(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】織物及び敷物
(51)【国際特許分類】
D03D 15/49 20210101AFI20230614BHJP
A47G 27/02 20060101ALI20230614BHJP
D02G 3/42 20060101ALI20230614BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20230614BHJP
D03D 15/283 20210101ALI20230614BHJP
D03D 15/43 20210101ALI20230614BHJP
【FI】
D03D15/49
A47G27/02 D
D02G3/42
D03D1/00 Z
D03D15/283
D03D15/43
(21)【出願番号】P 2018228598
(22)【出願日】2018-12-05
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000178583
【氏名又は名称】山崎産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095522
【氏名又は名称】高良 尚志
(72)【発明者】
【氏名】今岡 雅輝
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】実公昭07-010347(JP,Y2)
【文献】特開昭60-185839(JP,A)
【文献】特開2008-073173(JP,A)
【文献】特開2002-235260(JP,A)
【文献】中国実用新案第204401237(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47G27/00-27/06
D02G1/00-3/48
D02J1/00-13/00
D03D1/00-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸と緯糸からなる織物であって、
前記経糸及び緯糸は、何れも、芯糸に対し、
吸水率が20℃相対湿度65%において3%以下である吸水性に乏しい単繊維
であって撚により集束されていない状態のものからなる多数の飾り糸を保持し、それらの多数の飾り糸は、前記芯糸を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように周方向に密設されて内方に向かうほど高密度状態となり且つ軸線方向に密設された状態をなし、毛管現象により外周部から内方に向かう吸水力が作用するモール状糸体であり、
織物の一方の表面部及び他方の表面部は、何れも、前記経糸及び緯糸を構成するモール状糸体の外周部がそれぞれの表面部に沿って表れることにより、吸水力を発揮し得るものであることを特徴とする織物。
【請求項2】
経糸と緯糸からなる織物であって、
前記経糸及び緯糸は、何れも、芯糸に対し、ポリエステル系繊維、ポリプロピレン系繊維又はポリエチレン系繊維の単繊維であって撚により集束されていない状態のものからなる多数の飾り糸を保持し、それらの多数の飾り糸は、前記芯糸を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように周方向に密設されて内方に向かうほど高密度状態となり且つ軸線方向に密設された状態をなし、毛管現象により外周部から内方に向かう吸水力が作用するモール状糸体であり、
織物の一方の表面部及び他方の表面部は、何れも、前記経糸及び緯糸を構成するモール状糸体の外周部がそれぞれの表面部に沿って表れることにより、吸水力を発揮し得るものであることを特徴とする織物。
【請求項3】
上記モール状糸体の飾り糸が、互いに撚り合わさっていない状態の単繊維である請求項1
又は2記載の織物。
【請求項4】
上記モール状糸体における単繊維が、0.03乃至3デニールの
単繊維である請求項
1から3の何れか1項に記載の織物。
【請求項5】
上記モール状糸体の自然直径が3乃至40mmである請求項1
から4の何れか1項に記載の織物。
【請求項6】
経糸を構成するモール状糸体と緯糸を構成するモール状糸体の交差部における両芯糸の中心同士の距離が、両モール状糸体の自然半径の和よりも短い請求項1
から5の何れか1項に記載の織物。
【請求項7】
経糸を構成するモール状糸体同士である隣接経糸同士、及び、緯糸を構成するモール状糸体同士である隣接緯糸同士の、一方又は両方が、外周部同士において接触した状態又は圧接した状態である請求項1
から6の何れか1項に記載の織物。
【請求項8】
上記経糸と緯糸の一方又は両方は、ピッチがその隣接モール状糸体の自然半径の和の2分の1の0.5乃至2倍である請求項1
から7の何れか1項に記載の織物。
【請求項9】
上記経糸を構成するモール状糸体と緯糸を構成するモール状糸体が、色彩を除き同一である請求項1
から8の何れか1項に記載の織物。
【請求項10】
請求項1
から9の何れか1項に記載の織物からなる敷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モール状糸体を用いた織物及びその織物からなる敷物に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2007-138344号公報には、ヨコ糸が、糸の長さ方向において色彩が変化しているシェニール糸によって構成され、図柄が描出されている織物において、色差あるいは繊維素材差または糸断面径差を用い目印として認識でき、この目印が製織時の織幅より長い間隔で尚且つ等間隔で構成される折り返し目印12を有するシェニール糸をヨコ糸として織り込む時、上下に分かれたタテ糸内に挿入したシェニール糸の折り返し目印部12を織物の両端に配し、シェニール糸の折り返し部の折り返し目印部12aをA点とし、シャトル側に続くの折り返し目印部12bをB点とし、上下に分かれたタテ糸内に挿入されたシェニール糸を、指あるいは治具を用い織物の中心線17付近で屈曲させ、この屈曲部14をC点とし、A点C点間とB点C間でシェニール糸に弛みを発生させないように配置した製織法及びその製織法によるシェニール糸を用いた織物の発明が開示されている。
【0003】
この発明によれば、ヨコ糸が糸の長さ方向において色彩が変化しているシェニール糸によって構成され、図柄が描出されている織物が、織の初心者であっても、短時間で、良好な柄合わせ精度で得られるものとされているが、シェニール糸のクッション性を活かすという観点においては、十分とは言い得ないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、モール状糸体を用いたクッション性の良好な織物及びその織物からなる敷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の織物及び敷物は、次のように表すことができる。
【0007】
(1) 経糸と緯糸からなる織物であって、
前記経糸及び緯糸は、何れも、芯糸に対し多数の飾り糸を保持し、それらの多数の飾り糸は、前記芯糸を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように周方向に密設されて内方に向かうほど高密度状態となり且つ軸線方向に密設された状態をなすモール状糸体であることを特徴とする織物。
【0008】
本発明の織物は、経糸と緯糸からなり、それらの経糸及び緯糸が、何れも、芯糸に対し多数の飾り糸を保持し、それらの多数の飾り糸は、前記芯糸を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように周方向に密設されて内方に向かうほど高密度状態となり且つ軸線方向に密設された状態をなすモール状糸体であるため、織物の厚さ方向において、経糸及び緯糸を構成するモール状糸体が良好なクッション性を発揮し得る。
【0009】
(2) 経糸を構成するモール状糸体と緯糸を構成するモール状糸体の交差部における両芯糸の中心同士の距離が、両モール状糸体の自然半径の和よりも短い上記(1)記載の織物。
【0010】
(3) 経糸を構成するモール状糸体同士である隣接経糸同士、及び、緯糸を構成するモール状糸体同士である隣接緯糸同士の、一方又は両方が、外周部同士において接触した状態又は圧接した状態である上記(1)又は(2)記載の織物。
【0011】
(4) 経糸を構成するモール状糸体同士である隣接経糸同士、及び、緯糸を構成するモール状糸体同士である隣接緯糸同士の、両方が、外周部同士において接触した状態又は圧接した状態である上記(1)又は(2)記載の織物。
【0012】
(5) 経糸を構成するモール状糸体同士である隣接経糸同士、及び、緯糸を構成するモール状糸体同士である隣接緯糸同士の、一方が、外周部同士において圧接した状態である上記(3)又は(4)記載の織物。
【0013】
(6) 経糸を構成するモール状糸体同士である隣接経糸同士、及び、緯糸を構成するモール状糸体同士である隣接緯糸同士の、両方が、外周部同士において圧接した状態である上記(1)又は(2)記載の織物。
【0014】
(7) 上記経糸と緯糸の交差部における両芯糸の中心同士の距離は、両モール状糸体の自然半径の和の0.9倍以下である上記(1)記載の織物。
【0015】
(8) 上記経糸と緯糸の交差部における両芯糸の中心同士の距離が、両モール状糸体の自然半径の和の0.7倍以下である上記(1)記載の織物。
【0016】
(9) 上記経糸と緯糸の一方又は両方は、ピッチがその隣接モール状糸体の自然半径の和の2分の1の0.5乃至2倍である上記(1)、(7)又は(8)記載の織物。
【0017】
(10) 上記経糸と緯糸の一方は、ピッチがその隣接モール状糸体の自然半径の和の2分の1の0.5乃至2倍、他方は、ピッチがその隣接モール状糸体の自然半径の和の2分の1の0.5乃至1.9倍である上記(1)、(7)又は(8)記載の織物。
【0018】
(11) 上記経糸と緯糸は、それぞれ、ピッチがその隣接モール状糸体の自然半径の和の2分の1の0.8乃至1.5倍である上記(1)、(7)又は(8)記載の織物。
【0019】
(12) 上記経糸と緯糸のピッチがそれぞれ一定で互いに等しい上記(1)乃至(11)の何れか1項に記載の織物。
【0020】
(13) 上記経糸を構成するモール状糸体と緯糸を構成するモール状糸体が、色彩を除き同一である上記(1)乃至(12)の何れか1項に記載の織物。
【0021】
(14) 上記モール状糸体の自然直径が3乃至40mmである上記(1)乃至(13)の何れか1項に記載の織物。
【0022】
(15) 上記モール状糸体の飾り糸が、互いに撚り合わさっていない状態の単繊維である上記(1)乃至(14)の何れか1項に記載の織物。
【0023】
(16) 上記モール状糸体における単繊維が、0.03乃至3デニールの吸水性に乏しい単繊維である上記(15)記載の織物。
【0024】
(17) 上記単繊維が、ポリエステル系繊維、ポリプロピレン系繊維又はポリエチレン系繊維である上記(16)記載の織物。
【0025】
(18) 上記(1)乃至(17)の何れか1項に記載の織物からなる敷物。
【発明の効果】
【0026】
本発明の織物及び敷物は、織物の厚さ方向において、経糸及び緯糸を構成するモール状糸体が良好なクッション性を発揮し得る。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】綾織りの織物からなる敷物の要部平面図である。
【
図2】綾織りの織物からなる敷物と自然状態のモール状糸体(経糸)の要部平面図である。
【
図3】綾織りの織物からなる敷物の要部底面図である。
【
図4】綾織りの織物からなる敷物と自然状態のモール状糸体(緯糸)の要部底面図である。
【
図5】平織りの織物からなる敷物の要部平面図である。
【
図6】2本のモール状糸体を用いた平織りの織物からなる敷物の要部平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[1] 本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0029】
図面は、何れも本発明の織物からなる敷物についてのものである。
【0030】
(1)
図1乃至
図4に示す敷物は、経糸Mと緯糸Nからなる綾織の織物Aからなる。
【0031】
(1-1) この織物Aを構成する経糸M及び緯糸Nは、色彩を除き同一のモール状糸体であり、経糸M及び緯糸Nとして1本ずつのモール状糸体が用いられている。
【0032】
(1-2) このモール状糸体は、2本の50デニールのポリエステル繊維のモノフィラメント糸からなる芯糸に対し、0.52デニールのポリエステル繊維の単繊維(吸水性に乏しい単繊維)を飾り糸として多数保持し、それらの多数の飾り糸は、前記芯糸を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように周方向に密設されて内方に向かうほど高密度状態となり且つ軸線方向に密設された状態をなすものである。
【0033】
(1-3)
図2及び
図4には、それぞれ、敷物上に経糸M及び緯糸Nを構成するモール状糸体が自然状態(特段の外力を受けたり、吸水により収縮したりしていない状態)で示されている。
【0034】
それらの自然状態のモール状糸体R・Sの直径(自然直径)は約11mmであり、実質上一定である。
【0035】
(1-4) 経糸Mと緯糸Nのピッチは(織物Aが水平面に沿っているとして、隣接経糸Mの中心線同士の水平距離及び隣接緯糸Nの中心線同士の水平距離)は等しく設定されており、何れもそれらのモール状糸体の自然半径(自然直径の0.5倍)の約1.3倍である。すなわち、経糸Mを構成するモール状糸体同士である隣接経糸同士、及び、緯糸Nを構成するモール状糸体同士である隣接緯糸同士の、両方が、外周部同士において圧接した状態である。
【0036】
(1-5) 経糸Mと緯糸Nの交差部における両芯糸の中心同士の距離は、両モール状糸体の自然半径の和の約0.3倍である。
【0037】
(1-6) このような構成により、この敷物は、織物Aの厚さ方向において、織物A全面にわたり、経糸M及び緯糸Nを構成するモール状糸体が良好なクッション性を発揮し得る。
【0038】
また、経糸M及び緯糸Nを構成するモール状糸体における飾り糸としての単繊維が、芯糸を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように周方向に密設されて内方に向かうほど高密度状態となり且つ軸線方向に密設された状態をなし、それらの単繊維は0.52デニールの吸水性に乏しい単繊維であるため、毛管現象により、その内方に向かって強い吸水力が作用し、比較的多量の水を内方に向かって迅速に吸水し得る。このように吸水したモール状糸体の外周部は、毛管現象により、水分含有率が低い状態となり、而も、同外周面部は、吸水性に乏しい単繊維の先端部により形成されているので、繊維が占める面積が比較的小さく、且つ繊維自体が非湿潤状態を維持する。そのため、水分を吸収した状態の前記外周面部は比較的乾燥した状態を維持し易く、べとつき感が生じにくい。また乾燥し易い。
【0039】
(2)
図5に示す敷物は、経糸Mと緯糸Nからなる平織の織物Bからなる。
【0040】
この織物Bを構成する経糸M及び緯糸Nは、色彩を除き同一のモール状糸体であり、経糸M及び緯糸Nとして1本ずつのモール状糸体が用いられている。
【0041】
モール状糸体の構成は、
図1乃至
図4に示すものと同様であり、敷物の作用及び効果も
図1乃至
図4に示す敷物と同様である。
【0042】
(3)
図6に示す敷物は、経糸Mと緯糸Nからなる平織の織物Cからなる。
【0043】
この織物Cを構成する経糸M及び緯糸Nは、色彩を除き同一のモール状糸体であり、経糸M及び緯糸Nとして2本のモール状糸体が織物Aが沿う平面に平行状に並列する状態で一体的に用いられている。
【0044】
モール状糸体の構成は、
図1乃至
図4に示すものと同様であり、敷物の作用及び効果も
図1乃至
図4に示す敷物と同様である。
【0045】
[2] 本発明の実施の形態を、上記以外の形態を含めて更に説明する。
【0046】
(1) 本発明の織物は、経糸と緯糸からなる。その織り方は、例えば平織、綾織等とすることができるが、これらに限るものではない。
【0047】
本発明の織物は、例えば玄関マット、キッチンマット、トイレマット、椅子敷、カーペット等の敷物類や衣類等に用いることができる。
【0048】
(1-1) 前記経糸及び緯糸は、何れも、芯糸に対し多数の飾り糸を保持し、それらの多数の飾り糸は、前記芯糸を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように周方向に密設されて内方に向かうほど高密度状態となり且つ軸線方向に密設された状態をなすモール状糸体である。
【0049】
(1-2) 径糸と緯糸は、それぞれ1本ずつのモール状糸体を用いる(一つの織物における横方向に並列する経糸又は縦方向に並列する緯糸が連続した1本のモール状糸体で構成されることを意味するものではない)ことができるが、これに限るものではなく、例えば2本のモール状糸体を織物が沿う平面に平行状に並列する状態で一体的に取り扱って径糸及び緯糸の両方又は一方に用いることもできる。
【0050】
(1-3) 経糸を構成するモール状糸体と緯糸を構成するモール状糸体は、色彩を除き同一(色彩は同一でも異なるものでもよい)であるものとすることができるが、これに限るものではない。経糸を構成するモール状糸体と緯糸を構成するモール状糸体が、色彩を除き異なる(色彩は同一でも異なるものでもよい)ものとすることもできる。
【0051】
色彩を除き異なるモール状糸体というのは、例えば、自然半径(特段の外力を受けたり、吸水により収縮している等の、通常の自然の状態のモール状糸体の半径)が異なるもの、芯糸や飾り糸の素材や太さ(繊度)等が異なるもの、モール状糸体の長さ方向における単位長さあたりの飾り糸の本数が異なるもの等を挙げることができる。
【0052】
(1-4) 本発明の織物は、経糸を構成するモール状糸体同士である隣接経糸同士、及び、緯糸を構成するモール状糸体同士である隣接緯糸同士の、一方(経糸を構成するモール状糸体同士である隣接経糸同士のみ、若しくは、緯糸を構成するモール状糸体同士のみ)又は両方が、外周部同士において接触した状態又は圧接した状態であるものとすることができる。この場合、織物の厚さ方向において、織物全面にわたり、経糸及び緯糸を構成するモール状糸体が良好なクッション性を発揮し得る。
【0053】
また本発明の織物は、経糸を構成するモール状糸体同士である隣接経糸同士、及び、緯糸を構成するモール状糸体同士である隣接緯糸同士の、両方が、外周部同士において接触した状態又は圧接した状態であるものとすることができる。この場合、クッション性はより良好となる。
【0054】
また本発明の織物は、経糸を構成するモール状糸体同士である隣接経糸同士、及び、緯糸を構成するモール状糸体同士である隣接緯糸同士の、一方が、外周部同士において圧接した状態であるものとすることができる。この場合、クッション性はより良好となる。
【0055】
また本発明の織物は、経糸を構成するモール状糸体同士である隣接経糸同士、及び、緯糸を構成するモール状糸体同士である隣接緯糸同士の、両方が、外周部同士において圧接した状態であるものとすることができる。この場合、クッション性は更に良好となる。
【0056】
(1-5) 経糸及び緯糸のピッチは、その隣接モール状糸体(経糸のピッチであれば経糸を構成する隣接モール状糸体であり、緯糸のピッチであれば緯糸を構成する隣接モール状糸体)の自然半径の和の2分の1の例えば0.5乃至2.5倍とすることができる。なお、各経糸を構成するモール状糸体の自然半径は実質上同一であることが好ましく、その場合の経糸を構成する隣接モール状糸体の自然半径の和の2分の1は、経糸を構成するモール状糸体の自然半径に等しい。同様に、各緯糸を構成するモール状糸体の自然半径は実質上同一であることが好ましく、その場合の緯糸を構成する隣接モール状糸体の自然半径の和の2分の1は、緯糸を構成するモール状糸体の自然半径に等しい。
【0057】
ピッチというのは、織物が沿う平面における隣接経糸の中心線同士又は隣接緯糸の中心線同士の距離(例えば織物が水平面に沿う場合における隣接経糸の中心線同士の水平距離又は隣接緯糸の中心線同士の水平距離)を言う。
【0058】
モール状糸体の自然半径というのは、特段の外力を受けたり、吸水により収縮したりしていない状態の半径を言う。経糸又は緯糸のピッチがその隣接モール状糸体の自然半径の和の2分の1の2倍又は2倍未満である場合、経糸を構成するモール状糸体同士である隣接経糸同士、又は、緯糸を構成するモール状糸体同士である隣接緯糸同士が、外周部同士において接触した状態(2倍)又は圧接した状態(2倍未満)となる。
【0059】
本発明におけるモール状糸体の自然直径(自然半径の2倍)は、例えば3乃至40mmとすることができ、実質上一定であることが望ましい。モール状糸体の自然直径は、好ましくは6乃至25mm、より好ましくは8乃至20mmである。
【0060】
経糸と緯糸の一方又は両方は、ピッチがその隣接モール状糸体の自然半径の和の2分の1の例えば0.5乃至2倍とすることができ、この場合、織物の厚さ方向において、織物全面にわたり、経糸及び緯糸を構成するモール状糸体が良好なクッション性を発揮し得る。
【0061】
例えば、経糸と緯糸の一方は、ピッチがその隣接モール状糸体の自然半径の和の2分の1の0.5乃至2倍、他方は、ピッチがその隣接モール状糸体の自然半径の和の2分の1の0.5乃至1.9倍であるものとすることができる。この場合、織物の厚さ方向において、織物全面にわたり、経糸及び緯糸を構成するモール状糸体がより良好なクッション性を発揮し得る。
【0062】
経糸と緯糸は、それぞれ、ピッチがその隣接モール状糸体の自然半径の和の2分の1の0.5乃至1.9倍又は0.5乃至1.8倍とすることができ、0.6乃至1.7倍とすることが好ましく、より好ましくは0.8乃至1.5倍、更に好ましくは1乃至1.4倍である。
【0063】
経糸と緯糸のピッチはそれぞれ一定で互いに等しいものとすることができる。
【0064】
(1-6) 経糸を構成するモール状糸体と緯糸を構成するモール状糸体の交差部における両芯糸の中心同士の距離は、両モール状糸体の自然半径の和よりも短いものとすることができる。この場合、織物の厚さ方向において、比較的に弾力的なクッション性を発揮し得る。
【0065】
経糸と緯糸の交差部における両芯糸の中心同士の距離は、例えば、両モール状糸体の自然半径の和の0.9倍以下であるものとすることができる。
【0066】
経糸と緯糸の交差部における両芯糸の中心同士の距離は、両モール状糸体の自然半径の和の0.8倍以下とすることができ、好ましくは0.7倍以下、より好ましくは0.6倍以下、更に好ましくは0.5倍以下、更に好ましくは0.4倍以下であり、一層好ましくは0.3倍以下とすることができる。
【0067】
(1-7) 例えば、経糸と緯糸からなる本発明の織物の、経糸と緯糸の一方は、ピッチがその隣接モール状糸体の自然半径の和の2分の1の0.5乃至2倍、他方は、ピッチがその隣接モール状糸体の自然半径の和の2分の1の0.5乃至1.9倍であり、経糸と緯糸の交差部における両芯糸の中心同士の距離は、両モール状糸体の自然半径の和の0.9倍以下である場合、それらの経糸及び緯糸が、何れも、芯糸に対し多数の飾り糸を保持し、それらの多数の飾り糸は、前記芯糸を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように周方向に密設されて内方に向かうほど高密度状態となり且つ軸線方向に密設された状態をなすモール状糸体であるため、織物の厚さ方向において、織物全面にわたり、経糸及び緯糸を構成するモール状糸体が比較的に弾力的な良好なクッション性を発揮し得る。
【0068】
(2) 本発明におけるモール状糸体は、芯糸に対し多数の飾り糸を保持し、それらの多数の飾り糸は、前記芯糸を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように周方向に密設されて内方に向かうほど高密度状態となり且つ軸線方向に密設された状態をなすものである。
【0069】
(2-1) 飾り糸は、芯糸に保持されている部分以外は基本的に互いに独立性があることが望ましい。この場合、経糸のモール状糸体と緯糸のモール状糸体の交差部における両芯糸の中心同士の距離を可及的に短いものとなし易い。
【0070】
(2-2) 飾り糸は、互いに撚り合わさっていない状態(撚により集束されていない状態)の単繊維であることが好ましいが、これに限るものではない。飾り糸が互いに撚り合わさっていない状態の単繊維である場合、経糸のモール状糸体と緯糸のモール状糸体の交差部における両芯糸の中心同士の距離を可及的に短いものとなし易い。
【0071】
飾り糸としての単繊維の繊度は、好ましくは0.03乃至2デニール、より好ましくは0.03乃至1.5デニールであり、1.2デニール以下、1デニール以下、又は0.8デニール以下とすることもできる。
【0072】
(2-3) 本発明におけるモール状糸体における多数の飾り糸の保持は、芯糸に対し、多数の飾り糸を、その飾り糸の中間部において、前記芯糸に対し横方向状をなすように保持するものとすることができる。
【0073】
飾り糸のうち芯糸に保持される中間部は、飾り糸の長さ方向の一定位置であること、特に中央位置であることが望ましい。
【0074】
(2-4) 飾り糸が芯糸に対し横方向状をなすというのは、芯糸に保持された飾り糸の長さ方向が、芯糸の長さ方向に対し60乃至90度程度の角度をなす状態、好ましくは70乃至90度、より好ましくは80乃至90度若しくは85乃至90度の角度をなす状態を意味する。
【0075】
(2-5) 芯糸に対する飾り糸の保持としては、例えば、複数本の芯糸同士の間(例えば、相互に撚り状態にある複数本の芯糸同士の間)に挟み込む力による保持、1又は好ましくは2本以上の芯糸に対する接着又は融着等の固着物質の固着力による保持、又は、両者の併用(複数本の芯糸同士の間に挟み込む力と、固着物質の固着力による保持の併用)が可能である。
【0076】
固着物質の固着力による保持を行う場合においては、例えば芯糸として熱融着糸を用い、熱処理により芯糸を融着することができる。
【0077】
(2-6) 多数の飾り糸は、芯糸の長さ方向において満遍なく又は間隔おきに保持されたものとすることができる。間隔おきの保持としては、多数の飾り糸からなる飾り糸群が芯糸の長さ方向において一定間隔おきに又は可変間隔おきに保持された場合を挙げることができる。相互に撚り状態にある複数本の芯糸同士の間に飾り糸を保持する場合は、例えば、その撚り数に応じた一定間隔おきに飾り糸が保持されたものとすることができる。
【0078】
(2-7) 飾り糸(例えば単繊維)の長さは、例えば3乃至40mmとすることができるがこれに限るものではない。また、飾り糸の長さは一定であることが望ましいがこれに限るものではない。
【0079】
(2-8) 飾り糸の素材としては、例えば、ポリエステル系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリエチレン系繊維、ポリアミド系繊維を挙げることができるが、これに限るものではない。
【0080】
飾り糸が単繊維である場合、例えば、ポリエステル系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリエチレン系繊維、ポリアミド系繊維等のフィラメントからなるものとすることができるが、これに限るものではない。
【0081】
(2-9) 芯糸としては、例えば、10乃至300デニールのモノフィラメント糸、紡績糸、又はマルチフィラメント撚糸を挙げることができるが、これに限るものではない。前記熱融着糸を用いることもできる。芯糸の素材としては、例えば、ポリエステル系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリエチレン系繊維、ポリアミド系繊維を挙げることができるが、これに限るものではない。
【0082】
(2-10) 本発明におけるモール状糸体の飾り糸は、外周に実質上凹凸を有しないものの他、例えば、外周に凹凸を有する横断面形状の0.03乃至3デニールの単繊維であるものとすることができる。この場合のモール状糸体においては、飾り糸としての単繊維が、0.03乃至3デニールで外周に凹凸を有する横断面形状の単繊維であり、而も、芯糸を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように周方向に密設されて内方に向かうほど高密度状態となり且つ軸線方向に密設された状態をなす。
【0083】
そのため、前記飾り糸としての単繊維は、モール状糸体からの離脱が効果的に防止される。
【0084】
飾り糸としての単繊維の横断面形状は、例えば、外周に凹凸(すなわち凹部と凸部)を有する横断面形状とすることができる。
【0085】
好ましい態様としては、外周に3以上の凸部を有するものを挙げることができる。その場合、単繊維の横断面形状の外周における凸部同士の間に1以上の凹部が存在するものとすることができる。
【0086】
単繊維の横断面形状は、任意の横断面において実質上同一であるものとすることができるが、必ずしもこれに限るものではない。
【0087】
単繊維の横断面形状の外周における凸部の突出寸法は、例えば、その横断面の外接円の直径の3%以上50%以下とすることができる。好ましくは、5乃至10%以上50%以下である。
【0088】
飾り糸としての単繊維のこのような横断面形状の具体的な例としては、中心点から3以上(好ましくは4若しくは5以上)の方向(例えば等中心角毎の3以上の方向)に突起する形状、正多角形等の所定の多角形からその各辺を底辺とする略二等辺三角形等の略三角形状の突起が形成された形状、円形・楕円形若しくは略楕円形(例えば短軸と長軸の比が1:5乃至3:5程度の比較的細長い楕円形)・長方形(例えば縦横の比が1:5乃至3:5程度の比較的細長い長方形)・正多角形等の所定の多角形の外周部に周方向間隔おき(例えば等間隔おき又は等中心角毎)に例えば略三角形状・略方形状・略台形状等の一定の又は複数種若しくは多様な突起部が3以上(好ましくは4若しくは5以上)形成された形状を挙げることができ、いわゆる星形や扁平多葉形状も含まれる。これらの場合、突起部同士の間の部分を凹部とすることができる。
【0089】
単繊維の横断面形状における外周部の凸部の数をnとした場合に、前記横断面形状の中心に対する隣り合う凸部の周方向中央部同士の間の中心角が、(1080/n)度と180度の小さい方以下で、(180/3n)度以上であるものとすることができる。
【0090】
また、前記横断面形状における隣り合う凸部同士の中心角は、
(900/n)度と150度の小さい方以下で(180/2n)度以上、
(720/n)度と120度の小さい方以下で(120/n)度以上、
或いは、
(540/n)度と90度の小さい方以下で(180/n)度以上とすることができる。
【0091】
(2-11) 本発明におけるモール状糸体は、略円柱形状をなし、その略円柱形状の外周面が、飾り糸(例えば上記単繊維)の先端部(すなわち、芯糸を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように周方向に密設された単繊維等の飾り糸の先端部)により形成されているものとすることができる。
【0092】
(2-12) 本発明におけるモール状糸体は、複数条(例えば2条)のモール糸が、各条のモール糸の芯糸を中心として撚り合わさることにより、その撚り合わさった部分が1本のモール糸状をなすものとすることもできる。
【0093】
(2-13) 上記モール状糸体における飾り糸としての0.03乃至3デニールの単繊維が吸水性に乏しいものとすることにより、毛管現象により内方に向かう吸水力が作用するものとすることができる。この吸水性に乏しい単繊維は、より好ましくは0.03乃至1.5デニールであり、1.2デニール以下、1デニール以下、又は0.8デニール以下とすることもできる。このモール状糸体は、略円柱形状をなし、その略円柱形状の外周面が、飾り糸としての単繊維の先端部により形成されていることが好ましい。
【0094】
この場合、飾り糸としての単繊維が、芯糸を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように周方向に密設されて内方に向かうほど高密度状態となり且つ軸線方向に密設された状態をなし、0.03乃至3デニールの吸水性に乏しい単繊維であるため、毛管現象により、その内方に向かって強い吸水力が作用し、比較的多量の水を内方に向かって迅速に吸水し得る。
【0095】
このように吸水したモール状糸体の外周部は、毛管現象により、水分含有率が低い状態となり、而も、同外周面部は、吸水性に乏しい単繊維の先端部により形成されているので、繊維が占める面積が比較的小さく、且つ繊維自体が非湿潤状態を維持する。そのため、水分を吸収した状態の前記外周面部は比較的乾燥した状態を維持し易く、べとつき感が生じにくい。また乾燥し易い。この場合の本発明の織物は、吸水性を要するか又は吸水性であることが望ましい用途、例えば風呂上り等のための足拭きマット、キッチンマット、玄関マット、水分拭き取り具、椅子敷、衣類等に用いることができる。
【0096】
吸水性に乏しい単繊維の吸水率としては、20℃相対湿度65%において、例えば3%以下とすることができる。好ましくは、20℃相対湿度65%において2%以下、より好ましくは1%以下である。そのような単繊維としては、例えば、ポリエステル系繊維、ポリプロピレン系繊維、ポリエチレン系繊維、ポリアミド系繊維等(好ましくはポリエステル系繊維、ポリプロピレン系繊維又はポリエチレン系繊維)のフィラメントからなるものとすることができ、必要に応じ、全単繊維又は一部の単繊維の全体又は部分に各種界面活性剤等により親水化処理を施すこともできる。
【0097】
この場合の飾り糸としての単繊維は、前記撚り合わさった部分の軸線方向長1cm当り、例えば1万乃至25万本程度(単繊維の繊度の大小に応じ、本数は、それぞれ少な目及び多目とすることができる。単繊維が0.7デニールの場合、撚り合わさった部分の軸線方向長1cm当り、例えば5万本程度。)が、その撚り合わさった部分の軸線を中心としてほぼ径方向に放射状をなすように密設され且つ軸線方向に密設されたものとすることができる。
【0098】
本発明におけるモール状糸体における多数の飾り糸としての多数の単繊維の横断面の扁平率の平均は、例えば0.5以上(例えば0.5乃至0.9)であるものとすることができる。好ましくは0.55以上、より好ましくは0.6以上である。モール状糸体における多数の飾り糸を構成する0.03乃至3デニールの多数の吸水性に乏しい単繊維の横断面の扁平率の平均が0.5以上であることにより、飾り糸としての吸水性に乏しい単繊維の扁平率が低いモール状糸体に比し、吸水性が顕著に高い。なお、扁平率fとは、横断面の最大寸法をa、その最大寸法の方向に直交する方向の寸法をbとした場合、f=(a-b)/aを意味する。単繊維の扁平率等の横断面形状は、任意の横断面において実質上同一であるものとすることができるが、必ずしもこれに限るものではない。
【符号の説明】
【0099】
A 織物
B 織物
C 織物
M 経糸
N 緯糸
R 自然状態のモール状糸体
S 自然状態のモール状糸体