(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】ロックウール吹付け工法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/94 20060101AFI20230614BHJP
E04B 1/76 20060101ALI20230614BHJP
E04B 1/82 20060101ALI20230614BHJP
B05B 7/14 20060101ALI20230614BHJP
B05B 7/06 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
E04B1/94 E
E04B1/76 400G
E04B1/82 M
E04B1/94 U
E04B1/82 G
B05B7/14
B05B7/06
(21)【出願番号】P 2019060621
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2022-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷辺 徹
(72)【発明者】
【氏名】杉野 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】常藤 光
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】実公昭55-054755(JP,Y2)
【文献】特開平09-026266(JP,A)
【文献】特開2006-026499(JP,A)
【文献】特公昭50-024973(JP,B1)
【文献】実公昭59-024384(JP,Y2)
【文献】米国特許第04923121(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62-1/99
B05B 7/14
B05B 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロックウール噴射口を先端部に備えるロックウール用管路とセメントスラリー噴射口を先端部に備えるセメントスラリー用管路とを具備し、前記セメントスラリー噴射口が、前記ロックウール用管路の略中心軸上に配置されている吹付けガンにロックウールとセメントスラリーを別々に送り、前記ロックウール用管路に供給された前記ロックウールを、前記ロックウール噴射口から噴射させるとともに、前記セメントスラリー用管路に供給された前記セメントスラリーを、前記セメントスラリー噴射口から噴射させることで、前記ロックウールと前記セメントスラリーとを合流混合させて吹付け対象物に吹付け、ロックウール組成物からなる被覆材層を形成させる、ロックウール吹付け工法であって、
前記セメントスラリーの噴射量が1~15kg/分であり、前記ロックウール組成物中のセメントと水との合計100質量部に対するロックウールの含有割合が、25~66質量部となり、且つ前記ロックウール組成物中のロックウール1質量部に対する水の含有割合が、1.35~3質量部となるように吹付けることを特徴とする、
ロックウール吹付け工法。
【請求項2】
前記ロックウール組成物中のセメント1質量部に対するロックウールの含有割合が、0.8~20質量部となるように吹付ける、請求項
1に記載のロックウール吹付け工法。
【請求項3】
前記ロックウール組成物中のセメント1質量部に対するロックウールの含有割合が、1.5~18質量部となるように吹付ける、請求項1又は2に記載のロックウール吹付け工法。
【請求項4】
前記ロックウール組成物中のセメント1質量部に対するロックウールの含有割合が、1.6~15質量部となるように吹付ける、請求項1~3のいずれか1項に記載のロックウール吹付け工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロックウール吹付け工法に関する。
【背景技術】
【0002】
耐火性や防火性、吸音性、断熱性等を構造物の部材に付与する目的で、ロックウール、セメント及び水を用いたロックウール吹付け工法が用いられている。ロックウール吹付け工法としては、乾式工法、湿式工法、半乾式工法が知られている。乾式工法及び半乾式工法は、湿式工法に比べて、ロックウール吹付け工法により形成される被覆材層(ロックウール組成物層)の嵩密度を小さくできるという利点がある。
乾式工法は、圧送管内を空気圧送したロックウールとセメントとの混合物(混綿)を、吹付けガン(吹付けノズル)の混綿用管路の先端部の混綿噴射口から噴射させるとともに、この吹付けガンの混綿噴射口の中心付近、即ち、混綿用管路の中心軸に配置された水用管路の先端部の水噴射口から水を噴射させることで、ロックウール、セメント及び水を合流混合させて、それによる合流混合物(ロックウール組成物)を構造物表面に被覆材層として形成させるという工法である。
【0003】
また、半乾式工法は、乾式工法において混綿の代わりにロックウールのみを、水の代わりに水とセメントとの混合物であるセメントスラリーを、それぞれ用いるロックウール吹付け工法である(例えば特許文献1参照)。
上記半乾式工法は、吹付け作業時に発生する粉塵量が乾式工法に比べると少ないものの、粉塵を充分に抑制できているとは云えないものであった。
そのため、ロックウール用管路の中心軸にセメントスラリー噴射口が配置された吹付けガン(センターガン)の代わりに、ロックウール噴射口の周縁付近にセメントスラリー噴射口が配置された吹付けガン(リングガン)を用いることが提案されている(例えば特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、リングガンはセンターガンよりも重いという問題がある。半乾式工法の場合、ロックウール圧送ホース及びセメントスラリー圧送ホースが連結された吹付けガンを作業員が手で持ち、柱、梁、壁等に適切な距離及び向きとなるように調節しながらロックウール組成物を吹付けるという作業が1日に渡って行われるため、リングガンを用いた半乾式ロックウール吹付け工法は、センターガンを用いた場合よりも大変な重労働となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-348978号公報
【文献】実公平02-033897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そのため、センターガンを用いた半乾式工法であるにも拘らず、吹付け作業時の粉塵の発生が少ないロックウール吹付け工法が望まれる。また、ロックウール量に対して水の量が多すぎる場合などに、セメントスラリー圧力が増大することがあり、センターガンにセメントスラリーを圧送するセメントスラリー圧送ホースの破裂又は脱落の虞があるという安全性の問題があることがわかった。
したがって、本発明の課題は、吹付け作業時に粉塵が発生しにくく、吹付け作業時の作業負荷が小さく、且つ安全性が高い、半乾式のロックウール吹付け工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、センターガンを用いた半乾式のロックウール吹付けを、被覆材層として形成されるロックウール組成物中のセメントと水との合計100質量部に対するロックウールの含有割合が、25~66質量部となり、且つ上記ロックウール組成物中のロックウール1質量部に対する水の含有割合が、1.35~3質量部となるように行うことによって、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の<1>~<4>を提供するものである。
<1> ロックウール噴射口を先端部に備えるロックウール用管路とセメントスラリー噴射口を先端部に備えるセメントスラリー用管路とを具備し、前記セメントスラリー噴射口が、前記ロックウール用管路の略中心軸上に配置されている吹付けガンにロックウールとセメントスラリーを別々に送り、前記ロックウール用管路に供給された前記ロックウールを、前記ロックウール噴射口から噴射させるとともに、前記セメントスラリー用管路に供給された前記セメントスラリーを、前記セメントスラリー噴射口から噴射させることで、前記ロックウールと前記セメントスラリーとを合流混合させて吹付け対象物に吹付け、ロックウール組成物からなる被覆材層を形成させる、ロックウール吹付け工法であって、
前記ロックウール組成物中のセメントと水との合計100質量部に対するロックウールの含有割合が、25~66質量部となり、且つ前記ロックウール組成物中のロックウール1質量部に対する水の含有割合が、1.35~3質量部となるように吹付けることを特徴とする、
ロックウール吹付け工法。
【0009】
<2> セメントスラリーの噴射量が1~15kg/分である、<1>に記載のロックウール吹付け工法。
<3> 前記ロックウール組成物中のセメント1質量部に対するロックウールの含有割合が、0.8~20質量部となるように吹付ける、<1>又は<2>に記載のロックウール吹付け工法。
<4> 前記ロックウール組成物中のセメント1質量部に対するロックウールの含有割合が、1.6~15質量部となるように吹付ける、<1>~<3>のいずれかに記載のロックウール吹付け工法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のロックウール吹付け工法は、吹付け作業時の作業負荷が小さい半乾式工法であるにも拘らず、吹付け作業時に粉塵が発生しにくく、且つ安全性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明で用いる吹付けガン(センターガン)の一例の概念的な断面図である。
【
図2】本発明のロックウール吹付け工法に用いる吹付け装置の一例を示す概略図である。
【
図3】吹付け装置20が具備するロックウール用定量供給装置の内部構造を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のロックウール吹付け工法は、ロックウール噴射口を先端部に備えるロックウール用管路とセメントスラリー噴射口を先端部に備えるセメントスラリー用管路とを具備し、前記セメントスラリー噴射口が、前記ロックウール用管路の略中心軸上に配置されている吹付けガンにロックウールとセメントスラリーを別々に送り、前記ロックウール用管路に供給された前記ロックウールを、前記ロックウール噴射口から噴射させるとともに、前記セメントスラリー用管路に供給された前記セメントスラリーを、前記セメントスラリー噴射口から噴射させることで、前記ロックウールと前記セメントスラリーとを合流混合させて吹付け対象物に吹付け、ロックウール組成物からなる被覆材層を形成させる、ロックウール吹付け工法であって、前記ロックウール組成物中のセメントと水との合計100質量部に対するロックウールの含有割合が、25~66質量部となり、且つ前記ロックウール組成物中のロックウール1質量部に対する水の含有割合が、1.35~3質量部となるように吹付けることを特徴とするものである。
【0013】
(ロックウール組成物)
ロックウール組成物は、ロックウール、セメント及び水を含有する被覆材層として形成される組成物であり、本明細書において、ロックウール組成物中の各成分の含有割合及び含有量は、吹付け対象物に吹き付けられた時の値をいうものとする。なお、吹付けガンに圧送するセメントスラリーの固形分濃度やロックウール噴射量、セメントスラリー噴射量等を適宜調節することにより、上記ロックウール組成物中の各成分の含有割合及び含有量を所望の範囲とすることができる。
【0014】
上記ロックウール組成物中のセメントと水との合計100質量部に対するロックウールの含有割合が25質量部未満となる場合、例えば耐火被覆材用ロックウールを吹付ける際に用いられるような吹付け装置を用いたとき等に、セメントスラリーの圧力が増大しセメントスラリー圧送ホースが破裂又は脱落する虞がある。また、ロックウール組成物中のセメントと水との合計100質量部に対するロックウールの含有割合が66質量部超となる場合、吹付け時の粉塵量が多くなる。
ロックウール組成物中のセメントと水との合計100質量部に対するロックウールの含有割合としては、セメントスラリーの圧力を小さくし且つ吹付け時の粉塵量を少なくするために、30~66質量部が好ましく、35~66質量部がより好ましく、40~66質量部が特に好ましい。
【0015】
また、ロックウール組成物中のロックウール1質量部に対する水の含有割合が1.35質量部未満となる場合、吹付け時に発生する粉塵量が多くなり、3質量部超となる場合、セメントスラリーの圧力が増大しセメントスラリー圧送ホースが破裂又は脱落する虞がある。
ロックウール組成物中のロックウール1質量部に対する水の含有割合は、好ましくは1.35~2.8質量部であり、より好ましくは1.55~2.7質量部である。
【0016】
また、ロックウール組成物中のセメント1質量部に対するロックウールの含有割合は、ロックウール組成物からなる被覆材層の絶乾嵩密度及び断熱性の観点から、好ましくは0.7質量部以上、より好ましくは0.8質量部以上、更に好ましくは1質量部以上、更に好ましくは1.2質量部以上、更に好ましくは1.5質量部以上、更に好ましくは1.6質量部以上、特に好ましくは1.9質量部以上であり、また、被覆材層の形状保持性能の観点から、好ましくは20質量部以下、より好ましくは18質量部以下、更に好ましくは15質量部以下、特に好ましくは14質量部以下である。
【0017】
また、ロックウール組成物中のセメントと水との合計100質量部に対するセメントの含有割合は、被覆材層の形状保持性能の観点から、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2.5質量部以上、更に好ましくは3質量部以上、特に好ましくは4質量部以上であり、また、ロックウール組成物からなる被覆材層の絶乾嵩密度及び断熱性の観点から、好ましくは60質量部以下、より好ましくは55質量部以下、更に好ましくは50質量部以下、更に好ましくは40質量部以下、特に好ましくは30質量部以下である。
【0018】
また、ロックウール組成物中のロックウールとセメントとの合計100質量部に対する水の含有割合は、ロックウール組成物からなる被覆材層の絶乾嵩密度及び断熱性の観点から、好ましくは50質量部以上、より好ましくは70質量部以上、更に好ましくは90質量部以上、特に好ましくは105質量部以上であり、また、被覆材層の形状保持性能の観点から、好ましくは300質量部以下、より好ましくは280質量部以下、更に好ましくは260質量部以下、特に好ましくは240質量部以下である。
【0019】
また、ロックウール組成物中のロックウールとセメントとの合計100質量部に対するロックウールの含有割合は、ロックウール組成物からなる被覆材層の絶乾嵩密度及び断熱性の観点から、好ましくは35質量部以上、より好ましくは45質量部以上、更に好ましくは55質量部以上、特に好ましくは65質量部以上であり、また、被覆材層の形状保持性能の観点から、好ましくは97.5質量部以下、より好ましくは95質量部以下、特に好ましくは94質量部以下である。
【0020】
また、ロックウール組成物中のロックウールとセメントとの合計100質量部に対するセメントの含有割合は、被覆材層の形状保持性能の観点から、好ましくは2.5質量部以上、より好ましくは5質量部以上、特に好ましくは6質量部以上であり、また、ロックウール組成物からなる被覆材層の絶乾嵩密度及び断熱性の観点から、好ましくは65質量部以下、より好ましくは55質量部以下、更に好ましくは45質量部以下、特に好ましくは35質量部以下である。
【0021】
(吹付けガン)
本発明で用いる吹付けガンは、ロックウール噴射口を先端部に備えるロックウール用管路とセメントスラリー噴射口を先端部に備えるセメントスラリー用管路とを具備し、前記セメントスラリー噴射口が、前記ロックウール用管路の略中心軸上に配置されている吹付けガン、即ち、センターガンである。このようなセンターガンの代表的な例としては、実公昭55-054755号公報の
図1及び
図2に示されている吹付け施工用ガン又はこの吹付け施工用ガンにおける空気用パイプがないもの、或いは実公昭59-024384号公報の
図2に示されている無機繊維吹付用ガン等が挙げられる。
【0022】
ここにおいて、必要に応じて添付図面を参照しつつ、本発明で用いる吹付けガンについて具体的に説明する。
図1は、本発明で用いる吹付けガン(センターガン)の一例の概念的な断面図である。
図1に示すように、センターガン1は、ロックウール噴射口22を先端部に備えるロックウール用管路2とセメントスラリー噴射口3を先端部に備えるセメントスラリー用管路31とを具備し、セメントスラリー噴射口3が、ロックウール用管路の中心軸13に配置されている。
ロックウール用管路2はストレート管であり、セメントスラリー用管路31は屈曲した管であるが、これらはいずれも円筒状のものが好ましい。セメントスラリー用管路31の一部(セメントスラリー噴射口3と反対側の端部を含む領域)は、ロックウール用管路2の壁面に設けられた管路貫通孔より外部へと突出している。
また、セメントスラリー用管路31の一部(セメントスラリー噴射口3及び屈曲部を含む領域)は、ロックウール用管路の中心軸13に沿って配置されており、セメントスラリーは、ロックウールと略同方向に向かって噴射される。また、セメントスラリー噴射口3は、ロックウール用管路2の先端部から突出しないように、ロックウール用管路2内に没入した状態で収容されている。
【0023】
また、セメントスラリー用管路31は、セメントスラリー噴射口3と反対側の端部に、セメントスラリー入口が設けられており、当該セメントスラリー入口はセメントスラリー圧送ホースに連結される。また、ロックウール用管路2は、ロックウール噴射口22と反対側の端部に、ロックウール入口が設けられており、当該ロックウール入口はロックウール圧送ホースに連結される。ロックウール入口からロックウール用管路2に供給されたロックウールを、ロックウール噴射口22から噴射させるとともに、セメントスラリー入口からセメントスラリー用管路31に供給されたセメントスラリーを、セメントスラリー噴射口3から噴射させることで、ロックウールとセメントスラリーとが合流混合される。この合流混合物(ロックウール組成物)を吹付け対象物に向けて吹付けることにより、ロックウール組成物からなる被覆材層を形成させることができる。
【0024】
ここで、本発明において、ロックウールとは、溶融炉で溶融された岩石や高炉スラグ等を主体とする材料が、急冷されながら、繊維化された素材(鉱物繊維)をいう。例えば、高炉スラグを主体とする材料から製造されたスラグウールなども含まれる。本発明に用いるロックウールとしては、熱伝導率が小さく且つ形状保持性能に優れるロックウール組成物層が形成されやすいため、吹付けロックウールで用いるロックウール粒状綿のような、塊状(粒状)のものが好ましい。
吹付けガンから噴射されるロックウールの噴射量は、小さな作業負荷で安全に且つ効率よく行える作業でも吹付け時の粉塵量を少なするために、好ましくは0.5~10kg/分、より好ましくは1.5~7.5kg/分、特に好ましくは3~5kg/分である。
【0025】
また、本発明で用いるセメントスラリーは、セメントと水を主成分とするものである。セメントスラリーには、セメント、水の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、ケイ酸アルカリ、高炉スラグ粉末、フライアッシュ、メタカオリン、シリカフューム、火山灰、火成岩粉末、火成岩焼成物の粉末、下水汚泥スラグ焼成物の粉末、都市ごみ溶融スラグの粉末等のSiO2含有無機質粉末;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等の水酸化アルカリ;その他の混和材料等を添加することができる。なお、これらのうち1種のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。ケイ酸アルカリとしては、メタケイ酸ナトリウム、オルソケイ酸ナトリウム、ケイ酸リチウム、ケイ酸カリウム等が挙げられる。
本発明で用いるセメントスラリーのスラリー濃度(固形分濃度)は、好ましくは1~60質量%、より好ましくは2.5~60質量%、更に好ましくは3~55質量%、更に好ましくは4~50質量%、更に好ましくは4~40質量%、特に好ましくは4~30質量%である。ここで、セメントスラリーに含まれる固形分がセメントのみのときは、スラリー濃度はセメント濃度である。スラリー濃度(固形分濃度)が上記範囲であると、吹付け施工時のセメントスラリーの圧力を抑えながら粉塵発生量を抑制でき、被覆材層の形状保持性能が優れ且つ単位時間当たりの被覆材層の形成量が充分で作業負荷を抑制することができる。また、被覆材層の絶乾嵩密度及び断熱性も良好なものとなる。
【0026】
また、本発明において、吹付けガンから噴射されるセメントスラリーの噴射量としては、耐火被覆材用ロックウールの吹付けに用いられている吹付け装置を用いて効率よく、少ない粉塵量で且つ安全に施工できるため、1~15kg/分が好ましく、吹付け作業時の作業負荷を小さくできるため、2~14kg/分がより好ましい。
セメントスラリーの噴射量を1kg/分以上とすることにより、ロックウールの単位時間当たりの噴射量を抑えることなく吹付け時の粉塵量を少なくすることができる。そのため、粉塵量を抑えながらも単位時間当たりの被覆材層の形成量を多くすることができ、施工効率の改善、吹付け作業時間の短縮、作業負荷の軽減が可能となる。
また、セメントスラリーの噴射量を15kg/分以下とすることにより、例えば耐火被覆材用ロックウールの吹付けに用いられている吹付け装置を用いたような場合でもセメントスラリーの圧力を抑えることができる。吹付けガンの大きさや各ホースの内径を大きくするといった作業負荷の増大を実施することなく、安全性を高めることができる。
【0027】
本発明のロックウール吹付け工法は、ロックウール組成物中のセメントと水との合計100質量部に対するロックウールの含有割合が、25~66質量部となり、且つロックウール組成物中のロックウール1質量部に対する水の含有割合が、1.35~3質量部となるように吹付けること以外については、一般のセンターガンを用いる半乾式のロックウール吹付け工法と同じようにして行えばよい。
例えば、
図2に概略図を示した吹付け装置を好適に用いることができる。
図2に示した吹付け装置20は、
図1に示したセンターガン1、ロックウール吹付け機や解綿機等と呼ばれているロックウール用定量供給装置10、ブロワー12、ロックウール圧送ホース9、セメントスラリー用ポンプ7、セメントスラリー圧送ホース6、吸引ホース14、及びセメントスラリー用貯留槽8等を具備する。また、これらに加えて更にセメントスラリー作製用ミキサを具備していてもよい(図示しない)。
【0028】
ロックウール用定量供給装置10のホッパ部へ投入されるロックウール11は、
図3に一例を示すような粒状綿が圧密された状態で厚手のポリ袋に梱包されており、ホッパ部の下部に備わる解綿部で解された後、フィーダーによりロックウール用定量供給装置10に備わるロックウール圧送管に送られる。この圧送管に繋がるブロワー12で発生させた気流により、解されたロックウール5が、ロックウール圧送管に連結したロックウール圧送ホース9を通ってセンターガン1のロックウール用管路2に供給され、ロックウール用管路2を通過してロックウール噴射口22より噴射される。
【0029】
また、セメントスラリーは、セメントスラリー作製用ミキサにより作製された後にセメントスラリー用貯留槽8に投入されること、或いはセメントスラリー用貯留槽8内でセメントスラリー作製用ミキサにより作製されることにより、セメントスラリー用貯留槽8内に溜められている。
また、セメントスラリー用ポンプ7に繋がる吸引ホース14の先端は、セメントスラリー用貯留槽8内のセメントスラリー内に入れられており、セメントスラリー用ポンプ7の稼働により、セメントスラリー用貯留槽8内のセメントスラリーがセメントスラリー圧送ホース6に送り込まれるようになっている。
すなわち、セメントスラリー用ポンプ7を稼働させた場合には、セメントスラリー用貯留槽8内のセメントスラリーが、吸引ホース14を通ってセメントスラリー圧送ホース6に圧送され、更にセメントスラリー圧送ホース6に連結されたセンターガン1のセメントスラリー用管路を通過して、セメントスラリー噴射口3より噴射される。このようにして噴射されたセメントスラリー4は、ロックウール噴射口22より噴射された解されたロックウール5と合流混合され、壁、天井、柱、梁等の吹付け対象物の表面(吹付け下地)には、ロックウール、セメント及び水を主成分とするロックウール組成物からなる被覆材層(ロックウール組成物層)が形成される。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0031】
(試験No.1~17、19~32)
セメントと水を混合しセメントスラリーを作製し、
図2の概略図に示したセンターガン(信和社製センターガン(ノズル穴径3mm、拡散チップ角度20°))を具備する装置を用いた一般の半乾式工法のロックウール吹付け工法により、セメントスラリーをロックウールとともに壁面に吹付け、ロックウール組成物からなる被覆材層(ロックウール組成物層)を形成し、評価試験を行った。このときの配合条件を表1に、吹付け施工条件を表2に、評価試験結果を表3に示した。使用した材料は以下のものを用いた。また、吹付け施工において、センターガン(ロックウール噴射口)と壁面との距離は、50cmとした。
(試験No.18)
センターガンの代わりに市販のリングガン(信和社製スラリーガン(K)(セメントスラリー噴射口数:8))を用いること、及びリングガンにコンプレッサーを接続し圧縮空気をセメントスラリー噴射口に導入して、セメントスラリーを拡散させること以外は、上記と同様に評価試験を行い、そのときの配合条件を表1に、吹付け施工条件を表2に、評価試験結果を表3にそれぞれ示した。
【0032】
(使用材料)
・セメント : 普通ポルトランドセメント、記号;C
・ロックウール : 太平洋マテリアル社製ロックウール粒状綿「太平洋ミネラルファイバー粒状綿」(商品名)、記号;RW
・水 : 水道水、記号;W
【0033】
(評価試験)
セメントスラリー圧力の測定、作業負荷の評価、吹付け施工時に発生した粉塵の粉塵量の測定を行った。また、形成されたロックウール組成物層の絶乾嵩密度を測定するとともに、形状保持性を確認した。
評価試験の結果を、表3に示した。
【0034】
・セメントスラリーの圧力
セメントスラリーの圧送経路内に圧力計を配置し測定した。
セメントスラリーの圧力が1.0MPaを超えてしまうとセメントスラリー圧送ホースが破裂又は外れる虞があるため、セメントスラリーの圧力が1.0MPaを超えた場合には、安全性の評価(セメントスラリー圧力の評価)を「不良」(記号:×)とし、セメントスラリーの圧力が1.0MPa以下の場合は安全性の評価(セメントスラリー圧力の評価)を「良」(記号:○)とした。
尚、セメントスラリーの圧力が1.0MPaを超え安全性の評価(セメントスラリー圧力の評価)が「不良」となったときは、吹付け作業を中止したため、作業負荷の評価、粉塵量の測定、絶乾嵩密度の測定、形状保持性の評価の試験は行わなかった。
【0035】
・作業負荷
センターガンを用いた一般の半乾式工法のロックウール吹付け工法に比べて、作業負荷が大きいと考えられる場合を「負荷大」(記号:×)、センターガンを用いた一般の半乾式工法のロックウール吹付け工法に比べて、作業負荷が同程度以下と考えられる場合を「負荷小」(記号:○)と評価した。
【0036】
・粉塵量の測定
表2に示す施工条件にて吹付け作業中の作業環境空気を、マキタ社製充電式クリーナー(型式;CL107FD)を用いて吸引することで、浮遊粉塵をマキタ社製ダストバッグ(型式;A-48511)に捕集し、捕集された粉塵重量を測定することで簡易に粉塵量を測定した。作業環境空気の吸引は、吹付け作業位置(吹付け作業者)から50cm離れた位置(壁から100cm離れた位置)にて充電式クリーナーを用いて90秒間行った。捕集後にダストバッグの重量を0.01g単位まで測定し、捕集前に測定しておいたダストバッグの質量からの増分を粉塵量とした。なお、同一条件にて、ダストバッグを変えて3回測定した平均値を粉塵量とした。
90秒間に捕集された平均粉塵量が0.10g以下の場合を「優良(粉塵量が少ない)」(記号:◎)、0.10gを超える場合を「粉塵抑制が不充分(粉塵量が多い)」(記号:×)と評価した。
【0037】
・絶乾嵩密度
表2に示す施工条件にて壁面に吹付けしたロックウール組成物層の吹付け厚さt(cm)を測定した後に、嵩密度測定用切取り器で直径8cmの円筒状にロックウール組成物層を切り取り、一定質量になるまで110℃の乾燥器で乾燥させた。乾燥後の質量w(g)を用いて次式(1)に基づき絶乾嵩密度ρ(g/cm3)を求めた。1条件で3回測定した平均値を絶乾嵩密度とした。
【0038】
(数1)
ρ(g/cm3) = w/(A×t) ・・・・・ (1)
(ここで、Aは試料の断面積で、4×4×π(cm2))
【0039】
ロックウール組成物の絶乾嵩密度ρは、0.50g/cm3超0.80g/cm3以下を「やや良」(記号:△)、0.40g/cm3超0.50g/cm3以下を「良」(記号:○)、0.26g/cm3超0.40g/cm3以下を「優良」(記号:◎)、0.26g/cm3以下を「最良」(記号:◎◎)と評価した。
【0040】
・形状保持性
表2に示す施工条件にて吹付け工法によりロックウール組成物を200mm×200mm×30mmの型枠に吹付けて鏝で押えて成形し、恒量になるまで養生した後、型枠から脱型し、送風機を用いて吹付け材に対して垂直方向の外圧(風速5m/s又は風速10m/s)を10分間与えた。
送風終了後に吹付け材の外形を確認し、風速10m/sの送風でも外形に変形がない場合は形状保持性能「優良」(記号:◎)、風速10m/sの送風では吹付け材に変形が認められるが風速5m/sの送風では吹付け材に変形が認められない場合は形状保持性能「良」(記号:○)、風速5m/sの送風で吹付け材に変形が認められた場合は「やや良」(記号:△)と評価した。
【0041】
・総合評価
安全性の評価(セメントスラリー圧力の評価)が「不良」(記号:×)の場合、作業負荷の評価が「負荷大」(記号:×)の場合、又は粉塵量の評価が「粉塵抑制が不充分(粉塵量が多い)」(記号:×)の場合は、総合評価が「不充分」(記号:×)と評価した。
また、安全性の評価(セメントスラリー圧力の評価)が「良」(記号:○)、作業負荷の評価が「負荷小」(記号:○)、及び粉塵量の評価が「優良(粉塵量が少ない)」(記号:◎)との評価で、且つ、絶乾嵩密度の評価が「やや良」(記号:△)又は形状保持性の評価が「やや良」(記号:△)の場合は、総合評価が「やや良」(記号:△)と評価した。
また、安全性の評価(セメントスラリー圧力の評価)が「良」(記号:○)、作業負荷の評価が「負荷小」(記号:○)、粉塵量の評価が「優良(粉塵量が少ない)」(記号:◎)、絶乾嵩密度の評価が「良」(記号:○)との評価で、且つ、形状保持性の評価が「優良」(記号:◎)の場合は、総合評価が「良」(記号:○)と評価した。
また、安全性の評価(セメントスラリー圧力の評価)が「良」(記号:○)、作業負荷の評価が「負荷小」(記号:○)、粉塵量の評価が「優良(粉塵量が少ない)」(記号:◎)絶乾嵩密度の評価が「優良」(記号:◎)との評価で、且つ、形状保持性の評価が「優良」(記号:◎)の場合は、総合評価が「優良」(記号:◎)と評価した。
また、安全性の評価(セメントスラリー圧力の評価)が「良」(記号:○)、作業負荷の評価が「負荷小」(記号:○)、粉塵量の評価が「優良(粉塵量が少ない)」(記号:◎)絶乾嵩密度の評価が「最良」(記号:◎◎)との評価で、且つ、形状保持性の評価が「優良」(記号:◎)の場合は、総合評価が「最良」(記号:◎◎)と評価した。
【0042】
【0043】
【0044】
【符号の説明】
【0045】
1 センターガン
2 ロックウール用管路
3 セメントスラリー噴射口
4 セメントスラリー
5 解されたロックウール
6 セメントスラリー圧送ホース
7 セメントスラリー用ポンプ
8 セメントスラリー用貯留槽
9 ロックウール圧送ホース
10 ロックウール用定量供給装置
11 ロックウール
12 ブロワー
13 ロックウール用管路の中心軸
14 吸引ホース
20 吹付け装置
22 ロックウール噴射口
31 セメントスラリー用管路