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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】強度試験方法及び強度試験片
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/00 20060101AFI20230614BHJP
【FI】
G01N3/00 Q
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019165550
(22)【出願日】2019-09-11
(65)【公開番号】P2021043078
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】堀江 晃
(72)【発明者】
【氏名】吉田 博司
(72)【発明者】
【氏名】岡田 徹
(72)【発明者】
【氏名】窪田 紘明
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06592968(US,B1)
【文献】特開2009-276221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
継手の強度を評価する強度試験方法であって、
棒状の第1試験片と、
前記第1試験片に重なり合う棒状の第2試験片と、
前記第1試験片と前記第2試験片とを接合する接合部と、を含む強度試験片を準備する準備工程と、
前記第1試験片の長手方向における第1一端部及び前記第2試験片の長手方向における第2一端部を引張試験機の一方のチャックで把持し、前記第1試験片の長手方向における第1他端部を前記引張試験機の他方のチャックで把持し、前記第2試験片の長手方向における第2他端部を前記引張試験機の前記他方のチャックで把持しない状態で、前記強度試験片の一端部及び他端部を把持する把持工程と、
前記強度試験片を前記長手方向に引っ張る引張工程と、を備え
前記接合部と前記第1試験片及び前記第2試験片の長手方向における一端部との間に、前記第1試験片と前記第2試験片とを固定する調節部を設け、前記接合部に作用させる力を調節する調節工程を備えることを特徴とする強度試験方法。
【請求項2】
前記接合部は、溶接部である
ことを特徴とする請求項1に記載の強度試験方法。
【請求項3】
前記溶接部は、スポット溶接部である
ことを特徴とする請求項に記載の強度試験方法。
【請求項4】
前記引張工程において、前記第1試験片及び前記第2試験片に、前記第1試験片と前記第2試験片とを剥離する剥離力を加える
ことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の強度試験方法。
【請求項5】
前記準備工程において、前記接合部とは異なる位置での前記第1試験片と前記第2試験片との間に、スペーサを挟む
ことを特徴とする請求項に記載の強度試験方法。
【請求項6】
前記接合部から前記長手方向の両側に等距離までの隣接範囲における前記第1試験片及び前記第2試験片の前記長手方向に垂直な面での断面積は、他の部分における前記第1試験片及び前記第2試験片の前記長手方向に垂直な面での断面積より小さいことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の強度試験方法。
【請求項7】
前記第1試験片の引張強度と前記第2試験片の引張強度とは異なることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の強度試験方法。
【請求項8】
継手の強度を評価するための強度試験片であって、
棒状の第1試験片と、
前記第1試験片に重なり合う棒状の第2試験片と、
前記第1試験片と前記第2試験片とを接合する接合部と、を備え、
前記第1試験片は、引張試験機の一方のチャックで把持される長手方向における第1一端部と、前記引張試験機の他方のチャックで把持される長手方向における第1他端部と、を有し、
前記第2試験片は、前記引張試験機の一方のチャックで把持される長手方向における第2一端部と、前記引張試験機の他方のチャックに把持されない長手方向における第2他端部と、を有し、
前記接合部と、前記第1一端部及び前記第2一端部との間に、前記第1試験片と前記第2試験片とを固定する調節部を有することを特徴とする強度試験片。
【請求項9】
前記第2一端部から前記第2他端部までの距離は、前記第1一端部から前記第1他端部までの距離より短い
ことを特徴とする請求項に記載の強度試験片。
【請求項10】
前記接合部は、溶接部である
ことを特徴とする請求項に記載の強度試験片。
【請求項11】
前記溶接部は、スポット溶接部である
ことを特徴とする請求項10に記載の強度試験片。
【請求項12】
前記強度試験片は、前記接合部とは異なる位置での前記第1試験片と前記第2試験片との間に、スペーサを備える
ことを特徴とする請求項から請求項11のいずれか1項に記載の強度試験片。
【請求項13】
前記接合部から前記長手方向の両側に等距離までの隣接範囲における前記第1試験片及び前記第2試験片の前記長手方向に垂直な面での断面積は、他の部分における前記第1試験片及び前記第2試験片の前記長手方向に垂直な面での断面積より小さいことを特徴とする請求項から請求項12のいずれか1項に記載の強度試験片。
【請求項14】
前記第1試験片の引張強度と前記第2試験片の引張強度とは異なることを特徴とする請求項から請求項13のいずれか1項に記載の強度試験片。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度試験方法及び強度試験片に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2枚の鋼板を重ね合わせ、重ね合わせた部分にスポット溶接をして形成した継手を試験片とし、スポット溶接部にせん断力が作用するように試験片を試験機にクランプして引っ張り、試験片が破断するまでの最大引張荷重からせん断強度を求めるせん断試験方法(日本工業規格JISZ3136:1999)があった。
また、スポット溶接部に引張力が作用するように試験片を試験機にクランプして引っ張り、試験片が破断するまでの最大引張荷重から引張強度を求める引張試験方法があった。
さらに、スポット溶接部に剥離力が作用するように試験片を試験機にクランプして引っ張り、試験片が破断するまでの最大引張荷重から十字引張力(剥離強度)を求める十字引張試験方法があった(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-125698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の強度試験方法は、それぞれ、特定の負荷状態にある継手の強度を評価するものであって、例えば、せん断力と引張力とが同時に作用するような、複合的な負荷状態にある継手の強度を適切に評価できなかった。
【0005】
本発明は、上記背景技術の問題点に鑑み、複合的な負荷状態にある継手の強度を適切に評価できる強度試験方法及び強度試験片を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0007】
(1)本発明の一態様に係る強度試験方法は、継手の強度を評価する強度試験方法であって、棒状の第1試験片と、前記第1試験片に重なり合う棒状の第2試験片と、前記第1試験片と前記第2試験片とを接合する接合部と、を含む強度試験片を準備する準備工程と、前記第1試験片の長手方向における第1一端部及び前記第2試験片の長手方向における第2一端部を引張試験機の一方のチャックで把持し、前記第1試験片の長手方向における第1他端部を前記引張試験機の他方のチャックで把持し、前記第2試験片の長手方向における第2他端部を前記引張試験機の前記他方のチャックで把持しない状態で、前記強度試験片の一端部及び他端部を把持する把持工程と、前記強度試験片を前記長手方向に引っ張る引張工程と、を備え
前記接合部と前記第1試験片及び前記第2試験片の長手方向における一端部との間に、前記第1試験片と前記第2試験片とを固定する調節部を設け、前記接合部に作用させる力を調節する調節工程を備える。
)上記(1)において、前記接合部は、溶接部であってよい。
)上記()において、前記溶接部は、スポット溶接部であってよい。
)上記(1)から()のいずれかにおいて、前記引張工程において、前記第1試験片及び前記第2試験片に、前記第1試験片と前記第2試験片とを剥離する剥離力を加えてよい。
)上記()において、前記準備工程において、前記接合部とは異なる位置での前記第1試験片と前記第2試験片との間に、スペーサを挟んでよい。
)上記(1)から()のいずれかにおいて、前記接合部から前記長手方向の両側に等距離までの隣接範囲における前記第1試験片及び前記第2試験片の前記長手方向に垂直な面での断面積は、他の部分における前記第1試験片及び前記第2試験片の前記長手方向に垂直な面での断面積より小さくてよい。
)上記(1)から()のいずれかにおいて、前記第1試験片の引張強度と前記第2試験片の引張強度とは異なってよい。
)本発明の一態様に係る強度試験片は、継手の強度を評価するための強度試験片であって、棒状の第1試験片と、前記第1試験片に重なり合う棒状の第2試験片と、前記第1試験片と前記第2試験片とを接合する接合部と、を備え、前記第1試験片は、引張試験機の一方のチャックで把持される長手方向における第1一端部と、前記引張試験機の他方のチャックで把持される長手方向における第1他端部と、を有し、前記第2試験片は、前記引張試験機の一方のチャックで把持される長手方向における第2一端部と、前記引張試験機の他方のチャックに把持されない長手方向における第2他端部と、を有し、前記接合部と、前記第1一端部及び前記第2一端部との間に、前記第1試験片と前記第2試験片とを固定する調節部を有する
)上記()において、前記第2一端部から前記第2他端部までの距離は、前記第1一端部から前記第1他端部までの距離より短くてよい。
10)上記()において、前記接合部は、溶接部であってよい。
11)上記(10)において、前記溶接部は、スポット溶接部であってよい。
12)上記()から(11)のいずれかにおいて、前記強度試験片は、前記接合部とは異なる位置での前記第1試験片と前記第2試験片との間に、スペーサを備えてよい。
13)上記()から(12)のいずれかにおいて、前記接合部から前記長手方向の両側に等距離までの隣接範囲における前記第1試験片及び前記第2試験片の前記長手方向に垂直な面での断面積は、他の部分における前記第1試験片及び前記第2試験片の前記長手方向に垂直な面での断面積より小さくてよい。
14)上記()から(13)のいずれかにおいて、前記第1試験片の引張強度と前記第2試験片の引張強度とは異なってよい。

【発明の効果】
【0008】
本発明の強度試験方法は、複合的な負荷状態にある継手の強度を適切に評価できる強度試験方法及び強度試験片を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る強度試験方法のモデルを示す概略図である。
図2】第1実施形態に係る強度試験片を示す斜視図である。
図3】第1実施形態に係る強度試験片を示す説明図であり、(a)は強度試験片の平面図であり、(b)は、左から、強度試験片の正面図における右向き矢視部の断面図、強度試験片の正面図、強度試験片の正面図における左向き矢視部の断面図、であり、(c)は、左から、第1試験片の正面図における右向き矢視部の断面図、第1試験片の正面図、第1試験片の正面図における左向き矢視部の断面図、であり、(d)は、左から、第2試験片の左側面図、第2試験片の正面図、第2試験片の正面図における左向き矢視部の断面図、である。
図4】第2実施形態に係る強度試験片を示す斜視図である。
図5】第2実施形態に係る強度試験片を示す説明図であり、(a)は強度試験片の平面図であり、(b)は、左から、強度試験片の正面図における右向き矢視部の断面図、強度試験片の正面図、強度試験片の正面図における左向き矢視部の断面図、であり、(c)は、左から、第1試験片の正面図における右向き矢視部の断面図、第1試験片の正面図、第1試験片の正面図における左向き矢視部の断面図、であり、(d)は、左から、第2試験片の左側面図、第2試験片の正面図、第2試験片の正面図における左向き矢視部の断面図、である。
図6】第3実施形態に係る強度試験片を示す斜視図である。
図7】第3実施形態に係る強度試験片を示す説明図であり、(a)は強度試験片の平面図、(b)は、左から、強度試験片の正面図における右向き矢視部の断面図、強度試験片の正面図、強度試験片の正面図における左向き矢視部の断面図、であり、(c)は、左から、第1試験片の正面図における右向き矢視部の断面図、第1試験片の正面図、第1試験片の正面図における左向き矢視部の断面図、であり、(d)は、左から、スペーサの正面図、スペーサの右側面図であり、(e)は、左から、第2試験片の左側面図、第2試験片の正面図、第2試験片の正面図における左向き矢視部の断面図、である。
図8】第3実施形態に係る強度試験方法のモデルを示す概略図である。
図9】第4実施形態に係る強度試験片を示す斜視図である。
図10】第4実施形態に係る強度試験片を示す説明図であり、(a)は強度試験片の平面図であり、(b)は、左から、強度試験片の正面図における右向き矢視部の断面図、強度試験片の正面図、強度試験片の正面図における左向き矢視部の断面図、であり、(c)は、左から、第1試験片の正面図における右向き矢視部の断面図、第1試験片の正面図、第1試験片の正面図における左向き矢視部の断面図、であり、(d)は、左から、第2試験片の正面図における右向き矢視部の断面図、第2試験片の正面図、第2試験片の正面図における左向き矢視部の断面図、である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の実施形態に共通する強度試験方法は、継手の強度を評価する強度試験方法である。継手は、2以上の部材同士の接合部を有するものである。接合部は、例えば、車両等の製品における構造部材同士の接合部である。接合部は、溶接部であってよく、スポット溶接部であってもよい。強度試験方法は、製品における継手を模擬した強度試験片を使用して、引張試験機(不図示)により行われる。
【0011】
引張試験機は、一方に強度試験片の一端部を把持する一方のチャックと、他方に強度試験片の他端部を把持する他方のチャックと、を備えている。引張試験機は、一方のチャックに強度試験片の一端部を把持し、他方のチャックに強度試験片の他端部を把持した状態で、一方のチャックと他方のチャックとを、互いに離れる方向に変位させるものである。引張試験機は、強度試験片を引っ張って強度試験片に引張力を作用させることができる。引張試験機は、通常、強度試験片が破損又は破壊に至るまで、チャックに作用する試験荷重を測定する。
なお、以下、特に説明のない限り、荷重(力)は、他端部Qから一端部P(図1及び図8の両矢印において+側)に向く力を正(+)とし、一端部Pから他端部Q(図1及び図8の両矢印において-側)に向く力を負(-)とする。
【0012】
(第1実施形態)
図1から図3を参照しながら第1実施形態に係る強度試験方法及び強度試験片10について説明する。
図1は、第1実施形態に係る強度試験方法のモデルを示す概略図である。図2は、第1実施形態に係る強度試験片10を示す斜視図である。図3は、第1実施形態に係る強度試験片10を示す説明図である。なお、図3において、(a)は強度試験片10の平面図であり、(b)は、左から、強度試験片10の正面図における右向き矢視部の断面図、強度試験片10の正面図、強度試験片10の正面図における左向き矢視部の断面図、であり、(c)は、左から、第1試験片11の正面図における右向き矢視部の断面図、第1試験片11の正面図、第1試験片11の正面図における左向き矢視部の断面図、であり、(d)は、左から、第2試験片12の左側面図、第2試験片12の正面図、第2試験片12の正面図における左向き矢視部の断面図、である。
【0013】
図1にモデルとして示すように、第1実施形態に係る強度試験方法は、引張試験機(不図示)の一方のチャックCaに強度試験片10の一端部P(一方のチャックCa寄りの最も縁端から所定距離だけ離れた部分)を把持させ、他方のチャックCbに強度試験片10の他端部Qを把持させた状態で、一方のチャックCaと他方のチャックCbとを、互いに離れる方向(図1において左右に離れる方向)に変位させるものである。一方のチャックCaと他方のチャックCbとを、互いに離れる方向に変位させると、一方のチャックCaと他方のチャックCbとを介して、強度試験片10の一端部P及び他端部Qに、試験荷重Fが作用する。
【0014】
(強度試験片)
強度試験片10は、継手の強度を評価するためのものである。図2及び図3に示すように、強度試験片10は、棒状の第1試験片11と、第1試験片11に重なり合う棒状の第2試験片12と、第1試験片11と第2試験片12とを接合する接合部J10と、を備えている。なお、第1試験片11及び第2試験片12は、それぞれ、板状であってよい。
【0015】
第1試験片11は、模擬する継手と同じ材質とすることが好ましく、例えば、鋼製である。図3に示すように、第1試験片11は、一方側11aと、他方側11bと、一方側11aと他方側11bとの間にある第1被接合部J11とを備えている。なお、一方側11aは、一方のチャックCa(不図示)に把持される第1一端部P1と第1被接合部J11との間の範囲とする。他方側11bは、他方のチャックCb(不図示)に把持される第1他端部Q1と第1被接合部J11との間の範囲とする。
【0016】
第2試験片12は、模擬する継手と同じ材質とすることが好ましく、例えば、鋼製である。第2試験片12は、一方側12aと、他方側12bと、一方側12aと他方側12bとの間にある第2被接合部J12とを備えている。なお、一方側12aは、第2一端部P2と第2被接合部J12との間の範囲とする。他方側12bは、第2他端部Q2と第2被接合部J12との間の範囲とする。なお、他方側12bには、引張力が作用していない。第2他端部Q2は、他方のチャックCbに把持されない、第2試験片12における他方のチャックCb寄りの最も端縁の部分である。
【0017】
なお、第1試験片11と第2試験片12とは、模擬する継手に合わせて、異なる材質(引張強度等の機械的性質が異なる鋼製部材同士、鋼とアルミ合金等の素材の種類が異なる部材同士等)であってよい。
【0018】
第1試験片11及び第2試験片12は、強度試験片10の長手方向(試験荷重Fの方向)に亘って、互いに重なり合っている。
第1試験片11は、引張試験機の一方のチャックCaで把持される長手方向における第1一端部P1と、引張試験機の他方のチャックCbで把持される長手方向における第1他端部Q1と、を有している。
これに対して、第2試験片12は、引張試験機の一方のチャックCaで把持される長手方向における第2一端部P2と、引張試験機の他方のチャックCbに把持されない長手方向における第2他端部Q2と、を有している。
すなわち、第1試験片11は、第1一端部P1を引張試験機の一方のチャックCaで把持され、第1他端部Q1を引張試験機の他方のチャックCbで把持されている。一方、第2試験片12は、第2一端部P2のみを引張試験機の一方のチャックCaで把持されている。
このように、一端部P及び他端部Qが引張試験機の一方のチャックCa及び他方のチャックCbにそれぞれ把持されている強度試験片10において、第2試験片12の第2他端部Q2のみが、引張試験機のいずれの一方のチャックCa又は他方のチャックCbにも把持されていない。言い換えると、接合部J10は、図1に示すように、第1試験片11の一方側11a及び他方側11b並びに第2試験片12の一方側12aから構成された、3本のばねで支持されたような状態になっている。第1試験片11の第1一端部P1及び第1他端部Q1並びに第2試験片12の第2一端部P2は、構造力学上の支持端又は固定端となっているが、第2試験片12の第2他端部Q2は、構造力学上の自由端となっている。したがって、強度試験片10の接合部J10に、引張力F1a、引張力F1b、引張力F2aのみならず、第1被接合部J11と第2被接合部J12との間にせん断力τも作用させることができる。
【0019】
具体的には、図2及び図3に示すように、強度試験片10において、第2一端部P2から第2他端部Q2までの距離L12は、第1一端部P1から第1他端部Q1までの距離L11より短い。すなわち、第2被接合部J12から第2他端部Q2までの距離(第2試験片12の他方側12bの長さ)は、第1他端部Q1を一方のチャックCaで把持した際に第2他端部Q2が把持されないようにするため、第1被接合部J11から第1他端部Q1までの距離(第1試験片11の他方側11bの長さ)より短くなっている。これにより、一端部P及び他端部Qが引張試験機の一方のチャックCa及び他方のチャックCbにそれぞれ把持されている強度試験片10において、第2試験片12の第2他端部Q2のみを、引張試験機のいずれの一方のチャックCa又は他方のチャックCbにも把持されていない状態にできる。
なお、第1試験片11及び第2試験片12は、強度試験片10の一端部Pにおいて、第1一端部P1と第2一端部P2とがずれないように、例えば、スポット溶接等の結合手段Cによって、互いに接合されている。
【0020】
接合部J10は、第1試験片11の第1被接合部J11と第2試験片12の第2被接合部J12とが接合された部分である。接合部J10は、第1試験片11と第2試験片12とを、ボルト、リベット等によって機械的に接合した機械接合部であってよく、溶接によって接合した溶接部であってよく、スポット溶接によって接合したスポット溶接部であってもよい。なお、接合部J10は、レーザ溶接等によって点状に形成された溶接部であっても、線状に形成された溶接部であってもよい。図2において、打点Dは、評価する対象の接合部J10がスポット溶接である場合における溶接の打点を示している。接合部J10を溶接部とすることにより、製品の継手が溶接部である場合の継手を模擬した強度試験ができる。また、接合部J10をスポット溶接部とすることにより、製品の継手がスポット溶接部である場合の継手を模擬した強度試験ができる。
【0021】
第1試験片11における長手方向の引張剛性は、接合部J10を長手方向の境界として、一方側11aの引張剛性K1aと他方側11bの引張剛性K1bとが同じであっても、異なっていてもよい。
【0022】
具体的には、第1試験片11は、全域において均質(ヤング率一定)とした場合、図3に示すように、第1試験片11の一方側11aの断面積A11aと他方側11bの断面積A11bとが同じであって、第1試験片11の一方側11aの長手方向の長さを、他方側11bの長手方向の長さより、長くしてもよい。この結果、一方側11aの引張剛性K1aは、他方側11bの引張剛性K1bより小さくなる。反対に、第1試験片11の一方側11aの長手方向の長さを、他方側11bの長手方向の長さより、短くしてもよい。もちろん、第1試験片11の一方側11aの長手方向の長さを、他方側11bの長手方向の長さと同じとしてもよい。このように、第1試験片11は、全域において均質(ヤング率一定)である場合、第1試験片11の一方側11aの断面積A11aと他方側11bの断面積A11bとが同じであっても、第1試験片11の一方側11aの長手方向の長さと、他方側11bの長手方向の長さとの関係を調節することで、一方側11aの引張剛性K1aと他方側11bの引張剛性K1bとの関係を調節できる。
より具体的には、第1試験片11の一方側11aは、長手方向に亘って板厚t11aが等しくなっている。同様に、第1試験片11の他方側11bは、長手方向に亘って板厚t11bが等しくなっている。第1試験片11における一方側11aの板幅B11aは、他方側11bの板幅B11bと同じとなっている。第1試験片11の一方側11aの板幅B11aは、長手方向に亘って等しくなっている。同様に、第1試験片11の他方側11bの板幅B11bは、長手方向に亘って等しくなっている。
【0023】
すなわち、第1試験片11の一方側11aにおける長手方向に垂直な面での断面積は、長手方向に亘って等しくなっている。同様に、第1試験片11の他方側11bにおける長手方向に垂直な面での断面積は、長手方向に亘って等しくなっている。
第1試験片11の一方側11aの引張剛性K1aは、第1被接合部J11から一端部Pまでの長さに比例している。同様に、第1試験片11の他方側11bの引張剛性K1bは、第1被接合部J11から他端部Qまでの長さに比例している。
よって、第1試験片11の一方側11aの引張剛性K1a及び他方側11bの引張剛性K1bは、長さを調節することで可変となっている。
【0024】
図3に示すように、第1試験片11の第1一端部P1から第1被接合部J11までの中間位置における長手方向に垂直な面での断面積A11aは、第1試験片11の第1他端部Q1から第1被接合部J11までの中間位置における長手方向に垂直な面での断面積A11bと同じとなっている。
【0025】
第2試験片12の第2一端部P2から第2被接合部J12までの中間位置における長手方向に垂直な面での断面積A12aは、第2試験片12の第2他端部Q2における長手方向に垂直な面での断面積A12b(端面の面積)と同じとなっている。なお、強度試験片10を単独で見た際に、一端部P又は他端部Qの位置が不明な場合、「一端部P」に換えて、「強度試験片10の一方における最端部」とし、「他端部Q」に換えて、「強度試験片10の他方における最端部」として、上述の「中間位置」を規定してよい。なお、強度試験片10を単独で見た際に、接合部J10の範囲が不明な場合、「接合部J10」に換えて、「強度試験片10の長手方向中央」として、上述の「中間位置」を規定してよい。
【0026】
これにより、図1に示すように、第1試験片11の一方側11aの引張剛性を引張剛性K1aとし、第1試験片11の他方側11bの引張剛性を引張剛性K1bとし、第2試験片12の一方側12aの引張剛性を引張剛性K2aとしたとき、試験荷重Fは、引張剛性K1a及び引張剛性K2aの比率に応じて、第1試験片11の一方側11aにおける引張力F1a(=F×K1a/(K1a+K2a))と第2試験片12の一方側12aにおける引張力F2a(=F×K2a/(K1a+K2a))とに配分される。他方、試験荷重Fは、引張剛性K1bを有する第1試験片11の他方側11bにおいて、引張力F1bとして作用する。その結果、引張力F1a及び引張力F1bの合力は負の値(図1の両矢印において-側向きの力が正の値)になり、正の値(図1の両矢印において+側向きの力が正の値)となる引張力F2aとは向きが異なることになる。よって、接合部J10に、引張力のみならず、せん断力τを作用させることができる。
【0027】
続いて、第2試験片12について説明する。第2試験片12は、接合部J10(第2被接合部J12)を長手方向の境界として、一方側12aの第2一端部P2のみが引張試験機の一方のチャックCaに把持される。第2試験片12における一方側12aは、引張剛性K2aを有している。第2試験片12は、接合部J10(第2被接合部J12)を長手方向の境界として、他方側12bの第2他端部Q2が、引張試験機の他方のチャックCbに把持されておらず、構造力学上の自由端となっている。
第2試験片12の第2一端部P2から第2他端部Q2までの距離L12は、第1試験片11の第1一端部P1から第1他端部Q1までの距離L11より短くなっている。これにより、引張試験機の一方のチャックCaに第1一端部P1及び第2一端部P2を把持し、他方のチャックCbに第1他端部Q1を把持した状態で、第2他端部Q2を把持しない状態にできる。
【0028】
第2試験片12の一方側12aと他方側12bとの、長手方向に垂直な面での断面積は、同じとなっている。すなわち、第2試験片12の一方側12aにおける長手方向に垂直な面での断面積A12aは、第2試験片12の他方側12bにおける長手方向に垂直な面での断面積A12b(端面の面積)と同じとなっている。
【0029】
具体的には、第2試験片12の一方側12aは、長手方向に亘って板厚t12aが等しい。同様に、第2試験片12の他方側12bは、長手方向に亘って板厚t12bが等しい。第2試験片12の一方側12aは、板幅B12aが、他方側12bの板幅B12bと等しい。第2試験片12の一方側12aの板幅B12aは、長手方向に亘って等しい。同様に、第2試験片12の他方側12bの板幅B12bは、長手方向に亘って等しい。
【0030】
すなわち、第2試験片12の一方側12aにおける長手方向に垂直な面での断面積は、長手方向に亘って等しくなっている。同様に、第2試験片12の他方側12bにおける長手方向に垂直な面での断面積は、長手方向に亘って等しくなっている。
【0031】
第2試験片12の一方側12aの引張剛性K2aは、接合部J10から一端部Pまでの長さに比例している。
よって、第2試験片12の一方側12aの引張剛性K2aは、長さを調節することで可変となっている。
【0032】
第1試験片11の引張強度と第2試験片12の引張強度とは異なってもよい。これにより、強度試験片10及び強度試験方法を、製品の継手に即して模擬したものにできる。
【0033】
このように、本実施形態に係る強度試験片10によれば、強度試験片10を構成する第1試験片11の第1一端部P1及び第1他端部Q1並びに第2試験片12の第2一端部P2の3点のみを把持することで、接合部J10に、引張力とせん断力とを複合的に作用させた状態で、継手の強度試験を行うことができる。よって、複合的な負荷状態にある継手の強度を適切に評価できる。
【0034】
なお、第1試験片11及び第2試験片12の形状は、次のように調節して、接合部J10に作用させる引張力及びせん断力を調節してもよい。例えば、第1試験片11及び第2試験片12のそれぞれの板厚を異ならせて、第1試験片11及び第2試験片12のそれぞれの断面積を調節してよい。これにより、例えば、実際の車両の構造部材において継手を構成する板材の組み合わせを模擬することができ、より現実的な継手の評価が可能になる。
【0035】
(強度試験方法)
上述のような強度試験片10に対して、次のように、第1実施形態に係る強度試験方法を行う。以下、第1実施形態に係る強度試験方法を、強度試験片10への作用とともに説明する。
(1)まず、棒状の第1試験片11と、第1試験片11に重なり合う棒状の第2試験片12と、第1試験片11と第2試験片12とを接合する接合部J10と、を含む強度試験片10を準備する(準備工程)。
【0036】
(2)次に、第1試験片11の長手方向における第1一端部P1及び第2試験片12の長手方向における第2一端部P2を引張試験機の一方のチャックCaで把持し、第1試験片11の長手方向における第1他端部Q1を引張試験機の他方のチャックCbで把持し、第2試験片12の長手方向における第2他端部Q2を、構造力学上の自由端となるように、引張試験機の他方のチャックCbで把持しない状態で、強度試験片10の一端部P及び他端部Qを把持する(把持工程)。なお、第2試験片12は、長手方向における第2一端部P2のみが引張試験機の他方のチャックCaで把持されており、長手方向における第2他端部Q2は把持されていない。
【0037】
(3)そして、第1試験片11及び第2試験片12を長手方向に引っ張る(引張工程)。
【0038】
この引張工程において、図1に示すように、第1試験片11を一方に引っ張る引張力F1aと、第1試験片11を他方側に引っ張る引張力F1bとの合力は、第2試験片12を一方に引っ張る引張力F2aと向きが異なるようになる。これらの力の関係は、(F1a+F1b)≠F2aで表すことができる。なお、第1試験片11を一方に引っ張る引張力F1aは、第1被接合部J11を第1試験片11の一方側11aが一端部Pに向けて引っ張る引張力である。第1試験片11を他方側に引っ張る引張力F1bは、第1被接合部J11を第1試験片11の他方側11bが他端部Qに向けて引っ張る引張力である。第2試験片12を一方側に引っ張る引張力F2aは、第2被接合部J12を第2試験片12の一方側12aが一端部Pに向けて引っ張る引張力である。
【0039】
例えば、引張力F1a、引張力F1b及び引張力F2aが、それぞれ、100kN、-200kN、100kNであった場合、引張力F1aと引張力F1bとの合力は、-100kNであり、引張力F2aは、+100kNである。よって、引張力F1a及び引張力F1bの合力と、引張力F2aとは向きが異なる。すなわち、(F1a+F1b)≠F2aとなる。
【0040】
このように、第1試験片11及び第2試験片12を長手方向に試験荷重Fで引っ張ると、接合部J10の第1被接合部J11に作用する引張力の合力と、第2被接合部J12に作用する引張力とが、釣り合う状態になる。
【0041】
ここで、第1被接合部J11には、第1試験片11を一方に引っ張る引張力F1aと第1試験片11を他方に引っ張る引張力F1bとを比較してスカラー量の大きい引張力F1bに相当する引張力が作用する。
【0042】
また、第2被接合部J12には、第2試験片12を一方に引っ張る引張力F2aに相当する引張力が作用する。
【0043】
同時に、接合部J10には、すなわち、第1被接合部J11と第2被接合部J12との間には、第1試験片11を一方に引っ張る引張力F1aと、第1試験片11を他方に引っ張る引張力F1bとの合力(F1a+F1b)に相当するせん断力τが作用する。また、第2試験片12を一方に引っ張る引張力F2aに相当するせん断力τが作用する。
このように、本実施形態に係る強度試験方法によれば、接合部J10に、引張力とせん断力とを複合的に作用させた状態で、継手の強度試験を行うことができる。よって、複合的な負荷状態にある継手の強度を適切に評価できる。
【0044】
なお、強度試験片10を構成する第1試験片11の一方側11a及び他方側11b並びに第2試験片12の一方側12aのそれぞれの引張力F1a,F1b,F2aは、強度試験片10に試験荷重Fが作用していない状態でそれぞれの部材の長手方向(材軸方向)のひずみを測定するゲージを貼付しておき、強度試験片10に試験荷重Fを作用させた際に測定されたひずみに、ゲージを貼付した部分の長手方向に垂直な面の断面積と、部材の弾性係数(ヤング率)とを掛け合わせることで、算出できる。
【0045】
特に、引張力F1aは、第1試験片11の第1一端部P1から第1被接合部J11までの中間位置にゲージを貼付し、その中間位置でのひずみと、その中間位置における長手方向に垂直な面での断面積を用いて算出するとよい。引張力F1bは、第1試験片11の第1他端部Q1から第1被接合部J11までの中間位置にゲージを貼付し、その中間位置でのひずみと、その中間位置における長手方向に垂直な面での断面積を用いて算出するとよい。引張力F2aは、第2試験片12の第2一端部P2から第2被接合部J12までの中間位置にゲージを貼付し、その中間位置でのひずみと、その中間位置における長手方向に垂直な面での断面積を用いて算出するとよい。
【0046】
この他、強度試験片10を構成する第1試験片11の一方側11a及び他方側11b並びに第2試験片12の一方側12aのそれぞれの単体に対して、長手方向のひずみを測定するゲージを貼付しておき、それぞれの単体に引張力を作用させた際に測定されたひずみと引張力との関係式を求めておき、強度試験片10に試験荷重Fを作用させた際に測定されたひずみと、求めた関係式から、引張力F1a、引張力F1b及び引張力F2aを算出してもよい。
【0047】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る強度試験方法について説明する。第2実施形態に係る強度試験方法は、第1実施形態に係る強度試験方法と比べて、主に、調節工程を含むことと、強度試験片の構造が異なっている。以下、第1実施形態と共通する部分については、説明が省略される場合がある。
図4は、第2実施形態に係る強度試験片20を示す斜視図である。図5は、第2実施形態に係る強度試験片20を示す説明図である。なお、図5において、(a)は強度試験片20の平面図であり、(b)は、左から、強度試験片20の正面図における右向き矢視部の断面図、強度試験片20の正面図、強度試験片20の正面図における左向き矢視部の断面図、であり、(c)は、左から、第1試験片21の正面図における右向き矢視部の断面図、第1試験片21の正面図、第1試験片21の正面図における左向き矢視部の断面図、であり、(d)は、左から、第2試験片22の左側面図、第2試験片22の正面図、第2試験片22の正面図における左向き矢視部の断面図、である。
【0048】
(強度試験片)
第2実施形態に係る強度試験片20は、継手の強度を評価するためのものである。図4及び図5に示すように、第2実施形態に係る強度試験片20は、棒状の第1試験片21と、第1試験片21に重なり合う棒状の第2試験片22と、第1試験片21と第2試験片22とを接合する接合部J20と、を備えている。なお、第1試験片21及び第2試験片22は、それぞれ、板状であってよい。
【0049】
ここで、強度試験片20は、接合部J20と、第1一端部P1及び第2一端部P2との間に、第1試験片21と第2試験片22とを固定する調節部Sを有している。調節部Sは、第1試験片21の一方側21aと第2試験片22の一方側22aとが接合された部分である。調節部Sは、第1試験片21と第2試験片22とを、ボルト、リベット等によって機械的に接合した機械接合部であってよく、溶接によって接合した溶接部であってよく、スポット溶接によって接合したスポット溶接部であってもよい。なお、調節部Sは、レーザ溶接等によって点状に形成された溶接部であっても、線状に形成された溶接部であってもよい。なお、調節部Sの箇所は、単数であっても複数であってもよい。このように、接合部J20と、第1一端部P1及び第2一端部P2との間に、第1試験片21と第2試験片22とを固定する調節部Sを設けることにより、接合部J20に作用するせん断力τを、調節部Sにも分担させて低減できる。よって、接合部J20に作用するせん断力τを調節できる。また、調節部Sを設ける位置、すなわち、接合部J20(接合部J20がスポット溶接部である場合、打点Dの位置)と調節部Sとの間隔を調節することにより、接合部J20に作用するせん断力τを変えることができる。よって、強度試験片20及び強度試験方法を、製品の継手に作用する荷重状態に即して模擬したものにできる。
【0050】
第1試験片21における長手方向の引張剛性は、接合部J20を長手方向の境界として、一方側21aの引張剛性K1aより他方側21bの引張剛性K1bが大きくてよく、その反対に、小さくてもよい。なお、第1試験片21における長手方向の引張剛性は、接合部J20を長手方向の境界として、一方側21aの引張剛性K1aと他方側21bの引張剛性K1bとを同等としてもよい。
【0051】
このように、本実施形態に係る強度試験片20によれば、強度試験片20に調節部Sを設けることで、接合部J20に、引張力と調節されたせん断力とを複合的に作用させた状態で、継手の強度試験を行うことができる。
【0052】
(強度試験方法)
上述のような強度試験片20に対して、次のように、第2実施形態に係る強度試験方法を行う。以下、第2実施形態に係る強度試験方法を説明する。
(1)まず、棒状の第1試験片21と、第1試験片21に重なり合う棒状の第2試験片22と、第1試験片21と第2試験片22とを接合する接合部J20と、を含む強度試験片20を準備する(準備工程)。
【0053】
(2)続いて、接合部J20と第1試験片21及び第2試験片22の長手方向における一端部P(第1一端部P1及び第2一端部P2)との間に、第1試験片21と第2試験片22とを固定する調節部Sを設け、接合部J20に作用させる力を調節する(調節工程)。この際、調節部Sを設ける位置を変えること、すなわち、接合部J20の打点Dと調節部Sとの間隔を調節して、弾性係数を変えることにより、接合部J20に作用するせん断力τを変えてもよい。
【0054】
(3)次に、第1試験片11の長手方向における第1一端部P1及び第2試験片12の長手方向における第2一端部P2を引張試験機の一方のチャックCaで把持し、第1試験片11の長手方向における第1他端部Q1を引張試験機の他方のチャックCbで把持し、第2試験片12の長手方向における第2他端部Q2を、構造力学上の自由端となるように、引張試験機の他方のチャックCbで把持しない状態で、強度試験片10の一端部P及び他端部Qを把持する(把持工程)。
【0055】
(4)そして、第1試験片11及び第2試験片12を長手方向に引っ張る(引張工程)。
【0056】
このように、本実施形態に係る強度試験方法によれば、接合部J20に、引張力とせん断力τとを複合的に作用させた状態で、継手の強度試験を行うことができる。また、調節部Sを設けることにより、接合部J20に作用するせん断力τを調節できる。さらに、調節部Sを設ける位置を変えることにより、接合部J20に作用するせん断力τを調節できる。よって、複合的な負荷状態にある継手の強度を適切に評価できる。
【0057】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係る強度試験方法について説明する。第3実施形態に係る強度試験方法は、第1実施形態及び第2実施形態に係る強度試験方法と比べて、主に、強度試験片の構造が異なっている。以下、第1実施形態又は第2実施形態と共通する部分については、説明が省略される場合がある。
図6は、第3実施形態に係る強度試験片30を示す斜視図である。図7は、第3実施形態に係る強度試験片30を示す説明図である。図8は、第3実施形態に係る強度試験方法のモデルを示す概略図である。なお、図7において、(a)は強度試験片30の平面図、(b)は、左から、強度試験片30の正面図における右向き矢視部の断面図、強度試験片30の正面図、強度試験片30の正面図における左向き矢視部の断面図、であり、(c)は、左から、第1試験片31の正面図における右向き矢視部の断面図、第1試験片31の正面図、第1試験片31の正面図における左向き矢視部の断面図、であり、(d)は、左から、スペーサの正面図、スペーサの右側面図であり、(e)は、左から、第2試験片32の左側面図、第2試験片32の正面図、第2試験片32の正面図における左向き矢視部の断面図、である。
【0058】
第3実施形態に係る強度試験片30は、継手の強度を評価するためのものである。図6及び図7に示すように、第3実施形態に係る強度試験片30は、棒状の第1試験片31と、第1試験片31に重なり合う棒状の第2試験片32と、第1試験片31と第2試験片32とを接合する接合部J30と、を備えている。なお、第1試験片31及び第2試験片32は、それぞれ、板状であってよい。
【0059】
第3実施形態に係る強度試験片30は、さらに、接合部J30とは異なる位置での第1試験片31及び第2試験片32との間に、スペーサ33を備えている。スペーサ33は、例えば、板状であってよく、鋼製であってもよい。スペーサ33は、第1試験片31又は第2試験片32と同等の板厚t33及び板幅B33を有している。スペーサ33は、強度試験片30に試験荷重Fが作用した場合に、板厚t33の方向に潰れて大きく変形しない程度の剛性を有している。
【0060】
スペーサ33は、第1試験片31の一方側31aと第2試験片32の一方側32aとの間に挟まれるように配置された状態で、第1試験片31の一方側31a及び第2試験片32の一方側32aと一体となるように、強度試験片30の一端部Pの位置において、例えば、スポット溶接による結合手段Cによって、固定されている。
【0061】
このように、接合部J30においては、第1被接合部J31と第2被接合部J32とが直接的に接した状態で接合されているのに対して、接合部J30とは異なる位置においては、スペーサ33が配置されていることにより、第1試験片31及び第2試験片32との間が離間している。すると、図6及び図7(a)に示すように、接合部J30からスペーサ33までの領域にかけて、第1試験片31及び第2試験片32の一部が試験荷重Fの方向に対して傾斜している状態になる。すなわち、図8にモデルとして示すように、引張力F1a及び引張力F2aのそれぞれの力の方向が試験荷重Fの方向に対して傾斜している。したがって、引張力F1aと引張力F1bとの合力(ベクトル)に剥離方向(試験荷重Fの方向と垂直な方向)の成分が生じる。また、引張力F2aに剥離方向の成分が生じる。よって、接合部J30に、剥離方向の力である剥離力R(第1被接合部J31と第2被接合部J32とが離れる方向の力)を作用させることができる。また、模擬(再現)したい剥離力に合わせて、スペーサ33の板厚t33を変えたり、スペーサ33における接合部J30側の端面の位置を変えたりすることで、試験荷重Fの方向に対して傾斜の角度を変えることができ、剥離力Rを調節できる。
【0062】
このように、本実施形態に係る強度試験片30によれば、強度試験片30を構成する第1試験片31及び第2試験片32の間にスペーサ33を備えることで、接合部J30に、引張力及びせん断力τに更に剥離力Rを加えて複合的に作用させた状態で、継手の強度試験を行うことができる。よって、複合的な負荷状態にある継手の強度を適切に評価できる。
【0063】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態に係る強度試験方法について説明する。第4実施形態に係る強度試験方法は、第1実施形態から第3実施形態に係る強度試験方法と比べて、主に、強度試験片の構造が異なっている。以下、第1実施形態から第3実施形態と共通する部分については、説明が省略される場合がある。
図9は、第4実施形態に係る強度試験片40を示す斜視図である。図10は、第4実施形態に係る強度試験片40を示す説明図である。なお、図10において、(a)は強度試験片40の平面図であり、(b)は、左から、強度試験片40の正面図における右向き矢視部の断面図、強度試験片40の正面図、強度試験片40の正面図における左向き矢視部の断面図、であり、(c)は、左から、第1試験片41の正面図における右向き矢視部の断面図、第1試験片41の正面図、第1試験片41の正面図における左向き矢視部の断面図、であり、(d)は、左から、第2試験片42の正面図における右向き矢視部の断面図、第2試験片42の正面図、第2試験片42の正面図における左向き矢視部の断面図、である。
【0064】
第4実施形態に係る強度試験片40は、継手の強度を評価するためのものである。図9及び図10に示すように、第4実施形態に係る強度試験片40は、棒状の第1試験片41と、第1試験片41に重なり合う棒状の第2試験片42と、第1試験片41と第2試験片42とを接合する接合部J40と、を備えている。なお、第1試験片41及び第2試験片42は、それぞれ、板状であってよい。
【0065】
第4実施形態に係る強度試験片40において、接合部J40から長手方向の両側に等距離までの隣接範囲Eにおける第1試験片41及び第2試験片42の長手方向に垂直な面での断面積A41a、A42a、A41b、A42bは、他の部分における第1試験片41及び第2試験片42の長手方向に垂直な面での断面積より小さくなっている。言い換えると、第1試験片41の板厚t41a,t41b、及び、第2試験片42の板厚t42a,t42bが同じである場合、第1試験片41の板幅B41a、B41b、及び、第2試験片42の板幅B42a,B42bは同じとなっており、これら隣接範囲Eにおける板幅は、強度試験片40の一端部Pから他端部Qまでにおける板幅の中で最も小さくなっていて、くびれた形状となっている。なお、隣接範囲Eにおける板幅は、接合部J40の板幅と一致していてよい。これにより、接合部J40から長手方向の両側に隣接する部分である隣接範囲Eに応力を最も集中させることができるので、接合部J40を除く強度試験片40における他の部分が破損又は破壊するより先に、接合部J40を破損又は破壊させるまで引っ張ることができる。
【0066】
(その他の実施形態)
上述の実施形態においては、本発明の一態様に係る強度試験片10,20,30,40を説明したが、強度試験片は、これらに限られない。
例えば、第4実施形態に係る強度試験片40は、第2実施形態に係る強度試験片20の調節部Sを備えてよい。
例えば、第1実施形態に係る強度試験片10、第2実施形態に係る強度試験片20又は第4実施形態に係る強度試験片40は、第3実施形態に係る強度試験片30のスペーサ33を備えてよい。
例えば、第2実施形態に係る強度試験片20又は第3実施形態に係る強度試験片30は、第4実施形態に係る強度試験片40のようなくびれた形状を備えてよい。
【0067】
(効果)
本発明の一態様によれば、継手の強度を評価する強度試験方法であって、棒状の第1試験片と、第1試験片に重なり合う棒状の第2試験片と、第1試験片と第2試験片とを接合する接合部と、を含む強度試験片を準備する準備工程と、第1試験片の長手方向における第1一端部及び第2試験片の長手方向における第2一端部を引張試験機の一方のチャックで把持し、第1試験片の長手方向における第1他端部を引張試験機の他方のチャックで把持し、第2試験片の長手方向における第2他端部を引張試験機の他方のチャックで把持しない状態で、強度試験片の一端部及び他端部を把持する把持工程と、強度試験片を長手方向に引っ張る引張工程と、を備える。これにより、接合部に、引張力及びせん断力を同時に作用させられる。よって、複合的な負荷状態にある継手の強度を適切に評価できる強度試験方法を提供できる。
本発明の一態様によれば、継手の強度を評価するための強度試験片であって、棒状の第1試験片と、第1試験片に重なり合う棒状の第2試験片と、第1試験片と前記第2試験片とを接合する接合部と、を備え、第1試験片は、長手方向における第1一端部と第1他端部と、を有し、第2試験片は、長手方向における第2一端部と第2他端部と、を有し、第1試験片は、引張試験機の一方のチャックで把持される長手方向における第1一端部と、引張試験機の他方のチャックで把持される長手方向における第1他端部と、を有し、第2試験片は、引張試験機の一方のチャックで把持される長手方向における第2一端部と、引張試験機の他方のチャックに把持されない長手方向における第2他端部と、を有する。これにより、強度試験片を引張試験機で把持して引っ張ることで、接合部に、引張力及びせん断力を同時に作用させられる。よって、複合的な負荷状態にある継手の強度を適切に評価できる強度試験片を提供できる。
【符号の説明】
【0068】
10,20,30,40 強度試験片
11,21,31,41 第1試験片
12,22,32,42 第2試験片
11a,12a,21a,22a,31a,32a,41a,42a 一方側
11b,12b,21b,22b,31b,32b,41b,42b 他方側
33 スペーサ
A11a,A11b,A12a,A12b 断面積
A21a,A21b,A22a,A22b 断面積
A31a,A31b,A32a,A32b 断面積
A41a,A41b,A42a,A42b 断面積
B11a,B11b,B12a,B12b 板幅
B21a,B21b,B22a,B22b 板幅
B31a,B31b,B32a,B32b 板幅
B41a,B41b,B42a,B42b 板幅
C 結合手段
Ca,Cb チャック
D 打点
E 隣接範囲
F 試験荷重
F1a,F1b,F2a 引張力
J10,J20,J30,J40 接合部
J1,J11,J21,J31,J41 第1被接合部
J2,J12,J22,J32,J42 第2被接合部
K1a,K1b,K2a 引張剛性
L11 第1一端部から第1他端部までの距離
L12 第2一端部から第2他端部までの距離
P 一端部
P1 第1一端部
P2 第2一端部
Q 他端部
Q1 第1他端部
Q2 第2他端部
R 剥離力
S 調節部
t11a,t11b,t12a,t12b 板厚
t21a,t21b,t22a,t22b 板厚
t31a,t31b,t32a,t32b 板厚
t41a,t41b,t42a,t42b 板厚
τ せん断力
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
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図10