(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】ハードコートフィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/30 20060101AFI20230614BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20230614BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20230614BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20230614BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20230614BHJP
C09D 4/02 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
B32B27/30 A
B32B27/40
B32B27/34
B32B27/18 Z
C09D7/61
C09D4/02
(21)【出願番号】P 2019183890
(22)【出願日】2019-10-04
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】泉 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 優介
【審査官】静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/037489(WO,A1)
【文献】特開2005-132999(JP,A)
【文献】特開2018-165835(JP,A)
【文献】特開2006-316223(JP,A)
【文献】特開2016-172422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材フィルムの少なくとも一方の面に第一のハードコート層を有し、更にその上に第二のハードコート層を有するハードコートフィルムであり、
前記第一のハードコート層は6官能未満のEO変性(メタ)アクリレート(A)と、反応性ナノシリカ(B)と、光重合開始剤(C)を含み、
前記第二のハードコート層は多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)と、光重合開始剤(C)を含むことを特徴とするハードコートフィルム。
【請求項2】
前記(A)がEO変性ジグリセリンテトラアクリレートであることを特徴とする請求項1記載のハードコートフィルム。
【請求項3】
前記第二のハードコート層が、更に撥水剤(E)を含むことを特徴とする請求項1又は2いずれか記載のハードコートフィルム。
【請求項4】
前記第二のハードコート層が、更に無機微粒子(F)を含むことを特徴とする請求項1~3いずれか記載のハードコートフィルム。
【請求項5】
前記透明基材フィルムがポリイミドフィルムであることを特徴とする請求項1~4いずれか記載のハードコートフィルム。
【請求項6】
フォルダブルディスプレイ用途のタッチパネルに用いることを特徴とする請求項1~5いずれか記載のハードコートフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈曲耐性を備えたハードコートフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネルを搭載したスマートフォンなどの画像表示装置は、傷つき防止のため、高い硬度や耐擦傷性を有するハードコート(以下HC)層を有するフィルムを、ディスプレイ表面に配置することが多い。またタッチパネル面が曲面となるデザインが商品化されるにつれ、HCフィルムにも曲げ特性を要求されるようになり、例えば多官能(メタ)アクリレートと撥水剤とシランカップリング剤を含み無機微粒子を含まないトップコートと、多官能(メタ)アクリレートと粒径1~300nmの無機微粒子を含むベースコートからなるHC積層フィルムなどが提案されている(特許文献1)。
【0003】
更に近年では、屈曲可能なフォルダブルディスプレイの登場により、上記のような曲げ特性に加えて、繰り返しの屈曲に対しても白化やクラックが生じることがないHCフィルムが要求され始め、このようなフレキシブル部材として、例えばポリイミド基材上に互いに異なるHC層を積層し、HC層間の屈折率差が0.04以下で、HC層総厚が7~35μmであるHCフィルムなどが提案されている(特許文献2)。
【0004】
こうした耐屈曲性を有するHCフィルムを用いることで、フォルダブルディスプレイを用いたスマートフォンなどの商品化が始まっている。しかしながら、HC層面をより負荷がかかりやすい外向きにしたり、屈曲させる曲率半径をより小径化したりと、デザインの多様化要求は急速に進んでおり、耐屈曲特性の更なる向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5870222号公報
【文献】特許第6216907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、優れた光学特性と高い鉛筆硬度を有すると共に、カールが発生し難く、またHC層面が内向きであっても外向きであっても、曲率半径の小さな屈曲に耐え得るHCフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、透明基材フィルムの少なくとも一方の面に第一のハードコート層を有し、更にその上に第二のハードコート層を有するハードコートフィルムであり、
前記第一のハードコート層は6官能未満のEO変性(メタ)アクリレート(A)と、反応性ナノシリカ(B)と、光重合開始剤(C)を含み、
前記第二のハードコート層は多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)と、光重合開始剤(C)を含むことを特徴とするハードコートフィルムを提供する。
【0008】
請求項2記載の発明は、前記(A)がEO変性ジグリセリンテトラアクリレートであることを特徴とする請求項1記載のハードコートフィルムを提供する。
【0009】
請求項3記載の発明は、前記第二のハードコート層が、更に撥水剤(E)を含むことを特徴とする請求項1又は2いずれか記載のハードコートフィルムを提供する。
【0010】
請求項4記載の発明は、前記第二のハードコート層が、更に無機微粒子(F)を含むことを特徴とする請求項1~3いずれか記載のハードコートフィルムを提供する。
【0011】
請求項5記載の発明は、前記透明基材フィルムがポリイミドフィルムであることを特徴とする請求項1~4いずれか記載のハードコートフィルムを提供する。
【0012】
請求項6記載の発明は、フォルダブルディスプレイ用途のタッチパネルに用いることを特徴とする請求項1~5いずれか記載のハードコートフィルムを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のHCフィルムは、優れた光学特性と高い鉛筆硬度を有すると共に、カールが発生し難く、またHC層面が内向きであっても外向きであっても、曲率半径の小さな屈曲に追従が可能であるため、フォルダブルディスプレイ用のHCフィルムとして有用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明について詳細に説明する。
【0015】
本発明のHCフィルムは、透明基材フィルム上に、6官能未満のEO変性(メタ)アクリレート(A)と、反応性ナノシリカ(B)と、光重合開始剤(C)とを含む第一のHC層を有し、更にその上に多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)と、光重合開始剤(C)とを含む第二のHC層を有する構成である。なお本明細書において、(メタ)アクリレートとはアクリレートとメタクリレートとの双方を包含する。
【0016】
第一のHC層形成で使用されるHC樹脂に含まれる6官能未満のEO変性(メタ)アクリレート(A)は、第一のHC層の主要バインダーであり、例えばEO変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート、EO変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、EO変性ジメチロールプロパンテトラアクリレート、EO変性ジグリセリンテトラアクリレート等が挙げられる。これらの中では、硬度、耐擦傷性、可撓性がバランス良く優れる点でグリセリン骨格を有するEO変性ジグリセリンテトラアクリレートが好ましい。6官能以上のEO変性(メタ)アクリレートは、粘度の上昇や硬化収縮による反り増加が発生する場合があり不適である。
【0017】
4官能であるEO変性ジグリセリンテトラアクリレートは、下記式(1)で示される構造であり、低粘度で硬化速度が速く、ナノシリカの分散性が良好で耐スチールウール(以下SW)性に優れ、また良好な屈曲特性を合わせ持つモノマーである。EO付加の合計数であるNは4~20が主成分であることが好ましく、4~12が更に好ましく、4~8が特に好ましい。4以上とすることで良好な反応性を確保でき、20以下とすることで反応性ナノシリカ(B)との十分な親和性を確保できる。
【化1】
・・・・(1)
(式(1)のa+b+c+d=N)
【0018】
前記(A)の固形分全量に対する配合量は20~70重量%が好ましく、25~65重量%が更に好ましく、30~50重量%が特に好ましい。20重量%以上とすることで十分な硬化皮膜の凝集力を確保でき、70重量%以下とすることで十分な鉛筆硬度を確保できる。
【0019】
本発明で使用される反応性ナノシリカ(B)は、硬化皮膜の硬度を高めるために配合する。シリカ表面は、塗料内での分散性を高めるためシラン系カップリング剤、(メタ)アクリロイル基などの反応性官能基を有する有機化合物で表面処理を行ったものである。平均粒子径は5~200nmが好ましく、10~100nmが更に好ましい。5nm以上とすることで硬度の向上が期待でき、200nm以下とすることで、全光線透過率やヘイズ等の光学特性への影響を低くすることができる。なお(B)の平均粒子径は、BET法により測定した。
【0020】
前記(B)の固形分全量に対する配合量は25~80重量%が好ましく、30~75重量%が更に好ましく、30~65重量%が特に好ましい。25重量%以上とすることで鉛筆硬度の向上が期待でき、80重量%以下とすることで充分な耐屈曲性を確保することができる。特に65重量%以下とすることで、HC面を外側にした時の耐屈曲性を大幅に向上できる。
【0021】
本発明に使用される光重合開始剤(C)は、紫外線や電子線などの照射でラジカルを生じ、そのラジカルが重合反応のきっかけとなるもので、ベンジルケタール系、アセトフェノン系、フォスフィンオキサイド系等汎用の光重合開始剤が使用できる。重合開始剤の光吸収波長を任意に選択することによって、紫外線領域から可視光領域にいたる広い波長範囲にわたって硬化性を付与することができる。具体的にはベンジルケタール系として2.2-ジメトキシ-1.2-ジフェニルエタン-1-オンが、α-ヒドロキシアセトフェノン系として1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン及び1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンが、α-アミノアセトフェノン系として2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オンが、アシルフォスフィンオキサイド系として2.4.6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド及びビス(2.4.6‐トリメチルベンゾイル)‐フェニルフォスフィンオキサイド等があり、単独または2種以上を組み合わせて使用できる。
【0022】
これらの中では、黄変しにくいα-ヒドロキシアセトフェノン系を含むことが好ましく、市販品としてはOmnirad127、184、2959(商品名:IGM Resins社製)などが挙げられる。(C)のラジカル重合性分100重量部に対する配合は0.5~10重量部が好ましく、3~8重量部が更に好ましい。
【0023】
第二のHC層形成で使用されるHC樹脂に含まれる多官能ウレタン(メタ)アクリレート(D)は、HC層の主要バインダーであり、ウレタン結合に由来する水素結合の凝集力により優れた耐擦傷性を有する。官能基数は2~10官能が好ましく、4~6官能が更に好ましい。2官能以上とすることで充分な硬化性と共に皮膜凝集力を確保でき、10官能以下とすることで硬化収縮を抑え、反りの少ない硬化皮膜を形成しやすくできる。
【0024】
前記(D)は、例えばポリイソシアネートと水酸基を有する(メタ)アクリレートとの反応で得ることができる。使用するポリイソシアネートとしては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート(以下HDI)、イソホロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、HDIイソシアヌレート体、IPDIイソシアヌレート体などがあり、これらを単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。これらの中では耐候性が高く黄変しにくい脂肪族及び脂環族のジイソシアネートが好ましく、特にそれらの中では延伸性が高いHDIが好ましい。
【0025】
前記(D)において使用するヒドロキシ(メタ)アクリレートとしては、例えば2官能ではトリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジグリセリンジ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートなどが、3官能以上ではジグリセリントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートがある。これらの中では3官能(合成された(D)の官能基数としては6官能に相当)で、硬化性の高いペンタエリスリトールトリアクリレート(以下PETA)が好ましい。
【0026】
前記(D)の固形分全量に対する配合量は70~97重量%が好ましく、80~96重量%が更に好ましい。70重量%以上とする事で充分な凝集力と皮膜強度を確保でき、また97重量%以下とする事で組成物の粘度を適度にコントロールでき良好な作業性を確保できる。
【0027】
第二のHC層には、更に撥水剤(E)を含むことが好ましい。(E)は硬化皮膜の防指紋性を向上させると同時に、スリップ性を高めて耐摩耗性を向上させるために配合する。例えばワックス系、シリコン系、フッ素系およびそれらの混合系などが挙げられるが、撥水特性及びその持続性の観点で、バインダー樹脂と反応できる官能基がついたポリシロキサン系、フッ素系、及びポリシロキサン骨格を有するフッ素系などが好ましい。(E)のラジカル重合性分100重量部に対する配合は0.1~3重量部が好ましく、0.2~2重量部が更に好ましい。市販品としてはメガファックRS-56、75,78(商品名:DIC社製)及びKY1207(商品名:信越化学工業社製)が挙げられる。
【0028】
また第二のHC層には、更に無機微粒子(F)を含むことが好ましい。(F)は前記(B)と同じく硬化皮膜の硬度を高めるために配合する。例えばシリカ、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズなどが挙げられ、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中では光学特性への影響が少ない点で、シリカ及び酸化アルミニウムが好ましい。シリカを用いる場合は、塗料内での分散性を高めるためシラン系カップリング剤、(メタ)アクリロイル基等の反応性官能基を有する有機化合物等で表面処理を行ったものが好ましいが、酸化アルミニウムを用いる場合は、表面処理の有無が分散性に与える影響は少ないため、どちらでも問題なく使用できる。
【0029】
前記(F)の平均粒子径は5~200nmが好ましく、10~100nmが更に好ましく、20~60nmが特に好ましい。5nm以上とすることで皮膜硬度の向上が期待でき、200nm以下とすることでヘイズ等の光学特性への影響を低くすることができる。また(F)の固形分全量に対する配合量は0.5~10重量%が好ましく、1~8重量%が更に好ましい。0.5重量%以上とすることで硬度の向上が期待でき、10重量%以下とすることでヘイズ等の光学特性への影響を低くすることができる。なお平均粒子径は、シリカの場合はBET法、酸化アルミニウムを含むその他はJISZ8825-1に準拠したレーザー回折・散乱法により測定したメジアン径(d50)とする。
【0030】
更に加えて本発明のHC層を形成するための組成物には、性能を損なわない範囲でレベリング剤、反応性希釈剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外吸収剤、蛍光増白剤、増感剤、難燃剤、有機微粒子、分散剤、シランカップリング剤、消泡剤、帯電防止剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、重合禁止剤、顔料や染料や色素などの着色剤、可塑剤などの添加剤を併用することができる。
【0031】
前記レベリング剤としては、塗膜表面の大きな表面張力差を均一化できるポリシロキサン系が好ましく、例えばポリアルキルシロキサン、ポリアリールシロキサン、ポリアルキルアリールシロキサン、ポリエーテル変性シロキサン等が挙げられる。また硬化後の皮膜からブリードしにくい反応性官能基を有するシロキサンを用いることが好ましい。特に第一のHC層に配合することで、第二のHC層を塗布した後の仕上がり外観を向上させることができる。第一のHC層に配合する場合の配合量は、ラジカル重合成分100重量部に対し0.005~0.5重量部が好ましい。
【0032】
本発明のハードコート層を形成する樹脂組成物は、透明基材フィルムへの塗工性を向上させるため、溶剤にて固形分が10~70%に希釈される。溶剤としては、例えばエタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール(以下IPA)、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン(以下MEK)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸メチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒、プロピレングリコールモノメチルエーテル(以下PGM),ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒等があげられ、単独あるいは2種類以上を組み合わせて使用できる。これらの中では(A)及び(D)との相溶性が良好なMEK、PGMなどが好ましい。
【0033】
本発明のハードコート樹脂を塗布する透明基材フィルムとしては、ポリイミドフィルム、ポリエチレンテレフタレート(以下PET)フィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリスチレンフィルム、アクリルフィルム、ポリカーボネートフィルム、シクロオレフィン(コ)ポリマーフィルム、ポリオレフィンフィルム(PP、PE等)及びこれらの複合フィルムが例示できる。これらの中では耐屈曲性が良好な点でポリイミドフィルム、価格、加工性、寸法安定性などの全体的なバランスが良好な点から二軸延伸処理されたPETフィルムが好ましく用いられる。
【0034】
透明基材フィルムの厚みは用途に応じて適宜決められるが、薄すぎると強度が不足し、厚すぎると屈曲特性が低下するため30μm~200μmが例示されるが、30μm未満であっても、200μm超であっても問題はない。
【0035】
前記の透明基材フィルムには、HC樹脂との密着性を向上させる目的で、プライマー処理、コロナ処理や、サンドブラスト法、溶剤処理法などによる表面の凹凸化処理、クロム酸処理、オゾン・紫外線照射処理などの表面の酸化処理などの表面処理を施すことができる。
【0036】
本発明のHC樹脂を透明基材フィルムに塗布する方法としては、バーコーター法、アプリケーター法、カーテンコーター法、ロールコーター法、グラビアコーター法、リバースコーター法、コンマコーター法、リップコーター法、ダイコーター法など、公知の方法が適用できる。
【0037】
塗布膜厚は硬化後の膜厚で、第一のHC層が1~10μm、第二のHC層が0.5~5μmであることが好ましく、第一のHC層が3~6μm、第二のHC層が1~3μmが更に好ましい。また合計の層厚は2~15μmが好ましく、4~10μmが更に好ましく、5~8μmが特に好ましい。合計の層厚を2μm以上とすることで鉛筆硬度や耐擦傷性を確保でき、15μm以下とすることで良好な繰り返し屈曲性を確保することができる。
【0038】
HC樹脂を塗布した後は60~120℃で乾燥して溶剤を揮発させ、紫外線照射機を用いて硬化させる。紫外線照射条件としては、500mW/cm2~3,000mW/cm2の照射強度で、積算光量としては100mJ/cm2~2,000mJ/cm2が例示できる。塗布膜厚が1μm未満の場合は、酸素による硬化阻害を防ぐため窒素パージすることが好ましい。光源としては高圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、LEDランプ、無電極紫外線ランプ等の公知の光源が適用可能である。
【0039】
以下、本発明を実施例、比較例に基づき詳細に説明するが、具体例を示すものであって特にこれらに限定するものではない。なお表記が無い場合は、室温は25℃相対湿度65%の条件下で測定を行った。なお配合量は重量部を示す。
【0040】
EO変性ジグリセリンテトラアクリレートの合成
ジグリセリン166g(1モル)にエチレンオキサイド246g(6モル)を付加した化合物に対し、アクリル酸317g(4.4モル)を85℃で10時間反応し、次いでトルエン及び多量の水及び未反応のアクリル酸を中和する量の苛性を加え、分液ロートで有機層を取り出しエバポレータにてトルエンを留去し、EO変性ジグリセリンテトラアクリレートを得た。また反応物の式(1)におけるN数は6が主体であった。
【0041】
第一のHC樹脂組成物1~8
(A)として上記で合成したEO変性ジグリセリンテトラアクリレートを、(B)としてPGM-AC-2140Y(商品名:日産化学社製、平均粒子径10~15nmナノシリカ、固形分40%、PGM分散品)及びPGM-AC-4130Y(商品名:日産化学社製、平均粒子径40~50nmナノシリカ、固形分32%、PGM分散品)を、(C)としてOmnirad2959(商品名:IGM Resins社製、α-ヒドロキシアセトフェノン系)を、6官能アクリレートとしてA-DPH-6E(商品名:新中村化学社製、ジペンタエリスリトールEO変性ヘキサアクリレート)を、4官能ウレタンアクリレートとしてRUA-062S(商品名:亜細亜工業社製)を、レベリング剤としてBYK-UV3576(商品名:ビックケミー社製、有効成分40%、ポリジメチルシロキサン変性多官能アクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート希釈)を、溶剤としてPGMを用い、表1記載の配合で均一に溶解分散するまで撹拌し、配合1~8のHC樹脂組成物を調製した。
【0042】
第二のHC樹脂組成物A~H
配合1~8で使用した材料に加え、(D)として6官能ウレタンアクリレート(PETA-HDI-PETA)を、(E)としてKY-1203(商品名:信越化学工業社製)を、(F)としてMEK-AC-5140Z(商品名:日産化学社製、平均粒子径80nm、ナノシリカ、固形分32%、MEK分散品)及びALMIBK30WT%-M47(商品名:CIKナノテック社製、平均粒子径30nm、酸化アルミニウム、表面処理あり、固形分30%、MIBK分散品)及びEN-2400I(商品名:CHEM-MAT社製、平均粒子径50nm、酸化アルミニウム、表面処理なし、固形分40%、IPA分散品)を、6官能アクリレートとしてDPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)を用い、表2記載の配合で均一に溶解分散するまで撹拌し、配合A~HのHC樹脂組成物を調製した。
【0043】
【0044】
【0045】
試験フィルム
表3及び4に示す構成で、PETフィルムU403(商品名:東レ社製、厚さ125μm)に第一のHC樹脂組成物を乾燥膜厚が4μmとなるように塗工し、恒温槽で80℃×1分乾燥後、無電極ランプで出力1,200mW/cm2、積算光量が200mJとなる様に紫外線照射して第一のHC層を形成後、その上に第二のHC樹脂を乾燥膜厚が2μmとなるように塗工し、恒温槽で80℃×1分乾燥後、無電極ランプで出力1,200mW/cm2、積算光量が200mJとなる様に紫外線照射して第二のHC層を形成し実施例1~11、比較例1~5の試験フィルムを作成した。
【0046】
評価方法は以下の通りとした。
【0047】
全光線透過率:JISK7361-1に準拠し。洋精機製作所製ヘイズメータ-Haze-gard2を用いて測定し、91%以上を○、91%未満を×とした。
【0048】
ヘイズ:JISK7136に準拠し、東洋精機製作所製ヘイズメータ-Haze-gard2を用いて測定し、1.0%以下を○、1.0%超を×とした。
【0049】
鉛筆硬度:JIS K5600-5-4(1999年版)に準拠し、東洋精機製作所製の鉛筆引掻塗膜硬さ試験機(形式P)を用いて750g荷重で測定し、3H以上を◎、3H未満~2H以上を○、2H未満を×とした。
【0050】
屈曲性試験:ビック・ガードナー社製の円筒形マンドレルテスタPF-5710を用い、サンプルサイズ120mm×30mmで180°の折り曲げを行い、HC面を内側(内折)にした場合はR径が1mm以下を◎、1mm超を、HC面を外側(外折)にした場合はR径が4mm以下を◎、4mm超~5mm以下を○、5mm超を×とした。
【0051】
カール評価:サンプルサイズ100mm×100mmのフィルムを平面板の上に載せ、4つの端の浮きの平均値を測定し、1mm以下を◎、1mm超~3mm以下を○、3mm超を×とした。
【0052】
【0053】
【0054】
実施例の各HCフィルムは、全光線透過率、ヘイズ、鉛筆硬度、屈曲試験、カールの評価項目でいずれも良好な結果を得た。
【0055】
一方、第二のHC層に(D)を含まない比較例1及び2はカールが大きく、第一のHC層に(B)を含まない比較例3は鉛筆硬度が低く、(A)を含まない比較例4は外折の屈曲性とカールが劣り、同じく(A)を含まない比較例5は鉛筆硬度が低く、いずれも本願発明に適さないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のHCフィルムは、優れた光学特性と高い鉛筆硬度を有すると共に、カールが発生し難く、またHC層面が内向きであっても外向きであっても、曲率半径の小さな屈曲に追従が可能であるため、フォルダブルディスプレイ用のHCフィルムとして有用である。