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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】吸着治具
(51)【国際特許分類】
   B23Q 3/08 20060101AFI20230614BHJP
   B25B 11/00 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
B23Q3/08 A
B25B11/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019086600
(22)【出願日】2019-04-11
(65)【公開番号】P2020172013
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】503234609
【氏名又は名称】佐々木工機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 政仁
【審査官】増山 慎也
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-204961(JP,A)
【文献】特開2015-205365(JP,A)
【文献】特開2016-060006(JP,A)
【文献】実公昭47-010331(JP,Y1)
【文献】実開昭57-023936(JP,U)
【文献】特開2002-103262(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0270757(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 3/08
B25B 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークをテーブルに固定する吸着治具を少なくとも2個備えた吸着治具セットにおいて、この複数の吸着治具のそれぞれは、
本体と、
この本体の一端に設けられたキャビティと、
このキャビティに設けられた吸引孔と、
この吸引孔と連通されると共にエアチューブと接続するための内部に絞りを備えたジョイントと、
前記キャビティの周囲に設けられた吸着面と、
この吸着面と平行に前記本体の他端に設けられると共に前記テーブルと接触する底面
と、を備え、
更に、給気される圧縮エアにより負圧を発生させるエジェクタと、
このエジェクタに接続されると共にこの発生した負圧を少なくとも2つに分岐するエアターミナルと、
このエアターミナルで分岐された前記負圧をそれぞれの前記吸着治具へ給気する少なくとも2つのエアチューブと、を備え、
前記負圧によりそれぞれの前記吸引孔を経由してそれぞれの前記キャビティ内のエアを吸引排気して、前記ワークに吸着することを特徴とする吸着治具セット。
【請求項2】
請求項に記載の前記吸着治具セットおいて、
少なくとも2個の前記吸着治具のそれぞれは、
前記底面に設けられたキャビティと、
このキャビティに設けられると共に前記吸引孔に連通された吸引孔と、
前記底面に設けられた前記キャビティの周囲に設けられた吸着面と、を更に備え、
それぞれの前記一端に設けられた前記キャビティ内のエアを吸引排気して、前記ワークに吸着すると共に前記底面に設けられた前記キャビティ内のエアを吸引排気して、前記テーブルに吸着することを特徴とする吸着治具セット。
【請求項3】
ワークを放電加工機の加工液が満たされた加工液槽内のテーブルに固定する吸着治具において、
本体と、
この本体の一端に設けられたキャビティと、
このキャビティに設けられた吸引孔と、
この吸引孔と連通されると共にエアチューブと接続するための内部に絞りを備えたジョイントと、
前記キャビティの周囲に設けられた吸着面と、
この吸着面と平行に前記本体の他端に設けられると共に前記テーブルと接触する底面と、を備え、
更に、給気される圧縮エアにより負圧を発生させるエジェクタと、
前記本体に接続されたエアチューブと、
このエアチューブと前記エジェクタとの間に設けられた液溜まりの容器と、を備え、
前記負圧は前記容器、及び、前記エアチューブを経由して前記本体に供給されることで前記吸引孔を経由して前記キャビティ内のエアを吸引排気して、前記ワークに吸着することを特徴とする吸着治具。
【請求項4】
請求項記載の前記吸着治具において、
前記吸着面に設けられた円形状の溝と、
この溝に嵌め込まれたオーリングと、を更に備えることを特徴とする吸着治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークをテーブルに固定する吸着治具、及び、この吸着治具を複数組み合わせた吸着治具セットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、小物ワークや板状のワークに対する切削加工や研削加工、放電加工の際に、ワークをテーブルに固定する治具として、多数の吸引孔を備えた真空チャックテーブルがしばしば用いられている。現在、市場に普及している平面研削盤のテーブルの多くには、ワーク素材を磁気により固定するマグネットチャック(電磁・永磁)機能が標準的に装備されている。このことは、平面研削盤の対象ワークのほとんどが、鋼などの強磁性材であることに由来する。しかし、近年、対象ワークとして、セラミックスや表面を硬化処理したアルミ合金や銅合金といった非磁性のワークが増えており、これらのワークを加工する際、作業者にはその都度ワークをテーブルに固定するための工夫が求められる。このように、ワークが非磁性材である場合、ワークをテーブルに固定する治具として、簡便には、多数の吸引孔を備えた真空チャックテーブルがしばしば用いられている。例えば、下記実用新案文献1では、テーブル本体11に吸引孔16を多数備え、ワークにより塞がれていない状態の吸引孔16は、大気との圧力差を利用して自動で閉じるように構成されたバルブ17を備えることで、ワークにより塞がれていない吸引孔16をテープでマスキングする作業を不要とした真空チャックテーブルが開示されている。この真空チャックテーブルを使うことで、例えば研削盤上において、板状のワークを簡単に固定したりリリースしたりすることが可能である。
【0003】
また、例えば、下記実用新案文献2では、真空チャック50に吸着孔20を多数備え、ワークにより接触ピン12を押下することで吸着孔栓11が下がり、吸着孔20との間にすき間ができてワークを吸着して、その他の部分では吸引が行われない。従って、文献1と同様にワークにより塞がれていない吸着孔20をテープでマスキングする作業が不要であり、文献1と同様に板状のワークを簡単に固定したりリリースしたりすることが可能である。
【先行技術文献】
【0004】
【実用新案文献1】
実開昭52-15082号公報
【実用新案文献2】
実開昭57-23936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記した文献1,2の真空チャックテーブル、真空チャックはどちらも比較的サイズが大きく、真空チャックの厚みの分だけ高さ方向の加工領域が減少してしまうという問題がある。さらに、やや複雑な機構を備え重量が重いため、定盤上に設置したり移動したり、あるいは取り除いたりするのに手間がかかる。特に、設置するときは、定盤面との平行が出ているかを設置の度に確認し、必要により調整しなくてはならず、加工作業開始までに時間がかかってしまうという問題がある。また、多数の吸引孔の加工やその内部に組み込まれる複雑な機構の製造コスト、及び、真空チャックテーブルの上面は全域にわたって0.03mm相当の平面度がなければ切削加工や研削加工、放電加工に使えないので、その分の製造コストがかかってしまう。
【0006】
また、これらの真空チャックテーブルは比較的サイズが大きく多数の吸引孔を備えるので、それぞれの吸引孔に十分な負圧を与えるために専用の真空ポンプが必要になる。また、この真空チャックテーブルを使わない場合は、邪魔になるので定盤から取り除かなくてはならない。
また、これらの真空チャックテーブルの内部に放電加工機等の加工液が誤って侵入するとその複雑な機構のため動作に不具合が発生する。従って、そもそも放電加工機の加工液槽内での使用を想定していない。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたもので、小物ワークや板状のワークに対する切削加工や研削加工、放電加工の際に、ワークをテーブルに固定する治具として、小型化、かつ、軽量化されると共に簡単に固定したりリリースしたりすることが可能な吸着治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、ワークをテーブルに固定する吸着治具において、本体と、この本体の一端に設けられたキャビティと、このキャビティに設けられた吸引孔と、この吸引孔に連通されたエジェクタと、前記キャビティの周囲に設けられた吸着面と、この吸着面と平行に前記本体の他端に設けられると共に前記テーブルと接触する底面と、を備える。
これにより、小型化、かつ、軽量化されると共に、エジェクタを利用することで、負圧を給気するための専用の真空ポンプを不要とし、圧縮エアを給気すればワークをテーブルに平行に簡単に固定することができる吸着治具を提供可能である。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の吸着治具において、前記底面に設けられたキャビティと、このキャビティに設けられると共に前記吸引孔に連通された吸引孔と、前記底面に設けられた前記キャビティの周囲に設けられた吸着面と、を更に備えることとしてもよい。
これにより、ワークとテーブルの両方に吸着可能な吸着治具を構成可能である。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1及び2に記載の前記吸着治具を少なくとも2個備えた吸着治具セットにおいて、給気される圧縮エアを少なくとも2つに分岐するエアターミナルと、このエアターミナルで分岐された圧縮エアをそれぞれの前記吸着治具の前記エジェクタへ給気する少なくとも2つのエアチューブと、を更に備えることとしてもよい。
これにより、テーブル上に配置する前記少なくとも2個の吸着治具の位置を適宜自由に調整して、あらゆるサイズのワークを固定することができるようになる。例えば、比較的面積が広い板状のワークであれば、前記吸着治具3個を互いに等距離に配置してこのワークを3か所で支持固定することが好ましい。平面は3点で規定されることから、このように3か所でワークを支持することでワークを安定して固定できる。
【0011】
また、上記課題を解決するために、請求項4に記載の発明は、ワークをテーブルに固定する吸着治具を少なくとも2個備えた吸着治具セットにおいて、この複数の吸着治具のそれぞれは、本体と、この本体の一端に設けられたキャビティと、このキャビティに設けられた吸引孔と、前記キャビティの周囲に設けられた吸着面と、この吸着面と平行に前記本体の他端に設けられると共に前記テーブルと接触する底面と、を備え、更に、給気される圧縮エアにより負圧を発生させるエジェクタと、このエジェクタに接続されると共にこの発生した負圧を少なくとも2つに分岐するエアターミナルと、このエアターミナルで分岐された前記負圧をそれぞれの前記吸着治具へ給気する少なくとも2つのエアチューブと、を備える。
これにより、エジェクタを共通化させることでエジェクタは一つだけで済むので、より安価な吸着治具セットを提供することができる。
【0012】
また、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の前記吸着治具セットおいて、少なくとも2個の前記吸着治具のそれぞれは、前記底面に設けられたキャビティと、このキャビティに設けられると共に前記吸引孔に連通された吸引孔と、前記底面に設けられた前記キャビティの周囲に設けられた吸着面と、を更に備えることとしてもよい。
これにより、ワークとテーブルの両方に吸着可能な吸着治具セットを構成可能である。
【0013】
また、請求項6に記載の発明は、請求項4及び5に記載の前記吸着治具セットにおいて、少なくとも2個の前記吸着治具のそれぞれには吸引されるエアの流量を制限する絞りを更に備えることとしてもよい。
これにより、例えばワークの平面度が低くてどれか一つの吸着治具のキャビティが完全に塞がれていなくてエアリークが発生した場合でも、このエアリークで吸い込まれるエアの流量が制限されるので、他の吸着治具の吸着力が大幅に低下することを防止することができる。
【0014】
また、上記目的を達成するため、請求項7に記載の発明は、ワークをテーブルに固定する吸着治具において、略円筒形状の本体と、この本体の一端に設けられたキャビティと、このキャビティに設けられた吸引孔と、この吸引孔に設けられると共に前記ワークからの力を受けて開く弁と、前記吸引孔に連通されたエジェクタと、前記キャビティの周囲に設けられた吸着面と、この吸着面と平行に前記本体の他端に設けられると共に前記テーブルと接触する底面と、を備える。
これにより、力が加えられていな弁は閉じているので、ワークで塞がれていないキャビティから無駄にエアが吸引されることを防止できる。
【0015】
また、請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の前記吸着治具及において、前記底面に設けられたキャビティと、このキャビティに設けられると共に前記吸引孔に連通された吸引孔と、この吸引孔に設けられると共に前記テーブルからの力を受けて開く弁と、前記底面に設けられた前記キャビティの周囲に設けられた吸着面と、を更に備えることとしてもよい。
これにより、ワークとテーブルの両方において、塞がれているキャビティのみの弁が開いて吸着可能な吸着治具を容易に構成可能である。
【0016】
また、上記目的を達成するため、請求項9に記載の発明は、ワークをテーブルに固定する吸着治具を少なくとも2個備えた吸着治具セットにおいて、この複数の吸着治具のそれぞれは、本体と、この本体の一端に設けられたキャビティと、このキャビティに設けられた吸引孔と、この吸引孔に設けられると共に前記ワークからの力を受けて開く弁と、前記キャビティの周囲に設けられた吸着面と、この吸着面と平行に前記本体の他端に設けられると共に前記テーブルと接触する底面と、を備え、更に、給気される圧縮エアにより負圧を発生させるエジェクタと、このエジェクタに接続されると共にこの発生した負圧を少なくとも2つに分岐するエアターミナルと、このエアターミナルで分岐された前記負圧をそれぞれの前記吸着治具へ給気する少なくとも2つのエアチューブと、を備える。
これにより、ワークに塞がれているキャビティのみの弁が開いて吸着可能な吸着治具セットを容易に構成可能である。
【0017】
また、請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の前記吸着治具セットおいて、少なくとも2個の前記吸着治具のそれぞれは、前記底面に設けられたキャビティと、このキャビティに設けられると共に前記吸引孔に連通された吸引孔と、この吸引孔に設けられると共に前記テーブルからの力を受けて開く弁と、前記底面に設けられた前記キャビティの周囲に設けられた吸着面と、を更に備えることとしてもよい。
これにより、ワークとテーブルの両方において、塞がれているキャビティのみの弁が開いて吸着可能な吸着治具セットを容易に構成可能である。
【0018】
また、上記目的を達成するため、請求項11に記載の発明は、ワークをテーブルに固定する吸着治具において、本体と、この本体の一端に設けられたキャビティと、このキャビティに設けられた吸引孔と、前記キャビティの周囲に設けられた吸着面と、この吸着面と平行に前記本体の他端に設けられると共に前記テーブルと接触する底面と、を備え、更に、給気される圧縮エアにより負圧を発生させるエジェクタと、前記本体に接続されたエアチューブと、このエアチューブと前記エジェクタとの間に設けられた液溜まりの容器と、を備える。
これにより、小型化、かつ、軽量化されると共に、エジェクタを利用することで、負圧を給気するための専用の真空ポンプを不要とし、圧縮エアを給気すればワークをテーブルに平行に簡単に固定することができて、しかも放電加工機の加工液に浸かった状態でも使用可能な吸着治具を提供可能である。
また、請求項12に記載の発明のとおり、前記吸着面に設けられた円形状の溝と、この溝に嵌め込まれたオーリングとを、更に備えることとしてもよい。これによりシール効果を高めた吸着治具を提供可能である。
【発明の効果】
【0019】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、小物ワークや板状のワークに対する切削加工や研削加工、放電加工の際に、ワークをテーブルに固定する治具として、小型化、かつ、軽量化されると共に、エジェクタを利用することで、負圧を給気するための専用の真空ポンプを不要とし、圧縮エアを給気すればワークをテーブルに平行に簡単に固定することができる吸着治具を提供することができる。
【0020】
さらに、吸着治具の底面にもキャビティを設けることで、吸着治具をテーブルに吸着できるので、テーブルが電磁チャック機能を備えていないテーブルや石定盤であっても、ワークをテーブルに固定できる。従って、吸着治具を必ずしも鉄などの強磁性体で構成する必要がなく、例えばアルミや真鍮、樹脂など比較的加工がし易い材料で構成することも可能である。もちろん、強磁性体でこの吸着治具の本体を構成すれば、磁力と負圧による両方の吸着力で強力にテーブルに固定することが可能である。
【0021】
また、本発明の吸着治具を複数組み合わせて、例えば、3個セットにすれば、ワークのサイズに合わせてテーブル上に配置する位置を適宜自由に調整することができて、様々なサイズのワークでも固定することができる。従って、当然、文献1,2の真空チャックテーブル、真空チャックのような多数の吸引孔は不要であり、また、ワークにより塞がれていない吸引孔もそもそもないので、テープでマスキングする作業は不要である。また、3か所でワークを支持するため、ガタつくことがなく安定してテーブルに固定することができる。また、例えば、細長い板状のワークであれば、前記吸着治具を2個使用することが好ましく、これにより細長い板状のワークを安定して固定できる。
【0022】
また、本発明により比較的小型軽量で、内部構造は複雑でなく、製造コストを低く抑えた吸着治具、及び、吸着治具セットを提供可能である。
また、エジェクタで発生させた負圧を液溜まりの容器に供給して、この容器とエジェクタを備えない吸着治具とをエアチューブで接続することで、放電加工機の加工液槽内で加工液に浸かった状態でもワークを吸着固定するのに使用可能な吸着治具を提供可能である。
【0023】
また、本発明の吸着治具は、切削加工や研削加工、放電加工と同様に、例えば石定盤上で測定作業やケガキ作業、組み立て作業をする際にも使用することができる。特に昨今、広く普及している石材ベース表面をワーク搭載面、および、可動部の案内面とする三次元座標測定機において、測定対象となるワークをこの石材ベース表面にねじでクランピングするよりもはるかに簡単に短時間で固定できる吸着治具としても利用可能である。いずれの作業においても、ワークの固定とリリースが非常に簡単に行えて作業効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係る第一実施形態における吸着治具の斜視図である。
図2】本発明に係る第一実施形態における片面吸着タイプの吸着治具の上面図と断面図と底面図である。
図3】本発明に係る第一実施形態における両面吸着タイプの吸着治具の上面図と断面図と底面図である。
図4】本発明に係る第一実施形態における吸着治具3個セットの概観図である。
図5】本発明に係る第一実施形態における吸着治具3個セットの使用態様の斜視図である。
図6】本発明に係る第二実施形態における負圧を給気するタイプで絞りを備えた片面吸着タイプの吸着治具の上面図と断面図と底面図である。
図7】本発明に係る第二実施形態における負圧を給気するタイプで絞りを備えた両面吸着タイプの吸着治具の上面図と断面図と底面図である。
図8】本発明に係る第二実施形態における負圧を給気するタイプの吸着治具3個セットの概観図である。
図9】本発明に係る第三実施形態における弁を備えた両面吸着タイプの吸着治具の平面図と断面図と底面図である。
図10】本発明に係る第四実施形態における負圧を給気するタイプの弁を備えた両面吸着タイプの吸着治具の平面図と断面図と底面図である。
図11】本発明に係る第五実施形態における吸着治具の放電加工機での使用態様の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る5つの実施形態について、図面を参照しながら説明する。同じ参照番号が付された構成要素は、実質的に同等のものである。
【0026】
<第一実施形態>
図1は、本発明に係る第一実施形態の吸着治具1の斜視図である。この吸着治具1は、略円筒形状の本体2の一端側に所定の深さの円形のキャビティ8を備える。本体2の形状は、作り易さや取扱易さ、載置されるワークの重量を等方的に支持することを考慮して、略円筒形状であることが好ましい。ただし、本体2の形状は特に円筒形状に限らず、三角形、四角形など多角形や楕円形であっても構わない。すなわちワークの形状に即して使用可能な形状であればどれであっても構わない。
また、このキャビティ8の深さは吸着力には関係せず、作り易さを考慮して決めれば良く、例えば1mm程度であっても構わない。
【0027】
また、このキャビティ8の内部には吸引孔7が設けられると共に、本体2の側面で一部Dカットされた部分に取り付けられたエジェクタ3と内部で連通されている。エジェクタ3の給気孔4に圧縮エアを給気すると、排気孔5からエアが排気されてエジェクタ3の内部に負圧が発生する。エジェクタ3は市販のものが利用可能であり、圧縮エアは例えば0.4MPaで流量5L/minで十分な負圧を得ることができる。この発生した負圧によりエジェクタ3に連通されている吸引孔7を経由して、載置されたワークで塞がれたキャビティ8内のエアが吸引排気される。このためキャビティ8の周囲に設けられた吸着面6とワークが大気圧に押されて密着するため吸着治具1がワークに吸着固定される。吸着力は、エジェクタの性能にもよるが、一般的には1平方センチメートルあたり約0.8kgfでキャビティ8の面積に比例して発生する。従って、例えばキャビティ8の直径を25mmにした場合、吸着力はおよそ3.9kgfとなる。
【0028】
図2(A)は、前記第一実施形態において、圧縮エアを給気して片面で吸着するタイプの吸着治具1の上面図であり、図2(B)は図2(A)のI-I断面図であり、図2(C)は吸着治具1の底面図である。この吸着治具1の本体2の一端である上面に備えられたキャビティ8は、所定のキャビティ径9を有する円形状の窪みであるが、キャビティ8の形状は特にこれに限定されず、その他の形状、例えば、矩形状や三角形状であっても構わない。ただ、作り易さの点、吸着力が等方的である点を考慮して円形状が最も有利である。キャビティ8の内部には吸引孔7が開けられていて、この吸引孔7を経由してキャビティ8内のエアが吸引排気される。キャビティ8の周囲にはワークと接触してワークの重量を支える吸着面6が設けられていて、吸着時にはこの吸着面6とワークが密着する。吸着面6がワークと密着することによりエアリークが防がれて吸着力が発生し、維持される。従って、吸着面6の領域はある程度の面積が必要であり、例えば、キャビティ径9を25mmとした場合、本体2の外径は35mm程度にすることが好ましい。また、吸着面6は0.01mm/φ35mm相当の平面度も必要である。ただし、本体2の外径はそれほど大きくないので、必要な平面度を得ることは製造上それほど難しくない。
【0029】
図2(B)に示す通り、エジェクタ3と吸引孔7は本体2の内部で連通されており、エジェクタ3に圧縮エアが給気されることにより発生する負圧により、キャビティ8内のエアは吸引孔7を経由してエジェクタ3から吸引排気される。また、本体2は本体厚み42を有する。この本体厚み42は、本体2の側面に備えられたエジェクタ3よりも厚みが大きくなければならない。なお且つ、作業効率を考慮すれば、ワークを本体2に載置したり取り除いたりするときに、作業者の指もしくはワークを把持するフック等が、ワークとテーブルの間に入るスペースを確保するために十分な厚みになっていることが好ましい。従って、例えば、本体厚み42は18mm程度、さらに機械の安全規格(日本規格協会、機械の安全性に関するEN規格集(第3版))を考慮すると25mm程度、あるいはそれ以上にすることが好ましい。
【0030】
図2(C)に示す通り、本体2の他端に設けられた底面10はテーブルに接触する部分であり、前記一端の吸着面6と高精度に平行になるように構成されている。例えば、研削盤が電磁チャックを備えていて、かつ、この底面10の材質が鉄等の強磁性体で構成されていれば、電磁チャックを利用してこの底面10を研削盤に磁力により固定することが可能である。
【0031】
図3(A)は、前記第一実施形態において、本体2の一端である上面と、他端である底面の両面で吸着するタイプの吸着治具1の上面図であり、図3(B)は図3(A)のI-I断面図であり、図3(C)はこの吸着治具1の底面図である。図3(A)は図2(A)と全く同じ構成であるため説明を省略する。
【0032】
図3(B)に示す通り、エジェクタ3と本体2の上面の吸引孔7、及び、本体2の底面10のキャビティ8に設けられた吸引孔7は、内部で連通されている。エジェクタ3の給気孔4に圧縮エアが給気されると、排気孔5から排気されてエジェクタ3の内部に負圧が発生する。この発生した負圧によりエジェクタ3に連通されている上面及び底面の吸引孔7の両方を経由して上面及び底面のそれぞれのキャビティ8内のエアが吸引排気されると、大気圧により上面のキャビティ8の周囲に設けられた吸着面6とワークが密着すると共に、底面のキャビティ8の周囲に設けられた吸着面6とテーブルが密着する。これにより吸着治具1がワークに固定されると共にテーブルに固定される。このとき、ワークとの間にすき間ができてエアリークが発生しないように、上面の吸着面6の平面はある程度精度よく(平面度が高く)加工されていなければならない。更に同時に、テーブルとの間にすき間ができてエアリークが発生しないように、底面の吸着面6の平面度もある程度精度よく加工されていなければならない。
【0033】
図3(C)に示す通り、本体2の他端に設けられた底面10の吸着面6はテーブルに接触する部分であり、前記一端の吸着面6と高精度に平行になるように構成されている。例えば、研削盤が電磁チャックを備えていて、かつ、この底面10の材質が鉄等の強磁性体で構成されていれば、電磁チャックを利用してこの底面10を研削盤に磁力により固定することができる。更に、底面10の吸着面6をテーブルに吸着固定する機能と併用することで、より強固に本体2をテーブルに固定することができる。
【0034】
図4は、前記第一実施形態の吸着治具1を3個備えた吸着治具セットの概観図である。圧縮エア13は配管14でエアターミナル15に給気されると共に、ここで必要な数だけ分岐されてエアチューブ16により各吸着治具1に圧縮エアが給気される。圧縮エア13の空気圧はおよそ0.4MPa以上が好ましい。また、圧縮エア13の流量はエジェクタ3の性能にもよるが、一つにつきおよそ5L/min以上、合計でおよそ15L/min以上が必要となる。
【0035】
図5は、図4で示した吸着治具1を3個備えた吸着治具セットの使用態様を示す斜視図である。テーブル12は、例えば、研削盤のテーブル、特に着磁機能を有するテーブル、または、石定盤などの平面度が高いテーブルである。吸着固定の対象となるワーク11は板状のワーク、もしくは、吸着治具1が吸着するのに十分な面積の平面を有するワークである。3個の吸着治具1をテーブル12上に適切な間隔で配置して、その上に載置動作17を行ってワーク11を載置する。3点支持でテーブルに対して固定されれば、ワークが吸着固定により歪むこともない。なお、あらかじめワークの吸着治具1があたる3か所の部分を0.01mm/φ35mm相当の平面度に仕上げておけば、吸着の際のエアリークはほとんど発生しない。また、この程度の平面度であればフライス加工でも十分に得られる。
【0036】
図5に示す様に載置動作17により、ワーク11を吸着治具1上に載置することで、各吸着治具1の上面のキャビティ8が塞がれて、これらのキャビティ8内のエアが吸引排気されることで、それぞれの吸着治具1の吸着面6がワーク11に密着して吸着固定される。このように単に載置動作17するだけで、大気圧と各キャビティ8内の負圧との気圧差を利用して一瞬でワーク11は吸着固定される。また、取り外すときは圧縮エア13をストップするだけで、それぞれの吸着治具1のエジェクタ3の排気孔5から大気が入ることで吸着固定が解除されるので、極めて作業効率が高い。また、吸着治具1の本体厚み42によりワーク11とテーブル12の間に指が入るだけのスペースが十分確保されるので、先行技術文献1,2の吸着チャックテーブルに比較してワーク11の載置動作17と取り外しがやり易い。
【0037】
<第二実施形態>
図6(A)は、第二実施形態に係る負圧を給気するタイプで、かつ、絞りを備えた片面吸着タイプの吸着治具1の上面図である。図6(B)は図6(A)のII-II断面図であり、図6(C)はこの吸着治具1の底面図である。この吸着治具1にはエジェクタが備えられていないため、圧縮エアではなく負圧が給気されることが使用するための前提となる。この吸着治具1の本体2の一端である上面に備えられたキャビティ8は、所定のキャビティ径9を有する円形状の窪みであるが、キャビティ8の形状は特にこれに限定されず、その他の形状、例えば、矩形状や三角形状であっても構わない。ただ、作り易さの点、吸着力が等方的である点を考慮して円形状が最も有利である。また、このキャビティ8の深さは吸着力には関係せず、例えば1mm程度の深さであっても構わない。
【0038】
このキャビティ8の内部には吸引孔7が開けられていて、この吸引孔7を経由してキャビティ8内のエアが吸引排気される。このキャビティ8の周囲にはワークと接触する吸着面6が設けられていて、吸着時にはこの吸着面6とワークが密着する。吸着面6がワークと密着することによりエアリークが防がれて吸着力が発生する。従って、吸着面6の領域はある程度の面積が必要であり、例えば、キャビティ径9を25mmとした場合、本体2の外径は35mm程度にすることが好ましい。また、ある程度の平面度(0.01mm/φ35mm相当の平面度)も必要である。ただし、本体2の外径はそれほど大きくないので、必要な平面度を得ることは製造上それほど難しくない。
【0039】
図6(B)に示す通り、エアチューブと接続するためのジョイント40と吸引孔7は、吸着治具1の内部で連通されており、このジョイント40の内部にエアの流量を抑制するための絞り41が備えられている。従って、エアチューブがジョイント40に接続されて負圧が給気されると、ワークが載置されて塞がれたキャビティ8内のエアは、吸引孔7と絞り41を経由して吸引排気される。この絞り41は、ワークでキャビティ8が塞がれていない時に、大量のエアがいたずらに吸引されて切削油やゴミ等を吸い込むことや、負圧を供給している負圧源の負圧レベルが弱まる(大気圧レベルに近づく)ことを防ぐ効果がある。しかも、この絞り41を備えたとしても、ワークでキャビティ8を塞いだ時に発生する吸着力が弱まることはない。吸引排気されるエアの流量はワークがキャビティ8に吸着しているときはほとんど発生しないため、エアの流量を制限する絞り41があっても吸引力にはほとんど影響しない。なお、絞り41を配置する場所は必ずしもジョイント40の内部に限られず、吸引孔7とエアチューブとの間であればどこでも構わず、例えば、吸引孔7の近傍に配置されていても構わない。
【0040】
本体厚み42は、第一実施形態と同様に作業効率を考慮すれば、ワークを本体2に載置したり取り除いたりするときに、作業者の指もしくはワークを把持するフック等が、ワークとテーブルの間に入るスペースを確保するために十分な厚みになっていることが好ましい。従って、例えば、本体厚み42は18mm程度、さらに機械の安全規格(日本規格協会、機械の安全性に関するEN規格集(第3版))を考慮すると25mm程度、あるいはそれ以上にすることが好ましい。
【0041】
図6(C)に示す通り、本体2の他端に設けられた底面10はテーブルに接触する部分であり、前記一端の吸着面6と高精度に平行になるように構成されている。例えば、研削盤が電磁チャックを備えていて、かつ、この底面10の材質が鉄等の強磁性材で構成されていれば、電磁チャックを利用してこの底面10を研削盤に磁力により固定することができる。
【0042】
図7(A)は、前記第二実施形態において、本体2の一端である上面と他端である底面の両面で吸着する両面吸着タイプの吸着治具1の上面図である。図7(B)は図7(A)のII-II断面図であり、図7(C)はこの吸着治具1の底面図である。この吸着治具1にはエジェクタが備えられていないため、圧縮エアではなく負圧が給気されることが前提となる。図7(A)は図6(A)と全く同じ構成であるため説明を省略する。
【0043】
図7(B)に示す通り、エアチューブと接続するためのジョイント40と本体2の一端である上面の吸引孔7、及び、本体2の他端である底面10のキャビティ8に設けられた吸引孔7は、吸着治具1の内部で連通されており、また、このジョイント40の内部にエア流量を抑制するための絞り41が備えられている。従って、エアチューブがジョイント40に接続されて負圧が給気されると、絞り41、及び、本体2の上面及び底面10のそれぞれの吸引孔7を経由してそれぞれのキャビティ8内のエアが吸引排気される。この絞り41は、ワークでキャビティ8が塞がれていない時に、または、テーブルでキャビティ8が塞がれていない時に、大量のエアがいたずらに吸引されて切削油やゴミ等を吸い込むことや、負圧を供給している負圧源の負圧レベルが弱まる(大気圧レベルに近づく)ことを防ぐ効果がある。
【0044】
この絞り41を備えたとしても、ワークでキャビティ8を塞いだ時に、または、テーブルでキャビティ8を塞いだ時に、発生するそれぞれの吸着力が弱まることはない。吸引排気されるエアの流量はワークがキャビティ8に、または、テーブルがキャビティ8に、吸着しているときはほとんど発生しないため、エアの流量を制限する絞り41があっても吸引力にはほとんど影響しない。なお、絞り41を配置する場所は必ずしもジョイント40の内部に限られず、吸引孔7とエアチューブとの間であればどこでも構わず、例えば、吸引孔7の近傍に配置されていても構わない。
【0045】
これにより上面のキャビティ8の周囲に設けられた吸着面6とワークが密着すると共に、底面のキャビティ8の周囲に設けられた吸着面6とテーブルが密着する。これにより吸着治具1がワークに固定されると共に、テーブルに固定される。従って、ワークとの間にすき間ができてエアリークが発生しないように、上面の吸着面6の平面はある程度精度よく加工されていなければならない。更に同時に、テーブルとの間にすき間ができてエアリークが発生しないように、底面の吸着面6の平面もある程度精度よく加工されていなければならない。すなわち、それぞれ0.01mm/φ35mm相当の平面度が必要である。
【0046】
図7(C)に示す通り、本体2の他端の底面10に設けられた吸着面6はテーブルに接触する部分であり、前記一端の吸着面6と高精度に平行になるように構成されている。例えば、研削盤が電磁チャックを備えていて、かつ、この底面10の材質が鉄等の強磁性体で構成されていれば、電磁チャックを利用してこの底面10を研削盤に磁力により固定することができる。更に、底面10の吸着面6をテーブルに吸着固定する機能と併用することで、より強固に本体2をテーブルに固定することができる。
【0047】
図8は、前記第二実施形態の吸着治具1を3個備えた吸着治具セットの概観図である。エジェクタ3に圧縮エア13が給気されると負圧が発生する。この負圧はエアターミナル15に給気されてここで必要な数だけ分岐される。分岐された負圧は、エアターミナル15とそれぞれの吸着治具1のジョイント40に接続されたエアチューブ16を経由してそれぞれの吸着治具1に給気される。
【0048】
また、この第二実施形態の吸着治具1は、直接エジェクタが備えられていないため、放電加工機の加工液中でも使用できるという極めて優れた特徴を有する。もしも加工液中で使用した場合、ワークと吸着面6との間に隙間があると加工液が吸引されてしまうが、ごく少量であれば特に吸着力が弱まることはなく、また、エジェクタとエアチューブ16の間のどかかに液溜まりの容器を更に備えておけば、エジェクタ3への加工液の流入を防ぐことができるので、やはり吸着力が弱まることはない。しかも、大気圧に加えて水圧も加わるので、空気中で使用するよりもさらに強い吸着力を得ることができる。
【0049】
エジェクタ3に給気される圧縮エア13の空気圧はおよそ0.4MPa以上が好ましい。また、圧縮エア13の流量はエジェクタ3の性能にもよるが、およそ5L/min以上が必要となる。エジェクタは一つだけで済むので、吸着治具セットの製造コストを抑制することができる。吸着しているときは、各キャビティから吸引排気されるエア流量はほとんどないので、各吸着治具における吸着力が各吸着治具にエジェクタを備えた場合よりも弱くなることはほとんどない。
【0050】
<第三実施形態>
図9(A)は、第三実施形態に係る圧縮エアを給気するタイプで、かつ、ポペット弁を備えた両面で吸着するタイプの吸着治具21の上面図である。図9(B)は図9(A)のIII-III断面図であり、図9(C)はこの吸着治具21の底面図である。
【0051】
この吸着治具21の本体22の一端である上面に備えられたキャビティ28は、所定のキャビティ径29を有する円形状の窪みであるが、キャビティ28の形状は特にこれに限定されず、その他の形状、例えば、矩形状や三角形状であっても構わない。ただ、作り易さの点、吸着力が等方的である点を考慮して円形状が最も有利である。キャビティ28の内部には吸引孔27が開けられていて、この吸引孔27を経由してキャビティ28内のエアが吸引排気される。この吸引孔27からポペット弁23のシャフト24が突出している。
【0052】
キャビティ28の周囲にはワークと接触する吸着面26が設けられていて、吸着時にはこの吸着面26とワークが密着する。吸着面26がワークと密着することによりエアリークが防がれて吸着力が発生する。従って、吸着面26の領域は、ある程度の面積が必要であり、例えば、キャビティ径29を25mmとした場合、本体22の外径は35mm程度にすることが好ましい。また、ある程度の平面度(0.01mm/φ35mm相当)も必要である。ただし、本体21の外径はそれほど大きくないので、必要な平面度を得ることは製造上それほど難しくはない。
【0053】
図9(B)に示す通り、エジェクタ3と上面及び底面の吸引孔27は吸着治具21の内部で連通されており、エジェクタ3に圧縮エアが給気されることにより発生する負圧により、本体22の上面のキャビティ28、及び、本体22の底面のキャビティ28内のエアはそれぞれの吸引孔27を経由してエジェクタ3から吸引排気される。
【0054】
また、上面、及び、底面のそれぞれの吸引孔27には、円錐形状のコーン25とシャフト24から構成されるポペット弁23がそれぞれ備えられている。この2つのポペット弁のそれぞれのコーン25は、本体22内部に圧縮された状態で配置されたスプリング31からそれぞれ反対向きの弾性力を受けていて、それぞれ弁座30に押し付けられてエアの吸引をストップしている。ここで、本体22の上面にワークが載置されると、ワークにより上面の吸引孔27から突出しているシャフト24が押し込まれて、コーン25が弁座30から離れてすき間ができてエアの吸引が可能となる。逆に、本体22の上面にワークが載置されていないときは、上面のキャビティ28のエアは吸引されないので、誤って切削油やゴミ等を吸い込むことがない。
【0055】
また、吸着治具21がテーブルに載置されると、テーブルにより底面の吸引孔27から突出しているシャフト24が押し込まれて、コーン25が弁座30から離れてすき間ができてエアの吸引が可能となる。逆に、吸着治具21がテーブルに載置されていないときは、底面のキャビティ28のエアは吸引されないので、誤って切削油やゴミ等を吸い込むことがない。
【0056】
本体厚み42については、第一実施形態と同様であり、得られる効果も同じであるのでここでの説明は省略する。
【0057】
図9(C)に示す通り、本体22の他端の底面に設けられた吸着面26はテーブルに接触する部分であり、前記一端の吸着面26と高精度に平行になるように構成されている。例えば、研削盤が電磁チャックを備えていて、かつ、この底面の材質が鉄等の強磁性体で構成されていれば、電磁チャックを利用してこの底面を研削盤に磁力により固定することができる。更に、底面の吸着面26をテーブルに吸着固定する機能と併用することで、より強固に本体22をテーブルに固定することができる。
【0058】
図4図5と同様に、図9に示した前記第三実施形態の吸着治具21を3個備えた吸着治具セットにして使用することも可能である。その場合、ポペット弁23を備えているため、まず先に吸着治具21をテーブルの所定の箇所に押し付けることで、シャフト24が押し込まれてポペット弁23が開き、吸着治具21をテーブル上に任意の位置に吸着させることができる。また、吸着治具21のテーブル上の位置を修正する場合は、その各吸着治具21のエジェクタ3の排気孔5を指等で塞ぐことで負圧は発生しなくなるので、この状態で吸着治具21をテーブルから離せばポペット弁23により吸引孔27は閉じられる。続いて、この吸着治具21のテーブル上における設置位置を修正して、この吸着治具21をテーブルに再度押し付けて吸着させることでテーブル上の位置を自由に調整できる。
【0059】
<第四実施形態>
図10(A)は、第四実施形態に係る負圧を給気するタイプで、かつ、ポペット弁を備えた両面で吸着するタイプの吸着治具21の上面図である。図10(B)は図10(A)のIV-IV断面図であり、図10(C)はこの吸着治具21の底面図である。
【0060】
キャビティ28、ポペット弁23、及び、吸着面26については、構成と効果は第三実施形態と同じであるので、ここでの説明は省略する。
【0061】
図10(B)に示す通り、エアチューブと接続するためのジョイント40とを備え、このエアチューブで給気される負圧により、本体22の一端である上面のキャビティ28、及び、本体22の他端である底面のキャビティ28内のエアは、それぞれの吸引孔27を経由してエアチューブから吸引排気される。
【0062】
なお、本体厚み42については、第一実施形態と同様であり、得られる効果も同じであるので、ここでの説明は省略する。
【0063】
図10(C)に示す通り、本体22の底面に設けられた吸着面26はテーブルに接触する部分であり、上面の吸着面26と高精度に平行になるように構成されている。例えば、研削盤が電磁チャックを備えていて、かつ、この底面の材質が鉄等の強磁性体で構成されていれば、電磁チャックを利用してこの底面を研削盤に磁力により固定することができる。更に、底面の吸着面26をテーブルに吸着固定する機能と併用することで、より強固に本体22をテーブルに固定することができる。
【0064】
図8と同様に、前記第四実施形態の吸着治具21を3個備えた吸着治具セットにして使用することも可能である。すなわち、一つのエジェクタに圧縮エアが給気されて発生された負圧をエアターミナルで必要な数だけ分岐して、エアチューブを経由してそれぞれの吸着治具21のジョイント40に給気される。各吸着治具21はポペット弁23を備えているため、まず先に吸着治具21をテーブルの所定の箇所に押し付けることで、シャフト24が押し込まれてポペット弁23が開き、吸着治具21をテーブル上の任意の位置に吸着させておくことができる。また、吸着治具21のテーブル上の位置を修正する場合は、例えば、吸着治具セットに負圧を給気しているのを一旦ストップさせて、この状態で吸着治具21をテーブルから離せばポペット弁23により吸引孔27は閉じられる。続いて、負圧の給気を再開して吸着治具21のテーブル上における設置位置を決めて、吸着治具21をテーブルに再度押し付けて吸着させることができる。
【0065】
また、この第四実施形態の吸着治具21は、直接エジェクタが備えられていないため、放電加工機の加工液中でも使用できるという極めて優れた特徴を有する。もしも加工液中で使用した場合、ワークと吸着面26との間に隙間があると加工液が吸引されてしまうが、ごく少量であれば特に吸着力が弱まることはなく、また、エジェクタとエアチューブの間のどこかに液溜まりの容器を更に備えておけば、エジェクタへの加工液の流入を防ぐことができるので、やはり吸着力が弱まることはない。しかも、大気圧に加えて水圧も加わるので、空気中で使用するよりもさらに強い吸着力を得ることができる。
【0066】
<第五実施形態>
図11は、第五実施形態に係る放電加工機における使用態様の概念図である。
図11の放電加工機50は、いわゆる形彫り放電加工機であり、放電ギャップ制御部51がクイル52を鉛直方向に往復駆動制御して、その先端に支持された電極53を加工液54が満たされた加工液槽55内のテーブル12において、吸着治具1で固定されたワーク11に対して所定ギャップを維持するように駆動制御されながら放電加工が行われる。なお、この吸着治具1は第二実施形態あるいは第四実施形態で説明した片面吸着タイプもしくは両面吸着タイプのものと同じであるので、その内部構造の説明については省略する。
【0067】
この吸着治具1のジョイント40、及び、液溜まりの容器60のジョイント61のそれぞれにエアチューブ16が接続されている。エジェクタ3に圧縮エア13が給気されることにより発生された負圧により、容器60内のエアは吸引排気される。さらに容器60とエアチューブ61で接続されている吸着治具1のキャビティ8、28のエアも吸引排気されることで、吸着治具1はワークに吸着する。しかも、大気圧に加えて水圧も加わるので、空気中で使用するよりもさらに強い吸着力を得ることができる。
【0068】
この時、もしもワーク11と吸着面6,26との間に隙間があり、ここから誤って加工液54が吸引されると、その加工液54はエアチューブ16を経由して容器60内に溜まることになる。従って、この誤って吸引された加工液54が容器60の容量よりも少なければ加工液54がエジェクタ3に流入することを防げるので、発生する負圧が劣化することはなく、吸着力が弱まることはない。なお、吸着治具1を複数使用する場合は、複数に分岐するエアターミナル15を容器60に設けてもよいし、あるいは、容器60に備えられるジョイント61を予め複数設けてもよい。いずれにしろエアチューブ16を接続しないジョイント61、あるいは、エアターミナル15の空いている口をキャップなどで塞いでおけばよい。
【0069】
なお、容器60は、内部のエアが吸引排気されるので、大気圧に押しつぶされない程度の強度が必要である。また、吸着面6,26の周囲にゴムやシリコンゴムなどのスカートをつけることで、加工液54を誤って吸引しないようにすることができる。特に、定盤に、きさげ加工が施されている場合は、定盤と吸着面との間に隙間ができやすいため、そこから加工液を吸い込みやすい。これに対して、吸着面6、26に円形状の溝を設けて、この溝にゴムやシリコンゴムなどのオーリングを嵌め込んで、シール効果を高めることができる。上記のようなリーク防止の対策を施しておけば、容器60はごく小型のもの、例えば200ml程度のものにしてもよく、また、コンプレッサーによく利用されているエアドライアを代用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1、21…吸着治具
2、22…本体
3…エジェクタ
4…給気孔
5…排気孔
6、26…吸着面
7、27…吸引孔
8、28…キャビティ
9、29…キャビティ径
10…底面
11…ワーク
12…テーブル
13…圧縮エア
14…配管
15…エアターミナル
16…エアチューブ
17…載置動作
23…ポペット弁
24…シャフト
25…コーン
30…弁座
31…スプリング
40、61…ジョイント
41…絞り
42…本体厚み
50…放電加工機
51…放電ギャップ制御部
52…クイル
53…電極
54…加工液
55…加工液浴槽
60…容器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11