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特許7295559キトサン系複合体組成物及びキトサン系複合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】キトサン系複合体組成物及びキトサン系複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 5/08 20060101AFI20230614BHJP
   C08B 37/08 20060101ALI20230614BHJP
   C08G 64/02 20060101ALI20230614BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20230614BHJP
   C08J 3/21 20060101ALI20230614BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
C08L5/08
C08B37/08 A
C08G64/02
C08L69/00
C08J3/21 CEP
C08J5/18 CFD
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019104022
(22)【出願日】2019-06-03
(65)【公開番号】P2020196823
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】網代 広治
(72)【発明者】
【氏名】入倉 幸一
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-192299(JP,A)
【文献】特表2020-521803(JP,A)
【文献】国際公開第2018/219987(WO,A1)
【文献】特表2019-517892(JP,A)
【文献】国際公開第2017/216609(WO,A1)
【文献】特開2016-116873(JP,A)
【文献】特開2007-301213(JP,A)
【文献】特表2012-522098(JP,A)
【文献】特開平06-172577(JP,A)
【文献】特開2000-290303(JP,A)
【文献】特開平11-247067(JP,A)
【文献】国際公開第2017/204276(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/001325(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 5/08
C08B 37/08
C08G 64/02
C08L 69/00
C08J 3/21
C08J 5/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トサン及びN,N,N-トリメチルキトサンの少なくとも一つの多糖と、
ポリTMC(トリメチレンカーボネート)、ポリMBC(5-methyl-5-benzyloxycarbonyl-1,3-dioxan-2-one)、及びTMCとMBCの共重合体からなる群から選択される少なくとも一つのトリメチレンカーボネート系ポリマーと、
又は、
4級アミノ化キトサンから成る多糖と、
TMC及びMBCの組成比が7:3であるTMCとMBCの共重合体から成るトリメチレンカーボネート系ポリマーと、
を含む、キトサン系複合体組成物。
【請求項2】
トサン及びN,N,N-トリメチルキトサンの少なくとも一つの多糖と、ポリTMC(トリメチレンカーボネート)、ポリMBC(5-methyl-5-benzyloxycarbonyl-1,3-dioxan-2-one)、及びTMCとMBCの共重合体からなる群から選択される少なくとも一つのトリメチレンカーボネート系ポリマーと、又は、4級アミノ化キトサンから成る多糖と、TMC及びMBCの組成比が7:3であるTMCとMBCの共重合体から成るトリメチレンカーボネート系ポリマーとを溶媒中で混合して溶液又は懸濁液を形成し、前記溶液又は前記懸濁液を加熱して該溶液又は該懸濁液から溶媒を除去することによりキトサン系複合体を製造する、キトサン系複合体の製造方法。
【請求項3】
前記溶媒がグリセロールを含むことを特徴とする請求項2に記載のキトサン系複合体の製造方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の製造方法において、
N,N,N-トリメチルキトサンから成る多糖と、ポリMBC(5-methyl-5-benzyloxycarbonyl-1,3-dioxan-2-one)及びTMCとMBCの共重合体の少なくとも一つのトリメチレンカーボネート系ポリマーと、又は、4級アミノ化キトサンから成る多糖と、TMC及びMBCの組成比が7:3であるTMCとMBCの共重合体から成るトリメチレンカーボネート系ポリマーとを前記溶媒中で混合することを特徴とするキトサン系複合体の製造方法。
【請求項5】
請求項2~4のいずれかに記載の製造方法において、
前記溶媒が極性溶媒であることを特徴とするキトサン系複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キチン・キトサン系複合体組成物及びキチン・キトサン系複合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キチン及びキトサンはエビやカニ等の甲殻類から得られる多糖類であり、生体親和性や抗菌性を有することが知られている。そのため、従来よりキチン・キトサンは、再生医療の足場材料、創傷被覆材料等、医療素材としての利用が検討されている。しかし、キチン・キトサンを単独で利用した素材は柔軟性に欠けるため、脆いという欠点がある。
【0003】
そこで、キチン・キトサンを他の化合物と組み合わせて化学的に複合化した複合化材料の開発が進められている(例えば特許文献1)が、これまで開発されている複合化材料では、縫合糸や創傷被覆材のように、しなやかさが求められる医療素材の材料に利用するには伸縮性や弾力性が低く、改善が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-281425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、柔軟性に加え、伸縮性及び弾力性に富んだキチン・キトサン系複合体を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために成された本発明の第1態様は、
キチン、キトサン、キチン誘導体、及びキトサン誘導体からなる群から選択される少なくとも一つの多糖と、
トリメチレンカーボネート及びトリメチレンカーボネート誘導体の少なくとも一つから成るトリメチレンカーボネート系ポリマーと
を含む、キチン・キトサン系複合体組成物である。
【0007】
上記キチン・キトサン系複合体組成物を溶媒に溶解して溶液又は懸濁液にし、加熱して溶媒を除去することにより、キチン・キトサン系複合体が得られる。該複合体では、トリメチレンカーボネート系ポリマーとキチン・キトサン又はキチン・キトサン誘導体が化学的に結合するのではなく、トリメチレンカーボネート系ポリマーにより形成される網目構造中にキチン・キトサン又はキチン・キトサン誘導体からなる鎖状構造が入り込んだ状態となる。したがって、トリメチレンカーボネート系ポリマーの有する優れた伸縮性、弾力性と、キチン・キトサンの特性(抗菌性、生体親和性)を兼ね備えた複合体を得ることができる。しかも、トリメチレンカーボネート系ポリマーは生体適合性に優れていることから、前記キチン・キトサン系複合体は、医療素材として有用である。また、前記複合体はキチン・キトサンに由来する抗菌性を備えることから、医療素材はもちろん、介護用品や乳幼児用品等の素材にも用いることができる。
【0008】
上記キチン・キトサン系複合体組成物に含まれる多糖は一種類でもよく複数種類でもよい。また、同様に、上記キチン・キトサン系複合体組成物に含まれるトリメチレンカーボネート系ポリマーは一種類でもよく複数種類でもよい。
【0009】
上記キチン・キトサン系複合体組成物から得られる複合体の物性(弾力性、伸縮性等)は、キチン・キトサン系複合体組成物における、多糖とトリメチレンカーボネート系ポリマーの比率によって決まる。言い換えると、該比率を調整することにより、用途に応じた適宜の物性の複合体を得ることができる。
【0010】
また、本発明の第2態様は、キチン・キトサン系複合体を製造する方法であって、
キチン、キトサン、キチン誘導体、及びキトサン誘導体からなる群から選択される少なくとも一つの多糖と、トリメチレンカーボネート及びトリメチレンカーボネート誘導体の少なくとも一つから成るトリメチレンカーボネート系ポリマーとを溶媒中で混合して溶液又は懸濁液を形成し、前記溶液又は前記懸濁液を加熱して該溶液又は該懸濁液から溶媒を除去することを特徴とする。
【0011】
上記製造方法においては、前記溶媒にグリセロールを含めることで、溶液又は懸濁液を加熱して溶媒を除去するときに気泡の発生を抑えることができる。これにより、キチン・キトサン系複合体の透明度が上がる。また、引張強度の改善を図ることができる。
【0012】
また、上記製造方法においては、前記多糖を正に帯電させ、前記トリメチレンカーボネート系ポリマーを負に帯電させて、両者を前記溶媒中で混合することが好ましい。このようにすることで、溶媒中で多糖とポリマーを効率よく混合することができる。
【0013】
この場合、前記多糖を正に帯電させる方法としては、前記多糖を4級アミノ化する方法が挙げられる。また、前記トリメチレンカーボネート系ポリマーを負に帯電させる方法としては、該ポリマーにカルボン酸を導入する方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、キチン・キトサン又はキチン・キトサン誘導体に、トリメチレンカーボネート系ポリマーを組み合わせたため、柔軟性、伸縮性、及び弾力性に富んだキチン・キトサン系複合体を得ることができる。また、キチン・キトサン、キチン・キトサン誘導体は抗菌性、生体適合性に優れ、トリメチレンカーボネート系ポリマーは生体適合性に優れることから、本発明に係る前記キチン・キトサン系複合体は、医療素材として有用であり、特に優れた伸縮性、優れた弾力性が求められる縫合糸や創傷被覆材に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施例1に係るキチン・キトサン系複合体(フィルム)を製造する手順を示す図。
図2】キトサン及びキトサン誘導体である4級アミノ化キトサン、N,N,N-トリメチルキトサンの化学構造、並びに合成条件を示す図。
図3】キトサン(a)及びキトサン誘導体である4級アミノ化キトサン(b)、N,N,N-トリメチルキトサン(c)のH-NMRスペクトル。
図4】ポリトリメチレンカーボネート及びその誘導体であるポリMBC並びにTMCとMBCの共重合体の合成経路及び合成条件を示す図。
図5】製造例1の溶液(A)及び溶液(C)からフィルムを得るまでの一工程の概略図、フィルムの外観写真、及びフィルムの内部構造の模式図。
図6】溶液(A)~(C)から得られたフィルムのFT-IRスペクトル(a)、溶液(A)及び(C)から得られたフィルムの引張試験による応力-歪み曲線(b)。
図7】製造例2の溶液(D)及び溶液(E)からフィルムを得るまでの一工程の概略図、及びフィルムの外観写真。
図8】溶液(D)及び(E)から得られたフィルムのFT-IR(フーリエ変換赤外分光光度計)スペクトル(a)、溶液(D)及び(E)から得られたフィルムの引張試験による応力-歪み曲線(b)。
図9】製造例3の溶液(F)~(H)からフィルムを得るまでの一工程の概略図、フィルムの外観写真、及びフィルムの内部構造の模式図。
図10】溶液(F)~(H)から得られたフィルムのFT-IR(フーリエ変換赤外分光光度計)スペクトル(a)、溶液(F)~(H)から得られたフィルムの引張試験による応力-歪み曲線(b)。
図11】本発明の実施例2に係るキチン・キトサン系複合体(フィルム)を製造する手順を示す図。
図12】手順(4)において40℃で加熱して得られたフィルムの外観写真(a)、及び25℃で加熱して得られたフィルムの外観写真(b)。
図13】本発明の実施例3に係るキチン・キトサン系複合体であるフィルムの外観写真図であって、CS、PTMC、グリセロールの混合比(CS:PTMC:グリセロール)が90:0:10(a)、75:25:0(b)、67.5:22.5:10(c)、60:20:20(d)のときの写真。
図14】実施例3で得られた4種類のフィルムの引張試験による応力-歪み曲線。
図15】実施例3で得られた4種類のフィルムの圧縮試験による応力-歪み曲線。
図16】CS-g-PTMC複合体の概略的な合成経路を示す図。
図17図16の合成経路における中間生成物のH-NMRスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るキチン・キトサン系複合体組成物及びキチン・キトサン系複合体の製造方法について実施例を挙げて説明する。
【0017】
[実施例1]
1.キチン・キトサン系複合体の製造
図1は、本発明の実施例1に係るキチン・キトサン系複合体の製造方法の手順を概略的に示す図である。この実施例では、キチン・キトサン系複合体から成るフィルムを製造することとする。
【0018】
手順(1):水又はN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)が収容された容器に、キトサン(CS)又はCS誘導体と、ポリトリメチレンカーボネート(PTMC)又はPTMC誘導体とから成る組成物を加え、混合して溶液又は混濁液(以下、まとめて「溶液」ということとする。)を得る。
手順(2):手順(1)で得られた溶液を直径50mmのテフロン皿に所定量入れる。
手順(3):テフロン皿を1-2日間、40℃-80℃に加熱して、溶液中の溶媒を除去する。
手順(4):続いて減圧下でテフロン皿を40℃-80℃に加熱し、さらに、溶液中の溶媒を除去する。
手順(5):テフロン皿からフィルムを剥がす。
【0019】
CS誘導体としては4級アミノ化キトサン(QCS)、又はN,N,N-トリメチルキトサン(TMCS)を用いることができる。図2にCS、QCS及びTMCSの構造式を示す。また、CSからQCS及びTMCSを合成する条件を示す。具体的には、QCSは、CSにグリシジルトリメチルアンモニウムクロリドと0.5%酢酸を添加し、一晩放置することにより得た。また、TMCSは、CSにヨウ化ナトリウム(NaI)、ヨードメタン(CH3I)、15%水酸化ナトリウム、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を添加し、室温で4日間放置することにより得た。
【0020】
得られたQCS及びTMCSの物性値を以下の表1に示す。また、図3の(a)~(c)はそれぞれCS、QCS、TMCSのH-NMRスペクトルである。
【表1】
【0021】
また、PTMC誘導体としては、ポリMBC(5-methyl-5-benzyloxycarbonyl-1,3-dioxan-2-one)並びにTMCとMBCの共重合体を用いることができる。図4に、ポリTMC及びポリMBC並びにTMCとMBCの共重合体の合成経路、及び各過程における合成条件を示す。また、これらポリMBC並びにTMCとMBCの共重合体の物性値を以下の表2に示す。
【0022】
なお、図1において、手順(2)、(3)、(4)に掲載した写真は、それぞれ、CSとPTMCから成る組成物と水を混合して得られた溶液、該溶液を加熱している途中でテフロン皿から取り外した複合体、溶液の加熱が終了した時点のテフロン皿の内部の様子を示している。手順(3)及び(4)の写真から分かるように、加熱の途中では複合体は白濁色であったが、加熱終了時の複合体は略透明であった。
【0023】
上記手順(1)~(5)によって実際にフィルムを製造した例について説明する
<製造例1>
1v/v%の酢酸:40mLとCS:0.4gとから成る溶液(A)、1v/v%の酢酸:40mLとポリMBC:0.4gとから成る溶液(B)、1v/v%の酢酸:20mLとCS:0.2gとポリMBC:0.2gとから成る溶液(C)を調製し(手順(1))、手順(2)~(5)によってフィルムを製造した。溶液(A)及び溶液(C)からフィルムを得るまでの一工程を示す図、フィルムの外観写真及びフィルムの内部構造の模式図を図5に示す。
図5の外観写真は、透明度の確認のため、文字と絵が描かれた紙の上にフィルムを載置して撮影したものである。図5の外観写真から分かるように、溶液(A)、(C)から得られたフィルムはいずれも透明度が高く、フィルムを通して文字及び絵を確認することができた。
【0024】
図6(a)は、溶液(A)~(C)から得られたフィルムのFT-IR(フーリエ変換赤外分光光度計)スペクトル、(b)は溶液(A)及び(C)から得られたフィルムの引張試験による応力-歪みカーブである。
図6(a)から分かるように、溶液(C)から得られたフィルムのFT-IRスペクトルは、溶液(A)及び(B)のそれぞれから得られたフィルムのFT-IRスペクトルを足し合わせたような形状であった。
また、図6(b)から、溶液(A)から得られたフィルムに比べると、溶液(C)から得られたフィルムは、引き延ばすためには強い力を加える必要があり、伸縮性が低く、弾性変形し難いことが分かった。
【0025】
<製造例2>
水:20mLとQCS:0.4gから成る溶液(D)、水:20mLと15%の水酸化ナトリウム:1mLとQCS:0.2gとTMC(7)-MBC(3):0.2gとから成る溶液(E)とを用い、手順(2)~(5)によってフィルムを製造した。溶液(D)及び溶液(E)からフィルムを得るまでの一工程を示す図、及びフィルムの外観写真を図7に示す。図7の外観写真から分かるように、溶液(D)から得られたフィルムは透明度が高く、フィルムを通して文字及び絵を確認することができた。一方、溶液(E)から得られたフィルムは、丸く縮んだ状態であり、透明度も低かった。
【0026】
図8(a)は、溶液(D)及び(E)から得られたフィルムのFT-IR(フーリエ変換赤外分光光度計)スペクトル、(b)は溶液(D)及び(E)から得られたフィルムの引張試験による応力-歪み曲線である。
【0027】
<製造例3>
N,N-ジメチルホルムアミド(DMF):20mLとTMCS:0.4gとから成る溶液(F)と、DMF:20mLとTMCS:0.2gとPTMC:0.2gとから成る溶液(G)と、DMF:20mLとTMCS:0.2gとTMC(7)-MBC(3):0.2gとから成る溶液(H)とを用い、手順(2)~(5)によってフィルムを製造した。
フィルムを得るまでの一工程を示す図、フィルムの外観写真及びフィルムの内部構造の模式図を図9に示す。図9の外観写真から分かるように、溶液(F)から得られたフィルムは、該フィルムを通して文字及び絵を確認することができる程度の透明度を有していたが、丸く固まった状態であった。一方、溶液(G)及び(H)からは、フィルム状の複合体は得られなかった。
図10(a)は、溶液(F)~(H)から得られたフィルムのFT-IR(フーリエ変換赤外分光光度計)スペクトル、(b)は溶液(F)~(H)から得られたフィルムの引張試験による応力-歪みカーブである。
【0028】
以下の表3に、製造例1~3で得られたフィルムの柔軟性の評価結果を示す。
【表3】
【0029】
[実施例2]
1.キチン・キトサン系複合体の製造
この実施例は、キトサン(CS)とポリトリメチレンカーボネート(PTMC)の混合比率の違い、及び加熱温度の違いによる複合体(フィルム)の外観の違いを調べるために行った。
【0030】
図11に、実施例2に係るキチン・キトサン系複合体の製造方法の手順を概略的に示す。実施例1の製造方法の手順(1)では、CS又はCS誘導体と、PTMC又はPTMC誘導体とからなる組成物を溶媒に加えたのに対して、実施例2の製造方法の手順(1)では、CSを1v/v%び酸性溶液に溶解した溶液とPTMCを1w/w%のテトラヒドロフラン(THF)に溶解した溶液を混合して、溶液を得た。このとき、混合溶液中のCSとPTMCの比(CS:PTMC)が、100:0~25:75となるように、CS溶液及びPTMC溶液の各混合量を調製した。
【0031】
また、実施例1の手順(3)及び(4)では、いずれもテフロン皿を40℃-80℃に加熱したが、実施例2の手順(3)ではテフロン皿を25℃又は40℃に加熱し、手順(4)では室温下にテフロン皿を放置した。
以下の式(1)に本実施例で用いたPTMCの構造式を、表4にその物性値を示す。
【化1】
【表4】
【0032】
図12の左側3枚は手順(4)において40℃で加熱したときのフィルムの外観写真、右側4枚は手順(4)において25℃で加熱したときのフィルムの外観写真である。各外観写真に記載されている比は、いずれもCS:PTMCを示している。
これらの外観写真の比較から分かるように、40℃で加熱したときよりも25℃で加熱したときの方が、得られたフィルムの透明度が高かった。これは、低温で加熱した方が混合溶液から溶媒が蒸発する際に気泡の発生が抑えられるためであると思われる。また、複合体に占めるPTMCの割合が大きくなるとフィルムの形状が崩れ、特に25℃で加熱し、PTMCの割合が75%の複合体ではフィルムを形成することができなかった。
【0033】
[実施例3]
この実施例は、CS溶液とPTMC溶液の混合液にグリセロールを添加して複合体を製造したことによる該複合体の外観及び引張強度の変化を調べたものである。この実施例では、基本的には実施例2に示した製造方法と同様の手順によって複合体(フィルム)を製造したが、本実施例では、実施例2に示した製造方法の手順(1)において、CS溶液にグリセロールを添加した。また手順(3)ではテフロン皿を25℃に加熱した。
【0034】
図13はCS:PTMC:グリセロールの混合比を90:0:10、75:25:0、67.5:22.5:10、60:20:20としたときの、フィルムの外観写真を示している。図13及び実施例2で説明した図12との比較から分かるように、グリセロールを添加することによってフィルムの透明度が高まった。
【0035】
図14図15は、それぞれ図13の(a)~(d)に示すフィルムの引張試験による応力-歪み曲線、圧縮試験による応力-歪み曲線である。これらの図より、グリセロールの添加量が最も多かったフィルム(d)は、その他のフィルムに比べると小さい力で大きく伸縮することが分かった。
【0036】
図16は、グリセロールが添加された複合体(CS-g-PTMC複合体)の概略的な合成経路を示す。また、以下の表5は、図16に示す合成経路における中間生成物であるPTMC-Allyl及びPTMC-Epoxyの物性値、図17H-NMRスペクトルである。
【表5】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17