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  • 特許-有機化合物における、または関する改善 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】有機化合物における、または関する改善
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/73 20060101AFI20230614BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
A61K8/73
A61Q19/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019548879
(86)(22)【出願日】2018-03-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-02
(86)【国際出願番号】 EP2018055823
(87)【国際公開番号】W WO2018162672
(87)【国際公開日】2018-09-13
【審査請求日】2021-02-10
(31)【優先権主張番号】1703850.6
(32)【優先日】2017-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】501105842
【氏名又は名称】ジボダン エス エー
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】ロブチク,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】ブルナー,ゲルハルト
(72)【発明者】
【氏名】レノー,ロマン
(72)【発明者】
【氏名】スキャンドレラ,アマンディーヌ
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-053501(JP,A)
【文献】特開2008-280430(JP,A)
【文献】特開平10-279418(JP,A)
【文献】特開平10-279419(JP,A)
【文献】特開平10-279426(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106176286(CN,A)
【文献】特開2006-306842(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106109296(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0015209(KR,A)
【文献】特開平09-071602(JP,A)
【文献】特開平10-279425(JP,A)
【文献】特開平10-265332(JP,A)
【文献】特開平10-279421(JP,A)
【文献】特開平10-279422(JP,A)
【文献】特開平10-279424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低分子量アセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩を含むスキンケア組成物であって、低分子量アセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩が、90以上のL値および8未満のb値を有する白色粉末の形状であり、50kDa以下の重量平均分子量および3.6より大きい平均アセチル化度を有することを特徴とする、前記スキンケア組成物。
【請求項2】
低分子量アセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩が、3.7以上の平均アセチル化度を有することを特徴とする、請求項1に記載のスキンケア組成物。
【請求項3】
低分子量アセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩が、35kDa以下の重量平均分子量を有することを特徴とする、請求項1または2に記載のスキンケア組成物。
【請求項4】
低分子量アセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩が、2.0未満である多分散性指数を有することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のスキンケア組成物。
【請求項5】
アセチル化度が、定量的2D NMRにより決定されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のスキンケア組成物。
【請求項6】
(i)50kDa以下の分子量を有する低分子量ヒアルロン酸を選択する;
(ii)それをアセチル化条件に供する、ここでアセチル化条件は、低分子量ヒアルロン酸を強酸存在下、酢酸/無水酢酸混合物と反応させるステップを含む;
(iii)低分子量アセチル化ヒアルロン酸を、追加の揮発性有機溶媒を使用せずに、追加の水を使用する沈殿により単離する;および
(v)溶液を凍結乾燥または噴霧乾燥により脱水する、
のステップを含む、90以上のL値および8未満のb値を有する白色粉末の形状であり、50kDa以下の重量平均分子量および3.6より大きい平均アセチル化度を有する低分子量アセチル化ヒアルロン酸を調製する方法。
【請求項7】
(i)50kDa以下の分子量を有する低分子量ヒアルロン酸を選択する;
(ii)それをアセチル化条件に供する、ここでアセチル化条件は、低分子量ヒアルロン酸を強酸存在下、酢酸/無水酢酸混合物と反応させるステップを含む;
(iii)低分子量アセチル化ヒアルロン酸を、追加の揮発性有機溶媒を使用せずに、追加の水を使用する沈殿により単離する;
(iv)低分子量アセチル化ヒアルロン酸を、ナトリウムイオンソースを提供する塩基と反応させ、アセチルヒアルロン酸ナトリウムの溶液を得る、および
(v)溶液を凍結乾燥または噴霧乾燥により脱水する、
のステップを含む、90以上のL値および8未満のb値を有する白色粉末の形状であり、50kDa以下の重量平均分子量および3.6より大きい平均アセチル化度を有する、低分子量アセチル化ヒアルロン酸のナトリウム塩を調製する方法。
【請求項8】
低分子量アセチル化ヒアルロン酸のアセチルヒアルロン酸ナトリウムへの変換が、9を超えないpHで行われる、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
90以上のL値および8未満のb値を有する白色粉末の形状であることを特徴とする、50kDa以下の重量平均分子量および3.6より大きい平均アセチル化度を有する低分子量アセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩。
【請求項10】
マトリックス分解酵素の高いレベルと関連する肌の細胞外マトリックスの分解を阻害するための、請求項1~5に記載のスキンケア組成物。
【請求項11】
肌の老化の目に見える兆候を低減させるための、請求項10に記載のスキンケア組成物。
【請求項12】
マトリックス分解酵素がメタロプロテイナーゼである、請求項10または請求項11に記載のスキンケア組成物。
【請求項13】
細胞外マトリックス中のコラーゲンの分解を阻害するための、請求項10~12のいずれか一項に記載のスキンケア組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトの肌の老化の目に見える兆候を低減するために有用である活性成分および方法に関する。より具体的には、本発明は、経時的誘導性およびUV誘導性の肌の劣化に関与するあるマトリックス分解酵素を阻害するための、アセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩の使用に関する。本発明はまた、老化の目に見える兆候を低減する際に有用なアセチル化ヒアルロン酸の新規形態、およびそれの調製方法に関する。
【0002】
魅力的に見られるという欲求は、現代の消費者に生まれつき根ざしている。魅力の理想は時間の経過とともに変化するが、我々の肌の状態および見た目(appearance)が、魅力的な外見の見た目(outward appearance)に有意な寄与するものであることは普遍的に受け入れられている。
今日の消費者は、肌のケアのための多数の化粧品が提供される。一般に、これらの生成物は、肌を潤わせるための水、およびそれを再補給するための脂肪および脂質を含有するクリームおよびローションの形態であり、およびその効果は肌の最外層に作用する。
【0003】
ヒアルロン酸の肌柔軟効果は、当技術分野において知られている。しかしながら、化粧品調製物におけるヒアルロン酸の物理的状態は、時間とともに劣化することもまた知られている。アセチル化ヒアルロン酸は、ヒアルロン酸の代替物としてEP 0 725 083で提案され、ここでそれはヒアルロン酸と同じ肌軟化機能を有すると報告されるが、フリーな酸と同じ物理的劣化は呈されていない。しかしながら、EP 0 725 083は、肌の老化の効果またはその根本的な原因の処置におけるアセチル化ヒアルロン酸の使用を示唆または暗示しない。
【0004】
低(EP 0 725 083およびCN 106176286)、および中間の(Saturnino et al. in Biomed Research International, 2014, 921549: “Acetylated hyaluronic acid: enhanced bioavailability and biological studies”;およびOka et al. in Polymer, 41: “Differential scanning calorimetry studies on the mechanism of skin-softening effect of sodium acetylhyaluronate”)分子量の、スキンケアに使用され得る、さまざまな程度のアセチル置換を有する、アセチル化ヒアルロン酸およびアセチルヒアルロン酸塩のいくつかの開示がある。しかしながら、以下に表されるとおり、これらの生成物は、本発明の生成物と比較して重要な欠点を有する。
【0005】
肌の老化の原因を治療し、およびそれによって老化の目に見える兆候を低減させるために有用な効果的な化粧品調製物の提供は、満たされていない必要性が残っている。
肌の構造的枠組みは、その細胞外マトリックスと称される。この内部の枠組みは、コラーゲンやエラスチンなどのメッシュ間ポリマーのネットワークを含み、その内部には肌細胞が含有される。それは、硬さ、強度、しなやかさ、および弾力性を包含する、肌の機械的特性の原因となる。肌の老化の物理的な兆候は、肌のマトリックスの状態の反映物である。より特に、マトリックスがより弱く、規則性がより低いほど、肌は、より多くのしわ、粗さ、およびたるみを有する傾向がある。
【0006】
肌の細胞外マトリックスは貴重な資源であり、健康および若々しい肌で生産および消費される。ヒトの肌の滑らかさ、硬さ、および若々しさは、そのマトリックスの状態に大きい程度で依存し、それは次に、マトリックス合成およびマトリックス破損/リサイクルのバランスに依存する。肌の細胞外マトリックスはコラーゲン(I型コラーゲンが最も一般的である);エラスチン;およびグリコサミノグリカン(GAGs)などの他の構成要素から構成される。マトリックスは真皮の線維芽細胞によって合成され、およびある特定の酵素(マトリックスメタロプロテイナーゼ、すなわちMMP)によるリモデリングに供される。
【0007】
これらの酵素は通常、創傷-治癒に関与するが、経時的およびUV誘導性老化の際に過剰発現し、そして、強力およびコントロールされていないマトリックスの破損を促進し、肌の崩壊およびしわの形成などの、老化の目に見える兆候の原因であることが知られる。基質特異性に応じて、異なるカテゴリーにグループ化される約20のMMPが存在する。それらの中に、コラゲナーゼ、ゼラチナーゼ、ストロメリシン、および膜型MMPが存在する。MMP-1は最もよく知られるコラゲナーゼであり、I型コラーゲンなどの構造コラーゲンの切断に関与する。MMP-3は、IVコラーゲンなどの基底膜コラーゲンの切断に関与するストロメリシンである。
【0008】
マトリックスタンパク質は、長い半減期(エラスチンの場合、70年ほど)を有する大きな構造分子である。その結果、これらの材料は、通常のヒトの寿命にわたり、ほとんど補充または新しくされない。そのため、年齢にともなって加速するマトリックスの進行性の変化および分解があり、肌の足場を破壊および弱体化し、および老化の目に見える兆候を作り出す。
【0009】
肌の老化は、主に紫外線への暴露からなる環境要因と重なる、固有の経時的老化プロセスの結果である。MMPレベルは、通常の経時的老化の過程で過度に上昇し、および環境要因はMMPレベルをなおさらに高めるようにふるまう。MMP酵素のレベルを低減させ、およびマトリックスの分解を軽減および健康なマトリックスを保持するために十分である正常な若々しいレベルまで戻すことは、ヒトの肌の老化の目に見える兆候を低減または排除するために役立つ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
MMPなどのマトリックス分解酵素の高いレベルを若々しいまたは健康な肌に見られるバランスのとれたレベルまで阻害または低減することにより、肌のマトリックスの分解を逆転または低減し得る方法および肌への適用のための化粧品調製物を提供する必要性が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、肌の細胞外マトリックス中のマトリックス分解材料のバランスをコントロールし、コラーゲンなどの必須マトリックスタンパク質の分解の程度を低減するための、および老化の目に見える兆候(経時的および環境的に誘導される)を低減、特に肌のしわの予防または低減、するためのアセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩(アセチルヒアルロン酸ナトリウム)の使用に、および若々しく見える肌の生産および維持に関する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、MMP-1放出の結果を表す。 したがって、本発明は、以下の側面および態様を網羅する: マトリックス分解酵素の高いレベルと関連する肌の細胞外マトリックスの分解を阻害する方法であって、前記方法は、有効量のアセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩を、特に本発明のスキンケア組成物の形態で、肌に適用するステップを含む。
【0013】
肌の老化の目に見える兆候を低減させる方法、より特に、しわを予防または低減する方法である、上記の方法。
マトリックス分解酵素がマトリックスメタロプロテイナーゼ、より特に、酵素MMP-1またはMMP-3である、上記の方法。
【0014】
アセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩が、細胞外マトリックス中のコラーゲンの分解、特にメタロプロテイナーゼによる分解の程度を低減させるためにふるまう、上記の方法。
本明細書に記載の方法における使用のための、高いアセチル化度を有するアセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩の低分子量フラクション。
【0015】
約50kDa以下、より特に約35kDa以下、なおより特に約30kDa以下の重量平均分子量を有する、上記アセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩。
約50kDa以下、より特に約35kDa以下、なおより特に約30kDa以下の重量平均分子量、および2.3未満、より特に2.0未満、より特に1.8未満、より特に1.7未満、より特に1.6以下、より特に1.5未満、より特に1.4未満、およびより特に1.3以下である多分散性指数を有する、上記アセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩。
【0016】
3.6より大きい、より特に3.7以上、より特に3.8以上、より特に3.9以上、およびなおより特に4であるアセチル化度を有する上記アセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩。
【0017】
定量的2D NMRを使用して決定される、3.6より大きい、より特に3.7以上、より特に3.8以上、より特に3.9以上、およびなおより特に4であるアセチル化度を有する上記アセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩。
【0018】
50kDa以下の重量平均分子量および3.6より大きい平均アセチル化度を有する低分子量アセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩を調製する方法であって、
(i)50kDa以下、より特に35kDa以下、またはなおより特に30kDa以下の分子量を有する低分子量ヒアルロン酸を選択する;
(ii)それをアセチル化条件に供する、ここでアセチル化条件は好ましくは、低分子量ヒアルロン酸を強酸存在下、酢酸/無水酢酸混合物と反応させるステップを含む;および
(iii)低分子量アセチル化ヒアルロン酸を、好ましくは追加の水を使用する沈殿により単離する
ステップを含む、前記方法。
【0019】
上記アセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩の有効量を含む化粧品調製物。
低分子量アセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩を含むスキンケア組成物であって、低分子量アセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩が50kDa以下の重量平均分子量および3.6より大きい平均アセチル化度を有することを特徴とする、前記組成物。
【0020】
少なくとも1つの、化粧品として許容可能な賦形剤を含む、化粧品調製物、および特に上記のスキンケア組成物。
本発明のこれらのおよび他の側面は、本発明の特定の態様の以下の詳細な説明の観点から、よりよく理解されるであろう。
【0021】
肌の老化は、経時的老化による、または日光への曝露(光老化)による、またはタバコの煙、寒さ、熱さ、または風の極端な気候条件、化学的汚染物または汚染物質などのその他の環境要因による、年齢にともなって肌に経験される変化を指し、および限定されないが、しわ、細かい線、溝、不規則性または粗さ、毛穴の大きさの増加、弾力性の喪失、硬さの喪失、滑らかさの喪失、変形から回復する能力の喪失、頬のたるみなどの肌のたるみ、目の下の隈の見た目、または二重あごの見た目、などの肌の切れ目の発達など、すべての外部の可視的および/または触れることによる知覚可能な変化、とりわけ、痕(mark)、赤みなどの色、またはシミやそばかすなどの色素沈着過剰領域の見た目、とりわけ異常な分化、過度の角質増殖、弾性線維症、角化症、コラーゲン構造の喪失の変化、および他の角質層、真皮、または表皮の他の組織学的変化を包含する。
【0022】
マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の高いレベルは、肌の老化の鍵となる要因である。MMP-1およびMMP-3などのMMPは、マトリックスの分解、特に真皮に見られる最も重要な型のコラーゲンであるI型コラーゲンの分解に関与することが知られる。経時的な老化プロセスの間に、ならびにUV曝露および他の環境因子への曝露の結果として、MMPの生成が増加し、真皮の分解、肌の崩壊、しわの形成、およびかくして肌の老化の最初の目に見える兆候につながる。
【0023】
驚くべきことに、アセチル化ヒアルロン酸、またはそのナトリウム塩は、MMP、特にMMP-1およびMMP-3のレベルを低減させることができることが見いだされた。出願人は理論に拘束されることを望まないが、MMPより低いレベルは、これらの酵素をコードする遺伝子のダウンレギュレーションの結果であると考えられる。
【0024】
本発明のアセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩の生物学的効果は、肌に存在する3つの主要な細胞型:線維芽細胞、ケラチノサイトおよびメラニン細胞で実施されるある遺伝子発現研究で実証された。アセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩の生物学的影響もまた、インビトロのタンパク質および機能研究によって決定された。我々は、マトリックスの分解を制限することおよび年齢の兆候から肌を保護することに関係する新しい抗老化活動を提示することを見出した。研究は、本明細書において以下の例でより詳しく記載される。
【0025】
対照的に、CN 106176286(Bloomage Freda Biopharm Co.、Ltd.から入手される)に記載されるアセチル化ヒアルロン酸は、任意の遺伝子応答を誘導しないことが見いだされた。
アセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩が、肌に適用されるとき、肌のしわの低減などの肌の老化の目に見える兆候の低減として観察できる生物学的効果を引き出すことができるという発見は、当業者が被験者ヒトの肌に適用するための化粧品調製物を提供することを可能にする。
【0026】
本発明の化粧品調製物、および特にスキンケア組成物は、化粧品として許容される量のアセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩を含有する。
【0027】
化粧品として有効量のアセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩は、無毒であるが、所望の効果を提供するために十分な量のアセチル化ヒアルロン酸またはナトリウム塩であると理解される。化粧品調製物、特にスキンケア組成物の全重量に関して、アセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩は、約0.005~約5.0wt%、より特に約0.05~約0.5wt%の量で存在し得る。
【0028】
本発明の化粧品調製物、および特にスキンケア組成物は、1以上の化粧品として許容される賦形剤を含有してもよい。本発明において、ヒトの肌への使用のための化粧品調製物の調製に一般的に使用される任意の賦形剤が採用され得る。好適な賦形剤は、感覚刺激特性、肌の浸透、およびアセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩の生物学的利用能に影響を及ぼし得る成分を包含するが、これらに限定されない。より具体的には、これらは、水、油、または界面活性剤などの液体を包含し、ピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油、ヒマシ油、ポリソルベート、ソルビタンエステル、エーテル硫酸塩、硫酸塩、ベタイン、グリコシド、マルトシド、脂肪アルコール、ノノキシノール、ポロキサマー、ポリオキシエチレン、ポリエチレングリコール、デキストロース、グリセロール、ジギトニンなどに限定されないが、などの石油、動物、植物または合成起源のものを包含する。
【0029】
化粧品調製物、および特にスキンケア組成物は、リポソーム組成物、混合リポソーム、オレオソーム、ニオソーム、エトソーム、ミリ粒子、マイクロ粒子、ナノ粒子および固体脂質ナノ粒子、ベシクル、ミセル、界面活性剤の混合ミセル、界面活性剤-リン脂質混合ミセル、ミリスフェア、マイクロスフェアおよびナノスフェア、リポスフェア、ミリカプセル、マイクロカプセルおよびナノカプセル、ならびにマイクロエマルジョンおよびナノエマルジョンの形態であってもよく、それを添加して、アセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩のより大きな浸透を達成することができる。
【0030】
化粧品調製物、および特にスキンケア組成物は、肌への局所的適用にまたは経皮の適用により、有用な任意の固体、液体、または半固体の形態で生産されてもよい。かくして、これらの局所または経皮の適用の調製物は、限定されないが、水中の油および/またはシリコーンのエマルジョン、油中水および/またはシリコーンのエマルジョン、水/油/水または水/シリコーン/水型のエマルジョン、および油/水/油またはシリコーン/水/シリコーン型のエマルジョン、マイクロエマルジョン、エマルジョンおよび/または溶液、液晶、無水組成物、水性分散液、油、牛乳、バルサム、泡、水性または油性ローション、水性または油性ゲル、クリーム、水性アルコール溶液、水性グリコール溶液、ヒドロゲル、リニメント、血清(sera)、石鹸、フェイスマスク、血清(serums)、多糖類フィルム、軟膏、ムース、ポマード、ペースト、粉末、バー、ペンシル、スプレー、またはエアロゾル(スプレー)などのクリーム、複数のエマルジョンなどに限定されないが、包含し、リーブオンおよびリンスオフ配合物を包含する。
【0031】
アセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩が生物学的効果を引き出すという発見は、未修飾のヒアルロン酸または塩を使用して効果を再現することができなかったことを考慮すると特に驚くべきであり、活性がフリーな酸の形態または塩のアセチル化に関わりがあることを支持する。
【0032】
本発明における使用のためのアセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩の特に好ましい形態は、それらが極めて高いアセチル化度を有することにおいて特徴づけられる。より特に、アセチル化ヒアルロン酸の好ましい形態は、3.6より大きい、より特に3.7以上、より特に3.8以上、より特に3.9以上、およびなおより特に4である平均アセチル化度によって特徴づけられる。
【0033】
ヒアルロン酸は、N-アセチルグルコサミンおよびグルクロン酸を含有する繰り返し単位からなる多糖類である。それは、フリーな酸またはナトリウム塩の形態で存在し得る。そのアセチル化された形態において、用語「アセチル化度」は、アセチル化されたポリマー繰り返し単位上のヒドロキシル基の数の尺度として理解される。本来の(native)ヒアルロン酸/塩ポリマーの各繰り返し単位は、アセチル化され得る4つのヒドロキシル基を含有し、およびアセチル化度は、これらの基のいくつがアセチル基で置換されているかの尺度である。
【0034】
アセチル化度を測定することは、従来の分析技術を使用すると特に困難である。例えば、我々は、測定を必要とされるプロトンの化学シフトの一致のため、従来の1次元NMRは非効果的であることを見出した。
【0035】
しかしながら、出願人は、ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩のグルコサミン部位のN-アセチル基が、アセチル化プロセスで導入されたアセチル官能性を定量化するための内部標準として使用される、2次元NMRを使用する分析方法を解明した。
【0036】
これら2つの型のシグナル(O-アセチル基およびN-アセチル)を統合するために、出願人は2D-NMR法を考案した。より特に、2D-NMR方法はヘテロ核方法(ヘテロ核単一量子コヒーレンス(HSQC)分析)であり、1次元でプロトン信号を測定し、および2次元で炭素核からの信号を測定する。
【0037】
2D-NMR技術を採用することにより、出願人は、O-アセチル基に関連するシグナルからN-アセチルシグナルを明確に分解し(resolve)、これらの基の体積積分を可能にし、およびかくしてアセチル化度の定量的決定を可能にすることを見出した。好適なHSQC実験の基本的なスキームは、以下の段落で記載される:
【0038】
アセチル化度の分析は、勾配強化H-13C HSQC方法(gradient enhanced 1H-13C HSQC method)によってされ、言及のアセチル基の体積積分を定量的なやり方で可能にする。
【0039】
H-13Cカップリング定数は、分子内の原子の接続性についての情報を提供し、およびNMR分光法において、それはスペクトルにおける多くのシグナルの見た目を担う。HSQC実験におけるクロスピークの積分体積は、H-13Cカップリング定数C,Hによって変調される。しかしながら、異なるカップリング定数から生じるクロスピークは、通常、定量的な統合をすることができない。しかしながら、出願人は、現在の(current)分析方法の場合、C,H(N-アセチル)がC,H(O-アセチル)に実質的に等しく、定量分析を可能にすることを有利に見出した。
【0040】
標準的な1D-NMR定量化におけるとおり、N-アセチルおよびO-アセチルの両方のプロトンが定量条件にとどまるために、あるスキャンから別のものに緩和時間を確保するために、十分な緩和遅延が提供されてもよい。さらに、シーケンス中に対象のN-アセチル種とO-アセチル種との間で差別化されたT緩和を抑えるために、HSQCのINEPT (Insensitive Nuclei Enhanced by Polarization Transfer)移動内の(4XJC,H-1によって与えられる2つの遅延は、可能な限り短く、例として約1.5ミリ秒で行われた。
【0041】
2D-NMR測定は、技術分野において利用可能な任意の高磁場機器で行われ得る。好適な機器の例は、Cryoprobeプローブヘッド、より特にBruker Avance III 600 MHz、MicroCryoprode TCI 1.7 mmを備える高磁場NMR機器である。
【0042】
分析のためのサンプルは、50ml DO 99.96%Dに溶解した1.2mgのアセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩として調製されてもよい。サンプル溶液は、測定のためにNMRチューブ(1.7mm、Bruker)に移されることができる。典型的な測定パラメータは:T=60℃;スキャン数=4;ダミースキャン=32;回復遅延(recovery delay)=10s;取得時間(acquisition time)=177ms;スペクトル幅(H)=6.0ppm;スペクトル幅(13C)=110ppm;Hパルスオフセット=3.5ppm;13Cパルスオフセット=60ppm;時間領域(time domain)(H)=1272;時間領域(13C)=256を包含する。データの取得および処理用のソフトウェアは、クロスピーク積分(cross-peak integration)を包含し、TopSpin 3.0(Bruker)である。
【0043】
特に、この2D-NMR技術は、本発明のアセチル化ヒアルロン酸またはナトリウム塩を、EP 0 725 083に記載され、および資生堂により販売される生成物と区別することを可能にした:資生堂のアセチルヒアルロン酸塩はわずか3.6の平均アセチル化度を有していた。これは、資生堂の生成物は、以下の例5に表されるであろうとおり、抗老化活性に関して本発明の生成物よりも劣っていることもまた証明されるため、重要である。
【0044】
本発明の方法および化粧品調製物、特にスキンケア組成物で使用されるアセチル化ヒアルロン酸またはナトリウム塩は、低分子量アセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩である。用語「低分子量」は、50kDa以下、より特に35kDa以下、より特に約30kDa以下、より特に25kDa以下、より特に20kDa以下、より特に15kDa以下、なおより特に約10kDa~15kDa、例えば13kDa+/-1kDaである重量平均分子量(Mw)を有する高分子材料を指す。
【0045】
アセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩ポリマーフラクションの分子量は、非常に狭く分散されるべきである。好ましくは、アセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩は、2.0未満、より特に1.8未満、より特に1.7未満、より特に1.6以下、より特に1.5未満、なおより特に約1.4以下である多分散性指数(Mw/Mn)を有する。
【0046】
比較のために、EP 0 725 083(資生堂から得られる)およびCN 106176286(フレダから得られる)に記載される生成物は、光散乱検出を使用して、SEC-HPLC(サイズ排除クロマトグラフィーおよび高速液体クロマトグラフィー)により分析された。
【0047】
【表1】
【0048】
アセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩の固有粘度は、好ましくは0.3dl/g(30cm/g)未満、およびより特に0.245dl/g(24.5cm/g)+/-0.01dl/g(1cm/g)である。
前述の物理的パラメータは、HPLCサイズ排除クロマトグラフィーで測定され得る。好適な機器は、トリプル検出パラメータ(Viscotek TDA 305);屈折計、毛細管粘度計、および光散乱を備えるViscotek GPC max VE2001である。
【0049】
光散乱測定は、レーザービームが分散した微粒子サンプルを通過するときに散乱する光の強度の角度変化を測定することにより、粒子サイズ分布を特徴付ける。大きな粒子はレーザービームに対して比較的小さな角度で光を散乱し、および小さな粒子は比較的大きな角度で光を散乱する。次いで、角度散乱強度データが分析され、Mieの光散乱理論を使用して、散乱パターンの作成を担う粒子のサイズを計算する。粒子サイズは、球相当直径の体積として報告される。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)は、多孔性ゲルで満たされたカラムからの溶出に基づいて、溶解した高分子をサイズにより分離する分析技術である。SECを光散乱、粘度計、および濃度検出器(トリプル検出)と組み合わせるとき、分子量、分子サイズ、および固有粘度を測定できる。
【0050】
典型的な測定プロトコルにおいて、アセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩(0.2g)は、45℃で1時間撹拌することによりTBSバッファー(100ml)に溶解され、その後、ポリマーを完全に水和させながら、その溶液を室温でさらに2時間保存する。溶液は、0.2μmのナイロン製シリンジフィルターでろ過される。次いで、溶液はHPLC SEC LALS(100μl)に注入される。分析は、35℃でpH7のTBSバッファーを使用して0.35ml/minで実施される。典型的なランタイム(run time)は90分であり、および典型的な注入量は100μlである。
【0051】
低分子量アセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩は、本発明の方法および化粧品調製物、特にスキンケア組成物における使用のための好ましい材料である。低分子量材料の使用は、より高い分子量フラクションと比較して優れた肌浸透特性のために有利であると考えられる。
【0052】
ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩は、技術分野で知られる技術に従ってアセチル化され得る。
好適な方法において、ヒアルロン酸は、無水酢酸と酢酸との混合物に溶解される。その後、硫酸などの強酸が溶液に添加され、アセチル化をもたらす。かかる方法は、EP 0 725 083 B1に記載される。
【0053】
本発明の態様において、酢酸と無水酢酸との混合比(wt/wt)は、1:4~1:1の範囲内で変動し得る。強酸とヒアルロン酸との混合比(wt/wt)は1:5~1:1である。
【0054】
出願人は、アセチル化反応が、出発材料として低分子量ヒアルロン酸を使用して行われる場合、特に高いアセチル化度が達成され得ることを驚くべきやり方で発見した。理論に束縛されることを望まないが、低分子量ヒアルロン酸は、低分子量出発材料ではより立体障害が少なく、したがってより容易にアセチル化されるため、高分子量出発材料よりも容易および広範囲にアセチル化されると考えられている。この理由で、本発明のアセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩は、低分子量のヒアルロン酸またはナトリウム塩を出発基質として調製されることが好ましい。
【0055】
したがって、本発明の別の側面において、ヒアルロン酸をアセチル化する方法が提供され、ここで、ヒアルロン酸出発材料は、約50kDa以下、より特に約35kDa以下、およびなおより特に30kDa以下の重量平均分子量をもつ低分子量フラクションである。
【0056】
上記の低分子量を有するヒアルロン酸基質を採用することにより、50kDa以下、より特に35kDa以下、より特に約30kDa以下、より特に25kDa以下、より特に20kDa以下、より特に15kDa以下、およびなおより特に約10kDa~15kDa、例えば13kDa+/-1kDaの重量平均分子量(Mw)を有する高度アセチル化ヒアルロン酸、またはそのナトリウム塩を調製することが可能である。アセチル化ヒアルロン酸およびアセチルヒアルロン酸ナトリウムのこれらの低分子量形態は、本発明のさらなる側面を形成する。
【0057】
約50kDa以下、より特に約35kDa以下、およびなおより特に約30kDa以下の重量平均分子量を有する低分子量ヒアルロン酸を選択する、およびそれをアセチル化条件下、例えば本明細書に記載の条件で反応させるステップを含む、低分子量アセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩を調製する方法は、本発明のまた別の側面を形成する。
【0058】
上記の合成手順により、所望のアセチル化ヒアルロン酸を含有する粗反応混合物が得られ、それからアセチル化ヒアルロン酸が好ましくは単離および精製される。
したがって、本発明は、その別の側面において、溶液中に低分子量アセチル化ヒアルロン酸を含有する粗反応混合物から低分子量アセチル化ヒアルロン酸を単離する方法を提供する。
【0059】
本発明の特定の態様において、低分子量アセチル化ヒアルロン酸を単離する方法は、追加の水を使用し、溶液からそれを沈殿させるステップを含む。
アセチル化ヒアルロン酸の特徴的な低分子量は、追加の揮発性有機溶媒ではなく、追加の水を使用する沈殿ステップを行うことを可能にする。これは、アセトンなどの追加の揮発性有機溶媒を採用し粗反応混合物からアセチル化ヒアルロン酸のナトリウム塩を沈殿させる従来技術のプロセスとは対照的である。
【0060】
後処理中にすべての有機溶媒を除去することの困難さを考えると、先行技術のプロセスにより形成されたヒアルロン酸のナトリウム塩は、所望でないかもしれない揮発性溶媒の残留物を含有し得る。本発明の有意な利点は、アセトンなどの揮発性有機溶媒フリーで低分子量のアセチル化ヒアルロン酸が得られ得ることである。
揮発性有機溶媒の残留物フリーの低分子量アセチル化ヒアルロン酸は、本発明の別の側面を形成する。
【0061】
さらにまた、揮発性有機溶媒フリーの低分子量アセチル化ヒアルロン酸は、本明細書の以下に記載される方法に従い、そのナトリウム塩へさらに変換されてもよく、および揮発性有機溶媒フリーの低分子量アセチル化ヒアルロン酸のナトリウム塩は、本発明のさらなる側面を形成する。
【0062】
沈殿ステップの前に、反応混合物から、消費されていない酢酸および無水酢酸を少なくとも部分的に除去することが所望であってよい。酢酸は低分子量アセチル化ヒアルロン酸の溶媒であり、およびその部分的な除去は、無水酢酸を伴い、比較的小さい体積の追加の水で沈殿ステップを行うことを可能とすることにより、低分子量アセチル化ヒアルロン酸の沈殿を促進する。
【0063】
酢酸/無水酢酸混合物は蒸留により除去されてもよく、粗反応混合物を、主に所望の低分子量アセチル化ヒアルロン酸からなる粘性ペーストの形態のままにする。次いでこの粗混合物に、効果的な沈殿のため、水が添加される。蒸留された酢酸/無水酢酸混合物は回収およびリサイクルされてもよい。
【0064】
本発明の好ましい態様において、追加の水の量は、所望のアセチル化ヒアルロン酸を含有する粗反応混合物の1部あたり1~5重量当量、より特に2~4重量当量である。反応混合物に水が添加されると、任意の残渣の無水酢酸が加水分解される。強く発熱する加水分解は、好ましくは反応マスの温度が40℃を超えないやり方で実施される。
【0065】
酢酸/無水酢酸の除去は蒸留により行われてもよい。蒸留ステップの前に、所望でない変色の発散につながり得る、還流条件下でアセチル化ヒアルロン酸を強酸と接触させることを避けるために、反応混合物中の任意の強酸を中和することが所望であり得る。したがって、沈殿前の粗反応混合物のpHの調整は、本発明による単離および精製プロセスにおける好ましいプロセスステップである。
【0066】
したがって、本発明の別の側面において、溶液中に低分子量アセチル化ヒアルロン酸を含有する反応混合物から低分子量アセチル化ヒアルロン酸を単離する方法が提供され、前記方法は、pH5~8の溶液から、追加の水を使用して、低分子量アセチル化ヒアルロン酸を沈殿させるステップを含む。
【0067】
本発明の特別な態様において、溶液中に低分子量アセチル化ヒアルロン酸を含有する反応混合物から低分子量アセチル化ヒアルロン酸を単離する方法が提供され、前記方法は、反応混合物のpHを5~8の範囲に調整し、および追加の水を使用して、この溶液から低分子量のアセチル化ヒアルロン酸を沈殿させるステップを含む。
【0068】
本発明の目的のために、pH調整は、好適な緩衝剤、例えばかかる目的で知られるリン酸塩、酢酸塩およびクエン酸塩を使用して行われてもよく、およびより特に、緩衝は、有効量の酢酸ナトリウムの添加により行われる。
沈殿したアセチル化ヒアルロン酸は、反応混合物の他の構成要素から、かかる目的で知られる任意の細かいメッシュ繊維フィルターなどの好適なフィルターでのろ過によって分離および単離されてもよい。
【0069】
沈殿した低分子量アセチル化ヒアルロン酸は、沈殿後に追加の後処理手順に供されてもよい。例えば、それは沈殿した材料を乾燥させる前に、低分子量のアセチル化ヒアルロン酸を、黄色がかった色相を全くまたは実質的に全く持たない、明るい白い自由流動性の粉末の形態で与えるために、任意の痕跡の水溶性不純物を除去するために水で洗浄されてもよい。
低分子量アセチル化ヒアルロン酸は、本発明の方法および化粧品調製物、特にスキンケア組成物において、この形態で使用され得る。
【0070】
この段階で、アセチル化ヒアルロン酸を、例えば活性炭を使用して、任意の不要な黄色の着色を除去する漂白または研磨ステップなどの、さらなる後処理手順に供することが所望であってもよい。その後、精製されたアセチル化ヒアルロン酸は、任意に真空下で乾燥され、アセチル化ヒアルロン酸を本発明の方法および化粧品調製物において使用するために好適な形態で、さらなる修飾なしに提供されてもよい。
【0071】
代替として、低分子量アセチル化ヒアルロン酸をそのナトリウム塩に変換することが所望であってよい。
本発明のアセチル化ヒアルロン酸は、中和ステップによりその対応するナトリウム塩に変換されてもよい。
【0072】
中和は、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウムまたは任意の他の好適なナトリウムイオン含有塩基などの水溶性のナトリウムイオンソースを、水溶液または低分子量アセチル化ヒアルロン酸の懸濁液に添加することによって行われてもよい。
中和ステップは0~30℃の温度で行われてもよく、および反応時間は0.5~12時間の範囲で変化してもよい。
【0073】
中和中、塩基例えば水酸化ナトリウムを、低分子量アセチル化ヒアルロン酸の溶液または懸濁液に、相当な濃度の塩基が蓄積せずおよびpHが約9、より特に約8、より特に約7.5、より特に約7、およびなおより特に約6.5を超えないように、ゆっくりと添加されることが所望である。このやり方においては、所望でない副生成物は作成されず、および所望でない変色の発散が避けられる。
【0074】
中和反応の過程は、反応混合物のpHを追跡することで都合よく追跡されてもよく、およびpHが6.5+/-0.5に達するとき、対応する低分子量アセチルヒアルロン酸ナトリウムの中和溶液が得られる。
【0075】
本発明の別の側面を形成する低分子量アセチルヒアルロン酸ナトリウム溶液は、この形態で、本発明の方法および化粧品調製物、特にスキンケア組成物において、さらなる修飾なしに使用されてもよい。しかしながら、アセチルヒアルロン酸ナトリウム溶液を前記組成物および方法の原料として使用されることが所望である場合、技術分野において周知の好適な抗菌剤を溶液に組み込むことが所望である。
【0076】
代替として、低分子量アセチルヒアルロン酸ナトリウムは、さらにプロセス化され、固体形態、より特に粉末形態にされてもよい。
アセチルヒアルロン酸ナトリウムをその固体形態で単離するための先行技術の方法は、純粋なアセトンを使用し、含水アセトン(aqueous acetone)溶液からそれを沈殿させるステップを含む。しかしながら、このやり方でそれを単離および精製することは、最終生成物に揮発性有機溶媒の残留物を残し得、およびこれらの溶媒は、化粧品産業における使用を意図される原料に典型的に要求されてもよい、生成物の仕様およびその他の品質特性を遵守するために、一般に可能な限り避けられる(または適宜除去される)べきである。
【0077】
なおさらに、それは、水、揮発性有機溶媒、およびそれらの混合物における低分子量アセチルヒアルロン酸ナトリウムの高い溶解性のため、沈殿により固体形態で提供されることはできない。
【0078】
したがって、本発明の別の側面は、明るい白い自由流動性、および取り扱い容易な揮発性有機溶媒フリー低分子量アセチルヒアルロン酸ナトリウムを、固体形態、および好ましくは粉末形態における生産のための方法を提供する目的に基づく。
【0079】
出願人はこれらの目的を達成し、および方法が低分子量アセチルヒアルロン酸ナトリウム溶液を脱水するステップを含む、低分子量アセチルヒアルロン酸ナトリウムの水溶液を粉末形態に変換する方法を提供する。脱水ステップは、凍結乾燥などの知られる技術によって行われてもよい。しかしながら、脱水ステップは、より好ましくは、噴霧乾燥によって行われる。
【0080】
したがって、本発明は、別の側面において、アセチルヒアルロン酸ナトリウム、および特に本明細書に記載のプロセスにより形成されたアセチルヒアルロン酸ナトリウムを含む液体水性媒体および特に溶液を脱水する方法を提供する。
本発明のある態様において、上に記載の方法が提供され、前記方法は、アセチルヒアルロン酸ナトリウムの粒子を形成するために、液体水性媒体の蒸発を引き起こす条件下で維持される乾燥チャンバーに、液滴として液体水性媒体を噴霧するステップを含む。
【0081】
より特定の態様において、噴霧乾燥チャンバーの入口温度は約150℃であり、および噴霧乾燥チャンバーの出口温度は約70℃以下である。
なおより特定の態様において、乾燥チャンバーの出口温度が約40~50℃に低減されるように、空気が乾燥チャンバーに送り込まれる。
【0082】
噴霧乾燥されたアセチルヒアルロン酸ナトリウムは、本発明の別の側面を形成し、高い嵩密度、形状および流動性などの所望の特性を呈し、生成物を輸送および使用を取り扱い容易にさせる。低密度および埃っぽい生成物の回避が、噴霧乾燥されたアセチルヒアルロン酸ナトリウムの特別な利点である。
【0083】
噴霧乾燥されたアセチルヒアルロン酸ナトリウムは、十分な白色度および透明度を有して形成され、化粧品用途、および特にスキンケア組成物を意図する生成物における使用に卓越して好適である。
上記のプロセスにより形成された噴霧乾燥された生成物は、本発明のなお別の側面を形成する。
【0084】
低分子量アセチル化ヒアルロン酸および低分子量アセチルヒアルロン酸ナトリウムの両方は、化粧品調製物、および特にスキンケア組成物に容易に組み込まれる。それらの極めて低い分子量および糸状でも塊状でもない粉末状の物理的形態のため、水性媒体に容易に溶解または懸濁され、および化粧品ベースに混合され得る。
【0085】
さらにまた、高度に着色された成分は化粧品調製物の製造業者の原料として受け入れられ得ない、低分子量アセチル化ヒアルロン酸および低分子量アセチルヒアルロン酸ナトリウムの両方が、黄色がかった色相を全くまたは実質的に全く持たない白色粉末として、および化粧品調製物に採用される材料の量と無関係に、組み込まれるかもしれない任意の化粧品調製物の色調を変更も損ないもせずに調製され得ることは、高度に有利である。
【0086】
アセチル化ヒアルロン酸またはそのナトリウム塩の後処理を終了するとき、粘土または活性炭の形態などの好適な漂白剤を使用し、わずかな変色が除去される漂白または研磨ステップを採用することができる。しかしながら、これら生成物が合成プロセスの結果として既に高度に変色している場合、かかるステップはかかる生成物を脱色するためには特に効果的ではない。
【0087】
本発明の特徴は、本明細書に記載される調製および単離方法が、漂白または研磨ステップが万一行われるならば生成物を効果的に脱色できる、十分な明るさおよび透明度の白色粉末の形態の生成物として、低分子量アセチル化ヒアルロン酸および低分子量アセチルヒアルロン酸ナトリウムを提供することである。
【0088】
より特に、本明細書に記載される調製および単離方法は、それぞれが90以上のL値;および8以下のb値、ここでLおよびb値はCIELABシステムの色度座標を表す、を有する低分子量アセチル化ヒアルロン酸および低分子量アセチルヒアルロン酸ナトリウムを、白色粉末の形態である生成物として提供する。
【0089】
粉末の明度および色相は、技術分野で知られる比色方法により、CIELAB色度座標Lによって特徴付けられてもよい。L値は物質の明度を特定する値であり、および0と100との間の値で示される。100のL値は最も明るい状態(完全に白)を示し、および0のL値は最も暗い状態を示す(完全に黒)。b値は、物質の青-黄色の色相を特定する。b値が大きいほど、黄色さの度合いが高くなる。b値が小さいほど、青さの度合いが高くなる。
【0090】
値およびb値は、Minolta CM3500dなどの任意の市販の好適な分光光度計を使用して測定できる。分光光度計は、測定をする少なくとも1時間前に電源を入れる必要がある。そのために提供されるガラス容器は、容器の底が生成物で完全に覆われることを確保することに注意し、測定される固体生成物で半分満たされる必要がある。その後、満たされた容器は、そのために提供されるサンプルスタンドに置かれる必要がある。機器のサンプルキーが押される必要があり、およびLおよびbの値が表示パネルから読み取られる。任意の読み取りをする前に、機器光学センサーの窓に黒および白の物体を置くことにより、機器はゼロおよび100%反射補正をされる必要がある。
今から、本発明をさらに例示するために役立つ一連の例が続く。
【0091】
例1:アセチルヒアルロン酸ナトリウムを製造するための方法
【化1】
【0092】
5Lの反応器に窒素を流し、およびヒアルロン酸(Soliance製造のRenovhyal(商標)、分子量10~50kDa;300g、0.7mol)を充填した。商用グレードの無水酢酸(2160g、21.2mol)および酢酸(525g、8.7mol)を添加し、および懸濁物の温度を25°Cに設定した。硫酸96%(194g、1.9mol)を10分の期間にわたり添加した。内部コントロールにより温度を25℃に維持した。撹拌を15時間続けた。内部コントロールをオフにし、および撹拌しながら酢酸ナトリウム(154g、1.9mol)を添加した。温度は35℃に上昇し、撹拌を30分間続けた。反応器を40mbarまで排気し、およびジャケット温度を50℃に設定した。5時間にわたり、無水酢酸と酢酸との混合物を蒸留により除去した(1343g)。残りのわずかにペーストであるがまだ撹拌可能な反応器の内容物を室温まで冷却し、および水(5500ml)を添加し(最初は極めて慎重に)、混合物の温度を全ての時間で50℃未満に維持した。徐々に細かい白い懸濁物が形成した。固体を濾過により単離し、および水(10l)で洗浄した。次いで、固体を水(700ml)に再懸濁させ、および1M NaOH(600ml)の添加により、混合物を中和(pH6.5)し、アセチルヒアルロン酸ナトリウム(1520g、c=0.11g/g)の溶液を与えた。溶液は噴霧乾燥に委ねられ、アセチルヒアルロン酸ナトリウム(175g、0.3mol、44%収率)を細かい自由流動性の粉末として与えた。HSQC-NMR実験による分析は、3.9のアセチル化度を示した。
【0093】
例2:噴霧乾燥技術によりアセチルヒアルロン酸ナトリウムを単離するための方法
11%アセチルヒアルロン酸ナトリウム水溶液の噴霧乾燥は、以下のパラメータを使用して、ロータリーアトマイザーを備えるGEA VERSATILE-SD(商標)6.3噴霧乾燥機を使用して行われた;
-フィード温度:15°C
-入口温度:150°C
-出口温度:70°C
-フィード速度:20kg/h
-ファン速度:400kg air/h
-ホイール速度:12000rpm
アセチルヒアルロン酸ナトリウムの白い自由流動性の粉末が得られた。
【0094】
例3:細胞毒性
線維芽細胞およびメラニン細胞に対するアセチルヒアルロン酸ナトリウムの予備的な細胞毒性評価を、MTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロマイド)アッセイ試験によって実施した。簡単には、細胞を96ウェル培養プレートに播種し、それぞれ10、5、1、0.5、0.1、0.05、0.01、および0.005mg/mlの異なる濃度で、アセチルヒアルロン酸ナトリウムで24hおよび48h処理した。細胞毒性は、MTT溶液(リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で1/6に希釈された5mg/ml)によって評価された。プレートを37℃で4時間、光から保護してインキュベートした。不溶性の紫色のホルマザン生成物を50μlのDMSOに溶解し、およびマイクロプレートリーダー(TECAN)で光学密度を560nmで読み取った。
【0095】
【表2】
表1:線維芽細胞およびメラニン細胞に対するMTT試験により実施された細胞毒性評価
【0096】
細胞毒性の観点から線維芽細胞に対するアセチルヒアルロン酸ナトリウムの影響に関しては、10および5mg/mlの濃度でのみ細胞毒性を誘導した。これらの用量より下では、効果は観察されなかった。
メラニン細胞への影響に関しては、濃度10mg/mlのアセチルヒアルロン酸ナトリウムのみが細胞毒性効果を表した。この用量より下では、メラニン細胞に影響はなかった(表1)。
各細胞型に毒性効果を誘導せずに使用できる最適濃度は、線維芽細胞では0.1mg/ml、およびメラニン細胞では0.5mg/mlと決定された。これらの濃度は、生物学的検討中に使用された。
【0097】
例4:トランスクリプトーム評価
アセチルヒアルロン酸ナトリウムの潜在的な生物活性を同定するために、メラニン細胞および線維芽細胞を包含する、肌に存在する2つの細胞型についてトランスクリプトームのインビトロ分析を実施した。2つのトランスクリプトームプレートに分布された128の遺伝子で研究された。最初のプレートは、細胞外マトリックス、マトリックスのリモデリング、酸化防御、ストレス応答、創傷治癒、および他の生物学的機能に関与する多くの遺伝子を持つ真皮機能に特異的であった。2番目のプレートは、メラニン合成、メラノソームの形成および成熟、およびメラニン細胞に関連する他の機能に関与する最も重要な遺伝子を持つ肌の色素沈着機能に特異的であった。
【0098】
トランスクリプトーム分析は、Rt-qPCR(リアルタイム定量化重合連鎖反応)により、各細胞型のTaqManアッセイを3回繰り返し使用して実施した。線維芽細胞は0.1mg/ml、およびメラニン細胞は0.5mg/mlで簡単に24時間の細胞刺激の後、Trizol方法で全RNAを抽出した。全RNAを分光計で定量し、および濃度を400ng/μlに調整した。RNAの質を、アガロースゲル上での移動により検証した。提供者の推奨に従って、cDNA Versoキットを使用して、トータルRNAをcDNAに逆転写した。逆転写は、ハウスキーピング遺伝子:RPL32遺伝子を標的とする古典的なPCRによって検証した。次いで、cDNAを使用してRT-qPCRを実施し、TaqManアッセイを使用してウェルあたり10ngのcDNAを沈着させた。
【0099】
得られた結果を以下の表2に表す。未治療の状態と比較して1.3倍(陽性または陰性)以上の誘導は、生物学的修飾の指標と考慮される。
【表3】
表2:線維芽細胞(真皮)およびメラニン細胞(色素沈着)のアセチルヒアルロン酸ナトリウムによって有意に変調される遺伝子(p<0.05
【0100】
例5:アセチルヒアルロン酸ナトリウムの線維芽細胞(真皮)への影響
真皮に関する結果に関して、MMP-1およびMMP-3は、真皮に存在する最も重要なコラーゲンであるI型コラーゲンなど、マトリックス分解に関与する2つのマトリックスメタロプロテイナーゼである。
老化中、MMPの生成物が増加し、皮内のマトリックスの分解を引き起こし、肌崩壊およびしわ形成を促進する。それらは、肌の老化の最初の目に見える兆候を表す。
【0101】
この現象は、UV暴露などの外部要因によって加速され得る。実際、UVはMMP放出の有意な増加の原因となる肌に酸化ストレスを誘導し、そして重度のマトリックス分解による肌の早期老化を促進する。
トランスクリプトームの結果は、アセチルヒアルロン酸ナトリウムがMMP-1およびMMP-3のダウンレギュレーションによってこの効果を制限し得ることを示唆する(表2)。
【0102】
線維芽細胞の酸化ストレス(H100μM-200 μMで2時間)によりMMP-1およびMMP-3を過剰発現できる特定のインビトロ老化モデルが開発された。簡単には、酸化ストレスを誘導する前に、線維芽細胞を基底培地中のアセチルヒアルロン酸ナトリウム(0.1mg/ml)で2時間前処理した。酸化ストレス後、線維芽細胞を37℃の基底培地で48時間インキュベートし、MMPを培地に蓄積させた。次いで、上清から放出されたMMP-1およびMMP-3の量を、Luminex技術を使用したマルチプレックス法(ビーズ上のELISAの原理)により推定した。
【0103】
MMP-1放出:
【表4】
表3:アセチルヒアルロン酸ナトリウムの、線維芽細胞(任意単位で表現される)のインビトロ酸化ストレスにより誘導されるMMP-1放出への影響。=p<0.05;ns=有意ではない。括弧内に示されているパーセンテージ値は、存在する非活性に対するアセチルヒアルロン酸ナトリウムまたはヒアルロン酸ナトリウムによって誘導される阻害の量を反映する。
【0104】
アセチルヒアルロン酸ナトリウムは、タンパク質レベルで酸化ストレスによって媒介されるMMP-1分泌を有意に減少させることが実証された。逆に、ヒアルロン酸ナトリウムはこの効果を再現できず、観察された効果がアセチル化修飾によるものであることを確認した(表3)。
【0105】
MMP-1放出の比較研究:
比較のために、(a)本発明の生成物、(b)モノアセタートヒアルロナート、および(c)EP 0 725 083によるアセチル化ヒアルロナート(資生堂から;平均アセチル化度約3.6;MW MMP-1の約100kDa)の効果を次の手順により検討した:
【0106】
白人女性(26歳)の腹部生検からの線維芽細胞を、1mlの完全培地(ZenBio、参照DF-1)に200000細胞/ウェルで12ウェルプレートに播種した。プレーティングの24時間後、完全培地を血清なしの基底培地(Zen-Bio、参照DF-2)に置き換えた。基底培地で24時間培養した後、細胞を0.1mg/mlの試験生成物とともに37℃で2時間プレインキュベートし、37℃で2時間酸化ストレス(H 200μM)に暴露した。培地を基底培地に交換し、細胞を37℃でさらに48時間インキュベートした。上清を収集し、および分析まで-80℃で保存した。
【0107】
MMP-1の定量化は、RayBio(登録商標)Human MMP-1 ELISAキット、血清、血漿、細胞培養上清中のヒトMMP-1 proおよび活性形態の定量測定のためのインビトロ酵素結合免疫吸着アッセイを使用して実施した。このアッセイは、96ウェルプレートにコーティングされたヒトMMP-1に特異的な抗体を採用する。標準およびサンプルはウェルにピペットで注入され、およびサンプルに存在するMMP-1は固定化抗体によってウェルに結合される。ウェルを洗浄し、およびビオチン化抗ヒトMMP-1抗体を添加する。未結合のビオチン化抗体を洗い流した後、HRP結合ストレプトアビジンをウェルにピペットで移す。ウェルを再度洗浄し、TMB(3,3’,5’5’-テトラメチルベンジジン)基質溶液をウェルに添加する。結合したMMP-1の量に比例して発色する。停止溶液は色を青から黄色に変更し、色の強度は450nmで測定される。
【0108】
MMP-1は、サンプルの1/100希釈の後、3回測定した。標準曲線を二重に作成した。MMP-1標準濃度の18,000、6000、2000、666.7、222.2、74.07および24.69pg/mlから、4つのパラメータのロジスティック回帰を計算した。
結果を図1に表す。
【0109】
基底の条件では、本発明のアセチル化ヒアルロン酸ナトリウム(a)のみがMMP-1生成の有意な阻害を誘導することが(-23%)見いだされた。モノアセタートヒアルロナート(b)は効果を再現せず、およびMMP-1生成の増加(+44%)を伴う逆の効果さえ表した。資生堂のアセチル化ヒアルロン酸(c)は、この実験条件でMMP-1の放出に有意な影響を与えなかった(+3%)。
【0110】
老化の影響を再現するため、H(アセチル化ヒアルロナート処理なし)により媒介される酸化ストレスの下で、MMP-1の有意な過剰生成物が観察され(+103%)、実験を立証した。
本発明のアセチル化ヒアルロン酸ナトリウム(a)とのプレインキュベーションは、ストレス媒介MMP-1生成物の有意な減少を誘導したが、他の両方の生成物は、モノアセタートヒアルロナート(b)およびアセチル化ヒアルロン酸(c)は、+63%および+12%の逆効果をそれぞれ表した。
【0111】
結論として、本発明のアセチル化ヒアルロン酸ナトリウム(a)のみが、基底におけるおよび酸化ストレス(老化などの)の存在下におけるMMP-1放出の阻害に対する効率的な活性を提示する。
MMP-3放出:
【表5】
表4:アセチルヒアルロン酸ナトリウムの、線維芽細胞(任意単位で表現される)のインビトロ酸化ストレスにより誘導されるMMP-3放出への影響。=p<0.05;ns=有意ではない。括弧内のパーセント値は、非活性(アセチルヒアルロン酸ナトリウムなし)に対するアセチルヒアルロン酸ナトリウムによる阻害の量を反映する。
【0112】
アセチルヒアルロン酸ナトリウムは、タンパク質レベルで酸化ストレスによって媒介されるMMP-3分泌を有意に減少させることが実証された。逆に、ヒアルロン酸ナトリウムはこの効果を再現できず、観察された効果はアセチル化修飾によるものであることを確認した(表4)。
【0113】
蛍光測定
MMPは、不活性プロ形態(プロMMP)およびプロペプチド切断形態(MMP)を包含する2形態のもとで放出される。活性MMPのみがコラーゲンの分解を誘導できる。消光剤に結合されたI型コラーゲン蛍光であるDQ-I型コラーゲンが使用された。分解されるとき、消光剤の放出および蛍光発光が促進される。最後に、コラーゲンの分解に比例する放出された蛍光を測定した。この実験は、MMP-1およびMMP-3の分泌を定量化するために使用されたのと同じ実験条件下で正確に実施された。簡単には、上清をDQ-コラーゲンと室温で4hインキュベートし、および蛍光をマイクロプレートリーダー(TECAN)で励起波長495nmおよび発光波長515nmで測定した。
【0114】
【表6】
表5:線維芽細胞(任意単位で表現される)のインビトロ酸化ストレス後のI型コラーゲンの分解への、アセチルヒアルロン酸ナトリウムの影響。=p<0.05;ns=有意ではない。括弧内のパーセント値は、非活性(アセチルヒアルロン酸ナトリウムなし)に対するアセチルヒアルロン酸ナトリウムによる阻害の量を反映する。
【0115】
アセチルヒアルロン酸ナトリウムは、蛍光レベルの減少によって観察されるように、DQ-コラーゲン分解を減少させることが観察された(表5)。これらの結果は、アセチルヒアルロン酸ナトリウムが、DQ-コラーゲン分解の原因となるMMP-1およびMMP-3の活性形態放出を制限することを実証した。全体として、これらのインビトロの結果は、アセチルヒアルロン酸ナトリウムが、肌の老化の目に見える兆候に関与するマトリックスリモデリングへの影響を通じて、抗老化活動を保有することを証明した。実際、これは、I型コラーゲンなどのマトリックス分解をコントロールするMMP-1およびMMP-3のダウン発現によってこれを制限する。さらに、ヒアルロン酸ナトリウムは同じ結果を促進することができず、生物活性がアセチル化修飾に結び付けられることを確認した(表5)。
【0116】
例6:メラニン細胞(メラニン細胞)に対するアセチルヒアルロン酸ナトリウムの影響
色素沈着機能
色素沈着機能に関して、アセチルヒアルロン酸ナトリウムはトランスクリプトームレベルでHPS4、MITF、およびENDR6遺伝子発現の有意な増加を誘導することを見出した。これらの結果は、プロ色素沈着促進特性を保有するかもしれないことを示唆する。インビトロでのメラニン合成に対するアセチルヒアルロン酸ナトリウムの効果を、基底条件およびL-チロシン基質の添加により媒介される刺激条件でのメラニン細胞で分析した。簡単には、基底条件に関しては、メラニン細胞を24ウェルプレートで24時間培養した。次に、培地を、それぞれ0.1、0.25、0.5、および1mg/mlの濃度のアセチルヒアルロン酸ナトリウムまたは未修飾ヒアルロン酸ナトリウムを含むまたはなしの培地に置き換えた。3および7日間のインキュベーション後、処理の2回の更新を伴い、細胞を10日間インキュベートした。
【0117】
【表7】
表6:アセチルヒアルロン酸ナトリウムの、基底条件のメラノサイトでのインビトロのメラニン合成への影響(コントロール条件の%で表される)。**=p<0.01*****=p<0.001;ns=有意ではない。括弧内のパーセント値は、試験化合物(L-チロシン、アセチルヒアルロン酸ナトリウムおよびヒアルロン酸ナトリウム)が及ぼす効果を、試験化合物なし(コントロール)の性能と比較して反映する。
【0118】
結果は、アセチルヒアルロン酸ナトリウムは基底条件でメラニン合成の減少を誘導し、用量に応じた効果があることを表す(0.1mg/mlで+2%、1mg/mlで-9%)。未修飾のヒアルロン酸ナトリウムは効率が悪く、アセチル化がヒアルロン酸ナトリウムの生物活性を改善することを実証する。
【0119】
刺激
刺激された条件に関して、メラニン細胞を24ウェルプレートで24時間培養した。次いで、培地を、それぞれ0.1、0.25、0.5、および1mg/ml、または参照(Lipoic Acid 5μg/ml)の濃度のアセチルヒアルロン酸ナトリウムまたは未修飾のヒアルロン酸ナトリウムを補充したL-チロシン(1mM)を含有する培地に置き換えた。3および7日間のインキュベーション後、処理の2回の更新を伴い、細胞を10日間インキュベートした。
【0120】
【表8】
表7:アセチルヒアルロン酸ナトリウムの、刺激条件におけるインビトロのメラノサイトのメラニン合成への影響(コントロールL-チロシン1mM条件の%で表現される)。=p<0.05;**=p<0.01;***=p<0.001;ns=有意ではない。括弧内のパーセント値は、試験化合物(リポ酸、アセチルヒアルロン酸ナトリウム、およびヒアルロン酸ナトリウム)が及ぼす影響を、試験化合物なし(コントロール)のパフォーマンスと比較して反映する。
結果は、アセチルヒアルロン酸ナトリウムは、用量に応じた逆の効果を伴って、メラニン合成の増加を誘導する(0.1mg/mlで+11%、1mg/mlで-7%)ことを表した。未修飾のヒアルロン酸ナトリウムは低効率であり、アセチル化がヒアルロン酸ナトリウムの生物活性を改善することを実証した。
図1