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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】ステータ及び渦電流式減速装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 49/02 20060101AFI20230614BHJP
   H02K 1/17 20060101ALI20230614BHJP
   H02K 15/03 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
H02K49/02 B
H02K1/17
H02K15/03 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020002547
(22)【出願日】2020-01-10
(65)【公開番号】P2021112039
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】藤田 卓也
(72)【発明者】
【氏名】今西 憲治
(72)【発明者】
【氏名】野上 裕
(72)【発明者】
【氏名】野口 泰隆
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-209966(JP,A)
【文献】特開2016-034228(JP,A)
【文献】国際公開第2012/160841(WO,A1)
【文献】特開2006-345692(JP,A)
【文献】特開2005-051829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 49/00- 51/00
H02K 1/17
H02K 15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周側又は内周側が開口する円環状の収容空間を内部に有し、前記収容空間内に永久磁石列を収容する、渦電流式減速装置用ステータの製造方法であって、
互いに間隔を空けて並列に配置される複数のポールピース部と、前記ポールピース部同士を連結する連結部と、を含む長尺状のポールピース部材を準備する工程と、
前記収容空間を形成するためのステータケースを準備する工程と、
前記ステータケースに対し、前記収容空間の周方向に沿って前記ポールピース部材を巻き付ける工程と、
を備える、製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法であって、
前記連結部は、前記収容空間の開口側で前記ポールピース部同士を連結する、製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の製造方法であって、
前記連結部は、前記収容空間の開口と反対側で前記ポールピース部同士を連結する、製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記ポールピース部材は、当該ポールピース部材の幅方向に積層された複数の金属板によって形成される、製造方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法であって、
前記ポールピース部材は、当該ポールピース部材の厚み方向に積層された複数の金属板によって形成される、製造方法。
【請求項6】
車両に用いられる渦電流式減速装置の製造方法であって、
請求項1から5のいずれか1項に記載の製造方法によって製造されたステータを準備する工程と、
前記ステータを前記車両の非回転部に取り付けるとともに、円筒状の制動部材を前記ステータの外側又は内側に配置し、前記制動部材を前記車両の回転軸に取り付ける工程と、
を備える、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、渦電流式減速装置用のステータの製造方法に関し、より詳細には、外周側又は内周側が開口する円環状の収容空間を有し、当該収容空間内に永久磁石列を収容するステータの製造方法に関する。また、本開示は、このステータを用いた渦電流式減速装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばトラックやバス等といった大型車両の補助ブレーキとして、従来、渦電流式減速装置が使用されている。渦電流式減速装置は、通常、車両の回転軸に固定された円筒状の制動部材と、制動部材の内側に配置され、車両の非回転部に固定されたステータとを備える。ステータは、複数の永久磁石及び複数のポールピースを内部に有する。ポールピースに対する永久磁石の位置を変化させることにより、制動状態と非制動状態とが切り替えられる。
【0003】
渦電流式減速装置が制動状態にある場合、永久磁石からの磁束がポールピースを介して制動部材に到達し、制動部材の表面に渦電流が発生する。この渦電流と磁束との相互作用により、制動部材において回転方向と逆向きの制動トルクが発生する。一方、渦電流式減速装置が非制動状態にある場合には、永久磁石とポールピースとの間で磁気回路が形成され、永久磁石からの磁束は制動部材に到達しない。そのため、制動部材において制動トルクは発生しない。
【0004】
例えば、特許文献1及び2には、2種類の永久磁石を備える渦電流式減速装置が開示されている。これらの減速装置では、ステータの中空円環状のケース内において、複数の第1永久磁石が周方向に配列されるとともに、複数の第2永久磁石が周方向に配列されている。第2永久磁石の各々は、径方向において第1永久磁石の外側に配置され、環状の磁性部材に埋設されている。この磁性部材により、ポールピースが形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-32927号公報
【文献】特開2007-82333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2の渦電流式減速装置では、環状の磁性部材によってポールピースが形成されている。このような磁性部材は、通常、数百mmの外径及び内径を有し、外径及び内径の各々に±1mm程度もの製造公差が与えられている。そのため、当該磁性部材では、外径及び内径、並びにこれらの差によって定まる厚みの寸法精度が低くなる傾向にある。ポールピースとしての磁性部材の寸法精度が低い場合、この磁性部材を含むステータを適用した渦電流式減速装置において目的の性能を得られない可能性がある。
【0007】
本開示は、高い寸法精度のポールピース部を実現することができるステータの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る製造方法は、渦電流式減速装置用ステータの製造方法である。ステータは、外周側又は内周側が開口する円環状の収容空間を内部に有する。当該収容空間内には、永久磁石列が収容される。ステータの製造方法は、長尺状のポールピース部材を準備する工程と、収容空間を形成するためのステータケースを準備する工程と、ステータケースに対し、収容空間の周方向に沿ってポールピース部材を巻き付ける工程と、を備える。ポールピース部材は、互いに間隔を空けて並列に配置される複数のポールピース部と、ポールピース部同士を連結する連結部と、を含んでいる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、高い寸法精度のポールピース部を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、第1実施形態における渦電流式減速装置の概略構成を示す縦断面図である。
図2図2は、図1に示す減速装置の部分横断面図である。
図3A図3Aは、図1及び図2に示す減速装置に含まれるステータの製造方法を説明するための模式図である。
図3B図3Bは、図1及び図2に示す減速装置に含まれるステータの製造方法を説明するための模式図である。
図3C図3Cは、図1及び図2に示す減速装置に含まれるステータの製造方法を説明するための模式図である。
図3D図3Dは、図1及び図2に示す減速装置に含まれるステータの製造方法を説明するための模式図である。
図3E図3Eは、図1及び図2に示す減速装置に含まれるステータの製造方法を説明するための模式図である。
図4図4は、第2実施形態における渦電流式減速装置及びステータの概略構成を示す部分横断面図である。
図5A図5Aは、図4に示すステータの製造方法を説明するための模式図である。
図5B図5Bは、図4に示すステータの製造方法を説明するための模式図である。
図5C図5Cは、図4に示すステータの製造方法を説明するための模式図である。
図6図6は、第3実施形態における渦電流式減速装置用ステータの製造方法を説明するための模式図である。
図7図7は、第4実施形態における渦電流式減速装置の概略構成を示す部分横断面図である。
図8図8は、上記実施形態の変形例を説明するための模式図である。
図9図9は、上記実施形態の変形例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態に係る製造方法は、渦電流式減速装置用ステータの製造方法である。ステータは、外周側又は内周側が開口する円環状の収容空間を内部に有する。当該収容空間内には、永久磁石列が収容される。ステータの製造方法は、長尺状のポールピース部材を準備する工程と、収容空間を形成するためのステータケースを準備する工程と、ステータケースに対し、収容空間の周方向に沿ってポールピース部材を巻き付ける工程と、を備える。ポールピース部材は、互いに間隔を空けて並列に配置される複数のポールピース部と、ポールピース部同士を連結する連結部と、を含んでいる。
【0012】
上記実施形態によれば、渦電流式減速装置用のステータを製造するに際し、複数のポールピース部を含む長尺状のポールピース部材をステータケースに巻き付ける。長尺状のポールピース部材では、環状の磁性部材のように内径及び外径を管理する必要はなく、ポールピース部の厚みを直接管理すればよい。ポールピース部の厚みは、環状の磁性部材の内径及び外径と比較して非常に小さく、与えられる製造公差もごく僅かである。そのため、長尺状のポールピース部材を用いてステータを製造することにより、高い寸法精度のポールピース部を実現することができる。
【0013】
ポールピース部材において、連結部は、収容空間の開口側でポールピース部同士を連結することが好ましい。
【0014】
連結部は、収容空間の開口と反対側でポールピース部同士を連結してもよい。
【0015】
ポールピース部材は、当該ポールピース部材の幅方向に積層された複数の金属板によって形成されていてもよい。
【0016】
ポールピース部材は、当該ポールピース部材の厚み方向に積層された複数の金属板によって形成されていてもよい。
【0017】
実施形態に係る車両用渦電流式減速装置の製造方法は、上記製造方法によって製造されたステータを準備する工程と、ステータを車両の非回転部に取り付けるとともに、円筒状の制動部材をステータの外側又は内側に配置し、制動部材を車両の回転軸に取り付ける工程と、を備える。
【0018】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0019】
<第1実施形態>
[渦電流式減速装置の構成]
図1は、第1実施形態における渦電流式減速装置100の概略構成を示す縦断面図である。減速装置100は、例えば、トラックやバス等といった車両の補助ブレーキとして使用される。縦断面とは、減速装置100が用いられる車両の回転軸200の軸心Xを含む平面で切断したときの断面をいう。回転軸200は、例えば、プロペラシャフトや、ドライブシャフトである。以下、軸心Xが延びる方向を軸方向といい、軸心Xを中心とする円環又は円筒の周方向及び径方向を単に周方向及び径方向という。
【0020】
図1を参照して、減速装置100は、制動部材10と、ステータ20とを備える。
【0021】
制動部材10は、円筒状であり、回転軸200の軸心Xと実質的に同一の軸心を有する。制動部材10は、回転軸200に固定されている。より詳細には、制動部材10は、支持部材90を介して回転軸200に固定されている。そのため、制動部材10は、回転軸200とともに軸心X周りに回転する。
【0022】
制動部材10は、例えば、炭素鋼や鋳鉄等の強磁性材料で構成されている。制動部材10の内周面は、導電率が高い銅めっき層で被覆されてもよい。制動部材10の外周面には、放熱フィン11が複数設けられている。
【0023】
ステータ20は、回転軸200とともに回転しないよう、例えばトランスミッションカバー等といった車両の非回転部300に固定されている。ステータ20は、ステータケース21と、磁石保持部材22と、永久磁石列23,24と、ポールピース部材25とを含む。
【0024】
ステータケース21は、径方向において制動部材10の内側に配置されている。ステータケース21は、ケース本体211と、本体保持部材212とを含む。ケース本体211は、軸心Xを中心とする概略円環板状に形成されている。ケース本体211は、本体保持部材212に固定されている。本体保持部材212は、ケース本体211に対向する側部212aと、側部212aからケース本体211に向かって突出する底部212bとを含む。底部212bは、支持部212cを介し、車両の非回転部300に取り付けられる。ケース本体211と、本体保持部材212の側部212a及び底部212bとにより、ステータ20の内部に収容空間Sが形成される。収容空間Sは、実質的に軸心Xを中心とする円環状であり、外周側が開口している。
【0025】
磁石保持部材22は、円筒状であり、制動部材10と同一の軸心Xを有する。すなわち、磁石保持部材22は、実質的に制動部材10と同軸に配置されている。本実施形態の例では、磁石保持部材22は、径方向において制動部材10の内側に配置されている。磁石保持部材22は、収容空間S内に配置されている。
【0026】
磁石保持部材22は、回転軸200とともに回転しない。磁石保持部材22は、例えばリング状のスライドプレート(図示略)を介し、ステータケース21に対して周方向に摺動可能に取り付けられる。磁石保持部材22は、リンク機構(図示略)により、エアシリンダや電動アクチュエータ等の駆動装置(図示略)に接続されている。この駆動装置が作動することにより、磁石保持部材22が回転軸200周りに回転し、ステータケース21に対して周方向に移動する。磁石保持部材22を回転軸200周りに回転させることにより、減速装置100の制動状態と非制動状態とが切り替えられる。磁石保持部材22は、例えば、炭素鋼や鋳鉄等の強磁性材料で構成されている。
【0027】
永久磁石列23,24は、収容空間S内に収容される。永久磁石列23は、磁石保持部材22の外周面上に配置されている。永久磁石列24は、収容空間S内において、永久磁石列23の外周側に配置される。永久磁石列24は、例えばピンやボルト等の固定部材(図示略)により、ステータケース21に取り付けられる。具体的には、永久磁石列24の軸方向の両端部のうち、一端部がケース本体211に固定され、他端部が本体保持部材212の側部212aに固定されている。
【0028】
ポールピース部材25は、永久磁石列23,24の外周側からステータケース21に巻き付けられている。ポールピース部材25は、例えばピンやボルト等の固定部材(図示略)により、ステータケース21に固定される。
【0029】
図2を参照し、減速装置100の構成をさらに詳細に説明する。図2は、減速装置100の部分横断面図である。横断面とは、回転軸200の軸心X(図1)と直交する平面で切断したときの断面をいう。図2では、ステータケース21が省略されている。
【0030】
図2を参照して、永久磁石列23は、複数の永久磁石231で構成されている。永久磁石231は、例えば、ネオジム磁石、フェライト磁石、又はサマリウムコバルト磁石等である。永久磁石231は、磁石保持部材22の外周面上において周方向に配列されている。永久磁石231は、磁石保持部材22の全周にわたり、所定の間隔を空けて配置される。永久磁石231の各々は、例えば接着剤又は溶接等により、磁石保持部材22の外周面に取り付けられている。
【0031】
永久磁石231の各々は、一対の磁極(N極,S極)を有する。各永久磁石231の磁極の向きは、径方向に沿うとともに、両隣の永久磁石231の磁極の向きと反転している。すなわち、各永久磁石231は、径方向の内側にN極又はS極を有し、径方向の外側にこれと反対のS極又はN極を有する。各永久磁石231は、概略四角形状の横断面を有する。
【0032】
永久磁石列24は、複数の永久磁石241で構成されている。永久磁石241は、例えば、ネオジム磁石、フェライト磁石、又はサマリウムコバルト磁石等である。永久磁石241は、制動部材10と永久磁石231との間において周方向に配列されている。永久磁石241は、周方向に所定の間隔を空けて配置されている。回転軸200の軸心X(図1)周りの永久磁石241の配置角度は、軸心X周りの永久磁石231の配置角度と等しい。永久磁石241の各々は、周方向に隣り合う2つの永久磁石231に跨るように配置されている。
【0033】
永久磁石241の各々は、一対の磁極(N極,S極)を有する。各永久磁石241の磁極の向きは、周方向に沿うとともに、両隣の永久磁石241の磁極の向きと反転している。すなわち、各永久磁石241は、周方向の一方側にN極又はS極を有し、周方向の他方側にこれと反対のS極又はN極を有する。
【0034】
各永久磁石241は、天面241aと、底面241bとを含む。天面241aは、制動部材10側に配置されている。底面241bは、天面241aよりも周方向に長く、永久磁石231側に配置されている。天面241a及び底面241bは、側面241c,241cによって接続されている。側面241c,241cと底面241bとの角部は、削り落とされていてもよいし、丸められていてもよい。同様に、側面241c,241cと天面241aとの角部も、削り落とされていてもよいし、丸められていてもよい。
【0035】
ポールピース部材25は、例えば、炭素鋼や鋳鉄等の強磁性材料で構成されている。ポールピース部材25は、複数のポールピース部251と、複数の連結部252とを含む。
【0036】
ポールピース部251は、周方向に所定の間隔を空けて配置されている。回転軸200の軸心X(図1)周りのポールピース部251の配置角度は、軸心X周りの永久磁石231の配置角度と等しい。ポールピース部251は、周方向において永久磁石231と対応する位置に配置されている。
【0037】
ポールピース部251の各々は、周方向に隣り合う永久磁石241の間に配置される。各ポールピース部251は、周方向に隣り合う永久磁石241の隙間を埋めるような形状を有する。各ポールピース部251は、両隣の永久磁石241の側面241cに接触する。ポールピース部251は、例えば接着剤等によって両隣の永久磁石241に固定されてもよいし、固定されていなくてもよい。
【0038】
連結部252の各々は、周方向に隣り合うポールピース部251同士を連結する。連結部252は、ポールピース部材25のうち、ポールピース部251よりも厚み(径方向の寸法)が小さい板状の部分である。本実施形態の例では、連結部252は、径方向において永久磁石列24の外側に配置されている。すなわち、連結部252は、各永久磁石241を制動部材10側から覆っている。連結部252は、永久磁石241の天面241aに接触していてもよいし、天面241aと隙間を空けて対向していてもよい。
【0039】
[渦電流式減速装置の製造方法]
以下、渦電流式減速装置100の製造方法について説明する。減速装置100の製造方法は、ステータ20を準備する工程と、ステータ20及び制動部材10を車両に取り付ける工程と、を備える。
【0040】
(ステータの準備)
ステータ20は、ポールピース部材25及びステータケース21を準備し、ポールピース部材25をステータケース21に巻き付けることによって製造される。すなわち、ステータ20の製造方法は、ポールピース部材25を準備する工程と、ステータケース21を準備する工程と、ポールピース部材25をステータケース21に巻き付ける工程とを備える。図3A図3Eは、ステータ20の製造方法を説明するための模式図である。
【0041】
図3A及び図3Bを参照して、ステータ20の製造に際し、まず、長尺状のポールピース部材25を準備する。ポールピース部材25は、図3Aに示すように、複数の金属板30を用いて形成することができる。金属板30は、例えば、炭素鋼や鋳鉄等の強磁性材料からなる板状の素材Mを打ち抜き加工することによって作製される。図3Aでは、素材Mのうち、金属板30以外の部分にハッチングを付与している。
【0042】
図3Aに示すように、1枚の素材Mから複数の金属板30を得ることができる。これらの金属板30は、同一の形状を有する。各金属板30は、ポールピース部材25に対応して、それぞれ複数のポールピース部31及び連結部32を含んでいる。
【0043】
図3Bに示すように、複数の金属板30を積層することにより、長尺状のポールピース部材25が形成される。金属板30同士は、例えば接着剤等により、互いに接合されることが好ましい。金属板30は、ポールピース部材25の幅方向に積層される。これらの金属板30のポールピース部31により、幅方向に延びるポールピース部251が形成される。また、金属板30の連結部32により、ポールピース部251同士を連結する連結部252が形成される。ポールピース部材25の幅方向は、ステータケース21(図1)の軸方向と一致する。ポールピース部材25は、幅方向視で実質的に直線状をなす。
【0044】
ポールピース部材25において、複数のポールピース部251は、互いに間隔を空けて並列に配置されている。各ポールピース部251の厚みt1は、例えば、3.0mm~13.0mmとすることができる。厚みt1は、ポールピース部材25の厚み方向の最大長さである。厚み方向は、長尺状のポールピース部材25の長手方向及び幅方向に垂直な方向である。連結部252の厚みt2は、例えば、0.3mm~2.0mmとすることができる。
【0045】
ポールピース部材25に含まれる複数のポールピース部251のうち、少なくとも一部のポールピース部251において、穴251aが設けられる。穴251aは、金属板30を積層した後、幅方向の両面側からポールピース部251に形成される。
【0046】
図3Cを参照して、次に、ステータケース21を準備する。より詳細には、互いに固定される前のケース本体211及び本体保持部材212を準備する。ケース本体211には、例えば、永久磁石列24の軸方向の一端部が取り付けられる。本体保持部材212には、例えば、永久磁石列23を保持した状態の磁石保持部材22が取り付けられる。ケース本体211の収容空間S(図1)側の表面には、段差211aが設けられている。本体保持部材212の側部212aの収容空間S側の表面にも、段差211aに対応し、段差212dを設けることができる。
【0047】
図3Dを参照して、準備したステータケース21に対し、ポールピース部材25を周方向に沿って巻き付ける。本実施形態の例では、ケース本体211に対してポールピース部材25を巻き付けている。ポールピース部材25は、例えば、段差211aに沿ってケース本体211に巻き付けられる。ポールピース部材25は、ケース本体211の全周にわたって巻き付けられる。ポールピース部材25は、ケース本体211の全周にわたり連続していてもよいし、周方向において複数に分割されていてもよい。
【0048】
ポールピース部材25は、ケース本体211に固定される。より具体的には、ポールピース部材25をケース本体211に巻き付けながら、ケース本体211の貫通孔(図示略)を介してポールピース部251の穴251a(図3B)にピン又はボルト等を挿し込むことで、ポールピース部材25をケース本体211に固定する。ポールピース部材25の巻き付けが終了したら、図3Eに示すように、ケース本体211に対し、本体保持部材212をボルト等で固定する。その後、ケース本体211に固定されている永久磁石列24及びポールピース部材25を、ピン又はボルト等によって本体保持部材212にも固定する。これにより、ステータ20が完成する。
【0049】
(ステータ及び制動部材の取付け)
製造されたステータ20を車両の非回転部300に取り付けるとともに、制動部材10を車両の回転軸200に取り付けることにより、図1に示す減速装置100が完成する。本実施形態の例では、径方向においてステータ20の外側に制動部材10が配置される。
【0050】
[効果]
本実施形態では、ステータ20にポールピース部251を設けるために、ポールピース部材25をステータケース21に巻き付ける。ポールピース部材25は長尺状であるため、ポールピース部251の厚みt1を直接管理することができる。ポールピース部251の厚みt1は、例えば、3.0mm~13.0mmであり、その製造公差は±0.005mm~0.05mm程度に過ぎない。そのため、高い寸法精度のポールピース部251を実現することができる。
【0051】
本実施形態の製造方法によれば、高い寸法精度のポールピース部251を有するステータ20を製造することができる。このステータ20を用いて渦電流式減速装置100を製造することにより、ポールピース部251の寸法誤差に起因して減速装置100の性能に誤差が生じるのを抑制することができる。よって、減速装置100について、目的とする性能をより確実に得ることができる。
【0052】
本実施形態において、ポールピース部材25の連結部252は、ステータ20の収容空間Sの開口側(外周側)でポールピース部251同士を連結する。これにより、収容空間S内の永久磁石列23,24が制動部材10側からポールピース部材25で覆われることになる。そのため、雨水や泥水、又はその他の異物が収容空間Sに侵入することができず、これらが永久磁石列23,24を構成する各永久磁石231,241に接触することがない。よって、永久磁石231,241の発錆を抑制することができ、発錆に起因する減速装置100の性能の低下を防止することができる。
【0053】
本実施形態において、ポールピース部材25は、その幅方向に複数の金属板30を積層することによって形成されている。金属板30を幅方向に積層する場合、全ての金属板30を同一形状とすることができる。よって、ポールピース部材25を容易に作製することができる。
【0054】
減速装置100が制動状態にあるとき、制動部材10は、各永久磁石231,241からの磁束によってその表面で渦電流を発生させ、それに伴って発熱する。これに対して、本実施形態では、制動部材10がステータ20の外側に配置されている。これにより、制動部材10が気流に晒されやすくなり、制動部材10の高温化を抑制することができる。そのため、ステータ20の各構成部品の温度上昇も抑制することができる。
【0055】
<第2実施形態>
図4は、第2実施形態における渦電流式減速装置100A及びステータ20Aの概略構成を示す部分横断面図である。減速装置100A及びステータ20Aは、ポールピース部材25Aの構成において、第1実施形態の減速装置100及びステータ20と異なる。
【0056】
図4を参照して、ポールピース部材25Aの連結部252Aは、永久磁石列23と永久磁石列24との間に配置されている。すなわち、連結部252Aは、径方向において永久磁石列24の内側に配置されている。連結部252Aは、永久磁石列24を構成する各永久磁石241の底面241bに接触し、ポールピース部251とともに永久磁石241を保持している。
【0057】
連結部252Aは、永久磁石241の底面241bとの間に隙間が生じないように永久磁石241に密着していることが好ましい。各永久磁石241の底面241bは、例えば接着剤等により、連結部252Aに固定することができる。ただし、各永久磁石241の底面241bは、連結部252Aに固定されなくてもよい。
【0058】
本実施形態の減速装置100A及びステータ20Aは、第1実施形態の減速装置100及びステータ20と同様にして製造することができる。すなわち、まず、ポールピース部材25Aを用いてステータ20Aを製造した後、このステータ20Aを用いて減速装置100Aを製造することができる。
【0059】
図5A図5Cは、ステータ20Aの製造方法を説明するための模式図である。図5Aに示すように、ステータ20Aの製造に際し、長尺状のポールピース部材25Aを準備する。ポールピース部材25Aは、複数の金属板30Aを幅方向に積層することによって形成される。各金属板30Aは、ポールピース部材25Aのポールピース部251及び連結部252Aに対応して、それぞれ複数のポールピース部31及び連結部32Aを含んでいる。金属板30Aは、互いに同一の形状を有する。金属板30A同士は、例えば接着剤等により、互いに接合されることが好ましい。
【0060】
図5Bを参照して、準備したポールピース部材25Aを周方向に沿ってステータケース21に巻き付ける。ポールピース部材25Aは、第1実施形態と同様に、ケース本体211に巻き付けられる。ただし、本実施形態では、第1実施形態と異なり、この時点でケース本体211に永久磁石列24は取り付けられていない。
【0061】
図5Cを参照して、ポールピース部材25Aをケース本体211に巻き付けた後、永久磁石列24をケース本体211に取り付ける。各永久磁石241は、例えば、連結部252Aに沿って隣り合うポールピース部251の間に挿入される。各永久磁石241は、ポールピース部251及び連結部252Aにより、容易に位置決めされる。その後、ケース本体211と本体保持部材212とをボルト等によって固定する。各永久磁石241は、第1実施形態と同様、ケース本体211及び本体保持部材212に対してピン又はボルト等で固定されてもよい。ただし、各永久磁石241は、ポールピース部251及び連結部252Aによって保持されている。そのため、各永久磁石241は、ケース本体211及び本体保持部材212に固定されなくてもよい。
【0062】
本実施形態においても、ステータ20Aにポールピース部251を設けるため、長尺状のポールピース部材25Aを使用する。そのため、第1実施形態と同様、ポールピース部251の厚みt1を直接管理することができ、高い寸法精度のポールピース部251を実現することができる。
【0063】
本実施形態において、ポールピース部材25Aの連結部252Aは、ステータ20Aの収容空間Sの開口と反対側(内周側)でポールピース部251同士を連結している。これにより、ポールピース部251及び連結部252Aで各永久磁石241を保持することができる。そのため、各永久磁石241をステータケース21に直接固定する必要がない。各永久磁石241がステータケース21に直接固定されない場合、永久磁石231からの引力又は斥力や、永久磁石241同士の斥力によって各永久磁石241に径方向の力が負荷されたり、非制動状態と制動状態との切り替えの際、永久磁石231,241の相対的な位置の変化に応じ、永久磁石241に周方向の力及び自転させる力(回転モーメント)が負荷されたりしたときに、永久磁石241のその場での動きを許容することができる。そのため、永久磁石241に発生する応力を低減することができ、永久磁石241に割れが生じるのを抑制することができる。
【0064】
<第3実施形態>
図6は、第3実施形態における渦電流式減速装置用ステータの製造方法を説明するための模式図である。第3実施形態は、ポールピース部材25Bの構成において上記各実施形態と異なる。
【0065】
図6を参照して、ポールピース部材25Bは、上記各実施形態のポールピース部材25,25Aと同様、幅方向視で実質直線状に形成されている。ポールピース部材25Bは、連結部252,252Aを含む。すなわち、ポールピース部材25Bには、径方向の外側でポールピース部251同士を連結する連結部252と、径方向の内側でポールピース部251同士を連結する連結部252Aとの双方が設けられている。
【0066】
ポールピース部材25Bにおいて、外周側の長さは、内周側の長さと実質的に等しい。ただし、ポールピース部材25Bのうち、外周側の連結部252には、それぞれ切込み252aが設けられている。これにより、ポールピース部材25Bを周方向に沿って曲げることができる。すなわち、ポールピース部材25Bを周方向に曲げたときに切込み252aが広がって、外周側の連結部252が伸長するため、ポールピース部材25Bを周方向に沿ってステータケース21に巻き付けることができる。
【0067】
本実施形態では、第2実施形態と同様に、ポールピース部材25Bをケース本体211に巻き付けた後、周方向に隣り合うポールピース部251の間に永久磁石241を挿入する(図5C)。その後、ケース本体211は、本体保持部材212に固定される。
【0068】
<第4実施形態>
図7は、第4実施形態における渦電流式減速装置100Cの概略構成を示す部分横断面図である。
【0069】
上記各実施形態では、幅方向に積層された金属板30により、ポールピース部材25,25A,25Bが形成されている。一方、図7に示すように、本実施形態におけるポールピース部材25Cは、厚み方向に積層された金属板40によって形成される。ポールピース部材25Cの厚み方向は、減速装置100Cの径方向と一致する。金属板40は、互いに異なる形状を有する。
【0070】
減速装置100Cの径方向に重なった金属板40の間の隙間は、断熱層として機能する。すなわち、金属板40間に存在する微小な隙間により、制動部材10の熱が各永久磁石231,241に伝達されにくくなる。よって、減速装置100Cの使用時において、各永久磁石231,241の温度上昇を抑制することができる。
【0071】
ポールピース部材25Cは、第3実施形態におけるポールピース部材25Bと同様に、連結部252,252Aを含んでいる。しかしながら、ポールピース部材25Cは、第1実施形態のポールピース部材25又は第2実施形態のポールピース部材25Aのように、連結部252,252Aの一方のみを有していてもよい。
【0072】
以上、本開示に係る実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0073】
例えば、上記実施形態では、ポールピース部材25,25A,25B,25Cをステータケース21のケース本体211に巻き付ける例について説明した。しかしながら、ステータケース21の本体保持部材212に対し、ポールピース部材25,25A,25B,25Cを巻き付けてもよい。外周側にのみ連結部252を有するポールピース部材25の場合、ケース本体211及び本体保持部材212を互いに固定した後でステータケース21に巻き付けることもできる。
【0074】
上記第1実施形態では、ポールピース部材25を巻き付ける前のケース本体211に対し、永久磁石列24を取り付けている。一方、上記第2及び第3実施形態では、ポールピース部材25A,25Bを巻き付けた後のケース本体211に対し、永久磁石列24を取り付ける。しかしながら、永久磁石列24をステータケース21に取り付けるタイミングは、適宜変更することができる。同様に、磁石保持部材22及び永久磁石列23をステータケース21に取り付けるタイミングも、適宜変更可能である。
【0075】
上記実施形態において、ポールピース部材25,25A,25B,25Cは、積層された金属板30,30A又は金属板40によって形成されている。しかしながら、例えば、図8及び図9に示すように、ポールピース部251を鍛造等で形成し、支持板50に溶接又は接着剤等で接合してポールピース部材を作製することもできる。ポールピース部251は、上記実施形態と同様、強磁性材料で構成される。支持板50は、ポールピース部251と同じ材料で構成されていてもよいし、ポールピース部251と異なる材料で構成されていてもよい。例えば、支持板50のみを非磁性材料で構成することもできる。
【0076】
このように、ポールピース部251を個別に形成することにより、ポールピース部材25,25A,25B,25Cにおいて、ポールピース部251の材料とその他の部分の材料とを異ならせることができる。ただし、強度の観点からは、上記実施形態のようにポールピース部251がその他の部分と一体で形成されることが好ましい。また、上記実施形態のように、金属板30,30A,40の積層によってポールピース部材25,25A,25B,25Cを形成する場合、鍛造等で必要な仕上げ加工が不要となる。よって、ポールピース部材25,25A,25B,25Cの寸法精度をより向上させることができる。
【0077】
上記実施形態では、ステータ20,20Aが径方向において制動部材10の内側に配置されている。しかしながら、ステータ20,20Aが制動部材10の外側に配置されていてもよい。この場合、ステータ20,20Aの収容空間Sは、内周側に開口する。
【符号の説明】
【0078】
100,100A,100C:渦電流式減速装置
10:制動部材
20,20A:ステータ
21:ステータケース
23,24:永久磁石列
25,25A,25B,25C:ポールピース部材
251:ポールピース部
252,252A:連結部
30,30A,40:金属板
S:収容空間
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9