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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】ハンダ付け部含有布帛
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/12 20060101AFI20230614BHJP
   D02G 3/04 20060101ALI20230614BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20230614BHJP
   D03D 15/25 20210101ALI20230614BHJP
【FI】
D02G3/12
D02G3/04
D03D1/00 Z
D03D15/25
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019056281
(22)【出願日】2019-03-25
(65)【公開番号】P2020079471
(43)【公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2018211969
(32)【優先日】2018-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505044657
【氏名又は名称】林撚糸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】林 雄太
【審査官】静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-143465(JP,A)
【文献】特開2013-147767(JP,A)
【文献】特開2016-123549(JP,A)
【文献】特開2014-114525(JP,A)
【文献】特開2018-087392(JP,A)
【文献】特開2010-253805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 1/00-3/48
D02J 1/00-13/00
D03D 1/00-27/18
B23K 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属フィラメントと有機繊維を含む糸が、基材にハンダ付け部で固着されているハンダ付け物品であって、
前記ハンダ付け部はハンダ金属が超音波ハンダにより溶融し、固化した状態で前記金属フィラメントと基材に固着していることを特徴とするハンダ付け物品。
【請求項2】
前記基材は、繊維構造物、樹脂成形体、セラミックス、ガラス、木材、合成紙及びこれらの混合物体である請求項1に記載のハンダ付け物品。
【請求項3】
前記金属フィラメントは、タングステン、モリブデン、銅及びステンレスから選ばれる少なくとも一つのフィラメントである請求項1又は2に記載のハンダ付け物品。
【請求項4】
前記金属フィラメントと有機繊維を含む糸は、シングルカバーリングヤーン又はダブルカバーリングヤーンで構成されている請求項1~3のいずれかに記載のハンダ付け物品。
【請求項5】
前記金属フィラメントと有機繊維を含む糸は、芯糸、花糸及び押さえ糸を含み、前記花糸はループ又はたるみを有する撚り糸であり、
前記芯糸、花糸及び押さえ糸から選ばれる少なくとも一つの糸は金属線に有機繊維がカバーリングされた糸であり、
全体に実撚りがかかっている糸で構成されている請求項1~4のいずれかに記載のハンダ付け物品。
【請求項6】
前記金属フィラメントと有機繊維を含む糸は、ニットデニット糸である請求項1~5のいずれかに記載のハンダ付け物品。
【請求項7】
前記有機繊維を含む糸は合成繊維、天然繊維及び再生繊維から選ばれる少なくとも一つの繊維糸である請求項1~6のいずれかに記載のハンダ付け物品。
【請求項8】
前記基材は布帛であり、有機繊維糸を含む地組織部と、前記地組織部の間に配置される金属フィラメントを含む糸で構成され、
前記布帛の一部にはハンダ付け部が存在しており、
前記ハンダ付け部はハンダ金属が超音波ハンダにより溶融し、前記布帛の表面から布帛内に浸透し、固化した状態で前記金属フィラメントと固着している請求項1~7のいずれかに記載のハンダ付け物品。
【請求項9】
前記布帛は地組織が織物であり、経糸と緯糸は衣料用有機繊維糸で構成されており、金属フィラメントを含む糸は前記経糸の間、及び前記緯糸の間にそれぞれ間をあけて配置されており、前記経糸と緯糸の金属フィラメントを含む糸の交点の少なくとも一部はハンダ付けされている請求項8に記載のハンダ付け物品。
【請求項10】
前記ハンダ金属は、Sn-Znを主成分とするハンダ、又はPb-Snを主成分とするハンダである請求項1~9のいずれかに記載のハンダ付け物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属フィラメントを含む布帛であって、ハンダ付け部含有布帛に関する。
【背景技術】
【0002】
血圧、脈拍等を測定する器具を組み込んだ、いわゆるウエアラブル衣料等には、血圧、脈拍等を測定する器具と、この器具から取り出したデータを外部に送るための通信手段とを導通するための導電糸又は導電材料が使用される。特許文献1には、導電糸としては、カーボン系の導電糸、金属又は合金のめっき糸、導電性樹脂繊維糸、金属繊維糸等が提案されている。特許文献2には、導電性カーボン微粒糸を練り込んだナイロン糸が提案されている。特許文献3には、ポリエステルフィルムの表面に金、銀などの金属を蒸着した金属蒸着フィルムをスリットした糸が提案されている。特許文献4にはウエアラブル衣類に使用する電極として、可撓性電極が提案されている。また、特許文献5には、加熱線として炭素繊維を使用し、端子には圧着端子を使用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-129115号公報
【文献】特開2017-201063号公報
【文献】特開2009-044439号公報
【文献】特開2015-139506号公報
【文献】特表平9-509779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の導電糸を含む布帛は、端子部や導通部をハンダ付けで形成すると布帛自体が溶融したり焦げたりして傷んでしまう問題があり、圧着端子やボタン型端子を使用する必要があり、薄くすることができないという問題があった。また従来、接点を導電の樹脂等で確保する方法があったが、樹脂が定着するまでに硬化の為の加熱処理や乾燥の処理時間が長く、手間がかかるという問題もあった。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、基材に対して金属フィラメントと有機繊維を含む糸をハンダ付けで形成することが可能なハンダ付け物品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のハンダ付け物品は、金属フィラメントと有機繊維を含む糸が、基材にハンダ付け部で固着されているハンダ付け物品であって、前記ハンダ付け部はハンダ金属が超音波ハンダにより溶融し、固化した状態で前記金属フィラメントと基材に固着していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のハンダ付け物品は、金属フィラメントと有機繊維を含む糸が、基材にハンダ付け部で固着されているハンダ付け物品であって、前記ハンダ付け部はハンダ金属が超音波ハンダにより溶融し、固化した状態で前記金属フィラメントと基材に固着している。これにより、基材に対して金属フィラメントと有機繊維を含む糸をハンダ付けで形成することが可能なハンダ付け物品を提供できる。また基材に溶融、焦げ等の傷をつけずにハンダ付けでき、かつハンダにより端子部や導通部を薄く小さくできる。すなわち、ハンダは圧着端子やボタン型端子に比べて薄くて小さい利点がある。加えて、従来の接点を導電の樹脂等で確保する方法に比べて、本発明のハンダ付けは数秒で処理でき、加工時間の短縮が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は本発明の一実施態様のハンダ付け部含有布帛の模式的側面図である。
図2図2は同、模式的断面図である。
図3図3Aは本発明の一実施形態のシングルカバーリングヤーンの側面説明図、図3Bは同、ダブルカバーリングヤーンの側面説明図、図3Cは同、芯糸の金属フィラメントに添え糸を配置してシングルカバーリングヤーンとした側面説明図である。
図4図4は同、意匠撚糸の模式的側面説明図である。
図5図5は本発明の一実施形態の繊維織物基材の表面に金属フィラメント含有糸を配線し、ハンダ付けした模式的平面図である。
図6図6は本発明の別の実施形態の繊維織物基材の表面に金属フィラメント含有糸を配線し、ハンダ付けした模式的平面図である。
図7図7は本発明の別の実施形態の基材の表面に金属フィラメント含有糸を配線し、ハンダ付けした模式的平面図である。
図8図8は本発明の一実施形態の編み物を解編したニットデニット糸の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明者は、タングステン(W)等の金属フィラメントを撚糸とし、織物、編物等の繊維構造物に形成することを検討してきた。ここで、金属フィラメントに電力を与えたり、金属フィラメントからの電気信号を得るには端子部や導通部が必要となる。ところが、従来の圧着端子やボタン型端子は大きく、衣類には適用が困難であり、また従来のハンダ付けで形成すると布帛自体が溶融したり焦げたりして傷んでしまう問題があった。
そこで、本発明者は、超音波ハンダを試してみたところ、驚くべきことに、有機繊維糸からなる布帛に溶融、焦げ等の傷をつけずにハンダ付けでき、かつハンダにより端子部や導通部を薄く小さくできることがわかった。この原因は、有機繊維糸からなる布帛に対して超音波ハンダをすると、ハンダ金属は超音波ハンダにより溶融し、前記布帛の表面から布帛内に浸透し、固化した状態で前記金属フィラメントと固着するが、この際に熱は金属フィラメントから拡散、放熱してしまうからと推察される。本発明の金属フィラメントと有機繊維糸を含む糸は、繊維構造物、樹脂成形体、セラミックス、ガラス、木材、合成紙及びこれらの混合物体などの基材表面に配線し、基材と配線をハンダ付けできることも見出した。
【0010】
本発明は、金属フィラメントと有機繊維を含む糸が、基材にハンダ付け部で固着されているハンダ付け物品であり、前記ハンダ付け部はハンダ金属が超音波ハンダにより溶融し、固化した状態で前記金属フィラメントと基材に固着している。金属フィラメントと有機繊維を含む糸同士が基材にハンダ付けされていてもよい。金属フィラメントと有機繊維を含む糸は、前記したように繊維構造物の構成要素となっていてもよいし、基材表面に配線されていてもよい。
【0011】
本発明の一実施態様として、金属フィラメントと有機繊維を含む糸を繊維構造物の構成要素とする場合を説明する。金属フィラメントと有機繊維を含む糸は、有機繊維糸を含む地組織部の間に配置される。ここで地組織部とは、布帛を構成する主要組織部分である。布帛は、織物又は編物などである。織物は経糸と緯糸で構成され、経糸と緯糸の一部に金属フィラメントを含む糸を配置する。編物のうち、ヨコ編みの場合は、ヨコ糸の地組織を有機繊維糸で構成し、間をあけて金属フィラメントを含む糸をヨコ方向に配置し、タテ糸挿入によりタテ方向に金属フィラメントを含む糸を配置する。タテ編みの場合はタテ糸の地組織を有機繊維糸で構成し、間をあけて金属フィラメントを含む糸をタテ方向に配置し、ヨコ糸挿入によりヨコ方向に金属フィラメントを含む糸を配置する。
【0012】
前記布帛の一部にはハンダ付け部が存在しており、前記ハンダ付け部はハンダ金属が超音波ハンダにより溶融し、前記布帛の表面から布帛内に浸透し、固化した状態で前記金属フィラメントと固着している。布帛の一部にハンダ付け部が存在するのは、端子部や導通部にするためである。ハンダ付け部は1点又は複数点に点在させてもよい。超音波ハンダは、一例として周波数60kHz±5kHz、超音波発信出力:定格15W(max)(実効10W(max))、ヒーター温度200~500℃、電源容量:AC100V/240V,50/60Hz,150Wである。
【0013】
本発明において有機繊維とは、例えばコットン、麻、ウール、シルク等の天然繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ビニロン、ポリオレフィン、パラ系アラミド、メタ系アラミド、ポリアリレート、ポリベンズオキサゾール等の合成繊維、レーヨン等の再生繊維を含む。この中でもコットン、麻、ウール、シルク、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ビニロン、ポリオレフィン、レーヨン等の衣料用繊維糸が好ましい。このような衣料用繊維糸様々な衣料に好適である。また、有機繊維糸は紡績糸、撚糸、モノフィラメント糸、マルチフィラメント糸などの任意の糸を含む。また、本発明においてタングステンと交撚できる糸として、紙糸や、既存の導電糸(銀蒸着や導電性物質練り込み糸)がある。
【0014】
前記布帛は織物であり、金属フィラメントは経糸と緯糸に間をあけて配置されており、前記経糸と緯糸の交点の少なくとも一部はハンダ付けされていることが好ましい。このパターンは金属フィラメント発熱させる衣料に好適である。
【0015】
前記金属フィラメントは、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、銅(Cu) 及びステンレス(SUS)から選ばれる少なくとも一つのフィラメントが好ましい。タングステン(W)は白熱電灯や放電ランプの発光部分に使われている。融点は3380℃であるが、わずかなドープが含まれているので、フィラメントの融点はこれより低い。モリブデン(Mo)の融点は1620℃である。ステンレス(SUS)線は焼鈍温度1150℃以下の範囲で使用できるとされており、例えば日本精線社から直径11μmのステンレス線が販売されている。銅は電線として最も汎用されている。前記金属フィラメントの線直径は任意のものとすることができる。一例として100μm以下が好ましい。発熱衣料用金属フィラメントの線の場合は、直径30~100μmが好ましい。血圧、脈拍等を測定するウエアラブル衣料用布帛に使用する検出線の場合は、直径22μm以下が好ましく、より好ましくは5~22μmであり、さらに好ましくは5~15μmであり、とくに好ましくは8~12μmである。前記の直径であれば、皮膚に触っても粗硬感を感じにくい。また、有機繊維糸をカバーリング及び/又は撚り合わせると、金属フィラメントは細いため目視しにくくなり、有機繊維糸の染色性及び色目の障害にはならない。金属フィラメントは、モノフィラメントでもマルチフィラメントでもよいが、モノフィラメントのほうが扱いやすい。フィラメント(長繊維糸)を使用すると、繊維構造物の両端を含む任意の部分で電気的導通をすることができる。
【0016】
前記ハンダ金属は、Sn-Znを主成分とするハンダ、又はPb-Snを主成分とするハンダが好ましい。これらのハンダ金属は超音波ハンダ付けに適しており、かつフラックスを必要とせず直接金属フィラメントをハンダできる。Sn-Znを主成分とするハンダは例えば黒田テクノ社製、商品名"セルソルザ"、Pb-Snを主成分とするハンダは例えば黒田テクノ社製、商品名"セルソルザ・エコ“などがある。
【0017】
本発明のハンダ付け部含有布帛は、電気抵抗による発熱布帛、ウエアラブル衣料用布帛、又は金属フィラメント間の短絡を検知する布帛に好適である。電気抵抗による発熱布帛は、例えばオートバイ運転者が着用する衣料、寒い地方や高山などで着用する衣料に使用され、ウエアラブル衣料用布帛は血圧、脈拍等を測定する器具を組み込んだウエアラブル衣料があり、短絡検知布帛は例えば人体の体液遺漏検知布帛がある。
【0018】
前記金属フィラメントを含む糸は、芯糸、花糸及び押さえ糸で構成され、前記花糸はループ又はたるみを有する撚り糸であって、芯糸、花糸及び押さえ糸から選ばれる少なくとも一つの糸は金属フィラメントに有機繊維がカバーリングヤーンされた糸であり、全体に実撚りがかかっているのが好ましい。このような撚り糸は意匠撚糸ともいい、金属フィラメント糸が入っていても伸びを有するので、織物や編み物に加工できる。意匠撚糸の一部には水溶解性繊維糸を使用してもよい。水溶解性繊維糸は、例えば水溶性ビニロンがあり、温水乃至熱騰水で溶解できる。
【0019】
金属フィラメントの表面に水溶解性繊維糸を巻き付けたカバーリングヤーンも使用できる。このカバーリングヤーンは、全体としてストレート状である。これは金属フィラメントの形状が残っているためである。水溶性ビニロンは、フィラメント糸でもよいし紡績糸でもよい。前記カバーリングヤーンは、シングルカバーリングヤーン又はダブルカバーリングヤーンが好ましい。この中でもシングルカバーリングヤーンは製造しやすく、コストも安いため好ましい。芯糸の金属フィラメントには、さらに添え糸として水溶解性繊維糸が配置されているのが好ましい。このような添え糸が配置されていると、金属フィラメントとカバーリング糸との一体性が高くなる。
【0020】
前記カバーリングヤーン及び撚り糸は、リング撚糸機、ダブルツィスター、トライツィスター等の撚糸機を使用して製造できる。とくにリング撚糸機、ダブルツィスターは張力を掛けることができ、大量生産も可能でコスト的に好ましい。
【0021】
金属フィラメントと有機繊維を含む糸は、ニットデニット糸であってもよい。このニットデニット糸は、金属線含有糸を編み物とし、この編み物を解編したニットデニット糸である。編み物を解編すると、編み物のクリンプ形態が糸に残る。このクリンプにより伸縮性が発現する。この金属線含有ニットデニット糸の0(ゼロ)gと30g荷重時の見掛け長さの変化率は2倍以上が好ましく、より好ましくは3倍以上である。前記の範囲であれば伸縮性生地にも適用できる。また、JIS L 1013:2010、「8.11 伸縮性」A法に規定される伸縮弾性率は、50%以上が好ましく、より好ましくは65%以上であり、さらに好ましくは80%以上である。前記の範囲であれば伸縮性生地にも適用できる。
【0022】
本発明の利点の一例を挙げると次のようになる。
(1)金属線を含むので剥離がなく、洗濯性に優れる。
(2)カーボンブラックなどの導電材料練り込み糸より摩耗しにくい。
(3)細い金属線の場合はほとんど目に見えないので、一緒に構成される糸の、色味を邪魔しにくい。
(4)細い金属線は断線しても肌に刺さり難く、その細さゆえに肌触りも良い。
(5)静電気の起きやすい繊維と合わせると、静電除去できる。これは静電除去服、作業服、消防服、アクリルセーター等に有用である。
(6)伸縮性を有するので、運動時に人体に接する電極として締め付けが少なく、肌面への追従性がよい。
(7)導電線として、或いは電力供給により発熱性を有する発熱線として機能する。電気伝導性の良い銅線と組み合わせると、必要な部分のみ発熱させることもできる。
(8)ウエアラブル衣料は電源・計測機器との接続面に金属コード・金属板・金属スナップボタンを利用しているが、接続する器具の形状に制限があったり、接続面が硬いなどの問題があるが、本発明のカバーリング糸、特に溶解糸を溶解済の金属ループヤーンを用いると、接続面が導電する面ファスナーのようになり、上記問題の解決に有効である。
【0023】
以下、図面を用いて説明する。以下の図面において、同一符号は同一物を示す。図1は本発明の一実施態様のハンダ付け部含有布帛の模式的側面図である。このハンダ付け部含有布帛1は地組織2が織物の例であり、経糸4と緯糸3は衣料用有機繊維糸で構成されている。金属フィラメントを含む意匠撚糸は経糸6a,6bと緯糸5a-5nに配置され、ハンダ付け部7a,7bにおいて経糸と緯糸の金属フィラメントはハンダ付けされている。ハンダ付け部7a,7bは電力入力のための端子とすることができ、ハンダ付け部7a,7bに通電するとハンダ付け部含有緯糸5gが発熱する。経糸6a,6bと緯糸5a-5nの交差する部分すべてにハンダ付けし、最も離れた位置関係にあるハンダ付け部2点を端子として通電させると布帛1全体が発熱する。例えば経糸6a,6bを銅線含有糸とし、緯糸5a-5nをタングステン線含有糸として配置すると、銅線部は電気抵抗が低く発熱せず、タングステン線部分で発熱する。このようにして必要な部分のみを発熱できる。
【0024】
図2は同、ハンダ付け部含有布帛1の模式的断面図である。ハンダ付け部7aは、ハンダ金属が超音波ハンダにより溶融し、布帛の表面から布帛内に浸透し、固化した状態で前記金属フィラメント6a,5gと固着している。ハンダ付け部7aの表面部は入力端子として使用できる。
【0025】
図3Aは本発明の一実施形態のシングルカバーリングヤーン11の側面説明図である。このシングルカバーリングヤーン11は、芯糸の金属フィラメント12の表面に有機繊維糸又は水溶解繊維糸13を巻き付けた糸である。図3Bは同、ダブルカバーリングヤーン14の側面説明図である。このシングルカバーリングヤーン14は、芯糸の金属フィラメント12の表面に有機繊維糸又は水溶解繊維糸13と、その表面に水溶解繊維糸13とは逆方向に水溶解繊維糸15を巻き付けた糸である。図3Cは同、芯糸の金属フィラメント12に添え糸17を配置してシングルカバーリングヤーン16とした側面説明図である。
【0026】
図4は同、意匠撚糸18の側面説明図である。この意匠撚糸18は前記のシングルカバーリングヤーン又はダブルカバーリングヤーンを使用して製造されており、芯糸19の表面に花糸20が浮き糸状態でたるんで配置され、その上から押さえ糸21で固定している。この意匠撚糸18は全体として100~1000回/m程度の実撚りがかかっている。
【0027】
図5は本発明の一実施形態の繊維織物基材の表面に金属フィラメント含有糸を配線し、ハンダ付けした模式的平面図である。繊維織物基材22は、緯糸23の部分はポリエステルなどの有機繊維糸、緯糸24の部分は金属フィラメント含有糸であり、経糸はポリエステルなどの有機繊維糸で構成されている。この繊維織物基材22の表面に金属フィラメント含有意匠撚糸25を配線し、ハンダ付け部26により固着している。ハンダ付け部26の断面は図2に示すとおりである。
【0028】
図6は本発明の別の実施形態の繊維織物基材の表面に金属フィラメント含有糸を配線し、ハンダ付けした模式的平面図である。繊維織物基材27は、配線糸として金属フィラメント含有ニットデニット糸28を使用した以外は図5と同様である。金属フィラメント含有ニットデニット糸28を使用すると、繊維織物基材27が伸縮性基材であっても伸縮性に追従できる。
【0029】
図7は本発明の別の実施形態の基材の表面に金属フィラメント含有糸を配線し、ハンダ付けした模式的平面図である。基材29の表面に、金属フィラメント含有糸意匠撚糸25と金属フィラメント含有ニットデニット糸28を配線し、ハンダ付け部30a-30eにより固着した例である。基材29は、繊維構造物、樹脂成形体、セラミックス、ガラス、木材、合成紙及びこれらの混合物体などが使用できる。
【0030】
図8は本発明の一実施形態の編み物を解編したニットデニット糸の状態を示す写真である。このニットデニット糸はクリンプ(捲縮)が付与されている。
【実施例
【0031】
以下実施例を用いて、さらに本発明を具体的に説明する。本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0032】
(実施例1)
<意匠撚糸>
この実施例はタングステン・ポリエステルの2成分ストレート糸の例である。
<組成>
ポリエステル 150デニール×1本
ポリエステル 50デニール×1本
タングステン 直径11μm×1本
<撚糸方法>
カバーリング撚糸
(芯糸)
ポリエステル 150デニール×1本
タングステン 11μm×1本
(押え糸)
ポリエステル 50デニール×1本
(撚り数)
280回/m(S撚り)
<織物>
(1)経糸
素材;レーヨン、糸番手;30番手、密度;40本/インチ、タングステンフィラメントを含む意匠撚糸は200mmの間隔をあけて1本配置。
(2)緯糸
素材;ポリエステル、糸番手;10番手、密度;40本/インチ、タングステンフィラメントを含む意匠撚糸は6mmの間隔をあけて1本配置。
(3)単位面積当たりの質量(目付):110g/m2
<ハンダ付け>
超音波ハンダ付け装置:黒田テクノ社製、商品名"SUNBONDER"USM-560、周波数60kHz±5kHz、超音波発信出力:定格15W(max)(実効10W(max))、ヒーター温度200~500℃、電源容量:AC100V/240V,50/60Hz,150Wを使用した。
ハンダ金属は、黒田テクノ社製、商品名"セルソルザ"、Pb-Snを主成分とするハンダは例えば黒田テクノ社製、商品名"セルソルザ・エコ"を使用した。
そして、織物が焦げない程度に超音波ハンダ付け装置でハンダ金属を溶かし、図1~2に示すハンダ付けをした。
<発熱試験>
このようにして得られた図1~2に示す織物のハンダ部を入力端子にして、5Wの電力を通電したところ、織物全体は1分で約40℃まで加熱できた。
【0033】
(実施例2)
<意匠撚糸>
この実施例はタングステン・水溶性ビニロンの2成分ストレート糸の例である。
<組成>
水溶性ビニロン;110T/25F×2本
タングステン;直径11μm×1本
<撚糸方法>
カバーリング撚糸
(芯糸)
水溶性ビニロン;110T/25F×1本
タングステン;直径11μm×1本
(押え糸)
水溶性ビニロン;110T/25F×1本
(撚り数)
280回/m(S撚り)
<織物>
(1)経糸
素材;レーヨン、糸番手;30番手、密度;40本/インチ、タングステンフィラメントを含む意匠撚糸は200mmの間隔をあけて1本配置。
(2)緯糸
素材;ポリエステル、糸番手;10番手、密度;40本/インチ、タングステンフィラメントを含む意匠撚糸は10mmの間隔をあけて1本配置。
(3)単位面積当たりの質量(目付);100g/m2
(4)ハンダ付け実施前に、織物の水溶性ビニロンを温水で溶解させ除去した状態にした。
<ハンダ付け>
超音波ハンダ付け装置:黒田テクノ社製、商品名”SUNBONDER”USM-560、周波数60kHz±5kHz、超音波発信出力:定格15W(max)(実効10W(max))、ヒーター温度200~500℃、電源容量:AC100V/240V,50/60Hz,150Wを使用した。
ハンダ金属は、黒田テクノ社製、商品名”セルソルザ”、Pb-Snを主成分とするハンダは例えば黒田テクノ社製、商品名”セルソルザ・エコ”を使用した。
そして、織物が焦げない程度に超音波ハンダ付け装置でハンダ金属を溶かし、図1~2に示すハンダ付けをした。
<LED点灯試験>
このようにして得られた図1~2に示す織物のハンダ部を入力端子にして、赤色LEDを発光させた。これにより、ハンダ付け部とタングステンフィラメント経糸及び緯糸との電気的導通がなされているかを確認した。
(使用器具)
LED:定格電圧2V 定格電流20mA
抵抗:6V用抵抗(180Ω)
電源:1.5Vアルカリ乾電池を2本直列つないだ。
【0034】
(実施例3)
<意匠撚糸>
この実施例はタングステン・ポリエステルの2成分ストレート糸の例である。
<組成>
ポリエステル 150デニール×1本
ポリエステル 50デニール×1本
タングステン 直径11μm×1本
<撚糸方法>
カバーリング撚糸
(芯糸)
ポリエステル 150デニール×1本
タングステン 11μm×1本
(押え糸)
ポリエステル 50デニール×1本
(撚り数)
280回/m(S撚り)
<織物>
(1)経糸
素材;レーヨン、糸番手;30番手、密度;40本/インチ
(2)緯糸
素材;意匠撚糸、糸番手;200デニール、密度;40本/インチ
(3)単位面積当たりの質量(目付):85g/m2
以上のようにして作成した織物22の表面に、実施例1で得られた意匠撚糸を4本引き揃えた糸25を図5に示すように配線し、実施例1と同様にハンダ付けし、ハンダ付け部26とした。このようにして得られた織物22の意匠撚糸引き揃えた糸25をプラス極の入力端子にして、5Wの電力を通電したところ、マイナス極と繋がるLEDを織物全体のどの箇所に繋げても発光した。
【0035】
(実施例4)
実施例1で得られた意匠撚糸を使用して島精機製作所製14ゲージ横編機を用いて、幅16cm・長さ12cm・目付13グラムの生地を編み立て、その後80℃・30分の条件にてヒートセットを行い、解編してニットデニット糸を得た。このニットデニット糸のクリンプ数は10個/1cm、JIS L 1013:2010、「8.11 伸縮性」A法に規定される伸縮弾性率は84%であった(0.5gの荷重時と23.8gの荷重時の差を計測)。この金属線含有ニットデニット糸の0(ゼロ)gと30g荷重時の見掛け長さの変化率は3.4倍であった。
図6に示すように、実施例3で得られた織物の表面に、ニットデニット糸28を配線し、実施例1と同様にハンダ付けし、ハンダ付け部26とした。このようにして得られた織物27のニットデニット糸28をプラス極の入力端子にして、5Wの電力を通電したところ、マイナス極と繋がるLEDを織物全体のどの箇所に繋げても発光した。
【0036】
(実施例5)
下記の基材に対して実施例1~4の糸を図7に示すようにハンダ付けした。その結果、いずれの基材もハンダ付けできた。
(1)繊維不織布の表面にポリエチレンフィルムをラミネートした繊維構造物
(2)ポリブチレンテレフタレート樹脂成形体
(3)磁器セラミックス
(4)ガラス
(5)木材
(6)合成紙
(7)金属板
また、実施例1~4の糸同士もハンダ付けできることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のハンダ付け部含有基材は、例えば発熱衣料、ウエアラブル衣料、短絡検知衣料などに有用である。
【符号の説明】
【0038】
1 ハンダ付け部含有布帛
2 地組織
3,5a-5n,緯糸
4,6a,6b 経糸
7a,7b,26,30a-30e ハンダ付け部
11,16 シングルカバーリングヤーン
12 金属フィラメント
13 有機繊維糸
14 ダブルカバーリングヤーン
17 添え糸
18 意匠撚糸
19 芯糸
20 花糸
21 押さえ糸
22,27 繊維織物基材
23 緯糸の有機繊維糸
24 緯糸の金属フィラメント含有糸
25 金属フィラメント含有意匠撚糸
28 金属フィラメント含有ニットデニット糸
29 基材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8