(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】鉄道車両用ヨーダンパ装置
(51)【国際特許分類】
B61F 5/24 20060101AFI20230614BHJP
【FI】
B61F5/24 B
(21)【出願番号】P 2019177230
(22)【出願日】2019-09-27
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 陽介
(72)【発明者】
【氏名】水野 将明
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/167534(WO,A1)
【文献】特開2016-185727(JP,A)
【文献】特開2003-261024(JP,A)
【文献】特開平08-119103(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 5/24
F16F 13/00
F16F 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と該車体に連結された台車とを具備する鉄道車両に用いられるヨーダンパ装置であって、
前記台車の前後方向に並設された1対のヨーダンパを前記台車の左右それぞれに備え、
前記1対のヨーダンパは、その伸縮方向が前記台車の前後方向に対して前記台車の左右方向に傾斜している状態で取り付けられ
、
前記1対のヨーダンパの伸縮方向と前記台車の前後方向との成す角度が1°以上3°以下である、
ことを特徴とする鉄道車両用ヨーダンパ装置。
【請求項2】
前記車体に前後1対の前記台車が連結され、
前記1対のヨーダンパは、その伸縮方向の両端部のうち、前記車体の端部側に位置する一方の端部の方が、前記車体の中央部側に位置する他方の端部よりも、前記台車の左右方向内側に位置するように取り付けられている、
ことを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用ヨーダンパ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両に用いられるヨーダンパ装置に関する。特に、本発明は、鉄道車両が軌道の直線区間を高速走行する際に、車体の左右振動を容易に低減して鉄道車両の乗り心地を向上させることが可能な鉄道車両用ヨーダンパ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両には、高速走行時の台車の蛇行動を抑制するためにヨーダンパが用いられる場合がある。ヨーダンパは、車体と台車とを連結するように台車の左右それぞれに取付けられ、軌道不整やレールの継ぎ目などの軌道からの加振によって発生するヨーイング振動(台車が車体に対して上下方向の軸周りに回転振動する現象)を速やかに減衰させるために用いられている。
【0003】
鉄道車両によっては、1つのヨーダンパが故障した場合等に備えて、台車の左右それぞれに1対のヨーダンパ(1台の台車に計4つのヨーダンパ)が取り付けられる場合がある。
従来、上記の場合におけるヨーダンパの配置態様として、
図1に示すように、1対のヨーダンパ1a、1bの伸縮方向が台車3の前後方向(
図1の紙面の左右方向)に平行な水平方向となるようにして両者を上下方向に並設する態様と、
図2に示すように、1対のヨーダンパ1a、1bの伸縮方向が台車3の前後方向(
図2の紙面の左右方向)に平行な水平方向となるようにして両者を台車3の前後方向に一直線上に並設する態様とが知られている。
いずれの態様についても、ヨーダンパ1a、1bの減衰力は台車3の前後方向にのみ作用し、高速走行時の台車3の蛇行動が抑制される。
【0004】
ここで、鉄道車両の乗り心地は、軌道不整やレールの継ぎ目などの軌道からの加振や、車輪の偏心による加振によって台車に振動が発生し、これによって車体と台車との間に取り付けられた部品を介して発生する車体の振動の影響が大きい。
【0005】
本発明者らは、車体の上下振動を容易に低減して鉄道車両の乗り心地を向上させることが可能な鉄道車両用ヨーダンパ装置を提案している(特許文献1参照)。
特許文献1に記載の鉄道車両用ヨーダンパ装置は、
図3に示すように、台車3の前後方向に並設された1対のヨーダンパ1a、1bを台車3の左右それぞれに備えている。そして、1対のヨーダンパ1a、1bのそれぞれは、その伸縮方向の両端部E1、E2のうち、一方の端部(ヨーダンパ1aの端部E1、ヨーダンパ1bの端部E2)が車体2(車体2のヨーダンパ受け22a、22b)に取り付けられ、他方の端部(ヨーダンパ1aの端部E2、ヨーダンパ1bの端部E1)が台車3(台車3の台車枠3c)に取り付けられており、車体2に取り付けられた前記一方の端部(ヨーダンパ1aの端部E1、ヨーダンパ1bの端部E2)の方が台車3に取り付けられた前記他方の端部(ヨーダンパ1aの端部E2、ヨーダンパ1bの端部E1)よりも上方に位置することを特徴としている。
特許文献1に記載の鉄道車両用ヨーダンパ装置によれば、車体2の上下振動を容易に低減可能である。しかしながら、特許文献1に記載の鉄道車両用ヨーダンパ装置は、車体2の左右振動を低減することに着目したものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、鉄道車両が軌道の直線区間を高速走行する際に、車体の左右振動を容易に低減して鉄道車両の乗り心地を向上させることが可能な鉄道車両用ヨーダンパ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を行い、以下の知見を得た。
図4は、車体の左右振動の発生要因を模式的に説明する平面図である。
図4に示すように、車体2の左右振動の発生要因としては、台車3の左右振動及びヨーイング振動が考えられる。すなわち、台車3の左右振動及びヨーイング振動が、車体2と台車3との間に取り付けられた部品を介して、車体2の左右振動を発生させると考えられる。このため、本発明者らは、車体2と台車3との間に取り付けられた部品の一種であるヨーダンパによって台車3の左右振動及びヨーイング振動の双方を抑制できれば、車体2の左右振動を低減できると考えた。
【0009】
図5は、
図2に示す従来の鉄道車両用ヨーダンパ装置100Bによる台車の左右振動及びヨーイング振動の抑制効果を模式的に説明する平面図である。
図5(a)に示すように、台車3のヨーイング振動によって発生するモーメントMに対しては、ヨーダンパ装置100Bの1対のヨーダンパ1a、1bが伸縮することで、1対のヨーダンパ1a、1bから台車3に対してモーメントMを打ち消す方向の反力FFが作用することになる。このため、従来のヨーダンパ装置100Bでも、台車3のヨーイング振動に起因する車体2の左右振動は低減される。
【0010】
一方、
図5(b)に示すように、台車3の左右振動によって発生する力Fに対しては、ヨーダンパ装置100Bの1対のヨーダンパ1a、1bから台車3に対して反力が作用しない。このため、従来のヨーダンパ装置100Bでは、台車3の左右振動に起因する車体2の左右振動は低減されないと考えられる。
【0011】
そこで、本発明者らは、台車3の左右振動によって発生する力F及び台車3のヨーイング振動によって発生するモーメントMの双方を打ち消す方向の反力が1対のヨーダンパ1a、1bから台車3に作用するように、1対のヨーダンパ1a、1bの種々の配置態様について運動解析を行い、鋭意検討を重ねた。その結果、1対のヨーダンパ1a、1bを、その伸縮方向が台車3の前後方向に対して台車3の左右方向に傾斜している状態で取り付けることで、力F及びモーメントMの双方を打ち消す方向の反力が1対のヨーダンパ1a、1bから台車3に作用し、台車3の左右振動及びヨーイング振動の双方が抑制され、車体2の左右振動を低減できることを知見した。
【0012】
本発明は、上記の本発明者らの知見に基づき完成したものである。
すなわち、前記課題を解決するため、本発明は、車体と該車体に連結された台車とを具備する鉄道車両に用いられるヨーダンパ装置であって、前記台車の前後方向に並設された1対のヨーダンパを前記台車の左右それぞれに備え、前記1対のヨーダンパは、その伸縮方向が前記台車の前後方向に対して前記台車の左右方向に傾斜している状態で取り付けられ、前記1対のヨーダンパの伸縮方向と前記台車の前後方向との成す角度が1°以上3°以下である、ことを特徴とする鉄道車両用ヨーダンパ装置を提供する。
【0013】
本発明に係るヨーダンパ装置によれば、1対のヨーダンパが、その伸縮方向が台車の前後方向に対して台車の左右方向に傾斜している状態で取り付けられている。このため、台車の左右振動によって発生する力に対しても、1対のヨーダンパが伸縮することで、1対のヨーダンパから台車に対して前記力を打ち消す方向の反力が作用する。
また、従来と同様に、台車のヨーイング振動によって発生するモーメントに対して、1対のヨーダンパが伸縮することで、1対のヨーダンパから台車に対して前記モーメントを打ち消す方向の反力が作用する。
したがい、本発明に係るヨーダンパ装置によれば、台車の左右振動及びヨーイング振動の双方が抑制され、車体の左右振動を低減できる。本発明に係るヨーダンパ装置によれば、1対のヨーダンパの配置態様を従来と異なるものに変更するだけで良いため、車体の左右振動を容易に低減可能であり、鉄道車両の乗り心地を容易に向上させることが可能である。
【0014】
本発明に係るヨーダンパ装置において、前記車体に前後1対の前記台車が連結され、前記1対のヨーダンパは、その伸縮方向の両端部のうち、前記車体の端部側に位置する一方の端部の方が、前記車体の中央部側に位置する他方の端部よりも、前記台車の左右方向内側に位置するように取り付けられていることが好ましい。
【0015】
上記の好ましい構成によれば、台車の左右振動をより一層効果的に抑制可能であり、ひいては車体の左右振動をより一層低減可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るヨーダンパ装置によれば、鉄道車両が軌道の直線区間を高速走行する際に、車体の左右振動を容易に低減して鉄道車両の乗り心地を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】比較例1の鉄道車両用ヨーダンパ装置の概略構成を説明する説明図である。
【
図2】比較例2の鉄道車両用ヨーダンパ装置の概略構成を説明する説明図である。
【
図3】比較例3の鉄道車両用ヨーダンパ装置(特許文献1に記載の鉄道車両用ヨーダンパ装置)の概略構成を説明する説明図である。
【
図4】車体の左右振動の発生要因を模式的に説明する平面図である。
【
図5】
図2に示す鉄道車両用ヨーダンパ装置による台車の左右振動及びヨーイング振動の抑制効果を模式的に説明する平面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る鉄道車両用ヨーダンパ装置の概略構成を説明する説明図である。
【
図7】
図6(b)の上側に位置する1対のヨーダンパの拡大図である。
【
図8】
図6に示すヨーダンパ装置による台車の左右振動及びヨーイング振動の抑制効果を模式的に説明する平面図である。
【
図9】実施例及び比較例1~3の各ヨーダンパ装置を用いた場合における鉄道車両の乗り心地レベルL
Tを比較した結果を示す。
【
図10】
図6に示すヨーダンパ装置において、1対のヨーダンパの傾斜角度を変化させた場合の乗り心地レベルの変化を評価した結果の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。
【0021】
<本実施形態に係るヨーダンパ装置の構成>
図6は、本発明の一実施形態に係る鉄道車両用ヨーダンパ装置の概略構成を説明する説明図である。
図6(a)は鉄道車両の左右方向から見た側面図であり、
図6(b)は車体本体よりも下方の部分の平面図である。
図6に示すように、本実施形態に係る鉄道車両用ヨーダンパ装置(以下、適宜、単に「ヨーダンパ装置」という)100は、車体2と車体2に連結された台車3とを具備する鉄道車両に用いられるものである。
図6では、便宜上、1台の台車3のみを図示しているが、実際には、車体2に前後(
図6の紙面の左右方向に)1対の台車3が連結されている。台車3は、1つの車体2のみを支持する通常の台車である。換言すれば、台車3は、鉄道車両が有する前後1対の車体2間に設置されて、前後1対の車体2の双方を支持する連接台車ではない。
【0022】
車体2は、車体本体21と、車体本体21の左右それぞれに車体本体21の床面から垂下されたヨーダンパ受け22a、22bとを備えている。
【0023】
台車3は、前後1対の輪軸3a、3bと、台車枠3cと、車体2(車体本体21)と台車枠3cとを連結し車体2を支持する空気ばね3dとを備えている。台車3が備える上記の構成要素及びその他の構成要素は、周知慣用の台車と同様であるため、その詳細な説明は省略する。
【0024】
ヨーダンパ装置100は、台車3の前後方向に並設された1対のヨーダンパ1a、1bを台車3の左右それぞれに備えている。
ヨーダンパ1a、1bは、内部で粘性流体が流通する際の粘性抵抗により、伸縮する際に抵抗力(減衰力)を付与するものである。一般に、ヨーダンパ1a、1bの減衰力は、車体2と台車3との速度差にヨーダンパ1a、1bの減衰係数を乗算して得られる。ヨーダンパ1a、1bの更に具体的な構成は、公知のヨーダンパと同様であるため、その詳細な説明は省略する。
【0025】
なお、ヨーダンパ1a、1bとしては、減衰力可変型のヨーダンパを用いることも可能である。この場合、ヨーダンパ装置100は、ヨーダンパ1a、1bに加えて、ヨーダンパ1a、1bの減衰力を制御する制御手段(図示せず)を備えることになる。具体的には、この制御手段として、車体2に取り付けられたシーケンサ等から構成されるコントローラ(図示せず)と、ヨーダンパ1a、1bに取り付けられた電磁弁(図示せず)とを具備する構成を例示できる。電磁弁は、コントローラからの制御信号に基づき、ヨーダンパ1a、1b内部の粘性流体の流通をオン・オフすることで、ヨーダンパ1a、1bの減衰力を有効(減衰力が作用する状態)にしたり、無効(実質的に減衰力が作用しない状態)にする機能を果たす。
【0026】
図6に示すように、本実施形態に係るヨーダンパ装置100が備える1対のヨーダンパ1a、1bのうち、車体2の端部側(
図6の紙面の左側)に位置するヨーダンパ1aは、その伸縮方向Eaの両端部E1、E2のうち、車体2の端部側に位置する一方の端部E1が車体2(ヨーダンパ受け22a)に取り付けられ、車体2の中央部側(
図6の紙面の右側)に位置する他方の端部E2が台車3(台車枠3c)に取り付けられている。
また、1対のヨーダンパ1a、1bのうち、車体2の中央部側に位置するヨーダンパ1bは、その伸縮方向Ebの両端部E1、E2のうち、車体2の端部側に位置する一方の端部E1が台車3(台車枠3c)に取り付けられ、車体2の中央部側に位置する他方の端部E2が車体2(ヨーダンパ受け22b)に取り付けられている。
【0027】
図7は、
図6(b)の上側に位置する1対のヨーダンパ1a、1bの拡大図である。
1対のヨーダンパ1a、1bは、その伸縮方向Ea、Ebが、台車3の前後方向(
図6の紙面の左右方向、
図7のX方向)に対して台車3の左右方向(
図6(b)及び
図7の紙面の上下方向)に傾斜している状態で取り付けられていることを特徴としている。
具体的には、
図6に示すように、1対のヨーダンパ1a、1bは、その伸縮方向の両端部E1、E2のうち、車体2の端部側に位置する一方の端部E1の方が、車体2の中央部側に位置する他方の端部E2よりも、台車3の左右方向内側に位置するように取り付けられている。
そして、
図7に示す1対のヨーダンパ1a、1bの傾斜角度α(伸縮方向Ea、Ebと、台車の前後方向Xとの成す角度)が1°以上3°以下に設定されている。
【0028】
本実施形態に係るヨーダンパ装置100が備える1対のヨーダンパ1a、1bは上記のように配置されているため、台車3の左右振動及びヨーイング振動の双方が抑制され、車体2の左右振動を低減できる。
以下、この点について、
図8を参照しつつ、より具体的に説明する。
【0029】
図8は、
図6に示すヨーダンパ装置100による台車3の左右振動及びヨーイング振動の抑制効果を模式的に説明する平面図である。具体的には、
図8は、車体本体21(
図6参照)よりも下方の部分の平面図である。
図8(a)に示すように、台車3のヨーイング振動によって発生するモーメントMに対しては、ヨーダンパ装置100の1対のヨーダンパ1a、1bが伸縮することで、1対のヨーダンパ1a、1bから台車3に対してモーメントMを打ち消す方向の反力FFが作用する。このため、本実施形態に係るヨーダンパ装置100により、台車3のヨーイング振動に起因する車体2の左右振動は低減される。
【0030】
また、
図8(b)に示すように、台車3の左右振動によって発生する力Fに対しても、ヨーダンパ装置100の1対のヨーダンパ1a、1bが伸縮することで、1対のヨーダンパ1a、1bから台車3に対して力Fを打ち消す方向の反力FHが作用する。このため、本実施形態に係るヨーダンパ装置100により、台車3の左右振動に起因する車体2の左右振動も低減される。
【0031】
以下、本実施形態に係るヨーダンパ装置100の効果をより具体的に説明するため、比較対象とする比較例1~3のヨーダンパ装置について説明する。
【0032】
<比較例1のヨーダンパ装置の構成>
図1は、比較例1の鉄道車両用ヨーダンパ装置100Aの概略構成を説明する説明図である。
図1(a)は鉄道車両の左右方向から見た側面図であり、
図1(b)は車体本体よりも下方の部分の平面図である。
図1において、
図6に示す構成要素と同様の機能を有する構成要素については、同じ符号を付して説明を適宜省略する。
図1に示すように、比較例1のヨーダンパ装置100Aは、前述のように1対のヨーダンパ1a、1bの伸縮方向が台車3の前後方向に平行な水平方向となる(すなわち、伸縮方向と台車3の前後方向との成す角度である1対のヨーダンパ1a、1bの傾斜角度α=0°)ようにして両者が上下方向に並設されている。
各ヨーダンパ1a、1bの減衰係数など、比較例1のヨーダンパ装置100Aにおける各ヨーダンパ1a、1bの配置態様以外の点については、本実施形態に係るヨーダンパ装置100と同様の設定であるため、これ以上の説明を省略する。
【0033】
<比較例2のヨーダンパ装置の構成>
図2は、比較例2の鉄道車両用ヨーダンパ装置100Bの概略構成を説明する説明図である。
図2(a)は鉄道車両の左右方向から見た側面図であり、
図2(b)は車体本体よりも下方の部分の平面図である。
図2において、
図6に示す構成要素と同様の機能を有する構成要素については、同じ符号を付して説明を適宜省略する。
図2に示すように、比較例2のヨーダンパ装置100Bは、前述のように1対のヨーダンパ1a、1bの伸縮方向が台車3の前後方向に平行な水平方向となる(すなわち、伸縮方向と台車3の前後方向との成す角度である1対のヨーダンパ1a、1bの傾斜角度α=0°)ようにして両者が台車3の前後方向に一直線上に並設されている。
各ヨーダンパ1a、1bの減衰係数など、比較例2のヨーダンパ装置100Bにおける各ヨーダンパ1a、1bの配置態様以外の点については、本実施形態に係るヨーダンパ装置100と同様の設定であるため、これ以上の説明を省略する。
【0034】
<比較例3のヨーダンパ装置の構成>
図3は、比較例3の鉄道車両用ヨーダンパ装置100C(特許文献1に記載の鉄道車両用ヨーダンパ装置)の概略構成を説明する説明図である。
図3(a)は鉄道車両の左右方向から見た側面図であり、
図3(b)は車体本体よりも下方の部分の平面図である。
図3において、
図6に示す構成要素と同様の機能を有する構成要素については、同じ符号を付して説明を適宜省略する。
図3に示すように、比較例3のヨーダンパ装置100Cは、前述のように1対のヨーダンパ1a、1bが台車3の前後方向に並設されている。比較例3のヨーダンパ装置100Cでは、ヨーダンパ1a、1bの伸縮方向の両端部E1、E2のうち、一方の端部(ヨーダンパ1aの端部E1、ヨーダンパ1bの端部E2)が車体2(ヨーダンパ受け22a、22b)に取り付けられ、他方の端部(ヨーダンパ1aの端部E2、ヨーダンパ1bの端部E1)が台車3(台車枠3c)に取り付けられており、車体2に取り付けられた前記一方の端部(ヨーダンパ1aの端部E1、ヨーダンパ1bの端部E2)の方が台車3に取り付けられた前記他方の端部(ヨーダンパ1aの端部E2、ヨーダンパ1bの端部E1)よりも上方に位置している。具体的には、前記一方の端部が他方の端部よりも60mm上方に位置している。
各ヨーダンパ1a、1bの減衰係数など、比較例3のヨーダンパ装置100Cにおける各ヨーダンパ1a、1bの配置態様以外の点については、本実施形態に係るヨーダンパ装置100と同様の設定であるため、これ以上の説明を省略する。
【0035】
<本実施形態に係るヨーダンパ装置の評価>
以下、各ヨーダンパ装置を用いた場合の鉄道車両の乗り心地を実際に運動解析によって評価した結果について説明する。運動解析を行う鉄道車両のモデルとしては、いずれのヨーダンパ装置を用いる場合であっても、車体2に前後1対の台車3が連結され、台車3を剛体要素、車体2を弾性体要素としたモデルを用いた。そして、軌道不整を有する直線区間を高速走行する際の運動解析を行った。
【0036】
具体的には、運動解析によって、直線区間を走行中の鉄道車両における車体2の左右方向の振動加速度を算出し、この算出した振動加速度から乗り心地レベルを算出した。なお、運動解析は、汎用機構解析ソフトを利用して実施可能であり、例えば、ダッソー・システムズ(株)製マルチボディダイナミクス解析ツール「SIMPACK」を利用することが可能である。また、乗り心地レベルとしては、「鉄道車両のダイナミクス」(日本機械学会編)に記載の以下の式(1)で表される乗り心地レベルLT[dB]を用いた。
LT[dB]=20log(aw/aref) ・・・(1)
【0037】
図9は、実施例及び比較例1~3の各ヨーダンパ装置を用いた場合における鉄道車両の乗り心地レベルL
Tを比較した結果を示す。
図9(a)は乗り心地レベルL
Tに関わる式(1)の右辺の各パラメータの値を、
図9(b)は乗り心地レベルL
Tの値を示す。
図9(c)は
図9(b)に示す「比較例1」を除いた乗り心地レベルL
Tの値を示す。
図9に示す「比較例1」は、
図1に示すヨーダンパ装置100Aを用いた場合の結果であり、「比較例2」は、
図2に示すヨーダンパ装置100Bを用いた場合の結果であり、「比較例3」は、
図3に示すヨーダンパ装置100Cを用いた場合の結果である。「実施例1」は、
図6に示す本実施形態に係るヨーダンパ装置100を用いて、1対のヨーダンパ1a、1bの傾斜角度α=2.5°に設定した場合の結果である。
【0038】
図9に示すように、本実施形態に係るヨーダンパ装置100(実施例)によれば、比較例1のヨーダンパ装置を用いた場合に比べて、乗り心地レベルが大きく低減され、他の比較例2、3と比べても低減されることが分かった。
【0039】
図10は、本実施形態に係るヨーダンパ装置100において、1対のヨーダンパ1a、1bの傾斜角度αを変化させた場合の乗り心地レベルの変化を評価した結果の一例を示す図である。
図10には、比較例2のヨーダンパ装置(傾斜角度α=0°)を用いた場合の乗り心地レベルも破線で図示している。
図10に示すように、少なくとも傾斜角度αが0°<α≦3.5°の場合、好ましくは、1°≦α≦3°の場合、乗り心地レベルが比較例2のヨーダンパ装置(傾斜角度α=0°)を用いた場合の乗り心地レベルよりも低減されることが分かった。
【0040】
なお、本実施形態では、
図6に示すように、1対のヨーダンパ1a、1bの伸縮方向の両端部E1、E2のうち、車体2の端部側に位置する一方の端部E1の方が、車体2の中央部側に位置する他方の端部E2よりも、台車3の左右方向内側に位置する場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限るものではなく、1対のヨーダンパ1a、1bの伸縮方向Ea、Ebが、台車3の前後方向に対して台車3の左右方向に傾斜している限りにおいて、他の態様を採用することも可能である。
【0041】
具体的には、変形例として、以下の(a)~(c)の態様を採用することが考えられる。以下の(a)~(c)の態様であっても、車体2の左右振動を低減可能である。
(a)1対のヨーダンパ1a、1bの伸縮方向の両端部E1、E2のうち、車体2の端部側に位置する一方の端部E1の方が、車体2の中央部側に位置する他方の端部E2よりも、台車3の左右方向外側に位置する。
(b)ヨーダンパ1aの伸縮方向の両端部E1、E2のうち、車体2の端部側に位置する一方の端部E1の方が、車体2の中央部側に位置する他方の端部E2よりも、台車3の左右方向内側に位置し、ヨーダンパ1bの伸縮方向の両端部E1、E2のうち、車体2の端部側に位置する一方の端部E1の方が、車体2の中央部側に位置する他方の端部E2よりも、台車3の左右方向外側に位置する。
(c)ヨーダンパ1aの伸縮方向の両端部E1、E2のうち、車体2の端部側に位置する一方の端部E1の方が、車体2の中央部側に位置する他方の端部E2よりも、台車3の左右方向外側に位置し、ヨーダンパ1bの伸縮方向の両端部E1、E2のうち、車体2の端部側に位置する一方の端部E1の方が、車体2の中央部側に位置する他方の端部E2よりも、台車3の左右方向内側に位置する。
【0042】
また、本実施形態では、1対のヨーダンパ1a、1bの傾斜角度αが互いに同一(例えば、α=2.5°)である場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限るものではなく、ヨーダンパ1aの傾斜角度αと、ヨーダンパ1bの傾斜角度αとが互いに異なる値に設定された変形例を採用することも可能である。この変形例であっても、車体2の左右振動を低減可能である。
【0043】
さらに、本実施形態では、1対のヨーダンパ1a、1bの傾斜角度αが1°≦α≦3に設定されている場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限るものではなく、本発明の作用効果を奏し得る限りにおいて、種々の傾斜角度αを採用することも可能である。
【符号の説明】
【0044】
1a、1b・・・ヨーダンパ
2・・・車体
21・・・車体本体
22、22a、22b・・・ヨーダンパ受け
3・・・台車
3c・・・台車枠
100、100A、100B、100C・・・ヨーダンパ装置
E1・・・ヨーダンパの両端部のうち車体の端部側に位置する端部
E2・・・ヨーダンパの両端部のうち車体の中央部側に位置する端部
Ea・・・ヨーダンパ1aの伸縮方向
Eb・・・ヨーダンパ1bの伸縮方向
α・・・傾斜角度