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特許7295799抗原特異的抗体を選択的に枯渇させるための融合タンパク質
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】抗原特異的抗体を選択的に枯渇させるための融合タンパク質
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20230614BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20230614BHJP
   C07K 14/76 20060101ALI20230614BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230614BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20230614BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
C07K14/47
C07K14/76
C07K16/28
C12N15/11 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019529975
(86)(22)【出願日】2017-12-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-16
(86)【国際出願番号】 US2017064186
(87)【国際公開番号】W WO2018102668
(87)【国際公開日】2018-06-07
【審査請求日】2020-12-01
(31)【優先権主張番号】62/429,367
(32)【優先日】2016-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504261103
【氏名又は名称】ザ テキサス エー アンド エム ユニバーシティー システム
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オーバー,エリザベス・サリー・ウォード
(72)【発明者】
【氏名】デバナボイナ,ベンカタ・シバ・チャラン
(72)【発明者】
【氏名】オーバー,ライムンド・ヨハネス
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-503007(JP,A)
【文献】The International Journal of BiologicalMarkers, 2004, Vol.19, No.3, p.213-220
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 19/00
C07K 14/47
C07K 14/76
C07K 16/28
C12N 15/11
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)および(B)を含むSeldegであって、
(A)細胞表面受容体又は細胞表面分子に特異的に結合するように構成されるタンパク質又はタンパク質フラグメントを有する標的成分、但し、前記タンパク質又はタンパク質フラグメントは、下記(1)~(3)からなる群より選ばれる:
(1)抗体Fcフラグメントであって、野生型Fcフラグメントと比較して、
(i)6.8より高く且つ7.5未満のpHでのFcRnへの結合親和性は増加するように改変され、且つ
(ii)FcγR及び/又は補体(C1q)への低下した結合親和性を有するか、或いはIgG2又はIgG4由来のFcフラグメントである、抗体Fcフラグメント、
(2)細胞表面リガンドに特異的な抗体であって、但し、前記抗体のFcフラグメントは、
(i)野生型Fcフラグメントと比較して、FcγR及び/又は補体(C1q)への結合親和性は低下するように改変されているか、或いは
(ii)IgG2又はIgG4由来のFcフラグメントである、抗体、
(3)細胞表面レセプターに対するリガンドであって、但し、前記リガンドは、下記(i)又は(ii)の抗体Fcフラグメントと融合している
(i)野生型Fcフラグメントと比較して、FcγR及び/又は補体(C1q)への結合親和性は低下するように改変されている抗体Fcフラグメント
(ii)IgG2又はIgG4由来のFcフラグメントである、リガンド、
及び
(B)標的抗原特異的抗体に特異的に結合するように構成される抗原の1分子を有する1価の抗原成分、
ここで、前記標的成分は前記抗原成分と直接又は間接的に融合していることを特徴とする、Seldeg。
【請求項2】
前記標的成分は、6.8より高く且つ7.5未満のpHにおいて10μM未満の解離定数で細胞表面受容体又は細胞表面分子に結合する、請求項1に記載のSeldeg。
【請求項3】
少なくとも1つの第1の標的成分及び第2の標的成分を含み、ここで第1の標的成分のタンパク質又はタンパク質フラグメントは第2の標的成分のタンパク質又はタンパク質フラグメントと異なる細胞表面受容体又は異なる細胞表面分子に結合するように構成されている、請求項1に記載のSeldeg。
【請求項4】
前記第1及び第2の標的タンパク質成分は、2つの免疫グロブリンFcフラグメントのヘテロダイマーを含み、前記ヘテロダイマーの1つの免疫グロブリンFcフラグメントは前記抗原成分に融合し、他の免疫グロブリンFcフラグメントは融合していない、請求項3に記載のSeldeg。
【請求項5】
前記抗原成分が免疫グロブリンFcフラグメントのヒンジ-CH2-CH3ドメインのN末端又はC末端において1つの免疫グロブリンFcフラグメントに融合している、請求項1に記載のSeldeg。
【請求項6】
前記標的成分は、Seldeg及び細胞表面受容体又は細胞表面分子を含む複合体のエンドソーム中への進入(entry)に続いて細胞表面受容体又は細胞表面分子から解離するように構成される、請求項1に記載のSeldeg。
【請求項7】
請求項1に記載のSeldegであって、前記標的成分が、
1つ以上のアルブミン分子、アルブミンフラグメント若しくはFcRnに特異的に結合するように構成される突然変異アルブミン変異体;
トランスフェリン受容体に結合するように構成される1つ以上の抗体可変ドメイン若しくはナノボディー;
トランスフェリン受容体に結合するように構成される1つ以上のタンパク質分子若しくはタンパク質ドメイン;
ホスファチジルセリンに結合するように構成される1つ以上のタンパク質分子若しくはタンパク質ドメイン;及び/又は
ホスファチジルセリンに結合するように構成される1つ以上の抗体可変ドメイン若しくはナノボディー;
を含む、Seldeg。
【請求項8】
前記1つ以上のタンパク質分子若しくはタンパク質ドメインは、カルシウム依存性機構を介してホスファチジルセリンに結合するように構成され、或いは、
前記標的成分が、シナプトタグミン1のC2Aドメインを含む、請求項7に記載のSeldeg。
【請求項9】
患者から標的抗原特異的抗体を枯渇させるための、請求項1から8のいずれかに記載のSeldegであって、
前記Seldegが患者中の循環又は標的組織から標的抗原特異的抗体の少なくとも50%をクリアランスするのに十分な量で患者に投与される、Seldeg。
【請求項10】
前記Seldegが
投与から24時間以内に前記患者中の循環又は標的組織から前記標的抗原特異的抗体の少なくとも50%をクリアランスするのに十分な量、
投与から48時間以内に前記患者中の循環又は標的組織から前記標的抗原特異的抗体の少なくとも50%をクリアランスするのに十分な量、或いは
投与から48時間以内に前記患者中の循環又は標的組織から前記標的抗原特異的抗体の少なくとも90%をクリアランスするのに十分な量、のいずれかの量で投与される、請求項9に記載のSeldeg。
【請求項11】
前記Seldegが
前記循環中又は前記標的抗原特異的抗体が標的とする組織中で非標的抗体の10%未満をクリアランスする、
前記循環中又は前記標的抗原特異的抗体が標的とする組織中で非標的抗体の1%未満をクリアランスする、或いは
前記患者において臨床的に不利な影響を引き起こさない量の該患者の循環又は標的組織中の標的とされない抗体をクリアランスする、請求項9に記載のSeldeg。
【請求項12】
前記Seldegが
自己免疫疾患に冒された患者に投与され、前記標的抗原特異的抗体は自己抗原に特異的に結合するか、
臓器を移植された患者に投与され、前記標的抗原特異的抗体は移植された前記臓器上の抗原に特異的に結合するか、
腫瘍画像化の間にコントラストを増すために投与され、前記標的抗原特異的抗体は腫瘍抗原に特異的に結合するか、
生物学的製剤を受け取った患者に投与され、前記標的抗原特異的抗体は前記生物学的製剤であるか、
前記患者が治療薬に特異的な抗体を有する場合、治療薬の送達の前に該患者に投与され、Seldegは前記治療薬に関して特異的な抗体を標的とするように構成されるか、或いは
診断用画像化においてコントラストの向上のために投与される、請求項9に記載のSeldeg。
【請求項13】
前記Seldegが細胞表面受容体又は細胞表面分子を発現する細胞によって前記標的抗原特異的抗体の分解を引き起こす、請求項9に記載のSeldeg。
【請求項14】
請求項1に記載のSeldegであって、
前記標的抗原特異的抗体は抗MOG抗体であり、
前記標的抗原特異的抗体は抗HER2抗体であり、
当該Seldegは、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号32、若しくは配列番号34のアミノ酸配列、又はこれらアミノ酸配列に対し90%の同一性を有する配列、の少なくとも1つのアミノ酸配列を有するタンパク質を含むか、或いは
当該Seldegは、i)配列番号2プラス配列番号6、ii)配列番号4プラス配列番号6、iii)配列番号8プラス配列番号10、iv)配列番号12プラス配列番号14、v)配列番号16プラス配列番号18プラス配列番号20、vi)配列番号20プラス配列番号22プラス配列番号24、vii)配列番号26プラス配列番号28、viii)配列番号30プラス配列番号6、ix)配列番号32プラス配列番号6若しくはx)配列番号34プラス配列番号6のアミノ酸配列、又はこれらアミノ酸配列に対し90%の同一性を有する配列、を有するタンパク質のヘテロダイマーを含む、Seldeg。
【請求項15】
請求項14に記載のSeldegであって、
前記標的抗原特異的抗体は抗MOG抗体であり、
前記標的成分は、下記(i)および(ii)のヘテロダイマーを含み、
(i)免疫グロブリンFcフラグメントに直接又はリンカーを介して連結されたMOGの残基1-117;および
(ii)免疫グロブリンFcフラグメント、
ここで、前記免疫グロブリンFcフラグメントは、IgG1由来であり、FCγRおよびC1qへの結合を減少させるためのL234A、L235A、P329G(EUナンバリングシステム)の変異、およびFcRnへの結合を増加させるためのM252Y、S254T、T256E、H433K、N434F(EUナンバリングシステム)の変異を含み、
前記ヘテロダイマーの成分(i)は、配列番号2に対して少なくとも90%の配列同一性を有し、前記ヘテロダイマーの成分(ii)は、配列番号6に対して少なくとも90%の配列同一性を有する、Seldeg。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は人為改変(engineered)タンパク質、そしてさらに具体的に体から標的抗原特異的抗体を選択的に枯渇させる融合タンパク質(“Seldegs”)に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は、人体及び哺乳類の身体の血液その他の体液中に存在するY形のタンパク質である。抗体は体の免疫系の重要な成分である。それらは抗原と呼ばれる異種標的の独特の部分を認識することにより機能する。抗体はその2つの抗原結合部位を介して選択的に抗原を認識し、それへの免疫反応を開始させる(trigger)ことができる。それぞれの抗原結合部位は、抗体のY形の上部先端のそれぞれの末端にある。標的抗原は1つ又は両方の抗原結合部位に結合する場合がある。抗体のY形の基部はFcフラグメントと呼ばれる。抗体がその標的に結合すると、Fc領域は抗体エフェクター機能を介して標的クリアランスをもたらすことができる。そのような反応は抗原を破壊するための細胞プロセスを含み得る。ある種の自己免疫疾患及び他の病気において、体における自己抗原を標的とする病原性抗体が作られ、発病に寄与する場合がある。抗体は、細胞から分泌されて血漿中で遊離している可溶性の形態又はB細胞の外膜に結合している膜結合形態の2つの物理的形態のいずれかにある場合がある。分泌される抗体は自己反応性抗体を含む疾患における病状(pathology)を引き起こす。それらは移植拒絶又はタンパク質に基づく治療の排除にも寄与し得る。
【0003】
標的分子に特異的に結合する抗体の能力の故に、それらを癌及び自己免疫のような疾患の処置に用いることができる。それらは例えばポジトロンエミッショントモグラフィー(PET)において放射性標識抗体を用いる全身画像化の間に腫瘍の検出にも用途を有する。しかしながら、それらの比較的長い生体内持続性(in vivo persistence)は非腫瘍組織における高いバックグラウンドに導き、腫瘍画像化に関する劣ったコントラスト及び望ましくないオフターゲット効果を生じ得る。
【発明の概要】
【0004】
本開示は本明細書で“Seldegs”と呼ばれる融合タンパク質を含み、それは抗原特異的抗体の選択的クリアランスを可能にするように構成される。Seldegは細胞表面受容体又は他の細胞表面分子に特異的に結合するように構成される標的成分及び抗原特異的抗体又はその変異体に特異的に結合するように構成される抗原成分を含む。
【0005】
Seldegの標的成分は、細胞表面受容体又は他の細胞表面分子に特異的に結合するように構成されるタンパク質又はタンパク質フラグメントを含む。Seldegの抗原成分は、標的抗原特異的抗体に特異的に結合するように構成される抗原又は抗原フラグメント又は抗原類似物の1分子を含む。抗原成分は標的成分に直接又は間接的に融合している。
【0006】
本開示は、患者中の循環又は標的組織から標的抗原特異的抗体の少なくとも50%をクリアランスするのに十分な量でSeldegを患者に投与することにより、患者から標的抗原特異的抗体を枯渇させる方法も含む。
【0007】
上記のSeldegs及び方法はさらに以下の詳細を含む場合があり、それらは明らかに互いに排他的でなければ互いと組み合わされる場合がある:i)標的成分は中性近辺のpHにおいて10μM未満の解離定数で細胞表面受容体又は細胞表面分子に結合すること
ができる;ii)中性近辺のpHは6.8より高く且つ7.5未満の場合がある;iii)Seldegは少なくとも1つの第1の標的成分及び第2の標的成分を含むことができ、ここで第1の標的成分のタンパク質又はタンパク質フラグメントは第2の標的成分のタンパク質又はタンパク質フラグメントと異なる細胞表面受容体又は異なる細胞表面分子に結合するように構成される;iv)標的成分は2つの免疫グロブリンFcフラグメントのヘテロダイマーを含む場合があり、そこにおいてヘテロダイマーの1つの免疫グロブリンFcフラグメントは抗原成分に融合しており、他の免疫グロブリンFcフラグメントは融合していない場合がある;v)免疫グロブリンFcフラグメントはFcガンマ受容体への結合が実質的に低下しているか又は検出可能な結合をしていない場合がある;vi)免疫グロブリンFcフラグメントはFcガンマ受容体又は補体に結合しない免疫グロブリンのクラス又はイソタイプに由来することができる;vii)免疫グロブリンFcフラグメントをFcガンマ受容体及び補体に結合するように構成することができる;viii)免疫グロブリンFcフラグメントの少なくとも1つを、中性近辺のpHにおいて非修飾免疫グロブリンFcフラグメントより高いFcRnに関する結合親和性を有するように修飾することができる;ix)抗原成分は、免疫グロブリンFcフラグメントのヒンジ-CH-CHドメインのN末端又はC末端において1つの免疫グロブリンFcフラグメントに融合している場合がある;x)免疫グロブリンFcフラグメントをFcガンマ受容体及び/又は補体(C1q)への結合親和性を有していないかあるいは非修飾免疫グロブリンFcフラグメントより低いFcガンマ受容体及び/又は補体(C1q)への結合親和性を有するように修飾する場合がある;xi)標的成分は、細胞表面受容体又は細胞表面分子に特異的に結合するように構成される1つ以上の抗体可変領域又はそのフラグメントを含む場合がある;xii)抗体可変領域又はそのフラグメントは少なくとも1つのナノボディーを含む場合がある;xiii)ナノボディーはナノボディー多量体の場合があり、そこにおいて1つのナノボディーは抗原成分に融合しており、ナノボディー多量体中の他のすべてのナノボディーは融合していない場合がある;xiv)標的成分を、Seldeg及び細胞表面受容体又は細胞表面分子を含む複合体のエンドソーム中への進入(entry)に続いて細胞表面受容体又は細胞表面分子から解離するように構成する場合がある;xv)抗原成分は標的成分上のN末端位置又はC末端位置に融合している場合がある;xvi)抗原成分は標的成分上の非末端位置に融合している場合がある;xvii)抗原成分は化学反応を介して、リンカーを介して又は1つの組み合わされた抗原成分-標的成分融合タンパク質の形成の間(during formation of a single combined antigen component-targetting component fusion protein)に標的成分に融合する場合がある;xviii)標的成分は1つ以上のアルブミン分子、アルブミンフラグメント又はFcRnに特異的に結合するように構成される突然変異アルブミン変異体の場合がある;xix)標的成分は、トランスフェリン受容体に結合するように構成される1つ以上の抗体可変ドメイン又はナノボディーを含む場合がある;xx)標的成分は、トランスフェリン受容体に結合するように構成される1つ以上のタンパク質分子又はタンパク質ドメインを含む場合がある;xxi)標的成分は、ホスファチジルセリンに結合するように構成される1つ以上のタンパク質分子又はタンパク質ドメインを含む場合がある;xxii)標的タンパク質成分は、ホスファチジルセリンに結合するように構成される1つ以上の抗体可変ドメイン又はナノボディーを含む場合がある;xxiii)1つ以上のタンパク質分子又はタンパク質ドメインを、カルシウム依存性機構を介してホスファチジルセリンに結合するように構成する場合がある;xxiv)標的成分は、シナプトタグミン1のC2Aドメインを含む場合がある;xxv)Seldegは少なくとも1つの第1の抗原成分及び第2の抗原成分を含む場合があり、ここで第1の抗原成分の抗原、抗原フラグメント又は抗原類似物の1分子は第2の抗原成分の抗原分子、抗原フラグメント又は抗原類似物の1分子と異なる;xxvi)Seldegは少なくとも1つの第1の抗原成分及び第2の抗原成分を含む場合があり、ここで第1の抗原成分の抗原、抗原フラグメント又は抗原類似物の1分子は第2の抗原成分の抗原分子、抗原フラグメント又は抗原類似物の1分子と同じであ
る;xxvii)前記方法は、投与から5時間以内に患者中の循環又は標的組織から標的抗原特異的抗体の少なくとも50%をクリアランスするのに十分な量のSeldegを投与することを含む場合がある;xxviii)前記方法は、中性近辺のpHにおいて10μM未満の解離定数で細胞表面受容体又は他の細胞表面分子に結合するように構成されたタンパク質又はタンパク質フラグメントを含む標的成分を有するSeldegを投与することを含む場合がある;xxix)投与されるSeldegの十分な量は、枯渇させられるべき標的抗原特異的抗体の量に少なくとも等モルである量の場合がある;xxx)前記方法は、投与から2時間以内に患者中の循環又は標的組織から標的抗原特異的抗体の少なくとも90%をクリアランスするのに十分な量でSeldegを投与することを含む場合がある;xxxi)投与から1時間以内に患者中の循環又は標的組織から標的抗原特異的抗体の少なくとも50%をクリアランスするのに十分な量でSeldegを投与する場合がある;xxxii)患者の50%が循環又は標的組織中で閾量の標的抗原特異的抗体を再生したと予想されるときはいつでもSeldegを再投与する場合がある;xxxiii)Seldegは、循環中又は標的抗原特異的抗体が標的とする組織において非標的抗体の10%未満をクリアランスする場合がある;xxxiv)Seldegは、患者において臨床的に不利な影響を引き起こさない量の患者の循環又は標的組織中の標的とされない抗体をクリアランスする場合がある;xxxv)Seldegは、循環中又は標的抗原特異的抗体が標的とする組織中で非標的抗体の1%未満をクリアランスする場合がある;xxxvi)Seldegは、細胞表面受容体又は細胞表面分子を発現する細胞により、標的抗原特異的抗体の分解を引き起こす場合がある;xxxvii)自己免疫疾患に冒された患者にSeldegを投与する場合があり、標的抗原特異的抗体は自己抗原に特異的に結合する場合がある;xxxviii)移植臓器を受け取った患者にSeldegを投与する場合があり、標的抗原特異的抗体は移植臓器上の抗原に特異的に結合する場合がある;xxxix)腫瘍画像化の間にコントラストを増すためにSeldegを投与する場合があり、標的抗原特異的抗体は腫瘍抗原に特異的に結合する場合がある;xl)生物学的製剤を受け取った患者にSeldegを投与する場合があり、標的抗原特異的抗体は生物学的製剤の場合がある;xli)患者が治療薬に特異的な抗体を有する場合、治療薬の送達の前にSeldegを患者に投与する場合があり、Seldegは治療薬に関して特異的な抗体を標的とするように構成される;xlii)PET画像コントラスト剤を与えるためにSeldegを投与する場合がある;xliii)標的抗原特異的抗体は抗MOG抗体の場合がある;xliv)標的抗原特異的抗体は抗HER2抗体の場合がある;xlv)Seldegは配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号32又は配列番号34あるいはそれらの相同体の少なくとも1つのアミノ酸配列を有するタンパク質を含む場合がある;xlvi)Seldegは配列番号2プラス配列番号6、配列番号4プラス配列番号6、配列番号8プラス配列番号10、配列番号12プラス配列番号14、配列番号16プラス配列番号18プラス配列番号20、配列番号20プラス配列番号22プラス配列番号24、配列番号26プラス配列番号28、配列番号30プラス配列番号6、配列番号32プラス配列番号6又は配列番号34プラス配列番号6又はそれらの相同体のアミノ酸配列を有するタンパク質のヘテロダイマーを含む場合がある。
【0008】
本発明ならびにその特徴及び利点をさらに完全に理解するために、ここで添付の図面と一緒に理解される以下の記述に言及し、図面は一定の比率で拡大縮小されておらず(not to scale)、図面中で同じ数字は同じ特徴を指す
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】Seldegの存在下における抗原特異的抗体の分解に導く選ばれた細胞事象(celluar events)の略図である;
図2A】FcフラグメントのN末端位置に融合した抗原を含むSeldegの略図である;
図2B】FcフラグメントのC末端位置に融合した抗原を含むSeldegの略図である;
図2C】Fcフラグメントの非末端位置に融合した抗原を含むSeldegの略図である;
図2D】細胞表面受容体又は細胞表面分子に結合するタンパク質又はタンパク質フラグメントの末端位置に融合した抗原を含むSeldegの略図である;
図2E】細胞表面受容体又は細胞表面分子に結合するタンパク質又はタンパク質フラグメントの非末端位置に融合した抗原を含むSeldegの略図である;
図2F】FcフラグメントのN末端位置に融合した抗原及びFcフラグメントのC末端に融合した細胞表面タンパク質又は細胞表面受容体に結合するタンパク質又はタンパク質フラグメントを含むSeldegの略図である;
図2G】FcフラグメントのC末端位置に融合した抗原及びFcフラグメントのN末端に融合した細胞表面タンパク質又は細胞表面受容体に結合するタンパク質又はタンパク質フラグメントを含むSeldegの略図である;
図2H】細胞表面タンパク質又は細胞表面受容体に結合する抗体のC末端位置に融合した抗原を含むSeldegの略図である;
図2I】FcフラグメントのC末端位置に融合した抗原及びFcフラグメントのN末端に融合した細胞表面タンパク質又は細胞表面受容体に結合するscFvフラグメントを含むSeldegの略図である;
図2J】FcフラグメントのN末端位置に融合した抗原及びFcフラグメントのC末端に融合した細胞表面タンパク質又は細胞表面受容体に結合するscFvフラグメントを含むSeldegの略図である;
図2K】FcフラグメントのN末端位置に融合した2種類の抗原を含むSeldegの略図である;
図2L】FcフラグメントのN末端位置に融合した2種類の抗原及びFcフラグメントのC末端に融合した細胞表面タンパク質又は細胞表面受容体に結合するタンパク質又はタンパク質フラグメントを含むSeldegの略図である;
図2M】FcフラグメントのN末端位置に融合した2個の抗原分子を含むSeldegの略図である;
図2N】FcフラグメントのN末端位置に融合した2個の抗原分子及びFcフラグメントのC末端に融合した細胞表面タンパク質又は細胞表面受容体に結合するタンパク質又はタンパク質フラグメントを含むSeldegの略図である;
図3A】2つの代表的なFcRn標的化Seldegs、ヒト表皮成長因子受容体2Seldeg(“HER2-Seldeg”)及びミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質Seldeg(“MOG-Seldeg”)の略図である;
図3B】pH6.0及び7.4における代表的なFcRn標的化SeldegのFcRnへの結合の増加を示す。
図3C】FcRn標的化Seldegの保存安定性を評価するための4℃(30日)及び37℃(5日)におけるインキュベーション後の2つの代表的なFcRn標的化SeldegsのHPLC分析を示す。
図3D】代表的な正規化された体カウント(body counts)対時間を報告するグラフを示し、代表的なFcRn標的化Seldegによる抗原特異的抗体のクリアランスを示している;
図3E】代表的な正規化された血液及び体カウント対時間を報告する追加のグラフを示し、代表的なFcRn標的化Seldegによる抗原特異的抗体のクリアランスを示している;
図3F】代表的な正規化された血液及び体カウント対時間を報告する追加のグラフを示し、代表的なFcRn標的化Seldegによる抗原特異的抗体のクリアランスを示している;
図4A】左上のパネルにおいて、ホスファチジルセリン(PS)に結合する標的タンパク質(シナプトタグミン1のC2Aドメイン、Syt1)に融合した抗原を含むMOG-Seldeg-PSと呼ばれる代表的なSeldegを示し;右上のパネルにおいて図4Aは、MOG-Seldeg-PS、PSへの結合が実質的に減少する突然変異を有するMOG-Seldeg-PS(DN)及び抗原(MOG)が結合していないFc-Syt1の組換えタンパク質の代表的なSDS-PAGEゲル(還元及び非還元状態)を示し;下のパネルにおいて図4Aは、右上の図4Aに示される組換えタンパク質、MOG-Seldeg-PS、MOG-Seldeg-PS(DN)及びFc-Syt1の代表的なHPLC分布を示す;
図4B】代表的な正規化された血液及び体カウント対時間を報告する追加のグラフを示し、代表的なPS-標的化Seldegによる抗原特異的抗体のクリアランスを示している;
図5A】代表的なFcRn標的化Seldegs及び参照標準タンパク質の存在下での細胞中における抗原特異的抗体の堆積を示す代表的なデータを報告するグラフを示す;
図5B】標的抗原特異的抗体の存在下における代表的なFcRn標的化Seldeg及び参照標準タンパク質の代表的な1つのシリーズの顕微鏡画像であり、代表的なエンドソームの顕微鏡画像を切り出し、拡大し、右上の角の差し込み図に示した;
図5C】標的抗原特異的抗体の存在下における代表的なFcRn標的化Seldeg及び参照標準タンパク質の別のシリーズの代表的な顕微鏡画像であり、代表的なエンドソームの顕微鏡画像を切り出し、拡大し、右上の角の差し込み図に示した;
図6A】標的抗原特異的抗体の存在下における代表的なFcRn標的化Seldeg及び参照標準タンパク質の別のシリーズの代表的な顕微鏡画像であり、代表的なリソソームの顕微鏡画像を切り出し、拡大し、右上の角の差し込み図に示した;
図6B】Seldegが標的としている抗原を認識しない抗原特異的抗体の存在下における代表的なFcRn標的化Seldegの別のシリーズの代表的な顕微鏡画像であり、代表的なリソソームの顕微鏡画像を切り出し、拡大し、右上の角の差し込み図に示した;
図7】代表的なPS-標的化Seldegs及び参照標準タンパク質の存在下での細胞中における抗原特異的抗体の堆積を示す代表的なデータを報告するグラフを示す。
図8】トランスフェリン受容体(TfR)に結合する標的タンパク質(抗体)に融合した抗原を含む代表的なSeldegの略図である;抗原(MOG)が結合していない標的タンパク質(抗体)の分析を含む組換えタンパク質のHPLC分布を示す;
図9】代表的TfR-標的化Seldeg及び参照標準タンパク質の存在下での細胞中における抗原特異的抗体の堆積を示す代表的なデータを報告するグラフである;
図10A】放射性標識されたHER2特異的抗体の送達及び代表的なFcRn標的化Seldeg、参照標準タンパク質又はビヒクル参照標準を用いる処置の後のマウスにおける腫瘍のポジトロンエミッショントモグラフィー(PET)分析の代表的な一系列である。
図10B】放射性標識されたHER2特異的抗体の送達及び代表的なFcRn標的化Seldeg、参照標準タンパク質又はビヒクル参照標準を用いる処置の後の腫瘍保有マウスの腫瘍:胸部領域に関するコントラスト測定値(contrast measures)を報告するグラフを示す。
【0010】
発明の詳細な説明
本開示は人為改変タンパク質、そしてさらに具体的に体からの枯渇のために抗原特異的抗体を選択的に標的とするように構成される融合タンパク質であるSeldegsに関する。Seldegsは、抗原特異的抗体に結合し、分解酵素を含有する後期エンドソーム又はリソソームにそれらを向けることにより、標的とされる抗原特異的抗体の選択的な分解を引き起こす。Seldegは、少なくとも1つの標的成分及び抗原成分を含む融合タンパク質又は分子である。標的成分は細胞表面受容体又は他の細胞表面分子に結合するよ
うに構成されるタンパク質又はタンパク質フラグメント又は他の分子を含む。抗原成分は、標的とされる抗原特異的抗体により認識される抗原、抗原フラグメント又は抗原類似物の1分子を含む。
【0011】
抗原特異的抗体が抗原成分に結合すると、Seldeg及び抗原特異的抗体を含む複合体が形成される。複合体は細胞表面受容体又は他の細胞表面分子に結合するようにも構成されており、Seldeg、抗原特異的抗体及び標的とされる細胞表面受容体又は他の細胞表面分子を含む複合体の細胞内移行(internalization)を可能にする(図1を参照されたい)。標的とされる細胞表面受容体又は細胞表面分子は、エンドソーム中に入ると、酸性のpH、低いカルシウム濃度及び/又は細胞外環境からエンドソーム環境を区別する他の条件の故に、複合体から解離する場合がある。エンドソーム中への移行及びリソソーム進入は、複合体の選択的な分解を生ずる。
【0012】
本明細書で用いられる「抗原特異的抗体」という用語は、特定の抗原、抗原フラグメント又は抗原類似物に結合する抗体を指す。
【0013】
本明細書で用いられる「抗原フラグメント」という用語は、抗原特異的抗体により認識されることができる抗原の一部を指す。
【0014】
本明細書で用いられる「抗原類似物」という用語は、抗原特異的抗体により認識される抗原の一部と同じ全体的な形及び性質を有するタンパク質、タンパク質フラグメント、ペプチド又は他の分子を指す。
【0015】
本明細書で用いられる「細胞表面分子」という用語は、細胞の原形質膜上に露出しているタンパク質又は他の生体分子(例えばリン脂質、炭水化物)を指す。
【0016】
Seldegは、IgG抗体のFcフラグメント(本明細書で「免疫グロブリンFcフラグメント」とも呼ばれる)に融合した抗原、FcRn特異的ナノボディー-抗原融合分子、その可変領域を介してFcRnに結合し、抗原に融合しているFcRn特異的抗体、アルブミン-抗原融合タンパク質、PS結合性タンパク質、TfR特異的抗体あるいは本開示を読むと当業者が同定することができる細胞表面受容体又は他の細胞表面分子に結合するように構成される他のタンパク質、タンパク質フラグメント又は他の分子を含む場合がある。
【0017】
本明細書に説明されるSeldegsの例は、中性近辺のpHにおいて10μM未満の親和性(解離定数)を以てヒトFcRn、露出したホスファチジルセリン(PS)又はトランスフェリン受容体(TfR)のような細胞表面分子に結合するように構成される標的成分を含む。
【0018】
FcRn及びTfRはタンパク質であり、PSはリン脂質であり、それらは体内の多種の細胞タイプの表面上及び内部に見出される場合がある。本発明はこれらの受容体又は細胞表面分子を標的とすることに制限されず、当業者が同定可能な他のものの中でも低密度リポタンパク質受容体、高密度リポタンパク質受容体、アシアロ糖タンパク質受容体、阻害性(inhibitory)Fcガンマ受容体、T細胞受容体、B細胞受容体、Gタンパク質共役受容体、インスリン受容体、グルカゴン受容体、ガラクトース受容体、マンノース受容体、VEGF受容体、マンノース受容体のような多くの他の標的が包含され得る。他の標的を例えば以下の出版物又はデータベースにおいて同定することができる:Cell surface receptor atlas(Bausch-Fluck,D.,Hofmann,A.,Bock,T.,Frei,A.P.,Cerciello,F.,Jacobs,A.,Moest,H.,Omasits,U.,Gundry
,R.L.,Yoon,C.,Schiess,R.,Schmidt,A.,Mirkowska,P.,Haertlova,A.,Van Eyk,J.E.,Bourquin,J-P.,Aebersold,R.,Boheler,K.R.,Zandstra,P.,Wollscheid,B.(2015)A mass spertometric-derived cell surface protein atlas.PLoS One 10:e0121314)及びthe Human protein atlas(https://www.proteinatlas.org/humanproteome/secretome)。
【0019】
標的成分は中性近辺のpHにおいて10μM未満の親和性(解離定数)で細胞表面受容体又は他の細胞表面分子に結合することができる。
【0020】
従ってSeldegの標的成分は、細胞表面受容体又は他の細胞表面分子に特異的に結合するように構成されるいずれの型の分子も含むことができる。そのような分子には、タンパク質、タンパク質フラグメント、リボ核酸又はデオキシリボ核酸のようなポリヌクレオチド、ポリペプチド、多糖類、脂質、アミノ酸、ペプチド、糖類ならびに/或いは本開示を読むと当業者が同定することができる他の小分子又は大分子及び/又はポリマーが含まれ得る。例えばSeldegの標的成分は細胞受容体に関するリガンドであるポリヌクレオチドを含むことができる。
【0021】
Seldegは少なくとも1つの第1の標的成分及び第2の標的成分を含むことができ、ここで第1の標的成分のタンパク質又はタンパク質フラグメントは第2の標的成分のタンパク質又はタンパク質フラグメントと異なる細胞表面受容体又は異なる細胞表面分子に結合することように構成される。
【0022】
図1に示される通り、Seldeg20は細胞10の表面上の細胞表面受容体又は他の分子30に可逆的に結合する場合がある。細胞外空間50に存在する標的抗原特異的抗体40はSeldeg20に可逆的に結合する場合がある。この結合は典型的に6.8より高く且つ7.5未満のpHのような中性近辺のpHにおいて起こり、それは、それが細胞外空間50の典型的なpHだからである。非標的抗体60はSeldeg20に結合しないか又はいずれの結合も非特異的であるほど非常に低い親和性で結合する。Seldeg20及び標的抗原特異的抗体40が結合した細胞表面受容体又は分子30は経路Aを介し、エンドソーム70中への受容体媒介吸収を介して細胞10内に移行する。受容体又は他の分子を細胞の表面に再循環させて戻すことができる。従って経路B上で、Seldeg20及び標的抗原特異的抗体40が結合した受容体又は分子30を細胞10の表面に循環させて戻す。次いで標的抗原特異的抗体40は放出される場合があり、Seldeg20から同じ又は別のSeldegに再結合する場合があるか又はそれは結合したままの場合がある。類似して、Seldeg20は次いで受容体又は分子30から放出される場合があり、同じ又は別の細胞表面受容体又は分子に再結合する場合がある。いくつかのSeldegsの場合、Seldeg20と抗体40の複合体は、初期又は後期エンドソーム中でこの区画内の酸性のpH又は低いCa-2濃度の故に受容体又は他の分子30から解離する場合がある(経路C)。従って、経路Dにおいて受容体又は細胞表面分子は細胞表面に再循環して戻る場合があるが、抗体40に結合したSeldeg20はリソソーム中に入り、経路Eにおいてフラグメント80に分解する。いくつかのSeldegsの場合、細胞10中への移行に続くいくつかの時点に、Seldeg20及び標的抗原特異的抗体40が結合した受容体又は分子30は経路Fにおいて後期エンドソーム/リソソームに入り、そこで少なくとも標的抗原特異的抗体40はフラグメント80に分解する。このリソソーム中への進入は、Seldeg20が受容体又は分子30を二量体又はもっと高次の凝集物に架橋すると増加すると思われる。
【0023】
選択的枯渇のこの機構を介し、Seldegは標的とされない特異性の抗体のレベルに不利に影響せずに抗原特異的抗体を標的とし、体から選択的に枯渇させる。
【0024】
特に本明細書に説明されるSeldegは、標的とされない特異性の抗体の枯渇の故の患者における不利な臨床的影響を有することなく、抗原特異的抗体を標的とし、体から選択的に枯渇させることができる。そのような不利な臨床的影響には、例えば免疫抑制ならびに流行性結膜炎、気管支炎、耳感染症、副鼻腔感染症、風邪、下痢、肺炎、カンジダ症、髄膜炎、皮膚感染症及び他の日和見感染症、特に通常は抗体媒介免疫反応を介して抑制される日和見感染症のようなその症状;ならびに低血小板数(low platelet
counts)又は貧血のような血液疾患ならびに低ガンマグロブリン血症及び腹痛、鼓張、吐き気、嘔吐、下痢又は体重減少のようなその症状が含まれる。
【0025】
一般に本開示に従うSeldegsは、中性近辺のpHにおいて標的成分を介して細胞表面受容体/分子に特異的に結合するように且つ標的成分に直接又は間接的に融合した抗原成分を介して中性近辺のpHにおいて抗原特異的抗体にも特異的に結合するように構成される。本明細書で用いられる「特異的に結合する」という用語は、標的成分と細胞表面受容体/分子の間又は抗原成分と抗原特異的抗体の間の検出可能な選択的分子間相互作用を指す。例えば特異的に結合するために、抗原は標的とされている抗体との検出可能な相互作用を示す必要があり、一方で他の抗体との検出可能な相互作用を示さないことが必要である。特異的な結合の検出法は、ELISA、表面プラズモン共鳴分析及び当業者により同定され得る他の方法のように当該技術分野内で既知である。
【0026】
従ってSeldegは、患者の循環中の抗原特異的抗体の少なくとも一部が、標的とされる細胞表面受容体又は標的とされる他の細胞表面分子を発現する細胞中に移行し、その後細胞内で分解することを可能にする。
【0027】
本開示に従うSeldegは、抗原、抗原フラグメント又は抗原類似物の各型の、他の場合に本明細書で「1分子」と呼ばれるSeldeg当たりに1つのコピーを含有することにより免疫反応を避ける場合があり、それはFcガンマ受容体結合及び/又は補体結合を減少させるか又は排除する突然変異の挿入と組み合わされて、抗体架橋及びおそらく炎症性の免疫複合体の形成を減少させると思われる。特にSeldegsの少なくとも99%、Seldegsの少なくとも99.5%又はSeldegsの少なくとも99.9%は、中性近辺のpHにおいて抗原、抗原フラグメント又は抗原類似物のSeldeg当たりに1つのコピーのみを含有する場合がある。本開示に従う他のSeldegsは、抗原、抗原フラグメント又は抗原類似物の1つより多い分子を含有することができる。Seldeg分子当たりに1つの抗原の分子を含有するSeldegsが結合する抗体の2価性(bivalent nature)は、抗体当たりに2つのSeldeg分子の複合体を生ずる場合があり、それは標的受容体二量化を介してSeldeg-抗体複合体のリソソーム送達の有効性を向上させると思われる。
【0028】
Seldegは少なくとも1つの第1の抗原成分及び第2の抗原成分を含むことができ、ここで第1の抗原成分の抗原、抗原フラグメント又は抗原類似物の1分子は第2の抗原成分の抗原分子、抗原フラグメント又は抗原類似物の1分子と異なる。従って少なくとも1つの第1の抗原成分及び第2の抗原成分を含むSeldegsは1つより多い特異性の抗原特異的抗体のクリアランスを可能にする。
【0029】
Seldegは少なくとも1つの第1の抗原成分及び第2の抗原成分を含むことができ、ここで第1の抗原成分の抗原、抗原フラグメント又は抗原類似物の1分子は第2の抗原成分の抗原分子、抗原フラグメント又は抗原類似物の1分子と同じである。
【0030】
従ってSeldegsは、例えば標的成分のC末端及び/又はN末端に融合した1つ以上の抗原成分を含むことができ、ここでそれぞれの抗原成分の抗原、抗原フラグメント又は抗原類似物の1分子は同じ又は異なることができる。
【0031】
さらにSeldegsは、ヒトに投与する場合のSeldegへの免疫反応の可能性を避けるか又は低下させるために、ヒト又はヒト化タンパク質又はタンパク質フラグメントを含有する場合がある。抗原成分の抗原、抗原フラグメント又は抗原類似物は、好ましくはヒトへのSeldegの投与のためにヒトタンパク質又はタンパク質フラグメントである。標的成分も、ヒトへのSeldegの投与のために、好ましくはヒト抗体フラグメント又はヒトアルブミン又はアルブミンフラグメントのようなヒトタンパク質又はタンパク質フラグメントあるいはヒト化抗体又はヒト化抗体フラグメントである。Seldegをヒト以外の動物における使用のために開発する場合、その動物に由来するか又はその動物と免疫学的に適合性であるように改変されたタンパク質又はタンパク質フラグメントを代わりに用いる場合がある。
【0032】
図2Aは、IgGのFcフラグメント110を有する標的成分に融合した抗原100を含むSeldeg20aの活性の略図である。当業者が理解する通り、IgGのFcフラグメントは抗体のY形の基部(lower base)のすべてであり、それはスルフヒドリル架橋ヒンジ領域及びCH2及びCH3ドメインである。Seldegはヒンジ領域を有していないFcフラグメントを有する場合があるか、又はヒンジ領域がスルフヒドリル架橋を有していないFcフラグメントを有する場合がある。Fcフラグメント110はSeldeg20aがFcRn発現細胞上のFcRn分子に結合するのを可能にする。図2Aに示される例において、抗原100はヒンジ-CH-CH120のN末端においてFcフラグメント110aに融合する場合がある。抗原100をFcフラグメント110aに融合させ、得られる抗原-Fcフラグメントをノブズイントゥホールズ(knobs-into-holes)戦略(例えばMoore,G.L.,Bautista,C.,Pong,E.,Nguyen,D.H.,Jacinto,J.,Eivazi,A.,Muchhal,U.S.,Karki,S.,Chu,S.Y.,Lazar,G.A.,(2011).A novel bispecific antibody format enables simultaneous bivalent and
monovalent co-engagement of distinct target anatigens.MAbs 3,546-557に説明されているような)を用いて抗原のない別のFcフラグメント110bと二量化させると、示されているようなヘテロダイマー的Seldeg分子20aが生産される。Seldeg20aは抗原100がモノマー的に表示されたFcフラグメントを有し、それは炎症又は他の不利な影響を引き起こし得る多量体的免疫複合体の形成を避ける。Fcフラグメント110aに融合した抗原100のみを含むSeldegsが生産され、いくつかの状況において用いられる場合があるが、Fcフラグメントの二量化する傾向の故に、典型的に二量体が生産されるであろう。多量体的免疫複合体の形成に導き得る両方のFcフラグメント110aが融合抗原100を有するFcフラグメント二量体を避けるために、Seldegsはノブズイントウホールズ突然変異及び/又は静電ステアリング突然変異(electrostatic steering mutations)(例えばGunasekaran,K.,Pentony,M.,Shen,M.,Garrett,L.,Forte,C.,Woodward,A.,Ng,S.B.,Born,T.,Retter,M.,Manchulenko,K.,Sweet,H.,Foltz,I.N.,Wittekind,M.,Yan,W.(2010) Enhancing antibody Fc heterodimer formation through electrostatic steering effects:applications to bispecific molecules and monovalent IgG.J Biol Chem 285,19637-19646に説明されているような)を
用いてヘテロダイマー形成を促進するように設計され、従って1つの抗原が融合したFcは1つしかない。ヘテロダイマーの形成のために、抗原-Fc融合体のC末端と第2のFcフラグメントのN末端の間における(GS)13リンカーペプチドの挿入(例えばZhou,L.,Wang,H-Y.,Tong,S.,Okamono,C.T.,Shen,W-C.,Zaro,J.L.(2016) Single chain Fc-dimer-human growth hormone fusion protein for improved drug delivery.Biomaterials,117,24-31に説明されているような)のような他の方法を用いることもできる。ノブズイントウホールズ突然変異、静電ステアリング突然変異及び/又はアルギニン突然変異あるいはFcガンマ受容体及び補体結合を減少させる他の突然変異を含むSeldegsのいくつかの例のDNA配列及びタンパク質配列を実施例10に説明する。
【0033】
ノブズイントウホールズ突然変異の追加の例には、当業者が同定可能な他のものの中でもY349T/T394F:S364H/F405A及びY349T/F405F:S364H/T394F(例えばMoore,G.L.,Bautista,C.,Pong,E.,Nguyen,D.H.,Jacinto,J.,Eivazi,A.,Muchhal,U.S.,Karki,S.,Chu,S.Y.,Lazar,G.A.,(2011) A novel bispecific antibody format
enables simultaneous bivalent and monovalent co-engagement of distinct target anatigens.MAbs 3,546-557に説明されているような)ならびにT366W:T366S:L368A/Y407V(例えばAtwell,S.,Ridgway,J.B.B.,Wells,J.A.,Carter,P(1997) Stabel heterodimers from remodeling the domain interface of a homodimer using a phage display libary.J.Mol.Biol.,270,26-35に説明されているような)が含まれる。これらの代表的なノブズイントウホールズ突然変異の残基のナンバリング(numbering)は、当業者が理解する通り、EU抗体ナンバリングシステムを指す。
【0034】
静電ステアリング突然変異の追加の例には、当業者が同定可能な他のものの中でもE356K/D399K:K392D/K409D及びK409D/K370D:D357K/D399K(例えばGunasekaran,K.,Pentony,M.,Shen,M.,Garrett,L.,Forte,C.,Woodward,A.,Ng,S.B.,Born,T.,Retter,M.,Manchulenko,K.,Sweet,H.,Foltz,I.N.,Wittekind,M.,Yan,W.(2010) Enhancing antibody Fc heterodimer formation through electrostatic steering effects:applications to bispecific molecules and monovalent IgG.J Biol Chem 285,19637-19646に説明されているような)が含まれる。これらの代表的な静電ステアリング突然変異の残基のナンバリングは、当業者が理解する通り、EU抗体ナンバリングシステムを指す。
【0035】
アルギニン突然変異又はFcガンマ受容体及び補体(C1q)への結合を減少させる他の突然変異の追加の例には、当業者が同定可能な他のものの中でもG236R/L328R(例えばHorton,H.M.,Bernett,M.J.,Pong,E.,Peipp,M.,Karki,S.,Chu,S.Y.,Richards,J.O.,Vostiar,I.,Joyce,P.F.,Repp,R.,Dasjarlais,J.R.,Zhukosky,E.(2010) Potent in vitro a
nd in vivo activity of an Fc-engineered anti-CD19 monoclonal antibody against lymphoma and leukemia.Cancer Res.,68,8049-8057;Moore,G.L.,Bautista,C.,Pong,E.,Nguyen,D.H.,Jacinto,J.,Eivazi,A.,Muchhal,U.S.,Karki,S.,Chu,S.Y.,Lazar,G.A.,(2011) A novel bispecific antibody format enables
simultaneous bivalent and monovalent co-engagement of distinct target anatigens.MAbs 3,546-557に説明されているような)、N297A又はN297Q(例えばTao,M-H.,Morrison,S.L.(1989) Studies
of aglycosylated chimeric mouse-human IgG:role of carbohydrate in the structure
and effector functions mediated bu the human IgG constant region.J.Immunol.,143,2595-2601;Lux,A.,Yu,X.,Scanlan,C.N.,Nimmerjahn,F.(2013) Impact of immune complex size and glycosylation on IgG binding to human FcγRs.J.Immunol.,190,4315-4323に説明されているような)、D265A(例えばLux,A.,Yu,X.,Scanlan,C.N.,Nimmerjahn,F.(2013) Impact of immune complex size and glycosylation on IgG binding to human FcγRs.J.Immunol.,190,4315-4323;Clynes,R.A.,Towers,T.L.,Presta,L.G.,Ravetch,J.V.(2000) Inhibitory Fc receptors modulate in vivo cytotoxicity against tumor targets.Nat.Med.6,443-446に説明されているような)、L234A/L235A(例えばWins,B.D.,Powell,M.S.,Parren,P.W.H.I.,Barnes,N.,Hogarth,P.M.,(2000) The IgG Fc contains distinct Fc receptor(FcR) binding sites:the leukocyte receptors FcγRI and FcγRIIa bind
to a region in the Fc distinct from that recognized by neonatal FcR and protein.A.J.Immunol.,164,5313-5318に説明されているような)及びL234A/L235A/P329G(例えばSchlothauer,T.,Herter,S.,Koller,C.F.,Grau-Richards,S.,Steinhart,V.,Spick,C.,Kubbies,M.,Klein,C.,Umana,P.,Mossner,E.(2016) Novel human IgG1
and IgG4 Fc-engineered antibodies with completely abolished effector functions.PEDS,29,457-466に説明されているような)が含まれる。これらの代表的なアルギニン突然変異又はFcガンマ受容体及び補体(C1q)への結合を減少させる他の突然変異の残基のナンバリングは、当業者が理解する通り、EU抗体ナンバリングシステムを指す。
【0036】
FcγRの位置及び補体結合部位におけるか又はそれらに近い残基を標的とするFcγR及び/又は補体結合を排除する(ablate)ための他の突然変異を用いることができる。IgGのFc領域上のこれらの部位は位置決定されている(例えばJefferis,R.,Lund,J.(2002) Interaction sites on
human IgG-Fc for FcγR:current models.Immunol. Letts.,82,57-65;Duncan,A.R.,Winter,G.(1988) The binding site for C1q on IgG.Nature,332,738-740;Idusogie,E.E.,Presta,L.G.,Gazzano-Santoro,H.,Totpal,K.,Wong,P.Y.,Ultsch,M.,Meng,G.,Mulkerrin,M.G.(2000) Mapping of the C1q binding site on rituxan,a chimeric human antibody with a
human IgG1 Fc.J.Immunol.,164,4178-4184;Hogarth,P.M.,Anania,J.,Wines,B.D.(2014) The FcγR of humans and non-human primates and their interaction with IgG: implications for induction of inflammation, resistance to infection and the use of therapeutic monoclonal antibodies.Curr.Top.Microbiol.Immunol.,382,321-352に説明されている通り)。
【0037】
Seldegsは、ヒトIgG2又はヒトIgG4のようにFcガンマ受容体又は補体に結合しないか又は非常に弱い結合を有する免疫グロブリンのクラス又はイソタイプに由来するFcプラグメントを含む場合がある。
【0038】
診断用画像化のようないくつかの用途のために、Seldegsは、Seldeg中に存在する抗原に対する炎症反応を向上させるためにFcガンマ受容体及び/又は補体に関する結合部位を有するFcフラグメントを含む場合がある。
【0039】
Fcフラグメント110を、非修飾Fcフラグメントと比較して中性近辺のpHにおけるFcRnに関するその結合親和性を実質的に向上させるように修飾する場合がある。例えば6.8より高く且つ7.5未満のpHにおけるFcフラグメント110とFcRnの間の解離定数は、表面プラズモン共鳴又は他の生物物理学的方法により決定されると10μM未満の場合がある。しかしながら、Fcフラグメント110は酸性のエンドソームpH(約6.0)において非修飾Fcフラグメントと比較して類似か又は向上したFcRnに関する親和性を有する場合があるか、又はそれを非修飾Fcフラグメントと比較してエンドソームpHにおけるFcRnに関するずっと低いか又は無視し得る結合親和性を有するように修飾する場合がある。中性近辺のpHにおけるこの結合親和性における向上は、それぞれのSeldegがその結合した標的抗原特異的抗体を有効に移行させ、FcRn発現細胞中の後期エンドソーム又はリソソーム中に輸送することを可能にする。FcRnに関するFcフラグメントの結合親和性の強化は、突然変異の挿入により達成される場合がある。天然に存在するIgGsは、中性近辺のpHと反対に酸性のpHレベルにおいてFcRnに関する実質的により高い結合親和性を有する。この性質は、FcRn発現細胞内におけるIgGの再循環及び輸送のために必須である。対照的に、pH7.4におけるFcRnに関する結合親和性の向上は、例えば細胞中への受容体媒介移行及びリソソーム送達を生ずる。
【0040】
Fcフラグメント110を修飾して、Fcガンマ受容体及び補体(C1q)に関する結合親和性を取り除くか又は実質的に低下させる場合もある。この修飾は、多量体的免疫複合体の形成により引き起こされる炎症反応を予防する。例えば実施例10に説明する通り、Fc領域を、本明細書で「アルギニン突然変異」とも呼ばれる突然変異をさせてそれらがFcガンマ受容体に結合しないようにすることができる(G236R/L328R;EUナンバリング)(例えばMoore,G.L.,Bautista,C.,Pong,
E.,Nguyen,D.H.,Jacinto,J.,Eivazi A.,Muchhal,U.S. Karki,S.,Chu,S.Y.,Lazar,G.A.(2011).A novel bispecific antibody format enables simultaneous bivalent and monovalent co-engagement of distinct target antigens.MAbs 3,546-557に説明されている通り)(EUナンバリング)。実施例10において、これらの突然変異はFc-Syt1の残基22及び114(配列番号10を参照されたい)ならびにMOG-Seldeg-PSの残基144及び236(配列番号8を参照されたい)に相当する。Fcガンマ受容体及び補体への結合を実質的に低下させるか又は排除する他の突然変異の例には、当業者が同定可能な他のものの中でもN297A又はN297Q(EUナンバリング;例えばTao,M-H.,Morrison,S.L.(1989) Studies of aglycosylated
chimeric mouse-human IgG:role of carbohydrate in the structure and effector functions mediated by the human IgG constant region.J.Immunol.,143,2595-2601;Lux,A.,Yu,X.,Scanlan,C.N.,Nimmerjahn,F.(2013) Impact of immune complex size and glycosylation on IgG binding to human FcγRs.J.Immunol.,190,4315-4323に説明されているような)、D265A(EUナンバリング;例えばLux,A.,Yu,X.,Scanlan,C.N.,Nimmerjahn,F.(2013) Impact of immune complex size and glycosylation on IgG binding to human FcγRs.J.Immunol.,190,4315-4323;Clynes,R.A.,Towers,T.L.,Presta,L.G.,Ravetch,J.V.(2000) Inhibitory Fc receptors
modulate in vivo cytotoxicity against tumor targets.Nat.Med.6,443-446に説明されているような)、L234A/L235A(EUナンバリング;例えばWins,B.D.,Powell,M.S.,Parren,P.W.H.I.,Barnes,N.,Hogarth,P.M.,(2000) The IgG Fc contains distinct Fc receptor(FcR) binding sites:the leukocyte receptors FcγRI and FcγRIIa bind to a region in the Fc distinct from that recognized by neonatal FcR and protein.A.J.Immunol.,164,5313-5318に説明されているような)、L234A/L235A/P329G(EUナンバリング;例えばSchlothauer,T.,Herter,S.,Koller,C.F.,Grau-Richards,S.,Steinhart,V.,Spick,C.,Kubbies,M.,Klein,C.,Umana,P.,Mossner,E.(2016) Novel human IgG1 and IgG4 Fc-engineered antibodies with completely abolished effector functions.PEDS,29,457-466に説明されているような)が含まれる。Fcガンマ受容体に関する結合親和性における少なくとも10分の1への低下(reduction of at least 10-fold)が好ましい。
【0041】
図2Bに示す通り、Seldeg20bにおいて抗原100は別の末端位置においてFcフラグメント110aに結合する場合があるか又は図2Cに示す通り、Seldeg20cにおいて抗原100は非末端位置で結合する場合がある。特異的なFcRn結合を妨げないいずれの位置も適している。そのような位置には、当業者が同定可能である通り、
直接又は立体的にFcRn結合を遮断しないようにFcRn相互作用部位(CH2-CH3ドメイン境界面における残基252-256、309-311、433-436を包含する;EUナンバリング)から十分に遠いアミノ酸残基が含まれる。
【0042】
化学反応を介する結合、リンカーを介する結合又は1つの組み合わされた抗原-Fcフラグメントタンパク質の形成の間を含むいずれかの適した方法で抗原100をFcフラグメント110に融合させる場合がある。用いることができる化学結合の例は:アミンからアミン(amine-to-amine)(NHSエステル)、スルフヒドリルからスルフヒドリル(マレイミド)、アミンからスルフヒドリル(NHSエステル/マレイミド)、スルフヒドリルから炭水化物(マレイミド/ヒドラジド)又は所望の化学反応性を有する非天然アミノ酸を介する結合である。この非天然アミノ酸をFcフラグメント及び/又は抗原の組換え体生産の間に挿入することができる。ポリエチレングリコール(PEG)スペーサーを化学的に共役したタンパク質、タンパク質フラグメント又は他の分子の間に挿入することもできる。可能なリンカーにはグリシン-セリンリンカーペプチド又は他のもっと硬い(rigid)リンカーペプチドの反復が含まれ、それは抗原-Fc融合のための組換え体発現プラスミド中でコードされる。連結の化学、連結の部位及びペプチドの選択は分子モデリングにより導かれ得、当業者が理解する通り、抗原又は細胞表面分子を標的とするタンパク質/タンパク質フラグメントの結合活性の損失を最小にするように設計されることができる。
【0043】
図2Dは、抗原100が抗体可変領域130に結合しているSeldeg20dの略図である。抗体可変領域130は細胞表面受容体又は細胞表面分子に特異的に結合する。抗体可変領域130は、それが細胞表面受容体又は細胞表面分子に特異的に結合する限り、可変領域全体又はそのフラグメントの場合がある。抗体可変領域130は、細胞表面受容体又は細胞表面分子に結合するように構成されている抗体の非可変領域の部分を含む場合がある。例えば抗体可変領域130はシングルドメイン抗体(single-domain antibody)(sdAb)又はラクダ由来VHHドメイン(通常ナノボディーとも呼ばれる)の場合がある。そのような可変領域は2つの逆平行βシートを含む免疫グロブリンドメインの全体的な折り畳み(overall fold)を有し、且つ当業者が同定可能な他のものの中でもT細胞受容体可変ドメイン、抗体の定常領域ドメイン又は補助受容体、CD4のドメインのような免疫グロブリンスーパーファミリーの他のメンバーからのドメインも含むことができる。抗体可変領域130は図2Dに示す通りモノマーとして又は多量体として存在する場合がある。例えば抗体可変領域130がナノボディーとして存在する場合、第1のナノボディーのC末端と第2のナノボディーのN末端の間にGSSGGSGGGGSのようなリンカーペプチドを用いてそれを改変して二量体を形成し、標的受容体/分子に関する結合活性を向上させる場合がある。抗体可変領域130がナノボディー又は多量体を形成するように改変された別のタンパク質である場合、ちょうどFcブラグメントを含有するSeldegsに関して上記に説明した通りに、多量体が抗原100の1つのコピーのみを含有するように、Seldeg形成の間に抗原100のない変異体を含ませる場合がある。抗体可変領域は、ペプチドリンカーにより軽鎖可変(VL)ドメインに連結された重鎖可変(VH)ドメインのヘテロダイマーを含むこともでき、scFvフラグメントを形成する。VH及びVLドメインを連結するために用いられるリンカー配列は当業者に周知であり、VHドメインのC末端をVLドメインのN末端に連結するGGGGSGGGGSGGGGS[(GS)]配列を含む。いくつかの態様において、類似のリンカー配列を用いてVLドメインのC末端をVHドメインのN末端に連結することができる。細胞表面受容体又は他の細胞表面分子に結合するscFvsは、ファージディスプレイ、酵母ディスプレイ又は他の抗体ディスプレイ法を用いてscFvsのライブラリから単離され得る。Seldegの標的タンパク質成分は、ファージディスプレイ、酵母ディスプレイなどを用いてFabフラグメントのライブラリから単離され得る抗体のFabフラグメントを含むこともできる。ナノボディー、scFvs及びFa
bフラグメントのために、相補性決定領域(CDRs)中の残基をランダムに突然変異させるか、又はエラープローンポリメラーゼ連鎖反応を用い、突然変異したナノボディー又は可変ドメインのライブラリを形成することにより細胞表面受容体又は細胞表面分子への結合に関する親和性を向上させることができる。標的とされる代表的なCDR残基は軽鎖可変ドメインのCDR3(残基89-97;Kabatナンバリング)及び重鎖可変ドメインのCDR3(残基95-102;Kabatナンバリング)中のものである。これらのライブラリをファージ又は酵母上に表示し(displayed)、当業者に既知の方法を用いて親和性がより高い変異体を選択することができる。
【0044】
図2Dは抗体可変領域130の末端位置における抗原100を示しているが、それは代わりに非末端位置にある場合もある。抗原100は、化学結合を介する結合、リンカーを介する結合又は1つの組み合わされた抗原-抗体可変領域融合タンパク質の形成の間を含むいずれかの適した方法で抗体可変領域110に融合する場合がある。
【0045】
Seldegは、抗体又は抗体フラグメント以外のタンパク質を含む標的成分に融合した抗原成分を含有する場合もあり、但しこのタンパク質は細胞表面受容体又は他の細胞表面分子に結合するように構成される。例えば図2Eに示す通り、Seldeg20eはFcRnに結合することができるアルブミン又はアルブミンフラグメント140に融合した抗原100を含む。アルブミン又はアルブミンフラグメントを、それが向上した親和性でFcRnに結合するように突然変異させるか又は修飾する場合がある。例えばエラープローンPCRを用いて(ヒト血清)アルブミンのFcRn結合ドメイン(DIII)中に突然変異を挿入し、続いて突然変異したアルブミン変異体のライブラリを酵母又はファージ上に表示し、親和性がより高い変異体を選択することができる。あるいはまた、アルブミン:FcRn境界面におけるか又はその近辺の残基を突然変異させ、結合親和性が向上したアルブミン変異体を選択するか又はそれに関してスクリーニングすることにより、親和性がより高い変異体を生むことができる。図2Eはアルブミン又はアルブミンフラグメント140の非末端位置における抗原100を示しているが、それは代わりに末端位置にある場合もある。抗原100は、化学結合を介する結合、リンカーを介する結合又は1つの組み合わされた抗原-FcRn結合タンパク質の形成の間を含むいずれかの適した方法でアルブミン又はアルブミンフラグメント140に融合する場合がある。
【0046】
図2Fは、Fcフラグメント150のN末端に結合した抗原100を含む代表的なSeldeg20fの略図である。図2Fに示す例において、細胞表面受容体又は細胞表面分子に結合するタンパク質又はタンパク質フラグメント160がFcフラグメント150aのC末端に結合している。例えばタンパク質又はタンパク質フラグメントはホスファチジルセリン(PS)に結合するシナプトタグミンのC2Aドメインの場合がある。Fcフラグメント150を向上した親和性でFcRnに結合するように改変することができ、且つそれがFcガンマ受容体及び補体に非常に低いか又は検出可能でない結合親和性で結合するように突然変異させる場合がある。融合した抗原100を有するFcフラグメント150aを2つ有するFcフラグメントホモダイマーは多量体的免疫複合体の形成に導き得、それを避けるために、図2Fに示すSeldegsはノブズイントゥーホールズ及び/又は静電ステアリング突然変異を用い、ヘテロダイマー形成を促進するように設計され、従って1つのFc-抗原を有するFcは1つだけある。図2Fにおいて、Fcフラグメント150a及び150bの両方がそれらに融合したタンパク質又はタンパク質フラグメントを有し、それは細胞表面タンパク質又は他の細胞表面分子に結合する;あるいはまた、1つのみのそのようなタンパク質又はタンパク質フラグメントが存在する場合がある。図2Gに示す代表的なSeldegにおいて、抗原100及び細胞表面受容体又は細胞表面分子に結合するタンパク質又はタンパク質フラグメント160はそれぞれFcフラグメント150a及び150bのC末端及びN末端に融合し、Seldeg20gを形成している。
【0047】
図2Hは、細胞表面タンパク質又は細胞表面分子に結合する抗体170のC末端に結合した抗原100を含む代表的なSeldeg20hの略図である。抗体中のFcフラグメント(Fc)を向上した親和性でFcRnに結合するように改変することができ、それがFcガンマ受容体及び補体に非常に低いか又は検出可能でない結合親和性で結合するように突然変異させる場合がある。多量体的免疫複合体の形成に導き得る両方のFcフラグメントに抗原100が融合した抗体ホモダイマーを避けるために、図2Hに示すSeldegsはノブズイントゥーホールズ及び/又は静電ステアリング突然変異を用い、ヘテロダイマー形成を促進するように設計され、従って抗原100が結合した抗体重鎖は抗体分子当たりに1つだけある。抗体の両方のFabフラグメントは同じ細胞表面タンパク質又は他の細胞表面分子に結合する場合があるか、あるいはまたそれらは2種類以上の細胞表面タンパク質又は分子に結合することができる。
【0048】
図2Iは、細胞表面タンパク質又は細胞表面分子に結合するscFv(180)-Fc融合体のC末端に結合した抗原100を含む代表的なSeldeg20iの略図である。抗体中のFcフラグメント(Fc)を向上した親和性でFcRnに結合するように改変することができ、それがFcガンマ受容体及び補体に非常に低いか又は検出可能でない結合親和性で結合するように突然変異させる場合がある。多量体的免疫複合体の形成に導き得る両方のFcフラグメントに抗原100が融合した抗体ホモダイマーを避けるために、図2Iに示すSeldegsはノブズイントゥーホールズ及び/又は静電ステアリング突然変異を用い、ヘテロダイマー形成を促進するように設計され、従って抗原100が結合した抗体重鎖-scFv融合体は分子当たりに1つだけある。抗体の両方のscFvフラグメントは同じ細胞表面タンパク質又は他の細胞表面分子に結合する場合があるか、あるいはまたそれらは2種類以上の細胞表面タンパク質又は分子に結合することができる。
【0049】
図2Jは、細胞表面タンパク質又は細胞表面分子に結合する-Fc-scFv(180)融合体のN末端に結合した抗原100を含む代表的なSeldeg20jの略図である。抗体中のFcフラグメント(Fc)を向上した親和性でFcRnに結合するように改変することができ、それがFcガンマ受容体及び補体に非常に低いか又は検出可能でない結合親和性で結合するように突然変異させる場合がある。多量体的免疫複合体の形成に導き得る両方のFcフラグメントに抗原100が融合した抗体ホモダイマーを避けるために、図2Jに示すSeldegsはノブズイントゥーホールズ及び/又は静電ステアリング突然変異を用い、ヘテロダイマー形成を促進するように設計され、従って抗原100が結合した抗体重鎖-scFv融合体は分子当たりに1つだけある。抗体の両方のscFvフラグメントは同じ細胞表面タンパク質又は他の細胞表面分子に結合する場合があるか、あるいはまたそれらは2種類以上の細胞表面タンパク質又は分子に結合することができる。
【0050】
図2Kに示す通り、代表的なSeldeg20kにおいて2つの抗原成分(100、190)が標的成分、例えばFcフラグメント110a及びFcフラグメント110bにN末端又は他の位置で結合し、異なる特異性の抗原特異的抗体をクリアランスすることができるSeldegを形成する場合がある。図2Kに示すSeldegsは、ノブズイントゥーホールズ及び/又は静電ステアリング突然変異を用い、ヘテロダイマー形成を促進するように設計され、従って各Seldeg分子中にそれぞれの型の抗原分子(100、190)がある。
【0051】
図2LはFcフラグメント150のN末端に結合した抗原100及び抗原190を含む代表的なSeldeg20lの略図である。図2Lに示す代表的な態様において、細胞表面受容体又は細胞表面分子に結合するタンパク質又はタンパク質フラグメント160はFcフラグメント150a及び150bのC末端に結合している。図2Lに示すSeldegsは、ノブズイントゥーホールズ及び/又は静電ステアリング突然変異を用い、ヘテロ
ダイマー形成を促進するように設計され、従って各Seldeg分子中にそれぞれの型の抗原分子(100、190)がある。図2Lにおいて、Fcフラグメント150a及び150bの両方はそれらに融合したタンパク質又はタンパク質フラグメントを有し、それは細胞表面タンパク質又は他の細胞表面分子に結合するが、他の態様において、1つのみのそのようなタンパク質又はタンパク質フラグメントが存在する場合がある。
【0052】
図2Mに示す通り、代表的なSeldeg20mにおいて同じ抗原(100)の2つの分子がFcフラグメント200にN末端又は他の位置において結合し、代表的なSeldeg20mを形成する場合がある。この代表的なSeldegはFcRnへの結合を強化する突然変異を含有するホモダイマーであり、ノブズイントゥーホールズ及び/又は静電ステアリング突然変異を含有しない。
【0053】
図2NはFcフラグメント210のN末端に結合した同じ抗原(100)の2つの分子を含む代表的なSeldeg20nの略図である。図2Nに示す代表的な態様において、細胞表面受容体又は細胞表面分子に結合するタンパク質又はタンパク質フラグメント160はFcフラグメント210のC末端に結合している。この代表的なSeldegはホモダイマーであり、ノブズイントゥーホールズ及び/又は静電ステアリング突然変異を含有しない。図2Nにおいて、ホモダイマー的Fcフラグメント200は両方のポリペプチド鎖に融合したタンパク質又はタンパク質フラグメントを有し、それらは細胞表面タンパク質又は他の細胞表面分子に結合するが、他の態様において1つのみのそのようなタンパク質又はタンパク質フラグメントが存在する場合がある。
【0054】
FcRnを標的とするSeldegsのために、類似の原理をFcRnに結合することができる他のタンパク質に適用する場合がある。さらに、FcRn標的化Seldeg又はその形成方法はFcRn結合タンパク質の性質により影響される場合がある。アルブミンは二量体又は他の多量体を形成しない傾向があるが、他のFcRn結合タンパク質は形成する場合があり、その場合には各Seldegが抗原の1つだけのコピーを含有するように抗体フラグメントを含有する方法に類似の方法で最終的なSeldegを形成する場合がある。図2A、2B、2C、2F、2G、2H、2I、2J、2K、2Lに示す例において、Seldegはノブズイントゥーホールズ及び/又は静電ステアリング突然変異を用いて、1つのFcフラグメントに連結した1つの抗原を含み、1つのFcフラグメントに抗原が結合していないヘテロダイマーの形成を促進する(drive)ように改変された2つの抗体Fcフラグメントを有する。Fcフラグメントをさらに中性近辺のpHにおいて向上した親和性でFcRnに結合するように改変することができるか(図2A、2B、2C、2K、2M)、又は1つ以上の細胞表面受容体若しくは分子を標的とする1つ以上のタンパク質、scFvフラグメント、Fabフラグメント又は他の分子に連結することができる(図2F、2G、2H、2I、2J、2L、2N)。図2F、2G、2H、2I、2J、2L、2Nに示す例におけるFcフラグメントを、より高い親和性でFcRnに結合するように改変し、それらがFcRn及び1つ以上の細胞表面受容体又は分子の両方を標的とするようにすることもできる。
【0055】
アルブミンは酸性のpHにおいて中性のpHにおけるより強くFcRnに結合する。しかしながらアルブミンを修飾して中性近辺のpH又はエンドソームpHにおけるその結合親和性を変え、標的抗原特異的抗体の分解及びSeldegの再循環を促進することもある。類似して、抗体可変領域FcRn結合タンパク質はそのタンパク質に特異的なやり方でpHにより影響を受ける場合があるが、それでもそれらを修飾して中性近辺のpH又はエンドソームpHにおけるその結合親和性を変え、標的抗原特異的抗体の分解を促進する場合がある。これらのFcRn結合タンパク質は免疫グロブリン可変ドメイン、scFv(VHとVLドメインがGGGGSGGGGSGGGGSのようなリンカーペプチドにより互いに連結されているVH:VLヘテロダイマー)又はFabフラグメントのライブラ
リから、ファージディスプレイ、酵母ディスプレイ又は当業者に既知の他の方法を用いて単離され得る。これらのライブラリは天然に存在する抗体可変遺伝子に由来することができるか、又は相補性決定領域(CDRs)がランダム化オリゴヌクレオチド配列を用いて作られる「半合成」ライブラリを生ずる方法を用いて作成され得る。さらなるそれらの親和性の向上を、例えばエラープローンPCRを用いてCDRsにランダム突然変異を挿入し、続いてファージディスプレイ又は酵母ディスプレイを用いて選択することにより達成することができる。標的とされる代表的なCDR残基は軽鎖可変ドメインのCDR3(残基89-97;Kabatナンバリング)及び重鎖可変ドメインのCDR3(残基95-102;Kabatナンバリング)中のものである。類似の方法を用い、他の細胞表面受容体/分子に結合する抗体に基づくタンパク質又は足場(scaffold)に基づくタンパク質を単離することができる。
【0056】
Seldegsは細胞表面上の受容体又は他の分子に特異的に結合するように構成されるいずれかの標的成分を含む場合もある(図2D、2E、2F、2G、2H、2I、2J、2L又は2N)。標的成分を直接又は間接的に(例えばリンカーを介して)、抗体媒介架橋を減少させるために抗原、抗原フラグメント又は抗原類似物のそれぞれの型の1分子を有する抗原成分に融合させる。本明細書で用いられる「抗原の型」という用語は、特異的な抗体に結合する抗原を指す。従ってSeldegは1つより多い抗原の型を含むことができ、ここで各Seldegはそれぞれの抗原の型の1分子のみを有する。標的タンパク質が免疫グロブリン由来Fcフラグメントを含有する場合、Fc領域を、それがFcガンマ受容体及び補体に結合しないか又は実質的に低下したレベルで結合するように突然変異させることができる。Seldegsのいくつかの異なる可能な構成を図2A-Nに示す;多数の他の構成も当業者により構想され得るので、これらは例として示され、制限ではない。
【0057】
SeldegsはFcガンマ受容体及び補体に結合するFcフラグメントを含む場合がある。Fcガンマ及び補体結合部位の存在は、特定の用途分野の状況下で、Seldeg中の抗原に対する免疫反応が望まれる場合(例えば腫瘍画像化において)に望ましい場合がある。そのような用途において、Fcガンマ受容体及び補体に結合するように構成されるSeldegsが好ましい場合がある。例えばアルギニン突然変異のような、本明細書に説明されるFcガンマ受容体及び/又は補体(C1q)に関する結合親和性が低下したか又は結合親和性を有さないための改変された突然変異がないFcフラグメントを含むSeldegsを、そのような免疫反応を引き出すように構成する場合がある。Fcガンマ受容体及び/又は補体(C1q)への結合を向上させるための当業者に既知の突然変異を有するFcフラグメントを含むSeldegsを、そのような免疫反応を引き出すように構成する場合もある。そのようなSeldegsを、Seldeg当たりに1つより多い同じ型の抗原分子を含むように構成し(図2K、2L、2M又は2N)、免疫複合体形成を強化する場合もある。
【0058】
例えばSeldegsは標的ドメイン又は抗体フラグメント(例えばFabフラグメント又はscFvフラグメント)の数が変動させることができ、それは1-3個の標的ドメイン又は抗体フラグメントの範囲である(図2)。これらの標的ドメイン又は抗体フラグメントを免疫グロブリンFcフラグメントに連結することができるが、他の場合、標的ドメイン又は抗体フラグメントを互いに連結する場合がある;抗原及び抗体フラグメントをFcフラグメントに又は互いに、種々の向き(orientation)で融合させることができる(図2);Seldegsはリンカー配列を含むことができ、それは融合タンパク質の間で長さ及び組成においてさまざまであり、ドメイン又はフラグメント、例えばIEGRMD、GGGGS又はこのリンカーの2-3個の反復を用いることができる;小分子又はペプチドのような抗原類似物を用いることができる;Seldegs中のFcフラグメントを、それがFcガンマ受容体、補体に関する実質的に低下した結合親和性及び
FcRnへの結合に関する向上した親和性を有するように突然変異させる場合がある;SeldegのFcフラグメントは、抗原連結Fcフラグメントと非抗原連結Fcフラグメントのヘテロダイマー又は2種類の抗原を含有するヘテロダイマーが形成されるように、ノブズイントゥーホールズ及び/又は静電ステアリング突然変異のような突然変異を有する場合がある。
【0059】
Seldegsは、自己免疫性脳炎を含む自己免疫疾患と関連するタンパク質、糖タンパク質及び核酸を含む以下の抗原を含むことができる:当業者が同定可能な他のものの中でもミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)、ミエリン塩基性タンパク質、プロテオリピドタンパク質、ミエリン関連糖タンパク質、ミエリン関連オリゴデンドロサイト塩基性タンパク質、トランスアルドラーゼ、アセチルコリン受容体、筋特異的キナーゼ、低密度リポタンパク質受容体関連タンパク質4、インスリン、膵島抗原2、グルタミン酸デカルボキシラーゼ65、亜鉛トランスポーター8、シトルリン化抗原、カルバミル化抗原、コラーゲン、軟骨gp39、gp130-RAPS、65kDa熱ショックタンパク質、フィブリラリン、小核タンパク質(snoRNP)、アクアポリン4、甲状腺刺激因子受容体、核抗原、DNA、ヒストン、糖タンパク質gp70、リボソーム、ピルビン酸デヒドロゲナーゼデヒドロリオアミドアセチルトランスフェラーゼ、毛包抗原、ヒトトロポミオシンイソフォーム5、N-メチル-D-アスパルテート(NMDA)受容体、α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソオキサゾールプロピオン酸(AMPA)受容体、GABA及びGABA受容体、グリシン受容体、ジペプチジル-ペプチダーゼ様タンパク質6(DPPX)、グルタメート受容体(GluR5)、電位依存性カリウムチャンネル、Hu、甲状腺ペルオキシダーゼ、チログロブリン、甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体、甲状腺ホルモンT3及びT4、デスモグレイン1及び3。以下の抗原は腫瘍と関連する抗原の例であり、診断用画像化の間に腫瘍特異的抗体をクリアランスするためにSeldegs中に導入され得る:HER2、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、前立腺幹細胞関連抗原(PSCA)、c-Met、EpCAM、癌胎児性抗原(CEA)。他の抗原には、患者が特異的な抗体を有している治療薬又は移植片受容者中の抗体が認識する移植抗原が含まれる。さらに、抗原の分子類似物(合成、タンパク質フラグメントなど)を作製することが可能であり、これらをSeldegsの作製に用いることもできる。上記の抗原は例であり、本開示を読んで当業者が同定し得る追加の型の可能な抗原を制限していない。
【0060】
本明細書に説明するいくつかの例において、Seldegは配列番号2プラス配列番号6、配列番号4プラス配列番号6、配列番号8プラス配列番号10、配列番号12プラス配列番号14、配列番号16プラス配列番号18プラス抗体軽鎖配列番号20、配列番号22プラス配列番号24プラス抗体軽鎖配列番号20、配列番号26プラス配列番号28、配列番号30プラス配列番号6、配列番号32プラス配列番号6又は配列番号34プラス配列番号6又はそれらの相同体のアミノ酸配列を含む融合タンパク質のヘテロダイマーであることができる。
【0061】
Seldegは、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号8、配列番号10、配列番号12、配列番号14、配列番号16、配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号32又は配列番号34と少なくとも50%の同一性を有するアミノ酸配列を含む融合タンパク質であることができる。
【0062】
本明細書で用いられる場合、2つの核酸又はポリペプチド配列の状況における「配列同一性」又は「同一性」は、特定される比較ウィンドウ(comparison window)にわたって最大対応(maximum correspondence)に関して並べられると同じである2つの配列におけるヌクレオチド塩基又は残基を指す(make
s reference)。タンパク質への言及において配列同一性又は類似性のパーセンテージが用いられる場合、同一でない残基の位置は多くの場合に同類アミノ酸置換により異なることが認識され、同類アミノ酸置換ではアミノ酸残基が類似の物理化学的性質を有するアミノ酸残基の機能的に等価の残基で置換され、従って分子の機能的性質を変化させない。
【0063】
本明細書で用いられるアミノ酸の機能的に等価の残基は、典型的に最初のアミノ酸に実質的に類似の物理化学的及び立体化学的特性を有する他のアミノ酸残基を指す。物理化学的性質には水溶性(疎水性又は親水性)、誘電的及び電気化学的性質、生理学的pH、側鎖の部分的電荷(正、負又は中性)及び当業者が同定可能な他の性質が含まれる。立体化学的特性にはアミノ酸の空間的及びコンフォーメーション的配置ならびにそれらのキラリティーが含まれる。例えばグルタミン酸は本開示の意味においてアスパラギン酸に機能的に等価の残基であると考えられる。チロシン及びトリプトファンはフェニルアラニンに機能的に等価の残基と考えられる。アルギニン及びリシンはヒスチジンに機能的に等価の残基と考えられる。
【0064】
当業者は、典型的に2つのポリペプチド又はポリヌクレオチド配列を並べて整列配列(aligned sequences)を形成し、次いで2つの整列配列の間で一致する文字、すなわち類似又は同一の文字の数を検出し、ギャップ(gaps)を含む各ポリペプチド又はポリヌクレオチド配列中の整列文字の合計数で割られる一致する文字の合計数を計算する段階を含む方法により、配列間の類似性が測定されることを理解するであろう。類似性の結果は同一性のパーセンテージとして表される。
【0065】
本明細書で用いられる場合、「配列同一性のパーセンテージ」は、比較ウィンドウに及ぶ2つの最適整列配列の比較により決定される値を意味し、ここでポリヌクレオチド配列の比較ウィンドウ中の部分は2つの配列の最適整列のための参照配列(付加又は欠失を含まない)と比較して付加又は欠失(ギャップ)を含む場合がある。パーセンテージは、両配列中に同一の核酸塩基又はアミノ酸残基が存在する位置の数を決定して一致する位置の数を与え、一致する位置の数を比較のウィンドウ中の位置の合計数で割り、結果を100倍して配列同一性のパーセンテージを与えることにより計算される。
【0066】
本明細書で用いられる場合、「参照配列」は配列比較のための基礎として用いられる定義された配列である。参照配列は、例えば全長タンパク質又はタンパク質フラグメントの切片として特定される配列のサブセット又は全体の場合がある。参照配列は、例えばGenBank及びUniprot及び当業者が同定可能な他のデータベースようなデータベースにおいて同定され得る配列の場合がある。
【0067】
当業者が理解する通り、いずれの2つの配列間のパーセント同一性の決定も、数学的アルゴリズムを用いて行うことができる。配列同一性の決定のための配列の比較のために、適した数学的アルゴリズムのコンピューターインプリメンテーションを用いることができる。そのようなインプリメンテーションには:当業者が同定可能な他のものの中でもCLUSTAL、ALIGN、GAP、BESTFIT、BLAST、FASTAが含まれるがこれらに限られない。
【0068】
例えば本開示に従うSeldegsは、配列番号2、配列番号4、配列番号6又は配列番号8又は配列番号10又は配列番号12又は配列番号14又は配列番号16又は配列番号18、配列番号20、配列番号22、配列番号24、配列番号26、配列番号28、配列番号30、配列番号32又は配列番号34に比較して少なくとも50%の配列同一性、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有することができる。
【0069】
Seldegsが標的とする抗原特異的抗体は、当業者が同定可能な他のものの中でも患者中に存在する自己抗体、治療薬に結合する抗体、移植片を認識する抗体及び診断用画像化において用いられる修飾された(例えば放射性標識された)抗体又はフラグメント/改変された形態の場合がある。
【0070】
下記の実施例に示す通り、Seldegsはそれらの融合した抗原に関する特異性を有する標的抗原特異的抗体、例えば標的抗原特異的抗体HER2-特異的トラスツズマブ(trastuzumab)又はペルツズマブ(pertuzumab)(“TZB”又は“PZB”)及びMOG特異的抗体(“8-18C5”)を選択的に枯渇させることができる。下記の実施例に示す通り、全体的なIgGレベルに負の影響を与えるか又は不利な免疫反応を引き出すことなく、標的抗原特異的抗体を選択的に枯渇させることができる。これらの発見は、処置がFcRn阻害剤又はB細胞を破壊する抗体の使用を介して全体的なIgGsの枯渇を生ずる他の方法と対照的である。そのような方法は、それらがSeldegsにより与えられる選択性を欠いているために、標的とされない特異性の抗体又はB細胞機能に不利に影響する。
【0071】
この独特の選択性に基づき、Seldegプラットフォームは多くの用途を有し、それは多くの他の標的タンパク質及び抗原を有するSeldegsが作製される場合があるからである。そのような用途の例には自己免疫疾患の処置、移植前又はその間の抗体媒介拒絶の処置、腫瘍の全身画像化の間のコントラストの向上(例えば追加のSeldegsの開発のために抗原として腫瘍抗原PSMA、EpCAM及びCEAが用いられる場合がある)、投与後に不利な反応が観察された場合の特定の生物学的製剤の体濃度の枯渇、治療薬の送達の前の治療薬を認識する抗体をクリアランスするための抗体のクリアランスが含まれる。
【0072】
Seldegsは、注射、特に静脈内、皮下若しくは筋肉内注射あるいは枯渇させられるべき抗原特異的抗体が標的とする組織中への注射を介するような、標的とされている細胞表面上の受容体又は他の分子を発現する細胞にそれらを送達できるいずれかの方法で投与される場合がある。Seldegsをコードする発現構築物を含有するように遺伝子改変された細胞においてSeldegsを発現させることもできる。特に、遺伝子改変された細胞からその場でSeldegsを分泌することを可能にするタンパク質又はペプチドを含むSeldegタンパク質をコードする発現構築物を導入することにより、細胞を遺伝子改変することができる。例えばSeldegsをコードする発現構築物を用いて患者由来の細胞をトランスフェクションし、トランスフェクションされた細胞をキメラ抗原-受容体(CAR)T細胞治療に関して説明されている方法に類似の方法を用いて患者内に送達して戻すことができる。発現構築物は当業者に既知の発現ベクターを含み、例えばMOG-Seldegをコードする遺伝子(配列番号1及び5)を、成熟MOG-Seldeg(配列番号1)及びFc(配列番号5)に関するコード配列の5’末端に連結した免疫グロブリン遺伝子に由来するもののような分泌リーダーペプチドと一緒に含有する場合がある。
【0073】
Seldegsは、すべての標的とされる受容体/細胞表面分子を遮断せず、細胞表面受容体/分子の正常な機能を可能にする量で投与される場合がある。用いられるSeldegの用量は、クリアランスのために標的とされている抗体の量に類似している場合があり、それは例えば抗体媒介疾患の詳細(specifics)又はSeldegsが診断用画像化においてコントラストの向上ために用いられているかどうかに依存するであろう。用いられるSeldegの量は標的とされている受容体の型の合計数未満であると思われ、標的とされる受容体の正常な機能は不利に影響されない。さらに、例えばIgG結合部位と重ならない部位でFcRnに結合するナノボディー(VHH)を用いることにより
、Seldegsを、それらが細胞表面受容体又は細胞表面分子の自然のリガンドと結合に関して競争しないように設計することができる(例えばAndersen,J.T.,Gonzalez-Pajuelo,M.,Foss,S.,Landsverk,O.J.B.,Pinto,D.,Szyroki,A.,de Haard,H.J.,Saunders,M.,Vanlandshoot,P.,Sandlie,I.(2012) Selection of nanobodies that target human neonatal receptor. Sci. Rep., 3, 1118に説明されている通り)。さらにSeldegsは循環中又は枯渇させられるべき抗原特異的抗体が標的とする組織中の標的とされない抗体の10%未満、5%未満、1%未満又は0.1%未満をクリアランスする場合がある。Seleg処置の間及び後の標的とされない抗体の保持は、本明細書に説明される他の効果の中でも正常な免疫機能及び感染の回避において重要な場合がある。
【0074】
Seldegsは毎日か、毎週か、患者の50%が循環中又は標的とされる抗原特異的抗体が認識する組織中で閾量の標的とされる抗原特異的抗体を再生したと予想されるときはいつでも投与される場合がある。標的とされる抗原特異的抗体のレベルは、血清試料を分析するための酵素結合イムノソルベント検定(ELISAs)を用いることにより決定され得る。あるいはまた、当業者に周知の他の方法を用いることができる。
【0075】
抗体媒介拒絶に関するリスクがある移植患者において、Seldegsは移植の前又は後に投与される場合がある。標的抗原特異的抗体が循環中又は標的抗原特異的抗体により認識される組織中で標的抗原特異的抗体の閾値に達したら、緊急時用量(emergency dose)のSeldegsを投与する場合がある。標的とされる抗原特異的抗体のレベルは、血清試料を分析するための酵素結合イムノソルベント検定(ELISAs)を用いることにより決定され得る。あるいはまた、当業者に周知の他の方法を用いることができる。
【0076】
タンパク質に基づく治療薬のような治療薬に関して特異的な抗体を有する患者において、Seldegsはそのような抗体を枯渇させるために治療薬の送達の前に投与される場合がある。これは、治療薬が前の送達の間に免疫反応を引き出していた場合、又は治療薬に特異的な既存の抗体が患者内に存在している場合、急速な治療薬の抗体媒介クリアランスに関連する問題を克服すると思われる。タンパク質に基づく治療薬に関して特異的な既存の又は誘導される抗体を複数の異なる方法を用いて検出することができる(例えばXue,L.,Clements-Egan,A.,Amaravadi,L.,Birchler,M.,Gorovits,B.,Liang,M.,Myler,H.,Purushothama,S.,Manning,M.S.,Sung,C.(2017) Recommendations for the assessment and management of pre-existing drug-reactive antibodies during biotherapeutic development.AAPS,19,1576-1586に説明されているもののような)。
【0077】
診断用/セラノスティック画像化において、放射性標識された画像化抗体の送達に腫瘍局在化(localization)を許すある期間が続くであろうと思われる。続いてSeldegsを用いてオフターゲット部位(例えば循環)から放射性標識された抗体をクリアランスし、コントラストの向上を生ずる。例えばこの方法は以下の段階を含むことができる:第1に腫瘍抗原に結合する放射性標識(又は他の標識)された抗体を患者に注入する。第2に、放射性標識された抗体が腫瘍に結合するのを許すためのある期間(例えば16-24時間)の後に、注入された画像化剤の用量にモル量において等しい量でSeldegsを注入する。クリアランス期間(例えば4-24時間)の後にポジトロンエミッショントモグラフィー又は他の全身画像化様式を用いて患者を画像化する。
【0078】
投与から1時間以内、2時間以内、5時間以内、24時間以内又は48時間以内あるいはもっと長い時間以内に循環中又は標的抗原特異的抗体により認識される組織中の標的抗原特異的抗体の濃度の少なくとも50%、少なくとも80%又は少なくとも90%を枯渇させるのに十分な量でSeldegsを投与する場合がある。体内におけるSeldegsの持続性は、抗原特異的抗体の枯渇においてそれがどれだけ長く活性を有しているかの決定要因であろう。Seldegsを、それらが標的とする細胞表面受容体又は細胞表面分子の行動により種々の生体内半減期を有するように設計することができる。この細胞表面受容体又は細胞表面分子に関するSeldegの親和性を突然変異誘発及び当業者に既知の方法を用いて修飾し、循環及び/又は組織中における種々の持続性を有するSeldegsを生ずることもできる。特に枯渇させられるべき抗原特異的抗体の量と少なくとも大体等モルにおける量でSeldegを投与する場合がある。例えば標的抗原特異的抗体に対して約1:1、2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、9:1、10:1又はもっと高いモル比にある量でSeldegを投与することができる。特に例えばSeldegが患者に投与される抗体(例えば抗MOG又は抗HER2抗体など)を標的とする場合、例えば投与される標的抗原特異的抗体に対して約1:1、2:1、3:1、4:1、5:1、6:1、7:1、8:1、9:1、10:1又はもっと高いモル比にある用量でSeldegを投与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0079】
以下の実施例は本開示の特定の態様をさらに例示するために与えられる。それらは本開示のそれぞれの及びすべての側面を完全に詳細に開示又は説明することを意図しておらず、そのように理解されるべきではない。他にことわらなければ、細胞系及び組成物の呼称は、これらの実施例全体を通じて一貫して用いられる。
【実施例1】
【0080】
-FcRnに結合するSeldegsの発現及び精製
細胞上のFcRnを標的とするSeldegsは、中性近辺のpHにおいてヒトFcγRsとの相互作用を排除し且つFcRnへのSeldegFcフラグメントの結合親和性を強化するための突然変異を有する二量体的ヒトIgG1由来Fcフラグメント(図3A)に連結したモノマーとしての組換え抗原を含有する。これらの2つのSeldegsのヘテロダイマー形成は、CH3ドメインにおけるノブズイントゥーホールズ突然変異の挿入により達成される。
【0081】
代表的なHER2-Seldeg(配列番号3、4、5及び6)を作製するための発現構築物を以下の通りに作製した:改変されたFcフラグメントに融合したHER2を有するポリペプチド鎖を発現するために(配列番号3)、HER2リーダーペプチド及び細胞外ドメイン(630残基からなるECD)をコードする遺伝子を標準的な分子生物学的方法を用いてHER2過剰発現乳癌細胞系(BT-474)から単離した。この遺伝子をヒトIgG1由来Fcフラグメントをコードする遺伝子のヒンジ領域のN末端に、オーバーラップ伸長(overlap extention)によるスプライシングを用いてIEGRMDリンカーペプチドを介して融合させた。FcγRsへの結合を排除するため(G236R/L328R;EUナンバリング)、FcRnへの結合を強化するため(MST-HN;M252Y/S254T/T256E/H433K/N434F;EUナンバリング)及び‘ノブズイントゥーホールズ’を作製するため(Y349T/T394F;EUナンバリング)の突然変異を標準的な方法を用いてFcフラグメント遺伝子中に挿入した。軽鎖定常領域中のシステインと架橋するヒンジ領域中のシステイン(C220;EUナンバリング)もセリンに突然変異させた。FcRn強化突然変異、FcγRs結合を排除するための突然変異を有し、融合抗原のないFcフラグメント遺伝子を相補的ノブズイントゥーホールズ突然変異を用いて作製した(S364H/F405A;EUナンバリン
グ)(配列番号5)。Gibco Expi293TM 発現系キット(Life Technologies)を用いる一過性トランスフェクションの後にHEK-293F(life Technologies)細胞中で組換えタンパク質を発現させた。アニオン交換カラム(SOURCE-15Q,GE Healthcare)を用い、pH8.0及び直線状塩勾配(0-0.5M NaCl)においてHER2-Seldegを培養上澄み液から精製した。あるいはまた、タンパク質A-セファロース及び標準的な方法を用いてHER2-Seldegを精製することができる。カラム(イオン交換又はタンパク質A-セファロース)からの溶離の後、HER2-Seldegをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に対して透析した。実験における使用の前にPBS(Lonza)中でサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)(GE Healthcare)を用いてHER2-Seldegをさらに精製した。類似の方法及びトランスフェクションされたHEK-293F細胞中で発現される組換えタンパク質を用いて他のSeldegsのための発現プラスミドを作製した。FcRn強化突然変異のないSeldegs(例えばMOG-Seldeg-PS、MOG-Seldeg-TfR;配列番号7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19及び20)をタンパク質G-セファロースを用いて精製した。
【0082】
2つの抗原に関して特異的な抗体を標的とするSeldegs:(1)HER2-Seldeg;及び(2)MOG-Seldegを作製した。抗原HER2はトラスツズマブ(TZB)又はペルツズマブ(PZB)のようなHER2特異的抗体を用いる治療のため及びHER2過剰発現腫瘍の診断用画像化のためにも十分に定義された標的である。抗原MOGは多発性硬化症(MS)の動物モデル及びヒトにおけるMSの両方において自己反応性抗体(autoreactive antibodies)により認識される。
【0083】
HER2-Seldeg及びMOG-Seldegは、中性近辺のpHにおける結合親和性を向上させるFcRn強化MST-HN突然変異(M252Y,S254T,T256E,H433K,N434F;EUナンバリング)がないことを除いてHER2-Seldeg及びMOG-Seldegに類似の構築物(それぞれ“HER2-WT”及び“MOG-WT”)を作製するためにFcフラグメントに融合されたHER2又はMOGを含む組換え融合タンパク質と対照的に、中性のpH及び酸性のpHにおいてFcRnに関する有意により高い結合親和性を保持している(図3B)。BIAcore T200(GE Healthcare)を用いて、組換えタンパク質とFcRnの相互作用を分析するための表面プラズモン共鳴実験を行った。PBS(pH6.0又は7.4)プラス0.01%v/vTween-20中の固定化されたFcRn(CM5センサーチップ上に~600RUにおいて結合)上に100nMのMOG/HER2-Seldeg又はMOG/HER2-WTを10μl/分の流量で注入することによりSeldeg/WTの組換えマウスFcRnへの結合を分析した。0.15M NaCl,0.1M 重炭酸ナトリウム,pH8.5を用いて、各注入及び解離段階に続いてフローセル(flow cells)を再生させた。データをゼロ調整し、バックグラウンドを引き去った(バックグラウンドは結合反応の間に緩衝液のみと結合したフローセル上に注入することにより得られた)。
【0084】
MST-HNのようなFcRn結合を向上させるための突然変異は以下の方法を用いて同定された:FcRn結合に必須であることが既知のアミノ酸(例えば253、435)に近接する残基をFcフラグメント遺伝子においてランダムに突然変異させ、突然変異したFcブラグメントのライブラリをファージ上で表示する。ファージディスプレー法
(Ghetie,V.,Popov,S.,Borvak,J.,Radu,C.,Matesoi,D.,Medesan,C.,Ober,R.J.,Ward,E.S.(1997)Increasing the serum persistence of
an IgG fragment by random mutagenesis,
Nature Biotech.,15,637-640;Dall’Acqua,W.F.,Woods,R.M.,Ward,E.S.,Palaszynski,S.R.,Patel,N.K.,Brrewah,Y.A.,Wu,H.,Kiener,P.A.,Langermann,S.(2001) Increasing the affinity of a human IgG1 for the neonatal receptor: biological consquences,J.Immunol.,169,5171-5180)を用い、FcRnに関する結合親和性が向上したFcフラグメントを選択した。あるいはまた、これらの残基をすべての他の可能なアミノ酸に突然変異させ、ELISA又は表面プラズモン共鳴結合分析のような方法を用いてFcRnに関するより高い親和性を有するFcフラグメントを同定することができる。
【0085】
サイズ排除分析は、最高で4℃で30日間又は37℃で5日間インキュベートされる場合、Seldegsを含む組換えタンパク質がリン酸緩衝生理食塩水中のインキュベーション後に凝集物を形成しないことを示す(図3C)。
【実施例2】
【0086】
-FcRnを標的とするSeldegsが形質転換によりヒトFcγRsを発現するマウス(huFcγRマウス)において標的抗原特異的抗体を枯渇させる能力
Seldegsが標的抗原特異的抗体を枯渇させる能力を決定するために、外来遺伝子導入によりヒトFcγRsを発現するマウス(huFcγRマウス;Smith,P.,DiLillo,D.J.,Bournazos,S.,Li,F.,Ravetch,J.V.(2012). Mouse model recapitulating human Fcγ receptor structural and functional diversity. Proc.Natl.Acad.Sci.USA 109,6181-6186.http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1203954109)に15μgの放射性標識された(125I標識された)MOG特異的抗体8-18C5を注入した。huFcγRマウスに8-18C5を注入してから24時間後、注射を介して125μg又は31μgのMOG-Seldeg又は参照標準タンパク質を投与した。図3Dにおいて、“MOG-Seldeg-High”は125μgの用量に対応し、“MOG-Seldeg-Low”は31μgの用量に対応する。参照標準はリン酸緩衝生理食塩水(“PBS”)及び非修飾MOG-Fc融合タンパク質(“MOG-WT”)である。MOG-WTは、それが中性近辺のpHにおける結合親和性を向上させるFcRn強化MST-HN突然変異を欠いていることを除いてMOG-Seldegに類似の構築物である。
【0087】
図3Dのデータを作成するために、放射性標識された8-18C5の全身カウントを、指示される時間に取った。8-18C5投与から24時間後、Seldeg又は参照標準送達の直前に得られる分当たりのカウント(“CPM”)を各マウスに関する100%とみなし、その後に得られる全身のCPMをこの時点に正規化する。エラーバー(error bars)は標準偏差を示し、チューキーの多重比較(Tukey’s multiple comparisons)と共に二元配置分散分析(two-way ANOVA)を用い、p<0.05及びn=グループ当たり6匹のマウスで統計的に有意な差を決定した。
【0088】
MOG-Seldegの125μg及び31μgの用量は、マウスにおいてIgGレベルを全体的に排除することが示された500μg,MST-HN Abdegの用量より約2ないし8倍低い(2 to 8-fold lower)(モルに基づいて)。そのように比較的低いMOG-Seldegの用量は、FcRn結合に関するSeldegとの競争を介する融合した抗原に関して特異的でないIgGsへの影響を最小にするために用いられた。125μg又は31μgの用量は、8-18C5標的抗原特異的抗体よりそ
れぞれ16倍及び4倍モル過剰を意味する。
【0089】
図3Dは、時間に対する放射性標識された8-18C5(標的抗原特異的抗体)の正規化された体カウントのグラフを与えている。MOG-Seldegの投与は、正規化された全身カウントにおいて8-18C5の急速な用量依存性減少を生じ(図3D)、それは体から8-18C5を選択的に枯渇させるMOG-Seldegの能力を示す。対照的に、FcRn強化MST-HN突然変異を欠いた参照標準MOG-WTの注入は、8-18C5抗体枯渇に影響を有していなかった。これは、pH6.0-7.4におけるFcRnに関する高い結合親和性を与えるためのMST-HN突然変異の重要性を示す。
【実施例3】
【0090】
-FcRnを標的とするSeldegsの特異性ならびに血液中及び体全体の両方において標的抗原特異的抗体レベルにおける有意な低下を誘導するそれらの能力
Seldegsの特異性及び種々の抗原認識性を有する抗体へのそれらの影響を分析するために、HER2特異的抗体TZBの行動をHER2-Seldeg及びMOG-Seldegの両方の存在下で調べた(図3E)。図3Eのデータを作成するために、huFcγRマウスに15μgの放射性標識された(125I標識された)TZBを静脈内注射し、続いて4倍モル過剰のHER2-Seldeg又は抗原特異性に関する参照標準としてMOG-Seldegを静脈内注射した。追加の参照標準はリン酸緩衝生理食塩水(“PBS”)、Abdeg及び中性近辺のpHにおける結合親和性を向上させるFcRn強化MST-HN突然変異を欠いていること以外はHER2-Seldegに類似の構築物(“HER2-WT”)を作製するためにFcフラグメントに融合したHER2を含む組換え融合タンパク質である。Seldegと対照的に、“Abdeg”はMST-HN突然変異を有するヒトIgG1由来抗体であり、それは非選択的に抗体を枯渇させる。そのようなタンパク質は、それらが一般的にIgG分解を引き起こす抗体なのでAbdegsと呼ばれる。
【0091】
図3Eのデータを作成するために、マウスを出血させ、血液及び全身カウントを指示される時間に取った。TZB投与から24時間後、Seldeg又は参照標準送達の直前に得られる分当たりのカウント(“CPM”)を各マウスに関する100%とみなし、その後に得られる血液及び全身のCPMをこの時点に正規化する。エラーバーは標準偏差を示し、チューキーの多重比較と共に二元配置分散分析を用い、p<0.05及びn=グループ当たり6匹のマウスで統計的に有意な差を決定した。
【0092】
図3Eは、時間に対する放射性標識されたTZB(標的抗原特異的抗体)の正規化された血液及び体カウントのグラフを与えている。HER2-Seldegの投与は、血液及び全身カウントの両方において正規化されたTZBの体カウントにおける有意な低下を引き起こし、それは体からTZBを選択的に枯渇させるHER2-Seldegの能力を示す。対照的に、参照標準タンパク質はPBS参照標準に関して観察された行動に類似の行動を示した(図3E)。
【実施例4】
【0093】
-FcRnを標的とするSeldegsが標的抗原特異的抗体を急速に枯渇させる能力
マウスに放射性標識された(125I標識された)TZB(15μg)を静脈内注射し、24時間後にHER2-Seldeg(51μg;TZBより4倍モル過剰)を静脈内送達した。追加の参照標準はリン酸緩衝生理食塩水(“PBS”)及びAbdeg(60μg)である。
【0094】
図3Fのデータを作成するために、マウスを出血させ、血液及び全身カウントを指示される時間に取った。TZB投与から24時間後、Seldeg又は参照標準送達の直前に
得られる分当たりのカウント(“CPM”)を各マウスに関する100%とみなし、その後に得られる血液及び全身のCPMをこの時点に正規化する。エラーバーは標準偏差を示し、チューキーの多重比較と共に二元配置分散分析を用い、p<0.05及びn=グループ当たり5-6匹のマウスで統計的に有意な差を決定した。
【0095】
図3Fは、時間に対する放射性標識されたTZB(標的抗原特異的抗体)の正規化された血液及び体カウントのグラフを与えている。HER2-Seldegの投与は、正規化されたTZBの体及び血液カウントにおける急速な低下を引き起こし、それは体からTZBを急速に枯渇させるHER2-Seldegの能力を示す。注目すべきことに、TZBの血液カウントはSeldeg投与から2時間以内にバックグラウンドレベルの近くまで低下し(図3F)、体から標的抗原特異的抗体を急速に枯渇させるHER2-Seldegの能力をさらに支持している。対照的に、60μg/マウスの用量におけるAbdegの送達はPBS参照標準に関して観察された行動に類似の行動を示した(図3F)。
【実施例5】
【0096】
-細胞表面上の露出したホスファチジルセリン(PS)を標的とするSeldegsの活性
我々は、標的タンパク質がシナプトタグミン1のC2ドメイン(Syt1)であるSeldegがhuFcγRマウスにおいてMOGに関して特異的な抗体を選択的に枯渇させる能力も調べた。Syt1は細胞上の露出したPSに結合し、Seldegはそのために設計されたMOG-Seldeg-PSであり、略図的に示される(図4A)。‘DN’突然変異(D173N,D179N,D231N,D233N及びD239N)の存在の故にPSに結合しないMOG-Seldeg-PS(DN)も作製した。MOG-Seldeg-PS及びMOG-Seldeg-PS(DN)を、トランスフェクションされたHEK-293F細胞の培養上澄み液からタンパク質G-セファロース及び標準的な方法を用いて精製した。ヘテロダイマー形成はFc領域中へのノブズイントゥーホールズ及び静電ステアリング突然変異の挿入により達成され、サイズ排除分析は組換えタンパク質が良好に行動することを示す(図4A)。
【0097】
図4Bに示すデータの作成のために、マウスに放射性標識された(125I)キメラ8-18C5(ヒト定常/マウス可変ドメイン;MOG特異的;15-20μg)を静脈内注射し、24時間後にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、40μgのMOG-Seldeg-PS又は参照標準として34μgのFc-Syt1(MOGが結合していない)又は40μgのMOG-Seldeg-PS(DN)を静脈内送達した。指示される時間に放射性レベルを決定した。MOG-Seldeg-PS又は参照標準送達の直前に得られる全身CPM又は血液CPMレベルを100%とみなし、得られる続くCPMのすべてをこれらのCPMレベルに対して正規化した。エラーバーは標準誤差(SEM)を示し、MOG-Seldeg-PS処置グループと参照標準グループ(Fc-Syt1、MOG-Seldeg-PS(DN)及びPBS)の間の統計的に有意な差をにより示した(p<0.05,チューキーの多重比較を用いる二元配置分散分析;n=グループ当たり5-6匹のマウス)。
【0098】
MOG-Seldeg-PSの投与は血液及び全身カウントの両方において8-18C5の正規化された体カウントにおける有意な低下を引き起こし、それは体から8-18C5を選択的に枯渇させるMOG-Seldeg-PSの能力を示す。対照的に、参照標準タンパク質Fc-Syt1はPBS参照標準に関して観察された行動と類似の行動を示し、MOG-Seldeg-PS(DN)は8-18C5における低下を誘導したが(PSへの残留結合の故に)、影響はMOG-Seldeg-PSのそれよりずっと低かった(図4B)。
【実施例6】
【0099】
-FcRnを標的とするSeldegsが標的抗原特異的抗体を有効にエンドソーム中に移行させ、リソソームへの送達を介して分解を引き起こす能力
細胞レベルにおけるSeldegsの活性の機構を決定するために、フローサイトメトリー及び蛍光顕微鏡検査を行い、標的抗原特異的抗体TZB、PZB及び8-18C5の移行及び堆積へのSeldegsの効果を分析した。最初に結合性がマウスFcRnに類似であるように突然変異したヒトFcRn-GFP発現構築物を用いてヒト内皮細胞(HMEC-1)をトランスフェクションした。
【0100】
Seldegsは、結合した標的抗原特異的抗体を有効に細胞内のエンドソーム中に移行させ、8時間のインキュベーション後に標的抗原特異的抗体はリソソームに送達された。
【0101】
図5Aは平均蛍光強度(“MFI)”)のグラフであり、図5B及び図5Cは標的抗原特異的抗体の存在下におけるSeldeg活性の顕微鏡画像であり、代表的なエンドソームの顕微鏡画像を切り出し、拡大し、右上の角の差し込み図に示した。図5AはそれぞれHER2-Seldegsと一緒のAlexa 647標識されたTZB及びMOG-Selegと一緒のAlexa 647標識された8-18C5の存在下におけるより大きなMFIを示す。このより大きなMFIは、TZB及び8-18C5とのそれぞれHER2-及びMOG-Seldegの共-インキュベーション(400nMのSeldeg又はWT参照標準プラス100nMの抗原特異的抗体;30分のパルス、追跡なし又は60分の追跡、図5A、5B及び5Cにおいてそれぞれ30’P又は30’P,60’Cと標識)がTZB及び8-18C5進入細胞の高いレベルを生ずることを示す。HER2-Seldegの存在下でTZBの代わりにHER2特異的抗体ペルツズマブ(PZB)を用いた場合、類似の結果が得られた(図5A)。さらに、各標的抗原特異的抗体の大部分は60分の追跡の間、細胞により保持された。対照的に、負の参照標準HER2-WT(TZB又はPZBに関して選択的)及びMOG-WT(8-18C5に関して選択的)の存在下で細胞内の標的抗原特異的抗体の堆積は実質的により低かった。
【0102】
図5B及びCは抗原特異的抗体が細胞中に堆積すること、そしてSeldegsの存在下におけるエンドソーム中のFcRnと関連していることを示す。図5Bの顕微鏡画像の作成のために、400nMのAlexa 555標識されたHER2-Seldeg又はHER2-WT(示される通り)との複合体における100nMのAlexa 647標識されたTZB(HER2特異的)を用いてHMEC-1細胞を30分間パルスし、洗浄し、直後に固定するか又は洗浄し、媒体中で60分間追跡し、続いて固定した。固定された細胞を蛍光顕微鏡検査を用いて画像化した。図5C中のデータは、400nMのAlexa 555標識されたMOG-Seldeg又はMOG-WTとの複合体における100nMのAlexa 647標識された8-18C5(MOG特異的)を用いる以外は同じ方法を用いて作成された。それぞれの顕微鏡画像中のバーは5μmであり、それぞれの顕微鏡画像差し込み図中のバーは0.25μmである。図5B及び5Cに示されるデータは、抗原特異的抗体が参照標準(WT)タンパク質の存在下と比較してFcRnに結合するSeldegsの存在下で実質的により高いレベルまでFcRn発現細胞中に堆積することを示している。
【0103】
図6Aは標的抗原特異的抗体の存在下におけるSeldeg活性の顕微鏡画像を示し、代表的なリソソームの顕微鏡画像を切り出し、拡大し、右上の角の差し込み図に示した。図6AのためにAlexa 555標識されたデキストランを用いてHMEC-1細胞を2時間予備パルスし、洗浄し、次いで400nMのMOG-Seldeg又はMOG-WT(示される通り)との複合体における100nMのAlexa 647標識された8-18C5(MOG特異的)を用いて30分間パルスし、続いて8時間追跡し、洗浄し、固
定し、画像化した。図6Bの顕微鏡画像の作成のために、Alexa 555標識されたデキストランを用いてHMEC-1細胞を2時間予備パルスし、洗浄し、次いで100nMのAlexa 647標識されたTZB又は8-18C5抗体及び400nMのMOG-Seldeg又はHER2-Seldeg(示される通り)を用いて30分間パルスし、続いて8時間追跡し、洗浄し、固定し、画像化した。それぞれのオーバーレイ画像(overlay image)(右の列に示す)のために、GFP、Alexa 555及びAlexa 647をそれぞれ緑、赤及び青に疑似着色した(pseudo-colored)。それぞれの顕微鏡画像中のバーは5μmであり、それぞれの顕微鏡画像差し込み図中のバーは0.25μmである。注目すべてことに、図6BはそれぞれMOG-Seldeg又はHER2-Seldegの存在下で細胞がリソソーム中にTZB及び8-18C5を堆積させないことを示し、それはそれらの効果の抗原特異性を示している。
【実施例7】
【0104】
-ホスファチジルセリンを標的とするSeldegsが標的抗原特異的抗体を有効に細胞中に移行させる能力
図7は、MOG-Seldeg-PSがMOG特異的抗体(キメラ8-18C5)を内皮細胞及びマクロファージ中に有効に移行させること及び吸収はPS結合依存性であることを示す。PSを露出させた内皮細胞(2H11)又はマクロファージ(RAW264.7)を、20nMのMOG-Seldeg-PS、MOG-Seldeg-PS(DN)又はFc-Syt1(MOGなし)と混合された10nMのAlexa 647標識されたキメラ8-18C5と一緒に2時間インキュベーションした。三重の試料に関するAlexa 647標識されたキメラ8-18C5(マウス抗体、8-18C5の可変ドメインを当業者に周知の方法を用いてヒトIgG1の定常領域、Cκに融合させることにより作製)の平均蛍光強度(MFI)をフローサイトメトリーにより決定した。
【0105】
この代表的なPS結合Seldegはカルシウム依存性であり、従ってカルシウム濃度がずっと低いエンドソーム中で解離する。当業者に理解される通り、すべてのPS標的化Seldegがカルシウム依存性であるわけではないと思われるが、いくつか、アネキシンVを含むもののようないくつかもこの性質を有するであろう。さらに、いくつかの抗体はベータ2糖タンパク質1に結合することができ、それが今度はPSに結合することができる。
【実施例8】
【0106】
-トランスフェリン受容体を標的とするSeldegsが標的抗原特異的抗体を有効にヒトトランスフェリン受容体を発現する細胞中に移行させる能力
トランスフェリン受容体を標的とする抗体に融合した抗原(MOG)を含むSeldeg(MOG-Seldeg-TfR)を作製し、図8に略図的に示す。MOG-Seldeg-TfR及び参照標準抗体、Ab-TfR(MOGが存在しない)を、トランスフェクションされたHEK-293F細胞の培養上澄み液からタンパク質G-セファロース及び標準的な方法を用いて精製した。MOG-Seldeg-TfRはMOG特異的抗体(キメラ8-18C5)を有効に内皮(HMEC-1)細胞中に移行させ、吸収はSeldeg中のMOGの存在に依存性である(図9)。ヒトTfRを発現するHMEC-1細胞を、200nMのMOG-Seldeg-TfR又はTfR特異的抗体(Ab-TfR;MOGなし)と混合された50nMのAlexa 647標識されたキメラ8-18C5(MOGに関して特異的)と一緒に30分間インキュベーションし、続いて洗浄し、追跡しないか(30’P)又は30分間に続いて洗浄し、60分間追跡した(30’P,60’C)。三重の試料に関するAlexa 647標識された8-18C5の平均蛍光強度(MFI)をフローサイトメトリーにより決定した(図9)。
【実施例9】
【0107】
-FcRnを標的とするSeldegsが放射性標識された抗体を用いる腫瘍のポジトロンエミッショントモグラフィー分析の間にバックグラウンドをクリアランスする能力
雌のBALB/cSCIDマウスに、HER2陽性乳癌細胞系、HCC1954を乳房脂肪体中において移植した(マウス当たり0.5x10個の細胞;注入前に細胞をRPMI-1640/Matrigel中に懸濁させた)。6-7日後、マウスに124-I標識されたTZB(60μg/マウス)を注入し、22時間後にポジトロンエミッショントモグラフィー(PET)を用いて分析した。マウスにモル当量のHER2-Seldeg(51μg/マウス)又は参照標準としてMOG-Seldeg(31μg/マウス)若しくはPBSビヒクルを注入した(n=グループ当たりに3匹のマウス)。Seldegs又はPBSの注入から4時間後にPETを用いてマウスを分析した。Siemens
Inveon PET-computed tomography(CT)Multimodality Systemを用いてマウスの画像化を行った。
【0108】
図10Aに示すデータの作成のために、124-I標識されたTZBの注入から22時間に(‘22時間’)及びHER2-Seldeg、MOG-Seldeg又はPBSの注入から4.5-5時間後に(‘4.5時間クリアランス’)マウスを画像化した。AMIDEソフトウェアパッケージにおいてPET及びCT画像を共登録した(co-registered)。図10Bは124-I標識されたTZBの注入後22時間及びHER2-Seldeg、MOG-Seldeg又はPBSの注入から4.5-5時間後の場合の放射性標識強度に関するコントラスト測定値のグラフを与えている。コントラスト測定値の決定のために、問題の2つの領域を胸部領域(バックグラウンド)及び腫瘍において同定した。腫瘍における平均強度対胸部領域における平均強度の比に関する平均値(n=グループ当たり3匹のマウス)をプロットする。エラーバーは標準誤差を示す。HER2-Seldegで処置されたマウス対MOG-Seldeg又はPBSで処置されたマウスの間の統計的に有意な差(p<0.05)を示す。データは、HER2-Seldegの送達がマウスの胸部領域におけるバックグラウンドを低下させることを示している。
【実施例10】
【0109】
-代表的なSeldegs及び参照標準ならびにノブズイントゥーホールズ突然変異、アルギニン突然変異及び静電ステアリング突然変異のような突然変異を有するそれらの変異体のDNA及びタンパク質配列
表1は、本明細書に説明される代表的なタンパク質をコードするポリヌクレオチドのDNA配列を示し、表2は表1に示されるポリヌクレオチドによりコードされる代表的なタンパク質のアミノ酸配列を示し、ここで配列番号1のDNA配列は配列番号2のタンパク質をコードし、配列番号3のDNA配列は配列番号4のタンパク質をコードし、配列番号5のDNA配列は配列番号6のタンパク質をコードし、配列番号7のDNA配列は配列番号8のタンパク質をコードし、配列番号9のDNA配列は配列番号10のタンパク質をコードし、配列番号11のDNA配列は配列番号12のタンパク質をコードし、配列番号13のDNA配列は配列番号14のタンパク質をコードし、配列番号15のDNA配列は配列番号16のタンパク質をコードし、配列番号17のDNA配列は配列番号18のタンパク質をコードし、配列番号19のDNA配列は配列番号20のタンパク質をコードし、配列番号21のDNA配列は配列番号22のタンパク質をコードし、配列番号23のDNA配列は配列番号24のタンパク質をコードし、配列番号25のDNA配列は配列番号26のタンパク質をコードし、配列番号27のDNA配列は配列番号28のタンパク質をコードし、配列番号29のDNA配列は配列番号30のタンパク質をコードし、配列番号31のDNA配列は配列番号32のタンパク質をコードし、配列番号33のDNA配列は配列番号34のタンパク質をコードする。
【0110】
【表1-1】
【0111】
【表1-2】
【0112】
【表1-3】
【0113】
【表1-4】
【0114】
【表1-5】
【0115】
【表1-6】
【0116】
【表1-7】
【0117】
【表1-8】
【0118】
【表1-9】
【0119】
【表1-10】
【0120】
【表1-11】
【0121】
【表1-12】
【0122】
【表1-13】
【0123】
【表1-14】
【0124】
【表1-15】
【0125】
【表1-16】
【0126】
【表1-17】
【0127】
【表1-18】
【0128】
【表1-19】
【0129】
【表1-20】
【0130】
【表1-21】
【0131】
【表1-22】
【0132】
【表1-23】
【0133】
【表1-24】
【0134】
【表1-25】
【0135】
【表1-26】
【0136】
【表1-27】
【0137】
【表2-1】
【0138】
【表2-2】
【0139】
【表2-3】
【0140】
【表2-4】
【0141】
【表2-5】
【0142】
【表2-6】
【0143】
【表2-7】
【0144】
【表2-8】
【0145】
【表2-9】
【0146】
配列番号1のDNA配列は、FcRn結合を向上させる突然変異、ノブズイントゥーホールズ及びアルギニン突然変異を有する代表的なMOG-Seldeg融合タンパク質(配列番号2)をコードするポリヌクレオチドのものである。それぞれ配列番号1及び2のMOGの代表的なDNA及びアミノ酸配列はマウス起源のものである。
【0147】
特に配列番号2の代表的なMOG-Seldegのアミノ酸配列は、N末端からC末端への順序でマウス(m)MOGの残基1-117、残基118-122に第1のリンカー、残基123-138に免疫グロブリンヒンジ(ヒトIgG1由来)、残基139-248に免疫グロブリンCH2ドメイン(ヒトIgG1由来)、残基249-355に免疫グロブリンCH3ドメイン(ヒトIgG1由来)を有する融合タンパク質を形成する。配列番号2の代表的なMOG-Seldegは、残基160、162、164,341及び342にFcRn結合を向上させる突然変異、残基144及び236にアルギニン突然変異ならびに残基257及び302に‘ノブズイントゥーホールズ’突然変異を有する。通常免疫グロブリン軽鎖と対をなすシステイン残基(128)はセリンに突然変異している。配列番号2において言及されるアミノ酸残基の番号はタンパク質配列の番号であり、EUナンバリング協定(EU numbering convention)を指していない。
【0148】
配列番号3のDNA配列は、FcRn結合を向上させる突然変異、ノブズイントゥーホールズ及びアルギニン突然変異を有する代表的なHER2-Seldeg融合タンパク質(配列番号4)をコードするポリヌクレオチドのものである。
【0149】
特に配列番号4の代表的なHER2-Seldegのアミノ酸配列は、N末端からC末端への順序でHER2の残基1-630、残基631-636に第1のリンカー、残基637-650に免疫グロブリンヒンジ(ヒトIgG1由来)、残基651-760に免疫グロブリンCH2ドメイン(ヒトIgG1由来)、残基761-876に免疫グロブリンCH3ドメイン(ヒトIgG1由来)を有する融合タンパク質を形成する。配列番号4の代表的なHER2-Seldegは残基672、674、676、853及び854にFcRn結合を向上させる突然変異、残基656及び748にアルギニン突然変異ならびに残基769及び814に‘ノブズイントゥーホールズ’突然変異を有する。通常免疫グロブリン軽鎖と対をなすシステイン残基(640)はセリンに突然変異している。配列番号4において言及されるアミノ酸残基の番号はタンパク質配列の番号であり、EUナンバリング協定を指していない。
【0150】
配列番号5のDNA配列は、FcRn結合を向上させる突然変異、ノブズイントゥーホールズ及びアルギニン突然変異を有する代表的なFcフラグメント(配列番号6)をコードするポリヌクレオチドのものである。配列番号6の融合タンパク質は、例えばMOG-Seldeg(配列番号2)又はHER2-Seldeg(配列番号4)融合体とのヘテロダイマー形成のために構成される。
【0151】
特に配列番号6の代表的なFcフラグメントのアミノ酸配列は、N末端からC末端への順序で残基1-16に免疫グロブリンヒンジ(ヒトIgG1由来)、残基17-126に免疫グロブリンCH2ドメイン(ヒトIgG1由来)、残基127-233に免疫グロブリンCH3ドメイン(ヒトIgG1由来)を有する。配列番号6の代表的なFcフラグメントは、残基38、40、42、219及び220にFcRn結合を向上させる突然変異、残基22及び114にアルギニン突然変異ならびに残基150及び191に‘ノブズイントゥーホールズ’突然変異を有する。通常免疫グロブリン軽鎖と対をなすシステイン残基(6)はセリンに突然変異している。配列番号6において言及されるアミノ酸残基の番号はタンパク質配列の番号であり、EUナンバリング協定を指していない。
【0152】
配列番号7のDNA配列は、ノブズイントゥーホールズ突然変異及びアルギニン突然変異を有する代表的なMOG-Seldeg-PS融合体をコードするポリヌクレオチドのものであり、コードされる融合タンパク質の対応するアミノ酸配列は配列番号8である。
【0153】
特に配列番号8の代表的なMOG-Seldeg-PS融合体のアミノ酸配列は、N末
端からC末端への順序でmMOGの残基1-117、残基118-122に第1のリンカー、残基123-138に免疫グロブリンヒンジ(ヒトIgG1由来)、残基139-248に免疫グロブリンCH2ドメイン(ヒトIgG1由来)、残基249-355に免疫グロブリンCH3ドメイン(ヒトIgG1由来)を有する。配列番号8の代表的なMOG-Seldeg-PSは、残基144及び236にアルギニン突然変異ならびに残基257及び302に‘ノブズイントゥーホールズ’突然変異を有する。免疫グロブリン軽鎖と対をなすシステイン残基(128)はセリンに突然変異している。シナプトタグミンのC2A PS結合ドメインの残基141-266(Syt1)(残基361-486として示されている)がGGGGSリンカーペプチド(残基356-360)を介してCH3ドメインのC末端に融合している。配列番号8において言及されるアミノ酸残基の番号はタンパク質配列の番号であり、EUナンバリング協定を指していない。
【0154】
配列番号9のDNA配列は、例えばMOG-Seldeg-PS(配列番号8)とのヘテロダイマー形成のために構成されるノブズイントゥーホールズ突然変異及びアルギニン突然変異を有する代表的なFc-Syt1融合体(配列番号10)をコードするポリヌクレオチドのものである。
【0155】
特に配列番号10の代表的なFc-Syt1融合体のアミノ酸配列は、N末端からC末端への順序で、残基1-16に免疫グロブリンヒンジ(ヒトIgG1由来)、残基17-126に免疫グロブリンCH2ドメイン(ヒトIgG1由来)、残基126-233に免疫グロブリンCH3ドメイン(ヒトIgG1由来)を有する。配列番号10の代表的なFc-Syt1融合タンパク質は、残基22及び114にアルギニン突然変異ならびに残基150及び191に‘ノブズイントゥーホールズ’突然変異を有する。通常免疫グロブリン軽鎖と対をなすシステイン残基(6)はセリンに突然変異している。シナプトタグミンのC2A PS結合ドメインの残基141-266(Syt1)(残基239-364として示されている)がGGGGSリンカーペプチド(残基234-238)を介してCH3ドメインのC末端に融合している。配列番号10において言及されるアミノ酸残基の番号はタンパク質配列の番号であり、EUナンバリング協定を指していない。
【0156】
配列番号11のDNA配列は、ノブズイントゥーホールズ突然変異、静電ステアリング突然変異及びアルギニン突然変異を有する代表的なMOG-Seldeg-PS融合体(配列番号12)をコードするポリヌクレオチドのものである。
【0157】
特に配列番号12の代表的なMOG-Seldeg-PS融合体のアミノ酸配列は、N末端からC末端への順序でmMOGの残基1-117、残基118-122に第1のリンカー、残基123-138に免疫グロブリンヒンジ(ヒトIgG1由来)、残基139-248に免疫グロブリンCH2ドメイン(ヒトIgG1由来)、残基249-355に免疫グロブリンCH3ドメイン(ヒトIgG1由来)を有する。配列番号12の代表的なMOG-Seldeg-PSは、残基144及び236にアルギニン突然変異、残基300及び317に静電ステアリング突然変異ならびに残基257及び302に‘ノブズイントゥーホールズ’突然変異を有する。免疫グロブリン軽鎖と対をなすシステイン残基(128)はセリンに突然変異している。シナプトタグミンのC2A PS結合ドメインの残基141-266(Syt1)(残基361-486として示されている)がGGGSリンカーペプチド(残基356-360)を介してCH3ドメインのC末端に融合している。配列番号12において言及されるアミノ酸残基の番号はタンパク質配列の番号であり、EUナンバリング協定を指していない。
【0158】
配列番号13のDNA配列は、例えばMOG-Seldeg-PS(配列番号12)とのヘテロダイマー形成のために構成されるノブズイントゥーホールズ突然変異、静電ステアリング突然変異及びアルギニン突然変異を有する代表的なFc-Syt1融合体(配列
番号14)をコードするポリヌクレオチドのものである。
【0159】
特に配列番号14の代表的なFc-Syt1融合タンパク質のアミノ酸配列は、N末端からC末端への順序で、残基1-16に免疫グロブリンヒンジ(ヒトIgG1由来)、残基17-126に免疫グロブリンCH2ドメイン(ヒトIgG1由来)、残基127-233に免疫グロブリンCH3ドメイン(ヒトIgG1由来)を有する。配列番号14の代表的なMOG-Seldeg-PSは、残基22及び114にアルギニン突然変異、残基143及び185に静電ステアリング突然変異ならびに残基150及び191に‘ノブズイントゥーホールズ’突然変異を有する。免疫グロブリン軽鎖と対をなすシステイン残基(6)はセリンに突然変異している。シナプトタグミンのC2A PS結合ドメインの残基141-266(Syt1)(残基239-364として示されている)がGGGGSリンカーペプチド(残基234-238)を介してCH3ドメインのC末端に融合している。配列番号14において言及されるアミノ酸残基の番号はタンパク質配列の番号であり、EUナンバリング協定を指していない。
【0160】
配列番号15のDNA配列は、ノブズイントゥーホールズ突然変異を有するTfR特異的抗体重鎖を含む代表的なMOG-Seldeg-TfR融合タンパク質(配列番号16)をコードするポリヌクレオチドのものである。
【0161】
特に配列番号16の代表的なTfR特異的抗体重鎖-MOG融合体(MOG-Seldeg-TfR)のアミノ酸配列は、N末端からC末端への順序で、残基1-116にTfR特異的VHドメイン、残基117-213に免疫グロブリンCH1ドメイン(ヒトIgG1由来)、残基214-229に免疫グロブリンヒンジ(ヒトIgG1由来)、残基230-339に免疫グロブリンCH2ドメイン(ヒトIgG1由来)、残基340-446に免疫グロブリンCH3ドメイン(ヒトIgG1由来)を有する。配列番号16の代表的なTfR特異的抗体重鎖は残基348及び393に‘ノブズイントゥーホールズ’突然変異を有する。mMOGの残基1-117(残基452-568として示される)がGGGGSリンカーペプチド(残基447-451)を介してCH3ドメインのC末端に融合している。配列番号16において言及されるアミノ酸残基の番号はタンパク質配列の番号であり、EUナンバリング協定を指していない。
【0162】
配列番号17のDNA配列は代表的なTfR特異的抗体重鎖をコードするポリヌクレオチドのものである。ノブズイントゥーホールズ突然変異を有するコードされる融合タンパク質(配列番号18)は、例えばMOG-Seldeg-TfR(配列番号16)とのヘテロダイマー形成のために構成される。
【0163】
特に、TfR特異的抗体重鎖-MOG融合体(配列番号16)とのヘテロダイマー形成のための配列番号18の代表的なTfR特異的抗体重鎖のアミノ酸配列は、N末端からC末端への順序で、残基1-116にTfR特異的VHドメイン、残基117-213に免疫グロブリンCH1ドメイン(ヒトIgG1由来)、残基214-229に免疫グロブリンヒンジ(ヒトIgG1由来)、残基230-339に免疫グロブリンCH2ドメイン(ヒトIgG1由来)、残基340-446に免疫グロブリンCH3ドメイン(ヒトIgG1由来)を有する。配列番号18の代表的なTfR特異的抗体重鎖は残基363及び404に‘ノブズイントゥーホールズ’突然変異を有する。配列番号18において言及されるアミノ酸残基の番号はタンパク質配列の番号であり、EUナンバリング協定を指していない。
【0164】
配列番号19のDNA配列は、代表的なTfR特異的抗体の軽鎖(配列番号20)をコードするポリヌクレオチドのものであり、例えばMOG-Seldeg-TfR融合体(配列番号16)及びTfR特異的抗体重鎖(配列番号18)とのヘテロダイマー形成のた
めに構成される。
【0165】
特に、配列番号20の代表的なTfR特異的抗体軽鎖のアミノ酸配列は、N末端からC末端への順序で、残基1-107にTfR特異的VLドメイン及び残基108-213に免疫グロブリンCLドメイン(ヒトCκ)を有する。配列番号20において言及されるアミノ酸残基の番号はタンパク質配列の番号であり、EUナンバリング協定を指していない。
【0166】
配列番号21のDNA配列は、アルギニン突然変異及びノブズイントゥーホールズ突然変異を有するTfR特異的抗体重鎖を有する代表的なMOG-Seldeg-TfR融合タンパク質(配列番号22)をコードするポリヌクレオチドのものである。
【0167】
特に、配列番号22の代表的なTfR特異的抗体重鎖-MOG融合体(MOG-Seldeg-TfR)のアミノ酸配列は、N末端からC末端への順序で、残基1-116にTfR特異的VHドメイン、残基117-213に免疫グロブリンCH1ドメイン(ヒトIgG1由来)、残基214-229に免疫グロブリンヒンジ(ヒトIgG1由来)、残基230-339に免疫グロブリンCH2ドメイン(ヒトIgG1由来)、残基340-446に免疫グロブリンCH3ドメイン(ヒトIgG1由来)を有する。配列番号22の代表的なTfR特異的抗体重鎖は残基235及び327にアルギニン突然変異ならびに残基348及び393に‘ノブズイントゥーホールズ’突然変異を有する。mMOGの残基1-117(残基452-568として示される)がGGGGSリンカーペプチド(残基447-451)を介してCH3ドメインのC末端に融合している。配列番号22において言及されるアミノ酸残基の番号はタンパク質配列の番号であり、EUナンバリング協定を指していない。
【0168】
配列番号23のDNA配列は、アルギニン突然変異及びノブズイントゥーホールズ突然変異を有し、例えばMOG-Seldeg-TfR融合体(配列番号22)とのヘテロダイマー形成のために構成される代表的なTfR特異的抗体重鎖(配列番号24)をコードするポリヌクレオチドのものである。
【0169】
特に、配列番号24の代表的なTfR特異的抗体重鎖のアミノ酸配列は、N末端からC末端への順序で、残基1-116にTfR特異的VHドメイン、残基117-213に免疫グロブリンCH1ドメイン(ヒトIgG1由来)、残基214-229に免疫グロブリンヒンジ(ヒトIgG1由来)、残基230-339に免疫グロブリンCH2ドメイン(ヒトIgG1由来)、残基340-446に免疫グロブリンCH3ドメイン(ヒトIgG1由来)を有する。配列番号24のTfR特異的抗体重鎖は残基235及び327にアルギニン突然変異ならびに残基363及び404に‘ノブズイントゥーホールズ’突然変異を有する。配列番号24において言及されるアミノ酸残基の番号はタンパク質配列の番号であり、EUナンバリング協定を指していない。
【0170】
配列番号25のDNA配列は、FcRn結合を向上させる突然変異及びノブズイントゥーホールズ突然変異を有する代表的なHER2-Seldeg融合タンパク質(配列番号26)をコードするポリヌクレオチドのものである。
【0171】
特に、配列番号26の代表的な変異体HER2-Seldegのアミノ酸配列は、N末端からC末端への順序で、HER2の残基1-630、631-636に第1のリンカー、残基637-650に免疫グロブリンヒンジ(ヒトIgG1由来)、残基651-760に免疫グロブリンCH2ドメイン(ヒトIgG1由来)、残基761-867に免疫グロブリンCH3ドメイン(ヒトIgG1由来)を有する融合タンパク質を形成する。配列番号26のHER2-Seldegは残基672、674、676、853及び854に
FcRn結合を向上させる突然変異及び残基769及び814に‘ノブズイントゥーホールズ’突然変異を有する。通常免疫グロブリン軽鎖と対をなすシステイン残基(640)はセリンに突然変異している。配列番号26において言及されるアミノ酸残基の番号はタンパク質配列の番号であり、EUナンバリング協定を指していない。
【0172】
配列番号27のDNA配列は、FcRn結合を向上させる突然変異及びノブズイントゥーホールズ突然変異を有し、例えばHER2-Seldeg(配列番号26)とのヘテロダイマー形成のために構成される代表的なFcフラグメント(配列番号28)をコードするポリヌクレオチドのものである。
【0173】
特に、配列番号28の代表的な変異体Fcフラグメントのアミノ酸配列は、N末端からC末端への順序で、残基1-16に免疫グロブリンヒンジ(ヒトIgG1由来)、残基17-126に免疫グロブリンCH2ドメイン(ヒトIgG1由来)、残基127-233に免疫グロブリンCH3ドメイン(ヒトIgG1由来)を有する。配列番号28の変異体Fcフラグメントは残基38、40、42、219及び220にFcRn結合を向上させる突然変異ならびに残基150及び191に‘ノブズイントゥーホールズ’突然変異を有する。通常免疫グロブリン軽鎖と対をなすシステイン残基(6)はセリンに突然変異している。配列番号28において言及されるアミノ酸残基の番号はタンパク質配列の番号であり、EUナンバリング協定を指していない。
【0174】
配列番号29のDNA配列は、FcRn結合を向上させる突然変異、ノブズイントゥーホールズ突然変異及びアルギニン突然変異を有する代表的な前立腺特異的膜抗原(PSMA)-Seldeg融合タンパク質(配列番号30)をコードするポリヌクレオチドのものである。この融合タンパク質は、例えば代表的なFcフラグメント(配列番号6)とヘテロダイマーを形成するであろう。
【0175】
特に、配列番号30の代表的な変異体PSMA-Seldegのアミノ酸配列は、N末端からC末端への順序で、残基1-16に免疫グロブリンヒンジ(ヒトIgG1由来)、残基17-126に免疫グロブリンCH2ドメイン(ヒトIgG1由来)、残基127-233に免疫グロブリンCH3ドメイン(ヒトIgG1由来)を有し、それらが残基234-238におけるリンカーを介してPSMAの細胞外ドメイン(残基239-945)にC末端において融合している融合タンパク質を形成する。配列番号30の変異体PSMA-Seldegは、残基38、40、42、219及び220にFcRn結合を向上させる突然変異、残基22及び114にアルギニン突然変異ならびに残基135及び180に‘ノブズイントゥーホールズ’突然変異を有する。通常免疫グロブリン軽鎖と対をなすシステイン残基(6)はセリンに突然変異している。配列番号30において言及されるアミノ酸残基の番号はタンパク質配列の番号であり、EUナンバリング協定を指していない。
【0176】
配列番号31のDNA配列は、FcRn結合を向上させる突然変異、ノブズイントゥーホールズ突然変異及びアルギニン突然変異を有する代表的なGAD65-Seldeg融合タンパク質(配列番号32)をコードするポリヌクレオチドのものである。この融合タンパク質は、例えば代表的なFcフラグメント(配列番号6)とヘテロダイマーを形成するであろう。
【0177】
特に、配列番号32の代表的な変異体GAD65-Seldegのアミノ酸配列は、N末端からC末端への順序で、ヒトグルタミン酸カルボキシラーゼ65(GAD65)の残基1-585、残基586-590に第1のリンカー、残基591-606に免疫グロブリンヒンジ(ヒトIgG1由来)、残基607-716に免疫グロブリンCH2ドメイン(ヒトIgG1由来)、残基717-823に免疫グロブリンCH3ドメイン(ヒトIg
G1由来)を有する融合タンパク質を形成する。配列番号32の変異体GAD65-Seldegは残基628、630、632、809及び810にFcRn結合を向上させる突然変異、残基612及び704にアルギニン突然変異ならびに残基725及び770に‘ノブズイントゥーホールズ’突然変異を有する。通常免疫グロブリン軽鎖と対をなすシステイン残基(596)はセリンに突然変異している。配列番号32において言及されるアミノ酸残基の番号はタンパク質配列の番号であり、EUナンバリング協定を指していない。
【0178】
配列番号33のDNA配列は、FcRn結合を向上させる突然変異、ノブズイントゥーホールズ突然変異及びアルギニン突然変異を有する代表的なアクアポリン4-Seldeg融合タンパク質(配列番号34)をコードするポリヌクレオチドのものである。この融合タンパク質は、例えば代表的なFcフラグメント(配列番号6)とヘテロダイマーを形成するであろう。
【0179】
特に、配列番号34の代表的な変異体アクアポリン4(AQP4)-Seldegのアミノ酸配列は、N末端からC末端への順序で、ヒトアクアポリン4の残基1-323、残基324-328に第1のリンカー、残基329-344に免疫グロブリンヒンジ(ヒトIgG1由来)、残基345-454に免疫グロブリンCH2ドメイン(ヒトIgG1由来)、残基455-561に免疫グロブリンCH3ドメイン(ヒトIgG1由来)を有する融合タンパク質を形成する。配列番号34の変異体AQP4-Seldegは残基366、368、370、547、548にFcRn結合を向上させる突然変異、残基350及び442にアルギニン突然変異ならびに残基463及び508に‘ノブズイントゥーホールズ’突然変異を有する。通常免疫グロブリン軽鎖と対をなすシステイン残基(334)はセリンに突然変異している。配列番号34において言及されるアミノ酸残基の番号はタンパク質配列の番号であり、EUナンバリング協定を指していない。
【0180】
上記で開示した主題は例であって制限的ではないと考えられるべきであり、添付の特許請求の範囲は本開示の真の精神及び範囲内に含まれる修正、強調及び他の態様のすべてを網羅することを意図している。かくして法が許す最大の程度まで、本開示の範囲は以下の請求項及びそれらの同等事項の許される最も広い解釈により決定されるべきであり、前記の詳細な記述により限定又は制限されるべきではない。
【0181】
本出願及び添付の特許請求の範囲中で用いられる場合、単数形“a”、“an”及び“the”は、内容が明らかに他のように指定していなければ、複数の指示対象を含む。「複数の」(“plurality”)という用語は、内容が明らかに他のように指定していなければ、2つ以上の指示対象を含む。他に断らなければ、本明細書で用いられるすべての技術用語及び科学用語は、本開示が関連する技術分野における通常の熟練者が通常理解すると同じ意味を有する。
図1
図2A-2F】
図2G-2J】
図2K-2N】
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6A-6B】
図7
図8
図9
図10A
図10B
【配列表】
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