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特許7295514放射線検出粉末とその製造方法、及び放射線検出粉末を備える放射線検査紙とその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】放射線検出粉末とその製造方法、及び放射線検出粉末を備える放射線検査紙とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G21K 4/00 20060101AFI20230614BHJP
   G01T 1/203 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
G21K4/00 B
G01T1/203
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019109036
(22)【出願日】2019-06-11
(65)【公開番号】P2020201163
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000116404
【氏名又は名称】阿波製紙株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104949
【弁理士】
【氏名又は名称】豊栖 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100074354
【弁理士】
【氏名又は名称】豊栖 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100214145
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 尚恵
(72)【発明者】
【氏名】湯本 明
(72)【発明者】
【氏名】三好 弘一
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-204579(JP,A)
【文献】特開2019-023579(JP,A)
【文献】特開2016-011913(JP,A)
【文献】特開2005-170708(JP,A)
【文献】特開2005-071682(JP,A)
【文献】特開2012-222005(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0118916(US,A1)
【文献】H. Miyoshi et al.,PREPARATION OF PAPER SCINTILLATOR FOR DETECTING 3H CONTAMINANT,Radiation Protection Dosimetry,2013年04月,156(3),p.277-282
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 4/00
G01T 1/20
C09K 11/00 - 11/89
A61B 6/00 - 6/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出粉末の製造方法であって、
有機溶媒であるエタノール有機シンチレータ分子としてDPOとPOPOP包接化合物としてβシクロデキストリン硫酸化Na塩とを加えて加熱し、前記包接化合物で包接された前記有機シンチレータ分子または前記有機シンチレータ分子を前記有機溶媒に溶解させる第1混合工程と、
前記第1混合工程で得られた第1混合液にケイ酸源としてTEOSカップリング剤としてp-スチリルトリメトキシシランとを加えて加熱攪拌し、ゾル-ゲル法により前記有機シンチレータ分子が内部または表面に固定され、前記カップリング剤による芳香環が内部または表面に固定されたシリカナノ粒子を形成して、前記有機シンチレータ分子と前記シリカナノ粒子の複合体を形成する第2混合工程と、
前記第2混合工程で得られた第2混合液を加熱乾固して放射線検出粉末を得る加熱乾固工程と、
を含む放射線検出粉末の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載される放射線検出粉末の製造方法であって
前記複合体が、二種類以上の有機シンチレータ分子を含む放射線検出粉末の製造方法
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法で製造された放射線検出粉末を備える放射線検査紙の製造方法であって、
シート状に抄紙された紙製のシート状基材と、
前記シート状基材の表面に塗布された、前記放射線検出粉末を含有するコーティング層と、
を備え、
前記放射線検出粉末が、
包接化合物で包接された有機シンチレータ分子または有機シンチレータ分子並びにカップリング剤による芳香環が、ゾル-ゲル法によりシリカナノ粒子内部または表面に固定してなる、前記有機シンチレータ分子と前記シリカナノ粒子の複合体、または、
有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を粒子又は繊維の表面上に固定化したものであることを特徴とする放射線検査紙の製造方法
【請求項4】
請求項1又は2に記載の製造方法で製造された放射線検出粉末を備える放射線検査紙の製造方法であって、
シート状に抄紙された紙製のシート状基材を準備する準備工程と、
前記放射線検出粉末を溶媒に分散させた分散液をコーティング液として、前記シート状基材の表面に塗布するコーティング工程と、
前記シート状基材に塗布された前記コーティング液から、前記溶媒の全部又は一部を除去してコーティング層を形成する乾燥工程と、
を含む放射線検査紙の製造方法。
【請求項5】
請求項に記載される放射線検査紙の製造方法であって、
前記放射線検出粉末が、包接化合物で包接された有機シンチレータ分子または有機シンチレータ分子並びにカップリング剤による芳香環が、ゾル-ゲル法によりシリカナノ粒子内部または表面に固定してなる、前記有機シンチレータ分子と前記シリカナノ粒子の複合体で、
前記コーティング液が、前記放射線検出粉末を有機溶媒に分散させたものである放射線検査紙の製造方法。
【請求項6】
放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出粉末を備える放射線検査紙の製造方法であって、
接化合物で包接された有機シンチレータ分子または有機シンチレータ分子並びにカップリング剤による芳香環が、ゾル-ゲル法によりシリカナノ粒子内部または表面に固定してなる、前記有機シンチレータ分子と前記シリカナノ粒子の複合体である前記放射線検出粉末とセルロースナノファイバーの凝集体を集合してシート状に抄紙する工程を含む放射線検査紙の製造方法
【請求項7】
放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出粉末を備える放射線検査紙の製造方法であって、
機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を粒子又は繊維の表面上に固定化した記放射線検出粉末と、バインダー繊維を含む繊維とを湿式抄紙してシート状に形成する工程を含む放射線検査紙の製造方法。
【請求項8】
放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出粉末を備える放射線検査紙の製造方法であって、
シート状に抄紙された紙製のシート状基材を準備する準備工程と、
前記放射線検出粉末を溶媒に分散させた分散液をコーティング液として、前記シート状基材の表面に塗布するコーティング工程と、
前記シート状基材に塗布された前記コーティング液から、前記溶媒の全部又は一部を除去してコーティング層を形成する乾燥工程と、
を含み、
前記放射線検出粉末が、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を粒子又は繊維の表面上に固定化したもので、
前記コーティング液が、セルロースナノファイバーを含む分散液に前記放射線検出粉末を分散させたものである放射線検査紙の製造方法。
【請求項9】
放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出粉末を備える放射線検査紙の製造方法であって、
包接化合物で包接された有機シンチレータ分子または有機シンチレータ分子並びにカップリング剤による芳香環が、ゾル-ゲル法によりシリカナノ粒子内部または表面に固定してなる、前記有機シンチレータ分子と前記シリカナノ粒子の複合体である前記放射線検出粉末を準備する準備工程と、
前記放射線検出粉末を有機溶媒に分散させて第1分散液とする第1分散工程と、
セルロースナノファイバーを水に分散させて第2分散液とする第2分散工程と、
前記第1分散液と前記第2分散液を混合して、前記放射線検出粉末と前記セルロースナノファイバーとを凝集させる凝集工程と、
前記放射線検出粉末と前記セルロースナノファイバーが凝集された凝集体を含む混合液を濾過してシート状に抄紙する抄紙工程と、
を含む放射線検査紙の製造方法。
【請求項10】
放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出粉末を備える放射線検査紙の製造方法であって、
有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を粒子又は繊維の表面上に固定化してなる前記放射線検出粉末を準備する準備工程と、
前記放射線検出粉末とバインダー繊維を含む繊維を分散液に懸濁して抄紙用スラリーとし、この抄紙用スラリーを湿式抄紙してシート状の放射線検査紙とする抄紙工程と、
を含む放射線検査紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出粉末とその製造方法、及び放射線検出粉末を備える放射線検査紙とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、放射線検出材として、放射線量の二次元画像化を可能とするイメージングプレート(IP)が注目を浴びている。しかしながら、現状では、IPは非常に高価な上、フェーディングや蛍光量の減衰等に起因する定量性の問題がある。また、IPは、検出にレーザービームを要するため、放射能汚染現場での測定ができないという問題もある。さらに、IPは一旦放射性物質に汚染されると放射性廃棄物となってしまう。これは、IPを汚染防止フィルムで覆うことにより回避可能ではあるが、放射される放射線(β線)が低エネルギーであるトリチウム等の試料を検出する場合は、当該フィルムで覆うと検出が困難となる。このため、トリチウム等の試料を検出する場合には、高価なIPを使い捨てにしなければならなかった。
【0003】
一方で、IP以外の放射線検出材として、有機シンチレータを有機溶媒に溶解させた液体シンチレータを使用する方法が提案されている。この液体シンチレータは、低レベルの放射線であっても測定できる特徴がある。ただ、この液体シンチレータは、非水溶性のため、水の測定には使用できない欠点があると共に、使用後の放射性有機廃液の保管や、その処理における問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-214882
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものである。本発明の目的の一は、放射線の検出感度を高くしながら、放射線の検出を簡便にでき、しかも安価に多量生産できる放射線検出粉末とその製造方法、及び放射線検出粉末を備える放射線検査紙とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0006】
本発明の第1の形態に係る放射線検出粉末の製造方法は、放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出粉末の製造方法であって、有機溶媒であるエタノールに、有機シンチレータ分子としてDPOとPOPOPと、包接化合物としてβシクロデキストリン硫酸化Na塩とを加えて加熱し、前記包接化合物で包接された前記有機シンチレータ分子または前記有機シンチレータ分子を前記有機溶媒に溶解させる第1混合工程と、前記第1混合工程で得られた第1混合液にケイ酸源としてTEOSと、カップリング剤としてp-スチリルトリメトキシシランとを加えて加熱攪拌し、ゾル-ゲル法により前記有機シンチレータ分子が内部または表面に固定され、前記カップリング剤による芳香環が内部または表面に固定されたシリカナノ粒子を形成して、前記有機シンチレータ分子と前記シリカナノ粒子の複合体を形成する第2混合工程と、前記第2混合工程で得られた第2混合液を加熱乾固して放射線検出粉末を得る加熱乾固工程とを含む。
【0007】
本発明の第2の形態に係る放射線検出粉末の製造方法は、複合体が、二種類以上の有機シンチレータ分子を含んでいる。
【0008】
また、本発明のの形態に係る放射線検出粉末は、包接化合物を環状オリゴ糖とし、カップリング剤をシランカップリング剤としている。
【0009】
本発明のの形態に係る放射線検出粉末の製造方法は、放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出粉末の製造方法であって、有機溶媒に有機シンチレータ分子と包接化合物とを加えて加熱し、包接化合物で包接された有機シンチレータ分子または有機シンチレータ分子を有機溶媒に溶解させる第1混合工程と、第1混合工程で得られた第1混合液にケイ酸源とカップリング剤とを加えて加熱攪拌し、ゾル-ゲル法により有機シンチレータ分子が内部または表面に固定され、カップリング剤により内部または表面に芳香環が固定されたシリカナノ粒子を形成して、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体を形成する第2混合工程と、第2混合工程で得られた第2混合液を加熱乾固して放射線検出粉末を得る加熱乾固工程とを含んでいる。
【0010】
本発明のの形態に係る放射線検出粉末の製造方法は、包接化合物を環状オリゴ糖とし、カップリング剤をシランカップリング剤とし、さらに、ケイ酸源をオルトケイ酸テトラエチル、オルトケイ酸テトラメチル、オルトケイ酸テトラプロピルのいずれかとしている。
【0011】
本発明の第の形態に係る放射線検査紙の製造方法は、上記いずれかの放射線検出粉末を備える放射線検査紙の製造方法であって、シート状に抄紙された紙製のシート状基材と、シート状基材の表面に塗布された、放射線検出粉末を含有するコーティング層とを備えている。放射線検出粉末は、包接化合物で包接されたシンチレータ分子または有機シンチレータ分子並びにカップリング剤による芳香環が、ゾル-ゲル法によりシリカナノ粒子内部または表面に固定してなる、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体、または、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を粒子又は繊維の表面上に固定化したものとしている。
【0012】
本発明の第4の形態に係る放射線検査紙の製造方法は、上記いずれかの放射線検出粉末を備える放射線検査紙の製造方法であって、シート状に抄紙された紙製のシート状基材を準備する準備工程と、放射線検出粉末を溶媒に分散させた分散液をコーティング液として、シート状基材の表面に塗布するコーティング工程と、シート状基材に塗布されたコーティング液から、溶媒の全部又は一部を除去してコーティング層を形成する乾燥工程とを含んでいる。
本発明の第5の形態に係る放射線検査紙の製造方法は、上記放射線検査紙の製造方法であって、放射線検出粉末を、包接化合物で包接された有機シンチレータ分子または有機シンチレータ分子並びにカップリング剤による芳香環が、ゾル-ゲル法によりシリカナノ粒子内部または表面に固定してなる、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体とし、この放射線検出粉末を有機溶媒に分散させてコーティング液としている。
本発明の第の形態に係る放射線検査紙の製造方法は、放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出粉末を備える放射線検査紙の製造方法であって、接化合物で包接された有機シンチレータ分子または有機シンチレータ分子並びにカップリング剤による芳香環が、ゾル-ゲル法によりシリカナノ粒子内部または表面に固定してなる、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体である放射線検出粉末とセルロースナノファイバーの凝集体を集合してシート状に抄紙する工程を含む
【0013】
本発明の第の形態に係る放射線検査紙の製造方法は、放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出粉末を備える放射線検査紙の製造方法であって、機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を粒子又は繊維の表面上に固定化した前記放射線検出粉末と、バインダー繊維を含む繊維とを湿式抄紙してシート状に形成する工程を含む
【0016】
本発明の第の形態に係る放射線検査紙の製造方法は、放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出粉末を備える放射線検査紙の製造方法であって、シート状に抄紙された紙製のシート状基材を準備する準備工程と、前記放射線検出粉末を溶媒に分散させた分散液をコーティング液として、前記シート状基材の表面に塗布するコーティング工程と、前記シート状基材に塗布された前記コーティング液から、前記溶媒の全部又は一部を除去してコーティング層を形成する乾燥工程と、を含み、放射線検出粉末を、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を粒子又は繊維の表面上に固定化したものとし、この放射線検出粉末をセルロースナノファイバーを含む分散液に分散させてコーティング液としている。
【0017】
本発明の第の形態に係る放射線検査紙の製造方法は、放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出粉末を備える放射線検査紙の製造方法であって、包接化合物で包接された有機シンチレータ分子または有機シンチレータ分子並びにカップリング剤による芳香環が、ゾル-ゲル法によりシリカナノ粒子内部または表面に固定してなる、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体である放射線検出粉末を準備する準備工程と、放射線検出粉末を有機溶媒に分散させて第1分散液とする第1分散工程と、セルロースナノファイバーを水に分散させて第2分散液とする第2分散工程と、第1分散液と第2分散液を混合して、放射線検出粉末とセルロースナノファイバーとを凝集させる凝集工程と、放射線検出粉末とセルロースナノファイバーが凝集された凝集体を含む混合液を濾過してシート状に抄紙する抄紙工程とを含んでいる。
【0018】
本発明の第10の形態に係る放射線検査紙の製造方法は、放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出粉末を備える放射線検査紙の製造方法であって、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を粒子又は繊維の表面上に固定化してなる放射線検出粉末を準備する準備工程と、放射線検出粉末とバインダー繊維を含む繊維を分散液に懸濁して抄紙用スラリーとし、この抄紙用スラリーを湿式抄紙してシート状の放射線検査紙とする抄紙工程とを含んでいる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の放射線検出粉末とその製造方法によると、放射線検出粉末全体に対する有機シンチレータ分子の割合を高くして、単位量あたりの放射線の検出感度を高くできる特徴が実現できる。また、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子の形成に要する時間を大幅に短縮でき、これにより、安価に多量生産が可能になった。
【0020】
本発明の放射線検査紙とその製造方法によると、放射線検出材を紙製とすることで、安価に多量生産しながら、検査作業を簡便にできる特徴がある。また、液体シンチレータのように、放射性廃液の処理や保管に伴う煩雑な問題を解消できると共に、水の測定も可能になるという優れた特長を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る放射線検査紙を示す模式断面図である。
図2】本発明の他の実施形態に係る放射線検査紙を示す模式断面図及び要部拡大断面図である。
図3】本発明の他の実施形態に係る放射線検査紙の模式断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る放射線検査紙の製造工程を示す斜視図である。
図5】本発明の他の実施形態に係る放射線検査紙の製造工程を示す概略工程図である。
図6】本発明の他の実施形態に係る放射線検査紙の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施の形態は、本発明の技術思想を具体化するための放射線検出粉末とその製造方法、及び放射線検出粉末を備える放射線検査紙とその製造方法を例示するものであって、本発明は放射線検出粉末とその製造方法、及び放射線検出粉末を備える放射線検査紙とその製造方法を以下のもの及び方法に特定しない。また、本明細書は特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特定的な記載がない限りは、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。なお、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。
【0023】
[実施形態1]
(放射線検出粉末)
本発明の一実施形態に係る放射線検出粉末は、放射線で励起されて発光するシンチレータを含有する放射線検出粉末であって、シンチレータが、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体で、この複合体は、包接化合物で包接された有機シンチレータ分子または有機シンチレータ分子並びにカップリング剤による芳香環が、ゾル-ゲル法によりシリカナノ粒子内部または表面に固定されている。
【0024】
この放射線検出粉末は、有機溶媒に有機シンチレータ分子と包接化合物とを加えて加熱し、包接化合物で包接された有機シンチレータ分子または有機シンチレータ分子を有機溶媒に溶解させる第1混合工程と、第1混合工程で得られた第1混合液にケイ酸源とカップリング剤とを加えて加熱攪拌し、ゾル-ゲル法により有機シンチレータ分子が内部または表面に固定され、カップリング剤により内部または表面に芳香環が固定されたシリカナノ粒子を形成して、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体を形成する第2混合工程と、第2混合工程で得られた第2混合液を加熱乾固して放射線検出粉末を得る加熱乾固工程とで製造される。
【0025】
放射線検出粉末を構成する有機シンチレータ分子は、放射線で励起されて発光する蛍光特性を有するシンチレータ粒子であって、例えば以下のものが挙げられる。
【0026】
ベンゾオキサゾール誘導体:1,1’-ビフェニル、4-イル-6-フェニル-ベンゾオキサゾールTLA、2-フェニルベンゾオキサゾール、2-(4’-メチルフェニル)-ベンゾオキサゾール、2-(4’-メチルフェニル)-5-メチルベンゾオキサゾール、2-(4’-メチルフェニル)-5-t-ブチルベンゾオキサゾール、2-(4’-t-ブチルフェニル)-ベンゾオキサゾール、2-フェニル-5-t-ブチル-ベンゾオキサゾール、2-(4’-t-ブチルフェニル)-5-t-butylベンゾオキサゾール、2-(4’-ビフェニリル)-ベンゾオキサゾール、2-(4’-ビフェニリル)-5-t-butylベンゾオキサゾール、2-(4’-ビフェニリル)-6-フェニル-ベンゾオキサゾール(PBBO)等
オキサゾール誘導体:2-p-ビフェニリル-5-フェニルオキサゾール(BPO)、2,2’-p-フェニレンビス(5-フェニルオキサゾール)(POPOB)、2,5-ジフェニルオキサゾール(DPO)、1,4-ビス[2-(5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(POPOP)、1,4-ビス-2-(4-メチル-5-フェニルオキサゾリル)ベンゼン(DMPOPOP)等
オキサジアゾール誘導体:2,5-ジフェニルオキサジアゾール(PPD)、2,5-ジフェニル-1,3,4-オキサジアゾール、2-(4’-t-ブチルフェニル)-5-フェニル-1,3,4-オキサジアゾール、2,5-ジ-(4’-t-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール、2-フェニル-5-(4’’-ビフェニリル)-1,3,4-オキサジアゾール(PBD)、2-(4’-t-ブチルフェニル)-5-(4’’-ビフェニリル)-1,3,4-オキサジアゾール(ブチル-PBD)等
テルフェニル誘導体:4,4’’-ジ-tert-アミル-p-テルフェニル(DAT)等
多核芳香族化合物:4,4’-ビス(2,5-ジメチルスチリル)ジフェニル(BDB)、p-テルフェニルシンチレータ等
ピラゾリン誘導体:1-フェニル-3-メシチル-2-ピラゾリン(PMP)、1,5-ジフェニル-3-(4-フェニル-1,3-ブタジエニル)-2-ピラゾリン(DBP)、1,5-ジフェニル-β-スチリルピラゾリン(DSP)等
ホスホルアミド誘導体:アニリノビス(1-アジリジニル)ホスフィンオキシド(PDP)等
チオフェン誘導体:2,5-ビス-ベンゾオキサゾリル(2’)-チオフェン、2,5-ビス-[5’-メチルベンゾオキサゾリル(2’)]-チオフェン、2,5-ビス-[4’,5’-ジメチルベンゾオキサゾリル(2’)]-チオフェン、2,5-ビス-[4’,5’-ジメチルベンゾオキサゾリル(2’)]-3,4-ジメチルチオフェン、2,5-ビス-[5’-イソプロピルベンゾオキサゾリル(2’)]-3,4-ジメチルチオフェン、2-ベンゾオキサゾリル(2’)-5-[7’-sec-ブチル-ベンゾオキサゾリル(2’)]-チオフェン、2-ベンゾオキサゾリル(2’)-5-[5’-t-ブチル-ベンゾオキサゾリル(2’)]-チオフェン、2,5-ビス-[5’-t-ブチルベンゾオキサゾリル(2’)]-チオフェン(BBOT)等。
【0027】
放射線検出粉末に使用される有機シンチレータ分子は、1種単独であってもよいが、好ましくは、2種以上の組み合わせとする。有機シンチレータ分子は、放射線を検出できる限りにおいて、適宜組み合わせて用いることができる。このような組み合わせとしては、例えば、液体シンチレータに用いられる第1溶質と第2溶質との組み合わせを採用することができる。第1溶質としては、例えばp-テルフェニル、2,5-ジフェニルオキサゾール(DPO)、2-(4’-t-ブチルフェニル)-5-(4’’-ビフェニリル)-1,3,4-オキサジアゾール(ブチル-PBD)等が挙げられる。第2溶質としては、例えば1,4-ビス[2-(5-フェニルオキサゾリル)]ベンゼン(POPOP)、1,4-ビス-2-(4-メチル-5-フェニルオキサゾリル)ベンゼン(DMPOPOP)等が挙げられる。好ましい組み合わせとしては、DPOとPOPOPとの組み合わせが採用できる。
【0028】
有機シンチレータ分子の複合体としては、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子との複合体であれば特に限定されず、好ましくは、複数種の有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子との複合体とする。シリカナノ粒子は、その粒子表面上に有機シンチレータ分子が付着し、あるいは粒子内部に有機シンチレータ分子が包含される状態で結合されて複合体を形成している。有機シンチレータ分子は、シリカナノ粒子内部に包含されていることが好ましい。
【0029】
シリカナノ粒子は、通常のシリカナノ粒子の製造方法で得られる粒子径とすることができる。シリカナノ粒子の平均粒子径は、例えば10~500nm、好ましくは30~400nm、より好ましくは70~300nm、さらに好ましくは100~200nm程度とすることができる。
【0030】
有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体は、公知の方法に従って得ることができる。例えば、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子は、有機シンチレータ分子の存在下でシリカナノ粒子を形成させることにより得ることができる。例えば、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子は、有機溶媒(低級アルコール)中に有機シンチレータ分子を溶解後、ここに水、ケイ酸源、及び触媒を加えてゾル-ゲル法により得ることができる。
【0031】
有機シンチレータ分子を溶解させる有機溶媒としては、例えばエタノール等が挙げられる。有機シンチレータ分子と有機溶媒との配合比(有機シンチレータ分子重量:有機溶媒重量)は、有機シンチレータ分子を有機溶媒に溶解することができる限り特に限定されない。これらの配合比は、例えば1:10~90、好ましくは1:30~70程度とすることができる。有機シンチレータ分子は、シクロデキストリンで包接させることにより、エタノール中に溶解させやすくできる。
【0032】
その他の使用できる有機溶媒としては、シリカナノ粒子の形成に用いることができる低級アルコールである限り特に限定されない。低級アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、2-プロパノール等挙げられ、好ましくはエタノールが挙げられる。本実施形態では、前述の有機シンチレータ分子を溶解させる有機溶媒としてエタノールを使用している。
【0033】
本実施形態では、有機シンチレータ分子を有機溶媒に溶解させる第1混合工程において、有機溶媒(低級アルコール)中に、包接化合物を添加している。包接化合物には、例えば、環状オリゴ糖の一種であるシクロデキストリン、具体的にはβシクロデキストリン硫酸化Na塩(β-Cyclodextrine,sulfated,sodium salt)が使用できる。βシクロデキストリン硫酸化Na塩の内側の空孔は、孔サイズが0.6~0.8nmであり、空孔内部は疎水性の分子を包接しやすいため、水に不溶なものを内部に包接しやすい特性がある。このように、包接化合物で有機シンチレータ分子を包接することで、有機シンチレータ分子を速やかに有機溶媒に溶解させることができる。また、硫酸化βシクロデキストリンは、-SOO-のように、後述するケイ酸源であるTEOSのSi(O-)と同じ構造を有しているため、シリカ形成時において、シリカナノ粒子の内部または表面に固定され易くなる。なお、第1混合工程において、包接化合物は、重量比で1wt%以上、好ましくは、1.6wt%以上となるように添加される。
【0034】
さらに、有機シンチレータ分子が表面または内部に固定されたシリカナノ粒子を形成するために、第1混合工程で得られた第1混合液に対して、第2混合工程において、シリカ源であるケイ酸源に加えてカップリング剤を加える。すなわち、第2混合工程では、第1混合液に、水、ケイ酸源、カップリング剤、及び触媒を加えて加熱攪拌し、ゾル-ゲル法により有機シンチレータ分子が内部または表面に固定され、カップリング剤により内部または表面に芳香環が固定されたシリカナノ粒子を形成し、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体を形成する。
【0035】
ケイ酸源は、シリカナノ粒子の形成に用いることができるケイ酸源である限り特に限定されない。ケイ酸源としては、例えばオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)、オルトケイ酸テトラプロピル(TPOS)等が挙げられ、好ましくはオルトケイ酸テトラエチルを使用する。ケイ酸源の配合量は、例えば低級アルコールの1/500~1/5程度とすることができる。
【0036】
カップリング剤は、例えば、シランカップリング剤を用いることができ、具体的にはp-スチリルトリメトキシシランを使用する。シランカップリング剤であるp-スチリルトリメトキシシランは、分子内に有機材料及び無機材料と結合する官能基を併せ持ち、有機材料と無機材料とを結合する特性がある。ただ、カップリング剤には、スチリル基、フェニル基等のベンゼン環構造などの芳香環をもつものであれば使用できる。なお、第2混合工程において、カップリング剤は、有機シンチレータ分子に対するモル比0.2倍以上、好ましくは2倍以上となるように加える。
【0037】
触媒は、シリカナノ粒子の形成に用いることができる触媒である限り特に限定されない。触媒としては、例えば塩基触媒、酸触媒等が挙げられ、好ましくは塩基触媒が挙げられる。塩基触媒としては、アンモニア等が挙げられ、酸触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸等が挙げられる。
【0038】
有機シンチレータ分子の複合体の総重量に占める有機シンチレータ分子の割合は、例えば5~80重量%、好ましくは15~70重量%、より好ましくは25~60重量%、さらに好ましくは30~55重量%であることができる。
【0039】
[実施例1]
以上の構造の放射線検出粉末は、以下の工程により製造される。
(1)第1混合工程
エタノール40mLに、有機シンチレータ分子として、DPO(2,5 Diphenyloxazole)約4.6gとPOPOP(1,4-Bis(5-phenyl-2-oxazolyl)benzene)約0.53gをそれぞれ加えた後、包接化合物としてβシクロデキストリン硫酸化Na塩を約0.4g加えて、ホットスターラー上で約80℃で30分間加熱し、有機シンチレータ分子をエタノールに溶解させる(第1混合液)。
(2)第2混合工程
有機シンチレータ分子が溶解したエタノール溶液に、ケイ酸源としてTEOS(Tetraethylorthosilicate)9mL、第1のカップリング剤としてp-スチリルトリメトキシシラン10mL、蒸留水100mL、触媒として濃アンモニア水10mLを加える。このとき、p-スチリルトリメトキシシランは、DPOに対するモル比で約2倍になるように、βシクロデキストリン硫酸化Na塩は、重量比で約1.6wt%になるように調製する。また、第1混合工程でのエタノール400mLに対して第2混合工程での水の添加量が100mLとなるように、すなわちエタノール:水の体積比が4:1となるように調製する。
以上のように調製された混合液を、ホットスターラー上で約80℃で2時間加熱攪拌して、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を形成して、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体を形成する(第2混合液)。
(3)加熱乾固工程
有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体が溶液中に形成された第2混合液をホットスターラー上で加熱乾固して約14.5gの白色粉末(放射線検出粉末)が得られた。
【0040】
以上のようにして製造された放射線検出粉末は、有機シンチレータ分子の割合が、放射線検出粉末全体に対して約35wt%であった。また、放射線検出粉末は、室温ではエタノールに分散しないが、約80℃に加熱すると均一に分散し、水には均一に分散しなかった。また、この放射線検出粉末は、エタノールを含んで膨潤し、低温(冷蔵庫)では固形化する物性を示した。とくに、以上の製造方法では、第1混合工程において、シクロデキストリンを使用することで、シリカナノ粒子をエタノールに対して分散しやすくなった。
【0041】
以上のように、本発明の実施形態にかかる放射線検出粉末は、放射線検出粉末全体に対する有機シンチレータ分子の割合を約35wt%として、従来よりも大幅に高くすることができた。このため、単位量あたりの放射線の検出感度を高くしながら、放射線の検出を簡便にできる特徴が実現できる。また、第2混合工程において、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体を形成するのに要する時間を数時間として、従来の製造方法に対して大幅に短縮することができた。これにより、放射線検出粉末の製造にかかる時間を短縮でき、安価に多量生産が可能になった。
【0042】
以上のようにして製造された放射線検出粉末は、放射線に励起されて発光する放射線検出用の粉末として種々の用途に使用できる。さらに、本発明では、以上の放射線検出粉末の使用例の一つとして、放射線検出粉末を紙製シートに含有させることで、放射線検査紙として使用することができる。以下、放射線検出粉末を備える放射線検査紙とその製造方法について詳述する。
【0043】
[実施形態2]
本発明の一実施形態にかかる放射線検査紙を図1の概略断面図に示す。図1に示す放射線検査紙10は、シート状に抄紙された紙製のシート状基材1と、シート状基材1の表面に塗布された、放射線検出粉末を含有するコーティング層2とを備えている。この放射線検査紙10は、シート状に抄紙された紙製のシート状基材1を準備する準備工程と、放射線検出粉末を溶媒に分散させた分散液をコーティング液として、シート状基材1の表面に塗布するコーティング工程と、シート状基材1に塗布されたコーティング液から、溶媒の全部又は一部を除去してコーティング層2を形成する乾燥工程とで製造される。
【0044】
(シート状基材1)
シート状基材1は紙製であって、天然繊維や合成繊維を湿式抄紙して製造される。天然繊維としては、セルロース系の繊維、例えば木材繊維、種子毛繊維、靭皮繊維、葉脈繊維等が使用できる。一方、合成繊維は、例えばポリアミド系、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアクリロニトリル系、ポリビニルアルコール系等の合成繊維が好適に使用できる。紙製のシート基材1を構成する繊維の繊維径は、含有する放射線検出粉末の平均径等を考慮して、例えば0.05μm~100μm、好ましくは0.1μm~80μmとする。とくに、1μm~60μmとすることが好ましい。これにより、放射線検出粉末を効果的に保持することができる。
【0045】
なお、図1の例では、説明のため、シート状基材1の一面にコーティング層2を塗布した二層構造の放射線検査紙を示しているが、これらシート状基材1とコーティング層2とは必ずしも明確な層状に分かれていることは要せず、シート状基材1の表面にコーティング層2が形成された状態であれば足りる。すなわち後述するように、シート状基材1を構成する紙の繊維に、コーティング液を塗布してコーティング層2を形成する場合は、図2の要部拡大断面図に示すように、シート状基材1の繊維6の表面にコーティング層2が形成されているような態様となる。このような、微視的にシート状基材1を構成する繊維6の表面にコーティング層2が形成されている態様も、本発明でいうシート状基材1の表面に形成されたコーティング層2に含むものとする。
【0046】
(コーティング層2)
コーティング層2は、シート状基材1の表面に塗布されたコーティング液により形成される。コーティング液は、放射線検出粉末を溶媒に分散させた分散液が使用される。この実施形態に係る放射線検査紙では、放射線検出粉末として、前述の有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体であって、包接化合物で包接された有機シンチレータ分子または有機シンチレータ分子が、ゾル-ゲル法によりシリカナノ粒子内部または表面に固定され、カップリング剤によりシリカナノ粒子内部または表面に芳香環が固定されてなる複合体で構成される放射線検出粉末を使用する。この放射線検出粉末は、水には分散しないが有機溶媒には分散するので、コーティング液には、放射線検出粉末を有機溶媒に分散させたものを使用する。有機溶媒には、放射線検出粉末を分散させ易い液体としてエタノール等の溶剤が利用できる。この放射線検出粉末は、前述のように、約80℃に加熱されたエタノールに対して均一に分散する。したがって、この放射線検出粉末は、加熱されたエタノールに分散された状態で、コーティング液として使用される。ただ、有機溶媒には、エタノールに代わってメタノール等の極性溶媒を使用することもできる。
【0047】
高温に加熱された状態において放射線検出粉末が分散されたコーティング液は、シート状基材1に塗布された後、冷却されることで固形化が促進されると共に、溶媒の全部又は一部が気化して除去されることで、溶質である放射線検出粉末が固形化されてシート状基材1の繊維に定着する。
【0048】
コーティング液の塗布には、例えば図4に示すようにバーコータ9が利用できる。バーコータ9は、棒状体の表面にワイヤを巻き付けており、このワイヤ間にコーティング液を保持することで、塗布量をコントロールできる。その他の塗布方式としてはロールコーター、グラビアコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、カーテンコーター、ファウンテンコーター、キスコーター、スクリーンコーター、押出コーター等にて塗布することができる。さらに、コーティング液は、スプレーや刷毛により塗布することもできる。
【0049】
さらに、コーティング液の塗布量は、シート状基材1に対して1m2あたり10g以上、好ましくは100g~400gを塗布する。なお、コーティング層2は、図1に示すように、シート状基材1の全面にわたって設けることも、図4に示すように、シート状基材1の特定の領域に部分的に設けることもできる。
【0050】
図1に示す放射線検査紙10は、コーティング層2が形成された面(図において上面)を検査面5として放射線の検出検査に使用することができる。図に示すように、シート状基材1の表面に放射線検出粉末を含有するコーティング層2を設ける構造は、シート状基材1の片側面に放射線検出粉末を集中的に配置できるので、この面を検査面5として使用することで効果的に放射線を検出できる。
【0051】
さらに、放射線検査紙10は、図1の鎖線で示すように、コーティング層2の表面に表面層3を設けることもできる。この表面層3は、たとえは、薄い紙製の薄膜とすることができる。この放射線検査紙10は、コーティング層2に固着された放射線検出粉末がコーティング層2の表面から脱落するのを有効に防止できる特長がある。
【0052】
さらにまた、放射線検査紙は、図3に示すように、コーティング層2の表面に剥離シート4を積層することもできる。この放射線検査紙30は、コーティング層2の表面を剥離シート4で被覆することで、未使用時においては、剥離シート4でコーティング層2を保護しながら、放射線検査紙30を使用する際には、剥離シート4を剥離することで、検査面5を表出させて使用することができる。このような剥離シート4として、たとえば、疎水性の材質、例えばPET、PP、PE、PMP、PTFE、PVDF等の樹脂製のシート、あるいは紙やフィルムにシリコーンやフッ素コートしたシートが好適に利用できる。ただ、放射線検出粉末は、必ずしもコーティング層の表面に、表面層や剥離シートを設けることなく、コーティング層を表出させた状態とすることもできる。
【0053】
[実施例2]
以上の構造の放射線検査紙は、以下の工程により製造される。
(1)準備工程
シート状に抄紙された紙製のシート状基材1を準備する。紙製のシート状基材1は、例えば、セルロース繊維を湿式抄紙した紙製のシートが使用できる。シート状基材1は、厚さを50μm、坪量を30g/mとすることができる。
(2)コーティング工程
放射線検出粉末を溶媒に分散させてコーティング液を調製する。ここでは、放射線検出粉末として、実施例1で製造された、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体で構成される放射線検出粉末を使用する。この放射線検出粉末を分散させる有機溶媒としてエタノールを使用する。50gのエタノールを用意し、75℃に加熱しながら200rpmで攪拌する。加熱されたエタノールに、0.5gの放射線検出粉末を加えて、さらに、75℃に保持しながら200rpmで60分間攪拌する。これにより、エタノールに対して放射線検出粉末が均一に分散されたコーティング液が得られる。
以上のコーティング液をシート状基材1の表面に塗布する。コーティング液は、例えば、図4に示すバーコータ9を使用してシート状基材1の表面に所定量が塗布される。コーティング液の塗布量は、例えば、100g/mとする。
(3)乾燥工程
シート状基材1に塗布されたコーティング液を100℃で30分間乾燥させて、コーティング液の溶媒の全部又は一部を気化させて除去し、コーティング液の溶質である放射線検出粉末を固形化させてシート状基材1の繊維に定着させる。これにより、シート状基材1の表面にコーティング層2が形成される。
【0054】
[実施形態3]
さらに、本発明の他の実施形態にかかる放射線検査紙を詳述する。この放射線検査紙は、放射線検出粉末を、前述の有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体としており、この放射線検出粉末とセルロースナノファイバーの凝集体を集合してシート状に抄紙している。この放射線検査紙は、包接化合物で包接された有機シンチレータ分子または有機シンチレータ分子が、ゾル-ゲル法によりシリカナノ粒子内部または表面に固定され、カップリング剤によりシリカナノ粒子の内部または表面に芳香環が固定されてなる、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体である放射線検出粉末を準備する準備工程と、放射線検出粉末を有機溶媒に分散させて第1分散液とする第1分散工程と、セルロースナノファイバーを水に分散させて第2分散液とする第2分散工程と、第1分散液と第2分散液を混合して、放射線検出粉末とセルロースナノファイバーとを凝集させる凝集工程と、放射線検出粉末とセルロースナノファイバーが凝集された凝集体を含む混合液を濾過してシート状に抄紙する抄紙工程とで製造される。
【0055】
この放射線検査紙は、前述の実施形態1に示す放射線検出粉末を使用して抄紙法により製造される。ここで使用する放射線検出粉末は、前述のように、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体の平均粒径がナノサイズであるため、通常の抄紙方法では、複合体がメッシュを通過するため紙として抄くことができない。また、この射線検出粉末は、水に分散しないので、このことも通常の方法による抄紙を困難にしている。
【0056】
この問題点を解消するために、この実施形態に係る放射線検査紙の製造方法では、図5に示すように、放射線検出粉末を有機溶媒に分散させて第1分散液11とすると共に、セルロースナノファイバーを水に分散させて第2分散液12とし、それぞれの分散液を混合することにより、放射線検出粉末とセルロースナノファイバーを凝集させて凝集体15を形成させ、この凝集体15を濾過することでシート状に抄紙している。
【0057】
[実施例3]
以上の構造の放射線検査紙は、以下の工程により製造される。
(1)準備工程
放射線検出粉末として、前述の実施例1で製造された、有機シンチレータ分子とシリカナノ粒子の複合体で構成される放射線検出粉末を準備する。
(2)第1分散工程
この工程では、放射線検出粉末を有機溶媒に分散させて第1分散液11とする。この放射線検出粉末を分散させる有機溶媒としてエタノールを使用する。100gのエタノールを用意し、75℃に加熱しながら200rpmで攪拌する。加熱されたエタノールに、0.50g(50重量部)の放射線検出粉末を加えて、さらに、75℃に保持しながら200rpmで60分間攪拌する。これにより、エタノールに対して放射線検出粉末が均一に分散された第1分散液11が調製される。
(3)第2分散工程
この工程では、セルロースナノファイバーを水に分散させて第2分散液12とする。セルロースナノファイバーには、好ましくは、繊維径が3nm~200nmのもの、さらに好ましくは、繊維径が50nm~100nmのものを使用する。ここでは、セルロースナノファイバーとして微細繊維状セルロース(ダイセル社製)を使用する。所定量の微細繊維状セルロースを分散液である水に懸濁して分散し、微細繊維状セルロースの0.5wt%水溶液、50重量部を調製する。
(4)凝集工程
第1分散液11と第2分散液12を混合して、放射線検出粉末とセルロースナノファイバー(微細繊維状セルロース)とを凝集させる(2分間)。このように、それぞれの良溶媒(放射線検出粉末:エタノール、セルロースナノファイバー:水)を分散させた後、それぞれの貧溶媒(放射線検出粉末:水、セルロースナノファイバー:エタノール)を混合させると、放射線検出粉末とセルロースナノファイバーの凝集体15を得ることができる。有機溶媒に分散された放射線検出粉末と水に分散されたセルロースナノファイバーは、いずれもナノサイズであるため、そのままでは歩留らないが、凝集させて濾過することで紙として抄くことが可能になる。
(5)抄紙工程
放射線検出粉末とセルロースナノファイバーが凝集された混合液13を濾過してシート状に抄紙する。この工程では、放射線検出粉末とセルロースナノファイバーの凝集体15を含む混合液を定性濾紙No1(アドバンテック東洋社製)を使用して濾過する。ただ、混合液13の濾過には、ヌッチェフィルターを使用して吸引濾過することもできる。濾過された凝集体15を濾紙から剥離して100℃で10分間乾燥して、放射線検査紙とする。ここで、得られた放射線検査紙は、厚さが0.23mmで、坪量が106g/mであった。
【0058】
さらに、本発明は、放射線検査紙に使用する放射線検出粉末として、前述の包接化合物で包接された有機シンチレータ分子または有機シンチレータ分子が、ゾル-ゲル法によりシリカナノ粒子内部または表面に固定され、カップリング剤によりシリカナノ粒子内部または表面に芳香環が固定されてなる複合体で構成される放射線検出粉末に代わって、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を粒子又は繊維の表面上に固定化してなる放射線検出粉末を使用することができる。この放射線検出粉末は、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を表面に固定化する粒子として、例えば、珪石粒子等の無機粒子を使用することができ、また、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を表面に固定化する繊維として、所定の繊維径を有する担持繊維を使用することができる。
【0059】
シリカナノ粒子を固定化する粒子に珪石粒子を使用する放射線検出粉末(以後、シンチレータシリカ珪石粉末とも呼ぶ)は、珪石粒子と、珪石粒子の表面上に固定化されたシンチレータを備えており、このシンチレータを有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子としている。この放射線検出粉末(シンチレータシリカ珪石粉末)は、珪石粒子の平均粒径を、0.5~50μm、好ましくは1~30μm、さらに好ましくは1.5~20μmとすることができ、シリカナノ粒子の平均粒子径を30ないし400nmとすることができる。また、この放射線検出粉末は、シンチレータを接着剤を介して珪石粒子に固定化することもできる。
【0060】
この放射線検出粉末(シンチレータシリカ珪石粉末)は、以下のようにして製造される。
(1)第1混合工程
有機溶媒であるジメチルスルホキシド(DMSO)溶液240mLに、有機シンチレータ分子として、安息香酸(benzoic acid)約0.53gとDPO(2,5 Diphenyloxazole)約4.6gとPOPOP(1,4-Bis(5-phenyl-2-oxazolyl)benzene)約5.1gを加えた後、エタノール160mLを加える。ホットスターラー上で約80℃に加熱して有機シンチレータ分子が溶解して透明な溶液になるまで撹拌する。
(2)第2混合工程
次に、有機シンチレータ分子が溶解した混合液に対して、あらかじめ珪石粉末(6.78μm)約1.2gを0.5wt%水ガラス溶液25mL中に加えて約80℃で加熱攪拌した溶液と、蒸留水75mL、ケイ酸源であるTEOS(Tetraethylorthosilicate)10mL、及び触媒としての28wt%の濃アンモニア水10mLを加える。このとき、DMSOを含むエタノール溶液400mLに対して水100mLが追加されるように、言い換えると、エタノール溶液と加える水溶液の比が4:1となるように調製する。
以上のようにして調製された混合液を、ホットスターラー上で約80℃に加熱して約2日間撹拌し、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を形成して、珪石粉末の表面上に有機シンチレータ分子含有シリカナノ粒子を結合させた。
(3)加熱乾固工程
以上の混合液をホットスターラー上で加熱乾固して粉末が得られた。
(4)濾過洗浄工程
加熱乾固工程で得られた粉末を400~600mLの蒸留水を用いて、孔径0.1μmのフィルターで洗浄濾過して、水溶性の硫黄化合物を除去する操作を繰り返した。
デジケータで乾燥後、ホットスターラーで加熱乾燥して約31.4gの白色粉末(シンチレータシリカ珪石粉末)が得られた。
【0061】
また、シリカナノ粒子を繊維に固定化する放射線検出粉末(以後、シンチレータシリカ繊維粉末とも呼ぶ)は、所定の繊維径を有する担持繊維と、担持繊維の表面上に固定化されたシンチレータを備えており、このシンチレータを、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子としている。この放射線検出粉末(シンチレータシリカ繊維粉末)は、担持繊維として、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維等の無機繊維や、合成繊維や天然繊維等の有機繊維を使用することができる。担持繊維の繊維径は、3nm~200nm、好ましくは3nm~40nmとすることができる。また、この放射線検出粉末は、有機シンチレータを含有するシリカナノ粒子をバインダー繊維を介して繊維の表面上に固定化することもできる。このようなバインダー繊維として、例えば、マイクロオーダーのセルロースナノファイバー等が使用できる。この放射線検出粉末(シンチレータシリカ繊維粉末)は、前述の第2混合工程において、珪石粉末に代わって担持繊維を加える以外は、前述の製造工程と同様にして製造される。
さらに、繊維径が0.1μm~100μm、好ましくは10μm~50μmの担持繊維を使用して前述の製造工程と同様にして製造することができる。
【0062】
[実施形態4]
以上のようにして製造された放射線検出粉末(シンチレータシリカ珪石粉末)を使用して製造される放射線検査紙を、本発明の他の実施形態として以下に詳述する。この放射線検査紙は、前述の実施形態2の放射線検査紙と同様に、シート状に抄紙された紙製のシート状基材と、シート状基材の表面に塗布された、放射線検出粉末を含有するコーティング層とを備えている。この放射線検査紙は、シート状に抄紙された紙製のシート状基材を準備する準備工程と、放射線検出粉末(シンチレータシリカ珪石粉末)を溶媒に分散させた分散液をコーティング液として、シート状基材の表面に塗布するコーティング工程と、シート状基材に塗布されたコーティング液から、溶媒の全部又は一部を除去してコーティング層を形成する乾燥工程とで製造される。
【0063】
さらに、放射線検出粉末を、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を珪石粒子の表面上に固定化したシンチレータシリカ珪石粉末とする放射線検査紙は、コーティング液として、セルロースナノファイバーを含む分散液に放射線検出粉末(シンチレータシリカ珪石粉末)を分散させたものを使用している。このコーティング液は、セルロースナノファイバーを所定の濃度に含有する分散液に対して、所定量の放射線検出粉末(シンチレータシリカ珪石粉末)を分散させたものを使用している。セルロースナノファイバーを含有する分散液の濃度は、0.01wt%~5wt%とすることができ、セルロースナノファイバーを含有する分散液と放射線検出粉末(シンチレータシリカ珪石粉末)の質量比は、10:90~3:97とすることができる。なお、セルロースナノファイバーは、放射線検出粉末(シンチレータシリカ珪石粉末)と混合させる前に予め物理開繊しておく。たとえば、木材パルプ等を水等の溶媒に混ぜて、グラインダ等により粉砕処理することができる。
【0064】
[実施例4]
以上の構造の放射線検査紙は、以下の工程により製造される。
(1)準備工程
シート状に抄紙された紙製のシート状基材を準備する。紙製のシート状基材は、例えば、ポリエステル繊維を湿式抄紙した紙製のシートが使用できる。シート状基材は、厚さを130μm、坪量を100g/mとすることができる。
(2)コーティング工程
放射線検出粉末を溶媒に分散させてコーティング液を調製する。ここでは、放射線検出粉末として、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を珪石粒子の表面上に固定化したシンチレータシリカ珪石粉末を使用する。この放射線検出粉末を分散させる分散液として、セルロースナノファイバーの2wt%水溶液を使用する。このセルロースナノファイバーの水溶液5重量部に対して、放射線検出粉末(シンチレータシリカ珪石粉末)95重量部を加えて、コーティング液とする。これにより、セルロースナノファイバーに対して放射線検出粉末が均一に分散されたコーティング液が得られる。
以上のコーティング液をシート状基材の表面に塗布する。コーティング液は、例えば、図4に示すバーコータ9を使用してシート状基材1の表面に所定量が塗布される。コーティング液の塗布量は、例えば、309g/mとする。
(3)乾燥工程
シート状基材に塗布されたコーティング液を100℃で30分間乾燥させて、コーティング液の溶媒の全部又は一部を気化させて除去し、コーティング液の溶質である放射線検出粉末(シンチレータシリカ珪石粉末)を固形化させてシート状基材の繊維に定着させる。これにより、シート状基材の表面にコーティング層が形成される。
【0065】
[実施形態5]
さらに、放射線検出粉末(シンチレータシリカ珪石粉末)を使用して製造される放射線検査紙の他の実施形態を図6に示す。この放射線検査紙40は、放射線検出粉末として、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を珪石粒子の表面上に固定化したものとし、放射線検出粉末とバインダー繊維を含む繊維とを湿式抄紙してシート状に形成している。この放射線検査紙は、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を珪石粒子の表面上に固定化してなる放射線検出粉末(シンチレータシリカ珪石粉末7)を準備する準備工程と、放射線検出粉末とバインダー繊維を含む繊維6とを分散液に懸濁して抄紙用スラリーとし、この抄紙用スラリーを湿式抄紙してシート状の放射線検査紙とする抄紙工程とで放射線検査紙を製造する。
【0066】
(抄紙用スラリー)
放射線検査紙は、放射線検出粉末(シンチレータシリカ珪石粉末)とバインダー繊維を含む繊維とを分散液に懸濁して調整された抄紙用スラリーを湿式抄紙して抄造される。放射線検出粉末とバインダー繊維を含む繊維とを懸濁する分散液には、例えば水が使用できる。
【0067】
抄紙スラリーに混合されるバインダー繊維には、天然セルロース繊維、ポリオレフィン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、アラミド繊維が使用できる。特にパルプ状に成形された繊維が最適である。さらに、バインダー繊維には、これらの繊維に加えてPET等の樹脂繊維を添加することもできる。
【0068】
さらに、抄紙スラリーは、バインダー繊維以外の繊維を含むこともできる。抄紙スラリーに含有される繊維には、たとえば、前述のシート状基材の抄紙に使用される繊維と同じものや天然繊維、再生繊維、合成繊維、無機繊維等も適宜使用することができる。
【0069】
さらに、抄紙スラリーは、定着剤として凝結剤又は凝集剤を添加することができる。具体的には、硫酸アルミニウム、アラム、ポリジアリルジメチルアンモニウム、ポリエチレンイミン、カチオン化デンプン、コロイド状シリカ、コロイド状アルミ、ベントナイト、ポリフェノール等の定着剤が利用できる。あるいは、乾燥紙力剤として、デンプン、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコールが、また湿潤紙力剤としてポリエチレンイミン、メラミンホルムアルデヒド、尿素ホルムアルデヒド、ポリアミドエピクロルヒドリン、ポリビニルアミン等が使用できる。
【0070】
[実施例5]
以上の構造の放射線検査紙は、以下の工程により製造される。
(1)準備工程
放射線検出粉末として、有機シンチレータ分子を含有するシリカナノ粒子を珪石粒子の表面上に固定化したシンチレータシリカ珪石粉末を準備する。
(2)抄紙工程
放射線検出粉末(シンチレータシリカ珪石粉末)とバインダー繊維を含む繊維とを分散液に懸濁して抄紙用スラリーとする。抄紙用スラリーは、以下のように調製される。
水1Lに対してポリオレフィン合成パルプ(三井化学社製)10重量部を加えて300回攪拌する。さらに、マイクロガラス繊維(H&V社製)20質量部と放射線検査紙(シンチレータシリカ珪石粉末)70質量部を加えて100回攪拌して繊維及び放射線検出粉末を均一に分散させる。
以上のスラリーを1.5Lに希釈した後300rpmで攪拌する。バインダー繊維として、ポリアミドエピクロルヒドリン樹脂(星光PMC社製)1%を加えて1分間攪拌する。さらに、バインダー繊維として、ポリアクリルアミド樹脂(荒川化学工業社製)1%を加えて1分間撹拌する。さらに、硫酸アルミニウム0.2%を加えて1分間撹拌する。
以上のように調製された抄紙用スラリーを250mm角の角形シートマシンで抄紙してシート化する。
抄紙されたシートを100℃で20分間乾燥して、放射線検査紙とする。ここで、得られた放射線検査紙は、厚さが0.35mmで、坪量が160.3g/mであった。
【0071】
以上のようにして製造される本発明の放射線検査紙は、所定の形状に裁断されて、放射線の拭き取り検査等に使用される。拭き取り検査される放射線検査紙は、被検査部分の表面を放射線検査紙の検査面で拭き取り、この放射線検査紙のシンチレータからの発光をシンチレーションカウンターで検出して放射線計数率が測定される。放射線検査紙は、放射線検出粉末に含有されるシンチレータが、放射線で励起されることで発光する。シンチレーションカウンターは、セットされる放射線検査紙の発光を光電子倍増管で増幅して電流値に変え、その検出値から放射線計数率が測定される。
【0072】
以上のようにして製造された実施例2~5の放射線検査紙の性能検査を以下のようにして行った。
実施例2~5で製造された放射線検査紙を、直径を1.4cm(面積:約1.5cm)とする円形状にカットして試験片とし、スミヤ法による拭き取り検査を行って放射線計数率を測定した。実施例2~5の試験片については、被検査部分を各試験片の検査面で拭き取った後、シンチレーションカウンターにセットして放射線計数率を測定した。
また、比較例として、直径を2.5cm(面積:約4.9cm)とするスミヤ濾紙を使用して、同様の拭き取り検査を行い放射線計数率を測定した。比較例のスミヤ濾紙については、被検査部分を拭き取った後、液体シンチレータ5mLを加え、シンチレーションカウンターにセットして放射線計数率を測定した。
なお、拭き取り検査は、実施例2~5、及び比較例についてそれぞれ3回ずつ行い、その平均値を求めた。また、各測定値については、バックグラウンドを差し引いた実質的な計数率を求めた後、スミヤ濾紙の面積に合わせて補正し、その補正された計数率を比較した。以上の拭き取り検査の結果は、以下のようになった。実施例2については、実施例3~5に対する拭き取り効率で補正した。
【0073】
【表1】

【0074】
以上の拭き取り検査では、実施例3~5の放射線検査紙において、面積補正した計数率が、比較例であるスミヤ濾紙の計数率よりも優れた値を示すことが確認された。
一方、実施例2では、塗布量あたりの計数率は1を超えていることから、検査紙の塗布量を増やすことで比較例を超える可能性があることを示している。
また、実施例2~5の放射線検査紙では、被検査部分を拭き取った後、そのままシンチレーションカウンターにセットして放射線計数率を測定できるため、従来のスミヤ濾紙と同様に簡単に拭き取り検査しつつ、液体シンチレータを加える等の二次的な作業を省略できることから、検査に係る手間や時間を短縮でき、しかもコストを低減できる特長が実現できた。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の放射線検出粉末と放射線検査紙は、放射線の検出感度を高くしながら、簡便に使用できることにより、放射線の検査を行う現場で便利に使用できる。
【符号の説明】
【0076】
10、20、30、40…放射線検査紙
1…シート状基材
2…コーティング層
3…表面層
4…剥離シート
5…検査面
6…繊維
7…シンチレータシリカ珪石粉末
9…バーコータ
11…第1分散液
12…第2分散液
13…混合液
15…凝集体
図1
図2
図3
図4
図5
図6