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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】電解液及びリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0569 20100101AFI20230614BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20230614BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20230614BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230614BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20230614BHJP
   C07C 43/11 20060101ALN20230614BHJP
【FI】
H01M10/0569
H01M10/0568
H01M10/0567
H01M10/052
H01M4/133
C07C43/11
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019025778
(22)【出願日】2019-02-15
(65)【公開番号】P2020135992
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-08-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小形 眞一
(72)【発明者】
【氏名】水谷 守
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-044883(JP,A)
【文献】特開2014-225481(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0331393(US,A1)
【文献】特開平10-294016(JP,A)
【文献】特開2018-152291(JP,A)
【文献】国際公開第2013/141195(WO,A1)
【文献】特開2014-239055(JP,A)
【文献】特開2016-219423(JP,A)
【文献】特開2016-076425(JP,A)
【文献】特開2016-189269(JP,A)
【文献】特開2015-064990(JP,A)
【文献】特開2018-037289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
H01M 4/133
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池に用いられる電解液であって、
一般式CH3O(CH2CH2O)mCH3で表わされる鎖状エーテル(mは1以上2以下)
及び一般式(CH2CH2O)nで表わされる環状エーテル(nは4又は5)のうち1以上
を含むエーテル化合物と、
第1族カチオン及びイミド構造を含むアニオンと、
リン酸エステル化合物を含む有機溶媒と、
酸素を有する環状構造を含む1種又は2種以上の添加剤と、を含み、
前記エーテル化合物は、前記鎖状エーテルであり、前記リン酸エステル化合物は、リン酸トリメチル(TMP)、リン酸トリエチル(TEP)及びリン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)(TFEP)のいずれかであるか、TMP及びTEPのいずれか1以上に対しTFEPを含むものか、のうちいずれかであるか、
または、前記エーテル化合物は、前記環状エーテルであり、前記リン酸エステル化合物は、ハロゲンを含まない、リン酸トリメチル(TMP)及びリン酸トリエチル(TEP)のうちいずれかであるか、のうちいずれかであり、
前記添加剤は、化学式(1)~(4)のうちいずれか1以上を含み、化学式(1)、(4)の組み合わせ、化学式(2)、(4)の組み合わせ及び化学式(3)、(4)の組み合わせのいずれか1以上を含む、電解液。
【化1】
【請求項2】
前記リン酸エステル化合物は、前記エーテル化合物と前記第1族カチオン及び前記イミド構造を含むアニオンとの全体の100質量部に対して、質量比で50質量部以上400質量部以下の範囲で配合されている、請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
前記アニオンは、イミド構造を含む、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(FSI)である、請求項1又は2に記載の電解液。
【請求項4】
リチウム二次電池に用いられる電解液であって、
第1族カチオン及びイミド構造を含むアニオンとしてのビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(FSI)と、
ハロゲンを含有するハロゲン含有リン酸エステル化合物を少なくとも含み、ハロゲンを含有しないハロゲン非含有リン酸エステル化合物を含んでもよい有機溶媒と、
酸素を有する環状構造を含む1種又は2種の添加剤と、を含み、
前記ハロゲン含有リン酸エステル化合物は、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)(TFEP)を含み、前記ハロゲン非含有リン酸エステル化合物は、リン酸トリメチル(TMP)及び/又はリン酸トリエチル(TEP)を含み、
前記添加剤は、化学式(1)、(4)の組み合わせ及び化学式(2)、(4)の組み合わせのうちいずれか1以上を含む、電解液。
【化2】
【請求項5】
請求項4に記載の電解液であって、
酸性、両性、塩基性及び中性のうち1以上である金属酸化物を含む無機粒子とヘテロ原子を含む有機粒子とのうち少なくとも一方を含む添加粒子、を更に含む、電解質。
【請求項6】
前記有機溶媒は、ハロゲンを含有するハロゲン含有リン酸エステル化合物を少なくとも含み、ハロゲンを含有しないハロゲン非含有リン酸エステル化合物を含んでもよく、前記ハロゲン含有リン酸エステル化合物の質量Phに対する前記ハロゲン非含有リン酸エステル化合物の質量Pの配合比P/Phが、0/100以上170/30以下の範囲である、請求項4又は5に記載の電解液。
【請求項7】
前記有機溶媒は、前記エーテル化合物が前記鎖状エーテルであり、ハロゲンを含有するハロゲン含有リン酸エステル化合物を少なくとも含み、ハロゲンを含有しないハロゲン非含有リン酸エステル化合物を含んでもよく、前記ハロゲン含有リン酸エステル化合物の質量Phに対する前記ハロゲン非含有リン酸エステル化合物の質量Pの配合比P/Phが、0/100以上170/30以下の範囲である、請求項1~のいずれか1項に記載の電解液。
【請求項8】
前記有機溶媒は、化学式()で表されるリン酸エステル化合物を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の電解液。
【化3】
【請求項9】
前記有機溶媒は、カーボネート系溶媒を主成分として含まない、請求項1~7のいずれか1項に記載の電解液。
【請求項10】
リチウムイオンを吸蔵放出する正極活物質を含む正極と、
リチウムイオンを吸蔵放出する炭素材料を負極活物質として含む負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導する、請求項1~9のいずれか1項に記載の電解液と、
を備えたリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、電解液及びリチウム二次電池を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム二次電池に用いられる第1の電解液としては、鎖状エーテルであるモノグライム(G1)とジグライム(G2)とリチウム塩とを含むものが提案されている(例えば、特許文献1)。この電解液は、G1とG2との比を調整することによって、黒鉛を負極とするリチウムイオン二次電池の充放電サイクル特性やレート特性を優れたものにすることができる、としている。また、電解液としては、グライムにリチウムのイミド塩(LiFSI)を加えた溶媒和イオン液体にハイドロフルオロエーテルの第2成分の溶媒を添加したものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。この電解液は、アルカリ金属-硫黄二次電池に用いられている。また、電解液としては、リチウム塩とクラウンエーテルとをカーボネート系の溶媒に混合したものが提案されている(例えば、特許文献3参照)。この電解液では、活性炭を正極活物質とする電気二重層キャパシタに用いられている。また、電解液としては、リチウム塩と溶媒のリン酸エステルを含むものにおいて、ビニレンカーボネート化合物とビニルエチレンカーボネート化合物とを添加したものが提案されている(例えば、特許文献4参照)。この電解液では、不燃性であり高い導電率を有するとしている。
【0003】
また、リチウム二次電池に用いられる第2の電解液としては、支持塩としてイミド塩であるリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)と有機溶媒であるリン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)(TFEP)とをモル比で1:2となるよう混合した濃厚溶液が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。この電解液をリチウム二次電池に用いたときの充放電特性が報告されている。また、支持塩としてLiPF6を用い、環状カーボネートやフッ素化リン酸エステルからなる電解液が提案されている(例えば、特許文献5参照)。この電解液では、フッ素化リン酸エステルの含有量が30質量%以上で難燃性を示すとしている。また、支持塩としてLiPF6を用い、フッ素を含む環状カーボネートやリン酸エステル、AgPF6からなる電解液が提案されている(例えば、特許文献6参照)。この電解液では、リン酸エステルの含有量が多いことから難燃性を示す。また、支持塩としてリチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiBETI)を用い、フッ素を含まないリン酸エステルやビニルエチレンカーボネート(VEC)、ビニレンカーネート(VC)からなる電解液が提案されている(例えば、非特許文献2参照)。この電解液では、安定な充放電特性を示すとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-139068号公報
【文献】特開2014-112526号公報
【文献】特開平11-329492号公報
【文献】特開2003-173819号公報
【文献】特開2013-20713号公報
【文献】特開2015-97179号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】J.Mater.Chem.A,2017, 5, 5156
【文献】J.Electrochem.Soc.,2006, 153, A135
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、第1の電解液において、Liイミド塩と鎖状エーテルとを混合して得られる溶媒和イオン液体はリチウムイオン導電性を示すが、その導電率は既存の有機電解液に比べ低いことがある。これは粘性が高いことに起因すると推察されるが、G2、G1などの短い鎖状エーテルや12-クラウン-4などの環状エーテルを用いる場合は、Liイミド塩との混合物は、固形状となり電解液として利用できないことがあった。ここで、特許文献1では、G1とG2とを所定比で混合することを必須とし、それにより液状となることから、Liカチオンに対しグライム配位子が2種類となり均一な溶媒和化合物となりにくかった。また、特許文献2、3では、ハイドロフルオロエーテルやカーボネート系溶媒を用いるものであるが、熱的安定性が問題であった。特許文献4では、溶媒和イオン液体については考慮されていなかった。
【0007】
また、第2の電解液において、特許文献4~6や非特許文献1,2では、熱的安定性は考慮されているがまだ十分でなく、放電容量などもさらに向上することが求められていた。例えば、特許文献5では、可燃性のエチレンカーボネート(EC)を30体積%以上含むため、熱的安定性が低く、添加剤が10質量%のときなどは、イオン伝導性が大幅に低下しており、二次電池の充放電特性も低下すると予想された。特許文献6では、充放電試験のクーロン効率が2サイクル目で50%未満であり、充放電特性が安定ではなかった。非特許文献1では、不燃性を示すとされるが、添加剤が含まれておらず、充放電特性が十分でなかった。非特許文献2では、不燃性とされるが、引火点(150℃)を有するTMPのみを有機溶媒として含むことから、熱的安定性はまだ十分でなかった。
【0008】
本開示は、このような課題を解決するためになされたものであり、熱的安定性及び充放電特性がより高い新規な電解液及びリチウム二次電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するために、本発明者らは、より短いグライムやクラウン化合物とリチウムのイミド塩を加えたものにリン系の化合物を添加したところ、充放電特性がより高く、熱的に安定であり、リチウム二次電池により適したものを見いだし、第1の本開示の発明を完成するに至った。
【0010】
また、上述した目的を達成するために、本発明者らは、イミド塩を支持塩とし、少なくともハロゲンを含むリン酸エステル化合物を有機溶媒とし、更に特定の環状構造を有する添加剤を添加したところ、充放電特性がより高く、熱的に安定であり、リチウム二次電池により適したものを見いだし、第2の本開示の発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本明細書で開示する第1の電解液は、
一般式CH3O(CH2CH2O)mCH3で表わされる鎖状エーテル(mは1以上3以下)及び一般式(CH2CH2O)nで表わされる環状エーテル(nは4又は5)のうち1以上を含むエーテル化合物と、
第1族カチオン及びイミド構造を含むアニオンと、
リン酸エステル化合物を含む有機溶媒と、
酸素を有する環状構造を含む1種又は2種以上の添加剤と、
を含むものである。
【0012】
あるいは、本明細書で開示する第2の電解液は、
第1族カチオン及びアニオンと、
ハロゲンを含有するハロゲン含有リン酸エステル化合物を少なくとも含み、ハロゲンを含有しないハロゲン非含有リン酸エステル化合物を含んでもよい有機溶媒と、
酸素を有する環状構造を含む1種又は2種の添加剤と、
を含むものである。
【0013】
本明細書で開示するリチウム二次電池は、
リチウムイオンを吸蔵放出する正極活物質を含む正極と、
リチウムイオンを吸蔵放出する炭素材料を負極活物質として含む負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導する上述したいずれかの電解液と、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0014】
本開示では、熱的安定性及び充放電特性がより高い新規な電解液及びリチウム二次電池を提供することができる。このような効果が得られる理由は、例えば、以下のように推察される。第1の本開示において、一般的に、G2やG1などの短い鎖状エーテルや12-クラウン-4などの環状エーテルを用いた場合は、イミド塩との混合物(例えば、1:1~2:1モル比)は固形状となる。この混合物をリン酸エステルに溶解することにより、低粘性の溶液とすることができ、低温でも良好なイオン導電性を示すと共に難燃性も示す電解液とすることができるものと推察される。また、酸素を含む環状構造を有する少なくとも2種の添加剤を含むことにより、電極反応時に2種類の添加剤が協奏的に分解して形成される被膜が、リン酸エステルの還元分解を抑制するため、安定に充放電ができるものと推察される。
【0015】
また、第2の本開示では、ハロゲン含有リン酸エステルを含むことにより不燃性や難燃性となるなど、電解液の熱安定性が向上するものと推察される。一方、ハロゲン含有リン酸エステルを含むものとすると、黒鉛負極の充放電特性が低下して電池が安定に充放電できなくなることがある。この電解液では、酸素を有する環状構造を含む1種又は2種の添加剤を用いることによって、電極反応時にこの添加剤が協奏的に分解して被膜が形成され、ハロゲン含有リン酸エステルも関与することによって、より均一な被膜が形成されるものと推察される。このため、リン酸エステルの還元分解が抑制されると同時に、安定な充放電が達成されるものと推察される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】リチウム二次電池20の構成の一例を示す模式図。
図2】実験例2の充放電曲線。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1実施形態>
(第1電解液)
第1実施形態で開示する第1の電解液は、エーテル化合物と、第1族カチオン及びイミド構造を含むアニオンと、リン酸エステル化合物と、1種又は2種以上の添加剤と、を含む。エーテル化合物は、一般式CH3O(CH2CH2O)mCH3で表わされる鎖状エーテル(mは1以上3以下)及び一般式(CH2CH2O)nで表わされる環状エーテル(nは4又は5)のうち1以上を含む。第1族カチオン及びイミド構造を含むアニオンは、例えばイミド塩としてもよい。
【0018】
エーテル化合物において、鎖状エーテルとしては、例えば、モノグライム(エチレングリコールジメチルエーテル:G1)、ジグライム(ジエチレングリコールジメチルエーテル:G2)およびトリグライム(トリエチレングリコールジメチルエーテル:G3)のうち1以上であるものとしてもよい。このうち、液状化を図る観点からは、固体になりやすいモノグライムやジグライムが好ましい。また、環状エーテルとしては、例えば、12-クラウン-4や15-クラウン-5などが挙げられ、12-クラウン-4が好ましい。エーテル化合物は、2種以上を混合して用いてもよいが、1種を単独で用いることがより好ましい。
【0019】
添加剤は、酸素を有する環状構造により構成されている。酸素は、この環状構造の中に含まれるものとしてもよいし、環状構造(の外側)に結合しているものとしてもよい。酸素は、環状構造の中に含まれるものと、環状構造に結合しているものとを有することがより好ましい。環状構造は、例えば、五員環としてもよいし、六員環としてもよいが、五員環であることがより好ましい。この環状構造は、その中に炭素間の二重結合を含むものとしてもよいし、酸素の他にNやSなどのヘテロ原子を含んでいてもよいが、ヘテロ原子は含まない方がより好ましい。また、この環状構造は、カルボニル基やスルフィニル基を有するものとしてもよく、カルボニル基を有することがより好ましい。環状構造には、ハロゲンや、炭素数1~3のアルキル基、ビニル基などが結合しているものとしてもよい。ハロゲンとしては、例えば、フッ素や塩素、臭素などが挙げられ、このうち熱的安定性の観点からフッ素がより好ましい。この添加剤は、少なくとも異なる2種の第1化合物と第2化合物としてもよい。例えば、添加剤は、カーボネート構造を有する化合物としてもよいし、オキサゾロン構造を有する化合物としてもよいし、スルトン構造を有する化合物としてもよい。この添加剤は、例えば、化学式(1)~(5)のうち1以上の化合物などが挙げられる。このうち、化学式(1)、(4)の組み合わせ、化学式(2)、(4)の組み合わせ、及び化学式(3)、(4)の組み合わせのいずれかであるものとしてもよい。この組み合わせの化合物によれば、放電容量をより高めることができ好ましい。この添加剤は、イミド塩(LiFSI)の質量に対して、第1化合物と第2化合物との全体が1.0質量比以下の範囲で配合されているものとしてもよい。なお、「イミド塩の質量に対して1.0質量比」とは、イミド塩1gに対し添加剤が1g配合されることを意味する。化学式(1)のビニルエチレンカーボネート(VEC)、化学式(2)の3-メチル-1,4,2-オキサゾール-5-オン(MDO)、化学式(3)のフルオロエチレンカーボネート(FEC)、化学式(4)のビニレンカーボネート(VC)、化学式(5)の1-プロペン-1,3-スルトン(PES)は、それぞれ、LiFSIの質量に対して0.05質量比以上0.6質量比以下の範囲で配合されるものとしてもよい。また、PESは、ジビニルスルホン(DVS)との組み合わせで用いられることがより好ましい。DVSは、イミド塩(LiFSI)の質量に対して、0.05質量比以上0.6質量比以下の範囲で配合されるものとしてもよい。
【0020】
【化1】
【0021】
第1族カチオン及びイミド構造を含むアニオンは、イミド塩としてもよい。第1族カチオンとしては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンなどが挙げられ、このうち、リチウムイオンが好ましい。イミド構造を含むアニオンは、例えば、窒素に2つのスルホニル基が結合したスルホニルイミドアニオンが好ましく、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン(TFSI) やビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン(FSI)であるものとしてもよい。このうち、リチウム二次電池の電位の観点から、FSIがより好ましい。このイミド塩は、エーテル化合物とイミド塩とのモル比で1:1~2:1の範囲で配合されているものとしてもよい。この範囲では、エーテル化合物とイミド塩とが溶媒和イオン液体になりやすく、好ましい。イミド構造を含むアニオンとカチオンとを含むイミド塩としては、例えば、LiFSIなどが好ましい。
【0022】
有機溶媒であるリン酸エステル化合物は、化学式(6)で表されるものとしてもよい。化学式(6)において、R1、R2およびR3は、それぞれ2以上が同じであってもよいし、異なっていてもよく、水素の一部又は全部がハロゲンに置換されてもよい炭素数1又は2のアルキル基である。R1、R2およびR3は、すべて同じであることがより好ましい。ハロゲンとしては、例えば、フッ素や塩素、臭素などが挙げられ、このうち熱的安定性の観点からフッ素がより好ましい。例えば、ハロゲンを含まないハロゲン非含有リン酸エステル化合物やハロゲンを含むハロゲン含有リン酸エステル化合物を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。このリン酸エステル化合物は、具体的には、リン酸トリメチル(TMP,化学式(7))、リン酸トリエチル(TEP,化学式(8))、リン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)(TFEP,式(9))などが挙げられる。リン酸エステル化合物は、アルキル鎖が短い方が熱的安定性がより高く好ましい。また、このリン酸エステル化合物は、ハロゲンを含まないものに比してハロゲンを含むものが熱的安定性がより高く好ましい。このリン酸エステル化合物は、エーテル化合物とイミド塩との全体100質量部に対して、質量比で50質量部以上400質量部以下の範囲で配合されているものとしてもよい。この範囲では、液体になりやすく好ましい。このリン酸エステル化合物の配合量は、例えば、150質量部以上250質量部以下の範囲がより好ましい。また、有機溶媒は、例えば、ハロゲン含有リン酸エステル化合物の質量Phに対するハロゲン非含有リン酸エステル化合物の質量Pの配合比P/Phが、0/200以上170/30以下の範囲であることが好ましい。この範囲では、放電容量や熱的安定性をより高めることができより好ましい。この有機溶媒は、例えば、上述したTFEPを少なくとも含み、これにTMPやTEPを含むものとしてもよい。
【0023】
【化2】
【0024】
【化3】
【0025】
この電解液において、エーテル化合物は鎖状エーテルであり、リン酸エステル化合物は、リン酸トリメチル(TMP)、リン酸トリエチル(TEP)及びリン酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)(TFEP)のいずれかであるか、TMP及びTEPのいずれか1以上に対しTFEPを含むものか、のうちいずれかであるものとしてもよい。鎖状エーテルでは、ハロゲンを含まないリン酸エステル化合物とハロゲンを含むリン酸エステル化合物とを混合することが、放電容量をより高めることができ、より好ましい。あるいは、この電解液において、エーテル化合物は環状エーテルであり、リン酸エステル化合物はハロゲンを含まないリン酸トリメチル(TMP)及びリン酸トリエチル(TEP)のうちいずれかであるものとしてもよい。環状エーテルでは、ハロゲン(例えばフッ素)を含まないリン酸エステル化合物が、放電容量の関係から、より好ましい。
【0026】
(リチウム二次電池)
本開示のリチウム二次電池は、正極と、負極と、電解液とを備える。正極は、リチウムイオンを吸蔵放出する正極活物質を含む。負極は、リチウムイオンを吸蔵放出する炭素材料を負極活物質として含む。電解液は、正極と負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するものである。この電解液は、上述したように、エーテル化合物と、第1族カチオン及びイミド構造を含むアニオンと、リン酸エステル化合物と、少なくとも2種の添加剤とを含む。
【0027】
正極は、例えば、正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn24などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMnc2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV23などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV25などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiV23などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、他の元素を含んでもよい趣旨である。導電材は、正極の電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。正極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。
【0028】
負極は、負極活物質と集電体とを密着させて形成したものとしてもよいし、例えば負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料が挙げられる。炭素質材料は、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が好ましい。また、負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、正極と同様のものを用いることができる。
【0029】
このリチウム二次電池は、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウム二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0030】
このリチウム二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。図1は、コイン型のリチウム二次電池20の構成の概略を表す断面図である。このリチウム二次電池20は、カップ形状のケース21と、正極活物質を有しこのケース21の下部に設けられた正極22と、負極活物質を有し正極22に対してセパレータ24を介して対向する位置に設けられた負極23と、絶縁材により形成されたガスケット25と、ケース21の開口部に配設されガスケット25を介してケース21を密封する封口板26と、を備えている。このリチウム二次電池20は、正極22と負極23との間の空間に電解液27を備えている。このリチウム二次電池20において、負極23は、リチウムイオンを吸蔵放出する炭素材料(例えば黒鉛)の負極活物質を含んでいる。また、電解液27には、鎖状エーテル(例えばグライム類)及び環状エーテル(例えばクラウンエーテル類)のうち1以上を含むエーテル化合物と、第1族カチオン及びイミド構造を含むアニオンと、リン酸エステル化合物と、酸素を含む環状構造を有する少なくとも2種の添加剤とが含まれる。
【0031】
以上説明した電解液およびリチウム二次電池では、熱的安定性及び充放電特性がより高い新規な電解液及びリチウム二次電池を提供することができる。このような効果が得られる理由は、例えば、以下のように推察される。一般的に、G2やG1などの短い鎖状エーテルや12-クラウン-4などの環状エーテルを用いた場合は、イミド塩との混合物(例えば、1:1~2:1モル比)は固形状となる。この混合物をリン酸エステルに溶解することにより、低粘性の溶液とすることができ、低温でも良好なイオン導電性を示すと共に難燃性も示す電解液とすることができるものと推察される。また、酸素を含む環状構造を有する少なくとも2種の添加剤を含むことにより、電極反応時に2種類の添加剤が協奏的に分解して形成される被膜が、リン酸エステルの還元分解を抑制するため、安定に充放電ができるものと推察される。
【0032】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0033】
<第2実施形態>
(第2電解液)
第2実施形態で開示する第2の電解液は、第1族カチオン及びアニオンと、ハロゲンを含有するハロゲン含有リン酸エステル化合物を少なくとも含みハロゲンを含有しないハロゲン非含有リン酸エステル化合物を含んでもよい有機溶媒と、酸素を含む環状構造を有する1種又は2種の添加剤と、を含む。即ち、第2実施形態で開示する電解液は、第1実施形態におけるエーテル化合物を含まない電解液である。
【0034】
この電解液は、有機溶媒として、ハロゲンを含むハロゲン含有リン酸エステル化合物を単独で用いてもよいし、あるいは、ハロゲン含有リン酸エステル化合物とハロゲンを含まないハロゲン非含有リン酸エステル化合物との混合物を用いてもよい。有機溶媒にハロゲン含有リン酸エステル化合物を含むものとすれば、放電容量をより高めることができ、更に不燃性や自己消火性、難燃性など、熱的安定性をより向上することができる。この電解液において、有機溶媒は、例えば、ハロゲン含有リン酸エステル化合物の質量Phに対するハロゲン非含有リン酸エステル化合物の質量Pの配合比P/Phが、0/200以上170/30以下の範囲であることが好ましい。この範囲では、放電容量や熱的安定性をより高めることができより好ましい。この有機溶媒は、例えば、上述したTFEPを少なくとも含み、これにTMPやTEPを含むものとしてもよい。また、有害性などを考慮すると、ハロゲン非含有リン酸エステル化合物は、TMPに比してTEPを用いることがより好ましい。
【0035】
添加剤は、上述した酸素を有する環状構造の化合物を用いることができる。この添加剤は、例えば、具体的には、VEC、MDO、FEC、VC及びPESなどを用いることができ、VEC及びVC、MDO及びVC、FEC及びVC、PES及びDVSなどの組み合わせのいずれか1以上を用いることができる。この添加剤の配合比は、支持塩に対して、上述した第1実施形態の範囲を適宜用いることができる。
【0036】
支持塩である第1族カチオン及びアニオンは、上述したイミド塩としてもよい。あるいは、支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などのうち1以上が挙げられる。また、リン酸エステル化合物や、添加剤などは、第1実施形態で説明したもののうち1以上を用いることができる。この支持塩の濃度は、例えば、0.50mol/kg以上2.0mol/kg以下の範囲が好ましく、0.80mol/kg以上1.50mol/kg以下の範囲がより好ましい。
【0037】
この電解液は、添加粒子を更に含むものとしてもよい。添加粒子としては、酸性、両性、塩基性及び中性のうち1以上である金属酸化物を含む無機粒子やヘテロ原子を含む有機粒子などのうち1以上を含むものとしてもよい。ハロゲン含有リン酸エステル化合物を少なくとも含み、上述したエーテル化合物を含まない電解液では、このような添加粒子を加えることによって、放電容量をより高めることができる。この添加粒子は、5nm以上300nm以下の平均粒径を有するものとしてもよい。この平均粒径は、添加粒子を電子顕微鏡(SEM)観察し、この観察画像に含まれる粒子の直径を測定して平均した値とする。この無機粒子の平均粒径は、所望する特性が得られる範囲で適宜選択することができる。この平均粒径は、例えば、100nm以下や50nm以下としてもよい。この添加粒子は、例えば、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化銅、酸化チタン、酸化マグネシウム、ゼオライト及び窒化ホウ素のうち1以上を含む無機粒子としてもよい。酸化アルミニウムとしては、例えば、αアルミナ、γアルミナなどが挙げられる。酸化珪素としては、例えば、フュームドシリカや球状シリカ、及びそれらのトリメチルシリル化物(有機シリカ粒子)などが挙げられる。酸化チタンとしては、ルチル型、アナターゼ型などが挙げられ、アナターゼ型が好ましい。ゼオライトとしては、例えば、メソポーラスシリカFSM22や、FSM16、MCM41などが挙げられる。窒化ホウ素としては、例えば、ヘキサゴナル-窒化ホウ素(h-BN)などが挙げられる。無機粒子は、例えば、酸化アルミニウムや酸化珪素、酸化銅、酸化マグネシウムなどが好ましい。この電解質において、添加粒子は、有機溶媒と支持塩と添加剤との全体を100質量部としたとき、0.1質量部以上5質量部以下の範囲で電解液に含まれていることが好ましい。この範囲では、電解液の熱的安定性の低下をより抑制するか又は熱的安定性をより向上するなど、熱的安定性をより好適にすることができる。
【0038】
以上説明した第2の電解液では、ハロゲン含有リン酸エステルを含むことにより不燃性や難燃性となるなど、電解液の熱安定性が向上するものと推察される。一方、ハロゲン含有リン酸エステルを含むものとすると、黒鉛負極の充放電特性が低下して電池が安定に充放電できなくなることがある。この電解液では、酸素を有する環状構造を含む1種又は2種の添加剤を用いることによって、電極反応時にこの添加剤が協奏的に分解して被膜が形成され、ハロゲン含有リン酸エステルも関与することによって、より均一な被膜が形成されるものと推察される。このため、リン酸エステルの還元分解が抑制されると共に、安定な充放電が達成されるものと推察される。
【実施例
【0039】
以下では上述した電解液及びリチウム二次電池を具体的に作製した例について実験例として説明する。なお、実験例17~23、24、26、27、29、31が比較例に相当し、実験例1~2、5~7、9~16、25、28、30、32~45が実施例に相当し、実験例3、4、8が参考例に相当する。
【0040】
[原料の略称等]
G1 Ethylene glycol dimethyl ether:東京化成製
G2 Diethylene glycol dimethyl ether:東京化成製
G3 Triethylene glycol dimethyl ether:東京化成製
G4 Tetraethylene glycol dimethyl ether:東京化成製
12C4 1,4,7,10-Tetraoxacyclododecane:東京化成製
LiFSI Lithium Bis(fluorosulfonyl)imide:キシダ化学製
TMP Trimethyl phosphate:東京化成製
TEP Triethyl phosphate:東京化成製
TFEP Tris(2,2,2-trifluoroethyl)phosphate:東京化成製
VEC Vinylethylene Carbonate:キシダ化学製
MDO 3-Methyl-1,4,2-oxazol-5-on:文献に従い合成した
VC Vinylene carbonat:東京化成製
LiBOB LITHIUM BIS(OXALATO)BORATE:ケメタル製
FEC Fluoroethylenecarbonate:東京化成製
PES 1-Propene1,3-sultone:東京化成製
DVS Divinyl Sulfone:東京化成製
【0041】
(第1電解液の作製)
Ar雰囲気のグローブボックス中で鎖状エーテル又は環状エーテルであるエーテル化合物に対し、1~2モル数のイミド塩であるLiFSIを混合し、固形状となった混合物を更にスパーテルで機械的に混合した。この混合物に、TMP、TEP及びTFEPのうちいずれか1以上のリン酸エステル化合物と、酸素を含む環状構造を有する少なくとも2種の添加剤と、を加え撹拌して混合した。 得られた混合物を一晩撹拌することで、電解液を得た。
【0042】
(MDOの作製)
添加材であるMDOは、非特許文献:Cem.Mater.,2017,29,7733に記載の方法により合成した。1Lのナスフラスコ中にAcetohydroxamic Acid(3.75g)と塩化メチレン500mLを秤量し、Ar気流下で撹拌した。その中へ、Carbonyldiimidazole(CDI)8.11gを投入し、その均一溶液を室温で16時間撹拌して反応させた。反応終了後に、反応混合物を1M-HCl300mL中へ投入し、分液した有機層を水150mLで3回抽出した。有機層を分液したのちに、MgSO4で乾燥し、減圧蒸留により薄黄色油状の生成物3.1g(収率62%)を得た。
1H NMR(CDCl3):2.36ppm(s,3H,CH3);13C NMR(CDCl3):163.8,154.1,10.4ppm
【0043】
[実験例1]
エーテル化合物として鎖状エーテルのG2、イミド塩としてLiFSI、リン酸エステル化合物としてTMP、添加剤としてVEC及びVCを用いたものを実験例1の電解液とした。実験例1の配合比は、エーテル化合物とイミド塩とをモル比で1:1で混合し、この全体100質量部に対して、TMPを200質量部とした。また、イミド塩(LiFSI)の質量に対して、VECを0.47質量比、VCを0.12質量比とした。
【0044】
[実験例2]
リン酸エステル化合物としてTMP及びTFEPを用いた以外は実験例1と同様に作製したものを実験例2の電解液とした。実験例2では、エーテル化合物とイミド塩との全体100質量部に対して、TMPを150質量部、TFEPを50質量部とした。
【0045】
[実験例3、4]
エーテル化合物として鎖状エーテルのG3を用いた以外は実験例1と同様に作製したものを実験例3の電解液とした。エーテル化合物として鎖状エーテルのG3を用いた以外は実験例2と同様に作製したものを実験例4の電解液とした。
【0046】
[実験例5、6]
エーテル化合物として環状エーテルの12C4を用いた以外は実験例1と同様に作製したものを実験例5の電解液とした。エーテル化合物として環状エーテルの12C4を用いた以外は実験例2と同様に作製したものを実験例6の電解液とした。
【0047】
[実験例7~9]
エーテル化合物とイミド塩とをモル比で2:1で混合し、添加剤としてMDO及びVCを用い、この配合比を変更した以外は実験例2と同様に作製したものを実験例7の電解液とした。添加剤としてMDO及びVCを用い、この配合比を変更した以外は実験例4と同様に作製したものを実験例8の電解液とした。添加剤としてMDO及びVCを用い、この配合比を変更した以外は実験例5と同様に作製したものを実験例9の電解液とした。実験例7~9の配合比は、イミド塩(LiFSI)の質量に対して、MDOを0.12質量比、VCを0.12質量比とした。
【0048】
[実験例10~12]
エーテル化合物としてTEPを用いた以外は実験例1と同様に作製したものを実験例10の電解液とした。エーテル化合物としてTEPを用いた以外は実験例2と同様に作製したものを実験例11の電解液とした。エーテル化合物としてTEPを用いた以外は実験例5と同様に作製したものを実験例12の電解液とした。実験例10~12の配合比は、イミド塩(LiFSI)の質量に対して、VECを0.47質量比、VCを0.12質量比とした。
【0049】
[実験例13~16]
エーテル化合物としてG1、リン酸エステル化合物としてTFEPのみを用いた以外は実験例1と同様に作製したものを実験例13の電解液とした。エーテル化合物とイミド塩とをモル比で2:1で混合し、エーテル化合物とイミド塩との全体100質量部に対してリン酸エステル化合物としてTFEPのみを200質量部用いた以外は実験例1と同様に作製したものを実験例14の電解液とした。リン酸エステル化合物としてTFEPのみを200質量部用いた以外は実験例1と同様に作製したものを実験例15の電解液とした。リン酸エステル化合物としてTFEPのみを200質量部用い、添加剤としてMDOをイミド塩(LiFSI)の質量に対して0.12質量比及びVCを0.12質量比用いた以外は実験例1と同様に作製したものを実験例16の電解液とした。
【0050】
[実験例17、18]
G2とLiFSIとをモル比で1:1となるように混合したものを実験例17とした。実験例17は、固体粉末であった。12C4とLiFSIとをモル比で1:1となるように混合したものを実験例18とした。実験例18は、固体粉末であった。
【0051】
[実験例19~23]
添加剤のVECとVCを加えない以外は実験例3と同様に作製したものを実験例19の電解液とした。実験例19にLiBOBを0.05モル当量加えたものを実験例20とした。リン酸エステル化合物としてTMPのみを200質量部用い、添加剤としてMDOをイミド塩(LiFSI)の質量に対して0.05質量比用いた以外は実験例7と同様に作製したものを実験例21の電解液とした。エーテル化合物を用いない以外は実験例1と同様に作製したものを実験例22の電解液とした。エーテル化合物としてG4を用い、添加剤としてMDOを0.12質量比及びVCを0.12質量比、イミド塩(LiFSI)の質量に対して用いた以外は実験例1と同様に作製したものを実験例23の電解液とした。
【0052】
(着火試験)
電解液100μLを50mm×10mm×0.05mmの石英製ろ紙に染み込ませたものに、約800℃の炎を近づけて着火させ、炎を離した後に自己消火性を示すか否かを目視により確認した。着火時に燃え上がりがほとんどなく火元を離すと消火したものを自己消火性優良(A)、着火時に燃え上がりが少なく火元を離すと消火したものを自己消火性良(B)、着火時に燃え上がりが大きく火元を離すと消火したものを難燃性あり(C)、着火時に燃え上がりが大きく火元を離しても消火しないものを難燃性なし(D)として評価した。実験例17,18は固体であるので、加熱溶融したのち着火試験を行った。
【0053】
(リチウム二次電池の作製)
正極は、コバルトとマンガンをドープしたニッケル酸リチウム(LiNi1/3Co1/3Mn1/32;NCM)、カーボンブラック(CB)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を質量の配合比で、92:5:3となるよう混合したものをN-メチルピロリドン(NMP)中に分散させ、得られたペーストを、アルミニウム箔に塗布したのち、乾燥させた。この乾燥体をプレスし、得られたものを正極とした。負極は、黒鉛、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)を質量の配合比で96:2:2となるよう混合したものを水中で分散させ、得られたペーストを、銅箔に塗布したのち、乾燥させた。この乾燥体をプレスし、得られたものを負極とした。アルゴン雰囲気中で、正極と、負極とを上記作製した電解液を染み込ませたポリエチレン多孔体を介して対向させ、密閉することで、評価セルを得た。
【0054】
(充放電試験)
上記得られた評価セルを用い、25℃、電流値0.3mA(0.1Cレート)、電圧範囲3.0~4.1V、定電流定電圧方式で、所定回数(5回)、充放電サイクルを実施した。評価は、初期放電容量と、初期充放電効率とした。充放電効率(%)は、初回の放電容量を充電容量で除算して100を乗算して求めた。図2は、実験例2の充放電曲線であり、図2Aが実験例2の試験セルの充放電曲線、図2Bが実験例2の負極単極の充放電曲線、図2Cが実験例2の正極単極の充放電曲線である。
【0055】
(結果と考察)
実験例1~23の配合比、初期放電容量(mAh/g)、充放電効率(%)及び着火試験評価結果をまとめて表1に示した。まず、短い鎖状エーテル(G1~G3)又は環状エーテル(12C4)とLiFSIとを含む混合物へのリン酸エステル化合物の混合による難燃性付与について検討する。実験例17、18は、固形状であり、表1に示すように、着火試験の結果、難燃性は全く示さなかった。一方、その他の実験例に示すように、リン酸エステル化合物を混合して液状としたものは難燃性を発現し、特定のものでは、より良好な自己消火性を示した。特に、鎖状エーテルでは、TMPを含むものでは自己消火性が高い結果であった。
【0056】
次に、短い鎖状エーテル又は環状エーテルとLiFSIとを含む混合物へのリン酸エステル化合物の混合による充放電特性の安定化について検討する。エーテル化合物を含まない実験例22では、安定な充放電が達成され、初回の放電容量が109mAh/gであり、充放電効率は80%を示した。一方、実験例22に対してG2、G3及び12C4を含む、溶媒和イオン液体のリン酸エステル溶液である実験例1、3、5は、初回放電容量が137~142mAh/g、充放電効率が83%~87%へ向上した。この添加剤(VEC,VC)を用いると、リン酸エステル化合物がTEPである場合も、G2(実験例10)や12C4(実験例11)を含む電解液で、初回放電容量が140~144mAh/g、充放電効率が86~88%と向上した。また、この添加剤は、リン酸エステル化合物がTFEPである実験例13~15においても、初回放電容量が134~141mAh/gと向上し、充放電効率は86~87%を示した。しかし、長い鎖状エーテルであるG4を用いた実験例23では、初回放電容量(効率)が低下して安定な充放電はできなかった。
【0057】
次に、短い鎖状エーテルとLiFSIから成る混合物に対しフッ素を含むTFEPを共存させたリン酸エステル混合による充放電特性の向上について検討する。リン酸エステルとしてフッ化物を混合したTMP+TFEPを用いると、G2(実験例2)やG3(実験例4)の溶媒和イオン液体では、初回放電容量が141~145mAh/g、充放電効率が88~89%と向上した。
【0058】
次に、エーテル化合物とLiFSIとを含む混合物のリン酸エステル溶液に対して添加する電解液添加剤の種類による充放電特性について検討する。電解液添加剤を添加しない実験例19では、放電容量が微小で安定に充放電できなかった。また、電解液添加剤としてLiBOBを添加した実験例20においても効果が無かった。更に、電解液添加剤としてMDOを単独添加した実験例21においても、充放電は進行しなかった。一方、電解液添加剤をVCを共存させた2成分系とした実験例23では、ある程度の充放電を達成できた。この電解液添加剤は、2倍のG2やG3、12C4とLiFSIとの混合物をTMP/TFEPに溶解した液体に対して添加すると、安定に充放電ができ、初回放電容量が132~140mAh/gを示し、充放電効率が82~86%と高い値を示した(実験例7~9)。また、この電解液添加剤をG2を含むLiFSIとの混合物をTFEPに溶解した実験例16も、安定な充放電を可能とした。また、実験例1~6に示すように、VECとVCとを共存させた2成分系添加剤とすると、安定に充放電ができ、充放電特性が向上した。
【0059】
ここで、第1電解液の考察をまとめる。短い鎖状エーテル又は環状エーテルとLiFSIとからなるモル比1:1~2:1の混合物は固形状であるが、リン酸エステル化合物を混合することで液体となり、難燃性とイオン導電性を示すことがわかった。また、この液体に、酸素を含む環状構造を有する添加剤の2成分(VEC+VC又はMDO+VC)を添加することで、二次電池での安定な充放電を達成できることがわかった。G2やG3にTMPとTFEPとを加えた電解液では、リン酸エステルへのTFEP共存効果により初回放電容量(効率)が向上し、141~145mAh/g(88~89%)が得られた。G1やG2にTFEP及び添加剤の2成分を加えた電解液では、初回放電容量(効率)が向上し134~136mAh/g(87%)が得られた。12C4にTMP及び添加剤の2成分を加えた電解液では、TFEPの共存効果は見られなかったが、フッ素化物を含まないリン酸エステルの組成物で、初回放電容量(効率)は140~142mAh/g(87~88%)が得られた。例えば、12C4にTEPを添加した実験例10~12、特にG2の実験例10などの電解液では、有害性が低く、且つ放電容量や効率が高く化学的に安定な電解液が得られた。
【0060】
【表1】
【0061】
(第2電解液の作製)
次に、エーテル化合物を混合しない有機溶媒について検討した。TMP、TEP及びTFEPのうちいずれか1以上のリン酸エステル化合物を有機溶媒とし、酸素を含む環状構造を有する少なくとも2種の添加剤と、イミド塩であるLiFSIとを加え撹拌して混合した。 得られた混合物を一晩撹拌することで、電解液を得た。
【0062】
[実験例24~26]
イミド塩としてLiFSI、リン酸エステル化合物としてTMP、添加剤としてVEC及びVCを用いたものを実験例24の電解液とした。実験例24の配合比は、TMPを200質量部とし、イミド塩であるLiFSIを質量モル比で1.4mol/kg加え、撹拌して均一溶液とし、そのイミド塩(LiFSI)の質量に対してVECを0.47質量比、VCを0.12質量比加えた。また、TMPとTFEPとを質量比で150/50で混合した以外は実験例24と同様に作製したものを実験例25の電解液とした。また、TMPとTFEPとを質量比で150/50で混合し、添加剤を加えなかった以外は実験例24と同様に作製したものを実験例26の電解液とした。
【0063】
[実験例27~29]
イミド塩としてLiFSI、リン酸エステル化合物としてTEP、添加剤としてVEC及びVCを用いたものを実験例27の電解液とした。実験例27の配合比は、TEPを200質量部とし、イミド塩であるLiFSIを質量モル比で1.4mol/kg加え、撹拌して均一溶液とし、そのイミド塩(LiFSI)の質量に対してVECを0.47質量比、VCを0.12質量比加えた。また、TEPとTFEPとを質量比で150/50で混合した以外は実験例27と同様に作製したものを実験例28の電解液とした。また、TEPとTFEPとを質量比で150/50で混合し、添加剤を加えなかった以外は実験例27と同様に作製したものを実験例29の電解液とした。
【0064】
[実験例30~32]
イミド塩としてLiFSI、リン酸エステル化合物としてTFEP、添加剤としてVEC及びVCを用いたものを実験例30の電解液とした。実験例30の配合比は、TFEPを200質量部とし、イミド塩であるLiFSIを質量モル比で1.4mol/kg加え、撹拌して均一溶液とし、そのイミド塩(LiFSI)の質量に対してVECを0.47質量比、VCを0.12質量比加えた。また、添加剤を加えなかった以外は実験例30と同様に作製したものを実験例31の電解液とした。また、TFEPを400質量部とした以外は実験例30と同様に作製したものを実験例32の電解液とした。
【0065】
[実験例33~35]
イミド塩としてLiFSI、リン酸エステル化合物としてTMP及びTFEP、添加剤としてMDO及びVCを用いたものを実験例33の電解液とした。実験例33の配合比は、TMPを150質量部、TFEPを50質量部とし、イミド塩であるLiFSIを質量モル比で1.4mol/kg加え、撹拌して均一溶液とし、そのイミド塩(LiFSI)の質量に対してMDOを0.12質量比、VCを0.12質量比加えた。また、TEPとTFEPとを質量比で150/50で混合した以外は実験例33と同様に作製したものを実験例34の電解液とした。また、TFEPを200質量部とした以外は実験例33と同様に作製したものを実験例35の電解液とした。
【0066】
[実験例36~37]
イミド塩としてLiFSI、リン酸エステル化合物としてTMP及びTFEP、添加剤としてVEC及びVCを用い、添加粒子を加えたものを実験例36の電解液とした。実験例36の配合比は、TMPを150質量部、TFEPを50質量部とし、イミド塩であるLiFSIを質量モル比で1.4mol/kg加え、撹拌して均一溶液とし、そのイミド塩(LiFSI)の質量に対してVECを0.47質量比、VCを0.12質量比加え、更に添加粒子をイミド塩と有機溶媒と添加剤との全体100質量部に対して0.2質量部加えた。添加粒子は、有機シリカナノ粒子(トリメチルシリルフュームドシリカ、平均粒径8nm)を用いた。また、TEPとTFEPとを質量比で150/50で混合した以外は実験例36と同様に作製したものを実験例37の電解液とした。
【0067】
[実験例38~40]
イミド塩としてLiFSI、リン酸エステル化合物としてTMP及びTFEP、添加剤としてVEC及びVCを用いたものを実験例38の電解液とした。実験例38の配合比は、TMPを170質量部、TFEPを30質量部とし、イミド塩であるLiFSIを質量モル比で1.4mol/kg加え、そのイミド塩(LiFSI)の質量に対してVECを0.47質量比、VCを0.12質量比加えた。また、TMPとTFEPとを質量比で150/50で混合し、そのイミド塩(LiFSI)の質量に対してVECを0.29質量比、VCを0.12質量比加えた以外は実験例38と同様に作製したものを実験例39の電解液とした。また、TMPとTFEPとを質量比で150/50で混合し、そのイミド塩(LiFSI)の質量に対してVECを0.18質量比、VCを0.12質量比加えた以外は実験例38と同様に作製したものを実験例40の電解液とした。
【0068】
[実験例41~42]
イミド塩としてLiFSI、リン酸エステル化合物としてTMP及びTFEP、添加剤としてFEC及びVCを用いたものを実験例41の電解液とした。実験例41の配合比は、TMPを150量部、TFEPを50質量部とし、イミド塩であるLiFSIを質量モル比で1.4mol/kg加え、そのイミド塩(LiFSI)の質量に対してFECを0.18質量比、VCを0.12質量比加えた。また、イミド塩としてLiFSI、リン酸エステル化合物としてTMP及びTFEP、添加剤としてDVS及びPESを用いたものを実験例42の電解液とした。実験例42の配合比は、TMPを150量部、TFEPを50質量部とし、イミド塩であるLiFSIを質量モル比で1.4mol/kg加え、そのイミド塩(LiFSI)の質量に対してに対してDVSを0.12質量比、PESを0.12質量比加えた。
【0069】
[実験例43~45]
イミド塩としてLiFSI、リン酸エステル化合物としてTFEP、添加剤としてFECのみを用いたものを実験例43の電解液とした。実験例43の配合比は、TFEPを200質量部とし、イミド塩であるLiFSIを質量モル比で1.4mol/kg加え、そのイミド塩(LiFSI)の質量に対してFECを0.18質量比加えた。また、イミド塩としてLiFSI、リン酸エステル化合物としてTFEP、添加剤としてFEC及びVCを用いたものを実験例44の電解液とした。実験例44の配合比は、TFEPを200質量部とし、イミド塩であるLiFSIを質量モル比で1.4mol/kg加え、そのイミド塩(LiFSI)の質量に対してFECを0.18質量比、VCを0.12質量比加えた。また、イミド塩としてLiFSI、リン酸エステル化合物としてTFEP、添加剤としてDVS及びPESを用いたものを実験例45の電解液とした。実験例45の配合比は、TFEPを200質量部とし、イミド塩であるLiFSIを質量モル比で1.4mol/kg加え、そのイミド塩(LiFSI)の質量に対してDVSを0.12質量比、PESを0.12質量比加えた。
【0070】
(着火試験)
着火試験を実験例24~45の電解液を用いて行った。電解液100μLを50mm×10mm×0.05mmの石英製ろ紙に染み込ませたものに、約800℃の炎を近づけて着火させ、炎を離した後に自己消火性を示すか否かを目視により確認した。炎の3秒間の接触で着火しないものを不燃性良(A)、炎の接触で燃え上がりが少なく火元を離すと消火するものを難燃性良(B)、炎の接触で燃え上がりが大きく火元を離すとその後消火するものを難燃性あり(C)、炎の接触で燃え上がりが大きく火元を離しても消火しないものを難燃性なし(D)として評価した。
【0071】
(リチウム二次電池の作製)
実験例24~45の電解液を用いてリチウム二次電池を作製した。正極は、コバルトとマンガンをドープしたニッケル酸リチウム(LiNi1/3Co1/3Mn1/32;NCM)、カーボンブラック(CB)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を質量の配合比で、92:5:3となるよう混合したものをN-メチルピロリドン(NMP)中に分散させ、得られたペーストを、アルミニウム箔に塗布したのち、乾燥させた。この乾燥体をプレスし、得られたものを正極とした。負極は、黒鉛、カルボキシメチルセルロース(CMC)、スチレンブタジエンゴム(SBR)を質量の配合比で96:2:2となるよう混合したものを水中で分散させ、得られたペーストを、銅箔に塗布したのち、乾燥させた。この乾燥体をプレスし、得られたものを負極とした。アルゴン雰囲気中で、正極と、負極とを上記作製した電解液を染み込ませたポリエチレン多孔体を介して対向させ、密閉することで、評価セルを得た。
【0072】
(充放電試験)
上記得られた評価セルを用い、25℃、電流値0.3mA(0.1Cレート)、電圧範囲3.0~4.1V、定電流定電圧方式で、所定回数(5回)、充放電サイクルを実施した。評価は、初期放電容量と、初期クーロン効率とした。クーロン効率(%)は、初回の放電容量を充電容量で除算して100を乗算して求めた。
【0073】
(結果と考察)
実験例24~45の組成、初回及びサイクル3回目の放電容量(mAh/g)、クーロン効率(%)、及び着火試験評価結果を表2にまとめた。まず、TMPにフッ素含有リン酸エステル化合物であるTFEPを混合しLiFSIとVEC+VCから成る電解液の熱的安定性と充放電特性の向上について検討する(実験例24~26)。実験例24は、添加剤を含み、TFEPを含まない電解液であるが、着火試験で着火と自己消火性が確認されので不燃性ではなく難燃性であった。その放電容量及びクーロン効率は、それぞれ高くても109mAh/g 、80%であった。これに対して、実験例25では、TFEPを混合したの電解液であるが、着火試験では着火せずに不燃性であった。その放電容量及びクーロン効率は144mAh/g及び89%であり、充放電特性が向上した。一方、添加剤を加えなかった実験例26では、不燃性は維持されるが、放電容量やクーロン効率が大幅に減少し充放電特性が低下した。即ち、実験例24は、実験例26に比して大きく充放電特性が向上し、更に実験例25は、充放電特性及び熱的安定性も向上することがわかった。このように、TFEP及び添加剤を含むものが熱的安定性及び充放電特性を極めて向上するものであることが明らかとなった。
【0074】
次に、TEPにフッ素化物TFEPを混合したリン酸エステルとLiFSIと添加剤からなる電解液の難燃性と充放電特性について検討する(実験例27~29、34)。この実験例28,29は、有害性が低いTEPを用いたものであるが、両者とも難燃性を示した。この実験例28では、添加剤(VEC+VC)を添加したものであり、放電容量及びクーロン効率が122mAh/g、86%であり、安定な充放電挙動が見られた。実験例34は、添加剤(MDO+VC)を用いたものであるが、難燃性であり、その放電容量及びクーロン効率は、130mAh/g、84%と高かった。このように、有害性が低いリン酸エステルであるTEPを用いた場合においても、電解液は難燃性を示し且つ放電容量やクーロン効率がそれぞれ122~130mAh/g、84~86%であり、安定な充放電挙動を示すことが分った。これらにおいても、フッ素化リン酸エステルにより、難燃性と充放電特性が向上したものと考えられる。
【0075】
次に、有機溶媒をTFEPのみとする電解液の熱的安定性と充放電特性について検討する(実験例30~32)。実験例31は、添加剤を混合しない電解液であるが、不燃性を示すものの、その放電容量及びクーロン効率は低く、安定な充放電特性が見られなかった。一方、実験例30は、添加剤(VEC+VC)を混合したTFEPの電解液であるが、不燃性で、その放電容量及びクーロン効率は、139mAh/g、86%であり、良好な充放電特性を示した。また、実験例32は、TFEPを2倍増させた電解液であるが、不燃性で、その放電容量及びクーロン効率は、131mAh/g、78%であり、良好な充放電特性を示した。したがって、有機溶媒としてTFEPのみを用いた電解液でも、添加剤の存在によって、安定な充放電特性を示すことが分った。
【0076】
次に、MDOを添加剤として用いた電解液の熱的安定性と充放電特性について検討する(実験例33~35)。実験例33は、添加剤にMDO及びVCを用い、TMP及びTFEPを有機溶媒として含む電解液であるが、不燃性であり、その放電容量及びクーロン効率は、113mAh/g、81%であった。また、TEPをTMPの代わりに用いた実験例34は、難燃性であり、その放電容量及びクーロン効率は、130mAh/g、84%であった。また、TFEPを用いた実験例35では、不燃性であり、その放電容量及びクーロン効率は、119mAh/g、79%であった。これらは、実験例26、29、31に対し大きく向上しており、添加剤としてMDOも有効であることが分かった。
【0077】
次に、添加粒子として有機シリカ粒子(平均粒径7nm)を電解液に添加したものについて検討する(実験例36、37)。実験例25の電解液に添加粒子を加えた実験例36では、より高い放電容量が得られたため、添加粒子の複合効果が現れていることが明らかとなった。また、実験例33の電解液に添加加えた実験例37においても同様に、添加粒子の配合効果を示した。
【0078】
次に、TFEPの配合量や添加剤の配合量を変更した電解液の熱的安定性と充放電特性について検討する(実験例38~40)。TFEPの配合量がより低い実験例38やVECの配合量がより低い実験例40においても、不燃性であり、より高い放電容量を示すことがわかった。
【0079】
次に、添加剤の種類を変更した電解液の熱的安定性と充放電特性について検討する(実験例41~45)。添加剤としてFECやPESなどを用いた場合においても、不燃性であり、より高い放電容量を示すことがわかった。FECを添加剤とする場合、VCを添加しない方がより良好であることがわかった。また、FECを添加剤とする場合、TFEPなどのハロゲン含有リン酸エステル化合物を有機溶媒とする方が良好であることがわかった。
【0080】
ここで、第2電解液の考察をまとめる。Liイミド塩のLiFSIとフッ素化リン酸エステルのTFEP(200質量部)と環状構造を有する添加剤(VEC+VC、MDO+VC)を混合した2成分系の添加剤を含む電解液は、不燃性を示し、リチウムイオン二次電池において安定な充放電特性を示し、放電容量及びクーロン効率は、添加剤を添加しないものに比してより高い傾向を示した。この電解液中のフッ素化リン酸エステルの一部分を安価なTMPに置き換えても、得られる電解液は同様の特性を示し、不燃性と二次電池での安定な充放電挙動を示した。特に、添加剤を用いた場合において、安定的に充放電可能となるTFEPの効果を確認できた。また、電解液中のフッ素化リン酸エステルの一部分を安価で有害性が低いTEPに置き換えた場合でも、難燃性が得られ、二次電池での安定な充放電挙動を示すことがわかった。特に、添加剤を用いた場合において、放電容量やクーロン効率は、添加剤を添加しないものに比してより高い傾向を示した。この場合も、TFEPの効果によって、TEP単独の場合よりも充放電特性が向上したものと推察された。添加剤としてVEC、MDO、FEC、VCのほか、PESやDVSなどを1種又は複合して用いることにより、放電容量やクーロン効率など、充放電特性をより向上することができることがわかった。
【0081】
【表2】
【0082】
なお、本開示は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本開示は、リチウム二次電池の技術分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0084】
20 リチウム二次電池、21 ケース、22 正極、23 負極、24 セパレータ、25 ガスケット、26 封口板、27 電解液。
図1
図2