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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】トーションビームの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60G 9/04 20060101AFI20230614BHJP
【FI】
B60G9/04
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019166198
(22)【出願日】2019-09-12
(65)【公開番号】P2021041856
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】水村 正昭
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/018801(WO,A1)
【文献】特開2007-237784(JP,A)
【文献】特開2010-253552(JP,A)
【文献】国際公開第2017/195706(WO,A1)
【文献】特開2009-208577(JP,A)
【文献】国際公開第2017/155056(WO,A1)
【文献】特開2013-091433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に直交する断面が前記長手方向の任意位置において一対の耳部及び先端曲率部を有する略V字形状又は略U字形状の閉断面である一定形状閉断面部と、前記一定形状閉断面部に連なってかつ前記閉断面が異なる形状の閉断面を持つ接続領域を有する形状変化部と、を備えたトーションビームを製造する方法であって、
素材となる鋼管の長手方向の少なくとも一部に前記鋼管の外方から内方に向かう変位を与えて前記一定形状閉断面部を成形する工程を備え、
前記工程は、
前記一定形状閉断面部における先端曲率部を形成する第1工程と、
前記一定形状閉断面部の前記先端曲率部以外を形成する第2工程と、
を備え
前記第1工程終了時において、前記トーションビームの一対の耳部となる部分の曲率と前記先端曲率部の曲率が等しい
ことを特徴とするトーションビームの製造方法。
【請求項2】
前記第1工程終了時における、前記トーションビームの一対の耳部となる部分の曲率が、第2工程終了時における前記トーションビームの耳部の曲率よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のトーションビームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トーションビームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用サスペンションシステムの一形態としてトーションビーム式サスペンション装置が広く普及している。
【0003】
トーションビーム式サスペンション装置は、左右の車輪を回転自在に支持する左右一対のトレーリングアームがトーションビームによって連結され、さらに、左右一対のスプリング受部がトーションビームの左右端近傍に接合されたトーションビームアッセンブリと、トーションビーム及び車体間を連結するスプリング及びアブソーバとを備える。トーションビームは、車体の左右から中央側に向かって伸びるピボット軸を介して、車体に対して揺動可能に接続される。
【0004】
トーションビームは、たとえば、プレス成形やハイドロフォーム成形により金属管を塑性加工することで形成され、トーションビームの長手方向に直交する断面が、トレーリングアームとの取付部から一定形状閉断面部に向かって、略V字形状又は略U字形状の閉断面に形成される。
【0005】
特許文献1には、疲労特性に優れたトーションビームを効率的に製造することが可能な、トーションビームの製造方法として、一定形状閉断面部と、一定形状閉断面部に連なってかつ閉断面が異なる形状の閉断面を持つ接続領域を有する形状変化部とを備えたトーションビームを製造する際に、一定形状閉断面部及び形状変化部が形成されたトーションビーム素材のうちの少なくとも接続領域に対し、長手方向に沿った引っ張り力を加えてトーションビームを得るトーションビームの製造方法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、残留応力を低減して、トーションビームの製造を容易にしたトーションビーム式サスペンションの製造として、トーションビームはパイプから形成され、かつ、プレス成形によりパイプを径方向内側に潰した凹部を成形し断面形状を略V字状又は略U字状に成形する際に、パイプを径方向内側に潰して先端開口側が開いた凹部に成形してから、凹部の先端開口側を閉じ方向に成形して略V字状又は略U字状に成形するトーションビーム式サスペンションの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6296211号公報
【文献】特開2007-237784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
トーションビームには、車両の軽量化や運動性能の向上にともない、より一層の耐久性の向上が求められている。この要求に応えるために、トーションビームが高強度の鋼管からが製造されることが増えている。
【0009】
一般に高強度の鋼を加工する際には、鋼中の加工時にひずみが集中する箇所で割れが生じやすくなる。特に、高強度の鋼管からトーションビームを製造する際の割れについては、さらに対策を講じる余地がある。
【0010】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであって、鋼管からトーションビームを製造する方法であって、割れの発生を抑制することができるトーションビームの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、特に、高強度の鋼管からトーションビームを製造する際に発生する割れを抑制する方法を鋭意検討した。その結果、鋼管を最終形状に変形させる加工を施す前に適切な加工を施すことにより、鋼管で割れが発生することを防止できることを見出した。本発明は、この知見に基づき、さらに検討を進めてなされたものであって、その要旨は以下のとおりである。
【0012】
(1)長手方向に直交する断面が前記長手方向の任意位置において一対の耳部及び先端曲率部を有する略V字形状又は略U字形状の閉断面である一定形状閉断面部と、前記一定形状閉断面部に連なってかつ前記閉断面が異なる形状の閉断面を持つ接続領域を有する形状変化部と、を備えたトーションビームを製造する方法であって、素材となる鋼管の長手方向の少なくとも一部に前記鋼管の外方から内方に向かう変位を与えて前記一定形状閉断面部を成形する工程を備え、前記工程は、前記一定形状閉断面部における先端曲率部を形成する第1工程と、前記一定形状閉断面部の先端曲率部以外を形成する第2工程と、を備えることを特徴とするトーションビームの製造方法。
【0013】
(2)前記第1工程終了時における、前記トーションビームの一対の耳部となる部分の曲率が、第2工程終了時における前記トーションビームの耳部の曲率よりも小さいことを特徴とする前記(1)のトーションビームの製造方法。
【0014】
(3)前記第1工程終了時において、前記トーションビームの一対耳部となる部分の曲率と前記先端曲率部の曲率が等しいことを特徴とする前記(1)又は(2)のトーションビームの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のトーションビームの製造方法によれば、高強度の鋼管からトーションビームを製造する場合であっても、割れの発生を防止できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】鋼管と、凹部が形成された鋼管の概略を示す図である。
図2】従来技術による金型と鋼管の形状の概略を示す図である。
図3】従来技術により鋼管に凹部が形成される際の形状の変化を示す図である。
図4】本発明におけるトーションビームの製造方法の第1工程の概略を示す図である。
図5】本発明におけるトーションビームの製造方法の第2工程の概略を示す図である。
図6】本発明におけるトーションビームの製造方法により鋼管に凹部が形成される際の形状の変化を示す図である。
図7】FEM解析により、従来技術により製造したトーションビームと、本発明の製造方法により製造したトーションビームの相当ひずみを計算した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。はじめに、従来のトーションビームの製造方法について説明する。
【0018】
[従来のトーションビームの製造方法]
【0019】
図1に示すように、素材となる鋼管11の中間部分を、金型を用いてプレス成形し、鋼管11に凹部12を形成する。鋼管11の長手方向に垂直な凹部12の断面は、一対の耳部、及び先端曲率部を有する略V字形状又は略U字形状の一定形状の閉断面部となる。図2に、金型と鋼管の形状の概略を示す。図2は、鋼管の一定形状閉断面部が形成される位置における、金型及び鋼管の垂直断面を示している。ここで用いる金型(上型21、下型22)により成形される、先端曲率部13、耳部14を有する一定形状閉断面部の形状は、トーションビームの最終形状とほぼ同型である。
【0020】
図3に、鋼管11に一定形状閉断面部12が形成される際の形状の変化を示す。ここで、鋼管11の一部である11aに注目すると、変形の初期に曲率の大きな状態に曲げられ、その後、曲げ戻されることが分かる。この部分は変形の最終段階で平らな形状となっているように見えるが、曲げ-曲げ戻し変形により歪が導入されるため、鋼管11に使用される材料によっては、割れが生じやすくなる。
【0021】
次に、この割れの発生を防止するための、本発明のトーションビームの製造方法について説明する。
【0022】
[本発明のトーションビームの製造方法]
【0023】
本発明のトーションビームの製造方法は、長手方向に直交する断面が長手方向の任意位置において略V字形状又は略U字形状の閉断面である一定形状閉断面部と、一定形状閉断面部に連なってかつ閉断面が異なる形状の閉断面を持つ接続領域を有する形状変化部とを備えたトーションビームを製造する方法であって、素材となる鋼管の長手方向の少なくとも一部に鋼管の外方から内方に向かう変位を与えて一定形状閉断面部を成形する工程を備える。
【0024】
一定形状閉断面部を成形する工程は、一定形状閉断面部における先端曲率部を形成する第1工程と、一定形状閉断面部の先端曲率部以外を形成する第2工程を備える。以下、各工程について説明する。
【0025】
[第1工程]
【0026】
第1工程は、鋼管の全体をトーションビームの最終形状とするのではなく、一定形状閉断面部の先端曲率部を成形するために行う。図4に概略を示すように、鋼管11を、金型(上型41、下型42)を用いてプレス成形する。上型41の先端部41aの形状は、一定の曲率を有する形状である。先端部41aに続く後段部41bは、上型41が変位を与える方向に略平行な面である。結果として、第1工程では、鋼管11は上型41の先端部41aにより与えられる変位で変形するが、後段部41bによっては、最終形状で曲率を有する耳部となる部分に曲率が与えられる他、最終形状で大きな曲率を有さない部分が大きく変形することはない。
【0027】
このとき、最終形状で大きな曲率を有さない部分の大きな変形を抑制するためには、最終形状で耳部となる部分に与えられる曲率は、最終形状において耳部に与えられる曲率よりも小さいことが好ましい。また、最終形状で耳部となる部分に与えられる曲率は、最終形状で先曲率部となる部分の曲率と等しいことが好ましい。
【0028】
後段部41bの面は、上型41が変位を与える方向に完全に平行な面である必要はないが、鋼管11を大きく変形させないために、上型41が変位を与える方向となす角度は-5~10°程度が好ましい。ここで、なす角度は、後段部41bが内側に傾斜している場合を負、外側に傾斜している場合を正とする。上型41の先端部の曲率は、特に限定されないが、先端部41aの形状が、トーションビームの最終形状における先端曲率部と略同じにすることが好ましい。
[第2工程]
【0029】
第2工程は、第1工程とは別の、鋼管11を最終形状とするための金型(上型51、下型52)を用いて、鋼管の全体を最終形状に変形させる工程である。この工程の方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を適用すればよい。たとえば、ハイドロフォームによる成形が好適である。プレス加工により成形を施してもよい。図5に概略を示す。なお、第1工程で、先端曲率部は略最終形状となるので、下型52は第1工程の下型42と同じものを用いることもできる。
【0030】
第1工程、第2工程を通してみると、従来技術のトーションビームの製造方法によれば、変形の初期に曲率の大きな状態に曲げられ、その後、曲げ戻され、最終段階で平らな形状とる部分11aが、本発明のトーションビームの製造方法によれば、大きな曲げ-曲げ戻し変形を受けることがないことが分かる(図6)。
【0031】
このように2段階の異なる加工を行うことにより、最終形状でほぼ平坦部となる位置に加工段階で曲率の大きな曲げ加工がされることはなく、曲げ-曲げ戻しにより大きな歪が導入されることもないので、トーションビーム製造中の割れを防止することができる。
【0032】
なお、上述の説明においては、便宜上「上型」「下型」との語を用いているが、これらの金型は鋼管の上下に配置されるように限定されるものではなく、たとえば、横方向に配置して加工してもよいし、上下を逆に配置して加工してもよいことはいうまでもない。
【0033】
本発明のトーションビームの製造方法に用いる鋼管は特に限定されるものではないが、板厚1.6~4.0mm程度、引張強度590~1180MPa程度の鋼管を使用するトーションビームの製造に好適である。
【0034】
鋼管として電縫鋼管を使用する場合は、電縫部は、最も変形の小さくなる部分になるよう配置することが好ましい。
【0035】
図7に、本発明の効果をFEM解析により確認した結果を示す。図7は直径92mm、板厚2.0mm、引張強度690MPaの鋼管に外方から内方に向かう変位を与え、耳部を有し、略V字形形状の閉断面を有するトーションビームとした場合の、各位置における相当ひずみを示している。
【0036】
従来の製造方法による場合、(a)に示すように耳部の曲げ-曲げ戻し変形が生じる部分で、相当ひずみが0.32となったが、本発明の製造方法による場合、(b)に示すように同じ位置の相当ひずみは0.28となり、ひずみが約13%軽減されることが確認できた。
【符号の説明】
【0037】
11 鋼管
12 凹部
13 先端曲率部
14 耳部
21 金型(上型)
22 金型(下型)
41 金型(上型)
42 金型(下型)
51 金型(上型)
52 金型(下型)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7