維持するために、培地中に酸素又は酸素含有気体を注入してもよく、嫌気及び微好気状態を維持するために、気体を注入しなくてもよく、窒素、水素又は二酸化炭素ガスを注入してもよいが、これらに限定されるものではない。
【0083】
培地の温度は、20℃~50℃、具体的には30℃~37℃であってもよいが、これらに限定されるものではない。培養期間は、有用物質の所望の生成量が得られるまで続けられ、具体的には10時間~100時間であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0084】
前記培養により生産されたL-トレオニンは、培地中に排出されるか、排出されずに細胞内に残留する。
前記L-トレオニン生産方法は、培養された微生物又は培地からL-トレオニンを回収(recover)するステップをさらに含んでもよい。
【0085】
本出願の前記培養ステップで生産されたL-トレオニンを回収する方法は、培養方法に応じて、当該分野で公知の好適な方法を用いて培養液から目的とするL-トレオニンを回収(collect)することができる。例えば、遠心分離、濾過、陰イオン交換クロマトグラフィー、結晶化、HPLCなどが用いられ、当該分野で公知の好適な方法を用いて培地又は微生物から目的とするL-トレオニンを回収することができる。
【0086】
また、前記回収ステップは、精製工程を含んでもよく、当該分野で公知の好適な方法を用いて行うことができる。よって、前述したように回収されるL-トレオニンは、精製された形態であってもよく、L-トレオニンを含有する微生物発酵液であってもよい(非特許文献16)。
【実施例
【0087】
以下、実施例を挙げて本出願をより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は本出願を例示するものにすぎず、本出願がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0088】
L-トレオニン排出タンパク質の変異ライブラリー及びプラスミドの作製
エラープローンPCR(error-prone PCR)に用いる鋳型(template)を作製するために、大腸菌(Escherichia coli)W3110ゲノムDNAから配列番号43及び44を用いてPCRを行い、塩基配列断片を確保した。
【0089】
配列番号43(rhtC F)
GTCGACTCTAGAGGATCCCCGCTGATTCGTGCGCATGTTG
配列番号44(rhtC R)
TGAATTCGAGCTCGGTACCCTCACCGCGAAATAATCAAAT
次に、SmaI制限酵素で切断したpCL1920(非特許文献17)と前述したように得られたDNA断片をギブソンアセンブリ方法でクローニングすることにより、組換えプラスミドpCL1920-Pn_rhtCを得た。クローニングは、ギブソンアセンブリ試薬と各遺伝子断片を計算されたモル数で混合し、その後50℃で1時間保存することにより行った。
【0090】
L-トレオニン排出タンパク質をコードする野生型rhtCにランダム突然変異(random mutagenesis)誘発システムを適用するためにエラープローンPCRを行い、エラープローンPCRを行う際にdiversifyPCRランダム突然変異キット(diversify PCR random mutagenesis kit, Takara)を用いた。変異率(mutation rate)の条件選定のために、MnSO濃度を変えた次の2つの条件でエラープローンPCRを行った。変異を導入するDNAの鋳型として、前述したpCL1920-Pn_rhtCを用いた。エラープローンPCRを行うための組成物の組成を表1に示す。条件は、95℃で30秒間の変性後、95℃で30秒間の変性、55℃で30秒間のアニーリング、68℃で30秒間の重合を25サイクル行い、次いで68℃で60秒間の重合反応を行うものとした。プライマーとして配列番号43及び44を用いた。
【0091】
【表1】
【0092】
表1の条件で行ったエラープローンPCR産物をDpnIで処理して鋳型プラスミドを除去したDNAとSmaI制限酵素で切断したpCL1920により、ギブソンアセンブリ方法を用いて組換え変異プラスミドライブラリーを得た。前記方法で得た変異ライブラリー(mutant library)pCL1920-Pn_rhtCとpCL1920を大腸菌(Escherichia coli)K12細胞に形質転換し、50ug/Lのスペクチノマイシンを含むLB平板培地にプレーティングした。変異ライブラリーを形質転換したK12から50個のコロニーを選択し、変異率(mutation rate)及び様々な位置における変異発生の有無を判断するためにシーケンシング(sequencing)を行った。シーケンシングの結果、case#1の条件の変異率は1.2kb-1であり、case#2の条件では2.0kb-1であった。case#1、#2はどちらも変異ライブラリー(mutant library)の確保に適した変異率を有すると判断し、前記条件で作製したライブラリーを用いて有効変異選択作業を行った。L-トレオニン(L-Threonine)を60g/Lで含むM9最小培地(minimal media)を96ディープウェルプレート(deep-well plate)に300ulずつ分注し、その後前述したように形質転換したK12/pCL1920-Pn_rhtC、K12/pCL1920、K12/変異ライブラリーコロニーを接種した。次に、1200rpm/15hr/37℃の条件で培養し、その後600nmの波長でODを測定した。野生型大腸菌K12菌株は一般にM9培地でL-トレオニンMIC(Minimal Inhibition Concentration)濃度である30g/L前後で成長阻害を示すので、画期的にトレオニン排出能が改善された菌株であれば60g/LのL-トレオニン濃度で成長するものと判断した。ほとんどの変異菌株ライブラリーは、ディープウェルプレートにおいて、コントロール菌株(K12/pCL1920,K12/pCL1920-Pn_rhtC)と同様に、成長がほとんど観察されなかった。それとは対照的に成長が観察された4種の菌株を選択し、ODを記録した。
【0093】
【表2】
【0094】
前述したように選択した4種の変異菌株からpCL1920-Pn_rhtC変異型プラスミドを抽出し、その後変異の確認のためにシーケンシングを行った。その結果、プロモーター領域でないコード配列(CDS)において変異が発生することが確認された。また、表2に示す変異型プラスミドを、上から順にpCL1920-Pn_rhtC(m1)、pCL1920-Pn_rhtC(m2)、pCL1920-Pn_rhtC(m3)、pCL1920-Pn_rhtC(m4)と命名した。
【0095】
コリネ菌株における変異型rhtCの活性を比較評価するために、挿入用プラスミドを次の方法で作製した。
相同組換えのために、Ncgl2533の上流及び下流領域をそれぞれ配列番号45及び46と配列番号51及び52に増幅した。次に、gapAプロモーターを変異型rhtCのプロモーターとして活用するために、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号47及び48のプライマーを用いてPCRを行った。次に、表2で選択した変異型rhtCの断片を確保するために、配列番号49及び50のプライマーを用いて、それぞれのrhtC、rhtC(m1)、rhtC(m2)、rhtC(m3)、rhtC(m4)断片を得た。
【0096】
配列番号45(Ncgl2533 up F)
TCGAGCTCGGTACCCCAGCAAGATCTAGTCATCAA
配列番号46(Ncgl2533 up R)
GTCGTTTTTAGGCTTCCGCTGGAAAACATTTTGCA
配列番号47(PgapA F)
AATGTTTTCCAGCGGAAGCCTAAAAACGACCGAGC
配列番号48(PgapA R)
AAATAACATCAACATGTTGTGTCTCCTCTAAAGAT
配列番号49(rhtC_m F)
TAGAGGAGACACAACATGTTGATGTTATTTCTCAC
配列番号50(rhtC_m R)
TAAGCAGGTTGATTTTCACCGCGAAATAATCAAAT
配列番号51(Ncgl2533 dn F)
ATTATTTCGCGGTGAAAATCAACCTGCTTAGGCGT
配列番号52(Ncgl2533 dn R)
CTCTAGAGGATCCCCTATAGCTACCATCTGGGTGG
前記過程で得られたPCR断片とSmaI制限酵素で切断した染色体形質転換用ベクターpDZをギブソンアセンブリ方法でクローニングすることにより、野生型及び変異型rhtC組換えプラスミド5種を得た。クローニングは、ギブソンアセンブリ試薬と各遺伝子断片を計算されたモル数で混合し、その後50℃で1時間保存することにより行った。作製したプラスミドをそれぞれpDZ-PgapA_rhtC、pDZ-PgapA_rhtC(m1)、pDZ-PgapA_rhtC(m2)、pDZ-PgapA_rhtC(m3)、pDZ-PgapA_rhtC(m4)と命名した。
【実施例2】
【0097】
L-トレオニン生産菌株の作製
2-1:変異型リシン感受性アスパルトキナーゼ3(LysC)形質転換
リシン感受性アスパルトキナーゼ3(lysine-sensitive aspartokinase 3)のlysC遺伝子の発現強化と、L-リシン(L-Lysine)及びL-トレオニン(L-Threonine)に対するフィードバック阻害解除のための変異(L377K)形質(特許文献7)の導入を試みた。具体的には、染色体上の相同組換え(Homologous recombination)が発生するlysCプロモーターの上流(Upstream)領域とlysCの377番目の変異の下流(Downstream)領域を得て、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032のgenomic DNAを鋳型とし、配列番号3及び4のプライマーを用いてlysCプロモーターの上流(Upstream)領域の遺伝子断片をPCRにより得て、配列番号9及び10のプライマーを用いてlysCの377番目の変異の下流(Downstream)領域の遺伝子断片をPCRにより得た。
【0098】
配列番号3(lysC promoter Up1)
TCGAGCTCGGTACCCGACAGGACAAGCACTGGTTG
配列番号4(lysC promoter Up2)
AGTAGCGCTGGGATGTTTCTCTTTGTGCACCTTTC
配列番号9(lysC Down 1)
GAACATCGAAAAGATTTCCACCTCTGAGAT
配列番号10(lysC Down 2)
CTCTAGAGGATCCCCGTTCACCTCAGAGACGATTA
次に、pECCG117-Pcj7-GFP(特許文献3)プラスミドを鋳型とし、配列番号5及び6のプライマーを用いて、Pcj7プロモーター断片をPCRにより得た。
【0099】
配列番号5(Pcj7 1)
GAAAGGTGCACAAAGAGAAACATCCCAGCGCTACT
配列番号6(Pcj7 2)
TACGACCAGGGCCATGAGTGTTTCCTTTCGTTGGG
コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号7及び8のプライマーを用いて、lysC L377K変異の上流領域の遺伝子断片をPCRにより得た。
【0100】
配列番号7(lysC 1)
CGAAAGGAAACACTCATGGCCCTGGTCGTACAGAA
配列番号8(lysC 2)
GGTGGAAATCTTTTCGATGTTCACGTTGAC
前記PCR反応は、ポリメラーゼとしてSolgTM Pfu-X DNAポリメラーゼを用いた。条件は、95℃で5分間の変性後、95℃で30秒間の変性、60℃で30秒間のアニーリング、72℃で60秒間の重合を30サイクル行い、次いで72℃で5分間の重合反応を行うものとした。
【0101】
前記過程で得られた4種のPCR断片とSmaI制限酵素で切断した染色体形質転換用ベクターpDZ(特許文献8)をギブソンアセンブリ(非特許文献18)方法でクローニングすることにより、組換えプラスミドを得て、pDZ-Pcj7_lysCL377Kと命名した。クローニングは、ギブソンアセンブリ試薬と各遺伝子断片を計算されたモル数で混合し、その後50℃で1時間保存することにより行った。
【0102】
作製したpDZ-Pcj7_lysC L377Kベクターを野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032菌株にエレクトロポレーション(非特許文献19)で形質転換し、その後2次交差過程を経て、染色体上で野生型lysC遺伝子が変異型Pcj7_lysCL377K遺伝子に置換された菌株を得た。当該遺伝子が挿入された相同組換え上流領域及び下流領域の外部部位をそれぞれ増幅する配列番号11及び12のプライマーを用いたPCRとゲノムシーケンシングにより当該遺伝的操作を確認した。
【0103】
配列番号11(confirm lysC1)
ACATTCCACCCATTACTGCA
配列番号12(confirm lysC 2)
TCTTCATCGGTTTCGAAGGT
得られた形質転換菌株をCgl-TH-1と命名した。
【0104】
2-2:変異型ホモセリンデヒドロゲナーゼ(Hom)形質転換
DNA-結合転写二重調節因子(DNA-binding transcriptional dual regulator)であるmcbR調節を解除し、ホモセリンデヒドロゲナーゼ(homoserine dehydrogenase)であるhomの発現量を増加させるために、homプロモーター(promoter)をPcj7プロモーターに置換した。さらに、homのL-トレオニンに対するフィードバック阻害解除のための変異(G378E,R398Q)をCgl-TH-1に適用し、L-トレオニン生産の増加を試みた。前記変異型hom形質転換のために、pDZ-Pcj7_hom(G378E,R398Q)を作製した。Pcj7プロモーターをhomプロモーターと置換するために、相同組換え(Homologous recombination)が発生するhomプロモーターの上流(Upstream)領域を得た。具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号14及び55のプライマーを用いて、homプロモーターの上流領域の断片をPCRにより得た。
【0105】
配列番号14(up F)
TCGAGCTCGGTACCCTGTCTCCGTATGCAGTGAGC
配列番号55(up R)
GGATGTTTCTTTGGAGCTTCGCTCAATCAT
pECCG117-Pcj7-GFP(特許文献3)プラスミドを鋳型とし、配列番号13及び56のプライマーを用いて、Pcj7プロモーター断片をPCRにより得た。
【0106】
配列番号13(cj7 F)
GAAGCTCCAAAGAAACATCCCAGCGCTACT
配列番号56(cj7 R)
AGATGCTGAGGTCATGATTGTTCTCCTATAATCGC
次に、hom変異(G378E,R398Q)を適用するために、homアミノ酸の1~378番目のコード配列の上流とG378E/R398Q変異を含む配列、及びR398Qの下流配列を次の方法で得た。
【0107】
具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号17及び18のプライマーを用いてPCRを行い、homアミノ酸の1~378番目のコード配列の断片を得た。同様に、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号15及び20のプライマーを用いてPCRを行い、homG378E/R398Q変異を含む配列断片を得た。次に、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号19及び21のプライマーを用いてPCRを行い、相同組換え(Homologous recombination)が発生するhom R398Qの下流配列断片を得た。
【0108】
配列番号17(hom F)
TATAGGAGAACAATCATGACCTCAGCATCTGCCCC
配列番号18(G378E R)
GCCAAAACCTCCACGCGATCTT
配列番号15(G378E F)
AAGATCGCGTGGAGGTTTTGGC
配列番号20(R398Q R)
GCGCTCTTCCTGTTGGATTGTACGC
配列番号19(R398Q F)
GCGTACAATCCAACAGGAAGAGCGC
配列番号21(hom R)
CTCTAGAGGATCCCCGACTGCGGAATGTTGTTGTG
前記過程で得られた5種のPCR断片とSmaI制限酵素で切断した染色体形質転換用ベクターpDZをギブソンアセンブリ方法でクローニングすることにより組換えプラスミドを得て、pDZ-Pcj7_hom(G378E,R398Q)と命名した。クローニングは、ギブソンアセンブリ試薬と各遺伝子断片を計算されたモル数で混合し、その後50℃で1時間保存することにより行った。
【0109】
作製したpDZ-Pcj7_hom(G378E,R398Q)ベクターをCgl-TH-1菌株にエレクトロポレーションで形質転換し、その後2次交差過程を経て、染色体上で野生型hom遺伝子が変異型Pcj7_hom(G378E,R398Q)遺伝子に置換された菌株を得た。当該遺伝子が挿入された相同組換え上流領域及び下流領域の外部部位をそれぞれ増幅する配列番号22及び23のプライマーを用いたPCRとゲノムシーケンシングにより当該遺伝的操作を確認した。
【0110】
配列番号22(hom conf F)
TGGGTAGGTCGAGTTGTTAA
配列番号23(hom conf R)
CAGCGCAGTCGCACGAATAT
得られた形質転換菌株をCgl-TH-2と命名した。
【0111】
2-3:ピルビン酸カルボキシラーゼ(Pyc)の発現強化のための変異の適用
オキサロ酢酸(Oxaloacetate)pool増加によりL-トレオニン生成を強化するために、ピルビン酸カルボキシラーゼ(pyruvate carboxylase)のpyc遺伝子の発現増加を試みた。pyc発現強化のために、pyc遺伝子のプロモーターをPcj7プロモーターに置換した。pECCG117-Pcj7-GFP(特許文献3)プラスミドを鋳型とし、配列番号24及び16のプライマーを用いて、Pcj7プロモーター断片をPCRにより得た。
【0112】
配列番号24(CJ7 F)
CAACCTTTGCAAGGTGAAAAAGAAACATCCCAGCGCTACT
配列番号16(CJ7 R)
TGTGTGAGTCGACATGAGTGTTTCCTTTCGTTGGG
前記Pcj7プロモーターをpycプロモーターと置換するための相同組換え(Homologous recombination)が発生するpycプロモーターの上流(Upstream)領域を得た。具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号25及び26のプライマーを用いて、pycプロモーターの上流(Upstream)領域の断片をPCRにより得た。
【0113】
配列番号25(upstream F)
TCGAGCTCGGTACCCTGACAGTTGCTGATCTGGCT
配列番号26(upstream R)
AGTAGCGCTGGGATGTTTCTTTTTCACCTTGCAAAGGTTG
Pcj7プロモーターの下流相同領域(homologous region)として活用するpycコード配列のN末端(N-term)を得るために、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号27及び28のプライマーを用いてPCRを行い、pycプロモーターの下流の断片を得た。
【0114】
配列番号27(pyc F)
GGAATAATTACTCTAATGTCGACTCACACATCTTC
配列番号28(pyc R)
CTCTAGAGGATCCCCGGCATTTTCAGACAGGAAGC
前記過程で得られた3種のPCR断片とSmaI制限酵素で切断した染色体形質転換用ベクターpDZをギブソンアセンブリ方法でクローニングすることにより組換えプラスミドを得て、pDZ-Pcj7_pycと命名した。クローニングは、ギブソンアセンブリ試薬と各遺伝子断片を計算されたモル数で混合し、その後50℃で1時間保存することにより行った。
【0115】
作製したpDZ-Pcj7_pycベクターをCgl-TH-2菌株にエレクトロポレーションで形質転換し、その後2次交差過程を経て、染色体上で野生型pycプロモーターが変異型Pcj7_pyc遺伝子に置換された菌株を得た。当該遺伝子が挿入された相同組換え上流領域及び下流領域の外部部位をそれぞれ増幅する配列番号29及び30のプライマーを用いたPCRとゲノムシーケンシングにより当該遺伝的操作を確認した。
【0116】
配列番号29(pyc conf F)
ACGCACTCGGTGAAGGCGTG
配列番号30(pyc conf R)
CGCTTCAGCTTCACGAGATG
得られた形質転換菌株をCgl-TH-3と命名した。
【0117】
2-4:変異型L-トレオニンオペロン、Ncgl0179欠損、及びアスパルトキナーゼとホモセリンデヒドロゲナーゼ1の二官能性を有するタンパク質(ThrA(S352P)BC)の1copy挿入
L-トレオニン生合成を強化するために、大腸菌由来L-トレオニンオペロンの適用を試みた。特に、アスパルトキナーゼとホモセリンデヒドロゲナーゼ1の二官能性を有する(Bifunctional aspartokinase/homoserine dehydrogenase 1)thrA遺伝子は、L-トレオニンに対するフィードバック阻害を解除するために、thrA(S352P)(非特許文献20)変異を適用した。次に、SPL7プロモーター(特許文献4)を用いて、L-トレオニンオペロンの発現増加を試みた。
【0118】
次に、前記SPL7_thrA(S352P)BCをNcgl0179の位置に挿入するために、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ATCC13032のゲノムDNAを鋳型とし、Ncgl0179の上流及び下流相同領域(homologous region)の断片により、それぞれ配列番号31及び32と配列番号37及び38に塩基配列を増幅した。次に、合成したSPL7プロモーターを鋳型とし、配列番号33及び34にSPL7を増幅した。
【0119】
thrA(S352P)アミノ酸の352番目のコード配列の上流は配列番号35及び36に、thrA(S352P)アミノ酸の352番目の下流及びthrBCは配列番号39及び40に塩基配列を増幅した。
【0120】
配列番号31(Ncgl0179 UP F)
TCGAGCTCGGTACCCTTTTGAGTAATTGGTAATAC
配列番号32(Ncgl0179 UP R)
TGAAGCGCCGGTACCCGCTTAAACGGGCGATTAT
配列番号37(Ncgl0179 DOWN F)
ATGAATCATCAGTAATTAATGGCCCTCGATTTGGC
配列番号38(Ncgl0179 DOWN R)
TCTAGAGGATCCCCTGGAATAATCAGACTCTGGA
配列番号33(SPL7 F)
ATCGCCCGTTTAAGCGGGTACCGGCGCTTCATGT
配列番号34(SPL7 R)
CTTCAACACTCGCATGATATCTGTTTTGATCTCCT
配列番号35(S352P UP F)
ATCAAAACAGATATCATGCGAGTGTTGAAGTTCGG
配列番号36(S352P UP R)
TACTGTATTCGGAAGATGGTTGCGTAATCAGCACCAC
配列番号39(S352P DOWN F)
GTGGTGCTGATTACGCAACCATCTTCCGAATACAGTA
配列番号40(S352P DOWN R)
AAATCGAGGGCCATTAATTACTGATGATTCATCATC
前記過程で得られた5種のPCR断片とSmaI制限酵素で切断した染色体形質転換用ベクターpDZをギブソンアセンブリ方法でクローニングすることにより組換えプラスミドを得て、pDZ-SPL7_thrA(S352P)BCと命名した。クローニングは、ギブソンアセンブリ試薬と各遺伝子断片を計算されたモル数で混合し、その後50℃で1時間保存することにより行った。
【0121】
作製したpDZ-SPL7_thrA(S352P)BCベクターをCgl-TH-3菌株にエレクトロポレーションで形質転換し、その後2次交差過程を経て、染色体上でSPL7_thrA(S352P)BCオペロンが挿入された菌株を得た。当該遺伝子が挿入された相同組換え上流領域及び下流領域の外部部位をそれぞれ増幅する配列番号41及び42のプライマーを用いたPCRとゲノムシーケンシングにより当該遺伝的操作を確認した。
【0122】
配列番号41(thr conf F)
GATTCACATCACCAATGTC
配列番号42(thr conf R)
GACACCATCGCAGCCCGAC
得られた形質転換菌株をCgl-TH-4と命名した。
【0123】
前記菌株Cgl-TH-4をCJ09-5010と命名し、2019年5月31日付けでブダペスト条約上の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(KCCM)に寄託番号KCCM12537Pとして国際寄託した。
【0124】
2-5:変異型L-トレオニン排出タンパク質(RhtC)導入コリネバクテリウム菌株のL-トレオニン生産
実施例1で作製したpDZ-PgapA_rhtC、pDZ-PgapA_rhtC(m1)、pDZ-PgapA_rhtC(m2)、pDZ-PgapA_rhtC(m3)、pDZ-PgapA_rhtC(m4)ベクターをCgl-TH-4菌株にそれぞれエレクトロポレーションで形質転換し、その後2次交差過程を経て、染色体上で野生型rhtCと変異型rhtC遺伝子4種が挿入された各菌株を得た。当該遺伝子が挿入された相同組換え上流領域及び下流領域の外部部位をそれぞれ増幅する配列番号53及び54のプライマーを用いたPCRとゲノムシーケンシングにより当該遺伝的操作を確認した。
【0125】
配列番号53(HR outside F)
AAGGAATATCCCGGAGAACC
配列番号54(HR outside R)
TTGCGTTTGAAAAGCCCTCG
得られた形質転換菌株をそれぞれCgl-TH-5、Cgl-TH-5(m1)、Cgl-TH-5(m2)、Cgl-TH-5(m3)、Cgl-TH-5(m4)と命名した。
【0126】
さらに、コリネバクテリウム菌株において変異型rhtC導入の効果を確認するために、作製したCgl-TH-5、Cgl-TH-5(m1)、Cgl-TH-5(m2)、Cgl-TH-5(m3)、Cgl-TH-5(m4)菌株のL-トレオニン生産量を比較すべく、次の方法で培養した。種培地(グルコース20g,ペプトン10g,酵母抽出物5g,尿素1.5g,KHPO4g,KHPO8g,MgSO7HO0.5g,ビオチン100ug,チアミンHCl1000ug,パントテン酸カルシウム2000ug,ニコチンアミド2000ug,pH7.0(蒸留水1リットル中))25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに各菌株を接種し、30℃、200rpmで20時間振盪培養した。次に、生産培地(グルコース70g,(NH)2SO15g,MgSO7HO1.2g,KHPO1g,酵母抽出物5g,ビオチン900ug,チアミン塩酸塩4500ug,パントテン酸カルシウム4500ug,CaCO30g,pH7.0(蒸留水1リットル中))25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに1mlの種培養液を接種し、30℃、200rpmで24時間振盪培養した。培養終了後に、HPLCによりL-トレオニンの生産量を測定した。その結果を表3に示す。
【0127】
【表3】
【0128】
表3に示すように、実施例2-4の方法で作製したCgl-TH-4は11.1g/LのL-トレオニンを生産し、それにPgapA_rhtC野生型形質が挿入されたCgl-TH-5は14.0g/LのL-トレオニンを生産した。また、PgapA_rhtC(m)変異型形質が挿入されたCgl-TH-5(m1)、Cgl-TH-5(m2)、Cgl-TH-5(m3)、Cgl-TH-5(m4)はそれぞれ17.9g/L、24.0g/L、21.8g/L、17.9g/LのL-トレオニンを生産した。L-トレオニン発酵収率としては、Cgl-TH-4に比べてCgl-TH-5が4.1%pの上昇を示したのに対して、変異型が適用されたCgl-TH-5(m1)、Cgl-TH-5(m2)、Cgl-TH-5(m3)、Cgl-TH-5(m4)菌株はそれぞれCgl-TH-4に比べて9.7%p、18.4%p、15.3%p、9.7%pの上昇を示した。特に、Cgl-TH-5(m2)、Cgl-TH-5(m3)は、Cgl-TH-5の収率上昇の約4倍に相当する大きな収率上昇効果を示した。Cgl-TH-5(m2)に適用された変異型RhtCは、配列番号94のアミノ酸配列を有し、具体的には62番目の位置のアミノ酸のロイシン(Leu)がセリン(Ser)に改変された変異(L62S)を含んでいた。また、Cgl-TH-5(m3)に適用された変異型RhtCは、配列番号93のアミノ酸配列を有し、具体的には53番目の位置のアミノ酸のアラニン(Ala)がトレオニン(Thr)に改変された変異(A53T)を含んでいた。
【0129】
前述した2つの菌株、Cgl-TH-5(m2)及びCgl-TH-5(m3)をそれぞれCA09-5012及びCA09-5036と命名し、2019年5月31日付けでブダペスト条約上の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(KCCM)に寄託番号KCCM12538P及びKCCM12539Pとして国際寄託した。
【実施例3】
【0130】
変異型L-トレオニン排出タンパク質導入大腸菌菌株のL-トレオニン生産
実施例1で作製したpCL1920-Pn_rhtC、選択した変異型プラスミド4種、及び空ベクターpCL1920をそれぞれL-トレオニン生産能を有する大腸菌菌株であるTF4076(KFCC10718,特許文献9(韓国特許出願第1990-0022965号))に形質転換し、TF4076/pCL1920、TF4076/pCL1920-Pn_rhtC、TF4076/pCL1920-Pn_rhtC(m1)、TF4076/pCL1920-Pn_rhtC(m2)、TF4076/pCL1920-Pn_rhtC(m3)、TF4076/pCL1920-Pn_rhtC(m4)菌株を作製した。作製した菌株のL-トレオニン生産量の比較のために、フラスコ評価を行った。フラスコ評価は、50ug/mlのスペクチノマイシンを添加したLBプレートに各菌株を画線接種(streaking)し、33℃の培養器で16時間培養し、その後単一コロニー(colony)をLB培地2mlに接種し、次いで200rpm/33℃の培養器で12時間培養した。次に、250mlのフラスコに表4の組成からなるL-トレオニン生産フラスコ培地25mlを入れ、前述したように培養した培養液を500ulずつ投入した。その後、フラスコを200rpm/33℃の培養器で48時間培養し、次いでHPLCを用いて各菌株から得られたL-トレオニン量を比較した。その結果を表5に示す。
【0131】
【表4】
【0132】
【表5】
【0133】
表5に示すように、L-トレオニン生産能を有する大腸菌菌株に変異型rhtCプラスミドを導入すると、L-トレオニン収率が大幅に上昇する結果が得られた。特に、pCL1920-Pn_rhtC(m2)、pCL1920-Pn_rhtC(m3)を適用すると、L-トレオニン収率が大幅に上昇する結果が得られた。
【実施例4】
【0134】
L-トレオニン排出タンパク質の62番目のアミノ酸であるロイシンの飽和突然変異誘発(Saturated mutagenesis)
表3及び表5に示すように、rhtC(L62S)の変異型が野生型に比べて高い収率上昇効果を示すので、RhtCの62番目のアミノ酸であるロイシンを他のアミノ酸に変異させ、62番目の位置のL-トレオニン排出改善の有効性についての検証を試みた。ロイシンをロイシン以外の19種の他のアミノ酸に変異するために、実施例1で作製したpDZ-PgapA_rhtCを鋳型とし、部位特異的突然変異誘発(Site-Directed Mutagenesis)を次の方法で行った。
【0135】
【表6】
【0136】
【表7】
【0137】
RhtCの62番目のロイシン(L)を他のアミノ酸に置換するために、表6のPCR産物を作製し、表7の条件でPCRを行った。PCR実行時に、表8の突然変異誘発プライマー(mutagenic primer)セットを用いた。PCR終了後に、DpnI制限酵素1ulを添加し、次いで37℃で1時間処理した。DpnI処理したDNA3ulDH5aコンピテントセル(competent cell)に形質転換してpDZ-PgapA_rhtC変異型プラスミドを確保し、シーケンシングにより表8に示す各変異に置換されたことを確認した。
【0138】
【表8-1】
【0139】
【表8-2】
【0140】
【表8-3】
【0141】
【表8-4】
【0142】
表8に示すように作製したpDZ-PgapA_rhtC L62R、pDZ-PgapA_rhtCL62A、pDZ-PgapA_rhtCL62D、pDZ-PgapA_rhtCL62K、pDZ-PgapA_rhtCL62P、pDZ-PgapA_rhtCL62C、pDZ-PgapA_rhtCL62G、pDZ-PgapA_rhtCL62T、pDZ-PgapA_rhtCL62I、pDZ-PgapA_rhtCL62Y、pDZ-PgapA_rhtCL62V、pDZ-PgapA_rhtCL62H、pDZ-PgapA_rhtCL62F、pDZ-PgapA_rhtCL62M、pDZ-PgapA_rhtCL62Q、pDZ-PgapA_rhtCL62N、pDZ-PgapA_rhtCL62E、pDZ-PgapA_rhtCL62Wベクターを実施例2-5の方法でCgl-TH-4菌株にそれぞれエレクトロポレーションで形質転換し、その後2次交差過程を経て、染色体上で変異型rhtC遺伝子が挿入された19種の菌株を得た。当該遺伝子が挿入された相同組換え上流領域及び下流領域の外部部位をそれぞれ増幅する配列番号53及び54のプライマーを用いたPCRとゲノムシーケンシングにより当該遺伝的操作を確認した。
【0143】
配列番号53(HR outside F)
AAGGAATATCCCGGAGAACC
配列番号54(HR outside R)
TTGCGTTTGAAAAGCCCTCG
得られた形質転換菌株をそれぞれCgl-TH-5(L62R)、Cgl-TH-5(L62A)、Cgl-TH-5(L62D)、Cgl-TH-5(L62K)、Cgl-TH-5(L62P)、Cgl-TH-5(L62C)、Cgl-TH-5(L62G)、Cgl-TH-5(L62T)、Cgl-TH-5(L62I)、Cgl-TH-5(L62Y)、Cgl-TH-5(L62V)、Cgl-TH-5(L62H)、Cgl-TH-5(L62F)、Cgl-TH-5(L62M)、Cgl-TH-5(L62Q)、Cgl-TH-5(L62N)、Cgl-TH-5(L62E)、Cgl-TH-5(L62W)と命名した。
【0144】
前記方法で作製した18種の菌株と前述したように作製したCgl-TH-4、Cgl-TH-5、Cgl-TH-5(m2)菌株を実施例2-5のL-トレオニン生産フラスコ培地と培養方法で培養し、培養終了後に、HPLCによりL-トレオニンの生産量を測定した。その結果を表9に示す。
【0145】
【表9-1】
【0146】
【表9-2】
【0147】
【表9-3】
【0148】
表9に示すように、野生型rhtCを挿入したCgl-TH-5に比べて、RhtCタンパク質の62番目のアミノ酸の変異を適用した19種の変異の全てが3.4~16.9%pの発酵収率の向上を示した。
【実施例5】
【0149】
人工変異法によるAHV耐性菌株のスクリーニング
コリネバクテリウム・グルタミカムKFCC10881(特許文献10)を親株として、L-トレオニンアナログであるAHV(2-amino-3-hydroxy-valerate)に対する耐性を付与した。
【0150】
NTG(N-methyl-N’-nitro-N-nitrosoguanidine)を用いた人工変異法により変異を誘導した。実施例2-5の種培地で18時間培養したKFCC10881菌株を再び種培地4mlに接種し、その後OD660が約1.0になるまで培養した。培養液を遠心分離して菌体を回収し、その後50mMトリス-マレート(Tris-malate)緩衝液(pH6.5)で2回洗浄し、最後に4mlの同じ緩衝液に懸濁した。菌体懸濁液に最終濃度150mg/lになるようにNTG溶液(0.05Mトリス-マレート緩衝液(pH6.5)において2mg/mlの濃度)を添加して室温で20分間静置し、その後遠心分離により菌体を回収し、NTG除去のために同じ緩衝液で2回洗浄した。最終的に、洗浄した菌体を20%グリセリン溶液4mlに懸濁し、使用するまで-70℃で保管した。3g/lのAHVを含む最小培地にNTG処理菌株を塗抹し、前記過程でAHV耐性を有する変異型KFCC10881菌株を155株得た。
【実施例6】
【0151】
AHV耐性KFCC10881菌株からのL-トレオニン生産菌株の選択
実施例5で得た155株のAHV耐性菌株に対してL-トレオニン生産能試験を行った。実施例2-5の種培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに155株の菌株を接種し、その後30℃、200rpmで20時間振盪培養した。L-トレオニン生産培地(グルコース30g,KHPO2g,尿素3g,(NH)2SO40g,ペプトン2.5g,CSL(Sigma)5g(10ml),MgSO7HO0.5g,ロイシン400mg,CaCO20g,pH7.2(蒸留水1リットル中))24mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに1mlの種培養液を接種し、30℃、200rpmで48時間振盪培養した。
【0152】
培養終了後に、生産された様々なアミノ酸の生産量をHPLCにより測定した。実験を行った155株の菌株のうち、L-トレオニン生産能に優れる上位22株におけるアミノ酸の培養液中の濃度を表10に示す。前記過程により確認した22株の候補をそれぞれKFCC10881-1~KFCC10881-22と命名した。
【0153】
【表10】
【0154】
表10に示すように、AHV耐性を有する22種の菌株は、対照群(KFCC10881)において観察されないL-トレオニン生産結果を示す。また、前記AHV耐性菌株のうち、KFCC10881-10を最も優れたL-トレオニン菌株として選択した。
【実施例7】
【0155】
変異型L-トレオニン排出タンパク質導入KFCC10881-10菌株のL-トレオニン生産
実施例1で作製したpDZ-PgapA_rhtC、pDZ-PgapA_rhtC(m2)、pDZ-PgapA_rhtC(m3)と、実施例4で表8に示すように作製したpDZ-PgapA_rhtCL62R、pDZ-PgapA_rhtCL62A、pDZ-PgapA_rhtCL62D、pDZ-PgapA_rhtCL62K、pDZ-PgapA_rhtCL62P、pDZ-PgapA_rhtCL62C、pDZ-PgapA_rhtCL62G、pDZ-PgapA_rhtCL62T、pDZ-PgapA_rhtCL62I、pDZ-PgapA_rhtCL62Y、pDZ-PgapA_rhtCL62V、pDZ-PgapA_rhtCL62H、pDZ-PgapA_rhtCL62F、pDZ-PgapA_rhtCL62M、pDZ-PgapA_rhtCL62Q、pDZ-PgapA_rhtCL62N、pDZ-PgapA_rhtCL62E、pDZ-PgapA_rhtCL62WベクターをKFCC10881-10菌株にそれぞれエレクトロポレーションで形質転換し、その後2次交差過程を経て、染色体上で変異型rhtC遺伝子が挿入された22種の菌株を得た。当該遺伝子が挿入された相同組換え上流領域及び下流領域の外部部位をそれぞれ増幅する配列番号53及び54のプライマーを用いたPCRとゲノムシーケンシングにより当該遺伝的操作を確認した。
【0156】
配列番号53(HR outside F)
AAGGAATATCCCGGAGAACC
配列番号54(HR outside R)
TTGCGTTTGAAAAGCCCTCG
得られた形質転換菌株をそれぞれKFCC10881-10(rhtC WT)、KFCC10881-10(rhtCL62S)、KFCC10881-10(rhtCA53T)、KFCC10881-10(rhtCL62R)、KFCC10881-10(rhtCL62A)、KFCC10881-10(rhtCL62D)、KFCC10881-10(rhtCL62K)、KFCC10881-10(rhtCL62P)、KFCC10881-10(rhtCL62C)、KFCC10881-10(rhtCL62G)、KFCC10881-10(rhtCL62T)、KFCC10881-10(rhtCL62I)、KFCC10881-10(rhtCL62Y)、KFCC10881-10(rhtCL62V)、KFCC10881-10(rhtCL62H)、KFCC10881-10(rhtCL62F)、KFCC10881-10(rhtCL62M)、KFCC10881-10(rhtCL62Q)、KFCC10881-10(rhtCL62N)、KFCC10881-10(rhtCL62E)、KFCC10881-10(rhtCL62W)と命名した。
【0157】
当該rhtC遺伝子が挿入された相同組換え上流領域及び下流領域の外部部位をそれぞれ増幅する配列番号53及び54のプライマーを用いたPCRとゲノムシーケンシングにより当該遺伝的操作を確認した。
【0158】
次に、前記方法で作製した菌株22種を実施例6のL-トレオニン生産培地と培養方法で培養し、培養終了後に、HPLCによりL-トレオニンの生産量を測定した。その結果を表11に示す。
【0159】
【表11-1】
【0160】
【表11-2】
【0161】
【表11-3】
【0162】
表11に示すように、KFCC10881-10に変異型RhtCを導入すると、実施例3及び4における結果と同様に、野生型RhtCに比べて高いレベルの収率上昇が観察された。
【実施例8】
【0163】
変異型L-トレオニン排出タンパク質導入TF4076菌株のL-トレオニン生産
大腸菌W3110由来rhtCタンパク質(配列番号1)と相同性が高い他の菌株由来rhtCに本出願の変異を導入し、L-トレオニン生産結果を確認した。
【0164】
具体的には、実施例1と同様に、大腸菌W3110、シゲラ・フレクスネリ(Shigella flexneri)、エシェリキア・フェルグソニイ(Escherichia fergusonii)のゲノムDNAからPCRにより塩基配列断片をそれぞれ確保し(eco rhtC,sferhtC,eferhtC)、それに実施例1の方法でL62S変異を導入した変異型rhtCをそれぞれ作製した。作製した変異型rhtC又は各菌株の野生型rhtCをpCL1920とクローニングすることにより、組換えプラスミドpCL1920-Pn_rhtC.eco、pCL1920-Pn_rhtC.ecoL62S、pCL1920-Pn_rhtC.sfe、pCL1920-Pn_rhtC.sfeL62S、pCL1920-Pn_rhtC.efe、pCL1920-Pn_rhtC.efeL62Sを得た。
【0165】
前述したように作製した組換えプラスミドをそれぞれL-トレオニン生産能を有する大腸菌菌株であるTF4076に形質転換し、TF4076/pCL1920、TF4076/pCL1920-Pn_rhtC.eco、TF4076/pCL1920-Pn_rhtC.ecoL62S、TF4076/pCL1920-Pn_rhtC.sfe、TF4076/pCL1920-Pn_rhtC.sfeL62S、TF4076/pCL1920-Pn_rhtC.efe、TF4076/pCL1920-Pn_rhtC.efeL62S菌株を作製した。作製した菌株のL-トレオニン生産量の比較のためにフラスコ評価を行った。その結果を表12に示す。
【0166】
【表12】
【0167】
表12に示すように、大腸菌W3110、シゲラ・フレクスネリ又はエシェリキア・フェルグソニイ由来RhtCにL62S変異を導入した変異型RhtCをTF4076に導入すると、実施例3、4及び7における結果と同様に、野生型RhtCに比べて高いレベルの収率上昇が観察された。
【0168】
よって、基準配列が異なる場合も、本発明の53番目又は62番目に相当する位置において他のアミノ酸に置換すると、L-トレオニン排出能が向上することが分かる。
以上の説明から、本出願の属する技術分野の当業者であれば、本出願がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、前記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本出願には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。
【0169】
【表13】
【0170】
【表14】
【0171】
【表15】
【配列表】
0007295276000001.app