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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】無方向性電磁鋼板
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230614BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20230614BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20230614BHJP
   C21D 8/12 20060101ALN20230614BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/60
H01F1/147 175
C21D8/12 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021556176
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(86)【国際出願番号】 JP2020042458
(87)【国際公開番号】W WO2021095851
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2019206711
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019206813
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】村川 鉄州
(72)【発明者】
【氏名】冨田 美穂
(72)【発明者】
【氏名】藤村 浩志
(72)【発明者】
【氏名】鹿野 智
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-199999(JP,A)
【文献】特開2019-178380(JP,A)
【文献】特開2017-193731(JP,A)
【文献】特開2019-019355(JP,A)
【文献】特開2001-303213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/12
H01F 1/147
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.010%以下、
Si:1.50%~4.00%、
sol.Al:0.0001%~1.0%、
S:0.010%以下、
N:0.010%以下、
Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種又は複数種:総計で2.50%~5.00%、
Sn:0.000%~0.400%、
Sb:0.000%~0.400%、
P:0.000%~0.400%、及び
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種又は複数種:総計で0.0000%~0.0100%を含有し、
Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、以下の(1)式を満たし、
残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
板厚が0.50mm以下であり、
任意の断面における、{100}結晶粒の面積率をSac、{110}結晶粒の面積率をSagとし、KAM(Kernel Average Misorientation)値が高い側から20%までの領域において{100}結晶粒が占める面積率をSbcとしたとき、Sac>Sbc>Sagかつ、0.05>Sagを満たすことを特徴とする無方向性電磁鋼板。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])>0% ・・・(1)
【請求項2】
800℃で2時間焼鈍した後の、圧延方向における磁束密度B50の値をB50L、圧延方向から45°傾いた方向における磁束密度B50の値をB50D1、圧延方向から90°傾いた方向における磁束密度B50の値をB50C、圧延方向から135°傾いた方向における磁束密度B50の値をB50D2としたときに、以下の(2)式を満たす
ことを特徴とする請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
(B50D1+B50D2)/2>(B50L+B50C)/2・・・(2)
【請求項3】
以下の(3)式を満たす
ことを特徴とする請求項2に記載の無方向性電磁鋼板。
(B50D1+B50D2)/2>1.1×(B50L+B50C)/2・・・(3)
【請求項4】
質量%で、
Sn:0.020%~0.400%、
Sb:0.020%~0.400%、及び
P:0.020%~0.400%
からなる群から選ばれる1種又は複数種を含有する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板。
【請求項5】
質量%で、Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種又は複数種:総計で0.0005%~0.0100%を含有する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無方向性電磁鋼板に関する。
本願は、2019年11月15日に、日本に出願された特願2019-206711号、並びに、2019年11月15日に、日本に出願された特願2019-206813号、に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
無方向性電磁鋼板は、例えばモータの鉄心に使用され、無方向性電磁鋼板には、その板面に平行なすべての方向の平均(以下、「板面内の全周平均(全方向平均)」ということがある)において優れた磁気特性、例えば低鉄損及び高磁束密度が要求される。これまで種々の技術が提案されているが、板面内の全方向において十分な磁気特性を得ることは困難である。例えば、板面内のある特定の方向で十分な磁気特性が得られるとしても、他の方向では十分な磁気特性が得られないことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4029430号公報
【文献】特許第6319465号公報
【文献】特許第4790537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は前述の問題点を鑑み、全周平均(全方向平均)で優れた磁気特性を得ることができる無方向性電磁鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(1)本発明の一態様に係る無方向性電磁鋼板は、
質量%で、
C:0.010%以下、
Si:1.50%~4.00%、
sol.Al:0.0001%~1.0%、
S:0.010%以下、
N:0.010%以下、
Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種又は複数種:総計で2.50%~5.00%、
Sn:0.000%~0.400%、
Sb:0.000%~0.400%、
P:0.000%~0.400%、及び
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種又は複数種:総計で0.0000%~0.0100%を含有し、
Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、以下の(1)式を満たし、
残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
板厚が0.50mm以下であり、
任意の断面における、{100}結晶粒の面積率をSac、{110}結晶粒の面積率をSagとし、KAM(Kernel Average Misorientation)値が高い側から20%までの領域において{100}結晶粒が占める面積率をSbcとしたとき、Sac>Sbc>Sagかつ、0.05>Sagを満たすことを特徴とする。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])>0% ・・・(1)
【0006】
(2)上記(1)に記載の無方向性電磁鋼板では、
800℃で2時間焼鈍した後の、圧延方向における磁束密度B50の値をB50L、圧延方向から45°傾いた方向における磁束密度B50の値をB50D1、圧延方向から90°傾いた方向における磁束密度B50の値をB50C、圧延方向から135°傾いた方向における磁束密度B50の値をB50D2としたときに、以下の(2)式を満たしてもよい。
(B50D1+B50D2)/2>(B50L+B50C)/2・・・(2)
(3)上記(2)に記載の無方向性電磁鋼板では、
以下の(3)式を満たしてもよい。
(B50D1+B50D2)/2>1.1×(B50L+B50C)/2・・・(3)
(4)上記(1)から(3)のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板では、
質量%で、
Sn:0.020%~0.400%、
Sb:0.020%~0.400%、及び
P:0.020%~0.400%
からなる群から選ばれる1種又は複数種を含有してもよい。
(5)上記(1)から(4)のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板では、
質量%で、Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、Cdからなる群から選ばれる1種又は複数種:総計で0.0005%~0.0100%を含有してもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、全周平均(全方向平均)で優れた磁気特性を得ることができる無方向性電磁鋼板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。この結果、化学組成、及び歪の分布を適切なものとすることが重要であることが明らかになった。具体的には、{100}結晶粒の歪を少なくし、{111}結晶粒の歪を多くすることが重要であることが明らかになった。このような無方向性電磁鋼板の製造には、α-γ変態系の化学組成を前提とし、熱間圧延時にオーステナイトからフェライトへの変態で結晶組織を微細化し、さらに冷間圧延を所定の圧下率とし、中間焼鈍の温度を所定の範囲内に制御して張出再結晶(以下、バルジング)を発生させ、さらに所定の圧下率でスキンパス圧延を行うことによって、通常は発達しにくい{100}結晶粒を発達させやすくすることが重要であることも明らかになった。
【0009】
なお、予歪を与えて磁気特性をよくする技術が特許文献3に記載されている。しかし、特許文献3に記載の方法では磁気特性は圧延方向には良くなっているが、幅方向や45°方向には磁気特性は良くなっていない。一方向しか磁気特性が良くならないのは{110}結晶粒の特徴である。つまり、通常の無方向性電磁鋼板でスキンパス圧延を行うと、{110}結晶粒が増えやすい。{110}結晶粒も{100}結晶粒と同様に歪が入りにくい性質を有しており、スキンパス圧延後に成長しやすい性質があるからである。しかし、{110}結晶粒はある方向には磁気特性が良いが、全周平均では磁気特性は一般的な無方向性電磁鋼板とほとんど変わらない。一方{100}結晶粒は全周平均での磁気特性も優れている。そこで、{110}結晶粒ではなく、{100}結晶粒を選択的に成長させる技術が必要とされることがわかった。
【0010】
本発明者らは、このような知見に基づいて更に鋭意検討を重ねた結果、本発明に想到した。
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。また、以下の実施形態の各要素は、それぞれの組み合わせが可能であることは自明である。
【0012】
まず、本発明の実施形態に係る無方向性電磁鋼板及びその製造方法で用いられる鋼材の化学組成について説明する。以下の説明において、無方向性電磁鋼板又は鋼材に含まれる各元素の含有量の単位である「%」は、特に断りがない限り「質量%」を意味する。また、無方向性電磁鋼板の化学組成は、皮膜等を除いた母材を100%とした場合の含有量を示す。
【0013】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板及び鋼材は、フェライト-オーステナイト変態(以下、α-γ変態)が生じ得る化学組成であって、C:0.010%以下、Si:1.50%~4.00%、sol.Al:0.0001%~1.0%、S:0.010%以下、N:0.010%以下、Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種又は複数種:総計で2.50%~5.00%、Sn:0.000%~0.400%、Sb:0.000%~0.400%、P:0.000%~0.400%、及びMg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、及びCdからなる群から選ばれる1種又は複数種:総計で0.0000%~0.0100%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有する。
【0014】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板及び鋼材は、さらに、Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Au、Siおよびsol.Alの含有量が後述する所定の条件を満たす。不純物としては、鉱石やスクラップ等の原材料に含まれるもの、製造工程において含まれるもの、が例示される。
【0015】
(C:0.010%以下)
Cは、鉄損を高めたり、磁気時効を引き起こしたりする。従って、C含有量は低ければ低いほどよい。このような現象は、C含有量が0.010%超で顕著である。このため、C含有量は0.010%以下とする。C含有量の低減は、板面内の全方向における磁気特性の均一な向上にも寄与する。なお、C含有量の下限は特に限定しないが、精錬時の脱炭処理のコストを踏まえ、0.0005%以上とすることが好ましい。
【0016】
(Si:1.50%~4.00%)
Siは、電気抵抗を増大させて、渦電流損を減少させ、鉄損を低減したり、降伏比を増大させて、鉄心への打ち抜き加工性を向上したりする。Si含有量が1.50%未満では、これらの作用効果を十分に得られない。従って、Si含有量は1.50%以上とする。一方、Si含有量が4.00%超では、磁束密度が低下したり、硬度の過度な上昇により打ち抜き加工性が低下したり、冷間圧延が困難になったりする。従って、Si含有量は4.00%以下とする。
【0017】
(sol.Al:0.0001%~1.0%)
sol.Alは、電気抵抗を増大させて、渦電流損を減少させ、鉄損を低減する。sol.Alは、飽和磁束密度に対する磁束密度B50の相対的な大きさの向上にも寄与する。sol.Al含有量が0.0001%未満では、これらの作用効果を十分に得られない。また、Alには製鋼での脱硫促進効果もある。従って、sol.Al含有量は0.0001%以上とする。一方、sol.Al含有量が1.0%超では、磁束密度が低下したり、降伏比を低下させて、打ち抜き加工性を低下させたりする。従って、sol.Al含有量は1.0%以下とする。
【0018】
ここで、磁束密度B50とは、5000A/mの磁場における磁束密度である。
【0019】
(S:0.010%以下)
Sは、必須元素ではなく、例えば鋼中に不純物として含有される。Sは、微細なMnSの析出により、焼鈍における再結晶及び結晶粒の成長を阻害する。従って、S含有量は低ければ低いほどよい。このような再結晶及び結晶粒成長の阻害による鉄損の増加および磁束密度の低下は、S含有量が0.010%超で顕著である。このため、S含有量は0.010%以下とする。なお、S含有量の下限は特に限定しないが、精錬時の脱硫処理のコストを踏まえ、0.0003%以上とすることが好ましい。
【0020】
(N:0.010%以下)
NはCと同様に、磁気特性を劣化させるので、N含有量は低ければ低いほどよい。したがって、N含有量は0.010%以下とする。なお、N含有量の下限は特に限定しないが、精錬時の脱窒処理のコストを踏まえ、0.0010%以上とすることが好ましい。
【0021】
(Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu、Auからなる群から選ばれる1種又は複数種:総計で2.50%~5.00%)
Mn、Ni、Co、Pt、Pb、Cu又はAuは、α-γ変態を生じさせるために必要な元素であることから、これらの元素の少なくとも1種を総計で2.50%以上含有させる必要がある。また、これらの元素の含有量は、電気抵抗を上げて鉄損を下げるという観点から、これらの元素の少なくとも1種又は複数種を総計で2.50%超とすることがより好ましい。一方で、これらの元素の含有量が総計で5.00%を超えると、コスト高となり、磁束密度が低下する場合もある。したがって、これらの元素の少なくとも1種を総計で5.00%以下とする。
【0022】
また、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板及び鋼材は、α-γ変態が生じ得る条件として、さらに以下の条件を満たしているものとする。つまり、Mn含有量(質量%)を[Mn]、Ni含有量(質量%)を[Ni]、Co含有量(質量%)を[Co]、Pt含有量(質量%)を[Pt]、Pb含有量(質量%)を[Pb]、Cu含有量(質量%)を[Cu]、Au含有量(質量%)を[Au]、Si含有量(質量%)を[Si]、sol.Al含有量(質量%)を[sol.Al]としたときに、質量%で、以下の(1)式を満たすものとする。
([Mn]+[Ni]+[Co]+[Pt]+[Pb]+[Cu]+[Au])-([Si]+[sol.Al])>0% ・・・(1)
【0023】
前述の(1)式を満たさない場合には、α-γ変態が生じないため、磁束密度が低くなる。
【0024】
(Sn:0.000%~0.400%、Sb:0.000%~0.400%、P:0.000%~0.400%)
SnやSbは冷間圧延、再結晶後の集合組織を改善して、その磁束密度を向上させる。そのため、これらの元素を必要に応じて含有させてもよいが、過剰に含まれると鋼を脆化させる。したがって、Sn含有量、Sb含有量はいずれも0.400%以下とする。また、Pは再結晶後の鋼板の硬度を確保するために含有させてもよいが、過剰に含まれると鋼の脆化を招く。したがって、P含有量は0.400%以下とする。磁気特性等のさらなる効果を付与する場合には、0.020%~0.400%のSn、0.020%~0.400%のSb、及び0.020%~0.400%のPからなる群から選ばれる1種又は複数種を含有することが好ましい。
【0025】
(Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn、及びCdからなる群から選ばれる1種又は複数種:総計で0.0000%~0.0100%)
Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn及びCdは、溶鋼の鋳造時に溶鋼中のSと反応して硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の析出物を生成する。以下、Mg、Ca、Sr、Ba、Ce、La、Nd、Pr、Zn及びCdを総称して「粗大析出物生成元素」ということがある。粗大析出物生成元素の析出物の粒径は1μm~2μm程度であり、MnS、TiN、AlN等の微細析出物の粒径(100nm程度)よりはるかに大きい。このため、これら微細析出物は粗大析出物生成元素の析出物に付着し、中間焼鈍などの焼鈍における再結晶及び結晶粒の成長を阻害しにくくなる。これらの作用効果を十分に得るためには、粗大析出物生成元素の総計が0.0005%以上であることが好ましい。但し、これらの元素の総計が0.0100%を超えると、硫化物若しくは酸硫化物又はこれらの両方の総量が過剰となり、中間焼鈍などの焼鈍における再結晶及び結晶粒の成長が阻害される。従って、粗大析出物生成元素の含有量は総計で0.0100%以下とする。
【0026】
次に、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の厚さについて説明する。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の厚さは、0.50mm以下である。厚さが0.50mm超であると、優れた高周波鉄損を得ることができない。従って、厚さは0.50mm以下とする。また、製造を容易にするという観点からは、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の厚さは、0.10mm以上であることがより好ましい。
【0027】
次に、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の歪の分布について説明する。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、さらに全体的に全方向に対して高い磁束密度が得られるような歪の分布を有する。具体的には、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、Sac>Sbc>Sagかつ、0.05>Sagを満たす。
【0028】
次に、Sac、Sag及びSbcについて説明する。Sacは、任意の断面における、{100}結晶粒の面積率であり、Sagは、任意の断面における、{110}結晶粒の面積率である。任意の断面(無方向性電磁鋼板の板厚方向における中心層の断面)を観察した場合の、その断面の全面積をSall、その断面における{100}結晶粒の面積をSallc、その断面における{110}結晶粒の面積をSallgとしたとき、Sacは、Sac=Sallc/Sallで表される。また、Sagは、Sag=Sallg/Sallで表される。{100}結晶粒(又は{110}結晶粒)とは、対象となる結晶方位から裕度(Tolerance)10°以内で定義される結晶粒である。
【0029】
Sbcは、所定のKAM値を示す領域の{100}結晶粒の面積率である。Sbcは、次のように定義される。上記と同じ断面における、KAM(Kernel Average Misorientation)値が高い側から20%までの範囲にある領域の全面積をSsabとし、KAM値が高い側から20%までの範囲にある領域のうちで{100}結晶粒が占める面積をSsabcとしたとき、Sbcは、Sbc=Ssabc/Ssabで表される。
【0030】
KAM値は、ある測定点における、同一粒内で隣接する測定点との方位差を示す(ただし、隣接する測定点が別の結晶粒の場合、その隣接する測定点はKAMの計算からは除外する)。歪の多い箇所ではKAM値は高くなる。このようなKAM値が高い側から20%までの領域を抜き出すことで、高歪領域のみ抽出することが出来る。測定点は、任意の画素で構成される領域である。なお、測定点を構成する画素の大きさは、KAM値を正確に求めるという点から0.01~0.10μmが好ましい。
【0031】
KAM値が高い側から20%までの領域は、次のように求める。先ず、対象とする上記断面におけるKAM値の度数分布を示すヒストグラム図を作成する。このヒストグラム図は、上記断面におけるKAM値の度数分布を示すものである。次いで、このヒストグラム図を累積ヒストグラム図に変換する。そして、この累積ヒストグラム図において、KAM値が高い側から、累積相対度数の20%まで(0~20%)を占める範囲を決定する。そして、この範囲のKAM値を取る領域(a)を「KAM値が高い側から20%までの領域」として、上記断面上で規定(マッピング)する。すなわち、このように規定された領域(a)の面積がSsabである。次に、上記断面において、{100}結晶粒の領域(b)を規定し、領域(a)と領域(b)とが重複する領域(c)を求める。このように規定された領域(c)の面積がSsabcである。
【0032】
なお、Sallc、Sallg、Ssabc等について、厳密にそれぞれの方位の結晶粒の面積を示すものではなく、例えば、それぞれの方位から10°までのずれ(裕度)を許容する方位の面積も含むものとする。
【0033】
KAM値は、OIM Analysis等のソフトウェアによって試料断面の画像を解析することで算出できる。なお、KAM値の最高値は、同ソフトウェアで自動的に付与される。上記の説明において、KAM値が高い側とは、KAM値の度数分布においてKAM値の最高値側を意味する。例えば、KAM値0を原点とする累積ヒストグラムの場合、KAM値が高い側から累積相対度数の20%までを占める範囲とは、累積相対度数が1~0.8の範囲となる。
【0034】
ここで、上記の関係を求めるためには、無方向性電磁鋼板から採取した試料の鋼板を1/2研磨した材料の研磨面の面積率を、例えば、電子線後方散乱回折(EBSD:Electron Back Scattering Diffraction)法により求めることができる。KAM値はEBSDの観察視野からIPF(Inverse Pole Figure)を計算することにより求めることが出来る。なお、試料の採取箇所は、無方向性電磁鋼板の母材鋼板中で、中心層が好ましい。観察視野は2400μm以上が望ましく、複数の視野について算出した各数値の平均値を採用することが望ましい。
【0035】
上記の不等式のSac>Sagの関係は、全体を占める割合が{100}結晶粒の方が{110}結晶粒よりも多いことを示す。スキンパス後の焼鈍では、{100}結晶粒と{110}結晶粒の両方が成長しやすくなる。ここで、全周平均の磁気特性は{100}結晶粒の方が{110}結晶粒よりも優れているため、{100}結晶粒の方を多くすることがより好ましい。
【0036】
次にSac>Sbcの関係は、{100}結晶粒には歪が多い領域が相対的に少ないことを意味する。スキンパス圧延後の焼鈍では歪の少ない粒が、歪の多い粒を蚕食することが知られている。よって、この不等式は{100}結晶粒が成長しやすくなることを意味する。
【0037】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板においては、{100}結晶粒が成長し、かつさらに{100}結晶粒が成長しやすい組織を有しているため、{110}結晶粒の面積率Sagは0.05未満となっている。{110}結晶粒の面積率Sagが0.05以上では、優れた磁気特性が得られない。また、Sbc>Sagとする理由は、{110}結晶粒の割合より、高歪領域における{100}結晶粒の割合が多いほうが、全周の磁気特性が向上するためである。
【0038】
次に、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の磁気特性について説明する。磁気特性を調べる際には、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板に対して、さらに800℃で2時間の条件で焼鈍を施した後に磁束密度を測定する。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向において、磁気特性が最も優れる。一方、圧延方向となす角度が0°、90°の2つの方向において、磁気特性が最も劣る。ここで、当該「45°」は、理論的な値であり、実際の製造に際しては45°に一致させることが容易でない場合がある。したがって、理論的には、磁気特性が最も優れる方向が、圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向であれば、実際の無方向性電磁鋼板においては、当該45°は、(厳密に)45°に一致していないものも含むものとする。このことは、当該「0°」、「90°」においても同様である。
【0039】
また、理論的には、磁気特性が最も優れる2つの方向の磁気特性は同じになるが、実際の製造に際しては当該2つの方向の磁気特性を同じにすることが容易でない場合がある。したがって、理論的には、磁気特性が最も優れる2つの方向の磁気特性が同じであれば、当該同じは、(厳密に)同じでないものも含むものとする。このことは、磁気特性が最も劣る2つの方向においても同じである。尚、以上の角度は、時計回りおよび反時計回りの何れの向きの角度も正の値を有するものとして表記したものである。時計回りの方向を負の方向とし、反時計回りの方向を正の方向とする場合、前述した圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向は、前述した圧延方向となす角度のうち絶対値の小さい方の角度が45°、-45°となる2つの方向となる。また、前述した圧延方向となす角度のうち小さい方の角度が45°となる2つの方向は、圧延方向となす角度が45°、135°となる2つの方向とも表記できる。
【0040】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の磁束密度を測定すると、圧延方向に対して45°方向の磁束密度B50(B50D1及びB50D2に相当する)が1.75T以上となる。なお、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、圧延方向に対して45°方向の磁束密度が高いものの、全周平均(全方向平均)でも高い磁束密度が得られる。
【0041】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、800℃で2時間焼鈍した後の、圧延方向における磁束密度B50の値をB50L、圧延方向から45°傾いた方向における磁束密度B50の値をB50D1、圧延方向から90°傾いた方向における磁束密度B50の値をB50C、圧延方向から135°傾いた方向における磁束密度B50の値をB50D2とすると、B50D1及びB50D2が最も高く、B50L及びB50Cが最も低いという磁束密度の異方性がみられる。
【0042】
ここで、例えば時計回り(反時計回りでもよい)の方向を正の方向とした磁束密度の全方位(0°~360°)分布を考えた場合、圧延方向を0°(一方向)及び180°(他方向)とすると、B50D1は45°及び225°の磁束密度B50の値、B50D2は135°及び315°の磁束密度B50の値となる。同様に、B50Lは0°及び180°の磁束密度B50の値、B50Cは90°及び270°の磁束密度B50の値となる。45°の磁束密度B50の値と225°の磁束密度B50の値とは厳密に一致し、135°の磁束密度B50の値と315°の磁束密度B50の値とは厳密に一致する。しかしながら、B50D1とB50D2とは、実際の製造に際して磁気特性を同じにすることが容易でない場合があることから、厳密には一致しない場合がある。同様に、0°の磁束密度B50の値と180°の磁束密度B50の値とは厳密に一致し、90°の磁束密度B50の値と270°の磁束密度B50の値とは厳密に一致する一方で、B50LとB50Cとは厳密には一致しない場合がある。製造された無方向性電磁鋼板において、その圧延方向の一方と他方(圧延方向とは真逆の方向)とは区別できない。そのため本実施形態では、圧延方向とはその一方及び他方の双方向をいう。
【0043】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板では、B50D1及びB50D2の平均値と、B50LとB50Cの平均値とを用いて、以下の(2)式を満たすことがより好ましい。
【0044】
(B50D1+B50D2)/2>(B50L+B50C)/2・・・(2)
【0045】
このような磁束密度の高い異方性を有することで、分割鉄心型のモータ材料に適しているという利点がある。
【0046】
また、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、以下の(3)式を満たすことで、分割鉄心型のモータ材料としてより好ましく用いることができる。
【0047】
(B50D1+B50D2)/2>1.1×(B50L+B50C)/2・・・(3)
【0048】
磁束密度の測定は、圧延方向に対して45°、0°方向等から55mm角の試料を切り出し,単板磁気測定装置を用いて行うことができる。
【0049】
次に、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。本実施形態では、熱間圧延、冷間圧延、中間焼鈍、スキンパス圧延等を行う。
【0050】
まず、上述した鋼材を加熱し、熱間圧延を施す。鋼材は、例えば通常の連続鋳造によって製造されるスラブである。熱間圧延の粗圧延および仕上げ圧延はγ域(Ar1温度以上)の温度で行う。つまり、仕上げ圧延の最終パスを通過する際の温度(仕上温度)がAr1温度以上となるように熱間圧延を行うことが好ましい。これにより、その後の冷却によってオーステナイトからフェライトへ変態することにより結晶組織は微細化する。結晶組織が微細化された状態でその後冷間圧延を施すと、バルジングが発生しやすく、通常は成長しにくい{100}結晶粒を成長させやすくすることができる。なお、本実施形態においてAr1温度は、1℃/秒の平均冷却速度で冷却中の鋼材(鋼板)の熱膨張変化から求める。また、本実施形態においてAc1温度は、1℃/秒の平均加熱速度で加熱中の鋼材(鋼板)の熱膨張変化から求める。
【0051】
その後、熱間圧延板焼鈍は行わずに巻き取る。巻き取り時の温度を、250℃超600℃以下とすることで、冷延前の結晶組織を微細化でき、バルジングの際に磁気特性の優れた{100}方位を富化できる。巻き取り時の温度は、400℃~500℃であることが好ましく、400℃~480℃であることがさらに好ましい。
【0052】
その後、酸洗を経て、熱間圧延鋼板に対して冷間圧延を行う。冷間圧延では圧下率を80%~92%とすることが好ましいが、前述した歪の分布を有するようにするために、スキンパス圧延との関係で冷間圧延の圧下率を調整する。つまり、スキンパス圧延での圧下率から逆算し、製品板厚になるように冷間圧延の圧下率を決定する。
【0053】
冷間圧延が終了すると、続いて中間焼鈍を行う。本実施形態では、オーステナイトへ変態しない温度で中間焼鈍を行う。つまり、中間焼鈍の温度をAc1温度未満とする。このように中間焼鈍を行うことによってバルジングが生じ、{100}結晶粒が成長しやすくなる。また、中間焼鈍の時間は、5~60秒とすることが好ましい。
【0054】
中間焼鈍が終了すると、次にスキンパス圧延を行う。上述したようにバルジングが発生した状態で圧延し、その後焼鈍を行うと、バルジングが発生した部分を起点に{100}結晶粒がさらに成長する歪誘起粒界移動(以下、SIBM)が発生する。スキンパス圧延の圧下率は5%~25%とする。スキンパス圧延の圧下率が5%未満だと鋼板に蓄積される歪の量が少ないため、SIBMが発生しない。一方、スキンパス圧延の圧下率が20%超であると歪が多すぎるため、SIBMではなく、再結晶核生成(Nucleation)が発生する。SIBMでは{100}結晶粒が、Nucleationでは{111}結晶粒が多くなりやすい性質を持つため、磁気特性を良くするにはSIBMを発生させる必要がある。磁束密度の高い異方性を得るという観点からは、スキンパス圧延の圧下率は5%~15%とすることがより好ましい。
【0055】
実際のモータコアなどの製品の製造工程においては、所望の鉄鋼部材とすべく、無方向性電磁鋼板の成形加工等が行われる。そして、無方向性電磁鋼板からなる鉄鋼部材に成形加工等(例えば打ち抜き)により生じた歪等を除去すべく、鉄鋼部材に歪取焼鈍を施す場合がある。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板に歪取焼鈍を施す場合には、歪取焼鈍の温度を例えば800℃程度とし、歪取焼鈍の時間を2時間程度とすることが好ましい。
【0056】
以上のように本実施形態に係る無方向性電磁鋼板を製造することができる。
【0057】
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板からなる鉄鋼部材は、例えば回転電機の鉄心(モータコア)に適用される。この場合、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板から個々の平板状薄板を切り出し、これらの平板状薄板を適宜積層することにより、回転電機に用いられる鉄心が作製される。この鉄心は、優れた磁気特性を有する無方向性電磁鋼板が適用されているために鉄損が低く抑えられており、優れたトルクを有する回転電機が実現する。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板からなる鉄鋼部材は、回転電機の鉄心以外の製品、例えばリニアモータや静止機(リアクトルや変圧器)等の鉄心にも適用することができる。
【実施例
【0058】
次に、本発明の実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法について、実施例を示しながら具体的に説明する。以下に示す実施例は、本発明の実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法のあくまでも一例にすぎず、本発明に係る無方向性電磁鋼板の製造方法が下記の例に限定されるものではない。
【0059】
(第1の実施例)
溶鋼を鋳造することにより、以下の表1に示す成分のインゴットを作製した。その後、作製したインゴットを1150℃まで加熱して熱間圧延を行い、板厚が2.5mmになるように圧延した。ただし、No.110は板厚を1.6mmになるように圧延した。そして、仕上げ圧延終了後に水冷し熱間圧延鋼板を巻き取った。この時の仕上げ圧延の最終パスの段階での温度(仕上温度)はNo.108およびNo.110を除いてすべて830℃でありAr1温度より大きい温度だった。なお、γ-α変態が起こらないNo.108については、仕上温度を850℃とし、No.110はSagを制御する目的で仕上温度をAr1温度よりも低い750℃とした。また、巻き取り時の巻取り温度は500℃とした。ここで、表中の「式左辺」とは、前述の(1)式の左辺の値を表している。
【0060】
次に、熱間圧延鋼板において酸洗によりスケールを除去した。サンプルによって圧下率を表1に示すように変更して冷間圧延を行った。そして、無酸化雰囲気中でAc1温度よりも低い700℃まで加熱して、30秒間の中間焼鈍を行った。ただし、No.111はSac、Sbcの値を変える目的で中間焼鈍をAc1温度以上である900℃で実施した。次いで、サンプルによって圧下率を表1に示すように変更して2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)を行った。No.112では、スキンパス圧延を実施しなかった。ただし、No.116は冷間圧延で0.360mm厚にし、中間焼鈍後に0.35mmになるまで2回目の冷間圧延を行った。
【0061】
次に、磁気特性を調べるために2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)の後に800℃で2時間の歪取焼鈍を行い、磁束密度B50を測定した。測定試料は55mm角の試料を圧延方向に0°と45°の2種類の方向に採取した。そして、この2種類の試料の磁束密度B50を測定し、圧延方向に対して45°傾いた方向の磁束密度B50の値をB50D1とし、圧延方向に対して135°傾いた方向の磁束密度B50の値をB50D2とし、圧延方向の磁束密度B50の値をB50Lとし、圧延方向に対して90°傾いた方向の磁束密度B50の値をB50Cとした。また、B50D1、B50D2、B50L、B50Cの平均値を磁束密度B50の全周平均とした。これらの条件及び測定結果を表1及び表2に示す。
【0062】
また、スキンパス圧延後の鋼板の1/2層を研磨により出し、SEM-EBSDを用いて測定し、OIM Analysisを用いて各方位の結晶粒の面積率、KAM値を算出した。そして、得られたKAM値から、Sac、Sbc及びSagをそれぞれ算出した。これらの算出方法は、上記の実施形態で説明した通りである。観察視野は2400μmで行い、各数値は、各サンプルの平均値とした。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
表1及び表2中の下線は、本発明の範囲から外れた条件を示している。発明例であるNo.101~No.107、No.109、No.113~No.118は、いずれも45°方向及び全周平均共に磁束密度B50は良好な値であった。一方、比較例であるNo.108はSi濃度が高く、式左辺の値が0以下であり、α-γ変態しない組成であったことから、磁気密度B50はいずれも低かった。比較例であるNo.110は、Sagが0.05を超えているため、磁束密度が低かった。比較例であるNo.111とNo.112は、Sac>Sbc>Sagの順番になっていないため、磁束密度B50はいずれも低かった。No.111の場合は、中間焼鈍の温度がAc1温度よりも高かったため、α-γ変態が生じたことによって{100}結晶粒が少なくなり、かつ{100}結晶粒に歪みが多く残り、スキンパス圧延後の歪取焼鈍で{100}結晶粒が十分に成長しなかったものと考えられる。No.116では、磁気特性が良好であったものの、スキンパス圧延での圧下率を変更したことから、(3)式を満たさなかった。
【0066】
(第2の実施例)
溶鋼を鋳造することにより、以下の表3に示す成分のインゴットを作製した。その後、作製したインゴットを1150℃まで加熱して熱間圧延を行い、板厚が2.5mmになるように圧延した。そして、仕上げ圧延終了後に水冷し熱間圧延鋼板を巻き取った。この時の仕上げ圧延の最終パスの段階での仕上温度は830℃であり、すべてAr1温度より大きい温度だった。また、巻き取り時の巻取り温度は500℃とした。
【0067】
次に、熱間圧延鋼板において酸洗によりスケールを除去した。次に、85%の圧下率で板厚が0.385mmになるまで冷間圧延を行った。そして、無酸化雰囲気中でAc1温度よりも低い700℃まで加熱して30秒間の中間焼鈍を行った。次いで、9%の圧下率で板厚が0.35mmになるまで2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)を行った。ただし、No.215は冷間圧延で0.360mm厚にし、中間焼鈍後に0.35mmになるまで2回目の冷間圧延を行った。
【0068】
次に、磁気特性を調べるために2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)の後に800℃で2時間の歪取焼鈍を行い、磁束密度B50および鉄損W10/400を測定した。磁束密度B50に関しては第1の実施例と同様の手順で測定した。一方で鉄損W10/400は、最大磁束密度が1.0Tになるように400Hzの交流磁場をかけた時に試料に生じる全周平均のエネルギーロス(W/kg)として測定した。これらの条件および結果を表3及び表4に示す。
【0069】
また、スキンパス圧延後の鋼板の1/2層を研磨により出し、SEM-EBSDを用いて測定し、OIM Analysisを用いて各方位の結晶粒の面積率、KAM値を算出した。そして、得られたKAM値から、Sac、Sbc及びSagをそれぞれ算出した。これらの算出方法は、上記の実施形態で説明した通りである。観察視野は2400μmで行い、各数値は、各サンプルの平均値とした。
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【0072】
No.201~No.217は全て発明例であり、いずれも磁気特性が良好であった。特に、No.202~No.204はNo.201、No.205~No.217よりも磁束密度B50が高く、No.205~No.214、No.217及びNo.217は、No.201~No.204及びNo.215よりも鉄損W10/400が低かった。無方向性電磁鋼板の成分を調整することで、これらの結果が得られたものと考えられる。また、No.215では、磁気特性が良好であったものの、スキンパス圧延での圧下率を変更したことから、(3)式を満たさなかった。
【0073】
(第3の実施例)
溶鋼を鋳造することにより、以下の表5に示す成分のインゴットを作製した。その後、作製したインゴットを1150℃まで加熱して熱間圧延を行い、板厚が2.5mmになるように圧延した。そして、仕上げ圧延終了後に水冷し熱間圧延鋼板を巻き取った。この時の仕上げ圧延の最終パスの段階での仕上げ温度は830℃であり、すべてAr1温度より大きい温度だった。また、表6に示すそれぞれの巻取り温度で巻き取りを行った。
【0074】
次に、熱間圧延鋼板において酸洗によりスケールを除去し、85%の圧下率で板厚が0.385mmになるまで冷間圧延を行った。そして、無酸化雰囲気中で30秒間の中間焼鈍を行い、再結晶率が85%となるように中間焼鈍の温度を制御した。次いで、9%の圧下率で板厚が0.35mmになるまで2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)を行った。
【0075】
次に、磁気特性を調べるために2回目の冷間圧延(スキンパス圧延)の後に800℃で2時間の歪取焼鈍を行い、第2の実施例と同様に、磁束密度B50および鉄損W10/400を測定した。各方向における磁束密度B50に関しては第1の実施例と同様の手順で測定した。一方で鉄損W10/400は、最大磁束密度が1.0Tになるように400Hzの交流磁場をかけた時に試料に生じる全周平均のエネルギーロス(W/kg)として測定した。これらの条件および結果を表5及び表6に示す。
【0076】
また、スキンパス圧延後の鋼板の1/2層を研磨により出し、SEM-EBSDを用いて測定し、OIM Analysisを用いて各方位の結晶粒の面積率、KAM値を算出した。そして、得られたKAM値から、Sac、Sbc及びSagをそれぞれ算出した。これらの算出方法は、上記の実施形態で説明した通りである。観察視野は2400μmで行い、各数値は、各サンプルの平均値とした。
【0077】
【表5】
【0078】
【表6】
【0079】
表6下線は、本発明の範囲から外れた条件を示している。発明例であるNo.301、No.302、No.304、No.305、No.307、No.308、No.310、No.311、No.313、No.314、No.316、No.317、No.319、No.322は、いずれも45°方向及び全周平均共に磁束密度B50は良好な値であった。一方、比較例であるNo.303、No.306、No.309、No.312、No.315、No.318、No.320、No.321、No.323、No.324では、巻取り温度が最適な範囲から外れたため、Sac>Sbc>Sagとの関係を満たさず、磁気密度B50はいずれも低かった。
【0080】
以上の実施例からも理解されるように、本発明に係る無方向性電磁鋼板は、化学組成、熱間圧延条件、冷間圧延条件、焼鈍条件及び再結晶率が適切に制御されることで、全周平均(全方向平均)で優れた磁気特性を有する。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、全周平均(全方向平均)で優れた磁気特性を得ることができる無方向性電磁鋼板を提供できるため、産業上極めて有用である。