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特許7295636ポリエステル樹脂組成物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/183 20060101AFI20230614BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
C08G63/183
C08L67/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018246963
(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020105435
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-12-03
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506346152
【氏名又は名称】株式会社ベルポリエステルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(72)【発明者】
【氏名】山 真弘
(72)【発明者】
【氏名】勝間 啓太
(72)【発明者】
【氏名】西川 哲生
(72)【発明者】
【氏名】本間 敏雄
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-126680(JP,A)
【文献】特開2015-151510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00-63/91
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカルボン酸成分とポリオール成分との共重合体を含むポリエステル樹脂組成物であって、
前記ポリカルボン酸成分はテレフタル酸成分及びイソフタル酸成分を含み、
前記ポリオール成分はエチレングリコール成分を含み、
前記ポリカルボン酸成分及び/又は前記ポリオール成分は、3つ以上のカルボキシ基及び/又は3つ以上のヒドロキシ基を有する多官能性成分を含み、
前記イソフタル酸成分の含有率は、前記ポリカルボン酸成分の総量に対して1モル%~50モル%であり、
前記多官能性成分の含有率は、前記ポリカルボン酸成分の総量に対して0.1モル%~0.8モル%であり、
前記ポリエステル樹脂組成物の質量に対して、1ppm~10ppmのチタン元素を含むチタン化合物と、1ppm~30ppmのリン元素を含むリン化合物と、をさらに含み、
前記共重合体中におけるジエチレングリコールの含有率は、前記ポリカルボン酸成分の総量に対して、2.7モル%以下であり、
280℃、滞留6分のメルトインデックス(MI)に対する280℃、滞留30分のメルトインデックス(MI30)の比(MI30/MI)が1.0以上1.3以下である、ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記チタン化合物は、テトラ-n-ブチルチタネート、テトラ-n-プロピルチタネート、及びテトライソプロピルチタネートのうちの少なくとも1つである、請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記多官能性成分は、トリメリット酸及び/又は無水トリメリット酸成分を含む、請求項1又は2に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記テレフタル酸成分の含有率は、前記ポリカルボン酸成分の総量に対して49.2モル%~99モル%である、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物を実質量含まない、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
ゲルマニウム化合物の含有率が、前記ポリエステル樹脂組成物の質量に対して、10ppm以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
テレフタル酸及びイソフタル酸を含むポリカルボン酸を、エチレングリコールを含むポリオールでエステル化したエステル化合物を生成するエステル化工程と、
リン化合物を添加し、チタン化合物を触媒として用いて、エステル化合物を重合反応させて重合体を作製する重合工程を含み、
前記ポリカルボン酸及び/又は前記ポリオールは、3つ以上のカルボキシ基及び/又は3つ以上のヒドロキシ基を有する多官能性化合物を含み、
前記イソフタル酸は、前記ポリカルボン酸の総量に対してイソフタル酸成分の含有率が1モル%~50モル%になるように添加し、
前記多官能性化合物は、前記ポリカルボン酸の総量に対して多官能性化合物成分の含有率が0.1モル%~0.8モル%になるように添加し、
前記リン化合物は、前記ポリエステル樹脂組成物の質量に対してリン元素の含有率が1ppm~30ppmとなるように添加し、
前記チタン化合物は、前記ポリエステル樹脂組成物の質量に対してチタン元素の含有率が1ppm~10ppmとなるように添加し、
前記エステル化工程において、酸成分のモル数に対するグリコール成分のモル数の比が1.1~1.2である、ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
前記チタン化合物は、テトラ-n-ブチルチタネート、テトラ-n-プロピルチタネート、及びテトライソプロピルチタネートのうちの少なくとも1つである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記多官能性化合物は、トリメリット酸及び/又は無水トリメリット酸を含む、請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記リン化合物は、リン酸化合物、亜リン酸化合物及びこれらの誘導体のうちの少なくとも1つを含む、請求項7~9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記多官能性化合物は、トリメチロールプロパン及び/又はペンタエリスリトールを含む、請求項7~10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記重合工程において、重合触媒としてゲルマニウム化合物を、ポリエステル樹脂組成物の質量に対して10ppmを越えて含有しない、請求項7~11のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
色調の改善を目的としたポリエステル樹脂及びその製造方法が開示されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
特許文献1に記載のポリエステルの製造方法は、重縮合反応触媒として、チタン化合物とトリメリット酸、ヘミメリット酸及びこれらの無水物よりなる群から選ばれる芳香族トリカルボン酸とを予め反応せしめて得られる反応生成物を使用する。
【0004】
特許文献2に記載のポリエステル樹脂は、チタン化合物と、リン化合物と、アルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物とを重合触媒として得られるポリエステル樹脂であって、a)当該ポリエステル樹脂のグリコール成分が、エチレングリコールを60モル%以上含み、b)当該ポリエステル樹脂に対するTi原子量が1~100ppmであり、c)当該ポリエステル樹脂に含まれるP原子とTi原子との比、P/Ti(原子比)が0.5~5.0であり、かつd)当該ポリエステル樹脂に含まれるアルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子MとP原子との比、M/P(原子比)が0.2~3.5である。
【0005】
特許文献3に記載の共重合ポリエステル樹脂の製造方法は、テレフタル酸又はそのエステル誘導体を主たる成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主たる成分とするジオール成分と、(1)ジカルボン酸として、イソフタル酸又はそのエステル誘導体を2~16モル%と、(2)3価酸成分として、トリメリット酸を0.001~2モル%とを同時に反応装置に投入して、エステル化反応またはエステル交換反応し、さらに溶融重合反応し、しかる後固相重合反応させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公昭59-46258号公報
【文献】特開2002-179781号公報
【文献】特開2015-151510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate;PET)樹脂の重合触媒としては、一般的に、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、チタン化合物などが使用されている。このうち、良好な物性を有するポリエステル樹脂が得られるので、ゲルマニウム化合物が多用されている。しかしながら、ゲルマニウム化合物は高価であるので、ゲルマニウム化合物を使用すると製造コストが高くなってしまう。一方、アンチモン化合物を使用すると、ゲルマニウム化合物を使用した場合に比べてPETの色調及び透明性が劣ってしまう。
【0008】
これに対し、チタン化合物はゲルマニウム化合物よりも安価である。また、チタン化合物を用いて重合したPETは良好な透明性を有する。しかしながら、チタン化合物を用いて重合したPETは黄色に着色されてしまうことがある。特許文献1に記載のポリエステルの製造方法においては、チタン元素の添加量が多いため、ポリエステル樹脂の色調の改善を十分に図ることができない。
【0009】
特許文献2に記載のポリエステル樹脂はアルカリ金属化合物またはアルカリ土類金属化合物を含有しているので、良好な色調を有するポリエステル樹脂を得ることはできない。
【0010】
特許文献3に記載の共重合ポリエステル樹脂の製造方法においては、ゲルマニウム化合物を重合触媒に用いており、ポリエステル樹脂を安価に作製することができない。一方、別の重合触媒を用いると、上述のような問題が生じてしまう。
【0011】
そこで、チタン化合物を重合触媒に用いる場合であっても、色調が十分に改善されていると共に、ゲルマニウム化合物を触媒として用いて作製したポリエステル樹脂組成物と同等の物性を有するポリエステル樹脂組成物及びその製造方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示の第1視点によれば、ポリカルボン酸成分とポリオール成分との共重合体を含むポリエステル樹脂組成物が提供される。ポリカルボン酸成分はテレフタル酸成分及びイソフタル酸成分を含む。ポリオール成分はエチレングリコール成分を含む。ポリカルボン酸成分及び/又はポリオール成分は、3つ以上のカルボキシ基及び/又は3つ以上のヒドロキシ基を有する多官能性成分を含む。イソフタル酸成分の含有率は、ポリカルボン酸成分の総量に対して1モル%~50モル%である。多官能性成分の含有率は、ポリカルボン酸成分の総量に対して0.1モル%~0.8モル%である。ポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂組成物の質量に対して、1ppm~10ppmのチタン元素を含むチタン化合物と、1ppm~30ppmのリン元素を含むリン化合物と、を含む。共重合体中におけるジエチレングリコールの含有率は、ポリカルボン酸成分の総量に対して、2.7モル%以下である。280℃、滞留6分のメルトインデックス(MI)に対する280℃、滞留30分のメルトインデックス(MI30)の比(MI30/MI)が1.0以上1.3以下である。
【0013】
本開示の第2視点によれば、テレフタル酸及びイソフタル酸を含むポリカルボン酸を、エチレングリコールを含むポリオールでエステル化したエステル化合物を生成するエステル化工程と、リン化合物を添加し、チタン化合物を触媒として用いて、エステル化合物を重合反応させて重合体を作製する重合工程を含むポリエステル樹脂組成物の製造方法が提供される。ポリカルボン酸及び/又はポリオールは、3つ以上のカルボキシ基及び/又は3つ以上のヒドロキシ基を有する多官能性化合物を含む。イソフタル酸は、ポリカルボン酸の総量に対してイソフタル酸成分の含有率が1モル%~50モル%になるように添加する。多官能性化合物は、ポリカルボン酸の総量に対して多官能性化合物成分の含有率が0.1モル%~0.8モル%になるように添加する。リン化合物は、ポリエステル樹脂組成物の質量に対してリン元素の含有率が1ppm~30ppmとなるように添加する。チタン化合物は、ポリエステル樹脂組成物の質量に対してチタン元素の含有率が1ppm~10ppmとなるように添加する。エステル化工程において、酸成分のモル数に対するグリコール成分のモル数の比が1.1~1.2である。
【発明の効果】
【0014】
本開示のポリエステル樹脂組成物は、良好な透明性及び色調を有すると共に、高い熱的安定性及び機械的物性を有する。
【0015】
本開示のポリエステル樹脂組成物の製造方法によれば、上述のような性状を有するポリエステル樹脂組成物をより低コストで製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記各視点の好ましい形態を以下に記載する。
【0017】
上記第1視点の好ましい形態によれば、チタン化合物は、テトラ-n-ブチルチタネート、テトラ-n-プロピルチタネート、及びテトライソプロピルチタネートのうちの少なくとも1つである。
【0018】
上記第1視点の好ましい形態によれば、多官能性成分は、トリメリット酸及び/又は無水トリメリット酸を含む。
【0019】
上記第1視点の好ましい形態によれば、テレフタル酸成分の含有率は、ポリカルボン酸成分の総量に対して49.2モル%~99モル%である。
【0020】
上記第1視点の好ましい形態によれば、ポリエステル樹脂組成物は、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物を実質量含まない。
【0021】
上記第1視点の好ましい形態によれば、ゲルマニウム化合物の含有率が、ポリエステル樹脂組成物の質量に対して、10ppm以下である。
【0022】
上記第2視点の好ましい形態によれば、チタン化合物は、テトラ-n-ブチルチタネート、テトラ-n-プロピルチタネート、及びテトライソプロピルチタネートのうちの少なくとも1つである。
【0023】
上記第2視点の好ましい形態によれば、多官能性化合物は、トリメリット酸及び/又は無水トリメリット酸を含む。
【0024】
上記第2視点の好ましい形態によれば、リン化合物は、リン酸化合物、亜リン酸化合物及びこれらの誘導体のうちの少なくとも1つを含む。
【0025】
上記第2視点の好ましい形態によれば、多官能性化合物は、トリメチロールプロパン及び/又はペンタエリスリトールを含む。
【0026】
上記第2視点の好ましい形態によれば、重合工程において、重合触媒としてゲルマニウム化合物を、ポリエステル樹脂組成物の質量に対して10ppmを越えて含有しない。
【0027】
本明細書及び特許請求の範囲において、ポリカルボン酸とは、カルボキシ基を複数有する化合物のことをいう。ポリオール又はポリヒドロキシ化合物とは、ヒドロキシ基を複数有する化合物のことをいう。多官能性成分とは、カルボキシ基を3つ以上有する化合物、ヒドロキシ基を3つ以上有する化合物、及びこれらの誘導体のうちの少なくとも1つに由来する成分のことをいう。各酸成分及び各アルコール成分にはその誘導体も含まれ得る。例えば、テレフタル酸成分には、テレフタル酸の誘導体も含まれ得る。イソフタル酸成分には、イソフタル酸の誘導体も含まれ得る。エチレングリコール成分には、エチレングリコールの誘導体も含まれ得る。
【0028】
チタン化合物とは、チタン元素を含む化合物のことをいう。リン化合物とは、リン元素を含む化合物のことをいう。
【0029】
第1実施形態に係る本開示の樹脂組成物について説明する。本開示の樹脂組成物には、樹脂組成物を所望の形状に成形した成形体も含まれる。
【0030】
本開示のポリエステル樹脂組成物は、ポリカルボン酸成分とポリオール成分の共重合体であるポリエステル樹脂である。本開示のポリエステル樹脂は、例えば、テレフタル酸及び/又はその誘導体(例えばテレフタル酸ジメチル)とポリエチレングリコール及び/又はその誘導体との共重合体であるポリエチレンテレフタレートを主たる構成単位として有する組成物であると好ましい。主たる構成単位とは、単量体のポリカルボン酸成分のうちテレフタル酸成分が50モル%以上であること、及び、単量体のポリオール成分のうちポリエチレングリコール成分が50モル%以上であることをいう。
【0031】
ポリカルボン酸成分は、テレフタル酸及びイソフタル酸成分を含む。ポリカルボン酸のうち、後述のイソフタル酸成分及び多官能性成分以外の酸成分はテレフタル酸成分であると好ましい。
【0032】
テレフタル酸成分の含有率は、ポリカルボン酸成分の総量を基準として、49.2モル%以上、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、又は95モル%以上とすることができる。テレフタル酸成分の含有率は、ポリカルボン酸成分の総量を基準として、例えば、99モル%以下、95モル%以下、90モル%以下、80モル%以下、70モル%以下、又は60モル%以下とすることができる。
【0033】
イソフタル酸成分の含有率は、ポリカルボン酸成分の総量を基準として、1モル%以上であると好ましく、5モル%以上、10モル%以上、又は20モル%以上であるとより好ましい。イソフタル酸成分の含有率が1モル%未満であると、ポリエステル樹脂組成物の透明性が不十分となってしまう。また、イソフタル酸成分の含有率は、ポリカルボン酸成分の総量を基準として、50モル%以下であると好ましく、40モル%以下であるとより好ましい。イソフタル酸成分の含有率が50モル%を超えると、ポリエステル樹脂組成物の色調が悪化してしまう。特に、ポリエステル樹脂組成物で厚肉成形品の透明性及び色調を高めることができるので、イソフタル酸成分の含有率は、ポリカルボン酸成分の総量を基準として、20モル%~40モル%であると好ましい。
【0034】
本開示のポリエステル樹脂組成物は、本開示の効果を阻害しない範囲において、他の酸成分をさらに有することができる。他の酸成分として、例えば、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸や1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸のうちの少なくとも1つを挙げることができる。他の酸成分の含有率は、酸成分の総量を基準として、例えば、5モル%以下とすることができる。
【0035】
ポリオール成分は、エチレングリコール成分を含む。ポリオール成分のうち、後述の多官能性成分以外のポリオール成分はエチレングリコール成分であると好ましい。例えば、エチレングリコール成分の含有率は、ポリオール成分の総量を基準として、90モル%以上であると好ましく、95モル%以上であるとより好ましく、99モル%以上であるとさらに好ましい。エチレングリコール成分の含有率は、ポリオール成分の総量を基準として100モル%とすることができる。
【0036】
本開示のポリエステル樹脂組成物は、本開示の効果を阻害しない範囲において、他のアルコール成分をさらに有することができる。他のアルコール成分として、例えば、ジエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2-メチルー1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチルー1,3-プロパンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールのうちの少なくとも1つを挙げることができる。他のアルコール成分の含有率は、アルコール成分の総量を基準として、例えば、5モル%以下とすることができる。
【0037】
ポリカルボン酸成分及びポリオール成分のうち少なくとも一方は、多官能性成分を含む。多官能性成分の酸成分としては、例えば、トリメリット酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸及びこれらの酸無水物等が挙げられる。多官能性成分のアルコール成分としては、例えば、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。これらの中で、良好な色調を得るために、トリメリット酸又は無水トリメリット酸が好ましい。多官能性成分の含有率は、酸成分の総量に対して、0.1モル%以上であると好ましく、0.3モル%以上であるとより好ましい。多官能成分が0.1モル%未満では色調の改善を十分に図ることができない。また、多官能性成分の含有率は、酸成分の総量に対して、0.8モル%以下であると好ましく、0.6モル%以下であるとより好ましい。多官能性成分が0.8モル%を超えると、ゲル化してしまう。
【0038】
本開示のポリエステル樹脂組成物は、リン化合物をさらに含有する。リン化合物を含有することによって、色調を高めることができる。リン化合物としては、例えば、リン酸化合物、亜リン酸化合物及び/又はこれらの誘導体を挙げることができる。リン酸化合物としては、例えば、リン酸、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート等を挙げることができる。このうち、重合時に真空系への飛散が少ないリン酸が好ましい。亜リン酸化合物としては、例えば、亜リン酸、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2-メチレン(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト等を挙げることができる。このうち、色調改良効果の高いビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト及びビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましい。リン化合物としては、特にリン酸が好ましい。
【0039】
リン化合物の含有率は、組成物の質量に対して、リン元素換算で1ppm以上であると好ましく、5ppm以上であるとより好ましい。リン元素が1ppm未満では、良好な色調を得ることができない。また、リン化合物の含有率は、組成物の質量に対して、リン元素換算で30ppm以下であると好ましく、25ppm以下であるとより好ましく、20ppm以下であるとさらに好ましい。リン元素が30ppmを超えると重合時間が長くなってしまう。
【0040】
本開示のポリエステル樹脂組成物は、チタン化合物をさらに含有する。チタン化合物としては、例えば、テトラ-n-ブチルチタネート、テトラ-n-プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ-t-ブチルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラベンジルチタネート等を挙げることができる。このうち、テトラ-n-ブチルチタネート、テトラ-n-プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネートが良好な色調を得られるので好ましい。
【0041】
チタン化合物の含有率は、組成物の質量に対して、チタン元素換算で1ppm以上であると好ましく、2ppm以上であるとより好ましく、3ppm以上であるとさらに好ましい。チタン元素が1ppm未満では、重合時間が長くなり、良好な色調を得ることができない。また、チタン化合物の含有率は、組成物の質量に対して、チタン元素換算で10ppm以下であると好ましく、6ppm以下であるとより好ましく、5ppm以下であるとさらに好ましい。チタン元素が10ppmを超えると、良好な色調を得ることができない。
【0042】
本開示のポリエステル樹脂組成物におけるゲルマニウム化合物は、ポリエステル樹脂組成物の質量に対して、10ppm以下であると好ましく、5ppm以下であるとより好ましい。ポリエステル樹脂組成物は、ゲルマニウム化合物を含有しないとさらに好ましい。
【0043】
本開示のポリエステル樹脂組成物のジエチレングリコール(DEG)の含有率は、ポリカルボン酸成分の総量に対して、2.7モル%以下であると好ましく、2.6モル%以下であるとより好ましく、2.5モル%以下であるとより好ましい。DEGが2.7モル%を超えると、溶融安定性が不十分となり、ポリエステル樹脂の色調が不良となる。
【0044】
本開示のポリエステル樹脂組成物において、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物の含有率は1質量%以下であると好ましく、ポリエステル樹脂組成物はアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物を実質的に含有しないとより好ましい。
【0045】
本開示のポリエステル樹脂組成物の固有粘度(IV値)は、0.50dl/g(10cm/g)以上であると好ましい。固有粘度が0.50dl/g未満では好ましい機械的物性を得ることができない。また、本開示のポリエステル樹脂組成物の固有粘度は、1.00dl/g以下であると好ましく、0.85dl/g以下であるとより好ましい。固有粘度が1.00dl/gを超えると好ましい色調を得ることができない。
【0046】
上記の固有粘度は、1,1,2,2-テトラクロロエタン:フェノール=40:60(質量比)の混合溶媒に試料0.5000±0.0005gを溶解させ、ウベローデ粘度管を装着した自動粘度測定装置を用いて測定した、20℃における固有粘度である。
【0047】
本開示のポリエステル樹脂組成物の物性は、重合触媒としてゲルマニウム化合物を用いて製造したポリエステル樹脂組成物と同等の物性を有すると好ましい。
【0048】
本開示のポリエステル樹脂組成物の引張強度は50MPa以上であると好ましい。引張強度は、ISO(国際標準化機構;International Organization for Standardization)527に準拠して測定すると好ましい。
【0049】
本開示のポリエステル樹脂組成物の引張伸度は200%以上であると好ましい。引張伸度は、ISO527に準拠して測定すると好ましい。
【0050】
本開示のポリエステル樹脂組成物のシャルピー衝撃強度は2kJ/m以上であると好ましい。シャルピー衝撃強度は、ISO179に準拠して測定すると好ましい。
【0051】
本開示のポリエステル樹脂組成物のメルトインデックス(メルトフローレート)は、280℃で滞留時間6~30分であるとき、70g/10分以上であると好ましい。メルトインデックスは、ISO規格に準拠して測定すると好ましい。メルトインデックスに使用するポリエステル樹脂組成物は予め真空乾燥機や除湿乾燥機で水分率を150ppm以下、好ましくは100ppm以下に乾燥したものを使用する。
【0052】
280℃で滞留時間6分のメルトインデックス(MI)に対する280℃で滞留時間30分のメルトインデックス(MI30)の比(MI30/MI)は、1以上であると好ましい。MI30/MIが1未満であると、ゲル化しやすくなってしまう。MI30/MIは、1.3以下であると好ましく、1.2以下であるとより好ましい。MI30/MIが1.3を超えると、重合時及び成形時における溶融状態の安定性が低下してしまう。MI30/MIを上記範囲内とするによって溶融安定性を高めて、チタン重合触媒の使用に伴う分解による着色を抑制することがき、ゲルマニウム重合触媒を用いたときと同等の色調を得ることができる。MI30/MIは、多官能性成分、リン化合物の含有量、チタン化合物の含有量、DEG含有量、水分率等によって調整することができる。
【0053】
本開示のポリエステル樹脂組成物は高い透明性を有している。ポリエステル樹脂組成物のヘーズ(曇価)は、1.5%以下であると好ましく、1.0%以下であるとより好ましい。ヘーズは、ISO規格に準拠して測定すると好ましい。
【0054】
本開示のポリエステル樹脂組成物のLab色空間は、Lが58以上、aが-1.5~1.5、bが2.0以下であると好ましい。Lab色空間は、JIS規格に準拠して測定すると好ましい。
【0055】
本開示のポリエステル樹脂組成物は、本開示の組成物の本質的な性質を変えない範囲で、公知の添加剤、例えば帯電防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、酸化防止剤、等を含有することができる。
【0056】
本開示のポリエステル樹脂組成物には、後述する製造方法によって得られるポリエステル樹脂組成物も含まれ得る。本開示の組成物における上述以外の特徴は、本開示の組成物の構造又は特性により直接特定することは困難であるか、又はおよそ実際的ではない場合がある。したがって、本開示のポリエステル樹脂組成物は、組成等によって直接特定できない場合には、その製造方法によって記載することが許されるべきものである。
【0057】
イソフタル酸を共重合成分として有することによって、ポリエステル樹脂組成物は、高い透明性及び良好な色調を有することができる。
【0058】
本開示のポリエステル樹脂組成物は、多官能成分の使用、リン化合物の配合、ジエチレングリコール含有量の制御、溶融時の熱安定性の制御によって、良好な色調及び透明性を有していると共に、高い熱的安定性及び機械的物性を有している。したがって、本開示のポリエステル樹脂組成物は、化粧品容器等の種々の用途に適用することができる。
【0059】
次に、第2実施形態として、第1実施形態に係るポリエステル樹脂組成物の製造方法について説明する。
【0060】
本開示のポリエステル樹脂組成物は、上述の各成分の基礎となる化合物及び添加物を基にして、公知の方法で製造することができる。例えば、未置換のポリカルボン酸を出発原料として直接エステル化を行ってもよいし、ジメチルエステル等のエステル化物を出発原料としてエステル交換反応を行ってもよいが、ポリエステル樹脂の色相及び溶融安定性等にエステル交換触媒が悪影響を及ぼすので、直接エステル化する方が好ましい。
【0061】
各成分及び添加物の添加率は、本開示の組成物に関する上述の説明において示した含有率となるように決定することができる。例えば、共重合成分であるイソフタル酸は、目的とするポリエステル樹脂組成物中の対応する成分の含有率とほぼ同等の割合で添加することができる。
【0062】
エステル化工程は、例えば、加熱装置、攪拌機及び留出管を備えた反応槽に原料を仕込み、無触媒で、反応により生じた水を留去しながら反応を進行させることによって行うことができる。エステル化反応は、例えば、0~3kg/cmGの圧力下で、240℃~270℃で行うことができ、245℃~255℃であると好ましい。反応時間は、例えば、3~7時間程度とすることができる。
【0063】
エステル化工程において、酸成分のモル数に対するグリコール成分のモル数の比(グリコール成分のモル数/酸成分のモル数;以下「G/Aモル比」という)は、1.2以下であると好ましく、1.18以下であるとより好ましく、1.16以下であるとさらに好ましい。G/Aモル比が1.2を超えると、ポリエステル樹脂組成物中のジエチレングリコールが増えて、ポリエステル樹脂組成物の色調が低下してしまう。G/Aモル比は1.1以上であると好ましい。G/Aモル比は1.1未満となると、エステル化反応の進行が不十分となってしまう。
【0064】
エステル化につづいて、所望の分子量となるまでさらに重縮合反応を行う。重合反応における触媒として、中間生成物に上述のチタン化合物を添加する。チタン化合物の例としては、上述のチタン化合物を挙げることができる。チタン化合物の添加率は、組成物における上述の含有率とすることができる。重合触媒として、ポリエステル樹脂組成物の質量に対して10ppmを越えて、好ましくは5ppmを越えてゲルマニウム化合物を含有しないことができる。ゲルマニウム化合物の添加率は、組成物における上述の含有率とすることができる。重合触媒としてゲルマニウム化合物を使用しないことができる。
【0065】
重縮合反応は、例えば、上記のエステル化反応終了後の生成物を入れた反応槽内に、リン化合物、重合触媒を添加した後、反応槽内を徐々に昇温且つ減圧しながら行うことができる。例えば、リン化合物がリン酸の場合、リン化合物は、目的とするポリエステル樹脂組成物中のリン元素含有率よりも0質量%~20質量%多く添加することができる。槽内の圧力は、例えば、最終的には0.4kPa以下、好ましくは0.2kPa以下まで減圧すると好ましい。槽内の温度は、例えば、最終的には250℃~290℃、好ましくは260℃~280℃まで昇温すると好ましい。撹拌トルクが所定の値に到達した後、槽底部から反応生成物を押し出して回収することができる。例えば、反応生成物を水中にストランド状に押し出し、冷却した上でカッティングし、ペレット状のポリエステル樹脂を得ることができる。
【0066】
本発明のポリエステル樹脂組成物には、用途及び成形目的に応じて、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、顔料等の各種添加剤を適宜配合することができる。これらの添加剤は、重合反応工程、加工・成形工程のいずれの工程において配合してもよい。酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等が挙げられるが、特にヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤が好ましい。添加量は各々100ppm~5000ppm程度が望ましい。
【0067】
本開示のポリエステル樹脂組成物の製造方法によれば、第1実施形態に係るポリエステル樹脂組成物を作製することができる。重合触媒として、ゲルマニウム化合物より安価なチタン化合物を使用するので、製造コストを低減させることができる。また、チタン化合物を用いることによって、高い透明性を有するポリエステル樹脂組成物を製造することができる。
【0068】
本開示の製造方法によれば、チタン化合物を重合触媒として使用したとしても、ゲルマニウム化合物を重合触媒として用いて作製したポリエステル樹脂組成物と同等の機械的物性及び熱的安定性を有するポリエステル樹脂組成物を製造することができる。
【0069】
多官能性成分を添加することによって重合時間を短縮することができる。これにより、重合時間の長期化に伴うポリエステル樹脂組成物の黄変を抑制して、良好な色調を有するポリエステル樹脂組成物を製造することができる。
【実施例
【0070】
本開示のポリエステル樹脂組成物を作製して、各組成物の固有粘度、色空間、ヘーズ、機械的物性及び熱的安定性を測定した。表1に組成及び測定結果を示す。また、比較例として、主として重合触媒を変えてポリエステル樹脂組成物を作製した。表2に、比較例の組成及び測定結果を示す。
【0071】
まず、ステンレス製オートクレーブにテレフタル酸(TPA)、イソフタル酸(IPA)、無水トリメリット酸(TMA)、及びエチレングリコール(EG)を表1に示す配合割合で入れた。表1に示す配合割合は、ポリカルボン酸及びポリヒドロキシ化合物それぞれの配合割合を示す。ポリカルボン酸成分とポリオール成分の配合比は、(ポリオール成分の総モル)/(ポリカルボン酸成分の総モル)=1.2とした。次に、250℃、200kPaの条件下でエステル化を行った。次に、反応生成物に、リン化合物、及び重合触媒を加えて、280℃、100Paの減圧下で重縮合反応を行い、ペレット状のポリエステル樹脂組成物を得た。リン化合物としてはリン酸を使用した。表1に示すリン化合物の添加量は、リン元素で換算した値である。重合触媒としては、テトラブチルチタネート(TBT)を使用した。表1に示すチタン化合物の添加量は、チタン元素で換算した値である。
【0072】
比較例1~3における組成物も実施例1~3の組成物と同様に作製した。比較例における重合触媒としては、二酸化ゲルマニウムを使用した。比較例においては、無水トリメリット酸を添加しなかった。また、比較例においては、リン化合物の添加量を実施例よりも多くした。
【0073】
(1)固有粘度
各組成物の固有粘度(IV値)は、1,1,2,2-テトラクロロエタンとフェノールの混合溶媒(1,1,2,2-テトラクロロエタン:フェノール=40:60(質量比))に各組成物0.5000±0.0005gを溶解させた溶液を作製して、ウベローデ粘度管を装着した自動粘度測定装置を用いて20℃における粘度から求めた。
【0074】
(2)ポリエステル樹脂組成物中のイソフタル酸成分及び多官能性化合物成分の含有率
ブルカー社製DPX-400のFT-NMR装置を用い、トリフルオロ酢酸―dと重クロロホルムの混合溶液に各組成物を溶解し、テトラメチルシランを標品として混合し、プロトンNMRスペクトルを測定して、イソフタル酸成分及び多官能性化合物成分の含有率を定量した。
【0075】
(3)ポリエステル樹脂組成物中の金属含有量(Ti、P、及びGeの含有量)
各組成物1.000gを硫酸及び硝酸にて加熱湿式灰化処理し、高周波誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)発光分析装置(日立ハイテクサイエンス社製 PS3520VDD)にて、金属元素含有量を測定した。
【0076】
(4)ポリエステル樹脂組成物中のDEG含有率
各組成物2.000gを1規定KOHメタノール液50mlでケン化し、テレフタル酸で中和後、ガスクロマトグラフにより測定した。
【0077】
(5)色調
各組成物の色空間については、重合ペレットのカラーをカラーメータ(日本電色製)を用いて測定した。
【0078】
(6)透明性
各組成物の透明性については、射出成形機(住友重機工業社製)を用いて各組成物を厚さ5mmのプレートに成形し、各プレートのヘーズをヘーズメータ(日本電色製)を用いて測定した。射出成形条件を表3に示す。
【0079】
(7)機械物性
各組成物の機械的物性については、ISO規格に準拠して、射出成形機(住友重機工業社製)を用いて各組成物を成形して、引張強度、引張伸度及びシャルピー衝撃強度を測定した。射出成形条件を表4に示す。
【0080】
(8)溶融時の安定性
各組成物の熱的安定性については、ISO規格に準拠して、メルトインデックス測定装置を用いて、280℃で6分、1分及び30分間滞留させたときのメルトインデックス値(MI値)を測定した。
【0081】
得られたポリエステル樹脂組成物は、原料として添加したイソフタル酸の割合とほぼ同等のイソフタル酸成分を有することが確認された。得られたポリエステル樹脂組成物中のリン元素は、原料であるリン酸の添加量から約2割減少することが確認された。これより、原料としてのリン化合物がリン酸の場合、リン化合物は、目的とするポリエステル樹脂組成物中のリン元素含有率よりも約2割多く添加することができると考えられる。得られたポリエステル樹脂組成物中のチタン元素の含有率は、原料のチタン元素添加率と同等であることが確認された。
【0082】
実施例1~3においては、重合触媒としてゲルマニウム化合物を用いておらず、より安価なチタン化合物を用いている。しかしながら、表1及び表2に示すように、実施例1~3に係る組成物は、比較例1~3に係る組成物と同様の色空間(色調)及びヘーズ(透明性)を有している。したがって、実施例1~3によれば、チタン重合触媒に伴う黄色発色を抑制することができた。また、実施例1~3に係る組成物は、表1及び表2に示すように、固有粘度、機械的物性及び熱的安定性についても、比較例1~3に係る組成物と同等の性状を有している。したがって、実施例1~3によれば、チタン重合触媒に伴う熱的安定性及び機械的物性の低下を抑制することができた。また、実施例1~3に係る組成物は、比較例1~3に係る組成物よりもDEGの含有率を低くすることができた。これより、本開示によれば、良好な透明性及び色調を有すると共に、高い機械的物性及び熱的安定性を有するポリエステル樹脂組成物をより安価に作製することができることが分かった。
【0083】
実施例1~3より、ポリエチレンテレフタレートを主たる構成要素する樹脂において、イソフタル酸成分の共重合率は、1モル%以上であると好ましく、3モル%以上であるとより好ましく、5モル%以上であるとさらに好ましいと考えられる。イソフタル酸成分の共重合率は、50モル%以下であると好ましく、40モル%以下であるとより好ましい。イソフタル酸成分の共重合率は、20モル%~40モル%が透明性で好ましいと考えられる。
【0084】
実施例1~3より、ポリエチレンテレフタレートを主たる構成要素する樹脂において、多官能性成分の共重合率は、0.1モル%以上であると好ましく、0.3モル%以上であるとより好ましいと考えられる。多官能性成分の共重合率は、0.8モル%以下であると好ましく、0.6モル%以下であるとより好ましいと考えられる。
【0085】
実施例1~3より、ポリエステル樹脂組成物において、チタン元素の含有率は、1ppm以上であると好ましく、3ppm以上であるとより好ましいと考えられる。チタン元素の含有率は、10ppm以下であると好ましく、6ppm以下であるとより好ましいと考えられる。
【0086】
実施例1~3より、ポリエステル樹脂組成物において、リン元素の含有率は、5ppm以上であると好ましく、10ppm以上であるとより好ましいと考えられる。リン元素の含有率は、30ppm以下であると好ましく、20ppm以下であるとより好ましいと考えられる。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
【表4】
【0091】
本開示のポリエステル樹脂組成物及びその製造方法は、上記実施形態及び実施例に基づいて説明されているが、上記実施形態及び実施例に限定されることなく、本開示の範囲内において、かつ本開示の基本的技術思想に基づいて、各開示要素(請求の範囲、及び明細書に記載の要素を含む)に対し種々の変形、変更及び改良を含むことができる。また、本開示の請求の範囲の範囲内において、各開示要素の多様な組み合わせ・置換ないし選択が可能である。
【0092】
本開示のさらなる課題、目的及び形態(変更形態含む)は、請求の範囲を含む本開示の全開示事項からも明らかにされる。
【0093】
本書に記載した数値範囲については、別段の記載のない場合であっても、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし範囲が本書に具体的に記載されているものと解釈されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本開示のポリエステル樹脂組成物は、射出成形、押出成形、延伸成形、ブロー成形等の公知の成形加工に適用することができる。例えば、本開示のポリエステル樹脂組成物は、例えば、化粧品容器等の射出成形品、プライスレール等の押出成形品等に適用することができる。また、本開示のポリエステル樹脂組成物は、電気電子部品や自動車用材料等の種々の用途に適用することが可能である。