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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】防湿コート用組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 125/08 20060101AFI20230614BHJP
   C09D 7/48 20180101ALI20230614BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20230614BHJP
   C09D 153/02 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
C09D125/08
C09D7/48
C09D7/65
C09D153/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019072956
(22)【出願日】2019-04-05
(65)【公開番号】P2020169302
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000190611
【氏名又は名称】日東シンコー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】平山 大介
(72)【発明者】
【氏名】藤井 弘文
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-145687(JP,A)
【文献】特開2011-089061(JP,A)
【文献】国際公開第2014/069398(WO,A1)
【文献】特開2016-020403(JP,A)
【文献】特開2011-162686(JP,A)
【文献】特開2002-220494(JP,A)
【文献】特開昭49-096055(JP,A)
【文献】特開平08-165454(JP,A)
【文献】特表2007-510041(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0059963(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 125/08
C09D 7/65
C09D 7/48
C09D 153/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体と、粘着付与樹脂と、3又は4のヒンダードフェノール構造を分子中に有する酸化防止剤とを含み、
前記粘着付与樹脂は、α-メチルスチレンの構造単位又はその水素添加体の構造単位を分子中に有する炭化水素樹脂を含み、
前記スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体の100質量部に対して、前記酸化防止剤を5質量部以上20質量部以下含む、防湿コート用組成物。
【請求項2】
前記スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体の100質量部に対して、前記炭化水素樹脂を30質量部以上150質量部以下含む、請求項1に記載の防湿コート用組成物。
【請求項3】
前記炭化水素樹脂の軟化点が70℃以上150℃以下である、請求項1又は2に記載の防湿コート用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電子基板に対して防湿性を付与するための、防湿コート用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器は、多くの電子部品を備えており、温度及び湿度が高い環境下においても使用されている。例えば、電子機器は、風雨にさらされる環境で使用される。また、電子機器には、例えば、水に対して加熱や冷却などの処理を施すものがある。このように、電子機器が水の存在下で使用される場合もあることから、電子機器に組み込まれた電子部品には、防湿性が要求される。
【0003】
電子部品は、通常、電子回路と、該電子回路を支える電子基板とを有する。電子基板には、水分による回路ショートを防ぐ目的で、防湿コート組成物が塗布されている。この種の防湿コート組成物としては、例えば、フルオロアルキル基を有し且つα位に置換基を有するアクリル酸エステルの構成単位を有する含フッ素ポリマーと、フッ素系溶剤とを含む組成物が知られている(例えば、特許文献1)。
【0004】
特許文献1に記載の組成物は、フルオロアルキル基を有する含フッ素ポリマー(フッ素系材料)を含むため、低吸湿性であるが、ゴム系材料を含む防湿コート用組成物と比較して、透湿性及びガス透過性が高いという問題がある。シリコーン系材料を含む防湿コート用組成物も同様である。一方、ゴム系材料を含む防湿コート用組成物は、低吸湿性と低透湿性とを兼ね備え、ガス透過性も低いため、耐腐食性が良好である。しかしながら、ゴム系材料を単に含む従来の防湿コート用組成物は、耐熱性がやや低いため、高温環境で使用される車載用途などにおいて、電子基板へ適用することが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-234256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、電子基板には、銅による回路パターンが形成されている。銅は、特に高温の環境下において触媒作用を及ぼし、この作用によって、防湿コート組成物で形成されたコート被膜に亀裂が生じる場合がある。しかしながら、銅の有害作用を抑制することでコート被膜の亀裂を抑制できる防湿コート組成物については、未だに十分な検討が行われていない。
【0007】
そこで、本発明は、電子基板に形成されたコート被膜が高温下でひび割れることを抑制できる防湿コート用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく、本発明に係る防湿コート用組成物は、
スチレン系エラストマーと、粘着付与樹脂とを含み、
前記粘着付与樹脂は、α-メチルスチレンの構造単位又はその水素添加体の構造単位を分子中に有する炭化水素樹脂を含むことを特徴とする。
上記の防湿コート用組成物によれば、電子基板に形成されたコート被膜が高温下でひび割れることを抑制できる。
【0009】
上記の防湿コート用組成物は、ヒンダードフェノール構造を分子中に有する酸化防止剤をさらに含むことが好ましい。
これにより、上記のコート被膜が高温下でひび割れることをより抑制できるという利点がある。
【0010】
上記の防湿コート用組成物は、前記スチレン系エラストマーの100質量部に対して、前記酸化防止剤を5質量部以上20質量部以下含むことが好ましい。
これにより、上記のコート被膜が高温下でひび割れることをより抑制できるという利点がある。
【0011】
上記の防湿コート用組成物は、前記スチレン系エラストマーの100質量部に対して、前記炭化水素樹脂を30質量部以上150質量部以下含むことが好ましい。
これにより、上記のコート被膜が高温下でひび割れることをより抑制できるという利点がある。
【0012】
上記の防湿コート用組成物においては、前記炭化水素樹脂の軟化点が70℃以上150℃以下であることが好ましい。
これにより、上記のコート被膜が高温下でひび割れることをより抑制できるという利点がある。
【0013】
上記の防湿コート用組成物においては、前記スチレン系エラストマーは、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体であることが好ましい。
これにより、上記のコート被膜が高温下でひび割れることをより抑制できるという利点がある。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る防湿コート用組成物は、電子基板に形成されたコート被膜が高温下でひび割れることを抑制できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る防湿コート用組成物の一実施形態について説明する。
【0016】
本実施形態の防湿コート用組成物は、スチレン系エラストマーと、粘着付与樹脂とを含む。粘着付与樹脂は、α-メチルスチレンの構造単位又はその水素添加体の構造単位を分子中に有する炭化水素樹脂を含む。
本実施形態の防湿コート用組成物は、ヒンダードフェノール構造を分子中に有する酸化防止剤をさらに含む。
本実施形態の防湿コート用組成物は、該組成物からコート被膜を形成させるときに、溶媒をさらに含んでもよい。溶媒をさらに含むことによって、上記組成物が流動性を有することができる。一方、本実施形態の防湿コート用組成物は、被コート対象物に塗布された後に溶媒が揮発して作製された、被膜の状態であってもよい。
【0017】
スチレン系エラストマーは、スチレン系モノマーとオレフィン系モノマーとのブロック共重合体である。換言すると、スチレン系エラストマーは、スチレン系モノマーの構成単位のブロックと、オレフィン系モノマーの構成単位のブロックとを分子中に有する。スチレン系モノマーの構成単位は、水素添加によって生じた脂環式構造を有していてもよい。オレフィン系モノマーの構成単位は、不飽和結合を有していてもよく、水素添加によって生じた飽和結合を有していてもよい。
スチレン系エラストマーを含む防湿コート用組成物によって形成されたコート被膜は、防湿性を有することができる。
【0018】
スチレン系モノマーの構成単位としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレンなどの各構成単位が挙げられる。
スチレン系モノマーの構成単位は、上記の1種が単独でブロックを構成してもよく、2種以上がブロックを構成してもよい。
【0019】
スチレン系モノマーの構成単位としては、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、及び2,4-ジメチルスチレンからなる群より選択された少なくとも1種の構成単位が好ましく、スチレンの構成単位が好ましい。
【0020】
オレフィン系モノマーの構成単位としては、例えば、イソプレン、ブタジエン、1,3-ヘキサジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンなどの各構成単位が挙げられる。
オレフィン系モノマーの構成単位は、上記の1種が単独でブロックを構成してもよく、2種以上がブロックを構成してもよい。
【0021】
オレフィン系モノマーの構成単位としては、ブタジエン、エチレン-ブチレン(ブタジエンの水素添加後)、イソプレン、プロピレン(イソプレンの水素添加後)からなる群より選択された少なくとも1種の構成単位が好ましく、エチレン-ブチレンの構成単位が好ましい。
【0022】
スチレン系エラストマーの具体的な例としては、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン(SEPS)、スチレン-イソブチレン-スチレン(SIBS)等のA-B-A型ブロック共重合体;スチレン-ブタジエン(SB)、スチレン-イソプレン(SI)、スチレン-エチレン-ブチレン(SEB)、スチレン-エチレン-プロピレン(SEP)、スチレン-イソブチレン(SIB)等のA-B型ブロック共重合体;スチレン-エチレン-ブチレンオレフィン結晶(SEBC)等のA-B-C型のスチレン-オレフィン結晶系ブロック共重合体などが挙げられる。
【0023】
スチレン系エラストマーは、水素添加体であることが好ましい。水素添加体であることによって、スチレン系エラストマーの酸化劣化がより抑制される。
水素添加体としては、完全水素添加体又は部分水素添加体が挙げられ、完全水素添加体が好ましい。
なお、スチレン系エラストマーでは、通常、上記の構成単位が分子中において100を超える数で連なっている。従って、スチレン系エラストマーの質量平均分子量は、通常、数万~数十万程度である。
【0024】
スチレン系エラストマーは、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、及び、この水素添加体であるスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)の少なくともいずれか一方の共重合体であることが好ましく、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)であることがより好ましい。
これにより、本実施形態の防湿コート用組成物から形成されたコート被膜が高温下でひび割れることをより抑制できるという利点がある。
【0025】
スチレン系エラストマーとしては、市販されている製品を用いることができる。このような製品としては、例えば、クレイトンGシリーズ(クレイトン社製)などが挙げられる。
【0026】
本実施形態において、粘着付与樹脂は、α-メチルスチレンの構造単位又はその水素添加体の構造単位を分子中に有する炭化水素樹脂を含む。粘着付与樹脂の90質量%以上が上記の炭化水素樹脂であることが好ましく、粘着付与樹脂の全てが上記の炭化水素樹脂であることがより好ましい。
【0027】
粘着付与樹脂としての炭化水素樹脂は、α-メチルスチレンの構造単位以外に、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、又は2,4,6-トリメチルスチレンの構造単位を分子中に有する。
斯かる炭化水素樹脂は、さらに、インデンの構造単位を分子中に有してもよい。
【0028】
上記粘着付与樹脂としての炭化水素樹脂では、通常、上記の構成単位が100以下の数で分子中において連なっている。従って、炭化水素樹脂の質量平均分子量は、1万以下(数百~数千)程度である。比較的分子量が小さいこのような炭化水素樹脂は、上記スチレン系エラストマーの分子間に入りこむことによって、分子間の相互作用を弱めることができると考えられる。これにより、スチレン系エラストマーにおける分子間の熱架橋を妨げることができ、上記組成物で形成されたコート被膜に適度な粘弾性を付与することができると考えられる。従って、コート被膜のひび割れが抑制されると考えられる。
【0029】
炭化水素樹脂としては、少なくとも、α-メチルスチレンと、スチレン又はメチルスチレンの少なくとも一方と、の共重合体が好ましく、α-メチルスチレンと、スチレン又はメチルスチレンの少なくとも一方と、インデンとの共重合体が好ましい。
【0030】
炭化水素樹脂の分子構造の具体例としては、下記のような模式的構造が挙げられる。なお、式(1)は、水素添加されていない状態を示す。一方、式(2)は、水素添加されたあとの状態(水素添加体)を示す。水素添加体は、部分水素添加体であってもよく、完全水素添加体であってもよいが、完全水素添加体であることが好ましい。式中のRは、メチル基であり、無くてもよい。式中のRは、ベンゼン環のいずれかの複数の箇所に結合していてもよい。
【0031】
【化1】
【0032】
【化2】
【0033】
上記の炭化水素樹脂の軟化点は、70℃以上150℃以下であることが好ましい。炭化水素樹脂の軟化点が70℃以上150℃以下であることによって、炭化水素樹脂の粘着付与樹脂としての機能がより十分に発揮される。これにより、防湿コート用組成物から形成されたコート被膜により強い粘着性を付与でき、コート被膜のひび割れをより抑制できる。
【0034】
上記の炭化水素樹脂の軟化点は、以下の方法によって測定される。具体的には、JIS K2207-1996 軟化点試験方法(環球法)に従って測定される。
上記の測定は、例えば、自動軟化点試験器「asp-6」(田中科学機器製作 社製)を用いて実施できる。測定条件は、下記の通りである。
・環球式2個がけ
・グリセリン浴+撹拌モード
・マグネチックスターラ80~300rpm
【0035】
上記の炭化水素樹脂としては、市販されている製品を用いることができる。このような製品としては、例えば、アルコンシリーズ(荒川化学工業社製)などが挙げられる。
【0036】
上記の防湿コート用組成物は、スチレン系エラストマーの100質量部に対して、粘着付与樹脂としての炭化水素樹脂を30質量部以上150質量部以下含むことが好ましく、90質量部以下含むことがより好ましい。
これにより、本実施形態の防湿コート用組成物から形成されたコート被膜が高温下でひび割れることをより抑制できるという利点がある。
【0037】
本実施形態の防湿コート用組成物に含まれる酸化防止剤は、ヒンダードフェノール構造を分子中に有する。ヒンダードフェノール構造とは、フェノール性水酸基が結合した芳香族環の炭素原子に隣接する2つの炭素原子のうちの少なくとも一方に、t-ブチル基が結合した構造である。
ヒンダードフェノール構造の具体例としては、下記の構造が挙げられる。なお、下記式中のRは、メチル基であり、無くてもよい。式中のRは、ベンゼン環の複数の炭素原子にそれぞれ結合していてもよい。ヒンダードフェノール構造において、水酸基(-OH)が結合している部位は、通常、パラ位であるが、メタ位やオルト位であってもよい。
【0038】
【化3】
【0039】
酸化防止剤としては、例えば、複数のヒンダードフェノール構造を分子中に有する酸化防止剤が用いられる。酸化防止剤としては、3又は4のヒンダードフェノール構造を分子中に有する化合物が好ましい。
【0040】
上記の酸化防止剤としては、例えば、分子中にヒンダードフェノール構造を1つ有する、2,6-ジ-tert-ブチル-4―メチルフェノールが挙げられる。
また、分子中にヒンダードフェノール構造を2つ有する、6,6’-ジ-tert-ブチル-4,4’-ブチリデンジ-m-クレゾール、3,9-ビス{2-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンなどが挙げられる。
また、分子中にヒンダードフェノール構造を3つ有する、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H、3H、5H)-トリオン、4,4’、4”-(1-メチルプロパニル-3-イリデン)トリス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルメチル)-2,4,6-トリメチルベンゼンなどが挙げられる。
また、分子中にヒンダードフェノール構造を4つ有する、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などが挙げられる。
上記の酸化防止剤としては、コート被膜が高温下でひび割れることをより抑制できるというという点で、分子中にヒンダードフェノール構造を4つ有する、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が好ましい。
【0041】
本実施形態の防湿コート用組成物が上記の酸化防止剤をさらに含むことにより、防湿コート用組成物から形成されたコート被膜が高温下でひび割れることをより抑制できるという利点がある。
【0042】
上記の酸化防止剤としては、市販されている製品を用いることができる。このような製品としては、例えば、Irganoxシリーズ(BASFジャパン社製)、アデカスタブAOシリーズ(ADEKA社製)などが挙げられる。
【0043】
上記の防湿コート用組成物は、スチレン系エラストマーの100質量部に対して、上記の酸化防止剤を5質量部以上20質量部以下含むことが好ましい。これにより、本実施形態の防湿コート用組成物から形成されたコート被膜が高温下でひび割れることをより抑制できるという利点がある。
また、スチレン系エラストマーの100質量部に対して、上記の酸化防止剤が15質量部以下含まれることが好ましい。これにより、本実施形態の防湿コート用組成物が有機溶媒を含んだ場合における、上記の酸化防止剤の溶解性を良好に確保できるという利点がある。また、防湿コート用組成物で形成されたコート被膜において酸化防止剤が析出(ブリードアウト)することをより確実に抑制できる。
【0044】
本実施形態の防湿コート用組成物は、スチレン系エラストマーと、粘着付与樹脂としての上記の炭化水素樹脂と、上記のヒンダードフェノール系の酸化防止剤とを含むため、スチレン系エラストマーの酸化を上記の酸化防止剤で抑制でき、また、上記の炭化水素樹脂がスチレン系エラストマーの分子間の相互作用を弱め得ることから、わずかに酸化が起こったとしても、分子間における熱架橋を妨げることができる。しかも、炭化水素樹脂の粘着性によって、コート被膜にひび割れが生じることを抑制できると考えられる。換言すると、上記の3成分が組み合わされたことによって、コート被膜にひび割れが生じることを十分に抑制できると考えられる。
なお、スチレン系エラストマーは、水素添加体となって炭素間の不飽和結合がほとんどなくなっていたとしても、酸化劣化され得る。
【0045】
本実施形態の防湿コート用組成物が含み得る溶媒としては、有機溶媒又は水が挙げられる。上記のスチレン系エラストマー及び粘着付与樹脂(上記の炭化水素樹脂)を溶解できるという点では、有機溶媒が好ましく、炭化水素系の有機溶媒がより好ましい。
炭化水素系の有機溶媒としては、飽和環状炭化水素、飽和鎖状炭化水素、芳香族炭化水素などが挙げられる。
【0046】
飽和環状炭化水素としては、シクロペンタン、2-メチルペンタン、シクロオクタン、シクロヘキサノール、シクロヘキサン、シクロヘキセン、シクロヘプタン、シクロペンタン、メチルシクロヘキサン、メチルシクロペンタンなどが挙げられる。
飽和鎖状炭化水素としては、ヘプタン、ペンタンなどが挙げられる。
芳香族炭化水素としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ペンタメチルベンゼンなどが挙げられる。
【0047】
なお、本実施形態の防湿コート用組成物では、上記のスチレン系エラストマー、粘着付与樹脂(上記の炭化水素樹脂)、及び上記の酸化防止剤が、微粒子となって水系溶媒に分散した状態であってもよい。
【0048】
本実施形態の防湿コート用組成物は、粘着付与樹脂としての上記の炭化水素樹脂以外に、一般的な粘着付与剤(タッキファイヤ)を含んでもよい。また、ヒンダードフェノール構造を分子中に有する酸化防止剤以外の酸化防止剤を含んでもよい。また、その他の添加剤を含んでもよい。
その他の添加剤としては、例えば、難燃剤、耐候剤、防錆剤、充填剤、改質剤、顔料などが挙げられる。
【0049】
本実施形態の防湿コート用組成物は、例えば、上記のスチレン系エラストマー、粘着付与樹脂(上記の炭化水素樹脂)、及び上記の酸化防止剤を、有機溶媒と混合して溶解させることによって製造できる。また、溶解後に混合溶液を被コート対象物に塗布し、有機溶媒を揮発させることによって、被膜になった状態であってもよい。
【0050】
本実施形態の防湿コート用組成物は、以下のようにして使用される。
【0051】
例えば、被コート対象物を覆うコート被膜を形成すべく、溶媒を含んで液状になった防湿コート用組成物に、被コート対象物を浸漬するディップコート法を採用できる。また、液状の防湿コート用組成物を被コート対象物に刷毛塗りする方法を採用できる。また、液状の防湿コート用組成物を被コート対象物にスプレーによって塗布して、乾燥処理によって塗布物から溶媒を揮発させる方法を採用できる。このようにして、被コート対象物の表面にコート被膜を形成できる。
【0052】
被コート対象物の具体例は、電子基板である。電子基板は、銅箔によって構成される回路を有する。銅は、酸化反応を促進するため、電子基板上のコート被膜に酸化劣化を引き起こし得る。上記の防湿コート用組成物のコート被膜は、電子基板上で銅の有害作用を受け得る状況であっても、酸化劣化に対して耐性を有する。そのため、コート被膜が劣化してひび割れることを抑制できると考えられる。
【0053】
本実施形態の防湿コート用組成物は、上記例示の通りであるが、本発明は、上記例示の防湿コート用組成物に限定されるものではない。
即ち、一般的な防湿コート用組成物において用いられる種々の形態が、本発明の効果を損ねない範囲において、採用され得る。
【実施例
【0054】
次に実験例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
以下のようにして、防湿コート用組成物を製造した。各防湿コート用組成物の配合組成を表1に示す。
また、これら防湿コート用組成物によって電子基板上に形成したコート被膜について、高温でのひび割れの発生の有無を評価した。
【0056】
<防湿コート用組成物の原料>
(A)スチレン系エラストマー(水素添加体)
スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)ブロック共重合体
(製品名「クレイトン G1650MU」:クレイトン(KRATON)社製)
(B)粘着付与樹脂(炭化水素樹脂)
分子中にα-メチルスチレン構造単位、スチレン構造単位、及びインデン構造単位を有する(水素添加体)
軟化点-100℃
(製品名「アルコン M100」:荒川化学工業社製)
(C-1)酸化防止剤
化学名:ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](ヒンダードフェノール構造4つ)
(製品名「イルガノックス1010」:BASFジャパン社製)
(C-2)酸化防止剤
化学名:3,9-ビス{2-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(ヒンダードフェノール構造2つ)
(製品名「アデカスタブAO-80」:ADEKA社製)
(C-3)酸化防止剤
化学名:2,6-ジ-tert-ブチル-4―メチルフェノール(ヒンダードフェノール構造1つ)
(製品名「ノクラック200」:大内新興化学工業社製)
(D)溶媒
メチルシクロヘキサン
【0057】
(実施例1、3 / 参考例2、4、5)
表1に示す配合組成で各原料を60℃で混合して、その後室温まで冷却し、液状の防湿コート用組成物を製造した。
【0058】
(比較例1)
表1に示す配合組成に変更した点以外は、実施例と同様にして、液状の防湿コート用組成物を製造した。
【0059】
【表1】
【0060】
<高温下でのコート被膜のひび割れ(クラック)>
各防湿コート用組成物で形成したコート被膜について、以下のようにして、高温条件下で放置したあとのひび割れ(クラック)の有無を目視評価した。
整面処理を施した銅板を用意した。整面処理は、次のようにして行った。イオン交換水にペルオキソ二硫酸ナトリウムを50g/Lとなるように加えて溶解し、さらに硫酸濃度が2%となるように硫酸を添加して水溶液を調製した。調整した水溶液を恒温機に入れて50℃に加温した後、銅板を6分間浸漬し、整面処理した。
整面処理した銅板上に、液状の防湿コート用組成物を塗布した。120℃で10分間の乾燥処理を行い、厚さが約100μmのコート被膜を作製した。コート被膜を銅板ごと、165℃の恒温機に所定時間入れた。その後、恒温機から取り出して常温に冷却した被膜にクラック(ひび割れ)が発生したかどうか目視で確認した。
評価結果を表1に示す。
【0061】
<酸化防止剤の相溶性>
酸化防止剤の相溶性の評価として、下記の2試験を行った。
樹脂組成物がメチルシクロヘキサンを含んだ液状の状態において、それぞれの酸化防止剤が溶解しているかどうかを目視によって確認した。
また、各組成物で形成されたコート被膜における酸化防止剤の析出(ブリードアウト)を目視によって評価した。
評価結果を表1に示す。
【0062】
上記の評価結果から把握されるように、実施例の防湿コート用組成物で形成したコート被膜では、高温下で長期間放置した後であっても、ひび割れ(クラック)が発生しなかった。
一方、比較例の防湿コート用組成物で形成したコート被膜では、高温下で長期間放置した後、ひび割れ(クラック)が発生した。
なお、アルミニウム板を用いて同様にして評価した結果、実施例及び比較例の全てにおいて、コート被膜のクラックが発生しなかった。このことから、コート被膜のクラックは、銅の触媒作用等によって引き起こされやすいといえる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の防湿コート用組成物は、例えば、電子基板に防湿コート被膜を形成させるために、好適に使用される。本発明の防湿コート用組成物は、特に高温で放置された後の防湿コート被膜のひび割れを抑制するために、好適に使用される。