(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】炭化水素分解用触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 23/755 20060101AFI20230614BHJP
C01B 3/26 20060101ALI20230614BHJP
B01J 35/02 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
B01J23/755 M
C01B3/26
B01J35/02 311Z
(21)【出願番号】P 2022179693
(22)【出願日】2022-11-09
(62)【分割の表示】P 2022118022の分割
【原出願日】2020-09-17
【審査請求日】2022-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2019192383
(32)【優先日】2019-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020065450
(32)【優先日】2020-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、2020年度水素利用等先導研究開発事業/炭化水素等を活用した二酸化炭素を排出しない水素製造技術調査委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000139735
【氏名又は名称】株式会社伊原工業
(74)【代理人】
【識別番号】100180057
【氏名又は名称】伴 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】伊原 良碩
(72)【発明者】
【氏名】天野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】小林 剛
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-260119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01B 3/00-6/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルまたは鉄ニッケル合金からなる支持層表面に銅をめっきし、真空中、窒素ガス中もしくはアルゴンガス中で拡散処理を施すことによって得られた、実質的にニッケル単体、または、
CuまたはFeから選択される一つ以上の元素とニッケルとからなる露出した非担持ニッケル含有層を備えた炭化水素分解用触媒。
【請求項2】
請求項1に記載の炭化水素分解用触媒を原材料として、800℃に昇温して4時間~72時間、平均滞留時間14分超でメタンガスを接触させることによって得られた炭化水素分解用触媒。
【請求項3】
平均滞留時間が57分である請求項2に記載の炭化水素分解用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素分解用触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、メタン直接分解による水素ガス製造に使用される触媒金属としては、ニッケルが知られているが、メタン直接分解の高温反応時におけるニッケル微粒子同士の焼結による凝集を防ぐため、シリカ上に担持させたもの(特許文献1、非特許文献1)、ゼオライトに担持させるもの(特許文献2、特許文献3)、チタニアに担持させるもの(特許文献4)が提案されている。
【0003】
しかしながら、メタン分解により生じた炭素が触媒の活性点を覆ったり、ニッケル微粒子同士の焼結による凝集により、触媒活性が低下する問題は不可避である。
【0004】
ニッケル触媒の早期の失活を回避するため、2000年代後半以降、様々な触媒提案がなされている。
【0005】
例えば、担体を使用することなく、ニッケル粒子間に炭素粒子を介在させたものがあり(特許文献5)、温度500℃ではメタンの転化率が50%程度を維持し、600℃では65%、さらに800℃では初期で約90%と熱力学的平衡転化率に達するような高転化率が得られたとされるが、数時間程度の連続運転時間が実証された程度であり、経時的に劣化した触媒は、酸処理と焼成によって再生する必要がある。他にも、相似的に膨張可能な多孔性担体に触媒材料を担持した触媒があり(特許文献6)、転化率60%程度で長時間安定的に直接分解を行うことや、水素を10時間程度発生することが可能となったとあるが、最終的にはカートリッジ交換が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-220103号公報
【文献】特開2003-95605号公報
【文献】特開2003-54904号公報
【文献】特開2004-59340号公報
【文献】特開2004-261771号公報
【文献】特開2005-058908号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Chemistry Letters Vol. 28 (1999) No. 11 p.1179-1180
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記現状に鑑み、本発明は、触媒特性が低下しにくい、水素を長時間高収率で製造するための炭化水素分解用触媒を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためになされた本発明の1つの側面は、鉄、鋳鉄、鋼鉄、銅、ニッケル、銅合金、または、鉄ニッケル合金からなる支持層上に露出したニッケル含有層を備えた、炭化水素分解用触媒である。斯かる触媒は、支持層の金属や合金種を上記種類とすることで、触媒能力を変化させることができる。
【0010】
上記炭化水素分解用触媒は、基材とニッケル含有層との間に銅を含む中間層が形成されているか、または銅基材もしくは銅合金基材を使用することが好ましい。本構成によれば、銅を含む層が形成されていない場合や銅基材もしくは銅合金基材を使用しない場合に比べて水素生成効率を向上しやすい傾向がみられる。
【0011】
上記炭化水素分解用触媒は、前記支持層表面に銅をめっきし、真空中、窒素ガス中もしくはアルゴンガス中で拡散処理を施す工程と、前記ニッケル含有層を形成する工程とによって得られたものであるか、または、前記ニッケルもしくは鉄ニッケル合金からなる支持層表面に銅をめっきし、真空中、窒素ガス中もしくはアルゴンガス中で拡散処理を施すことによって得られたものであることが好ましい。本構成により、めっきされた銅が支持層内部に拡散し、結果として露出面にニッケル含有層が現れるか、銅めっきが表面に残っている場合でも露出したニッケル含有層を別途形成することによって水素生成効率を向上しやすい傾向がみられる。
【0012】
上記炭化水素分解用触媒は、銅を含む中間層の厚みが、1~1000μmである。銅を含む層の厚みが上記範囲内であると、800℃での連続運転を行っても溶けにくく、触媒能力を向上することができる。
【0013】
上記目的を達成するためになされた本発明の他の側面は、以上のいずれか1つの特徴を備えた炭化水素分解用触媒を、800℃に昇温して4時間~72時間、平均滞留時間14分超、より好ましくは30分以上、120分以下でメタンガスを接触させることによって得られた炭化水素分解用触媒である。上記条件で処理を行うと、触媒性能は上昇し、水素製造効率も安定化する傾向にある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、長期間にわたって触媒の劣化が生じにくい高効率の炭化水素分解用触媒を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る炭化水素分解用触媒を収容した触媒試験装置の1態様を示す写真。
【
図2】本発明に係る炭化水素分解用触媒を収容した触媒試験装置の1態様を示す模式図。
【
図3a】純Ni板の触媒性能の経時変化を示すグラフ。
【
図3b】純Ni板の最終日のデータロガーの結果を示すグラフ。
【
図4a】SPC/Niめっき板の触媒性能の経時変化を示すグラフ。
【
図4b】SPC/Niめっき板の最終日のデータロガーの結果。
【
図5a】SPCにCuめっき中間層を積層後、Niめっき板をした場合の触媒性能の経時変化を示すグラフ。
【
図5b】SPCにCuめっき中間層を積層後、Niめっき板をした場合の最終日のデータロガーの結果。
【
図6a】パーマロイ/Niめっき板の触媒性能の変化を示すグラフ。
【
図6b】パーマロイ/Niめっき板の最終日のデータロガーの結果。
【
図7a】Cu/Niめっき板の触媒性能の経時変化を示すグラフ。
【
図7b】Cu/Niめっき板の3日目のデータロガーの結果。
【
図8】コンスタンタン板の触媒性能の経時変化を示すグラフ。
【
図9a】コンスタンタン/Niめっき板の触媒性能の変化。
【
図9b】コンスタンタン/Niめっき板の最終日のデータロガーの結果。
【
図10】Ni板に施したCuめっきを真空中拡散処理した後、Niめっきを施して得られた触媒の水素製造効率の経時変化を示すグラフ。
【
図11】実験終了後に表面に付着した炭素を燃焼除去して得られた触媒表面の顕微鏡写真。
【
図14】Ni板に施したCuめっきをAr中で拡散処理して得られた触媒の水素製造効率の経時変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態について以下に適宜図面を参照して説明する。
【0017】
本発明の炭化水素分解用触媒は、露出したニッケル含有層を備えている。「ニッケル含有層」とは、触媒成分としてのニッケル含有成分を含む層を意味する。ニッケル含有成分は、ニッケル単体であってもよいし合金であってもよく、ニッケルのほか、Cu、Rh、Ru、Ir、Pd、Pt、Re、Co、Fe、Cr、Al、Mo、Nb、Ti、W、Ta、P等から選択される一つ以上の元素を含んでいてもよい。なお、「露出したニッケル含有層」とは、炭化水素反応物が接触可能なニッケル含有層を意味し、目視で露出しているニッケル含有層には限定されない。
【0018】
ニッケル含有層は、露出した非担持ニッケル含有層であってもよい。「非担持」とは、触媒成分としてのニッケル含有成分が、活性炭や多孔性酸化物等の多孔性担体上で粒子として分散して存在しているのではなく、互いに組織化されて存在することを意味する。「組織化」とは、粒子同士が一部領域において溶着していることであってもよいし、全部領域で溶着していることであってもよいし、全体が溶融した後、冷却固化していることであってもよい。ニッケル含有層は、好ましくはmmレベル、より好ましくはμmレベル、さらに好ましくはnmレベルで組織化している。なお、「露出した非担持ニッケル含有層」とは、炭化水素反応物が接触可能な非担持ニッケル含有層を意味し、目視で確認できる非担持ニッケル含有層には限定されない。ニッケル含有層は、好ましくは、ニッケル含有めっき層またはニッケル含有溶射層である。
【0019】
ニッケル含有層の厚みは、通常、5μm~200μm程度に形成される。200μmより厚いと、触媒能力を向上する目的では、経済的に見合わない場合がある。
【0020】
ニッケル含有層の形成方法としては、電解めっき、無電解めっき、置換めっき、真空蒸着法等の公知の形成方法を採用することができる。
電解めっき条件としては、自動車部品等へのニッケルめっきに使用される一般的条件を採用することができる。
【0021】
本発明の炭化水素分解用触媒は、ニッケル含有層の支持層として、鉄、銅、ニッケル、鋼鉄、鋳鉄、鉄ニッケル合金、または、銅合金を備える触媒である。
本明細書において、「支持層」とは、ニッケル含有層を積層する土台となる層を意味する。したがって、支持層は、ニッケル含有層に直接接している必要はなく、1または2層以上の中間層を介して支持層を形成していてもよい。支持層は、ニッケル含有層を積層する前の基材(後述する構造体であることもある)そのものであってもよいし、基材上に積層した層であってもよい。
鉄とは、炭素量が約0.02%未満の鉄単体または鉄合金を意味する。
鋼鉄としては、炭素量が約0.02から2.14%の鉄合金を意味する。鋼鉄としては、特に限定されないが、例えば、軟鋼(SPC)のほか、炭素工具鋼、合金工具鋼、ステンレス鋼等が挙げられる。
鋳鉄とは、炭素量が約2.14%を超える鉄合金を意味する。
銅合金とは、銅に1種以上の金属元素および/または非金属元素を添加したものを意味し、例えば、コンスタンタン、モネルメタル等の銅ニッケル合金のほか、洋白、白銅等の銅とニッケルとそれ以外の成分とを含む合金、黄銅等のニッケル以外の元素と銅とを含む合金が挙げられ、クロム、モリブデン、コバルト等の遷移元素が含まれていてもよい。
鉄ニッケル合金とは、鉄とニッケルとの合金、または、鉄とニッケルに必要に応じて1種以上の金属元素および/もしくは非金属元素を添加したものを意味し、鉄ニッケル合金としては、例えば、パーマロイ、アンバー等が挙げられ、クロム、モリブデン、コバルト等の遷移元素が含まれていてもよい。パーマロイとしては、ニッケル含有量が鉄より多いパーマロイ(例えば、JIS規格でいうパーマロイA、パーマロイC)のみならず、ニッケルより鉄が多く含まれる一部のパーマロイ(例えば、JIS規格でいうパーマロイB、パーマロイD)も含まれる。参考までに典型的なパーマロイの組成を以下に示す。
【0022】
【0023】
なお、ニッケル含有層の支持層がニッケル、銅ニッケル合金または鉄ニッケル合金である場合、本発明の炭化水素分解用触媒は、ニッケル含有層と支持層とが一体になった、Ni単体、銅ニッケル合金または鉄ニッケル合金そのものであってもよいし、Ni単体、銅ニッケル合金または鉄ニッケル合金からなる支持層上に該支持層とは異なる成分組成のニッケル含有成分を含む層が積層されたものであってもよい。
【0024】
支持層の厚さは、支持層が基材である場合は、基材の耐熱性や加工性等の観点で適宜選択され、通常0.5mm~10mmである。
【0025】
本発明の炭化水素分解用触媒は、支持層とニッケル含有層との間に銅を含む中間層を備えたものであることが好ましい。
銅を含む中間層は、銅単体または銅合金からなる層であって、支持層やニッケル含有層とは組成上明確に区別される層を意味する。銅合金は、銅のほか、Zn、Al,Sn,Niから選択される一つ以上の元素を含んでいてよい。
【0026】
銅を含む中間層の厚みは、1~1000μmであることが好ましい。1μmより薄いと、溶けやすく800℃程度の反応温度に耐えられない場合がある。一方、1000μmより厚くても、触媒能力を向上する目的では、経済的に見合わない場合がある。中間層の厚みのより好ましい下限は、1.5μm、更に好ましい下限は、2μm、より好ましい上限は、500μm、更に好ましい上限は、200μmである。
【0027】
銅を含む中間層の形成方法としては、めっき(電解めっき、無電解めっき)、溶射(プラズマ溶射、クラスタイオンビーム、ガスデポジション、CS法、WS法、高速固体粒子堆積法)等の公知の形成方法を採用することができ、一般に、層厚が薄くてよい場合は、主に電解めっきを、厚くしたい場合は、主にプラズマ溶射を採用することができる。
電解めっき条件としては、自動車部品等への銅電解めっきに使用される一般的条件を採用することができる。
プラズマ溶射条件としては、自動車部品等への銅溶射に使用されるプラズマ溶射法の一般的条件を採用することができる。
【0028】
本発明の炭化水素分解用触媒は、支持層表面に銅をめっきし、真空中、窒素ガス中もしくはアルゴンガス中で拡散処理を施す工程と、ニッケル含有層を形成する工程とによって得られたものであるか、または、ニッケルもしくは鉄ニッケル合金からなる支持層表面に銅をめっきし、真空中、窒素ガス中もしくはアルゴンガス中で拡散処理を施すことで得られたものであることが好ましい。
拡散処理は、従来公知の手法、温度および時間で行ってもよいが、めっきされた銅が支持層内部に拡散し、結果として露出面にニッケル含有層が現れるか、銅めっきが表面に残っている場合でも露出したニッケル含有層を別途形成することができる条件であれば特に限定されない。またこの手法によって炭化水素分解用触媒を得る場合は、銅を含む中間層が明瞭に形成されなくてもよい。
なお、コスト的にはかさむが、銅めっきと拡散処理に代えて、ニッケルもしくは鉄ニッケル合金からなる支持層表面に銅をイオン注入する方法等も採用しうる。
【0029】
本発明の炭化水素分解用触媒がNi単体、銅ニッケル合金または鉄ニッケル合金そのものである場合以外で、明瞭に層が形成されている場合の各層の組み合わせとしては、特に限定されないが、支持層/表層、支持層/中間層/表層、又は、支持層/第1中間層/第2中間層/表層の順で、例えば、Fe/Cu/Ni、Fe/X/Cu/Ni、冷間圧延鋼板(SPC)/Ni、SPC/Cu/Ni、炭素工具鋼(SK5)/Ni、高張力鋼/Ni、パーマロイ/Ni、パーマロイ/Cu/Ni、パーマロイ/X/Cu/Ni、パーマロイ/Cu/X/Ni、コンスタンタン/Ni、コンスタンタン/X/Ni、Cu/Ni、Cu/X/Ni、Ni/Cu/Ni、Ni/X/Cu/Ni、Ni/Cu/X/Ni等が挙げられる。ここで、Xは、Zn、Sn,Rh、Ru、Ir、Pd、Pt、Re、Co、Fe、Cr、Al、Mo、Nb、Ti、W、Ta、P等から選択される、CuまたはNi以外の1つ以上の元素からなる層である。
【0030】
本発明の炭化水素分解用触媒は、構造体触媒であることが好ましい。構造体を使用することから、例えば、炭化水素の直接分解反応における固体生成物の付着により、ニッケル系金属の触媒機能が低下した場合でも、その分離が粉体触媒に比べて容易であり、分離手法についても多種多様な方法を採用することができる。
本明細書において「構造体触媒」は、粒子、板、多孔体、フェルト、メッシュ、ファブリックまたはエキスパンドメタルから選択される構造体それ自体が触媒として機能する触媒であるか、または、当該構造体をベースとする触媒である。構造体をベースとする触媒としては、触媒成分を含むスラリー中にハニカム等の形状を有する基材を含浸して得られるものを指すのが一般的であるが、本発明の目的においては、上述のように、構造体上に、溶射、めっき等によって露出した非担持触媒層(めっき層、溶射層)を形成したものであることが好ましい。
粒子は、直径が0.1~30mm、好ましくは1~30mm、より好ましくは5~30mmの粒径を有する粒子である。
板は、単一層で構成されていても、異なる材料からなる2以上の層の合板であってもよい。
多孔体は、連続気孔を持つ多孔体である。多孔体は、好ましくは3次元網目構造を有する。気孔径は、通常300~4000μm程度、好ましくは1100~4000μm、気孔率は、80%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、比表面積は、200m2/m3~6000m2/m3、好ましくは500m2/m3~8500m2/m3である。代表的なものとしては、住友電工社製のセルメット(登録商標)等が挙げられる。
フェルトとは、ファイバー状の構成材をランダムに交絡させて積層し、必要に応じて焼結したものであり、ニードルパンチウェブ、繊維焼結体が含まれる。ニードルパンチウェブおよび繊維焼結体は、繊維径10~150μm、空隙率が約50~80%、目付け量(weight)にして50~±50,000g/m2、厚み(thickness)0.1mm~5.0mmとすることができる。
メッシュとは、ファイバー状の構成材を平織もしくは綾織の別、または、緯編みもしくは経編みの別を問わず、任意の織り方で織るか任意の編み方で編み、適宜交点を融着させたものであり、線径にして30~800μm、メッシュ数にして5~300/インチのものを好適に採用することができる。
ファブリックとは、メッシュ同士を任意の編み方で連結した編み物である。
エキスパンドメタルとは、金属板を特殊な機械によって所定間隔で千鳥状に切れ目を入れて押し広げ、菱形あるいは亀甲形の網目状に加工したものである。メッシュ寸法は、通常、SWが25mm~130mm、LWが20mm~320mm、ストランド寸法は、板厚が1mm~8.5mm、Wが1.2mm~9.5mmである。
構造体は、上記列挙したもののうちの1種であってもよいし、2種以上を組み合わせた複合構造体であってもよい。
【0031】
以上のような構造体触媒の製造方法には、原構造体に対して、ブラスト加工を施す工程を含んでいてもよい。構造体触媒は、原構造体が非ニッケル系金属からなるものであれば、通常ポーラスメッキ加工またはニッケルメッキ加工によってニッケルを含む層を原構造体表面に積層することで製造することができ、次いで適宜ブラスト加工を行えば、表面が多孔質状の構造体触媒を製造することができる。一方、原構造体がニッケル系金属からなるものであれば、ブラスト加工を行うことで、表面が多孔質状の構造体触媒を製造することができる。原構造体がニッケル-アルミニウム合金であれば、アルカリ溶解処理する方法を採用することもできる。
【0032】
本発明の炭化水素分解用触媒が直接分解または水蒸気改質の対象とする炭化水素は、メタン、エタン、エチレン、プロパンなどの脂肪族炭化水素、シクロヘキサン、ジクロペンタンなどの環状脂肪族炭化水素、べンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素などがあるが、好ましくは直鎖状脂肪族炭化水素であり、より好ましくは、メタン、エタンまたはプロパンであり、さらに好ましくはメタンである。
【0033】
上記炭化水素分解用触媒は、以上に述べた少なくとも1つの特徴を備えた炭化水素分解用触媒を原材として、800℃に昇温して4時間~72時間、平均滞留時間14分超120分以下でメタンガスを接触させることによって得られたものであってもよい。平均滞留時間が14分以下であると、高い触媒活性を有する表面構造が得られにくくなる場合がある一方、120分を超えても、炭化水素分解用触媒の生産性の観点で有利になることはない。メタンガスとの接触時間の好ましい下限は、6時間、より好ましい下限は、7時間、好ましい上限は、42時間である。平均滞留時間のより好ましい下限は30分であり、更に好ましくは57分である。
【0034】
以下、上述した構造体触媒を使用した装置の実施例について詳述する。
【0035】
(実施例1-純Ni板を用いた昇温試験)
図1に示す円筒形のSUS304製滞留式小型反応炉1(反応区画容積:約570cm
3)の周囲を
図2に示すヒーター2(品番:FPS-100、制御方式:PID方式、メーカー:フルテック社製)で覆い、炉の上端から厚さ0.35mm*幅30mm*長さ300mmの純ニッケル板状触媒3(品番:K14062、ASTMB162準拠およびJISH4551準拠、900℃1分水焼入れ)を2枚、互いに2mm間隔を開けて吊り下げ、炉の周壁上端付近に設けたメタン供給パイプ4から板状触媒と平行な流れになるように圧力0.2MPa、流量10mL/分でメタンを導入しながら装置温度を上げていき、800℃に到達してから1日あたり8時間連続して合計4日間、炭素直接分解反応を実施した。なお、温度は、炉の上蓋を貫通して中心部に達するように挿入した熱電対5によって常時計測を行いつつ、水素濃度は、炉の周壁下端に設けた大気放出する生成ガス排出パイプ8に気体熱伝導式ガスアナライザ6(ゼロガス:都市ガス13A、スパンガス:水素100%、ガス流量:1.0L/min、チノー社製)を取付けて計測した。結果を
図3aおよび
図3bに示す。なお、
図3bから明らかなように、安全性のため、各日8時間連続運転後は、炉心を冷却し、翌日室温から再度800℃まで加熱した。その結果、ニッケル板状触媒の水素製造効率は、4日目には水素ガス濃度で約11%まで低下してしまうことがわかった。
【0036】
(実施例2-ハステロイの触媒性能の変化試験)
Ni合金であるハステロイ(品番:Alloy C-276、ThyssenKrupp製)を板状触媒としたときの水素製造効率は、3日間のテスト期間中ほぼ変動なく、10%であった。
【0037】
(実施例3-SPCにNiめっきをした場合の触媒性能の変化試験)
含有炭素のない冷間圧延鋼板(品番:COLD ROLLED STEEL SHEET IN COIL DULL FINISHED、JFEスチール株式会社製)にNiめっき(膜厚10μ)を施したものを板状触媒として用いて、実施例1と同様の条件で水素製造効率を調査した結果を
図4aおよび
図4bに示す。水素製造効率は、4日間で32.5%に収束した。
【0038】
(実施例4-SPCにCuめっきの中間層を積層後、Niめっきをした場合の触媒性能の変化試験)
実施例3で使用した冷間圧延鋼板にCuめっきの中間層(膜厚2~3μm)を積層後、実施例3と同様の条件でNiめっきを施したものを板状触媒として用いて、実施例1と同様の条件で水素製造効率を調査した結果を
図5aおよび
図5bに示す。水素製造効率は、5日間で40%に収束した。
【0039】
以上の
図4および
図5を参照して水素濃度の経時変化について見ると、Ni等の単体材料の場合(実施例1)は、時間経過とともに水素製造効率が低下した一方、支持層として触媒の機能がない軟鋼である鉄を用いてこれにNiめっき被覆した場合(実施例3)は、水素製造効率が維持された。さらに、銅を含む中間層を設けた場合(実施例4)、中間層がない場合に比べて水素製造効率が向上する効果が得られた。
【0040】
(実施例5-パーマロイにNiめっきをした場合の触媒性能の変化試験)
パーマロイ(パーマロイB、YFN-45-R、Ni含有率45%、DOWAメタル社製)に実施例3と同様の条件でNiめっきを施したものを板状触媒として用いて、実施例1と同様の条件で水素製造効率を調査した結果を
図6aおよび
図6bに示す。水素製造効率は、9日間で68%まで上昇した。このように、支持層として鉄ニッケル合金であるパーマロイを用いた場合も、時間経過と共に水素製造効率が上昇することがわかった。
【0041】
(実施例6-Cu支持層にNiめっきをした板の触媒性能の変化試験)
Cu(1100)に実施例3と同様の条件でNiめっきを施したものを板状触媒として用いて、実施例1と同様の条件で水素製造効率を調査した結果を
図7aおよび
図7bに示す。水素製造効率は、4日間で93.8%に収束した。ほぼ理論値に近い結果が出た。
【0042】
(実施例7-コンスタンタンの触媒性能の変化試験)
コンスタンタン(品番:CN-49、大同特殊鋼製)を板状触媒として用いて、実施例1と同様の条件で水素製造効率を調査した結果を
図8に示す。水素製造効率は、5日間で37%まで上昇した。
【0043】
(実施例8-コンスタンタンにNiめっきをした場合の触媒性能の変化試験)
実施例7で用いたのと同じコンスタンタン板に実施例3と同様の条件でNiめっきを施したものを板状触媒として用いて、実施例1と同様の条件で水素製造効率を調査した結果を
図9aおよび
図9bに示す。水素製造効率は、90%に収束した。
【0044】
図7および
図9に示すように、支持層が銅または銅合金である場合、Niめっき触媒の水素製造効率は飛躍的に向上することがわかった。また
図8に示すように、銅ニッケル合金自体も高い触媒性能を有することがわかった。
【0045】
(実施例9-Ni板にCuを真空中拡散処理した後、Niめっきをした場合)
厚さ0.6mm*幅30mm*長さ300mmのニッケル板上に1~2μm厚の銅めっきを施し、900℃で13時間、真空炉内で拡散処理した。得られた被処理物の被処理面をX線回折装置で調べたところ、銅めっき部がニッケル板内部に拡散された結果、表面には銅は検出されなかった。この被処理物にさらに10μm厚のNiめっきを施したものを板状触媒として用いて、0.2MPaの内圧で3日間維持し、次いで0.4MPaで1日間、0.5MPaで2日間を維持した。実施例1と同様の条件で水素製造効率を調査した結果を
図10に示す。水素製造効率は、4~8時間で急激に増大し、3日目に90%に収束した。その後、4日目の試験でメタン供給圧を0.4MPa、5日目に0.5MPaへと段階的に上昇させても殆ど変わらなかった。さらに6日目は流量の上昇試験を実施した。その結果、10ml/分~30ml/分までは88.0%~82.7%で推移し、40ml/分にしたところで、水素濃度が低下し、不安定になった。以上の結果から、平均滞留時間を3分の1に下げても触媒性能は劣化せず、十分な水素製造効率を保つことができることがわかった。
【0046】
実験終了後に表面に付着した炭素を電熱ヒーターにより空気中で燃焼除去して得られた触媒表面を観察したところ、
図11に示すように表面がモノリス構造化していた。
【0047】
図10に示すように、拡散処理を行わなかったもの(83%)と比較して拡散処理を行ったものは、水素製造効率が上昇したのみならず、触媒作用の立ち上がりも向上していた。
【0048】
(実施例10-Ni板にCuをAr雰囲気中で拡散処理した場合)
厚さ1.0mm*幅30mm*長さ300mmのニッケル板上に1~2μm厚の銅めっきを施し、Arガス中で拡散処理した。
図12および
図13に示す得られた被処理物の被処理面をX線回折装置(K線)で調べたところ、表面には銅は検出されなかった。これを板状触媒として用いて、実施例1と同様の条件で水素製造効率を調査した結果を
図14に示す。水素製造効率は、4~8時間で急激に増大し、最終的には約85%に収束した。これは
図14中に掲載した実施例1(純Ni板)の結果と比べると大きな特性向上であることがわかる。Cuがニッケル板表面に拡散することにより、ニッケル表層部が変化したものと考えられる。
【0049】
なお、本発明の実施の形態は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、また、上記実施形態に説明される構成のすべてが本発明の必須要件であるとは限らない。本発明は、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当該技術的範囲に属する限り種々の改変等の形態を採り得る。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の炭化水素分解用触媒を組み込んだ水素生成装置は、生成ガス中に含まれる水素純度を上げる装置を後段に付けることにより、固体高分子形燃料電池[PEFC]を搭載した燃料電池車へのオンサイトステーション等を通じた水素供給に好適に適用可能である。
【0051】
また近年、水素に加えて、都市ガスインフラを活用してメタンを直接利用できる固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell : SOFC)が注目を集めている。SOFCでは、従来メタンの熱分解反応による金属ニッケル表面への炭素析出や、生成COの金属ニッケル表面への吸着による電極反応阻害作用による性能低下の問題が認識されているが(佐藤ら著、「燃料電池・メタン利用技術との観点から」、J.Plasma Fusion Res. Vol.87,No.1(2011)36-41頁)、この前段に配する燃料改質器として本発明の炭化水素分解用触媒を組み込んだ水素生成装置を利用すれば、SOFCにおける析出炭素の低減や長寿命化につながることが期待される。
【符号の説明】
【0052】
1 小型反応炉
2 ヒーター
3 触媒
4 メタン供給パイプ
5 熱電対
6 ガスアナライザ
8 生成ガス排出パイプ