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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】エンジンオイル供給装置
(51)【国際特許分類】
   F01M 1/16 20060101AFI20230614BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20230614BHJP
   F02B 67/06 20060101ALI20230614BHJP
   F02B 77/08 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
F01M1/16 A
F02D45/00
F02B67/06 A
F02B77/08 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019121701
(22)【出願日】2019-06-28
(65)【公開番号】P2021008830
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】長 健太
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智
(72)【発明者】
【氏名】山田 孝司
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-159029(JP,A)
【文献】特開2012-127322(JP,A)
【文献】特開2012-082749(JP,A)
【文献】特開2010-151036(JP,A)
【文献】特開2006-077725(JP,A)
【文献】特開昭61-218857(JP,A)
【文献】米国特許第07086366(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 1/16
F02D 45/00
F02B 67/06
F02B 77/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンによって駆動され、前記エンジンにおける供給対象にエンジンオイルを供給して潤滑あるいは冷却するオイルポンプと、
前記オイルポンプの吸入路側と吐出路とを接続する接続路と、
前記接続路を開閉する開閉弁と、
を有するエンジンオイル供給装置であって、
前記エンジンの回転速度を検出する回転速度検出部と、
前記エンジンの負荷を検出する負荷検出部と、
前記エンジンの回転速度と負荷とに基づいて前記開閉弁を開閉制御する制御部と、
前記エンジンの傾斜を検出する傾斜検出器と、
を備え、
前記供給対象は、前記エンジンのチェーンテンショナを駆動するアクチュエータを含み、
前記制御部は、前記エンジンの所定範囲の回転速度において、前記エンジンの負荷が所定の閾値未満である場合に前記開閉弁を開弁させる一方、前記エンジンの負荷が前記所定の閾値以上である場合に前記開閉弁を閉弁させ、
前記所定の閾値は、前記回転速度が増加するに伴って減少するように設定されるとともに、
前記制御部は、前記エンジンの傾斜が所定の傾斜範囲において、前記開閉弁を閉弁状態に維持させる
ことを特徴とするエンジンオイル供給装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記エンジンの回転速度が前記所定範囲より低い低回転領域において、前記負荷に拘わらず前記開閉弁を閉弁させることを特徴とする請求項1に記載のエンジンオイル供給装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記エンジンの回転速度が前記所定範囲より高い高回転領域において、前記負荷に拘わらず前記開閉弁を閉弁させることを特徴とする請求項1または2に記載のエンジンオイル供給装置。
【請求項4】
前記エンジンは、燃料噴射量指令値と実燃料噴射量との差を検出してずれ量を学習する燃料噴射学習制御部を備え、
前記制御部は、前記燃料噴射学習制御部による前記学習の実施中において前記開閉弁を閉弁状態に維持することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のエンジンオイル供給装置。
【請求項5】
前記所定の傾斜範囲は、前記アクチュエータへの前記エンジンオイルの供給路の最上部の位置によって設定することを特徴とする請求項1に記載のエンジンオイル供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンにおけるエンジンオイル供給装置の供給制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に搭載されるエンジンには、当該エンジンにおける各摺動部にエンジンオイルを供給するエンジンオイル供給装置が備えられている。エンジンオイル供給装置は、当該エンジンによって駆動されるオイルポンプを備えており、エンジンの駆動に伴って各摺動部にエンジンオイルを供給する。
【0003】
エンジンオイル供給装置は、例えば特許文献1に示すように、オイルポンプから各摺動部にエンジンオイルを供給する油路にリリーフバルブを備えている。リリーフバルブは、オイルポンプの吐出圧が必要以上に上昇することを防止して、オイルポンプを駆動するためのエンジン負荷を抑制する。これにより、エンジンの燃費の低下が抑制される。
【0004】
また、オイルポンプによって供給されるエンジンオイルは、摺動部の潤滑以外にも、ピストン等に噴射されることで過度な温度上昇を抑制する効果を有する。また、特許文献2に記載されているように、オイルポンプから供給されるエンジンオイルを、エンジンのチェーンアジャスタのアクチュエータに供給して、タイミングチェーンの張力を維持させることも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5515515号公報
【文献】特開2016-118254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のようにエンジンの潤滑及び冷却用にエンジンオイルを供給するエンジンオイル供給装置において、オイルポンプからのエンジンオイルの必要供給量や必要供給圧は、エンジンの回転速度や負荷等の運転状況によって変化する。また、特許文献2のチェーンアジャスタのようなエンジンオイルの供給先の状態によってもエンジンオイルの必要供給量が変化する可能性がある。
【0007】
この点に関して、特許文献1では、エンジンの低回転低負荷領域においてリリーフバルブの開弁圧を低下させて、オイルポンプの吐出圧、即ちエンジンオイルの供給圧を低下させてオイルポンプの駆動負荷を低減させ、エンジンの燃費を向上させることが開示されている。
【0008】
しかしながら、近年では、エンジンの燃費性能を更に向上させる要求が高まっている。そこで、オイルポンプによるエンジンオイルの供給をより適切に制御して、エンジンオイルの供給性能を確保しつつエンジンの燃費を更に上昇させることが要求されている。
【0009】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、エンジンオイルの供給性能を確保しつつ、エンジンの燃費を向上させるエンジンオイル供給装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明のエンジンオイル供給装置は、エンジンによって駆動され、前記エンジンにおける供給対象にエンジンオイルを供給して潤滑あるいは冷却するオイルポンプと、前記オイルポンプの吸入路側と吐出路とを接続する接続路と、前記接続路を開閉する開閉弁と、を有するエンジンオイル供給装置であって、前記エンジンの回転速度を検出する回転速度検出部と、前記エンジンの負荷を検出する負荷検出部と、前記エンジンの回転速度と負荷とに基づいて前記開閉弁を開閉制御する制御部と、前記エンジンの傾斜を検出する傾斜検出器と、を備え、前記供給対象は、前記エンジンのチェーンテンショナを駆動するアクチュエータを含み、前記制御部は、前記エンジンの所定範囲の回転速度において、前記エンジンの負荷が所定の閾値未満である場合に前記開閉弁を開弁させる一方、前記エンジンの負荷が前記所定の閾値以上である場合に前記開閉弁を閉弁させ、前記所定の閾値は、前記回転速度が増加するに伴って減少するように設定されるとともに、前記制御部は、前記エンジンの傾斜が所定の傾斜範囲において、前記開閉弁を閉弁状態に維持させることを特徴とする。
【0011】
これにより、エンジンの回転速度が所定範囲において、エンジンの負荷が所定の閾値未満の場合には、開閉弁を開弁させるので、オイルポンプの吐出圧を低下させてエンジンによるオイルポンプの駆動負荷を抑制することができる。エンジンの負荷が所定の閾値以上の場合には、開閉弁を閉弁させるので、オイルポンプの吐出圧の低下を抑制し、供給対象へのエンジンオイルの供給性能を確保して、負荷の増加に伴って昇温する供給対象を適切に冷却することができる。
【0012】
更に、エンジンの回転速度が所定範囲において、エンジンの回転速度が増加するに伴って、開閉弁の開閉を切り替えるエンジンの負荷の閾値が減少するように設定されるので、エンジンの回転速度の増加に伴うエンジンオイルの必要な供給量の増加に対応して、エンジンオイルの供給性能を確保することができる。また、エンジンの回転速度が減少するに伴って負荷の閾値が増加するように設定されることで、開閉弁の開弁領域を増加させて、エンジンの負荷を低減させる領域を広げることができる。
また、エンジンの傾斜が所定の傾斜範囲であるときに開閉弁を閉弁状態に維持するので、チェーンテンショナのアクチュエータへのエンジンオイルの供給圧が低下することを防止して、エンジンの傾斜とエンジンオイルの供給圧が低下することにより発生するチェーンテンショナの作動不良を防止することができる。
【0013】
また、好ましくは、前記制御部は、前記エンジンの回転速度が前記所定範囲より低い低回転領域において、前記負荷に拘わらず前記開閉弁を閉弁させるとよい。
【0014】
これにより、エンジンの回転速度が所定範囲より低い低回転領域では、オイルポンプからの吐出量が低下するが、エンジンの負荷に拘わらず開閉弁を閉弁させることで、オイルポンプの吐出圧の低下を抑制し、供給対象へのエンジンオイルの供給性能を確保することができる。
【0015】
また、好ましくは、前記制御部は、前記エンジンの回転速度が前記所定範囲より高回転領域において、前記負荷に拘わらず前記開閉弁を閉弁させるとよい。
【0016】
これにより、エンジンの回転速度が所定の範囲より高い高回転領域では、オイルポンプからの吐出量が増加するものの、エンジンの負荷に拘わらず開閉弁を閉弁させることで、オイルポンプの吐出圧の低下を抑制し、供給対象へのエンジンオイルの供給性能を十分に確保して、エンジンの回転速度の増加に伴う潤滑性能及び冷却性能を確保することができる。
【0017】
好ましくは、前記エンジンは、燃料噴射量指令値と実燃料噴射量との差を検出してずれ量を学習する燃料噴射学習制御部を備え、前記制御部は、前記燃料噴射学習制御部による前記学習の実施中において前記開閉弁を閉弁状態に維持するとよい。
【0018】
これにより、燃料噴射学習制御部による学習実施中に開閉弁を閉弁状態に維持することでエンジンの負荷の変化を抑制し、学習の精度を高めることができる。
【0021】
好ましくは、前記所定の傾斜範囲は、前記アクチュエータへの前記エンジンオイルの供給路の最上部の位置によって設定するとよい。
【0022】
これにより、エンジンの傾斜が、チェーンテンショナのアクチュエータへのエンジンオイルの供給路の最上部の位置によって設定される所定の傾斜範囲であるときに開閉弁を閉弁状態に維持するので、エンジンオイルの供給路の最上部の位置とエンジンオイルの供給圧が低下することにより発生するチェーンテンショナの作動不良を防止することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のエンジンオイル供給装置は、エンジンの回転速度が所定範囲において、エンジンの負荷が所定の閾値未満の場合には開閉弁を開弁させてエンジンによるオイルポンプの駆動負荷を抑制する一方、エンジンの負荷が所定の閾値以上の場合には開閉弁を閉弁させて供給対象へのエンジンオイルの供給性能を確保することができる。
【0024】
更に、エンジンの回転速度が所定範囲において、エンジンの回転速度が増加するに伴って、開閉弁の開閉を切り替える負荷の閾値が減少するように設定されることで、エンジンオイルの供給性能を確保して供給対象の潤滑性能及び冷却性能を確保しつつ、開閉弁の開弁領域を増加して、エンジンの負荷を低減させる領域を広げることができ、エンジンの燃費性能を向上させることができる。
更に、エンジンの傾斜が所定の傾斜範囲であるときに開閉弁を閉弁状態に維持することで、エンジンの傾斜とエンジンオイルの供給圧が低下することにより発生するチェーンテンショナの作動不良を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態のエンジンオイル供給装置の概略構成図である。
図2】本実施形態のエンジンオイル供給装置におけるリリース弁の開閉判定用マップの一例である。
図3】エンジンの後方傾斜角が所定角度であるときに、左右方向に傾けた際の油路の最上部の上下位置を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を具体化したエンジンオイル供給装置の一実施形態を説明する。
【0027】
本実施形態のエンジンオイル供給装置1は、車両に搭載されたエンジン2に備えられている。
【0028】
エンジンオイル供給装置1は、エンジン2の摺動部3及び冷却対象4を供給対象として、エンジンオイルを供給する装置である。
【0029】
摺動部3は、例えばエンジン2のクランクシャフト、コネクティングロッド、ピストン、シリンダヘッド、カムシャフト、カムシャフトシャーナルである。エンジンオイル供給装置1は、これらの摺動部3にエンジンオイルを供給することで、摺動部3における摩擦抵抗を低減させる。
【0030】
冷却対象4は、例えばエンジン2のピストン裏部である。エンジンオイル供給装置1は、この冷却対象4にエンジンオイルを例えば噴射供給することで、冷却対象4を冷却してエンジン2の過度な温度上昇を抑制する。
【0031】
また、エンジンオイル供給装置1は、摺動部3や冷却対象4以外、例えばエンジン2のチェーンアジャスタ5(チェーンテンショナ)のアクチュエータ6にエンジンオイルを供給して、エンジン2のタイミングチェーンに張力を付与する。
【0032】
エンジンオイル供給装置1は、オイルパン11、オイルポンプ12、リリース弁13(開閉弁)、前後方向傾斜角センサ14(傾斜検出器)、左右方向傾斜角センサ15(傾斜検出器)、リリース弁コントロールユニット20(制御部)を有している。
【0033】
オイルパン11は、エンジン2の下部に備えられ、エンジンオイルを貯留する。
【0034】
オイルポンプ12は、オイルパン11に貯留しているエンジンオイルを吸入路21を介して吸入し、摺動部3、冷却対象4及びアクチュエータ6等の供給対象に吐出路22を介して供給する。オイルポンプ12は、エンジン2のシリンダブロックに設置されており、例えばタイミングチェーンを介してエンジン2のクランクシャフト23の駆動に伴って駆動する。即ち、オイルポンプ12の吐出量(エンジンオイルの供給量)は、エンジン2の回転速度に応じて変化する。エンジン2が停止している状態では供給量は0であり、エンジン回転速度が上昇するに伴って供給量が増加する。
【0035】
オイルポンプ12の吸入口に接続された吸入路21の先端には、オイルパン11内のエンジンオイルに漬積するように配置されたろ過器であるストレーナ24が設けられている。
【0036】
リリース弁13は、電磁リリーフ弁であり、オイルポンプ12の吐出路22からオイルパン11に開放するリリース路25(接続路)に備えられ、即ちオイルポンプ12の吸入路21側と吐出路22とを接続するリリース路25に備えられ、リリース路25を開閉する。リリース弁13は、スプリングによって通常は閉弁状態になっている常閉弁であり、オイルポンプ12の吐出圧が所定圧(最大必要圧)を超えた場合に開弁することで、吐出圧を所定圧以下に抑える機能を有する。更に、リリース弁13は、電磁ソレノイドを備えており、リリース弁コントロールユニット20からの制御信号によってリリース路25を開閉する機能を有する。
【0037】
前後方向傾斜角センサ14は、車両の前後方向の傾斜角、即ちエンジン2の前後方向の傾斜角を検出する。
【0038】
左右方向傾斜角センサは、車両の車幅方向の傾斜角、即ちエンジン2の左右方向の傾斜角を検出する。
【0039】
リリース弁コントロールユニット20は、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)及び中央演算処理装置(CPU)等を含んで構成されている。
【0040】
リリース弁コントロールユニット20は、エンジン2の作動を制御するエンジンコントロールユニット30からエンジン2の回転速度(エンジン回転速度R)及び負荷(エンジントルクT)を入力するとともに、前後方向傾斜角センサ14から車両の前後方向の傾斜角を、左右方向傾斜角センサ15から車両の車幅方向の傾斜角を入力して、リリース弁13の開閉制御を行う。なお、エンジンコントロールユニット30は、本発明における回転速度検出部及び負荷検出部に該当する。
【0041】
図2は、エンジンオイル供給装置1におけるリリース弁13の開閉判定用マップの一例である。
【0042】
リリース弁コントロールユニット20は、図2に示すようなリリース弁13の開閉判定用マップを記憶しており、エンジンコントロールユニット30から入力した現状のエンジン回転速度R及びエンジントルクTに基づいて当該マップを用いて、リリース弁13の開閉を制御する。
【0043】
図2に示すように、リリース弁コントロールユニット20は、エンジン回転速度Rが低回転閾値r1より低い低回転領域では、エンジントルクTに拘わらずリリース弁13を閉弁させる。なお、低回転閾値r1は、エンジン回転速度Rの低下に伴い12オイルポンプの吐出量不足となる可能性のあるエンジン回転速度Rの上限値付近に適宜設定すればよく、例えば1200rpm程度に設定すればよい。
【0044】
エンジン回転速度Rが高回転閾値r2より高い高回転領域では、エンジントルクTに拘わらずリリース弁13を閉弁させる。なお、高回転閾値r2は、エンジン回転速度Rの増加に伴う必要供給量の増加に対してオイルポンプ12の吐出量不足となる可能性のあるエンジン回転速度Rの下限値付近に適宜設定すればよく、例えば3000rpm程度に設定すればよい。
【0045】
また、エンジン回転速度Rが低回転閾値r1と高回転閾値r2との間の中回転領域では、エンジントルクTに応じてリリース弁13の開閉を切り替える。詳しくは、中回転領域では、エンジン回転速度Rに応じて負荷閾値Taが設定され、エンジントルクTが負荷閾値Ta以上の場合には、リリース弁13を閉弁させる。一方、エンジントルクTが負荷閾値Ta未満の場合には、リリース弁13を開弁させる(図2中の右上がり斜線によるハッチング部)。なお、エンジン回転速度Rが低回転閾値r1と高回転閾値r2との間の中回転領域は、本発明の所定範囲の回転速度に該当し、負荷閾値Taは、本発明の所定の閾値に該当する。
【0046】
図2の一点鎖線に示すように、中回転領域において、エンジン回転速度Rが増加するに伴って負荷閾値Taが減少するように設定されている。
【0047】
なお、負荷閾値Taは、中回転領域の全領域に亘ってエンジン回転速度Rの変化に伴って上記のようにエンジン回転速度Rが増加するに伴って減少するように変化させてもよいし、中回転領域の一部の領域でエンジン回転速度Rの変化に伴って上記のように変化させるように設定してもよい。中回転領域の一部の領域で負荷閾値Taを上記のように変化させる場合には、中回転領域の他の領域で負荷閾値Taを例えば一定にすればよい。
【0048】
このように、本実施形態では、エンジン回転速度Rが中回転領域において、エンジントルクTが負荷閾値Ta未満の場合には、リリース弁13を開弁させるので、オイルポンプ12の吐出圧を低下させてオイルポンプ12の駆動負荷を抑制することができる。これにより、オイルポンプ12を駆動するエンジン2の燃費を向上させることができる。
【0049】
エンジン回転速度Rが中回転領域においては、エンジン2の摺動部3における摺動抵抗が比較的低い状態であり、更にエンジントルクTが負荷閾値Ta未満である場合には、エンジン2内の温度が比較的抑えられるので、リリース弁13を開弁状態にしてエンジンオイルの供給圧、供給量が低下しても、摺動部3における潤滑性能及び冷却対象4における冷却性能が確保される。
【0050】
一方、エンジン回転速度Rが中回転領域であり、かつエンジントルクTが負荷閾値Ta以上である場合には、エンジン温度が大きく上昇する可能性があるので、リリース弁13を閉弁させて、オイルポンプ12の吐出圧の低下を抑制しエンジン2のピストン等の高温部(冷却対象4)へのエンジンオイルの供給を確保して冷却性能を確保することができる。
【0051】
特に、本実施形態では、中回転領域において、エンジン回転速度Rが増加するに伴って負荷閾値Taを低下させるように設定する。エンジン回転速度Rが増加することで潤滑性能及び冷却性能を上昇させる必要があるので、負荷閾値Taを低下させることによってオイルポンプ12の供給性能を確保することができる。言い換えると、中回転領域においてエンジン回転速度が低下することで負荷閾値Taを上昇させるように設定することで、エンジンオイルの供給による潤滑性能及び冷却性能を確保しつつ、リリース弁13を開弁させてオイルポンプ12の駆動負荷を低減させる領域を増加させ、エンジン2の燃費の向上を図ることができる。
【0052】
また、エンジン回転速度Rが低回転閾値r1より低い低回転領域である場合には、オイルポンプ12からの吐出量が低下するが、エンジントルクTに拘わらずリリース弁13を閉弁させることで、オイルポンプ12の吐出圧の低下を抑制し、摺動部3に必要量のエンジンオイルを供給して潤滑性能を確保することができる。
【0053】
また、エンジン回転速度Rが高回転領域である場合には、オイルポンプ12からの吐出量は増加するものの、回転速度の増加に伴い摺動部3における潤滑性能及び冷却対象4における冷却性能を確保するために、多量のエンジンオイルを必要とする。そこで、リリース弁13を閉弁させて、オイルポンプ12の吐出圧の低下を抑制し、潤滑性能及び冷却性能を確保することができる。
【0054】
更に、リリース弁コントロールユニット20は、エンジンコントロールユニット30においてエンジン2の微小Q学習を行っている場合には、エンジン回転速度R及びエンジントルクTに拘わらず、リリース弁13を閉弁状態に維持する。なお、微小Q学習は、エンジンコントロールユニット30において実施され、図2における右下がり斜線によるハッチング部bの領域で示すように、エンジン回転速度R及びエンジントルクTが小さい領域で実施される。微小Q学習は、例えば特開2010-112258号公報の背景技術に記載されているように公知であり、エンジンの燃料噴射量が微小であるときにその精度を向上させるために、規定の微小の燃料噴射量指令値に対する実燃料噴射量の差を学習する制御である。なお、微小Q学習を行うエンジンコントロールユニット30は、本発明の燃料噴射学習制御部に該当する。
【0055】
このように、エンジンコントロールユニット30においてエンジン2の微小Q学習の実施中において、エンジン回転速度R及びエンジントルクTに拘わらず、リリース弁13を閉弁状態に維持するので、微小Q学習中でのリリース弁13の開閉に伴うエンジントルクの変化を抑制して、微小Q学習の精度を高めることができる。
【0056】
更に、リリース弁コントロールユニット20は、前後方向傾斜角センサ14による車両の前後方向傾斜角(即ちエンジン2の前後方向傾斜角)、左右方向傾斜角センサ15による車両の車幅方向傾斜角(即ちエンジン2の左右方向傾斜角)に基づいて、リリース弁13の開閉制御を行う。詳しくは、リリース弁コントロールユニット20は、車両の前後方向傾斜角が所定の範囲であって、かつ車両の車幅方向傾斜角が所定の範囲であるような、エンジン2が所定の傾斜範囲である場合には、エンジン回転速度R及びエンジントルクTに拘わらず、リリース弁13を閉弁状態に維持する。なお、所定の傾斜範囲は、チェーンアジャスタ5のアクチュエータ6への油路22a(供給路)の構造に応じて決められる値である。
【0057】
本実施形態のエンジン2では、チェーンアジャスタ5はエンジン2の車両前側の側面に配置されている。チェーンアジャスタ5のアクチュエータ6は、オイルポンプ12から供給されるエンジンオイルによって作動する。エンジン2が作動してオイルポンプ12が作動することで、吐出路22及び油路22aを介してアクチュエータ6にエンジンオイルが供給され、チェーンアジャスタ5の図示しないテンショナによってエンジン2のタイミングチェーンを押して、タイミングチェーンに張力を付与する。
【0058】
なお、チェーンアジャスタ5のアクチュエータ6の取り付け面は、エンジンオイルがわずかに漏れる構造になっており、取り付け面から漏れたエンジンオイルは、タイミングチェーンの収納部を介してオイルパン11に戻る構成になっている。このように、チェーンアジャスタ5のアクチュエータ6に供給されたエンジンオイルがわずかに循環可能な構造になっているので、例えばオイルパン11からエンジンオイルとともにエアを吸入してアクチュエータ6への油路22a(供給路)にエアが混入しても、アクチュエータ6の取り付け面からエンジンオイルとともに漏れて、油路22aから排出される構造になっている。
【0059】
しかしながら、エンジン2の傾斜角によっては、アクチュエータ6のエンジンオイルの入口22b付近が油路22aの最上部位置となり、アクチュエータ6の取り付け面より高くなる場合がある。このように油路22aの一部がエアの出口より高くなったときに、更にエンジン2の回転速度の低下に伴いエンジンオイルの油圧が低下すると、このアクチュエータ6の入口22b付近の油路22aからエアが排出されずに溜まってしまう可能性がある。このようにアクチュエータ6の入口22b付近の油路22aからエアが排出されない場合には、チェーンアジャスタ5が十分に張力を付与することができず、タイミングチェーンにばたつきが発生する虞がある。
【0060】
本実施形態では、上記のようにエンジン2の傾斜角が所定の傾斜範囲では、エンジン回転速度R及びエンジントルクTに拘わらず、リリース弁13を閉弁状態に維持することで、オイルポンプ12の吐出圧の低下を抑制することができる。これにより、エンジン2の傾斜によってアクチュエータ6への油路22aの一部にエアが溜まることを抑制することができる。
【0061】
所定の傾斜範囲については、中回転領域においてリリース弁13が開作動した際に、油路22aのいずれかの位置にエアが溜まってタイミングチェーンのばたつきが発生するような傾斜範囲を実験等によってあらかじめ確認して設定すればよい。
【0062】
図3は、エンジン2の後方傾斜角θrearが所定角度θrear1であるときに、更に左右方向(車幅方向)に傾けた際の油路22aの最上部の上下位置を示すグラフである。所定角度θrear1は、左右方向にエンジン2を傾けていない状態(θright=0)で油路22aの一部にエアが溜まる後方傾斜角θrearの最低値である。
【0063】
本実施形態のエンジン2は、車両前側の側面にチェーンアジャスタ5及びアクチュエータ6が配置されているので、エンジン2が後傾することでアクチュエータ6の位置が上昇する。そして、実験により、エンジン2の後方傾斜角θrearが所定角度θrear1以上において、更にエンジン2の左右方向傾斜角、詳しくは右方向傾斜角θrightが0度から所定角度θright1までの範囲で、油路22aの最上部の上下位置が所定高さH1以上となり、タイミングチェーンのばたつきが発生することが確認された。なお、図3において、右方向傾斜角θrightが0度と所定角度θright1との間の斜線部がタイミングチェーンのばたつきが発生する範囲である。したがって、エンジン2の後方傾斜角θrearが所定角度θrear1以上であって、かつエンジン2の右方向傾斜角θrightが0からθright1までの間の範囲を所定の傾斜範囲としてリリース弁13を閉弁制御すればよい。
【0064】
あるいは、リリース弁コントロールユニット20は、エンジン2の前後方向傾斜角毎に、タイミングチェーンのばたつきが発生するエンジン2の左右方向傾斜角を、言い換えると油路22aの最上部の位置が所定高さH1以上となるエンジン2の左右方向傾斜角を夫々記憶しておき、エンジン2の前後方向傾斜角と左右方向傾斜角とに基づいて、リリース弁13を開閉制御すればよい。
【0065】
このように車両の傾斜角、即ちエンジン2の傾斜角に基づいて、リリース弁13の開閉制御を行うことで、リリース弁13を開作動することによるオイルポンプ12の吐出圧低下に伴って発生する油路22aでのエア溜りを防止して、チェーンアジャスタ5の作動不良を回避することができる。
【0066】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様は以上の実施形態に限定されるものではない。例えば、リリース弁13について、少なくとも、エンジン回転速度RとエンジントルクTに基づいて開閉判定するとともに、所定の中回転領域でエンジン回転速度が増加するに伴って負荷閾値Taを低下させるように設定すればよく、その他の設定については適宜変更してもよい。
【0067】
また、微小Q学習時におけるリリース弁13の閉状態維持、車両の(エンジン2の)傾斜角に伴うリリース弁13の閉状態維持については、エンジン2の構成、仕様に伴い必要に応じて実行し、実行する領域についても適宜設定すればよい。
【0068】
さらに、傾斜検出器として傾斜角センサを用いて説明したが、エンジン2の前後方向や左右方向の加速度を検出する加速度センサからエンジン2の傾き方向や傾き量を演算し、異音が発生する傾き方向や傾き量と比較してリリース弁13を開閉制御してもよい。
【0069】
また、リリース路25については、オイルポンプ12の吐出路22とオイルパン11とを接続しているが、オイルポンプ12の吐出路22と吸入路21とを接続したバイパス路であってもよい。
【0070】
また、本実施形態では、リリース弁コントロールユニット20を、エンジンコントローユニット30と別ユニットとしたが、エンジンコントロールユニット30にリリース弁コントロールユニット20が含まれてもよい。
【0071】
本発明は、エンジンオイルにより潤滑及び冷却を行う各種エンジンに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 エンジンオイル供給装置
2 エンジン
3 摺動部(供給対象)
4 冷却対象(供給対象)
5 チェーンアジャスタ(チェーンテンショナ)
6 アクチュエータ(供給対象)
12 オイルポンプ
13 リリース弁(開閉弁)
14 前後方向傾斜角センサ(傾斜検出器)
15 左右方向傾斜角センサ(傾斜検出器)
20 リリース弁コントロールユニット(制御部)
22a 油路(供給路)
25 リリース路(接続路)
30 エンジンコントロールユニット(回転速度検出部、負荷検出部、燃料噴射学習制御部)
図1
図2
図3