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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】トナーバインダー
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/087 20060101AFI20230614BHJP
   C08F 220/18 20060101ALI20230614BHJP
   C08F 218/10 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
G03G9/087 325
G03G9/087 331
C08F220/18
C08F218/10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019090378
(22)【出願日】2019-05-13
(65)【公開番号】P2019215527
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2018109477
(32)【優先日】2018-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】篠原 修一
(72)【発明者】
【氏名】尾高 成志
【審査官】中山 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-130243(JP,A)
【文献】特開2013-097321(JP,A)
【文献】特開2012-098719(JP,A)
【文献】特開2013-130655(JP,A)
【文献】特開2010-217849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/00-9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単量体(a)を必須構成単量体とするビニル樹脂(A)及びアルコール成分(x)とカルボン酸成分(y)とを必須構成単量体とする非晶性ポリエステル樹脂(B)を含有するトナーバインダーであって、単量体(a)が、鎖状炭化水素基を有する炭素数21~40の(メタ)アクリレート及び/又は鎖状炭化水素基を有する炭素数21~40のビニルエステルであり、
ビニル樹脂(A)のDSC測定による融点が40~80℃であり、
ビニル樹脂(A)の比誘電率ε’が2.5~4.0であり、
ビニル樹脂(A)の含有する水分量が500~10000ppmであり、
ビニル樹脂(A)の酸価が19.9mgKOH/g以下であり、
トナーバインダーの重量を基準としてビニル樹脂(A)の重合割合が21~99重量%であり、
ビニル樹脂(A)を構成する単量体の合計重量を基準として単量体(a)の重合割合が15~90重量%であることを特徴とするトナーバインダー。
【請求項2】
前記ビニル樹脂(A)が、単量体(a)以外の単量体(b)を構成単量体とし、単量体(b)のハンセン溶解度パラメーター(HSP)の水素結合項(dH)が5.0以上15.0以下である請求項1に記載のトナーバインダー。
【請求項3】
前記非晶性ポリエステル樹脂(B)の軟化点が90~144℃である請求項1又は2に記載のトナーバインダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナーバインダーに関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンター等における画像の定着方式として一般的に採用されている熱定着方式用のトナーバインダーは、低温定着性、耐ホットオフセット性及び保存安定性等を両立させることが要求されている。このため、トナーバインダーは、定着温度より低い温度では貯蔵弾性率が高く、定着し始める温度では短時間で貯蔵弾性率が低くなり、また高い温度まで一定の貯蔵弾性率を維持するというように、定着温度前後で貯蔵弾性率が適切な値に変化することが求められる。
上述の適切な貯蔵弾性率変化を達成するために、従来のトナーバインダーでは、ポリエステルを主成分として用いている(例えば、特許文献1及び2参照)。
しかし、ポリエステルを主成分とするトナーバインダー及びこれを用いたトナー組成物は、エチレン不飽和結合を有する単量体の重合物に比べて、吸湿を原因とする体積固有抵抗値の低下により帯電特性が劣化するという問題がある。また、ポリエステルを主成分とするトナーバインダーを用いたケミカルトナーを製造する場合は、エチレン不飽和結合を有する単量体を用いる乳化重合や懸濁重合以外の、溶解懸濁法(例えば、特許文献3参照)や乳化凝集法(例えば、特許文献4参照)等の特殊な粒子化技術が必要となり製造コストがかかるという問題があった。
一方、ポリエステルの代わりに、従来のエチレン性不飽和結合を有する単量体の重合物を主成分として用いたトナーバインダーは、分子間凝集力がポリエステルに比べて小さいため、低温定着性と耐ホットオフセット性の両立が困難である。
この課題解決のために、低分子量と高分子量の成分を併用する技術や(例えば、特許文献5参照)、高凝集力を持つ部位を構成単位に使用する技術(例えば、特許文献6参照)などが示されているが、いずれも定着温度範囲での貯蔵弾性率の上昇に伴い、低温定着性が不充分であるという問題がある。
そこで、エチレン不飽和結合を有する単量体の重合物のうち結晶性のアクリレート樹脂や、結晶性のアクリレート樹脂とその他共重合性モノマーとの共重合物を用いることで低温定着性を向上できるとする技術(特許文献7、8など)が提案されている。
しかしながら、これらの技術では結晶性のアクリレート樹脂への酸価の導入や、ヒドロキシ基を有する共重合性モノマーとの共重合物を用いることによる吸湿性の悪化から、保存性が悪化するという問題がある。
以上の技術では、低温定着性、耐ホットオフセット性、保存安定性及び帯電安定性を両立するには不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4493080号公報
【文献】特許第2105762号公報
【文献】特許第3596104号公報
【文献】特許第3492748号公報
【文献】特開平11-327210号公報
【文献】特許第3212860号公報
【文献】特許第4677909号公報
【文献】特開2004-163956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、エチレン性不飽和結合を有する単量体を構成単量体とする重合体を主成分とし、本発明は、低温定着性、耐ホットオフセット性、保存安定性及び帯電安定性に優れたトナーバインダーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、これらの問題点を解決するべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち本発明は、単量体(a)を必須構成単量体とするビニル樹脂(A)及びアルコール成分(x)とカルボン酸成分(y)とを必須構成単量体とする非晶性ポリエステル樹脂(B)を含有するトナーバインダーであって、単量体(a)が、鎖状炭化水素基を有する炭素数21~40の(メタ)アクリレート及び/又は鎖状炭化水素基を有する炭素数21~40のビニルエステルであり、ビニル樹脂(A)のDSC測定による融点が40~80℃であり、ビニル樹脂(A)の比誘電率ε’が2.5~4.0であり、ビニル樹脂(A)の含有する水分量が500~10000ppmであり、ビニル樹脂(A)の酸価が19.9mgKOH/g以下であり、トナーバインダーの重量を基準としてビニル樹脂(A)の重合割合が21~99重量%であり、ビニル樹脂(A)を構成する単量体の合計重量を基準として単量体(a)の重合割合が15~90重量%であることを特徴とするトナーバインダーである。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、低温定着性、耐ホットオフセット性、保存安定性及び帯電安定性に優れたトナーバインダーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳述する。
本発明のトナーバインダーは、単量体(a)を必須構成単量体とするビニル樹脂(A)を含有するトナーバインダーであって、単量体(a)が、鎖状炭化水素基を有する炭素数21~40の(メタ)アクリレート及び/又は鎖状炭化水素基を有する炭素数21~40のビニルエステルであり、ビニル樹脂(A)のDSC測定による融点が40~80℃であり、ビニル樹脂(A)の比誘電率ε’が2.5~4.0であり、ビニル樹脂(A)の含有する水分量が500~10000ppmであり、トナーバインダーの重量を基準としてビニル樹脂(A)の重合割合が21~99重量%であり、ビニル樹脂(A)を構成する単量体の合計重量を基準として単量体(a)の重合割合が15~90重量%であることを特徴とするトナーバインダーである。
【0008】
本発明において「(メタ)アクリル」とは、メタクリル酸あるいはアクリル酸を意味する。
本発明において「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートあるいはアクリレートを意味する。
【0009】
本発明のトナーバインダーは、単量体(a)を必須構成単量体とするビニル樹脂(A)を含有する。
上記の単量体(a)は、鎖状炭化水素基を有する炭素数21~40の(メタ)アクリレート及び/又は鎖状炭化水素基を有する炭素数21~40のビニルエステルである。
鎖状炭化水素基を有する炭素数21~40の(メタ)アクリレートとしては、炭素数18~36の直鎖のアルキル基を有する(メタ)アクリレート[オクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、ヘンエイコサニル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、リグノセリル(メタ)アクリレート、セリル(メタ)アクリレート、モンタニル(メタ)アクリレート、ミリシル(メタ)アクリレート、ドトリアコンタ(メタ)アクリレート等]及び炭素数18~36の分岐のアルキル基を有する(メタ)アクリレート[2-デシルテトラデシル(メタ)アクリレート等]が挙げられる。
鎖状炭化水素基を有する炭素数21~40のビニルエステルとしては、炭素数18~36の直鎖のアルキル基を有するビニルエステル[例えば、ステアリン酸ビニル、ベヘン酸ビニル、トリアコンタン酸ビニル及びヘキサトリアコンタン酸ビニル等]及び炭素数18~36の分岐のアルキル基を有するビニルエステル等が挙げられる。
これらの内、トナーの保存安定性の観点から好ましくは炭素数18~36の直鎖のアルキル基を有する(メタ)アクリレート及び炭素数18~36の直鎖のアルキル基を有するビニルエステルであり、更に好ましくは炭素数18~34の直鎖のアルキル基を有する(メタ)アクリレート及び炭素数18~34の直鎖のアルキル基を有するビニルエステルであり、特に好ましくは炭素数18~30の直鎖のアルキル基を有する(メタ)アクリレート及び炭素数18~30の直鎖のアルキル基を有するビニルエステルであり、最も好ましくはオクタデシル(メタ)アクリレート、ミリシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートである。
単量体(a)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい
【0010】
単量体(a)の重量割合は、ビニル樹脂(A)を構成する単量体の合計重量を基準として15~90重量%であり、好ましくは18~80重量%であり、更に好ましくは20~70重量%であり、特に好ましくは25~65重量%である。
単量体(a)の重量割合が15重量%未満であると低温定着性が悪化し、90重量%より大きいと耐ホットオフセット性が悪化する。
【0011】
本発明のビニル樹脂(A)は、単量体(a)以外の単量体(b)を構成単量体としてさらに含んでもよい。単量体(b)は、単量体(a)以外の単量体で、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)の水素結合項(dH)が好ましくは5.0以上15.0以下、更に好ましくは6以上11以下である単量体であればどのような単量体でも構わない。
単量体(b)の水素結合項(dH)が15.0を超えると、帯電安定性及び保存安定性が悪化し、5.0未満であると保存安定性が悪化する。
【0012】
ハンセン溶解度パラメータとは、ヒルデブランド(Hildebrand)によって導入された溶解度パラメータを、分散項(dD)、極性項(dP)、水素結合項(dH)の3成分に分割し、3次元空間に表したものである。分散項(dD)は分散力による効果、極性項(dP)は双極子間力による効果、水素結合項(dH)は水素結合力による効果を示す。
【0013】
ハンセン溶解度パラメータの定義と計算はCharles M.Hansen著「Hansen Solubility Parameters;A Users Handbook(CRC Press,2007)」に記載されている。また、コンピュータソフトウェア「HSPiP4.1.0」を用いることにより、文献にパラメータ値の記載がない単量体に関しても、その化学構造からハンセン溶解度パラメータを推算することができる。本発明では、文献にパラメータ値の記載がある単量体については、その値を用い、文献にパラメータ値の記載がない単量体に関しては、HSPiPを用いて推算したパラメータ値を用いる。
【0014】
単量体(b)としては例えば、炭素数1~3の炭化水素基を有する(メタ)アクリレート(b1)、炭素数1~3の炭化水素基を有するビニルエステル(b2)、アミンと(メタ)アクリル酸とのアミド(b3)、ニトリル基とビニル基とを有する化合物(b4)、ラクタム環とビニル基とを有する化合物(b5)、カルボキシル基とビニル基とを有する化合物(b6)、水酸基を有する(メタ)アクリレート(b7)及びアルデヒド基を有する(メタ)アクリレート(b8)等が挙げられる。
【0015】
炭素数1~3の鎖状炭化水素基を有する(メタ)アクリレート(b1)としては、アクリル酸メチル(ハンセン溶解度パラメーター(HSP)の水素結合項(dH)の値は9.4であり、以下のカッコ内も同様である)、アクリル酸エチル(6.5)、アクリル酸プロピル(6.5)及びメタクリル酸メチル(5.4)等が挙げられる。
【0016】
炭素数1~3の炭化水素基を有するビニルエステル(b2)としては、例えば、酢酸ビニル(6.8)、ビニル酪酸(6.2)及びイソプロペニルアセテート(6.2)等が挙げられる。
【0017】
アミンと(メタ)アクリル酸とのアミド(b3)としては、アンモニアおよび炭素数1~8のアミンとアクリル酸及びメタクリル酸とを公知の方法で反応させた単量体等が挙げられる。
具体的には、アクリルアミド(12.8)、メタアクリルアミド(11.6)、N-メチルアクリルアミド(9.7)及びN-エチルアクリルアミド(8.7)等が挙げられる。
【0018】
ニトリル基とビニル基とを有する化合物(b4)としては、炭素数1~5のニトリル基とビニル基とを有する化合物(例えばアクリロニトリル(6.8)、メタクリロニトリル(8.5)、4-ペンテンニトリル(5.7)、5-ヘキセンニトリル(5.2)及びα-クロロアクリロニトリル(5.2)等が挙げられる。
【0019】
ラクタム環とビニル基とを有する化合物(b5)としては、炭素数4~8のラクタム環とビニル基とを有する化合物(例えば、ビニルピロリドン(5.9)、N-ビニルピロリドン(6.3)、N-ビニル-3-メチルピロリドン(5.7)、N-ビニルピペリドン(5.7)、N-ビニル-4-メチルピペリドン(5.5)、N-ビニル-カプロラクタム(5.5)及びN-ビニル-2-ピリドン(6.8)等が挙げられる。
炭素数1~3の炭化水素基を有するビニルエステル(b2)としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、ビニルプロピオン酸及びイソプロペニルアセテート等が挙げられる。
【0020】
カルボキシル基とビニル基とを有する化合物(b6)としては、炭素数1~9のカルボキシル基とビニル基とを有する化合物〔例えばメタクリル酸(13.4)、クロトン酸(14.4)、桂皮酸(10.9)、マレイン酸モノメチルエステル(12.7)、フマル酸モノメチルエステル(12.7)、イタコン酸モノメチルエステル(13.7)、シトラコン酸モノエチルエステル(13.9)、3-ブテン酸(14.1)、4-ペンテン酸(12.7)、5-ヘキセン酸(11.6)、6-ヘプテン酸(10.4)、7-オクテン酸(9.9)、8-ノネン酸(9.2)、9-デセン酸(8.6)、10-ウンデセン酸(7.9)及び11-トリデセン酸(7.8)〕等が挙げられる。
なお、本明細書中、カルボキシル基を有する化合物及び構造における炭素数には、カルボキシル基部分に含まれる炭素数は含まない。
【0021】
水酸基を有する(メタ)アクリレート(b7)としては、メタクリル酸ヒドロキシエチル(13.4)、アクリル酸ヒドロキシプロピル(13.7)(2-ヒドロキシプロピルエステル、2-ヒドロキシ-1-メチルエチルエステルのいずれか又はその混合物)、メタクリル酸ヒドロキシプロピル(12.2)(2-ヒドロキシプロピルエステル、2-ヒドロキシ-1-メチルエチルエステルのいずれか又はその混合物)、アクリル酸ヒドロキシブチル(13.0)及びメタクリル酸ヒドロキシブチル(11.7)等が挙げられる。
【0022】
アルデヒド基を有する(メタ)アクリレート(b8)としては、アクロレイン(7.0)及びメタクリロレイン(5.8)等が挙げられる。
【0023】
単量体(b)は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
上記単量体(b)のうち低温定着性と保存安定性との両立の観点から好ましくは、炭素数1~3の炭化水素基を有する(メタ)アクリレート、炭素数1~3の炭化水素基を有するビニルエステル、炭素数1~8のアミンと(メタ)アクリル酸とのアミド、炭素数1~5のニトリル基とビニル基とを有する化合物、炭素数4~8のラクタム環とビニル基とを有する化合物、炭素数1~9のカルボキシル基とビニル基とを有する化合物及び水酸基を有する(メタ)アクリレートである。
更に好ましくは(メタ)アクリル酸、メタクリル酸メチル、酢酸ビニル、ビニルプロピオン、(メタ)アクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ビニルピロリドン、(無水)マレイン酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル及び(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル等である。
【0024】
ビニル樹脂(A)が単量体(b)を含む場合、ビニル樹脂(A)を構成する単量体中の単量体(b)の重量割合は、低温定着性や耐ホットオフセット性の観点から、ビニル樹脂(A)を構成する単量体の合計重量を基準として、好ましくは10~85重量%であり、更に好ましくは15~80重量%であり、特に好ましくは18~75重量%である。
【0025】
ビニル樹脂(A)を構成する単量体(a)と単量体(b)との重量比{(a):(b)}は低温定着性や保存安定性の観点から好ましくは98:2~15:85であり、更に好ましくは70:30~15:85である。
【0026】
ビニル樹脂(A)は構成単量体として(a)以外であり、かつ(b)以外の単量体(c)を含んでもよい。単量体(c)は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
単量体(c)としては、単量体(a)以外であり、かつ単量体(b)以外の単量体であれば特に制限はないが、例えばスチレン、アルキル基の炭素数が1~3のアルキルスチレン(例えばα-メチルスチレン及びp-メチルスチレン等)、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、酪酸ビニル及びイソ酪酸ビニル等が挙げられる。これらのうちトナーとしたときの保存安定性の観点から好ましくはスチレンである。
【0027】
ビニル樹脂(A)を構成する単量体中に単量体(c)を含む場合、単量体(c)の重量割合は保存安定性の観点から、ビニル樹脂(A)を構成する単量体の合計重量を基準として、好ましくは0~40重量%であり、更に好ましくは0~35重量%であり、特に好ましくは0~30重量%であり、最も好ましくは0~25重量%である。
【0028】
本発明におけるビニル樹脂(A)は、単量体(a)と、必要により用いる単量体(b)及び/又は必要により用いる単量体(c)を含有する単量体組成物を公知の方法(例えば、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合、リビングラジカル重合、リビングアニオン重合及びリビングカチオン重合等)で重合することで製造できる。例えば、特開平5-117330号公報に記載の方法(前記単量体を溶媒(トルエン等)中でラジカル開始剤(アゾビスイソブチロニトリル等)とともに反応させ溶液重合法により合成する方法)、及び特開平10-326026号公報に記載の方法で重合する方法等が挙げられる。
【0029】
本発明におけるビニル樹脂(A)の重量平均分子量は、低温定着性及びトナーの耐ホットオフセット性の観点から、好ましくは10,000~3,000,000、更に好ましくは50,000~1,000,000、特に好ましくは50,000~500,000である。ポリマー(A)の重量平均分子量は、重合温度、ラジカル重合開始剤量、連鎖移動剤などで調整できる。
【0030】
ビニル樹脂(A)の重量平均分子量は、ゲルパーミネーションクロマトグラフィー(以降GPCと略記)を用いて以下の条件で測定する。
装置(一例) : HLC-8120 〔東ソー(株)製〕
カラム(一例): TSK GEL GMH6 2本 〔東ソー(株)製〕
測定温度 : 40℃
試料溶液 : 0.25重量%のテトラヒドロフラン溶液(不溶解分をアパチャー1μmのPTFEフィルターでろ過したものを用いる)
移動相 :テトラヒドロフラン(重合禁止剤を含まない)
溶液注入量 : 100μl
検出装置 : 屈折率検出器
基準物質 : 標準ポリスチレン(TSKstandard POLYSTYRENE)12点(重量平均分子量: 500 1050 2800 5970 9100 18100 37900 96400 190000 355000 1090000 2890000) 〔東ソー(株)製〕
【0031】
本発明においてビニル樹脂(A)のDSC測定による融点は40~80℃であり、好ましくは45~80℃、更に好ましくは55~70℃である。
融解ピーク温度Tmが40℃未満の場合は保存安定性が悪くなり、80℃を超えると低温定着性が悪くなる。
【0032】
ビニル樹脂(A)のDSC測定による融点は、ビニル樹脂(A)を構成する単量体の種類、構成比率及び重量平均分子量等で調整することができる。具体的には、ビニル樹脂(A)を構成する単量体(a)の炭素数を増やす、ビニル樹脂(A)を構成する単量体(a)の炭素数の重量比率を増やす、ビニル樹脂(A)の炭素数の重量平均分子量を増やす等の方法により融点を上げることができる。例えば、単量体(a)の炭素数が22であり、単量体(a)の比率が40重量%の場合、重量平均分子量を5000以上とすることで、上記範囲となる。
【0033】
本発明におけるDSC測定は、示差走査熱量計{セイコーインスツルメンツ(株)製、DSC210等}を用いて以下の条件で測定される値である。
<測定条件>
(1)30℃で10分間保持
(2)10℃/分で150℃まで昇温
(3)150℃で10分間保持
(4)10℃/分で0℃まで冷却
(5)0℃で10分間保持
(6)10℃/分で150℃まで昇温
上記(1)~(6)の操作を順に連続して行い、(6)の過程にて測定される示差走査熱量曲線の各吸熱ピークを解析する。
【0034】
ビニル樹脂(A)の比誘電率ε’は2.5~4.0であり、好ましくは2.7~3.9、更に好ましくは3.0~3.9である。これにより、画像形成時において帯電したトナー粒子をより効率よく転写させることができる。
【0035】
ビニル樹脂(A)の比誘電率ε’は、ビニル樹脂(A)を構成する単量体の種類、構成比率及び酸価で調整することができる。具体的には、ビニル樹脂(A)を構成する単量体(a)の炭素数を増やす、ビニル樹脂(A)を構成する単量体(a)の炭素数の重量比率を増やす、ビニル樹脂(A)の酸価を上げる等の方法により比誘電率を上げることができる。例えば、単量体(a)の重量比率が15%の場合、酸価を0以上にすることで比誘電率は上記範囲となる。
【0036】
ビニル樹脂(A)の体積固有抵抗値と誘電率は、以下の条件で測定した。
装置 : 安藤電気(株)製 TR-1100型誘電体損自動測定装置
安藤電気(株)製 TO-198型恒温槽
固体用電極: SE-70型固体用電極
測定環境 : 23℃、50%RH
ビニル樹脂(A)を成型用リング(塩ビ製、φ25mm、高さ5mm)に1.5g入れ、プレス機で98kN×10秒プレスし、厚さ約2.3mm、φ=25mmの円柱状に成型した。成型品を23℃、50%RHで30分以上放置し、成型用リングから外し、成型品の厚さをマイクロメーターで測定した(D、単位μm)。主電極と対電極に挟んで1kHzで測定し、CONDUCTANCE(Gx、単位nS)と静電容量(Cx、単位pF)を記録した。得られた数値を下記式(1)又は(2)に代入することにより体積固有抵抗値及び誘電率を算出した。
体積固有抵抗値=3.14×(0.9)/(Gx×D×10-13) (1)
誘電率=(14.39×Cx×D)/32400 (2)
ビニル樹脂(A)の比誘電率は、算出された誘電率と空気の比誘電率1.000585との比で求められる。
【0037】
ビニル樹脂(A)の含有する水分量が500~10000ppmであり、好ましくは600~6000ppm、更に好ましくは750~3000ppmある。500ppm未満だと帯電安定性が悪くなり、10000ppmを超えると保存安定性が悪化する。
【0038】
ビニル樹脂(A)の含有する水分量は、ビニル樹脂(A)を構成する単量体の種類、構成比率及び酸価で調整することができる。具体的には、ビニル樹脂(A)を構成する単量体として水酸基を有する(メタ)アクリレート(b7)を用いる、ビニル樹脂(A)を構成する単量体(b7)の重量比率を増やす、ビニル樹脂(A)の酸価を上げる等の方法によりビニル樹脂(A)が含有する水分量を増やすことができる。例えば、ビニル樹脂(A)を構成する単量体(b7)としてメタクリル酸ヒドロキシエチルを用い、単量体(b7)の重量割合が4%の場合、ビニル樹脂(A)の酸価を19.9mgKOH/g以下にすることでビニル樹脂(A)の含有する水分量は上記範囲となる。
ビニル樹脂(A)の水分量は、水分気化装置[例えば、商品名:VA-100(三菱ケミカルアナリテック)(気化温度:190℃)]を組み合わせたカールフィッシャー水分測定装置で測定される。
【0039】
ビニル樹脂(A)の重量割合は、トナーバインダーの重量を基準として21~99重量%であり、好ましくは40~95重量%であり、更に好ましくは70~90重量%である。ビニル樹脂(A)の重量割合が21重量%未満の場合は低温定着性が悪くなり、ビニル樹脂(A)の重量割合が99重量%を超える場合は帯電安定性が悪くなる。
【0040】
ビニル樹脂(A)の酸価は、好ましくは19.9mgKOH/g以下であり、更に好ましくは0~15mgKOH/gであり、特に好ましくは0~10mgKOH/gである。ビニル樹脂(A)の酸価が19.9mgKOH/g以下であれば、吸湿性が小さいため、保存安定性が良好である。
【0041】
ビニル樹脂(A)の酸価は、単量体の酸価及び酸価を有する単量体の含有量を調整することで調整できる。ビニル樹脂(A)の酸価は、JIS K 0070に記載の方法で測定される。
【0042】
本発明のトナーバインダーは、アルコール成分(x)とカルボン酸成分(y)とを必須構成単量体とする非晶性ポリエステル樹脂(B)を含有していてもよい。本発明における非晶性ポリエステル樹脂とは、示差走査熱量計を用いて試料の転移温度測定を行った場合に、吸熱ピークのピークトップ温度が存在しないポリエステル樹脂のことである。
【0043】
非晶性ポリエステル樹脂(B)のアルコール成分(x)としては、炭素数2~4の脂肪族ジオール(x1)、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(x2)、(x1)と(x2)以外のジオール(x3)、3価以上のポリオール(x4)及びモノオール(x5)等が挙げられる。
【0044】
炭素数2~4の脂肪族ジオール(x1)としては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール及びジエチレングリコール等が挙げられる。
【0045】
ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(x2)としては、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物(平均付加モル数は好ましくは2~30)が挙げられる。
ビスフェノールAに付加するアルキレンオキサイドとしては、炭素数が2~4のアルキレンオキサイドが好ましく、具体的には、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、1,2-、2,3-、1,3-又はiso-ブチレンオキサイド、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0046】
(x1)と(x2)以外のジオール(x3)としては、炭素数5~36のアルキレングリコール、炭素数4~36のアルキレンエーテルグリコール、炭素数6~36の脂環式ジオール、炭素数6~36の脂環式ジオールのアルキレンオキサイド付加物及び2価フェノール等が挙げられる。
炭素数5~36のアルキレングリコールとしては、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール及び1,12-ドデカンジオール等が挙げられる。
炭素数4~36のアルキレンエーテルグリコールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びポリテトラメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。
炭素数6~36の脂環式ジオールとしては、1,4-シクロヘキサンジメタノール及び水素添加ビスフェノールA等が挙げられる。
炭素数6~36の脂環式ジオールのアルキレンオキサイド付加物としては、炭素数6~36の脂環式ジオールのアルキレンオキサイド付加物(平均付加モル数は好ましくは2~4)等が挙げられる。
2価フェノールとしては、単環2価フェノール(例えばハイドロキノン)及びビスフェノールA以外のビスフェノール化合物のアルキレンオキサイド付加物(好ましくは平均付加モル数2~30)等が挙げられる。
【0047】
ビスフェノール化合物のアルキレンオキサイド付加物は、ビスフェノール化合物にアルキレンオキサイド(以下、「アルキレンオキサイド」をAOと略記することがある。)を付加して得られる。ビスフェノール化合物としては、下記一般式(2)で示されるものが挙げられる。
【0048】
HO-Ar-X-Ar-OH (2)
[式中、Xは炭素数1~3のアルキレン基、-SO-、-O-、-S-又は直接結合を表わす。Arは、水素原子がハロゲン原子又は炭素数1~30のアルキル基で置換されていてもよいフェニレン基を表す。]
【0049】
ビスフェノール化合物とは、例えばビスフェノールF、ビスフェノールB、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、トリクロロビスフェノールA、テトラクロロビスフェノールA、ジブロモビスフェノールF、2-メチルビスフェノールA、2,6-ジメチルビスフェノールA及び2,2’-ジエチルビスフェノールF等が挙げられる。
【0050】
3価以上のポリオール(x4)としては、炭素数3~36の3価以上の脂肪族多価アルコール(アルカンポリオール及びその分子内又は分子間脱水物、例えばグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、ポリグリセリン及びジペンタエリスリトール)、糖類及びその誘導体(例えばショ糖及びメチルグルコシド)、上記脂肪族多価アルコールのAO付加物(平均付加モル数は好ましくは1~30)、トリスフェノール類(トリスフェノールPA等)のAO付加物(平均付加モル数は好ましくは2~30)及びノボラック樹脂(フェノールノボラック及びクレゾールノボラック等が含まれ、平均重合度としては好ましくは3~60)のAO付加物(平均付加モル数は好ましくは2~30)等が挙げられる。
【0051】
モノオール(x5)としては、炭素数1~30のアルカノール(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ドデシルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール及びステアリルアルコール等)等が挙げられる。
【0052】
上記非晶性ポリエステル樹脂(B)のアルコール成分(x)は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
これらのアルコール成分(x)のうち低温定着性の観点から、好ましくは炭素数2~4の脂肪族ジオール、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物であり、更に好ましくは1.2-プロピレングリコール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物及びビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物である。
【0053】
非晶性ポリエステル樹脂(B)のカルボン酸成分(y)としては、モノカルボン酸(y1)及びポリカルボン酸(y2)等が挙げられる。
【0054】
モノカルボン酸(y1)としては、脂肪族(脂環式を含む)モノカルボン酸及び芳香族モノカルボン酸等が挙げられる。
脂肪族(脂環式を含む)モノカルボン酸としては、炭素数1~30のアルカンモノカルボン酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、イソブタン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、セロチン酸、モニタン酸及びメリシン酸等)及び炭素数3~24のアルケンモノカルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸、オレイン酸及びリノール酸等)等が挙げられる。
芳香族モノカルボン酸としては、炭素数7~36の芳香族モノカルボン酸(安息香酸、メチル安息香酸、p-t-ブチル安息香酸、フェニルプロピオン酸及びナフトエ酸等)等が挙げられる。
【0055】
ポリカルボン酸(y2)としては、ジカルボン酸(y21)及び/又は3価又以上のポリカルボン酸(y22)が挙げられる。
【0056】
ジカルボン酸(y21)としては、炭素数4~36のアルカンジカルボン酸(例えばコハク酸、アジピン酸及びセバシン酸)、炭素数6~40の脂環式ジカルボン酸〔例えばダイマー酸(2量化リノール酸)〕、炭素数4~36のアルケンジカルボン酸(例えばドデセニルコハク酸等のアルケニルコハク酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸及びメサコン酸)、炭素数8~36の芳香族ジカルボン酸(例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸及びナフタレンジカルボン酸等)及びこれらのエステル形成性誘導体〔低級アルキル(アルキル基の炭素数1~4:メチル、エチル、n-プロピル等)エステル及び酸無水物、以下のエステル形成性誘導体も同様。〕等が挙げられる。
【0057】
3価以上のポリカルボン酸(y22)としては、炭素数9~20の芳香族ポリカルボン酸(トリメリット酸及びピロメリット酸等)、炭素数6~36の脂肪族ポリカルボン酸(ヘキサントリカルボン酸等)及びこれらのエステル形成性誘導体(酸無水物及び低級アルコールとのエステル等)等が挙げられる。
【0058】
上記非晶性ポリエステル樹脂(B)のカルボン酸成分(y)は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
これらのカルボン酸成分(y)のうち低温定着性と耐ホットオフセットの観点から、好ましくは炭素数4~36のアルカンジカルボン酸、炭素数4~36のアルケンジカルボン酸、炭素数8~36の芳香族ジカルボン酸及び炭素数9~20の芳香族ポリカルボン酸であり、更に好ましくはアジピン酸、フマル酸、テレフタル酸及びトリメリット酸である。
【0059】
アルコール成分(x)とカルボン酸成分(y)との反応比率は、水酸基とカルボキシル基の当量比[OH]/[COOH]として、好ましくは2/1~1/2、更に好ましくは1.5/1~1/1.3、特に好ましくは1.3/1~1/1.2である。
【0060】
本発明において、アルコール成分(x)とカルボン酸成分(y)との重縮合は、公知のエステル化反応を利用して行うことができる。一般的な方法として、例えば、不活性ガス(窒素ガス等)雰囲気中で、重合触媒の存在下、反応温度が好ましくは150~280℃、更に好ましくは180~270℃、特に好ましくは200~260℃で反応させることにより行うことができる。また反応時間は、重縮合反応を確実に行う観点から、好ましくは30分以上、特に2~40時間である。
反応末期の反応速度を向上させるために減圧することも有効である。
【0061】
重合触媒としては、反応性と環境保護の点から、チタン、アンチモン、ジルコニウム、ニッケル及びアルミニウムから選ばれる一種以上の金属を含有する重合触媒を用いるのが好ましく、チタン含有触媒を用いるのが更に好ましい。
チタン含有触媒としては、チタンアルコキシド、シュウ酸チタン酸カリウム、テレフタル酸チタン、特開2006-243715号公報に記載の触媒〔チタニウムジヒドロキシビス(トリエタノールアミネート)、チタニウムモノヒドロキシトリス(トリエタノールアミネート)、及びそれらの分子内重縮合物等〕及び特開2007-11307号公報に記載の触媒(チタントリブトキシテレフタレート、チタントリイソプロポキシテレフタレート及びチタンジイソプロポキシジテレフタレート等)等が挙げられる。
アンチモン含有触媒としては、三酸化アンチモン等が挙げられる。
ジルコニウム含有触媒としては、酢酸ジルコニル等が挙げられる。
ニッケル含有触媒としては、ニッケルアセチルアセトナート等が挙げられる。
アルミニウム含有触媒としては、水酸化アルミニウム及びアルミニウムトリイソプロポキシド等が挙げられる。
【0062】
触媒の添加量は、反応速度が最大になるように適宜決定することが望ましい。添加量としては、全原料に対し、好ましくは10ppm~1.9重量%、更に好ましくは100ppm~1.7重量%である。添加量を10ppm以上とすることで反応速度が大きくなる点で好ましい。
【0063】
非晶性ポリエステル樹脂(B)のガラス転移点は、好ましくは45~80℃であり、更に好ましくは50~80℃である。非晶性ポリエステル樹脂(B)のガラス転移点は重量平均分子量、アルコール成分(x)、カルボン酸成分(y)の構造、組成比等で調整可能であり、エステル基濃度や芳香環濃度など、調整因子は一般的に知られている方法を用いることができる。
非晶性ポリエステル樹脂(B)のガラス転移点が、45℃以上であると保存安定性が良好であり、80℃以下であると低温定着性が良好である。
【0064】
非晶性ポリエステル樹脂(B)のガラス転移点は、セイコーインスツル(株)製DSC20、SSC/580を用いて、ASTM D3418-82に規定の方法(DSC法)で測定される。
具体的には試料5mgをガラス転移終了時より約30℃高い温度まで毎分20℃で加熱し、ガラス転移温度より約50℃低い温度まで毎分60℃で冷却した後、ガラス転移終了時より約30℃高い温度まで毎分20℃で加熱する。
上記測定によって得られたデータから、縦軸を吸発熱量、横軸を温度とするグラフを描き、そのグラフの低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線の勾配が最大になるような点で引いた接線との交点の温度をガラス転移温度とする。
【0065】
本発明における非晶性ポリエステル樹脂(B)の重量平均分子量は、低温定着性及び保存安定性の観点から、好ましくは3,000~15,000、更に好ましくは4,000~12,000、特に好ましくは4,500~10,000である。本発明における非晶性ポリエステル樹脂(B)の重量平均分子量は、アルコール成分(x)、カルボン酸成分(y)の仕込み比などで調整できる。非晶性ポリエステル樹脂(B)の重量平均分子量の測定は、ビニル樹脂(A)の重量平均分子量の測定と同様の方法で行える。
【0066】
非晶性ポリエステル樹脂(B)の酸価は、好ましくは1~30mgKOH/gであり、更に好ましくは1~25mgKOH/gであり、特に好ましくは1~20mgKOH/gである。非晶性ポリエステル樹脂(B)の酸価が1mgKOH/g以上であれば帯電安定性が良好であり、30mgKOH/g以下であれば保存安定性が良好である。
【0067】
非晶性ポリエステル樹脂(B)の酸価は、単量体の酸価及び酸価を有する単量体の含有量を調整することで調整できる。非晶性ポリエステル樹脂(B)の酸価は、例えばJIS K 0070などの方法で測定される。
【0068】
非晶性ポリエステル樹脂(B)の軟化点は、保存安定性の観点から好ましくは90~144℃であり、更に好ましくは95~130℃であり、更に好ましくは95~120℃である。
【0069】
本発明における非晶性ポリエステル樹脂(B)の軟化点は以下の条件で測定される。
フローテスター{たとえば、(株)島津製作所製、CFT-500D}を用いて、1gの測定試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出して、「プランジャー降下量(流れ値)」と「温度」とのグラフを描き、プランジャーの降下量の最大値の1/2に対応する温度をグラフから読み取り、この値(測定試料の半分が流出したときの温度)を軟化点とする。
【0070】
非晶性ポリエステル樹脂(B)を含む場合、ビニル樹脂(A)と非晶性ポリエステル樹脂(B)との重量比は好ましくは99/1~21/79であり、更に好ましくは95/5~40/60である。99/1以上であれば帯電安定性が悪化し、21/79以下であれば低温定着性が悪化する。
【0071】
本発明のトナーバインダーは、ビニル樹脂(A)及び非晶性ポリエステル樹脂(B)等を、単に公知の機械的混合方法(例えばメカニカルスターラーやマグネティックスターラーを用いる方法)を用いることによって均一混合することで製造する方法、ビニル樹脂(A)と非晶性ポリエステル樹脂(B)等とを、溶剤中に同時に溶解して均一化し、その後溶剤を除去することで製造する方法等で得ることができる。
機械的混合方法を用いる場合の混合時の温度としては、50~200℃であることが好ましい。また、混合時間としては、0.5~24時間であることが好ましい。
溶剤に溶解する方法を用いる場合は、溶剤としては特に制限はなく、トナーバインダーを構成する全てのポリマーを好適に溶解するものであれば良い。例えば、トルエン及びアセトン等を挙げられる。
溶剤を除去する時の温度は50~200℃であることが好ましく、必要に応じて減圧や排風することで溶剤の除去を促進することができる。
【0072】
本発明のトナーバインダーをトナーとして用いる場合は、必要により着色剤、離型剤、荷電制御剤及び流動化剤等を含有してもよい。
【0073】
着色剤としては、トナー用着色剤として使用されている染料、顔料等のすべてを使用することができる。例えば、カーボンブラック、鉄黒、スーダンブラックSM、ファーストイエローG、ベンジジンイエロー、ピグメントイエロー、インドファーストオレンジ、ピグメントレッド、イルガシンレッド、パラニトロアニリンレッド、トルイジンレッド、カーミンFB、ピグメントオレンジR、レーキレッド2G、ローダミンFB、ローダミンBレーキ、メチルバイオレットBレーキ、フタロシアニンブルー、ピグメントブルー、ブリリアントグリーン、フタロシアニングリーン、ピグメントイエロー、オイルイエローGG、カヤセットYG、オラゾールブラウンB及びオイルピンクOP等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。また、必要により磁性粉(鉄、コバルト、ニッケル等の強磁性金属の粉末もしくはマグネタイト、ヘマタイト、フェライト等の化合物)を着色剤としての機能を兼ねて含有させることができる。
着色剤の含有量は、本発明のトナーバインダー100部に対して、好ましくは1~40部、更に好ましくは3~10部である。なお、磁性粉を用いる場合は、好ましくは20~150部、更に好ましくは40~120部である。
上記及び以下において、部は重量部を意味する。
【0074】
離型剤としては、軟化点が50~170℃のものが好ましく、ポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス等の脂肪族炭化水素系ワックス及びそれらの酸化物、カルナバワックス、モンタンワックス、サゾールワックス及びそれらの脱酸ワックス、脂肪酸エステルワックス等のエステルワックス、脂肪酸アミド類、脂肪酸類、高級アルコール類、脂肪酸金属塩等が挙げられる。
なお、離型剤の軟化点は非晶性ポリエステル樹脂(B)の軟化点と同様の条件で測定される。
【0075】
ポリオレフィンワックスとしては、オレフィン(エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ヘキセン、1-ドデセン、1-オクタデセン及びこれらの混合物等)の(共)重合体[(共)重合により得られるもの及び熱減成型ポリオレフィンを含む]、(例えば低分子量ポリプロピレン、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレンポリエチレン共重合体)、オレフィンの(共)重合体の酸素及び/又はオゾンによる酸化物、オレフィンの(共)重合体のマレイン酸変性物[マレイン酸及びその誘導体(無水マレイン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノブチル及びマレイン酸ジメチル等)変性物等]、オレフィンと不飽和カルボン酸[(メタ)アクリル酸、イタコン酸及び無水マレイン酸等]及び/又は不飽和カルボン酸アルキルエステル[(メタ)アクリル酸アルキル(アルキルの炭素数1~18)エステル及びマレイン酸アルキル(アルキルの炭素数1~18)エステル等]等との共重合体及びサゾールワックス等が挙げられる。
【0076】
上記の中では低温定着性や耐ホットオフセット性の観点から好ましくは、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、カルナバワックス及びエステルワックス及びアミドワックスである
【0077】
荷電制御剤としては、正帯電性荷電制御剤及び負帯電性荷電制御剤のいずれを含有していてもよく、ニグロシン染料、3級アミンを側鎖として含有するトリフェニルメタン系染料、4級アンモニウム塩、ポリアミン、イミダゾール誘導体、4級アンモニウム塩基含有重合体、含金属アゾ染料、銅フタロシアニン染料、サリチル酸金属塩、ベンジル酸のホウ素錯体、スルホン酸基含有重合体、含フッ素系重合体及びハロゲン置換芳香環含有重合体等が挙げられる。
【0078】
流動化剤としては、シリカ、チタニア、アルミナ、炭酸カルシウム、脂肪酸金属塩、シリコーン樹脂粒子及びフッ素樹脂粒子等が挙げられ、2種以上を併用してもよい。トナーの帯電性の観点からシリカが好ましい。また、シリカは、トナーの転写性の観点から疎水性シリカであることが好ましい。
【0079】
本発明のトナーバインダーをトナーとして用いる場合のトナーの組成比は、本発明のトナーバインダーがトナーの重量を基準として、好ましくは30~97重量%、更に好ましくは40~95重量%、特に好ましくは45~92重量%である。
着色剤はトナーの重量を基準として、好ましくは0.05~60重量%、更に好ましくは0.1~55重量%、特に好ましくは0.5~50重量%である。
離型剤はトナーの重量を基準として、好ましくは0~30重量%、更に好ましくは0.5~20重量%、特に好ましくは1~10重量%である。
荷電制御剤はトナーの重量を基準として、好ましくは0~20重量%、更に好ましくは0.1~10重量%、特に好ましくは0.5~7.5重量%である。
流動化剤はトナーの重量を基準として、好ましくは0~10重量%、更に好ましくは0~5重量%、特に好ましくは0.1~4重量%である。
また、添加剤の合計含有量はトナーの重量を基準として、好ましくは3~70重量%、更に好ましくは4~58重量%、特に好ましくは5~50重量%である。
トナーの組成比が上記の範囲であることで帯電性が良好なものを容易に得ることができる。
【0080】
本発明のトナーバインダーをトナーとして用いる場合のトナーの製造方法は特に限定されず、混練粉砕法、乳化転相法、乳化重合法、懸濁重合法、溶解懸濁法及び乳化凝集法等のいずれの方法により得られたものであってもよい。
これらの製造方法のうち、生産性、低温定着性および保存性の観点から混練粉砕法および溶解懸濁法が好ましい。
【0081】
例えば、混練粉砕法によりトナーを得る場合、流動化剤を除くトナーを構成する成分をヘンシェルミキサー、ナウターミキサー及びバンバリーミキサー等で乾式ブレンドした後、二軸混練機、エクストルーダー、コンティニアスニーダー及び3本ロール等の連続式の混合装置で溶融混練し、その後ミル機等で粗粉砕し、最終的に気流式微粉砕機等を用いて微粒子化して、さらにエルボジェット等の分級装置で粒度分布を調整することにより、体積平均粒径(D50)が好ましくは5~20μmの微粒子とした後、流動化剤を混合して製造することができる。なお、体積平均粒径(D50)はコールターカウンター[例えば、商品名:マルチサイザーIII(コールター社製)]を用いて測定される。
具体的には、電解水溶液であるISOTON-II(ベックマン・コールター社製)100~150mL中に分散剤として界面活性剤(アルキルベンゼンスルホン酸塩)を0.1~5mL加える。さらに測定試料を2~20mg加え、試料を懸濁した電解液を、超音波分散器で約1~3分間分散処理を行い、前記測定装置により、アパーチャーとして50μmアパーチャーを用いて、トナー粒子の体積、個数を測定して、体積分布と個数分布を算出する。得られた分布から、トナー粒子の体積平均粒径(D50)(μm)、個数平均粒径(μm)、粒度分布(体積平均粒径/個数平均粒径)を求める。
【0082】
乳化転相法によりトナーを得る場合、流動化剤を除くトナーを構成する成分を有機溶剤に溶解又は分散後、水を添加する等によりエマルジョン化し、次いで分離、分級して製造することができる。トナーの体積平均粒径は、3~15μmが好ましい。
【0083】
乳化重合法及び懸濁重合法は、公知の方法[特公昭36-10231号公報、特公昭47-518305号公報、特公昭51-14895号公報等に記載の方法]を用いることができる。
【0084】
溶解懸濁法及び乳化凝集法は、公知の方法[特許第3596104号公報、特許第3492748号公報等に記載の方法]を用いることができる。
【0085】
本発明のトナーバインダーに用いられるトナーは、必要に応じて鉄粉、ガラスビーズ、ニッケル粉、フェライト、マグネタイト及び樹脂(アクリル重合体、及びシリコーン重合体等)により表面をコーティングしたフェライト等のキャリアー粒子と混合されて電気的潜像の現像剤として用いられる。トナーとキャリアー粒子との重量比は、1/99~100/0である。また、キャリアー粒子の代わりに帯電ブレード等の部材と摩擦し、電気的潜像を形成することもできる。
【0086】
本発明のトナーバインダーは、電子写真用トナーとして複写機及びプリンター等により支持体(紙及びポリエステルフィルム等)に定着して記録材料とされる。支持体に定着する方法としては、公知の熱ロール定着方法及びフラッシュ定着方法等が適用できる。
【実施例
【0087】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り部は重量部を示す。
【0088】
<製造例1>
オートクレーブにトルエン30部を仕込み、窒素で置換した後、170℃まで昇温した。次いで、同温度で単量体(a)であるベヘニルアクリレート64部、単量体(c)であるスチレン18部、単量体(b)であるアクリロニトリル18部、ジ-t-ブチルパーオキサイド0.7部及びトルエン10部の混合溶液を、同温度で3時間かけて滴下し、更に同温度で1時間保持して、ビニル樹脂(A1)のトルエン溶液を得た。次いで、得られたトルエン溶液において、1kPa以下でトルエンを除去し、ガスクロマトグラフィーにより樹脂中のトルエンが100ppm以下であることを確認し取出した後、温度40℃、湿度80%の恒温恒湿機にて48時間調湿することで、ビニル樹脂(A1)を得た。
用いた単量体(b)のハンセン溶解度パラメーター(HSP)の水素結合項(dH)、ビニル樹脂(A1)の重量平均分子量、融点、比誘電率、水分量及び酸価を表1に記載した。
【0089】
<製造例2~10>
表1に記載の単量体及びその他の原料を指定の重量部としたこと以外は製造例1と同様にしてビニル樹脂(A2)~(A10)を得た。物性はそれぞれ表1に示した。
【0090】
<製造例11>
攪拌及び還流冷却装置並びに温度計を備えた4ツ口フラスコにベヘン酸2040部、酢酸ビニル2067部、塩化パラジウム0.044部、臭化リチウム0.10部、第三リン酸ナトリウム0.984を仕込み、攪拌下に70℃にて40時間反応させた後、減圧蒸留にてベヘン酸ビニル1527部を得た。
【0091】
<製造例12>
オートクレーブにトルエン30部を仕込み、窒素で置換した後、170℃まで昇温した。次いで、同温度で単量体(a)である製造例11で得たベヘン酸ビニル68部、単量体(c)であるスチレン18部、単量体(b)であるアクリロニトリル18部、ジ-t-ブチルパーオキサイド1.1部及びトルエン10部の混合溶液を、同温度で3時間かけて滴下し、更に同温度で1時間保持して、ビニル樹脂(A11)のトルエン溶液を得た。次いで、得られたトルエン溶液において、1kPa以下でトルエンを除去し、ガスクロマトグラフィーにより樹脂中のトルエンが100ppm以下であることを確認し取出した後、温度40℃、湿度80%の恒温恒湿機にて48時間調湿することで、ビニル樹脂(A11)を得た。
用いた単量体(b)のハンセン溶解度パラメーター(HSP)の水素結合項(dH)、ビニル樹脂(A11)の重量平均分子量、融点、比誘電率、水分量及び酸価を表1に記載した。
【0092】
<製造例13>
撹拌機付のオートクレーブにキシレン100部、単量体(a)であるベヘニルアクリレート100部、チオグリコール酸1.5部を仕込み、窒素で置換した後、撹拌下密閉状態で85℃まで昇温した。ジ-t-ブチルパーオキシド[アゾV65、富士フィルム和光純薬(株)製、以下同様]0.80部を仕込み、オートクレーブ内温度を85℃のまま同温度にコントロールしながら3時間かけて重合を行った。その後更に105℃まで昇温し、105℃で1時間撹拌した後に30℃まで冷却した。冷却後、反応容器内に単量体(b)であるメタクリル酸ヒドロキシエチル(東京化成工業(株)製)2.5部を加え55℃まで昇温した後、シジクロヘキシルカルボジイミド(東京化成工業(株)製)4部、4-メチルアミノピリジン(東京化成工業(株)製)0.1部、t-Buハイドロキノン(東京化成工業(株)製)0.1部をクロロホルム20部に溶解した混合液を1時間かけて滴下した。その後更に55℃で5時間撹拌を行った。その後35℃まで冷却して固形分を除いた溶解分をメタノール沈殿法により精製した。得られた固形分を減圧乾燥して白色固体モノマーを得た。白色固体モノマーは重量平均分子量が6,000であり、融点はで65℃あった。重量平均分子量と融点はビニル樹脂(A)と同様の方法で測定を行った。
次に、別のオートクレーブにトルエン30部を仕込み、窒素で置換した後、170℃まで昇温した。次いで、同温度で白色固体モノマー64部、単量体(c)であるスチレン18部、単量体(b)であるアクリロニトリル18部、ジ-t-ブチルパーオキサイド0.7部及びトルエン10部の混合溶液を、同温度で3時間かけて滴下し、更に同温度で1時間保持して、ビニル樹脂(A12)のキシレン溶液を得た。次いで、得られたトルエン溶液において、1kPa以下でトルエンを除去し、ガスクロマトグラフィーにより樹脂中のトルエンが100ppm以下であることを確認し取出した後、温度40℃、湿度80%の恒温恒湿機にて48時間調湿することで、ビニル樹脂(A12)を得た。
用いた単量体(b)のハンセン溶解度パラメーター(HSP)の水素結合項(dH)、ビニル樹脂(A12)の重量平均分子量、融点、比誘電率、水分量及び酸価を表1に記載した。
【0093】
<製造例14>
撹拌機付のオートクレーブにキシレン100部、単量体(b)であるアクリロニトリル100部、チオグリコール酸1.8部を仕込み、窒素で置換した後、撹拌下密閉状態で85℃まで昇温した。ジ-t-ブチルパーオキシド[アゾV65、富士フィルム和光純薬(株)製、以下同様]1.05部を仕込み、オートクレーブ内温度を85℃のまま同温度にコントロールしながら3時間かけて重合を行った。その後更に105℃まで昇温し、105℃で1時間撹拌した後に30℃まで冷却した。冷却後、反応容器内に単量体(b)であるメタクリル酸ヒドロキシエチル(東京化成工業(株)製)1.9部を加え55℃まで昇温した後、シジクロヘキシルカルボジイミド(東京化成工業(株)製)3.1部、4-メチルアミノピリジン(東京化成工業(株)製)0.1部、t-Buハイドロキノン(東京化成工業(株)製)0.1部をクロロホルム20部に溶解した混合液を1時間かけて滴下した。その後更に55℃で5時間撹拌を行った。その後35℃まで冷却してメタノール沈殿法により精製した。得られた固形分を減圧乾燥して白色固体モノマーを得た。白色固体モノマーは重量平均分子量が9,300であり、ガラス転移点は55℃あった。重量平均分子量と融点はビニル樹脂と同様の方法で測定を行った。
さらに、別のオートクレーブにトルエン30部を仕込み、窒素で置換した後、170℃まで昇温した。次いで、同温度でベヘニルアクリレート64部、単量体(c)であるスチレン18部、単量体(b)である白色固体モノマー18部、ジ-t-ブチルパーオキサイド0.7部及びトルエン10部の混合溶液を、同温度で3時間かけて滴下し、更に同温度で1時間保持して、ビニル樹脂(A13)のキシレン溶液を得た。次いで、得られたトルエン溶液において、1kPa以下でトルエンを除去し、ガスクロマトグラフィーにより樹脂中のトルエンが100ppm以下であることを確認し取出した後、温度40℃、湿度80%の恒温恒湿機にて48時間調湿することで、ビニル樹脂(A13)を得た。
用いた単量体(b)のハンセン溶解度パラメーター(HSP)の水素結合項(dH)、ビニル樹脂(A13)の重量平均分子量、融点、比誘電率、水分量及び酸価を表1に記載した。
【0094】
【表1】
【0095】
表1中、単量体(b)の化合物名に続けて記載した括弧内に単量体(b)のハンセン溶解度パラメーター(HSP)の水素結合項(dH)の値を記載した。
また、物性欄に記載したビニル樹脂(A)を構成する単量体(b)の(dH)は、使用した単量体(b)が1種類であればその(dH)を、使用した単量体(b)が2種以上である場合には使用した単量体(b)の(dH)を単量体(b)の重量比に基づいて計算した平均値を記載した。
【0096】
<比較製造例1~5>
表2に記載の単量体及びその他の原料を指定の重量部としたこと以外は製造例1と同様にしてビニル樹脂(A´1)~(A´5)を得た。物性はそれぞれ表2に示した。
【0097】
【表2】
【0098】
<製造例15>
冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールAのEO2モル付加物365部、ビスフェノールAのPO2モル付加物339部、テレフタル酸266部、アジピン酸8部、無水トリメリット酸29部、縮合触媒としてチタニウムジイソプロポキシビストリエタノールアミネート2.5部を入れ、230℃で窒素気流下に、生成する水を留去しながら4時間反応させ、0.5~2.5kPaの減圧下に5時間反応させた後取り出し、非晶性ポリエステル樹脂(B1)を得た。物性を表3に示した。
【0099】
<製造例16>
冷却管、撹拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、ビスフェノールAのPO2モル付加物752部、テレフタル酸313部、フマル酸1部、無水トリメリット酸1部、縮合触媒としてチタニウムジイソプロポキシビストリエタノールアミネート2.5部を入れ、230℃で窒素気流下に、生成する水を留去しながら4時間反応させ、0.5~2.5kPaの減圧下に5時間反応させた後取り出し、非晶性ポリエステル樹脂(B2)を得た。物性を表3に示した。
【0100】
【表3】
【0101】
<実施例1> [トナー(T-1)の作成]
トナーバインダーとしてビニル樹脂(A1)80部、非晶性ポリエステル樹脂(B1)9部、着色剤としてカーボンブラック[三菱ケミカル(株)製、MA-100]6部、離型剤としてカルナウバワックス[日本ワックス社製、カルナウバワックス]4部、荷電制御剤としてアイゼンスピロンブラック[保土谷化学(製)、T-77]4部を加え下記の方法でトナー化した。まず、ヘンシェルミキサー[日本コークス工業(株)製 FM10B]を用いて予備混合した後、二軸混練機[(株)池貝製 PCM-30]で混練した。ついで気流式微粉砕機[(株)栗本鐵工所製 KJ-25]を用いて微粉砕した後、エルボジェット分級機[(株)マツボー製 EJ-L-3(LABO)型]で分級し、体積平均粒径(D50)が8μmのトナー粒子を得た。
ついで、トナー粒子99部に流動化剤として疎水性シリカ[日本アエロジル(株)製、アエロジルR972]1部をサンプルミルにて混合して、本発明のトナー(T-1)を得た。
【0102】
<実施例2~19>
[トナー(T-2)~(T-19)の作成]
表4に記載のビニル樹脂(A)及び非晶性ポリエステル樹脂(B)を指定の重量部としたこと以外は実施例1と同様にしてトナー(T-2)~(T-19)を得た。
【0103】
【表4】
【0104】
<比較例1~7>
[トナー(T´-1)~(T´-7)の作成]
表5に記載のビニル樹脂(A)及び非晶性ポリエステル樹脂(B)を指定の重量部としたこと以外は実施例1と同様にしてトナー(T´-1)~(T´-7)を得た。
【0105】
【表5】
【0106】
[性能評価]
得られたトナーの低温定着性、保存安定性、耐ホットオフセット性、帯電安定性の測定方法、評価方法、判定基準を以下の方法で行った。その結果を表4及び表5に示した。
【0107】
<低温定着性>
トナーを紙面上に0.8mg/cmとなるよう均一に載せる。このとき粉体を紙面に載せる方法は、熱定着機を外したプリンターを用いる。上記の重量密度で粉体を均一に載せることができるのであれば他の方法を用いてもよい。
この紙を加圧ローラーに定着速度(加熱ローラ周速)213mm/sec、定着圧力(加圧ローラ圧)10kg/cmの条件で通した時のコールドオフセットの発生温度(MFT)を測定した。
コールドオフセットの発生温度が低いほど、低温定着性に優れることを意味する。この評価条件では一般に125℃以下が必要とされる
【0108】
<保存安定性>
50℃、湿度80%に温調調湿された乾燥機にトナーを15時間静置し、ブロッキングの有無を目視で判断し、下記の基準で保存安定性を評価した。
[判定基準]
○:ブロッキングは発生していない
×:ブロッキングが発生している
【0109】
<耐ホットオフセット性>
トナーを紙面上に0.6mg/cmとなるよう均一に載せる。このときトナーを紙面に載せる方法は、熱定着機を外したプリンターを用いた。この紙を加圧ローラーに定着速度(加熱ローラ周速)213mm/sec、定着圧力(加圧ローラ圧)5kg/cmの条件で通した時のホットオフセット温度を測定した。
この評価条件では一般に180℃以上が必要とされる。
【0110】
<帯電安定性>
トナー0.5gとフェライトキャリア(パウダーテック社製、F-150)20gとを50mlのガラス瓶に入れ、相対湿度(1)50%(2)85%で8時間以上調湿する。
ターブラーシェーカーミキサーにて50rpm×10および60分間摩擦撹拌し、それぞれの時間毎に帯電量を測定した。測定にはブローオフ帯電量測定装置[東芝ケミカル(株)製]を用いた。相対湿度50%の摩擦時間10分の帯電量をもって飽和帯電量とした。また、「相対湿度85%の摩擦時間60分の帯電量/相対湿度50%の摩擦時間60分の帯電量」を計算し、これを帯電安定性の指標とした。
この評価条件では一般に0.40以上の数値が必要とされる。
【0111】
表4及び表5の評価結果から明らかなように、本発明のトナーバインダーを用いたトナー(実施例1~19)は、比較のトナー(比較例1~7)と比べて、低温定着性と保存安定性を両立させつつ、耐ホットオフセット性及び帯電安定性が著しく良好である結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明のトナーバインダーを用いたトナーは、低温定着性、耐ホットオフセット性及び保存安定性に優れるため、電子写真、静電記録及び静電印刷等に用いる静電荷像現像用トナーとして有用である。