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特許7295537粉体付着抑制部材及び部材の表面処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】粉体付着抑制部材及び部材の表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   B24C 1/06 20060101AFI20230614BHJP
   B24C 3/32 20060101ALI20230614BHJP
   A23P 10/40 20160101ALN20230614BHJP
   A23P 20/12 20160101ALN20230614BHJP
【FI】
B24C1/06
B24C3/32 Z
A23P10/40
A23P20/12
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020105305
(22)【出願日】2020-06-18
(65)【公開番号】P2021194758
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2022-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】519217434
【氏名又は名称】株式会社サーフテクノロジー
(73)【特許権者】
【識別番号】511241583
【氏名又は名称】株式会社フリクション
(74)【代理人】
【識別番号】100134212
【弁理士】
【氏名又は名称】提中 清彦
(72)【発明者】
【氏名】下平 英二
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 正夫
(72)【発明者】
【氏名】荻原 秀実
(72)【発明者】
【氏名】児玉 伴子
(72)【発明者】
【氏名】新井 正彦
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-044734(JP,A)
【文献】特開2018-135139(JP,A)
【文献】特開2004-243497(JP,A)
【文献】特開2017-186616(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0287227(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24C1/00-11/00
A23P10/00-30/40
B65B1/00-1/48
B65D1/00-1/48
B65G3/00-3/04
B65G11/00-11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも粉体と接触する領域の表面に、比較的大きなサイズのディンプル状の凹部とその周辺に稜線状の凸部を不均一に無数に形成した大凹凸を形成した後、その大凹凸の上にそれらよりも微小なディンプル状の凹部とその周辺に稜線状の凸部を不均一に無数に形成した微小凹凸を形成した粉体付着抑制部材であって
前記粉体が、水分、油分の少なくとも一方が付着している粉体であると共に、
前記大凹凸の凹部入り口幅の最小値と最大値の範囲が35μm~120μm、深さの最小値と最大値の範囲が5μm~20μmであり、
前記微小凹凸の凹部入り口幅の最小値と最大値の範囲が1.8μm~15μm、深さの最小値と最大値の範囲が1μm~5μmである
ことを特徴とする粉体付着抑制部材。
【請求項2】
前記粉体は、1μm以下の粒子サイズのものや、200μm以上に凝集した粒子サイズのものを含むことを特徴とする請求項1に記載の粉体付着抑制部材。
【請求項3】
前記粉体が、食品用の粉体であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の粉体付着抑制部材。
【請求項4】
基材が、ステンレス鋼或いは樹脂製材料から成ることを特徴とする請求項1~請求項の何れか一つに記載の粉体付着抑制部材。
【請求項5】
なくとも粉体と接触する領域の表面に、比較的大きなサイズのディンプル状の凹部とその周辺に稜線状の凸部を不均一に無数に形成した大凹凸を形成した後、
その大凹凸の上にそれらよりも微小なディンプル状の凹部とその周辺に稜線状の凸部を不均一に無数に形成した微小凹凸を形成する部材の粉体付着抑制表面処理方法であって、
前記粉体が、水分、油分の少なくとも一方が付着している粉体であると共に、
前記大凹凸の凹部入り口幅の最小値と最大値の範囲が35μm~120μm、深さの最小値と最大値の範囲が5μm~20μmであり、
前記微小凹凸の凹部入り口幅の最小値と最大値の範囲が1.8μm~15μm、深さの最小値と最大値の範囲が1μm~5μmである
ことを特徴とする部材の粉体付着抑制表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体付着抑制部材及び表面処理方法に関する。より詳しくは、例えば、粉体が接触する表面に凹凸を形成することで、粉体、特に油分や水分が付着した粉体の付着を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、小麦粉、コーンスターチ、片栗粉、抹茶パウダー、ココアパウダー、粉糖、カレー粉、コンソメパウダーなどの食用粉体や医薬品粉体(粉末薬)などの粉体は、ステンレス鋼から成るフルイによる分別(或いは分級)処理が実施されたり、ステンレス鋼から成るホッパーなどの収容容器やシューターやコンベアーなどの搬送部品を用いて取り扱われる。
【0003】
これら粉体はふるいや収容容器や搬送部品などの部材表面へ付着して成長し、比較的大きな塊等となって排出不良(ホッパー)を招いたり、目詰り(フルイ)を招くといったトラブルが発生し、生産効率の低下や不良品増加の一因となっている。
【0004】
このようなことから、本発明者等は、種々の研究・実験を繰り返し、その結果に基づいて、本出願人等は、特許文献1において、ショット材を投射するショット材投射処理の一つである微粒子ピーニング処理(WPC処理(登録商標))を施すことにより、粉体と接触する部材(以下、粉体接触部材とも称する)の表面に微小凹凸を無数に不規則(ランダム)に形成することで、粉体の付着を抑制することができる技術を提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6416151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者等は、各種の実験を通じて、粉体が微細(微粒子)でかつその表面(周囲)に油分や水分が付着した場合(凝集して塊となり易い粉体に対しては)には、特許文献1に記載した技術では、微粒子粉体の付着抑制が十分でないことを確認した。
【0007】
すなわち、上記特許文献1に記載されている通り、微粒子ピーニング処理(WPC処理(登録商標))を施し、粉体と接触する部材(以下、粉体接触部材とも称する)の表面に微小凹凸を無数に不規則(ランダム)に形成することで、小麦粉のような粉体に対しては付着を抑制することができることが見い出されている。
【0008】
しかし、処理対象の粉体として、例えば一例を挙げるが、油分や水分を含んだカレー粉やコンソメパウダーなどは、これまでの微粒子ピーニング処理で形成されるランダムな凹凸形状の表面では、粉体接触部材の接触表面に対する滑り性や付着抑制の効果が小さいという実験結果を得た。
【0009】
例えば、代表的なものとして、カレー粉やコンソメパウダーなどの調味用粉体やスナック菓子のパウダーなど油分や水分が付着している(或いは油分や水分を含有している)粉体(凝集して塊となり易い粉体)は、その粉体自身が含む油分や水分が原因と考えられる理由で、粉体接触部材の表面に付着してしまい、滑り性が非常に悪くなるものと考えられる。
【0010】
その実験について、詳しく考察した結果、本発明者等は、油分や水分が付着したコンソメパウダーなどは粒度分布が比較的大きく、1μm以下の粒子サイズのものや、200μm以上に凝集した粒子サイズのものが含まれると共に、形状も様々なものが含まれることを確認した(図1図2)。
【0011】
この一方で、特許文献1において提案した微粒子ピーニング処理により、粉体接触部材の表面に形成される凹部のサイズは、例えば、凹部の入口径(開口部の開口径)がφ5~φ100μm程度、深さが0.5~3.0μm程度である。
【0012】
このようなことから、本発明者等は、特許文献1の凹部形状では200μm以上のサイズに凝集した粉末の付着抑制には有効であるが、粒子サイズ1μm以下のものが含まれる粉体に対しては、これまでの微粒子ピーニング処理により形成した微小凹部の入口幅(開口幅)は大き過ぎてしまい、粒子サイズ1μm以下の粉体が微小凹部の凹部に収容されてしまうなどして、粉体接触部材の表面に対する粉体の滑り性や付着抑制の効果が小さくなってしまうといった現象が起きているものと考えた。
【0013】
このため、本発明者等は、粒子サイズ1μm以下の粉体に対応させて、微小凹部の入口幅(円の場合は径)が1μm以下の表面を有する粉体接触部材を作製し、粒子サイズ1μm以下の粉体の付着抑制の実験を行ったが、その実験によれば、油分や水分を含まず個々の粉体が分離している場合には良好な付着抑制効果が得られたが、油分や水分が付着した粉体の場合には付着抑制効果が十分に発揮できないと共に、200μm以上のサイズに凝集した粉体に対しては付着抑制効果が十分でないという現象を確認した。
【0014】
かかる現象から、ほぼ均一な凹部入口幅(開口部開口幅)を有するディンプル形状の凹部とその周辺に形成される凸部からなるランダムな凹凸形状の表面では、油分や水分が付着したコンソメパウダーやカレー粉のように凝集した大きな凝集体(粉末)と微細粉末とが混在する場合(集合体)には、付着抑制効果が想定したほど改善できないことがわかった。
【0015】
このような粉体付着の問題を改善することができれば、上述した各種の問題(排出不良を招いたり、目詰り、生産効率の低下、不良品増加など)の解決、更には油分や水分が付着した上記粉体やスナック菓子に用いられる調理用粉体の加工工程における食品ロス(食品廃棄物)の削減などにも大きく貢献することができる。
【0016】
本発明は、上述した実情に鑑みなされたもので、粉体、特に、粒子サイズ1μm以下のものが含まれるような油分や水分が付着した粉体に対しても、粉体と接触する表面への付着を抑制できる複合ディンプルを有する粉体付着抑制部材及びその表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
このため、本発明に係る粉体付着抑制部材は、
少なくとも粉体と接触する領域の表面に、比較的大きなサイズのディンプル状の凹部とその周辺に稜線状の凸部を不均一に無数に形成した大凹凸を形成した後、その大凹凸の上にそれらよりも微小なディンプル状の凹部とその周辺に稜線状の凸部を不均一に無数に形成した微小凹凸を形成した粉体付着抑制部材であって
前記粉体が、水分、油分の少なくとも一方が付着している粉体であると共に、
前記大凹凸の凹部入り口幅の最小値と最大値の範囲を35μm~120μm、深さの最小値と最大値の範囲を5μm~20μmとし、
前記微小凹凸の凹部入り口幅の最小値と最大値の範囲を1.8μm~15μm、深さの最小値と最大値の範囲を1μm~5μmとする
ことを特徴とする。
【0018】
本発明において、前記粉体は、1μm以下の粒子サイズのものや、200μm以上に凝集した粒子サイズのものを含むことを特徴とすることができる。
【0024】
本発明において、前記粉体が、食品用の粉体であることを特徴とすることができる。
【0025】
本発明において、基材が、ステンレス鋼或いは樹脂製材料から成ることを特徴とすることができる。
【0029】
本発明に係る部材の粉体付着抑制表面処理方法は、
なくとも粉体と接触する領域の表面に、比較的大きなサイズのディンプル状の凹部とその周辺に稜線状の凸部を不均一に無数に形成した大凹凸を形成した後、
その大凹凸の上にそれらよりも微小なディンプル状の凹部とその周辺に稜線状の凸部を不均一に無数に形成した微小凹凸を形成する部材の粉体付着抑制表面処理方法であって、
前記粉体が、水分、油分の少なくとも一方が付着している粉体であると共に、
前記大凹凸の凹部入り口幅の最小値と最大値の範囲を35μm~120μm、深さの最小値と最大値の範囲を5μm~20μmとし、
前記微小凹凸の凹部入り口幅の最小値と最大値の範囲を1.8μm~15μm、深さの最小値と最大値の範囲を1μm~5μmとする
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、粉体、特に、粒子サイズ1μm以下のものが含まれるような油分や水分が付着した粉体に対しても、粉体と接触する表面への付着を抑制できる複合ディンプルを有する粉体付着抑制部材及びその表面処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】一般的なコンソメパウダー(凝集した粒子、二次粒子)の拡大画像(100倍)である。
図2】同上コンソメパウダー(一次粒子)の拡大画像(15000倍)である。
図3】本発明の一実施の形態に係る複合ディンプル面を有する粉体接触部材(粉体付着抑制部材)(試料(1))の表面拡大画像(SEM画像、400倍)である。
図4】同上実施の形態に係る複合ディンプル面を有する粉体接触部材(粉体付着抑制部材)(試料(1))の表面拡大画像(3D画像、400倍)である。
図5】同上実施の形態に係る複合ディンプル面(試料(1))の表面形状測定結果とその特徴を模式的に説明するための図である。
図6】同上実施の形態に係る試料(1)の表面形状データの一例を示す図である。
図7】同上実施の形態に係る試料(2)の表面形状データの一例を示す図である。
図8】ステンレス鋼板の平滑面(♯700で磨いただけのBlank)、従来の小サイズのディンプル凹凸面(小ディンプルのみのサンプル)、従来の大サイズのディンプル凹凸面(大ディンプルのみのサンプル)、本実施の形態に係る複合ディンプル面のサンプルにオリーブオイルを滴下したときの接触角測定結果である。
図9】(A)はステンレス鋼板に従来の大きなサイズのディンプル凹凸面(大ディンプル)のみをランダムに形成した表面にオリーブオイルを滴下したときの表面の状態を観察した画像であり、(B)はステンレス鋼板に従来の小さなサイズのディンプル凹凸面(小ディンプル)のみをランダムに形成した表面にオリーブオイルを滴下したときの表面の状態を観察した画像であり、(C)は本実施の形態に係る複合ディンプル面(大小ディンプル面)にオリーブオイルを滴下したときの表面の状態を観察した画像である。
図10】ステンレス鋼板に「従来の単一サイズのディンプル凹凸面(単一ディンプル面)をランダムに形成した場合」と「本実施の形態に係る複合ディンプル面に油分が付着した場合」の表面の油分の動き比較して示した模式図(付着抑制メカニズムの説明図)である。
図11】(A)はステンレス鋼板平滑面(鏡面)に対するコンソメパウダーを用いた粉体付着試験結果を示す表面拡大画像であり、(B)は本実施の形態に係る複合ディンプル面に対する粉体付着試験結果を示す表面拡大画像である。
図12】種々の表面形状サンプルを用いた粉末付着性を比較した結果の一覧表である。
図13】ショット材投射処理の一例である微粒子ピーニング処理に用いるメディアをワンショットすることにより実験的に形成した単一の微小凹部の断面SEM像である。
図14】レーザ加工による凹部断面SEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明に係る一実施の形態を、添付の図面を参照しつつ説明する。なお、以下で説明する実施の形態により、本発明が限定されるものではない。
【0038】
上述したように、本発明等は、ほぼ均一な開口(入口)サイズ(幅(長さ)、径など)を有するディンプル形状の凹部と、その周辺に形成される凸部と、からなるランダムな凹凸形状の表面では、油分や水分などを含む(油分や水分などが付着した)コンソメパウダーやカレー粉のように凝集した大きなサイズ(塊状)の粉体(粉末)の凝集体と、微細粉末(個別の粉体:一次粒子)と、が混在するような場合には、付着抑制効果が小さいことを確認した。このため、油分や水分などを含む(油分や水分などが付着した)粉体に対して付着抑制効果を期待できる別の態様の微小凹凸を有する表面形状を見い出す必要があった。
【0039】
このようなことから、本発明者等は、種々の実験・研究を繰り返すことで、粉体接触部材の表面に異なる粒径メディアを別々に(異なる粒径メディア毎に)、すなわち、最初に大粒径メディアを投射し、次に小粒径メディアを投射することによって、最初の投射で形成されるディンプル形状の凹部(大ディンプル)とその周辺の稜線状の凸部とからなる凹凸(大凹凸)形状を維持しながら、次の投射で、その大凹凸の上にそれらよりも微小なディンプル状の凹部(小ディンプル)とその周辺の稜線状の凸部とからなる微小凹凸(小凹凸)形状を形成することで、大小のディンプルを複合化したランダムな凹凸形状(複合ディンプル)を有する表面(複合ディンプル面)を形成し、この複合ディンプル面を有する粉体接触部材を、油分や水分が付着したコンソメパウダーやカレー粉のように凝集した大きなサイズ(塊状)の粉体(粉末)の集合体と、微細粉体(個別の粉体)が混在する粉体の付着抑制実験に供したところ、このような粉体に対して粉体の付着を効果的に抑制することができるという新たな知見を得るに至った。
【0040】
なお、ここでは、個別の粉体(個別粒子、粉末)を一次粒子、水分や油分などが介在して複数の個別粒子(個別粒子、粉末)が凝集した一塊を凝集体(二次粒子)、これらが混在している粉体を集合体と称する場合がある。また、粉体(粉末)という場合には、粒子サイズ1μm以下の微細(微小)な粉体(個別粒子、粉末)と、凝集した大きなサイズの凝集体と、これらが混在する集合体と、の何れかを意味している場合がある。
また、ここでは、平均粒径というときには、メディアン径を意味するものとし、このことは、粉体の粒径、投射材(メディア)の粒径の何れの場合にも適用されるものである。
【0041】
また、形成される凹部の大きさについては、表面に直交する方向から見たときに入口部が略円形の場合、多角形の場合など様々な形状のものが存在するためサイズ(円形の場合は径など)という表現を用いることができると共に、表面形状を形状測定装置(例えばレーザー式形状測定装置)により測定したときの凹部の入り口幅(開口幅)という表現とすることができる。
【0042】
ところで、上述した大小のディンプルを複合化したランダムな凹凸形状(複合ディンプル)を有する表面(複合ディンプル面)を形成する製造方法についても今回の実験のために、本発明者等が新規に創出したものである。
この製法の特徴は、最初の大粒径投射では、投射エネルギーが大きく粉体接触部材(例えば、ステンレス)の表層部が硬化した凹凸表面が形成されるため、次の小粒径投射では、投射エネルギーが小さいので最初に形成された凹凸形状を維持しながら微小な凹凸形状を複合化できることにある。なお、大粒径と小粒径を混合したメディアを用いて一度に投射した場合には、本発明のような大きな凹凸と小さな凹凸を複合化した表面形状を得ることができなかった。
【0043】
本発明の方法により形成された複合化したランダムな凹凸形状(複合ディンプル)を表面に有する粉体接触部材(本発明に係る粉体付着抑制部材に相当する)は、油分や水分が付着した(油分や水分を含む)粉体(粉体が例えば200μm程度以上のサイズに凝集した大きな凝集体と、例えば1μm程度以下の粒子サイズの個別の微小粉体と、が混在する集合体)のみならず、油分や水分が付着した凝集体或いは個別の微小粉体がそれぞれ単独で存在する場合、油分や水分が付着してはいないが粒度分布の大きな集合体、様々な種類の粉が混合された集合粉体、例えば1μm程度以下の粒子サイズの個別粉体、例えば200μm程度以上のサイズの個別粉体などに対しても付着抑制効果を発揮することが確認できた。
【0044】
ここにおいて、当初、本発明者等は、本発明に係る複合ディンプルを形成した粉体接触部材の表面(複合ディンプル面)は、油をはじく撥油性を示すことで油分が付着した微細粉体(粉末)の付着性が改善できると考えたものの、実際には思いもよらず、表面処理をしていないステンレス表面に比べて親油性(油濡れ性)を示した。しかしながら、本発明に係る複合ディンプルを形成した粉体接触部材の表面(複合ディンプル面)は、粒子サイズ1μm以下の微小な粉体(粉末粒子)、凝集した大きなサイズの凝集体、これらが混在する粉体(集合体)に対しても明確な粉体付着効果があることを確認した。そのメカニズムについては後述する。
【0045】
なお、粉体接触部材の表面にショット材を投射するショット材投射処理(例えば、一例として微粒子ピーニング処理などがある)により形成される微小ディンプル凹部の入口部サイズ(凹部入り口幅、開口部開口幅)は、表面形状から計測される凹凸ピッチ(隣接する凹部の間隔或いは隣接する凸部の間隔)を代用することができる。また、ショット材投射処理は、表面にディンプル状の微小凹部と凹部周辺に稜線状の凸部を不均一に形成する(表面にクレーター状の微小凹部を複数(無数)にランダムに形成する)処理として表現することができる。
【0046】
本実施の形態において、試料(1)は、SUS304からなるステンレス製の板材の表面をP700番バフにより研磨仕上げした基材に対して、その表面に、大小の複合的なディンプル状の微小凹部を形成する表面処理(ショット材投射処理による複合ディンプル形成処理)を施したもので、具体的には、前記ステンレス製の板材の表面に、(株)不二製作所製の研磨材、フジランダムWAの粒番号60(中心粒径が212~250μm)のメディア(ショット材)を1/数(例えば0.3)MPa程度の圧縮空気と共に投射する投射処理(投射加工)を施した後、(株)不二製作所製の研磨材、フジランダムCの粒番号3000(中心粒径が4.0±0.5μm)のメディア(投射材)1/数(例えば0.4)MPa程度の圧縮空気と共に投射する投射処理(投射加工)を施した。
【0047】
試料(2)は、試料(1)における先のショット材投射処理(大ディンプル形成)に用いた使用済のメディアを用いて作製した。試料(2)の小ディンプルの作成には、試料(1)の後のショット材投射処理(小ディンプル形成)に用いたメディアと同じ新品のメディアを用いた。
【0048】
試料(1)のショット材投射処理を施した表面の拡大画像を、図3図4に示す。なお、ショット材投射処理により形成される微小凹凸(凹部及びその周囲の稜線状の凸部)を模式的に示したイメージ図を、図5に示す。本案の特徴として、第一段階として粒径の大きい投射材を用いて大ディンプルを形成し、さらに第二段階として粒径の小さい投射材を用いて小ディンプルを形成するため、大小の明瞭な複合ディンプルを形成することができる。こういった明瞭な複合ディンプルは、例えば粒径の異なる投射材を混合させて投射した場合には形成されない。
【0049】
後述するものを含めて、本実施の形態における表面拡大画像や測定データ(表面形状データ)は、実際の面性状計測データからのものであり、形状測定装置(KEYENCE社製の形状測定レーザーマイクロスコープVK-X100)を用いて取得した。
【0050】
試料(1)、(2)の表面形状データを、それぞれ、図6図7に示す。
試料(1)では、図6に示すように、大ディンプル(大凹凸の凹部、以下同様)は、凹凸ピッチの最小値と最大値の範囲が50~120μm程度の範囲(言い換えると、凹凸ピッチの最小値が50μm以上で、最大値が120μm程度以下である。以下、同様。)、凹部深さの最小値と最大値の範囲が10~20μm程度の範囲(言い換えると、凹凸深さの最小値が10μm以上で、最大値が20μm程度以下である。以下、同様。)、小ディンプル(微小凹凸の凹部、以下同様)は、凹凸ピッチの最小値と最大値の範囲が1.8~8μm程度の範囲、凹部深さの最小値と最大値の範囲が2~5μm程度の範囲となっており、大ディンプルの小ディンプルに対する比の範囲は、それぞれ凹凸ピッチの比が約6~60程度の範囲、凹部深さの比が2~10程度の範囲となっている。
なお、以下において、凹凸ピッチ(凹部の入り口幅、開口部開口幅、開口径)、凹部深さのサイズに関して範囲を示す場合には、上記と同様に、凹凸ピッチ、凹部深さの最小値と最大値の範囲を示すものとする。
【0051】
一方、大ディンプル形成に使用済メディアを用いた試料(2)では、図7に示したように、大ディンプルは、凹凸ピッチが35~100μm程度の範囲、凹部深さが5~7μm程度の範囲、小ディンプルは、凹凸ピッチが2~15μm程度の範囲、凹部深さが1~3.2μm程度の範囲となっており、大ディンプルの小ディンプルに対する比の範囲は、それぞれ凹凸ピッチの比が約2~50程度の範囲、凹部深さの比が1.5~7程度の範囲となっている。使用したメディアでは、摩滅や欠けにより粒径が小さくなったため、大ディンプルの大きさや深さが小さくなったことが影響したものと考えられる。
【0052】
粒子サイズ1μm以下のものが含まれる粉体(付着抑制の対象物)としては、コンソメパウダー、小麦粉、コーンスターチ、片栗粉、抹茶パウダー、ココアパウダー、粉糖、カレー粉などの食用粉体や医薬品粉体(粉末薬)などの粉体があり、1μm以下の粒子サイズのものや、200μm以上の粒子サイズのものが含まれると共に、形状も様々なものが含まれる場合が想定される。このような1μm以下の小さい粒子サイズのものは、それらが周囲の粉体と引き付け合って比較的大きな塊(粉体の凝集体)を形成し、その塊が粉体接触面の表面全体に点在するといった現象が生じるものと考えられる。このような微細な粒子(一次粒子)と、複数の一次粒子が凝集した塊状の凝集体(二次粒子)と、を混合した混合粉末(集合体)の中でも、粒子に油分や水分が付着したコンソメパウダーやカレー粉においては、比較的均一な凹部入口サイズ(開口幅、径など)を有するランダムな凹凸形状の表面では、すべての粒径の粉体の付着抑制は困難であった。
【0053】
そこで、本発明者等は、複合化したディンプル凹部を有する凹凸形状の表面(複合ディンプル面)を形成する方法を見い出し、その形状を表面に形成した粉体接触部材(例えばステンレス鋼板)に、食品用粉末(粉体)に多く使われている上記混合粉末(油分や水分が付着したコンソメパウダーやカレー粉などの混合粉体)に対して付着抑制効果があるという知見を得た。
【0054】
本発明者等は、当初、油分等が付着した粉末(粉体)の付着抑制には、油の濡れ性が小さい(撥油性が高い)表面が有効と考えた。しかしながら、図8のオリーブオイルによる接触核測定結果に示されるように、本発明に係る複合ディンプルを有する凹凸形状表面(複合ディンプル面)は、目視レベルでは油の濡れ性が高い(撥油性が小さい)結果となった。
そこで、高倍率で油の存在状況を観察したところ、図9に示すように、油は大きな凹部(大ディンプル)に集まり、小さな凹部(小ディンプル)にはほとんど存在しないといった興味深い状況であることがわかった。
【0055】
図9についてより詳細に説明すると、各表面処理面(大ディンプルのみの面(図9(A)・小ディンプルのみの面(図9(B))・複合ディンプル面(図9(C)))を有するSUS304#700板材(粉体接触部材)にオリーブオイル(Olive Oil)を0.5mL滴下し、1分間静止させ、その後オリーブオイルの広がりの境目を実体顕微鏡にて観察した(200倍)。
大ディンプルのみの面(図9(A))、もしくは小ディンプルのみの面(図9(B))はオリーブオイルが一面に広がっていき、母材表面が露出しないことを確認した。
【0056】
一方、複合ディンプル面については、表面の凸部が露出している。
これは、以下のようなメカニズム(理論)によるものと考えられる。
すなわち、母材表面に異なるサイズのディンプルが存在することで、そこに表面自由エネルギー差が生じ、油分は表面自由エネルギーが小さい大ディンプルの方に引き寄せられることによって、小ディンプルを持つ凸部から油分が引いていき、母材表面が露出するものと考えられる(図10参照)。
このような独特の特性を持つことから、複合ディンプル面(図9(C))では、露出した小ディンプルの凸部表面に粉体が接触することで、大ディンプルのみの面や小ディンプルのみの面に比べて、滑り性の改善及び付着抑制効果を発揮することができると考えられる。なお、このメカニズム(理論)は、撥油角の結果で大小ディンプル面が親油表面であったこととも一致する。
【0057】
実際に、粉末としてコンソメパウダー(コンソメスープ粉末)を用いて粉末の付着性を調べた結果、図11(B)に示すように、本発明に係る表面(複合ディンプル面)は、図11(A)の未処理のステンレス鋼板に比べて、粉末の付着抑制に優れることがわかった。
付着試験方法の詳細は、中性洗剤で洗浄後,エタノールで表面を清浄化した各試験片を45度に傾け、その上に大さじ1杯程度のコンソメパウダー(粒径数μm~数百μm)を各15回ずつ振り撒いた。その後、試験片表面をデジタルマイクロスコープ(KEYENCE VHX-7000)で観察した。
図11において、画像の白く見える部分が試験片表面に残ったコンソメパウダーである。鏡面(図11(A))の方は多く残っている一方、複合ディンプル面(図11(B))についてはほぼ残存がないことが確認できる。
【0058】
さらには、何種類かの食用粉末を用いて、種々の処理を施したステンレス表面を用いて、粉体(粉末)の付着性を相対的に評価した。それらの代表的な結果を、図12にまとめて示す。
付着性の判断は、図11(A)の未処理品のように、粒子集合体と微小な粒子の両方とも大きな面積で残存している場合を「著しく付着×」、粒子集合体もしくは微細粒子の一部が一部に残存するレベルを「多少付着△」に、図11(B)に示した本発明に係る複合凹凸形状(複合ディンプル)を有する面の結果(付着なし)のレベルを「良好〇」とした。
【0059】
図12の結果から、本実施形態に係る複合凹凸形状(複合ディンプル)を有する部材(実施例1~5)は、未処理ステンレス鋼板や比較的均一な凹部入口サイズ(開口部の開口幅)を有するランダムな凹凸形状の試料に比べて、食品用粉末に多く使われている上記混合粉末の付着抑制に顕著な効果が得られることがわかった。
【0060】
なお、本実施の形態に係る微小凹凸形成処理(ショット材投射処理)により形成される複合ディンプルのサイズについて、図6図7図12から、大ディンプル(大凹凸)の凹凸ピッチ(隣接する凹部の間隔、或いは隣接する凸部の間隔)は、150μm以下(製造ばらつき、測定ばらつきなどを考慮)であり、好ましくは30~150μm程度であり、凹部の深さは5~30μm程度(製造ばらつき、測定ばらつきなどを考慮)で、好ましくは5~20μm程度である。
また、小ディンプル(微小凹凸)の凹凸ピッチは、20μm以下、1.0~20μm程度(製造ばらつき、測定ばらつきなどを考慮)、好ましくは1.8~15μm程度であり、凹部の深さは1.0~5.0μm程度である。
また、大小ディンプルの凹凸ピッチの比率は、2~60:1程度であり、大小ディンプルの深さの比率は、2~20:1程度(製造ばらつき、測定ばらつきなどを考慮)であり、好ましくは1.5~10:1程度である。
【0061】
このように、本実施の形態に係る複合ディンプル面を有する粉体付着抑制部材によれば、粉体、特に、粒子サイズ1μm以下のものが含まれるような油分や水分が付着した粉体(凝集して塊となり易い粉体)に対しても、粉体と接触する表面への付着を抑制できる複合ディンプル面を有する粉体付着抑制部材及びその表面処理方法を提供することができる。
【0062】
ところで、本実施の形態に係る微小凹凸形成処理(ショット材投射処理)は、既知の噴射装置により、上述したような投射材(メディア、ショット材)を噴射して処理対象接触部材等の部材の表面に衝突させることで行うことができる。
【0063】
例えば、噴射装置としては、ブラスト装置を用いることができ、ブラスト装置の一例としては、例えば、株式会社不二製作所製の「PNEUMA BLASTER」(型式:SCシリーズ、SGシリーズなど)などを用いることができる。また、例えば、特開2019-25584号公報などに記載されているものを用いることができる。
【0064】
より具体的には、噴射粒体を部材の表面に向けて噴射する噴射装置としては、圧縮気体(空気、アルゴン、窒素等)と共に投射材(メディア、ショット材)の噴射を行う既知のブラスト加工装置(ブラスト処理装置)を使用することができる。
【0065】
そして、ブラスト加工装置(ブラスト処理装置)としては、圧縮気体の噴射により生じた負圧を利用して投射材を噴射するサクション式のブラスト加工装置,投射材タンクから落下した投射材を圧縮気体に乗せて噴射する重力式のブラスト加工装置,投射材が投入されたタンク内に圧縮気体を導入し、別途与えられた圧縮気体供給源からの圧縮気体流に投射材タンクからの投射材流を合流させて噴射する直圧式のブラスト加工装置、及び、上記直圧式の圧縮気体流を、ブロワーユニットで発生させた気体流に乗せて噴射するブロワー式ブラスト加工装置等が市販されているが,これらはいずれも前述した投射材の噴射に使用可能である。
また、水などの液体と共にショットを高圧で噴射するウォータージェットも使用することができる。
【0066】
ところで、本実施の形態では、多段階に分けて形成するディンプル状の微小凹部を、すべてショット材投射処理により、無数にランダムに形成することとして説明したが、例えば、処理対象接触部材等の部材の表面に化学研磨(化学エッチング)或いはプラズマ処理(例えばアルゴンボンバード処理)などを施して大凹凸を形成した後、その上に微小凹凸をショット材投射処理によりランダムに複数(多数)形成することもできる。但し、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明に係る大ディンプル及び小ディンプルは、化学エッチング、プラズマ処理、ショット材投射処理などの少なくとも一つ或いはこれらを適宜に組み合わせることによって形成することも可能である。
なお、化学研磨(化学エッチング)としては、例えば、塩酸・硝酸・硫酸・リン酸などの酸性薬剤や塩化鉄(III)などを任意の割合で水溶液に調製し使用することが想定される。
【0067】
また、処理対象接触部材等の部材の表面に複合凹凸形状(複合ディンプル)を形成することには、化学エッチング、プラズマ処理、ショット材投射処理などにより形成した複合凹凸形状(複合ディンプル)をその表面に有する型を用いて、例えば転写等により、処理対象接触部材等の部材の表面に複合凹凸形状(複合ディンプル)を形成する場合なども含まれるものである。
【0068】
なお、本発明に係る粉体付着抑制部材は、例えば、粉体が接触する粉体接触部材全般に適用でき、例えば、保管容器、収容容器(例えば、ホッパー等の容器)、運搬器具(ベルトコンベアの粉体載置部など)、滑落器具(例えば、シューターなど)、ふるい、撹拌器具、調理用ボール、調理用器具などを含む各種の粉体接触部材に適用可能である。
【0069】
また、本実施の形態は、例えばステンレス材であれば、処理前のベース材の♯400、♯700、2B等、表面の仕上げ仕様には拘らず、特に非磁性のオーステナイト系のステンレス(SUS303、304、316など)、どれでも同等の効果が得られると考えられる。また、ステンレス材以外の金属材料(例えば、鉄の場合には、例えばスチール(SS400など)、アルミニウム、チタン等の金属製或いは合金製など)であっても本発明は適用可能である。
【0070】
なお、本発明に係る粉体付着抑制部材は、樹脂製部材とすることも可能であり、その材料は特に限定されるものではない。例えばセラミックスとすることも可能である。
【0071】
ここで、本発明では、ショット材投射処理により形成された凹凸表面を形状或いは構造面から特定するために、レーザ加工等で予め設計された図面に従って形成される幾何学的かつ規則的な凹凸形状とは全く異なり、ディンプル状の微小凹部と凹部周辺に稜線状の凸部が、それぞれの形状、ピッチ、深さが不均一に形成されているという特定方法を用いている。
すなわち、「ショット材投射処理により表面に微小凹凸を形成した」という表現を用いる代わりに、「表面に、比較的大きなサイズのディンプル状の凹部とその周辺に稜線状の凸部を不均一に無数に形成した大凹凸を形成した」、「その大凹凸の上にそれらよりも微小なディンプル状の凹部とその周辺に稜線状の凸部を不均一に無数に形成した微小凹凸を形成した」などの特定方法(表現)を用いている。
しかしながら、先行技術などとの対比において、上記特定方法(表現)では、ショット材投射処理により形成された凹凸表面を、他と区別した特徴的な特定方法(表現)として採用することが難しくなる場合も想定される。
【0072】
このため、「ショット材投射処理により表面に微小凹凸を形成する」という特定方法(表現)により、ショット材投射処理により形成された凹凸表面を特定せざるを得ない状況が想定される。
従って、ショット材投射処理により形成された微小凹凸を形状、構造、特性等により特定することには、本願出願時において不可能・非現実的事情が存在しており、「ショット材投射処理により表面に微小凹凸を形成することで」という表現を用いざるを得ない場合があることについて、以下に説明しておく。
【0073】
ショット材投射処理は、投射粒(メディア)を、圧縮空気を介し秒速数十から百m以上の速度で加工対象表面に衝突させ、有意な寸法変化を伴わずに、その縁に凸部を有する略球面状のミクロンサイズの微小凹部を不規則に加工面の略全面に形成するものであり、ショット材投射処理においてメディアが衝突して微小凹部が形成される際には、クレーター状に、その周囲が隆起して凸部が形成され(図13参照)、この隆起した凸部は、他のメディアが衝突することで、凹まされるため凸部の高さは不規則となる。
【0074】
これに対して、レーザ加工や切削加工等の機械的加工は規則正しい凹部が形成されると共に、除去加工であるため凸部は形成されない(凹部の形成に伴って凸部が隆起されることはない)。このため、レーザ加工や切削加工等の機械的加工における微小凹部の周囲の凸部の高さは被加工材(レーザ加工されている部材)の表面(元々の素材表面)の高さに一致している(図14参照)。
【0075】
また、ショット材投射処理により形成される微小凹凸は無数に不規則に(ランダムに)形成されるため、当該ショット材投射処理により形成される表面テクスチャ(形状)は、研磨や研削処理などの表面を削って傷(すじ状などの溝)を付与する処理により形成される表面形状(テクスチャ)とは異なるが、表面粗さ計などにより測定すると、両者は数値的には似た値となってしまうため、表面粗さなどにより両者を区別することはできない。
【0076】
しかし、ショット材投射処理により形成される表面テクスチャ(形状)によって得られる効果(粉体付着抑制効果)は、研磨や研削処理などの表面を削って傷を付与する処理により形成される表面形状(テクスチャ)からは予想できない格別なものである。
また、数ミリオーダーのメディアを衝突させて残留応力を付与して疲労限を改善するショットピーニング処理からは、ショット材投射処理を施した表面が粉体付着抑制効果を有するといったことは到底予測できないものである。
【0077】
このように、ショット材投射処理により形成される微小凹凸は無数に不規則に(ランダムに)形成され、微小凹部及びその周囲の凸部の形状は不規則であり、その不規則性が本発明により奏される作用効果の源になっていることに鑑みれば、ショット材投射処理により形成された表面テクスチャ(形状)を特定するための用語として、「ショット材投射処理により形成された」という表現を用いる以外には、ショット材投射処理により形成された表面を特定することはできない。
以上のように、ショット材投射処理により形成された微小凹凸を形状、構造、特性等により特定することには、本願出願時において不可能・非現実的事情が存在している。
【0078】
ところで、本実施の形態では、少なくとも粉体と接触する領域の表面に凹凸を形成する処理であるショット材投射処理を2回(2段階)に分けて行う場合を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、2回以上の多段階で粒子サイズを変更してショット材投射処理を施す場合も含むものである。
【0079】
ところで、本発明は、上述した発明の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々変更を加え得ることは可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14