(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】内面突起付き鋼管杭の製造方法、鋼管杭の施工方法、及び内面突起付き鋼管杭
(51)【国際特許分類】
E02D 5/48 20060101AFI20230614BHJP
E02D 5/28 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
E02D5/48
E02D5/28
(21)【出願番号】P 2020012895
(22)【出願日】2020-01-29
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】小林 拓
(72)【発明者】
【氏名】石濱 吉郎
(72)【発明者】
【氏名】阿形 淳
(72)【発明者】
【氏名】妙中 真治
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-220139(JP,A)
【文献】特開2018-193686(JP,A)
【文献】特開2004-124491(JP,A)
【文献】特開2012-200766(JP,A)
【文献】特開2005-068987(JP,A)
【文献】実開昭58-010936(JP,U)
【文献】特開2016-132923(JP,A)
【文献】特開2009-035930(JP,A)
【文献】特開2015-168967(JP,A)
【文献】特開平11-093158(JP,A)
【文献】特開昭62-113986(JP,A)
【文献】特開2002-294694(JP,A)
【文献】実開昭49-126909(JP,U)
【文献】特開昭49-041932(JP,A)
【文献】米国特許第5484174(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/48
E02D 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管をインクリメンタルフォーミングにより管径方向の内側から外側に押し広げることで、前記鋼管の内面に凹部を形成する工程と、
前記凹部に突起部材を取り付ける工程と、
を有することを特徴とする内面突起付き鋼管杭の製造方法。
【請求項2】
前記鋼管をインクリメンタルフォーミングにより内側から外側に押し広げた後に、当該鋼管の内面に前記突起部材を配置することで取り付けることを特徴とする請求項1に記載の内面突起付き鋼管杭の製造方法。
【請求項3】
前記突起部材は、リング状に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の内面突起付き鋼管杭の製造方法。
【請求項4】
前記鋼管をインクリメンタルフォーミングにより内側から外側に押し広げた後に、当該鋼管の内面に前記突起部材をプレス加工により取り付けることを特徴とする請求項1に記載の内面突起付き鋼管杭の製造方法。
【請求項5】
前記突起部材は、前記鋼管よりも高強度で形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の内面突起付き鋼管杭の製造方法。
【請求項6】
前記突起部材は、形状記憶合金から形成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の内面突起付き鋼管杭の製造方法。
【請求項7】
前記突起部材は、前記突起部材の落下方向に交差する方向の傾斜面を有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の内面突起付き鋼管杭の製造方法。
【請求項8】
前記突起部材の重心は、前記管径方向で前記鋼管における押し広げ前の鋼管板厚の中心位置よりも外側の位置、又は同一位置にあることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の内面突起付き鋼管杭の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の内面突起付き鋼管杭の製造方法で使用される前記鋼管を地盤に設けて施工することを特徴とする鋼管杭の施工方法。
【請求項10】
前記鋼管を地盤内に打設する工程と、
地盤中に打設された前記鋼管の内面に形成された前記凹部に前記突起部材を取り付ける工程と、
前記突起部材を取り付けた鋼管の内側にコンクリートを打設する工程と、
を有することを特徴とする請求項9に記載の鋼管杭の施工方法。
【請求項11】
既設の鋼管杭の鋼管の内面にインクリメンタルフォーミングにより前記凹部を形成する工程と、
前記凹部に前記突起部材を取り付ける工程と、
前記突起部材を取り付けた前記既設の鋼管杭の内側にコンクリートを打設する工程と、
を有することを特徴とする請求項9に記載の鋼管杭の施工方法。
【請求項12】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の内面突起付き鋼管杭の製造方法により製造されたことを特徴とする内面突起付き鋼管杭。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内面突起付き鋼管杭の製造方法、鋼管杭の施工方法、及び内面突起付き鋼管杭に関する。
【背景技術】
【0002】
土木あるいは建築分野の構造物を支持する基礎杭においては、構造物の自重や地震時の水平力により、軸力やせん断力や曲げモーメントが作用することになるが、近年の基礎杭の高支持力化等による基礎構造の合理化等を背景に、基礎杭に要求される耐力は大きくなってきている。そして、このような基礎杭の要求に対応するために、鋼管にコンクリートなどの固化部材を充填した合成構造が基礎杭に用いられることが増加している。これらの鋼管とコンクリートとの合成構造では、合成断面としての耐力を発揮するために、鋼管とコンクリートとの付着力を高めることが重要であり、そのために鋼管の内面に突起を設けることが行われている。
【0003】
鋼管の内面に突起を設ける方法として、突起付きの熱延コイルを工場で造管し内面突起付き鋼管とする方法(日本工業規格JIS A 5525附属書A等)や、例えば特許文献1、2に示されるような、鋼管内面に溶接ビードにて突起を施す方法等が知られている。
【0004】
特許文献1には、鋼管内周部に溶接ワイヤを用いて、所定の溶接電流、溶接電圧、溶接速度および溶接入熱とした溶接条件の下にCO2溶接を行って、鋼管内周部に所定の高さおよび立ち上がり角度からなる突起を溶接ビードにて施す方法について記載されている。
特許文献2には、鋼管の内面に一対の当て板を間隔を置いて配置し、これらの当て板および溶接トーチを鋼管の内面に対し相対移動させつつ、溶接トーチの軸方向を鉛直方向に対して、溶接トーチの上側を鋼管の移動方向と反対側に傾くように、傾斜させることで、鋼管への十分な溶け込み量を確保した突起を溶接ビードにて施す方法について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-195443号公報
【文献】特開2013-248625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の鋼管杭の製造方法では、以下のような課題があった。
すなわち、突起付きの熱延コイルを工場で造管して内面突起付き鋼管とする方法は、工場での製造上の制約が厳しい。
また、上述した特許文献1、2に示すような鋼管内面に溶接ビードで突起を施す方法では、基礎杭の打設後には溶接姿勢が厳しくなることから、基礎杭の打設前に溶接により鋼管内面に突起を形成することを基本としている。そのため、基礎杭打設時において、杭が高止まりした際などには、内面突起の位置が深度方向にずれてしまう。
さらに、特許文献1、2の場合には、高強度鋼などの炭素当量の大きな鋼管に対しては、溶接性が悪いため、溶接によって突起を形成することが困難になる。
【0007】
また、小径鋼管においては、内側に体や手を入れることができず溶接できないという問題や、大径鋼管において内側に体を入れることができたとしても施工性の悪い溶接姿勢となっており、その点で改善の余地があった。
【0008】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、熱延工程や溶接工程を必要とせずに、現場における基礎杭の打設後に鋼管内面の任意の位置に容易に突起を設けることができる内面突起付き鋼管杭の製造方法、鋼管杭の施工方法、及び内面突起付き鋼管杭を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明に係る内面突起付き鋼管杭の製造方法は、鋼管をインクリメンタルフォーミングにより管径方向の内側から外側に押し広げることで、前記鋼管の内面に凹部を形成する工程と、前記凹部に突起部材を取り付ける工程と、を有することを特徴としている。
【0010】
また、本発明に係る鋼管杭の施工方法は、上述した内面突起付き鋼管杭の製造方法で使用される前記鋼管を地盤に設けて施工することを特徴としている。
【0011】
また、本発明に係る内面突起付き鋼管杭は、上述した内面突起付き鋼管杭の製造方法により製造されたことを特徴としている。
【0012】
本発明では、インクリメンタルフォーミングによって突起部材を鋼管の内側に取り付ける製造方法となるので、突起付きの熱延コイルを工場で造管して内面突起付き鋼管を製造する場合のように、工場での製造上の制約を受けることなく、かつ溶接にもよらずに、現場において基礎杭(鋼管)を打設した後に鋼管内面の任意の位置に突起を形成することができる。そのため、施工現場において打設した杭が高止まりした際でも、鋼管内面の突起部材を希望の深度の位置に設けることができる。
【0013】
また、本発明では、溶接によらない製造方法となるため、高強度鋼などの炭素当量の大きな溶接性が悪い鋼管に対しても、鋼管内面に突起部材を形成することが可能である。なお、鋼管単体でみると、凹部を突起で充填するため、鋼管の座屈に対する強度低下を抑制することができる。
そして、鋼管内面に突起部材を設けるため、鋼管内にコンクリートを充填した際には鋼管とコンクリートの合成断面として機能し、鉛直方向に対する強度を高めることができる。
さらに、本発明では、杭頭部や杭先端根固め部など鋼管内面の任意の位置に突起形成が可能なため、深度方向の任意の位置において鋼管とコンクリートなどの固化部材の合成構造とし、耐力を増加できる。
【0014】
また、本発明に係る内面突起付き鋼管杭の製造方法は、前記鋼管をインクリメンタルフォーミングにより内側から外側に押し広げた後に、当該鋼管の内面に前記突起部材を配置することで取り付けることを特徴としてもよい。
【0015】
本発明によれば、先行してインクリメンタルフォーミングにより鋼管の内側から外側に向かって鋼管の管壁を局所的に凹ませて凹部を形成し、その後、凹部に突起部材を配置することで機械的に鋼管に突起部材を固定することができる。
【0016】
また、本発明に係る内面突起付き鋼管杭の製造方法は、前記突起部材は、リング状に形成されていることを特徴としてもよい。
【0017】
また、本発明に係る内面突起付き鋼管杭の製造方法は、前記鋼管をインクリメンタルフォーミングにより内側から外側に押し広げた後に、当該鋼管の内面に前記突起部材をプレス加工により取り付けることを特徴としてもよい。
【0018】
この場合には、先行してインクリメンタルフォーミングにより鋼管の内側から外側に向かって鋼管の管壁を局所的に凹ませて凹部を形成し、その後、凹部に突起部材を配置するとともにその突起部材をプレス加工により内側から外側へ押し広げることで機械的に鋼管に突起部材を固定することができる。この場合には、凹部に対して突起部材をプレス加工により確実に嵌合させて固定することができ、凹部から突起部材が脱落したりずれることを抑制することができる。
【0019】
また、本発明に係る内面突起付き鋼管杭の製造方法は、前記突起部材は、前記鋼管よりも高強度で形成されていることが好ましい。
【0020】
この場合には、突起部材の弾性変形量が大きくなるので、鋼管凹部への密着性が高まり突起部材が鋼管の凹部に安定した状態で固定される。また、より縮めた状態で鋼管杭内を移動されられるので、作業性を高めることができる。
【0021】
また、本発明に係る内面突起付き鋼管杭の製造方法は、前記突起部材は、形状記憶合金から形成されていることを特徴としてもよい。
【0022】
また、本発明に係る内面突起付き鋼管杭の製造方法は、前記突起部材は、前記突起部材の落下方向に交差する方向の傾斜面を有することを特徴としてもよい。
【0023】
この場合には、コンクリート等の固化部材から突起部材に作用する下向きの力が作用しても、凹部からの抜け出しを防ぐ方向に突起部材の傾斜面が設けられているので、突起部材が抜け出すこと抑制することができる。また、供用時にコンクリートに上向きの力が作用した際も、突起部材に凹部に押し付ける方向に力が生じる傾斜面を設けることで、突起部材の抜け出しを抑制することができる。
【0024】
また、本発明に係る内面突起付き鋼管杭の製造方法は、前記突起部材の重心は、前記管径方向で前記鋼管における押し広げ前の鋼管板厚の中心位置よりも外側の位置、又は同一位置にあることを特徴としてもよい。
【0025】
この場合には、突起部材が鋼管の凹部に安定した状態で固定されることから、突起部材が落下すること抑制することができる。
【0026】
また、本発明に係る鋼管杭の施工方法は、前記鋼管を地盤内に打設する工程と、地盤中に打設された前記鋼管の内面に形成された前記凹部に前記突起部材を取り付ける工程と、前記突起部材を取り付けた鋼管の内側にコンクリートを打設する工程と、を有することを特徴としてもよい。
【0027】
この場合には、地盤内に打設した鋼管の内面に凹部を形成した後、その凹部に突起部材を取り付け、さらに鋼管の内側にコンクリートを打設することで地盤内に内面突起付き鋼管杭を施工することができる。このとき、鋼管とコンクリートの合成断面として機能し、座屈に対する強度を高めることができる。
【0028】
また、本発明に係る鋼管杭の施工方法は、既設の鋼管杭の鋼管の内面にインクリメンタルフォーミングにより前記凹部を形成する工程と、前記凹部に前記突起部材を取り付ける工程と、前記突起部材を取り付けた前記既設の鋼管杭の内側にコンクリートを打設する工程と、を有することを特徴としてもよい。
【0029】
この場合には、既設の鋼管杭に対しても適用可能であるため、既設の補強を目的にして鋼管コンクリート充填構造を形成したい場合に使用することが可能となる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の内面突起付き鋼管杭の製造方法、鋼管杭の施工方法、及び内面突起付き鋼管杭によれば、熱延工程や溶接工程を必要とせずに、現場における基礎杭の打設後に鋼管内面の任意の位置に容易に突起を設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の第1実施形態による鋼管杭の構成を示す半断面斜視図である。
【
図2】(a)~(c)は、鋼管の打設施工手順を示す側面図である。
【
図3】(a)~(c)は、インクリメンタルフォーミング装置を使用した鋼管杭の施工手順を示す側面図である。
【
図4】(a)~(c)は、
図3(c)に続く鋼管杭の施工手順を示す側面図である。
【
図5】施工時における突起部材の状態を示す水平断面図であって、(a)は
図4(a)に対応し突起部材を固定治具で固定した図、(b)は
図4(b)に対応し
図4(a)の突起部材を鋼管に挿入した図、(c)は
図4(c)に対応し突起部材を鋼管の凹溝部に取り付けた図である。
【
図6】(a)~(c)は、第2実施形態による鋼管杭の施工手順を示す側面図である。
【
図7】第1変形例による鋼管杭を示す水平断面図であって、
図8に示すA-A線断面図である。
【
図8】第1変形例による鋼管杭の突起部材の構成を示す要部縦断面図である。
【
図9】第2変形例による鋼管杭の突起部材の構成を示す要部縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態による内面突起付き鋼管杭の製造方法、鋼管杭の施工方法、及び内面突起付き鋼管杭について、図面に基づいて説明する。
【0033】
(第1実施形態)
図1に示すように、本実施形態による内面突起付き鋼管杭(以下、単に鋼管杭1という)は、地盤中に打設されて施工され、鋼管にコンクリート3等の固化部材を充填した合成構造の基礎杭を対象とし、合成断面としての耐力を発揮するために鋼管2とコンクリート3との付着力を高めるために内面2aに突起部材4を取り付けた構成となっている。鋼管杭1は、鋼管2を後述するインクリメンタルフォーミング装置7を使用してインクリメンタルフォーミングにより管径方向の内側から外側に押し広げ、鋼管2の内面2aに突起部材4が取り付けられる方法により製造されたものである。
【0034】
鋼管2は、
図1に示すように、周方向に連続する凸条21が管軸O方向に間隔をあけて複数段(図では2段)配列されている。つまり、鋼管2は、外周側からみて節状に形成されている。凸条21における鋼管2の内面2a側に形成される凹溝部21aには、リング状の突起部材4の外周面4aが脱落不能な状態で嵌合されている。
本実施形態の鋼管2としては、例えば、SKK400やSKK490等のスパイラル鋼管、STK400やSTK490等の電縫鋼管、あるいはUO鋼管等その他の製造法による鋼管、より高強度な鋼管を採用することができる。
【0035】
突起部材4は、地盤条件、要求される断面性能、強度等に応じて、地盤中、地盤外を問わずに鋼管内面2aの全域または所定領域に所定間隔で形成される。なお、本実施形態では鋼管2の全周にわたって突起部材4が延在した状態で取り付けられている。
【0036】
突起部材4は、突起高さhで2段以上取り付けることが好ましい。すなわち、例えば突起部材4の突起高さhとしては、杭径が800mm未満の場合に9mmに設定され、800mm以上1200mm未満の場合に12mmに設定され、1200mm以上1500mm未満の場合に16mmに設定される。
突起部材4の幅寸法d(鋼管2の凹溝部21aに嵌合された突起部材4の管軸方向の長さ寸法)は、突起高さhの2倍以上とすることが好ましい(公益社団法人 日本道路協会 道路橋示方書・同解説IV下部構造編 平成29年11月参照)。
【0037】
また、突起部材4としては、鋼管2よりも高い強度を有し、平鋼をリング状に加工した部材が採用される。突起部材4の製造方法については後述するが、突起部材4を予め縮めて鋼管2の内側に挿入し、鋼管2の中で縮めた状態を解放させて取り付ける場合には突起部材4が鋼管2よりも高強度の方が好ましい。なお、突起部材4としては、本実施形態のような平鋼であることに限定されることはなく、角鋼、丸鋼、棒鋼等であってもよい。
【0038】
このように構成される突起部材4は、インクリメンタルフォーミング装置7を用いて、鋼管2をインクリメンタルフォーミングにより管径方向の内側から外側に押し広げた後に、鋼管内面2aに配置した突起部材4をプレス加工により取り付ける方法により製造される。
【0039】
インクリメンタルフォーミング装置7は、
図3(a)、(b)に示すように、鋼管2内に挿入して鋼管2に対して管径方向の内側から外側に向けて極めて局所的に塑性加工することで管径方向の外側に凸となる凸条21を形成する回転成形部71と、軸部73を介して管軸O方向(深度方向)に移動可能に設けられた移動機構72と、を備えている。軸部73は、装置本体の中心に位置し、インクリメンタルフォーミング時には鋼管2の中心(管軸O)に一致させた状態で配置される。
【0040】
インクリメンタルフォーミング装置7は、軸部73から放射状に配置された複数本(ここでは2本)のシリンダ74を備え、各シリンダ74の外周側の先端部に回転成形部71が固定されている。回転成形部71は、中心軸周りに回転し、回転により少しずつ塑性加工領域を広げていくことで鋼管2に凸条21(凹溝部21a)を形成することができる。回転成形部71は、油圧又は電動によって駆動する各シリンダ64のロッドの進退によって管径方向に押し出しと引き込みが行われるようになっている。つまり、各シリンダ64のロッドが突出し、回転成形部71によって鋼管2の内面2aに対して塑性加工することで、鋼管2に凸条21を形成することができる。回転成形部71の深度方向の位置は、移動機構72によって調整することができる。
【0041】
突起部材4を内面2aに備えた鋼管2内に充填される固化部材としては、本実施形態のようなコンクリート3に限定されず、モルタルやソイルセメントなど他の流動性を有する固化部材でもよい。
【0042】
次に、上述した鋼管杭1の製造方法と、鋼管杭1の施工手順について、図面に基づいて具体的に説明する。
先ず、
図2(a)~(c)に示すように、鋼管杭1の鋼管2を地盤Gに打設する。なお、鋼管2の打設方法としては、例えば中堀工法、プレボーリング工法、打撃工法、及び回転圧入工法等を適用することが可能であるが、ここでは一般的な中堀工法による打設手順について説明する。
図2(a)に示すように、鋼管2内に挿入されたスパイラルオーガー51で地盤Gを掘削する。
図2(b)に示すように、スパイラルオーガー51による掘削を進めながら掘削孔Gaに鋼管2を挿入し、
図2(c)に示すように鋼管2の地盤G中への埋設が完了となる。
【0043】
次に、本実施形態による鋼管杭1の製造方法では、鋼管2をインクリメンタルフォーミングにより内側から外側に押し広げた後に、鋼管内面2aに突起部材4を配置することで取り付ける製造方法となる。
具体的には、先ず
図3(a)に示すように、打設した鋼管2の内側の管軸O方向の所定の高さ位置にインクリメンタルフォーミング装置7を挿入する。そして、
図3(b)に示すように、インクリメンタルフォーミング装置7の回転成形部71を管径方向の外側に向けて張り出し、鋼管2に対して内側から外側に向かってインクリメンタルフォーミングを行うことで、
図3(c)に示すように、鋼管2に管径方向の外側に凸となる凸条21を形成する。その後、インクリメンタルフォーミング装置7のみを鋼管2から引き上げる。
【0044】
続いて、
図4(a)及び
図5(a)に示すように、固定治具42によって縮径させた状態、すなわち突起部材4の切欠部4bを縮める方向に弾性変形させた状態で仮固定された突起部材4を、その変形状態を保持したままクレーン52によって吊り上げる。
ここで、リング状の突起部材4は、鋼管2の内径よりも大径に形成され、切欠部4bにおいて突起部材4の弾性変形の範囲で周方向に縮径可能となっている。
【0045】
そして、
図4(b)及び
図5(b)に示すように、吊り下げられている突起部材4をクレーン52で管内の所定深さまで降ろし、鋼管2の上方から例えば紐やスイッチによって固定治具42を取り外す。固定治具42を取り外すことにより、
図4(c)及び
図5(c)に示すように、突起部材4の弾性変形が解放され、先行して形成されている凸条21の凹溝部21aに一体的に嵌合した状態で取り付けられることになる。その後、クレーン52による吊りワイヤ53を突起部材4から取り外すことで鋼管杭1の製造が完了となる。
【0046】
次に、上述した内面突起付き鋼管杭の製造方法、鋼管杭の施工方法、及び内面突起付き鋼管杭の作用について、図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態による鋼管杭の製造方法では、
図5(a)~(c)に示すように、インクリメンタルフォーミング装置7を使用し鋼管2に凹部加工を施し、突起部材4の弾性変形を利用して突起部材4を鋼管2の内側に取り付ける製造方法となるので、突起付きの熱延コイルを工場で造管して内面突起付き鋼管を製造する場合のように、工場での製造上の制約を受けることなく、かつ溶接にもよらずに、現場において基礎杭(鋼管2)を打設した後に鋼管内面2aの任意の位置に突起を形成することができる。そのため、施工現場において打設した杭が高止まりした際でも、鋼管内面2aの突起部材4を希望の深度の位置に設けることができる。
【0047】
また、本実施形態では、溶接によらない製造方法となるため、高強度鋼などの炭素当量の大きな溶接性が悪い鋼管に対しても、鋼管内面2aに突起部材4を形成することが可能である。鋼管単体でみると、凹溝部21aを突起部材4で充填するため、鋼管2の座屈に対する強度低下を抑制することができる。そして、鋼管内面2aに突起部材4を設けるため、元々の鋼管板厚に加え、鋼管内面2aに突起厚が増加することで、鋼管2内にコンクリート3を充填した際には鋼管2とコンクリート3の合成断面として機能し、鉛直方向に対する強度を高めることができる。
さらに、本実施形態では、杭頭部や杭先端根固め部など鋼管内面2aの任意の位置に突起形成が可能なため、深度方向の任意の位置において鋼管2とコンクリート3などの固化部材の合成構造とし、耐力を増加できる。
【0048】
上述した本実施形態による内面突起付き鋼管杭の製造方法、鋼管杭1の施工方法、及び内面突起付き鋼管杭では、熱延工程や溶接工程を必要とせずに、現場にて鋼管2を打設した後に鋼管内面2aの任意の位置に容易に突起を形成することができる。
【0049】
次に、本発明の内面突起付き鋼管杭の製造方法、鋼管杭1の施工方法、及び内面突起付き鋼管杭の変形例について、添付図面に基づいて説明するが、上述の実施形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、実施形態と異なる構成について説明する。
【0050】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態による鋼管杭の製造方法について、
図6(a)、(b)を用いて説明する。
第2実施形態では、上述した第1実施形態のように後述するプレス加工装置6を用いることなくクレーン52によって吊り下ろしてリング状の突起部材4を鋼管2の凹溝部21aに嵌合させて取り付ける設置方法(
図4(a)~(c)参照)に代えて、本第2実施形態では凹溝部21aの形成後にプレス加工装置6を用いて突起部材4を凹溝部21aに嵌合する製造方法である。鋼管2に形成される凹溝部21aは、第1実施形態と同様の構成であり、上述した
図3(a)~(c)に示すようにインクリメンタルフォーミング装置7を使用して鋼管2に凹部加工を施すことにより施工される。
【0051】
プレス加工装置6は、
図6(a)、(b)に示すように、鋼管2内に挿入して鋼管2や突起部材4を管径方向の外側に押し出し拡径するプレス機本体61と、プレス機本体61を軸部63を介して管軸O方向(深度方向)に移動可能に設けられた移動機構62と、を備えている。軸部63は、プレス機本体61の中心に位置し、突起部材4の設置時に鋼管2の中心(管軸O)に一致させた状態で配置される。
【0052】
プレス機本体61は、軸部63から放射状に配置された複数本のシリンダ64と、各シリンダ64の外周側の先端部に固定された押圧板65と、を備えている。押圧板65は、周方向に複数に分割されたブロック形状に形成され、油圧又は電動によって駆動する各シリンダ64のロッドの進退によって鋼管2の内側から外側に押し出し、引き込みされるようになっている。つまり、各シリンダ64のロッドが突出すると、複数の押圧板65の外周面である押圧面65aが位置する外径(各押圧面65aによって形成される仮想線)を拡径することができる。各押圧板65の押圧面65aは、鋼管2の内面2aの周方向の曲率半径と略同等に湾曲した曲面が形成されている。複数の押圧板65の拡径によって、突起部材4に大きな拡径力を作用させ、凹溝部21aに突起部材4を嵌合させることが可能に構成されている。なお、押圧板65の深度方向の位置は、移動機構62によって調整することができる。
【0053】
次に、第2実施形態におけるプレス加工装置6を使用して鋼管2の凹溝部21aに突起部材4を配置する施工方法について、
図6(a)~(c)に基づいて説明する。
図6(a)~(c)は、凹溝部21aにプレス加工装置6を使用して突起部材4を配置する施工手順を示している。
図6(a)に示すように、鋼管2内にプレス加工装置6を挿入し、
図6(b)に示すように凹溝部21aに突起部材4を配置できる高さに位置させた後、シリンダ64で押圧板65を突出させることにより突起部材4を内側から外側へ押し広げる。これにより、突起部材4を凹溝部21aに嵌合させて固定することができる。その後、
図6(c)に示すように鋼管2内のプレス加工装置6を鋼管2の外に出し、鋼管2内にコンクリート(図示省略)を充填して鋼管杭1の施工が完了となる。
【0054】
この場合には、先行してインクリメンタルフォーミングにより鋼管2の内側から外側に向かって鋼管2の管壁を局所的に凹ませて凹溝部21aを形成し、その後、凹溝部21aに突起部材4を配置するとともにその突起部材4をプレス加工により内側から外側へ押し広げることで機械的に鋼管2に突起部材4を固定することができる。そのため、凹溝部21aに対して突起部材4をプレス加工により確実に嵌合させて固定することができ、凹溝部21aから突起部材4が脱落したりずれることを抑制することができる。
【0055】
(第1変形例)
次に、第1変形例による鋼管杭1A(内面突起付き鋼管杭)について、
図7及び
図8に基づいて説明する。
第1変形例による鋼管杭1Aは、突起部材の形状を代えたものであり、上述した第2実施形態におけるプレス加工装置6を使用して突起部材を設置する方法によって製造される。すなわち、第1変形例の鋼管杭1Aは、凸条21の凹溝部21aに対して周方向の部分的に突起部材4Aを設けた構成となっている。第1変形例による突起部材4Aは、周方向に沿って延在する凹溝部21aにおいて周方向に間隔をあけて複数設けられている。これら突起部材4Aは、上述した実施形態のように先行して形成された凹溝部21aに複数の突起部材4Aを配置してもよい。
なお、これら突起部材4Aの数量、形状、配置間隔等の構成は、適宜設定することができる。
【0056】
また、第1変形例による突起部材4Aは、
図8に示すように、突起部材4Aの落下方向(矢印E1方向)に交差する方向の第1傾斜面4c及び第2傾斜面4dを有する傾斜形状が形成されている。第1傾斜面4cは、突起部材4Aの内側上端縁に形成され、内側から外側に向かうに従い漸次上になる傾斜となっている。この第1傾斜面4cは、突起部材4Aが凹溝部21aに取り付けられた状態で、管径方向で鋼管2の内面2aよりも鋼管2の内側に位置するように形成されている。
【0057】
この場合には、コンクリート3に軸力E1が作用したときに、突起部材4Aには第1傾斜面4cを介して鋼管2の内面2aに押し付ける方向の力(矢印E2)が作用することとなり、突起部材4Aが凹溝部21aから抜け出すことを防止することができる。
また、第1変形例の突起部材4Aを設けることで、コンクリート3から突起部材4Aに作用する下向きの力が作用しても、凹溝部21aからの抜け出しを防ぐ方向に突起部材4Aの傾斜面4cが設けられているので、突起部材4Aが抜け出すことを抑制することができる。
【0058】
第2傾斜面4dは、突起部材4Aの内側下端縁に形成され、内側から外側に向かうに従い漸次下になる傾斜となっている。この第2傾斜面4dは、突起部材4Aが凹溝部21aに取り付けられた状態で、管径方向で鋼管2の内面2aよりも鋼管2の内側に位置するように形成されている。
この場合には、コンクリート3に上向きの力(矢印E3)が作用した際も、突起部材4Aに凹溝部21aに押し付ける方向に力(矢印E4)が生じる作用をもたせることで、突起部材4Aが凹溝部21aから抜け出すことを防止することができる。
【0059】
また、
図8に示す第1変形例による突起部材4Aは、重心Pが鋼管2の押し広げ前の鋼管板厚tの中心位置Cよりも管径方向の外側の位置となるように設定されている。なお、突起部材4Bの重心Pは、鋼管2の押し広げ前の鋼管板厚tの中心位置Cと同一位置であってもよい。この場合には、突起部材4Aが鋼管2の凹溝部21aに安定した状態で固定されることから、突起部材4Aが落下すること抑制することができる。ここで、
図8において、符号hは突起部材4Aにおける鋼管内面2aから内側への突出寸法、符号dは突起部材4Aの上下方向の高さを示している。
【0060】
(第2変形例)
図9(a)、(b)に示す第2変形例による鋼管杭1B(内面突起付き鋼管杭)は、複数段(ここでは3段)の凸条21A、21B、21C又は単数の凸条21に対して1つの突起部材4Bを取り付ける構成のものである。
図9(a)に示す突起部材4Bの外周面4aには、複数の凹溝部21aのそれぞれに嵌合する複数の外凸状部43が形成されている。さらに、突起部材4Bの内周面4eには、複数(ここでは3つ)の内凸状部44が設けられているので、鋼管2内に充填されるコンクリート3との付着強度を高めることができる。
【0061】
また、
図9(b)に示す突起部材4Cの外周面4aには、1つの凹溝部21aに嵌合する複数の外凸状部43が形成されている。さらに、突起部材4Cの内周面4eには、複数(ここでは3つ)の内凸状部44が設けられているので、鋼管2内に充填されるコンクリート3との付着強度を高めることができる。
【0062】
以上、本発明による内面突起付き鋼管杭の製造方法、鋼管杭の施工方法、及び内面突起付き鋼管杭の実施形態について説明したが、本発明は前記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0063】
例えば、上述した実施形態では、地盤Gに鋼管杭を新設する施工を対象としているが、既設の鋼管杭に対して上述した内面突起付き鋼管杭の製造方法を適用することも可能である。この場合の施工方法としては、既設の鋼管杭の鋼管2の内面2aにインクリメンタルフォーミングにより凹溝部21a(凹部)を形成する工程と、凹溝部21aに突起部材4を取り付ける工程と、突起部材4を取り付けた既設の鋼管杭の内側にコンクリート3を打設する工程と、を有する施工となる。このように既設の鋼管杭に対しても適用可能であるため、既設の補強を目的にして鋼管コンクリート充填構造を形成したい場合に使用することが可能となる。
【0064】
また、プレス加工装置6の構成についても、上述した実施形態の構成に限定されることはない。例えば、押圧板65の形状、数量なども任意に設定することができる。
さらに、インクリメンタルフォーミング装置7についても、上述した実施形態の構成に限定されることはない。例えば、回転成形部71の形状、数量なども任意に設定することができる。
【0065】
また、本実施形態では、突起部材4がリング状に形成されているが、上述した第1変形例のように周方向に分割されていてもよい。
【0066】
さらにまた、突起部材4が鋼管2よりも高い強度で形成されていることに必ずしも限定されることはなく、突起部材4と鋼管2とが同一の強度の部材であってもかまわない。
【0067】
さらに、突起部材4の形状、大きさは適宜設定することが可能である。例えば、上述した第2変形例において、突起部材4Aとして、突起部材4Aの落下方向に交差する方向の傾斜面4c、4dを有する構成としているが、このような傾斜面4c、4dを備えていない形状であってもよいし、傾斜面4c、4dのうちいずれか一方のみであってもかまわない。あるいは、第2変形例のように、突起部材の重心が、管径方向で鋼管における押し広げ前の鋼管板厚の中心位置よりも外側の位置、又は同一位置にあることにも限定されることはない。
【0068】
また、突起部材として、形状記憶合金から形成されているものを採用することも可能である。例えば形状記憶合金として、突起部材を加熱することで広がって、そのまま形状がとどまる特性の材質のものを採用できる。この場合の施工方法は、例えば突起部材の設置時において、ヒーターを当てて加熱してもよいし、突起部材に直接電流を流して加熱してもよい。また、他の形状記憶合金として、突起部材を冷却すると縮んで、常温になると元の寸法に戻る特性を有する材質のものであってもよい。この場合の施工方法は、例えば突起部材の設置前に液体窒素や冷水、冷凍庫などで冷却する方法を採用できる。
【0069】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、前記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0070】
1、1A、1B 鋼管杭(内面突起付き鋼管杭)
2 鋼管(基礎杭)
2a 内面
3 コンクリート(固化部材)
4、4A、4B、4C 突起部材
4b 切欠部
6 プレス加工装置
7 インクリメンタルフォーミング装置
21 凸条
21a 凹溝部(凹部)
41 キー部材
71 回転成形部
O 管軸