(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】細隙灯顕微鏡
(51)【国際特許分類】
A61B 3/135 20060101AFI20230614BHJP
G02B 21/06 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
A61B3/135
G02B21/06
(21)【出願番号】P 2019158677
(22)【出願日】2019-08-30
【審査請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】川西 悠貴
(72)【発明者】
【氏名】大塚 浩之
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-037725(JP,A)
【文献】米国特許第05713047(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00- 3/18
G02B 19/00-21/00
G02B 21/06-21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明光を出射する光源と、
前記光源から出射された前記照明光からスリット光を生成するスリットを有し、前記スリットから前記スリット光を出射するスリット部と、
前記スリット部が出射した前記スリット光を被検眼に向けて偏向する偏向光学素子と、
前記スリット部と前記偏向光学素子との間の位置であって且つ前記光源との関係で予め定められた位置に配置されている第1絞りと、
前記第1絞りと光学的に共役な位置を第1共役位置とした場合に、1又は複数の前記第1共役位置
のうち、少なくとも前記光源と前記スリット部との間の前記第1共役位置に
配置されている第2絞りと、
を備える細隙灯顕微鏡。
【請求項2】
前記第1絞りの開口部と前記第2絞りの開口部とが相似形状である請求項1に記載の細隙灯顕微鏡。
【請求項3】
前記第1絞りの開口部と前記第2絞りの開口部とが矩形状である請求項2に記載の細隙灯顕微鏡。
【請求項4】
前記スリット部が、前記被検眼と光学的に共役な第2共役位置に配置されている請求項1から3のいずれか1項に記載の細隙灯顕微鏡。
【請求項5】
前記光源が、前記光源の上方に向けて前記照明光を出射し、
前記第1絞り、前記スリット部、前記第2絞り、及び前記偏向光学素子が、前記光源の上方に配置されている請求項1から4のいずれか1項に記載の細隙灯顕微鏡。
【請求項6】
前記スリット部が、前記スリットを形成する一対のスリット刃と、前記一対のスリット刃の間隔を変更する間隔変更機構と、を備える請求項1から5のいずれか1項に記載の細隙灯顕微鏡。
【請求項7】
前記光源が、半導体光源である請求項1から6のいずれか1項に記載の細隙灯顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検眼にスリット光を照射する細隙灯顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
細隙灯顕微鏡(スリットランプ又はスリットランプマイクロスコープともいう)は、眼科において被検眼の観察に用いられる。この細隙灯顕微鏡は、例えば、スリット光(細隙光ともいう)を用いて被検眼の注目部位の光切片を切り取ることにより、この注目部位の断面の画像を取得する。
【0003】
細隙灯顕微鏡は、照明光を出射する光源と、光源から出射された照明光からスリット光を生成する一対のスリット刃(スリット部)と、一対のスリット刃から出射されたスリット光を被検眼に向けて偏向(反射を含む)するミラー又はプリズム等の偏向光学素子と、を備える(特許文献1及び2参照)。また、光源から偏向光学素子に至る照明光(スリット光)の光路上には、複数種の絞りが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-259544号公報
【文献】特開2014-23868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図10は、従来の細隙灯顕微鏡の照明野200を示した説明図である。細隙灯顕微鏡で使用している光源が製造中止となり、さらに同じサイズの光源も手に入らなくなると、細隙灯顕微鏡で新たに使用する光源(光源の面積)が大型化する場合がある。また、光源をハロゲン光源からLED(light emitting diode)光源に切り替えた場合にも光源が大型化する場合がある。このような場合には、光源から出射される照明光の光束幅が増加する。このため、
図10に示すように、一対のスリット刃の間隔を狭めるとこれら一対のスリット刃の刃先に照射される照明光の光量が増加し、これに応じて各刃先にて反射(散乱)される照明光の反射光Lrの光量が増加する。その結果、反射光Lrに起因するゴースト或いはフレアが照明野200に発生してしまう。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、スリット部による照明光の反射を低減可能な細隙灯顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的を達成するための細隙灯顕微鏡は、照明光を出射する光源と、光源から出射された照明光からスリット光を生成するスリットを有し、スリットからスリット光を出射するスリット部と、スリット部が出射したスリット光を被検眼に向けて偏向する偏向光学素子と、スリット部と偏向光学素子との間の位置であって且つ光源との関係で予め定められた位置に配置されている第1絞りと、第1絞りと光学的に共役な位置を第1共役位置とした場合に、1又は複数の第1共役位置に配置されている第2絞りであって、且つ光源とスリット部との間の第1共役位置に少なくとも1つ配置されている第2絞りと、を備える。
【0008】
この細隙灯顕微鏡によれば、第2絞りにより光源とスリット部との間で照明光の光束幅を制限することで、スリット部にあたる照明光を低減させることができる。
【0009】
本発明の他の態様に係る細隙灯顕微鏡において、第1絞りの開口部と第2絞りの開口部とが相似形状である。
【0010】
本発明の他の態様に係る細隙灯顕微鏡において、第1絞りの開口部と第2絞りの開口部とが矩形状である。
【0011】
本発明の他の態様に係る細隙灯顕微鏡において、スリット部が、被検眼と光学的に共役な第2共役位置に配置されている。
【0012】
本発明の他の態様に係る細隙灯顕微鏡において、光源が、光源の上方に向けて照明光を出射し、第1絞り、スリット部、第2絞り、及び偏向光学素子が、光源の上方に配置されている。
【0013】
本発明の他の態様に係る細隙灯顕微鏡において、スリット部が、スリットを形成する一対のスリット刃と、一対のスリット刃の間隔を変更する間隔変更機構と、を備える。
【0014】
本発明の他の態様に係る細隙灯顕微鏡において、光源が、半導体光源である。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、スリット部による照明光の反射を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図3】照明絞りの開口部及び開口絞りの開口部の形状を説明するための説明図である。
【
図6】本実施形態の照明系の照明絞りの機能を説明するための説明図である。
【
図7】照明絞りが配置されていない比較例2及び照明絞りが配置されている本実施形態の一対のスリット刃の刃先の照度をシミュレーションした結果を示す表である。
【
図9】他実施形態の細隙灯顕微鏡の照明系の構成を示した概略図である。
【
図10】従来の細隙灯顕微鏡の照明野を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[細隙灯顕微鏡の構成]
図1は、細隙灯顕微鏡10の側面図である。細隙灯顕微鏡10は、被検眼Eの角膜観察、眼底観察、及び水晶体観察等の各種観察に用いられる。また、細隙灯顕微鏡10は、被検眼Eの角膜の角膜内皮細胞を直接観察する角膜内皮細胞観察にも用いられる。
【0018】
図1に示すように、細隙灯顕微鏡10は、所謂Zeiss式(Littman式)である。この細隙灯顕微鏡10は、ベース12と、顔支持部14と、可動テーブル18と、操作レバー20と、第1の支持部材22と、顕微鏡支持アーム24と、回動軸26と、第2の支持部材28と、回動軸30と、照明系32と、顕微鏡34と、を備える。
【0019】
ベース12は、不図示の検眼テーブル上に載置されている。このベース12の上面で且つ被検者(被検眼E側)の前端部には顔支持部14が設けられている。また、ベース12の上面には、電動駆動部16及び手元操作部38が設けられていると共に、可動テーブル18が水平方向(前後方向及び左右方向)に移動自在に保持されている。なお、前後方向は被検者に近づく前方向と被検者から遠ざかる後方向であり、左右方向は被検者の眼幅方向である。
【0020】
顔支持部14は、ベース12に固定され且つ上下方向に延びた一対の支柱14aと、一対の支柱14aの上下方向の中間部に設けられた顎受14bと、一対の支柱14aの上下方向の上端部に設けられた額当14cと、を有する。被検者が顎受14bに顎を載せると共に額当14cに額を当てることで、被検者の顔が顔支持部14により支持される。これにより、被検眼Eの位置が固定される。
【0021】
可動テーブル18の上面で且つ後方向側(検者側)の後端部には操作レバー20が設けられている。さらに、可動テーブル18の上面には、第1の支持部材22が上下方向に移動可能(昇降可能)に設けられている。
【0022】
操作レバー20は、第1の支持部材22(照明系32及び顕微鏡34)を水平方向と上下方向とにそれぞれ手動で移動操作するための操作部材である。例えば、操作レバー20を前後方向又は左右方向に移動操作又は傾倒操作することで、可動テーブル18を前後方向又は左右方向に手動で移動させることができる。また、操作レバー20の軸線周りの回動操作により、不図示の駆動伝達機構を介して第1の支持部材22を上下方向に移動させることができる。なお、操作レバー20の頂部には、撮影等に用いるスイッチ20aが設けられている。
【0023】
第1の支持部材22には、顕微鏡支持アーム24が配設されている。この顕微鏡支持アーム24は、略L字状に形成されており、水平アーム部24aと鉛直アーム部24bとを有する。
【0024】
水平アーム部24aの前方向側の端部は、上下方向に延びた回動軸26を介して、第1の支持部材22上に水平回動可能に取り付けられている。また、この水平アーム部24a上には、回動軸26の延長線上に位置する回動軸30を介して、第2の支持部材28が水平回動可能に取り付けられている。
【0025】
なお、回動軸26を中心とした顕微鏡支持アーム24の水平回動、及び回動軸30を中心とした第2の支持部材28の水平回動は、検者の手動操作で行ったり或いは不図示の電動回動機構を用いて電動で行ったりしてもよい。
【0026】
鉛直アーム部24bの上端部には顕微鏡34が取り付けられている。また、第2の支持部材28には照明系32が設けられている。
【0027】
照明系32は、細隙灯44及びプリズム48を備える。細隙灯44は、プリズム48に向けてスリット光L1(細隙光ともいう)を出射する。細隙灯44には、スリット光L1をプリズム48に向けて出射するための光源及び光学系(
図2参照)が収納されている。
【0028】
プリズム48は、本発明の偏向光学素子に相当するものであり、細隙灯44の上方位置に設けられている。このプリズム48は、細隙灯44から出射されたスリット光L1を被検眼Eに向けて偏向(反射を含む)する。これにより、プリズム48から被検眼Eに対してスリット光L1が照射される。また、プリズム48は、被検眼Eからの戻り光L2がケラレないように、上下方向から見た形状が矩形状に形成されている。これにより、被検眼Eからの戻り光L2は、プリズム48の両脇を通って顕微鏡34に入射する。
【0029】
なお、細隙灯44は
図1に示したものに限定されるものではなく、Zeiss式の細隙灯顕微鏡10で用いられるものであれば、その形状、構造、及び配置は特に限定はされない。また、プリズム48の代わりに、細隙灯44から出射されたスリット光L1を被検眼Eに向けて偏向可能なミラー等の各種の偏向光学素子を用いてもよい。
【0030】
照明系32は、回動軸30を中心として第2の支持部材28と一体に水平回動される。これにより、被検眼Eに対するスリット光L1の照射方向を調整することができる。
【0031】
顕微鏡34は、被検眼Eの観察等に用いられる。照明系32から被検眼Eに対してスリット光L1を照射している場合には、顕微鏡34には被検眼Eにて反射されたスリット光L1の戻り光L2が入射する。顕微鏡34の前方向側(被検眼E側)の前端部には対物レンズ50が設けられ、且つ後方向側(検者側)の後端部には接眼レンズ52が設けられている。また、顕微鏡34の内部には、被検眼Eの観察用の公知の光学系(図示は省略)が収納されている。
【0032】
顕微鏡34は、回動軸26を中心として顕微鏡支持アーム24と一体に水平回動される。これにより、顕微鏡34による被検眼Eの観察方向を調整することができる。また、顕微鏡34には、顕微鏡34の光学系を介して被検眼Eを撮影するデジタルカメラ56が設けられている。
【0033】
[照明系の光学系]
図2は、照明系32の構成を示した概略図である。なお、
図1中の符号O1は照明系32の照明軸であり、
図1中の符号O2は顕微鏡34の対物レンズ50の光軸である。
【0034】
図2に示すように、照明系32は、下方から上方に向かって発光ダイオード(LED:light emitting diode)であるLED光源60と、照明絞り62と、コンデンサーレンズ64と、フィルタ68と、スリット部70と、結像レンズ74と、開口絞り76と、プリズム48と、を備える。
【0035】
LED光源60は、上方を向いた照射面を有しており、白色光である照明光L0を上方に向けて出射する。これにより、照明光L0が照明絞り62、コンデンサーレンズ64、及びフィルタ68を通してスリット部70に入射する。このLED光源60は、従来のハロゲン光源61(
図4参照)よりも大型化している。ここでいうLED光源60の大型化とは、スリット部70側から見て、LED光源60の出射面の面積(サイズ)がハロゲン光源61の出射面の面積よりも大きくなることである。
【0036】
なお、LED光源60は、被検眼Eの角膜観察用の光源と眼底観察用の光源とにより構成されていてもよい。また、LED光源60が波長の異なる2種類以上の光源により構成されていてもよい。
【0037】
照明絞り62は、本発明の第2絞りに相当する。なお、照明絞り62の配置については詳しくは後述する。この照明絞り62は、LED光源60から入射する照明光L0の光束幅を制限(規制)する。これにより、光束幅が制限された照明光L0が、コンデンサーレンズ64及びフィルタ68を通して、スリット部70に入射する。従って、照明絞り62は、スリット部70から見て瞳(射出瞳)の位置にあたる。
【0038】
コンデンサーレンズ64は、照明絞り62を通過した照明光L0を集光し、フィルタ68に向けて出射する。フィルタ68は、細隙灯顕微鏡10の用途に応じて照明軸O1上に挿入されたり挿入されなかったりする。
【0039】
スリット部70は、フィルタ68から入射した照明光L0からスリット光L1を生成する。このスリット部70は、一対のスリット刃70a及び間隔変更機構70bを備える。
【0040】
一対のスリット刃70aは、照明軸O1を間に挟むように互いに対向している。これら一対のスリット刃70aの刃先の間に形成される空間が本発明のスリットとして機能する。これにより、一対のスリット刃70aは、照明光L0の一部のみを通過させることでスリット光L1を生成する。このスリット光L1は、結像レンズ74及び開口絞り76を通してプリズム48に入射する。
【0041】
また、一対のスリット刃70aは、被検眼E(被検眼Eに対応するテスト棒を含む)に対して光学的に共役な位置である被検眼共役位置(本発明の第2共役位置に相当)に設けられている。これにより、一対のスリット刃70aの刃先にあたった照明光L0(反射光Lr、
図4参照)がそのまま被検眼Eに投影される。
【0042】
間隔変更機構70bは、一対のスリット刃70aを保持し且つ一対のスリット刃70aの刃先の間隔、すなわちスリットの間隔を変更する。これにより、スリット光L1の幅を調整することができる。なお、間隔変更機構70bの駆動は、検者による手動駆動或いは公知の電動駆動のいずれであってもよい。また、間隔変更機構70bは、
図2に示したものに限定されるものではなく、一対のスリット刃70aの刃先の間隔を変更可能であれば、その形状及び構造は特に限定はされない。
【0043】
結像レンズ74は、一対のスリット刃70aから入射したスリット光L1を、開口絞り76を通してプリズム48へ出射する。
【0044】
開口絞り76は、本発明の第1絞りに相当する。この開口絞り76は、スリット部70とプリズム48との間の位置、例えば本実施形態ではプリズム48におけるスリット光L1の入射面に対向する位置であって、且つLED光源60との関係で予め定められた位置に配置される。この「LED光源60との関係で予め定められた位置」とは、後述の照明絞り62がない従前の細隙灯顕微鏡においてLED光源60(もしくはハロゲン光源)と共役な位置を示しており、シミュレーション或いは計算等を行うことで定められる。
【0045】
開口絞り76は、プリズム48の入射面に入射するスリット光L1の光束を制限(規制)する。この開口絞り76を通してプリズム48に入射したスリット光L1は、プリズム48により被検眼Eに向けて偏向される。そして、被検眼Eにて反射されたスリット光L1の戻り光L2が顕微鏡34の対物レンズ50に入射する。
【0046】
[照明絞り及び開口絞りの開口部]
図3は、照明絞り62の開口部62a(絞り孔ともいう)及び開口絞り76の開口部76a(絞り孔ともいう)の形状を説明するための説明図である。
図3の符号IIIAに示すように、開口絞り76の開口部76aは、上下方向から見た形状が矩形状であるプリズム48に対応した形状、すなわち矩形状に形成されている。
【0047】
図3の符号IIIBに示すように、照明絞り62の開口部62aは、開口絞り76の開口部76aと相似形状(略相似形状を含む)、すなわち矩形状に形成されている。
【0048】
ここで、開口部62aと開口部76aとが相似形状ではない場合には、照明絞り62及び開口絞り76の絞りサイズの大小によって、ゴーストが発生したり或いはスリット光L1の光量が減少したりするという問題が発生する。このため、開口部62aと開口部76aとを、スリット光L1の投影倍率を考慮した相似形状に形成することで、スリット光L1の光量を低下させることなくゴーストの発生を抑えることができる。また、プリズム48の代わりにミラーを用いる場合には、ミラーに当たらないスリット光L1(開口絞り76を通るがミラーに当たらないスリット光L1)を低減させることができるので、開口絞り76とミラーとの間から漏れ出すスリット光L1を低減させることができる。
【0049】
[照明絞りの配置]
図2に戻って、照明絞り62は、開口絞り76と光学的に共役な位置を絞り共役位置CP(本発明の第1共役位置に相当)とした場合において、LED光源60とスリット部70との間の絞り共役位置CPに配置されている。
【0050】
絞り共役位置CPは、LED光源60と開口絞り76とが光学的に共役な位置に配置されている従前の細隙灯顕微鏡におけるLED光源60の位置に相当する。そして、本実施形態では、従前のLED光源60の位置に照明絞り62を配置すると共に、この配置に伴いLED光源60の位置を下方にずらしている。
【0051】
[照明絞りの機能]
図4は、LED光源60よりも小型のハロゲン光源61を備える比較例1の照明系32の光学系の概略図である。
図5は、LED光源60を備えるが照明絞り62は配置されてない比較例2の照明系32の光学系の概略図である。
図6は、本実施形態の照明系32の照明絞り62の機能を説明するための説明図である。
【0052】
図4に示すように、比較例1では、LED光源60よりも小型(出射面の面積が小さい)のハロゲン光源61から照明光L0を出射するため、この照明光L0の光束幅はLED光源60を用いた場合(
図5及び
図6参照)よりも狭くなる。このため、一対のスリット刃70aの間隔を狭めたとしても一対のスリット刃70aの刃先に照射される照明光L0の光量はさほど増加せず、一対のスリット刃70aの刃先にて反射される照明光L0の反射光Lrの光量も低くなる。
【0053】
これに対して
図5に示すように、比較例2では、ハロゲン光源61よりも大型のLED光源60から照明光L0の出射を行うため、LED光源60から出射される照明光L0の光束幅が比較例1よりも増加する。このため、比較例2では、一対のスリット刃70aの間隔を狭めると、一対のスリット刃70aの刃先に照射される照明光L0の光量が増加し、これに応じて各刃先により反射(散乱)された照明光L0の反射光Lrの光量も増加する。その結果、比較例2では、反射光Lrに起因するゴースト又はフレアが発生するおそれがある。
【0054】
そこで、
図6に示すように本実施形態では、LED光源60とスリット部70との間の絞り共役位置CPに照明絞り62を配置することで、この照明絞り62によりLED光源60から出射される照明光L0の光束幅を制限することができる。これにより、一対のスリット刃70aの刃先に照射される照明光L0を照明絞り62によって低減させることができる。その結果、本実施形態では、一対のスリット刃70aの刃先にて反射される照明光L0の反射光Lrの光量を、例えば、既述の
図4に示した比較例1と同程度まで低減させることができる。
【0055】
ここで、本実施形態の細隙灯顕微鏡10では、照明として使われる光(スリット光L1)の光束が開口絞り76により制限されており、この開口絞り76を通過するスリット光L1だけが被検眼Eを照明する光となる。このため、LED光源60のサイズが適切ではなくサイズが大きい場合には、開口絞り76を通過する光だけでなく、レンズを保持する鏡筒及び一対のスリット刃70aにあたる照明光L0の光束が存在するため、ゴースト等の原因となる。このため、プリズム48の直前に位置する開口絞り76と光学的に共役な位置(絞り共役位置CP)に投影倍率を考慮した相似形状な照明絞り62を配置することで、LED光源60の実質的なサイズを小さくすることができる。その結果、照明となる光をそのままにした状態でゴースト等を低減することができる。
【0056】
また、仮に照明絞り62をLED光源60とスリット部70との間の位置ではあるが絞り共役位置CPとは異なる位置に配置すると、照明絞り62による照明光L0の絞り形状が矩形状から崩れて楕円又は円形になってしまう。このため、照明絞り62を絞り共役位置CPに配置することが最もシンプルである。
【0057】
さらに、仮に絞り共役位置CP以外の位置に照明光L0の有効光束のサイズに合わせた照明絞り62を配置したとしても、一対のスリット刃70aに当たる照明光L0を低減できない、もしくは一対のスリット刃70aの間(スリット)を通過する照明光L0(スリット光L1)を大きく蹴ってしまう。これは、LED光源60から出射される照明光L0のうちスリットを通過する光を第1光束とし且つ一対のスリット刃70aにあたる光を第2光束とした場合に、第1光束及び第2光束がスリットに近づくのに従って第2光束が第1光束に近づいてしまうため、両光束の分離ができなくなるためである。従って、本実施形態では照明絞り62を絞り共役位置CPに配置している。
【0058】
なお、絞り共役位置CPはスリット部70と開口絞り76との間にも存在する場合があるが、本実施形態では、LED光源60とスリット部70との間の絞り共役位置CPに照明絞り62を配置している。一対のスリット刃70aの刃先は移動可能であるので、各刃先の位置に応じて反射光Lr(ゴースト或いはフレア)の発生位置が変わり、これに伴い反射光Lrの光路も変化する。このため、照明絞り62をLED光源60とスリット部70との間の絞り共役位置CPに配置することで、一対のスリット刃70aの刃先の位置に関係なく、各刃先の手前側(LED光源60側)で照明光L0を制限することができる。その結果、一対のスリット刃70aの刃先の位置に関係なく、照明絞り62によって各刃先にて反射される反射光Lrを低減させることができる。
【0059】
[本実施形態の効果]
図7は、照明絞り62が配置されていない比較例2及び照明絞り62が配置されている本実施形態の一対のスリット刃70aの刃先の照度をシミュレーションした結果を示す表である。なお、
図7では、一対のスリット刃70aの刃先の間のスリットの幅を全開にさせた場合と、スリットの幅を照明野94で9.8mmに調整した場合と、スリットの幅を照明野94で4mmに調整した場合と、におけるスリット刃70aの刃先の照度のシミュレーション結果を示している。また、
図8は、
図7に示した表に対応するグラフである。
【0060】
図7及び
図8に示すように、ハロゲン光源61よりも大型のLED光源60を照明系32に設けた場合であっても、LED光源60とスリット部70との間の絞り共役位置CPに照明絞り62を配置することにより、一対のスリット刃70aの刃先の間隔(スリットの間隔)に関係なく各刃先にあたる照明光L0の光量を低減、つまり各刃先で反射される反射光Lrを低減させることができる。その結果、反射光Lrに起因するゴースト或いはフレアの発生が防止される。また、既述の通り、照明絞り62によって開口絞り76とミラーとの間から漏れ出すスリット光L1を低減させることができる。
【0061】
さらにまた、本実施形態の照明絞り62は、LED光源60のサイズが変わった場合、例えばLED光源60がさらに大型化した場合であっても、一対のスリット刃70aの刃先に照射される照明光L0の光束幅を開口部62aに応じた幅に制限することで、各刃先に照射される照明光L0を低減させることができる。その結果、あるサイズのLED光源60が製造中止になって同じサイズのLED光源60が手に入らなくなった場合、或いはハロゲン光源61から大型のLED光源60に切り替える必要が生じた場合でも、照明系32におけるLED光源60のサイズの変更に容易に対応することができる。
【0062】
[他実施形態]
図9は、他実施形態の細隙灯顕微鏡10の照明系32の構成を示した概略図である。上記実施形態では、LED光源60とスリット部70との間の1つの絞り共役位置CPのみに照明絞り62を配置しているが、照明絞り62の配置数を増加させてもよい。
【0063】
具体的には
図9に示すように、LED光源60と開口絞り76との間に複数の絞り共役位置CPが存在する場合には、LED光源60とスリット部70との間の絞り共役位置CPに少なくとも1つの照明絞り62を配置すれば、互いに異なる複数の絞り共役位置CPに照明絞り62を配置してもよい。すなわち、LED光源60とスリット部70との間の他の1以上の絞り共役位置CPに照明絞り62を配置したり、或いはスリット部70と開口絞り76との間の1以上の絞り共役位置CPに照明絞り62を配置したり、或いはその双方の配置を行ったりしてもよい。
【0064】
[その他]
上記実施形態では、照明系32の光源としてLED光源60を例に挙げて説明しているが、本発明の光源の種類は特に限定はされるものではなく、レーザダイオード(Laser Diode:LD)等のLED以外の半導体光源を用いたり、或いはハロゲン光源を用いたりしてもよい。
【0065】
上記実施形態では、照明絞り62の開口部62aと開口絞り76の開口部76aとが矩形状に形成されているが、開口部62a,76aが矩形以外の形状であってもよい。この場合においても開口部62a,76aは相似形状であることが好ましい。
【0066】
上記実施形態では、一対のスリット刃70aを有するスリット部70が照明系32に設けられているが、照明光L0からスリット光L1を形成可能な各種のスリットを有するスリット部70が照明系32に設けられていてもよい。この場合には、スリット部70におけるスリットの周縁部に照射される照明光L0を照明絞り62によって低減させることができる。
【0067】
上記実施形態では、Zeiss式(Littman式)の細隙灯顕微鏡10を例に挙げて説明を行ったが、例えば、照明系32がプリズム48(偏向光学素子)の上方に設けられている公知のHaag式(Goldmann式)の細隙灯顕微鏡10にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0068】
10…細隙灯顕微鏡
32…照明系
34…顕微鏡
44…細隙灯
48…プリズム
60…LED光源
62…照明絞り
62a…開口部
70…スリット部
70a…一対のスリット刃
70b…間隔変更機構
76…開口絞り
76a…開口部
94…照明野
L0…照明光
L1…スリット光
L2…戻り光
Lr…反射光
CP…絞り共役位置