(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】防汚塗料組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 183/10 20060101AFI20230614BHJP
C09D 5/16 20060101ALI20230614BHJP
B63B 1/38 20060101ALI20230614BHJP
B63G 8/34 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
C09D183/10
C09D5/16
B63B1/38
B63G8/34
(21)【出願番号】P 2019087629
(22)【出願日】2019-05-07
【審査請求日】2022-02-18
(31)【優先権主張番号】P 2018091732
(32)【優先日】2018-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片岡 義朗
(72)【発明者】
【氏名】関 庸之
(72)【発明者】
【氏名】谷野 聡一郎
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-077095(JP,A)
【文献】特開2017-165974(JP,A)
【文献】特開2001-072869(JP,A)
【文献】特開2003-238886(JP,A)
【文献】国際公開第2014/084324(WO,A1)
【文献】特開2018-035227(JP,A)
【文献】国際公開第2011/046087(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00 - 201/10
B63B 1/38
B63G 8/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオルガノシロキサンブロック含有加水分解性共重合体(A)を含有する防汚塗料組成物であり、
該ポリオルガノシロキサンブロック含有加水分解性共重合体(A)が、(i)加水分解性基含有単量体(a1)に由来する構成単位、及び(ii)ポリオルガノシロキサンブロック含有単量体(a2)に由来する構成単位を有し、
該防汚塗料組成物のB型粘度計の回転速度6rpmで測定された粘度をVa、該防汚塗料組成物の極限粘度をVbとしたとき、下記式を満た
し、
水中に気体を供給する気体供給装置を具備し、水中での気体潤滑機能を利用する摩擦抵抗低減船舶に用いられることを特徴とする、
防汚塗料組成物。
Va/Vb≧15.0
【請求項2】
前記加水分解性基含有単量体(a1)が、下記式(1-1)で表される単量体(a11)を含有する、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
【化1】
(式(1-1)中、R
11は水素原子又はメチル基を示し、R
12、R
13及びR
14はそれぞれ独立に、一価の炭化水素基を示す。)
【請求項3】
前記加水分解性基含有単量体(a1)が、下記式(1-2)で表される単量体(a12)及び下記式(1-3)で表される単量体(a13)の少なくとも1つを含有する、請求項1又は2に記載の防汚塗料組成物。
【化2】
(式(1-2)中、R
21はそれぞれ独立に、末端エチレン性不飽和基を含有する一価の基を示し、Mは金属を示す。)
【化3】
(式(1-3)中、R
31は末端エチレン性不飽和基を含有する一価の基を示し、R
32は末端エチレン性不飽和基を含有しない炭素数1以上30以下の一価の有機基を示し、Mは金属を示す。)
【請求項4】
前記ポリオルガノシロキサンブロック含有単量体(a2)が下記式(2)で表される、請求項1~3のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
【化4】
(式(2)中、R
1、R
2及びR
3はそれぞれ独立に、一価の炭化水素基を表し、Xはそれぞれ独立に、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基又はメルカプトアルキル基を表し、mは1以上、nは0以上であり、p及びqはそれぞれ独立に0又は1であり、n+p+qは1以上である。)
【請求項5】
前記ポリオルガノシロキサンブロック含有加水分解性共重合体(A)が、ポリオルガノシロキサンブロック含有単量体(a2)に由来する構成単位を1質量%以上50質量%以下含有する、請求項1~4のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
【請求項6】
防汚塗料組成物の固形分中、前記ポリオルガノシロキサンブロック含有加水分解性共重合体(A)を10質量%以上含有する、請求項1~5のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
【請求項7】
防汚塗料組成物の固形分中、前記ポリオルガノシロキサンブロック含有加水分解性共重合体(A)を50質量%以上含有する、請求項1~5のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
【請求項8】
更に、防汚剤(B)を含有する、請求項1~7のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
【請求項9】
前記Vaが5Pa・s以上200Pa・s以下である、請求項1~8のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれかに記載の防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜。
【請求項11】
請求項
10に記載の防汚塗膜で被覆された防汚塗膜付き基材。
【請求項12】
前記基材が、水中に気体を供給する気体供給装置を具備し、水中での気体潤滑機能を利用する摩擦抵抗低減船舶である、請求項
11に記載の防汚塗膜付き基材。
【請求項13】
水中に気体を供給する気体供給装置を具備し、水中での気体潤滑機能を利用する摩擦抵抗低減船舶に用いられる防汚塗膜であり、請求項1~
9のいずれかに記載の防汚塗料組成物から形成され、1m/s以上の動的水流下で7日以上エイジングされた防汚塗膜。
【請求項14】
水中に気体を供給する気体供給装置を具備し、水中での気体潤滑機能を利用する摩擦抵抗低減船舶であり、船舶外板の没水面の少なくとも一部が請求項
10に記載の防汚塗膜で被覆されていることを特徴とする船舶。
【請求項15】
請求項1~
9のいずれかに記載の防汚塗料組成物を基材に塗布又は含浸し、塗布体又は含浸体を得る工程(I)、及び
前記塗布体又は含浸体を乾燥する工程(II)を有する、
防汚塗膜付き基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防汚塗料組成物、これを用いた、防汚塗膜、防汚塗膜付き基材及びその製造方法、並びに船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
航行する船舶には、波の発生による造波抵抗、船底の形状に起因する圧力形状抵抗や水の粘性による摩擦抵抗(水流摩擦抵抗)が作用する。中でも摩擦抵抗は船体に作用する全抵抗の60%~80%を占めており、省エネルギーのために摩擦抵抗の低減が切望されている。上記水流摩擦抵抗の低減方法としては、船底に気体を供給する方法(気体潤滑法)や海水などの流体中にポリマーを添加する方法(トムズ効果を利用する方法)等が提案、研究されており、前者については、船舶への実用化が進められている。
一方、船底の表面は、一般に水生生物の付着を防止するための防汚塗膜で被覆される。この防汚塗膜を上記気体潤滑法に適したものとすることで、その摩擦抵抗低減効果を高めるための方法が考案されており、例えば特許文献1には、静的水中気泡接触角及び水中気泡転がり(滑り)角が特定の範囲にある塗膜などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に開示された防汚塗料組成物は、反応硬化型オルガノポリシロキサンを含有するため、塗膜を形成するための施工が煩雑であるという課題があり、また、更に高い摩擦抵抗低減効果を有する防汚塗料組成物が求められていた。
本発明は、気体潤滑法を利用した摩擦抵抗低減船舶に適用することで、その摩擦抵抗低減効果を高めることができ、防汚性に優れる防汚塗膜が得られる防汚塗料組成物を提供することを目的とする。更に、本発明は、前記防汚塗料組成物を使用した防汚塗膜、防汚塗膜付き基材及びその製造方法、並びに船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らが鋭意検討した結果、以下に示す防汚塗料組成物を用いることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明の要旨は以下の通りである。
【0006】
本発明は、以下の〔1〕~〔16〕に関する。
〔1〕 ポリオルガノシロキサンブロック含有加水分解性共重合体(A)を含有する防汚塗料組成物であり、該ポリオルガノシロキサンブロック含有加水分解性共重合体(A)が、(i)加水分解性基含有単量体(a1)に由来する構成単位、及び(ii)ポリオルガノシロキサンブロック含有単量体(a2)に由来する構成単位を有し、該防汚塗料組成物のB型粘度計の回転速度6rpmで測定された粘度をVa、該防汚塗料組成物の極限粘度をVbとしたとき、下記式を満たすことを特徴とする、防汚塗料組成物。
Va/Vb≧15.0
〔2〕 前記加水分解性基含有単量体(a1)が、下記式(1-1)で表される単量体(a11)を含有する、〔1〕に記載の防汚塗料組成物。
【0007】
【化1】
(式(1-1)中、R
11は水素原子又はメチル基を示し、R
12、R
13及びR
14はそれぞれ独立に、一価の炭化水素基を示す。)
【0008】
〔3〕 前記加水分解性基含有単量体(a1)が、下記式(1-2)で表される単量体(a12)及び下記式(1-3)で表される単量体(a13)の少なくとも1つを含有する、〔1〕又は〔2〕に記載の防汚塗料組成物。
【0009】
【化2】
(式(1-2)中、R
21はそれぞれ独立に、末端エチレン性不飽和基を含有する一価の基を示し、Mは金属を示す。)
【0010】
【化3】
(式(1-3)中、R
31は末端エチレン性不飽和基を含有する一価の基を示し、R
32は末端エチレン性不飽和基を含有しない炭素数1以上30以下の一価の有機基を示し、Mは金属を示す。)
【0011】
〔4〕 前記ポリオルガノシロキサンブロック含有単量体(a2)が下記式(2)で表される、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
【0012】
【化4】
(式(2)中、R
1、R
2及びR
3はそれぞれ独立に、一価の炭化水素基を表し、Xはそれぞれ独立に、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基又はメルカプトアルキル基を表し、mは1以上、nは0以上であり、p及びqはそれぞれ独立に0又は1であり、n+p+qは1以上である。)
【0013】
〔5〕 前記ポリオルガノシロキサンブロック含有加水分解性共重合体(A)が、ポリオルガノシロキサンブロック含有単量体(a2)に由来する構成単位を1質量%以上50質量%以下含有する、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
〔6〕 防汚塗料組成物の固形分中、前記ポリオルガノシロキサンブロック含有加水分解性共重合体(A)を10質量%以上含有する、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
〔7〕 防汚塗料組成物の固形分中、前記ポリオルガノシロキサンブロック含有加水分解性共重合体(A)を50質量%以上含有する、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
〔8〕 更に、防汚剤(B)を含有する、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
〔9〕 前記Vaが5Pa・s以上200Pa・s以下である、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
〔10〕 水中に気体を供給する気体供給装置を具備し、水中での気体潤滑機能を利用する摩擦抵抗低減船舶に用いられる、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の防汚塗料組成物。
〔11〕 〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜。
〔12〕 〔11〕に記載の防汚塗膜で被覆された防汚塗膜付き基材。
〔13〕 前記基材が、水中に気体を供給する気体供給装置を具備し、水中での気体潤滑機能を利用する摩擦抵抗低減船舶である、〔12〕に記載の防汚塗膜付き基材。
〔14〕 水中に気体を供給する気体供給装置を具備し、水中での気体潤滑機能を利用する摩擦抵抗低減船舶に用いられる防汚塗膜であり、〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の防汚塗料組成物から形成され、1m/s以上の動的水流下で7日以上エイジングされた防汚塗膜。
〔15〕 水中に気体を供給する気体供給装置を具備し、水中での気体潤滑機能を利用する摩擦抵抗低減船舶であり、船舶外板の没水面の少なくとも一部が〔11〕に記載の防汚塗膜で被覆されていることを特徴とする船舶。
〔16〕 〔1〕~〔10〕のいずれかに記載の防汚塗料組成物を基材に塗布又は含浸し、塗布体又は含浸体を得る工程(I)、及び前記塗布体又は含浸体を乾燥する工程(II)を有する、防汚塗膜付き基材の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、気体潤滑法を利用した摩擦抵抗低減船舶に適用することで、その摩擦抵抗低減効果を高めることができ、防汚性に優れる防汚塗膜が得られる防汚塗料組成物を提供することができる。更に、本発明は、前記防汚塗料組成物を使用した防汚塗膜、防汚塗膜付き基材及びその製造方法、並びに船舶を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る防汚塗料組成物、防汚塗膜、防汚塗膜付き基材及びその製造方法、並びに船舶について詳細に説明する。
なお、以下の説明において、「(メタ)アクリロイル」、「(メタ)アクリル酸」及び「(メタ)アクリレート」は、それぞれ「アクリロイル又はメタクリロイル」、「アクリル酸又はメタクリル酸」、及び「アクリレート又はメタクリレート」を意味する。
[防汚塗料組成物]
本発明の防汚塗料組成物(以下、単に「塗料組成物」ともいう。)は、ポリオルガノシロキサンブロック含有加水分解性共重合体(A)を含有し、該ポリオルガノシロキサンブロック含有加水分解性共重合体(A)が、(i)加水分解性基含有単量体(a1)に由来する構成単位、及び(ii)ポリオルガノシロキサンブロック含有単量体(a2)に由来する構成単位を有し、該防汚塗料組成物のB型粘度計の回転速度6rpmで測定された粘度をVa、該防汚塗料組成物の極限粘度をVbとしたとき、下記式を満たすことを特徴とする。
Va/Vb≧15.0
【0016】
本発明によれば、気体潤滑法を利用した摩擦抵抗低減船舶に適用することで、その摩擦抵抗低減効果を高めることができ、更に、防汚性にも優れる防汚塗膜が得られる防汚塗料組成物を提供することができる。
本発明者等が鋭意検討した結果、ポリオルガノシロキサンブロック含有加水分解性共重合体(A)を用いることで、予期せぬことに気体を効率的に防汚塗膜表面に付着させることができ、気体潤滑による摩擦抵抗低減効果を高められることを見出し、本発明を完成するに至った。また、本発明の防汚塗料組成物によれば、防汚塗膜が優れた防汚性能を発揮することで、水生生物の付着による摩擦抵抗低減効果の低減を防ぎ、また、防汚塗膜の表面を適切なマクロ凹凸面に安定してコントロールすることができ、摩擦抵抗低減効果をより効果的に享受することができる。
【0017】
上記効果を得られる詳細な作用機序は必ずしも明らかではないが、一部は以下のように推定される。すなわち、防汚塗料組成物中のポリオルガノシロキサンブロック含有加水分解性共重合体(A)は、塗料組成物より形成された防汚塗膜が、水中で表層から加水分解性基の特性により表面から親水化して研掃される際に、水中に溶け出しにくい疎水性のポリオルガノシロキサンを最表層に濃縮するか、又は気体を捉えやすい形状を形成することで、防汚塗膜表面と接触する気体との付着力が高められ、結果として気体の潤滑効果が高められたものと推定される。また、この表層からの塗膜研掃により防汚塗膜への水生生物の付着を防止し、水生生物の付着により気体潤滑効果が低下することを防ぐ面も実用的な効果に寄与する。
【0018】
更に、本発明では、防汚塗料組成物のB型粘度計の回転速度6rpmで測定された粘度をVa、防汚塗料組成物の極限粘度をVbとしたとき、Va/Vbが15.0以上であることを特徴とする。このように、Va/Vbを特定の範囲とすることにより、形成される塗膜の表面形状が気体潤滑機能の向上に寄与し、優れた気体潤滑効果が得られたと推定される。
以下、本発明の防汚塗料組成物が含有する各成分について詳述する。
【0019】
<ポリオルガノシロキサンブロック含有加水分解性共重合体(A)>
本発明の防汚塗料組成物は、ポリオルガノシロキサンブロック含有加水分解性共重合体(A)を含有する。
本発明において、ポリオルガノシロキサンブロック含有加水分解性共重合体(A)(以下、単に加水分解性共重合体(A)ともいう。)は、(i)加水分解性基含有単量体(a1)に由来する構成単位、及び(ii)ポリオルガノシロキサンブロック含有単量体(a2)に由来する構成単位を有する。また、加水分解性共重合体(A)は、任意に(iii)その他の単量体(a3)に由来する構成単位を有し、(iii)その他の単量体(a3)に由来する構成単位を有することが好ましい。
なお、本発明において、「Aに由来する構成単位を有する共重合体」とは、Aが重合反応又は連鎖移動により導入された共重合体を意味する。従って、例えばポリオルガノシロキサンブロック含有単量体(a2)がメルカプト基を有する場合には、ラジカル重合末端が-SHのHを引き抜き、生成した-S・(Sラジカル)が重合を開始する形で加水分解性共重合体に導入されるが、このような場合にも、加水分解性共重合体(A)は、ポリオルガノシロキサンブロック含有単量体(a2)に由来する構成単位を有するものである。
以下、各構成単位について説明する。
【0020】
〔(i)加水分解性基含有単量体(a1)に由来する構成単位〕
ポリオルガノシロキサンブロック含有加水分解性共重合体(A)は、(i)加水分解性基含有単量体(a1)に由来する構成単位を有する。
加水分解性基含有単量体(a1)としては、シリルエステル基含有単量体又は金属エステル基含有単量体が好ましく例示され、金属エステル基含有単量体がより好ましい。
加水分解性共重合体(A)中の加水分解性基含有単量体(a1)に由来する構成単位の含有量は、加水分解性共重合体(A)の全構成単位を100質量部としたとき、好ましくは3質量部以上80質量部以下、より好ましくは5質量部以上70質量部以下である。
【0021】
(シリルエステル基含有単量体)
加水分解性基含有単量体(a1)として、下記式(1-1)で表されるシリルエステル基含有単量体(a11)を含有することが好ましい。
【0022】
【化5】
(式(1-1)中、R
11は水素原子又はメチル基を示し、R
12、R
13及びR
14はそれぞれ独立に、一価の炭化水素基を示す。)
【0023】
式(1-1)中、R11は水素原子又はメチル基を示し、防汚塗膜の長期防汚性及び耐水性を良好とする観点から、好ましくはメチル基である。
式(1-1)中、R12、R13及びR14はそれぞれ独立に一価の炭化水素基を示し、このような炭化水素基としては直鎖状、分岐鎖状、又は環状のアルキル基、及びアリール基などが挙げられる。前記アルキル基は、炭素数が好ましくは1以上12以下、より好ましくは1以上8以下、更に好ましくは1以上4以下である。また、前記アリール基は、炭素数が好ましくは6以上14以下、より好ましくは6以上10以下である。防汚塗膜に適度な加水分解性を付与して長期の防汚性及び耐水性を良好とする観点から、R12~R14は、イソプロピル基、n-プロピル基、sec-ブチル基、n-ブチル基、フェニル基から選ばれることが好ましく、R12~R14の全てがイソプロピル基であることがより好ましい。
すなわち、シリルエステル基含有単量体としては、トリイソプロピルシリル(メタ)アクリレートが特に好ましく、トリイソプロピルシリルメタクリレートが最も好ましい。
【0024】
加水分解性共重合体(A)が、単量体(a11)に由来する構成単位を有する場合、全構成単位100質量部に対する単量体(a11)に由来する構成単位の量は、防汚塗膜の耐水性を良好とする観点から、好ましくは10質量部以上90質量部以下、より好ましくは40質量部以上80質量部以下、更に好ましくは45質量部以上70質量部以下、より更に好ましくは45質量部以上65質量部以下である。
なお、加水分解性共重合体(A)中の各単量体等に由来する構成単位の各含有量(質量)の比率は、重合反応に用いる前記各単量体等(反応原料)の仕込み量(質量)の比率と同じものとしてみなすことができる。
【0025】
(金属エステル基含有単量体)
本発明において、加水分解性基含有単量体(a1)は、金属エステル基含有単量体を含有することが好ましく、金属エステル基含有単量体が、下記式(1-2)で表される単量体(a12)及び下記式(1-3)で表される単量体(a13)の少なくとも1つを含有することが好ましい。
【0026】
【化6】
(式(1-2)中、R
21はそれぞれ独立に、末端エチレン性不飽和基を含有する一価の基を示し、Mは金属を示す。)
【0027】
金属エステル基を構成する金属としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、ネオジム、チタン、ジルコニウム、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、及びアルミニウム等が挙げられる。
式(1-2)中、Mは二価の金属であり、上述した金属の中から、二価金属を適宜選択して用いることができる。これらの中でも、ニッケル、銅、及び亜鉛等の第10~12族の金属が好ましく、銅、及び亜鉛がより好ましく、亜鉛が更に好ましい。
【0028】
式(1-2)中、R21は、末端エチレン性不飽和基(CH2=C<)を含有する一価の基を示し、R21の炭素数は、好ましくは2以上50以下、より好ましくは2以上30以下、更に好ましくは2以上10以下、より更に好ましくは2以上6以下である。R21は、末端エチレン性不飽和基を有していればよく、末端以外にエチレン性不飽和基を有していてもよいが、末端のみにエチレン性不飽和基を有していることがより好ましい。
R21としては、末端エチレン性不飽和基を含有する不飽和脂肪族炭化水素基であることが好ましく、前記不飽和脂肪族炭化水素基は、炭素鎖内にエステル結合、アミド結合、エーテル結合を有していてもよい。R21として具体的には、アクリル酸(2-プロペン酸)、メタクリル酸(2-メチル-2-プロペン酸)、3-ブテン酸、4-ペンテン酸、10-ウンデセン酸、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピオン酸、3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-メチルプロピオン酸等の末端エチレン性不飽和基を有する脂肪族不飽和モノカルボン酸から、カルボキシ基を除いた基が例示される。また、イタコン酸等の末端エチレン性不飽和基を含有する脂肪族不飽和ジカルボン酸から、1つのカルボキシ基を除いた基が例示される。
これらの中でも、R21としては、末端エチレン性不飽和基を含有する脂肪族不飽和モノカルボン酸からカルボキシ基を除いた基であることが好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボン酸からカルボキシ基を除いた基であることがより好ましく、アクリル酸、メタクリル酸からカルボキシ基を除いた基であることが更に好ましい。
このような単量体(a12)は、下記式(1-2’)で表される単量体(a12’)であることが好ましい。
【0029】
【化7】
(式(1-2’)中、R
22はそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を示し、Mは銅又は亜鉛を示す。)
【0030】
式(1-2)で表される単量体(a12)としては、ジアクリル酸亜鉛、ジメタクリル酸亜鉛、アクリル酸(メタクリル酸)亜鉛、ジ(3-アクリロイルオキシプロピオン酸)亜鉛、ジ(3-メタクリロイルオキシプロピオン酸)亜鉛、ジ(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-メチルプロピオン酸)亜鉛、ジアクリル酸銅、ジメタクリル酸銅、アクリル酸(メタクリル酸)銅、ジ(3-アクリロイルオキシプロピオン酸)銅、ジ(3-メタクリロイルオキシプロピオン酸)銅、ジ(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-メチルプロピオン酸)銅が例示される。
【0031】
【化8】
(式(1-3)中、R
31は末端エチレン性不飽和基を含有する一価の基を示し、R
32は末端エチレン性不飽和基を含有しない炭素数1以上30以下の一価の有機基を示し、Mは金属を示す。)
【0032】
式(1-3)中、Mは金属を表し、式(1-2)におけるMと同様の金属が例示され、好ましい態様も同様である。
式(1-3)中、R31は末端エチレン性不飽和基を含有する一価の基を示す。R31としては、式(1-2)におけるR21と同様の基が例示され、好ましい態様も同様である。
式(1-3)中、R32は、末端エチレン性不飽和基を含有しない炭素数1以上30以下の一価の有機基を示す。R32としては、末端エチレン性不飽和基を含有しない、炭素数1以上30以下の脂肪族炭化水素基、炭素数3以上30以下の脂環式炭化水素基、炭素数6以上30以下の芳香族炭化水素基が例示される。これらの基は、置換基を有していてもよい。該置換基としては、水酸基が例示される。
前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐状のいずれでもよく、また、飽和脂肪族炭化水素基でも、不飽和脂肪族炭化水素基でもよい。なお、R32が不飽和脂肪族炭化水素基であるとき、R32は末端エチレン性不飽和基を含有しない。該脂肪族炭化水素基の炭素数は、1以上30以下、好ましくは1以上28以下、より好ましくは1以上26以下、更に好ましくは1以上24以下である。なお、該脂肪族炭化水素基は、更に脂環式炭化水素基や芳香族炭化水素基により置換されていてもよい。
前記脂環式炭化水素基は、飽和脂環式炭化水素基でも、不飽和脂環式炭化水素基でもよい。該脂環式炭化水素基の炭素数は、3以上30以下、好ましくは4以上20以下、より好ましくは5以上16以下、更に好ましくは6以上12以下である。なお、該脂環式炭化水素基は、更に脂肪族炭化水素基や芳香族炭化水素基により置換されていてもよい。
前記芳香族炭化水素基の炭素数は、6以上30以下、好ましくは6以上24以下、より好ましくは6以上18以下、更に好ましくは6以上10以下である。なお、該芳香族炭化水素基は、更に脂肪族炭化水素基や脂環式炭化水素基により置換されていてもよい。
【0033】
R32は、一塩基酸から形成される有機酸残基であることが好ましく、具体的には、バーサチック酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、ピマル酸、デヒドロアビエチン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、及びナフテン酸よりなる群から選択される有機酸からカルボキシ基を除いた基が例示される。
これらの中でも、好ましくはアビエチン酸、バーサチック酸、ナフテン酸からカルボキシ基を除いた基、より好ましくはアビエチン酸、バーサチック酸からカルボキシ基を除いた基である。
このような単量体(a13)は、下記式(1-3’)で表される単量体(a13’)であることが好ましい。
【0034】
【化9】
(式(1-3’)中、R
33は水素原子又はメチル基を示し、R
34は末端エチレン性不飽和基を含有しない炭素数1以上30以下の一価の有機基を示し、Mは銅又は亜鉛を示す。)
【0035】
式(1-3)で表される単量体(a13)としては、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピオン酸(ロジン)亜鉛、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピオン酸(バーサチック酸)亜鉛、(メタ)アクリル酸(ロジン)亜鉛、(メタ)アクリル酸(バーサチック酸)亜鉛、(メタ)アクリル酸(ナフテン酸)亜鉛、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピオン酸(ロジン)銅、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピオン酸(バーサチック酸)銅、(メタ)アクリル酸(ロジン)銅、(メタ)アクリル酸(バーサチック酸)銅、及び(メタ)アクリル酸(ナフテン酸)銅が例示される。
【0036】
加水分解性共重合体(A)が、式(1-3)で表される単量体(a13)に由来する構成単位を有する場合、加水分解性共重合体(A)は、式(1-3)で表される重合性化合物(単量体(a13))中の末端エチレン性不飽和基のみが重合することによって得られる構成単位であることが好ましい。
【0037】
加水分解性共重合体(A)が、単量体(a12)及び/又は(a13)に由来する構成単位を有する場合、全構成単位100質量部に対する単量体(a12)及び(a13)に由来する構成単位の含有量は、合計して、防汚塗膜の防汚性能や耐水性を良好とする観点から、好ましくは3質量部以上40質量部以下、より好ましくは5質量部以上30質量部以下である。
【0038】
〔(ii)ポリオルガノシロキサンブロック含有単量体(a2)に由来する構成単位〕
ポリオルガノシロキサンブロック含有加水分解性共重合体(A)は、(ii)ポリオルガノシロキサンブロック含有単量体(a2)に由来する構成単位を有する。
ポリオルガノシロキサンブロック含有単量体(a2)は、ポリオルガノシロキサンブロックと、重合性不飽和基及び/又はチオール基等の連鎖移動性の反応基を有する単量体であり、形成される加水分解性共重合体(A)にポリオルガノシロキサンブロックを導入することで、水中に気体を供給する気体供給装置を具備し、水中での気体潤滑機能を利用する摩擦抵抗低減船舶の気体潤滑効果を向上させ、更に防汚塗膜の防汚性も向上させる。
ポリオルガノシロキサンブロック含有単量体(a2)は、下記式(2)で表されることが好ましい。
【0039】
【化10】
(式(2)中、R
1、R
2及びR
3はそれぞれ独立に、一価の炭化水素基を表し、Xはそれぞれ独立に、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基又はメルカプトアルキル基を表し、mは1以上、nは0以上であり、p及びqはそれぞれ独立に0又は1であり、n+p+qは1以上である。)
【0040】
式(2)中、R1、R2、及びR3はそれぞれ独立に一価の炭化水素基を表し、炭化水素基としては直鎖状、分岐鎖状、又は環状のアルキル基、及びアリール基などが挙げられる。前記アルキル基は、炭素数が好ましくは1以上12以下、より好ましくは1以上8以下、更に好ましくは1以上4以下である。また、前記アリール基は、炭素数が好ましくは6以上14以下、より好ましくは6以上10以下である。重合容易性の観点から、アルキル基が好ましく、炭素数1以上6以下のアルキル基がより好ましく、炭素数1以上4以下のアルキル基、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が更に好ましい。
式(2)中、Xはそれぞれ独立に(メタ)アクリロイルオキシアルキル基又はメルカプトアルキル基を表し、均一な重合の進行の観点からは(メタ)アクリロイルオキシアルキル基が好ましく、形成する重合体の粘度を低減し、取り扱いを容易とする観点からはメルカプトアルキル基も好ましい。
前記(メタ)アクリロイルオキシアルキル基は、下記式(2-2)で表される。
【0041】
【化11】
(式(2-2)中、R
41は水素原子又はメチル基を示し、R
42はアルキレン基を示し、*はSiとの結合位置を示す。)
【0042】
R42はアルキレン基を示し、反応性の観点から、炭素数が好ましくは1以上12以下、より好ましくは2以上6以下、更に好ましくは2以上4以下である。
【0043】
前記メルカプトアルキル基は、下記式(2-3)で表される。
【0044】
【化12】
(式(2-3)中、R
43はアルキレン基を示し、*はSiとの結合位置を示す。)
【0045】
R43はアルキレン基を示し、反応性の観点から、炭素数が好ましくは1以上12以下、より好ましくは2以上6以下、更に好ましくは2以上4以下である。
【0046】
このようなXとしては(メタ)アクリロイルオキシエチル基、(メタ)アクリロイルオキシプロピル基、(メタ)アクリロイルオキシブチル基やメルカプトメチル基、メルカプトエチル基、メルカプトプロピル基、メルカプトブチル基等が挙げられる。
【0047】
式(2)中、mは1以上、nは0以上であり、p及びqはそれぞれ独立に0又は1であり、n+p+qは1以上である。
なお、m及びnは、それぞれ(SiR2
2O)、(SiXR3O)の平均付加モル数を意味する。
式(2)中、m+nは2以上であることが好ましい。
なお、本明細書において、2以上の異なる繰り返し単位を[ ]間に並列記載している場合、それらの繰り返し単位が、それぞれランダム状、交互状又はブロック状のいずれの形及び順序で繰り返されていてもよいことを示す。つまり、例えば、式-[Y3-Z3]-(ここで、Y、Zは繰り返し単位を示す)では、-YYZYZZ-のようなランダム状でも、-YZYZYZ-のような交互状でも、-YYYZZZ-又は-ZZZYYY-のようなブロック状でもよい。
【0048】
ある一形態として、加水分解性共重合体(A)が、式(2)中、nが0であり、pが1であり、qが0である単量体(a21)に由来する構成単位を有することが好ましい。
このような単量体(a21)に由来する構成単位を有する加水分解性共重合体(A)を含有する防汚塗料組成物は、水中に気体を供給する気体供給装置を具備し、水中での気体潤滑機能を利用する摩擦抵抗低減船舶の気体潤滑効果を高める防汚塗膜を形成できる点で好ましい。
このような単量体(a21)では、重合容易性等の観点からmは3以上200以下であることが好ましく、5以上70以下であることがより好ましい。
このような単量体(a21)としては市販のものを用いることができ、例えば、JNC(株)製のFM-0711(片末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、数平均分子量(Mn)=1,000)、FM-0721(片末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、数平均分子量(Mn)=5,000)、FM-0725(片末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、数平均分子量(Mn)=10,000)、信越化学工業(株)製のX-22-174ASX(片末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量900g/mol)、KF-2012(片末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量4,600g/mol)、X-22-2426(片末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量12,000g/mol)が挙げられる。
【0049】
また、ある一形態として、加水分解性共重合体(A)が、式(2)中、nが0であり、p及びqが1である単量体(a22)に由来する構成単位を有することも好ましい。
このような単量体(a22)に由来する構成単位を有する加水分解性共重合体(A)を含有する防汚塗料組成物は、形成される塗膜の上塗り付着性が良好となる傾向がある点で好ましい。
このような単量体(a22)では、重合容易性等の観点からmは3以上200以下であることが好ましく、5以上70以下であることがより好ましい。
このような単量体(a22)としては市販のものを用いることができ、例えば、JNC(株)製のFM-7711(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、数平均分子量(Mn)=1,000)、FM-7721(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、数平均分子量(Mn)=5,000)、FM-7725(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、数平均分子量(Mn)=10,000)、信越化学工業(株)製のX-22-164(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量190g/mol)、X-22-164AS(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量450g/mol)、X-22-164A(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量860g/mol)、X-22-164B(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量1630g/mol)、X-22-164C(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量2,370g/mol)、X-22-164E(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量3,900g/mol)、X-22-167B(両末端メルカプトアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量1,670g/mol)が挙げられる。
【0050】
更に、ある一形態として、加水分解性共重合体(A)が、式(2)中、nが1以上である単量体(a23)に由来する構成単位を有することも好ましい。
加水分解性共重合体(A)がこのような単量体(a23)に由来する構成単位を有すると、粘度が低く取扱いが容易である点で好ましい。
このような単量体(a23)においては、mは好ましくは50以上1,000以下であり、nは好ましくは1以上30以下である。
このような単量体(a23)としては市販のものを用いることができ、例えば、信越化学工業(株)製のKF-2001(側鎖メルカプトアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量1,900g/mol)、KF-2004(側鎖メルカプトアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量30,000g/mol)が挙げられる。
【0051】
これらの中でも、本発明の効果である、気体潤滑法を利用した摩擦抵抗低減船舶に適用することで、その摩擦抵抗低減効果を高める効果を得られ易い点から、ポリオルガノシロキサンブロック含有単量体(a2)は、式(2)中、nが0であり、pが1であり、qが0である単量体(a21)であることが好ましい。単量体(a21)は、鎖の自由度が高く、単量体(a21)を使用した防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜の表層に出やすいと考えられる。また、疎水成分であるポリオルガノシロキサンブロック構造が、塗膜表面に濃縮されることで、気体との付着力を得られやすく、高い気体潤滑効果を得られると考えられる。
加水分解性共重合体(A)における単量体(a2)に由来する構成単位の含有量は、防汚塗膜の乾湿交互条件での防汚性能や耐水性、下地付着性の観点から、全構成単位100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上60質量部以下、より好ましくは1質量部以上50質量部以下、更に好ましくは2質量部以上50質量部以下、より更に好ましくは5質量部以上50質量部以下である。
【0052】
〔(iii)その他の単量体(a3)に由来する構成単位〕
本発明において、加水分解性共重合体(A)は、(iii)その他の単量体(a3)に由来する構成単位を有することが好ましい。
前記その他の単量体(a3)としては、前記単量体(a1)及び単量体(a2)と共重合可能な単量体を制限なく用いることができる。これらの中でも、その他の単量体(a3)は、エチレン性不飽和化合物であることが好ましい。
前記その他の単量体(a3)としては例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、3,5,5-トリメチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート類又はアリール(メタ)アクリレート類;
2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、4-メトキシブチル(メタ)アクリレート、3-メトキシ-n-プロピル(メタ)アクリレート、2-プロポキシエチル(メタ)アクリレート、2-ブトキシエチル(メタ)アクリレート、イソブトキシブチルジグリコール(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート類又はアリーロキシアルキル(メタ)アクリレート類;
ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、及び2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;
グリシジル(メタ)アクリレート類;
スチレン、α-メチルスチレン、酢酸ビニル、安息香酸ビニル、ビニルトルエン、アクリロニトリル、ビニルピリジン、ビニルピロリドン、塩化ビニルなどのビニル化合物等が挙げられる。これら単量体は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
加水分解性共重合体(A)は、例えば、以下の手順で製造することができる。
加水分解性基含有単量体(a1)が前記単量体(a12)又は(a13)を含む場合は、例えば、無機金属化合物(好ましくは銅又は亜鉛の酸化物、水酸化物、塩化物等)と、メタクリル酸、アクリル酸等の有機酸又はそのエステル化物とを、有機溶剤及び水の存在下で金属塩の分解温度以下で加熱し、撹拌する等の公知の方法で合成することができる。
より具体的には、まず、溶剤と酸化亜鉛等の金属成分とを混合した混合液を50℃以上80℃以下程度に加温しながら撹拌し、これに、メタクリル酸やアクリル酸等の有機酸又はそのエステル体、及び水等の混合液を滴下し、更に撹拌することにより単量体(a12)又は(a13)を調製する。
【0054】
次に、新たに用意した反応容器に溶剤を入れ80℃以上120℃以下程度に加温し、これに前記単量体(a1)、前記ポリオルガノシロキサンブロック含有単量体(a2)、任意にその他の単量体(a3)、重合開始剤、連鎖移動剤、及び溶剤等の混合液を滴下し、重合反応を行うことによりポリオルガノシロキサンブロック含有加水分解性共重合体(A)を得ることができる。
【0055】
加水分解性共重合体(A)の製造に用いることができる重合開始剤としては、特に制限はなく、各種ラジカル重合開始剤を用いることができる。具体的には、過酸化ベンゾイル、過酸化水素、クメンハイドロペルオキシド、tert-ブチルハイドロペルオキシド、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)〔AIBN〕、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)〔AMBN〕、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)〔ADVN〕、及びtert-ブチルパーオクトエート〔TBPO〕等が挙げられる。これらの重合開始剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。なお、これらのラジカル重合開始剤は、反応開始時にのみ反応系内に添加してもよく、また反応開始時と反応途中との両方で反応系内に添加してもよい。
加水分解性共重合体(A)の製造における重合開始剤の使用量は、前記各単量体の合計100質量部に対して0.1質量部以上20質量部以下が好ましい。
【0056】
加水分解性共重合体(A)の製造に用いることができる連鎖移動剤としては、特に制限はなく、例えば、α-メチルスチレンダイマー、チオグリコール酸、ジテルペン、ターピノーレン、γ-テルピネン;tert-ドデシルメルカプタン、及びn-ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム、及びブロモトリクロロエタン等のハロゲン化物;イソプロパノール、グリセリン等の第2級アルコール;等が挙げられる。これらの連鎖移動剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
加水分解性共重合体(A)の製造において連鎖移動剤を用いる場合、その使用量は、前記各単量体の合計100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下が好ましい。
【0057】
加水分解性共重合体(A)の製造に用いることができる溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、及びメシチレン等の芳香族系溶剤;プロパノール、ブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン等のケトン;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;水等が挙げられる。
【0058】
加水分解性共重合体(A)の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、防汚塗料組成物の粘度や貯蔵安定性、得られる防汚塗膜の溶出速度(更新性)等を考慮して、適宜調整することが好ましい。
数平均分子量(Mn)は、好ましくは1,000以上100,000以下、より好ましくは1,500以上30,000以下である。また、重量平均分子量(Mw)は、好ましくは2,000以上200,000以下、より好ましくは3,000以上60,000以下である。
前記数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、実施例に記載の方法により測定したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の値を指す。
【0059】
加水分解性共重合体(A)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
防汚塗料組成物の固形分中の加水分解性共重合体(A)の含有量は、本発明における防汚塗料の塗装作業性や防汚塗膜の防汚性が向上する観点から、防汚塗料組成物の固形分中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは30質量%以上、より更に好ましくは50質量%以上であり、また、好ましくは99質量%以下、より好ましくは95質量%以下、更に好ましくは90質量%以下、より更に好ましくは85質量%以下である。
なお、本発明において、防汚塗料組成物が加水分解性共重合体(A)を2種以上含有する場合、上記の含有量は加水分解性共重合体(A)の総含有量としての好ましい範囲であり、後述する各成分についても同様である。
【0060】
加水分解性共重合体(A)がシリルエステル基含有単量体、好ましくは単量体(a11)に由来する構成単位を有する場合、防汚塗料組成物の固形分中の加水分解性共重合体(A)の含有量は、好ましくは5質量%以上60質量%以下、より好ましくは10質量%以上50質量%以下、更に好ましくは15質量%以上35質量%以下である。
また、加水分解性共重合体(A)が金属エステル基含有単量体、好ましくは単量体(a12)及び/又は単量体(a13)に由来する構成単位を有する場合、防汚塗料組成物の固形分中の加水分解性共重合体(A)の含有量は、好ましくは10質量%以上99質量%以下、より好ましくは15質量%以上95質量%以下、更に好ましくは20質量%以上90質量%以下、より更に好ましくは30質量%以上88質量%以下、より更に好ましくは50質量%以上85質量%以下である。
本発明において、加水分解性共重合体(A)に含まれるポリオルガノシロキサンの寄与によると推定される、水中に気体を供給する気体供給装置を具備し、水中での気体潤滑機能を利用する摩擦抵抗低減船舶の気体潤滑効果を高めるため、また、防汚塗膜の防汚性、特に耐スライム性を高めるため、防汚塗膜中の加水分解性共重合体(A)の含有比率を高くすることが好ましい。
【0061】
<その他任意成分>
本発明の防汚塗料組成物は必要に応じて、防汚剤(B)、酸化亜鉛(C)、モノカルボン酸化合物(D)、その他顔料(E)、その他バインダー成分(F)、脱水剤(G)、溶剤(H)、タレ止め剤・沈降防止剤(I)、可塑剤(J)、シリコーンオイル(K)等を含有していてもよい。
以下、その他任意成分について説明する。
【0062】
〔防汚剤(B)〕
本発明の防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜の防汚性を更に向上させるため、本発明の防汚塗料組成物は防汚剤(B)を更に含有することができる。
防汚剤(B)としては、例えば、亜酸化銅、酸化銅、銅(金属銅)、チオシアン酸銅(別名:ロダン銅)、銅ピリチオン及び亜鉛ピリチオン等の金属ピリチオン類、(+/-)-4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール(別名:メデトミジン)、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン(別名:DCOIT)、4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル(別名:トラロピリル)、ピリジントリフェニルボラン、4-イソプロピルピリジンジフェニルメチルボラン等のボラン-窒素系塩基付加物、N,N-ジメチル-N’-(3,4-ジクロロフェニル)尿素(別名:ジウロン)、N-(2,4,6-トリクロロフェニル)マレイミド、2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル、2-メチルチオ-4-tert-ブチルアミノ-6-シクロプロピルアミノ-1,3,5-トリアジン(別名:シブトリン)、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート(別名:ポリカーバメート)、クロロメチル-n-オクチルジスルフィド、1,1-ジクロロ-N-[(ジメチルアミノ)スルフォニル]-1-フルオロ-N-フェニルメタンスルフェンアミド(別名:ジクロフルアニド)、テトラアルキルチラウムジスルフィド(別名:TMTD)、ジンクジメチルジチオカーバメート(別名:ジラム)、ジンクエチレンビスジチオカーバメート、2,3-ジクロロ-N-(2’,6’-ジエチルフェニル)マレイミド、2,3-ジクロロ-N-(2’-エチル-6’-メチルフェニル)マレイミドなどが挙げられ、これらの中でも、亜酸化銅、銅ピリチオン及び亜鉛ピリチオン等の金属ピリチオン類、メデトミジン、DCOIT、トラロピリル、ピリジントリフェニルボランを含むことが好ましい。
【0063】
このうち、前記メデトミジンは下記式(3)で表される。
【0064】
【0065】
前記メデトミジンは、光学異性を有するが、その一方のみであっても、任意の比率の混合物であってもよい。また、メデトミジンの一部又は全部として、イミダゾリウム塩や金属等への付加物を使用してもよく、あるいは、本発明の防汚塗料組成物若しくは防汚塗膜中で、金属などへの付加体やイミダゾリウム塩を形成していてもよい。
本発明の防汚塗料組成物がメデトミジンを含有する場合、その含有量は、形成される防汚塗膜に良好な防汚性を付与する観点から、防汚塗料組成物中、好ましくは0.01質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.04質量%以上1質量%以下であり、防汚塗料組成物の固形分中、好ましくは0.01質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.03質量%以上3質量%以下、更に好ましくは0.05質量%以上1質量%以下、より更に好ましくは0.05質量%以上0.5質量%以下である。
【0066】
このうち、前記亜酸化銅の平均粒子径は0.1μm以上30μm以下程度のものが長期防汚性を発揮する上で好ましく、グリセリン、ステアリン酸、ラウリン酸、ショ糖、レシチン、鉱物油等によって表面処理されているものが、貯蔵時の長期安定性の点で好ましい。このような亜酸化銅の市販品としては、NC-301(エヌシー・テック(株)製)、NC-803(エヌシー・テック(株)製)、Red Copp97N Premium(AMERICAN CHEMET Co.製)、Purple Copp(AMERICAN CHEMET Co.製)、LoLoTint97(AMERICAN CHEMET Co.製)などが挙げられる。
【0067】
防汚剤(B)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の防汚塗料組成物が防汚剤(B)を含有する場合、形成する防汚塗膜が良好な防汚性を発揮する観点から、その含有量は、塗料組成物の固形分中に0.01質量%以上80質量%以下となる量が好ましい。
【0068】
〔酸化亜鉛(C)〕
本発明の防汚塗料組成物は、防汚塗膜の耐水性や耐ダメージ性、防汚性を向上させる目的で、酸化亜鉛(C)を含有することが好ましい。
本発明の防汚塗料組成物が酸化亜鉛を含有すると、亜鉛-メデトミジン間の相互作用によると推定される寄与により、防汚塗膜の防汚性、特に耐フジツボ性がより長期にわたって優れる。
また、特に前記加水分解性基含有単量体(a1)が前記式(1-2)又は式(1-3)で表される金属エステル基を有する単量体を含み、上記各式中のMが亜鉛である場合、亜鉛イオン濃度の寄与と推定される効果により、ポリオルガノシロキサンブロック含有単量体(a2)に由来する通水性による悪影響を緩和し、防汚塗膜に良好な耐水性を付与する。
本発明の防汚塗料組成物が酸化亜鉛(C)を含有する場合、その含有量は、防汚塗膜の耐水性や耐ダメージ性、防汚性を適切に発揮させる点から、本発明の防汚塗料組成物の固形分中、好ましくは0.1質量%以上60質量%以下、より好ましくは1質量%以上40質量%以下、更に好ましくは1.5質量%以上25質量%以下である。
【0069】
〔モノカルボン酸化合物(D)〕
本発明の防汚塗料組成物は、モノカルボン酸化合物(D)を含有していてもよい。
本発明においてモノカルボン酸化合物(D)は、形成される防汚塗膜の水中での表面からの更新性を向上させ、また、その防汚塗膜が防汚剤を含む場合には、防汚剤の水中への放出を促進することで防汚塗膜の防汚性を高めるものであり、更に防汚塗膜に適度な耐水性を付与する機能も有する。
モノカルボン酸化合物(D)としては、例えば、炭素原子数10以上40以下の飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素にカルボキシ基が1つ置換した化合物、又は炭素原子数3以上40以下の飽和若しくは不飽和の脂環式炭化水素にカルボキシ基が1つ置換した化合物、あるいは脂肪族炭化水素又は脂環式炭化水素の変性物にカルボキシ基が1つ置換した化合物が好ましい。
これらの中でも、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、パラストリン酸、イソピマル酸、ピマル酸、トリメチルイソブテニルシクロヘキセンカルボン酸、バーサチック酸、ステアリン酸、ナフテン酸等が好ましい。
また、アビエチン酸、パラストリン酸、イソピマル酸等を主成分とするロジン類も好ましい。ロジン類としてはガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等のロジン、水添ロジン、不均化ロジン、ロジン金属塩等のロジン誘導体、パインタールなどが挙げられる。
また、トリメチルイソブテニルシクロヘキセンカルボン酸としては、例えば、2,6-ジメチルオクタ-2,4,6-トリエンとメタクリル酸との反応生成物が挙げられ、これは1,2,3-トリメチル-5-(2-メチルプロパ-1-エン-1-イル)シクロヘキサ-3-エン-1-カルボン酸、及び1,4,5-トリメチル-2-(2-メチルプロパ-1-エン-1-イル)シクロヘキサ-3-エン-1-カルボン酸を主成分(85質量%以上)とするものである。
【0070】
本発明におけるモノカルボン酸化合物(D)は、その一部又は全てが塩を形成していてもよい。モノカルボン酸の塩は、例えば亜鉛塩や銅塩などが挙げられ、防汚塗料組成物の調製前に予め形成されていても、防汚塗料組成物調製時に他の塗料成分との反応により形成されてもよい。
なお、モノカルボン酸化合物(D)が、加水分解性共重合体(A)に該当する場合があるが、このような場合には、加水分解性重合体(A)であるとする。
モノカルボン酸化合物(D)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の防汚塗料組成物がモノカルボン酸化合物(D)を含有する場合、防汚塗料組成物の塗装作業性や防汚塗膜の耐水性の観点から、その含有量は、防汚塗料組成物の固形分中、好ましくは0.1質量%以上50質量%以下、より好ましくは1質量%以上20質量%以下である。
【0071】
〔その他顔料(E)〕
本発明の防汚塗料組成物は、塗膜への着色や下地の隠ぺい、また、適度な塗膜強度に調整することを目的として、前記防汚剤(B)及び酸化亜鉛(C)以外のその他顔料(E)を含有してもよい。
その他顔料(E)としては、例えば、タルク、マイカ、クレー、カリ長石、炭酸カルシウム、カオリン、アルミナホワイト、ホワイトカーボン、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫化亜鉛等の体質顔料や、弁柄(赤色酸化鉄)、チタン白(酸化チタン)、黄色酸化鉄、カーボンブラック、ナフトールレッド、フタロシアニンブルー等が挙げられ、中でもタルクを含むことが好ましい。これらの顔料は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の防汚塗料組成物がその他顔料(E)を含有する場合、その含有量は、形成される防汚塗膜に求められる隠ぺい性や、防汚塗料組成物の粘度によって好ましい量が決定されるが、塗料組成物の固形分中、好ましくは1質量%以上40質量%以下である。
【0072】
〔その他バインダー成分(F)〕
本発明の防汚塗料組成物は、防汚塗料組成物の塗装作業性を向上し、また、形成される防汚塗膜に耐水性、耐クラック性や強度を付与する目的から、前記ポリオルガノシロキサンブロック含有加水分解性共重合体(A)以外の、その他バインダー成分(F)を含有してもよい。
その他バインダー成分(F)は、シリルエステル基、金属エステル基等の加水分解性基を有しないものである。
その他バインダー成分(F)としては、例えば、ポリエステル系重合体、アクリル系共重合体(アクリル樹脂)、ビニル系共重合体、塩素化パラフィン、n-パラフィン、テルペンフェノール樹脂、ポリビニルエチルエーテル、石油樹脂類、ケトン樹脂等が挙げられる。中でも、ポリエステル系重合体、アクリル系共重合体、ビニル系共重合体、塩素化パラフィン、石油樹脂類が好ましい。
【0073】
前記ポリエステル系重合体は、1以上の多価アルコールと1以上の多価カルボン酸及び/又はその無水物、及び任意にその他の成分との反応により得られ、任意の種類を任意の量で用いることができ、その組み合わせにより水酸基価/酸価や粘度を調整できる。
上記多価アルコールとしては、例えば、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、エチレングリコール、1,6-ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン(TMP)、ぺンタエリスリトール、ソルビトール;ジエチレングリコール等のポリアルキレングリコール;等が挙げられ、原料の入手容易さからプロピレングリコール、グリセリン、TMPが好ましい。これらの多価アルコールは2種以上のものを組み合わせて用いてもよい。
上記多価カルボン酸及び/又はその無水物としては、例えば、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9-ノナメチレンジカルボン酸、1,10-デカメチレンジカルボン酸、1,11-ウンデカメチレンジカルボン酸、1,12-ドデカメチレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカヒドロナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、コハク酸等、及びこれらの無水物が挙げられ、無水フタル酸やヘキサヒドロフタル酸無水物が好ましい。
ポリエステル系重合体は、防汚塗料組成物の貯蔵安定性、防汚塗膜の防汚性や適度な親水性を付与する観点から、固形分水酸基価が50mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であることが好ましく、80mgKOH/g以上130mgKOH/g以下であることがより好ましい。
【0074】
前記アクリル系共重合体や前記ビニル系共重合体としては、前記その他の単量体(a3)として挙げたものを重合して得られるものを用いてもよい。
【0075】
前記塩素化パラフィンは、直鎖状又は分枝状のいずれの分子構造を有してもよく、室温(例:23℃)条件下で液状でも固体状(例えば粉末状)であってもよい。
また、前記塩素化パラフィンとしては、一分子中、好ましくは8個以上30個以下、より好ましくは10個以上26個以下の平均炭素数を有するものが挙げられる。このような塩素化パラフィンを含む防汚塗料組成物は、クラック(割れ)やハガレ等の少ない防汚塗膜を形成することができる。なお、上記平均炭素数が8未満では、防汚塗膜においてクラックの発生を抑制する効果が不十分となることがあり、一方で、上記平均炭素数が30を超えると、防汚塗膜の加水分解性(更新性、研掃性)に悪影響を与える傾向があり、結果として防汚性が劣ってしまうことがある。
また、塩素化パラフィンの粘度(単位ポイズ、測定温度25℃)は、好ましくは1以上、より好ましくは1.2以上であり、その比重(25℃)は、好ましくは1.05g/cm3以上1.80g/cm3以下、より好ましくは1.10g/cm3以上1.70g/cm3以下である。
塩素化パラフィンの塩素化率(塩素含有量)は、塩素化パラフィンを100質量部とした場合、通常35質量部以上70質量部以下であり、好ましくは35質量部以上65質量部以下である。このような塩素化率を有する塩素化パラフィンを含む防汚塗料組成物は、クラック(割れ)、ハガレ等の少ない塗膜を形成することができる。
【0076】
前記石油樹脂類としては、C5系、C9系、スチレン系、ジクロロペンタジエン系、及びこれらの水素添加物などが挙げられる。
その他バインダー成分(F)としては市販品を用いてもよく、例えば、前記ポリエステル系重合体としては、日立化成(株)製のテスラック2474(ポリエステルポリオール、水酸基価120mgKOH/g)、テスラック2462等;前記アクリル系共重合体(アクリル樹脂)としては、三菱レイヨン(株)製「ダイアナールBR-106」等;前記塩素化パラフィンとしては、東ソー(株)製「トヨパラックス A-40/A-50/A-70/A-145/A-150/150」等;前記石油樹脂類としては、「クイントン1500」や「クイントン1700」(いずれも日本ゼオン(株)製)等が挙げられる。
【0077】
本発明の防汚塗料組成物がその他バインダー成分(F)を含有する場合、その含有量は、防汚塗料組成物の固形分中、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下である。
その他バインダー成分(F)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0078】
〔脱水剤(G)〕
本発明の防汚塗料組成物は、その貯蔵安定性を向上させる目的から、脱水剤(G)を含有してもよい。脱水剤(G)としては、無機系脱水剤として、合成ゼオライト、無水石膏、半水石膏(別名:焼石膏)が例示され、有機系脱水剤として、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラフェノキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン等のアルコキシシラン類又はその縮合物、オルト蟻酸メチル、オルト蟻酸エチル等のオルト蟻酸アルキルエステル類が例示される。脱水剤(G)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の防汚塗料組成物が脱水剤(G)を含有する場合、その含有量は、防汚塗料組成物の固形分中、好ましくは0.1質量%以上20質量%以下、より好ましくは0.2質量%以上15質量%以下となる量である。
【0079】
〔溶剤(H)〕
本発明の防汚塗料組成物は、該防汚塗料組成物の粘度を調整することを目的として、必要に応じて、水又は有機溶剤等の溶剤(H)を含有してもよい。なお、本発明の防汚塗料組成物は、溶剤(H)として、前記加水分解性共重合体(A)を調製する際に使用した溶剤を含有してもよく、加水分解性共重合体(A)と必要に応じてその他の成分とを混合する際に、別途添加された溶剤を含有してもよい。溶剤(H)としては、有機溶剤が好ましい。
有機溶剤としては、キシレン、トルエン、エチルベンゼン等の芳香族系有機溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;エタノール、イソプロピルアルコール,n-ブタノール、イソブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等の脂肪族(炭素数1以上10以下、好ましくは2以上5以下程度)の一価アルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;等が挙げられる。溶剤(H)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0080】
本発明の防汚塗料組成物が溶剤(H)を含有する場合、その含有量は、塗料組成物の塗布形態に応じた所望の粘度によって好ましい量が決定される。溶剤(H)の含有量は、例えば、塗料組成物中に通常1質量%以上60質量%以下である。含有量が多すぎる場合、タレ止め性の低下等の不具合が発生することがある。
【0081】
〔タレ止め剤・沈降防止剤(I)〕
本発明の防汚塗料組成物は、塗料組成物の粘度を調整することを目的として、タレ止め剤・沈降防止剤(I)を含有してもよい。
タレ止め剤・沈降防止剤(I)としては、脂肪酸アマイド、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、水添ヒマシ油ワックス等の有機系ワックス、Al、Ca、Znのステアレート塩、レシチン塩、アルキルスルホン酸塩等の有機粘土系ワックス、有機系ワックスと有機粘土系ワックスの混合物、合成微粉シリカ等が挙げられる。
タレ止め剤・沈降防止剤(I)としては市販品を用いてもよく、例えば、楠本化成(株)製の「ディスパロンA630-20X」、「ディスパロン6900-20X」(脂肪酸アマイド)、「ディスパロン305」(水添ヒマシ油ワックス)、「ディスパロン4200-20」(酸化ポリエチレンワックス)、共栄社化学(株)製の「ターレン7200-20」(脂肪酸アマイド)、伊藤製油(株)製の「A-S-A D-120」(酸化ポリエチレンワックス)等が挙げられる。
タレ止め剤・沈降防止剤(I)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の防汚塗料組成物がタレ止め剤・沈降防止剤(I)を含有する場合、その含有量は、塗料組成物中、好ましくは0.01質量%以上10質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上5質量%以下、更に好ましくは0.3質量%以上3質量%以下である。
タレ止め剤・沈降防止剤(I)の含有量が上記のような範囲にあれば、塗膜のタレ止め性、沈降防止性に加え、レベリング性も適当なものとなり、形成する塗膜の平滑性を向上させることができる。
【0082】
これらの中でも、本発明において、防汚塗料組成物は、タレ止め剤・沈降防止剤(I)として、脂肪酸アマイドを含有することが好ましい。また、(I)成分として脂肪酸アマイドを含有する場合、脂肪酸アマイドの含有量は、所望のVa、Vb及びVa/Vbを得る観点から、防汚塗料組成物中、好ましくは0.3質量%以上3質量%以下、より好ましくは0.45質量%以上2.5質量%以下であり、更に好ましくは0.5質量%以上2質量%以下である。
また、防汚塗料組成物の固形分中の脂肪酸アマイドの含有量は、所望のVa、Vb及びVa/Vbを得る観点から、好ましくは0.6質量%以上6質量%以下、より好ましくは0.65質量%以上5質量%以下、更に好ましくは0.68質量%以上3質量%以下である。
更に、(A)成分に対する脂肪酸アマイドの含有量は、所望のVa、Vb及びVa/Vbを得る観点から、(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.7質量部以上8質量部以下、より好ましくは0.85質量部以上6.5質量部以下、更に好ましくは1.0質量部以上5質量部以下、より更に好ましくは2質量部以上4.5質量部以下である。
【0083】
〔可塑剤(J)〕
本発明の防汚塗料組成物は、防汚塗膜に可塑性を付与することを目的として、可塑剤(J)を含有してもよい。
可塑剤(J)としては、例えば、トリクレジルホスフェート(TCP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)等を挙げることができる。これらの可塑剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の防汚塗料組成物が可塑剤(J)を含有する場合、その含有量は、塗料組成物の固形分中、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上5質量%以下である。可塑剤(J)の含有量が前記範囲内にあると、防汚塗膜の可塑性を良好に保つことができる。
【0084】
〔シリコーンオイル(K)〕
本発明の防汚塗料組成物は、形成される防汚塗膜の防汚性を向上させることを目的として、シリコーンオイル(K)を含有してもよい。
シリコーンオイル(K)は加水分解性基を含有しないものである。
シリコーンオイル(K)としては、下記式(E1)で表されるシリコーンオイルが好ましい。
【0085】
【化14】
(式(E1)中、R
51、R
52はそれぞれ独立に、水素原子、構造中にヘテロ原子を有していてもよい炭素原子数1以上100以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基又はハロゲン化アルキル基を示し、R
53は、単結合、又はアミノ基、エーテル基、チオエーテル基、エステル基、又はアミド基が介在してもよい炭素原子数1以上100以下の二価の炭化水素基を示す。sは10以上1,000以下の整数を示す。)
【0086】
式(E1)中、R51、R52はそれぞれ独立に、構造中にヘテロ原子を有していてもよい炭素原子数1以上100以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基又はハロゲン化アルキル基を示し、構造中にヘテロ原子を有する場合、構造中にアミノ基、エーテル基、チオエーテル基、エステル基、アミド基等が介在していてもよい。
複数存在するR51及びR52は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
R51及びR52としては、メチル基、エチル基又はフェニル基が好ましく、R52の一部が、アラルキル基、ポリエーテル基(R52が、-R-O-(C2H4O)a(C3H6O)b-R’(ここで、Rは炭素数1以上20以下のアルキレン基を表し、R’は炭素数1以上20以下のアルキル基を示し、a及びbはそれぞれ独立に0以上30以下の整数を示し、a+bは1以上の整数である。))、水素原子、フルオロアルキル基、高級脂肪酸エステル基等で置換されていてもよい。
【0087】
式(E1)中、R53は単結合、又はアミノ基(-NR54-、ここで、R54は水素原子又は炭素数1以上12以下のアルキル基を表す)、エーテル基(-O-)、チオエーテル基(-S-)、エステル基(-C(=O)-O-、又は-O-C(=O)-)、又はアミド基(-C(=O)-NR55-、又は-NR55-C(=O)-、R55は水素原子又は炭素数1以上12以下のアルキル基を表す。)が介在してもよい炭素原子数1以上20以下の二価の炭化水素基を示す。
複数存在するR53は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
R53としては、ポリエーテル基(R53が-R-O-(C2H4O)a(C3H6O)bR’(Rは炭素数1以上20以下のアルキレン基を表し、R’は炭素数1以上20以下のアルキル基を示し、a及びbはそれぞれ独立に0以上30以下の整数を示し、a+bは1以上の整数である。))が例示される。
R53としては、単結合が好ましい。
【0088】
シリコーンオイル(K)の23℃におけるB型粘度計により測定した粘度は、塗料組成物の製造時の作業性を向上させる観点、塗料組成物のスプレー霧化性及び形成された塗膜の強度を向上させる観点から、好ましくは10mPa・s以上、より好ましくは20mPa・s以上、更に好ましくは40mPa・s以上、より更に好ましくは60mPa・s以上、より更に好ましくは80mPa・s以上であり、そして、好ましくは10,000mPa・s以下、より好ましくは5,000mPa・s以下、更に好ましくは4,000mPa・s以下である。
【0089】
本発明の防汚塗料組成物は、シリコーンオイル(K)を1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の防汚塗料組成物がシリコーンオイル(K)を含有する場合、その含有量は、形成される防汚塗膜の防汚性を向上させる観点から、防汚塗料組成物の固形分中、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、より更に好ましくは10質量%以下である。
【0090】
シリコーンオイル(K)は、市販されているものを使用することができる。市販品としては、例えば、東レ・ダウコーニング(株)製の「FZ-2160」(側鎖プロピレングリコール変性ポリジメチルシロキサン)、「FZ-2203」(ABn型ポリアルキレンオキシド変性ポリジメチルシロキサン)、信越化学工業(株)製の「KF-50-1,000」(5%フェニル変性ポリジメチルシロキサン、動粘度(25℃):1,000mm2/s)、「X-22-4272」(両末端プロピレングリコール変性ポリジメチルシロキサン)、「KF-6020」(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、動粘度(25℃):180mm2/s)等が挙げられる。
【0091】
[防汚塗料組成物の粘度]
本発明において、防汚塗料組成物のB型粘度計の回転速度6rpmで測定された粘度をVa、該防汚塗料組成物の極限粘度をVbとしたとき、下記式を満たす。
Va/Vb≧15.0
ここで、Vaは、低シェア時の粘度を意味し、B型粘度計を使用し、塗料組成物の温度を25℃、回転速度6rpmとして測定する。なお、使用するローターは、塗料組成物の粘度に応じて、適宜選択すればよい。
Vaは、塗料組成物のレベリング性やタレ性に関係し、塗膜形成工程における塗膜の平滑化に寄与すると考えられる。
【0092】
一方、本発明において、極限粘度は、Cassonの式を用いて外挿により求めた値である。Cassonの式は、以下の式で表される。
【0093】
【0094】
ここで、Sはせん断応力、Dはせん断速度を表す。また、a及びbは定数である。
Cassonの式は、せん断速度の平方根と、せん断応力の平方根とをプロットすると、直線関係になることを意味するものである。ここで、傾きaの二乗を極限粘度(残留粘度ともいう。)、切片bの二乗を降伏値という。
極限粘度は、高せん断時の粘度を表し、スプレー塗装時の塗料の霧化性に関係しているといわれている。
【0095】
本発明において、上述したVaとVbとの比(Va/Vb)を特定の範囲とすることによって、得られる塗膜の気体潤滑効果が向上し、気体潤滑法を利用した摩擦抵抗低減効果を高めることができることを見出したものである。
前記Va/Vbは15.0以上であり、より高い気体潤滑効果を得る観点から、好ましくは25.0以上である。また、塗装作業性に優れた塗料組成物を得られる観点から、好ましくは20.0以上、より好ましくは40.0以上である。上限は特に限定されないが、製造上の観点から、好ましくは300以下、より好ましくは200以下である。
【0096】
本発明において、Vaは、気体潤滑効果の改善能の高い塗膜表面形状を得る観点から、好ましくは5Pa・s以上であり、また、好ましくは200Pa・s以下、より好ましくは120Pa・s以下、更に好ましくは80Pa・s以下、より更に好ましくは60Pa・s以下である。
【0097】
本発明において、防汚塗料組成物のVa及びVbは、塗料組成物の固形分量を変化させたり、前述のポリオルガノシロキサンブロック含有加水分解性共重合体(A)の含有量や分子量(数平均分子量若しくは重量平均分子量)を調整したり、前述したタレ止め剤・沈降防止剤(I)の含有量を変化させることにより、適宜調整することができる。なお、Va及びVbの調整方法は、これらに限定されるものではない。
【0098】
[防汚塗料組成物の製造方法]
本発明の防汚塗料組成物はそれぞれ、公知の一般的な防汚塗料と同様の装置、手段等を用いて調製することができる。具体的には、加水分解性共重合体(A)を調製した後、この重合体の溶液と、必要に応じてその他の添加剤とを、一度に、又は順次に添加して、撹拌、混合して調製することができる。
【0099】
[防汚塗膜、防汚塗膜付き基材及びその製造方法、船舶、並びに摩擦抵抗低減方法]
本発明の防汚塗膜は前記防汚塗料組成物を乾燥させて得られる。
また、種々の基材上に、本発明の防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜を設けることで、基材に対して優れた防汚性を付与することができる。また、本発明の防汚塗料組成物は、水中に気体を供給する気体供給装置を具備し、水中での気体潤滑機能を利用する摩擦低減船舶に用いられることが好ましい。なお、本発明の防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜は、水中に気体を供給する気体供給装置を具備し、水中での気体潤滑機能を利用する摩擦抵抗低減船舶の、船舶外板の没水面の少なくとも一部に形成されていることが好ましい。摩擦抵抗低減船舶の船舶外板の没水面に、本発明の防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜を設けることにより、船舶外板に防汚性を付与し、更に、気体潤滑効果を改善することができ、摩擦抵抗が更に低減され、より燃費が向上する。
なお、本発明の防汚塗膜は、摩擦抵抗低減船舶の船舶外板の没水面の中でも、水面に対して水平(平行)な平底部分に設けてもよく、また、水面に対して傾斜を有する船底部分に設けてもよく、特に限定されない。本発明の防汚塗膜は、水中の気泡転がり(滑り)角が大きいため、水面に対して水平な平底部分にだけではなく、水面に対して傾斜を有するような曲がり部に本発明の防汚塗膜を設けた場合であっても、気体潤滑効果を改善することができる。
【0100】
本発明において、摩擦抵抗低減船舶は、少なくとも水中に気体を供給する気体供給装置を具備する。気体供給装置から水中に供給された気体は、船底の表面を覆うため、船舶外板と水との間の摩擦抵抗が低減される。なお、供給される気体としては、空気(大気)であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
なお、本明細書における「気体潤滑効果」とは、上述の通り、気体供給装置から水中に供給された気体が、船底の表面を覆うことで、船舶外板と水との間の摩擦抵抗が低減される効果である。
【0101】
なお、上述したように、本発明の防汚塗膜を用いて、水中に気体を供給する気体供給装置を具備し、水中での気体潤滑機能を利用する摩擦抵抗低減船舶の気体潤滑機能を向上させることができ、また、水流摩擦抵抗を低減することができる。更に、水面に対して傾斜を有する船底部分に本発明の防汚塗膜を有する場合であっても、摩擦抵抗低減船舶の水流摩擦抵抗を低減することができる。
【0102】
また、1m/s以上の動的水流下で7日以上エイジングされた本発明の防汚塗膜は、気体潤滑機能を利用する摩擦抵抗低減船舶の気体潤滑機能を向上させるものであることが好ましい。
ここで、エイジングされるとは、1m/s以上の動的水流下に7日以上曝されることを意味し、1m/s以上の速度で7日間以上航行した防汚塗膜が例示される。本発明の防汚塗膜は、その初期段階のみならず、上述のようにエイジングされた防汚塗膜であっても、優れた気体潤滑機能向上作用を有することが好ましい。
【0103】
防汚塗膜を形成する方法としては、例えば、本発明の防汚塗料組成物を塗膜や基材上に塗布した後、乾燥させることにより防汚塗膜を得ることができる。
本発明の塗料組成物を塗布する方法としては、刷毛、ローラー、及びスプレーを用いる方法等の公知の方法を挙げることができる。
前述の方法により塗布した防汚塗料組成物は、例えば、25℃の条件下、好ましくは0.5日間以上14日間以下程度、より好ましくは1日間以上7日間以下程度放置することにより乾燥し、塗膜を得ることができる。なお、防汚塗料組成物の乾燥にあたっては、加熱下で送風しながら行ってもよい。
【0104】
防汚塗膜の乾燥後の厚さは、防汚塗膜の更新速度や、使用される期間等に応じて任意に選択されるが、例えば30μm以上1,000μm以下程度が好ましい。この厚さの塗膜を製造する方法としては、塗料組成物を1回の塗布当たり、好ましくは10μm以上300μm以下、より好ましくは30μm以上200μm以下の厚さで、1回~複数回塗布する方法が挙げられる。
【0105】
本発明の防汚塗料組成物付き基材は、前記防汚塗料組成物により形成された防汚塗膜で基材が被覆されており、前記防汚塗膜を基材上に有するものである。
本発明の防汚塗料組成物付き基材は、前記のような方法により基材上に前記防汚塗膜を形成することで製造することができる。
本発明の防汚塗膜付き基材の製造方法は特に限定されないが、例えば、本発明の防汚塗料組成物を基材に塗布又は含浸し、塗布体又は含浸体を得る工程(I)、及び前記塗布体又は含浸体を乾燥する工程(II)を有する製造方法により得ることができる。
前記工程(I)において、塗料組成物を基材に塗布する方法は、前述の塗布方法を採用することができる。また、含浸させる方法に特に制限はなく、含浸させるのに十分な量の塗料組成物中に基材を浸すことにより行うことができる。更に、前記塗布体又は含浸体を乾燥させる方法に特に制限はなく、防汚塗膜を製造する際の方法と同様の方法で乾燥させることができる。
【0106】
また、本発明の防汚塗膜付き基材は、本発明の防汚塗料組成物を乾燥させてなる塗膜を形成する工程(I’)、及び前記塗膜を基材に貼付する工程(II’)を有する製造方法により得ることもできる。
工程(I’)において塗膜を形成する方法に特に制限はなく、防汚塗膜を製造する際の方法と同様の方法により製造することができる。
工程(II’)において塗膜を基材に貼付する方法に特に制限はなく、例えば、特開2013-129724号公報に記載の方法により貼付することができる。
【0107】
本発明の防汚塗料組成物は、船舶、漁業、海洋構造物等の広範な産業分野において、基材の防汚性を長期間にわたって維持するために利用することができる。そのような基材としては、例えば、船舶(コンテナ船、タンカー等の大型鋼鉄船、漁船、FRP船、木船、ヨット等の船体外板、これらの新造船又は修繕船等)、漁業資材(ロープ、漁網、漁具、浮き子、ブイ等)、メガフロート等の海洋構造物等が挙げられる。これらの中でも、基材は、船舶、水中構造物、及び漁具よりなる群から選択されることが好ましく、船舶及び水中構造物よりなる群から選択されることがより好ましく、船舶であることが更に好ましく、水中に気体を供給する気体供給装置を具備し、水中での気体潤滑機能を利用する摩擦抵抗低減船舶であることがより更に好ましい。
また、本発明の防汚塗料組成物を表面に形成する対象の基材は、防錆剤等のその他の処理剤により処理された面や、表面にすでにプライマー等の塗膜が形成されているものであってもよく、本発明の防汚塗料組成物が既に塗装されている面に上塗りするものでもよく、本発明に係る防汚塗膜が直接接する塗膜の種類は特に限定されるものではない。
【実施例】
【0108】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら制限されるものではない。以下では、特にその趣旨に反しない限り、「部」は質量部の意味である。
なお、実施例において用いる各成分の「固形分」とは、各成分に溶剤として含まれる揮発成分を除いた成分を指し、各成分を108℃の熱風乾燥機中で3時間乾燥させて得られたものとしてみなす。
【0109】
[ポリオルガノシロキサンブロック含有加水分解性共重合体(A)の製造]
<製造例1:加水分解性共重合体溶液(A-1)の製造>
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下装置、窒素導入管、及び加熱冷却ジャケットを備えた反応容器にキシレン 43質量部、トリイソプロピルシリルメタクリレート 10質量部、FM-0711(JNC(株)製、片末端メタクリレート変性オルガノポリシロキサン、平均分子量Mn=1,000) 2質量部を仕込み、窒素気流下で80±5℃の温度条件下にて加熱撹拌を行った。同温度を保持しつつ滴下装置より、前記反応容器内にトリイソプロピルシリルメタクリレート 40質量部、FM-0711(JNC(株)製、片末端メタクリレート変性オルガノポリシロキサン、平均分子量Mn=1,000) 18質量部、2-メトキシエチルメタクリレート 20質量部、メチルメタクリレート 10質量部、及び2,2'-アゾビスイソブチロニトリル 1.8質量部からなる混合物を2時間かけて滴下した。その後、同温度で2時間撹拌を行った後、2,2'-アゾビスイソブチロニトリルを更に0.4質量部を加え、3時間かけて105℃まで昇温を行い、キシレン 24質量部を加えて、無色透明の加水分解性共重合体溶液(A-1)を得た。
【0110】
<製造例2:加水分解性共重合体溶液(A-2)の製造>
製造例1において使用された単量体混合物の仕込み比及び滴下時に用いる重合開始剤の種類及び量を表1のように変更したことを除いては、製造例1と同様にして、加水分解性共重合体溶液(A-2)を調製した。
使用された単量体混合物の構成、並びに後述の方法により測定した加水分解性共重合体溶液及びこれらに含まれる共重合体の特性値を表1に示す。
【0111】
【0112】
表1中の各成分は以下の通りである。
*1 FM-0711:JNC(株)製、片末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、数平均分子量(Mn)=1,000
【0113】
得られた重合体溶液(A-1)、(A-2)の粘度、それに含まれる重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)の測定方法は以下の通りである。
<重合体溶液の粘度>
重合体溶液の25℃における粘度は、E型粘度計(東機産業(株)製)により測定した。
<重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)の測定>
重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)を下記条件でGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて測定した。
(GPC条件)
装置:「HLC-8120GPC」(東ソー(株)製)
カラム:「SuperH2000+H4000」(東ソー(株)製、6mm(内径)、各15cm(長さ))
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:0.500mL/min
検出器:RI
カラム恒温槽温度:40℃
標準物質:ポリスチレン
サンプル調製法:各製造例で調製された重合体溶液に少量の塩化カルシウムを加えて
脱水した後、メンブレムフィルターで濾過して得られた濾物をGPC測定サンプルとした。
【0114】
<製造例3~5:加水分解性共重合体溶液(A-3)~(A-5)>
〔製造例M1:金属エステル基含有単量体混合物の製造〕
冷却器、温度計、滴下ロート及び撹拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM(プロピレングリコールモノメチルエーテル) 85.4部及び酸化亜鉛 40.7部を仕込み、撹拌しながら75℃に昇温した。続いて、滴下ロートからメタクリル酸 43.1部、アクリル酸 36.1部、水 5部からなる混合物を3時間で等速滴下した。更に、2時間撹拌した後、PGMを36部添加して透明な金属エステル基含有単量体混合物M1を得た。固形分は44.8質量%であった。
【0115】
<製造例3:加水分解性共重合体溶液(A-3)の製造>
冷却器、温度計、滴下ロート、及び撹拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM 15部、キシレン 65部、及びエチルアクリレート 4部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。続いて、滴下ロートからメチルメタクリレート 32.3部、エチルアクリレート 13.9部、FM-0711(商品名、JNC(株)製) 40部、製造例M1記載の金属エステル基含有単量体混合物(M1) 21.7部、キシレン 10部、連鎖移動剤(日本油脂(株)製、ノフマーMSD(商品名)、α-メチルスチレンダイマー) 1.2部、AIBN 2.5部、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(AMBN) 0.8部からなる透明な混合物を6時間で等速滴下した。滴下終了後にtert-ブチルパーオクトエート 0.5部とキシレン 10部を30分で滴下し、更に1時間30分撹拌した後キシレンを10.1部添加して、加熱残分45.1%、ガードナー粘度+Uを有する淡黄色透明な加水分解性共重合体溶液(A-3)を得た。
得られた加水分解性共重合体溶液をGPC(東ソー(株)製HLC-8120GPC(商品名)、溶離液:ジメチルホルムアミド)にて分析したところ、加水分解性重合体溶液(A-3)に含まれる共重合体の重量平均分子量(Mw)は8,800であった。
【0116】
<製造例4:加水分解性共重合体溶液(A-4)の製造>
冷却器、温度計、滴下ロート、及び撹拌機を備えた四つ口フラスコにPGM 15部、キシレン 65部、及びエチルアクリレート 4部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。続いて、滴下ロートからメチルメタクリレート 32.3部、エチルアクリレート 33.9部、FM-0711(商品名、JNC(株)製) 20部、製造例M1記載の金属エステル基含有単量体混合物(M1) 21.7部、キシレン 10部、連鎖移動剤(日本油脂(株)製、ノフマーMSD(商品名)) 1.2部、AIBN 2.5部、AMBN 2部からなる透明な混合物を6時間で等速滴下した。滴下終了後にtert-ブチルパーオクトエート 0.5部とキシレン 10部を30分で滴下し、更に1時間30分撹拌した後、キシレンを10.1部添加して、加熱残分45.4%、ガードナー粘度+Vを有する淡黄色透明な加水分解性共重合体溶液(A-4)を得た。
得られた加水分解性共重合体をGPC(東ソー(株)製HLC-8120GPC(商品名)、溶離液:ジメチルホルムアミド)にて分析したところ、加水分解性共重合体溶液(A-4)に含まれる共重合体の重量平均分子量(Mw)は7,600であった。
【0117】
<製造例5:加水分解性共重合体溶液(A-5)の製造>
冷却器、温度計、滴下ロート、及び撹拌機を備えた四つ口フラスコにPGM 15部、キシレン 57部、及びエチルアクリレート4部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。続いて、滴下ロートから製造例M1記載の金属エステル基含有単量体混合物(M1) 47.5部、メチルメタクリレート 14.6部、エチルアクリレート 52.6部、n-ブチルアクリレート 7.5部、キシレン 10部、連鎖移動剤(日本油脂(株)製、ノフマーMSD(商品名)) 1.0部、AIBN 2.5部、AMBN 8.5部からなる透明な混合物を6時間で等速滴下した。滴下終了後にtert-ブチルパーオクトエート 0.5部とキシレン 7部を30分で滴下し、更に1時間30分撹拌した後、キシレンを6.9部添加して、加熱残分46.4%、ガードナー粘度Vを有する透明な加水分解性共重合体溶液(A-5)を得た。
【0118】
得られた加水分解性共重合体をGPC(東ソー(株)製、HLC-8120GPC(商品名)、溶離液:ジメチルホルムアミド)にて分析したところ、加水分解性共重合体溶液(A-5)に含まれる共重合体の重量平均分子量(Mw)は4,800であった。
加水分解性共重合体溶液(A-3)~(A-5)の単量体成分の構成を表2にまとめて示す。
【0119】
【0120】
表2中の各成分は以下の通りである。
*1 FM-0711:JNC(株)製、片末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、数平均分子量(Mn)=1,000
【0121】
[実施例1~7、及び比較例1~2:防汚塗料組成物及び防汚塗膜の製造]
・配合成分
防汚塗料組成物に用いた各配合成分を表3に示す。
【0122】
【0123】
<防汚塗料組成物の製造>
表4に記載された配合(質量部)で、各配合成分を混合撹拌し防汚塗料組成物を得た。なお、表4に記載された各成分の配合量は、有姿での配合量を示している。例えば、実施例1において、脂肪酸アマイドの有姿での(全体としての)配合量は3.0質量部であり、固形分20%であるので、そのうちの有効成分である脂肪酸アマイド自身の配合量は、0.6質量部である。
【0124】
【0125】
-塗料粘度パラメーター-
塗料粘度パラメーター(Va/Vb)は、後述の各方法により前記実施例及び比較例の防汚塗料組成物の各粘度Va及びVbを測定し、得られた各数値から算出した。
【0126】
-B型粘度計の回転速度6rpmで測定された粘度Vaの測定-
前記各防汚塗料組成物の粘度Va(Pa・s)は、B型粘度計(東機産業(株)製、型式:BII型粘度計)を用い、塗料組成物の温度25℃、回転速度6rpmにおける塗料粘度を、4号ローターを使用して測定した。本試験では、4号ローターを使用したが、塗料組成物の粘度に応じた任意のローターを使用することができる。
【0127】
-極限粘度Vbの測定-
前記各防汚塗料組成物の極限粘度Vb(Pa・s)は、レオメーター(TA Instruments社製)を用い、塗料組成物の温度25℃における各せん断速度に対する各塗料組成物のせん断応力を測定し、「CASSONの式」から算出した。
【0128】
-気体潤滑効果試験用の試験板作製-
ステンレス(SUS316L)製の試験板(縦700mm×横100mm×厚み5.5mm)に、エポキシ系防錆塗料(商品名「エピコンB-100プライマー」、中国塗料(株)製)を乾燥膜厚が約50μmとなるように塗布した。その上に、エポキシ系バインダー塗料(商品名「バンノー1500SZ」、中国塗料(株)製)を乾燥膜厚が約100μmとなるように塗布した。更にその上に、前記実施例及び比較例の各防汚塗料組成物を乾燥膜厚が約150μmとなるように1回塗布し、25℃条件下で7日間乾燥させ防汚塗膜付き試験板を作製した。
その後、海水の換水装置、温度調整装置及び中央に動的水流を発生させる回転体を備えた円筒水槽の内壁面に上記各防汚塗膜付き試験板を設置し、試験塗膜の表面が1m/s以上の水流を受けるようにして25℃の海水中にて7日間エイジングを行ない、気体潤滑効果試験用の試験板を作製した。なお、前記の3回の塗装は1日当たり1回のペースで行った。
【0129】
-気体潤滑効果試験-
貯水タンクから、水流ポンプ、水流量計、水温計、整流部、縮流部、空気導入部、壁面の一面に試験板の設置面と、該試験板の前後部の差圧計測装置を備えた試験部を有し、上述の各部の順に水が流れ、貯水タンクへと戻る水流路で構成される回流水槽を用いて試験した。前述の防汚塗膜付き試験板を試験部に設置し、3m/s及び5m/sの各流速条件となるように水流ポンプを稼働させ、空気導入部から空気を導入した時、並びに空気を導入しない時の差圧、水流量、水温を取得することで、該試験板表面の摩擦係数(水流摩擦抵抗)を測定した。空気の導入の有無による2種の測定条件からそれぞれ得られた摩擦係数の値より、下記計算式1を基に気体潤滑効果を評価した。なお、空気導入部から導入する空気は、試験板表面に沿って平均化した場合に、気泡の高さが試験面板表面から約3mmとなる量に制御して導入した。
無塗装の平滑なアルミ製試験板(比較板)を試験部に設置し、上記各試験板の測定と同様にして比較板の気体潤滑効果を評価した。得られた比較板の気体潤滑効果を基準として下記計算式2により得られる増減率(%)を気体潤滑効果改善率として算出し、表4に示した。例えば、比較板で10%の気体潤滑効果が得られ、実施例の試験板で15%の気体潤滑効果が得られた場合、+50%の値となる。表4に示した結果から明らかなように、本発明の防汚塗料組成物より形成された防汚塗膜は、気体潤滑効果を改善することができる。すなわち、本発明の防汚塗膜は、気体潤滑法を利用した摩擦抵抗低減船舶に適用することで、その摩擦抵抗低減効果を高めることができる。
(計算式1)
{1-(空気を導入した場合の摩擦係数値/空気を導入しない場合の摩擦係数値)}×100
(計算式2)
{(各試験板の気体潤滑効果/比較板の気体潤滑効果)-1}×100
【0130】
-水中気泡転がり(滑り)角の測定-
塩化ビニル製の試験板(縦50mm×横50mm×厚み20mm)に前記実施例及び比較例の各防汚塗料組成物を乾燥膜厚が約150μmとなるように1回塗布し、25℃条件下で7日間乾燥させて、水中気泡転がり(滑り)角測定用の試験板を作製した。
該試験板を海水中で塗膜表面が約15ノット(約7.7m/s)となる速度で回転する円筒装置に設置し、7日間動的浸漬を行った後、以下のようにしてエイジング後の水中気泡転がり(滑り)角を測定した。
前記各試験板の塗膜表面が水平、かつ試験板の下方となるように水中に設置し、0.02mLの空気を水中に注入して該塗膜表面に気泡を1つ形成する。その後、塗膜面を水平面に対する角度を1度ずつ傾け、気泡が移動し始めた角度を水中気泡転がり(滑り)角として測定した。
得られた結果を表4に示した。これらの結果から明らかなように、本発明の防汚塗膜は、特に水中に浸漬されると水中気泡転がり(滑り)角が高くなり、すなわち塗膜表面に接触する気泡との付着力の向上、及び傾きがある場合でも塗膜表面に気泡を保持しやすい特性が得られる。
【0131】
-防汚性試験-
サンドブラスト処理鋼板(縦200mm×横100mm×厚み2.3mm)に、エポキシ系防錆塗料(商品名「バンノー500」、中国塗料(株)製)を乾燥膜厚が約100μmとなるように塗布した。その上に、エポキシ系バインダー塗料(商品名「バンノー1500SZ」、中国塗料(株)製)を乾燥膜厚が約100μmとなるように塗布した。更にその上に、前記実施例及び比較例の各防汚塗料組成物を乾燥膜厚が約150μmとなるように1回塗布し、25℃条件下で7日間乾燥させて、防汚性試験用の試験板を作製した。なお、前記3回の塗装は1日当たり1回のペースで行った。
このように作製した各防汚試験板を、広島湾内にて水面下約0.5メートルの位置で、試験面の表面が約15ノット(約7.7m/s)となる速度で回転する円筒に取り付けて浸漬した。本条件での浸漬を開始してから6ヵ月後及び12ヶ月後に、防汚塗膜上の水生生物の付着面積を測定し、下記〔防汚性評価基準〕に従って、防汚塗膜の防汚性能を評価した。その結果を表4に示す。これらの結果から明らかなように、本発明の防汚塗膜は良好な防汚性を有する。
(防汚性評価基準)
5:試験面において水生生物に占有されている合計面積が全体の1%未満
4:同上面積が全体の1%以上10%未満
3:同上面積が全体の10%以上30%未満
2:同上面積が全体の30%以上70%未満
1:同上面積が全体の70%以上