(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】光走査装置
(51)【国際特許分類】
G02B 26/10 20060101AFI20230614BHJP
G02B 26/08 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
G02B26/10 104Z
G02B26/08 E
(21)【出願番号】P 2019097795
(22)【出願日】2019-05-24
【審査請求日】2022-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000006220
【氏名又は名称】ミツミ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】阿賀 寿典
(72)【発明者】
【氏名】須藤 康之
【審査官】横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-054908(JP,A)
【文献】特開2018-128505(JP,A)
【文献】特開2016-009050(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101852917(CN,A)
【文献】特開2013-033869(JP,A)
【文献】特開平08-255796(JP,A)
【文献】特許第5779472(JP,B2)
【文献】特開2010-122480(JP,A)
【文献】特開2012-174955(JP,A)
【文献】特開2018-125407(JP,A)
【文献】特開平01-216257(JP,A)
【文献】特開2007-059583(JP,A)
【文献】特開2006-330065(JP,A)
【文献】特開2016-062984(JP,A)
【文献】特開2004-109580(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0061417(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/00-26/10
B81B 1/00-7/04
B81C 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミラーを揺動させることにより、前記ミラーに照射された光の反射光を走査する光走査装置であって、
金で形成された配線と、
前記配線を覆う保護膜と、
前記配線と前記保護膜との間に形成された密着膜と、
を有し、
前記密着膜の熱膨張係数は、前記配線の熱膨張係数と前記保護膜の熱膨張係数との間の値であり、
前記配線と前記密着膜との界面に、前記配線を構成する前記金と、前記密着膜を構成する物質との混成領域を有し、
前記保護膜と前記密着膜との界面に、前記保護膜及び前記密着膜の化合物を含む領域を有
し、
前記配線は、前記ミラーを駆動する駆動源としての圧電素子に接続された駆動配線であるか、または、前記ミラーの傾斜角に応じた信号を出力する傾斜センサに接続されたセンサ配線であり、
前記配線の端部は、前記密着膜及び前記保護膜が除去されて、露出し、端子として機能する領域であり、
前記配線において、前記端部に隣接する残余の領域は、前記保護膜、前記密着膜、前記混成領域、並びに、前記保護膜及び前記密着膜の前記化合物を含む前記領域に覆われる
ことを特徴とする光走査装置。
【請求項2】
前記密着膜は、チタン、又はチタンを含有する金属により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光走査装置。
【請求項3】
前記密着膜は、チタンタングステンにより形成されていることを特徴とする請求項2に記載の光走査装置。
【請求項4】
前記保護膜は、無機酸化物、無機窒化物、無機フッ化物、無機系の非晶質膜のうちのいずれかにより形成されていることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項に記載の光走査装置。
【請求項5】
前記保護膜は、酸化アルミニウムにより形成されていることを特徴とする請求項4に記載の光走査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光走査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、ミラーを水平回転軸及び垂直回転軸の周りに揺動させて、レーザ光を二次元的に走査する光走査装置が知られている。このような光走査装置は、圧電素子等のアクチュエータによりミラーを駆動させるMEMS(Micro-Electro-Mechanical Systems)である。
【0003】
このような光走査装置は、ミラーを露出させる必要性から、いわゆるオープンパッケージとして、様々な環境下で用いられる。このため、アクチュエータに駆動電圧を供給するための配線には、耐熱性及び耐腐食性が高い材料が用いられることが好ましい。このような配線として、例えば金(Au)配線が用いられ、金配線上には酸化アルミニウム(アルミナ:Al2O3)等からなる保護膜が形成されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような光走査装置の配線として金配線を用いた場合には、金配線はアルミ酸化物等の保護膜との密着性が乏しいことから、保護膜が配線上から剥離するという問題がある。本出願人は、光走査装置の使用環境において加わる熱や、製造時のダイシング工程(ウエハ切断工程)によりウエハに加わる外力によって保護膜が配線上から剥離することを確認した。
【0006】
開示の技術は、上記事情に鑑みてなされたものであり、配線上からの保護膜の剥離を抑制することを可能とする光走査装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
開示の技術は、ミラーを揺動させることにより、前記ミラーに照射された光の反射光を走査する光走査装置であって、金で形成された配線と、前記配線を覆う保護膜と、前記配線と前記保護膜との間に形成された密着膜と、を有し、前記密着膜の熱膨張係数は、前記配線の熱膨張係数と前記保護膜の熱膨張係数との間の値であり、前記配線と前記密着膜との界面に、前記配線を構成する前記金と、前記密着膜を構成する物質との混成領域を有し、前記保護膜と前記密着膜との界面に、前記保護膜及び前記密着膜の化合物を含む領域を有し、前記配線は、前記ミラーを駆動する駆動源としての圧電素子に接続された駆動配線であるか、または、前記ミラーの傾斜角に応じた信号を出力する傾斜センサに接続されたセンサ配線であり、前記配線の端部は、前記密着膜及び前記保護膜が除去されて、露出し、端子として機能する領域であり、前記配線において、前記端部に隣接する残余の領域は、前記保護膜、前記密着膜、前記混成領域、並びに、前記保護膜及び前記密着膜の前記化合物を含む前記領域に覆われることを特徴とする光走査装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、配線上からの保護膜の剥離を抑制することを可能とする光走査装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係る光走査システムの構成を概略的に示す図である。
【
図3】固定枠上に形成された端子群の一部を示す平面図である。
【
図6】比較例において保護膜の剥離が発生した箇所を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。
図1は、一実施形態に係る光走査システムの構成を概略的に示す図である。
【0011】
本実施形態の光走査システム1は、光走査制御装置10と、光源装置20と、光走査装置40とを有する。以下に、各部について説明する。
【0012】
光走査制御装置10は、システムコントローラ11と、ミラー駆動回路13と、レーザ駆動回路14とを有する。光走査制御装置10は、光源装置20と、光走査装置40とを制御する。
【0013】
システムコントローラ11は、ミラー駆動回路13に対し、光走査装置40の有するミラーの揺動を駆動するための駆動信号(駆動電圧)を供給する。また、システムコントローラ11は、デジタルの映像信号をレーザ駆動回路14に供給する。
【0014】
ミラー駆動回路13は、システムコントローラ11からの制御信号に基づいて、光走査装置40に対し、後述するミラーを水平方向に駆動して水平揺動軸周りに揺動させるための水平駆動信号と、ミラーを垂直方向に駆動して垂直揺動軸周りに揺動させるための垂直駆動信号とを供給するミラー駆動部である。
【0015】
レーザ駆動回路14は、システムコントローラ11からの映像信号に基づいて、光源装置20に、レーザを駆動させるためのレーザ駆動信号を供給する。
【0016】
光源装置20は、LDモジュール21、減光フィルタ22を有する。LDモジュール21は、レーザ21R、レーザ21G、レーザ21Bを有する。
【0017】
レーザ21R、21G、21Bは、システムコントローラ11から供給されたレーザ駆動電流に基づいて、レーザ光を出射する。レーザ21Rは、例えば、赤色半導体レーザであり、波長λR(例えば、640nm)の光を出射する。レーザ21Gは、例えば、緑色半導体レーザであり、波長λG(例えば、530nm)の光を出射する。レーザ21Gは、例えば、青色半導体レーザであり、波長λB(例えば、445nm)の光を出射する。レーザ21R、21G、21Bから出射された各波長の光は、ダイクロイックミラー等により合成され、減光フィルタ22により所定の光量に減光されて、光走査装置40に入射される。
【0018】
光走査装置40は、ミラー駆動回路13から供給される水平及び垂直駆動信号に応じて、ミラーを水平方向及び垂直方向に駆動させる。光走査装置40では、これにより、入射されるレーザ光の反射方向を変更して、レーザ光による光走査を行い、スクリーン等に画像を投影する。
【0019】
図2は、光走査装置40の構成を示す図である。光走査装置40は、例えば圧電素子からなるアクチュエータによりミラー110を駆動させるMEMSである。
【0020】
光走査装置40は、ミラー110と、ミラー支持部120と、捻れ梁130A、130Bと、連結梁140A、140Bと、第1の駆動梁150A、150Bと、可動枠160と、第2の駆動梁170A、170Bと、固定枠180とを有する。また、第1の駆動梁150A、150Bは、それぞれ駆動源151A、151Bを有する。また、第2の駆動梁170A、170Bは、それぞれ駆動源171A、171Bを有する。第1の駆動梁150A、150B、第2の駆動梁170A、170Bは、ミラー110を上下又は左右に揺動してレーザ光を走査する機能する。
【0021】
光走査装置40において、ミラー支持部120の上面にミラー110が支持され、ミラー支持部120は、両側にある捻れ梁130A、130Bの端部に連結されている。捻れ梁130A、130Bは、揺動軸を構成し、軸方向に延在してミラー支持部120を軸方向両側から支持している。捻れ梁130A、130Bが捻れることにより、ミラー支持部120に支持されたミラー110が揺動し、ミラー110に照射された光の反射光を走査させる動作を行う。捻れ梁130A、130Bは、それぞれが連結梁140A、140Bに連結支持され、第1の駆動梁150A、150Bに連結されている。
【0022】
第1の駆動梁150A、150B、連結梁140A、140B、捻れ梁130A、130B、ミラー支持部120及びミラー110は、可動枠160によって外側から支持されている。第1の駆動梁150A、150Bは、可動枠160にそれぞれの一方の側が支持されている。第1の駆動梁150Aの他方の側は内周側に延びて連結梁140A、140Bと連結している。第1の駆動梁150Bの他方の側も同様に、内周側に延びて連結梁140A、140Bと連結している。
【0023】
第1の駆動梁150A、150Bは、捻れ梁130A、130Bと直交する方向に、ミラー110及びミラー支持部120を挟むように、対をなして設けられている。第1の駆動梁150A、150Bの上面には、駆動源151A、151Bがそれぞれ形成されている。駆動源151A、151Bは、圧電薄膜と、圧電薄膜の上に形成された上部電極と、圧電薄膜の下に形成された下部電極とを含んでなる圧電素子である。駆動源151A、151Bは、上部電極と下部電極に印加される駆動電圧に応じて伸長したり、縮小したりする。
【0024】
このため、第1の駆動梁150Aと第1の駆動梁150Bとで電位が反転した駆動電圧を交互に印加すれば、ミラー110の左側と右側で第1の駆動梁150Aと第1の駆動梁150Bとが上下反対側に交互に振動する。これにより、捻れ梁130A、130Bを揺動軸又は回転軸として、ミラー110を軸周りに揺動させることができる。
【0025】
ミラー110が捻れ梁130A、130Bの軸周りに揺動する方向を、以後、水平方向と呼ぶ。つまり、本実施形態の第1の駆動梁150Aと第1の駆動梁150Bは、捻れ梁130A、130Bの捻れ変形させることで、ミラー110を水平方向に揺動させる。例えば第1の駆動梁150A、150Bによる水平駆動には、共振振動が用いられ、高速にミラー110を揺動駆動することができる。
【0026】
また、可動枠160の外部には、第2の駆動梁170A、170Bの一端が連結されている。第2の駆動梁170A、170Bは、可動枠160を左右両側から挟むように、対をなして設けられている。そして、第2の駆動梁170A、170Bは、可動枠160を両側から支持すると共に、光反射面の中心を通る所定の軸周りに揺動させる。第2の駆動梁170Aは、第1の駆動梁150Aと平行に延在する複数個(例えば偶数個)の矩形梁の各々が、隣接する矩形梁と端部で連結され、全体としてジグザグ状の形状を有する。
【0027】
そして、第2の駆動梁170Aの他端は、固定枠180の内側に連結されている。第2の駆動梁170Bも同様に、第1の駆動梁150Bと平行に延在する複数個(例えば偶数個)の矩形梁の各々が、隣接する矩形梁と端部で連結され、全体としてジグザグ状の形状を有する。そして、第2の駆動梁170Bの他端は、固定枠180の内側に連結されている。
【0028】
第2の駆動梁170A、170Bの上面には、それぞれ曲線部を含まない矩形単位ごとに駆動源171A、171Bが形成されている。駆動源171A、171Bは、圧電薄膜と、圧電薄膜の上に形成された上部電極と、圧電薄膜の下に形成された下部電極とを含んでなる圧電素子である。
【0029】
第2の駆動梁170A、170Bは、矩形単位ごとに隣接している駆動源171A、171B同士で、電位が反転した駆動電圧を印加することにより、隣接する矩形梁を上下反対方向に反らせ、各矩形梁の上下動の蓄積を可動枠160に伝達する。
【0030】
第2の駆動梁170A、170Bは、この動作により、平行方向と直交する方向である垂直方向にミラー110を揺動させる。つまり、第2の駆動梁170A、170Bは、ミラー110を垂直方向に揺動させる垂直梁である。言い換えれば、本実施形態の第2の駆動梁170A、170Bは、自身を曲げて変形させることで、ミラー110を垂直方向に揺動させる。例えば第2の駆動梁170A、170Bによる垂直駆動には、非共振振動を用いることができる。
【0031】
駆動源171Aは、可動枠160側から右側に向かって並ぶ駆動源171A1、171A2、171A3、171A4、171A5、及び171A6を含む。また、駆動源171Bは、可動枠160側から左側に向かって並ぶ駆動源171B1、171B2、171B3、171B4、171B5、及び171B6を含む。
【0032】
駆動源151Aに駆動電圧を印加するための駆動配線は、固定枠180に設けられた端子群190Aに含まれる所定の端子と接続されている。また、駆動源151Bに駆動電圧を印加するための駆動配線は、固定枠180に設けられた端子群190Bに含まれる所定の端子と接続されている。
【0033】
また、駆動源171Aに駆動電圧を印加するための駆動配線は、固定枠180に設けられた端子群190Aに含まれる所定の端子と接続されている。また、駆動源171Bに駆動電圧を印加するための駆動配線は、固定枠180に設けられた端子群190Bに含まれる所定の端子と接続されている。
【0034】
また、光走査装置40は、駆動源151A、151Bに駆動電圧が印加されてミラー110が水平方向に遥動している状態におけるミラー110の水平方向への傾斜角に応じた信号を出力する水平傾斜センサ192を有する。水平傾斜センサ192は、圧電センサにより構成されており、連結梁140Bに配置されている。
【0035】
また、光走査装置40は、駆動源171A、171Bに駆動電圧が印加されてミラー110が垂直方向に遥動している状態におけるミラー110の垂直方向への傾斜角に応じた信号を出力する垂直傾斜センサ196を有する。垂直傾斜センサ196は、圧電素子により構成されており、第2の駆動梁170Aの有する矩形梁の一つに配置されている。
【0036】
水平傾斜センサ192は、ミラー110の水平方向への傾斜に伴い、捻れ梁130Bから伝達される連結梁140Bの変位に対応する信号を出力する。垂直傾斜センサ196は、ミラー110の垂直方向への傾斜に伴い、第2の駆動梁170Aのうち垂直傾斜センサ196が設けられた矩形梁の変位に対応する信号を出力する。
【0037】
水平傾斜センサ192及び垂直傾斜センサ196を構成する圧電センサは、圧電薄膜の上面に形成された上部電極と、圧電薄膜の下面に形成された下部電極とを含む。水平傾斜センサ192を構成する圧電センサの上部電極及び下部電極から引き出されたセンサ配線は、固定枠180に設けられた端子群190Bに含まれる所定の端子と接続されている。また、垂直傾斜センサ196を構成する圧電センサの上部電極及び下部電極から引き出されたセンサ配線は、固定枠180に設けられた端子群190Aに含まれる所定の端子と接続されている。
【0038】
以上のように構成された光走査装置40は、ミラー110を露出させる必要性から、いわゆるオープンパッケージでとして、様々な環境下で用いられる。
【0039】
図3は、固定枠180上に形成された端子群190Bの一部を示す平面図である。
図4は、
図3中のA-A線に沿った断面図である。
図3及び
図4に示す配線200は、上述の駆動配線又はセンサ配線である。
【0040】
図4に示すように、例えば、固定枠180は、シリコン(Si)からなる支持基板181、BOX(Buried Oxide)層182、シリコン活性層183が、この順に積層されてなるSOI(Silicon On Insulator)基板により形成されている。
【0041】
固定枠180上には、例えば二酸化シリコン(SiO2)からなる絶縁膜210が形成されている。この絶縁膜210は、単一の絶縁膜に限られず、2以上の絶縁膜が積層されたものであってもよい。
【0042】
絶縁膜210上には、上述の駆動配線及びセンサ配線の形成領域に、配線200が形成されている。具体的には、配線200は、下地膜201を介して絶縁膜210上に形成されている。また、配線200上には、密着膜202が形成されている。下地膜201、配線200、及び密着膜202は、スパッタリング法、電子ビーム蒸着法等により絶縁膜210上に積層された多層膜を、フォトリソグラフィ法によりパターニングすることにより形成されたものであり、ほぼ同一の平面形状を有する。
【0043】
上述のように光走査装置40は、いわゆるオープンパッケージとして、様々な環境下で用いられることから、配線200は、耐熱性及び耐腐食性が高い材料で形成されていることが好ましい。このため、配線200は、金(Au)を材料とする金配線とされている。なお、配線200は、単一の層により形成された配線であり、端子群190A及び190Bに含まれる端子と、圧電素子(駆動源151A、151B、及び駆動源171A、171B)又は傾斜センサ(水平傾斜センサ192、及び垂直傾斜センサ196)との間を接続する。したがって、配線200は、固定枠180上に限られず、可動枠160、第1の駆動梁150A、150B、第2の駆動梁170A、170B等の上にも配設されている。
【0044】
下地膜201は、チタン(Ti)を含有する合金等の高融点金属材料により形成されている。下地膜201は、例えば、チタンタングステン(TiW)により形成されていることが好ましく、組成比は、例えば、Ti:W=30:70[at%]である。下地膜201は、金配線である配線200と絶縁膜210との間の密着性を高める作用を有する。
【0045】
密着膜202は、下地膜201と同様に、チタン(Ti)を含有する合金等の高融点金属材料により形成されている。密着膜202は、例えば、チタンタングステン(TiW)により形成されていることが好ましく、組成比は、例えば、Ti:W=30:70[at%]である。なお、密着膜202は、金配線である配線200と保護膜220との間の密着性を高める作用を有する。
【0046】
なお、本実施形態では、下地膜201及び密着膜202は、配線200に接触しているが、配線200よりも高抵抗であるので、配線(信号線)としては機能しない。
【0047】
また、密着膜202は、配線200上を覆っているが、配線200の端部上が部分的に除去されている。配線200の密着膜202が除去された端部が、端子群190A及び190Bに含まれる端子190として機能する。
【0048】
保護膜220は、光走査装置40上のほぼ全領域を覆っている。なお、保護膜220は、端子190の部分については除去されている。保護膜220は、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ:Al2O3)からなる絶縁膜である。
【0049】
図5は、各種金属の熱膨張係数を示す図である。
図5に示すように、密着膜202に含まれるチタン(Ti)の熱膨張係数は、約8.5×10
-6/Kであって、配線200を形成する金(Au)の熱膨張係数(約14.3×10
-6/K)と、保護膜220を形成する酸化アルミニウム(Al
2O
3)の熱膨張係数(約5.4×10
-6/K)との間の値であることから、配線200と保護膜220との熱膨張係数の差による剥離を緩和する作用を有する。
【0050】
また、密着膜202は、含有するチタン(Ti)が酸化して化合物を形成し、酸化アルミニウムからなる保護膜220を形成する酸化アルミニウムの酸素と結合することにより、保護膜220との密着性が向上すると考えられる。また、密着膜202は、配線200を形成する金(Au)内に拡散しやすいチタン(Ti)を含有することにより、配線200との密着性が向上すると考えられる。
【0051】
以上のように、配線200上に密着膜202を介して保護膜220を形成することにより、光走査装置40の使用環境において加わる熱による保護膜220の剥離が抑制される。また、光走査装置40は、SOI基板等のウエハを用いて製造される。具体的には、ウエハ上に複数の光走査装置40を形成した後、ダイシング工程(ウエハ切断工程)によってウエハを切断することにより、個々の光走査装置40に個片化されるが、このダイシング工程によりウエハに加わる外力による保護膜220の剥離が抑制される。
【0052】
<比較例>
次に、上記実施形態に対する比較例について説明する。本出願人は、上記構成の光走査装置40から密着膜202を無くし、配線200上に保護膜220を直接形成したものを、上記ウエハを用いて製造し、熱や外力による保護膜220の剥離の発生の有無を検証した。
【0053】
この結果、ウエハの中央部や周辺部に位置する素子(光走査装置)において保護膜220の剥離が確認された。保護膜220の剥離が発生した素子は、ウエハ中の素子のうち約22%であった。
【0054】
図6は、比較例において保護膜220の剥離が発生した箇所を例示する図である。
図6に示すように、保護膜220の剥離は、配線200上における端子190に隣接した領域Bで発生した。このように保護膜220が端部から剥離すると、これに伴って保護膜220が剥離する領域が拡大する恐れがある。
【0055】
これに対して、本出願人は、配線200と保護膜220との間に密着膜202を有する光走査装置40を、比較例と同様の方法により製造し、保護膜220の剥離の発生の有無を検証した。この結果、密着膜202が存在する場合には、ウエハ中のいずれの素子においても保護膜220の剥離は発生しないことが確認された。
【0056】
<変形例>
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
【0057】
上記実施形態では、密着膜202と下地膜201とをそれぞれチタンを含有する合金(例えば、TiW)により形成しているが、密着膜202及び下地膜201は、チタン合金でなくてもよく、例えばチタン(Ti)のみで形成されていてもよい。
【0058】
なお、密着膜202の材料は、チタン系の金属には限られない。密着膜202は、その熱膨張係数が配線200の熱膨張係数と保護膜220の熱膨張係数との間に存在し、かつ、配線200と保護膜220とに相互作用を有する物質であることが好ましい。本出願人は、密着性に寄与する2つの物質間の相互作用として、以下の(1)~(4)の要素が存在すると推察している。
【0059】
(1)格子定数が近いこと。
【0060】
(2)界面近傍において、熱力学的に安定な化合物が形成されること。
【0061】
(3)界面近傍において、双方の金属が原子レベルで拡散すること。
【0062】
(4)アンカー効果を奏すること。
【0063】
要素(1)については、格子定数が4.07オングストロームである金(Au)に格子定数が近い材料として、格子定数が4.05オングストロームであるアルミニウム(Al)や、格子定数が4.08オングストロームである銀(Ag)などが挙げられる。
【0064】
要素(2)については、界面近傍に双方の金属が混合されている場合や、界面近傍に化合物として酸化物が形成されている場合が挙げられる。
【0065】
要素(3)については、界面近傍で双方の金属が原子レベルで膜厚方向に緩やかに組成比が変化している場合が挙げられる。拡散しやすい物質としては、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)などが挙げられる。
【0066】
要素(4)のアンカー効果とは、配線と保護膜との界面に生じた凹凸に侵入して密着性を高める効果である。
【0067】
配線200が金(Au)であり、保護膜220が酸化アルミニウム(Al2O3)である場合には、密着膜202をチタン系金属とすることにより、熱膨張係数に加えて、上記要素(2)~(4)の少なくともいずれかの相互作用が寄与することにより、密着性が向上すると推察している。
【0068】
また、保護膜220は、酸化アルミニウム(Al2O3)に限られず、その他の材料で形成してもよい。例えば、保護膜220を、酸化アルミニウム(Al2O3)以外の無機酸化物(SiO2、SnO2、TiO2、Y2O3、SrTiO3など)で形成してもよい。また、保護膜220を、無機窒化物(SiN、TiN、AlNなど)で形成してもよい。また、保護膜220を、無機フッ化物(MgFなど)で形成してもよい。さらに、保護膜220を、無機系の非晶質膜としてもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、光走査装置40として、水平駆動が共振駆動であり、垂直駆動が非共振駆動であるものを用いているが、光走査装置40の構成はこれに限られない。例えば、光走査装置40として、水平駆動及び垂直駆動がともに非共振駆動であるものを用いることが可能である。
【0070】
上記実施形態の光走査装置は、例えば、ヘッドマウントディスプレイ、ヘッドアップディスプレイ、プロジェクタ等の二次元走査型の光走査装置に適用することができる。
【0071】
以上、各実施形態に基づき本発明の説明を行ってきたが、上記実施形態に示した要件に本発明が限定されるものではない。これらの点に関しては、本発明の主旨をそこなわない範囲で変更することができ、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0072】
1 光走査システム、10 光走査制御装置、20 光源装置、40 光走査装置、110 ミラー、151A,151B 駆動源、171A,171B 駆動源、180 固定枠、181 支持基板、182 BOX層、183 シリコン活性層、190 端子 190A,190B 端子群 192 水平傾斜センサ、196 垂直傾斜センサ、200 配線、201 下地膜、202 密着膜、210 絶縁膜、220 保護膜