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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】糸状菌ペレットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/14 20060101AFI20230614BHJP
   C12P 7/46 20060101ALI20230614BHJP
   C12P 7/56 20060101ALI20230614BHJP
   C12P 7/50 20060101ALI20230614BHJP
   C12P 7/06 20060101ALI20230614BHJP
   C12R 1/845 20060101ALN20230614BHJP
   C12R 1/885 20060101ALN20230614BHJP
【FI】
C12N1/14 B
C12N1/14 C
C12P7/46
C12P7/56
C12P7/50
C12P7/06
C12R1:845
C12R1:885
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019521219
(86)(22)【出願日】2018-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2018020443
(87)【国際公開番号】W WO2018221482
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2017106360
(32)【優先日】2017-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 岳史
(72)【発明者】
【氏名】入江 裕
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-202073(JP,A)
【文献】Experimental Mycology,1992年,Vol. 16,p. 173-177
【文献】J. Phytopathol.,2014年,Vol. 162,p. 723-730
【文献】Braz. Arch. Biol. Technol.,2012年,Vol. 55,p. 637-646
【文献】J. Ferment. Technol.,1975年,Vol. 53, No. 10,p. 722-729
【文献】Vestnik Moskovskogo Universiteta, Seriya 6: Biologiya, Pochvovedenie,1975年,Vol. 30,p. 69-73
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00 - 1/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リゾプス属菌又はトリコデルマ属菌である糸状菌の胞子を、ポリアリルアミン又はその塩、ポリジアリルジアルキルアンモニウム塩、ポリエチレンイミン、カチオン化ポリビニルアルコール及びカチオン化セルロースから選ばれる1種以上のカチオン性ポリマーを含有する培養液に1×101個-胞子/mL-培養液以上、1×104個-胞子/mL-培養液以下となるように植菌し、当該培養液中で発芽させる工程を含む、糸状菌ペレットの製造方法。
【請求項2】
培養液中のカチオン性ポリマーの含有量が0.0001%(w/v)以上、2%(w/v)以下である請求項1記載の糸状菌ペレットの製造方法。
【請求項3】
カチオン性ポリマーの電荷密度が0.1meq/g以上、100meq/g以下である請求項1又は2記載の糸状菌ペレットの製造方法。
【請求項4】
カチオン性ポリマーの重量平均分子量が1,000以上、1,000,000以下である請求項1~3のいずれか1項記載の糸状菌ペレットの製造方法。
【請求項5】
糸状菌の胞子を発芽させる工程の培養液とは異なる培養液中で糸状菌ペレットを増殖させる工程を更に含む、請求項1~4のいずれか1項記載の糸状菌ペレットの製造方法。
【請求項6】
糸状菌ペレットの密度が0.04g-dry cell/cm3以上、0.3g-dry cell/cm3以下である請求項1~5のいずれか1項記載の糸状菌ペレットの製造方法。
【請求項7】
カチオン性ポリマーを含有する培養液の初発pHが2以上、7以下である請求項1~6のいずれか1項記載の糸状菌ペレットの製造方法。
【請求項8】
炭素源を含有する培養液にて請求項1~7のいずれか1項記載の製造方法によって糸状菌のペレットを得た後に、得られる糸状菌のペレットを用い、有機酸及びエタノールから選ばれる少なくとも1種を製造する方法。
【請求項9】
有機酸がフマル酸、乳酸、イタコン酸、リンゴ酸及びピルビン酸から選ばれる1種以上である請求項8記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸状菌ペレットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糸状菌は、有機酸や酵素類等の有用物質の微生物学的生産に産業上欠かせられない有用微生物である。糸状菌を液体培養すると、胞子接種量、培養液のpH、流動条件等によりその形態は繊維状、塊状又はペレット状等に変化する。糸状菌ペレットは発酵後の培地からの分離が容易等の利点を有する(例えば、特許文献1)。
【0003】
非特許文献1では、培養液に特定のノニオン界面活性剤を添加し、糸状菌ペレットを形成させることが報告されている。また、非特許文献2では、Aspergillus nigerの菌糸凝集体を形成させることが報告されている。
【0004】
(特許文献1)特開平6-253871号公報
【0005】
(非特許文献1)Journal of Industrial Microbiology、4、1989年、p.155-161
(非特許文献2)第48回化学工学会ポスター、LQ268
【発明の概要】
【0006】
本発明は、糸状菌の胞子を、カチオン性ポリマーを含有する培養液中で発芽させる工程を含む、糸状菌ペレットの製造方法、及び、菌糸密度の高い糸状菌ペレットを提供するものである。
【発明の詳細な説明】
【0007】
本発明は、高密度な糸状菌ペレットを製造する方法を提供することに関する。
【0008】
本発明者は、糸状菌のペレット化について検討した結果、カチオン性ポリマーを含む培養液中で糸状菌胞子を発芽させ、ペレットを形成させると、菌糸密度の高い糸状菌ペレットが得られることを見出した。
【0009】
本発明によれば、高密度な糸状菌ペレットが得られる。
【0010】
本発明の糸状菌ペレットの製造方法は、糸状菌の胞子を、カチオン性ポリマーを含有する培養液中で発芽させ、ペレットを形成させる工程を含む、製造方法である。
【0011】
(糸状菌)
本発明に用いられる糸状菌としては、リゾプス(Rhizopus)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属に属する微生物等が挙げられる。
リゾプス(Rhizopus)属菌としては、例えば、リゾプス・デレマー(Rhizopus delemar)、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)、リゾプス・アリズス(Rhizopus arrhizus)、リゾプス・キネンシス(Rhizopus chinensis)、リゾプス・ニグリカンス(Rhizopus nigricans)、リゾプス・トンキネンシス(Rhizopus tonkinensis)、リゾプス・トリチシ(Rhizopus tritici)等が挙げられる。
トリコデルマ(Trichoderma)属菌としては、例えば、トリコデルマ・アトロビリデ(Trichoderma atroviride)、トリコデルマ・ハルジアナム(Trichoderma harzianum)、トリコデルマ・コニンギ(Trichoderma koningii)、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma ressei)、トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)等が挙げられる。
アスペルギルス(Aspergillus)属菌としては、例えば、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)等が挙げられる。
ムコール(Mucor)属菌としては、ムコール・マンドシュリクス(Mucor mandshuricus)等が挙げられる。
これらの糸状菌は、単独で使用すればよいが、2種以上組み合わせて使用することもできる。
なかでも、有用物質の生産性、取扱性の観点から、リゾプス属菌又はトリコデルマ属菌が好ましく、リゾプス・デレマー、リゾプス・オリザエがより好ましい。本明細書における有用物質については後述する。
【0012】
(糸状菌の胞子と胞子懸濁液の調整)
糸状菌の胞子は、糸状菌の胞子をポテトデキストロース寒天培地(PDA培地)等の培地に接種して静置培養を行い、培養物を液体に懸濁した胞子懸濁液として調製することができる。胞子懸濁液は、適宜希釈して所望の胞子数に調整することができる。
胞子懸濁液を調製するための静置培養の条件としては、胞子増殖の観点から、培養温度は、好ましくは10℃以上、より好ましくは25℃以上であり、また、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下である。培養日数は、好ましくは7日以上、10日以下である。
胞子懸濁液中の胞子数は、後述するセルカウンターにて計測することができる。
【0013】
(胞子の発芽とペレット化の工程)
胞子懸濁液を、培養液に接種して培養することで、胞子は発芽し、菌糸体へと成長して、ペレットを形成する。
ここで、本明細書において「ペレット」とは、液体培養により菌糸が自発的に形成した数百μm~数mm程度の大きさの菌糸塊をいう。
培養液に接種する糸状菌の胞子数は、糸状菌ペレットの良好な生育の観点から、好ましくは1×101個-胞子/mL-培養液以上、より好ましくは1×102個-胞子/mL-培養液以上であり、また、上記と同様の観点から、好ましくは1×108個-胞子/mL-培養液以下であり、より好ましくは1×104個-胞子/mL-培養液以下である。
【0014】
培養液は、糸状菌を生育可能な液体培地であれば、合成培地、天然培地及び天然成分を合成培地に添加した半合成培地のいずれでもよい。例えば、ポテトデキストロース培地(PDB培地)、Luria-Bertani培地(LB培地)、Nutrient Broth(NB培地)、Sabouraud培地(SB培)等を利用することができる。
培養液には、炭素源、窒素源、無機塩類、その他必要な栄養源等を含有することができる。
炭素源としては、糖類が挙げられる。糖類としては、グルコース、フルクトース、キシロース等の単糖類、スクロース、ラクトース、マルトース等の二糖類が挙げられる。糖類は無水物又は水和物であってもよい。これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。なかでも、生産性の観点から、グルコースが好ましい。培養液中の当初の炭素源濃度は、好ましくは0.1%(w/v)以上、30%(w/v)以下である。
窒素源としては、例えば、尿素、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム等の含窒素化合物が挙げられる。培養液中の当初の窒素源濃度は、好ましくは0.1%(w/v)以上、1%(w/v)以下である。
無機塩としては、硫酸塩、マグネシウム塩、亜鉛塩等が挙げられる。
硫酸塩としては、例えば、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等が挙げられる。培養液中の当初の硫酸塩濃度は、好ましくは0.1%(w/v)以上、1%(w/v)以下である。
マグネシウム塩としては、例えば、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、塩化マグネシウム等が挙げられる。培養液中の当初のマグネシウム塩濃度は、好ましくは0.0001%(w/v)以上、0.5%(w/v)以下である。
亜鉛塩としては、例えば、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、塩化亜鉛等が挙げられる。培養液中の当初の亜鉛塩濃度は、好ましくは0.0001%(w/v)以上、0.5%(w/v)以下である。
【0015】
(カチオン性ポリマー)
本発明では、胞子の発芽とペレット化は、カチオン性ポリマーを含有する培養液中で行われる。
本発明に用いられる「カチオン性ポリマー」とは、水と混合された場合、正に帯電するポリマーをいう。カチオン性ポリマーの具体的な事例は、カチオン性基を有するモノマー、あるいは水中でカチオン性を示すアミノ基を有するモノマーの重合体、及び、これらのモノマーと他のモノマーの共重合体又は縮重合体が好ましい。
カチオン性基としては、第4級アミノ基、ヒドラジノ基等が挙げられ、水中でカチオン性を示すアミノ基としては、例えば第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基が挙げられる。
【0016】
カチオン性ポリマーの電荷密度は、ペレットの密度を高める観点から、好ましくは0.1meq/g以上であり、より好ましくは1meq/g以上、更に好ましくは2meq/g以上、更に好ましくは10meq/g以上である。また、上記と同様の観点から、好ましくは100meq/g以下であり、より好ましくは50meq/g以下であり、より好ましくは30meq/g以下である。
カチオン性ポリマーの電荷密度は、好ましくは0.1meq/g~100meq/gであり、より好ましくは1meq/g~50meq/gであり、より好ましくは2meq/g~30meq/gであり、更に好ましくは10meq/g~30meq/gである。
ここで、カチオン電荷密度とは、ポリマー上の正電荷の数と該ポリマーの分子量(カチオン基の対イオンの重量は除く)の比を指す。カチオン電荷密度にポリマー分子量を乗じると、所与のポリマー鎖における正に荷電した部位の数が求められる。カチオン電荷密度は更に、ポリマーのグラム当たりの正電荷(カチオン性を有する窒素原子)のミリ当量の数(meq/g)として定義される。
【0017】
カチオン電荷密度の値は、たとえば、以下の式(1)に従い求めることができる。
カチオン電荷密度(meq/g)=1÷(カチオンポリマー中のカチオン性を有する窒素原子を1つ含む単位分子量)×1000 ・・・ 式(1)
【0018】
カチオン性ポリマーの重量平均分子量(以下、単に分子量ともいう)は、糸状菌ペレットの良好な生育の観点から、好ましくは1,000以上、より好ましくは1,600以上であり、また、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下、より好ましくは300,000以下、更に好ましくは200,000以下である。カチオン性ポリマーの分子量は、好ましくは1,000~1,000,000、より好ましくは1,000~500,000、より好ましくは1,000~300,000、更に好ましくは1,600~200,000である。
また、カチオン性ポリマーの重量平均分子量は、培養時の操作性の観点から、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上、より好ましくは5,000以上、より好ましくは100,000以上であり、また、好ましくは500,000以下である。
なお、平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)等の公知の測定方法により測定され、測定装置は拘らないが、例としては、東ソー製HLC-8220シリーズ等が挙げられる。
【0019】
カチオン性ポリマーは、水溶性ポリマーであることが好ましい。ここで、「水溶性ポリマー」とは、105℃で2時間乾燥させたポリマーを、25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が10gを超えるポリマーをいう。カチオン性ポリマーの水100gへの溶解量は、好ましくは20g以上、より好ましくは100g以上である。
【0020】
カチオン性ポリマーとしては、例えば、1級アミンを含むポリマー、2級アミンを含むポリマー、3級アミンを含むポリマー、4級アミンを含むポリマーが挙げられる。1級アミンを含むポリマーとして、ポリアリルアミン、アリルアミン塩重合体、アリルアミンアミド塩重合体が挙げられる。2級アミンを含むポリマーとして、ポリジアリルアミン、ジアリルアミン塩重合体、ジアリルアミン塩/アクリルアミド共重合体が挙げられる。3級アミンを含むポリマーとして、アルキルジアリルアミン塩重合体、アルキルジアリルアミンアミド塩重合体が挙げられる。4級アミンを含むポリマーとして、ジアリルジアルキルアンモニウム塩重合体、ジアリルジアルキルアンモニウムエチルサルフェイト重合体、ジアリルジアルキルアンモニウム塩/アクリルアミド共重合体が挙げられる。また、前記のポリマー以外にも、ポリエチレンイミン、メチルグリコールキトサン、アミン-エピクロルヒドリン共重合体、カチオン化ポリビニルアルコール、カチオン化セルロース、カチオン化澱粉、カチオン化グアーガム、ジシアンジアミド系高分子が挙げられる。上記のアルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基が挙げられる。また、上記の塩としては硫酸塩、塩酸塩、酢酸塩が挙げられる。
アリルアミン塩重合体は、アリルアミン塩酸塩重合体が挙げられる。アリルアミンアミド塩重合体はアリルアミンアミド硫酸塩重合体が挙げられる。ジアリルアミン塩重合体は、ジアリルアミン塩酸塩重合体が挙げられる。アルキルジアリルアミン塩重合体はメチルジアリルアミン塩酸塩重合体、メチルジアリルアミン酢酸塩重合体が挙げられる。アルキルジアリルアミンアミド塩重合体として、メチルジアリルアミンアミド硫酸塩重合体が挙げられる。ジアリルジアルキルアンモニウム塩重合体として、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリジアリルメチルエチルアンモニウムクロライド、ポリアクリル酸-co-ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリアクリルアミド-co-ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリアクリルアミド-co-アクリル酸-co-ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリジアリルジメチルアンモニウムエチルサルフェイト、ポリジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェイトが挙げられる。
ジアリルジアルキルアンモニウムエチルサルフェイト重合体としてジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェイトが挙げられる。また、ポリ2-(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライドが挙げられる。
カチオン性ポリマーは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することもできる。
なかでも、ペレットの密度を高める観点から、好ましくはポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、アリルアミン塩重合体、ジアリルジアルキルアンモニウム塩重合体、ジアリルジアルキルアンモニウムエチルサルフェイト重合体、メチルグリコールキトサン、カチオン化ポリビニルアルコールであり、より好ましくはポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、アリルアミン塩重合体、ジアリルジアルキルアンモニウム塩重合体であり、より好ましくはポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ジアリルジアルキルアンモニウム塩重合体である。
【0021】
培養液中のカチオン性ポリマーの含有量は、ペレットの密度を高める観点から、好ましくは0.0001%(w/v)以上であり、より好ましくは0.001%(w/v)以上、更に好ましくは0.0015%(w/v)以上である。また、上記と同様の観点から、好ましくは2%(w/v)以下であり、より好ましくは1%(w/v)以下、更に好ましくは0.5%(w/v)以下である。培養液中のカチオン性ポリマーの含有量は、好ましくは0.0001~2%(w/v)、より好ましくは0.001~1%(w/v)、更に好ましくは0.0015~0.5%(w/v)である。
【0022】
(胞子の発芽とペレット化時の培養方法)
培養は、通常の手順にて行えばよい。培養は、通常、好気的条件で行われる。
培養温度は、好ましくは20℃以上、より好ましくは25℃以上であり、また、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下である。
培地の初発pHは、菌体の良好な生育の観点から、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、また、好ましくは7以下、より好ましくは5以下である。
培養期間は、糸状菌の胞子を培養液に植菌後、好ましくは30分以上、より好ましくは0.5日以上であり、また、好ましくは7日以内、より好ましくは6日以内、更に好ましくは5日以内である。
培養に用いる培養槽は、従来公知のものを適宜採用することができる。例えば、フラスコ、通気撹拌型培養槽、気泡塔型培養槽等、及び流動床培養槽が挙げられる。撹拌条件は、好ましくは80r/min以上、より好ましくは100r/min以上であり、また、好ましくは250r/min以下、より好ましくは200r/min以下である。
培養温度、培養期間、撹拌条件等を変更することにより、所望の大きさや外観のペレットを形成することができる。
糸状菌ペレットの体積平均粒径は、有用物質の高い生産性と触媒繰返し利用時の分離性の観点から、好ましくは150μm以上、より好ましくは250μm以上であり、また、好ましくは3000μm以下、より好ましくは1500μm以下である。
なお、体積平均粒径は後述する顕微鏡観察による画像解析で測定される。
【0023】
(ペレットの増殖工程)
本発明では、有用物質の生産性向上の観点から、糸状菌ペレットをさらに培養して増殖させる工程を行ってもよい。
糸状菌ペレットの増殖に用いられる培養液は特に限定されないが、糸状菌の胞子を発芽させる工程の培養液とは異なる培養液を用いるのが好ましい。例えば、通常使用されるグルコースを含む無機培養液が挙げられる。具体的には、グルコースを7.5以上30%以下(w/v)、硫酸アンモニウムを0.05以上2%以下(w/v)、リン酸2水素カリウムを0.03以上0.6%以下(w/v)、硫酸マグネシウムを0.01以上0.1%以下(w/v)、及び硫酸亜鉛を0.005以上0.05%以下(w/v)含有する培地等が挙げられる。上記の塩は水和物であっても良い。
【0024】
培養条件としては、培養温度が、好ましくは20℃以上、より好ましくは25℃以上であり、また、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下である。
また、培地のpHは、菌体の生育や、有用物質の生産性の観点から、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、また、好ましくは7以下、より好ましくは5以下である。培養液のpH制御は、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、炭酸カルシウム、アンモニア等の塩基、硫酸、塩酸等の酸を用いて行うことができる。
培養期間は、好ましくは30分以上、より好ましくは6時間以上、より好ましくは0.5日以上であり、また、好ましくは3日以下、より好ましくは2日以下、より好ましくは1日以下である。
また、培養に用いる培養槽は、従来公知のものを適宜採用することができる。具体的には、フラスコ、通気撹拌型培養槽、気泡塔型培養槽、及び流動床培養槽等が挙げられる。
【0025】
培養後、糸状菌ペレットは、培養液と共に培養槽から抜き出して、ろ過、遠心分離等の簡便な操作により分離回収することができる。培養槽に糸状菌ペレットを残したまま、同一培養槽で糸状菌ペレットを物質生産に利用することも可能である。
【0026】
かくして得られる糸状菌ペレットは、菌糸密度が高い。従って、当該糸状菌ペレットは、有用物質の発酵生産性向上に有用である。
糸状菌ペレットの密度は、有用物質の生産性の観点から、0.04g-dry cell/cm3以上、より好ましくは0.1g-dry cell/cm3以上であり、また、0.5g-dry cell/cm3以下、より好ましくは0.3g-dry cell/cm3以下、より好ましくは0.25g-dry cell/cm3以下である。当該密度は、後述する実施例に記載の方法で求められる。
【0027】
本明細書における有用物質は、糸状菌の培養の過程により炭素源から生産される化合物である。このような化合物としては、例えば、有機酸、酵素、油脂及びアルコールから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。本発明の糸状菌ペレットを用いて生産することができる好適な有用物質は、有機酸、エタノール又は酵素である。有機酸としては、例えば、フマル酸、乳酸、イタコン酸、リンゴ酸、ピルビン酸等が挙げられる。なかでも、好ましくは、フマル酸、ピルビン酸、乳酸及びリンゴ酸から選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくはフマル酸、乳酸であり、更に好ましくはフマル酸である。酵素としては、例えば、プロテアーゼ、オキシゲナーゼ、アミラーゼ、セルラーゼ、イソメラーゼが挙げられる。
【0028】
(糸状菌ペレットを用いた有用物質の生産)
有用物質の生産時に用いられる培養液は、通常、炭素源を含む。培養液には、炭素源の他、窒素源、無機塩類、その他リン源、ビタミン等の必要な栄養源等を含有することができる。使用する炭素源に培養に適切な濃度の上記栄養源が含まれている場合には、炭素源のみを用いることも可能である。炭素源、窒素源、無機塩類としては、前記[0014]段落記載の化合物が挙げられる。
有用物質の生産時に用いられる培養液においては、炭素源として、糖類を含有する糖液を使用することもできる。例えば、でんぷんから得られる糖液、糖蜜、廃糖蜜、リグノセルロース系バイオマスから得られる糖液が挙げられる。これらは1種又は2種以上組み合わせて使用することができる。ここで、本明細書において「リグノセルロース系バイオマス」とは、セルロース、ヘミセルロース、及びリグニンを主成分とするバイオマスを意味する。リグノセルロース系バイオマスとしては、具体例には、イナワラ、籾殻、麦わら、バガス、ヤシ殻、コーンコブ、雑草、木材、及びそれらから製造されたパルプ及び紙等が挙げられる。また、でんぷんとしては、例えば、トウモロコシ等の雑穀類、大豆等の豆類の抽出物が挙げられ、糖蜜としては、例えば、サトウキビ、テンサイ等に由来するものが挙げられる。
培養液中の当初の炭素源濃度は、生産性の観点から、好ましくは1%(w/v)以上、より好ましくは2%(w/v)以上、更に好ましくは3%(w/v)以上であって、また、好ましくは40%(w/v)以下、より好ましくは30%(w/v)以下、更に好ましくは20%(w/v)以下である。また、培養液中の当初の炭素源濃度は、好ましくは1~40(w/v)%、より好ましくは2~30(w/v)%、更に好ましくは3~20(w/v)%である。
【0029】
また、培養液中の当初の窒素源濃度は、生産性の観点から、好ましくは0.001%(w/v)以上、より好ましくは0.002%(w/v)以上、より好ましくは0.004%(w/v)以上であり、また、好ましくは0.5%(w/v)以下、より好ましくは0.3%(w/v)以下、より好ましくは0.1%(w/v)以下である。
培養液中の当初の硫酸塩濃度は、生産性の観点から、好ましくは0.001%(w/v)以上、より好ましくは0.005%(w/v)以上、より好ましくは0.01%(w/v)以上であり、また、好ましくは0.1%(w/v)以下、より好ましくは0.08%(w/v)以下、更に好ましくは0.04%(w/v)以下である。
培養液中の当初のマグネシウム塩濃度は、生産性の観点から、好ましくは0.001%(w/v)以上、より好ましくは0.002%(w/v)以上、更に好ましくは0.003%(w/v)以上であり、また、好ましくは0.5%(w/v)以下、より好ましくは0.2%(w/v)以下、更に好ましくは0.1%(w/v)以下である。
培養液中の当初の亜鉛塩濃度は、生産性の観点から、好ましくは0.00001%(w/v)以上、より好ましくは0.00003%(w/v)以上、更に好ましくは0.00005%(w/v)以上、そして、好ましくは0.1%(w/v)以下、より好ましくは0.05%(w/v)以下、更に好ましくは0.01%(w/v)以下である。
【0030】
有用物質の生産時の培養温度は、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上であり、また、好ましくは40℃以下、より好ましくは37℃以下である。
培養液のpHは、菌体の生育や、有用物質の生産性の観点から、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、また、好ましくは7以下、より好ましくは5以下である。pH制御は、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、炭酸カルシウム、アンモニア等の塩基、硫酸、塩酸等の酸を用いて行うことができる。
培養に用いるガスは、空気や酸素富化されたガスを選択できる。通気条件は、好ましくは0.1vvm以上、より好ましくは0.2vvm以上であり、また、好ましくは2vvm以下、より好ましくは1vvm以下である。
また、培養に用いる培養槽は、従来公知のものを適宜採用することができるが、フマル酸の高い生産性の観点から、通気撹拌型培養槽、気泡塔型培養槽、及び流動床培養槽が好ましく使用される。
培養は、回分式、半回分式及び連続式のいずれで行ってもよい。例えば、半回分式で行う場合、菌体と発酵液とを分離し、分離回収した菌体に培地を加えて更に発酵を行うことができる。また、連続式で行う場合、一定量の培地を発酵槽内に一定速度で供給するとともに、同量の発酵液を抜き取るという方法を採用することができる。その場合、発酵槽内の液面高さを一定に保つように、液面高さを液面センサー等により制御してもよい。また、発酵時に炭素源のみを供給することも可能であり、炭素源の供給は、流速で制御しても、グルコース濃度で制御してもよい。
【0031】
培養後の菌体と発酵液の分離は、発酵槽内でフィルターにより固液分離してもよいし、一度槽外に抜き出して液体サイクロンやろ過等の固液分離に供した後に菌体のみを発酵槽内に戻してもよい。
【0032】
(有用物資の回収)
分離後に得られた発酵液はそのまま、或いは発酵液を濃縮した後、晶析法、イオン交換法、溶剤抽出法、あるいはアルカリ土類金属塩として析出させた後析出物を酸分解する方法等により、発酵液から生成物を分離し回収することができる。
【0033】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の製造方法を開示する。
【0034】
<1>糸状菌の胞子を、カチオン性ポリマーを含有する培養液中で発芽させる工程を含む、糸状菌ペレットの製造方法。
【0035】
<2>糸状菌が、好ましくはリゾプス(Rhizopus)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、アスペルギルス(Aspergillus)属及びムコール(Mucor)属に属する微生物から選ばれる1種又は2種以上であり、より好ましくはリゾプス・デレマー(Rhizopus delemar)、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)、リゾプス・アリズス(Rhizopus arrhizus)、リゾプス・キネンシス(Rhizopus chinensis)、リゾプス・ニグリカンス(Rhizopus nigricans)、リゾプス・トンキネンシス(Rhizopus tonkinensis)、リゾプス・トリチシ(Rhizopus tritici)、トリコデルマ・アトロビリデ(Trichoderma atroviride)、トリコデルマ・ハルジアナム(Trichoderma harzianum)、トリコデルマ・コニンギ(Trichoderma koningii)、トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma ressei)、トリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)、アスペルギルス・オリザエ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)及びムコール・マンドシュリクス(Mucor mandshuricus)から選ばれる1種又は2種以上である<1>に記載の糸状菌ペレットの製造方法。
<3>糸状菌が、好ましくはリゾプス(Rhizopus)属菌又はトリコデルマ(Trichoderma)属菌であり、より好ましくはリゾプス・デレマー(Rhizopus delemar)、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)又はトリコデルマ・リーセイ(Trichoderma ressei)である<1>に記載の糸状菌ペレットの製造方法。
<4>糸状菌の胞子を、好ましくは1×101個-胞子/mL-培養液以上、より好ましくは1×102個-胞子/mL-培養液以上であり、また、好ましくは1×108個-胞子/mL-培養液以下、より好ましくは1×104個-胞子/mL-培養液以下の胞子数で、カチオン性ポリマーを含有する培養液に接種して胞子を発芽させる、<1>~<3>のいずれか1に記載の糸状菌ペレットの製造方法。
<5>培養液が、好ましくは炭素源、窒素源及び無機塩類を含有する<1>~<4>のいずれか1に記載の糸状菌ペレットの製造方法。
<6>培養液中の当初の窒素源濃度が、好ましくは0.1%(w/v)以上、1%(w/v)以下であり、当初の硫酸塩濃度が、好ましくは0.1%(w/v)以上、1%(w/v)以下であり、当初のマグネシウム塩濃度が、好ましくは0.0001%(w/v)以上、0.5%(w/v)以下であり、当初の亜鉛塩濃度が、好ましくは0.0001%(w/v)以上、0.5%(w/v)以下である<5>に記載の糸状菌ペレットの製造方法。
<7>培養液中のカチオン性ポリマーの含有量が、好ましくは0.0001%(w/v)以上、より好ましくは0.001%(w/v)以上、更に好ましくは0.0015%(w/v)以上であり、また、好ましくは2%(w/v)以下、より好ましくは1%(w/v)以下、更に好ましくは0.5%(w/v)以下であり、また、好ましくは0.0001~2%(w/v)、より好ましくは0.001~1%(w/v)、更に好ましくは0.0015~0.5%(w/v)である<1>~<6>のいずれか1に記載の糸状菌ペレットの製造方法。
<8>カチオン性ポリマーの電荷密度が、好ましくは0.1meq/g以上、より好ましくは1meq/g以上、更に好ましくは2meq/g以上、更に好ましくは10meq/g以上であり、また、好ましくは100meq/g以下、より好ましくは50meq/g以下、更に好ましくは30meq/g以下であり、また、好ましくは0.1meq/g~100meq/g、より好ましくは1meq/g~50meq/g、より好ましくは2meq/g~30meq/gであり、更に好ましくは10meq/g~30meq/gである<1>~<7>のいずれか1に記載の糸状菌ペレットの製造方法。
<9>カチオン性ポリマーの重量平均分子量が、好ましくは1,000以上、より好ましくは1,600以上であり、また、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下、より好ましくは300,000以下、更に好ましくは200,000以下であり、また、好ましくは1,000~1,000,000、より好ましくは1,000~500,000、より好ましくは1,000~300,000、更に好ましくは1,600~200,000である<1>~<8>のいずれか1に記載の糸状菌ペレットの製造方法。
<10>カチオン性ポリマーの重量平均分子量が、好ましくは1,000以上、より好ましくは2,000以上、より好ましくは5,000以上、より好ましくは100,000以上であり、また、好ましくは500,000以下であり、また、好ましくは1,000~500,000、より好ましくは2,000~500,000、更に好ましくは5,000~500,000、更に好ましくは100,000~500,000である<1>~<8>のいずれか1に記載の糸状菌ペレットの製造方法。
<11>カチオン性ポリマーが、好ましくは水溶性カチオン性ポリマーである<1>~<10>のいずれか1に記載の糸状菌ペレットの製造方法。
<12>カチオン性ポリマーが、好ましくはポリジアリルジアルキルアンモニウム塩又はその共重合体、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン又はその塩、メチルグリコールキトサン、アミン-エピクロルヒドリン共重合体、カチオン化ポリビニルアルコール、カチオン化セルロース、カチオン化澱粉、カチオン化グアーガム、ジシアンジアミド系高分子、及びポリ2-(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライドから選ばれる1種又は2種以上であり、より好ましくはポリアリルアミン又はその塩、メチルグリコールキトサン、ポリジアリルジアルキルアンモニウム塩又はその共重合体、ポリエチレンイミン及びカチオン化ポリビニルアルコールから選ばれる1種又は2種以上である<1>~<11>のいずれか1に記載の糸状菌ペレットの製造方法。
<13>ポリジアリルジアルキルアンモニウム塩又はその共重合体が、好ましくはポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリジアリルメチルエチルアンモニウムクロライド、ポリアクリル酸-co-ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリアクリルアミド-co-ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリアクリルアミド-co-アクリル酸-co-ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ポリジアリルジメチルアンモニウムエチルサルフェイト、及びポリジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェイトから選ばれる1種又は2種以上である<12>に記載の糸状菌ペレットの製造方法。
<14>培養温度が、好ましくは20℃以上、より好ましくは25℃以上であり、また、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下である<1>~<13>のいずれか1に記載の糸状菌ペレットの製造方法。
<15>カチオン性ポリマーを含有する培養液の初発pHが、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、また、好ましくは7以下、より好ましくは5以下である<1>~<14>のいずれか1に記載の糸状菌ペレットの製造方法。
<16>培養期間が、好ましくは30分以上、より好ましくは0.5日以上であり、また、好ましくは7日以内、より好ましくは6日以内、更に好ましくは5日以内である<1>~<15>のいずれか1に記載の糸状菌ペレットの製造方法。
<17>糸状菌ペレットの体積平均粒径が、好ましくは150μm以上、より好ましくは250μm以上であり、また、好ましくは3000μm以下、より好ましくは1500μm以下である<1>~<16>のいずれか1に記載の糸状菌ペレットの製造方法。
<18>糸状菌の胞子を発芽させる工程の培養液とは異なる培養液中で糸状菌ペレットを増殖させる工程を更に含む、<1>~<17>のいずれか1に記載の糸状菌ペレットの製造方法。
<19>糸状菌ペレットの増殖に用いられる培養液が、好ましくはグルコースを7.5~30%(w/v)、硫酸アンモニウムを0.05~2%(w/v)、リン酸2水素カリウムを0.03~0.6%(w/v)、硫酸マグネシウム・7水和物を0.01~0.1%(w/v)、及び硫酸亜鉛・7水和物を0.005~0.05%(w/v)を含有する培養液である<18>に記載の糸状菌ペレットの製造方法。
<20>糸状菌ペレットを増殖させる工程における培養温度が、好ましくは20℃以上、より好ましくは25℃以上であり、また、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下である<18>又は<19>に記載の糸状菌ペレットの製造方法。
<21>糸状菌ペレットを増殖させる工程における培養液のpHが、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、また、好ましくは7以下、より好ましくは5以下である<18>~<20>のいずれか1に記載の糸状菌ペレットの製造方法。
<22>糸状菌ペレットを増殖させる工程における培養期間が、好ましくは30分以上、より好ましくは6時間以上、より好ましくは0.5日以上であり、また、好ましくは3日以下、より好ましくは2日以下、より好ましくは1日以下である<18>~<21>のいずれか1に記載の糸状菌ペレットの製造方法。
<23>糸状菌ペレットの密度が、好ましくは0.04g-dry cell/cm3以上、より好ましくは0.1g-dry cell/cm3以上であり、また、好ましくは0.5g-dry cell/cm3以下、より好ましくは0.3g-dry cell/cm3以下、より好ましくは0.25g-dry cell/cm3以下である<1>~<22>のいずれか1に記載の糸状菌ペレットの製造方法。
<24>炭素源を含有する培養液にて<1>~<23>のいずれか1に記載の製造方法によって得られる糸状菌ペレットを用い有機酸及びエタノールから選ばれる少なくとも1種を製造する方法。
<25>有機酸が、好ましくはフマル酸、乳酸、イタコン酸、リンゴ酸、及びピルビン酸から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは、フマル酸、ピルビン酸、乳酸及びリンゴ酸から選ばれる少なくとも1種であり、更に好ましくはフマル酸、乳酸であり、更に好ましくはフマル酸である<24>に記載の方法。
<26>培養液中の当初の炭素源濃度が、好ましくは1%(w/v)以上、より好ましくは2%(w/v)以上、更に好ましくは3%(w/v)以上であって、また、好ましくは40%(w/v)以下、より好ましくは30%(w/v)以下、更に好ましくは20%(w/v)以下であり、また、好ましくは1~40(w/v)%、より好ましくは2~30(w/v)%、更に好ましくは3~20(w/v)%である<24>又は<25>に記載の方法。
<27>培養液が、好ましくは窒素源及び無機塩類を含有する<24>~<26>のいずれか1に記載の方法。
<28>培養液中の当初の窒素源濃度が、好ましくは0.001%(w/v)以上、より好ましくは0.002%(w/v)以上、より好ましくは0.004%(w/v)以上であり、また、好ましくは0.5%(w/v)以下、より好ましくは0.3%(w/v)以下、より好ましくは0.1%(w/v)以下であり、当初の硫酸塩濃度が、好ましくは0.001%(w/v)以上、より好ましくは0.005%(w/v)以上、より好ましくは0.01%(w/v)以上であり、また、好ましくは0.1%(w/v)以下、より好ましくは0.08%(w/v)以下、更に好ましくは0.04%(w/v)以下であり、当初のマグネシウム塩濃度が、好ましくは0.001%(w/v)以上、より好ましくは0.002%(w/v)以上、更に好ましくは0.003%(w/v)以上であり、また、好ましくは0.5%(w/v)以下、より好ましくは0.2%(w/v)以下、更に好ましくは0.1%(w/v)以下であり、当初の亜鉛塩濃度が、好ましくは0.00001%(w/v)以上、より好ましくは0.00003%(w/v)以上、更に好ましくは0.00005%(w/v)以上、また、好ましくは0.1%(w/v)以下、より好ましくは0.05%(w/v)以下、更に好ましくは0.01%(w/v)以下である<27>に記載の方法。
<29>有機酸及びエタノールから選ばれる少なくとも1種を製造する時の培養温度が、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上であり、また、好ましくは40℃以下、より好ましくは37℃以下である<24>~<28>のいずれか1に記載の方法。
<30>培養液のpHが、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、また、好ましくは7以下、より好ましくは5以下である<24>~<29>のいずれか1に記載の方法。
<31>密度が、好ましくは0.04g-dry cell/cm3以上、より好ましくは0.1g-dry cell/cm3以上であり、また、好ましくは0.5g-dry cell/cm3以下、より好ましくは0.3g-dry cell/cm3以下、より好ましくは0.25g-dry cell/cm3以下である糸状菌ペレット。
<32>体積平均粒径が、好ましくは150μm以上、より好ましくは250μm以上であり、また、好ましくは3000μm以下、より好ましくは1500μm以下である<31>記載の糸状菌ペレット。
【実施例
【0036】
[カチオン性ポリマー]
実施例1~16にて次の高分子を使用した。
・ポリエチレンイミン(PEI、分子量10,000、電荷密度23.2meq/g、Alfa Asesar製)
・ポリアリルアミン(PAA-01、分子量1,600、電荷密度17.5meq/g、ニットーボーメディカル製)
・ポリアリルアミン(PAA-05、分子量5,000、電荷密度17.5meq/g、ニットーボーメディカル製)
・ポリアリルアミン(PAA-15c、分子量15,000、電荷密度17.5meq/g、ニットーボーメディカル製)
・ポリアリルアミン(PAA-25、分子量25,000、電荷密度17.5meq/g、ニットーボーメディカル製)
・ポリアリルアミン塩酸塩(PAA-HCl-01、分子量1,600、電荷密度10.7meq/g、ニットーボーメディカル製)
・ポリアリルアミン塩酸塩(PAA-HCl-05、分子量5,000、電荷密度10.7meq/g、ニットーボーメディカル製)
・ポリアリルアミン塩酸塩(PAA-HCl-3L、分子量30,000、電荷密度10.7meq/g、ニットーボーメディカル製)
・ポリアリルアミン塩酸塩(PAA-HCl-10L、分子量150,000、電荷密度10.7meq/g、ニットーボーメディカル製)
・ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(PAS-H、分子量200,000、電荷密度6.19meq/g、ニットーボーメディカル製)
・ポリジアリルメチルエチルアンモニウムエチルサルフェイト(PAS-24、分子量37,000、電荷密度3.32meq/g、ニットーボーメディカル製)
・メチルグリコールキトサン(MGch、分子量150,080、電荷密度2.67meq/g、和光純薬製)
・ポリアリルアミン塩酸塩(PAH、分子量120,000~200,000、電荷密度10.7meq/g、Alfa Asesar製)
・ポリアリルアミン(PAAm、分子量15,000、電荷密度17.5meq/g、Polysciences,Inc.製)
・カチオン化ポリビニルアルコール(ゴーセネックス K-434、C-PVA、分子量 78,000~86,000 、電荷密度 8.23meq/g、日本合成化学工業製)
【0037】
[界面活性剤]
比較例1および6にて次の界面活性剤を使用した。
(非イオン性界面活性剤)
・ソルビタンモノラウレート:レオドールSP-L10、分子量346.46、花王(株)製
【0038】
[ポリマー]
比較例3~4にて次のポリマーを使用した。
(非イオン性ポリマー)
・ポリビニルアルコール(PVA、分子量100,000、Polysciences,Inc.製)
(アニオン性ポリマー)
・ポリアクリル酸ナトリウム(SPA、分子量2,821,200~3,761,600、和光純薬製)
【0039】
[実施例1]
<糸状菌ペレットの調製>
〔胞子懸濁液の調製〕
菌株は独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE)より入手した糸状菌R.delemar JCM5557を使用した。糸状菌は、シャーレ内に調製したPDA培地(Difco Potato Dextrose Agar、Becton,Dickinson and Company製)上に菌体を画線/塗布し、30℃にて静置培養し、定期的に継代を行った。菌体使用時にはシャーレから胞子を回収し、40mLの胞子回収液(NaCl 0.85%、Tween80 0.05%)に胞子を懸濁させた。その後、無菌の胞子回収液(NaCl 0.85%、Tween80 0.05%)で希釈することで1×107個-胞子/mLに調整したものを胞子懸濁液とした。胞子の濃度は全自動セルカウンター(TC20TM、バイオ・ラッド・ラボラトリーズ(株)製)にて測定した。
【0040】
〔糸状菌の発芽及びペレット化〕
熱滅菌済みのPDB培地(Difco Potato Dextrose Broth、Becton,Dickinsonand Company)を200mL仕込んだ500mL容バッフル付き三角フラスコに、熱滅菌済みのポリエチレンイミンを0.0015%(w/v)になるように含ませた。PDB培地に胞子懸濁液を2×103個-胞子/mLとなるように植菌して、振とう機(PRECI社、PRXYg-98R)にて27℃、170r/minの振盪条件で3日間培養を行い、糸状菌を発芽させ、糸状菌ペレットを得た。
【0041】
<糸状菌ペレット1個当たりの密度の測定>
培養終了後、菌体を含む培養液を重量測定用に100mLサンプリングし、ナイロンメンブレンフィルター(目開き180μm、Millipore製)を用いて糸状菌ペレットをろ過分離した。次いで、分離した糸状菌ペレットを、蒸留水200mLに浸漬し、振とう機(PRXYg-98R、プリス社製)を用いて170r/min-27℃の条件で15分撹拌し、さらに前記ナイロンメンブレンフィルターでろ過分離した。この洗浄操作を3回行った。
洗浄後の糸状菌ペレットを、再びナイロンメンブレンフィルターでろ過し、105℃の乾燥器にて1日間静置し乾燥菌体を得た。乾燥菌体の重量を測定し、菌体乾燥重量濃度[g-dry cell/L]を求めた。
ペレット粒子数濃度[個/L]は、洗浄後、1mLあたりに存在するペレットの個数を目視によりカウントし求めた。
1個当りのペレット体積[cm3/個]は、洗浄後、糸状菌ペレットを画像解析(KEYENCE VHX-1000)により観察し、ペレット100個分の体積平均粒径を求め、1個当りのペレット体積[cm3/個]を算出した。
【0042】
糸状菌ペレット1個当たりの密度を以下の式(1)より算出した。
糸状菌ペレット密度[g-dry cell/cm3
=菌体乾燥重量濃度[g-dry cell/L]/ペレット粒子数濃度[個/L]/糸状菌ペレット1個当たりの体積[cm3/個] (1)
【0043】
[実施例2]~[実施例12]
表1に示すカチオンポリマーを使用した以外は実施例1と同様の手法で糸状菌ペレットを得た。
【0044】
[実施例13]
カチオンポリマーとしてポリアリルアミン塩酸塩(分子量120,000~200,000、電荷密度10.7、Alfa Asesar製)を使用し、添加濃度を0.5%(w/v)にした以外は実施例1と同様の手法で糸状菌ペレットを得た。
【0045】
[実施例14]~[実施例15]
ポリアリルアミン塩酸塩の添加濃度を0.1%(w/v)又は0.01%(w/v)にした以外は実施例13と同様の手法で糸状菌ペレットを得た。
【0046】
[実施例16]
<糸状菌ペレットの調製>
〔胞子回収および冷凍ストックの作製〕
菌株は糸状菌Trichoderma resseiを使用した。糸状菌は、シャーレ内に調製したPDA培地(Difco Potato Dextrose Agar、Becton,Dickinson and Company製)上に菌体を画線/塗布し、30℃にて7日間静置培養し、胞子を十分に形成させた。静置培養の後、シャーレから胞子を回収し、胞子回収液(NaCl 0.9%、Tween80 0.03%)に胞子を懸濁させた。胞子の濃度は全自動セルカウンター(TC20TM、バイオ・ラッド・ラボラトリーズ(株)製)にて測定した。胞子懸濁液を調製した後、懸濁液とグリセロール水溶液(40vol%)を体積比3:1で混合し、その混合液を超低温フリーザ(三洋電機製(株))にて-80℃で保存し、冷凍ストックとした。
【0047】
〔糸状菌の発芽及びペレット化〕
PDB培地50mLおよび0.0045%(w/v)のカチオン化ポリビニルアルコールを500mL容三角フラスコに入れた。三角フラスコを熱滅菌した後に、冷凍しておいた胞子懸濁液を解凍した後に、1×104個-胞子/mLとなるように培地に植菌して、振とう機(PRECI社、PRXYg-98R)にて28℃、220r/minの振盪条件にて2日間培養を行い、糸状菌ペレットを得た。
【0048】
<糸状菌ペレット1個当たりの密度の測定>
培養終了後、得られた菌体を含む培養液50mLについて上記実施例1と同様の手法により洗浄を行った後、糸状菌ペレット密度[g-dry cell/cm3]を算出した。
【0049】
[比較例1]
<糸状菌ペレットの調製>
〔胞子懸濁液の調製〕
上記実施例1と同様の手法により、胞子懸濁液を調製した。
【0050】
〔糸状菌のペレット化〕
PDB培地200mLおよび0.5%(w/v)のソルビタンモノラウレートを500mL容バッフル付き三角フラスコに入れた。三角フラスコを熱滅菌した後に、胞子懸濁液を2×103個-胞子/mLとなるように培地に植菌して、振とう機(PRECI社、PRXYg-98R)にて27℃、170r/minの振盪条件にて3日間培養を行い、糸状菌ペレットを得た。
【0051】
<糸状菌ペレット1個当たりの密度の測定>
培養終了後、上記実施例1と同様の手法により洗浄を行った後、糸状菌ペレット密度[g-dry cell/cm3]を算出した。
【0052】
[比較例2]
添加剤を用いずに比較例1と同様の手法で培養を行った。
【0053】
[比較例3]
添加剤としてポリビニルアルコール(0.5%(w/v))を使用した以外は比較例2と同様の手法で糸状菌ペレットを得た。
【0054】
[比較例4]
添加剤としてポリアクリル酸ナトリウム(0.5%(w/v))を使用した以外は比較3と同様の手法で糸状菌ペレットを得た。
【0055】
[比較例5]
添加剤を用いずに実施例16と同様の手法で培養を行った。
【0056】
実施例1~16及び比較例1~5の結果を表1及び表2に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
表1及び表2より明らかなように、実施例1~16で調製した糸状菌ペレットは、比較例1~5の糸状菌ペレットと比較して高い菌糸密度を有していた。
【0060】
[実施例17]
<糸状菌ペレットの調製>
〔胞子懸濁液の調製〕
上記実施例1と同様の手法により、胞子懸濁液を調製した。
【0061】
〔糸状菌のペレット化〕
糸状菌ペレットの調製は以下の2段階の培養にて行った。1段目の培養が胞子の発芽とペレット化の工程であり、2段目の培養がペレットの増殖工程である。
1段目の培養は、ペレット形成培地であるPDB培地を30L容通気撹拌槽((株)三ツワフロンテック製)に仕込み、熱滅菌を行った後に、滅菌済みのポリアリルアミン(分子量15,000、電荷密度17.5、Polysciences,Inc.製)を0.0015%(w/v)になるように含ませ、胞子懸濁液を1×104個-胞子/mLとなるように植菌した。培地液量は滅菌水を加え15Lに調整し、液温27℃、撹拌速度300r/min、槽内圧力0.040MPa、空気を供給しDOを1.0ppmに制御した条件で3日間培養を行った。また、消泡センサーを用いて発泡時には消泡剤(1% KM-72F(信越化学製))が添加されるように制御を行った。
【0062】
2段目の培養は、まず槽内を加圧した状態で、培養液の上清を槽内に設置した250μm目開きの金属フィルターを介して、30L容通気撹拌槽から抜液した。その後、滅菌済みの増殖培地を槽内に仕込んだ後に、滅菌済みの蒸留水を槽内液量が15Lへとなるように添加し、培地濃度を下記となるよう各化合物を添加した。培地濃度は、グルコース(和光純薬工業社製) 6%(w/v)、硫酸マグネシウム七水和物 0.025%(w/v)、硫酸亜鉛七水和物 0.009%(w/v)、硫酸アンモニウム 0.1%(w/v)、リン酸二水素一カリウム 0.06%(w/v)である。培養は27℃,撹拌速度300r/min、槽内圧力0.040MPa、空気を供給しDOを2ppmに制御した条件で12時間培養を行った。培養中のpHは7N水酸化ナトリウムを適宜添加して、4を維持した。また、1段目の培養と同様に発泡時には消泡剤(1% KM-72F)が添加されるように制御を行った。
【0063】
〔ペレットの回収〕
上記の操作で得られた糸状菌ペレット培養液を、ナイロンメッシュフィルターにてろ液のドリップが落ち着くまで数十秒ろ過し、ウエット状態の糸状菌ペレットを得た。2段目で得られたペレットは速やかに発酵性の評価に供した。一部は、上記実施例1と同様の手法により洗浄を行った後、糸状菌ペレット密度[g-dry cell/cm3]を算出した。
【0064】
<フマル酸及びエタノール生産性の評価>
〔培養方法〕
滅菌済みの1L容通気撹拌槽に滅菌済みの培地と調製した糸状菌ペレット(ウエット状態)を添加した後に、滅菌済みの蒸留水を加え、液量を500mLに調整した。この際の培地組成は、グルコース(和光純薬工業社製)10%(w/v)、硫酸マグネシウム七水和物 0.025%(w/v)、硫酸亜鉛七水和物 0.009%(w/v)、硫酸アンモニウム 0.1%(w/v)、残りは水、であり、培地に対する糸状菌ペレットの占有体積が36vol%になるようにした。その直後に培養0時間目のサンプリングを行った後、35℃、撹拌速度500r/min、通気速度0.3~1.0vvmで高濃度酸素(>90%)を供給した条件にて培養を行った。その後経時的にサンプリングを行いながら、5時間培養を行った。pHは7N水酸化ナトリウム溶液を適宜添加して、pH(35℃)4を維持した。
【0065】
〔高速液体クロマトグラフ(HPLC)による各種成分の測定〕
サンプリングした発酵液を孔径が0.20μmのセルロースアセテート製メンブレンフィルタ(ADVANTEC社製)を用いて濾過した後、0.0085N硫酸水溶液で適宜希釈し、HPLC分析用サンプルとした。HPLCの分析条件は、次の通りである。
・カラム :ICSep ICE-ION-300
・溶離液 :0.0085規定硫酸、0.4mL/min
・検出法 :RI(HITACHI、L-2490)
・カラム温度:40℃
・注入液量 :20μL
・保持時間 :40min
【0066】
この分析系における各成分の保持時間は、次の通りである。
・グルコース:16min
・フマル酸 :26min
・エタノール:34min
【0067】
〔生産速度の算出〕
発酵液の分析値から、(1)糖の消費速度(P[g/L/h])、(2)フマル酸生産速度(Q[g/L/h])及び(3)エタノール生産速度(R[g/L/h])の3項目を評価軸とした。HPLC分析結果より各成分の濃度[g/L]を求めて、以下の式(1)~(3)により速度を算出した。
【0068】
糖の消費速度
P[g/L/h]=(G0-G)/ T (1)
フマル酸生産速度
Q[g/L/h]=(F-F0)/ T (2)
エタノール生産速度
R[g/L/h]=(E-E0)/ T (3)
(式中、G0、F0及びE0は、培養0時間のグルコース濃度、フマル酸濃度、エタノール濃度を示し、G、F及びEは、培養後のグルコース濃度、フマル酸濃度、エタノール濃度を示し、Tは発酵時間(h)を示す。)
【0069】
[比較例6]
<糸状菌ペレットの調製>
〔胞子懸濁液の調製〕
上記実施例1と同様の手法により、胞子懸濁液を調製した。
【0070】
〔糸状菌のペレット化〕
糸状菌ペレットの調製は以下の2段階の培養にて行った。
1段目の培養は、ソルビタンモノラウレート0.5%(w/v)およびPDB培地および0.5%(w/v)のソルビタンモノラウレートを30L容通気撹拌槽((株)三ツワフロンテック製)に仕込み、熱滅菌を行った後に、胞子懸濁液を1×104個-胞子/mLとなるように植菌した。培地液量は滅菌水を加え15Lに調整し、液温27℃、撹拌速度300r/min、槽内圧力0.040MPa、空気を供給しDOを1.0ppmに制御した条件で3日間培養を行った。また、消泡センサーを用いて発泡時には消泡剤(1% KM-72F(信越化学製))が添加されるように制御を行った。
【0071】
2段目の培養は、実施例17と同様の手法で行った。
【0072】
〔ペレットの回収〕
培養終了後、上記実施例17と同様の手法によりウエット状態の糸状菌ペレットを得、速やかに発酵性の評価に供した。一部は、糸状菌ペレット密度[g-dry cell/cm3]を算出した。
【0073】
<フマル酸及びエタノール生産性の評価>
上記実施例17と同様の手法で行った。
【0074】
実施例17及び比較例6の評価結果を表3に示す。なお、結果は培養開始から培養終了5時間までの速度を採用した。
【0075】
【表3】
【0076】
表3より明らかなように、本発明の菌糸密度の高い糸状菌ペレットを利用することにより、フマル酸及びエタノールの生産速度が向上することが確認された。