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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】腸内dysbiosis判定システム
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20230614BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20230614BHJP
   G16H 50/20 20180101ALI20230614BHJP
   G16H 50/70 20180101ALI20230614BHJP
【FI】
C12Q1/04
C12M1/34 A
G16H50/20
G16H50/70
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018213199
(22)【出願日】2018-11-13
(65)【公開番号】P2020078273
(43)【公開日】2020-05-28
【審査請求日】2020-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】515099908
【氏名又は名称】株式会社サイキンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100187964
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】竹田 綾
(72)【発明者】
【氏名】吉良 文孝
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 諭史
(72)【発明者】
【氏名】浅野 さとみ
(72)【発明者】
【氏名】志田 結
(72)【発明者】
【氏名】前川 紗有美
(72)【発明者】
【氏名】中村 瑞樹
(72)【発明者】
【氏名】沢井 悠
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/118924(WO,A1)
【文献】特表2017-514530(JP,A)
【文献】特開2016-214111(JP,A)
【文献】国際公開第2018/148220(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/156251(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/053308(WO,A1)
【文献】特開2017-109973(JP,A)
【文献】国際公開第2018/115519(WO,A1)
【文献】Almonacid, D. E. et al.,16S rRNA gene sequencing and healthy reference ranges for 28 clinically relevant microbial taxa from gut microbiome,PLoS ONE,2017年,12(5)
【文献】Castaner, P. et al.,The gut microbiome profile in obesity: a systematic review,International Journal of Endocrinology,2018年03月22日,4095789
【文献】Vandeputte, D. et al.,Stool consistency is strongly associated with gut microbiota richness and composition, enterotypes and bacterial growth rates,Gut,2016年,65,57-62
【文献】Casen, C. et al.,Deviations in human gut microbiota: a novel diagnostic test determining dysbiosis in patients with IBS OR IBD,Alimentary Pharmacology and Therapeutics,2015年,42,71-83
【文献】Valeur, V. et al.,Exploring gut microbiota composition as an indicator of clinical response to dietary FODMAP restriction in patients with irritable bowel syndrome,Digestive Diseases and Sciences,2018年01月04日,63,429-436
【文献】Liu Y. et al.,Small bowel transit and altered gut microbiota in patients with liver cirrhosis,Frontiers in Physiology,2018年05月01日,Vol.9, No.470,pp.1-11
【文献】AlShawaqfeh MK. et al.,A dysbiosis index to assess microbial changes in fecal samples of dogs with chronic inflammatory enteropathy,FEMS Microbiology Ecology,2017年10月11日,Vol.93, No.11,p.1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-5/28
C12Q
MEDLINE/BIOSIS/REGISTRY/CAPLUS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疾患非特異的な腸内dysbiosisを判定するための情報を提供する方法であって、
判定基準値設定用集団の腸内細菌に関する、多様性関連指標、短鎖脂肪酸産生指標、腸管免疫関連指標及び口腔内細菌関連指標に含まれるそれぞれの採点項目について、腸内dysbiosisの判定基準値を設定して当該判定基準値に対する判定スコアを割り当てる工程、
被験者個人又は被験者集団(ユーザ)から得られた前記採点項目の検査値を、前記判定基準値と照合して、当該照合された判定基準値に対応する判定スコアを算出する工程、
前記算出された判定スコア同士を加算して腸内フローラスコアを算出する工程、並びに
前記腸内フローラスコアを、前記ユーザの疾患非特異的な腸内dysbiosisを判定するための情報として提供する工程
を含む、前記方法であって、
多様性関連指標が、菌種数と各菌の占有率の均等度を反映する指標であって多様性、FB比、Bacteroidetes門に属する菌種数及び最優勢属菌の占有率からなる群から選ばれる少なくとも1つの項目を含み、
短鎖脂肪酸産生指標が、短鎖脂肪酸産生能を有することが認められている腸内細菌群であってビフィズス菌、乳酸産生菌群、酪酸産生菌群及び酪酸産生菌の菌種数からなる群から選ばれる少なくとも1つの項目を含み、
腸管免疫関連指標が、腸管免疫を修飾する物質を産生することが認められている腸内細菌群であってフィーカリバクテリウム属菌、アッカーマンシア属菌、クリステンセネラ属菌、アリスティペス属菌及びクロストリジウム属菌からなる群から選ばれる少なくとも1つの項目を含み、
口腔内細菌関連指標が、口腔内に多く存在することが認められている腸内細菌群であってフソバクテリウム属菌、ストレプトコッカス属菌、口腔内細菌占有率及びガンマプロテオバクテリア綱の菌種数からなる群から選ばれる少なくとも1つの項目を含む、
前記方法。
【請求項2】
判定基準値は、前記指標に含まれるそれぞれの項目の判定基準値設定用集団の検査値分布の比較に基づいて設定されるものである、請求項に記載の方法。
【請求項3】
疾患非特異的な腸内dysbiosisの判定システムであって、
判定基準値設定用集団の腸内細菌に関する、多様性関連指標、短鎖脂肪酸産生指標、腸管免疫関連指標及び口腔内細菌関連指標に含まれるそれぞれの項目について、腸内dysbiosisの判定基準値を記憶して当該判定基準値に対する判定スコアを割り当てる手段、
被験者個人又は被験者集団(ユーザ)から得られた前記採点項目の検査値を、前記判定基準値と照合して、当該照合された判定基準値に対応する判定スコアを算出する手段、
前記算出された判定スコア同士を加算して腸内フローラスコアを算出する手段、並びに
前記腸内フローラスコアを指標として、前記ユーザの疾患非特異的な腸内dysbiosisを判定する手段
を含む、前記システムであって、
多様性関連指標が、菌種数と各菌の占有率の均等度を反映する指標であって多様性、FB比、Bacteroidetes門に属する菌種数及び最優勢属菌の占有率からなる群から選ばれる少なくとも1つの項目を含み、
短鎖脂肪酸産生指標が、短鎖脂肪酸産生能を有することが認められている腸内細菌群であってビフィズス菌、乳酸産生菌群、酪酸産生菌群及び酪酸産生菌の菌種数からなる群から選ばれる少なくとも1つの項目を含み、
腸管免疫関連指標が、腸管免疫を修飾する物質を産生することが認められている腸内細菌群であってフィーカリバクテリウム属菌、アッカーマンシア属菌、クリステンセネラ属菌、アリスティペス属菌及びクロストリジウム属菌からなる群から選ばれる少なくとも1つの項目を含み、
口腔内細菌関連指標が、口腔内に多く存在することが認められている腸内細菌群であってフソバクテリウム属菌、ストレプトコッカス属菌、口腔内細菌占有率及びガンマプロテオバクテリア綱の菌種数からなる群から選ばれる少なくとも1つの項目を含む、
前記システム
【請求項4】
判定基準値は、前記指標に含まれるそれぞれの項目の判定基準値設定用集団の検査値分布の比較に基づいて設定されるものである、請求項に記載のシステム。
【請求項5】
疾患非特異的な腸内dysbiosisを判定するためのプログラムであって、コンピュータを、
判定基準値設定用集団の腸内細菌に関する、多様性関連指標、短鎖脂肪酸産生指標、腸管免疫関連指標及び口腔内細菌関連指標に含まれるそれぞれの項目について、腸内dysbiosisの判定基準値を記憶して当該判定基準値に対する判定スコアを割り当てる手段、
被験者個人又は被験者集団(ユーザ)から得られた前記採点項目の検査値を、前記判定基準値と照合して、当該照合された判定基準値に対応する判定スコアを算出する手段、
前記算出された判定スコア同士を加算して腸内フローラスコアを算出する手段、並びに
前記腸内フローラスコアを指標として、前記ユーザの疾患非特異的な腸内dysbiosisを判定する手段
として機能させるための前記プログラムであって、
多様性関連指標が、菌種数と各菌の占有率の均等度を反映する指標であって多様性、FB比、Bacteroidetes門に属する菌種数及び最優勢属菌の占有率からなる群から選ばれる少なくとも1つの項目を含み、
短鎖脂肪酸産生指標が、短鎖脂肪酸産生能を有することが認められている腸内細菌群であってビフィズス菌、乳酸産生菌群、酪酸産生菌群及び酪酸産生菌の菌種数からなる群から選ばれる少なくとも1つの項目を含み、
腸管免疫関連指標が、腸管免疫を修飾する物質を産生することが認められている腸内細菌群であってフィーカリバクテリウム属菌、アッカーマンシア属菌、クリステンセネラ属菌、アリスティペス属菌及びクロストリジウム属菌からなる群から選ばれる少なくとも1つの項目を含み、
口腔内細菌関連指標が、口腔内に多く存在することが認められている腸内細菌群であってフソバクテリウム属菌、ストレプトコッカス属菌、口腔内細菌占有率及びガンマプロテオバクテリア綱の菌種数からなる群から選ばれる少なくとも1つの項目を含む、
前記プログラム
【請求項6】
判定基準値は、前記指標に含まれるそれぞれの項目の判定基準値設定用集団の検査値分布の比較に基づいて設定されるものである、請求項に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸内dysbiosisという非特異的で多様な状態を判定するためのシステム及び判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの腸内には、約1000種類に及ぶ腸内細菌が生息しており、これらの細菌は、栄養源を供給したり、病原菌の繁殖を抑制することにより、ヒトの健康維持に重要な役割を果たしている。ところが、何らかの原因により、(i)腸内細菌の総菌数が著しく減少する、(ii)その構成比が変化してしまう、(iii)通常であれば菌数レベルの低い菌種が異常に増加する等の異常が生じる。このような腸内細菌叢の構成異常をGut Dysbiosis(腸内ディスバイオシス)という(非特許文献1)。
しかし、腸内細菌叢は、疾患ごとに異なる、ライフスタイルの内容により異なる等の多様性を有し、また、指標及び菌叢が多岐にわたっており、腸内dysbiosisの定義は研究者間で一致していない(非特許文献1)。
【0003】
他方、腸内細菌の検査結果を臨床医(医療従事者)が患者にフィードバックする際に、個々の指標や細菌の具体的特徴を説明することはできない。このため、医療従業者が患者等に対して、総合的に「良い菌叢」なのか「悪い菌叢」なのかを簡便に説明可能にする必要がある。
従来より、腸内細菌を用いた疾患予測システムに関する技術が知られているが(特許文献1~5)、腸内dysbiosisという非特異的かつ多様な状態について判定する方法については未だ十分に研究が進んでいるとはいえず、腸内dysbiosisを判定することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5645761号
【文献】特開2012-165716号
【文献】特表2005-523695号
【文献】特開2015-7985号
【文献】特表2014-523589号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Walker AD, Lavley TD. Pharmacological Research 69,(2013) 75-86.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、腸内dysbiosisという非特異的かつ多様な状態を、統一された指標、標準化された基準で判定可能にする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、腸内常在菌を利用した統一的な指標及び標準化された基準により簡便に評価することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)腸内dysbiosis の判定方法であって、
判定基準値設定用集団の腸内細菌に関する、多様性関連指標、短鎖脂肪酸産生指標、腸管免疫関連指標、口腔内細菌関連指標及び下痢便秘関連指標からなる群から選ばれる少なくとも1つの指標について、腸内dysbiosisの判定基準値を設定する工程、
被験者個人又は被験者集団(ユーザ)から得られた菌組成データを、前記判定基準値と照合して、前記それぞれの指標について判定スコアを算出する工程、
前記算出された判定スコア同士を加算して腸内フローラスコア を算出する工程、並びに
前記腸内フローラスコアを指標として、前記ユーザの腸内dysbiosisを判定する工程
を含む、前記方法。
【0008】
(2)多様性関連指標が、多様性、FB比、Bacteroidetes門に属する菌種数及び最優勢属菌の占有率からなる群から選ばれる少なくとも1つの項目を含む、(1)に記載の方法。
(3)短鎖脂肪酸産生指標が、ビフィズス菌、乳酸産生菌群、酪酸産生菌群及び酪酸産生菌の菌種数からなる群から選ばれる少なくとも1つの項目を含む、請求項1に記載の方法。
(4)腸管免疫関連指標が、フィーカリバクテリウム属菌、アッカーマンシア属菌、クリステンセネラ属菌、アリスティペス属菌及びクロストリジウム属菌からなる群から選ばれる少なくとも1つの項目を含む、(1)に記載の方法。
(5)口腔内細菌関連指標が、フソバクテリウム属菌、ストレプトコッカス属菌、口腔内細菌占有率及びガンマプロテオバクテリア綱の菌種数からなる群から選ばれる少なくとも1つの項目を含む、(1)に記載の方法。
(6)下痢便秘関連指標が、エンテロタイプである、(1)に記載の方法。
(7)判定基準値は、前記指標に含まれるそれぞれの項目の判定基準値設定用集団の検査値分布の比較に基づいて設定されるものである、(1)~(6)のいずれか1項に記載の方法。
【0009】
(8)腸内dysbiosisの判定システムであって、
被験者個人又は被験者集団(ユーザ)から得られた菌組成データを記憶する手段、
判定基準値設定用集団の腸内細菌に関する、多様性関連指標、短鎖脂肪酸産生指標、腸管免疫関連指標、口腔内細菌関連指標及び下痢便秘関連指標からなる群から選ばれる少なくとも1つの指標について、腸内dysbiosisの判定基準値を記憶する手段、
前記判定基準値を前記菌組成データと照合して、前記それぞれの指標について判定スコアを算出する手段、
前記算出された判定スコア同士を加算して腸内フローラスコアを算出する手段、並びに
前記腸内フローラスコアを指標として、前記ユーザの腸内dysbiosisを判定する手段
を含む、前記システム。
(9)多様性関連指標が、多様性、FB比、Bacteroidetes門に属する菌種数及び最優勢属菌の占有率からなる群から選ばれる少なくとも1つの項目を含む、(8)に記載のシステム。
(10)短鎖脂肪酸産生指標が、ビフィズス菌、乳酸産生菌群、酪酸産生菌群及び酪酸産生菌の菌種数からなる群から選ばれる少なくとも1つの項目を含む、(8)に記載のシステム。
【0010】
(11)腸管免疫関連指標が、フィーカリバクテリウム属菌、アッカーマンシア属菌、クリステンセネラ属菌、アリスティペス属菌及びクロストリジウム属菌からなる群から選ばれる少なくとも1つの項目を含む、(8)に記載のシステム。
(12)口腔内細菌関連指標が、フソバクテリウム属菌、ストレプトコッカス属菌、口腔内細菌占有率及びガンマプロテオバクテリア綱の菌種数からなる群から選ばれる少なくとも1つの項目を含む、(8)に記載のシステム。
(13)下痢便秘関連指標が、エンテロタイプである、(8)に記載のシステム。
(14)判定基準値は、前記指標に含まれるそれぞれの項目の判定基準値設定用集団の検査値分布の比較に基づいて設定されるものである、(8)~(13)のいずれか1項に記載のシステム。
【0011】
(15)腸内dysbiosisを判定するためのプログラムであって、コンピュータを、
判定基準値設定用集団の腸内細菌に関する、多様性関連指標、短鎖脂肪酸産生指標、腸管免疫関連指標、口腔内細菌関連指標及び下痢便秘関連指標からなる群から選ばれる少なくとも1つの指標について、腸内dysbiosisの判定基準値を記憶する手段、
被験者個人又は被験者集団(ユーザ)から得られた菌組成データを記憶する手段、
前記菌組成データを、前記判定基準値と照合して、前記それぞれの指標について判定スコアを算出する手段、
前記算出された判定スコア同士を加算して腸内フローラスコアを算出する手段、並びに
前記腸内フローラスコアを指標として、前記ユーザの腸内dysbiosisを判定する手段
として機能させるための前記プログラム。
(16)多様性関連指標が、多様性、FB比、Bacteroidetes門に属する菌種数及び最優勢属菌の占有率からなる群から選ばれる少なくとも1つの項目を含む、(15)に記載のプログラム。
(17)短鎖脂肪酸産生指標が、ビフィズス菌、乳酸産生菌群、酪酸産生菌群及び酪酸産生菌の菌種数からなる群から選ばれる少なくとも1つの項目を含む、(15)に記載のプログラム。
(18)腸管免疫関連指標が、フィーカリバクテリウム属菌、アッカーマンシア属菌、クリステンセネラ属菌、アリスティペス属菌及びクロストリジウム属菌からなる群から選ばれる少なくとも1つの項目を含む、(15)に記載のプログラム。
(19)口腔内細菌関連指標が、フソバクテリウム属菌、ストレプトコッカス属菌、口腔内細菌占有率及びガンマプロテオバクテリア綱の菌種数からなる群から選ばれる少なくとも1つの項目を含む、(15)に記載のプログラム。
(20)下痢便秘関連指標が、エンテロタイプである、(15)に記載のプログラム。
(21)判定基準値は、前記指標に含まれるそれぞれの項目の判定基準値設定用集団の検査値分布の比較に基づいて設定されるものである、(16)~(20)のいずれか1項に記載のプログラム。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、腸内dysbiosis判定方法及び判定システムが提供される。本発明の方法によれば、各種指標により、疾患非特異的に腸内dysbiosisを判定することが可能となった。
以下、本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のシステムのブロック図である。
図2】本発明のシステムの動作を示すフローチャートである。
図3】健常者コホートと罹患者コホートの腸内フローラスコアの分布を示す図である。
図4】腸内フローラスコアを計算した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.概要
本発明の方法、システム及びプログラムは、種々の様態が存在する腸内dysbiosisという非特異的な状態を、腸内常在菌を利用した統一的な指標により、あるいは標準化された基準により、簡便に評価可能にするものである。本発明者は、個々の被験者の病歴又は服薬歴に特異的に関連する腸内dysbiosis項目が存在することを見出した。また、個々の腸内dysbiosis項目を重み付け加算したフローラスコアが、複数疾患に非特異的に関連する指標であることを見出した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
【0015】
本発明においては、腸内dysbiosisを判定するために、腸内dysbiosis採点項目について、それぞれの項目ごとに判定基準値を設定する。判定基準値は、判定基準値設定用集団の腸内細菌に関する、多様性関連指標、短鎖脂肪酸産生指標、腸管免疫関連指標、口腔内細菌関連指標及び下痢便秘関連指標からなる群から選ばれる少なくとも1つを指標とし、それぞれの指標に対応する固有の値として割り当てられる。判定基準値設定用集団には、健常者の集団及び罹患者集団のいずれか一方又は両者を含む。
【0016】
次に、判定の対象ユーザである被験者個人又は被験者集団の菌組成データ(検査値)を読み込み、菌組成データのうち、腸内dysbiosis採点項目に該当するデー標について判定スコアを算出する。判定スコアとは、上記指標に含まれる腸内dysbiosis採点項目を、当該判定基準値と比較することにより割り当てた値(点数)を意味する。
そして、算出された判定スコア同士を加算して腸内フローラスコアを算出する。算出は、例えば、判定基準値設定用集団(健常者集団及び罹患者集団)の検査値分布に基づいた重み付け加算により行うことができる。この腸内フローラスコアに基づいて、腸内dysbiosisを判定する。なお、判定スコアは負の値を含み得る。従って、腸内フローラスコアの算出における「加算」には負の値の加算、すなわち減算も含まれる。
【0017】
腸内フローラスコアとは、ユーザが有する腸内dysbiosisを判定するための点数である。ユーザが複数の集団である場合は、その集団における腸内フローラスコアの全体の傾向(腸内フローラスコア分布)を抽出し、当該集団に属する個々の被験者が全体のどの位置に属するかを判断する。例えば、腸内フローラスコア分布を、統計解析に基づいて2次元又は3次元のグラフとして描画し、被験者が属するグラフ上の位置を判断する。判定基準値設定用集団内を層別解析する。層別比較の結果、分布に差が出ていれば、その差が表れた領域又は数値を閾値として、腸内dysbiosisの判定閾値とすればよい。
【0018】
2.腸内dysbiosis判定方法
(1)判定基準値と判定スコアの設定
本発明において、まず、判定基準値設定用集団(以下「基準値集団」ともいう。)に関するヒト常在細菌データ及びアンケートデータを取得する。被験者の数は2人以上であれば特に限定されるものではないが、統計的に有意な差異又は傾向が出る程度に十分な数であることが好ましい。ヒト常在細菌は、例えばヒトから採取された糞便サンプルから得ることができるが、大腸内視鏡検査による腸管粘膜等から採取することもできる。ヒト常在細菌データは、公知の任意の手法により取得することができ、例えば市販のキット(Mykinso(登録商標))などを使用することができる。
【0019】
アンケートデータは、基準値集団における各被験者からの質問に対する回答のデータである。アンケートは、被験者の病歴に関する質問や、糞便サンプル採取前の数日間に何を食べたのか、食事の内容に関する質問などを含む。被験者の主観的健康感に関するアンケートは、糞便サンプル採取後に所定の期間(例えば数週間~数ヶ月)空けて別途行うようにしてもよいし、他のアンケートと同時に行うようにしてもよい。アンケートを回収した後は、回答内容の全て又は一部を適宜重み付け等しながら数値化し、データベースに記憶させておく。
【0020】
腸内dysbiosis採点項目は、以下の(a)及び(b)の選定基準に従って選択されるものである。
(a)腸内細菌データベース(データベースともいう。)に収載されている菌組成データ、並びにこれまでに蓄積された被験者の基本属性及びアンケート情報を基にして、菌組成の攪乱又は菌組成のバランスの安定性という観点で、特徴となる属菌及び指標を取捨選択した。
(b)腸内細菌が病態に係わる疾患の常在菌を健常対象者と比較した文献が収載されているデータベース中の先行研究と一致する知見が存在するかどうかを基準として、腸内dysbiosisと関連する属菌及び指標を取捨選択する。
【0021】
このようにして取捨選択される指標は、多様性関連指標、短鎖脂肪酸産生指標、腸管免疫関連指標、口腔内細菌関連指標及び下痢便秘関連指標である。
上記採点項目の基準値は、判定基準値設定用集団、例えば健常者コホート(データベースに収載されているユーザのうち、病歴あり、下痢・便秘の訴えあり、及び年齢60歳以上に該当する者を除いた成人集団)と罹患者コホート(データベースに収載されているユーザーのうち慢性的な疾患の病歴ありに該当する成人集団)の各検査値の分布の比較に基づき設定する。
【0022】
(i) 多様性関連指標
多様性関連指標とは、菌種数と各菌の占有率の均等度を反映する指標であり、この指標に属する項目として、多様性、FB比、Bacteroidetes門に属する菌種数及び最優勢属菌が挙げられる。
多様性とは、サンプル内の菌種数と各菌の占有率の均等度を掛け合わせた計算値である。多様性の検査値は、Shannon 指数に基づいて所定の数値範囲に換算する。数値範囲は、例えば0~10、好ましくは3~8である。多様性の判定スコアは、多様性の検査値(換算値)に対し、-10~10の範囲、例えば-10~10の範囲で割り当てる。
後述の表1(実施例)は、各判定項目の判定基準値と判定スコアの一覧であり、例えば多様性については、3~8の検査値に対し、-10~10の範囲で判定スコアが割り当てられている。他の項目についても多様性と同様にして、検査値及び判定基準値、判定スコアを設定する。
【0023】
FB比とは、ヒトの腸内細菌の主要な門であるFirmicutes門とBacteroidetes門との比率であり、Firmicutes門/Bacteroidetes門、及びBacteroidetes門/Firmicutes門の両者を含むが、例えばFirmicutes門/Bacteroidetes門の比が採用される。FB比の検査値は、0~無限大の数値範囲、例えば0~∞に設定(換算)する。判定スコアは、FB比の検査値(換算値)に対し、-10~10の範囲、例えば-10~3の範囲で割り当てる。
【0024】
Bacteroidetes門に属する菌種数は、0~100の数値範囲、例えば0~20に設定する。判定スコアは、Bacteroidetes門に属する菌種数の検査値(換算値)に対し、-10~10の範囲、例えば-5~3の範囲で割り当てる。
最優勢属菌の占有率とは、サンプル内で最も占有率の高い菌種の占有率の値である。最優勢属菌の占有率は、0~1の数値範囲で1~5個、例えば2個の数値を基準値として設定する。判定スコアは、占有率を例えば0.35及び0.4の2個の基準値を設定したとすると、0.35以上の場合は-1~-5の判定スコア(例えば-3)、0.4以上の場合は-2~-10の判定スコア(例えば-5)のように割り当てる。なお、最優勢属菌の占有率は、腸内では負の影響(例えば多様性の低下、特に各菌の占有率の均等度の低下)を与えることから、検査値が大きい値ほどマイナスの判定スコアとなる。
【0025】
(ii) 短鎖脂肪酸産生指標
短鎖脂肪酸産生指標とは、短鎖脂肪酸産生能を有することが認められている腸内細菌群を意味し、この指標に属する項目として、ビフィズス菌、乳酸産生菌群、酪酸産生菌群及び酪酸産生菌群が挙げられる。
ビフィズス菌は、糞便あたりのビフィズス菌の占有率を表す。ビフィズス菌は、0~1の数値範囲、例えば0~1に設定する。判定スコアは、ビフィズス菌の検査値(換算値)に対し、-10~10の範囲、例えば-3~7の範囲で割り当てる。
【0026】
乳酸産生菌群は、糞便あたりのラクトバチルス属菌、ペディオコッカス属菌、ロイコノストック属菌、ラクトコッカス属菌から選ばれる複数の菌の占有率を表す。乳酸産生菌群は、0~1の数値範囲、例えば0~1に設定する。判定スコアは、乳酸産生菌群の検査値(換算値)に対し、-10~10の範囲、例えば-10~3の範囲で割り当てる。なお、乳酸産生菌群は、腸内では負の影響(例えば下痢症状と正の関連を示す)を与えることから、検査値が大きい値ほどマイナスの判定スコアとなる。
【0027】
酪酸産生菌群は、糞便あたりのブチリシモナス属菌、コプロコッカス属菌、ロセブリア属菌、ブチリシコッカス属菌、フィーカリバクテリウム属菌、から選ばれる複数の菌の占有率を表す。酪酸産生菌群は、0~1の数値範囲、例えば0~1に設定する。判定スコアは、酪酸産生菌群の検査値(換算値)に対し、-10~10の範囲、例えば-5~10の範囲で割り当てる。
酪酸産生菌の菌種数とは、上述の酪酸産生菌群に属する菌種数を意味する。
酪酸産生菌群に属する菌種数は、0~5の数値範囲、例えば0~5に設定する。
判定スコアは、酪酸産生菌の菌種数の検査値(換算値)に対し、-10~10の範囲、例えば-5~5の範囲で割り当てる。
【0028】
(iii) 腸管免疫関連指標
腸管免疫関連指標とは、腸管免疫を修飾する物質を産生することが認められている腸内細菌群を意味し、この指標に属する項目として、フィーカリバクテリウム属菌、アッカーマンシア属菌、クリステンセネラ属菌、アリスティペス属菌及びクロストリジウム属菌が挙げられる。
フィーカリバクテリウム属菌は、糞便あたりのフィーカリバクテリウム属に属する菌の占有率を表す。フィーカリバクテリウム属菌は、0~1の数値範囲、例えば0~1に設定する。判定スコアは、フィーカリバクテリウム属菌の検査値(換算値)に対し、-10~10の範囲、例えば-5~5の範囲で割り当てる。
【0029】
アッカーマンシア属菌は、糞便あたりのアッカーマンシア属に属する菌の占有率を表す。アッカーマンシア属菌は、0~1の数値範囲、例えば0~1に設定する。判定スコアは、アッカーマンシア属菌の検査値(換算値)に対し、-10~10の範囲、例えば0~3の範囲で割り当てる。
クリステンセネラ属菌は、糞便あたりのクリステンセネラ属に属する菌の占有率を表す。クリステンセネラ属菌は、0~1の数値範囲、例えば0~1に設定する。判定スコア値は、クリステンセネラ属菌の検査値(換算値)に対し、-10~10の範囲、例えば0~3の範囲で割り当てる。
【0030】
アリスティペス属菌は、糞便あたりのアリスティペス属に属する菌の占有率を表す。アリスティペス属菌は、0~1の数値範囲、例えば0~1に設定する。判定スコアは、アリスティペス属菌の検査値(換算値)に対し、-10~10の範囲、例えば0~3の範囲で割り当てる。
【0031】
クロストリジウム属菌は、糞便あたりのクロストリジウム属に属する菌の占有率を表す。クロストリジウム属菌は、0~1の数値範囲、例えば0~1に設定する。判定スコアは、クロストリジウム属菌の検査値(換算値)に対し、-10~10の範囲、例えば-5~0の範囲で割り当てる。なお、クロストリジウム属菌は、腸内では腸内免疫に作用する物質の種類が複数あることから(例えば炎症を亢進するサイトカイン物質、炎症を鎮めるサイトカイン物質等)、検査値が小さい場合と大きい場合の両者でマイナスの判定スコアを設定する。
【0032】
(iv) 口腔内細菌関連指標
口腔内細菌関連指標とは、口腔内に多く存在することが認められている腸内細菌群を意味し、この指標に属する項目として、フソバクテリウム属菌、口腔内細菌占有率及びガンマプロテオバクテリア綱の菌種数が挙げられる。
フソバクテリウム属菌は、糞便あたりのフソバクテリウム属に属する菌の占有率を表す。フソバクテリウム属菌は、0~1の数値範囲、例えば0~1に換算する。判定スコアは、フソバクテリウム属菌の検査値(換算値)に対し、-10~10の範囲、例えば-10~0の範囲で割り当てる。なお、フソバクテリウム属菌は腸内では負の影響(例えば大腸がん患者の腸内に多く存在する等)を与えることから、検査値が大きいほどマイナスの判定スコアとなる。
【0033】
ストレプトコッカス属菌は、糞便あたりのストレプトコッカス属に属する菌の占有率を表す。ストレプトコッカス属菌は、0~1の数値範囲、例えば0~1に設定する。判定スコアは、ストレプトコッカス属菌の検査値(換算値)に対し、-10~10の範囲、例えば-5~0の範囲で割り当てる。なお、ストレプトコッカス属菌は腸内では負の影響(例えば潰瘍性大腸炎患者の腸内に多く存在する等)を与えることから、検査値が大きいほどマイナスの判定スコアとなる。
【0034】
口腔内細菌占有率は、ストレプトコッカス属菌、フソバクテリウム属菌、トラブルシエラ属菌、クレブシエラ属菌からなる群から選ばれる複数の菌の占有率を表す。口腔内細菌占有率は、0~1の数値範囲で1~5個、例えば1個の数値を基準値として設定する。判定スコアは、占有率の基準値を例えば0.2(1個の数値)で設定したとすると、0.2以上の場合は-10のように割り当てる。なお、口腔内細菌は腸内では負の影響(例えばクローン病患者の腸内に多く存在する等)を与えることから、検査値が大きいほどマイナスの判定スコアとなる。
【0035】
ガンマプロテオバクテリア綱の菌種数は、糞便あたりのガンマプロテオバクテリア綱に属する菌種数を表す。ガンマプロテオバクテリア綱の菌種数は、0~100の数値範囲、例えば0~10に換算する。判定スコアは、ガンマプロテオバクテリア綱菌の検査値(換算値)に対し、-10~10の範囲、例えば-7~0の範囲で割り当てる。なお、ガンマプロテオバクテリア綱の菌種数は腸内では負の影響(例えば過敏性腸症候群患者の腸内に多く存在する等)を与えることから、検査値が大きいほどマイナスの判定スコアとなる。
【0036】
(v) 下痢便秘関連指標
下痢便秘関連指標とは、下痢症状および便秘症状と強い関連を示す菌組成タイプ(エンテロタイプ)を意味し、この指標に属する項目として、下痢型エンテロタイプ、便秘型エンテロタイプ及びエンテロタイプR型が挙げられる。
【0037】
エンテロタイプR型は、ルミノコッカス属菌優勢な菌組成を表す。エンテロタイプR型は、0~1の数値範囲、例えば0~1に換算する。判定スコアは、エンテロタイプR型の検査値(換算値)に対し、-10~10の範囲、例えば-5~5の範囲で割り当てる。なお、エンテロタイプR型は下痢症状および便秘症状と強い関連を示す菌組成タイプとして負の影響(例えば便秘症状が増えるなど)を与えることから、検査値が大きいほどマイナスの判定スコアとなる。
【0038】
下痢型エンテロタイプは、下痢症状と強い関連を示す菌組成タイプを表す。下痢型エンテロタイプは、0~1の数値範囲、例えば0~1に換算する。判定スコアは、下痢型エンテロタイプの検査値(換算値)に対し、-10~10の範囲、例えば-5~5の範囲で割り当てる。
便秘型エンテロタイプは、便秘症状と強い関連を示す菌組成タイプを表す。便秘型エンテロタイプは、0~1の数値範囲、例えば0~1に換算する。判定スコアは、便秘型エンテロタイプの検査値(換算値)に対し、-10~10の範囲、例えば-5~5の範囲で割り当てる。
【0039】
(2)腸内フローラスコア計算及び判定
本項では、各ユーザの腸内dysbiosis採点項目の検査値を計算するために、多様性関連指標、短鎖脂肪酸産生指標、腸管免疫関連指標、口腔内細菌関連指標及び下痢便秘関連指標からなる群から選ばれる少なくとも1つの指標を適宜選択する。次に、選択した指標に含まれる採点項目を適宜選択する。本発明においては、上記関連指標に含まれるすべての採点項目(18項目)を採用することが好ましい。
次に、各検査値を判定基準値と比較照合して、採点項目のスコア(すなわち判定スコア)を、重み付け加算等の方法により計算する。
【0040】
計算後、それぞれの判定スコア同士を加算し、腸内フローラスコアを算出する。腸内フローラスコアは、腸内dysbiosisを判定するための基礎情報となる。腸内dysbiosisを判定するための腸内フローラスコアの閾値は、健常者群と罹患者群のスコア分布に基づいて1~99の範囲で適宜設定することができる。例えば、腸内フローラスコアの閾値を50とすると、50点未満であれば、被験者は腸内dysbiosisである、又は腸内dysbiosisのリスクがあると判定される。
【0041】
ところで、本発明においては、予め規定された数の被験者(1次母標本)において統計解析処理を行い、腸内dysbiosis判定項目とユーザデータとの間の相関関係を調べ、その結果をデータベース(DB)に記憶させておく。従って、被験者個人(一人)の検査又は判定を行う場合、上記複数の被験者由来のデータを母標本として、当該被験者個人の被験者のデータが、データベースに記憶させておいた母標本のデータのどこに位置するか又は当てはまるかを調べることによって、当該被験者個人に対する腸内dysbiosisを判定することができる。なお、上記被験者個人のデータを母標本の値に組み込み、再度統計解析処理した後、当該被験者個人が母標本のどこに位置するかを調べるようにしてもよい。
【0042】
3.情報処理装置、プログラム
次に、図面を用いて本発明の一実施形態に係る情報処理装置、及びプログラムに関して以下説明する。
図1は、本実施形態に係る情報処理装置10を含む腸内dysbiosis判定システム1の概略構成図である。なお、以下では被験者集団又は被験者個人を「ユーザ」として説明する。
【0043】
情報処理装置10は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどを備えたサーバー型コンピュータである。情報処理装置10は、インターネット又はLANなどのネットワーク20を介して、複数のユーザ機器30a~30n(総称して「ユーザ機器30」とする。)と通信可能に接続されている。
【0044】
情報処理装置10は、調査対象とする又は着目するユーザ(「対象ユーザ」という。)の腸内dysbiosis採点項目を、データベースに記憶された健常者腸内dysbiosis採点項目と照合し、その比較結果に基づき判定スコアを算出する。そして、情報処理装置10は、算出された判定スコア同士を加算して腸内フローラスコアを算出し、算出された腸内フローラスコアに基づき、対象ユーザが腸内dysbiosisであるかを判定する。そして、情報処理装置10は、ユーザの腸内dysbiosis判定結果を、ユーザ機器30に送信するものである。
【0045】
ユーザ機器30は、情報の入力手段や表示手段などを備えたコンピュータ、又はスマートフォン若しくはタブレットなどの機器であり、ネットワーク20を介して情報処理装置10と通信可能に接続される。ユーザ機器30は、ブラウザ又はアプリケーションなどを通じて、情報処理装置10から受信した各種情報をディスプレイ上に表示したり、情報処理装置10に送る情報を入力するためのインターフェースを提供する。
【0046】
情報処理システム1には、ユーザの糞便から採取される複数種類のヒト腸内細菌を検査し、その情報を提供する検査機関40が含まれていてもよい。情報処理装置10は、ユーザの識別情報と関連付けられた当該ユーザのヒト腸内細菌に関する情報(ヒト腸内細菌データ)を検査機関40からネットワーク20を介して取得する。なお、情報処理装置10は、ネットワーク20を介さずに検査機関40からヒト腸内細菌データを直接取得するようにしてもよい。また、ヒト腸内細菌データが検査機関40からユーザ機器30に送られる場合には、情報処理装置10は、ユーザ機器30からヒト腸内細菌データを取得するようにしてもよい。さらに、検査機関40と情報処理装置10とは同じ機関に属するものであってもよいし、それぞれ別の機関に属するものであってもよい。
【0047】
ヒト腸内細菌データは、多様性関連指標、短鎖脂肪酸産生指標、腸管免疫関連指標、口腔内細菌関連指標及び下痢便秘関連指標からなる群から選ばれる少なくとも1つの指標を含む。これらの指標の詳細は、前記した通りである。
【0048】
情報処理装置10は、ROMに記憶された又はRAMに置かれたプログラムとCPUとが協働するなどして実現される機能部として、情報取得部101、採点項目抽出部102、判定基準値設定部103、比較部104、腸内フローラスコア計算部105、及び判定部106を含む。また、情報処理装置10は、ROM(又はRAM)に設けられた記憶部110を備え、記憶部110は、腸内細菌データベース(DB)111、採点項目情報データベース(DB)112、及び判定基準データベース(DB)113を含む。
【0049】
情報取得部101は、ネットワーク20を介してユーザ機器30及び/又は検査機関40から各種情報を取得し、記憶部110に記憶させる。ユーザ機器30及び/又は検査機関40から受信する情報には、ユーザの腸内細菌データ、ユーザに対する質問(アンケート)への回答に関する情報(アンケートデータ)、及びユーザ識別情報(ユーザの氏名、生年月日、住所、電話番号、ユーザが使用するメールアドレス、又はユーザに設定されたID等)などが含まれる。なお、ユーザ識別情報には当該ユーザが使用するユーザ機器30の識別子が含まれていてもよい。
【0050】
情報取得部101は、ユーザの腸内細菌データを受信すると、ユーザ識別情報と関連付けて腸内細菌情報DB111に記憶させる。腸内細菌情報DB111には、このようにして複数のユーザから集められた腸内細菌データが記憶されている。腸内細菌情報DB111には、ユーザ識別データ及びアンケート情報データが含まる。情報取得部101は、ユーザのアンケートデータを受信すると、ユーザ識別情報と関連付けて採点項目DB112に記憶させる。採点項目DB112には、このようにしてユーザから集めたアンケートデータが記憶されている。判定基準DB113には、後述する判定基準値設定部104により特徴を抽出する統計解析処理により得られた情報が記憶されている。当該情報は、統計解析処理の対象となったユーザ母標本の構成員及び構成員の数に応じて変わるものであるため、これらを識別する情報と関連付けて記憶されている。
【0051】
ユーザへ提供される質問(アンケート)は、ユーザの氏名、年齢、身長、体重、BMI値、家族構成、仕事の種類、生活環境、運動頻度、睡眠充足度、食事習慣、体質、病歴、採便時の健康状態、採便時の薬歴、及び採便時の精神状態に関する情報が含まれていてもよい。
アンケートデータについては、情報処理装置10からユーザ機器30に質問(アンケート)に関する情報を送信し、ユーザ機器30から当該質問への回答に関する情報を情報取得部101が受信するようにしてもよいし、検査機関40にてアンケートデータを扱う場合には、情報取得部101は、検査機関40からアンケートデータを取得するようにしてもよい。
【0052】
図2は、本実施形態に係る情報処理装置10による処理フローチャートである。
ステップS1において、情報処理装置10の情報取得部101がユーザからヒト腸内細菌データ及びアンケートデータを取得し、腸内細菌情報DB111に記憶させる。
ステップS2において、採点項目抽出部102は、腸内細菌情報DB111に記憶された情報から、多様性関連指標、短鎖脂肪酸産生指標、腸管免疫関連指標、口腔内細菌関連指標及び下痢便秘関連指標からなる群から選ばれる少なくとも1つの指標、又は当該指標に含まれる採点項目を抽出し、採点項目情報DB112に記憶する。また、ステップS2において、判定基準値設定部103は、採点項目情報DB112に記憶された情報から、各採点項目における判定基準値と判定スコアを設定し、判定基準DBに記憶させる。
【0053】
ステップS3において、比較部104は、腸内細菌情報DB111及び採点項目情報DB112から、判定基準値設定用集団(健常者集団又は罹患者集団)及び対象者の腸内細菌に関する各指標の検査値と、当該指標における基準値を抽出し、健常者集団と対象者との間で基準値と検査値とを比較照合する。
【0054】
ステップS4において、腸内フローラスコア計算部105は、対象ユーザに割り当てられた判定スコアを加算し(負の値の場合は減算を含む)、腸内フローラスコアを計算する。
ステップS5において、判定部106は、対象ユーザにおける腸内dysbiosisを判定する。判定部106による判定は、判定基準値と判定スコアを所定の範囲で変えながら(ステップS2)、複数の各指標の特徴を抽出するものである(ステップS2~5の繰り返し)。
【0055】
ここで、対象ユーザは、採点項目抽出部102により特徴を抽出するのに用いたユーザ母標本に含まれる者であってもよいし、当該ユーザ母標本に含まれない新規なユーザ(一個人)であってもよい。ステップS5において、判定部106は、対象ユーザがどのような腸内dysbiosisに属するか又はリスクがあるかの判定結果に応じて、当該対象ユーザに対する結果を生成し、対象ユーザのユーザ機器30に送信する。
【0056】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0057】
(1)腸内dysbiosis採点項目の選定
<選定基準1>
Cykinsoに所属する医師、研究者が、腸内細菌データベースに収載されている菌組成データと複数の被験者の各々の基本属性とアンケート情報を査読して、菌組成の攪乱、菌組成バランスの安定性という視点で、特徴となる属菌、指標を取捨選択した。
<選定基準2>
海外のDisbiomeデータベースに収載されている先行研究と一致する知見が存在するかどうかを基準に、腸内dysbiosisと関連する属菌、指標を取捨選択した。
【0058】
選定された採点項目は以下の通りである。
1. 多様性
2. FB比
3. ビフィズス菌
4. 乳酸産生菌群
5. 酪酸産生菌群
6. エンテロタイプ
7. Bacteroidetes門の菌種数
8. ガンマプロテオバクテリア綱の菌種数
9. フィーカリバクテリウム属菌
10. アッカーマンシア属菌
11. クリステンセネラ属菌
12. アリスティペス属菌
13. クロストリジウム属菌
14. フソバクテリウム属菌
15. ストレプトコッカス属菌
16. 口内細菌(Streptococcus, Fusobacterium, Trabulsiella, Klebsiella)占有率
17. 最優勢属菌の占有率
18. 酪酸産生菌種数
【0059】
判定基準値の具体例を表1に示す。
【表1】
【0060】
<判定基準値設定例>
ビフィズス菌の場合以下の判定基準値と判定スコアを設定している。
検査値が0以上~0.01未満の場合:3点減点
検査値が0.01以上~0.03未満の場合:0点
検査値が0.03以上~0.06未満の場合:3点加点
検査値が0.06以上~0.1未満の場合:5点加点
検査値が0.1以上の場合:7点加点
【0061】
(2)フローラスコアの算出
腸内dysbiosis採点項目の判定基準値と判定スコアは、健常者コホートと罹患者コホートの検査値の分布の比較に基づいて設定した。
なお、健常者コホートは、データベースに収載されているユーザのうち、アンケートの回答で以下に該当する者を除いた成人の集団とした。
「病歴あり」、「下痢・便秘の訴えあり」、「年齢が60歳以上」
【0062】
(3)フローラスコア計算アルゴリズム
Step 1では、各ユーザのビフィズス菌、酪酸産生菌、乳酸産生菌の検査値を計算した。
(i) ビフィズス菌=0.013、(ii) 酪酸産生菌=0.0643、(iii) 乳酸産生菌=0.0001
Step 2では、前記表1のビフィズス菌、酪酸産生菌、乳酸産生菌の基準値と照合し、各項目の判定スコアを計算した。この場合、減点の多さが腸内dysbiosisの傾向を示す。
(i) ビフィズス菌=0、(ii) 酪酸産生菌=-3、(iii) 乳酸産生菌=0
Step 3では、複数採点項目の判定スコアを重み付け加算等の方法により腸内フローラスコアを計算した。この場合、基準点を60として各項目の判定スコアを加算する。
・腸内フローラスコア=58.5
【0063】
(4)結果及び考察
結果を図3に示す。
腸内フローラスコアが50点未満を示すことが、複数疾患に共通して非特異的に存在する腸内dysbiosisを強く反映していることを見出した。
本発明者は、個々の病歴、服薬歴に関連する約半数の腸内dysbiosis項目が、複数の疾患に非特異的に応答する細菌及び細菌群であることを示した。
従って、選定した腸内dysbiosis項目で見出された多くの関連は、疾患特異的ではなく、むしろ健康及び疾患に対して非特異的で共通の応答のバイオマーカーとなる可能性が高い。
【実施例2】
【0064】
本実施例では、項目ごとに疾患特異的/非特異的な特徴を確認することを目的として、解析を行った。解析は一般化線形モデルおよびロジスティック回帰分析により行った。
【0065】
結果を図4に示す。
図4のカテゴリ1番目の行は、多様性関連指標における疾患特異的/非特異的な腸内dysbiosisの強さを示すヒートマップである。各パネルにおいて、疾患と正の関連を示す箇所が赤色、疾患と負の関連を示す箇所が青色、色の濃さが関連の強さを示す図である。
高血圧、潰瘍性大腸炎の場合、多様性全般が低いことが分かる。
【0066】
図4のカテゴリ2番目の行は、短鎖脂肪酸産生に係わる指標における疾患特異的/非特異的な腸内dysbiosisの強さを示すヒートマップである。
糖尿病の場合(図5)、乳酸産生菌が多く、酪酸産生菌が少ないことが分かる。
【0067】
図4のカテゴリ3番目の行は、腸管免疫に係わる指標における疾患特異的/非特異的な腸内dysbiosisの強さを示すヒートマップである。
糖尿病と脂質異常症の両者で、クリステンセネラ属菌が少ないことが分かった。
【0068】
図4のカテゴリ4番目の行は、口腔内細菌に係わる指標における疾患特異的/非特異的な腸内dysbiosisの強さを示すヒートマップである。
脂質異常症の場合、フソバクテリウム属菌とストレプトコッカス属菌の両者が多いことが分かった。
【0069】
図4のカテゴリ5番目の行は、下痢便秘に係わる指標における疾患特異的/非特異的な腸内dysbiosisの強さを示すヒートマップである。
高血圧、脂質異常症、糖尿病の3疾患でエンテロタイプR型が少ないことが分かった。
【符号の説明】
【0070】
1:本発明のシステム、10:情報処理装置、20:ネットワーク、30:ユーザ機器、40:検査機関、
101:情報取得部、102:採点項目抽出部、103:判定基準値設定部、104:比較部、105:腸内フローラスコア計算部、106:判定部
110:記憶部、111:腸内細菌情報DB、112:採点項目情報DB,113:判定基準DB
図1
図2
図3
図4