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特許7295457ホットスタンプ成形体およびその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】ホットスタンプ成形体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230614BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20230614BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20230614BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20230614BHJP
   C21D 9/50 20060101ALN20230614BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/60
C21D9/00 A
C21D1/18 C
C21D9/50 101B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021520820
(86)(22)【出願日】2020-05-20
(86)【国際出願番号】 JP2020019973
(87)【国際公開番号】W WO2020235599
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2021-10-08
(31)【優先権主張番号】P 2019096625
(32)【優先日】2019-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】楠見 和久
(72)【発明者】
【氏名】友清 寿雅
(72)【発明者】
【氏名】戸田 由梨
(72)【発明者】
【氏名】内藤 恭章
(72)【発明者】
【氏名】前田 大介
(72)【発明者】
【氏名】入川 秀昭
【審査官】櫻井 雄介
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-214656(JP,A)
【文献】特開2006-037162(JP,A)
【文献】国際公開第2012/157581(WO,A1)
【文献】特開2017-043825(JP,A)
【文献】特開2005-248320(JP,A)
【文献】特開2006-219741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 9/00
C21D 1/18
C21D 9/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、質量%で、
C:0.0005~0.0080%、
Si:0.005~1.000%、
Mn:0.01~2.50%、
Al:0.010~0.100%、
P:0.200%以下、
S:0.100%以下、
N:0.0100%以下、
Ti:0~0.150%、
Nb:0~0.100%、
V:0~0.100%、
Zr:0~0.100%、および
B:0~0.0050%、
を含有し、
残部がFe及び不純物からなり、
面積分率で、20%以上、95%未満のアシキュラーフェライトと、5~80%のポリゴナルフェライトと、0~5%の残部組織とからなる金属組織を有する
ことを特徴とするホットスタンプ成形体。
【請求項2】
前記化学組成が、質量%で、
Ti:0.005~0.150%、
Nb:0.005~0.100%、
V:0.005~0.100%、および
Zr:0.005~0.100%、
からなる群のうち1種または2種以上を含有する
ことを特徴とする請求項1に記載のホットスタンプ成形体。
【請求項3】
前記化学組成が、質量%で、
B:0.0002~0.0050%を含有する
ことを特徴とする請求項1または2に記載のホットスタンプ成形体。
【請求項4】
表面にめっき層を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のホットスタンプ成形体。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載のホットスタンプ成形体の製造方法であって、
請求項1に記載の化学組成を有する鋼板をAc~1100℃の温度域まで加熱する加熱工程と、
前記温度域で0秒超、1200秒以下保持する保持工程と、
平均冷却速度が5~30℃/sとなるように前記鋼板を変態発熱最大温度~変態発熱開始温度-150℃の温度域まで冷却し、該温度域で成形を開始する熱間成形工程と、
前記成形後に平均冷却速度が20~1000℃/sとなるように600~40℃の温度域まで冷却する急速冷却工程と、を備える
ことを特徴とするホットスタンプ成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットスタンプ成形体およびその製造方法に関する。具体的には、本発明は、車体の軽量化および衝突安全性向上に寄与する、強度および延性に優れたホットスタンプ成形体およびその製造方法に関する。
本願は、2019年5月23日に、日本に出願された特願2019-096625号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、車体軽量化および衝突安全性向上の要請から、高強度鋼板が自動車の車体部品に適用されている。車体部品はプレス成形によって成形されるため、プレス成形性の向上、特に形状凍結性の向上が課題とされている。そのため、形状精度に優れた高強度の車体部品を製造する方法として、ホットスタンプ工法が注目されている。
【0003】
また、近年、ホットスタンプ工法にテーラードブランクを適用する技術が検討されている。テーラードブランクとは、板厚、化学組成、金属組織などが異なる鋼板を溶接により接合したものである。テーラードブランクにおいては、接合させた一枚の鋼板中の特性を部分的に変化させることができる。例えば、ある部分に高い強度を持たせることでその部分における変形を抑制し、別の部分に低い強度を持たせることでその部分を変形させ、衝撃を吸収することができる。
【0004】
ホットスタンプ工法にテーラードブランクを適用する技術としては、ホットスタンプ後に低強度となる鋼板と、ホットスタンプ後に高強度となる鋼板とを溶接により接合したテーラードブランクを用いる技術がある。ホットスタンプ後に高強度となる鋼板としては、例えば特許文献1に開示されるような鋼板を用いることができる。ホットスタンプ後に低強度となる鋼板としては、ホットスタンプにおける金型冷却後に低強度となるように、鋼の化学組成を調整すればよい。
【0005】
テーラードブランクに適用される鋼種の一つに極低炭素鋼がある。極低炭素鋼は炭素含有量が低いため、加熱後に急速冷却されても高強度化しにくい特徴を持つ。特許文献2には、極低炭素鋼をホットスタンプ工法の低強度材として用いたことが開示されている。特許文献2には、鋼板をAc点以上の温度に加熱した後にホットスタンプし、ベイナイトおよびベイニティックフェライトを主相とする金属組織とすることにより、局部変形能を向上させる技術が開示されている。特許文献2には、この技術により、衝突時、曲げモードで車体部品が変形した際に破断が生じにくくなり、塑性変形による衝撃吸収能に優れることが開示されている。
【0006】
低強度材として極低炭素鋼を用いた場合、衝突により変形が集中し、曲げモードではなく大きな引張変形を受けた際、破断が生じて部品のエネルギー吸収能が著しく低下する場合がある。そのため、テーラードブランクの低強度材として用いられる極低炭素鋼には、ホットスタンプ後において延性に優れることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特開2004-197213号公報
【文献】国際公開第2012/157581号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、延性に優れたホットスタンプ成形体およびその製造方法を提供することを目的とする。具体的には、C含有量が低く、且つホットスタンプ後において延性に優れ、且つ一般的なホットスタンプ成形体に要求される最低限の強度を有する、ホットスタンプ成形体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ホットスタンプ成形体の延性について本発明者らが鋭意研究を進めた結果、ホットスタンプ成形体の延性は、ホットスタンプ後の金属組織に影響を受けることを知見した。ホットスタンプにおける加熱によってオーステナイトに変態させた後、オーステナイトの状態からホットスタンプすると、金型による急速冷却により、延性に優れないアシキュラーフェライトが多量に生じてしまう。なお、アシキュラーフェライトとは、ベイニティックフェライト、マッシブフェライト、あるいは極低炭素のマルテンサイトと呼ばれることもある。
【0010】
ホットスタンプにおける加熱後、金型による急速冷却ではなく、冷却速度が遅い空冷によって冷却し、一部のオーステナイトがポリゴナルフェライトに変態した後にホットスタンプすると、ホットスタンプ後の金属組織は、ポリゴナルフェライトとアシキュラーフェライトとの複合組織となる。ポリゴナルフェライトは延性に優れるため、上記のような複合組織とすることで、延性に優れたホットスタンプ成形体を製造することができる。
【0011】
オーステナイトからポリゴナルフェライトへの変態が開始したか否かは、加熱炉から出した後の空冷中の鋼板の温度を測定し、変態発熱を観測することにより判断することができる。変態発熱が生じた後にホットスタンプを開始することで、ホットスタンプ成形体においてポリゴナルフェライトが含まれる金属組織を得ることができる。本発明者らは、最適化した化学組成の鋼板を用いて、上記のような方法でホットスタンプすることで、延性に優れたホットスタンプ成形体を製造できることを知見した。
【0012】
ただし、極低炭素鋼を用いた場合には、ポリゴナルフェライトの割合が過大となると、軟質となりホットスタンプ成形体としての強度が不足する。そのため、ホットスタンプを開始する温度を調整することによりポリゴナルフェライトの割合が過大とならないように調整することで、成形後の強度を確保することができる。
【0013】
本発明は上記知見に基づいて得られたものであり、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)本発明の一態様に係るホットスタンプ成形体は、化学組成が、質量%で、
C:0.0005~0.0080%、
Si:0.005~1.000%、
Mn:0.01~2.50%、
Al:0.010~0.100%、
P:0.200%以下、
S:0.100%以下、
N:0.0100%以下、
Ti:0~0.150%、
Nb:0~0.100%、
V:0~0.100%、
Zr:0~0.100%、および
B:0~0.0050%、
を含有し、
残部がFe及び不純物からなり、
面積分率で、20%以上、95%未満のアシキュラーフェライトと、5~80%のポリゴナルフェライトと、0~5%の残部組織とからなる金属組織を有する。
(2)上記(1)に記載のホットスタンプ成形体は、前記化学組成が、質量%で、
Ti:0.005~0.150%、
Nb:0.005~0.100%、
V:0.005~0.100%、および
Zr:0.005~0.100%、
からなる群のうち1種または2種以上を含有してもよい。
(3)上記(1)または(2)に記載のホットスタンプ成形体は、前記化学組成が、質量%で、B:0.0002~0.0050%を含有してもよい。
(4)上記(1)~(3)のいずれか一項に記載のホットスタンプ成形体は、表面にめっき層を有してもよい。
(5)本発明の別の態様に係るホットスタンプ成形体の製造方法は、
上記(1)に記載の化学組成を有する鋼板をAc~1100℃の温度域まで加熱する加熱工程と、
前記温度域で0秒超、1200秒以下保持する保持工程と、
平均冷却速度が5~30℃/sとなるように前記鋼板を変態発熱最大温度~変態発熱開始温度-150℃の温度域まで冷却し、該温度域で成形を開始する熱間成形工程と、
前記成形後に平均冷却速度が20~1000℃/sとなるように600~40℃の温度域まで冷却する急速冷却工程と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る上記一態様によれば、延性に優れ、且つホットスタンプ成形体に要求される最低限の強度を有するホットスタンプ成形体およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】鋼板を980℃まで加熱し、加熱炉の炉蓋が空いてからの経過時間と鋼板の温度との関係を示す図である。
図1B図1Aにおける鋼板の温度を経過時間で一次微分した図である。
図1C図1Aにおける鋼板の温度を経過時間で二次微分した図である。
図2A】鋼板を940℃まで加熱し、加熱炉の炉蓋が空いてからの経過時間と鋼板の温度との関係を示す図である。
図2B図2Aにおける鋼板の温度を経過時間で一次微分した図である。
図2C図2Aにおける鋼板の温度を経過時間で二次微分した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施形態に係るホットスタンプ成形体およびその製造方法について詳細に説明する。まず、本実施形態に係るホットスタンプ成形体の化学組成の限定理由について説明する。なお、以下に記載する数値限定範囲には、下限値および上限値がその範囲に含まれる。「未満」、「超」と示す数値には、その値が数値範囲に含まれない。また、化学組成についての%は全て質量%を意味する。
【0017】
本実施形態に係るホットスタンプ成形体は、化学組成が、質量%で、C:0.0005~0.0080%、Si:0.005~1.000%、Mn:0.01~2.50%、Al:0.010~0.100%、P:0.200%以下、S:0.100%以下、N:0.0100%以下、並びに、残部:Fe及び不純物を含む。以下、各元素について説明する。
【0018】
C:0.0005~0.0080%
Cは、ホットスタンプ成形体の強度および延性に大きく影響を及ぼす元素である。C含有量が多すぎると、ホットスタンプ後に炭化物およびベイナイトなどの低温変態相が形成されてホットスタンプ成形体の延性が低下する。そのため、C含有量は0.0080%以下とする。好ましくは、0.0070%以下、0.0050%以下、0.0040%以下、0.0034%以下、または0.0030%以下である。C含有量が低すぎると、ホットスタンプ成形体の強度が低くなり、強度不足による破断が生じやすくなる。そのため、C含有量は0.0005%以上とする。好ましくは、0.0010%以上である。
【0019】
Si:0.005~1.000%
Siは、固溶強化能を有する合金元素であり、ホットスタンプ成形体の強度を得るために含有させる。しかし、Si含有量が1.000%を超えると、表面スケールの問題が生じる。すなわち、熱間圧延時に生成するスケールを酸洗した後に表面凹凸に起因した模様が発生して、表面外観が劣位となる。そのため、Si含有量は1.000%以下とする。鋼板表面にめっきを施す場合は、Si含有量が多いとめっき性が劣化する場合があるため、Si含有量は0.500%以下とすることが好ましい。また、Si含有量が低すぎると、ホットスタンプ成形体の所望の強度が得られないため、Si含有量は0.005%以上とする。好ましくは、0.100%以上、0.120%以上、0.150%以上、または0.200%以上である。
【0020】
Mn:0.01~2.50%
Mnも、Siと同様に固溶強化能を有する合金元素であり、ホットスタンプ成形体の所望の強度を得るために含有させる。しかし、Mn含有量が2.50%を超えると、鋼板の焼入れ性が高くなり、ホットスタンプにおける加熱後、空冷中のポリゴナルフェライトの形成が抑制されることで、ホットスタンプ成形体の延性が低下する。そのため、Mn含有量は2.50%以下とする。好ましくは、2.35%以下、または2.00%以下である。また、Mn含有量が低すぎると、ホットスタンプ成形体の所望の強度が得られないため、Mn含有量は0.01%以上とする。好ましくは、0.10%以上、0.50%以上、0.80%以上、または1.00%以上である。
【0021】
Al:0.010~0.100%
Alは、溶鋼の脱酸のために使用される元素である。溶鋼を十分に脱酸させるため、Al含有量は0.010%以上とする。好ましくは、0.015%以上、0.020%以上、または0.025%以上である。しかし、Al含有量が0.100%を超えると非金属介在物が鋼中に多量に生成され、ホットスタンプ成形体の表面に疵が発生しやすくなる。そのため、Al含有量は0.100%以下とする。好ましくは、0.080%以下、または0.070%以下である。
【0022】
P:0.200%以下
Pも、SiおよびMnと同様に固溶強化能を有し、ホットスタンプ成形体の強度を得るために有効な元素である。しかし、P含有量が0.200%を超えると、ホットスタンプ成形体の溶接割れ性および靱性が劣化するため、P含有量は0.200%以下とする。好ましくは、0.100%以下、または0.070%以下である。下限は特に規定しないが、Pによる強度確保の観点からは、P含有量を0.020%以上、または0.030%以上としてもよい。
【0023】
S:0.100%以下
Sは、鋼中の非金属介在物のサイズを大きくする。Sを多量に含むと、サイズの大きい非金属介在物を起点としてボイドが生成して破断が生じやすくなり、ホットスタンプ成形体の延性が劣化する。そのため、S含有量は0.100%以下とする。好ましくは、0.030%以下、または0.020%以下である。下限は特に規定しないが、S含有量を過剰に低減すると脱硫工程における製造コストが増大するため、S含有量は0.001%以上としてもよい。
【0024】
N:0.0100%以下
Nは、不純物元素であり、鋼中に窒化物を形成してホットスタンプ成形体の延性を劣化させる元素である。N含有量が0.0100%を超えると、鋼中の窒化物が粗大化し、ホットスタンプ成形体の延性が劣化する。そのため、N含有量は0.0100%以下とする。好ましくは、0.0095%以下、0.0070%以下、0.0050%以下、または0.0035%以下である。下限は特に規定しないが、N含有量を過剰に低減すると製鋼工程における製造コストが増大するため、N含有量は0.0010%以上としてもよい。
【0025】
本実施形態に係るホットスタンプ成形体は、上記の元素を含有し、残部がFe及び不純物からなっていてもよい。しかしながら、各種の特性を向上させるため、以下に示す元素(任意元素)をFeの一部に代えて含有させてもよい。合金コストの低減のためには、これらの任意元素を意図的に鋼中に含有させる必要がないので、これらの任意元素の含有量の下限は、いずれも0%である。なお、不純物としては、鋼原料もしくはスクラップからおよび/または製鋼過程で不可避的に混入し、本実施形態に係るホットスタンプ成形体の特性を阻害しない範囲で許容される元素が例示される。
【0026】
Ti:0~0.150%、Nb:0~0.100%、V:0~0.100%およびZr:0~0.100%
Ti、Nb、VおよびZrは、鋼中に炭化物を形成して、析出強化によりホットスタンプ成形体の強度を向上させる効果があるため、必要に応じて含有させてもよい。上記効果を確実に発揮させるために、Ti、Nb、VおよびZrのうち1種でもその含有量を0.005%以上とすることが好ましい。一方、Ti含有量が0.150%超、あるいは、Nb、VおよびZrのいずれか1種でもその含有量が0.100%超であると、ホットスタンプ成形体の強度が過度に上昇して延性が低下する。そのため、Ti含有量は0.150%以下、Nb含有量、V含有量およびZr含有量は0.100%以下とする。
【0027】
B:0~0.0050%
Bは、粒成長を抑制する効果を有し、ホットスタンプ成形体の強度の向上に寄与する元素であるため、必要に応じて含有させてもよい。この効果を確実に発揮させるためには、B含有量は0.0002%以上とすることが好ましい。より好ましくは、0.005%以上、または0.0010%以上である。B含有量が多すぎると、ホットスタンプ成形体の延性を低下させるため、B含有量は0.0050%以下とする。
【0028】
上述した任意元素の他にも、Cr、Ni、Cu、Mo、Sn、SbおよびAsが含まれていてもよい。Cr、Ni、CuおよびMoの含有量は特に規定しないが、過度に含有させると鋳造性が低下する場合があるため、これらの元素の合計の含有量は1.00%以下としてもよい。また、Sn、SbおよびAsなどの不可避的に含有される不純物元素は、過度に含有されるとホットスタンプ成形体の延性が劣化する場合があるため、これら元素の合計の含有量は0.10%以下としもよい。
【0029】
上述したホットスタンプ成形体の化学組成は、一般的な分析方法によって測定すればよい。例えば、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定すればよい。なお、CおよびSは燃焼-赤外線吸収法を用い、Nは不活性ガス融解-熱伝導度法を用いて測定すればよい。ホットスタンプ成形体が表面にめっき層を備える場合は、機械研削により表面のめっき層を除去してから、化学組成の分析を行えばよい。
【0030】
次に、本実施形態に係るホットスタンプ成形体の金属組織について説明する。
本実施形態に係るホットスタンプ成形体は、面積分率で、20%以上、95%未満のアシキュラーフェライトと、5~80%のポリゴナルフェライトと、0~5%以下の残部組織とからなる金属組織を有する。
【0031】
アシキュラーフェライトの面積分率:20%以上、95%未満
アシキュラーフェライトは、金型による接触伝熱によって急速冷却されることにより、オーステナイトから変態することで生じる組織である。アシキュラーフェライトの面積分率が高くなり過ぎると、ホットスタンプ成形体の延性が低下する。そのため、アシキュラーフェライトの面積分率は95%未満とする。好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下である。一方、アシキュラーフェライトの面積分率が低すぎると、一般的なホットスタンプ成形体に要求される最低限の強度を得ることができない。そのため、アシキュラーフェライトの面積分率は20%以上とする。好ましくは40%以上、50%以上、または60%以上である。
【0032】
ポリゴナルフェライトの面積分率:5~80%
ポリゴナルフェライトはホットスタンプ成形体の延性を得るために重要な組織である。ポリゴナルフェライトは、加熱炉にて鋼板をAc点以上の温度に加熱した後、加熱炉からプレスが完了するまでの空冷の際に生じる組織である。空冷中の900℃から800℃までの平均冷却速度はおおよそ10~30℃/sであり、金型による急速冷却より冷却速度が遅い。そのため、空冷中にFe原子およびC原子が十分に拡散することで、オーステナイトからポリゴナルフェライトへの変態が生じる。ホットスタンプ成形体の延性を得るために、ポリゴナルフェライトの面積分率を5%以上とする。好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上とする。ポリゴナルフェライトの面積分率が高すぎると、アシキュラーフェライトの面積分率が低くなり、一般的なホットスタンプ成形体に要求される最低限の強度を得ることができない。そのため、ポリゴナルフェライトの面積分率は80%以下とする。好ましくは、60%以下、50%以下、または40%以下である。
【0033】
残部組織の面積分率:0~5%
アシキュラーフェライトおよびポリゴナルフェライト以外の残部組織は、後述する組織観察でも判別できない組織のことをいう。このような残部組織としては、炭化物やベイナイトなどの低温変態相、析出物、非金属介在物などが挙げられる。残部組織の面積分率が高くなるとホットスタンプ成形体の延性が低下するため、残部組織の面積分率は5%以下とする。好ましくは、3%以下、2%以下、または1%以下である。ホットスタンプ成形体の延性向上のためには残部組織が含まれないことが好ましいため、残部組織の面積分率は0%であることがより好ましい。
【0034】
金属組織の面積分率の測定方法
金属組織の面積分率は、以下の方法により測定する。
まず、ホットスタンプ成形体の端面から10mm以上離れた位置から、表面に垂直な断面(板厚断面)が観察面となるように試料を採取する。試料は、測定装置にもよるが、圧延方向に10mm程度観察できる大きさとする。切り出した試料の断面を#600から#1500の炭化珪素ペーパーを使用して研磨した後、粒度1~6μmのダイヤモンドパウダーをアルコール等の希釈液および純水に分散させた液体を使用して鏡面に仕上げる。次に、室温においてアルカリ性溶液を含まないコロイダルシリカを用いて8分間研磨し、サンプルの表層に導入されたひずみを除去する。
なお、ホットスタンプ成形体の形状により、ホットスタンプ成形体の端面から10mm以上離れた位置から試料を採取することができない場合は、十分に熱処理が施されていない端部以外の箇所から試料を採取すればよい。
【0035】
試料断面の表面から板厚1/4位置において、圧延方向に50μm、板厚方向に50μmの領域を、0.1μmの測定間隔で電子後方散乱回折法により測定して結晶方位情報を得る。測定には、サーマル電界放射型走査電子顕微鏡(JEOL製JSM-7001F)とEBSD検出器(TSL製DVC5型検出器)とで構成された装置を用いる。この際、装置内の真空度は9.6×10-5Pa以下、加速電圧は15kV、照射電流レベルは13、電子線の照射時間は0.01秒/点とする。得られた結晶方位情報から、EBSD解析装置に付属のソフトウェア「OIM Analysis(登録商標)」に搭載された「Image Quality」機能を用いて、方位差(GAM値:Grain Average Misorientation)が5°以上である結晶粒界と、方位差が5°以上である結晶粒界で囲まれた結晶粒内の平均結晶方位差が0.5°以下である結晶粒と、方位差が5°以上である結晶粒界で囲まれた結晶粒内の平均結晶方位差が0.5°超である結晶粒とを特定する。上述の操作を少なくとも5領域において行う。方位差が5°以上である結晶粒界で囲まれた結晶粒内の平均結晶方位差が0.5°以下である結晶粒の面積分率の平均値を算出することで、ポリゴナルフェライトの面積分率を得る。また、方位差が5°以上である結晶粒界で囲まれた結晶粒内の平均結晶方位差が0.5°超である結晶粒の面積分率の平均値を算出することで、アシキュラーフェライトの面積分率を得る。
【0036】
アシキュラーフェライトのように急速冷却により変態したフェライトは、結晶粒内にひずみが多く導入されるため、結晶粒内の結晶方位の変動が大きくなり、平均結晶方位差が0.5°超となる。一方、冷却速度が遅く、Fe原子およびC原子の拡散が生じて変態したポリゴナルフェライトは、アシキュラーフェライトと比較して結晶粒内に導入されるひずみの量が少ないため、平均結晶方位差は0.5°以下となる。
【0037】
残部組織の面積分率は、100%から、上述の方法により得られたポリゴナルフェライトの面積分率とアシキュラーフェライトの面積分率との合計量を引いた値を算出することで得る。
【0038】
本実施形態に係るホットスタンプ成形体の表面には、めっき層が形成されていてもよい。表面にめっき層を有することで、ホットスタンプ成形体の耐食性が向上するので好ましい。
適用するめっきとしては、アルミめっき、アルミ-亜鉛めっき、溶融亜鉛めっき、電気亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっきなどが例示される。
【0039】
本実施形態に係るホットスタンプ成形体は、鋼板をホットスタンプすることで得られる。そのため、本実施形態に係るホットスタンプ成形体は、ホットスタンプにより形成された形状を備えていてもよい。ホットスタンプにより形成される形状としては、例えば、半径が2~50mmの曲げ成形部を有する形状が挙げられる。ホットスタンプ成形体が、半径が2~50mmの曲げ成形部を有する形状を備える場合、衝突時の衝撃吸収能を向上することができる。
【0040】
次に、本実施形態に係るホットスタンプ成形体の製造方法について説明する。まず、本実施形態に係るホットスタンプ成形体に適用される鋼板の製造方法について説明する。
【0041】
本実施形態に係るホットスタンプ成形体に適用される鋼板の製造方法は特に限定されず、一般的な製造方法でよい。例えば、連続鋳造スラブ、薄スラブキャスターなどの一般的な方法で製造した鋼片を加熱して熱間圧延した後、冷却し、必要に応じて酸洗を行い、冷間圧延することで、鋼板を得ればよい。
【0042】
鋼板には、必要に応じてめっきが施されてもよい。表面にめっきが施された鋼板をホットスタンプすることで、表面にめっき層を有するホットスタンプ成形体が得られる。
めっきの種類としては、アルミめっき、アルミ-亜鉛めっき、亜鉛めっきが挙げられる。めっき付与の方法は一般的な方法でよい。例えば、アルミめっきでは浴中Si濃度は5~12%が適しており、アルミ-亜鉛めっきでは浴中Zn濃度は40~50%が適している。アルミめっき層中にMgおよびZn等が混在しても、アルミ-亜鉛めっき層中にMgが混在しても特に問題無く同様の特性の鋼板を製造することができる。なお、めっき付与の際の雰囲気は、無酸化炉を有する連続式めっき設備でも無酸化炉を有しない連続式めっき設備であっても、一般的な雰囲気条件であってもめっき可能である。また、亜鉛めっきでは、溶融亜鉛めっき、電気亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっきなどの方法でめっき付与してもよい。

【0043】
また、NiプレめっきやFeプレめっき、その他めっき性を向上させる金属プレめっきを施しても特に問題は無い。めっき層表面に異種の金属めっきや無機系化合物、有機系化合物の皮膜などを付与しても特に問題は無い。
【0044】
次に、上述の方法により得られた鋼板を用いた、本実施形態に係るホットスタンプ成形体の製造方法について説明する。
本実施形態に係るホットスタンプ成形体の製造方法は、
鋼板をAc~1100℃の温度域まで加熱する加熱工程と、
前記温度域で0秒超、1200秒以下保持する保持工程と、
平均冷却速度が5~30℃/sとなるように前記鋼板を変態発熱最大温度~変態発熱開始温度-150℃の温度域まで冷却し、該温度域で成形を開始する熱間成形工程と、
前記成形後に平均冷却速度が20~1000℃/sとなるように600~40℃の温度域まで冷却する急速冷却工程と、を備える。
以下、各工程について説明する。
【0045】
[加熱工程]
低強度材(本発明の実施態様に係る材料)と高強度材(本発明の実施態様に係らない材料)とを接合したテーラードブランクをホットスタンプする場合には、高強度材の金属組織を十分にオーステナイト化する必要がある。そのため、加熱工程における加熱温度はAc点以上とする。一般的に高強度材のAc点温度は低強度材のAc点温度よりも低いので、低強度材のAc点温度以上に加熱すれば、高強度材の金属組織をもオーステナイト化することができるので好ましい。本発明の実施態様に係る低強度材のAc点は以下の式で求めることができる。鋼板がAc点以上に加熱されると、フェライトがオーステナイトに変態し、剪断加工や溶接により導入されたひずみが解放される。加熱温度は、表面にめっき層を有さない場合は多量にスケールが発生することを防ぐため、また表面にめっき層を有する場合は過剰に合金化することを防ぐため、1100℃以下とする。好ましくは、1000℃以下である。
【0046】
Ac(℃)=exp(X)-28
X=6.8165-0.47132×C-0.057321×Mn+0.0660261×Si+0.10593×Ti+2.0272×N+1.0536×S-0.12024×Si×C+0.29225×C+0.015660×Mn
ここで、上記式中の元素記号は、当該元素の鋼中での含有量を質量%で示し、含有しない場合は0を代入する。
【0047】
[保持工程]
鋼板を上記加熱温度に加熱した後、フェライトをオーステナイトへ変態させるため、保持時間は0秒超、1200秒以下とする。保持時間は、好ましくは10秒以上、20秒以上、または30秒以上である。
保持時間が1200秒超であると、表面にめっき層を有さない場合は多量にスケールが発生し、表面にめっき層を有する場合は過剰に合金化してしまう。そのため、保持時間は1200秒以下とする。好ましくは、500秒以下、または200秒以下である。
【0048】
[熱間成形工程]
次に、平均冷却速度が5~30℃/sとなるように、保持後の鋼板を変態発熱最大温度~変態発熱開始温度-150℃の温度域まで冷却し、該温度域(変態発熱最大温度~変態発熱開始温度-150℃の温度域)で成形を開始する。上記平均冷却速度を5℃/s未満とするためには特別な保温設備が必要となる。また、上記平均冷却速度を30℃/s超とするためには、強制的に冷却する設備が必要となる。平均冷却速度が5~30℃/sである冷却は、空冷によって行うとよい。
【0049】
変態発熱最大温度以下の温度域で成形を開始するのは、ホットスタンプ成形体において所望量のポリゴナルフェライトを得るためである。変態発熱は、オーステナイトからポリゴナルフェライトへの変態時に発生する。そのため、変態発熱が最大になると、緩やかな温度低下から急な温度低下に変化したり、温度上昇が温度低下に遷移したりする。変態発熱により空冷中の温度低下が緩やかになって再び温度低下が急になる時の温度、あるいは変態発熱により温度上昇し、温度上昇から温度低下に遷移する時の温度が、変態発熱最大温度である。また、変態発熱により空冷中の温度低下が緩やかになる時の温度、あるいは変態発熱により温度上昇する時の温度が変態発熱開始温度である。
【0050】
変態発熱最大温度以下では、オーステナイトからポリゴナルフェライトへの変態が十分に完了しているため、この温度域で成形を開始することにより、ホットスタンプ成形体において、所望量のポリゴナルフェライトを得ることができる。成形を開始する温度の下限は、温度が下がりすぎると成形が困難となるため、変態発熱開始温度-150℃とする。好ましくは、変態発熱開始温度-100℃、または変態発熱開始温度-50℃である。
【0051】
変態発熱開始温度および変態発熱最大温度は、加熱炉から取り出した鋼板の温度の時間変化を測定して、鋼板の温度を経過時間で一次微分および二次微分することにより決定することができる。
表1に示す化学組成(単位は質量%、残部はFeおよび不純物)を有する鋼板を980℃まで加熱し、加熱炉の炉蓋が空いてからの経過時間と鋼板の温度との関係を図1Aに、鋼板の温度を経過時間で一次微分したものを図1Bに、鋼板の温度を経過時間で二次微分したものを図1Cに示す。また、表1に示す化学組成を有する鋼板を940℃まで加熱し、加熱炉の炉蓋が空いてからの経過時間と鋼板の温度との関係を図2Aに、鋼板の温度を経過時間で一次微分したものを図2Bに、鋼板の温度を経過時間で二次微分したものを図2Cに示す。なお、図1Aおよび図2Aに示される鋼板の温度は、鋼板の表面に熱電対を取り付けて、サンプリング間隔0.5sで温度を測定して得られた数値である。
【0052】
【表1】
【0053】
変態発熱が最大となる時は、鋼板の温度を経過時間で一次微分することで決定することができる。図1Bのように、温度の時間に対する一次微分が炉から出した後に負の値から正の値へと変わった場合には、負の値から正の値に変化した後に減少して、正の値から負の値になる時が、変態発熱が最大となる時である。また、図2Bのように、温度の時間に対する一次微分が炉から出した後に負の値のままで正の値にならない場合には、温度の時間に対する一次微分の値が最大となる時(図2Cでは温度の時間に対する二次微分が正の値から負の値となる時)が、変態発熱が最大になるときである。また、変態発熱が開始した時は、鋼板の温度を経過時間で二次微分することで決定することができる。図1Cおよび図2Cにおいて、変態発熱が最大となる時の直前の変曲点が、変態発熱が開始した時である。
【0054】
上述のように、鋼板の温度を経過時間で一次微分および二次微分した図から変態発熱が開始した時および変態発熱が最大となる時を決定し、その時の鋼板温度を求めることで、変態発熱開始温度および変態発熱最大温度を得ることができる。すなわち、図1Bおよび図2B(並びに図2C)から変態発熱が最大となった時間を求め、図1Cおよび図2Cから変態発熱が開始した時間を求め、それらの時間の鋼板の温度を図1Aおよび図2Aから求めれば、変態発熱開始温度および変態発熱最大温度を得ることができる。
【0055】
[急速冷却工程]
成形後は、金型中に保持して、平均冷却速度が20~1000℃/sとなるように600~40℃の温度域まで冷却する。これより延性の優れた金属組織を有するホットスタンプ成形体を製造することができる。上記平均冷却速度が20℃/s未満の場合、所望量のアシキュラーフェライトが得られない。上記平均冷却速度が1000℃/s超の場合、冷却設備が大規模となり、設備コストが増大する。また、冷却を停止する温度が上記温度域の範囲外であると、冷却設備が大規模となり、設備コストが増大する。冷却では、冷媒の温度を低くする、熱伝導度の高い金型を用いる、加圧力を高くして熱伝導力を高める、あるいはホットスタンプ後のホットスタンプ成形体に水を吹き付ける等の方法によって冷却速度を調整すればよい。上記平均冷却速度は、40℃/s以上、または50℃/s以上が好ましい。また、上記平均冷却速度は、500℃/s以下、200℃/s以下、または150℃/s以下が好ましい。
【0056】
以上説明した方法により、本実施形態に係るホットスタンプ成形体を得ることができる。本実施形態に係るホットスタンプ成形体に適用される鋼板はC含有量が低く、低強度のため、ホットスタンプ後に高強度となる鋼板と接合されてテーラードブランクとされた後、ホットスタンプされて車体部品に成形される。この車体部品は、低強度材と高強度材とからなるテーラードブランクをホットスタンプされて製造されたため、低強度の部分と高強度の部分とを有するものとなる。
【0057】
テーラードブランクを製造する際の溶接方法は、レーザー溶接、シーム溶接、アーク溶接、プラズマ溶接など様々な方法が考えられるが、特に限定されない。また、本実施形態に係るホットスタンプ成形体に適用される低強度材と共に使用される、高強度材(ホットスタンプ後に高強度となる鋼板)も特に限定されない。これらは製造される部品毎に適切なものを選択すればよい。
【0058】
本実施形態に係るホットスタンプ成形体の化学組成を有する鋼板をテーラードブランクに適用せずに、該鋼板のみを用いて車体部品等を製造しても何ら問題ではない。パッチワークなど鋼板をスポット溶接で接合して重ねたブランクを作成して、そのブランクをホットスタンプすることも何ら問題ではない。
【実施例
【0059】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0060】
表2に示す化学組成を有する冷延鋼板およびめっき鋼板を表3Aおよび表3Bに示す条件でホットスタンプし、表4Aおよび表4Bに示すホットスタンプ成形体を得た。ホットスタンプに先立ち、鋼板の中央に熱電対を取り付けて加熱炉から取り出した後の大気中での自然冷却での温度の時間変化を測定し、上述の方法により変態発熱開始温度および変態発熱最大温度を求めた。表4Aおよび表4B中のめっきの欄について、CRはめっきなし、GAは合金化溶融亜鉛めっき、ALはAlめっきを行ったことを示す。
【0061】
ホットスタンプは、引張試験片と金属組織観察とを行うための試験片を作製し易いように、鋼板を平板状の水冷金型で挟んで加圧することで行った。なお、本実施例では平板状のホットスタンプ成形体を製造したが、ホットスタンプ成形体の形状はこれに限定されず、半径が2~50mmの曲げ成形部を有する形状を備えるホットスタンプ成形体を製造してもよい。
ホットスタンプ後の鋼板(ホットスタンプ成形体)からJIS5号試験片を採取し、JIS Z 2241:2011に準拠して引張試験を行うことにより、引張(最大)強度(MPa)および全伸び(%)を求めた。また金属組織観察用の試料を採取し、上述した方法により金属組織の面積分率を得た。
【0062】
以上の試験結果を表4Aおよび表4Bに示す。
全伸びが8%以上の場合を延性に優れるとして合格と判定し、8%未満の場合を不合格と判定した。また、全伸びが12%以上の場合を、より延性に優れると判断した。
引張強度が360MPa以上の場合をホットスタンプ成形体に要求される最低限の強度を有するとして合格と判定し、360MPa未満の場合を不合格と判定した。
【0063】
【表2】
【0064】
【表3A】
【0065】
【表3B】
【0066】
【表4A】
【0067】
【表4B】
【0068】
表2~表4Bによれば、化学組成および金属組織が本発明の範囲内である発明例は、延性に優れ、且つ引張強度が360MPa以上であり、ホットスタンプ成形体に最低限必要とされる強度を有していた。
一方、化学組成および/または金属組織が本発明の範囲外である比較例は、引張強度または伸びが劣った。なお、表4Aの製造No.A23は、Si含有量が多かったため、表面外観が悪化して、車体部品に用いることができないと判断したため、金属組織観察および特性評価を行わなかった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係る上記一態様によれば、延性に優れ、且つホットスタンプ成形体に要求される最低限の強度を有するホットスタンプ成形体およびその製造方法を提供することができる。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C