(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】高精度高周波位相加算器
(51)【国際特許分類】
H03B 19/14 20060101AFI20230614BHJP
H03L 7/06 20060101ALI20230614BHJP
H04L 7/033 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
H03B19/14
H03L7/06 210
H04L7/033
(21)【出願番号】P 2019551263
(86)(22)【出願日】2018-03-15
(86)【国際出願番号】 US2018022613
(87)【国際公開番号】W WO2018175194
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2021-03-04
(32)【優先日】2017-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516381806
【氏名又は名称】ブルー ダニューブ システムズ, インク.
【氏名又は名称原語表記】BLUE DANUBE SYSTEMS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(72)【発明者】
【氏名】バヌ, ミハイ
(72)【発明者】
【氏名】フェン, イーピン
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-057577(JP,A)
【文献】特開2000-068744(JP,A)
【文献】特開平05-191466(JP,A)
【文献】特開2002-111449(JP,A)
【文献】特表2016-534627(JP,A)
【文献】特開平03-212024(JP,A)
【文献】特開平05-343923(JP,A)
【文献】特開2005-184141(JP,A)
【文献】特開平02-224104(JP,A)
【文献】V.Prodanov et al.,"GHz serial passive clock distribution in VLSI using bidirectional signaling",IEEE 2006 Custom Integrated Circuits Conference(CICC),米国,IEEE,2006年09月,p.285-288
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B11/00-H03B27/00
H03L1/00-H03L9/00
H04L7/00-H04L7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の信号分配ラインを通して受信する第1の信号と、前記第1の信号分配ラインとは異なる第2の信号分配ラインを通して受信する第2の信号とを処理するための電子回路であって、
前記第1の信号分配ラインに接続され前記第1の信号を受信する第1の差動入力と、前記第2の信号分配ラインに接続され前記第2の信号を受信する第2の差動入力と、差動出力とを備え、前記第1の信号と前記第2の信号とを乗算して前記差動出力からの出力信号を生成し、前記第1の信号および前記第2の信号の周波数がともにf0であるとき、前記差動出力からの前記出力信号の周波数を2f0とする差動乗算回路、並びに
位相ロックループ(PLL)回路を含み、
前記PLL回路は、
前記差動乗算回路の前記差動出力に電気的に接続された第1の差動入力、第2の差動入力、及び出力を備えた平衡差動ミキサ回路と、
前記平衡差動ミキサ回路の前記出力に電気的に接続された入力及び出力を有するループフィルタと、
前記ループフィルタの前記出力に電気的に接続された入力を有し、且つ、前記平衡差動ミキサ回路の前記第2の差動入力に電気的にフィードバックする出力を備えた電圧制御発振器(VCO)回路と、を含
み、
前記差動乗算回路は、第1トランジスタと、第2トランジスタと、前記第1トランジスタと前記第2トランジスタとの間に接続された三極管トランジスタとを備えた第1三極管インターフェース回路を含み、
前記三極管トランジスタは、動作中に三極管領域で動作するようにバイアスをかけられ、乗算を行う、電子回路。
【請求項2】
前記平衡差動ミキサ回路はギルバートミキサ回路を含む、請求項1に記載の電子回路。
【請求項3】
前記差動乗算回路は、二重平衡差動乗算回路である、請求項1に記載の電子回路。
【請求項4】
前記三極管トランジスタはMOSトランジスタである、請求項
1に記載の電子回路。
【請求項5】
前記差動乗算回路は、
前記第1三極管インターフェース回路と互いに電気的に接続され
た第2三極管インターフェース回路
を含み
、
前記第2三極管インターフェース回路は、第1トランジスタと、第2トランジスタと、前記第1トランジスタと前記第2トランジスタとの間に接続された三極管トランジスタと、を備え、
前記第2三極管インターフェース回路の前記三極管トランジスタは、動作中に三極管領域で動作するようにバイアスをかけられ、乗算を行う、請求項1に記載の電子回路。
【請求項6】
前記第1三極管インターフェース回路および前記第2三極管インターフェース回路は、互いに電気的に接続されて、二重平衡三極管インターフェース構成を形成する、請求項
5に記載の電子回路。
【請求項7】
前記第1三極管インターフェース回路および前記第2三極管インターフェース回路の各々における前記三極管トランジスタはMOSトランジスタである、請求項
5に記載の電子回路。
【請求項8】
前記ループフィルタはローパスフィルタである、請求項1に記載の電子回路。
【請求項9】
前記PLL回路は、前記平衡差動ミキサ回路の前記出力を前記ループフィルタの入力に接続する増幅器を更に含む、請求項
8に記載の電子回路。
【請求項10】
前記増幅器は、フォールデッドカスコード増幅器である、請求項
9に記載の電子回路。
【請求項11】
前記PLL回路は、前記VCO回路の前記出力を前記平衡差動ミキサ回路の前記第2の差動入力に電気的に接続するバッファ回路を更に含む、請求項1に記載の電子回路。
【請求項12】
前記平衡差動ミキサ回路の前記第1の差動入力は、第1の入力線及び第2の入力線を有し、前記VCO回路の前記出力は、差動出力であり、その第1の出力線は前記平衡差動ミキサ回路の前記第1の差動入力の前記第1の入力線に電気的に接続され、第2の出力線は前記平衡差動ミキサ回路の前記第1の差動入力の前記第2の入力線に電気的に接続される、請求項1に記載の電子回路。
【請求項13】
前記差動乗算回路及び前記PLL回路は、単一の集積回路チップ上に一緒に製造される、請求項1に記載の電子回路。
【請求項14】
前記VCO回路は、周波数がfVCOの信号を出力し、
前記平衡差動ミキサ回路の前記第2の差動入力は、周波数がfVCOの信号を前記VCO回路から受信する、請求項1に記載の電子回路。
【請求項15】
第1の入力及び第2の入力及び出力を備えた乗算回路と、以下によって形成される位相ロックループ(PLL)回路と、を含む位相加算回路を初期化する方法であって、
前記位相ロックループ(PLL)回路は、
(1)前記乗算回路の前記出力に電気的に接続された第1の入力を備えたミキサ回路、
(2)前記ミキサ回路の出力に電気的に接続された入力を備えた増幅器、
(3)出力と、前記増幅器の出力に切り替え可能に接続された入力と、を有するループフィルタ、
(4)前記ループフィルタの前記出力に電気的に接続された入力と、前記ミキサ回路の第2の入力に電気的にフィードバックする出力と、を備えた電圧制御発振器(VCO)回路、
を含み、
前記乗算回路は、第1トランジスタと、第2トランジスタと、前記第1トランジスタと前記第2トランジスタとの間に接続された三極管トランジスタとを備えた三極管インターフェース回路を含む差動乗算回路であり、
前記三極管トランジスタは、動作中に三極管領域で動作するようにバイアスをかけられ、乗算を行い、
前記方法は、
前記乗算回路の前記第1の入力をアースに切り替え可能に接続するステップと、
前記ループフィルタの前記入力を前記増幅器の前記出力から切断し、前記VCO回路の前記出力から得られる信号を受信できるように切り替えるステップと、
前記乗算回路の前記第1の入力がアースに接続され、且つ、前記ループフィルタの前記入力が前記VCO回路の前記出力から得られる前記信号を受信している間に、前記増幅器の前記出力が前記ループフィルタの前記出力に
等しいDC動作点を持つまで、前記増幅器にバイアス信号を印加するとともに前記バイアス信号を調整するステップと、
前記増幅器の前記出力が前記ループフィルタの前記出力と
等しいDC動作点を持つと、前記ループフィルタの前記入力を、前記VCO回路の前記出力から得られる前記信号を受信している状態から、前記増幅器の前記出力に切り替えるステップと、
を含む、方法。
【請求項16】
前記VCO回路の前記出力から得られる前記信号を受信している状態から前記増幅器の前記出力に前記ループフィルタの前記入力を切り替えた後に、第1の分配された信号を受信できるように前記乗算回路の前記第1の入力を切り替えるステップと、前記乗算回路の前記第2の入力において第2の分配された信号を受信するステップと、をさらに含む、請求項
15に記載の方法。
【請求項17】
前記増幅器に印加された前記バイアス信号を調整するステップは、
前記増幅器の前記出力を前記ループフィルタの前記出力と比較するステップと、
前記増幅器の前記出力を前記ループフィルタの前記出力と比較している間に、前記増幅器の前記出力が前記ループフィルタの前記出力に
等しいDC動作点を持つまで、前記増幅器の前記入力に漸増量の電流を徐々に増しながら導入するステップと、をさらに含む、請求項
15に記載の方法。
【請求項18】
前記ミキサ回路は、平衡差動ミキサ回路である、請求項
15に記載の方法。
【請求項19】
前記増幅器は、フォールデッドカスコード増幅器である、請求項
15に記載の方法。
【請求項20】
第1の差動入力及び第2の差動入力及び差動出力を備えた差動乗算回路と、以下によって形成される位相ロックループ(PLL)回路と、を含む位相加算回路を初期化する方法であって、
前記位相ロックループ(PLL)回路は、
(1)前記差動乗算回路の前記差動出力に電気的に接続された第1の差動入力を備えた平衡差動ミキサ回路、
(2)前記平衡差動ミキサ回路の出力に電気的に接続された入力を備えたフォールデッドカスコード増幅器、
(3)前記フォールデッドカスコード増幅器の出力に電気的に接続されたループフィルタ、
(4)前記ループフィルタの出力に電気的に接続され、且つ前記平衡差動ミキサ回路の第2の差動入力に電気的にフィードバックする出力を備えた、電圧制御発振器(VCO)回路、
によって形成され、
前記差動乗算回路は、第1トランジスタと、第2トランジスタと、前記第1トランジスタと前記第2トランジスタとの間に接続された三極管トランジスタとを備えた三極管インターフェース回路を含み、
前記三極管トランジスタは、動作中に三極管領域で動作するようにバイアスをかけられ、乗算を行い、
前記方法は、
前記差動乗算回路の前記第1の差動入力をアースに切り替え可能に接続するステップと、
前記ループフィルタへの入力を、前記フォールデッドカスコード増幅器の前記出力から、前記VCO回路の前記出力から得られる信号に切り替えるステップと、
前記差動乗算回路の前記第1の差動入力がアースに接続され、且つ、前記ループフィルタへの前記入力が前記VCO回路の前記出力から得られる前記信号である間に、前記フォールデッドカスコード増幅器の前記出力を、前記ループフィルタの前記出力と比較するステップと、
前記フォールデッドカスコード増幅器の前記出力を前記ループフィルタの前記出力と比較する間に、前記フォールデッドカスコード増幅器の前記出力が前記ループフィルタの前記出力に
等しくなるまで、前記フォールデッドカスコード増幅器の前記入力に漸増量の電流を徐々に増しながら導入するステップと、
前記フォールデッドカスコード増幅器の前記出力が前記ループフィルタの前記出力と
等しいと判断すると、前記ループフィルタの入力を、前記VCO回路の前記出力から得られる前記信号から、前記フォールデッドカスコード増幅器の前記出力に切り替えるステップと、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年3月20日に出願された米国仮特許出願第62/473,683号明細書の利益を主張するものであり、該出願はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
実施形態は一般的に、アナログ乗算器及び位相ロックループなどの信号位相を有して動作する回路に関する。
【背景技術】
【0003】
長い電気的距離に渡って位相コヒーレント信号を分配するための一般的な方法が、2013年10月8日に公開された、Mihai Banu及びVladimir Prodanovによる「Method and System for Multi-point Signal Generation with Phase Synchronized Local Carriers」と題された米国特許第8,553,826号明細書に記載されており、該特許の開示内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。この方法の1つの用途は、2013年12月17日に公開された、Mihai Banu、Yiping Feng、及びVladimir Prodanovによる「Low Cost, Active Antenna Arrays」と題された米国特許8,611,959号明細書に記載されたような、アクティブアレイにおける局部発振器(LO)信号の分配であり、該特許の開示内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。別の用途は、非常に大きなシリコンチップにおける高速クロック分配である。
【0004】
米国特許第8,553,826号明細書の方法は、2つのツリー分配ネットワークと、「同期飛行時間」と呼ばれる固定のグローバルなネットワークパラメータを検出する「S-クライアント」と呼ばれる複数の回路と、を使用する。このパラメータに基づいて、S-クライアントは、実質的に位相コヒーレントな(実用的には同一の位相の)信号を生成する。これらのS-クライアントの品質は、システム全体の精度にとって重要である。言い換えると、S-クライアントによって生成される信号間の位相誤差を小さくするためには、S-クライアントは理想的なS-クライアントの近傍で動作しなくてはならない。正弦波信号(シングルトーン)を使用する場合、位相コヒーレント信号の生成は、二重ツリー分配ネットワークの枝を伝搬する2つの信号の位相を加算するという単純な動作になる。従って、位相加算器は単純なS-クライアント回路のクラスを形成する。
【0005】
概念的には、位相処理の点では、位相加算回路は、理想的な単側波帯アナログ乗算器に等しい。単側波帯アナログ乗算器は、2つの入力部において2つのトーンを受け入れ、出力部において単一のトーンを生成する。出力トーンの位相は、入力トーンの位相の合計になる。これは、単純な三角法の結果である。2つの正弦波信号の乗算は、2つの項の合計に等しくなる。1つは加算された位相を有する項で、もう1つは減算された位相を有する項である。各項は、単側波帯アナログ乗算器を表し、両方の項の合計は、両側波帯アナログ乗算器を表す。
【0006】
実際には、とりわけ、入力信号が高周波である場合には、理想的な特性又は理想に近い特性を有する単側波帯アナログ乗算器を実現することは難しい。第1に、通常、実際には存在する(高周波で強められた)非線形効果が、出力位相誤差を生じさせる望ましくないスプリアス信号を生成する。第2に、実用的なアナログ乗算器は全て、両側波帯アナログ乗算器であり、一方の側波帯を除去すると、更なる出力位相誤差が持ち込まれる傾向がある。従って、正弦波信号を用いた米国特許第8,553,826号明細書の技術の用途は、実際に実現することができる位相加算器の品質によって制限される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
フェーズドアレイは、表面領域に分散された複数のアンテナから構成される。複数のアンテナは、結合したユニットとして機能して、空間の異なる特定の領域との間で複数の通信チャネルを送信又は受信する。各アンテナは、これらの通信チャネルのうちの小さな一部に寄与する。フェーズドアレイの表面領域に渡って信号を送信又は受信する調整は、均一なタイミング基準を必要とする。通信チャネルの搬送波周波数の通常は多数の波長のX次元及びY次元を有する、表面領域に渡る均一なタイミング基準を提供することが、必要である。米国特許第8,553,826号明細書のツリー分配信号のネットワークに結合された位相加算器回路は、複数のアンテナの各々に対して基準積成分を生成することにより、この均一なタイミング基準を提供する。高周波で動作することができる高品質の位相加算器を構築するための2つの一般的な技法について説明する。第1の技法は、新たな単側波帯アナログ乗算器のクラスを生成し、第2の技法は、新たな位相ロックループのクラスを生成する。
【0008】
フェーズアレイは、ツリー分配信号のネットワークに結合された複数の位相加算器回路を含み、このネットワークは、フェーズドアレイの領域のX次元及びY次元に渡って延在し一定である「同期飛行時間」と呼ばれる固定のグローバルネットワークパラメータを有する。ネットワークに結合し、且つこのグローバルネットワークパラメータを使用する、複数の位相加算器のいずれの各実例も、基準積成分を生成し、この基準積成分は、フェーズドアレイ内のネットワークに結合された残りの位相加算器全てによって生成される基準積成分のコピーと同じ位相及び周波数を実質的に有する。位相加算器によって生成された複数の基準積成分は、フェーズドアレイのアンテナの各々に対して均一なタイミング基準を提供する。
【0009】
一般的に、一態様では、本発明は、第1の差動入力及び第2の差動入力及び差動出力を備えた差動乗算回路と、以下を含む位相ロックループ(PLL)回路と、を含む電子回路を特徴とする。位相ロックループ(PLL)回路は、(1)差動乗算回路の差動出力に電気的に接続された第1の差動入力、第2の差動入力、及び出力を備えた平衡差動ミキサ回路、(2)平衡差動ミキサ回路の出力に電気的に接続された入力及び出力を有するループフィルタ、(3)ループフィルタの出力に電気的に接続された入力を有し、平衡差動ミキサ回路の第2の差動入力に電気的にフィードバックする出力を有する、電圧制御発振器(VCO)回路、を含む。
【0010】
他の実施形態は、以下の特徴のうちの1つ又は複数を含む。平衡差動ミキサ回路は、ギルバートミキサ回路を含む。差動乗算回路は、二重平衡差動乗算回路である。差動乗算回路は、動作中に三極管領域で動作するようにバイアスをかけられるトランジスタ(例えば、MOSトランジスタ)を含む三極管インターフェース回路を使用する。より具体的には、差動乗算回路は、互いに電気的に接続された2つの三極管インターフェース回路を使用し、この2つの三極管インターフェース回路の各々は、動作中に三極管領域で動作するようにバイアスをかけられるトランジスタ(例えば、MOSトランジスタ)を含む。2つの三極管インターフェース回路は、互いに電気的に接続されて、二重平衡三極管インターフェース構成を形成する。ループフィルタは、ローパスフィルタである。PLL回路は、平衡差動ミキサ回路の出力をループフィルタの入力に接続する増幅器を更に含み、また、VCO回路の出力を平衡差動ミキサ回路の第2の差動入力に電気的に接続するバッファ回路を含む。増幅器は、フォールデッドカスコード増幅器である。平衡差動ミキサの差動入力は、第1の入力線及び第2の入力線を有し、VCO回路の出力は、差動出力であり、その第1の出力線は平衡差動ミキサの第1の差動入力の第1の入力線に電気的に接続され、第2の出力線は平衡差動ミキサの第1の差動入力の第2の入力線に電気的に接続される。差動乗算回路及びPLL回路は、単一の集積回路チップ上に一緒に製造される。
【0011】
一般的に、別の態様では、本発明は、第1の差動入力、第2の差動入力、及び差動出力を備えた差動乗算回路と、差動乗算回路の差動出力に接続された差動入力を有するフォールデッドカスコード増幅器と、を含む電子回路を特徴とする。
【0012】
他の実施形態は、以下の特徴のうちの1つ又は複数を含む。フォールデッドカスコード増幅器は、バイアス電流を生成するための電流源部を含み、また、差動乗算回路及びフォールデッドカスコード増幅器は、互いに電気的に接続されて、その結果、電流源部によって生成されたバイアス電流は、フォールデッドカスコード増幅器と差動乗算回路の両方によって共有される。差動乗算回路は、動作中に三極管領域で動作するようにバイアスをかけられるトランジスタ(例えば、MOSトランジスタ)を含む三極管インターフェース回路を使用する。より具体的には、差動乗算回路は、互いに電気的に接続された2つの三極管インターフェース回路を含み、この2つの三極管インターフェース回路の各々は、動作中に三極管領域で動作するようにバイアスをかけられるトランジスタ(例えば、MOSトランジスタ)を含む。2つの三極管インターフェース回路は、互いに電気的に接続されて、二重平衡三極管インターフェース構成を形成する。
【0013】
更に他の実施形態は、以下の特徴のうちの1つ又は複数を含む。差動乗算器の差動出力は、第1の出力線及び第2の出力線を有し、電子回路は更に、フィードバック回路を含み、その差動入力は、固定バイアス電圧を受け取るための第1の入力線と、フォールデッドカスコード増幅器の出力に電気的に接続された第2の入力線と、を有する。フィードバック回路は、フォールデッドカスコード増幅器の差動入力の第1の入力線に電気的に接続された出力線も有し、動作中、フィードバック回路は、カスコード増幅器の出力線上の出力電圧のDC成分を、固定のDC値に保持する。固定のDC値は、フィードバック回路の差動入力の第1の入力線に印加された固定バイアス電圧によって決定される。フィードバック回路は、差動増幅器と、差動増幅器の出力に電気的に接続されたローパスフィルタとを含み、差動増幅器はフィードバック回路の差動入力から入力信号を受け取るように配置される。或いは、フィードバック回路は第1のローパスフィルタ、第2のローパスフィルタ、及び差動増幅器を含み、差動増幅器は、第1のローパスフィルタに電気的に接続された第1の出力線と、第2のローパスフィルタに接続された第2の出力線とを有する差動出力を備える。差動増幅器は、フィードバック回路の差動入力から入力信号を受け取るように配置され、第1のローパスフィルタの出力はフォールデッドカスコード増幅器の差動入力の第1の入力線に電気的に接続され、第2のローパスフィルタの出力はフォールデッドカスコード増幅器の差動入力の第2の入力線に電気的に接続される。差動乗算回路は、動作中に三極管領域で動作するようにバイアスをかけられるトランジスタ(例えば、MOSトランジスタ)を含む三極管インターフェース回路を含む。より具体的には、差動乗算回路は、互いに電気的に接続された2つの三極管インターフェース回路を含み、この2つの三極管インターフェース回路の各々は、動作中に三極管領域で動作するようにバイアスをかけられるトランジスタ(例えば、MOSトランジスタ)を含む。2つの三極管インターフェース回路は、互いに電気的に接続されて、二重平衡三極管インターフェース構成を形成する。差動乗算回路及びフォールデッドカスコード増幅器は、単一の集積回路チップ上に一緒に製造される。
【0014】
一般的に、更に別の態様では、本発明は、第1の出力線及び第2の出力線を有する差動出力を備えた差動乗算回路と、第1の入力線及び第2の入力線を有する差動入力を備え且つ出力を有する第1のフィードバック回路と、を含む電子回路を特徴とする。差動乗算回路は、動作中に三極管領域で動作するようにバイアスをかけられるトランジスタ(例えば、MOSトランジスタ)を含み、且つ負荷側とバイアス電流側とを有する第1の三極管インターフェース回路、及び動作中に三極管領域で動作するようにバイアスをかけられるトランジスタ(例えば、MOSトランジスタ)を含み、且つ負荷側とバイアス電流側とを有する第2の三極管インターフェース回路を含み、第1及び第2の三極管インターフェース回路は互いに電気的に接続される。差動乗算回路は、第1及び第2の三極管インターフェース回路の負荷側に電気的に接続された差動負荷回路と、第1及び第2の三極管インターフェース回路のバイアス電流側に電気的に接続されたバイアス電流源ユニットと、も含む。第1のフィードバック回路の第1の入力線は、バイアス電圧を受け取るためのものであり、第1のフィードバック回路の第2の入力線は、差動乗算回路の第1の出力線に電気的に接続され、第1のフィードバック回路の出力は、差動乗算回路に電気的に接続される。
【0015】
他の実施形態は、以下の特徴のうちの1つ又は複数を含む。第1及び第2の三極管インターフェース回路は、互いに電気的に接続されて、二重平衡三極管インターフェース構成を形成する。第1のフィードバック回路の出力は、差動乗算回路の第1の出力線に電気的に接続される。或いは、第1のフィードバック回路の出力は、第1の三極管インターフェース回路の電流側に電気的に接続されるか、又は第1及び第2の三極管インターフェース回路の両方の電流側に電気的に接続される。電子回路は、第1の入力線及び第2の入力線を有する差動入力を備え、且つ出力を有する第2のフィードバック回路も含み、第2のフィードバック回路の第1の入力線は、バイアス電圧を受け取るためのものであり、第2のフィードバック回路の第2の入力線は、差動乗算回路の第2の出力線に電気的に接続され、第2のフィードバック回路の出力は、差動乗算回路に電気的に接続される。第2のフィードバック回路の出力は、差動乗算回路の第2の出力線に電気的に接続される。或いは、第2のフィードバック回路の出力は、第2の三極管インターフェース回路の電流側に電気的に接続されるか、又は第1及び第2の三極管インターフェース回路の両方の電流側に電気的に接続される。第1のフィードバック回路は、バイアス電圧を受け取るための第1の入力線と、差動乗算回路の差動出力の第1の出力線に電気的に接続された第2の入力線と、を有する差動入力を備えた差動増幅器を含む。第2のフィードバック回路は、バイアス電圧を受け取るための第1の入力線と、差動乗算回路の差動出力の第2の出力線に電気的に接続された第2の入力線と、を有する差動入力を備えた差動増幅器を含む。
【0016】
一般的に、更に別の態様では、本発明は、差動乗算回路と、差動ミキサ回路と、差動乗算回路及び差動ミキサ回路にバイアス電流を供給するための電流源部と、を含む電子回路を特徴とする。差動乗算回路及び差動ミキサ回路は、互いに電気的に積み重ねられ、その結果、電流源部によって差動乗算回路に供給されたバイアス電流は、差動ミキサ回路に対してもバイアス電流として働く。差動乗算回路は、二重平衡差動乗算回路である。差動乗算回路は、動作中に三極管領域で動作するようにバイアスをかけられるトランジスタ(例えば、MOSトランジスタ)を含む三極管インターフェース回路を含み、より具体的には、互いに電気的に接続された2つの三極管インターフェース回路を含み、2つの三極管インターフェース回路の各々は、動作中に三極管領域で動作するようにバイアスをかけられるトランジスタ(例えば、MOSトランジスタ)を含む。2つの三極管インターフェース回路は、互いに電気的に接続されて、二重平衡三極管インターフェース構成を形成する。差動ミキサ回路は平衡差動ミキサ回路であり、ギルバートミキサ回路を含む。
【0017】
一般的に、別の態様では、本発明は、第1の差動入力及び第2の差動入力及び差動出力を備えた差動乗算回路と、以下によって形成される位相ロックループ(PLL)回路と、を含む位相加算回路を初期化する方法を特徴とする。位相ロックループ(PLL)回路は、(1)差動乗算回路の差動出力に電気的に接続された平衡差動ミキサ回路、(2)平衡差動ミキサ回路の出力に電気的に接続された入力を電気的に備えたフォールデッドカスコード増幅器、(3)フォールデッドカスコード増幅器の出力に電気的に接続されたループフィルタ、(4)ループフィルタの出力に電気的に接続され、且つ平衡差動ミキサ回路の第2の差動入力に電気的にフィードバックする出力を備えた、電圧制御発振器(VCO)回路、によって形成される。この方法は、差動乗算器の第1の差動入力をアースに切り替え可能に接続するステップと、ループフィルタへの入力をフォールデッドカスコード増幅器の出力からVCOの出力から得られた信号に切り換えるステップと、差動乗算器の第1の差動入力がアースに接続され、ループフィルタへの入力がVCOの出力から得られた信号である間に、フォールデッドカスコード増幅器の出力をループフィルタの出力と比較するステップと、フォールデッドカスコード増幅器の出力をループフィルタの出力と比較する間に、フォールデッドカスコード増幅器の出力がループフィルタの出力とほぼ等しくなるまで、フォールデッドカスコード増幅器の入力に徐々に量が増える電流を徐々に導入するステップと、フォールデッドカスコード増幅器の出力がループフィルタの出力とほぼ等しいと判断すると、VCOの出力から得られた信号からフォールデッドカスコード増幅器の出力に、ループフィルタへの入力を切り換えるステップと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】米国特許第8,553,826号明細書に記載されたコヒーレント出力信号を有する分配ネットワークを示す。
【
図2】
図1のネットワークのS-クライアントとして使用される位相加算器のブロック図を示す。
【
図3A】それぞれ異なる周波数を有する2つのトーンを乗算する従来のアナログ乗算器と、このアナログ乗算器の非線形動作により生成される相互変調積の説明と、を示す。
【
図3B】それぞれ同じ周波数を有する2つのトーンを乗算する従来のアナログ乗算器と、このアナログ乗算器の非線形動作により生成される相互変調積の説明と、を示す。
【
図4A】MOSトランジスタのI-V曲線を示しており、三極管領域及び飽和領域の伝達曲線を強調している。
【
図4B】三極管領域で動作するように構成されたMOSデバイスの一実施形態を示す。
【
図4C】三極管領域で動作しながら乗算器として動作するように構成されたMOSデバイスの一実施形態を示す。
【
図4D】
図4Cの三極管トランジスタの回路ブロック表現の一実施形態を示す。
【
図4E】それぞれ同じ周波数を有する2つのトーンを乗算する理想的な乗算器の一実施形態と、この三極管乗算器の動作により生成される相互変調積の説明と、を示す。
【
図5】相互変調積と共に、受動負荷及びバイポーラ接合トランジスタ(BJT)を用いて形成される差動三極管乗算器の回路図の一実施形態を示す。
【
図6】相互変調積と共に、受動負荷及びMOSトランジスタを用いて形成される差動三極管乗算器の回路図の一実施形態を示す。
【
図7】差動三極管乗算器のブロック図の一実施形態を示す。
【
図8A】漏れ成分を除去するように構成された差動三極管乗算器のブロック図の一実施形態を示す。
【
図9】相互変調積の漏れ成分を除去するように構成された差動三極管乗算器の回路図の一実施形態を示す。
【
図10A】相互変調積の漏れ成分及びDC成分を除去するように構成された差動三極管乗算器のブロック図の一実施形態を示す。
【
図10B】
図10Aの出力に、相互変調積の基準積成分のみが残っていることを示す。
【
図11】相互変調積の漏れ成分及びDC成分を除去するように構成された差動三極管乗算器の回路図の一実施形態を示す。
【
図12】相互変調積の漏れ成分を除去し、差動出力のDCレベルを調節するように構成された差動三極管乗算器のブロック図の一実施形態を示す。
【
図13】漏れ成分を除去し、差動出力のDCレベルを調節するように構成されたAC結合、受動負荷、及び2つの三極管インターフェースを使用して、MOSトランジスタを用いて形成された三極管乗算器の回路図の一実施形態を示す。
【
図14】相互変調積の漏れ成分を除去し、差動出力のDCレベルを調節するように構成された別の差動三極管乗算器のブロック図の一実施形態を示す。
【
図15】漏れ成分を除去し、差動出力のDCレベルを調節するように構成されたMOSトランジスタを用いて形成される
図14の回路図の一実施形態を示す。
【
図16】漏れ成分を除去し、差動出力のDCレベルを調節するように構成されたMOSトランジスタを用いて形成される
図14の回路図の別の実施形態を示す。
【
図17】差動出力の漏れ成分を除去するように構成されたフォールデッドカスコードに結合された2つの三極管インターフェースのブロック図の一実施形態を示す。
【
図18】差動出力の漏れ成分を除去するように構成されたフォールデッドカスコードの回路図の一実施形態を示す。
【
図19】漏れ成分を除去し、差動出力のDCレベルを調節するように構成されたフィードバック及びフォールデッドカスコードの図の一実施形態を示す。
【
図20】漏れ成分を除去し、差動出力のDCレベルを調節するように構成されたフィードバック及びフォールデッドカスコードの図の別の実施形態を示す。
【
図21】能動負荷が相互変調積のDC成分及び漏れ成分を除去する、BJTを用いて形成された差動三極管乗算器における差動三極管乗算器の回路図の一実施形態を示す。
【
図22】能動負荷が相互変調積のDC成分及び漏れ成分を除去する、MOSトランジスタを用いて形成された差動三極管乗算器における差動三極管乗算器の回路図の一実施形態を示す。
【
図23】それぞれの周波数スペクトルと共に、2つの等しいトーンを乗算する三極管乗算器の一実施形態を示しており、結果として生じる周波数2倍のトーンは、周波数の2倍を有する第2のトーンと、ミキサで混合される。
【
図24A】
図23のミキサが、全てのより高次の周波数成分を除去するために位相ロックループ(PLL)を形成するのに使用されている様子を示す。
【
図24B】
図23のミキサが、全てのより高次の周波数成分を除去するためにバッファを備えた位相ロックループ(PLL)を形成するのに使用されている様子を示す。
【
図25】
図23のミキサ及び乗算器を表す等価回路/ブロックモデルの一実施形態を示す。
【
図26】
図24AのPLL及び乗算器を表す増幅器を使用した等価回路/ブロックモデルの一実施形態を示す。
【
図27】
図24AのPLL及び乗算器を表すフォールデッドカスコードを使用した等価回路/ブロックモデルの一実施形態を示す。
【
図28】
図24Bのバッファを含むPLL及び乗算器を表すフォールデッドカスコードを使用した等価回路/ブロックモデルの一実施形態を示す。
【
図29】
図24Bのバッファを含むPLL及び乗算器を表すフォールデッドカスコードを使用した低電圧動作のための等価回路/ブロックモデルの一実施形態を示す。
【
図30A】2f
0で動作する電圧制御発振器(VCO)を含むPLLに対してループ電圧を生成する準備をするための第1のスイッチ構成を示す。
【
図30B】決定されたループ電圧を乗算回路内部のPLLに印加するための第2のスイッチ構成を示す。
【
図31A】4f
0で動作する電圧制御発振器(VCO)を含むPLLに対してループ電圧を生成する準備をするための第1のスイッチ構成を示す。
【
図31B】決定されたループ電圧を乗算回路内部のPLLに印加するための
図31Aの第2のスイッチ構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
前出の図では、同様の要素及び同様の成分は、同様の参照符号で識別されることがある。
【0020】
信号のコヒーレントな分配のための位相加算器の使用
図1は、米国特許第8,553,826号明細書に記載されている信号分配概念の一実施形態を示す。発電機1-1は、2つのツリー分配ネットワーク、分配ネットワーク1-2及び分配ネットワーク1-3を励起する。これら2つのツリー分配ネットワークは、S-クライアント1-4が位置するどの場所でも、発電機から両方のツリーネットワークを通って各S-クライアントに至る信号移動時間の合計が、同期飛行時間と呼ばれるネットワーク定数になるように、構築される。S-クライアントは同期飛行時間を検出し、位相が同期飛行時間の関数になるグローバルに位相コヒーレントな信号を生成する。
【0021】
図1の発電機1-1によって生成される信号が非変調搬送波(周期信号)である場合、S-クライアントは、グローバルにコヒーレントな信号を生成するために、2つのツリー分配ネットワークから検出された局部信号の位相を加算するだけでよい。
図2は、S-クライアント回路の実施態様を示す。位相加算器2-3は、第1の分配ツリーの枝2-1及び第2の分配ツリーの枝2-2上を進む信号の位相を加算する。出力信号2-4の位相は、ネットワークの一定の同期飛行時間に対応する定数になる。
【0022】
図2の位相加算器2-3の実施態様は、2つのツリーネットワークを進む信号が単一トーン(正弦波)である場合には、概念的には単純である。この場合には、位相加算器は単側波帯アナログ乗算器とすることができる。
【0023】
従来の高周波アナログ乗算器における位相誤差
トランジスタ及びダイオードなどの能動デバイスは、非線形デバイスである。これらの非線形デバイスを使用する従来のアナログ乗算器は、第1の入力信号が第2の入力信号と乗算されるときに、相互変調歪みを生成する。相互変調歪みは、これら2つの入力信号の各々の高次高調波、これらの入力信号の周波数間の和及び差、並びに、2つの入力信号の周波数間の和及び差の整数倍、を生成する。アナログ乗算器は通常、2つの入力信号の周波数の合計に対応する積成分を生成する。フィルタリング技術は、残りの成分の全てを除去しようと試みる。しかしながら、フィルタリングではそれらの成分の全てを除去することができないことがある。2つの入力周波数間の和及び差の整数倍のうちの幾つかは、所望の積成分に非常に近い、又は最悪の場合には、所望の積成分と重複する、結果として得られる周波数を有することがある。従来のアナログ乗算器により生成される相互変調歪みのこれらの成分は、所望の積成分に位相誤差を持ち込む。
【0024】
積成分と重複する又は積成分と非常に近い相互変調成分は、スパーであり、積成分の品質を低下させる。フィルタにより、積成分に近いこれらの相互変調成分の一部を除去することができる。しかしながら、フィルタは非常に鋭い応答を必要とすることがあるので、高次フィルタが必要になり、これにより非常にコストが高くなる傾向がある。第2に、これらのフィルタはそれら自体の位相誤差を持ち込む。所望の積成分と重複する相互変調成分は、取り除くことができず、所望の積成分に位相誤差を持ち込む。従って、スパーを形成する相互変調歪みを低減又は削除する改善された線形特性を有するアナログ乗算器が、非常に望ましい。
【0025】
別のタイプの乗算器は、単側波帯乗算器である。単側波帯乗算器は、イメージリジェクションを使用して2つの入力信号の周波数間の差の相互変調積を除去する。第1の入力信号は90°位相シフトされ、第1のアナログ乗算器に結合される。第2の入力信号は第1のアナログ乗算器に結合される。これら2つの信号は、互いに乗算し合い、上側及び下側の側波帯を含む第1のアナログ乗算器の結果として得られる積は、加算ユニットと結合する。次いで、第1の入力信号は第2のアナログ乗算器に結合される。第2の信号は90°位相シフトされ、第2のアナログ乗算器に結合される。これら2つの信号は、互いに乗算し合い、上側及び下側の側波帯を含む第2のアナログ乗算器の結果として得られる積は、加算ユニットと結合する。理想的な状況では、加算ユニットはこれらの成分を一緒に合成する。下側の側波帯は180°位相がずれており、互いに相殺し合い、一方、上側の側波帯成分は同相になり、一緒に加算され、結果を提供する。しかしながら、入力信号は有限の帯域幅を有し、位相シフトデバイスは、周波数の関数である有限の帯域幅に渡る伝達曲線を有する。この有限の帯域幅では、この有限の帯域幅に渡る単側波帯回路の挙動を一致させることは困難である。これにより、乗算された信号に位相誤差が持ち込まれる。
【0026】
相互変調積
図3Aは、f
1及びf
2の2つの周波数トーンを混合して、出力ノード3-2において結果として生じる信号を生成する、従来のアナログ乗算器3-1を示す。通常、従来のアナログ乗算器は非線形領域で動作する。これらのアナログ乗算器におけるこれらのデバイスをバイアスすることにより、これらの2つの周波数トーンの乗算が、多数の相互変調積と共に所望の成分を生成するようになる。乗算成分のうちの1つは、2つの入力周波数トーンの合計である周波数トーン(f
1+f
2)である。他の乗算成分は、2つの入力周波数トーンの差である周波数トーン(f
1-f
2)である。これらの成分に加えて、アナログ乗算器の出力において生成される多数の周波数トーンがある。これらの周波数トーンは、等式1によって示すように、2つの入力周波数トーンの高次高調波間の和及び差を含む。アナログ乗算器の非線形性のせいで、出力ノード3-2での信号には、各周波数のこれらの高次の項、及び等式1で提示されるような2つの入力周波数トーン間の様々な乗法因子の合計又は差、を含む周波数トーン成分が含まれる。所望の周波数トーン(f
1+f
2)には、望ましくなく、所望の周波数トーンの品質を低下させる成分が付随している。
【数1】
【0027】
図3Bは、f
0及びf
0の2つの等しい周波数トーンを混合して、出力ノード3-3において結果として生じる信号を生成する、従来のアナログ乗算器3-1を示す。前述のように、これらのアナログ乗算器は非線形領域で動作し、これらの2つの周波数トーンの乗算により、多数の相互変調積と共に所望の成分が生成される。従来のアナログ乗算器の非線形性は、非線形領域で動作する従来のアナログ乗算器内部のデバイスの動作に起因する。所望の乗算成分のうちの1つは、単純に2つの入力周波数トーンの合計である周波数トーン(f
0+f
0=2f
0)であり得る。別の結果として得られる成分は、2つの入力周波数トーン間の差(f
0-f
0=0)であり、これは、この場合には、cos(θ
1-θ
2)のDC電圧を有し、θ
1及びθ
2は、2つの入力周波数トーンの位相である。
【0028】
これらの成分に加えて、アナログ乗算器の出力上で生成される多数の更なる周波数トーンがある。これらの周波数トーンには、等式2によって示すように、周波数トーンの倍数の和及び差から構成される多数の異なる周波数トーンが含まれる。アナログ乗算器の非線形性のせいで、出力ノード3-3での信号には、入力周波数トーンの各々の高次の項、並びに、等式2で提示されるような2つの入力周波数トーン間の様々な乗法因子の様々な他の合計及び差、を含む周波数トーン成分が含まれる。
【数2】
【0029】
所望の乗算成分は、M=N=1又はf0+f0=2f0の場合であり、従来のアナログ乗算器3-1によって生成される残りの成分の全ては望ましくない。アナログ乗算器によって生成されるDC電圧f0-f0=cos(θ1-θ2)は、等しい周波数トーンの各々の位相の関数である。また、|M-N|=2である相互変調積及びP=2は、スパーであり、低減するか又は除去する必要がある、というのも、それらは所望の2f0周波数項と同じ周波数を有するからである。これらのスパーのうちの幾つかは、所望の積成分より15dB下に位置することがあり、10°程度の位相誤差を持ち込むことがある。線形領域で動作するアナログ乗算器は、これらの相互変調積の生成を大幅に最小化することができる。そのようなアナログ乗算器は、相互変調積の振幅及びスパーを除去又は大幅に低減することができる場合には特に、望ましいデバイスである。
【0030】
三極管領域でのMOSトランジスタ特性
線形特性を備えたアナログ乗算器は、2つの入力周波数信号間の和及び差の整数倍のうちの幾つかの大きさを減らすか、又は除去することができる。このアナログ乗算器は、スパーもともに大幅に低減又は除去することができる。そのような線形動作を備えたアナログ乗算器は、2つの入力周波数信号が互いに乗算し合うときに、より純粋な又はより理想的な積成分を提供する。本明細書で提示する位相加算回路の一実施形態は、従来の乗算器と比較した場合に、スパーの大きさを15dBから30dBまで下げ、位相誤差をそれぞれ10°から1°未満まで下げる。
【0031】
図4Aは、MOSトランジスタのIV(電流-電圧)特性4-1を示す。従来のアナログ乗算器は通常、飽和領域4-2でMOSトランジスタを動作させる。飽和領域で動作するこれらのMOSトランジスタの動作の非線形性は、等式1及び等式2で提示される相互変調積によって示されるように、明らかである。
【0032】
しかしながら、三極管領域4-3は、実用上線形デバイスとして動作することができるトランジスタを提供する。三極管領域で動作するようにバイアスされたトランジスタは、実用上線形に動作するアナログ乗算器を生成する。
図4Bは、三極管領域でのMOSデバイスの動作を示すように構成されたMOSデバイス4-4を示す。電圧V
Q、V
G、及びV
Bは一定であり、トランジスタ4-4を三極管領域で動作するようにバイアスすると仮定する。MOSデバイス4-4を流れる電流は、等式3で示すように、ソース及びドレインに印加される2つの可変電圧V
D及びV
Sの関数になる。なお、MOSトランジスタ4-4のゲート電圧が一定である場合、デバイス4-4を流れる電流は、次のように表わすことができる。
【数3】
【0033】
等式3の各関数は、等式4に示すように、テイラー級数展開として更に表すことができる。
【数4】
但し、a
0-n=f(V
G、V
Q、V
T)であり、V
T=f(V
B、V
Q)である。
【0034】
等式4を等式3に代入すると、以下が得られる。
【数5】
【0035】
ソース端子及びドレイン端子に印加される可変電圧に、((V
D=V
1)且つ(V
S=-V
1))である差動成分を持たせ、これらの等価な値を等式5に代入すると、次のように簡単化される。
【数6】
【0036】
なお、等式6の偶数項は全て相殺されゼロになる。更に、3次の奇数成分は無視できる、というのも、a
3はほぼゼロに等しいからである。更に、全てのより高次の奇数の係数は、a
3よりも大幅に小さく、無視することができる。これらの項を除去し、a
1=k(V
G-V
T)、但し、kはトランジスタを規定するパラメータのうちの1つ、を代入することにより、等式6は次のようになる。
【数7】
V
G及びV
Tは一定であると仮定されるので、MOSデバイス4-4は、三極管領域4-3で線形抵抗器として動作する。
【0037】
図4Cは、等式8で提示するように、MOSトランジスタ4-4のゲートに印加される第2の可変信号電圧V
2を持ち込む。
【数8】
等式8を等式7に代入し単純化すると、等式9としてMOSデバイス4-4を流れる電流が提供され、等式9は、基準積成分及び漏れ項の2つの部分から構成される。
【数9】
第1項は、乗算積を表す2kV
1V
2という基準積成分である。第2項は、漏れ項2kV
1(V
G0-V
T)であり、MOSデバイス4-4の漏れ成分を表す。
【0038】
図4Dは、三極管領域で動作するアナログ乗算器として構成されたMOSデバイス4-8の回路モデル表現を示す。乗算器4-7は、理想的な乗算に対応する2kV
1V
2という基準積成分を表す。増幅器Aは、振幅2k(V
G0-V
T)を有し、入力の一方V
1を乗算して漏れ成分を形成する。加算器4-6は、理想的な基準積成分及び漏れ成分という2つの項を合成する。
【0039】
図4Cで構成されるようなMOSデバイス4-4は、三極管トランジスタであり、MOSデバイスの線形特性を利用してアナログ乗算器を生成する。DC電圧V
Q、V
B、及びV
G0は、三極管領域でのトランジスタの動作にバイアスをかける。差動信号電圧V
1及び-V
1は、ソース/ドレイン端子と結合し、一方、第2の信号電圧V
2はゲートと結合する。トランジスタが三極管領域でバイアスをかけられるときに、三極管トランジスタは、等式9で説明した電流を生成する。
【0040】
図4Eは、三極管乗算器4-7においてトーンf
0という2つの等しい周波数トーンを混合する基準積成分を示す。
図4Eは、出力ノード4-9における相互変調成分の集合を提示する。三極管乗算器では、トランジスタは、MOSデバイスが線形動作を示す
図4Aの三極管領域4-3で動作する。三極管乗算器は、基準積成分として知られる2つの入力周波数トーンの単なる合計(f
0+f
0=2f
0)である周波数トーンを生成する。結果として得られる別の成分は、DC成分として知られる2つの入力周波数トーン間の差(f
0-f
0=0)である。DC成分は、cos(θ
1-θ
2)と等しいDC電圧を有し、θ
1及びθ
2は、2つの入力周波数トーンの位相である。偶数次の高調波成分(等式6を参照)は全てゼロに等しく、一方、3次及び奇数のより高次の成分の係数は実質的にゼロである。従って、
図4Eの三極管乗算器4-7によって生成される高次成分は全て、実質的にゼロであるか、又は無視できる。従って、全体で、
図4D及び
図4Eを参照することにより、三極管トランジスタは3つの成分、即ち、2f
0にある積成分、f
0にある漏れ成分、及びDC成分、を生成する。三極管トランジスタの要求される機能は、Nチャネル又はPチャネルMOSトランジスタのいずれかで実装することができる。開示した内容は例示的であり、特許請求の範囲を限定するものではなく例示するものとして解釈されるべきである。
【0041】
三極管乗算器の実装
図5は、NチャネルMOSトランジスタM
6を使用した三極管トランジスタを含むBiCMOS差動三極管乗算器を示す。トランジスタM
1、M
2、及びM
3はNチャネルMOSトランジスタであり、トランジスタM
4及びM
6はPチャネルMOSトランジスタであり、トランジスタQ
1及びQ
2は、バイポーラ接合トランジスタ(BJT)である。差動三極管乗算器は、VDD及びVSSの電源の間に2つの回路経路又は脚を含む。トランジスタM
4は、VDDをQ
1のコレクタに結合し、トランジスタM
2はVSSをトランジスタQ
1のエミッタに結合し、差動三極管乗算器の第1の脚を形成する。トランジスタM
5は、VDDをQ
2のコレクタに結合し、トランジスタM
3はVSSをトランジスタQ
2のエミッタに結合し、差動三極管乗算器の第2の脚を形成する。電流源ユニット5-9内部に位置するトランジスタM
2及びM
3は、電流I
biasをそれぞれ第1の脚及び第2の脚に供給する電流源である。差動負荷回路5-1内に配置されたトランジスタM
4及びM
5は、それぞれ差動三極管乗算器の第1の脚及び第2の脚のための受動負荷を形成する。
【0042】
三極管トランジスタM6は、トランジスタQ1及びQ2のエミッタにおいて差動増幅器の2つの脚と結合する。M6のゲートに結合されたノード5-5は信号電圧V2を受け取り、一方、三極管トランジスタM6のソース及びドレインは、それぞれQ1及びQ2バイポーラ接合トランジスタ(BJT)のベース接合に結合されたノード5-3及び5-4を介して差動信号電圧V1を受け取る。それぞれのBJTのベースに印加された差動信号電圧V1は、VBE降下を経験する。差動信号電圧V1の各々は、この電圧降下によってダウンシフトされた後で、三極管トランジスタM6のソース及びドレインに印加される。三極管トランジスタM6は、信号電圧V2と、以降では特段の断りが無い限り、V1と呼ばれる「VBEシフトされた電圧V1」とを乗算する。3つのトランジスタ、この場合にはQ1、Q2、及びM6のトランジスタ構成は、三極管インターフェース5-2を形成する。トランジスタQ1及びQ2は、三極管トランジスタを差動三極管乗算器に接続する。三極管インターフェースは、乗算を行う回路ブロックを表し、負荷5-1と電流源5-9との間にある。DC電圧VQ、VG、及びVBは、三極管領域での三極管トランジスタの動作にバイアスをかける。これらのDC電圧を調節すると、回路全体の利得も制御される。
【0043】
V
1とV
2との乗算により、
図5に示すように、等式9によって表わされる電流Iが三極管トランジスタM
6を通って流れるようになる。電流Iは、差動三極管乗算器の第1の脚においてバイアス電流I
biasに加算され、一方、同じ電流Iは、差動三極管乗算器の他方の脚においてバイアス電流I
biasから減算される。差動三極管乗算器の各脚は、差動負荷回路5-1に接続する。差動三極管乗算器は、差動負荷回路をまたがって脚5-6と5-7との間に差動出力信号電圧V
diffを生成する。
【0044】
ダイオード接続されたMOSトランジスタM1の電流Irefは、バイアス電流Ibiasを調節する。電流源ユニット5-9内のトランジスタM2及びM3は、バイアス電流Ibiasを、差動三極管乗算器の脚にミラーリングする。トランジスタM1の物理的寸法と比べたトランジスタM2及びM3の物理的寸法のスケーリングにより、三極管乗算器回路の各脚内のIbias電流が設定される。電流Irefは、電流Ibiasを調節する。通常、差動三極管乗算器の各脚は同一の特性を有し、例えば、トランジスタQ1はQ2と同一であり、トランジスタM4はM5と同一である、等である。
【0045】
差動負荷回路5-1は、2つの脚の間の抵抗分割器R1及びR2ネットワークによって決定されるコモンモード電圧を使用し、抵抗器間のこのコモンモード電圧を、差動負荷回路5-1内のPチャネルデバイスM4及びM5の各ゲートに印加する。トランジスタM4及びM5のこの自己バイアスは、三極管乗算回路に安定した負荷を提供する。
【0046】
VQ又はVGのDC電圧を調節すると、乗算器の利得が変化する。調節後のVQ又はVGの最終バイアス値は、トランジスタが三極管乗算器として動作するように、三極管トランジスタM6を三極管領域に設定するべきである。
【0047】
回路の入力は、(5-8内の上部のスペクトルに図示するように)2つの信号電圧V1及びV2を受け取る。これら2つの信号電圧は両方ともf0の周波数で動作している。三極管乗算回路は、3つの成分、即ち、2f0にある積成分、f0にある漏れ成分、及びDC成分、の出力スペクトル(5-8の下側のスペクトルで示される)を生成する。2f0にある積成分は、入力においてf0で動作する2つの周波数トーン信号の乗算を提供する。f0にある漏れ成分及びDC成分は、所望の積成分を生成するときに、三極管乗算回路の出力スペクトルにおいて望ましくない。後の章で説明する回路技術により、f0にある漏れ成分及びDC成分を除去する。
【0048】
三極管乗算回路内の三極管トランジスタは、従来のアナログ乗算器と比較すると、偶数次高調波を除去し、奇数次高調波を最小化する。三極管領域で動作するトランジスタは、より小さな大きさの相互変調項を生成するか、又はそれらの項の一部を完全に除去する。これにより、有利にも、三極管乗算回路が、従来のアナログ乗算器よりも低いノイズフロアを依然として維持しながら、従来のアナログ乗算器に勝るより大きな増幅を行うことが可能になる。三極管乗算回路は、よりクリーンな出力信号を提供しながら、Vdiffでのより大きな振幅信号を提供する。三極管乗算回路と従来のアナログ乗算器との間の実効ノイズフロアの差は、15dB程度であり得る。
【0049】
図6は、MOSトランジスタM
7及びM
8がそれぞれBJTトランジスタQ
1及びQ
2を置き換えている点を除いて、
図5で提供されたものと同様の差動三極管乗算器を示す。トランジスタM
7及びM
8は、トランジスタM
7及びM
8の、ゲートからソースへの電圧(V
GS)によって、印加された入力信号電圧V
1をシフトさせる。3つのトランジスタ、この場合にはM
7、M
8、及びM
6のトランジスタ構成は、以前と同じ構成を有し、三極管インターフェース5-2を形成するものと依然とみなされる。当業者であれば、三極管インターフェースの本開示の代替的な構成が、BJTを(図示するように)MOSトランジスタで、又は電界効果トランジスタ(FET)、ショットキートランジスタ、ダーリントントランジスタ、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ、接合型電界効果トランジスタなどの他の同等の半導体デバイスで置き換えることができることを、理解するであろう。しかしながら、三極管トランジスタM
6は、MOS特性を呈するデバイスであるべきである。
【0050】
要求されるNチャネルMOSトランジスタM6の理想的な乗算は、三極管トランジスタの適切な代替実施形態として、PチャネルMOSデバイスによって実装することができる。三極管乗算器としてPチャネルを使用した回路の一実施形態では、三極管乗算回路内の三極管インターフェースの残りのコンポーネントを、それらの無料の値で置き換えることを必要とすることがある。
【0051】
5-8内の上部のスペクトルで示されるように、それぞれ周波数f
0にある2つの等しい周波数トーン信号V
1及びV
2は、
図6の回路の入力に印加される。三極管乗算器は、3つの成分、即ち、2f
0にある積成分、f
0にある漏れ成分、及びDC成分、の出力スペクトル(5-8の下側のスペクトルで示される)を生成する。2f
0にある積成分は、f
0にある2つの周波数トーンの乗算を提供する。f
0にある漏れ成分及びDC成分は、三極管乗算器においては望ましくない。後の章で説明するように、様々な回路技術の実施形態が、これらの成分を除去する。
【0052】
図7は、
図5及び
図6に示した差動三極管乗算回路の両方のブロック図を示す。差動負荷回路5-1は、三極管インターフェース5-2をVDDに結合する。電流源ユニット7-3は、三極管インターフェース5-2をVSSに結合する。それぞれI
biasの電流を供給する電流源シンボル7-1及び7-2は、
図5及び
図6に示した乗算器の電流源ユニット5-9内の電流源トランジスタM
2及びM
3を表す。これらの図は、5-1内のコモンモード差動負荷回路を示す。前述したコモンモード差動負荷回路を選択することは、例えば、抵抗又はリアクタンス部品を含む負荷として当技術分野で知られている他の適切な選択肢を除外しない。
【0053】
ノード5-3及び5-4は差動入力を形成し、ノード5-3にはAC信号+V1が印加され、ノード5-4にはAC信号-V1、即ち、ノード5-3に印加されたAC信号とは180°位相がずれたAC信号、が印加される。ノード5-5には別のAC信号+V2が印加される。三極管インターフェース5-2は、ノード5-5にある信号電圧V2と、ノード5-3及び5-4にそれぞれ印加された信号電圧V1とを乗算する。脚5-6は電流(Ibias+I)を運び、一方、脚5-7は電流(Ibias-I)を運ぶ。ノード5-3及び5-4に印加される信号電圧V1の極性を反転すると、脚5-6を流れる電流が電流(Ibias-I)を運ぶようになり、一方、脚5-7が電流(Ibias+I)を運ぶようになる。差動負荷回路と三極管インターフェースとの間に位置する2つの脚5-6と5-7との間に差動信号電圧Vdiffが形成される。(注:ノード5-3及び5-4によって表わされる2つの入力は、ノード5-3によって表わされる第1の入力線及びノード5-4によって表わされる第2の入力線を備えた乗算回路の差動入力と呼ばれることもある。)
【0054】
図5、
図6、及び
図7の差動三極管乗算器は、次に考察される「二重平衡」差動三極管乗算器と比較して「一重平衡」と呼ばれる。
【0055】
漏れ成分の除去
三極管インターフェース5-2は、3つの成分、即ち、2f
0にある積成分、f
0にある漏れ成分、及びDC成分、の出力スペクトルを生成する。2f
0にある積成分は、入力に印加されたf
0にある2つの周波数トーンの乗算を提供する。f
0にある漏れ成分及びDC成分は、所望する最終的な結果が2f
0の基準積成分である場合には、三極管乗算回路では望ましくない。
図8Aは、三極管乗算器のブロック図を示しており、ここでは、追加の三極管インターフェースを
図7のブロック図に追加して、f
0にある漏れ成分を除去する。破線のブロックの内側に示すような、2つの三極管インターフェース5-2a及び5-2b、並びに負荷回路に結合する2つの三極管インターフェースの脚を相互接続するネットワークの組み合わせは、二重平衡三極管インターフェース8-7を形成する。
【0056】
なお、二重平衡三極管インターフェース構成とは、2つの三極管インターフェース回路が相互接続されて、その結果、それらの回路の出力は並列に接続され(即ち、ノード5-6はノード8-3に接続され、ノード5-7はノード84に接続される)、一方、入力は逆の態様で接続される(即ち、ノード5-3aはノード5-4bに接続され、ノード5-4aはノード5-3bに接続される)、ことを意味する。また、三極管インターフェース回路5-2aのノード5-5a及び三極管インターフェース回路5-2bのノード5-5bは、二重平衡三極管インターフェースへの差動入力を表し、ノード5-5aに印加されるAC信号はノード5-5bに印加されるAC信号からは180°位相がずれている、即ち、+V2対-V2である。
【0057】
差動出力電圧Vdiffは、第1の出力ノード8-1上の第1のAC成分と、第2の出力ノード8-2上の第2のAC成分と、コモンモードDC電圧と、を含む。第1のAC成分は、第2のAC成分からは実質的に180°位相シフトされている。両方のAC成分とも、実質的に同じDC電圧を含んでいる。同様に、差動入力電圧V1は、第1の入力ノード5-3a上の第1のAC成分と、第2の出力ノード5-4a上の第2のAC成分と、コモンモードDC電圧VQと、を含む。第1のAC成分は、第2のAC成分からは実質的に180°位相シフトされている。両方のAC成分とも、実質的に同じDC電圧VQを含んでいる。最後に、差動入力電圧V2は、第1の入力ノード5-5a上の第1のAC成分と、第2の入力ノード5-5b上の第2のAC成分と、コモンモードDC電圧VGと、を含む。第1のAC成分は、第2のAC成分からは実質的に180°位相シフトされている。両方のAC成分とも、実質的に同じDC電圧VGを含んでいる。
【0058】
三極管インターフェース5-2aは、ノード5-5aにある正の信号電圧V2を、ノード5-3aに印加された正の信号電圧V1と、ノード5-4aに印加された負の信号電圧V1との両方と乗算する。等式9を使用すると、脚5-6は2k(V1)(V2)+2k(V1)(VG0-VT)の電流を運ぶことが分かり、一方、脚5-7は2k(-V1)(V2)+2k(-V1)(VG0-VT)の電流を運ぶ。第2の三極管インターフェース5-2bは、ノード5-5bにある負の信号電圧V2を、ノード5-3bに印加された負の信号電圧V1と、ノード5-4bに印加された正の信号電圧V1との両方と乗算する。脚8-3は2k(-V1)(-V2)+2k(-V1)(VG0-VT)の電流を運び、一方、脚8-4は2k(V1)(-V2)+2k(V1)(VG0-VT)の電流を運ぶ。脚5-6の電流は、脚8-3の電流と結合して、脚8-5の電流4k(V1)(V2)を形成する。等式9は、漏れ成分は相殺され、一方、積成分は正の振幅で2倍になることを示す。脚5-7の電流は、脚8-4の電流と結合して、脚8-6の電流-4k(V1)(V2)を形成する。等式9は、漏れ成分は相殺され、一方、積成分は負の振幅で2倍になることを示す。更に、DC成分の原因となる(f0-f0)にある2つの信号周波数トーンの乗算結果は、回路の2つの出力8-1及び8-2の各々に加算される。Vdiff出力は、8kV1V2の所望のピーク間差動信号に、各出力に印加される同じDC成分を加えた信号を含む。DC成分は、V1とV2との間の位相差の関数である。
【0059】
図8Bは、
図8Aの回路の入力及び出力スペクトル8-3を示す。上部の波形の入力スペクトルは、重複するf
0の周波数トーンが両方の入力V
1及びV
2に印加されることを示す。下側の波形は、f
0にある漏れ電流は除去され(8-4)、DC成分は残ったままであることを示している。
図8Aの二重平衡差動三極管乗算器が
図1のネットワークの位相加算器として使用される場合、二重平衡差動三極管乗算器が分配ツリーネットワークのある場所から分配ツリーネットワークの別の場所へ結合されるにつれて、DC成分は変化する。このDC成分の変動により、2f
0にある基準積成分の抽出がより困難になる、というのも乗算結果のコモンモード電圧の変動が大きくなることがあるからである。
【0060】
図9は、
図8Aのブロック図のコンポーネントを等価な回路図で置き換えたときの一実施形態を示す。差動負荷回路5-1は、2つの脚の間の抵抗分割器R
1及びR
2ネットワークによって決定されるコモンモード電圧を使用し、抵抗器間のこのコモンモード電圧を、差動負荷回路内のPチャネルデバイスM
4及びM
5の各ゲートに印加する。トランジスタM
4及びM
5の自己バイアスは、二重平衡差動三極管乗算回路に安定した負荷を提供する。
【0061】
三極管インターフェース(5-2a及び5-2b)は両方とも、MOSトランジスタを使用して二重平衡三極管インターフェースの回路構成を形成する。例えば、三極管インターフェース5-2aはMOSトランジスタM7、M8及びM6を含み、一方、三極管インターフェース5-2bはMOSトランジスタM10、M11、及びM9を含む。トランジスタM7及びM8は、トランジスタM7及びM8の、ゲートからソースへの電圧VGSによって、印加された入力信号電圧V1をトランジスタM6にシフトさせる。トランジスタM10及びM11は、トランジスタM10及びM11の、ゲートからソースへの電圧VGSによって、印加された入力信号電圧V1をトランジスタM9にシフトさせる。
【0062】
DC成分の除去
図10Aは、二重平衡差動三極管乗算器によって生成されたDC成分を除去する一実施形態を示しており、このDC成分は、三極管乗算器が分配ツリーネットワーク2-1の信号に結合される位置の関数になる。
【0063】
図10Aの三極管乗算器構成は、前述のように、f
0にある漏れ成分を除去する出力スペクトルを生成する。しかしながら、依然として2f
0にある所望の積成分にはDC成分が付随している。DC成分を除去する一実施形態は、
図10Aに示すように、三極管乗算器の出力ノードにAC結合回路10-1を配置することである。ハイパスAC結合回路はDC成分を除去しながら、2f
0にある所望の積成分を2つの出力ノード10-2及び10-3に通過させて、ノード10-2及び10-3において結果として得られる信号V
diffを供給する。
【0064】
図10Bは、
図10Aの回路の入力及び出力スペクトル10-4を示す。上部の波形の入力スペクトルは、2つの重複するf
0の周波数トーンがV
1及びV
2に印加されることを示す。下側の波形は、前述のように二重平衡三極管インターフェースに起因した、f
0にある漏れ成分の除去8-4を示す。AC結合回路が、下側のスペクトルプロットの領域10-5内に示すように、出力からDC成分を除去する。2f
0にある積成分は、
図10Aの出力ノード10-2及び10-3に見られる。
【0065】
図11は、結合コンデンサC
1及びC
2を使用して、ノード8-1及び8-2上のDC成分cos(θ
1-θ
2)を遮断する、AC結合回路の一実施形態を示す。コンデンサC
1は、AC成分をノード8-1からノード11-2に結合する。コンデンサC
2は、AC成分をノード8-2からノード11-3に結合する。ノード11-2及び11-3は、2f
0にある所望の積成分を受け取る。差動増幅器11-1は、ノード12-2及び11-3上の信号を増幅し、ノード10-2及び10-3において結果として得られる信号出力を生成する。シリコン基板上に製造された結合コンデンサC
1及びC
2の各々は、それぞれ関連する寄生コンデンサC
3及びC
4を有する。寄生コンデンサは、結合AC信号の一部を基板に漏出させる。結合コンデンサは、関連する寄生コンデンサと共に分圧器を形成し、2f
0にある所望の積成分の差動増幅器11-1への伝達を低減させる。従って、この容量性結合ネットワークの効率は、結合コンデンサとその対応する寄生コンデンサとの比率に依存する。寄生容量が最小である結合ネットワークは、伝達の効率を高める。結合コンデンサの前述のAC結合回路を選択することは、任意の他のリアクタンス部品、又はAC成分を伝達するがDC成分は遮断するように構成されたコンポーネントの組み合わせ、などの、当技術分野で知られている他の適切な選択肢を除外しない。
【0066】
図12は、周波数差成分cos(θ
1-θ
2)に起因するDC成分を補償するための一実施形態のブロック図を示しており、このDC成分は、三極管乗算器、即ち位相加算器の一実施形態、がどこで分配ツリーネットワークの信号と結合されるかに関する位置の関数として変化する。
図11で示したように結合コンデンサを使用してDC成分を除去する代わりに、フィードバック技術により、各出力ノード上のDC成分を調節して、DC成分を、所定の値V
biasで一定に維持する。例えば、差動増幅器12a-2、ローパスフィルタ12-1a、及びPチャネルトランジスタM
12で構成されるフィードバック回路は、出力8-1に接続される。差動増幅器12-2aは、基準電圧V
biasを受け取り、出力8-1において信号をサンプリングする。差動増幅器の出力は、ローパスフィルタ12-1aでフィルタリングされ、PチャネルトランジスタM
12に印加される。トランジスタM
12は、出力ノード8-1において信号の電圧を調節する。このフィードバックループは、出力ノードの電圧のDC成分を、固定の基準電圧V
biasに維持する。
【0067】
同様に、差動増幅器12-2bは、同じ基準電圧Vbiasを受け取り、出力ノード8-2の信号をサンプリングする。差動増幅器の出力は、ローパスフィルタ12-1bでフィルタリングされ、PチャネルトランジスタM13に印加される。トランジスタM13は、出力ノード8-2をVDDに結合する。このフィードバックループは、出力ノード8-2の電圧をVbiasに調節する。各出力ノード8-1及び8-2は、電圧Vbiasに設定されたDC成分を有する。
【0068】
ノード8-1と8-2との間の出力信号には、2f0にある所望の積成分及びこのDC成分が含まれる。DC成分は、三極管乗算器、即ち位相加算器のこの実施形態、が分配ツリーネットワークの信号に結合される場所に関わらず、一定である。位相加算器は分配ツリーネットワークに異なる位置で結合されるので、フィードバックループは、位置に関わりなく一定のままになるように、DC成分を調節する。フィードバックループ技術により、2f0にある所望の積成分の抽出が可能になる、というのも、三極管乗算器が分配信号のネットワークに結合される場所に関わりなく、関連するDC成分が一定のままであるからである。
【0069】
図13は、フィードバック技術を使用してDC成分を調節する一実施形態を示す回路図で
図12のブロック図を置き換えたものである。差動負荷回路5-1は、電流ミラーM
15とM
16との間に結合された負荷素子13-1を含む別の回路実施形態で置き換えられる。ダイオード接続トランジスタM
14は基準電流I
refを供給し、ノードAで生成された電圧は電流ミラーM
15及びM
16に印加される。抵抗器又は抵抗として構成されたトランジスタなどの負荷素子13-1は、2つの出力ノード8-1及び8-2を結合する。
【0070】
ノード8-1に結合されたフィードバックループの説明は、次の通りである。高利得差動増幅器13-2aは、出力ノード8-1及び基準電圧Vbiasに結合される。差動増幅器の出力は、R3及びC5によって形成されるローパスフィルタに結合される。PチャネルトランジスタM12は、出力ノード8-1をVDDに接続する。ローパスフィルタの出力はトランジスタM12のゲートに結合され、また、出力8-1の電圧をVbiasに調節するフィードバックループを形成する。ノード8-1での電圧がVbiasを超える場合、差動増幅器の出力での電圧が増加する。RCネットワークはこの信号をM12のゲートに渡し、トランジスタM12の導電率の低下を引き起こす。これにより、M12の電流が減少し、ノード8-1の電圧が降下する。ノード8-1の電圧は、電圧Vbiasの電圧に近づく。同様に、ノード8-1の電圧がVbiasを下回る場合、差動増幅器の出力での電圧は低下する。RCネットワークはこの信号をM12のゲートに渡し、トランジスタM12の導電率の増加を引き起こす。これにより、M12の電流が増加し、ノード8-1の電圧が上昇する。差動増幅器13-2aの利得が高い場合、ノード8-1の電圧は電圧Vbiasの電圧に近づく。実際には、ノード8-1の電圧は電圧Vbiasと一致する。
【0071】
同様に、他方の出力ノード8-2については、高利得差動増幅器13-2bが、他方の出力ノード8-2及び同じ基準電圧Vbiasに結合される。差動増幅器の出力は、R4及びC6によって形成されるローパスフィルタに結合される。PチャネルトランジスタM13は、出力ノード8-2をVDDに接続する。ローパスフィルタの出力はトランジスタM13のゲートに結合され、また、ノード8-2の電圧が電圧Vbiasと一致するまで、出力ノード8-2の電圧をVbiasに調節する第2のフィードバックループを形成する。
【0072】
ノード8-1と8-2との間に形成された差動出力信号Vdiffは、2f0にある所望の積成分と、三極管乗算器が分配ツリーネットワークの信号と結合される場所に関わりなく一定であるDC成分と、を含む。DC成分は、三極管乗算器が分配ツリーネットワークの信号に結合される場所に関わらず、フィードバックループのおかげで一定である。この特徴により、2f0にある所望の積成分の抽出が可能になる、というのも、三極管乗算器、即ち位相加算器のこの実施形態、が分配信号のネットワークに結合される場所に関わりなく、関連するDC成分が一定のままであるからである。
【0073】
図14は、回路の出力ノードにおいてDC成分の電圧を調節するためのフィードバック技術の別の実施形態を示す。高利得差動増幅器14-1aは、出力ノード8-1及び基準電圧V
biasに結合される。差動増幅器の出力は、ローパスフィルタ14-2aに印加される。NチャネルトランジスタM
18は、三極管インターフェース5-2aの一方の脚に電流を供給する電流源7-1aと並列に配置される。第2のNチャネルトランジスタM
17は、三極管インターフェース5-2aの別の脚に電流を供給する電流源7-2aと並列に配置される。ローパスフィルタ14-2aは、トランジスタM
18及びM
17のゲートを駆動する。ローパスフィルタの出力はトランジスタM
18のゲートに結合され、また、出力8-1の電圧を調節する第1の自己フィードバックループを形成する。
【0074】
同様に、他方の出力ノード8-2については、高利得差動増幅器14-1bが、出力ノードのうちの一方8-2及び同じ基準電圧Vbiasに結合される。差動増幅器の出力は、ローパスフィルタ14-2bに印加される。NチャネルトランジスタM20は、電流源7-2bと並列に配置され、一方、別の及びチャネルトランジスタM19は、三極管インターフェース5-2bに関連付けられた別の電流源7-1bと並列に配置される。ローパスフィルタ14-2bは、トランジスタM19及びM20のゲートを駆動する。ローパスフィルタの出力はトランジスタM20のゲートに結合され、また、出力ノード8-2の電圧を調節する第2の自己フィードバックループを形成する。
【0075】
第1及び第2のフィードバックループは、クロスフィードバックループを介して互いに相互作用する。第1のフィードバックループでは、トランジスタM17は、出力ノード8-2の電圧を制御する第2の自己フィードバックループに影響を及ぼす電流源7-2aを増強する。同時に、第2のフィードバックループトランジスタM19は、出力電圧8-1を制御する第1の自己フィードバックループに影響を及ぼす電流源7-1bを増強する。自己フィードバック及びクロスフィードバックループは、出力電圧並びにノード8-1及び8-2を最終的には安定化させ、DC電圧Vbiasで維持する。
【0076】
ノード8-1と8-2との間の出力信号には、2f
0にある所望の積成分及び共通のDC電圧が含まれる。ノード8-1及び8-2の共通電圧には、フィードバックループによって決定されるV
biasのDC成分が含まれる。ノード8-1及び8-2のDC電圧は、三極管乗算器、即ち位相加算器のこの実施形態、が分配ツリーネットワークの信号に結合される場所に関わらず、一定である。2f
0にある所望の積成分は、DC成分が位置に関わらず一定である場合には、ノード8-1と8-2との間の出力信号から抽出することができる。
図15は、差動増幅器14-1の差動負荷回路5-1、ローパスフィルタ14-2、及び三極管インターフェース5-2のブロック図を、対応する回路図で置き換えたものである。
【0077】
図16は、
図15で説明したクロスフィードバックループを排除する一実施形態を示す。高利得差動増幅器15-1aは、出力ノードのうちの1つ8-1及び基準電圧V
biasに結合される。R
5及びC
7を備えるローパスフィルタは、差動増幅器の出力を、2つのNチャネルトランジスタM
18及びM
19のゲートに結合する。トランジスタM
18は、電流源7-1aと並列に配置され、一方、トランジスタM
19は別の電流源7-1bと並列に配置される。トランジスタM
18及びM
19は両方とも、電流源7-1a及び7-1bへの電流を補う。これらの電流源は両方とも、負荷内の共通出力ノード8-1を共有する。この第1のフィードバックループは、出力8-1の電圧を調節して電圧V
biasに一致させる。
【0078】
同様に、他方の出力ノード8-2については、高利得差動増幅器15-1bが、出力のうちの1つ8-2及び基準電圧V
biasに結合される。R
6及びC
8を備えるローパスフィルタは、差動増幅器の出力を、2つのNチャネルトランジスタM
20及びM
17のゲートに結合する。トランジスタM
20は、電流源7-2bと並列に配置され、一方、トランジスタM
17は別の電流源7-2aと並列に配置される。トランジスタM
20及びM
17は両方とも、電流源7-2b及び7-2aの電流を補って、出力8-2の電圧を調節する第2のフィードバックループを形成する。フィードバックループのこの実施形態は、
図14及び
図15のクロスフィードバックループを除去する。
【0079】
ノード8-1と8-2との間の出力信号は、2f0にある所望の積成分と、三極管乗算器が分配ツリーネットワークの信号と結合される場所に関わりなく一定であるDC成分と、を含む。2f0にある所望の積成分は、DC成分が位置に関わらず一定である場合には、容易に抽出することができる。
【0080】
図17は、フォールデッドカスコード17-1に結合された二重平衡三極管インターフェース8-7及び電流源ユニット7-3の図を示す。フォールデッドカスコードは、二重平衡三極管インターフェースに負荷を提供し、ノード17-2及び17-3における二重平衡三極管インターフェースからの信号を増幅する。増幅された信号は、フォールデッドカスコードの出力17-4において利用可能になる。
【0081】
図18は、フォールデッドカスコード17-1の回路図を示す。フォールデッドカスコードは、直列接続されたトランジスタの2つのスタックを含む。第1のスタックは、PチャネルトランジスタM
21及びM
22、並びにNチャネルトランジスタM
23及びM
24から構成される。第2のスタックは、PチャネルトランジスタM
25及びM
26、並びにNチャネルトランジスタM
27及びM
28から構成される。バイアスブロック(図示せず)が、電圧V
dc1、V
dc2、及びV
dc3を提供する。PチャネルトランジスタM
22及びM
26は、電圧V
dc2によってバイアスされるカスコードトランジスタである。PチャネルトランジスタM
21及びM
25は、二重平衡三極管インターフェース8-7並びに2つのスタック内の2つのPチャネルトランジスタM
22及びM
26への電流源を提供する。M
21によって供給される電流は、2つの三極管インターフェース回路の左脚とフォールデッドカスコード増幅器の左脚(即ち、トランジスタM
22)との間で分割されるか、又は共有される。また、M
25によって供給される電流は、2つの三極管インターフェース回路の右脚とフォールデッドカスコード増幅器の右脚(即ち、トランジスタM
26)との間で分割されるか、又は共有される。Nチャネルトランジスタは、カスコード電流ミラーを形成する。NチャネルトランジスタM
23及びM
27は、電流ミラーのカスコードコンポーネントを形成する。電圧V
dc1は、トランジスタM
23及びM
27をバイアスする。トランジスタM
24及びM
28は、第1のスタック内のM
22とM
23との間のノードを分岐させることによりバイアスされた、電流ミラーの残りの部分を形成する。二重平衡三極管インターフェースのノード17-2及び17-3を流れる電流は、それぞれ、トランジスタM
21及びM
22のソース/ドレインノードと、トランジスタM
25及びM
26のソース/ドレインノードに直接的に接続する。フォールデッドカスコードは、二重平衡三極管インターフェースに電流源を提供し、二重平衡三極管インターフェースによって引き起こされるノード17-2及び17-3を流れる電流の小さな変化に対して、出力17-4においてレイル・ツー・レイル・スイングを生成する。フォールデッドカスコードは大きな利得、大きな出力インピーダンス、及び安定性を提供する。
【0082】
図19は、フィードバックを使用してフォールデッドカスコード17-1の出力のDC電圧を設定する一実施形態を示す。フォールデッドカスコードの出力ノード17-4及び基準電圧V
biasは両方とも、差動増幅器19-1に結合される。ローパスフィルタ19-2は、差動増幅器の出力をトランジスタM
29のゲートに結合する。M
29のドレインは、ノード17-3に結合される。差動増幅器、ローパスフィルタ、M
29及びM
26は、フィードバックループを形成する。フィードバックループは、フォールデッドカスコードの出力を調節して基準電圧V
biasに一致させる。
【0083】
ノード17-4の出力信号は、2f0にある所望の積成分と、三極管乗算器が分配ツリーネットワークの信号と結合される場所に関わりなく一定であるDC成分と、を含む。2f0にある所望の積成分は、ノード17-4のDC成分のコモンモード電圧が位置に関わらず一定である場合には、容易に抽出することができる。
【0084】
図20は、フィードバックを使用してフォールデッドカスコード17-1の出力の電圧を設定する別の実施形態を示す。フォールデッドカスコードの出力ノード17-4及び基準電圧V
biasは両方とも、差動出力20-2を有する差動増幅器に結合される。ローパスフィルタ19-2は、差動増幅器の第1の出力をトランジスタM
29のゲートに結合する。ローパスフィルタ20-1は、差動増幅器の第2の出力をトランジスタM
30のゲートに結合する。M
29のドレインはリード線17-3に結合され、一方、M
30のドレインはリード線17-2に結合される。差動増幅器、ローパスフィルタ、M
29、第1のスタック、及びM
26は、フィードバックループを形成する。フィードバックループは、フォールデッドカスコードの出力を調節して基準電圧V
biasに一致させる。
【0085】
図12~
図16は、フィードバック技術を使用して、回路の出力ノードのコモンモード電圧を、V
biasによって指定される基準電圧に維持する。これらの出力ノードの出力信号は、2f
0にある所望の積成分と、三極管乗算器が分配ツリーネットワークの信号に結合される場所に関わりなく、フィードバックのおかげで一定であるコモンモード電圧に対応するDC成分と、を含む。出力ノード8-1及び8-2は、2f
0にある所望の差動積成分と、今はV
biasに設定されているコモンモード電圧に対応するDC成分と、の両方を含む。DC成分は、三極管乗算器が分配ツリーネットワークの信号に結合される場所に関わらず、一定である。2f
0にある所望の差動積成分は、差動信号のコモンモード電圧が一定のままであるノードから、容易に抽出することができる。
【0086】
図19~
図20は、フィードバック技術を使用して、回路の出力ノードのDC電圧を、V
biasによって指定される基準電圧に維持する。この出力ノードの出力信号は、2f
0にある所望の積成分と、このDC電圧に対応するDC成分と、を含む。フィードバック技術は、三極管乗算器が分配ツリーネットワークの信号に結合される場所に関わらず、DC電圧を一定に維持する。出力ノード17-4は、2f
0にある所望の積成分と、今はV
biasの電圧に設定されているDC成分と、の両方を含む。
【0087】
タンク回路を用いた漏れ成分及びDC成分の除去
前述のように、三極管インターフェース内の三極管インターフェース5-2は、3つの成分、即ち、基準積成分、漏れ成分、及びDC成分を生成する。
図21は、三極管インターフェースの負荷として使用されるバンドパスフィルタ21-1が、どのように漏れ成分とDC成分の両方を同時に除去することができるかを示している。2つの三極管インターフェースを備える二重平衡三極管インターフェースを使用する代わりに、1つの三極管インターフェースのみが必要とされる。三極管インターフェースの各脚は、タンク回路に結合される。出力ノード21-3は、L
1及びC
7によって形成されるタンク回路に結合される。出力ノード21-4は、L
2及びC
8によって形成されるタンク回路に結合される。乗算器の出力ノード21-3及び21-4は、負荷を介して結合される。
【0088】
21-2のスペクトルプロットで示されるように、それぞれ周波数f
0にある、21-8内の上部のスペクトルで示される、2つの等しい周波数トーン信号V
1及びV
2が、三極管インターフェース5-2の入力に印加される。三極管インターフェース5-2は、3つの項全て、即ち、2f
0にある積成分、f
0にある漏れ成分、及びDC成分、を生成する。三極管インターフェースからのこれら3つの成分は、バンドパスフィルタ21-1に結合される。この負荷内のタンク回路の各々は、2f
0の周波数にあわせて調整されている。従って、バンドパスフィルタは2f
0の周波数において高いインピーダンスを有し、f
0及びDCにおいては非常に低いインピーダンス成分を有する。f
0にある漏れ成分及びDC成分は、フィルタ除去され、2f
0にある周波数成分のみが残る。2f
0にある積成分は、三極管インターフェースの入力に印加されたf
0にある2つの周波数トーンの理想的な乗算を提供する。出力信号V
diffは、21-2の下側のスペクトルプロットに示されるように、2f
0にある積成分のスペクトルのみを含む。なお、10-5のDC成分及びf
0にある漏れ成分は、バンドパスフィルタによってフィルタ除去されている。
図22は、MOSデバイスのみで構成される三極管インターフェース5-2を示す。
図22の回路の出力信号V
diffは、
図21の21-2の下側のスペクトルプロットに示されるように、基準積成分のスペクトルのみを含む。
【0089】
PLL位相加算回路
位相ロックループ及び三極管乗算器は一緒に、2f
0にある積成分を生成し、2f
0にある第2の直交積成分を生成することができる。
図23に示した回路23-3の図は、回路の実施形態内の2つの位置でのスペクトルプロットを示す。三極管乗算器として構成される乗算器23-1は、分配ツリーネットワークから結合された2つの信号を乗算する。結合される信号の各々は、周波数f
0を有し、ブロック23-4内に示したスペクトルを生成する。このスペクトルは、前述のように三極管乗算器の3つの成分を含む。これらの成分は、DC成分、周波数f
0にある漏れ成分、及び周波数2f
0にある積成分を含む。ミキサ23-2の第1の入力ノード23-8は、23-4に示す結果として得られる3つの成分を有するこのスペクトルを受け取る。
【0090】
ミキサの第2の入力23-7は、周波数2f0にある周波数トーンを受け取る。ミキサ23-2は、アナログ乗算器23-1からのこれらの結果として得られる3つの成分と、周波数2f0にある周波数トーンとを混合する。ブロック23-5は、周波数の関数として、ミキサの出力23-6における結果として得られる出力スペクトルを示す。その成分には、2f0成分を生成する2f0とDCとの混合、f0成分及び3f0成分を生成する2f0とf0との混合、DC成分及び4f0成分を生成する2f0と2f0との混合、が含まれる。
【0091】
図24Aは、ミキサと位相ロックループ(PLL)24-1を合体させることにより、
図23に示す回路23-3の実施形態を完成する。PLLは、既存のミキサ23-2、ループフィルタ24-2、及び、電圧制御発振器(VCO)24-4で形成されたループを含み、VCOの出力はミキサに結合される。ミキサ23-2の出力23-6は、ループフィルタ24-2の入力と結合される。ループフィルタ24-2の出力24-3は、VCO24-4の入力に結合され、VCOの出力は、ミキサの第2の入力ノード23-7に戻るように結合される。VCOは、2f
0にある周波数トーンを生成し、この周波数トーンをミキサの第2の入力に印加する。
【0092】
PLLが含まれると、ミキサの出力ノード23-6はスペクトル24-5を生成する。このスペクトルは
図23に示したスペクトル23-5に似ている。しかしながら、24-5では、ループフィルタ24-2はスペクトルにローパスフィルタマスク24-6を適用する。ループフィルタのローパスフィルタ24-6のおかげで、ノード24-3のDC成分は、ループフィルタの出力24-3において残っている唯一の成分になる。ループフィルタは、24-5のスペクトル内の、残りのより高い周波数成分、即ちf
0、2f
0、3f
0、及び4f
0を除去する。VCO24-4は、ループフィルタからノード24-3でDC成分を受け取る。PLLの動作は、ミキサの第2の入力ノード23-7に結合されたVCOの出力において、2f
0にあるトーン周波数の位相を調節する。VCOのループは、乗算器23-1によってミキサの第1の入力ノード23-8に提供される2f
0の基準トーン周波数に、VCO自体を調節する。PLLの位相調節のプロセスにおいて、ノード23-7のDC成分の大きさが減少する。DC成分の電圧の大きさが減少するにつれて、VCOの出力での2f
0にある周波数トーンは、ミキサの入力ノード23-8に印加される信号の2f
0にある周波数トーンに対して直交(90度の位相差)に近くなる。最終的には、PLLはDC成分をゼロまで低減する。この時点で、VCOはロックする。ロックされたVCOは、ミキサへの入力ノード23-7において2f
0にある周波数トーンを生成し、この周波数トーンは、ミキサの第1の入力ノード23-8に印加される2f
0にある周波数トーンから90°だけ位相シフトされている(これは、回路の所望の出力信号も表す)。
図24Aに示されたアナログ乗算器、ミキサ、及びPLLの回路構成は、位相加算器の別の実施形態である。
【0093】
能動アンテナアレイは、複数の位相加算器を必要とする。各位相加算器は、2f0の周波数トーンにある基準積成分を生成する。能動アンテナアレイの各アンテナ素子は、2f0の周波数トーンで動作する少なくとも1つの別個の基準積成分を必要とする。従って、能動アンテナアレイ内のアンテナの各実例は、位相加算器の対応する実例を必要とする。更に、各アンテナに印加される基準積成分の各実例は、アンテナアレイ内の他の全てのアンテナに印加される基準積成分の他の全ての実例と位相及び周波数が同期されている必要がある。複数の位相加算器のそれぞれは、異なる物理的位置で分配ツリーネットワークに結合される。分配ツリーネットワークの信号は、「同期飛行時間」と呼ばれる固定のグローバルネットワークパラメータを有する。このパラメータに基づいて、位相加算器は基準積成分を生成し、この基準積成分は、複数の位相加算器の残りのものによって生成される基準積成分の他の全ての実例に対して実質的に位相コヒーレントである(実用上、同一の位相である)。従って、任意の位置で分配ツリーネットワークの信号に結合されるいかなる位相加算器も、分配ツリーネットワークの信号に結合された位相加算器の他の全ての実例に対して位相コヒーレントである基準積成分を生成する。分配ツリーネットワークの信号は、能動アンテナアレイのアレイが占有する領域全体に渡る位相一貫性を保証する。能動アンテナアレイにおいて複数の位相加算器を使用することの更なる詳細については、2013年12月17日に公開された、Mihai Banu、Yiping Feng、及びVladimir Prodanovによる「Low Cost, Active Antenna Arrays」と題された米国特許第8,611,959号明細書を参照されたい。該特許の開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0094】
図24Bは、PLLループがバッファ24-8を含む位相加算器の一実施形態を示す。バッファは、PLLの性能に大きな影響を及ぼすことなく、より大きな負荷を駆動することができる。バッファ24-8は、ミキサの第2の入力ノード23-7に戻すように、2f
0の基準積成分を提供する。バッファは、出力リード線24-9を介してより大きな負荷を駆動することができる。リード線24-9の信号は、位相アレイの少なくとも1つのアンテナに、2f
0にある基準積成分を提供する。分配ツリーネットワークの異なる部分に結合された残りの位相加算器は、2f
0にある基準積成分の独自の信号を提供する。それぞれの位相加算器によって生成された2f
0の基準積成分の全ての実例は、フェーズドアレイ全体に渡ってグローバルに同相である。各アンテナに提示された2f
0のこのグローバルな基準積成分により、フェーズドアレイによって確立される通信チャネルの様々なビームを正確に操舵することが可能になる。
【0095】
図25は、アナログ乗算器23-1及びミキサ23-6を備える
図23に最初に示したモデルと、右側に示した対応する回路及びブロック均等物との並列比較を示す。アナログ乗算器23-1の第1及び第2の入力は、分配ツリーネットワークから結合されたf
0の周波数トーンに結合される。対応する回路実施態様は、分配ツリー信号のネットワークからf
0の差動周波数トーンを受け取る二重平衡三極管インターフェース8-7を提示する。なお、二重平衡三極管乗算器8-7及びギルバートミキサ25-3は、互いに電気的に積み重ねられ、その結果、電流源部によって乗算回路に供給されたバイアス電流は、ミキサ回路に対してもバイアス電流として働く。
【0096】
アナログ乗算器23-1は、乗算結果を生成する。二重平衡三極管インターフェース8-7は、図示するように2つの出力リード線上で対応する乗算結果を生成する。ミキサ23-2の第1の入力は乗算結果を受け取り、ミキサの第2の入力は2f0の周波数トーンを受け取り、出力23-6は混合された信号結果を提供する。ミキサ23-2の対応する回路は、乗算結果として、二重平衡三極管インターフェース8-7から乗算結果を受け取り、第2の入力として入力リード線25-4及び25-5上で2f0の平衡二重周波数トーンを受け取る、二重平衡ギルバートミキサ25-3である。二重平衡ギルバートミキサの差動出力25-1及び25-2は、混合された信号結果を提供する。
【0097】
図26は、二重平衡ギルバートミキサ25-3で形成されたPLLを使用した位相加算器を形成するのに必要なコンポーネントを説明する一実施形態を示す。ローパスフィルタ26-1及び26-2は、それぞれ二重平衡ギルバートミキサ25-1及び25-2の出力を任意選択的にフィルタリングする。これらのフィルタリングされた出力は、増幅器26-3に結合される。増幅器は、ループフィルタ26-4の入力に結合される。ループフィルタはDC成分を通過させ、f
0成分とその高調波を除去する。ループフィルタの出力は、VCO24-4に結合される。2f
0で動作するVCOの差動出力は、二重平衡ギルバートミキサ25-3のゲートに結合される。この最終的な位相加算器回路は、
図24Aで説明した回路と等価である。
【0098】
理想的な2f0乗算成分を含む二重平衡三極管インターフェースからのリード線26-6及び26-7上の乗算結果は、二重平衡ギルバートミキサ25-3内で、VCO24-4からの2f0出力信号25-4及び25-5と混合される。PLLの動作により、VCOの2f0出力が、二重平衡三極管インターフェースによって生成されたリード線26-6及び26-7上の基準2f0電流信号に直交してロックされるようになる。
【0099】
図27は、他のコンポーネントを使用して二重平衡ギルバートミキサ25-3を備えたPLLを形成する位相加算器の別の実施形態を示す。二重平衡ギルバートミキサ出力25-1及び25-2は、フォールデッドカスコード17-1に結合される。フォールデッドカスコードの出力は、ループフィルタ26-4によってDCフィルタ処理され、VCO24-4に印加される。
【0100】
分配ツリーネットワークは、第1の方向に流れる差動基準積成分トーンf0を運ぶ第1の差動信号を結合し、第2の反対方向に周波数トーンf0を運ぶ第2の差動信号を乗算器に結合する。第1の差動信号27-3及び27-4は、トランジスタM7、M8、M10、及びM11に結合される。これらのトランジスタは、各三極管インターフェースのIbias電流を切り換えた。第2の差動信号27-1及び27-2は、三極管トランジスタM6及びM9のゲートに結合される。これらのトランジスタは、三極管インターフェースの脚の間の電流Iを制御する。電流Iの大きさは通常、電流Ibiasの大きさよりも大幅に小さい。
【0101】
図28は、PLLループ内に更なるコンポーネントが追加された
図27のブロック図を示す。更なるコンポーネントとは、差動バッファ28-1である。差動バッファは、PLLループの一部であり、PLLの性能に影響を及ぼすことなく大きな負荷を駆動することができ、その他の点では動作は
図26と同様である。
【0102】
図29は、位相加算器の一実施形態を示し、三極管インターフェースのトランジスタスタック及び二重平衡ギルバートミキサは、電源が低下した場合に追加の電圧供給余力を提供するために、分断される。二重平衡三極管インターフェースからの乗算結果は、電流ミラー29-1に結合される。電流ミラーは電流源29-2を制御し、Nチャネルトランジスタを使用して実装された二重平衡ギルバートミキサ29-3に電流を供給する。PLLは、二重平衡ギルバートミキサ、フォールデッドカスコード17-1、ループフィルタ26-4、VCO24-4、及びバッファ28-1というコンポーネントから構成される。
【0103】
なお、上述の回路の大部分が、単一の集積回路チップ上に製造されるのが好ましく、そうすると、デバイスの特性及び性能においてはるかに大きな均一性がより容易に達成可能になる。これには、例えば、
図5~7、
図8A、
図9、
図10A、
図11~21、
図24A、
図24B、及び
図25~29によって示した回路が含まれる。
【0104】
実用上の欠陥に起因する位相誤差の除去
前の章で開示した位相加算回路を実際に実現するには、トランジスタの不整合、バイアス変動、温度変動、望ましくない信号結合等に起因する、無視できない出力位相誤差がある場合がある。言い換えると、実際に実現する出力位相は、誤差値の分だけ2つの入力位相の理想的な合計とは異なることになる。次に、これらの実際の位相誤差を低減又は除去する技術について説明する。これらの技術は、較正方法とも呼ばれる。
【0105】
図24A及び
図24BのようなPLLベースの位相加算回路の場合、出力位相誤差の主な原因は、回路全体に渡る望ましくないDCオフセットの発生である。例えば、非線形デバイスであるトランジスタを通って伝搬する任意の信号は、DCスパーを生成することがあり、このDCスパーは、PLLループフィルタがDCを通過させるので、位相加算器の出力において、且つVCOの入力において、潜在的に結局は様々な機構を通ることになり得る。ロックされている場合、PLLはVCOの入力における合計DC信号をゼロに駆動する。VCOの入力におけるこの合計DC信号は、所望のDC信号と全てのDC誤差の合計から構成されるので、PLLがロックされている場合、所望の信号は、全てのDC誤差の合計のマイナスと等しくなる。これにより、実現される位相加算器の出力であるVCOの出力において、位相誤差が生成される。
【0106】
上述した位相誤差を最小限に抑えるか又は除去するための方法は、VCOの入力におけるDC誤差を較正することである。これは、三極管トランジスタのゲート(
図8Aの端子5-5a及び5-5b)に接続する、位相加算器の入力をまず切断することにより、行うことができる。これにより、VCOの入力においてDC成分を加算する所望の位相がゼロになる、というのも、三極管インターフェース(
図8Aの5-2a及び5-2b)によって信号が生成されないからである。VCOの入力において残っている唯一のDC成分は、全てのDC誤差の合計である。なお、三極管トランジスタのゲート接続のみを切断することは、位相加算回路に対する最小限の侵襲行為であり、回路内のDC誤差生成機構の大部分を含めて、位相加算器の全ての他のコンポーネント接続及び信号を損なうことなく残す。三極管トランジスタのゲート接続を切断することと並行して、VCOの入力がPLLループによって強制的にゼロにならないように、PLLループを切断しなくてはならない。次に、DC誤差を監視し(例えば、設定値と比較し)、追加の回路を用いてDC誤差を較正することができる。この較正が行われた後、三極管トランジスタのゲート接続及びPLLループは、元の構成へと再接続される。次に、PLLロック支援メカニズムを追加して、この概念の実施態様について提示する。
【0107】
図30Aは、位相加算器を較正するのに使用される較正回路の一実施形態を示す。
図27に示した位相加算回路は、例えば、この較正回路を使用して、位相加算器内の主PLLを較正することができる。
図30A及び
図27を並べて比較すると、これらの回路の各々の中の共通のコンポーネントがハイライトされる。例えば、
図30Aのアナログ乗算器23-1及びミキサ23-2の回路図は、それぞれ
図27では対応する点線のボックス23-1及び23-2内に示される。
図27では、フォールデッドカスコード17-1、ループフィルタ26-4、VCO24-4、及び二重平衡ギルバートミキサ23-2のコンポーネントは、「主PLLループ」を形成する。なお、
図30Aでは、(バッファ28-1は無視して)同じ列挙されたコンポーネントが、「主PLLループ」を形成するが、スイッチSW1の位置により、現在はループは開いている。
【0108】
スイッチSW1は、「初期化PLLループ」と呼ばれる異なるPLLループを形成するように設定される。このループは、「主PLLループ」と共通のコンポーネント、即ち、ループフィルタ26-4及びVCO24-4(及びバッファ28-1)を含む。しかしながら、「初期化PLLループ」は、2分割器30-2並びに位相及び周波数検出器30-3という新しい回路コンポーネントを使用して、「初期化PLLループ」を完成させる。新たに形成された「初期化PLLループ」は、位相周波数検出器30-3、ループフィルタ26-4、VCO24-4、バッファ28-1、及び2分割器30-2を含む。「初期化PLLループ」は、VCO24-4の動作周波数を、分配ツリーネットワークの信号から結合されたf0周波数トーンの2倍の周波数に設定する。f0周波数は、位相周波数検出器30-3の基準積成分として働く。位相周波数検出器30-3は、分配ツリーネットワークからの基準積成分f0を、30-2において2で除算した後のVCO24-4の周波数と比較する。「初期化PLLループ」は、VCOを周波数2f0で動作させるループフィルタ26-4の出力におけるDC制御電圧30-16を生成するように落ち着く。SW1が「主PLLループ」を生成するように切り替えられる前に、フォールデッドカスコード17-1の出力におけるDC電圧を、ループフィルタ26-4の出力における「初期化PLLループ」のDC制御電圧と一致させる必要がある。スイッチSW2は、フォールデッドカスコードの出力におけるDC電圧を初期化する。
【0109】
スイッチSW2は、DC電圧GNDをアナログ乗算器23-1の一方の入力に結合して、このタスクを行う。アナログ乗算器が、定数(0V)と、アナログ乗算器の第2の入力に結合された任意の他の信号とを乗算する場合、アナログ乗算器のAC出力30-11はゼロになる。
図27では、スイッチSW2(図示せず)が信号線27-1及び27-2を切断して、トランジスタM
6及びM
9のゲートをGNDに接続する。一方、
図27では、アナログ乗算器23-1のトランジスタM
7、M
8、M
9、及びM
11の残りのゲートは、相互接続27-3及び27-4を介して、分配ツリーネットワークの信号からの基準f
0周波数トーンに結合されたままである。これら4つのトランジスタの過渡的動作は、印加された基準f
0周波数トーン信号によって駆動され、一方、トランジスタM
6及びM
9はオフになる。二重平衡三極管インターフェースの出力信号(26-6及び26-7)は、二重平衡ギルバートミキサ23-2の入力のうちの1つに結合される。二重平衡ギルバートミキサの他方の入力は、線25-4及び25-5を介してVCOに結合される。
図30Aに戻ると、対応する回路構成は、ミキサ23-2の入力のうちの1つに結合されたアナログ乗算器の出力30-11と、(リード線30-12及びバッファ28-1を介して)ミキサ23-2の第2の入力に結合されたVCOの出力と、である。
【0110】
図30Aでは、ミキサの出力30-13は、フォールデッドカスコード17-1から電流を引き出す。フォールデッドカスコードは、非常に鋭い伝達曲線を有する非常に大きな利得を持つ。フォールデッドカスコードの出力30-14のDC電圧は、集積回路の製造に起因してトランジスタに課されるプロセス変動に加えて、ミキサ23-2から受け取った信号に依存する。フォールデッドカスコードの出力におけるDC電圧の不確実性を補償するために、フォールデッドカスコード17-1、及びローパスフィルタ30-4、比較器30-5、ステートマシン30-6、電流調節ブロック30-7、及び加算器30-8を含む「フィードバックループ」が形成される。フォールデッドカスコードの出力30-14のDC電圧を、「初期化PLLループ」内のVCOで生成されたループフィルタ電圧のDC制御電圧30-16と一致するように設定することが望ましい。
【0111】
フィードバックループ内の比較器30-5は、ループフィルタのDC制御電圧30-16と、ローパスフィルタ30-4を介したフォールデッドカスコードの出力30-14でのDC出力電圧とを比較する。比較器30-5はこれら2つの入力信号を比較し、結果として得られる信号を順次ステートマシン30-6に印加する。順次ステートマシンは、比較器の結果に基づいて出力を生成する。ステートマシンからの出力30-15は、電流調節器30-7の電流を小さな増分ステップで調節する。加算器30-8は、この小さな増分電流を、フォールデッドカスコード17-1がミキサ23-2から調達する既存の電流と結合させる。小さな増分電流は、フォールデッドカスコードの出力30-14でのDC動作点を変化させ、比較器30-5の入力に印加される信号間の差を低減させる。順次ステートマシンは再度結果を比較し、必要であれば別の小さな増分ステップを行う。このプロセスは、比較器に印加された入力間の差がゼロに近づくまで続けられる。一旦比較器が、差がゼロを通り越してマイナスになったと判断すると、ステートマシンは動作を停止し、電流調節器30-7のデジタル状態をメモリ(図示せず)に記憶する。次いで、記憶された結果は、電流調節器30-7に継続的に適用され、その結果、30-14での出力電圧が、ループフィルタ26-4の出力30-16での電圧と実質的に一致する。
【0112】
一旦、VCOが分配ツリーネットワークの信号のうちの1つの周波数の2倍で動作し、且つフォールデッドカスコードの出力30-14におけるDC電圧がループフィルタの出力30-16におけるループ電圧と一致すると、スイッチSW1及びSW2は、
図30Bに示すように反対の位置に切り換わる。この新たなスイッチ位置は、「初期化PLLループ」のループを切断し、「主PLLループ」を形成する。
【0113】
「主PLLループ」は、カスコード17-1の出力電圧30-14がループフィルタ26-4の入力に結合された後で形成される。更に、SW2が状態を変化させたので、アナログ乗算器23-1は3つの成分、即ち、2f0にある積成分、f0にある漏れ成分、及びDC成分を生成し、これらの信号をリード線30-11を介してミキサに印加する。ミキサ23-2は、ノード30-13に混合積を生成する。これらには、DC成分及び2f0成分を生成する2f0 X DCの混合、f0成分及び3f0成分を生成する2f0 X f0の混合、並びに、別のDC成分及び4f0成分を生成する2f0 X 2f0の混合、が含まれる。「主PLLループ」の設計は、一旦このPLLループが形成されると「主PLLループ」がロックされることを保証するロック範囲を有する。ループフィルタ26-4の出力30-16におけるDC成分は、「主PLLループ」のフィードバック作用を通じて減少する。DC成分がゼロまで減少するにつれ、ミキサ23-2の入力に印加された2f0信号間の位相差は90°に近づき、VCOの周波数を、アナログ乗算器23-1の出力における2f0の基準積成分トーンに直交して位相ロックする。較正ステップにより、位相加算器の全ての実例の周波数がグローバルに同一になり、フェーズドアレイのシステム全体の中で位相ロックされることが確実になる。
【0114】
図31Aは、2f
0 VCO24-4を4f
0 VCO31-3で置き換えることにより、
図30Aに示した回路の別の実施形態を提示する。4f
0にある周波数は、2分割器31-1で分割されて、2f
0で動作し90°だけ離れているI及びQ周波数を生成する。I及びQ信号の各々は、それぞれバッファ28-1及び31-2によってバッファされる。その他の点では、
図31Aの回路の動作は、
図30Aの回路の動作を反映している。
図31Bは、スイッチSW1及びSW2が接続性を変更した後の主PLLループの形成を示している。この回路は、VCOが4f
0の周波数で位相ロックし、2f
0の周波数で動作するI及びQ信号を生成するという点を除いて、
図30Bで示した回路と同様に動作する。
【0115】
図32は、電流調節ブロック32-1a及び32-1bの各々がデジタルトランジスタアレイで置き換えられていることを示す。ステートマシン30-6は、デジタルトランジスタアレイのトランジスタのゲートに印加されるデジタル重みを調節する。デジタル重みを調節すると、デジタルアレイを流れる電流が変化する。これらの電流は、フォールデッドカスコード17-1を流れる電流を調節し、フォールデッドカスコードの出力電圧を変化させる。比較器30-5は、入力の電圧差を比較し、結果をステートマシンに送る。ステートマシン30-6は、比較器から受け取った情報に応じてデジタルトランジスタアレイに徐々に増加的に変更を加えるために、連続した逐次ステップになる。このプロセスは、比較器の入力の差がゼロに近づき、その後極性が切り替わるまで連続的に続く。ステートマシンは、逐次比較を停止し、デジタル重みをメモリ(図示せず)に記憶する。
図33は、デジタルトランジスタアレイを電流調節ブロック32-1a及び32-1bで置き換えたものである。
【0116】
図34は、VCOの周波数を初期化し、分配ツリーネットワークの信号から結合された基準積成分f
0に位相ロックするための、コンピュータ又はプロセッサ実施アルゴリズムの流れ図を示す。ステップ34-1では、第1のPLL内のVCOに結合されたループフィルタが、VCOの周波数を、分配ツリーネットワーク(DTN)の複数の信号のうちの1つにロックし、位相周波数検出器に結合する。第1のPLLのループは、分割器、位相周波数検出器、ループフィルタ、及びVCOを含む。分配ツリーネットワークの信号は、周波数f
0を有する。VCOは、f
0の整数倍の周波数で動作することができる。
【0117】
ステップ34-2では、第1のPLLのループフィルタのDC電圧出力を、フィードバックループ内の比較器の第1の入力に結合する。フィードバックループは、比較器、ステートマシン、電流調節器、フォールデッドカスコード、及びローパスフィルタを含む。ステートマシンは、順序機械である。デジタル動作は、ステートマシンがシーケンス動作を停止しない限り、クロックサイクル毎に1回、決定動作を行う。
【0118】
ステップ34-3では、複数のDTN信号のうちの1つをアナログ乗算器内のDC電圧と乗算してゼロの結果を生成する。スイッチは、DC電圧をアナログ乗算器に結合する。理想的には、アナログ乗算器は三極管乗算器であるが、他のタイプのアナログ乗算器を使用することもできる。アナログ乗算器の他の入力は、f0にあるDTN信号のうちの1つのネットワークに結合される。
【0119】
ステップ34-4では、ミキサが、アナログ乗算器の出力からの信号を、第1のPLL内のVCOによって生成された周波数と混合する。ミキサは、混合信号を生成する。ミキサは、二重平衡ギルバートミキサとすることができるが、他のミキサ構成も可能である。第1のPLLのVCO出力信号は、二重平衡ギルバートミキサに結合される。任意選択的に、バッファは、容量駆動特性を向上させるために、VCO出力信号をバッファする。
【0120】
ステップ34-5では、混合信号を、フォールデッドカスコードを介して比較器の第2の入力に結合する。フォールデッドカスコードは、ミキサに電流源を供給し、ミキサから到来する信号に基づいて出力信号を生成する。ローパスフィルタは出力信号をフィルタリングし、出力信号を比較器の第2の入力に結合する。
【0121】
ステップ34-6では、フィードバックループに持ち込まれる電流により、第2の入力が比較器の第1の入力での電圧と実質的に一致するまで、第2の入力を調節する。フィードバックループは、順番に動作するステートマシンを含む。一旦比較器が2つの入力を受け取ると、ステートマシンは比較器の比較結果を受け取り、比較器への入力間の差を低減するように、ミキサとフォールデッドカスコードとの間のノードに流れる電流を調節する方法を決定する。ステートマシンによって制御される、デジタル方式で重みづけされたトランジスタアレイが、電流調節を提供する。アレイは、並列に配置されたトランジスタを含み、各トランジスタは1X、2X、4X等のデジタル的にスケーリングされた幅を有する。ステートマシンにより、トランジスタがアレイの全体的な幅を調節できるようになる。ステートマシンのシーケンスは、各クロックサイクルを一ステップずつ実行し、1つの最小トランジスタ幅の分だけ、トランジスタアレイ全体の幅を増やすか又は減らす。各ステップにより、フォールデッドカスコードの出力での電圧が変化し、その結果、比較器の入力に印加された差が減少する。順次プロセスでは、アレイのトランジスタ幅は、クロックサイクル毎に調節される。一旦比較器に印加される電圧入力が極性を反転させると、ステートマシンは順次プロセスを停止する。ステートマシンによって決定されたデジタルの重みは、メモリに記憶される。メモリはこのデジタルの重みを保持し、このデジタルの重みを、通常動作中にトランジスタアレイに適用する。
【0122】
ステップ34-7では、スイッチがDC電圧を置き換え、アナログ乗算器の入力を複数のDTN信号のうちの別の信号と結合する。アナログ乗算器は、分配ツリーネットワークから結合された信号のうちの2つを乗算する。これらの分配ツリー信号は、これらのアナログ乗算器が分配ツリーネットワークに結合される場所の異なる実例に渡って1つの定数である、同期飛行時間を有する。この態様により、これらのアナログ乗算器がグローバルに位相コヒーレントな信号を生成することが可能になる。アナログ乗算器の結果には、グローバルに位相コヒーレントな信号が埋め込まれている。ミキサへの入力のうちの1つは、このアナログ乗算器の結果を受け取る。
【0123】
ステップ34-8及び34-9では、第1のPLLのループが、ループフィルタへの入力において切断される。スイッチが、フォールデッドカスコードの出力をループフィルタの入力に結合する。この切り替えプロセスは、ループフィルタ、VCO、バッファ、ミキサ、及びフォールデッドカスコードを含む第2のPLLループも形成する。フォールデッドカスコードの出力での電圧はループフィルタの出力での電圧と実質的に一致するので、それらを結合することにより、第2のPLLの過渡的動作が最小限に抑えられる。これにより、新たに形成された第2のPLLが、そのロック範囲内で適切に動作できるようになる。
【0124】
ステップ34-10では、第2のPLLは、VCOの2f0周波数を、アナログ乗算器によって生成された乗算成分の2f0成分と位相ロックさせる。ミキサは、これら2つの周波数を比較し、フォールデッドカスコードの出力におけるDC電圧成分を低減させる。DC電圧成分がゼロに低減されると、第2のPLLは位相ロックされる。
【0125】
図35は、VCOを分配ツリーネットワークの信号にロックするためのコンピュータ又はプロセッサ実施アルゴリズムの別の流れ図を示す。35-1では、第1のPLLは、複数のDTN信号のうちの1つに周波数ロックされる。第1のPLLは、ループフィルタ及びVCOを含むループのセグメントを含む。ループのこのセグメントは、バッファも含むことができる。第1のPLLの残りのコンポーネントは、分割器及び位相周波数検出器である。
【0126】
ステップ35-2では、VCO内のループフィルタの出力電圧は、比較器の第1の入力に結合される。比較器は、ステートマシン、電流調節器、フォールデッドカスコード、及びローパスフィルタを含むフィードバックループの一部である。
【0127】
ステップ35-3では、アナログ乗算器を使用して分配ツリーネットワークの信号のうちの1つをDC電圧と乗算して、アナログ乗算器の出力において実質的にゼロの乗算信号を生成する。第1のスイッチは、DC電圧をアナログ乗算器に接続させる。
【0128】
ステップ35-4では、ミキサはゼロの乗算信号を、第1のPLLのループのセグメント内にあるVCOから得られた出力信号と混合する。ミキサは、乗算信号をVCO信号と混合することにより、混合信号を生成する。
【0129】
ステップ35-5では、混合信号は、フォールデッドカスコードを含むフィードバックループのセグメントを介して、比較器の第2の入力と結合する。ローパスフィルタは、フォールデッドカスコードの出力での電圧をフィルタリングした後で、比較器の第2の入力に印加する。
【0130】
ステップ35-6では、フォールデッドカスコードを通る電流を調節して、フォールデッドカスコードの出力でのDC電圧を変更する。順次ステートマシンは、電流調節により、DC電圧を徐々に増えるように変化させる。漸増的な電流調節の度に、比較器の入力における電圧差が減少する。ステートマシンは、デジタル制御されるトランジスタアレイに適用されるデジタル重みを変更する順次プロセスを継続する。トランジスタアレイは、フォールデッドカスコードの出力におけるDC電圧を調節する。ステートマシンにより決定されるデジタル重みにより、比較器の入力間の差が低減される。しかしながら、一旦比較器の入力間のこの差がゼロより小さくなると、ステートマシンはオフになる。トランジスタアレイへのデジタル制御の状態は、メモリに記憶される。メモリ内のデジタル計量は、通常動作中にトランジスタアレイのサイズを決定する。
【0131】
ステップ35-7では、アナログ乗算器の入力におけるスイッチがDC電圧を切断し、複数のDTN信号のうちの別の信号をアナログ乗算器に印加する。次いで、アナログ乗算器は、VCO信号の周波数と同一の周波数成分を含む乗算信号を生成する。
【0132】
ステップ35-8では、第2のスイッチが第1のPLL内のループのセグメントへの入力を切断する。第2のスイッチは、この入力を、フォールデッドカスコードを含むセグメントの出力に結合する。この新たな接続により、ループフィルタ、VCO、存在することがあるバッファ、ミキサ、及びフォールデッドカスコードを含む第2のPLLが生成される。
【0133】
ステップ35-9では、第2のPLLはVCOを、ミキサに印加される乗算信号に位相ロックする。VCOが位相ロックされると、フォールデッドカスコードの出力におけるDC成分が減少する。一旦DC成分がゼロ電圧に達すると、VCOは、VCOと同じ周波数を有する乗算信号内の基準積成分に直交位相ロックされる。VCOの周波数は、VCOと同じ周波数を有する乗算信号内の成分から90°の空間シフトで動作する。
【0134】
他の実施形態が、以降の特許請求の範囲内にある。例えば、ネットワーク及びポータブルシステムは、時分割多元接続(TDMA)、周波数分割多元接続(FDMA)、符号分割多元接続(CDMA)、直交周波数分割多重(OFDM)、超広帯域(UWB)、Wi-Fi、WiGig、Bluetooth(登録商標)等の通信技術を使用することにより、無線で情報を交換することができる。通信ネットワークには、電話ネットワーク、IP(インターネットプロトコル)ネットワーク、ローカルエリアネットワーク(LAN)、アドホックネットワーク、ローカルルーター、及び更に他のポータブルシステムを含めることができる。「コンピュータ」とは、単一のマシン若しくはプロセッサ、又は複数の相互作用するマシン若しくはプロセッサ(単一の場所にあるか、又は互いに離れた複数の場所にある)であり得る。複数の相互作用するマシン又はコンピュータを構成できる1つ又は複数のプロセッサは、これらのデジタルの又はアナログの制御信号を生成する。コンピュータ可読媒体はコンピュータプログラムで符号化することができ、その結果、1つ又は複数のプロセッサでそのプログラムを実行すると、位相及び振幅を調節する方法のうちの1つ又は複数を実行することができる。特許請求される半導体基板は、シリコン、ゲルマニウム、ガリウムヒ素、III-V族半導体等の半導体を使用して実装することができる。チップと呼ばれるパッケージ化されたユニットは、これらの半導体基板を含み、フェーズドアレイのシステム内の回路基板に搭載される。半導体基板上に形成される回路は、CMOS又はBiCMOS製造の技術を使用することができる。