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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】油焼入れ装置および熱処理設備
(51)【国際特許分類】
   C21D 1/64 20060101AFI20230614BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
C21D1/64
C21D1/18 V
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019029297
(22)【出願日】2019-02-21
(65)【公開番号】P2020132961
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】306039120
【氏名又は名称】DOWAサーモテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(72)【発明者】
【氏名】柴田 大樹
(72)【発明者】
【氏名】藤田 貴弘
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】実開平07-015764(JP,U)
【文献】特開昭62-033716(JP,A)
【文献】実開平03-089152(JP,U)
【文献】欧州特許出願公開第02980229(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/00- 1/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油槽と、
前記油槽内においてワークを保持するワーク保持具と、
前記ワーク保持具を昇降させる昇降機構と、
前記油槽の外側に配置された搬送アームと、
前記搬送アームを移動させるアーム移動機構と、を備え、
前記ワーク保持具は、前記ワークが載せられる部分であるワーク載置部を有し、
前記アーム移動機構は、前記油槽の外側に位置する、前記搬送アームの待機位置と、前記油槽の内側に位置する、前記搬送アームと前記ワーク保持具による前記ワークの受け渡しが行われる受け渡し位置と、の間で前記搬送アームを移動させる構造を有し、
前記搬送アームおよび前記ワーク載置部は、前記受け渡し位置において、平面視で互いに重ならない形状を有し
前記ワーク保持具には、前記ワークを搬送する搬送機構が設けられていない、油焼入れ装置。
【請求項2】
前記搬送アームに、上方に向かって延びた突起部が設けられている、請求項1に記載の油焼入れ装置。
【請求項3】
前記搬送アームの上面に、該搬送アームの長手方向に沿って延びた溝が形成され、前記溝の深さは、前記搬送アームの先端に近づくほど深くなっている、請求項1または2に記載の油焼入れ装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の油焼入れ装置を備えた、ワークの熱処理が行われる熱処理設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの油焼入れを行う油焼入れ装置およびその油焼入れ装置を備えた熱処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用部品やその他機械部品等のワークの硬度を高める熱処理として焼入れ処理が知られている。そのような焼入れ処理の方法の一つとして、高温に加熱されたワークを焼入れ油に浸漬させて急冷する油焼入れがある。油焼入れを行う際には、焼入れ後のワークの歪を抑えるために焼入れ中のワークの冷却速度を低下させないことが望まれる。冷却速度の低下を抑える対策としては、特許文献1のように焼入れ油を攪拌する方法が知られている。
【0003】
油焼入れ装置を用いた油焼入れは、一般的に、油槽内に貯留した焼入れ油の上方空間にワークを移動させた後、ワークを下降させて焼入れ油に浸漬することで行われる。特許文献2には、油槽に取り付けられた昇降台にワークを搬送する油焼入れ装置が開示されている。特許文献2のような油焼入れ装置においては、油焼入れを行う際にワークと共に昇降台に取り付けられたガイドローラ等の搬送機構も焼入れ油に浸漬することが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-207239号公報
【文献】特開平9-217114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
油焼入れを行う際には、ワークの部位ごとの冷却速度のバラつきを抑えることが望まれる。また、複数のワークを同時に焼入れする場合には、各々のワークの部位ごとの冷却速度のバラつきを抑えることに加え、各ワークの配置箇所の違いに起因する冷却速度のバラつきも抑えることが望まれる。
【0006】
焼入れ油を攪拌する場合、攪拌力を大きくして焼入れ油の流速を速くするほど、油槽内の流速バラつきは大きくなりやすく、これに伴い、ワークの冷却速度のバラつきが大きくなりやすい。特に、特許文献2のように、焼入れの際にワークと共にガイドローラ等の搬送機構も焼入れ油に浸漬する装置構造の場合には、焼入れ油の流れを阻害する部品が多くなり、ワークに当たる焼入れ油の流速にバラつきが生じやすい。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ワークの焼入れ時における焼入れ油の流速バラつきを抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の一態様は、油焼入れ装置であって、油槽と、前記油槽内においてワークを保持するワーク保持具と、前記ワーク保持具を昇降させる昇降機構と、前記油槽の外側に配置された搬送アームと、前記搬送アームを移動させるアーム移動機構と、を備え、前記ワーク保持具は、前記ワークが載せられる部分であるワーク載置部を有し、前記アーム移動機構は、前記油槽の外側に位置する、前記搬送アームの待機位置と、前記油槽の内側に位置する、前記搬送アームと前記ワーク保持具による前記ワークの受け渡しが行われる受け渡し位置と、の間で前記搬送アームを移動させる構造を有し、前記搬送アームおよび前記ワーク載置部は、前記受け渡し位置において、平面視で互いに重ならない形状を有し、前記ワーク保持具には、前記ワークを搬送する搬送機構が設けられていないことを特徴としている。
【0009】
別の観点による本発明の一態様は、熱処理設備であって、上記の油焼入れ装置を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ワークの焼入れ時における焼入れ油の流速バラつきを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る浸炭焼入れ設備の概略構成を示す図である。
図2】油焼入れ装置の概略構成を示す図である。
図3図2中のA-A断面を示す図である。
図4図2中のB-B断面を示す模式図である。
図5】ワークが油槽に搬入された状態を示す図である。
図6】ワークが焼入れ油に浸漬した状態を示す図である。
図7】搬送アームが前進した状態を示す図である。
図8図7の状態を上から見た図である。
図9】搬送アームの前進後にワーク保持具が下降した状態を示す図である。
図10】ワークが油槽から搬出される状態を示す図である。
図11】油切り方法の一例を示す図である。
図12】別の実施形態に係る、搬送アームの前進後にワーク保持具が下降した状態を示す図である。
図13】搬送アームの形状例を示す図である。
図14】搬送アームの前方側から見た図13の搬送アームを示す図である。
図15】流速測定試験における焼入れ油の流速測定位置を示す図である。
図16】比較例における焼入れ油の流速を示すグラフである。
図17】実施例における焼入れ油の流速を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0013】
図1は、熱処理設備の一例である浸炭焼入れ設備1の概略構成を示す図である。図1では、浸炭焼入れ設備1が備える浸炭装置10と油焼入れ装置20の周辺のみが示されている。本実施形態の浸炭焼入れ設備1は、いわゆる連続処理式の熱処理設備であり、順次投入される熱処理対象のワークWに対して連続的に浸炭焼入れ処理が施される。本実施形態の浸炭焼入れ設備1は、浸炭装置10にワークWを搬送する搬送機構としての入側ベルトコンベア2と、浸炭装置10と、油焼入れ装置20と、油焼入れが終了したワークWを後工程に搬送する搬送機構としての出側ベルトコンベア3が順に配置されている。浸炭装置10は、ワークWの浸炭処理が行われる浸炭室11と、ワークWが載せられる昇降台12とを備えており、浸炭装置10と油焼入れ装置20との間には開閉式の扉4が設けられている。また、浸炭焼入れ設備1には、浸炭室11の側壁を貫通するようにしてプッシャー5が設けられている。プッシャー5は、浸炭室11内のワークWを油焼入れ装置20に押し込むことが可能なように水平方向に伸縮自在な構成を有している。
【0014】
このような浸炭焼入れ設備1において浸炭焼入れ処理が行われる際には、まず、入側ベルトコンベア2により搬送されたワークWが、下降した状態にある浸炭装置10の昇降台12に載せられ、その後、昇降台12が上昇する。昇降台12は、浸炭室11の底壁の開口部(不図示)を覆う機能も兼ねており、昇降台12が上昇することによって密閉された浸炭室11内に浸炭ガスが供給されてワークWの浸炭処理が行われる。その後、扉4が開放され、プッシャー5によってワークWが浸炭室11から押し出されることで、油焼入れ装置20にワークWが搬送される。ここでワークWの油焼入れが実施された後、油焼入れ装置20からワークWが搬出され、出側ベルトコンベア3により後工程にワークWが搬送される。
【0015】
なお、本実施形態の浸炭焼入れ設備1は、浸炭装置10と油焼入れ装置20が扉4を介して隣接した構成であったが、浸炭焼入れ設備1の構成は、本実施形態で説明したものに限定されない。例えば、浸炭処理が終了したワークWを浸炭装置10から一度搬出し、浸炭装置10に対して間隔をおいて配置された油焼入れ装置20までワークWを搬送する構成であってもよい。また、本実施形態の浸炭焼入れ設備1は、いわゆるガス浸炭を想定した設備であるが、浸炭焼入れ設備1は、他の浸炭法が実施される設備であってもよい。さらに、浸炭焼入れ設備1は熱処理設備の一例であって、熱処理設備は、油焼入れが必要となる熱処理が実施される設備であれば特に限定されない。
【0016】
以下、本実施形態の油焼入れ装置20について説明する。
【0017】
図2図4に示されるように、本実施形態の油焼入れ装置20は、焼入れ油が貯留する油槽30と、油槽30内においてワークWを保持するワーク保持具40と、ワーク保持具40を昇降させる昇降機構50と、油槽30の外側に配置された搬送アーム60と、搬送アーム60を移動させるアーム移動機構70を備えている。
【0018】
図2に示されるように、本実施形態の油槽30は、焼入れ油が貯留した領域と、焼入れ油の上方空間との間が扉等で仕切られておらず、一つの処理室となっている。焼入れ油の上方空間における油槽30の側壁には、ワークWを搬出するための開口部であるワーク搬送口30aが形成されている。油槽30の側壁外部には、ワーク搬送口30aを覆う開閉式の扉31が設けられている。図3に示されるように、油槽30には、モータ等の駆動源により稼働する攪拌機80が取り付けられ、油槽30内には、その攪拌機80によって流速が付与された焼入れ油の流れを案内するダクト32が設けられている。ダクト32は、攪拌機80の攪拌翼81の周囲を覆い、油槽30の内面に沿うようにして、ワークWが焼入れ油に浸漬する位置まで延びている。
【0019】
本実施形態のワーク保持具40は、ワークWを側方から抱え込むように構成されたアーム部41と、アーム部41の先端部に形成された、ワークWが載せられる部分に相当する一対のワーク載置部42とを有している。なお、本実施形態では、ワーク載置部42に1つのワークWが載せられているが、複数のワークWが載せられていてもよい。ワークWが複数である場合、例えばトレイまたはバスケットのような形状の治具に複数のワークWが載せられ、当該治具がワーク載置部42に載せられることによって、間接的にワーク載置部42にワークWが載せられた状態となる。
【0020】
図4に示されるように、ワーク載置部42は、搬送アーム60の長手方向(本実施形態ではX方向)に延びた形状を有している。一対のワーク載置部42は、搬送アーム60の前進時に搬送アーム60と干渉しないように、また、ワークWに当たる焼入れ油の流れを可能な限り阻害しないように、ワークWのY方向(平面視における搬送アーム60の長手方向に垂直な方向)の端部に位置している。なお、ワーク載置部42が設けられる位置は、例えば油槽30の形状、ワーク保持具40のアーム部41の形状、ワークWの形状、治具の形状および搬送アーム60が配置された位置等に応じて適宜変更される。
【0021】
ワーク保持具40は、昇降機構50により昇降するように構成されている。本実施形態の昇降機構50は、いわゆるエレベータラック方式の機構が採用されている。ワーク保持具40には、昇降機構50のチェーン51を固定するためのフック52が取り付けられている。ワーク保持具40の昇降移動は、昇降機構50が有するモータ等の駆動源によりチェーン51の巻き上げ動作または払い出し動作によって行われる。なお、昇降機構50は、ワーク保持具40を昇降させることが可能な構成であれば、特に限定されない。
【0022】
図2および図4に示されるように、本実施形態の搬送アーム60は、直線状に延びた形状を有しており、搬送アーム60の上面が水平となる状態でアーム移動機構70に取り付けられている。搬送アーム60の先端部には、本実施形態のように、上方に向かって突起した突起部61が設けられていることが好ましい。このような突起部61が設けられていることで、搬送アーム60で油槽30からワークWを搬出する際に、ワークWに突起部61を引っ掛けることが可能となり、ワークWを搬出しやすくすることができる。搬送アーム60と突起部61は、各々が別部品であってもよいし、一体成形されていてもよい。また、搬送アーム60の長手方向における突起部61の位置は、特に限定されないが、油槽30の小型化の観点からは搬送アーム60の先端部に設けられていることが好ましい。
【0023】
アーム移動機構70は、油槽30の外側に位置する、搬送アーム60の待機位置P1と、油槽30の内側に位置する、ワークWの受け渡し位置P2との間で搬送アーム60を移動させるように構成されている。図2および図4では、待機位置P1にある搬送アーム60が示されている。なお、“受け渡し位置”とは、搬送アーム60とワーク保持具40によるワークWの受け渡しが行われる位置のことである。また、搬送アーム60の待機位置P1は、油槽30の形状や搬送アーム60の形状、アーム移動機構70の構成等に応じて適宜変更されるものであり、油焼入れ時において油槽30内に搬送アーム60が存在しないように、油槽30の外側の領域の中で操業上、支障のない位置が適宜選択される。ワークWの受け渡し位置P2は、油槽30の形状やワーク保持具40の構成、搬送アーム60の形状、アーム移動機構70の構成等に応じて適宜変更されるものであり、搬送アーム60がワークWの受け渡しのために前進した際に、油槽30の内側の領域の中で操業上、支障のない位置が適宜選択される。
【0024】
本実施形態のアーム移動機構70は、スライド方式の機構が採用されており、モータ等の駆動源によりスライダ71を移動させることが可能な構成となっている。搬送アーム60は、スライダ71に固定されており、スライダ71が移動することによって搬送アーム60の長手方向(本実施形態ではX方向)に沿って前進または後退する。なお、アーム移動機構70は、搬送アーム60を移動させることが可能な構成であれば、特に限定されない。
【0025】
図4に示されるように、本実施形態の浸炭焼入れ設備1においては、油槽30の出側に一対の出側ベルトコンベア3が設けられており、搬送アーム60は、一対の出側ベルトコンベア3の間に配置されている。本実施形態の搬送アーム60は、一対の出側ベルトコンベア3の間に1つ設けられているが、搬送アーム60は複数設けられていてもよい。なお、油槽30から搬出された後のワークWの搬送手段は、ベルト式のコンベアに限定されず、搬送アーム60に載せられたワークWを後工程に搬送することが可能な搬送手段であればよい。
【0026】
次に、油焼入れ装置20を用いた油焼入れ方法について説明する。
【0027】
まず、図5に示されるように、浸炭室11(図1)から油槽30にワークWが搬入され、ワークWは、焼入れ油の上方空間で停止した状態のワーク保持具40に載せられる。続いて、図6に示されるように、ワーク保持具40が下降し、ワークWが焼入れ油に浸漬する。ここでワークWの油焼入れが行われる。なお、油焼入れ時の搬送アーム60は待機位置P1で停止した状態にある。
【0028】
次に、図7および図8に示されるように、ワーク保持具40が上昇し、油槽30の扉4が開放される。その後、搬送アーム60がワークWの下側を通るようにして待機位置P1から受け渡し位置P2まで前進する。このとき、図8に示されるように搬送アーム60とワーク載置部42は平面視において互いに重ならない形状となっているために、搬送アーム60とワーク載置部42は互いに干渉しない。なお、本実施形態のように搬送アーム60に突起部61が設けられている場合、搬送アーム60の前進時においては、突起部61とワークWが干渉しない高さ、すなわちワークWの底面が突起部61の上端よりも高くなる位置までワーク保持具40が上昇している必要がある。
【0029】
次に、図9に示されるように、ワークWの底面が突起部61の上端よりも低くなる位置までワーク保持具40が下降する。なお、本実施形態においては、搬送アーム60の高さが、ワーク載置部42の高さよりも低くなっており、ワークWは、ワーク載置部42に載せられた状態にある。
【0030】
次に、図10に示されるように、搬送アーム60を受け渡し位置P2から待機位置P1まで後退させる。このとき、搬送アーム60に設けられた突起部61がワークWに引っ掛かることで、ワークWがワーク載置部42上を移動しながらワーク搬送口30aを通過する。その後、さらに搬送アーム60を後退させることで、ワーク保持具40から出側ベルトコンベア3にワークWが受け渡される。
【0031】
このように、本実施形態の油焼入れ装置20においては、油槽30の外側に配置された搬送アーム60によって油槽30からワークWを搬出することができる。そして、油槽30内におけるワークWの保持は、搬送アーム60の長手方向に延びたワーク載置部42にワークWが載せられることによって行われる。したがって、ワークWの焼入れ中においては、搬送アーム60が油槽30から退出した状態にあり、また、ワークWは、ワーク保持具40でのみ保持された状態となる。したがって、本実施形態の油焼入れ装置20においては、ワークWと共にガイドローラ等の搬送機構が焼入れ油に浸漬する構造の装置に比べ、焼入れ油の流れを阻害する部品の数が少なくなる。その結果として、焼入れ油の流速の低下を抑えやすくなり、また、流速バラつきも低減させることができる。
【0032】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0033】
例えば図11に示されるように、ワークWが格子状の治具Jに載せられている場合、ワークWを油槽30から搬出する際に、搬送アーム60に設けられた突起部61を治具Jの隙間に引っ掛けて、搬送アーム60の前進または後退を繰り返し行うようにしてもよい。これにより、焼入れ油から引き上げられたワークWの油切りを行うことができ、油槽30外に配置されている装置類への油の付着量を少なくすることができる。
【0034】
また、上記実施形態では、図10のように油槽30からワークWを搬出する際に、ワーク載置部42の上面が搬送アーム60の上面より高い状態にあったが、図12に示されるようにワーク載置部42の上面が搬送アーム60の上面よりも低くなるようにワーク保持具40を下降させてもよい。このようにワーク保持具40を下降させた場合には、ワーク載置部42から搬送アーム60にワークWが受け渡され、ワークWは、ワーク載置部42ではなく搬送アーム60に載せられた状態となる。この状態のまま、搬送アーム60を後退させれば、ワークWの底面がワーク載置部42に接しながら移動することがないため、ワーク載置部42の上面の摩耗を抑えることができる。また、このようなワークWの搬送方法によれば、搬送アーム60に突起部61が設けられていなくても、油槽30からワークWを搬出することができる。さらに、図12のようにワーク保持具40から搬送アーム60にワークWを受け渡す際の手順と逆の手順で搬送アーム60とワーク保持具40を動作させることによって、搬送アーム60からワーク保持具40にワークWを受け渡すことも可能となる。この搬送方法によれば、未処理のワークWを油槽30内に搬入することもできる。
【0035】
また、図13および図14に示されるように、搬送アーム60の上面には、搬送アーム60の長手方向に沿って延びた溝60aが形成されていてもよい。図13および図14の例では、溝60aは、搬送アーム60の先端にまで達しており、搬送アーム60の前方側から見た搬送アーム60は、上面に開口部を有するU字状となっている。溝60aの深さは、搬送アーム60の先端に近づくほど深くなっており、溝60aの底面は、搬送アーム60の先端に向かって上方から下方に傾斜している。また、搬送アーム60の先端に突起部61が設けられる場合には、図14のように搬送アーム60の溝60aが突起部61で覆われないように、突起部61は搬送アーム60の上面部寄りに設けられる。溝60aが形成された搬送アーム60においては、焼入れ後のワークWを搬送アーム60に載せた際に、ワークWに残存する油が搬送アーム60の溝60aに流れ込み、傾斜した溝60aに沿って、搬送アーム60の先端まで流れていく。そして、搬送アーム60の先端から油が排出される。すなわち、溝60aが形成された搬送アーム60によれば、搬送アーム60上に溜まる油を排出することが可能となる。
【実施例
【0036】
本発明の実施例として、図2図4のような構造の油焼入れ装置を用いて焼入れ油の流速測定試験を実施した。また、比較例として、ワークと共にガイドローラ等の搬送機構も焼入れ油に浸漬する構造の油焼入れ装置で、同様の流速測定試験を実施した。流速測定試験は、攪拌機の回転数を段階的に変更し、各回転数における複数の測定位置の流速を測定することで実施された。本試験では、図15のような格子状の治具を焼入れ油に浸漬させることで流速を測定している。この治具は、ワークが載る部分が下段、中段、上段に分かれており、実操業の焼入れ時には各々の段に複数のワークが載せられる。本試験においては、治具にはワークを載せておらず、図15中で番号が付された箇所において流速の測定のみを実施した。
【0037】
試験結果として、下記表1(比較例)および表2(実施例)に、各測定位置で測定された流速と、平均流速と、流速バラつき(最大流速と最小流速の差)を示す。なお、表1に対応するグラフが図16であり、表2に対応するグラフが図17である。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
本試験の結果によれば、攪拌機の回転数が同一である場合には、比較例に対して実施例の方が焼入れ油の平均流速が大きくなっている。このような結果となった理由は、実施例の油焼入れ装置においては、治具の下側にガイドローラのような搬送機構がないことによって、流速が付与された焼入れ油が治具に当たりやすくなったためと考えられる。焼入れ油の流速とワークの冷却速度には相関があることから、実施例の油焼入れ装置は、比較例の油焼入れ装置に対して、より大きな冷却能力を得ることができる。このため、焼入れ中のワークの冷却速度の低下を抑えやすくすることができる。また、本試験の結果によれば、実施例の方が各測定位置における流速バラつきが小さくなっている。したがって、実施例の油焼入れ装置によれば、治具に複数のワークが載せられる場合であっても、各ワークの冷却速度のバラつきを小さくすることができ、同一ロット内のワークの品質バラつきを抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、ワークの油焼入れに利用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 浸炭焼入れ設備
2 入側ベルトコンベア
3 出側ベルトコンベア
4 扉
5 プッシャー
10 浸炭装置
11 浸炭室
12 昇降台
20 油焼入れ装置
30 油槽
30a ワーク搬送口
31 扉
32 ダクト
40 ワーク保持具
41 アーム部
42 ワーク載置部
50 昇降機構
51 チェーン
52 フック
60 搬送アーム
60a 溝
61 突起部
70 アーム移動機構
71 スライダ
80 攪拌機
81 攪拌翼
J 治具
1 待機位置
2 ワークの受け渡し位置
W ワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17