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特許7295348NDR工法における止水構造及びその設計方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-12
(45)【発行日】2023-06-20
(54)【発明の名称】NDR工法における止水構造及びその設計方法
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/16 20060101AFI20230613BHJP
【FI】
E02B3/16 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023011890
(22)【出願日】2023-01-30
【審査請求日】2023-02-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】弁理士法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 孝太
(72)【発明者】
【氏名】山下 徹
(72)【発明者】
【氏名】石▲崎▼ 康暖
(72)【発明者】
【氏名】西宮 夏海
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭48-077635(JP,A)
【文献】特開平11-117338(JP,A)
【文献】特開2006-009315(JP,A)
【文献】特開2010-209594(JP,A)
【文献】特開2018-004068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 1/00- 3/02
E02B 3/16- 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中の2つの函体に挟まれる位置に設けられた一対の弾性体及び規制部材を備え、
異なる複数の水深においてそれぞれ前記一対の弾性体及び規制部材が設けられており、
各々の前記規制部材は、
前記水深の異なる各位置において、前記2つの函体から前記弾性体に与えられる面圧によって当該弾性体が圧縮する方向に変形する量を規制するとともに、前記弾性体に作用する水圧によって当該弾性体が前記規制部材の方向に変形する量を規制し、
前記水深の異なる各位置において、前記弾性体及び規制部材間の距離が同じである
ことを特徴とする止水構造。
【請求項2】
水中の2つの函体に挟まれる位置に設けられた一対の弾性体及び規制部材を備え、
所定の水深範囲に応じた異なる複数の水深区分においてそれぞれ前記一対の弾性体及び規制部材が設けられており、
各々の前記規制部材は、
前記水深区分の異なる各位置において、前記2つの函体から前記弾性体に与えられる面圧によって当該弾性体が圧縮する方向に変形する量を規制するとともに、前記弾性体に作用する水圧によって当該弾性体が前記規制部材の方向に変形する量を規制し、
前記水深区分の異なる各位置において、前記弾性体及び規制部材間の距離が異なる
ことを特徴とする止水構造。
【請求項3】
水中の2つの函体に挟まれる位置に設けられた一対の弾性体及び規制部材を備え、
所定の水深範囲に応じた異なる複数の水深区分においてそれぞれ前記一対の弾性体及び規制部材が設けられており、
各々の前記規制部材は、
前記水深区分の異なる各位置において、前記2つの函体から前記弾性体に与えられる面圧によって当該弾性体が圧縮する方向に変形する量を規制するとともに、前記弾性体に作用する水圧によって当該弾性体が前記規制部材の方向に変形する量を規制し、
前記水深区分の異なる各位置において、前記弾性体の硬度が異なる
ことを特徴とする止水構造。
【請求項4】
水中において、金属部材である2つの函体に挟まれる位置に設けられた弾性体及び金属部材である規制部材を備え、
前記規制部材は、
前記2つの函体から前記弾性体に与えられる面圧によって当該弾性体が圧縮する方向に変形する量を規制するとともに、前記弾性体に作用する水圧によって当該弾性体が前記規制部材の方向に変形する量を規制し、
前記弾性体に作用する水圧をP、前記函体から前記弾性体に与えられる面圧をσ、前記規制部材を前記函体に溶接するための溶接脚長をsとしたとき、
(1)P/σ≦1である、
(2)前記弾性体及び前記規制部材の距離が、P=σのときに前記弾性体が水圧によって前記規制部材の方向に変形する量以下である、
(3)前記弾性体及び前記規制部材の間隔がsよりも大きい、
という条件をすべて満たすことを特徴とする止水構造。
【請求項5】
P=σのときに前記弾性体が水圧によって前記規制部材の方向に変形する量をkmaxとし、前記弾性体の幅をBとし、函体からの面圧がかかっていないときの前記弾性体の高さをtとし、函体からの面圧がかかっているときの前記弾性体の高さをt’としたとき、
前記弾性体及び前記規制部材との距離が
kmax=3/B×(t’ 2 -t’ 3 /t)
以下となる条件を満たすことを特徴とする請求項4記載の止水構造。
【請求項6】
水中において、金属部材である2つの函体に挟まれる位置に設けられた弾性体と、当該弾性体の変形量を規制する金属部材である規制部材とからなる止水構造において、
前記弾性体に作用する水圧をP、前記函体から前記弾性体に与えられる面圧をσ、前記規制部材を前記函体に溶接するための溶接脚長をsとしたとき、
(1)P/σ≦1である、
(2)前記弾性体及び前記規制部材の距離が、P=σのときに前記弾性体が水圧によって前記規制部材の方向に変形する量以下である、
(3)前記弾性体及び前記規制部材の距離がsよりも大きい、
という条件をすべて満たす設計範囲を算出することを特徴とする、止水構造の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、函体間における止水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
NDR工法(Neo-Dry Repair Method)は、河川や港湾の水中構造物を陸上と同じようにドライ環境で調査、補修、補強を行うための仮設工法として知られている(例えば特許文献1参照)。従来において、NDR工法は、流速が小さく(例えば1.0m/s以下)水深が浅い(例えば15m以下)環境で実施されることが多かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-133395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
今後は、大水深における橋脚補強工事等の施工のニーズが高まってくることが予想されている。この場合、水深が深いケースなどで接合面から漏水の報告もあることから、浅い水深を想定した従来のNDR工法では大水深での水圧に耐えることが困難であり、止水のための仮設備を多く要するなどコスト面や工期の点で不利となり、さらに、函体内部の作業員の安全性の低下も問題となる。
【0005】
そこで、本発明は、大水深であっても漏水が抑制され、安全性の高い、函体間の止水構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る止水構造は、水中の2つの函体に挟まれる位置に設けられた一対の弾性体及び規制部材を備え、異なる複数の水深においてそれぞれ前記一対の弾性体及び規制部材が設けられており、各々の前記規制部材は、前記水深の異なる各位置において、前記2つの函体から前記弾性体に与えられる面圧によって当該弾性体が圧縮する方向に変形する量を規制するとともに、前記弾性体に作用する水圧によって当該弾性体が前記規制部材の方向に変形する量を規制し、前記水深の異なる各位置において、前記弾性体及び規制部材間の距離が同じである
【0008】
また、本発明に係る止水構造は、水中の2つの函体に挟まれる位置に設けられた一対の弾性体及び規制部材を備え、所定の水深範囲に応じた異なる複数の水深区分においてそれぞれ前記一対の弾性体及び規制部材が設けられており、各々の前記規制部材は、前記水深区分の異なる各位置において、前記2つの函体から前記弾性体に与えられる面圧によって当該弾性体が圧縮する方向に変形する量を規制するとともに、前記弾性体に作用する水圧によって当該弾性体が前記規制部材の方向に変形する量を規制し、前記水深区分の異なる各位置において、前記弾性体及び規制部材間の距離が異なる。
【0009】
また、本発明に係る止水構造は、水中の2つの函体に挟まれる位置に設けられた一対の弾性体及び規制部材を備え、所定の水深範囲に応じた異なる複数の水深区分においてそれぞれ前記一対の弾性体及び規制部材が設けられており、各々の前記規制部材は、前記水深区分の異なる各位置において、前記2つの函体から前記弾性体に与えられる面圧によって当該弾性体が圧縮する方向に変形する量を規制するとともに、前記弾性体に作用する水圧によって当該弾性体が前記規制部材の方向に変形する量を規制し、前記水深区分の異なる各位置において、前記弾性体の硬度が異なる
【0010】
また、本発明に係る止水構造は、水中において、金属部材である2つの函体に挟まれる位置に設けられた弾性体及び金属部材である規制部材を備え、前記規制部材は、前記2つの函体から前記弾性体に与えられる面圧によって当該弾性体が圧縮する方向に変形する量を規制するとともに、前記弾性体に作用する水圧によって当該弾性体が前記規制部材の方向に変形する量を規制し、前記弾性体に作用する水圧をP、前記函体から前記弾性体に与えられる面圧をσ、前記規制部材を前記函体に溶接するための溶接脚長をsとしたとき、(1)P/σ≦1である、(2)前記弾性体及び前記規制部材の距離が、P=σのときに前記弾性体が水圧によって前記規制部材の方向に変形する量以下である、(3)前記弾性体及び前記規制部材の間隔がsよりも大きい、という条件をすべて満たす
【0011】
P=σのときに前記弾性体が水圧によって前記規制部材の方向に変形する量をkmaxとし、前記弾性体の幅をBとし、函体からの面圧がかかっていないときの前記弾性体の高さをtとし、函体からの面圧がかかっているときの前記弾性体の高さをt’としたとき、前記弾性体及び前記規制部材との距離がkmax=3/B×(t’2-t’3/t)以下となる条件を満たしていてもよい。
【0012】
また、本発明に係る止水構造の設計方法は、水中において、金属部材である2つの函体に挟まれる位置に設けられた弾性体と、当該弾性体の変形量を規制する金属部材である規制部材とからなる止水構造において、前記弾性体に作用する水圧をP、前記函体から前記弾性体に与えられる面圧をσ、前記規制部材を前記函体に溶接するための溶接脚長をsとしたとき、(1)P/σ≦1である、(2)前記弾性体及び前記規制部材の距離が、P=σのときに前記弾性体が水圧によって前記規制部材の方向に変形する量以下である、(3)前記弾性体及び前記規制部材の距離がsよりも大きい、という条件をすべて満たす設計範囲を算出することを特徴とする、止水構造の設計方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、大水深であっても漏水が抑制され、安全性の高い、函体間の止水構造を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る函体の設置イメージを例示する図である。
図2】締め付け前の函体間の止水構造を例示する図である。
図3】締め付け後の函体間の止水構造を例示する図である。
図4】水圧によって弾性体(以下、止水ゴム)が変形する様子を説明する図である。
図5】止水ゴムの変形により漏水する様子を説明する図である。
図6】止水ゴムの変形を規制部材(以下、ストッパー)が規制する様子を説明する図である。
図7】止水ゴムに対するせん断応力を説明する図である。
図8】ストッパー及び止水ゴム間の距離の設計範囲を例示するグラフである。
図9】ストッパーの溶接脚長を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施形態]
本発明を実施するための形態の一例について説明する。図1において、一点鎖線より左側の図は側面図であり、一点鎖線より右側の図は断面図である。構造物1は、例えば、水底に構築された基礎2の上に設置された橋脚である。各々の函体10は、鉛直上方(Z軸方向)から見たとき概ねL字形状または直線状の金属部材であり、構造物1を囲むように基礎2の上に組み合わせられて設置されている。函体10は、構造物1に対して、例えば支保工20と呼ばれる支持具により支持されている。
【0016】
隣り合う各函体10が接合する接合面には、それぞれ止水構造が設けられている。図1では、Z軸方向に隣り合う各函体10が接合する水平方向の接合面A1と、X軸又はY軸方向に隣り合う各函体10を接合する鉛直方向の接合面A2とにそれぞれ止水構造が設けられる。これにより函体10によって囲まれた空間はドライ空間となる。
【0017】
隣り合う各函体10は、例えばボルト及びナット等の締め付け具によって締め付けられている。図2は締め付け前の止水構造を例示する図であり、図3は締め付け後の止水構造を例示する図である。2つの函体10a,10bに挟まれる位置に設けられた止水構造は、本発明の規制部材に相当するストッパー11と、本発明の弾性体に相当する止水ゴム12とを備えている。
【0018】
ストッパー11は、金属製の直方体であり、溶接によって一方の函体10bに固定されている。止水ゴム12は、例えば硬度60のクロロプレンゴムであり、接着等の方法により一方の函体10bに固定されている。函体10a,10b間がボルト13及びナット14等によって締め付けられることで、函体10a,10b間の距離(Z軸方向の距離)は短くなる。この結果、止水ゴム12が函体10a,10bからの面圧により圧縮させられ(つまり止水ゴム12のZ軸方向の長さが短くなり)、止水ゴム12及び函体10a間の摩擦力が増大する。これにより、図中右側の水中から図中左側のドライ空間への漏水が抑止される。
【0019】
締め付け後の函体10a,10b間の距離の下限値は予め決められており、ストッパー11の高さ(Z軸方向の長さ)がその下限値に相当する。つまり、ストッパー11は、2つの函体10a,10bから止水ゴム12に与えられる面圧によってその止水ゴム12が圧縮する方向に変形する量を規制する役割を果たす。
【0020】
図4に例示するように、止水ゴム12は水圧Pがかかると、ドライ空間側(ストッパー11側)に横倒れするように変形する。函体10aから止水ゴム12に与えられる面圧σが止水ゴム12にかかる水圧Pよりも大きい間は、止水ゴム12による漏水が抑止される。
【0021】
一方、止水ゴム12にかかる水圧Pが函体10aから止水ゴム12に与えられる面圧σ以上になった場合には、図5に例示するように止水ゴム12と函体10aとの間が離間し、漏水する。
【0022】
そこで、本実施形態に係るストッパー11は、前述したように2つの函体10a,10bから止水ゴム12に与えられる面圧によってその止水ゴム12が圧縮する方向(Z軸方向)に変形する量を規制する役割に加えて、止水ゴム12に作用する水圧Pによってその止水ゴム12がストッパー11の方向(X軸負方向)に変形する量を規制する役割を有する。
【0023】
つまり、図6に例示するように、ストッパー11は、X軸負方向の水圧Pで変形する止水ゴム12の上端(函体10aと接合する端部)をX軸正方向の支持力Rで支持することで、止水ゴム12の上端がそれ以上X軸負方向に変形しないようにする。これにより、止水ゴム12により漏水が抑止される。
【0024】
水圧Pで変形する止水ゴム12の上端をストッパー11が支持し得るようにするためには、ストッパー11及び止水ゴム12が一定の距離以下である必要がある。そこで、以下では、止水ゴム12による止水が可能な限界における、止水ゴム12及びストッパー11間の間隔(以下、間隔限界kmaxという)について考察する。
【0025】
まず、図7に例示するような微小モデルを仮定する。ここで、せん断力による止水ゴム12の変位をδ(m)、水圧をP(t/m2)、ストッパー11の高さ(締め付け後の止水ゴム12の高さ)をt’(m)、止水ゴム12の幅(Y軸方向の長さ)をB(m)、止水ゴム12のせん断弾性係数をG(t/m2)、せん断ひずみをεsとしたとき、
εs=δ/t’
である。
止水ゴム12に対するせん断応力をSとすると、締め付け後ではストッパー11の高さと締め付け後の止水ゴム12の高さはt’で等しいことから、フックの法則を用いて、
S=G×δ/t’
となる。
そして、止水ゴム12の幅(Y軸方向の長さ)はB(m)であるから、止水ゴム12の幅方向全体では、
S×B=G×δ/t’×B
となる。
【0026】
止水ゴム12による止水が可能な限界においては、
P×t’= G×δ/t’×B
という等式が成立する。これを変形すると、
δ=Pt’2/(GB)
となる。
止水ゴム12及びストッパー11間の間隔をkとし、k=δの場合には、
k=δ=Pt’2/(GB)
となる。
【0027】
次に、止水ゴム12及びストッパー11間の間隔がとり得る最大値、つまり間隔限界kmaxについて考察する。前述したように、函体10aから止水ゴム12に与えられる面圧σ≧止水ゴム12にかかる水圧Pである限りは漏水が抑止されるから、前述したδ=Pt’2/GBにおいて、漏水が始まる条件はσ=Pとなる。従って、
k=σt’2/(GB)
となる。
【0028】
ここで、止水ゴム12の弾性係数(ヤング係数)をE、ポアソン比をν(=0.5)、ひずみをε、締め付け前の止水ゴム12の高さ(Z軸方向の長さ)をt、締め付け前後における止水ゴム12の高さの変位をδtとする。
【0029】
まず面圧σは、σ=ε×Eで表される。また、δt=(t-t’)であるから、ε=δt/t=(t-t’)/tである。そして、E=2×G×(1+ν)であるから、
間隔限界kmaxは、
kmax=3/B×(t’2-t’3/t)
という式で表されることになる。
【0030】
図8は、ストッパー11及び止水ゴム12間の距離の適用範囲を例示するグラフである。同図において、縦軸は、止水ゴム12及びストッパー11間の間隔kであり、横軸は、止水ゴム12にかかる水圧Pと函体10aから止水ゴム12に与えられる面圧σの比P/σである。漏水を抑止することができる限界の状態では、水圧Pと面圧σが等しい、つまりP/σ=1のときである。このため、止水が可能な範囲は、0≦P/σ≦1である。
【0031】
ストッパー11及び止水ゴム12間の間隔限界kmaxは、P=σのときに止水ゴム12が水圧Pによってストッパー11の方向に変形する量に相当する。つまり、上述したkmax=3/B×(t’2-t’3/t)によって算出される。止水ゴム12及びストッパー11の距離は、この間隔限界kmax以下に設計される。
【0032】
ストッパー11を函体10に溶接で固定するとき、その溶接に必要な溶接脚長というものがある。具体的には、図9に示すように、ストッパー11の下端部が函体10に溶接されるが、そのために必要な溶接部分15のうち、X軸方向の長さが溶接脚長sに相当する。この溶接脚長sは溶接接合のために必須の距離であるから、止水ゴム12及びストッパー11との距離はこの溶接脚長s以上に設計される。
【0033】
以上のことから、(1)水圧P/面圧σ≦1である、(2)止水ゴム12及びストッパー11の距離が、水圧P=面圧σのときに止水ゴム12が水圧Pによってストッパー11の方向に変形する量以下である、(3)止水ゴム12及びストッパー11との間隔が溶接脚長sよりも大きい、という3つの条件を全て満たす範囲(図8において網掛けで示した適用範囲Q)で止水構造の設計がなされる。
【0034】
以上の本実施形態によれば、ストッパー11が、隣り合う各函体10から止水ゴム12に与えられる面圧σによってその止水ゴム12が圧縮する方向に変形する量を規制する役割と、止水ゴム12に作用する水圧Pによってその止水ゴム12がストッパー11の方向に変形する量を規制する役割とを有する。より具体的には、(1)水圧P/面圧σ≦1である、(2)止水ゴム12及びストッパー11との距離が、水圧P=面圧σのときに止水ゴム12が水圧Pによってストッパー11の方向に変形する量以下である、(3)止水ゴム12及びストッパー11との間隔が溶接脚長sよりも大きい、という3つの条件を全て満たす範囲で止水構造の設計がなされる。これにより、大水深であっても漏水が抑制され、安全性の高い止水構造を提供することが可能となる。また、止水ゴム12に硬度の高いクロロプレンゴムを使用することで、耐水圧性及び止水性が高い止水構造を提供することが可能となる。なお、硬度の数値は対象とする硬度の数値から±5の範囲も当該硬度の数値と見なす。
【0035】
弾性体(止水ゴム)のゴム硬度は、本発明を実施する深度に応じて変更することが望ましい。例えば、止水構造が設置される深度が水深15mまでであればゴム硬度は15以上が望ましく、水深15m以深で100mまでであればゴム硬度は45以上が望ましく、さらに水深100m以深であればゴム硬度は65以上であることが望ましい。
【0036】
[変形例]
上記実施形態を次のように変形してもよい。
[変形例1]
止水構造を構成する弾性体(止水ゴム)及び規制部材(ストッパー)の素材、形状、位置等は、実施形態の例示に限定されない。
【0037】
[変形例2]
図1の例では、隣り合う函体10間の接合面が、異なる水深で複数存在する。この場合、各々の接合面の水深に応じて、各接合面における止水構造の止水ゴム12に作用する水圧が異なる。そこで、最も水深が大きい函体10間の接合面における水圧Pを用いて間隔限界kmaxを算出し、その間隔限界kmax以下の値を、水深が異なる各函体10間の止水構造における止水ゴム12及びストッパー11の距離としてもよい。つまり、止水構造が水深の異なる位置に複数設けられる場合に、各々の止水構造において、弾性体(止水ゴム)及び規制部材(ストッパー)間の距離が同じであってもよい。
【0038】
[変形例3]
上記変形例1とは逆に、水深が異なる隣り合う各函体10間の止水構造における止水ゴム12及びストッパー11との距離を水深に応じて異なるように設計してもよい。具体的には、各止水構造が設置される水深に関し、水深を所定の水深範囲に応じた水深区分(例えば水深1m単位とか10m単位等の任意の区分)とする。そして、止水構造が水深の異なる位置に複数設けられる場合に、その止水構造が位置する水深区分に応じて、弾性体(止水ゴム)及び規制部材(ストッパー)間の距離を、各水深区分における水圧Pを用いて間隔限界kmax以下としてもよい。さらに、止水構造が位置する水深区分に応じて、その止水構造が位置する水深区分に応じて、弾性体(止水ゴム)の硬度が異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1:構造物、2:基礎、10:函体、11:ストッパー、12:止水ゴム、13:ボルト、14:ナット、15:溶接部分、20:支保工、P:水圧、σ:面圧、R:支持力、Q:適用範囲、A1,A2:接合面
【要約】
【課題】大水深であっても安全性の高い止水構造を提供する。
【解決手段】ストッパー11は、2つの函体10a,10bから止水ゴム12に与えられる面圧によってその止水ゴム12が圧縮する方向(Z軸負方向)に変形する量を規制する役割に加えて、止水ゴム12に作用する水圧によってその止水ゴム12がストッパー11の方向(X軸負方向)に変形する量を規制する役割を有する。つまり、ストッパー11は、X軸負方向に作用する水圧Pで変形する止水ゴム12の上端(函体10aと接合する端部)をX軸正方向の支持力Rで支持することで、止水ゴム12の上端がそれ以上X軸負方向に変形しないようにする。これにより止水ゴム12により漏水が抑止される。
【選択図】図6
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9