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特許7295765ラケットの測定装置及びラケットの測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】ラケットの測定装置及びラケットの測定方法
(51)【国際特許分類】
   A63B 60/42 20150101AFI20230614BHJP
   A63B 102/02 20150101ALN20230614BHJP
   A63B 102/04 20150101ALN20230614BHJP
【FI】
A63B60/42
A63B102:02
A63B102:04
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019176049
(22)【出願日】2019-09-26
(65)【公開番号】P2021052816
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】390010917
【氏名又は名称】ヨネックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100120444
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 雅章
(72)【発明者】
【氏名】富樫 圭介
(72)【発明者】
【氏名】長澤 康史
(72)【発明者】
【氏名】小山 晋
(72)【発明者】
【氏名】西山 博基
【審査官】赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0345105(US,A1)
【文献】米国特許第04291574(US,A)
【文献】特開2006-175053(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 60/42-60/46
A63B 49/00-49/14
A63B 102/02-102/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラケット全体の質量MA(g)を測定する質量測定部と、
ラケットの重心位置BP(mm)としてグリップエンドと重心位置との距離を測定する重心位置測定部と、
ラケットのスイングウエイトSW(kg・cm)としてグリップを支点とした慣性モーメントを測定するスイングウエイト測定部と、
前記質量測定部、前記重心位置測定部及び前記スイングウエイト測定部の測定結果に基づき、ラケットのスイング時における重量感の指標値A1を演算する指標値演算部とを備えたラケットの測定装置であって、
前記指標値演算部は、第1~第3寄与率C1~C3を用いた下記数式1によって前記指標値A1を演算することを特徴とするラケットの測定装置。
(数式1)A1=C1・SW+C2・MA+C3・BP
但し、前記数式1において、0.37≦C1≦0.48、0.41≦C2≦0.52、0≦C3≦0.11であり、C1+C2+C3=1
【請求項2】
ラケット全体の質量MA(g)を測定するステップと、
ラケットの重心位置BP(mm)としてグリップエンドと重心位置との距離を測定するステップと、
ラケットのスイングウエイトSW(kg・cm)としてグリップを支点とした慣性モーメントを測定するステップと、
前記質量MA、前記スイングウエイトSW及び前記重心位置BPと、第1~第3寄与率C1~C3とを用いた下記数式1によって、ラケットのスイング時における重量感の指標値A1を演算するステップとを行うことを特徴とするラケットの測定方法。
(数式1)A1=C1・SW+C2・MA+C3・BP
但し、前記数式1において、0.37≦C1≦0.48、0.41≦C2≦0.52、0≦C3≦0.11であり、C1+C2+C3=1
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラケットにおけるスイング時の重量感を測定するラケットの測定装置及びラケットの測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テニスやバドミントンのラケットにおいては、特許文献1に開示されるように、スイング時における重量感を測定できるようにすることが望まれている。近時においては、かかる重量感としてスイングウエイトと称される値を測定可能な測定装置が利用されている。かかる測定装置は、ラケットのグリップをクランプによって固定し、該固定箇所を支点としてラケットを回転運動させた際の慣性モーメントをスイングウエイトとして測定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開昭54-137385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の測定装置では、クランプの固定強度を確保するため、クランプを大型としたり高重量化したりする傾向がある。このため、例えばグリップに錘等を追加して質量を変化させても、測定時におけるクランプ周りの重量変化は微差となり、スイングウエイトの測定結果が変化しない、又は、殆ど変化しないこととなる。一方、ラケットのスイングにおいては、プレーの種類等によって異なるもののグリップがスイングの回転中心から離れたり、スイングが複雑な回転運動となったりするので、グリップ側の質量変化にも対応した指標値を得られるようにすることが望まれていた。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、ラケットのグリップ側における質量変化に応じたスイング時の重量感の指標値を求めることができるラケットの測定装置及びラケットの測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明における一態様のラケットの測定装置は、ラケット全体の質量MA(g)を測定する質量測定部と、ラケットの重心位置BP(mm)としてグリップエンドと重心位置との距離を測定する重心位置測定部と、ラケットのスイングウエイトSW(kg・cm)としてグリップを支点とした慣性モーメントを測定するスイングウエイト測定部と、前記質量測定部、前記重心位置測定部及び前記スイングウエイト測定部の測定結果に基づき、ラケットのスイング時における重量感の指標値A1を演算する指標値演算部とを備えたラケットの測定装置であって、前記指標値演算部は、第1~第3寄与率C1~C3を用いた下記数式1によって前記指標値A1を演算することを特徴とする。
(数式1)A1=C1・SW+C2・MA+C3・BP
但し、前記数式1において、0.37≦C1≦0.48、0.41≦C2≦0.52、0≦C3≦0.11であり、C1+C2+C3=1
【0007】
この構成によれば、ラケットの質量、スイングウエイト、重心位置の測定値に上記の寄与率を乗じて重量感の指標値A1を演算するので、グリップ側が質量変化した場合に測定される重心位置が変化して指標値A1の演算結果が変化するようになる。これにより、種々のラケットの指標値A1とプレーヤが体感するスイング時の重量感とを精度良く対応させることができ、プレーヤが求める重量感のラケットを選択し易くすることができる。
【0008】
本発明における一態様のラケットの測定装置は、ラケットの長手方向におけるグリップ側質量MG(g)と、ラケット全体の質量MA(g)とを測定する質量測定部と、ラケットのスイングウエイトSW(kg・cm)としてグリップを支点とした慣性モーメントを測定するスイングウエイト測定部と、前記質量測定部及び前記スイングウエイト測定部の測定結果に基づき、ラケットのスイング時における重量感の指標値A2を演算する指標値演算部とを備えたラケットの測定装置であって、前記指標値演算部は、0.95≦D≦0.99の範囲にある補正用寄与率Dを前記スイングウエイトSWに乗算し、その乗算結果に前記質量MA及び前記グリップ側質量MGを用いた補正値を加算して前記指標値A2を演算することを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、スイングウエイトの測定値を補正用寄与率Dで所定値分少なくした値に、ラケットのグリップ側の質量を用いた補正値を加算することで補正した重量感の指標値A2を演算することができる。従って、グリップ側の質量変化を指標値A2の演算結果に反映でき、これによっても、指標値A2とプレーヤが体感するスイング時の重量感とを精度良く対応させることができる。
【0010】
本発明における一態様のラケットの測定方法は、ラケット全体の質量MA(g)を測定するステップと、ラケットの重心位置BP(mm)としてグリップエンドと重心位置との距離を測定するステップと、ラケットのスイングウエイトSW(kg・cm)としてグリップを支点とした慣性モーメントを測定するステップと、前記質量MA、前記スイングウエイトSW及び前記重心位置BPと、第1~第3寄与率C1~C3とを用いた下記数式1によって、ラケットのスイング時における重量感の指標値A1を演算するステップとを行うことを特徴とする。
(数式1)A1=C1・SW+C2・MA+C3・BP
但し、前記数式1において、0.37≦C1≦0.48、0.41≦C2≦0.52、0≦C3≦0.11であり、C1+C2+C3=1
【0011】
本発明における一態様のラケットの測定方法は、ラケットの長手方向におけるグリップ側質量MG(g)と、ラケット全体の質量MA(g)とを測定するステップと、ラケットのスイングウエイトSW(kg・cm)としてグリップを支点とした慣性モーメントを測定するステップと、0.95≦D≦0.99の範囲にある補正用寄与率Dを前記スイングウエイトSWに乗算し、その乗算結果に前記質量MA及び前記グリップ側質量MGを用いた補正値を加算することで、ラケットのスイング時における重量感の指標値A2を演算するステップとを行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ラケットのグリップ側における質量変化に応じたスイング時の重量感の指標値を求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施の形態に係る測定装置の平面図である。
図2】ラケットのスイングウエイトを測定する状態の説明用平面図である。
図3】上記測定装置の構成を示すブロック図である。
図4】上記測定装置における制御部の機能ブロック図である。
図5】ラケットの重量感の評価点数を示すグラフである。
図6図6A図6Cは、上記評価点数とラケットの測定値との相関関係を示すグラフであり、図6Dは、上記評価点数と指標値A1との相関関係を示すグラフである。
図7】ラケットの重量感とグリップの加重量との相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、下記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲内で適宜変形して実施できるものである。以下の図においては、説明の便宜上、一部の構成を省略することがある。また、以下の実施の形態での各構成の向きは、一例にすぎず、任意の向きに変更することができる。
【0015】
図1は、実施の形態に係る測定装置の平面図である。図1に示すように、測定装置10は、図1中二点鎖線で示すラケットRに関し、後述する各種の値を測定する装置である。先ず、測定装置10の説明の前に、ラケットRの構成について説明する。
【0016】
図1に示すように、ラケットRは、ボールを打つ部位であるヘッドR1と、プレーヤがラケットRを把持する部位であるグリップR2と、ヘッドR1とグリップR2とを一体に連結するシャフトR3とを備えている。
【0017】
なお、以下の説明において、ラケットRの長手方向(図1中左右方向)にてヘッドR1が位置する側を先端側とし、グリップR2が位置する側を後端側とし、グリップR2の後端面をグリップエンドR2aとする。また、ラケットRの長手方向及び厚さ方向に直交する方向(図1中上下方向)を横方向とする。
【0018】
ヘッドR1は、縦方向に長い楕円形状のフレームR4を備え、フレームR4の内側に網目状となる不図示のストリングが張設されて打球面が形成される。シャフトR3は、グリップR2からヘッドR1に向かって二股に分岐するスロートR5を備え、左右のスロートR5の間にはヘッドR1の一部を形成するヨークR7が形成されている。ヨークR7はフレームR4の下側をも形成する。なお、シャフトR3は、これに限らず、二股に分岐しないものとしてもよい。
【0019】
図1及び図2は、テニス用のラケットRを一例として図示しているが、バドミントン用のラケットRも測定装置10にて測定できる。
【0020】
測定装置10は、図1中下端が湾曲して形成されるベース11と、ベース11の上面側から突出して設けられた1体のグリップ側支持部12、2体のヘッド側支持部13及び1体の位置決め部14を備えている。位置決め部14は、グリップ側支持部12より図1中右側に離れた位置にて、ベース11の上面から突出する片状若しくは柱状に設けられ、ラケットRのグリップエンドR2aに接触可能な突出高さに形成されている。位置決め部14にラケットRのグリップエンドR2aが当接されることで、図1の二点鎖線で示すように、ベース11上にてラケットRが長手方向及び横方向にて位置決めされる。
【0021】
各支持部12、13は、図1に示す向きのラケットRを下方から支持する。言い換えると、ラケットRは1箇所のグリップ側支持部12と2箇所のヘッド側支持部13との3箇所にて下方より支持される。ラケットRのグリップエンドR2aを位置決め部14に当接させた状態において、グリップ側支持部12はラケットRのグリップR2を支持し、ヘッド側支持部13はヘッドR1の横方向両側を支持する。各支持部12、13は、支持するラケットRの横方向と平行に延出する細長いリブ形状に設けられ、それらの上端が同一高さに配置されて該上端にてラケットRを支持する。ヘッド側支持部13は、ラケットRの横方向に略同一直線上に並んで設けられる。
【0022】
測定装置10において、ベース11の図1中右上領域は表示領域16とされる。本実施の形態では、表示領域16に7セグメントディスプレイを用いたが、後述する各種の値を表示及び認識し得る限りにおいて、液晶パネルやLED等を用いる等、種々の構成を採用できる。また、ベース11の上面における表示領域16の近傍位置には、ユーザが操作するボタンやキーからなる操作部材17が設けられている。
【0023】
図2は、ラケットのスイングウエイトを測定する状態の説明用平面図である。図2に示すように、測定装置10は、ラケットRのグリップR2を保持するクランプ21と、クランプ21での保持及び保持解除を操作するためのハンドル22と、クランプ21を回転変位可能に支持する回転軸23とを更に備えている。
【0024】
クランプ21は、ラケットRの横方向を鉛直方向に向けつつ長手方向を水平に維持した状態でグリップR2のグリップエンドR2a側を保持する。回転軸23は、ベース11の上方に立設して上端側でクランプ21を支持している。回転軸23は、その回転方向にて、ラケットRが図2に示す回転角度に維持されるようばね部材等からなる不図示の弾性体で付勢されている。
【0025】
図3は、測定装置の構成を示すブロック図である。図3に示すように、測定装置10は、制御部101、質量測定部102、重心位置測定部103、スイングウエイト測定部104、入力部105、表示部106及び記憶部107を備えている。
【0026】
制御部101は、中央処理装置(CPU)等からなり、測定装置10全体を制御する。制御部101は、記憶部107に記憶されているプログラムに従い、各測定部102~104等から入力される情報に対する各種の演算処理や、各種の制御処理(表示部106の表示制御等)を行う。
【0027】
質量測定部102は、ラケットR全体の質量及びラケットRのグリップR2側の質量を測定する。質量測定部102は、1体のグリップ側支持部12と、2体のヘッド側支持部13(何れも図1参照)と、ベース11(図1参照)内に設けられるロードセル等の荷重を電気信号に変換する測定器とを含んで構成される。かかる測定器は、1箇所のグリップ側支持部12及び2箇所のヘッド側支持部13それぞれに設けられ、各支持部12、13に加わる質量分に応じた荷重を測定し、測定した荷重値を質量値に変換して制御部101に出力する。
【0028】
重心位置測定部103は、ラケットRの重心位置を測定する。本実施の形態では質量測定部102と同じ構成を含んで構成される。言い換えると、重心位置測定部103も、各支持部12、13と、ベース11内に設けられるロードセル等の測定器とを含んで構成される。ここで、ラケットRの重心位置は、ラケットRの長手方向において、グリップエンドR2aからラケットRの重心点までの距離とする。
【0029】
スイングウエイト測定部104は、ラケットRのスイングウエイトを測定する。スイングウエイト測定部104は、クランプ21、ハンドル22、回転軸23(図1参照)及び回転軸23に設けられた不図示の弾性体と、回転軸23の振動周期を測定する不図示の測定器とを含んで構成される。ここで、スイングウエイトは、グリップR2を支点としたラケットRの慣性モーメントとする。
【0030】
スイングウエイト測定部104は、クランプ21で保持されたラケットRを図2に示す位置から弾性体の力に抗して所定角度回転変位させてから、弾性体の力によって回転軸23を支点にラケットRを振り子状に揺動させる。スイングウエイト測定部104は、かかる揺動の振動周期を測定器で測定して制御部101に出力する。
【0031】
入力部105は、操作部材17(図1参照)を含み、作業者等からの操作による切替情報や、データ(例えば後述する寄与率等)を取得して制御部101に出力する。なお、入力部105としては、操作部材17に加えて或いは操作部材17に代えて作業者によって操作されるキーや操作ボタン、タッチパネル等を利用してもよい。また、入力部105は、通信インターフェースとしてパソコン等の外部装置から有線又は無線通信によってデータを取得するようにしたり、データを内蔵するメモリーカード等の記憶媒体を接続可能なスロット等のインターフェースとしたりしてもよい。
【0032】
表示部106は、表示領域16(図1参照)の7セグメントディスプレイを含み、更にそれらを制御するコントローラを備えて構成されている。表示部106は、7セグメントディスプレイの各部の点灯及び消灯を切り替え、制御部101の演算結果等を表示する。
【0033】
記憶部107は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)、不揮発性メモリ等を備えている。ROMでは、制御部101が各種の演算、制御を行うためのプログラムや、アプリケーションとして機能するためのプログラム、データ等が記憶される。RAMは、制御部101の作業領域として用いられる他、各測定部102~104の測定結果等が制御部101を介して記憶される。RAMでは、ROMから読み出されたプログラムやデータ、入力部105から入力されたデータ、制御部101が各種プログラムに従って実行した演算結果等が一時的に記憶される。不揮発性メモリでは、制御部101の演算によって生成されたデータのうち、長期的な保存が必要なデータが記憶される。
【0034】
図4は、測定装置における制御部の機能ブロック図である。図4に示すように、本実施の形態に係る制御部101は、質量演算部101a、重心位置演算部101b、スイングウエイト演算部101c、指標値演算部101d、及び表示制御部101eとして機能する。これらの機能ブロックは、記憶部107に記憶されたプログラムが制御部101によって実行されることによって実現される。なお、図4に示す制御部101の機能ブロックは、本発明に関連する構成のみを示しており、それ以外の構成については省略している。
【0035】
質量演算部101aは、質量測定部102における各支持部12、13に応じて三箇所位置に設けられた測定器による質量値を取得する。そして、質量演算部101aは、3つの測定器で測定された質量値の和を演算し、ラケットR全体の質量の値を演算する。本実施の形態では、質量の単位は(g)とする。また、質量演算部101aは、グリップ側支持部12の測定器で測定された質量値を、ラケットRのグリップR2側の質量と設定する。ここで、ラケットRのグリップR2側の質量は、概ねラケットRの重心点からグリップR2側の質量とする。質量演算部101aは、演算及び設定した各値を記憶部107に出力する。
【0036】
重心位置演算部101bにおいても、質量演算部101aと同様に、重心位置測定部103(質量測定部102)における3つの測定器で測定された質量値を取得する。そして、重心位置演算部101bは、各質量値の測定結果と、予め入力ないし記憶されたラケットRの長手方向における各支持部12、13と位置決め部14との距離からラケットRの重心位置を演算する。本実施の形態では、重心位置の単位は(mm)とする。重心位置演算部101bは、演算した重心位置の値を記憶部107に出力する。
【0037】
スイングウエイト演算部101cは、スイングウエイト測定部104の測定器によって測定されたラケットRの揺動時における振動周期の値を取得し、かかる振動周期からスイングウエイト(慣性モーメント)を演算する。本実施の形態では、スイングウエイトの単位は(kg・cm)とする。スイングウエイト演算部101cは、演算したスイングウエイトの値を記憶部107に出力する。
【0038】
指標値演算部101dは、質量測定部102、重心位置測定部103及びスイングウエイト測定部104の各測定結果と、入力部105で入力された寄与率等のデータに基づき、ラケットRのスイング時における重量感の指標値A1、A2を演算する。指標値演算部101dでの演算及び指標値A1、A2の詳細については、後述する。
【0039】
表示制御部101eは、各演算部101a~101dの演算結果に応じ、表示部106における表示領域16での数値表示を制御する。
【0040】
次いで、指標値演算部101dの演算に用いられる数式について説明する。
【0041】
従来、ラケットRのスイング時における重量感の測定としては、スイングウエイトを測定していた。これに対し、本発明者は、プレーヤが実際感じる重量感に精度良く対応すべく、以下の数式1を用いて重量感の指標値A1を測定することを発明した。
A1=C1・SW+C2・MA+C3・BP・・・(数式1)
SW:スイングウエイト(kg・cm
MA:全体質量(g)
BP:重心位置(mm)
C1:第1寄与率
C2:第2寄与率
C3:第3寄与率
但し、C1+C2+C3=1
【0042】
ここで、第1~第3寄与率C1~C3は、以下に述べる(1)スイング時の重量感の点数評価、(2)スイングウエイト、質量、重心位置の測定、(3)点数評価及び測定結果の分析、(4)寄与率の算出を実施することによって設定した。
【0043】
(1)スイング時の重量感の点数評価
かかる点数評価のために、種類の異なるテニス(硬式テニス)用ラケット5本、ソフトテニス用ラケット5本、合計10本のラケットを用意した。評価者(プレーヤ)として、種々のレベルのテニス経験者7名を選定した。7名の評価者それぞれが、用意した10本のラケット全てを用いてプレー(スイング)を行い、ラケットのスイング時における重量感を点数評価した。この点数評価の評価基準は、「経験したことないほど重い」を100点、「経験したことないほど軽い」を0点とし、評価者全員が10本のラケットについて0~100点の範囲にて点数を付けた。そして、10本のラケットそれぞれについて、7名の評価者の合計点数を算出した。その結果を図5に示す。図5は、ラケットにおける重量感の評価点数を示すグラフである。
【0044】
(2)スイングウエイト、質量、重心位置の測定
上記(1)の点数評価と前後して、10本のラケットそれぞれのスイングウエイト、全体の質量、重心位置を測定した。測定方法については後述する。そして、それらの測定結果と、上記(1)の点数との相関関係をグラフにプロットした。かかるグラフを図6A図6Cに示す。図6A図6Cのグラフにおいて、縦軸は、上記(1)での各ラケットの評価点数(合計点数)とした。横軸は、図6AではスイングウエイトSW(kg・cm)、図6Bでは全体質量MA(g)、図6Cでは重心位置BP(mm)とした。
【0045】
(3)点数評価及び測定結果の分析
図6A図6Cの各グラフでは、10本のラケットに対応した値を10点プロットしており、かかるプロットした値に対し回帰分析として最小二乗法にて近似する一次関数式を求めた。かかる一次関数式の直線を各グラフに表す。また、かかる一次関数式とプロットした10点の値とについて、決定係数(R)を求めた。
【0046】
(4)寄与率の算出
スイングウエイトSW、全体質量MA、重心位置BPそれぞれにおいて、上記一次関数式の傾きの値と、決定係数とを乗算した比較値を求めた。ここで、スイングウエイトSWの比較値C1a、全体質量Mの比較値C2a、重心位置BPの比較値C3aとする。続いて、数式1にてスイングウエイトSWに乗算する第1寄与率C1、全体質量MAに乗算する第2寄与率C2、重心位置BPに乗算する第3寄与率C3を以下の計算式から求めた。
C1=C1a/(C1a+C2a+C3a)
C2=C2a/(C1a+C2a+C3a)
C3=C3a/(C1a+C2a+C3a)
【0047】
上述のように設定した第1~第3寄与率C1~C3を含む数式1は、入力部105を介して記憶部107(図3参照)に記憶される。そして、制御部101の指標値演算部101dは、数式1と、後述する測定方法で測定、演算されるスイングウエイトSW、全体質量MA及び重心位置BPとによって指標値A1を演算する。
【0048】
続いて、本実施の形態におけるラケットRの測定方法について説明する。
【0049】
先ず、ラケットR全体の質量MAを測定するステップが実施される。このステップでは、図1に示すように、1体のグリップ側支持部12と、2体のヘッド側支持部13とにラケットRが載置される。このとき、ラケットRのグリップエンドR2aが位置決め部14に当接した状態とされる。このようにラケットRが載置されることで、各支持部12、13に加わる質量分に応じた荷重が測定器(不図示)にて測定され、荷重値から変換された質量値が制御部101に出力される。制御部101の質量演算部101aでは、各支持部12、13に応じて三箇所位置に設けられた測定器の質量値が取得され、それらの和の演算によってラケットR全体の質量MAが演算される。
【0050】
また、本実施の形態においては、ラケットRの重心位置BPを測定するステップが実施される。このステップでは、制御部101の重心位置演算部101bにおいて、質量演算部101aと同様に、ラケットRが各支持部12、13に載置されたことによる三箇所の測定器における質量値が取得される。重心位置演算部101bでは、各質量値の測定結果と、予め入力されたラケットRの長手方向における各支持部12、13と位置決め部14との距離からラケットRの重心位置BPが演算される。
【0051】
更に、本実施の形態においては、ラケットRのスイングウエイトSWを測定するステップが実施される。このステップでは、図2に示すように、ラケットRの横方向を鉛直方向に向けつつ長手方向を水平に維持した状態でグリップR2のグリップエンドR2a側がクランプ21にて保持される。その後、ラケットRを図2に示す位置から回転軸23に設けられた弾性体(不図示)の力に抗して所定角度回転変位させてから、弾性体の力によって回転軸23を支点にラケットRを振り子状に揺動させる。かかる揺動の振動周期が測定器(不図示)にて測定され、制御部101に出力される。制御部101のスイングウエイト演算部101cでは、振動周期が取得され、かかる振動周期からスイングウエイトSWが演算される。
【0052】
上述した測定する各ステップを実施した後、ラケットRのスイング時における重量感の指標値A1を演算するステップが実施される。このステップでは、制御部101の指標値演算部101dにおいて、上記各ステップにて測定、演算されたラケットR全体の質量MA、重心位置BP、スイングウエイトSWが取得される。制御部101の指標値演算部101dでは、それらの値が数式1に代入され、指標値A1が演算される。
【0053】
測定、演算されたラケットR全体の質量MA、重心位置BP、スイングウエイトSW及び指標値A1は、操作部材17等の適宜な操作を介して表示領域16(図1参照)に表示される。
【0054】
ここで、数式1により演算される指標値A1を検証するため、上述した種類の異なる10本のテニスラケットそれぞれの指標値A1を演算した。そして、10本のラケットの指標値A1と、上記(1)の点数との相関関係をグラフにプロットした。かかるグラフを図6Dに示す。図6Dのグラフにおいて、縦軸は上記(1)での評価者による各ラケットの評価点数(合計点数)とし、横軸は指標値A1とした。また、図6Dのグラフにてプロットした値に対し最小二乗法で近似する一次関数式を求め、その直線をグラフ中に表し、かかる一次関数式とプロットした10点の値とについて、決定係数(R)を求めた。
【0055】
図6AのスイングウエイトSWに関するグラフと、図6Dの指標値A1に関するグラフとの比較において、図6Dのグラフの方が、直線にプロットした各点が接近して位置することが理解できる。また、それらグラフの決定係数を比べると、指標値A1に関するグラフの方がスイングウエイトSWに関するグラフに比べて、決定係数が大きくなった。よって、スイングウエイトSWの値に比べて指標値A1の方が、ラケットRのスイング時にユーザが実際感じる重量感に精度良く対応する検証結果となった。
【0056】
このように、数式1にあっては、ラケットR全体の質量MA、重心位置BP、スイングウエイトSWに第1~第3寄与率C1~C3を乗じて指標値A1を演算している。よって、数式1では、グリップG2側の質量が変化した場合の重心位置BPの変化に応じて指標値A1の演算結果を増減させることができる。これにより、種々のラケットRの指標値A1とプレーヤが体感するスイング時の重量感とが精度良く対応可能となり、プレーヤが求める重量感のラケットRを選択し易くすることができる。
【0057】
ここで、第1~第3寄与率C1~C3は、スイング時の重量感としてスイングウエイトSWより指標値A1の方が精度良く対応する値とするため、以下の範囲に設定される。
0.37≦C1≦0.48
0.41≦C2≦0.52
0≦C3≦0.11
但し、C1+C2+C3=1
【0058】
第1~第3寄与率C1~C3を上記範囲内にて設定する際の優先順位は、第1寄与率C1、第2寄与率C2、第3寄与率C3の順とされる。
【0059】
上記においては、テニス用のラケットRの指標値A1を演算する場合について説明したが、バドミントン用のラケットRに関する指標値A2を演算する場合について、以下に説明する。
【0060】
本発明者は、バドミントン用のラケットRにおいて、グリップエンドR2aに対する加重量が増えるに従ってスイング時の重量感が大きくなるものでないという知見を得た。具体的には、図7のグラフに示すように、グリップエンドR2aへの加重量「0」から加重量を増やすに従って重量感が小さくなり、グラフの直線の傾きが逆転する尖点を過ぎると、加重量を増やすに従って重量感も大きくなるという知見を得た。そこで、本発明者は、得られた知見に基づき、プレーヤが実際感じるスイング時の重量感に精度良く対応すべく、以下の数式2を用いて重量感の指標値A2を測定することを発明した。
【0061】
A2=D・SW+E1・|ST-E2(MA/MG)|・・・(数式2)
SW:スイングウエイト(kg・cm
MA:全体の質量(g)
MG:グリップ側の質量(g)
D:補正用寄与率
E1:第1調整値
ST:基準値
E2:第2調整値
ここで、0.95≦D≦0.99、80≦E1≦85、0.53≦ST≦1.23、0.3≦E2≦0.7
【0062】
数式2において、補正用寄与率Dは、1より若干小さい値に設定されてスイングウエイトSWに乗算され、その乗算結果に、「E1・|ST-E2(MA/MG)|」が加算される。言い換えると、数式2は、スイングウエイトSWの測定値を補正用寄与率Dで所定値分少なくした値に、グリップR2側の質量MG及びラケットRの全体質量MAを用いた補正値として「E1・|ST-E2(MA/MG)|」を加算している。よって、数式2では、スイングウエイトSWの測定値を、グリップR2側の質量MGに応じて補正することで、スイング時の重量感となる指標値A2を演算することができる。
【0063】
ここで、第1調整値E1は、一般的なラケットのスイングウエイトと同等の値が設定される。基準値ST及び第2調整値E2は、図7のグラフにおける直線の傾きが逆転する尖点に基づいて設定され、グリップR2側の質量MGが該尖点となる条件で、数式2の絶対値記号で挟まれる「ST-E2(MA/MG)」が「0」になるよう設定される。また、基準値ST及び第2調整値E2は、グリップエンドR2aへの加重量が該尖点となる条件から増加及び減少した分(絶対値)に比例して「ST-E2(MA/MG)」が増加し、重量感の指標値A2が増加するよう補正される。また、第2調整値E2は、全体の質量MAとグリップR2側の質量MGとの比(MA/MG)を所定割合で増減し、そのばらつきを調整できるよう設定される。基準値STは、グリップR2側の質量MGが該尖点となる条件と、第2調整値E2とに付随して設定される。
【0064】
上述のように設定した補正用寄与率D、第1調整値E1、基準値ST及び第2調整値E2を含む数式2は、入力部105を介して記憶部107(図3参照)に記憶される。そして、制御部101の指標値演算部101dは、数式2と、測定、演算されるスイングウエイトSW、全体質量MA及びグリップR2側の質量MGとによって指標値A2を演算する。
【0065】
このように、数式2により演算された指標値A2は、グリップR2側の質量MGの変化を指標値A2の演算結果に反映し、バドミントン用のラケットRに特有のグリップR2側の質量MGの変化に応じた値とすることができる。これにより、バドミントン用のラケットRにおいて、指標値A2とプレーヤが体感するスイング時の重量感とを精度良く対応させることができる。
【0066】
バドミントン用のラケットRの測定方法は、テニス用のラケットRの測定に対し、以下に述べる点で変更となる。ラケットR全体の質量MAを測定するステップにて、質量演算部101aは、質量MAに加えてグリップR2側の質量MGも測定する。重心位置BPを測定するステップは省略できる。指標値A1に代えて指標値A2を演算するステップが実施される。このステップでは、制御部101の指標値演算部101dにおいて、測定の各ステップにて測定、演算されたラケットR全体の質量MA、グリップR2側の質量MG、スイングウエイトSWが取得される。制御部101の指標値演算部101dでは、それらの値が数式2に代入され、指標値A2が演算される。
【0067】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている大きさや形状、方向などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
【0068】
例えば、質量測定部102においては、測定器(不図示)で測定した荷重値や電圧変化等の電気信号を出力するようにし、制御部101で質量値に変換してもよい。
【0069】
また、重心位置測定部103は、質量測定部102とは異なる装置として設けてもよい。例えば、重心位置測定部103は、ラケットRの横方向に伸びて長手方向に変位する片状体と、ラケットRの長手方向に沿って設けられるスケールとを備えた構成としてもよい。この構成では、ラケットRの重心点が片状体と同一位置となるように該片状体の上端に載置してラケットRを水平に保ち、この状態でのグリップエンドG2aと片状体との距離をスケールにて測定することで重心位置BPを測定することができる。
【0070】
また、スイングウエイト測定部104には、測定器(不図示)にて回転軸23の回転角、角速度、角加速度の各値を測定して出力するようにし、制御部101でスイングウエイトSWに変換してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、ラケットのグリップ側における質量変化に応じたスイング時の重量感の指標値を求めることができるラケットの測定装置及び測定方法に関する。
【符号の説明】
【0072】
10 測定装置
101d 指標値演算部
102 質量測定部
103 重心位置測定部
104 スイングウエイト測定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7