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特許7295376金属-繊維強化樹脂材料複合体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】金属-繊維強化樹脂材料複合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 43/58 20060101AFI20230614BHJP
   B29C 43/18 20060101ALI20230614BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20230614BHJP
   B29C 70/40 20060101ALI20230614BHJP
   B29C 70/68 20060101ALI20230614BHJP
   B29C 43/34 20060101ALI20230614BHJP
   B32B 5/10 20060101ALI20230614BHJP
   B32B 15/14 20060101ALI20230614BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
B29C43/58
B29C43/18
B29C70/16
B29C70/40
B29C70/68
B29C43/34
B32B5/10
B32B15/14
B32B15/08 N
B32B15/08 U
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2018246080
(22)【出願日】2018-12-27
(65)【公開番号】P2019119213
(43)【公開日】2019-07-22
【審査請求日】2021-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2017254695
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(72)【発明者】
【氏名】茨木 雅晴
(72)【発明者】
【氏名】禰宜 教之
(72)【発明者】
【氏名】臼井 雅史
(72)【発明者】
【氏名】中井 雅子
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/152856(WO,A1)
【文献】特開2013-040299(JP,A)
【文献】特開平08-277336(JP,A)
【文献】特開2004-249641(JP,A)
【文献】特開2012-092158(JP,A)
【文献】国際公開第2017/090676(WO,A1)
【文献】特開2011-240620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 43/58
B29C 43/18
B29C 70/16
B29C 70/40
B29C 70/68
B29C 43/34
B32B 5/10
B32B 15/14
B32B 15/08
B29K 101/12
B29K 105/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材と、前記金属部材の少なくとも1つの面に積層された繊維強化樹脂材料と、を備えた金属-繊維強化樹脂材料複合体の製造方法であって、
前記金属部材の材質は、鉄鋼材料、鉄系合金、チタン、アルミニウム若しくはマグネシウム、又は、チタン、アルミニウム若しくはマグネシウムの合金であり、
強化繊維材料からなる強化繊維基材と、
前記強化繊維基材に含浸されており、熱可塑性樹脂を含有する第1の硬化状態のマトリックス樹脂と、
前記金属部材と前記強化繊維材料との間に介在し、前記マトリックス樹脂と同種の樹脂からなり、前記強化繊維基材に含浸された前記マトリックス樹脂が前記金属部材の表面に浸み出すことにより形成される第1の硬化状態の樹脂層と、
を有する前記繊維強化樹脂材料を作製し、
加熱によって、前記マトリックス樹脂及び前記樹脂層を構成する樹脂を前記第1の硬化状態から第2の硬化状態へと変化させる前後において、前記マトリックス樹脂及び前記樹脂層を構成する樹脂のガラス転移温度を変化させ、
前記加熱後の前記金属部材と前記繊維強化樹脂材料とのせん断強度を0.8MPa以上とし、
前記金属部材の厚みの合計T1及び前記金属部材の弾性係数E1と、前記繊維強化樹脂材料の厚みの合計T2及び前記繊維強化樹脂材料の弾性係数E2とが、下記式(1)の関係を満足するようにする、
金属-繊維強化樹脂材料複合体の製造方法。
(T1×E1)/(T2×E2)>0.3 ・・・式(1)
【請求項2】
前記第1の硬化状態のマトリックス樹脂が、前記熱可塑性樹脂として、フェノキシ樹脂(A)、ポリオレフィン及びその酸変性物、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、塩化ビニル、アクリル、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリフェニレンサルファイドからなる群から選択されるいずれか1種以上を含む、請求項1記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体の製造方法。
【請求項3】
前記第1の硬化状態のマトリックス樹脂が、樹脂成分100質量部に対してフェノキシ樹脂(A)を50質量部以上含む、請求項2に記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体の製造方法。
【請求項4】
前記第1の硬化状態のマトリックス樹脂が、前記フェノキシ樹脂(A)100質量部に対して、5質量部以上85質量部以下の範囲内の架橋硬化性樹脂(B)をさらに含有する架橋性樹脂組成物であり、
前記第1の硬化状態が、前記マトリックス樹脂及び前記樹脂層を構成する樹脂の固化物であり、
前記第2の硬化状態が、前記マトリックス樹脂及び前記樹脂層を構成する樹脂の架橋硬化物である、請求項3に記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体の製造方法。
【請求項5】
前記第1の硬化状態の樹脂層が、前記強化繊維材料から脱離した繊維の含有率が5質量%以下である層であり、当該層の厚みが20μm以下である、請求項1~4の何れか1項に記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体の製造方法。
【請求項6】
前記金属部材の厚みの合計T1及び前記金属部材の弾性係数E1と、前記繊維強化樹脂材料の厚みの合計T2及び前記繊維強化樹脂材料の弾性係数E2とが、下記式(2)の関係を満足するようにする、請求項1~5の何れか1項に記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体の製造方法。
1.7≦(T1×E1)/(T2×E2)≦6.0 ・・・式(2)
【請求項7】
金属部材と、前記金属部材の少なくとも一方の面に積層されて前記金属部材と複合化された繊維強化樹脂材料と、を備える金属-繊維強化樹脂材料複合体であって、
前記金属部材の材質は、鉄鋼材料、鉄系合金、チタン、アルミニウム若しくはマグネシウム、又は、チタン、アルミニウム若しくはマグネシウムの合金であり、
前記繊維強化樹脂材料は、
熱可塑性樹脂を含有するマトリックス樹脂と、
前記マトリックス樹脂中に含有された強化繊維材料と、
前記強化繊維材料と前記金属部材との間に介在し、前記マトリックス樹脂と同種の樹脂からなる樹脂層と、
を有し、
前記金属部材と前記繊維強化樹脂材料とのせん断強度が0.8MPa以上であり、
前記金属部材の厚みの合計T1及び前記金属部材の弾性係数E1と、前記繊維強化樹脂材料の厚みの合計T2及び前記繊維強化樹脂材料の弾性係数E2とが、下記式(1)の関係を満足し、
前記マトリックス樹脂が、前記熱可塑性樹脂として、フェノキシ樹脂(A)、ポリオレフィン及びその酸変性物、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、塩化ビニル、アクリル、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリフェニレンサルファイドからなる群から選択されるいずれか1種以上を含み、且つ、樹脂成分100質量部に対してフェノキシ樹脂(A)を50質量部以上含む、金属-繊維強化樹脂材料複合体。
(T1×E1)/(T2×E2)>0.3 ・・・式(1)
【請求項8】
前記金属-繊維強化樹脂材料複合体の最大荷重が超加成則を示す、請求項7記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体。
【請求項9】
前記樹脂層を構成する樹脂が、架橋硬化物からなり、当該架橋硬化物のガラス転移温度が160℃以上である、請求項7又は8に記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体。
【請求項10】
前記樹脂層が、前記強化繊維材料から脱離した繊維の含有率が5質量%以下である層であり、当該層の厚みが20μm以下である、請求項7~9の何れか1項に記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体。
【請求項11】
前記金属部材の厚みの合計T1及び前記金属部材の弾性係数E1と、前記繊維強化樹脂材料の厚みの合計T2及び前記繊維強化樹脂材料の弾性係数E2とが、下記式(2)の関係を満足する、請求項7~10の何れか1項に記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体。
1.7≦(T1×E1)/(T2×E2)≦6.0 ・・・式(2)
【請求項12】
前記鉄鋼材料は、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、またはアルミニウムめっき鋼板である、請求項11記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体。
【請求項13】
金属部材と、前記金属部材の少なくとも一方の面に積層されて前記金属部材と複合化された繊維強化樹脂材料と、を備える金属-繊維強化樹脂材料複合体であって、
前記金属部材の材質は、鉄鋼材料、鉄系合金、チタン、アルミニウム若しくはマグネシウム、又は、チタン、アルミニウム若しくはマグネシウムの合金であり、
前記繊維強化樹脂材料は、
熱可塑性樹脂を含有するマトリックス樹脂と、
前記マトリックス樹脂中に含有された強化繊維材料と、
前記強化繊維材料と前記金属部材との間に介在し、前記マトリックス樹脂と同種の樹脂からなる樹脂層と、
を有し、
前記金属部材の厚みの合計T1及び前記金属部材の弾性係数E1と、前記繊維強化樹脂材料の厚みの合計T2及び前記繊維強化樹脂材料の弾性係数E2とが、下記式(1)の関係を満足し、
前記マトリックス樹脂が、樹脂成分100質量部に対して50質量部以上のフェノキシ樹脂(A)と、前記フェノキシ樹脂(A)100質量部に対して5質量部以上85質量部以下の範囲内の架橋硬化性樹脂(B)と、を含有する架橋性樹脂組成物の架橋硬化物である、金属-繊維強化樹脂材料複合体。
(T1×E1)/(T2×E2)>0.3 ・・・式(1)
【請求項14】
前記金属-繊維強化樹脂材料複合体の最大荷重が超加成則を示す、請求項13記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体。
【請求項15】
前記金属部材と前記繊維強化樹脂材料とのせん断強度が0.8MPa以上である、請求項13または14に記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体。
【請求項16】
加熱によって、前記マトリックス樹脂及び前記樹脂層を構成する樹脂が、第1の硬化状態である固化物から第2の硬化状態である架橋硬化物へと変化する前後において、ガラス転移温度が変化し、前記加熱後の前記金属部材と繊維強化樹脂材料とのせん断強度が0.8MPa以上となる、請求項15に記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体。
【請求項17】
前記樹脂層が、前記強化繊維材料から脱離した繊維の含有率が5質量%以下である層であり、当該層の厚みが20μm以下である、請求項13~16の何れか1項に記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体。
【請求項18】
前記金属部材の厚みの合計T1及び前記金属部材の弾性係数E1と、前記繊維強化樹脂材料の厚みの合計T2及び前記繊維強化樹脂材料の弾性係数E2とが、下記式(2)の関係を満足する、請求項13~17の何れか1項に記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体。
1.7≦(T1×E1)/(T2×E2)≦6.0 ・・・式(2)
【請求項19】
前記鉄鋼材料は、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、またはアルミニウムめっき鋼板である、請求項13~18の何れか1項に記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部材と繊維強化樹脂材料とを積層して一体化された金属-繊維強化樹脂材料複合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維(例えば、ガラス繊維、炭素繊維など)をマトリックス樹脂に含有させて複合化した繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)は、軽量で引張強度や加工性等に優れる。そのため、民生分野から産業用途まで広く利用されている。自動車産業においても、燃費、その他の性能の向上につながる車体軽量化のニーズを満たすため、FRPの軽量性、引張強度、加工性等に着目し、自動車部材へのFRPの適用が検討されている。
【0003】
FRP自体を自動車部材として用いる場合、様々な問題点がある。第1に、塗装や曲げ加工などの際、鋼材等の金属部材用に設けられた塗装ラインや曲げ加工の金型などの既存の設備を、FRPに対してそのまま使用することはできない。第2に、FRPは圧縮強度が低いため、高い圧縮強度が要求される自動車部材にそのまま用いることは難しい。第3に、FRPのマトリックス樹脂は、一般に、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂であるため脆性を有していることから、変形すると脆性破壊するおそれがある。第4に、FRP(特に、強化繊維に炭素繊維を用いた炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics))は価格が高いため、自動車部材のコストアップの要因となる。第5に、上述したように、マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂を用いることから硬化時間が長くかかり、タクトタイムが長いため、短いタクトタイムが要求される自動車部材の製造には適さない。第6に、熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂として用いるFRPは、塑性変形しないことから、一度硬化させてしまうと曲げ加工ができない。
【0004】
これらの問題点を解決するため、最近では、金属部材とFRPとを積層して一体化(複合化)させた金属部材-FRP複合材料が検討されている。上記第1の問題点については、金属部材―FRP複合材料では、鋼材等の金属部材を複合材料の表面に位置させることができるため、鋼材等の金属材料用に設けられた塗装ラインや金型等をそのまま用いることができる。上記第2の問題点については、圧縮強度の高い金属部材とFRPとを複合化させることで、複合材料の圧縮強度も高めることができる。上記第3の問題点については、延性を有する鋼材等の金属部材と複合化することで、脆性が低下し、複合材料を変形できるようになる。上記第4の問題点については、低価格の金属部材とFRPを複合化することで、FRPの使用量を減らすことができるため、自動車部材のコストを低下できる。
【0005】
金属部材とFRPとを複合化するためには、金属部材とFRPとを接合又は接着することが必要であり、接合方法としては、一般に、エポキシ樹脂系の熱硬化性接着剤を使用する方法が知られている。
【0006】
また、上記FRPを自動車部材に使用する際の問題点を解決するため、近年、FRPのマトリックス樹脂として、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂に代えて熱可塑性樹脂を用いることが検討されている。上記第3の問題点については、マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を用いることから、FRPを塑性変形させることが可能になり、脆性を低下できる。上記第5の問題点については、マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を用いることにより、固化及び軟化が用意となるため、タクトタイムを短くできる。上記第6の問題点については、上述のように、FRPを塑性変形させることが可能になることから、曲げ加工も容易となる。
【0007】
以上のように、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂として用いたFRPを金属部材と複合化することで、上述したFRPを自動車部材として用いる場合の問題点を解決できる。
【0008】
ここで、FRP等の繊維強化樹脂材料と金属部材との接合又は接着手段に関しては、主に、金属部材と接合又は接着手段の接合力を強固なものとする観点からの技術開発が盛んに行われている。
【0009】
例えば、特許文献1及び特許文献2では、金属部材の接着面に、表面粗化処理を行って硬質で高結晶性の熱可塑性樹脂を射出成形したり、金属部材にエポキシ樹脂の接着層を設けたりすることによって金属部材とCFRPとの接着強度を向上させる技術が提案されている。
【0010】
特許文献3では、炭素繊維基材の金属部材との貼合面にエポキシ系等の接着樹脂を含浸させ、他面に熱可塑性樹脂を含浸させてプリプレグとした強化繊維基材と金属との複合体が提案されている。
【0011】
特許文献4では、ポリウレタン樹脂マトリックスを使用したCFRP成形材料を使用した鋼板とのサンドイッチ構造体の製造方法が提案されている。本文献の材料は、熱可塑性ポリウレタン樹脂の良成形性を利用するとともに、アフターキュアでポリウレタン樹脂に架橋反応を起こすことによって熱硬化性樹脂とすることにより高強度化を図っている。
【0012】
特許文献5には、フェノキシ樹脂又はフェノキシ樹脂に結晶性エポキシ樹脂と架橋剤としての酸無水物を配合した樹脂組成物の粉体を、粉体塗装法により強化繊維基材に塗工してプリプレグを作成し、これを熱プレスにて成形硬化してCFRPとすることが提案されている。
【0013】
特許文献6には、金属及び繊維強化された熱可塑性材料などからなる平板状の担体材料と、熱可塑性材料からなる支持材料とによって構成される複合材料を加熱し、支持材料にリブ構造を形成するとともに、担体材料を三次元の部品に成形する車体用構造部品の製造方法が提案されている。
【0014】
特許文献7では、積層状態で加熱及び加圧されて使用される繊維強化樹脂中間材であって、強化繊維基材が外面に開口した空隙を有し、粉体の形態の樹脂が半含浸状態にあるものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】国際公開第2009/116484号
【文献】特開2011-240620号公報
【文献】特開2016-3257号公報
【文献】特開2015-212085号公報
【文献】国際公開第2016/152856号
【文献】特表2015-536850号公報
【文献】特許第5999721号公報
【非特許文献】
【0016】
【文献】田中丈之、色材協会誌、63巻、10号、622-632ページ、1990年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかし、上記特許文献1~7で提案されている技術によっても、FRP等の繊維強化樹脂材料と金属部材とのせん断強度の面では十分とはいえなかった。
【0018】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、金属部材と繊維強化樹脂材料とをより強固に接合させることで金属部材と繊維強化材料とのせん断強度を向上させるとともに、強度の向上を図りつつ、軽量且つ加工性に優れる金属-繊維強化樹脂材料複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、特定の熱可塑性樹脂を含有するマトリックス樹脂と、当該マトリックス樹脂中に含まれる強化繊維材料とにより繊維強化樹脂材料を構成し、且つ、強化繊維材料と金属部材との間に、マトリックス樹脂と同種の樹脂からなる樹脂層を介在させることによって、金属部材と繊維強化樹脂材料とのせん断強度を向上できることを見出し、本発明を完成した。
【0020】
すなわち、本発明のある観点によれば、金属部材と、前記金属部材の少なくとも1つの面に積層された繊維強化樹脂材料と、を備えた金属-繊維強化樹脂材料複合体の製造方法であって、強化繊維材料からなる強化繊維基材と、前記強化繊維基材に含浸されており、熱可塑性樹脂を含有する第1の硬化状態のマトリックス樹脂と、前記金属部材と前記強化繊維材料との間に介在し、前記マトリックス樹脂と同種の樹脂からなり、前記強化繊維基材に含浸された前記マトリックス樹脂が前記金属部材の表面に浸み出すことにより形成される第1の硬化状態の樹脂層と、を有する前記繊維強化樹脂材料を作製し、加熱によって、前記マトリックス樹脂及び前記樹脂層を構成する樹脂を前記第1の硬化状態から第2の硬化状態へと変化させる前後において、前記マトリックス樹脂及び前記樹脂層を構成する樹脂のガラス転移温度を変化させ、前記加熱後の前記金属部材と前記繊維強化樹脂材料とのせん断強度を0.8MPa以上とする、金属-繊維強化樹脂材料複合体の製造方法が提供される。
【0021】
上記のように、強化繊維基材に含浸されたマトリックス樹脂を金属部材の表面に浸み出させることで、マトリックス樹脂と同種の樹脂からなる樹脂層を金属部材と強化繊維材料との間に形成することができる。さらに、加熱により、マトリックス樹脂及び樹脂層を構成する樹脂を第1の硬化状態から第2の硬化状態へと変化させる前後において、マトリックス樹脂及び樹脂層を構成する樹脂のガラス転移温度を変化させることで、加熱後の金属部材と繊維強化樹脂材料とをより強固に接合できる。そのため、加熱後の金属部材と繊維強化樹脂材料とのせん断強度を0.8MPa以上とすることができる。ここで、せん断強度は後述する「せん断試験」によって測定されたものである。したがって、0.8MPaは40N/5mmに相当する。
【0022】
ここで、前記第1の硬化状態のマトリックス樹脂が、前記熱可塑性樹脂として、フェノキシ樹脂(A)、ポリオレフィン及びその酸変性物、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、塩化ビニル、アクリル、さらにはポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイドといったスーパーエンジニアリングプラスチック等からなる群から選択されるいずれか1種以上を含んでいてもよい。
【0023】
前記金属-繊維強化樹脂材料複合体の製造方法において、前記第1の硬化状態のマトリックス樹脂が、樹脂成分100質量部に対してフェノキシ樹脂(A)を50質量部以上含んでいてもよい。
【0024】
前記金属-繊維強化樹脂材料複合体の製造方法において、前記第1の硬化状態のマトリックス樹脂が、前記フェノキシ樹脂(A)100質量部に対して、5質量部以上85質量部以下の範囲内の架橋硬化性樹脂(B)をさらに含有する架橋性樹脂組成物であり、前記第1の硬化状態が、前記マトリックス樹脂及び前記樹脂層を構成する樹脂の固化物であり、前記第2の硬化状態が、前記マトリックス樹脂及び前記樹脂層を構成する樹脂の架橋硬化物であってもよい。
【0025】
前記金属-繊維強化樹脂材料複合体の製造方法において、前記第1の硬化状態の樹脂層が、前記強化繊維材料から脱離した繊維の含有率が5質量%以下である層であり、当該層の厚みが20μm以下であってもよい。
【0026】
本発明の別の観点によれば、金属部材と、前記金属部材の少なくとも一方の面に積層されて前記金属部材と複合化された繊維強化樹脂材料と、を備える金属-繊維強化樹脂材料複合体であって、前記繊維強化樹脂材料は、熱可塑性樹脂を含有するマトリックス樹脂と、前記マトリックス樹脂中に含有された強化繊維材料と、前記強化繊維材料と前記金属部材との間に介在し、前記マトリックス樹脂と同種の樹脂からなる樹脂層と、を有し、前記金属部材と前記繊維強化樹脂材料とのせん断強度が0.8MPa以上である、金属-繊維強化樹脂材料複合体が提供される。
【0027】
上記のように、熱可塑性樹脂を含有するマトリックス樹脂と、当該マトリックス樹脂中に含まれる強化繊維材料とにより繊維強化樹脂材料を構成し、且つ、強化繊維材料と金属部材との間に、マトリックス樹脂と同種の樹脂からなる樹脂層を介在させることで、金属部材と繊維強化樹脂材料とをより強固に接合できる。そのため、金属部材と繊維強化樹脂材料とのせん断強度を0.8MPa以上とすることができる。
【0028】
ここで、前記金属-繊維強化樹脂材料複合体の最大荷重が加成則(law of mixture)を超える超加成則を示してもよい。
【0029】
また、前記第1の硬化状態のマトリックス樹脂が、前記熱可塑性樹脂として、フェノキシ樹脂(A)、ポリオレフィン及びその酸変性物、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、塩化ビニル、アクリル、さらにはポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイドといったスーパーエンジニアリングプラスチック等からなる群から選択されるいずれか1種以上を含んでいてもよい。
【0030】
前記金属-繊維強化樹脂材料複合体において、前記マトリックス樹脂が、樹脂成分100質量部に対してフェノキシ樹脂(A)を50質量部以上含むことが好ましい。
【0031】
前記金属-繊維強化樹脂材料複合体において、前記樹脂層を構成する樹脂が、架橋硬化物からなり、当該架橋硬化物のガラス転移温度が160℃以上であることが好ましい。
【0032】
前記金属-繊維強化樹脂材料複合体において、前記樹脂層が、前記強化繊維材料から脱離した繊維の含有率が5質量%以下である層であり、当該層の厚みが20μm以下であることが好ましい。
【0033】
前記金属-繊維強化樹脂材料複合体において、前記金属部材の厚みの合計T1及び前記金属部材の弾性係数E1と、前記繊維強化樹脂材料の厚みの合計T2及び前記繊維強化樹脂材料の弾性係数E2とが、下記式(1)の関係を満足するようにしてもよい。
T1×E1>0.3×T2×E2 ・・・式(1)
(T1×E1)/(T2×E2)>0.3 ・・・式(1)
【0034】
前記金属-繊維強化樹脂材料複合体において、前記金属部材の材質が、鉄鋼材料、鉄系合金、チタン又はアルミニウムであってもよい。
【0035】
前記鉄鋼材料は、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、またはアルミニウムめっき鋼板であってもよい。
【0036】
また、本発明の別の観点によれば、金属部材と、前記金属部材の少なくとも一方の面に積層されて前記金属部材と複合化された繊維強化樹脂材料と、を備える金属-繊維強化樹脂材料複合体であって、前記繊維強化樹脂材料は、熱可塑性樹脂を含有するマトリックス樹脂と、前記マトリックス樹脂中に含有された強化繊維材料と、前記強化繊維材料と前記金属部材との間に介在し、前記マトリックス樹脂と同種の樹脂からなる樹脂層と、を有し、前記マトリックス樹脂が、樹脂成分100質量部に対して50質量部以上のフェノキシ樹脂(A)と、前記フェノキシ樹脂(A)100質量部に対して5質量部以上85質量部以下の範囲内の架橋硬化性樹脂(B)と、を含有する架橋性樹脂組成物の架橋硬化物である、金属-繊維強化樹脂材料複合体が提供される。
【0037】
上記のように、熱可塑性樹脂を含有するマトリックス樹脂と、当該マトリックス樹脂中に含まれる強化繊維材料とにより繊維強化樹脂材料を構成し、且つ、強化繊維材料と金属部材との間に、マトリックス樹脂と同種の樹脂からなる樹脂層を介在させ、さらに、マトリックス樹脂として、フェノキシ樹脂(A)と架橋硬化性樹脂(B)とを所定割合で含有させることで、金属部材と繊維強化樹脂材料とをより強固に接合できる。そのため、金属部材と繊維強化樹脂材料とのせん断強度を大きく向上できる。
【0038】
ここで、前記金属-繊維強化樹脂材料複合体の最大荷重が超加成則を示してもよい。
【0039】
前記金属-繊維強化樹脂材料複合体において、前記金属部材と前記繊維強化樹脂材料とのせん断強度が0.8MPa以上であることが好ましい。
【0040】
前記金属-繊維強化樹脂材料複合体において、加熱によって、前記マトリックス樹脂及び前記樹脂層を構成する樹脂が、第1の硬化状態である固化物から第2の硬化状態である架橋硬化物へと変化する前後において、ガラス転移温度が変化し、前記加熱後の前記金属部材と繊維強化樹脂材料とのせん断強度が0.8MPa以上となるようにしてもよい。
【0041】
前記金属-繊維強化樹脂材料複合体において、前記樹脂層が、前記強化繊維材料から脱離した繊維の含有率が5質量%以下である層であり、当該層の厚みが20μm以下であることが好ましい。
【0042】
前記金属-繊維強化樹脂材料複合体において、前記金属部材の厚みの合計T1及び前記金属部材の弾性係数E1と、前記繊維強化樹脂材料の厚みの合計T2及び前記繊維強化樹脂材料の弾性係数E2とが、下記式(1)の関係を満足するようにしてもよい。
(T1×E1)/(T2×E2)>0.3 ・・・式(1)
【0043】
前記金属-繊維強化樹脂材料複合体において、前記金属部材の材質が、鉄鋼材料、鉄系合金、チタン又はアルミニウムであってもよい。
【0044】
前記鉄鋼材料は、溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、またはアルミニウムめっき鋼板であってもよい。
【発明の効果】
【0045】
以上説明したように本発明によれば、金属部材と繊維強化樹脂材料とをより強固に接合できるため、金属部材と繊維強化材料とのせん断強度を向上させることができるとともに、強度の向上を図りつつ、軽量且つ加工性に優れる金属-繊維強化樹脂材料複合体及びその製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】本発明の好適な実施形態に係る金属-繊維強化樹脂材料複合体の断面構造を示す模式図である。
図2】同実施形態に係る金属-繊維強化樹脂材料複合体の別の態様の断面構造を示す模式図である。
図3】フェノキシ樹脂の含有量の測定方法について説明するための説明図である。
図4】厚みの測定方法について説明するための説明図である。
図5】同実施形態に係る金属-繊維強化樹脂材料複合体の製造工程の一例を示す説明図である。
図6図5に続く製造工程の一例を示す説明図である。
図7図6のX部分を拡大した断面を示す模式図である。
図8】同実施形態に係る金属-繊維強化樹脂材料複合体の製造工程の別の例を示す説明図である。
図9】同実施形態に係る金属-繊維強化樹脂材料複合体の製造工程のさらに別の例を示す説明図である。
図10】実施例及び比較例における引張試験用金属-FRP複合体のサンプルの構成を示す説明図である。
図11】実施例及び比較例における曲げ試験用金属-FRP複合体のサンプルの構成を示す説明図である。
図12】実施例及び比較例におけるせん断試験用金属-FRP複合体のサンプルの構成を示す説明図である。
図13】各試験片の引張試験の結果を概略的に示すグラフである。
図14】(T1×E1)/(T2×E2)の好ましい範囲を概略的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0048】
[金属-繊維強化樹脂材料複合体の構成]
まず、図1及び図2を参照しながら、本発明の好適な実施形態に係る金属-繊維強化樹脂材料複合体樹脂材料複合体の構成について説明する。図1及び図2は、本実施形態に係る金属-繊維強化樹脂材料複合体の一例としての金属-FRP複合体1の積層方向における断面構造を示す模式図である。
【0049】
図1に示すように、金属-FRP複合体1は、金属部材11と、本実施形態に係る繊維強化樹脂材料の一例としてのFRP層12と、を備える。金属部材11とFRP層12とは、FRP層12の一部である樹脂層101を介して複合化されている。ここで、「複合化」とは、金属部材11とFRP層12(繊維強化樹脂材料)とが、樹脂層101を介して接合され(貼り合わされ)、一体化していることを意味する。また、「一体化」とは、金属部材11及びFRP層12(繊維強化樹脂材料)が、加工や変形の際、一体として動くことを意味する。
【0050】
金属-FRP複合体1において、FRP層12は、本実施形態に係る繊維強化樹脂材料の一部又は全部を構成する。また、FRP層12の一部である樹脂層101は、後述するように、強化繊維材料103と金属部材11との間に介在し、FRP層12のマトリックス樹脂102と同種の樹脂からなる。
【0051】
本実施形態では、樹脂層101は、金属部材11の少なくとも片側の面に接するように設けられており、金属部材11とFRP層12とを強固に接着している。ただし、樹脂層101及びFRP層12は、金属部材11の片面のみに設けられている場合のみならず、両面にそれぞれ設けられていてもよい。また、2つの金属部材11の間に樹脂層101とFRP層12とを含む積層体を挟み込むように配置してもよい。
【0052】
以下、金属-FRP複合体1の各構成要素及びその他の構成について詳述する。
【0053】
(金属部材11)
金属部材11の材質、形状及び厚みなどは、プレス等による成形加工が可能であれば特に限定されるものではないが、形状は薄板状が好ましい。金属部材11の材質としては、例えば、鉄、チタン、アルミニウム、マグネシウム及びこれらの合金などが挙げられる。ここで、合金の例としては、例えば、鉄系合金(ステンレス鋼含む)、Ti系合金、Al系合金、Mg合金などが挙げられる。金属部材11の材質は、鉄鋼材料、鉄系合金、チタン及びアルミニウムであることが好ましく、他の金属種に比べて弾性率が高い鉄鋼材料であることがより好ましい。そのような鉄鋼材料としては、例えば、自動車に用いられる薄板状の鋼板として日本工業規格(JIS)等で規格された一般用、絞り用あるいは超深絞り用の冷間圧延鋼板、自動車用加工性冷間圧延高張力鋼板、一般用や加工用の熱間圧延鋼板、自動車構造用熱間圧延鋼板、自動車用加工性熱間圧延高張力鋼板をはじめとする鉄鋼材料があり、一般構造用や機械構造用として使用される炭素鋼、合金鋼、高張力鋼等も薄板状に限らない鉄鋼材料として挙げることができる。
【0054】
鉄鋼材料には、任意の表面処理が施されていてもよい。ここで、表面処理とは、例えば、亜鉛めっき(溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき等)及びアルミニウムめっきなどの各種めっき処理、クロメート処理及びノンクロメート処理などの化成処理、並びに、サンドブラストのような物理的もしくはケミカルエッチングのような化学的な表面粗化処理が挙げられるが、これらに限られるものではない。また、めっきの合金化や複数種の表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、少なくとも防錆性の付与を目的とした処理が行われていることが好ましい。
【0055】
FRP層12との接着性を高めるために、金属部材11の表面をプライマーにより処理することが好ましい。この処理で用いるプライマーとしては、例えば、シランカップリング剤やトリアジンチオール誘導体が好ましい。シランカップリング剤としては、エポキシ系シランカップリング剤やアミノ系シランカップリング剤、イミダゾールシラン化合物が例示される。トリアジンチオール誘導体としては、6-ジアリルアミノ-2,4-ジチオール-1,3,5-トリアジン、6-メトキシ-2,4-ジチオール-1,3,5-トリアジンモノナトリウム、6-プロピル-2,4-ジチオールアミノ-1,3,5-トリアジンモノナトリウム及び2,4,6-トリチオール-1,3,5-トリアジンなどが例示される。
【0056】
ここで、金属部材11の材質によっては、防錆等の観点から金属部材11の表面に油膜が形成されていることがある。例えば、金属部材11が鉄鋼材料のうち特に溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、またはアルミニウムめっき鋼板等となる場合、防錆油による油膜が金属部材11の表面に形成されていることが多い。このような油膜が金属部材11の表面に形成されたままFRPと金属部材11とを接合しようとしても、FRPと金属部材11とを十分な接合強度で接合させることが難しい場合がある。すなわち、超加成則を示す金属-FRP複合体1を作製することが難しい場合がある。そこで、金属部材11の表面に油膜が形成されている場合、FRPとの接合の前に脱脂処理を行うことが好ましい。これにより、FRPと金属部材11とを十分な接合強度で接合させることができ、ひいては、金属-FRP複合体1が後述する加成則を超える強度を得やすくなる。なお、脱脂の必要性については、事前に、対象とする金属部材11を、脱脂工程無しで、対象とするFRPに対象とする接着樹脂組成物により接合して一体化し、実際に超加成則が生じるかどうかを確認して、判断すればよい。加成則、超加成則については後述する。
【0057】
(FRP層12)
FRP層12は、マトリックス樹脂102と、当該マトリックス樹脂102中に含有され、複合化された強化繊維材料103と、強化繊維材料103と金属部材11との間に位置する樹脂層101と、を有している。樹脂層101は、FRP層12の少なくとも片側に設けられていればよく、両側に設けられていてもよい。すなわち、FRP層12の両側に金属部材11を配置する場合は、強化繊維材料103の両側において金属部材11との間に、それぞれ樹脂層101が設けられる。
【0058】
また、FRP層12は、例えば図2に示すように、少なくとも1枚以上の他のFRP層13と積層されて繊維強化樹脂材料を構成していてもよい。この場合、FRP層13は、1層であってもよいし、2層以上であってもよい。FRP層13を積層する場合、少なくとも金属部材11に接するFRP層12が樹脂層101を有していればよい。他のFRP層13は、FRP層12と同一の構成であってもよいし、異なっていてもよい。FRP層12、13の厚みや、FRP層13を1層または2層以上配置する場合のFRP層12、13の合計層数nは、使用目的に応じて適宜設定すればよい。FRP層13を配置する場合、各FRP層12、13は、同一の構成であってもよいし、異なっていてもよい。すなわち、FRP層12のマトリックス樹脂102とFRP層13のマトリックス樹脂を構成する樹脂種、強化繊維材料103の種類や含有比率などは、層ごとに異なっていてもよい。FRP層12とFRP層13との密着性を担保する観点から、FRP層12と1層又は2層以上のFRP層13とは、同一もしくは同種の樹脂や、ポリマー中に含まれる極性基の比率などが近似した樹脂種を選択することが好ましい。ここで、「同一の樹脂」とは、同じ成分によって構成され、組成比率まで同じであることを意味し、「同種の樹脂」とは、主成分が同じであれば、組成比率は異なっていてもよいことを意味する。「同種の樹脂」の中には、「同一の樹脂」が含まれる。また、「主成分」とは、全樹脂成分100質量部のうち、50質量部以上含まれる成分を意味する。なお、「樹脂成分」には、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂が含まれるが、架橋剤などの非樹脂成分は含まれない。
【0059】
以下、FRP層12における、強化繊維材料103、マトリックス樹脂102及び樹脂層101について順に説明する。
【0060】
<強化繊維材料103>
強化繊維材料103としては、特に制限はないが、例えば、炭素繊維、ボロン繊維、シリコンカーバイド繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などが好ましく、炭素繊維がより好ましい。炭素繊維の種類については、例えば、PAN系、ピッチ系のいずれも使用でき、目的や用途に応じて選択すればよい。また、強化繊維材料103として、上述した繊維を1種類単独で使用してもよいし、複数種類を併用してもよい。なお、FRP層13における強化繊維材料としても、上記と同様の材料を用いることができる。
【0061】
<マトリックス樹脂102>
マトリックス樹脂102は、熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物からなる。
【0062】
◇樹脂組成物
マトリックス樹脂102を構成する樹脂組成物は、熱可塑性樹脂に加えて、樹脂成分として熱硬化性樹脂を含有することもできるが、熱可塑性樹脂を主成分とすることが好ましい。マトリックス樹脂102に用いることができる熱可塑性樹脂の種類は、特に制限されないが、例えば、フェノキシ樹脂、ポリオレフィン及びその酸変性物、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、AS樹脂、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、塩化ビニル、アクリル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル及びその変性物、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイドといったスーパーエンジニアリングプラスチック、ポリオキシメチレン、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、並びにナイロン等から選ばれる1種以上を使用できる。なお、「熱可塑性樹脂」には、後述する第2の硬化状態である架橋硬化物となり得る樹脂も含まれる。また、マトリックス樹脂102に用いることができる熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、及び、ウレタン樹脂から選ばれる1種以上を使用することができる。
【0063】
ここで、金属-FRP複合体1では、マトリックス樹脂102として熱可塑性樹脂を含有する(好ましくは、熱可塑性樹脂を主成分とする)樹脂組成物を使用している。このように、マトリックス樹脂102が熱可塑性樹脂を含有することで、上述したFRPのマトリックス樹脂に熱硬化性樹脂を用いたときの問題点、すなわち、FRP層12が脆性を有すること、タクトタイムが長いこと、曲げ加工ができないことなどの問題点を解消できる。
【0064】
ここで、詳細は後述するが、FRP層12のマトリックス樹脂102の形成過程において、金属部材11の表面(言い換えれば、金属部材11と強化繊維材料103との界面)にマトリックス樹脂102が浸み出す場合がある。そして、金属部材11の表面に浸み出したマトリックス樹脂102によって樹脂層101が形成される場合がある。樹脂層101をこのようなマトリックス樹脂102の浸み出しによって形成する場合、マトリックス樹脂102を構成する熱可塑性樹脂は、フェノキシ樹脂、ポリオレフィン及びその酸変性物、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、塩化ビニル、アクリル、さらにはポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイドといったスーパーエンジニアリングプラスチック等からなる群から選択されるいずれか1種以上であることが好ましい。これらの熱可塑性樹脂は、加熱溶融時には温度と分子量に応じた粘度で分子が流動し、適切に流動する条件においては十分にFRPにおける繊維束間を流動して抜けることが出来るため、マトリックス樹脂102の形成過程において、金属部材11の表面に浸み出ることができる。また、適正な粘度で流動した熱可塑性樹脂が金属材料の表面と接触した場合、金属材料表面と熱可塑性樹脂の分子が好適な相互作用をする場合は良好な接着力が得られ、また、金属材料表面の凹凸への流れ込みが良くなるため、アンカー効果も得られやすいなど、より好適な接着状態を得ることができる。なお、粘度が適切となる条件(加熱時の温度、分子量)は樹脂ごとに異なるが、後述する超加成則が成立する場合、粘度が適切であると判断できる。
【0065】
ただし、通常、熱可塑性樹脂は、溶融したときの粘度が高く、熱硬化前のエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂のように低粘度の状態で強化繊維材料103に含浸させることができないことから、強化繊維材料103に対する含浸性に劣る。そのため、熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂102として用いた場合のようにFRP層12中の強化繊維密度(VF:Volume Fraction)を上げることができない。強化繊維材料103として炭素繊維を用いた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を例に挙げると、エポキシ樹脂をマトリックス樹脂102として用いた場合には、VFを60%程度とすることができるが、ポリプロピレンやナイロン等の熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂102として用いた場合には、VFが50%程度となってしまう。ここで、FRPが優れた引張強度を発現するためには、強化繊維材料103を構成する各繊維を高密度で同一方向に強く延伸させた状態で、マトリックス樹脂102を強化繊維材料103に含浸させる必要がある。このような状態の強化繊維材料103にはマトリックス樹脂102が含浸しにくい。もし強化繊維材料103にマトリックス樹脂102が十分に含浸せず、FRP中にボイド等の欠陥が生じた場合、FRPが所望の引張強度を示さないのみならず、当該欠陥を起点としてFRPが脆性破壊する可能性がある。したがって、含浸性は非常に重要である。また、ポリプロピレンやナイロン等の熱可塑性樹脂を用いると、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を用いたときのようにFRP層12が高い耐熱性を有することができない。
【0066】
このような熱可塑性樹脂を用いたときの問題を解消するには、マトリックス樹脂102として、フェノキシ樹脂を使用することが好ましい。フェノキシ樹脂は、エポキシ樹脂と分子構造が酷似しているため、エポキシ樹脂と同程度の耐熱性を有し、また、金属部材11や強化繊維材料103との接着性が良好となる。さらに、フェノキシ樹脂に、エポキシ樹脂のような硬化成分を添加して共重合させることで、いわゆる部分硬化型樹脂とすることができる。このような部分硬化型樹脂をマトリックス樹脂102として使用することにより、強化繊維材料103への含浸性に優れるマトリックス樹脂とすることができる。さらには、この部分硬化型樹脂中の硬化成分を熱硬化させることで、通常の熱可塑性樹脂のようにFRP層12中のマトリックス樹脂102が高温に曝された際に溶融又は軟化することを抑制できる。フェノキシ樹脂への硬化成分の添加量は、強化繊維材料103への含浸性と、FRP層12の脆性、タクトタイム及び加工性等とを考慮し、適宜決めればよい。このように、フェノキシ樹脂をマトリックス樹脂102として使用することで、自由度の高い硬化成分の添加と制御を行うことが可能となる。
【0067】
なお、例えば、強化繊維材料103として炭素繊維を用いる場合、炭素繊維の表面には、エポキシ樹脂と馴染みのよいサイジング剤が施されていることが多い。フェノキシ樹脂は、エポキシ樹脂の構造と酷似していることから、マトリックス樹脂102としてフェノキシ樹脂を使用することにより、エポキシ樹脂用のサイジング剤をそのまま使用することができる。そのため、コスト競争力を高めることができる。
【0068】
また、熱可塑性樹脂の中でもフェノキシ樹脂は、良成形性を備え、強化繊維材料103や金属部材11との接着性に優れる他、酸無水物やイソシアネート化合物、カプロラクタム等を架橋剤として使用することで、成形後に高耐熱性の熱硬化性樹脂と同様の性質を持たせることもできる。よって、本実施形態では、マトリックス樹脂102の樹脂成分として、樹脂成分100質量部に対してフェノキシ樹脂(A)を50質量部以上含む(すなわち、樹脂成分100質量部のうち50質量部以上がフェノキシ樹脂(A)で構成される)樹脂組成物の固化物又は硬化物を用いることが好ましい。ここで、単に「固化物」というときは、樹脂成分自体が固化したもの(第1の硬化状態)を意味し、「硬化物」というときは、樹脂成分に対して各種の硬化剤を含有させて硬化させたもの(第2の硬化状態)を意味する。なお、硬化物に含有されうる硬化剤には、後述するような架橋剤も含まれ、上記の「硬化物」は、架橋形成された架橋硬化物を含むものとする。このような樹脂組成物を使用することによって、金属部材11とFRP層12とを強固に接合することが可能になる。樹脂組成物は、樹脂成分100質量部のうちフェノキシ樹脂(A)を55質量部以上含むことが好ましい。接着樹脂組成物の形態は、例えば、粉体、ワニスなどの液体、フィルムなどの固体とすることができる。
【0069】
なお、フェノキシ樹脂(A)の含有量は、以下のように、赤外分光法(IR:InfraRed spectroscopy)を用いて測定可能であり、IRで対象とする樹脂組成物からフェノキシ樹脂の含有割合を分析する場合、上記非特許文献1に開示された方法に従って、測定することができる。具体的には、透過法やATR反射法など、IR分析の一般的な方法を使うことで、測定することができる。
【0070】
鋭利な刃物等でFRP層12を削り出し、可能な限り繊維をピンセットなどで除去して、FRP層12から分析対象となる樹脂組成物をサンプリングする。透過法の場合は、KBr粉末と分析対象となる樹脂組成物の粉末とを乳鉢などで均一に混合しながら潰すことで薄膜を作製して、試料とする。ATR反射法の場合は、透過法同様に粉末を乳鉢で均一に混合しながら潰すことで錠剤を作製して、試料を作製しても良いし、単結晶KBr錠剤(例えば直径2mm×厚み1.8mm)の表面にヤスリなどで傷をつけ、分析対象となる樹脂組成物の粉末をまぶして付着させて試料としても良い。いずれの方法においても、分析対象となる樹脂と混合する前のKBr単体におけるバックグラウンドを測定しておくことが重要である。IR測定装置は、市販されている一般的なものを用いることができるが、精度としては吸収(Absorbance)は1%単位で、波数(Wavenumber)は1cm-1単位で区別が出来る分析精度をもつ装置が好ましく、例えば、日本分光株式会社製のFT/IR-6300などが挙げられる。
【0071】
フェノキシ樹脂(A)の含有量を調査する場合、フェノキシ樹脂の吸収ピークは、上記非特許文献1の図2、3、4、6、7に示されている通りである。測定したIRスペクトルにおいて、上記非特許文献1に開示されているこれらの吸収ピークしか認められない場合は、フェノキシ樹脂のみで構成されていると判断される。
【0072】
一方、上記非特許文献1に開示されている吸収ピーク以外のピークが検出された場合は、他の樹脂組成物を含有していると判断され、含有量を次のように推定する。分析対象となる樹脂組成物の粉末と、フェノキシ樹脂組成物(例えば、新日鉄住金化学株式会社製フェノトートYP-50S)の粉末とを、配合比率を質量比で、100:0、90:10、80:20、70:30、60:40、50:50、40:60、30:70、20:80、10:90、0:100と変更して混合したものをIR分析して、フェノキシ樹脂由来のピーク(例えば1450~1480cm-1、1500cm-1近傍、1600cm-1近傍など)の強度の変化を記録する。得られた強度の変化に基づき、図3に示したような検量線を作成する。得られた検量線を用いることで、フェノキシ樹脂含有量が未知であるサンプルのフェノキシ樹脂含有量を求めることができる。
【0073】
具体的には、分析対象となる樹脂組成物のフェノキシ含有量がX%とすると、フェノキシ樹脂がX%から100%まで振られたときの強度変化から、X%を推定することができる。すなわち、上述のような配合比率で測定した場合、フェノキシ樹脂の含有量は、X、0.9X+10、0.8X+20、0.7X+30・・・0.2X+80、0.1X+90、100%と変化しており、横軸に含有率、縦軸に吸収ピーク強度を取って各点を結ぶ直線を引くことができ、含有量100%のときの強度をI100、X%のときの強度をI、含有量0%、すなわち当該グラフのY切片をIとすると、(I-I)/(I100-I)×100が、X%となり、特定することができる。配合比率を10%刻みで細かく振ったのは、測定精度を向上させるためである。
【0074】
「フェノキシ樹脂」とは、2価フェノール化合物とエピハロヒドリンとの縮合反応、又は2価フェノール化合物と2官能エポキシ樹脂との重付加反応から得られる線形の高分子であり、非晶質の熱可塑性樹脂である。フェノキシ樹脂(A)は、溶液中又は無溶媒下で従来公知の方法で得ることができ、粉体、ワニス及びフィルムのいずれの形態でも使用することができる。フェノキシ樹脂(A)の平均分子量は、質量平均分子量(Mw)として、例えば、10,000以上200,000以下の範囲内であるが、好ましくは20,000以上100,000以下の範囲内であり、より好ましくは30,000以上80,000以下の範囲内である。フェノキシ樹脂(A)のMwを10,000以上の範囲内とすることで、成形体の強度を高めることができ、この効果は、Mwを20,000以上、さらには30,000以上とすることで、さらに高まる。一方、フェノキシ樹脂(A)のMwを200,000以下とすることで、作業性や加工性に優れるものとすることができ、この効果は、Mwを100,000以下、さらには80,000以下とすることで、さらに高まる。なお、本明細書におけるMwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した値とする。
【0075】
本実施形態で用いるフェノキシ樹脂(A)の水酸基当量(g/eq)は、例えば、50以上1000以下の範囲内であるが、好ましくは50以上750以下の範囲内であり、より好ましくは50以上500以下の範囲内である。フェノキシ樹脂(A)の水酸基当量を50以上とすることで、水酸基が減ることで吸水率が下がるため、硬化物の機械物性を向上させることができる。一方、フェノキシ樹脂(A)の水酸基当量を1000以下とすることで、水酸基が少なくなるのを抑制できるので、被着体との親和性を向上させ、金属-FRP複合体1の機械物性を向上させることができる。この効果は、水酸基当量を750以下、さらには500以下とすることでさらに高まる。
【0076】
また、フェノキシ樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、例えば、65℃以上150℃以下の範囲内のものが適するが、好ましくは70℃以上150℃以下の範囲内である。Tgが65℃以上であると、成形性を確保しつつ、樹脂の流動性が大きくなりすぎることを抑制できるため、樹脂層101の厚みを十分に確保できる。一方、Tgが150℃以下であると、溶融粘度が低くなるため、強化繊維基材にボイドなどの欠陥なく含浸させることが容易となり、より低温の接合プロセスとすることができる。なお、本明細書におけるフェノキシ樹脂(A)のTgは、示差走査熱量測定装置を用い、10℃/分の昇温条件で、20~280℃の範囲内の温度で測定し、セカンドスキャンのピーク値より計算された数値である。
【0077】
フェノキシ樹脂(A)としては、上記の物性を満足するものであれば特に限定されないが、好ましいものとして、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製フェノトートYP-50、フェノトートYP-50S、フェノトートYP-55Uとして入手可能)、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製フェノトートFX-316として入手可能)、ビスフェノールAとビスフェノールFの共重合型フェノキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製YP-70として入手可能)、上記に挙げたフェノキシ樹脂以外の臭素化フェノキシ樹脂やリン含有フェノキシ樹脂、スルホン基含有フェノキシ樹脂などの特殊フェノキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製フェノトートYPB-43C、フェノトートFX293、YPS-007等として入手可能)などを挙げることができる。これらの樹脂は、1種を単独で、又は2種以上を混合して使用できる。
【0078】
マトリックス樹脂102の樹脂成分として用いる熱可塑性樹脂は、160~250℃の範囲内の温度域のいずれかで、溶融粘度が3,000Pa・s以下になるものが好ましく、90Pa・s以上2,900Pa・s以下の範囲内の溶融粘度となるものがより好ましく、100Pa・s以上2,800Pa・s以下の範囲内の溶融粘度となるものがさらに好ましい。160~250℃の範囲内の温度域における溶融粘度が3,000Pa・s以下とすることにより、溶融時の流動性が良くなり、樹脂層101にボイド等の欠陥が生じにくくなる。一方、溶融粘度が90Pa・s以下である場合には、樹脂組成物としての分子量が小さ過ぎ、分子量が小さいと脆化して、金属-FRP複合体1の機械的強度が低下してしまう。
【0079】
◇架橋性樹脂組成物
フェノキシ樹脂(A)を含有する樹脂組成物に、例えば、酸無水物、イソシアネート、カプロラクタムなどを架橋剤として配合することにより、架橋性樹脂組成物(すなわち、樹脂組成物の硬化物)とすることもできる。架橋性樹脂組成物は、フェノキシ樹脂(A)に含まれる2級水酸基を利用して架橋反応させることにより、樹脂組成物の耐熱性が向上するため、より高温環境下で使用される部材への適用に有利となる。フェノキシ樹脂(A)の2級水酸基を利用した架橋形成には、架橋硬化性樹脂(B)と架橋剤(C)を配合した架橋性樹脂組成物を用いることが好ましい。架橋硬化性樹脂(B)としては、例えばエポキシ樹脂等を使用できるが、特に限定するものではない。このような架橋性樹脂組成物を用いることによって、樹脂組成物のTgがフェノキシ樹脂(A)単独の場合よりも大きく向上した第2の硬化状態の硬化物(架橋硬化物)が得られる。架橋性樹脂組成物の架橋硬化物のTgは、例えば、160℃以上であり、170℃以上220℃以下の範囲内であることが好ましい。
【0080】
架橋性樹脂組成物において、フェノキシ樹脂(A)に配合する架橋硬化性樹脂(B)としては、2官能性以上のエポキシ樹脂が好ましい。2官能性以上のエポキシ樹脂としては、ビスフェノールAタイプエポキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製エポトートYD-011、エポトートYD-7011、エポトートYD-900として入手可能)、ビスフェノールFタイプエポキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製エポトートYDF-2001として入手可能)、ジフェニルエーテルタイプエポキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製YSLV-80DEとして入手可能)、テトラメチルビスフェノールFタイプエポキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製YSLV-80XYとして入手可能)、ビスフェノールスルフィドタイプエポキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製YSLV-120TEとして入手可能)、ハイドロキノンタイプエポキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製エポトートYDC-1312として入手可能)、フェノールノボラックタイプエポキシ樹脂、(例えば、新日鉄住金化学株式会社製エポトートYDPN-638として入手可能)、オルソクレゾールノボラックタイプエポキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製エポトートYDCN-701、エポトートYDCN-702、エポトートYDCN-703、エポトートYDCN-704として入手可能)、アラルキルナフタレンジオールノボラックタイプエポキシ樹脂(例えば、新日鉄住金化学株式会社製ESN-355として入手可能)、トリフェニルメタンタイプエポキシ樹脂(例えば、日本化薬株式会社製EPPN-502Hとして入手可能)等が例示されるが、これらに限定されるものではない。また、これらのエポキシ樹脂は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0081】
また、架橋硬化性樹脂(B)としては、特に限定する意味ではないが、結晶性エポキシ樹脂が好ましく、融点が70℃以上145℃以下の範囲内で、150℃における溶融粘度が2.0Pa・s以下である結晶性エポキシ樹脂がより好ましい。このような溶融特性を示す結晶性エポキシ樹脂を使用することにより、樹脂組成物としての架橋性樹脂組成物の溶融粘度を低下させることができ、樹脂層101の接着性を向上させることができる。溶融粘度が2.0Pa・sを超えると、架橋性樹脂組成物の成形性が低下し、金属-FRP複合体1の均質性が低下することがある。
【0082】
架橋硬化性樹脂(B)として好適な結晶性エポキシ樹脂としては、例えば、新日鉄住金化学株式会社製エポトートYSLV-80XY、YSLV-70XY、YSLV-120TE、YDC-1312、三菱化学株式会社製YX-4000、YX-4000H、YX-8800、YL-6121H、YL-6640等、DIC株式会社製HP-4032、HP-4032D、HP-4700等、日本化薬株式会社製NC-3000等が挙げられる。
【0083】
架橋剤(C)は、フェノキシ樹脂(A)の2級水酸基とエステル結合を形成することにより、フェノキシ樹脂(A)を3次元的に架橋させる。そのため、熱硬化性樹脂の硬化のような強固な架橋とは異なり、加水分解反応により架橋を解くことができるので、金属部材11とFRP層12とを容易に剥離することが可能となる。従って、金属部材11、FRP層12をそれぞれリサイクルできる。
【0084】
架橋剤(C)としては、酸無水物が好ましい。酸無水物は、常温で固体であり、昇華性があまり無いものであれば特に限定されるものではないが、金属-FRP複合体1への耐熱性付与や反応性の点から、フェノキシ樹脂(A)の水酸基と反応する酸無水物を2つ以上有する芳香族酸無水物が好ましい。特に、ピロメリット酸無水物のように2つの酸無水物基を有する芳香族化合物は、トリメリット酸無水物と水酸基の組み合わせと比べて架橋密度が高くなり、耐熱性が向上するので好適に使用される。芳香族酸二無水物でも、例えば、4,4’―オキシジフタル酸、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ジフタル酸無水物といったフェノキシ樹脂及びエポキシ樹脂に対して相溶性を有する芳香族酸二無水物は、Tgを向上させる効果が大きくより好ましい。特に、ピロメリット酸無水物のように2つの酸無水物基を有する芳香族酸二無水物は、例えば、酸無水物基を1つしか有しない無水フタル酸に比べて架橋密度が向上し、耐熱性が向上するので好適に使用される。すなわち、芳香族酸二無水物は、酸無水物基を2つ有するために反応性が良好で、短い成形時間で脱型に十分な強度の架橋硬化物が得られるとともに、フェノキシ樹脂(A)中の2級水酸基とのエステル化反応により、4つのカルボキシル基を生成させるため、最終的な架橋密度を高くできる。
【0085】
フェノキシ樹脂(A)、架橋硬化性樹脂(B)としてのエポキシ樹脂、及び架橋剤(C)の反応は、フェノキシ樹脂(A)中の2級水酸基と架橋剤(C)の酸無水物基とのエステル化反応、更にはこのエステル化反応により生成したカルボキシル基とエポキシ樹脂のエポキシ基との反応によって架橋及び硬化される。フェノキシ樹脂(A)と架橋剤(C)との反応によってフェノキシ樹脂架橋体を得ることができるが、エポキシ樹脂が共存することで樹脂組成物の溶融粘度を低下させられるため、被着体(金属部材11、FRP層12)との含浸性の向上、架橋反応の促進、架橋密度の向上、及び機械強度の向上などの優れた特性を示す。
【0086】
なお、架橋性樹脂組成物においては、架橋硬化性樹脂(B)としてのエポキシ樹脂が共存してはいるが、熱可塑性樹脂であるフェノキシ樹脂(A)を主成分としており、その2級水酸基と架橋剤(C)の酸無水物基とのエステル化反応が優先していると考えられる。すなわち、架橋剤(C)として使用される酸無水物と、架橋硬化性樹脂(B)として使用されるエポキシ樹脂との反応は時間がかかる(反応速度が遅い)ため、架橋剤(C)とフェノキシ樹脂(A)の2級水酸基との反応が先に起こり、次いで、先の反応で残留した架橋剤(C)や、架橋剤(C)に由来する残存カルボキシル基とエポキシ樹脂とが反応することで更に架橋密度が高まる。そのため、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂を主成分とする樹脂組成物とは異なり、架橋性樹脂組成物によって得られる架橋硬化物は熱可塑性樹脂であり、貯蔵安定性にも優れる。
【0087】
フェノキシ樹脂(A)の架橋を利用する架橋性樹脂組成物においては、フェノキシ樹脂(A)100質量部に対して、架橋硬化性樹脂(B)が5質量部以上85質量部以下の範囲内となるように含有されることが好ましい。フェノキシ樹脂(A)100質量部に対する架橋硬化性樹脂(B)の含有量は、より好ましくは9質量部以上83質量部以下の範囲内であり、さらに好ましくは10質量部以上80質量部以下の範囲内である。架橋硬化性樹脂(B)の含有量を85質量部以下とすることにより、架橋硬化性樹脂(B)の硬化時間を短縮できるため、脱型に必要な強度を短時間で得やすくなる他、FRP層12のリサイクル性が向上する。この効果は、架橋硬化性樹脂(B)の含有量を83質量部以下、更には80質量部以下とすることにより、さらに高まる。一方、架橋硬化性樹脂(B)の含有量を5質量部以上とすることにより、架橋硬化性樹脂(B)の添加による架橋密度の向上効果を得やすくなり、架橋性樹脂組成物の架橋硬化物が160℃以上のTgを発現しやすくなり、また、流動性が良好になる。なお、架橋硬化性樹脂(B)の含有量は、上述したようなIRを用いた方法によって、エポキシ樹脂由来のピークについて同様に測定することで、架橋硬化性樹脂(B)の含有量を測定できる。
【0088】
架橋剤(C)の配合量は、通常、フェノキシ樹脂(A)の2級水酸基1モルに対して酸無水物基0.6モル以上1.3モル以下の範囲内の量であり、好ましくは0.7モル以上1.3モル以下の範囲内の量であり、より好ましくは1.1モル以上1.3モル以下の範囲内である。酸無水物基の量が0.6モル以上であると、架橋密度が高くなるため、機械物性や耐熱性に優れる。この効果は、酸無水物基の量を0.7モル以上、更には1.1モル以上とすることにより、さらに高まる。酸無水物基の量が1.3モル以下であると、未反応の酸無水物やカルボキシル基が硬化特性や架橋密度に悪影響を与えることを抑制できる。このため、架橋剤(C)の配合量に応じて、架橋硬化性樹脂(B)の配合量を調整することが好ましい。具体的には、例えば、架橋硬化性樹脂(B)として用いるエポキシ樹脂により、フェノキシ樹脂(A)の2級水酸基と架橋剤(C)の酸無水物基との反応により生じるカルボキシル基を反応させることを目的に、エポキシ樹脂の配合量を架橋剤(C)との当量比で0.5モル以上1.2モル以下の範囲内となるようにするとよい。好ましくは、架橋剤(C)とエポキシ樹脂の当量比が、0.7モル以上1.0モル以下の範囲内である。
【0089】
架橋剤(C)をフェノキシ樹脂(A)、架橋硬化性樹脂(B)と共に配合すれば、架橋性樹脂組成物を得ることができるが、架橋反応が確実に行われるように触媒としての促進剤(D)をさらに添加してもよい。促進剤(D)は、常温で固体であり、昇華性が無いものであれば特に限定はされるものではなく、例えば、トリエチレンジアミン等の3級アミン、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニルー4-メチルイミダゾール等のイミダゾール類、トリフェニルフォスフィン等の有機フォスフィン類、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート等のテトラフェニルボロン塩などが挙げられる。これらの促進剤(D)は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。なお、架橋性樹脂組成物を微粉末とし、静電場による粉体塗装法を用いて強化繊維基材に付着させてマトリックス樹脂102を形成する場合は、促進剤(D)として、触媒活性温度が130℃以上である常温で固体のイミダゾール系の潜在性触媒を用いることが好ましい。促進剤(D)を使用する場合、促進剤(D)の配合量は、フェノキシ樹脂(A)、架橋硬化性樹脂(B)及び架橋剤(C)の合計量100質量部に対して、0.1質量部以上5重量部以下の範囲内とすることが好ましい。
【0090】
架橋性樹脂組成物は、常温で固形であり、その溶融粘度は、160~250℃の範囲内の温度域における溶融粘度の下限値である最低溶融粘度が3,000Pa・s以下であることが好ましく、2,900Pa・s以下であることがより好ましく、2,800Pa・s以下であることがさらに好ましい。160~250℃の範囲内の温度域における最低溶融粘度が3,000Pa・s以下とすることにより、熱プレスなどによる加熱圧着時に架橋性樹脂組成物を被着体へ十分に含浸させることができ、樹脂層101にボイド等の欠陥を生じることを抑制できるため、金属-FRP複合体1の機械物性が向上する。この効果は、160~250℃の範囲内の温度域における最低溶融粘度を2,900Pa・s以下、さらには2,800Pa・s以下とすることにより、さらに高まる。
【0091】
マトリックス樹脂102を形成するための樹脂組成物(架橋性樹脂組成物を含む)には、その接着性や物性を損なわない範囲において、例えば、天然ゴム、合成ゴム、エラストマー等や、種々の無機フィラー、溶剤、体質顔料、着色剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、難燃剤、難燃助剤等その他添加物を配合してもよい。
【0092】
上述したように、金属部材11の表面には油膜が形成される場合がある。このような油膜が金属部材11の表面に形成されたままFRPと金属部材11とを接合しようとしても、FRPと金属部材11とを十分な接合強度で接合させることが難しい場合がある。このような問題への対策の1つとして、上述したように金属部材11の表面を脱脂処理する方法が挙げられる。
【0093】
一方で、樹脂層101をマトリックス樹脂102の浸み出しによって形成する場合、マトリックス樹脂102を形成するための樹脂組成物に油面接着性接着剤を添加してもよい。樹脂組成物に添加された油面接着性接着剤の少なくとも一部は金属部材11の表面に浸み出し、樹脂層101に含有されることになる。油面接着性接着剤を含む樹脂層101は、金属部材11の表面に油膜が形成される場合であっても、金属部材11に強固に接合される。
【0094】
ここで、油面接着性接着剤は、油膜が形成された被着物に対しても接着性を示す接着剤である。油面接着性接着剤は吸油性接着剤等とも称されており、油分と親和性の高い成分を含む。すなわち、油面接着性接着剤を被着物に塗布した場合、油面接着性接着剤は、被着物の表面の油分を吸収しつつ、被着物に密着する。様々な種類の油面接着性接着剤が市販されており、本実施形態ではそれらを特に制限なく使用することができる。つまり、油膜が形成された金属部材11と油面接着性接着剤が添加されたFRPとを接合した結果、超加成則を示す金属-FRP複合体1を作製することができた場合、その接着剤は本実施形態に適した油面接着性接着剤であると言える。油面接着性接着剤の例としては、アルファ工業社製アルファテック370(エポキシ系油面接着性接着剤)、デブコン社製Devcon PW1(メタクリレート系油面接着性接着剤)等が挙げられる。油面接着性接着剤は1種類のみ使用してもよいし、複数種類の油面接着性接着剤を混合して使用してもよい。
【0095】
油面接着性接着剤のマトリックス樹脂102への配合量は金属-FRP複合体1が超加成則を示すように調整されればよいが、一例として樹脂成分100質量部に対して50質量部程度と多めに含んでいてもよいし、本実施形態の効果(超加成則等)が発揮されるのであれば数質量部程度であってもよい。
【0096】
なお、繊維強化樹脂材料がFRP層12に1層又は2層以上のFRP層13を積層した積層体である場合、FRP層13におけるマトリックス樹脂としては、特に制限されず、熱可塑性樹脂でも熱硬化性樹脂でもよい。熱可塑性樹脂としては、例えば、フェノキシ樹脂、ポリオレフィン及びその酸変性物、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、AS樹脂、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等の熱可塑性芳香族ポリエステル、塩化ビニル、アクリル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル及びその変性物、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイドといったスーパーエンジニアリングプラスチック、ポリオキシメチレン、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、並びにナイロン等から選ばれる1種以上を使用できる。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂等を使用することができる。FRP層12のマトリックス樹脂102としてフェノキシ樹脂を用いる場合は、フェノキシ樹脂と良接着性を有する樹脂組成物によってFRP層13のマトリックス樹脂を形成することが好ましい。ここで、フェノキシ樹脂と良接着性を示す樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、無水マレイン酸などにより酸変性されたポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルスルホン等が挙げられる。ただし、FRP層13におけるマトリックス樹脂としては、FRP層12と同様に熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物であることが好ましく、FRP層12のマトリックス樹脂102と同種又は同一の樹脂組成物であることがより好ましい。
【0097】
<樹脂層101>
樹脂層101は、金属-FRP複合体1の金属部材11とFRP層12との間に介在し、金属部材11とFRP層12とを接合する。この樹脂層101は、金属部材11の表面と、当該表面に最も近接した強化繊維材料103との間に形成されている。より詳しく述べると、強化繊維材料103は、金属部材11とFRP層12とが加熱圧着により接合される際に、強化繊維材料103からなるシート状の強化繊維基材104に含浸されたマトリックス樹脂102が溶融する。この溶融したマトリックス樹脂102とともに流れ出た強化繊維材料103が、強化繊維基材104の表面に、強化繊維材料103に起因する微細な凹凸を形成する。この微細な凹凸を有する強化繊維基材104の表面に位置する強化繊維材料103のうち金属部材11の表面に最も近い部位と、金属部材11との間に、樹脂層101が形成されている。また、上記のようにマトリックス樹脂102が溶融する際、強化繊維材料103を構成する繊維の一部が脱離し、樹脂層101に混入することもあり得る。言い換えると、強化繊維材料103からの毛羽だった繊維が樹脂層101に混入する可能性は排除できない。しかしながら、樹脂層101に混入する繊維は、せいぜい樹脂層101の質量全体に対して5質量%以下であり、樹脂層101を構成する樹脂を強化するほどではない。すなわち、樹脂層101は、樹脂を強化するという観点での繊維を含んでいない。具体的には、樹脂層101は、強化繊維材料103から脱離した繊維の含有率が5質量%以下の層であり、好ましくは繊維を含有しない、熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物のみからなる層である。従って、樹脂層101は、繊維による強化作用が奏されていない部位であり、樹脂層101の曲げ強度や曲げ弾性率などの機械的強度は、樹脂の固化物又は硬化物に固有の機械的強度と同じである。
【0098】
また、樹脂層101は、FRP層12のマトリックス樹脂102と同種の樹脂からなる樹脂組成物により形成されることが必要であり、同一の樹脂からなる樹脂組成物により形成されることが好ましい。FRP層12のマトリックス樹脂と樹脂層101とが、少なくとも同種の樹脂からなる樹脂組成物により形成されることによって、樹脂層101を介した金属部材11とFRP層12との接着性を強固なものとし、金属-FRP複合体1全体の機械的強度を高めることができる。なお、樹脂層101を構成する樹脂の種類や物性等については、上述したマトリックス樹脂102と同様であるので、その詳細な説明を省略する。上述したように、樹脂層101には油面接着性接着剤が添加されていてもよい。
【0099】
後述するように、樹脂層101は、FRP層12のマトリックス樹脂102の形成過程で、金属部材11との界面部分に浸み出た樹脂によって形成されたものであってもよく、あるいは、FRP層12の前駆体と金属部材11との間に、樹脂シートを配置したり、樹脂組成物を塗布したりすること等により形成されたものであってもよい。この場合、樹脂シートまたは塗布液に油面接着性接着剤を添加してもよい。油面接着性接着剤の配合量は上述した方法と同様の方法により決定すればよい。
【0100】
なお、樹脂層101と金属部材11との界面に油面接着性接着剤を塗布し、これらを接着してもよい。例えば、樹脂層101をマトリックス樹脂102の浸み出しによって形成する場合、FRP(またはプリプレグ)及び金属部材11の少なくとも一方の表面に油面接着性接着剤を塗布し、これらを接着してもよい。塗布の方法は特に制限されないが、例えばロールコート、バーコート、スプレー、浸漬、ハケを使った塗布、などが挙げられる。樹脂層101を樹脂シートによって形成する場合、樹脂シートの金属部材11側の表面または金属部材11の表面に油面接着性接着剤を塗布し、これらを接着してもよい。また、樹脂層101を樹脂組成物の塗布により形成する場合、金属部材11及びFRP(またはプリプレグ)のうち、樹脂組成物を塗布しない側の表面に油面接着性接着剤を塗布し、これらを接合してもよい。具体的な塗布量は金属-FRP複合体1が超加成則を示すように調整されればよい。一例として、塗布量は10~500μmの厚さであってもよい。
【0101】
このように、金属部材11の表面に油膜が形成されている場合の対策として、脱脂処理を行う方法、マトリックス樹脂102を形成するための樹脂組成物に油面接着性接着剤を添加する方法、金属部材11と接着樹脂層13との界面に油面接着性接着剤を塗布する方法が挙げられる。これらのいずれか1種を行ってもよいし、2種以上を併用してもよい。上述したように、金属部材11が溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、またはアルミニウムめっき鋼板となる場合、金属部材11の表面に油膜が形成されている場合が多い。したがって、金属部材11がこれらの鋼板となる場合には、上記油膜対策を行うことを検討することが好ましい。
【0102】
◇樹脂層101の厚み
樹脂層101は、金属部材11とFRP層12の強化繊維材料103との間にほぼ均一な厚みで形成されているとともに、ボイドが存在しないため、金属部材11とFRP層12との接着性をより一層強固にできる。一方、樹脂層101は、繊維強化されていない樹脂のみの層であるため、その機械的強度は、FRP層12の強化繊維材料103にマトリックス樹脂102が含侵している部分よりも劣る。そのため、樹脂層101の厚みが大きすぎると、金属-FRP複合体1の機械的強度や耐久性が低下するおそれがある。また、引張強度等の機械的強度の大きなFRP層12の強度の影響を金属部材11にダイレクトに伝えるためには、樹脂層101の厚みがある程度小さい方が好ましい。
【0103】
以上の理由から、樹脂層101の厚みは、例えば、50μm以下であることが好ましく、40μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがさらに好ましく、10μm以下であることが特に好ましい。特に、樹脂層101が、FRP層12のマトリックス樹脂102の原料樹脂組成物に由来する場合(すなわち、マトリックス樹脂102の形成過程で、FRP層12と金属部材11との界面部分にマトリックス樹脂102の原料樹脂組成物が浸み出た樹脂によって形成されたものである場合)には、樹脂層101の厚みは、20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。樹脂層101の厚みが50μmを超えると、繊維で樹脂を強化する効果が薄くなり、金属-FRP複合体1の機械的強度や耐久性が低下するおそれがあるだけでなく、FRP層12の強度の影響を金属部材11にダイレクトに伝えにくくなるため、好ましくない。
【0104】
また、金属部材11とFRP層12との接着性を十分に確保する観点から、樹脂層101の厚みが、1μm以上であることが好ましい。樹脂層101が、樹脂シートの積層や原料樹脂組成物の塗布などの方法によって形成されたものである場合は、さらに、樹脂層101の厚みが、20μm以上であることが好ましい。
【0105】
(せん断強度)
以上の構成を有する金属-FRP複合体1において、金属部材11と、FRP層12(場合によって、FRP層13)を含む繊維強化樹脂材料とのせん断強度は、0.8MPa以上であることが好ましく、1.0MPa超であることがより好ましい。せん断強度を0.8MPa以上とすることで、金属-FRP複合体1の十分な機械的強度を確保でき、優れた耐久性が得られる。なお、本実施形態でのせん断強度は、後述するせん断試験によって測定される値である。したがって、0.8MPaは4.0N/5mmに相当し、1.0MPaは50N/5mmに相当する。
【0106】
なお、上記範囲内のせん断強度は、加熱によって、マトリックス樹脂102及び樹脂層101を構成する樹脂組成物(架橋樹脂組成物を含む。)が、第1の硬化状態である固化物から第2の硬化状態である架橋硬化物へと変化する前後において、ガラス転移温度が変化する。例えば、第1の硬化状態の樹脂組成物のTgが150℃以下であるのに対し、第2の硬化状態樹脂組成物のTgは160℃以上となる。これにより、上記加熱後の金属部材11とFRP層12とのせん断強度をより確実に0.8MPa以上とすることができる。
【0107】
(超加成則について)
本実施形態に係る金属-FRP複合体1の最大荷重は、加成則を超える優れた強度、すなわち超加成則を示すものとなる。ここで、図13に基づいて、本実施形態における超加成則について説明する。図13は、金属部材11単独での引張荷重、FRP単独での引張荷重、及び金属-FRP複合体1での引張荷重をそれぞれ測定した結果を概略的に示すグラフである。ここで、引張荷重の測定は、後述する実施例に示す方法で行われるものとする。図13の横軸は試験片の変形量を示し、縦軸は引張荷重を示す。グラフL1は金属部材11単独での変形量と引張荷重との相関を示し、荷重A1は金属部材単独での最大荷重(引張荷重の最大値)を示す。荷重A2は後述する変形量Dにおける金属部材11の引張荷重を示す。グラフL1における×印は金属部材11が破断した際の変形量及び引張荷重を示す。
【0108】
グラフL2はFRP単独での変形量と引張荷重との相関を示し、荷重BはFRP単独での最大荷重(引張荷重の最大値)を示す。グラフL2における×印はFRPが破断したことを示す。グラフL3は金属-FRP複合体1の変形量と引張荷重との相関を示し、荷重Cは金属-FRP複合体1の最大荷重(引張荷重の最大値)を示す。グラフL3における×印は金属-FRP複合体1が破断したことを示し、変形量Dは金属-FRP複合体1が破断した際の金属-FRP複合体1の変形量(伸び)を示す。
【0109】
本実施形態での超加成則は、超加成則として考えられる以下の式(2-1)、(2-2)のうち、式(2-2)が成立することを意味する。
C>A1+B (2-1)
C>A2+B (2-2)
すなわち、超加成則の成否の判定においては、式(2-2)を満たすかどうかで判定すればよい。ここで、荷重A1は荷重A2よりも大きいので、式(2-1)が満たされれば必然的に式(2-2)が満たされることになることから、式(2-1)を満たす場合も、超加成則が成立すると判定して構わない。
【0110】
ハイテン鋼等のように、A1>>A2の金属の場合には、式(2-2)を満たすが、式(2-1)を満たさないことが多くなるため、式(2-2)でしか超加成則の成立を判定できないが、例えば軟質鋼を使用した場合のように、荷重A1と荷重A2とが近接する金属の場合(例えば、A1/A2<1.1などの場合、(図11がその一例である))には、荷重A1の方が測定し易いことがあり、その場合、式(2-1)に基づいて超加成則を判定する方が簡便に判定できる。その際、式(2-1)を満たさなくても、式(2-2)を満たせば、超加成則は成立すると判断する。
【0111】
なお、仮に荷重Cが荷重A1及び荷重Bの合計荷重と同程度となる場合には、A1>A2のため、超加成則が成立することとなる。後述する比較例に示されるように、本実施形態の要件を満たさない金属-FRP複合体では、荷重Cが荷重A2及び荷重Bの合計荷重を下回ることもありうる。
【0112】
ここで、荷重A2と荷重Bとの合計荷重に対する荷重Cの比(=C/(A2+B))を超加成則度合と定義する。本実施形態では超加成則度合が1.00を超える。超加成則度合は、1.01以上であることが好ましく、1.05以上であることがより好ましい。ここで、上述した超加成則の成立の判定においては、軟質鋼等の荷重A1と荷重A2とが近接する金属の場合には、式(2-1)を用いると簡便に判定できるとしたが、超加成則度合は、C/(A2+B)で算出されることが好ましい。
【0113】
(式(1)について)
金属-FRP複合体1が超加成則を発現するためには、例えば金属部材11及びFRP層12(FRP層13が存在する場合にはFRP層12、13)が上述した構成を有し、かつ以下の式(1)が満たされればよい。
(T1×E1)/(T2×E2)>0.3 ・・・式(1)
【0114】
式(1)中、T1は金属部材11の厚みの合計であり、E1は金属部材11の弾性係数であり、T2はFRP層12の厚みの合計(すなわち強化繊維材料103と樹脂層101との厚みの合計。FRP層13が存在する場合にはFRP層12、13の厚みの合計)であり、E2はFRP層12(FRP層13が存在する場合にはFRP層12、13)の弾性係数である。なお、本実施形態における弾性係数は、室温(25℃)における引張弾性率(ヤング率)を意味するものとする。したがって、T1及びE1は金属部材11に関するパラメータであり、T2及びE2はFRP層12(FRP層13が存在する場合にはFRP層12、13)に関するパラメータである。T1を「金属部材11の厚みの合計」としたのは、FRP層12を複数枚の金属部材11でサンドイッチする等、複数枚の金属部材11を用いて金属-FRP複合体1を作製する場合があるからである。FRP層12は強化繊維材料103及びマトリックス樹脂102からなる層と樹脂層101とで構成される。FRP層12の弾性係数E2は、これらの層の弾性係数を加成則に従って加算することで算出される。例えば、強化繊維材料103及びマトリックス樹脂102からなる層をA、樹脂層101をBとすると、弾性係数E2は、(Aの弾性係数×Aの厚み/FRP層12の総厚みT2)+(Bの弾性係数×Bの厚み/FRP層12の総厚みT2)で算出される。
【0115】
また、強化繊維材料103の厚みに対して樹脂層101が非常に薄い場合がある。この場合、T2は強化繊維材料103の厚みのみとしてもよい。すなわち、接着樹脂層13の厚みを無視してもよい。例えば、強化繊維材料103の厚みに対して樹脂層101の厚みが5μm未満となる場合、樹脂層101の厚みを無視してもよい。なお、複数種類の金属部材11が積層されている場合、E1は加成則に従って算出される。例えば、金属部材11がA、B、・・・で構成される場合、E1は、(Aの弾性係数×Aの厚み/複数の金属部材の総厚みT1)+(Bの弾性係数×Bの厚み/複数の金属部材の総厚みT1)・・・で算出される。同様に、FRP層12に1または複数枚のFRP層13が積層されている場合、E2は加成則に従って算出される。例えば、FRP層12、13をそれぞれA、B,C・・・とすると、E2は、(Aの弾性係数×Aの厚み/複数のFRP層の総厚みT2)+(Bの弾性係数×Bの厚み/複数のFRP層の総厚みT2)・・・で算出される。なお、FRP層12、13の弾性係数は、これらを構成する強化繊維材料103の弾性係数としてもよい。
【0116】
式(1)を満たす金属-FRP複合体1の最大荷重は、加成則を超える優れた強度、超加成則を示すものとなる。その理由は、以下のように推測される。金属-FRP複合体1は、金属部材11と、FRP層12と、これらの間に介在する樹脂層101と、を有する。FRP層12は脆性を有するが、金属部材11は、延性を有し、かつ、弾性係数E1が大きい。このとき、樹脂層101は、金属部材11との接着性に優れたフェノキシ樹脂(A)等を含むため、金属部材11とFRP層12とが、樹脂層101によって強固に接着されている。そのため、金属-FRP複合体1に大きな引張荷重が加えられた場合に、FRP層12(脆性を有する。)が破断することを、金属部材11(延性があり、かつ、弾性係数E1が大きい。)が抑えるように作用する。従って、金属-FRP複合体1は、金属部材11単体やFRP層12単体に比べて、合計厚みが同じ条件で比較した場合に、脆性破壊が遅れ、高い強度を示すものと考えられる。
【0117】
また、金属部材11と樹脂層101を構成する接着樹脂とは、熱膨張率が異なり、金属部材11の方が熱による変化量が大きい。そのため、製造過程で金属-FRP複合体1を高温で成型した後に冷却した場合に、膨張及び収縮が大きな金属部材11に追随して、FRP層12及び樹脂層101には、初めからある程度の圧縮力(内部応力)が加わった状態で固定されている。金属-FRP複合体1に引張荷重が加えられると、圧縮状態にあるFRP層12及び樹脂層101は、非圧縮状態に比べて伸びのマージンが大きくなり、その分だけ破断が遅れるため、結果として金属-FRP複合体1全体が高い引張強度を発揮できるものと考えられる。このような効果は金属部材11の弾性係数E1が大きいほど効果的に得られる。つまり、金属部材11の弾性係数E1が大きいほど、金属-FRP複合体1の単位伸び量に対する引張荷重が大きくなる。そして、上述したように、内部応力によって伸びのマージンが大きくなっている。したがって、金属部材11の弾性係数E1が大きいほど、このマージンに対応する引張荷重(金属-FRP複合体1を上記のマージン分だけ伸ばすために必要な引張荷重)が大きくなるので、金属-FRP複合体1はより大きな引張荷重に耐えることができる。
【0118】
ここで、上記式(1)は、以下のような実験により導出されたものである。
すなわち、金属部材の厚み及び弾性係数、FRPの厚み及び弾性係数を変えた多数のサンプルについて、加成則を超える強度が得られたか否かをそれぞれ実験により検証した上で、FRPの厚みを横軸にとり、金属部材の厚みを縦軸にとった座標平面に対し、各サンプルの検証結果(加成則を超える強度が得られたか否か)をプロットした。その上で、加成則を超える強度が得られた領域の境界を表す直線を、公知の統計解析処理により近似曲線として表した結果から、導出されたものである。上記の式(1)によれば、例えば、FRP層12の弾性係数E2を固定した場合、金属部材11の弾性係数E1が高ければ、金属部材11の合計の厚みT1を薄くしても加成則を超える優れた強度を実現できる。逆に、金属部材11の弾性係数E1が低ければ、加成則を超える優れた強度を実現するために、金属部材11の合計厚みT1を厚くすることとなる。
【0119】
以上のような理由から、上記式(1)を満たす金属-FRP複合体1として、金属部材11の材質が鉄(鉄鋼材料、鉄系合金など)であるものが好ましい。鉄は、弾性係数E1が約200GPa程度と大きく、靭性を有するので、厚みT1を小さくしても優れた強度を維持することができる。また、金属部材11の材質としては、鉄ほどではないが、弾性係数E1の大きなチタン(約105GPa)、アルミニウム(約70GPa)なども好ましく用いられる。
【0120】
なお、金属部材11、FRP層12及び樹脂層101の厚みは、以下のようにJIS K 5600-1-7、5.4項の光学的方法の断面法に準拠して、測定することができる。すなわち、試料に有害な影響を及ぼさずに、隙間なく埋め込める常温硬化樹脂を用い、リファインテック株式会社製の低粘性エポマウント27-777を主剤に、27-772を硬化剤に用い、試料を埋め込む。切断機にて観察すべき箇所において、厚さ方向と平行となるように試料を切断して断面を出し、JIS R 6252又は6253で規定する番手の研磨紙(例えば、280番手、400番手又は600番手)を用いて研磨して、観察面を作製する。研磨材を用いる場合は、適切な等級のダイヤモンドペースト又は類似のペーストを用いて研磨して、観察面を作製する。また、必要に応じてバフ研磨を実施して、試料の表面を観察に耐えられる状況まで平滑化してもよい。
【0121】
最適な像のコントラストを与えるのに適切な照明システムを備えた顕微鏡で、1μmの精度の測定が可能な顕微鏡(例えば、オリンパス社製BX51など)を用い、視野の大きさは300μmとなるように選択する。なお、視野の大きさは、それぞれの厚みが確認できるように変えてもよい(例えば、FRP層12の厚みが1mmであれば、厚みが確認できる視野の大きさに変えてもよい)。例えば、樹脂層101の厚みを測定するときは、観察視野内を図4のように4等分して、各分画点の幅方向中央部において、樹脂層101の厚みを計測し、その平均の厚みを当該視野における厚みとする。この観察視野は、異なる箇所を5箇所選んで行い、それぞれの観察視野内で4等分して、各分画にて厚みを測定し、平均値を算出する。隣り合う観察視野同士は、3cm以上離して選ぶとよい。この5箇所での平均値を更に平均した値を、樹脂層101の厚みとすればよい。また、金属部材11やFRP層12の厚みの測定においても、上記樹脂層101の厚みの測定と同様に行えばよい。
【0122】
なお、金属部材11、樹脂層101及び強化繊維材料103のお互いの境界面が比較的明瞭な場合には、上記の方法によって樹脂層101の厚みを測定することができる。しかし、樹脂層101と強化繊維材料103との境界面は常に明瞭であるとは限られない。例えば、樹脂層101をマトリックス樹脂102の浸み出しによって形成する場合、境界面が不明瞭となることが多い。このような場合、以下の方法で境界線を特定してもよい。すなわち、ダイヤモンド砥石が付着したグラインダーなどを用いて、金属-FRP複合体1を金属部材11側から削り落としていく。そして、切削面を上記顕微鏡で観察し、強化繊維材料103を構成する繊維部分の面積率(観察視野の総面積に対する繊維部分の面積率)を測定する。なお、複数の観察視野で面積率を測定し、それらの算術平均値を繊維部分の面積率としてもよい。そして、繊維部分の面積率が10%を超えた際の切削面を樹脂層101と強化繊維材料103との境界面としてもよい。
【0123】
((T1×E1)/(T2×E2)の好ましい範囲について)
上述したように、超加成則度合は1.01以上であることが好ましく、1.05以上であることがより好ましい。つまり、超加成則度合は大きいほど好ましいと言える。そして、本発明者が後述する実施例(金属-FRP複合体1を様々な製造条件で作製し、それらの特性を評価する実施例)の結果を詳細に検証したところ、(T1×E1)/(T2×E2)と超加成則度合との間には相関が存在することが明らかになった。各実施例の製造条件は様々なので、各実施例の超加成則度合を単純比較することはできない。そこで、本発明者は、製造条件を平準化させたときの超加成則度合を推定し、その結果を横軸が(T1×E1)/(T2×E2)、縦軸が超加成則度合となる平面上にプロットしたところ、図14に示すグラフL4が得られた。このグラフL4によれば、(T1×E1)/(T2×E2)が0.3となった際に超加成則度合が1.00となり、(T1×E1)/(T2×E2)が0.3より大きくなると(すなわち式(1)が満たされると)超加成則度合が1.00を超える。さらに、(T1×E1)/(T2×E2)が1.7~6.0の範囲内で超加成則度合が極大値をとる。したがって、(T1×E1)/(T2×E2)の好ましい下限値は1.7以上であり、好ましい上限値は6.0以下であることがわかる。(T1×E1)/(T2×E2)がこの範囲内の値となる際に、超加成則度合は1.01以上、さらには1.05以上の値となる。より好ましい下限値は2.5以上であり、より好ましい上限値は3.0以下である。(T1×E1)/(T2×E2)が2.5以上3.0以下となる場合に、超加成則度合が極大値となるか、あるいは極大値により近い値となるからである。極大値は1.05より大きく、例えば2.7程度となりうる。
【0124】
[金属-繊維強化樹脂材料複合体の製造方法]
以上、本実施形態に係る金属-繊維強化樹脂材料複合体としての金属-FRP複合体1の構成を詳細に説明したが、続いて、図5図9を参照しながら、本実施形態に係る金属-FRP複合体1の製造方法について説明する。図5図9は、金属-FRP複合体1の製造工程例を示す説明図である。
【0125】
本実施形態に係る金属-FRP複合体1の製造方法は、FRP層12を作製する段階(1)と、金属部材11とFRP層12とのせん断強度を0.8MPa以上にする段階(2)と、を含む。段階(1)では、強化繊維基材104と、強化繊維基材104に含浸された第1の硬化状態のマトリックス樹脂102と、第1の硬化状態の樹脂層101とを有するFRP層12を作製する。段階(2)では、加熱により、マトリックス樹脂102及び樹脂層101を構成する樹脂組成物を第1の硬化状態から第2の硬化状態へと変化させる前後において、上記樹脂組成物のガラス転移温度を変化させ、これにより、加熱後の金属部材11とFRP層12とのせん断強度を0.8MPa以上にする。
【0126】
上記段階(1)において、第1の硬化状態の樹脂層101が、強化繊維基材104に含浸されたマトリックス樹脂102が金属部材11の表面に浸み出すことにより形成されることが好ましい。
【0127】
また、上記段階(1)において、第1の硬化状態のマトリックス樹脂102が、樹脂成分100質量部に対してフェノキシ樹脂(A)を50質量部以上含むことが好ましい。
【0128】
また、上記段階(1)において、第1の硬化状態のマトリックス樹脂102が、フェノキシ樹脂(A)100質量部に対して、5質量部以上85質量部以下の範囲内の架橋硬化性樹脂(B)をさらに含有する架橋性樹脂組成物であることが好ましい。この場合、第1の硬化状態が、マトリックス樹脂102及び樹脂層101を形成するための樹脂組成物の固化物であり、第2の硬化状態が、マトリックス樹脂102及び樹脂層101を形成するための樹脂組成物の架橋硬化物である。
【0129】
以上のような金属-FRP複合体1の製造方法のより具体的な方法として、例えば以下の製造方法1~製造方法3を挙げることができる。
【0130】
[製造方法1]
第1に、図5~7を参照しながら、製造方法1の流れを説明する。製造方法1は、例えば、工程A及び工程Bを含む。
【0131】
<工程A>
工程Aは、強化繊維基材104の少なくとも片側の面に、熱可塑性樹脂を含有する原料樹脂組成物の部分融着構造105Aが形成されたプリプレグ106を形成する工程である。この工程Aを実施する方法としては、例えば、以下の方法A1又は方法A2がある。
【0132】
(方法A1)
方法A1は、さらに以下の工程a及び工程bを含み得る。
工程a:
工程aでは、図5(a)、(b)に示すように、強化繊維材料103からなるシート状の強化繊維基材104の少なくとも片面に、常温で固体の原料樹脂組成物の微粉末105を付着させて樹脂付着繊維基材104Aを形成する。微粉末105を強化繊維基材104に付着させる方法としては、例えば、粉体塗装法を使用できる。ここで、原料樹脂組成物には、上述した油面接着性接着剤を添加してもよい。粉体塗装法によれば、原料樹脂組成物が微粒子であるために溶融しやすく、かつ塗布後の塗膜内に適度な空隙を持つため、空気の逃げ道となり、ボイドが発生しにくくなる。後述する工程Bでプリプレグ106と金属部材11とを加熱圧着する際は、プリプレグ表面で溶融した樹脂が、はじめに金属部材11の表面に速やかに濡れ広がってから強化繊維基材104の内部に含浸する。そのため、従来用いられていた溶融含浸法に比べ、金属部材11表面への溶融樹脂の濡れ性不足に起因した不良が起こりにくい。すなわち、強化繊維基材104から押し出された樹脂により金属部材11と接着する溶融含浸法では、作製されたプリプレグにおいて、溶融樹脂による金属部材11表面への濡れ性が不十分となりやすいが、粉体塗装法では、この問題が解消される。
【0133】
粉体塗装法としては、例えば、静電塗装法、流動床法、サスペンジョン法が主な工法として挙げられるが、これらの中でも、静電塗装法および流動床法は、熱可塑性樹脂に適した方法であり、工程が簡便で生産性が良好であることから好ましい。特に、静電塗装法は、強化繊維基材104への原料樹脂組成物の微粉末105の付着の均一性が良好であることから最も好ましい。
【0134】
なお、図5(b)では、樹脂付着繊維基材104Aの片側の面に原料樹脂組成物の微粉末105が付着した状態を示しているが、樹脂付着繊維基材104Aの両側の面に微粉末105が付着していてもよい。
【0135】
(粉体塗装法による塗装条件)
粉体塗装法に用いる原料樹脂組成物の微粉末105の平均粒子径は、例えば、10μm以上100μm以下の範囲内が好ましく、40μm以上80μm以下の範囲内であることがより好ましく、40μm以上50μm以下の範囲内であることがさらに好ましい。微粉末105の平均粒子径を100μm以下とすることで、静電場における粉体塗装において、微粉末105が繊維に衝突する際のエネルギーを小さくでき、強化繊維基材104への付着率を高めることができる。また、平均粒子径を10μm以下とすることで、随伴気流によって粒子が飛散することによる付着効率の低下を抑制できるほか、大気中を浮遊する原料樹脂組成物の微粉末105により作業環境の悪化が引き起こされることを防止できる。原料樹脂組成物の微粉末化の方法としては、低温乾燥粉砕機(セントリドライミル)等の粉砕混合機の使用が好適であるが、これに制限されるものではない。また、原料樹脂組成物の粉砕に際しては、原料となる複数の成分を粉砕してから混合してもよく、あらかじめ複数の成分を配合した後に粉砕してもよい。
【0136】
粉体塗装では、原料組成物の微粉末105の強化繊維基材104への付着量(樹脂割合:RC)が、例えば、20%以上50%以下の範囲内となるように塗工することが好ましい。RCは、25%以上45%以下の範囲内となることがより好ましく、25%以上40%以下の範囲内となることがさらに好ましい。RCを50%以下とすることにより、FRPの引張及び曲げ弾性率等の機械物性の低下を防ぐことができる。また、RCを20%以上とすることにより、必要な樹脂の付着量が確保できることから強化繊維基材の内部へのマトリックス樹脂106の含浸が十分となり、熱物性及び機械物性を高くできる。
【0137】
(強化繊維基材に関する条件)
強化繊維材料103からなるシート状の基材である強化繊維基材104としては、例えば、チョップドファイバーを使用した不織布基材や連続繊維を使用したクロス材、一方向強化繊維基材(UD材)などを使用することができる。補強効果の面からは、強化繊維基材としてクロス材やUD材を使用することが好ましい。また、強化繊維材料103の種類については、例えば、PAN系、ピッチ系のいずれを使用してもよく、目的や用途に応じて、これらのうちの1種を単独で使用してもよいし、又は2種以上を併用してもよい。
【0138】
強化繊維基材104として炭素繊維のクロス材やUD材を使用する場合、炭素繊維が開繊処理されているもの(フィラメントと呼称される。)が好ましい。一般に、炭素繊維は、千本~数万本もの多数の短繊維からなる繊維束であり、その断面は円形又はやや扁平な楕円形状である。このため、繊維束内部にまで樹脂を確実に含浸させることが難しい。開繊処理とは公知の力学的手法によって、この炭素繊維束を幅方向に拡幅して薄くしたものである。開繊処理により樹脂含浸性が非開繊品よりも大きく向上するため、成形品の物性も向上する。なお、強化繊維基材104の目付は、40g/m以上250g/m以下の範囲内であることが好ましい。40g/m以上の目付量とすることで、成形物における強化繊維数を多くできるため所望の機械物性が得られる。また、250g/m以下の目付量とすることで、強化繊維基材104の内部に樹脂を十分に含浸させることが容易になる。
【0139】
工程b:
工程bでは、図5(b)、(c)に示すように、樹脂付着繊維基材104Aに加熱処理を施し、原料樹脂組成物の微粉末105を不完全に溶融させた後、固化させることによって、原料樹脂組成物による部分融着構造105Aを有するプリプレグ106を形成する。ここで、「不完全に溶融させる」とは、原料樹脂組成物の微粉末105の全部が液滴化し流動するまで溶融させるのではなく、微粉末105の一部分は完全に液滴化するが、大部分の微粉末105は表面のみが液滴化し、中心部分は固体状を保っている状態までしか溶融させないことを意味する。また、「部分融着構造105A」は、強化繊維基材104の表層部近傍において、微粉末105が加熱処理によって部分的に溶融し、近接する微粉末105の溶融物が融着して網目状に連携した状態で固化したものである。部分融着構造105Aによって、強化繊維基材104への密着性が高まり、微粉末105の脱落を防止できるとともに、強化繊維基材104の厚み方向に一定の通気性が確保される。そのため、後述する工程Bの加熱加圧処理において、強化繊維基材104内の空気の逃げ道が確保され、ボイドの発生を回避できる。なお、部分融着構造105Aは、プリプレグ106の面全体に均等に形成されていることが好ましいが、微視的に偏在していても差し支えない。
【0140】
なお、図5(c)では、プリプレグ106の片側の面に部分融着構造105Aが形成された状態を示しているが、プリプレグ106の両側の面に部分融着構造105Aが形成されていてもよい。
【0141】
(加熱処理条件)
加熱処理は、原料樹脂組成物の微粉末105を不完全に溶融させて部分融着構造105Aの形成を可能にするため、使用する原料樹脂組成物の融点やTgによるが、概ね100~400℃の範囲内の温度により行うことが好ましい。また、原料樹脂組成物が結晶性樹脂であれば、融点以下の温度により行うことがより好ましく、非結晶性樹脂であれば、Tg+150℃以内の温度により行うことがより好ましい。加熱処理温度が概ね400℃を超えると、微粉末105の熱融解が進み過ぎて部分融着構造105Aが形成されず、通気性が損なわれるおそれがある。また、加熱処理温度が概ね100℃を下回ると、部分融着構造105Aが形成されず、強化繊維基材104への熱融着が不十分となり、プリプレグ106の取扱作業時に、微粉末105の粉落ち、脱落等が発生する可能性がある。
【0142】
また、加熱処理時間は、強化繊維基材104に付着した原料樹脂組成物の微粉末105を強化繊維基材104に固定できれば特に制限はされないが、例えば1~5分間が好適である。すなわち、成形時よりも遥かに短時間で熱処理を行うことによって、強化繊維基材104に樹脂を部分融着構造105Aの状態で固定し、粉落ちを防止できる。
【0143】
加熱処理後のプリプレグ106の段階では、原料樹脂組成物(部分融着構造105A及び微粉末105のままのもの)は強化繊維基材104の表面付近に集中しており、後述する工程Bによる加熱加圧後の成形体のように強化繊維基材104の内部にまで行き渡っていない。なお、加熱処理は、樹脂付着繊維基材104Aと金属部材11とを接触させた状態で行ってもよい。
【0144】
(方法A2)
方法A2は、上記方法A1における工程a及び工程bを一括で行う方法である。すなわち、図示は省略するが、所定温度まで加熱したシート状の強化繊維基材104の少なくとも片面に、常温で固体の原料樹脂組成物の微粉末105を粉体塗装法によって付着させ、微粉末105を不完全に溶融させた後、固化させることによって、部分融着構造105Aが形成されたプリプレグ106を形成する。方法A1では、粉体塗装された微粉末105を加熱処理により強化繊維基材104に固定したが、方法A2では、予め加熱された強化繊維基材104に微粉末105を粉体塗装することにより、強化繊維基材104への塗工と同時に融着させて部分融着構造105Aを形成させるという違いがある。
【0145】
方法A2における各種処理条件は、上記方法A1と同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0146】
(プリプレグの厚み)
工程Aで得られるプリプレグ106は、厚みが40μm以上200μm以下の範囲内であることが好ましく、50μm以上150μm以下の範囲内であることがより好ましい。プリプレグ106の厚みを40μm以上とすることにより、ハンドリング性を向上させ、樹脂不足による含浸不良を回避できる。プリプレグ106の厚みを200μm以下とすることで、後述する工程Bで強化繊維基材104へ溶融樹脂を十分に含浸させることができ、機械的強度を向上させることができる。
【0147】
(プリプレグの通気度)
プリプレグ106は、厚みが40~200μmのときの厚み方向における通気度が500cc/cm/sec以上1000cc/cm/sec以下の範囲内であることが好ましく、700cc/cm/sec以上900cc/cm/sec以下の範囲内であることがより好ましい。通気度を500cc/cm/sec以上とすることにより、後述する工程Bの加熱加圧処理において、プリプレグ106内の空気の逃げ道が多くなり、ボイドが発生しにくくなる。すなわち、緻密な金属部材11との接着においては、プリプレグ106中に存在する空気は、その厚み方向に、接着面と反対側へ逃がすことが重要であるため、通気度を500cc/cm/sec以上に制御することによって、プリプレグ106からの脱気を容易にすることができる。一方、通気度を1000cc/cm/sec以下とすることで、原料樹脂組成物の微粉末105が脱落しにくくなり、ハンドリング性を高めることができる。
【0148】
プリプレグ106は、その表面の凹凸が表面粗さとして算術平均粗さ(Ra)で0.010mm以上0.100mm以下の範囲内であることが好ましく、0.015mm以上0.075mm以下の範囲内であることがより好ましい。Raが上記範囲内であることにより、後述する工程Bの加熱加圧処理において、プリプレグ106内の空気が側面からも抜けることができる。このため、プリプレグ106を緻密な金属部材11で挟み込むような接着においてもプリプレグ106と金属部材11が強固に接着し、機械強度の優れた金属-FRP複合体1が得られる。なお、Raが0.010mm未満であると加熱加圧処理でプリプレグ106同士またはプリプレグ106と他のプリプレグとが容易に融着してしまうため、空気の逃げ道がなくなりボイド発生の原因となるとともに、Raが0.100mmを超えるとボイドの抜け残りを生じたりするので好ましくない。
【0149】
(プリプレグにおける樹脂濃度勾配)
原料樹脂組成物による部分融着構造105Aが形成されたプリプレグ106では、元の強化繊維基材104の端面を基準にして、該強化繊維基材104の厚さに対して、厚み方向の0~50%の範囲内に原料樹脂組成物の10質量%以上が付着していることが好ましく、10質量%以上40質量%以下が付着していることがより好ましい。このように、原料樹脂組成物の付着濃度に勾配を設けることによって、次の工程Bで、プリプレグ106における部分融着構造105Aが形成された面を金属部材11と当接して加熱加圧する際に、プリプレグ106と金属部材11との境界に溶融樹脂を十分に展延させることができる。すなわち、熱伝導率が高く、加熱されやすい金属部材11の性質を利用し、その表面に、部分融着構造105Aを含む高濃度の固体状の原料樹脂組成物を接触させることで、樹脂の溶融を促進し、接着境界に多量の溶融樹脂を供給できる。そのため、溶融粘度が比較的大きな原料樹脂組成物についても、短時間でプリプレグ106の全体に浸透できるだけでなく、樹脂層101も形成できる。なお、部分融着構造105Aの形成によって、金属部材11と接着する面側の樹脂濃度を高くすることによっても、通気度を上記範囲内に制御することにより、工程Bにおいてプリプレグ106中に存在する空気を、プリプレグ106の厚み方向に接着面と反対側へ逃がすことができるので、ボイドの発生が回避される。
【0150】
<工程B>
工程Bでは、図6(a)、(b)に示すように、工程Aで得たプリプレグ106の部分融着構造105Aが形成された面を、金属部材11の表面に当接させた状態で加熱加圧処理を施すことによって、金属部材11とプリプレグ106とを加熱圧着させる。加熱加圧処理により、プリプレグ106に付着している原料樹脂組成物を完全に溶融させて金属部材11の表面に濡れ広げる(浸み出す)と同時に、強化繊維基材104に含浸させる。このように含浸させた原料樹脂組成物が固化又は硬化することによって、マトリックス樹脂102となり、繊維強化樹脂材料としてのFRP層12が形成されるとともに、このFRP層12が金属部材11に接合される。また、工程Bでは、プリプレグ106における原料樹脂組成物の部分融着構造105Aが、加熱加圧処理において金属部材11に当接して薄膜状に濡れ広がることによって、強化繊維材料103がほとんど存在せず(5質量%以下しか存在せず)、ほぼ樹脂のみによる樹脂層101を形成することができる。このようにして、FRP層12と金属部材11とが強固に接合された金属-FRP複合体1が形成される。
【0151】
工程Bの加熱圧着工程では、加熱によって原料樹脂組成物が完全に溶融して液状となり、加圧によってプリプレグ106内に浸透していく。所定の通気度に制御されたプリプレグ106内では、空気の逃げ道が確保されているため、溶融樹脂が空気を追い出しながら浸透していき、比較的低い圧力でも短時間で含浸が完了し、ボイドの発生も回避できる。
【0152】
加熱圧着温度は、原料樹脂組成物の微粉末105と部分融着構造105Aを完全に溶融させて強化繊維基材104の全体に含浸させるため、使用する原料樹脂組成物の融点やTgに応じて適宜設定できる。なお、温度等の加熱圧着条件については後述する。
【0153】
工程Bでは、加熱圧着と同時に、金属部材11及びプリプレグ106を任意の3次元形状に成形加工してもよい。この場合、金属部材11とプリプレグ106とを圧着し、成形する際の圧力は、金属部材11のプレス成形に必要な圧力を基準とすることが好ましい。製造方法1では、金属部材11とプリプレグ106を一括成形することによって3次元形状を有する複合体を作成することが好ましいが、工程Bにおいて、予め任意の3次元形状に成形された金属部材11にプリプレグ106を圧着する方法にも適する。
【0154】
加圧成形機による金属部材11とFRP層12の複合一括成形は、ホットプレスで行われることが好ましいが、あらかじめ所定の温度まで余熱した材料を速やかに低温の加圧成形機に設置して加工してもよい。なお、加熱成型機に部材を設置するときに、金属部材11とプリプレグ106とを予め仮止めしておいてもよい。仮止め条件は、プリプレグ106の部分融着構造105Aが保たれ、通気性が確保されている状態であれば特に制限されない。
【0155】
得られた金属-FRP複合体1は、図6(b)に示すように、金属部材11と、繊維強化樹脂材料としてのFRP層12と、を備えたものとなる。また、図6(b)及び図7に示すように、FRP層12は、マトリックス樹脂102と、当該マトリックス樹脂102中に含有され、複合化された強化繊維である強化繊維材料103と、を有している。また、FRP層12には、その一部分であって、金属部材11の表面と、当該表面に最も近接した強化繊維材料103との間に樹脂層101が形成されている。樹脂層101は、プリプレグ106の部分融着構造105Aが形成された側の表面に付着していた原料樹脂組成物の微粉末105が、工程Bの加熱圧着において金属部材11に当接して薄膜状に濡れ広がり、それが固化又は硬化して形成されたものである。樹脂層101は、強化繊維材料103がほとんど存在しない、ほぼ樹脂のみからなる層である。つまり、樹脂層101は、強化繊維材料103から脱離した繊維が混入する可能性は否定できないものの、樹脂を強化できる程の量の繊維を含んでいない。
【0156】
なお、上記製造方法1において、油面接着性接着剤を樹脂組成物に添加してもよい。具体的な添加方法は特に制限されないが、例えば以下の方法が挙げられる。油面接着性接着剤が液体である場合、原料樹脂組成物を細かく裁断、粉砕して、油面接着性接着剤と混合し、これを原料として上述した製造方法1と同様の工程を行ってもよい。裁断、粉砕する方法としては上記で示した微粉末化の方法を使ってもよい。油面接着性接着剤が固体の場合は、油面接着性接着剤を有機溶剤に溶解させ、その溶液を、原料樹脂組成物と混合し、有機溶剤を揮発・乾燥させ、これを原料として上述した製造方法1と同様の工程を行ってもよい。また、油面接着性接着剤と原料樹脂組成物を攪拌機などで物理的に裁断、粉砕し、混合して得られた混合物を原料として上述した製造方法1と同様の工程を行ってもよい。
【0157】
[製造方法2]
次に、図8を参照しながら、製造方法2について説明する。製造方法2では、原料樹脂組成物による塗膜20(樹脂層101となるもの)を金属部材11の表面に形成した後、FRP層12となるFRP、又は所望の形状に加工されたFRP成形用プリプレグ21を積層して加熱圧着することによって、金属-FRP複合体1を製造する。FRP成形用プリプレグ21は、FRPの前駆体である。なお、製造方法2では、金属部材11側でなく、FRP層12となるFRP側又はFRP成形用プリプレグ21側に塗膜20を形成してもよいが、以下、金属部材11側に塗膜20を形成する場合を例に挙げて説明する。
【0158】
まず、図8(a)に示すように、金属部材11の少なくとも片側の面に、粉状又は液状の原料樹脂組成物を塗工し、塗膜20を形成する。原料樹脂組成物には、上述した油面接着性接着剤を添加してもよい。添加の方法は製造方法1にて説明した方法と同様であればよい。
【0159】
次に、図8(b)に示すように、塗膜20が形成された側に、FRP層12となるFRP成形用プリプレグ21を重ねて配置し、金属部材11と塗膜20とFRP成形用プリプレグ21とがこの順序に積層された積層体を形成する。なお、図8(b)において、FRP成形用プリプレグ21に代えて、FRPを積層することもできる。この場合、FRPの接着面は、例えば、ブラスト処理等による粗化や、プラズマ処理、コロナ処理などによる活性化がなされていることが好ましい。
【0160】
次に、形成した積層体を加熱・加圧することによって、図8(c)に示すように、金属-FRP複合体1が得られる。
【0161】
製造方法2において、樹脂層101となる塗膜20を形成する方法としては、金属部材11の表面に、原料樹脂組成物の粉末を粉体塗装する方法が好ましい。粉体塗装により形成された樹脂層101は、原料樹脂組成物が微粒子であるために溶融しやすく、かつ塗膜20内に適度な空隙を持つためボイドが抜けやすい。そのため、FRP又はFRP成形用プリプレグ21を加熱圧着する際に原料樹脂組成物が金属部材11の表面を良く濡らすためワニス塗工のような脱気工程が不要であり、フィルムで見られるようなボイドの発生などの濡れ性の不足に起因した不良が起こりにくい。
【0162】
製造方法2では、図8(a)において、金属部材11の両面に塗膜20を形成し、図8(b)において、両方の塗膜20のそれぞれに、FRP成形用プリプレグ21(又はFRP)を積層してもよい。また、2枚以上の金属部材11を使用して、FRP層12を含む繊維強化樹脂材料をサンドウィッチ状に挟み込むように積層してもよい。さらに、FRP層13となるFRP成形用プリプレグ(又はFRP)を積層してもよい。
【0163】
[製造方法3]
次に、図9を参照しながら、製造方法3について説明する。製造方法3では、フィルム化した原料樹脂組成物と、FRP層12となるFRP又はFRP成形用プリプレグ21を金属部材11に積層して加熱圧着することによって、金属-FRP複合体1を製造する。
【0164】
この製造方法3では、例えば図9(a)に示すように、金属部材11の少なくとも片側の面に、原料樹脂組成物をフィルム状にした樹脂シート20Aと、FRP層12となるFRP成形用プリプレグ21とを重ねて配置し、金属部材11と樹脂シート20AとFRP成形用プリプレグ21とがこの順序に積層された積層体を形成する。樹脂シート20Aには、上述した油面接着性接着剤が添加されていてもよい。なお、図9(a)において、FRP成形用プリプレグ21に代えて、FRPを積層することもできるが、このときFRPの接着面は、例えば、ブラスト処理等による粗化や、プラズマ処理、コロナ処理などによる活性化がなされていることが好ましい。
【0165】
次に、この積層体を加熱・加圧することによって、図9(b)に示すように、金属-FRP複合体1が得られる。
【0166】
製造方法3では、図9(a)において、金属部材11の両面に、それぞれ樹脂シート20AとFRP成形用プリプレグ21(又はFRP)を積層してもよい。また、2枚以上の金属部材11を使用して、FRP層12を含む繊維強化樹脂材料をサンドウィッチ状に挟み込むように積層してもよい。さらに、FRP層13となるFRP成形用プリプレグ(又はFRP)を積層してもよい。
【0167】
(加熱圧着条件)
以上の製造方法1~3において、金属部材11と、樹脂シート20Aと、FRP層12となるFRP成形用プリプレグ21(又はFRP)と、を複合化するための加熱圧着条件は、以下の通りである。
【0168】
加熱圧着温度は、特に限定されないが、例えば、100℃以上400℃以下の範囲内、好ましくは150℃以上300℃以下、より好ましくは160℃以上270℃以下の範囲内、さらに好ましくは180℃以上250℃以下の範囲内である。このような温度範囲内において、結晶性樹脂であれば融点以上の温度がより好ましく、非結晶性樹脂であればTg+150℃以上の温度がより好ましい。上限温度を超えると、過剰な熱を加えてしまうため樹脂の分解が起きる可能性があり、また、下限温度を下回ると樹脂の溶融粘度が高いため、強化繊維材料への付着性及び強化繊維基材への含浸性が悪くなる。
【0169】
加熱圧着する際の圧力は、例えば、3MPa以上が好ましく、3MPa以上5MPa以下の範囲内がより好ましい。圧力が上限を超えると、過剰な圧力を加えてしまうため、変形や損傷が発生する可能性があり、また下限を下回ると強化繊維基材への含浸性が悪くなる。
【0170】
加熱圧着時間については、少なくとも3分以上あれば十分に加熱圧着が可能であり、5分以上20分以下の範囲内であることが好ましい。ただし、製造方法1では、上記の部分融着構造105A、樹脂の濃度勾配及び通気度の制御によって、例えば製造方法3のフィルムスタック法に比べて含浸時間を短縮できるため、少なくとも1分間以上あれば加熱圧着が可能であり、加熱圧着時間が1~10分間の範囲内であることが好ましい。
【0171】
なお、加熱圧着工程では、加圧成形機により、金属部材11と、樹脂シート20Aと、FRP層12となるFRP成形用プリプレグ21(又はFRP)と、の複合一括成形をおこなってもよい。複合一括成形は、ホットプレスで行われることが好ましいが、あらかじ所定の温度まで予熱した材料を速やかに低温の加圧成形機に設置して加工することもできる。上記のような加熱圧着工程を行うことで、FRP層12に圧縮力(内部応力)を加えた状態でFRP層12を金属部材11に接合することができ、ひいては上述した超加成則を発現することができる。
【0172】
ここで、金属部材11とFRP層12となるFRP成形用プリプレグ21(又はFRP)とを加熱圧着して複合化する際、金属部材11側の温度をFRP成形用プリプレグ21(又はFRP)の温度よりも高くしておくことが好ましい。具体的には、例えば、金属部材11を予熱しておいた状態で、予熱をしていないFRP成形用プリプレグ21(又はFRP)とともに加圧成形機に設置して加工すればよい。このように、金属部材11側の温度をFRP成形用プリプレグ21(又はFRP)の温度よりも高くしておくことにより、FRP層12からのマトリックス樹脂102をより確実に浸み出させることが可能となるとともに、金属部材11とFRP層12とをより強固に接着させることができるようになる。
【0173】
(追加の加熱工程)
製造方法1~製造方法3において、樹脂層101を形成するための樹脂組成物や、マトリックス樹脂102を形成するための原料樹脂として、フェノキシ樹脂(A)に架橋性硬化樹脂(B)及び架橋剤(C)を含有した架橋性樹脂組成物を使用する場合、さらに、追加の加熱工程を含めてもよい。
【0174】
架橋性樹脂組成物を使用する場合は、上記加熱圧着工程で、固化はしているが架橋形成(硬化)はしていない第1の硬化状態の樹脂層101及びマトリックス樹脂102を含むFRP層12を形成することができる。すなわち、上記加熱圧着工程を経て、金属部材11と、第1の硬化状態の硬化物(固化物)による樹脂層101を含むFRP層12と、が積層され一体化された、金属-FRP複合体1の中間体(プリフォーム)を作製できる。そして、この中間体に対し、加熱圧着工程の後で、さらに追加の加熱工程を実施することによって、少なくとも第1の硬化状態の硬化物(固化物)による樹脂層101に対しポストキュアを行い、樹脂を架橋硬化させて第2の硬化状態の硬化物(架橋硬化物)へ変化させることができる。
【0175】
なお、上記の中間体には、FRP層12以外に、このFRP層12に積層された他のFRP層13を含めてもよい。この場合、FRP層13のマトリックス樹脂が、架橋性樹脂組成物を原料として形成された第1の硬化状態であってもよい。この場合、FRP層13のマトリックス樹脂についても、ポストキュアによって架橋硬化させ、第2の硬化状態の架橋硬化物とすることができる。
【0176】
ポストキュアのための追加の加熱工程は、例えば、200℃以上250℃以下の範囲内の温度で30分間~60分間程度の時間をかけて行うことが好ましい。なお、ポストキュアに代えて、塗装などの後工程での熱履歴を利用してもよい。
【0177】
上述の通り、架橋性樹脂組成物を用いると、架橋硬化後のTgが、フェノキシ樹脂(A)単独よりも大きく向上する。そのため、上述した中間体に対して追加の加熱工程を行う前後、すなわち、樹脂が第1の硬化状態の硬化物(固化物)から第2の硬化状態の硬化物(架橋硬化物)へ変化する過程で、Tgが変化する。具体的には、中間体における架橋前の樹脂のTgは、例えば150℃以下であるのに対し、追加の加熱工程後の架橋形成された樹脂のTgは、例えば160℃以上、好ましくは170℃以上220℃以下の範囲内に向上するので、耐熱性を大幅に高めることができる。
【0178】
(前処理工程)
金属-FRP複合体1を製造する際、金属部材11とFRP成形用プリプレグ21(又はFRP)とを複合化する前処理工程として、金属部材11を脱脂することが好ましく、金型への離型処理や金属部材11表面の付着物の除去(ゴミ取り)を行うことがより好ましい。TFS(Tin Free Steel)のように密着性が非常に高い鋼板を除き、通常は、防錆油などが付着した鋼板等の金属部材11は、脱脂をして密着力を回復させないと、上述した加成則を超える強度を得ることは難しい。そこで、金属部材11に上記の前処理を行うことで、金属-FRP複合体1が加成則を超える強度を得やすくなる。脱脂の必要性については、事前に、対象とする金属部材を、脱脂工程無しで、対象とするFRPに対象とする接着樹脂組成物により接合して一体化し、実際に超加成則が生じるかどうかを確認して、判断すればよい。超加成則が生じるかどうかの判断は、[超加成則発現有無の確認]にて後述する。上述したように、脱脂処理とともに、あるいは脱脂処理に代えて、油面接着性接着剤を原料樹脂組成物に添加してもよいし、FRP層12と金属部材11との界面に油面接着性接着剤を塗布してもよい。
【0179】
(後工程)
金属-FRP複合体1に対する後工程では、塗装の他、ボルトやリベット留めなどによる他の部材との機械的な接合のため、穴あけ加工、接着接合のための接着剤の塗布などが行われる。
【0180】
<本実施形態の効果>
上述した実施形態によれば、金属部材11とFRP層12を含む繊維強化樹脂材料とが、FRP層12の一部分をなす樹脂層101によって強固に接合された金属-FRP複合体1が提供される。この金属-FRP複合体1は、軽量且つ加工性に優れ、簡易な方法で製造できるものである。例えば、金属部材11が防錆処理の施された鉄鋼材料であっても、特別な表面粗化処理などを行わずに、金属部材11とFRP層12を含む繊維強化樹脂材料とが高い接着強度を有している。また、金属部材11とFRP層12を含む繊維強化樹脂材料との複合化に際しては、熱プレスによる金属部材11の成形と同時に一括加工できるため、製造コストを低下させることができる。従って、上述した実施形態の金属-FRP複合体1は、軽量且つ高強度な材料として、電気・電子機器などの筐体のみならず、自動車部材、航空機部材などの用途における構造部材としても好適に使用することができる。さらに、金属-FRP複合体1によれば、上述したFRPを自動車部材に用いる際の6つの問題点すべてを解決できるため、自動車部材として特に好適に使用することができる。
【実施例
【0181】
以下に実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本実施例における各種物性の試験及び測定方法は以下の通りである。
【0182】
[平均粒子径(D50)]
平均粒子径は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラックMT3300EX、日機装社製)により、体積基準で累積体積が50%となるときの粒子径を測定した。
【0183】
[溶融粘度]
レオメータ(Anton Paar社製)を用いて、サンプルサイズ4.3cmをパラレルプレートに挟み、20℃/minで昇温しながら、周波数:1Hz、負荷ひずみ:5%の条件にて、180℃における溶融粘度を測定した。
【0184】
[樹脂割合(RC:%)]
マトリックス樹脂付着前の強化繊維基材の重量(W1)と、樹脂付着後のFRP成形用材料の重量(W2)から下記の式を用いて算出した。
樹脂割合(RC:%)=(W2-W1)/W2×100
W1:樹脂付着前の強化繊維基材重量
W2:樹脂付着後のFRP成形用材料の重量
【0185】
[樹脂層の厚みの測定]
樹脂層の厚みは、先だって言及した方法により測定した。
【0186】
[引張荷重と引張弾性率(弾性係数)の測定]
JIS K 7164:2005 等方性及び直交異方性繊維強化プラスチックの試験条件に準拠して得られた金属-FRP複合材料の機械物性(引張強度及び引張弾性率)を測定した。引張荷重は、引張強度と試験片断面積とを掛けあわせたものとなる(引張強度(N/mm)=引張荷重(N)÷試験片断面積(mm))。試験片の寸法は、200mm×25mmとした。
【0187】
ここで、図10に模式的に示すように、FRP層12と樹脂層13を積層したFRP積層体の両側に、金属部材11を配置し、各実施例・比較例に示す条件で加熱圧着することによって、引張試験用金属-FRP複合体のサンプルとした。図10における矢印方向は、荷重の印加方向を示している。
【0188】
[超加成則発現有無の確認]
超加成則が発現しているかどうかの確認は次のようにして行った。金属部材11とFRP層12(ここでは、FRP層12を金属部材11に一体化する前のプリプレグ)とを、それぞれ単独で上述の測定方法にて引張試験を行い、それぞれの最大荷重(荷重A1、B)を測定する。次に金属部材11とFRP層12を複合化した金属-FRP複合体においても上述の測定方法にて引張試験を行い、最大荷重(荷重C)を測定する。さらに、荷重Cが測定された際の変形量D(金属-FRP複合体の破断時の変形量)と、金属部材11の引張試験の結果とに基づいて、変形量Dにおける金属部材11の引張荷重(荷重A2)を求める。そして、式(2-1)及び(2-2)の成否を判定し、少なくとも式(2-2)が成立する場合、超加成則が発現していると判断する。本実施例では、式(2-1)を「基準1」とし、式(2-2)を「基準2」とする。超加成則度合はC/(A2+B)で算出されるが、基準1も成立する場合、基準1に対応する超加成則度合をC/(A1+B)として算出した。超加成則度合は1.01以上であることが好ましく、1.05以上であることがより好ましい。例えば、式(2-1)が成立する場合、それぞれ単独での合計荷重よりも複合体の最大荷重の方が、1%以上大きいと好ましく、5%以上大きいとより好ましい。この際、試験片においては、金属部材、FRPのそれぞれ単独での試験片のサイズと、複合体の試験片における金属部材、FRP層のそれぞれのサイズとを同じサイズに合わせておくとよい。前述した(前処理工程)における脱脂の必要性の判断における、事前の超加成則の有無の確認においても、本方法にて確認できる。
【0189】
もし、金属部材11とFRP層12の単独材料が入手できず、金属-FRP複合体のみ入手可能である場合は、金属部材11をFRP層12から剥離して、それぞれ単独の部材を得る。剥離が難しい場合は、ダイヤモンド砥石が付着したグラインダーなどを用いて、金属-FRP複合体の金属部材11のみを削り落としたもの、FRP層12のみを削り落としたもの、をそれぞれ作成して、引張試験を行うことで、それぞれ単独の引張荷重を測定すればよい。
【0190】
具体的には、金属-FRP複合体から試験片を3つ切り出す。各試験片のサイズは入手した金属-FRP複合体のサイズ等に応じて決定されればよいが、一例として幅25mmで長さ200mmの短冊状としてもよい。また、試験片が引張試験機のチャック等の試験片保持機構によりダメージを受けないよう、JIS K 7164:2005等の規格で一般的に指定されるガラスエポキシ製のタブを試験片に取り付けてもよい。これらを第1~第3の試験片とする。ついで、いずれかの試験片の断面をJIS K 5600-1-7、5.4項の光学的方法の断面法に準拠して観察することで、金属部材11及びFRP層12の厚みを測定する。ついで、第1の試験片に対して上述した引張試験を行うことで、金属-FRP複合体の最大荷重(荷重C)を測定する。つまり、第1の試験片は金属-FRP複合体1として使用する。
【0191】
一方で、第2の試験片からはFRP層12を除去する。除去の方法は上述した通りである。つまり、第2の試験片は金属部材11として使用する。なお、FRP層12を削り落とす際、金属部材11の測定された厚みの5~10%程度の金属部材11を削り落としてもよい。測定された厚みの誤差を考慮したものである。一方で、金属部材11に樹脂層101が多少残っていても問題ない。樹脂層101の最大荷重は金属部材11の最大荷重に対して無視できるほど小さいからである。ついで、第2の試験片に対して上述した引張試験を行うことで、金属部材11の最大荷重(荷重A1)を測定する。さらに、荷重Cが測定された際の変形量Dと、金属部材11の引張試験の結果とに基づいて、変形量Dにおける金属部材11の引張荷重(荷重A2)を求める。
【0192】
一方で、第3の試験片から金属部材11を除去する。除去の方法は上述した通りである。つまり、第3の試験片はFRP層12として使用する。なお、金属部材11を削り落とす際、FRP層12の測定された厚みの5~10%程度のFRP層12を削り落としてもよい。測定された厚みの誤差を考慮したものである。ついで、第3の試験片に対して上述した引張試験を行うことで、FRP層12の最大荷重(荷重B)を測定する。ついで、各測定値と式(2-1)及び(2-2)(好ましくは式(2-2))に基づいて超加成則が成立するか否かを判定すればよい。なお、金属部材11が表面処理されている場合の複合材における、金属部材11及びFRP層12の引張荷重の測定は上記と同様の測定方法により実施できる。
【0193】
[曲げ試験]
JIS K 7074:1988 繊維強化プラスチックの曲げ試験方法に準拠して得られた金属-FRP複合材料の機械物性(曲げによる金属部材11とFRP層12の剥離の有無)を測定した。図11に示すように、金属部材11の両側に、それぞれFRP積層体(FRP層12とFRP層13が積層されたもの)を配置し、各実施例及び比較例に示す条件で加熱圧着することによって、曲げ試験用金属-FRP複合体のサンプルとした。図11における白矢印は、荷重の印加方向である。機械強度の測定時に、サンプルが破壊したときにFRP積層体から金属板が剥離したものを剥離:×(剥離あり)、剥離しなかった場合を剥離:○(剥離なし)と評価した。
【0194】
[せん断試験]
JIS K 6850:1999 接着剤の引張りせん断接着強さ試験方法を参考にして測定を行った。図12に示すように、幅5mm×長さ60mmの大きさに加工した2枚の金属部材11を準備し、各金属部材11の端部からそれぞれ10mmの部分を、FRP積層体(FRP層12/FRP層13/FRP層12がこの順に積層されたもの)を配置し、各実施例及び比較例に示す条件で加熱圧着することによって、せん断試験用金属-FRP複合体のサンプルを作製した。つまり、せん断試験用金属-FRP複合体のサンプルは、上下2枚の金属部材11の端部付近の間に、上記FRP積層体を挟み込み、各実施例及び比較例に示す条件で加熱圧着することによって作製した。図12における2つの白矢印は、引張り荷重の印加方向である。
【0195】
[FRPプリプレグ]
ポリアミドCFRPプリプレグ
サカイオーベックス社製BHH-100GWODPT1/PA、Vf(繊維体積含有率):47%
ポリカーボネートCFRPプリプレグ
サカイオーベックス社製BHH-100GWODPT1/PC、Vf(繊維体積含有率):47%
ポリプロピレンCFRPプリプレグ
サカイオーベックス社製BHH-100GWODPT1/PP、Vf(繊維体積含有率):47%
【0196】
[フェノキシ樹脂(A)]
(A-1):フェノトートYP-50S(新日鉄住金化学株式会社製ビスフェノールA型、Mw=40,000、水酸基当量=284g/eq)、250℃における溶融粘度=200Pa・s、Tg=83℃
【0197】
[架橋硬化性樹脂(B)]
エポキシ樹脂
YSLV-80XY(新日鉄住金化学株式会社製テトラメチルビスフェノールF型、エポキシ当量=192g/eq、融点=72℃)
【0198】
[架橋剤(C)]
エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート:TMEG
(酸無水物等量:207、融点:160℃)
【0199】
[作製例1]
[フェノキシ樹脂CFRPプリプレグAの作製]
フェノキシ樹脂(A)として、A-1を粉砕、分級した平均粒子径D50が80μmである粉体を、炭素繊維からなる強化繊維基材(クロス材:東邦テナックス社製、IMS60)に、静電場において、電荷70kV、吹き付け空気圧0.32MPaの条件で粉体塗装を行った。その後、オーブンで170℃、1分間加熱溶融して樹脂を熱融着させ、厚み0.65mm、弾性係数75[GPa]、最大荷重13500[N]、Vf(繊維体積含有率)60%のフェノキシ樹脂CFRPプリプレグAを作成した。
【0200】
[作製例2]
[フェノキシ樹脂GFRPプリプレグの作製]
フェノキシ樹脂(A)として、A-1を粉砕、分級した平均粒子径D50が80μmである粉体を、ガラス繊維からな平織の強化繊維基材(クロス材:日東紡績株式会社製、WEA 116E 106S 136)に、静電場において、電荷70kV、吹き付け空気圧0.32MPaの条件で粉体塗装を行った。その後、オーブンで170℃、1分間加熱溶融して樹脂を熱融着させ、厚み0.161mm、弾性係数20[GPa]、最大荷重1470[N]、Vf(繊維体積含有率)50%のフェノキシ樹脂GFRPプリプレグを作成した。
【0201】
[作製例3]
[架橋フェノキシ樹脂CFRPプリプレグAの作製]
フェノキシ樹脂(A)としてA-1を100質量部、架橋硬化性樹脂(B)を30質量部、架橋剤(C)を73質量部準備し、それぞれ粉砕、分級して平均粒子径D50が80μmである粉体にしたものを、乾式粉体混合機(愛知電気社製、ロッキングミキサー)によってドライブレンドした。得られた架橋性フェノキシ樹脂組成物を、炭素繊維からなる平織の強化繊維基材(クロス材:サカイオーベックス社製、SA-3203)に、静電場において、電荷70kV、吹き付け空気圧0.32MPaの条件で粉体塗装を行った。その後、オーブンで170℃、1分間加熱溶融して樹脂を熱融着させ、厚み0.65mm、弾性係数75[GPa]、最大荷重17000[N]、樹脂割合(RC)が48%の架橋フェノキシ樹脂CFRPプリプレグAを作成した。
【0202】
なお、架橋性フェノキシ樹脂組成物の250℃における溶融粘度は、250Pa・sであった。また架橋硬化後のフェノキシ樹脂のTgについては、作製したプリプレグを複数枚積層して200℃に加熱したプレス機で3MPa、3分間プレスして厚さ2mmのCFRP積層体を作製し、170℃で30分間ポストキュアを行った後にダイヤモンドカッターで幅10mm、長さ10mmの試験片を切り出して、動的粘弾性測定装置(Perkin Elmer社製 DMA 7e)を用いて、5℃/分の昇温条件、25~250℃の範囲で測定し、得られるtanδの極大ピークをTgとした。
【0203】
[作製例4]
[架橋フェノキシ樹脂CFRPプリプレグBの作製]
フェノキシ樹脂(A)としてA-1を100質量部、架橋硬化性樹脂(B)を30質量部、架橋剤(C)を73質量部、ナイロン樹脂としてAldrich社製のCAS番号 25038-54-4製品番号181110を120質量部準備し、それぞれ粉砕、分級して平均粒子径D50が80μmである粉体にしたものを、乾式粉体混合機(愛知電気社製、ロッキングミキサー)によってドライブレンドした。得られた架橋性フェノキシ樹脂組成物を、炭素繊維からなる平織の強化繊維基材(クロス材:サカイオーベックス社製、SA-3203)に、静電場において、電荷70kV、吹き付け空気圧0.32MPaの条件で粉体塗装を行った。その後、オーブンで170℃、1分間加熱溶融して樹脂を熱融着させ、厚み0.65mm、弾性係数75[GPa]、最大荷重18500[N]、樹脂割合(RC)が48%の架橋フェノキシ樹脂CFRPプリプレグBを作成した。
【0204】
[作製例5]
[ポリプロピレンフィルムの作製]
ポリプロピレン樹脂として日本ポリプロ株式会社製のノバテックPP EA9のペレットを、200℃に加熱したプレス機で3MPa、3分間プレスして、厚さ50μmのポリプロピレン樹脂フィルムを作成した。
【0205】
[作製例6]
[フェノキシ樹脂CFRPプリプレグCの作製]
フェノキシ樹脂(A)として、A-1を200℃に加熱したプレス機で3MPa、3分間プレスして厚さ200μmのフェノキシ樹脂シートを作成し、炭素繊維からなる平織の強化繊維基材(クロス材:サカイオーベックス社製、SA-3203)と交互に積層して、この積層体を250℃に加熱したプレス機で3MPa、3分間プレスして、厚み0.6mm、弾性率75[GPa]、引張荷重12000[N]、Vf(繊維体積含有率)60%のフェノキシ樹脂CFRPプリプレグCを作成した。
【0206】
[作製例7]
[フェノキシ樹脂CFRPプリプレグDの作製]
フェノキシ樹脂(A)として、A-1を粉砕、分級した平均粒子径D50が80μmである粉体を、炭素繊維からなる強化繊維基材(クロス材:東邦テナックス社製、IMS60)に、静電場において、電荷70kV、吹き付け空気圧0.32MPaの条件で粉体塗装を行った。その後、オーブンで170℃、1分間加熱溶融して樹脂を熱融着させ、厚み1.0mm、弾性係数75[GPa]、最大荷重19000[N]、Vf(繊維体積含有率)60%のフェノキシ樹脂CFRPプリプレグDを作成した。
【0207】
[作製例8]
[フェノキシ樹脂CFRPプリプレグEの作製]
フェノキシ樹脂(A)として、A-1を粉砕、分級した平均粒子径D50が80μmである粉体を、炭素繊維からなる強化繊維基材(クロス材:東邦テナックス社製、IMS60)に、静電場において、電荷70kV、吹き付け空気圧0.32MPaの条件で粉体塗装を行った。その後、オーブンで170℃、1分間加熱溶融して樹脂を熱融着させ、厚み0.18mm、弾性係数75[GPa]、最大荷重2800[N]、Vf(繊維体積含有率)60%のフェノキシ樹脂CFRPプリプレグEを作成した。
【0208】
[作製例9]
[フェノキシ樹脂CFRPプリプレグFの作製]
フェノキシ樹脂(A)として、A-1を粉砕、分級した平均粒子径D50が80μmである粉体を、炭素繊維からなる強化繊維基材(クロス材:東邦テナックス社製、IMS60)に、静電場において、電荷70kV、吹き付け空気圧0.32MPaの条件で粉体塗装を行った。これの表面に、アルファ工業社製アルファテック370の主剤と硬化剤を100:30の重量割合で混合したものを3g/mの量で塗布し、その後、オーブンで170℃、1分間加熱溶融して樹脂を熱融着させ、厚み0.2mm、弾性係数68[GPa]、最大荷重3000[N]、Vf(繊維体積含有率)54%のフェノキシ樹脂CFRPプリプレグFを作成した。
【0209】
[金属部材]
金属部材(M-1):
新日鐵住金社製ティンフリースチール鋼板、厚み0.21mm
金属部材(M-2):
新日鐵住金社製ティンフリースチール鋼板、厚み0.12mm
金属部材(M-3):
ニラコ 社製 純アルミニウム板、厚み0.1mm
金属部材(M-4):
ニラコ 社製 純チタン板、厚み0.1mm
金属部材(M-5):
日本金属社製 AZ31B合金板 、厚み0.1mm
金属部材(M-6):
市販のA5052合金板、厚み0.6mm
金属部材(M-7):
新日鐵住金社製溶融亜鉛めっき高強度鋼板、厚み0.4mm
【0210】
[実施例1]
金属部材11としてM-1を、FRP層12として作製例1のフェノキシ樹脂CFRPプリプレグAを使用し、図10、11、12に示す構造の引張試験用、曲げ試験用、せん断試験用の金属-CFRP複合体のサンプルを、250℃に加熱したプレス機で、3MPaで3分間プレスすることで作製した。樹脂層101の厚みは約10μmであった。得られたサンプルに対し、冷却後、引張試験、曲げ試験、せん断試験を行った。結果を表1に示す。
【0211】
[実施例2]
金属部材11としてM-2を使用した以外は実施例1と同様にして、金属-CFRP複合体のサンプルを作製した。樹脂層101の厚みは約10μmであった。得られたサンプルに対し、冷却後、引張試験、曲げ試験、せん断試験を行った。結果を表1に示す。
【0212】
[実施例3]
金属部材11としてアセトンで十分に脱脂を施したM-3を使用した以外は実施例1と同様にして、金属-CFRP複合体のサンプルを作製した。樹脂層101の厚みは約10μmであった。得られたサンプルに対し、冷却後、引張試験、曲げ試験、せん断試験を行った。結果を表1に示す。
【0213】
[実施例4]
金属部材11としてアセトンで十分に脱脂を施したM-4を使用した以外は実施例1と同様にして、金属-CFRP複合体のサンプルを作製した。樹脂層101の厚みは約10μmであった。得られたサンプルに対し、冷却後、引張試験、曲げ試験、せん断試験を行った。結果を表1に示す。
【0214】
[実施例5]
金属部材11としてアセトンで十分に脱脂を施したM-5を使用した以外は実施例1と同様にして、金属-CFRP複合体のサンプルを作製した。樹脂層101の厚みは約10μmであった。得られたサンプルに対し、冷却後、引張試験、曲げ試験、せん断試験を行った。結果を表1に示す。
【0215】
[実施例6]
FRP層12として作製例2のフェノキシ樹脂GFRPプリプレグを使用した以外は実施例1と同様にして、金属-CFRP複合体のサンプルを作製した。樹脂層101の厚みは約10μmであった。得られたサンプルに対し、冷却後、引張試験、曲げ試験、せん断試験を行った。結果を表1に示す。
【0216】
[実施例7]
FRP層12としてFRPプリプレグのポリアミドCFRPプリプレグを使用した以外は実施例1と同様にして、金属-CFRP複合体のサンプルを作製した。樹脂層101の厚みは約10μmであった。得られたサンプルに対し、冷却後、引張試験、曲げ試験、せん断試験を行った。結果を表1に示す。
【0217】
[実施例8]
FRP層12としてFRPプリプレグのポリカーボネートCFRPプリプレグを使用した以外は実施例1と同様にして、金属-CFRP複合体のサンプルを作製した。樹脂層101の厚みは約10μmであった。得られたサンプルに対し、冷却後、引張試験、曲げ試験、せん断試験を行った。結果を表1に示す。
【0218】
[実施例9]
FRP層12としてFRPプリプレグのポリプロピレンCFRPプリプレグを使用した以外は実施例1と同様にして、金属-CFRP複合体のサンプルを作製した。樹脂層101の厚みは約10μmであった。得られたサンプルに対し、冷却後、引張試験、曲げ試験、せん断試験を行った。結果を表1に示す。
【0219】
[実施例10]
FRP層12として作製例3の架橋フェノキシ樹脂CFRPプリプレグAを使用した以外は実施例1と同様にして、金属-CFRP複合体のサンプルを作製した。樹脂層101の厚みは約10μmであった。得られたサンプルに対し、冷却後、引張試験、曲げ試験、せん断試験を行った。結果を表1に示す。
【0220】
[実施例11]
FRP層12として作製例4の架橋フェノキシ樹脂CFRPプリプレグBを使用した以外は実施例1と同様にして、金属-CFRP複合体のサンプルを作製した。樹脂層101の厚みは約10μmであった。得られたサンプルに対し、冷却後、引張試験、曲げ試験、せん断試験を行った。結果を表1に示す。
【0221】
[実施例12]
金属部材11としてアセトンで十分に脱脂を施したM-7を使用し、FRP層12として作製例7のフェノキシ樹脂CFRPプリプレグDを使用した以外は実施例1と同様にして、金属-CFRP複合体のサンプルを作製した。樹脂層101の厚みは約10μmであった。得られたサンプルに対し、冷却後、引張試験、曲げ試験、せん断試験を行った。結果を表1に示す。
【0222】
[実施例13]
金属部材11としてアセトンで十分に脱脂を施したM-7を使用し、FRP層12として作製例8のフェノキシ樹脂CFRPプリプレグEを使用した以外は実施例1と同様にして、金属-CFRP複合体のサンプルを作製した。樹脂層101の厚みは約10μmであった。得られたサンプルに対し、冷却後、引張試験、曲げ試験、せん断試験を行った。結果を表1に示す。
【0223】
[実施例14]
金属部材11としてアセトンで十分に脱脂を施した後、定量的に表面に油成分を付着させるために、JX日鉱日石社製カップグリース1種3号を5g/mの量で塗布したM-7を使用し、その上に、油面接着性接着剤のアルファ工業社製アルファテック370を3g/mの量で塗布し、FRP層12として作製例8のフェノキシ樹脂CFRPプリプレグEを使用した以外は実施例1と同様にして、金属-CFRP複合体のサンプルを作製した。樹脂層101の厚みは約20μmであった。得られたサンプルに対し、冷却後、引張試験、曲げ試験、せん断試験を行った。結果を表1に示す。
【0224】
[実施例15]
金属部材11としてアセトンで十分に脱脂を施した後、定量的に表面に油成分を付着させるために、JX日鉱日石社製カップグリース1種3号を5g/mの量で塗布したM-7を使用し、FRP層12として作製例9のフェノキシ樹脂CFRPプリプレグFを使用した以外は実施例1と同様にして、金属-CFRP複合体のサンプルを作製した。樹脂層101の厚みは約20μmであった。得られたサンプルに対し、冷却後、引張試験、曲げ試験、せん断試験を行った。結果を表1に示す。
【0225】
[比較例1]
東レ株式会社製のトレカプリプレグF6343B-05P(弾性率230GPaのPAN系炭素繊維を平織にした基材に熱硬化エポキシ樹脂を含浸)をオートクレーブにて加熱加圧してCFRPを作成したものをFRP層12として用い、金属部材11としてM-1を用い、樹脂層101として2液混合型のエポキシ樹脂接着剤であるニチバン株式会社製のアラルダイトスタンダードを用いて、図10、11、12に示す構造の引張試験用、曲げ試験用、せん断試験用の金属-CFRP複合体のサンプルを作製した。樹脂層101の厚みは約15μmであった。得られたサンプルに対し、冷却後、引張試験、曲げ試験、せん断試験を行った。結果を表2に示す。
【0226】
[比較例2]
金属部材11としてM-1を、FRP層12として作製例6のフェノキシ樹脂CFRPプリプレグCを、樹脂層101として作製例5で作製されたポリプロピレンフィルムを使用して、図10、11、12に示す構造の引張試験用、曲げ試験用、せん断試験用の金属-CFRP複合体のサンプルを、200℃に加熱したプレス機で、3MPaで3分間プレスすることで作製した。つまり、比較例2では樹脂層101をFRP層12からの樹脂の浸み出しではなく、別途用意したポリプロピレンフィルムにより形成した。樹脂層101の厚みは約40μmであった。得られたサンプルに対し、冷却後、引張試験、曲げ試験、せん断試験を行った。結果を表2に示す。
【0227】
[比較例3]
金属部材11としてM-1を、FRP層12として作製例1のフェノキシ樹脂CFRPプリプレグAを使用し、図10、11、12に示す構造の引張試験用、曲げ試験用、せん断試験用の金属-CFRP複合体のサンプルを、150℃に加熱したプレス機で、3MPaで3分間プレスすることで作製した。樹脂層101はほぼ確認できなかった。得られたサンプルに対し、冷却後、引張試験、曲げ試験、せん断試験を行った。結果を表2に示す。
【0228】
[比較例4]
金属部材11としてアセトンで十分に脱脂を施した後、定量的に表面に油成分を付着させるために、JX日鉱日石社製カップグリース1種3号を5g/mの量で塗布したM-7を使用し対外は実施例13と同様にして、金属-CFRP複合体のサンプルを作製した。樹脂層101の厚みは約10μmであった。得られたサンプルに対し、冷却後、引張試験、曲げ試験、せん断試験を行った。結果を表1に示す。
【0229】
【表1】
【0230】
【表2】
【0231】
表1及び表2からわかるように、FRP層12の熱可塑性樹脂のマトリックス樹脂102と同種の樹脂によって樹脂層101を設け、油膜対策(脱脂または油面接着剤を用いた処理)を行った実施例1~15は、マトリックス樹脂102と樹脂層101とが熱硬化樹脂である比較例1、マトリックス樹脂102と樹脂層101とが同種の樹脂ではない比較例2、樹脂層101がほぼ確認できなかった比較例3、金属部材11の表面に油成分が付着して油膜対策がない比較例4に比べ、金属剥離が発生せず、金属部材11とFRP層12とが良好に密着して一体化され、加工性及び機械特性に優れた。また、金属剥離については、比較例は全て発生しているが、比較例で使用した油の種類によらず、金属剥離が発生することは確認している。なお、式(1)の弾性係数E2は、樹脂層の弾性係数を2GPaとし、加成則に基づいて算出した。ただし、比較例1~3では樹脂層の弾性係数は0とした。
【0232】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0233】
1 金属-FRP複合体
11 金属部材
12、13 FRP層
20 塗膜
20A 樹脂シート
21 FRP成形用プリプレグ
101 樹脂層
102 マトリックス樹脂
103 強化繊維材料
104 強化繊維基材
104A 樹脂付着繊維基材
105 微粉末
105A 部分融着構造
106 プリプレグ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14