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特許7295825傾斜角度制御装置、傾斜角度制御方法及び鉄道車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】傾斜角度制御装置、傾斜角度制御方法及び鉄道車両
(51)【国際特許分類】
   B61F 5/22 20060101AFI20230614BHJP
   B61F 5/10 20060101ALI20230614BHJP
   B61F 5/24 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
B61F5/22 G
B61F5/10 D
B61F5/22 F
B61F5/24 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020069582
(22)【出願日】2020-04-08
(65)【公開番号】P2021165099
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2022-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100187388
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 天光
(72)【発明者】
【氏名】神山 雅子
(72)【発明者】
【氏名】風戸 昭人
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-265692(JP,A)
【文献】特開2014-046884(JP,A)
【文献】特開2011-136666(JP,A)
【文献】特開2018-039286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、前記車体の前方部分を支持する前位台車と、前記車体の後方部分を支持する後位台車と、を備えた鉄道車両における、前記車体の傾斜角度を制御する傾斜角度制御装置において、
線路全体の形状に関するデータベースから、未走行区間の線路の形状に関する未走行線路データと、前記未走行区間の線路上における予定走行条件と、を取得するデータ取得処理を行うデータ取得処理部と、
前記車体の前記前方部分の前記前位台車に対する傾斜角度の第1目標値、及び、前記車体の前記後方部分の前記後位台車に対する傾斜角度の第2目標値、を決定する演算処理を行う演算処理部と、
前記演算処理にて決定された前記第1目標値に合わせて前記車体の前記前方部分を傾斜させ、前記演算処理にて決定された前記第2目標値に合わせて前記車体の前記後方部分を傾斜させる動作部と、
を有し、
前記演算処理部は、
前記未走行区間の線路上を前記鉄道車両が走行する際の前記車体の前記前方部分の乗り物酔いを含めた乗り心地の第1評価指標を推定するための第1評価関数を、前記未走行線路データと、前記予定走行条件と、に基づいて、前記車体の前記前方部分の前記第1目標値の関数として決定する第1関数決定処理と、
前記未走行区間の線路上を前記鉄道車両が走行する際の前記車体の前記後方部分の乗り物酔いを含めた乗り心地の第2評価指標を推定するための第2評価関数を、前記未走行線路データと、前記予定走行条件と、に基づいて、前記車体の前記後方部分の前記第2目標値の関数として決定する第2関数決定処理と、
前記第1評価関数により推定される前記第1評価指標の値と、前記第2評価関数により推定される前記第2評価指標の値と、の和が一定の範囲内に含まれるように、前記第1目標値と前記第2目標値とを決定する目標値決定処理と、
を含む前記演算処理を行い、
前記未走行線路データは、前記未走行区間の線路のカントに比例するか又は前記未走行区間の線路の曲率半径に反比例する形状変数を含み、
前記前位台車の位置での前記形状変数を第1変数とし、前記後位台車の位置での前記形状変数を第2変数としたとき、
前記演算処理部は、前記目標値決定処理では、前記第2変数から前記第1変数を減じて得られる第1値を前記線路の軌間で除して得られる第2値を、更に前記第1目標値に加えて得られる第3値が、前記第2目標値に等しくなる条件で、前記第1目標値と前記第2目標値とを決定する、傾斜角度制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の傾斜角度制御装置において、
前記第1評価関数は、以下の数式(1)又は数式(2)で表され、
前記第2評価関数は、以下の数式(3)又は数式(4)で表され、
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
(但し、t:時間、F(φ(t)):前記第1評価関数、F(φ(t)):前記第2評価関数、α,α:係数、μ:係数で1以上の実数、n:正の整数)
前記第1評価関数が前記数式(1)で表されるとき、前記第2評価関数は、前記数式(3)で表され、
前記第1評価関数が前記数式(2)で表されるとき、前記第2評価関数は、前記数式(4)で表され、
前記第1評価関数が前記数式(1)で表されるとき、前記fJT1(t)は、以下の数式(5)で表され、
前記第1評価関数が前記数式(2)で表されるとき、前記fJT1(t)は、以下の数式(6)で表され、
前記第2評価関数が前記数式(3)で表されるとき、前記fJT2(t)は、以下の数式(7)で表され、
前記第2評価関数が前記数式(4)で表されるとき、前記fJT2(t)は、以下の数式(8)で表され、
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
(但し、a11,b11,c11,d11,a12,b12,c12,d12,e,a21,b21,c21,d21,a22,b22,c22,d22,e:係数、μ:係数で1以上の実数、n:正の整数)
前記yp1(t)は、以下の数式(9)で表され、
前記yj1(t)は、以下の数式(10)で表され、
前記θp1(t)は、以下の数式(11)で表され、
前記θj1(t)は、以下の数式(12)で表され、
前記yp2(t)は、以下の数式(13)で表され、
前記yj2(t)は、以下の数式(14)で表され、
前記θp2(t)は、以下の数式(15)で表され、
前記θj2(t)は、以下の数式(16)で表され、
【数9】
【数10】
【数11】
【数12】
【数13】
【数14】
【数15】
【数16】
(但し、v:走行速度、R(t):前記前位台車の位置での線路の曲率半径、R´(t):前記前位台車の位置での線路の曲率半径の時間変化率、Cs1(t):前記第1変数、Cs1´(t):前記第1変数の時間変化率、Cs1´´(t):前記第1変数の時間変化率の時間変化率、G:線路の軌間、φ(t):前記第1目標値、φ´(t):前記第1目標値の時間変化率、φ´´(t):前記第1目標値の時間変化率の時間変化率、g:重力加速度、R(t):前記後位台車の位置での線路の曲率半径、R´(t):前記後位台車の位置での線路の曲率半径の時間変化率、Cs2(t):前記第2変数、Cs2´(t):前記第2変数の時間変化率、Cs2´´(t):前記第2変数の時間変化率の時間変化率、φ(t):前記第2目標値、φ´(t):前記第2目標値の時間変化率、φ´´(t):前記第2目標値の時間変化率の時間変化率)
前記yf1(t)は、以下の数式(17)で表され、
前記yf2(t)は、以下の数式(18)で表され、
【数17】
【数18】
(但し、τ:時間)
前記h11(τ)、前記h12(τ)、前記h21(τ)及び前記h22(τ)の各々は、0.3Hz以下の入力を強調するフィルタである、傾斜角度制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の傾斜角度制御装置において、
前記演算処理部は、前記目標値決定処理では、以下の数式(19)で表される条件で、前記第1目標値と前記第2目標値とを決定する、傾斜角度制御装置。
【数19】
【請求項4】
請求項2又は3に記載の傾斜角度制御装置において、
前記形状変数は、前記未走行区間の線路のカントに等しく、
前記Cs1(t)は、以下の数式(20)で表され、
前記Cs2(t)は、以下の数式(21)で表される、傾斜角度制御装置。
【数20】
【数21】
(但し、C(t):前記前位台車の位置での線路のカント、C(t):前記後位台車の位置での線路のカント)
【請求項5】
請求項2又は3に記載の傾斜角度制御装置において、
前記形状変数は、前記未走行区間の線路の曲率半径に反比例し、
前記Cs1(t)は、以下の数式(22)で表され、
前記Cs2(t)は、以下の数式(23)で表される、傾斜角度制御装置。
【数22】
【数23】
(但し、β:係数)
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の傾斜角度制御装置を用いて前記車体の傾斜角度を制御する傾斜角度制御方法。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の傾斜角度制御装置を備えた鉄道車両。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体を台車に対して傾斜させる傾斜角度を制御する傾斜角度制御装置、傾斜角度制御方法及びその傾斜角度制御装置を備えた鉄道車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
曲線での鉄道車両の通過速度を向上させるために、車体と台車との間にアクチュエータを設け、このアクチュエータにより車体を曲線内方へ傾斜させる傾斜角度を制御する、制御付き車体傾斜車両が、開発され、運用されている。このような制御付き車体傾斜車両は、車両側で事前に走行線区の曲線情報(曲線半径、カント)を有し、この曲線情報を用いて車体を傾斜させる傾斜角度を制御する。これにより、曲線区間での乗り心地が改善され、目的地への速達化が実現される。また、最近、傾斜制御用アクチュエータが高性能化されてきており、目標値に合わせて傾斜角度を制御する際の応答性も進歩してきている。
【0003】
特開2008-265692号公報(特許文献1)には、鉄道車両における車体の傾斜角度制御装置において、線路全体の形状に関するデータベースから未走行区間の線路の形状に関する未走行線路データを取得するデータ取得処理と、車体の傾斜角度の目標値を決定する演算処理とを行う演算処理部と、演算処理によって決定された目標値に合わせて車体を傾斜させる動作部とを備えた技術が開示されている。特許文献1に開示された技術では、演算処理は、未走行区間の線路上を鉄道車両が走行する際の車体の乗り物酔いを含めた乗り心地の評価指標を推定するための評価関数を、未走行区間の線路上における予定走行条件と未走行線路データとに基づき、車体の傾斜角度の目標値を変数として決定する関数決定処理と、評価指標の値が所定の範囲内に含まれるように目標値を決定する目標値決定処理とを有する。
【0004】
特開2014-46884号公報(特許文献2)には、車体の進行方向の前後部に車体を支持する台車を備え、台車毎に車体を車幅方向に傾斜させる車体傾斜機構を備える鉄道車両の車体傾斜制御装置において、車体の傾斜角度目標値を演算する傾斜角度目標値演算部と、傾斜角度目標値演算部の演算結果に基づいて、車体傾斜機構の駆動制御を行う傾斜制御部と、車体の前部に配置される車体傾斜機構の傾斜動作を車体の後部に配置される車体傾斜機構の傾斜動作よりも遅延させる遅延部と、を備える技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-265692号公報
【文献】特開2014-46884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載された技術では、車体の進行方向における中央部1箇所における傾斜角度の目標値を算出している。そのため、鉄道車両が緩和曲線を走行する際に、前位台車及び後位台車の各々の位置での乗り心地及び乗り物酔いの各々の評価を改善することが困難であり、前位台車及び後位台車の2つの位置の間での線路のカント(軌道のカント)の差によっては、車体がねじられるおそれがある。
【0007】
一方、上記特許文献2に記載された技術では、車体の進行方向における中央部1箇所における傾斜角度の目標値を、前位台車用及び後位台車用として、時間をずらして出力しているが、前位台車及び後位台車の2つの位置の間での線路のカントの差を正確に反映して傾斜角度の目標値を算出しているわけではない。そのため、鉄道車両が緩和曲線を走行する際に、前位台車及び後位台車の各々の位置での乗り心地及び乗り物酔いの各々の評価を改善することが困難であり、前位台車及び後位台車の2つの位置の間での線路のカントの差によっては、車体がねじられるおそれがある。
【0008】
即ち、上記特許文献1及び上記特許文献2に記載された技術では、車体をねじることなく、且つ、前位台車及び後位台車の各々の位置での乗り心地及び乗り物酔いの各々の評価を最適化するように、前後台車の各々での傾斜角度を決定(算出)することができない。
【0009】
本発明は、上述のような従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、車体を台車に対して傾斜させる傾斜角度を制御する傾斜角度制御装置において、車体をねじることなく、且つ、前位台車及び後位台車の各々の位置での乗り心地及び乗り物酔いの各々の評価を最適化できるように、前後台車の各々での傾斜角度の目標値を決定することができる傾斜角度制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0011】
本発明の一態様としての傾斜角度制御装置は、車体と、車体の前方部分を支持する前位台車と、車体の後方部分を支持する後位台車と、を備えた鉄道車両における、車体の傾斜角度を制御する傾斜角度制御装置である。当該傾斜角度制御装置は、線路全体の形状に関するデータベースから、未走行区間の線路の形状に関する未走行線路データと、未走行区間の線路上における予定走行条件と、を取得するデータ取得処理を行うデータ取得処理部と、車体の前方部分の前位台車に対する傾斜角度の第1目標値、及び、車体の後方部分の後位台車に対する傾斜角度の第2目標値、を決定する演算処理を行う演算処理部と、演算処理にて決定された第1目標値に合わせて車体の前方部分を傾斜させ、演算処理にて決定された第2目標値に合わせて車体の後方部分を傾斜させる動作部と、を有する。演算処理部は、未走行区間の線路上を鉄道車両が走行する際の車体の前方部分の乗り物酔いを含めた乗り心地の第1評価指標を推定するための第1評価関数を、未走行線路データと、予定走行条件と、に基づいて、車体の前方部分の第1目標値の関数として決定する第1関数決定処理と、未走行区間の線路上を鉄道車両が走行する際の車体の後方部分の乗り物酔いを含めた乗り心地の第2評価指標を推定するための第2評価関数を、未走行線路データと、予定走行条件と、に基づいて、車体の後方部分の第2目標値の関数として決定する第2関数決定処理と、第1評価関数により推定される第1評価指標の値と、第2評価関数により推定される第2評価指標の値と、の和が一定の範囲内に含まれるように、第1目標値と第2目標値とを決定する目標値決定処理と、を含む演算処理を行う。未走行線路データは、未走行区間の線路のカントに比例するか又は未走行区間の線路の曲率半径に反比例する形状変数を含み、前位台車の位置での形状変数を第1変数とし、後位台車の位置での形状変数を第2変数としたとき、演算処理部は、目標値決定処理では、第2変数から第1変数を減じて得られる第1値を線路の軌間で除して得られる第2値を、更に第1目標値に加えて得られる第3値が、第2目標値に等しくなる条件で、第1目標値と第2目標値とを決定する。
【0012】
また、他の一態様として、第1評価関数は、以下の数式(1)又は数式(2)で表され、第2評価関数は、以下の数式(3)又は数式(4)で表されてもよい。
【0013】
【数1】
【0014】
【数2】
【0015】
【数3】
【0016】
【数4】
【0017】
(但し、t:時間、F(φ(t)):第1評価関数、F(φ(t)):第2評価関数、α,α:係数、μ:係数で1以上の実数、n:正の整数)
【0018】
第1評価関数が数式(1)で表されるとき、第2評価関数は、数式(3)で表され、第1評価関数が数式(2)で表されるとき、第2評価関数は、数式(4)で表され、第1評価関数が数式(1)で表されるとき、fJT1(t)は、以下の数式(5)で表され、第1評価関数が数式(2)で表されるとき、fJT1(t)は、以下の数式(6)で表され、第2評価関数が数式(3)で表されるとき、fJT2(t)は、以下の数式(7)で表され、第2評価関数が数式(4)で表されるとき、fJT2(t)は、以下の数式(8)で表されてもよい。
【0019】
【数5】
【0020】
【数6】
【0021】
【数7】
【0022】
【数8】
【0023】
(但し、a11,b11,c11,d11,a12,b12,c12,d12,e,a21,b21,c21,d21,a22,b22,c22,d22,e:係数、μ:係数で1以上の実数、n:正の整数)
【0024】
p1(t)は、以下の数式(9)で表され、yj1(t)は、以下の数式(10)で表され、θp1(t)は、以下の数式(11)で表され、θj1(t)は、以下の数式(12)で表され、yp2(t)は、以下の数式(13)で表され、yj2(t)は、以下の数式(14)で表され、θp2(t)は、以下の数式(15)で表され、θj2(t)は、以下の数式(16)で表されてもよい。
【0025】
【数9】
【0026】
【数10】
【0027】
【数11】
【0028】
【数12】
【0029】
【数13】
【0030】
【数14】
【0031】
【数15】
【0032】
【数16】
【0033】
(但し、v:走行速度、R(t):前位台車の位置での線路の曲率半径、R´(t):前位台車の位置での線路の曲率半径の時間変化率、Cs1(t):第1変数、Cs1´(t):第1変数の時間変化率、Cs1´´(t):第1変数の時間変化率の時間変化率、G:線路の軌間、φ(t):第1目標値、φ´(t):第1目標値の時間変化率、φ´´(t):第1目標値の時間変化率の時間変化率、g:重力加速度、R(t):後位台車の位置での線路の曲率半径、R´(t):後位台車の位置での線路の曲率半径の時間変化率、Cs2(t):第2変数、Cs2´(t):第2変数の時間変化率、Cs2´´(t):第2変数の時間変化率の時間変化率、φ(t):第2目標値、φ´(t):第2目標値の時間変化率、φ´´(t):第2目標値の時間変化率の時間変化率)
【0034】
f1(t)は、以下の数式(17)で表され、yf2(t)は、以下の数式(18)で表されてもよい。
【0035】
【数17】
【0036】
【数18】
【0037】
(但し、τ:時間)
【0038】
11(τ)、h12(τ)、h21(τ)及びh22(τ)の各々は、0.3Hz以下の入力を強調するフィルタであってもよい。
【0039】
また、他の一態様として、演算処理部は、目標値決定処理では、以下の数式(19)で表される条件で、第1目標値と第2目標値とを決定してもよい。
【0040】
【数19】
【0041】
また、他の一態様として、形状変数は、未走行区間の線路のカントに等しく、Cs1(t)は、以下の数式(20)で表され、Cs2(t)は、以下の数式(21)で表されてもよい。
【0042】
【数20】
【0043】
【数21】
【0044】
(但し、C(t):前位台車の位置での線路のカント、C(t):後位台車の位置での線路のカント)
【0045】
また、他の一態様として、形状変数は、未走行区間の線路の曲率半径に反比例し、Cs1(t)は、以下の数式(22)で表され、Cs2(t)は、以下の数式(23)で表されてもよい。
【0046】
【数22】
【0047】
【数23】
【0048】
(但し、β:係数)
【0049】
本発明の一態様としての傾斜角度制御方法は、当該傾斜角度制御装置を用いて車体の傾斜角度を制御する傾斜角度制御方法である。
【0050】
本発明の一態様としての鉄道車両は、当該傾斜角度制御装置を備えている。
【発明の効果】
【0051】
本発明の一態様を適用することで、車体を台車に対して傾斜させる傾斜角度を制御する傾斜角度制御装置において、車体をねじることなく、且つ、前位台車及び後位台車の各々の位置での乗り心地及び乗り物酔いの各々の評価を最適化できるように、前後台車の各々での傾斜角度の目標値を決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】比較例1の鉄道車両が直線区間から緩和曲線に進入する際の状態を模式的に示す図である。
図2】実施の形態1の傾斜角度制御装置を備えた鉄道車両の概略構成を模式的に示す斜視図である。
図3】実施の形態1の傾斜角度制御装置を備えた鉄道車両の概略構成を模式的に示す正面図である。
図4】実施の形態1の傾斜角度制御装置を備えた鉄道車両の概略構成を模式的に示す正面図である。
図5】実施の形態1の傾斜角度制御方法の一部のステップを示すフロー図である。
図6】実施の形態1の傾斜角度制御方法において未走行線路データと予定走行条件から傾斜角度の目標値を決定することを説明するための図である。
図7】実施の形態2の傾斜角度制御方法において重複して決定された傾斜角度の目標値を示す図である。
図8】実施の形態2の傾斜角度制御方法において線路形状に合わせて傾斜角度の目標値パターンを形成する手順を示す図である。
図9】実施例1の傾斜角度制御装置を用いて算出した前位台車及び後位台車の各々の傾斜角度の目標値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下に、本発明の各実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0054】
なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実施の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0055】
また本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0056】
更に、実施の形態で用いる図面においては、断面図であっても図面を見やすくするためにハッチング(網掛け)を省略する場合もある。また、平面図であっても図面を見やすくするためにハッチングを付す場合もある。
【0057】
(実施の形態1)
<傾斜角度制御装置及び傾斜角度制御方法における技術思想>
初めに、本発明の一実施形態である実施の形態1の傾斜角度制御装置及び傾斜角度制御方法における技術思想について、比較例1の鉄道車両を参照しながら説明する。
【0058】
図1は、比較例1の鉄道車両が直線区間から緩和曲線に進入する際の状態を模式的に示す図である。
【0059】
図1に示すように、比較例1の鉄道車両101は、振り子式の鉄道車両であり、車体102と、車体102のうち進行方向における中央部105よりも前方側に配置された前方部分102aを支持する前位台車103aと、車体102のうち進行方向における中央部105よりも後方側に配置された後方部分102bを支持する後位台車103bと、車体102の前方部分102aを前位台車103aに対して傾斜させる前位傾斜機構104aと、車体102の後方部分102bを後位台車103bに対して傾斜させる後位傾斜機構104bと、を備えている。
【0060】
このような振り子式の鉄道車両の車体を台車に対して傾斜させる傾斜角度を制御する技術が、上記特許文献1に記載されている。上記特許文献1に記載された技術では、傾斜角度の目標値は、鉄道車両1両につき1つのみであり、車体の進行方向における中央部1箇所を基準とした場合の乗り心地及び乗り物酔いを最適化することを前提として、車体の進行方向における中央部1箇所における傾斜角度の目標値を算出している。また、傾斜角度を制御する際には、車体と台車との間に設けられたアクチュエータのストロークを変化させることにより、車体を台車に対して傾斜させる傾斜角度が、算出された目標値になるように、傾斜角度を制御している。
【0061】
比較例1の鉄道車両101が、上記特許文献1に記載された技術により傾斜角度を制御するものとする。このような場合、車体102を台車に対して傾斜させるためのアクチュエータは、前位台車103a及び後位台車103bの2つの台車の各々にそれぞれ設けられた前位傾斜機構104a及び後位傾斜機構104bの各々にそれぞれ設けられている。そのため、それら2つのアクチュエータは、車体102のうち進行方向における中央部105に対して車体102の進行方向に離れた2つの位置、即ち、前位台車103a及び後位台車103bの2つの位置の各々にそれぞれ配置されていることになる。また、比較例1の鉄道車両101が緩和曲線を走行する場合には、前位台車103a及び後位台車103bの2つの台車の間では、線路のカント(軌道のカント)が異なる。
【0062】
そのため、緩和曲線において前位台車103a及び後位台車103bの2つの台車にそれぞれ設けられた2つのアクチュエータに対して、上記の車体102の進行方向における中央部1箇所における傾斜角度の目標値を与えた場合には、前位台車103a及び後位台車103bの2つの位置の各々において、アクチュエータのストロークは、過大となるか又は過小となる。これにより、アクチュエータは、前位台車103a及び後位台車103bの2つの位置の間の線路のカントの差により、車体102をロール方向にねじることになる。即ち、車体102にねじりモーメントが作用することになる。
【0063】
例えば図1に示すように、比較例1の鉄道車両が直線区間から緩和曲線TCに進入する際には、先に緩和曲線TCに進入する前位台車103aは、カントCにより外軌RA1側の車輪が持ち上げられ、前位台車103aは曲線内側に傾斜する。このような状態で、前位傾斜機構104a及び後位傾斜機構104bの各々において、アクチュエータにより傾斜角度がφになるように制御した場合を考える。すると、車体102の前方部分102aは、水平面に対して角度(C+φ)だけ傾斜するが、後位台車103bはカントのついていない直線上にあるため、車体102の後方部分102bは、水平面に対して角度φだけ傾斜し、車体102にねじりモーメントが作用する。車体102のねじりモーメントの反力は、台車及び車軸を経由して、各車輪の輪重変化として現れることになる。この例であれば、前位台車103aの外軌RA1側の車輪、及び、後位台車103bの内軌RA2側の車輪の輪重が増大し、前位台車103aの内軌RA2側の車輪、及び、後位台車103bの外軌RA1側の車輪の輪重が減少する。
【0064】
そこで、上記特許文献2に記載された技術では、前位台車103aに対して車体102を傾斜させる傾斜角度の目標値を出力するタイミングを、後位台車103bに対して車体102を傾斜させる傾斜角度の目標値を出力するタイミングよりも遅延させる。具体的には、前位台車103aが緩和曲線TCに進入したときに、後位台車103bに対して車体を傾斜させる傾斜角度の目標値を出力して後位台車103bの傾斜角度の制御を開始し、次に、前位台車103a及び後位台車103bの2つの台車の間の距離を鉄道車両が走行するだけの時間が経過した後に、前位台車103aに対して車体を傾斜させる傾斜角度の目標値を出力して前位台車103aの傾斜角度の制御を開始する。
【0065】
しかしながら、上記特許文献2に記載された技術では、例えば上記特許文献1に記載された技術で算出された車体102のうち進行方向における中央部105の1箇所における傾斜角度の目標値を、前位台車103a及び後位台車103bの2つの位置でのそれぞれの傾斜角度の目標値とするものであり、車体102のうち進行方向における中央部105の1箇所における傾斜角度の目標値を、前位台車103a用及び後位台車103b用として、時間をずらして出力している。このような場合、目標値を算出するための論理演算を行う演算量が少なくなることにより傾斜角度制御装置が簡便になり、鉄道車両に傾斜角度制御装置を容易に搭載することができるという利点はある。しかしながら、上記特許文献2に記載された技術では、前位台車103a及び後位台車103bの2つの位置の間での線路のカントの差を反映して目標値を算出しているわけではない。そのため、前位台車103a及び後位台車103bの2つの位置の間での線路のカントの差によっては、算出された目標値が正確でないおそれがある。
【0066】
例えば、線路(軌道)にカントが設けられていない曲線区間においては、前位台車103a及び後位台車103bの2つの位置の間での線路のカントの差はゼロであるため、前位台車103aに対して車体102を傾斜させる傾斜角度の目標値を出力するタイミングを、後位台車103bに対して車体102を傾斜させる傾斜角度の目標値を出力するタイミングよりも遅延させる必要はない。しかしながら、上記特許文献2に記載された技術では、線路にカントが設けられていない曲線区間であっても、車体を台車に対して傾斜させる必要があり、車体を台車に対して傾斜させる傾斜角度の目標値は算出されるため、前位台車103aに対して車体102の前方部分102aを傾斜させる傾斜角度の目標値を出力するタイミングを、後位台車103bに対して車体102の後方部分102bを傾斜させる傾斜角度の目標値を出力するタイミングよりも遅延させてしまうことになる。
【0067】
そこで、本発明の一実施形態である実施の形態1の傾斜角度制御装置では、前位台車及び後位台車の各々の位置で、車体左右加速度、車体左右ジャーク、車体ロール角速度及び車体ロール角加速度を、線路曲率値、カント、走行速度及び傾斜角度の関数として表現する。次に、前位台車における車両運動の評価関数を、前位台車における乗り心地評価関数と、前位台車における乗り物酔い評価関数とを、重み付け係数を用いて合成したものとして表現する。また、後位台車における車両運動の評価関数を、後位台車における乗り心地評価関数と、後位台車における乗り物酔い評価関数とを、重み付け係数を用いて合成したものとして表現する。
【0068】
また、本実施の形態1の傾斜角度制御装置では、前位台車の位置での傾斜角度の目標値を目標値φとし、後位台車の位置での傾斜角度の目標値を目標値φとし、前位台車及び後位台車の各々の位置の間の線路のカント(軌道のカント)の差をΔCとし、線路軌間をGとしたとき、後位台車の位置での傾斜角度の目標値を、φ=φ+ΔC/Gにより算出する。また、前位台車の位置での乗り心地評価関数にφ=φ+ΔC/Gを代入し、後位台車の位置での傾斜角度の目標値φの関数を、前位台車の位置での傾斜角度の目標値φの関数に変換することにより、後位台車の位置での乗り心地評価関数を決定する。
【0069】
これにより、後位台車の位置における車両運動の評価関数を、前位台車の位置における傾斜角度の目標値φの関数として表現することができる。そのため、前位台車の位置での傾斜角度の目標値、及び、後位台車の位置での傾斜角度の目標値として、「車体をねじらない(ひねらない)」という拘束条件が課された状態で、前位台車の位置における車両運動の評価関数の値と、後位台車の位置における評価関数の値と、の和を最小にする、傾斜角度の目標値を、算出することができる。「車体をねじらない」という拘束条件が課されない場合、「車体をねじらない」という拘束条件が課される場合に比べ、前位台車の位置における車両運動の評価関数と、後位台車の位置における評価関数と、の和を、更に小さくすることができる。しかしながら、「車体をねじらない」という拘束条件が課されない場合には、車体がねじられることになる。そこで、「車体をねじらない」という拘束条件を課すことにより、車体がねじられないようにし、その代償として、前位台車の位置における車両運動の評価関数の値と、後位台車の位置における評価関数の値と、の和自体の最小値が、「車体をねじらない」という拘束条件を課さない場合よりも、若干大きくなることについては、許容することになる。
【0070】
以下では、実施の形態1の傾斜角度制御装置及び傾斜角度制御方法の詳細について説明する。
【0071】
<傾斜角度制御装置及び傾斜角度制御方法>
次に、実施の形態1の傾斜角度制御装置及び傾斜角度制御方法について説明する。本実施の形態1の傾斜角度制御装置は、車体と、車体のうち進行方向における中央部よりも前方側に配置された部分である前方部分を支持する前位台車と、車体のうち進行方向における中央部よりも後方側に配置された部分である後方部分を支持する後位台車と、車体の前方部分を前位台車に対して車体の幅方向に傾斜させる前位傾斜機構と、車体の後方部分を後位台車に対して車体の幅方向に傾斜させる後位傾斜機構と、を備えた鉄道車両、即ち振り子式の鉄道車両に備えられている。
【0072】
また、本実施の形態1の傾斜角度制御装置は、このような鉄道車両が線路上を走行する際に、車体の前方部分を前位傾斜機構により前位台車に対して車体の幅方向に傾斜させる傾斜角度、及び、車体の後方部分を後位傾斜機構により後位台車に対して車体の幅方向に傾斜させる傾斜角度、を制御する傾斜角度制御装置である。また、本実施の形態1の傾斜角度制御方法は、このような鉄道車両が線路上を走行する際に、車体の前方部分を前位傾斜機構により前位台車に対して車体の幅方向に傾斜させる傾斜角度、及び、車体の後方部分を後位傾斜機構により後位台車に対して車体の幅方向に傾斜させる傾斜角度を、本実施の形態1の傾斜角度制御装置を用いて制御する傾斜角度制御方法である。
【0073】
図2は、実施の形態1の傾斜角度制御装置を備えた鉄道車両の概略構成を模式的に示す斜視図である。図3及び図4は、実施の形態1の傾斜角度制御装置を備えた鉄道車両の概略構成を模式的に示す正面図である。図4は、線路のカント及び車体の傾斜角度を説明するための図である。
【0074】
図2及び図3に示すように、本実施の形態1の傾斜角度制御装置を備えた鉄道車両1は、振り子式の鉄道車両であり、車体2と、台車3としての前位台車3aと、台車3としての後位台車3bと、傾斜機構4としての前位傾斜機構4aと、傾斜機構4としての後位傾斜機構4bと、を備えている。前位台車3aは、車体2のうち進行方向における中央部5よりも前方側に配置された前方部分2aを支持する。後位台車3bは、車体2のうち進行方向における中央部5よりも進行方向後方側に配置された後方部分2bを支持する。前位傾斜機構4aは、車体2のうち前方部分2aを前位台車3aに対して傾斜させる。後位傾斜機構4bは、車体2のうち後方部分2bを後位台車3bに対して傾斜させる。
【0075】
台車3は、複数の車輪11と、複数の車輪11同士を連結した複数の車軸12と、複数の車軸12により支持された台車枠13と、を有する。傾斜機構4は、台車枠13に設けられた振子装置14と、振子梁15と、を有する。振子装置14と振子梁15とにより、車体2は台車3に対して車体2の幅方向に傾斜可能に設けられている。
【0076】
前述したように、鉄道車両1は、車体2のうち前方部分2aを支持する台車3としての前位台車3aと、傾斜機構4としての前位傾斜機構4aと、を有する。従って、前位台車3aは、複数の車輪11aと、複数の車輪11a同士を連結した複数の車軸12aと、複数の車軸12aにより支持された台車枠13aと、を有する。また、前位傾斜機構4aは、台車枠13aに設けられた振子装置14aと、振子梁15aと、を有する。振子装置14aと振子梁15aとにより、車体2のうち前方部分2aは、前位台車3aに対して車体2の幅方向に傾斜可能に設けられている。
【0077】
また、前述したように、鉄道車両1は、車体2のうち後方部分2bを支持する台車3としての後位台車3bと、傾斜機構4としての後位傾斜機構4bと、を有する。従って、後位台車3bは、複数の車輪11bと、複数の車輪11b同士を連結した複数の車軸12bと、複数の車軸12bにより支持された台車枠13bと、を有する。また、後位傾斜機構4bは、台車枠13bに設けられた振子装置14bと、振子梁15bと、を有する。振子装置14bと振子梁15bとにより、車体2のうち後方部分2bは、後位台車3bに対して車体2の幅方向に傾斜可能に設けられている。
【0078】
図2及び図3に示すように、本実施の形態1の傾斜角度制御装置を傾斜角度制御装置20とすると、傾斜角度制御装置20は、鉄道車両1に備えられ、動作部21と、データベース22と、処理部23と、を有する。処理部23は、データ取得処理部24と、演算処理部25と、を有する。
【0079】
動作部21は、台車3に対して車体2の幅方向に傾斜可能に設けられた車体2を、車体2の幅方向に傾斜させる。動作部21は、振子梁15を揺動させることにより、車体2を、車体2の幅方向に傾斜させる。動作部21として、作動流体によるアクチュエータ又は電気モータによるアクチュエータ等を用いることができる。
【0080】
前述したように、鉄道車両1は、車体2のうち前方部分2aを支持する台車3としての前位台車3aと、傾斜機構4としての前位傾斜機構4aと、を有する。従って、前位台車3aに設けられた動作部21を動作部21aとすると、動作部21aは、前位台車3aに対して車体2の幅方向に傾斜可能に設けられた車体2を、前位傾斜機構4aにより車体2の幅方向に傾斜させる。また、動作部21aは、前位傾斜機構4aにより振子梁15aを揺動させることで、演算処理にて決定された目標値に合わせて、車体2の前方部分2aを、車体2の幅方向に傾斜させる。
【0081】
前述したように、鉄道車両1は、車体2のうち後方部分2bを支持する台車3としての後位台車3bと、傾斜機構4としての後位傾斜機構4bと、を有する。従って、後位台車3bに設けられた動作部21を動作部21bとすると、動作部21bは、後位台車3bに対して車体2の幅方向に傾斜可能に設けられた車体2を、後位傾斜機構4bにより車体2の幅方向に傾斜させる。また、動作部21bは、後位傾斜機構4bにより振子梁15bを揺動させることで、演算処理にて決定された目標値に合わせて、車体2の後方部分2bを、車体2の幅方向に傾斜させる。
【0082】
データベース22は、線路全体の形状に関するデータ、即ち線路の全区間の形状に関するデータとして、線路の曲率半径R(t)と、線路のカントC(t)と、線路の軌間Gと、を記憶している。図4に示すように、線路のカントC(t)とは、左右のレールの高低差であり、軌間Gとは、左右のレール間の長さである。また、データベース22は、線路全体の形状に関するデータ、即ち線路の全区間の形状に関するデータとして、線路のカントC(t)を記憶していてもよいが、後述する形状変数として、線路の曲率半径R(t)に反比例する形状変数を用いる場合には、線路のカントC(t)を記憶していなくてもよい。
【0083】
処理部23は、動作部21及びデータベース22と接続され、処理部23のうちデータ取得処理部24は、データベース22と接続され、処理部23のうち演算処理部25は、動作部21と接続されている。処理部23、データ取得処理部24及び演算処理部25として、例えば以下の動作及び処理を行うためのプログラムを実行するコンピュータを用いることができる。
【0084】
データ取得処理部24は、現時点tでの前位台車3aの地点P及び走行速度vを検出する。また、データ取得処理部24は、線路全体の形状に関するデータベース22から、未走行区間の線路の形状に関する未走行線路データη(t)と、未走行区間の線路上における予定走行条件β(t)と、を取得する。なお、本実施の形態1では、予定走行条件β(t)は、現時点tにおける走行速度vである。
【0085】
後述する図6を用いて説明するように、未走行区間の線路上を鉄道車両1が走行する際の前位台車3aの位置については、未走行線路データη(t)は、未走行区間の線路の曲率半径R(t)と、未走行区間の線路のカントC(t)に比例するか又は未走行区間の線路の曲率半径R(t)に反比例する形状変数Cs1(t)と、線路の軌間Gと、を含む。また、未走行区間の線路上を鉄道車両1が走行する際の後位台車3bの位置については、未走行線路データη(t)は、未走行区間の線路の曲率半径R(t)と、未走行区間の線路のカントC(t)に比例するか又は未走行区間の線路の曲率半径R(t)に反比例する形状変数Cs2(t)と、線路の軌間Gと、を含む。
【0086】
後述する図6を用いて説明するように、未走行区間の線路上を鉄道車両1が走行する際の前位台車3aの位置については、データ取得処理部24は、現時点tでの前位台車3aの地点P及び走行速度vを検出する。また、未走行区間の線路上を鉄道車両1が走行する際の前位台車3aの位置については、未走行区間の線路とは、現時点t以降の時点tから一定時間T後の時点tまでの時間内に前位台車3aが走行すべき未走行区間の線路である。後位台車3bについても同様である。
【0087】
未走行区間の線路上を鉄道車両1が走行する際の前位台車3aの位置については、演算処理部25は、取得した未走行線路データη(t)と、未走行区間の予定走行条件β(t)である予定走行速度(走行速度)vと、に基づいて、形状変数Cs1(t)の時間変化率Cs1´(t)と、形状変数Cs1(t)の時間変化率Cs1´(t)の時間変化率Cs1´´(t)と、曲率半径R(t)の時間変化率R´(t)と、を決定することができる。また、未走行区間の線路上を鉄道車両1が走行する際の後位台車3bの位置については、演算処理部25は、取得した未走行線路データη(t)と、未走行区間の予定走行条件β(t)である予定走行速度(走行速度)vと、に基づいて、形状変数Cs2(t)の時間変化率Cs2´(t)と、形状変数Cs2(t)の時間変化率Cs2´(t)の時間変化率Cs2´´(t)と、曲率半径R(t)の時間変化率R´(t)と、を決定することができる。
【0088】
演算処理部25は、未走行区間の線路上を鉄道車両1が走行する際の、車体2の前方部分2aの乗り物酔いを含めた乗り心地の評価指標を推定するための評価関数F(φ(t))を、車体2の前方部分2aの前位台車3aに対する傾斜角度の目標値φ(t)を変数として有する関数として決定する第1関数決定処理を行うことができる。具体的には、評価関数F(φ(t))を、以下の数式(1)又は数式(2)として決定することができる。
【0089】
【数24】
【0090】
【数25】
【0091】
上記数式(1)及び上記数式(2)において、tは時間、F(φ(t))は評価関数、αは係数、μは係数で1以上の実数、nは正の整数である。
【0092】
また、演算処理部25は、未走行区間の線路上を鉄道車両1が走行する際の、車体2の後方部分2bの乗り物酔いを含めた乗り心地の評価指標を推定するための評価関数F(φ(t))を、車体2の後方部分2bの後位台車3bに対する傾斜角度の目標値φ(t)を変数として有する関数として決定する第2関数決定処理を行うことができる。具体的には、評価関数F(φ(t))を、以下の数式(3)又は数式(4)として決定することができる。
【0093】
【数26】
【0094】
【数27】
【0095】
上記数式(3)及び上記数式(4)において、tは時間、F(φ(t))は評価関数、αは係数、μは係数で1以上の実数、nは正の整数である。
【0096】
なお、評価関数F(φ(t))が上記数式(1)で表されるとき、評価関数F(φ(t))は、上記数式(3)で表され、評価関数F(φ(t))が上記数式(2)で表されるとき、評価関数F(φ(t))は、上記数式(4)で表される。
【0097】
ここで、上記数式(1)又は上記数式(2)は、乗り心地に関する評価関数であるfJT1(t)の項と、乗り物酔いに関するyf1(t)の項と、から構成されている。具体的には、車体2の前方部分2aの前位台車3aに対する傾斜角度の目標値φ(t)を変数として有する以下の数式(24)として決定することができる。なお、以下では、前位台車3aの位置に関し、未走行線路データη(t)、予定走行条件β(t)を、未走行線路データη(t)、予定走行条件β(t)と表記する。
【0098】
【数28】
【0099】
また、上記数式(3)又は上記数式(4)は、乗り心地に関する評価関数であるfJT2(t)の項と、乗り物酔いに関するyf2(t)の項と、から構成されている。具体的には、車体2の後方部分2bの後位台車3bに対する傾斜角度の目標値φ(t)を変数として有する以下の数式(25)として決定することができる。なお、以下では、後位台車3bの位置に関し、未走行線路データη(t)、予定走行条件β(t)を、未走行線路データη(t)、予定走行条件β(t)と表記する。
【0100】
【数29】
【0101】
以下、それぞれの項に分けて説明する。
【0102】
まず、初めに、fJT1(t)の項及びfJT2(t)の項について説明する。
【0103】
JT1(t)の項は、車体2の前方部分2aの傾斜角度の目標値φ(t)を変数として有する評価関数F(φ(t),η(t),β(t))、具体的には、以下の数式(5)又は数式(6)として決定することができる。
【0104】
【数30】
【0105】
【数31】
【0106】
上記数式(5)及び上記数式(6)において、tは時間、a11,b11,c11,d11,a12,b12,c12,d12,eは係数、μは係数で1以上の実数、nは正の整数である。また、上記数式(5)において、関数maxについては、tが連続的な範囲内で変化するときのf(t)の絶対値の最大値を、max|f(t)|とする(後述する数式(7)においても同様)。
【0107】
なお、評価関数F(φ(t))が上記数式(1)で表されるとき、fJT1(t)は、上記数式(5)で表され、評価関数F(φ(t))が上記数式(2)で表されるとき、fJT1(t)は、上記数式(6)で表される。
【0108】
また、fJT2(t)の項は、車体2の後方部分2bの傾斜角度の目標値φ(t)を変数として有する評価関数F(φ(t),η(t),β(t))、具体的には、以下の数式(7)又は数式(8)として決定することができる。
【0109】
【数32】
【0110】
【数33】
【0111】
上記数式(7)及び上記数式(8)において、tは時間、a21,b21,c21,d21,a22,b22,c22,d22,eは係数、μは係数で1以上の実数、nは正の整数である。
【0112】
なお、評価関数F(φ(t))が上記数式(3)で表されるとき、fJT2(t)は、上記数式(7)で表され、評価関数F(φ(t))が上記数式(4)で表されるとき、fJT2(t)は、上記数式(8)で表される。
【0113】
上記数式(5)乃至上記数式(8)において、yp1(t)、yj1(t)、θp1(t)、θj1(t)は、以下の数式(9)、数式(10)、数式(11)、数式(12)で表される振動特性の近似値であり、具体的にはそれぞれ、図4に示すように、車体2の前方部分2aの左右加速度[m/s]、車体2の前方部分2aの左右加速度の時間変化率(車体左右ジャーク)[m/s]、車体2の前方部分2aのロール角速度[°/s]、車体2の前方部分2aのロール角加速度[°/s]である。
【0114】
なお、車体2の前方部分2aの左右加速度yp1(t)は、図4に示すように、車体2の前方部分2aが左右方向に並進振動する際の左右方向の加速度である。また、車体2の前方部分2aのロール角速度θp1(t)は、車体2の前方部分2aが垂直面内で回転する際の角度(車体ロール角)θr1(t)[°](図4参照)の時間変化率である。傾斜角度の目標値φ(t)[°]は、動作部21aの作用により、台車枠13aに対して振子梁15aが回転する際の傾斜角度(以下、振子傾斜角度と称する場合がある)の目標値である。
【0115】
【数34】
【0116】
【数35】
【0117】
【数36】
【0118】
【数37】
【0119】
上記数式(9)乃至上記数式(12)において、vは走行速度であり、R(t)は前位台車3aの位置での線路の曲率半径であり、R´(t)は前位台車3aの位置での線路の曲率半径の時間変化率であり、Cs1(t)は第1変数であり、Cs1´(t)は第1変数の時間変化率であり、Cs1´´(t)は第1変数の時間変化率の時間変化率であり、Gは線路の軌間である。また、φ(t)は車体2の前方部分2aの前位台車3aに対する傾斜角度の目標値であり、φ´(t)は車体2の前方部分2aの前位台車3aに対する傾斜角度の目標値の時間変化率であり、φ´´(t)は車体2の前方部分2aの前位台車3aに対する傾斜角度の目標値の時間変化率の時間変化率であり、gは重力加速度[m/s]である。
【0120】
また、上記数式(5)乃至数式(8)において、yp2(t)、yj2(t)、θp2(t)、θj2(t)は、以下の数式(13)、数式(14)、数式(15)、数式(16)で表される振動特性の近似値であり、具体的にはそれぞれ、図4に示すように、車体2の後方部分2bの左右加速度[m/s]、車体2の後方部分2bの左右加速度の時間変化率(車体左右ジャーク)[m/s]、車体2の後方部分2bのロール角速度[°/s]、車体2の後方部分2bのロール角加速度[°/s]である。
【0121】
なお、車体2の後方部分2bの左右加速度yp2(t)は、図4に示すように、車体2の後方部分2bが左右方向に並進振動する際の左右方向の加速度である。また、車体2の後方部分2bのロール角速度θp2(t)は、車体2の後方部分2bが垂直面内で回転する際の角度(車体ロール角)θr2(t)[°](図4参照)の時間変化率である。傾斜角度の目標値φ(t)[°]は、動作部21bの作用により、台車枠13bに対して振子梁15bが回転する際の傾斜角度の目標値である。
【0122】
【数38】
【0123】
【数39】
【0124】
【数40】
【0125】
【数41】
【0126】
上記数式(13)乃至上記数式(16)において、vは走行速度であり、R(t)は後位台車3bの位置での線路の曲率半径であり、R´(t)は後位台車3bの位置での線路の曲率半径の時間変化率であり、Cs2(t)は第2変数であり、Cs2´(t)は第2変数の時間変化率であり、Cs2´´(t)は第2変数の時間変化率の時間変化率であり、Gは線路の軌間である。また、φ(t)は車体2の後方部分2bの後位台車3bに対する傾斜角度の目標値であり、φ´(t)は車体2の後方部分2bの後位台車3bに対する傾斜角度の目標値の時間変化率であり、φ´´(t)は車体2の後方部分2bの後位台車3bに対する傾斜角度の目標値の時間変化率の時間変化率であり、gは重力加速度[m/s]である。
【0127】
これらの評価関数によれば、例えば上記特許文献1に記載されているように、a11,b11,c11,d11,a12,b12,c12,d12,e,a21,b21,c21,d21,a22,b22,c22,d22,eの係数の値を設定することにより、乗客による乗り心地の評価を複数段階の尺度で推定することができる。具体的には、例えば評価関数の値が0~1、1~2、2~3、3~4の範囲内であれば、乗客による乗り心地の評価をそれぞれ「全く問題ない」、「やや気になる程度」、「不快であるが許容範囲内にある」、「不快であり許容できない」と推定することができる。
【0128】
次に、yf1(t)の項及びyf2(t)の項について説明する。
【0129】
f1(t)の項は、「乗り物酔い」を防止するための関数であり、具体的には上記数式(9)で表されるyp1(t)に対して、0.3Hz以下の入力を強調する特性を有するフィルタをかけたものである。また、yf2(t)の項は、「乗り物酔い」を防止するための関数であり、具体的には上記数式(13)で表されるyp2(t)に対して、0.3Hz以下の入力を強調する特性を有するフィルタをかけたものである。
【0130】
ここで、0.3Hz以下の入力を強調する理由は、当該周波数領域の左右振動が最も乗り物酔いの原因となると考えられるからである。例えば上記特許文献1の図3に示され、低周波振動と乗り物酔い発生率(MR)との関係を示したグラフからも、0.3Hz以下の左右振動が乗り物酔いの原因となることが分かる。
【0131】
本実施の形態1においては、0.3Hz以下の入力を強調する特性を有するフィルタについては限定することはなく、種々のフィルタを用いることができ、例えば上記特許文献1の図4に示された、列車酔い評価用の左右振動補正フィルタを利用してもよい。但し、曲線通過時に車両に対して左右方向へ定常的に作用する遠心力は、上記特許文献1の図5の0.3Hz以下の直流成分に近い帯域の周波数に属し、この帯域の車体左右振動加速度信号を減衰させてしまうと、遠心力が考慮されなくなる。即ち、振子車両の本来の目的である定常的な左右振動加速度を打ち消すという本来の目的を達することができなくなる。これを解決するためには、例えば上記特許文献1の図5に示すような、0.3Hz近辺をカットオフ周波数とするローパスフィルタを用いてもよい。
【0132】
上記特許文献1の図5に示す、0.3Hz以下の入力を強調する特性を有するローパスフィルタをh11(t)及びh12(t)とすると、yf1(t)は、以下の数式(17)で表される。
【0133】
【数42】
【0134】
上記数式(17)において、τは時間である。
【0135】
また、上記特許文献1の図5に示す、0.3Hz以下の入力を強調する特性を有するローパスフィルタをh21(t)及びh22(t)とすると、yf2(t)は、以下の数式(18)で表される。
【0136】
【数43】
【0137】
上記数式(18)において、τは時間である。
【0138】
車体2のうち前方部分2aの乗り物酔いを含めた乗り心地の評価指標を推定するための評価関数F(φ(t))は、上記した乗り心地に関する評価関数であるfJT1(t)の項と、乗り物酔いに関する評価関数であるyf1(t)の項のそれぞれに、当該各項に対する重み付けをするための(1-α)、αを乗じた上で、各項を足し合わせることで、構成されている。具体的には、上記数式(24)に、上記数式(5)又は上記数式(6)を代入したものを用いる。
【0139】
また、車体2のうち後方部分2bの乗り物酔いを含めた乗り心地の評価指標を推定するための評価関数F(φ(t))は、上記した乗り心地に関する評価関数であるfJT2(t)の項と、乗り物酔いに関する評価関数であるyf2(t)の項のそれぞれに、当該各項に対する重み付けをするための(1-α)、αを乗じた上で、各項を足し合わせることで、構成されている。具体的には、上記数式(25)に、上記数式(7)又は上記数式(8)を代入したものを用いる。
【0140】
当該重み付けをするために必要な係数α及びαの各々の値については、0以上1以下の値であれば任意に設定可能である。α及びαの各々の値を小さくすれば、乗り心地に関する評価関数fJT1(t)又はfJT2(t)の項が、車体の傾斜角度制御に大きく反映され、一方でα及びαの各々の値を大きくすれば、乗り物酔いに関する評価関数であるyf1(t)又はyf2(t)の項が、車体の傾斜角度制御に大きく反映されることとなる。
【0141】
例えば上記特許文献1の図6に示され、評価関数が乗り心地に関する評価関数のみで構成されている場合の緩和曲線内での左右振動加速度の発生傾向を示すグラフからも分かるように、重み付けのための係数α及びαが0の場合、即ち、乗客の乗り物酔いを考慮せず乗り心地のみを考慮して車体の傾斜角度を制御した場合、緩和曲線の入口側および出口側において左右振動加速度が発生し、この加速度が乗り物酔いの原因となる可能性がある。一方、本実施の形態1では、乗り心地に関する評価関数に加え、乗り物酔いに関する評価関数を考慮することにより、例えば上記特許文献1の図6に示される左右振動加速度を低減することができる。
【0142】
ここで、演算処理部25は、以下の数式(26)に示すように、車体2のうち前方部分2aの乗り物酔いを含めた乗り心地の評価指標を推定するための評価関数F(φ(t))を一定区間で積分した第1評価指標と、車体2のうち後方部分2bの乗り物酔いを含めた乗り心地の評価指標を推定するための評価関数F(φ(t))を一定区間で積分した第2評価指標と、を計算し、計算された第1評価指標と第2評価指標との和が一定の範囲内、例えば最小値となる場合における、傾斜角度の目標値φ(t)、及び、傾斜角度の目標値φ(t)を、目標値φm1(t)及び目標値φm2(t)として決定する。
【0143】
【数44】
【0144】
このとき、演算処理部25は、以下の数式(19)で表される条件で、評価関数F(φ(t))及び評価関数F(φ(t))を決定する。
【0145】
【数45】
【0146】
これにより、前述したように、前位台車の位置での傾斜角度の目標値、及び、後位台車の位置での傾斜角度の目標値として、「車体をねじらない(ひねらない)」という拘束条件が課された状態で、前位台車の位置における車両運動の評価関数の値と、後位台車の位置における評価関数の値と、の和を最小にする、傾斜角度の目標値を、算出することができる。
【0147】
また、傾斜角度の目標値φm1(t)、及び、傾斜角度の目標値φm2(t)が実現不可能な値となることを防ぐため、目標値φm1(t)及び目標値φm2(t)は、関数g(φm1(t))及び関数g(φm2(t))が、g(φm1(t))≦0及びg(φm2(t))≦0の条件式を満たすように決定される。このような関数g(φm1(t))及び関数g(φm2(t))としては、例えばg(φm1(t))=|φm1(t)|-γ及びg(φm2t))=|φm2(t)|-γ(γは実数)等を挙げることができる。これらの条件式によれば、傾斜角度の目標値がγ[°]以上の実現不可能な角度になることを防ぐことができる。
【0148】
演算処理部25は、上記数式(26)により決定された目標値φm1(t)と実際の傾斜角度とが互いに等しくなるように、動作部21aを制御する。また、演算処理部25は、上記数式(26)により決定された目標値φm2(t)と実際の傾斜角度とが等しくなるように、動作部21bを制御する。なお、演算処理部25には、実際の傾斜角度がフィードバックされるようになっている。
【0149】
次に、本実施の形態1の傾斜角度制御装置を用いて車体の傾斜角度を制御する傾斜角度制御方法の手順について説明する。図5は、実施の形態1の傾斜角度制御方法の一部のステップを示すフロー図である。図6は、実施の形態1の傾斜角度制御方法において未走行線路データと予定走行条件から傾斜角度の目標値を決定することを説明するための図である。なお、図6は、前位台車3a及び後位台車3bを代表して、前位台車3aについて示している。また、図6では、未走行線路データη(t)に含まれる曲率半径として、曲率半径R(t)及び曲率半径R(t)を代表して曲率半径R(t)を曲率半径R(t)と表記し、未走行線路データη(t)に含まれる形状変数として、形状変数Cs1(t)に代えたカントC(t)及び形状変数Cs2(t)に代えたカントC(t)を代表してカントC(t)をカントC(t)と表記している。また、図6では、傾斜角度の目標値φm1(t)及び目標値φm2(t)を代表して目標値φm1(t)を目標値φ(t)と表記している。
【0150】
本実施の形態1の傾斜角度制御方法では、走行する当該線区の線路曲率データとカントデータは、生成に必要となるデータを事前の走行により車両に搭載したセンサにより取得し、車両に1m毎に記録されたデータベースとして生成、格納される。また、予め前後台車の相対距離Lは把握できていることから、各走行地点における前後台車位置の違いによるカントの差ΔCを、予め車上側で把握することができる。
【0151】
まず、図6に示すように、データ取得処理部24が、現時点tでの前位台車3aの地点Pを検出する(図5のステップS1)。また、ステップS1では、データ取得処理部24は、前位台車3aが時点t,tにおいて到達する地点P,Pを、それぞれP=P+v×T、P=P+v×Tから計算する。なお、時間Tは、演算処理部25における演算時間と動作部21における応答遅れ時間との合計時間よりも長くなっている。
【0152】
次に、データ取得処理部24は、線路全体の形状に関するデータベース22から、地点Pから地点Pまでの間の未走行区間の線路の形状に関する未走行線路データη(t)と、未走行区間の線路上における予定走行条件β(t)と、を取得するデータ取得処理を行う(図5のステップS2)。なお、本実施の形態1では、予定走行条件β(t)は、現時点tにおける走行速度vである。
【0153】
次に、演算処理部25は、データ取得処理の結果に基づいて、傾斜角度の目標値φm1(t)、及び、傾斜角度の目標値φm2(t)を決定する演算処理を行う(図5のステップS3)。なお、この演算処理は、以下の関数決定処理(図5のステップS4)と、目標値決定処理(図5のステップS5)と、を含むものである。
【0154】
このステップS3では、まず、演算処理部25は、関数決定処理(図5のステップS4)を行う。なお、関数決定処理は、演算処理部25が行う演算処理に含まれる。
【0155】
このステップS4では、演算処理部25は、未走行線路データη(t)と予定走行条件β(t)とを、上記数式(9)乃至上記数式(12)に代入し、前位台車3aの位置での各振動特性を、車体2の前方部分2aの傾斜角度の目標値φ(t)の関数として決定する第1関数決定処理を行う。
【0156】
例えば、演算処理部25は、前位台車3aの位置での線路の曲率半径R(t)及び形状変数Cs1(t)の時間サンプリングデータを生成する処理を行う(図5のステップS6)。
【0157】
次に、演算処理部25は、前位台車3aの位置での車体2の前方部分2aの車体2の幅方向の加速度である左右加速度yp1(t)を、前位台車3aの位置での線路の曲率半径R(t)、前位台車3aの位置での線路の形状変数Cs1(t)、鉄道車両1の走行速度v、及び、前位台車3aの位置での車体2の前方部分2aの傾斜角度の目標値φ(t)、の関数として決定する第1関数決定処理を行う(図5のステップS11)。形状変数Cs1(t)は、前位台車3aの位置での線路のカントC(t)に比例するか、又は、前位台車3aの位置での線路の曲率半径R(t)に反比例する。このステップS11では、左右加速度yp1(t)を、上記数式(9)で表される関数として決定することができる。
【0158】
また、演算処理部25は、前位台車3aの位置での車体2の前方部分2aの左右加速度yp1(t)の時間変化率yp1´(t)を、前位台車3aの位置での線路の曲率半径R(t)、前位台車3aの位置での線路の曲率半径R(t)の時間変化率R´(t)、前位台車3aの位置での線路の形状変数Cs1(t)の時間変化率Cs1´(t)、鉄道車両1の走行速度v、及び、前位台車3aの位置での車体2の前方部分2aの傾斜角度の目標値φ(t)の時間変化率φ´(t)、の関数として決定する第1関数決定処理を行う(図5のステップS12)。このステップS12では、左右加速度yp1(t)の時間変化率yp1´(t)を、上記数式(10)で表される関数として決定することができる。
【0159】
また、演算処理部25は、前位台車3aの位置での車体2の前方部分2aのロール角速度θp1(t)を、前位台車3aの位置での線路の形状変数Cs1(t)の時間変化率Cs1´(t)、及び、前位台車3aの位置での車体2の前方部分2aの傾斜角度の目標値φ(t)の時間変化率φ´(t)、の関数として決定する第1関数決定処理を行う(図5のステップS13)。このステップS13では、ロール角速度θp1(t)を、上記数式(11)で表される関数として決定することができる。
【0160】
また、演算処理部25は、前位台車3aの位置での車体2の前方部分2aのロール角加速度θj1(t)を、前位台車3aの位置での線路の形状変数Cs1(t)の時間変化率Cs1´(t)の時間変化率Cs1´´(t)、及び、前位台車3aの位置での車体2の前方部分2aの傾斜角度の目標値φ(t)の時間変化率φ´(t)の時間変化率φ´´(t)、の関数として決定する第1関数決定処理を行う(図5のステップS14)。このステップS14では、ロール角加速度θj1(t)を、上記数式(12)で表される関数として決定することができる。
【0161】
このステップS4では、また、演算処理部25は、未走行線路データη(t)と予定走行条件β(t)とを、上記数式(13)乃至上記数式(16)に代入し、後位台車3bの位置での各振動特性を、車体2の後方部分2bの傾斜角度の目標値φ(t)の関数として決定する第2関数決定処理を行う。
【0162】
例えば、演算処理部25は、後位台車3bの位置での線路の曲率半径R(t)及び形状変数Cs2(t)の時間サンプリングデータを生成する処理を行う(図5のステップS7)。
【0163】
次に、演算処理部25は、後位台車3bの位置での車体2の後方部分2bの車体2の幅方向の加速度である左右加速度yp2(t)を、後位台車3bの位置での線路の曲率半径R(t)、後位台車3bの位置での線路の形状変数Cs2(t)、鉄道車両1の走行速度v、及び、後位台車3bの位置での車体2の後方部分2bの傾斜角度の目標値φ(t)、の関数として決定する第2関数決定処理を行う(図5のステップS15)。形状変数Cs1(t)が、前位台車3aの位置での線路のカントC(t)に比例するとき、形状変数Cs2(t)は、後位台車3bの位置での線路のカントC(t)に比例し、形状変数Cs1(t)が、前位台車3aの位置での線路の曲率半径R(t)に反比例するとき、形状変数Cs2(t)は、後位台車3bの位置での線路の曲率半径R(t)に反比例する。このステップS15では、左右加速度yp2(t)を、上記数式(13)で表される関数として決定することができる。
【0164】
また、演算処理部25は、後位台車3bの位置での車体2の後方部分2bの左右加速度yp2(t)の時間変化率yp2´(t)を、後位台車3bの位置での線路の曲率半径R(t)、後位台車3bの位置での線路の曲率半径R(t)の時間変化率R´(t)、後位台車3bの位置での線路の形状変数Cs2(t)の時間変化率Cs2´(t)、鉄道車両1の走行速度v、及び、後位台車3bの位置での車体2の後方部分2bの傾斜角度の目標値φ(t)の時間変化率φ´(t)、の関数として決定する第2関数決定処理を行う(図5のステップS16)。このステップS16では、左右加速度yp2(t)の時間変化率yp2´(t)を、上記数式(14)で表される関数として決定することができる。
【0165】
また、演算処理部25は、後位台車3bの位置での車体2の後方部分2bのロール角速度θp2(t)を、後位台車3bの位置での線路の形状変数Cs2(t)の時間変化率Cs2´(t)、及び、後位台車3bの位置での車体2の後方部分2bの傾斜角度の目標値φ(t)の時間変化率φ´(t)、の関数として決定する第2関数決定処理を行う(図5のステップS17)。このステップS17では、ロール角速度θp2(t)を、上記数式(15)で表される関数として決定することができる。
【0166】
また、演算処理部25は、後位台車3bの位置での車体2の後方部分2bのロール角加速度θj2(t)を、後位台車3bの位置での線路の形状変数Cs2(t)の時間変化率Cs2´(t)の時間変化率Cs2´´(t)、及び、後位台車3bの位置での車体2の後方部分2bの傾斜角度の目標値φ(t)の時間変化率φ´(t)の時間変化率φ´´(t)、の関数として決定する第2関数決定処理を行う(図5のステップS18)。このステップS18では、ロール角加速度θj2(t)を、上記数式(16)で表される関数として決定することができる。
【0167】
このステップS4では、次に、演算処理部25は、前位台車3aの位置での車体2の前方部分2aの乗り心地を評価する評価関数fJT1(t)を、左右加速度yp1(t)、左右加速度yp1(t)の時間変化率yp1´(t)、ロール角速度θp1(t)、ロール角加速度θj1(t)、左右加速度yp2(t)、左右加速度yp2(t)の時間変化率yp2´(t)、ロール角速度θp2(t)、及び、ロール角加速度θj2(t)、の関数として決定する第1関数決定処理を行う(図5のステップS19)。このステップS19では、評価関数fJT1(t)を、上記数式(5)又は上記数式(6)で表される関数として決定することができる。なお、乗り心地を評価する評価関数fJT1(t)は、緩和曲線における乗り心地評価指標に基づいて設定されることができる。
【0168】
このステップS4では、また、演算処理部25は、後位台車3bの位置での車体2の後方部分2bの乗り心地を評価する評価関数fJT2(t)を、左右加速度yp1(t)、左右加速度yp1(t)の時間変化率yp1´(t)、ロール角速度θp1(t)、ロール角加速度θj1(t)、左右加速度yp2(t)、左右加速度yp2(t)の時間変化率yp2´(t)、ロール角速度θp2(t)、及び、ロール角加速度θj2(t)、の関数として決定する第2関数決定処理を行う(図5のステップS20)。ステップS19にて評価関数fJT1(t)を上記数式(5)で表される関数として決定するとき、ステップS20では、評価関数fJT2(t)を、上記数式(7)で表される関数として決定し、ステップS19にて評価関数fJT1(t)を上記数式(6)で表される関数として決定するとき、ステップS20では、評価関数fJT2(t)を、上記数式(8)で表される関数として決定することができる。なお、乗り心地を評価する評価関数fJT2(t)は、緩和曲線における乗り心地評価指標に基づいて設定されることができる。
【0169】
このステップS4では、次に、演算処理部25は、前位台車3aの位置での車体2の前方部分2aの乗り物酔いを評価する評価関数yf1(t)を、左右加速度yp1(t)、及び、左右加速度yp2(t)、の関数として決定する第1関数決定処理を行う(図5のステップS21)。このステップS21では、評価関数yf1(t)を、上記数式(17)で表される関数として決定することができる。
【0170】
このステップS4では、また、演算処理部25は、後位台車3bの位置での車体2の後方部分2bの乗り物酔いを評価する評価関数yf2(t)を、左右加速度yp1(t)、及び、左右加速度yp2(t)、の関数として決定する第2関数決定処理を行う(図5のステップS22)。このステップS22では、評価関数yf2(t)を、上記数式(18)で表される関数として決定することができる。
【0171】
このステップS4では、次に、演算処理部25は、重み付け係数により重み付けされた評価関数fJT1(t)と、重み付け係数により重み付けされた評価関数yf1(t)と、の和である評価関数F(φ(t))を決定する第1関数決定処理を行う(図5のステップS23)。
【0172】
このステップS4では、また、演算処理部25は、重み付け係数により重み付けされた評価関数fJT2(t)と、重み付け係数により重み付けされた評価関数yf2(t)と、の和である評価関数F(φ(t))を決定する第2関数決定処理を行う(図5のステップS24)。
【0173】
ステップS19にて評価関数fJT1(t)を上記数式(5)で表される関数として決定するとき、演算処理部25は、ステップS23では、上記数式(1)で表される評価関数F(φ(t))を決定し、ステップS24では、上記数式(3)で表される評価関数F(φ(t))を決定することができる。
【0174】
また、ステップS19にて評価関数fJT1(t)を上記数式(6)で表される関数として決定するとき、演算処理部25は、ステップS23では、上記数式(2)で表される評価関数F(φ(t))を決定し、ステップS24では、上記数式(4)で表される評価関数F(φ(t))を決定することができる。
【0175】
また、ステップS3では、次に、演算処理部25は、目標値決定処理(図5のステップS5)を行う。なお、目標値決定処理は、演算処理部25が行う演算処理に含まれる。
【0176】
このステップS5では、演算処理部25は、評価関数F(φ(t))と、評価関数F(φ(t))と、の和を最小にするときの、傾斜角度の目標値φ(t)、及び、傾斜角度の目標値φ(t)を、目標値φm1(t)及び目標値φm2(t)として算出する。具体的には、演算処理部25は、一定時間T図6参照)内で評価関数F(φ(t))の値を積分した第1評価指標と、一定時間T図6参照)内で評価関数F(φ(t))の値を積分した第2評価指標と、を計算し、計算された第1評価指標と第2評価指標との和が最小値となる場合における、傾斜角度の目標値φ(t)、及び、傾斜角度の目標値φ(t)を、上記数式(26)に基づいて、目標値φm1(t)及び目標値φm2(t)として決定する目標値決定処理を行う。即ち、演算処理部25は、上記数式(26)に示すように、評価関数F(φ(t))を一定区間で積分した第1評価指標と、評価関数F(φ(t))を一定区間で積分した第2評価指標と、を計算し、計算された第1評価指標の値と第2評価指標との和が一定の範囲内、例えば最小値となる場合における、傾斜角度の目標値φ(t)、及び、傾斜角度の目標値φ(t)を、目標値φm1(t)及び目標値φm2(t)として決定する目標値決定処理を行う(図6参照)。
【0177】
また、後述する図9を用いて説明するように、好適には、ある時刻において、前位台車3aの位置での線路のカントから後位台車3bの位置での線路のカントを減じた値が正の場合には、その時刻において、前位台車3aの位置での線路のカントから後位台車3bの位置での線路のカントを減じた値の絶対値を、前位台車3aの位置での線路のカントが後位台車3bの位置での線路のカントと等しいときの傾斜角度の目標値の上限値から減じた値が、前位台車3aに対する車体2の前方部分2aの傾斜角度の目標値の実際の上限値になる。
【0178】
また、後述する図9を用いて説明するように、好適には、ある時刻において、前位台車3aの位置での線路のカントから後位台車3bの位置での線路のカントを減じた値が負の場合には、その時刻において、前位台車3aの位置での線路のカントから後位台車3bの位置での線路のカントを減じた値の絶対値を、前位台車3aの位置での線路のカントが後位台車3bの位置での線路のカントと等しいときの傾斜角度の目標値の下限値に加えた値が、前位台車3aに対する車体2の前方部分2aの傾斜角度の目標値の実際の下限値になる。
【0179】
本実施の形態1の傾斜角度制御方法によれば、車体2のうち前方部分2aの乗り物酔いを含めた乗り心地の評価指標を推定するための評価関数F(φ(t))を、車体2のうち前方部分2aの前位台車3aに対する傾斜角度の目標値φ(t)を変数として有する関数として決定する。また、車体2のうち後方部分2bの乗り物酔いを含めた乗り心地の評価指標を推定するための評価関数F(φ(t))を、車体2のうち後方部分2bの後位台車3bに対する傾斜角度の目標値φ(t)を変数として有する関数として決定する。そして、評価関数F(φ(t))の積分値、つまり第1評価指標の推定値と、評価関数F(φ(t))の積分値、つまり第2評価指標の推定値と、の和が一定の範囲内に含まれるように、傾斜角度の目標値φ(t)、及び、傾斜角度の目標値φ(t)を、それぞれ目標値φm1(t)及び目標値φm2(t)として事前に決定する。
【0180】
従って、傾斜角度を事前に制御する場合であっても、従来と異なり、車内空間のうち前位台車3a及び後位台車3bの各々の直上にそれぞれ位置する2つの部分において、実際に未走行区間の線路を鉄道車両1が走行した際の乗り心地を確実に向上させることができるとともに、乗客の乗り物酔いの発生を効果的に防止することができる。
【0181】
また、未走行区間の線路上を鉄道車両1が走行するよりも前に、傾斜角度の目標値φm1(t)、及び、傾斜角度の目標値φm2(t)が決定されるので、車体2が傾斜した状態となる時点を遅らせることなく、線路の形状の変化に合わせて確実に車体2を傾斜させ、車内空間のうち前位台車3a及び後位台車3bの各々の直上にそれぞれ位置する2つの部分において、乗り心地を向上させることができる。
【0182】
また、評価関数F(φ(t))における車体2の前方部分2aの左右加速度yp1(t)、車体2の前方部分2aの左右加速度yp1(t)の時間変化率yj1(t)、車体2の前方部分2aのロール角速度θp1(t)及び車体2の前方部分2aのロール角加速度θj1(t)を、それぞれ前位台車3aの位置における未走行線路データη(t)と予定走行条件β(t)とからなる近似式として用いる。また、評価関数F(φ(t))における車体2の後方部分2bの左右加速度yp2(t)、車体2の後方部分2bの左右加速度yp2(t)の時間変化率yj2(t)、車体2の後方部分2bのロール角速度θp2(t)及び車体2の後方部分2bのロール角加速度θj2(t)を、それぞれ後位台車3bの位置における未走行線路データη(t)と予定走行条件β(t)とからなる近似式として用いる。
【0183】
そのため、車内空間のうち前位台車3a及び後位台車3bの各々の直上にそれぞれ位置する2つの部分において、乗り心地の評価指標の推定値を、傾斜角度の目標値φm1(t)、及び、傾斜角度の目標値φm2(t)に応じて事前に決定することができる。従って、車内空間のうち前位台車3a及び後位台車3bの各々の直上にそれぞれ位置する2つの部分において、評価指標の推定値が一定の範囲内に含まれるように、傾斜角度の目標値φm1(t)、及び、傾斜角度の目標値φm2(t)を事前に決定することができる。
【0184】
なお、本実施の形態1においては、一定時間T内に鉄道車両1が走行すべき区間の線路を未走行区間の線路として演算処理を一定時間Tごとに行うこととして説明したが、これに限らず、例えば実施の形態2において後述する図7に示すように、時間T+T内に鉄道車両1が走行すべき区間の線路を未走行区間の線路とし、演算処理を一定時間Tごとに行うこととしてもよい。なお、この場合には、前回の演算処理と今回の演算処理とによって目標値φm1(t)が重複して決定される時間T内においては前回の演算処理による目標値φm1(t)に合わせて車体2を傾斜させることが好ましい。
【0185】
本実施の形態1の傾斜角度制御装置では、演算処理部25は、ステップS23及びステップS24では、ある時刻における後位台車3bの位置での線路の形状変数Cs2(t)の値からその時刻における前位台車3aの位置での線路の形状変数Cs1(t)の値を減じて得られる値を線路の軌間Gで除して得られる値を、更にその時刻における車体2の前方部分2aの傾斜角度の目標値φ(t)に加えて得られる値が、その時刻における後位台車3bの位置での車体2の後方部分2bの傾斜角度の目標値φ(t)に等しくなる条件で、評価関数F(φ(t))及び評価関数F(φ(t))を決定し、車体2の前方部分2aの傾斜角度の目標値φ(t)、及び、車体2の後方部分2bの傾斜角度の目標値φ(t)を決定(算出)する。
【0186】
即ち、演算処理部25は、ステップS23及びステップS24では、以下の数式(19)で表される条件で、評価関数F(φ(t))及び評価関数F(φ(t))を決定する。
【0187】
【数46】
【0188】
上記数式(19)に示すように、本実施の形態1の傾斜角度制御装置では、ある時刻における車体2の後方部分2bの傾斜角度の目標値φ(t)を、その時刻における車体2の前方部分2aの傾斜角度の目標値φ(t)と、前位台車3a及び後位台車3bの2つの位置の間での線路の形状変数の差である例えばカントの差ΔCと、を用いて、φ(t)=φ(t)+ΔC/Gと表す。これにより、目標値φ(t)及び目標値φ(t)として、「車体をねじらない」という拘束条件が課された状態で、評価関数F(φ(t))と評価関数F(φ(t))との和を最小にする、目標値φ(t)及び目標値φ(t)を決定することができる。
【0189】
これにより、評価関数F(φ(t))を最小にする車体2の前方部分2aの傾斜角度の目標値、及び、評価関数F(φ(t))を最小にする車体2の後方部分2bの傾斜角度の目標値、を別々に探索して決定する場合に比べて、計算機の演算負荷を格段に軽減させることができ、傾斜角度及び傾斜角度がそれぞれの目標値になるような傾斜角度制御も短時間で可能となる。更に、決定された前方部分2a及び後方部分2bの傾斜角度の目標値は、前位台車3a及び後位台車3bの2つの位置での乗り物酔い指標及び緩和曲線における乗り心地指標がそれぞれ最良となるように調整された傾斜角度の目標値として、算出される。
【0190】
また、本実施の形態1によれば、車体を傾斜させるためのアクチュエータによる不要な発生力を抑制することができるので、アクチュエータを制御するために空気を使用する量を削減することができる。
【0191】
また、本実施の形態1によれば、車体をねじることなく、車体を傾斜させる傾斜角度を制御することができるので、車体又は台車の各部への不要な負荷を、低減することができる。その結果、車内の乗客の振動乗り心地を改善することができる。
【0192】
また、本実施の形態1によれば、鉄道車両が緩和曲線を走行している鉄道車両の車体を傾斜させる際に、一部の車輪の輪重が減少する輪重抜けが発生することを、防止又は抑制することができる。
【0193】
また、本実施の形態1によれば、車内空間のうち前位台車3a及び後位台車3bの各々の直上にそれぞれ位置する2つの部分において、乗り物酔い指標及び緩和曲線における乗り心地指標が最良となるように、傾斜角度を制御することができる。
【0194】
本実施の形態1では、前述したように、前位台車3aの位置での線路の形状変数Cs1(t)は、前位台車3aの位置での線路のカントC(t)に比例するか、又は、前位台車3aの位置での線路の曲率半径R(t)に反比例する。また、前位台車3aの位置での線路の形状変数Cs1(t)が前位台車3aの位置での線路のカントC(t)に比例するとき、後位台車3bの位置での線路の形状変数Cs2(t)は、後位台車3bの位置での線路のカントC(t)に比例し、前位台車3aの位置での線路の形状変数Cs1(t)が前位台車3aの位置での線路の曲率半径R(t)に反比例するとき、後位台車3bの位置での線路の形状変数Cs2(t)は、後位台車3bの位置での線路の曲率半径R(t)に反比例する。
【0195】
好適には、前位台車3aの位置での線路の形状変数Cs1(t)は、未走行区間の線路のカント、即ち前位台車3aの位置での線路のカントC(t)に等しい。このような場合、前位台車3aの位置での線路の形状変数Cs1(t)は、以下の数式(20)で表される。なお、形状変数Cs1(t)は、カントC(t)に係数を乗じた値であってもよい。
【0196】
【数47】
【0197】
好適には、後位台車3bの位置での線路の形状変数Cs2(t)は、未走行区間の線路のカント、即ち後位台車3bの位置での線路のカントC(t)に等しい。このような場合、後位台車3bの位置での線路の形状変数Cs2(t)は、以下の数式(21)で表される。なお、形状変数Cs2(t)は、カントC(t)に係数を乗じた値であってもよい。
【0198】
【数48】
【0199】
一方、前位台車3aの位置での線路の形状変数Cs1(t)として、前位台車3aの位置での線路のカントC(t)に代えて、前位台車3aの位置での線路の曲率半径R(t)に反比例した量を、仮想カントとして用いてもよい。仮想カントを用いる場合、前位台車3aの位置での線路の形状変数Cs1(t)は、以下の数式(22)で表される。
【0200】
【数49】
【0201】
上記数式(22)において、βは、係数である。
【0202】
また、後位台車3bの位置での線路の形状変数Cs2(t)として、後位台車3bの位置での線路のカントC(t)に代えて、後位台車3bの位置での線路の曲率半径R(t)に反比例した量を、仮想カントとして用いてもよい。仮想カントを用いる場合、後位台車3bの位置での線路の形状変数Cs2(t)は、以下の数式(23)で表される。
【0203】
【数50】
【0204】
上記数式(23)において、βは、係数である。
【0205】
これにより、前位台車3aの位置での線路のカントC(t)が取得できない場合でも、評価関数F(φ(t))を最小にする傾斜角度の目標値φ(t)を決定することができる。また、後位台車3bの位置での線路のカントC(t)が取得できない場合でも、評価関数F(φ(t))を最小にする傾斜角度の目標値φ(t)を決定することができる。従って、傾斜角度制御装置のセンサ構成を、より簡便にすることができる。
【0206】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2の傾斜角度制御装置及び傾斜角度制御方法について説明する。本実施の形態2の傾斜角度制御装置及び傾斜角度制御方法は、データベースが線路の形状に関するデータを離散的に記憶し、データ取得処理及び演算処理を繰り返し、前回の演算処理と今回の演算処理との間で傾斜角度の目標値を重複して決定する点で、実施の形態1の傾斜角度制御装置及び傾斜角度制御方法と異なる。以下では、実施の形態1の傾斜角度制御装置及び傾斜角度制御方法と異なる点について詳しく説明し、それ以外の点については、実施の形態1の傾斜角度制御装置及び傾斜角度制御方法と同様であるため、その説明を省略する。
【0207】
図2及び図3に示すように、本実施の形態2の傾斜角度制御装置20aは、鉄道車両1aに備えられ、動作部21と、データベース22aと、処理部23aと、を有する。処理部23aは、データ取得処理部24aと、演算処理部25aと、を有する。動作部21については、実施の形態1の傾斜角度制御装置20が有する動作部21と同様であるため、その説明を省略する。
【0208】
データベース22aは、線路の形状に関するデータを離散的に記憶しており、より詳細には、後述する図7を用いて説明するように、予定走行速度(走行速度)vで時間T+T内に鉄道車両1aが走行する距離[m]ごとの地点に対応する未走行線路データを順番に記憶している。
【0209】
演算処理部25aは、傾斜角度の目標値φm1(t)及び傾斜角度の目標値φm2(t)を決定する際に、上記数式(26)の代わりに以下の数式(27)を用いる点において、実施の形態1の演算処理部25と異なる。
【0210】
【数51】
【0211】
また、上記数式(27)に上記数式(17)を代入する際の上記数式(17)のyf1(i)は、h11(i)及びh12(i)の各々を0.3Hz以下の信号を強調する(2n+1)次のFIRフィルタとすると、以下の数式(28)で表される。
【0212】
【数52】
【0213】
上記数式(28)において、mは、自然数である。
【0214】
また、上記数式(27)に上記数式(18)を代入する際の上記数式(18)のyf2(i)は、h21(i)及びh22(i)の各々を0.3Hz以下の信号を強調する(2n+1)次のFIRフィルタとすると、以下の数式(29)で表される。
【0215】
【数53】
【0216】
上記数式(29)において、mは、自然数である。
【0217】
なお、本実施の形態2においては、n=1とし、且つ、関数g(φm1(t))及び関数g(φm2(t))の各々をそれぞれ傾斜角度の目標値φ(t)及び傾斜角度の目標値φ(t)の線形関数とした場合には、上記数式(24)及び数式(25)は線形2次計画問題となるため、傾斜角度の目標値φm1(t)、及び、傾斜角度の目標値φm2(t)を、容易に算出することができる。
【0218】
また、傾斜角度の目標値φ(t)の時間変化率φ´(t)、及び、目標値φ(t)の時間変化率φ´(t)の時間変化率φ´´(t)は、それぞれ以下の数式(30)及び数式(31)で近似される。これにより、評価関数F(φ(t))には、傾斜角度の目標値φ(t)に関する1階差分と2階差分とが含まれた状態となっている。
【0219】
【数54】
【0220】
【数55】
【0221】
また、傾斜角度の目標値φ(t)の時間変化率φ´(t)、及び、目標値φ(t)の時間変化率φ´(t)の時間変化率φ´´(t)は、それぞれ以下の数式(32)及び数式(33)で近似される。これにより、評価関数F(φ(t))には、傾斜角度の目標値φ(t)に関する1階差分と2階差分とが含まれた状態となっている。
【0222】
【数56】
【0223】
【数57】
【0224】
上記数式(30)乃至上記数式(33)において、Δt=Δx/vであり、Δxは、i-1番目の未走行線路データによって形状が示される未走行線路の地点とi番目の未走行線路データによって形状が示される未走行線路の地点との間隔[m]である。また、iは正の整数である。
【0225】
また、前位台車3aの位置での線路の曲率半径R(t)の時間変化率R´(t)、前位台車3aの位置での線路の形状変数Cs1(t)の時間変化率Cs1´(t)、及び、前位台車3aの位置での線路の形状変数Cs1(t)の時間変化率Cs1´(t)の時間変化率Cs1´´(t)は、それぞれ以下の数式(34)乃至数式(36)で近似される。なお、形状変数Cs1(t)が前位台車3aの位置での線路のカントC(t)に比例するか又は前位台車3aの位置での線路の曲率半径R(t)に反比例することは、実施の形態1と同様である。
【0226】
【数58】
【0227】
【数59】
【0228】
【数60】
【0229】
また、後位台車3bの位置での線路の曲率半径R(t)の時間変化率R´(t)、後位台車3bの位置での線路の形状変数Cs2(t)の時間変化率Cs2´(t)、及び、後位台車3bの位置での線路の形状変数Cs2(t)の時間変化率Cs2´(t)の時間変化率Cs2´´(t)は、それぞれ以下の数式(37)乃至数式(39)で近似される。なお、形状変数Cs2(t)が後位台車3bの位置での線路のカントC(t)に比例するか又は後位台車3bの位置での線路の曲率半径R(t)に反比例することは、実施の形態1と同様である。
【0230】
【数61】
【0231】
【数62】
【0232】
【数63】
【0233】
次に、本実施の形態2の傾斜角度制御方法の手順について説明する。図7は、実施の形態2の傾斜角度制御方法において重複して決定された傾斜角度の目標値を示す図である。図8は、実施の形態2の傾斜角度制御方法において線路形状に合わせて傾斜角度の目標値パターンを形成する手順を示す図である。図8(a)は、線路の曲率を示し、図8(b)は、線路のカントを示し、図8(c)乃至図8(g)は、逐次決定される目標値パターンを示す。なお、図7及び図8は、前位台車3a及び後位台車3bを代表して、前位台車3aについて示している。また、本実施の形態2においては、鉄道車両1aは、図8(a)及び図8(b)に示すような形状の未走行区間の線路上を走行するものとする。また、図7では、目標値φm1(t)及び目標値φm2(t)を代表して目標値φm1(t)を傾斜角度の目標φ(t)と表記している。
【0234】
本実施の形態2の傾斜角度制御方法では、図5のステップS1と同様のステップを行った後、データ取得処理部24aは、図5のステップS2に相当するステップとして、図7に示すように、時間T+T内に走行予定の未走行区間の線路の形状に関する未走行線路データη(t)と、未走行区間の線路上における予定走行条件β(t)と、を取得するデータ取得処理を行う。一定時間Tを3[秒]とし、時間Tを1[秒]とすることができる。なお、この場合における予定走行条件β(t)とは、現時点tにおける走行速度である。
【0235】
次に、演算処理部25aは、図5のステップS3に相当するステップとして、データ取得処理の結果に基づいて、傾斜角度の目標値φm1(t)、及び、傾斜角度の目標値φm2(t)を決定する演算処理を行う。なお、この演算処理は、以下の関数決定処理(図5のステップS4に相当)と、目標値決定処理(図5のステップS5に相当)と、を含むものである。
【0236】
この図5のステップS3に相当するステップでは、まず、演算処理部25aは、図5のステップS4に相当するステップとして、関数決定処理を行う。
【0237】
この図5のステップS4に相当するステップでは、演算処理部25aは、図5のステップS11乃至ステップS14に相当するステップを行って、未走行線路データη(t)と予定走行条件β(t)とを、上記数式(9)乃至上記数式(12)に代入し、前位台車3aの位置での各振動特性を、車体2の前方部分2aの傾斜角度の目標値φ(t)の関数として決定する処理を行う。このとき、φ´(t)、φ´´(t)、R´(t)、Cs1´(t)及びCs1´´(t)の値に関しては、上記数式(30)、上記数式(31)、及び、上記数式(34)乃至上記数式(36)による近似値を用いる。
【0238】
また、演算処理部25aは、図5のステップS15乃至ステップS18に相当するステップを行って、未走行線路データη(t)と予定走行条件β(t)とを、上記数式(13)乃至上記数式(16)に代入し、後位台車3bの位置での各振動特性を、車体2の後方部分2bの傾斜角度の目標値φ(t)の関数として決定する処理を行う。このとき、φ´(t)、φ´´(t)、R´(t)、Cs2´(t)及びCs2´´(t)の値に関しては、上記数式(32)、上記数式(33)、及び、上記数式(37)乃至上記数式(39)による近似値を用いる。
【0239】
この図5のステップS4に相当するステップでは、次に、演算処理部25aは、図5のステップS19に相当するステップを行って、前位台車3aの位置での車体2の前方部分2aの乗り心地を評価する評価関数fJT1(t)を、左右加速度yp1(t)、左右加速度yp1(t)の時間変化率yp1´(t)、ロール角速度θp1(t)、ロール角加速度θj1(t)、左右加速度yp2(t)、左右加速度yp2(t)の時間変化率yp2´(t)、ロール角速度θp2(t)、及び、ロール角加速度θj2(t)、の関数として決定する処理を行う。
【0240】
また、演算処理部25aは、図5のステップS20に相当するステップを行って、後位台車3bの位置での車体2の後方部分2bの乗り心地を評価する評価関数fJT2(t)を、左右加速度yp1(t)、左右加速度yp1(t)の時間変化率yp1´(t)、ロール角速度θp1(t)、ロール角加速度θj1(t)、左右加速度yp2(t)、左右加速度yp2(t)の時間変化率yp2´(t)、ロール角速度θp2(t)、及び、ロール角加速度θj2(t)、の関数として決定する処理を行う。
【0241】
この図5のステップS4に相当するステップでは、次に、演算処理部25aは、図5のステップS21に相当するステップを行って、前位台車3aの位置での車体2の前方部分2aの乗り物酔いを評価する評価関数yf1(t)を、左右加速度yp1(t)、及び、左右加速度yp2(t)、の関数として決定する処理を行う。
【0242】
また、演算処理部25aは、図5のステップS22に相当するステップを行って、後位台車3bの位置での車体2の後方部分2bの乗り物酔いを評価する評価関数yf2(t)を、左右加速度yp1(t)、及び、左右加速度yp2(t)、の関数として決定する処理を行う。
【0243】
この図5のステップS4に相当するステップでは、次に、演算処理部25aは、図5のステップS23に相当するステップを行って、重み付け係数により重み付けされた評価関数fJT1(t)と、重み付け係数により重み付けされた評価関数yf1(t)と、の和である評価関数F(φ(t))を決定する。
【0244】
また、演算処理部25aは、図5のステップS24に相当するステップを行って、重み付け係数により重み付けされた評価関数fJT2(t)と、重み付け係数により重み付けされた評価関数yf2(t)と、の和である評価関数F(φ(t))を決定する。
【0245】
また、ステップS3では、次に、演算処理部25aは、図5のステップS5に相当するステップとして、目標値決定処理を行う。
【0246】
この図5のステップS5に相当するステップでは、演算処理部25aは、一定時間T図7参照)内で評価関数F(φ(t))の値を積分した第1評価指標と、一定時間T図7参照)内で評価関数F(φ(t))の値を積分した第2評価指標と、を計算し、計算された第1評価指標と第2評価指標との和が最小値となる場合における、傾斜角度の目標値φ(t)、及び、傾斜角度の目標値φ(t)を、上記数式(27)に基づいて、目標値φm1(t)及び目標値φm2(t)として決定する目標値決定処理を行う(図7参照)。これにより、各時点での目標値φm1(t)及び目標値φm2(t)からなる目標値パターンが決定される。
【0247】
このようにして、図8(c)乃至図8(g)に示すように、傾斜角度制御装置20aは、データ取得処理及び演算処理を一定時間Tごとに繰り返し、前回の演算処理と今回の演算処理との間で、時間T内の傾斜角度の目標値φm1(t)を重複して決定し、同様に、傾斜角度の目標値φm2(t)を重複して決定する。なお、各関数決定処理における予定走行条件β(t)は、それぞれ一定の条件として設定されている。
【0248】
ここで、傾斜角度制御装置20aは、複数回の演算処理のそれぞれにおいては前回の演算処理の結果に基づいて目標値を決定しており、且つ、評価関数F(φ(t))には、傾斜角度の目標値φ(t)に関する1階差分と2階差分とが含まれ、評価関数F(φ(t))には、傾斜角度の目標値φ(t)に関する1階差分と2階差分とが含まれるため、目標値φm1(t)が重複して決定される時間T内においては、前回の演算処理による目標値と今回の演算処理による目標値とは、異なる値とならずに同一化されることとなる。これにより、各時点での目標値φm1(t)からなる目標値パターンが、全ての走行区間に渡って連続して決定される。なお、目標値φm2(t)についても同様である。
【0249】
そして、決定された目標値φm1(t)に合わせて、動作部21が、車体2を傾斜させる傾斜処理を実行する。なお、目標値φm1(t)が重複して決定される時間T内においては、動作部21は前回の演算処理による目標値φm1(t)に合わせて、車体2を傾斜させる。なお、目標値φm2(t)についても同様である。
【0250】
本実施の形態2の傾斜角度制御方法によれば、車体2のうち前方部分2aの乗り物酔いを含めた乗り心地の評価指標を推定するための評価関数F(φ(t))を、車体2のうち前方部分2aの前位台車3aに対する傾斜角度の目標値φ(t)を変数として有する関数として決定する。また、車体2のうち後方部分2bの乗り物酔いを含めた乗り心地の評価指標を推定するための評価関数F(φ(t))を、車体2のうち後方部分2bの後位台車3bに対する傾斜角度の目標値φ(t)を変数として有する関数として決定する。そして、評価関数F(φ(t))の積分値、つまり第1評価指標の推定値と、評価関数F(φ(t))の積分値、つまり第2評価指標の推定値と、の和が一定の範囲内に含まれるように、傾斜角度の目標値φ(t)、及び、傾斜角度の目標値φ(t)を、目標値φm1(t)及び目標値φm2(t)として事前に決定する。従って、本実施の形態2でも、実施の形態1と同様の効果が得られる。
【0251】
それに加えて、本実施の形態2では、データ取得処理及び演算処理を一定時間Tごとに繰り返し、前回の演算処理と今回の演算処理との間で傾斜角度の目標値を重複して決定する。従って、本実施の形態2では、実施の形態1における効果に加えて、全ての走行区間に渡って目標値パターンが連続して決定されるので、時間T内において、前回の演算処理による目標値φm1(t)及び目標値φm2(t)に合わせて動作部21に車体2を傾斜させることにより、例えば複心曲線や反向曲線等の複雑な形状の曲線部を鉄道車両1aが走行する場合でも、傾斜角度を連続して変化させ、乗り心地を向上させることができる。
【0252】
また、上記数式(27)で表される非線型最適化問題を解くことにより、傾斜角度の目標値φm1(t)及び傾斜角度の目標値φm2(t)を決定することができる。従って、線路の形状に関するデータが連続せずに離散化されてデータベース22aに記憶されている場合であっても、車内空間のうち前位台車3a及び後位台車3bの各々の直上にそれぞれ位置する2つの部分において、乗り心地を確実に向上させることができる。
【0253】
なお、上記実施の形態1及び実施の形態2においては、傾斜機構4として図2に示すものを例示して説明したが、車体を傾斜させる機構があれば良く、例えばリンク式や空気ばね伸縮式などであってもよい。
【0254】
また、演算処理部25は、上記数式(1)又は上記数式(2)の値の積分値と、上記数式(3)又は上記数式(4)の値の積分値と、の和が最小値となるように、傾斜角度の目標値φ(t)、及び、傾斜角度の目標値φ(t)を、目標値φm1(t)及び目標値φm2(t)として決定することとして説明したが、例えば0~1等、一定の範囲内に含まれるように決定することとしてもよい。
【0255】
更に、評価関数F(φ(t))及び評価関数F(φ(t))としては、他の評価関数を用いることとしてもよい。
【実施例
【0256】
以下、実施例に基づいて本実施の形態を更に詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0257】
(実施例1)
図9は、実施例1の傾斜角度制御装置を用いて算出した前位台車及び後位台車の各々の傾斜角度の目標値を示すグラフである。実施例1の傾斜角度制御装置は、実施の形態1の傾斜角度制御装置である。
【0258】
図9(a)の縦軸は、前位台車3aの位置での線路の曲率(図9(a)では「前位台車位置での線路の曲率」と表記)を示し、図9(b)の縦軸は、前位台車3aの位置での線路のカント(図9(b)では「前位台車位置での線路のカント」と表記)を示し、図9(c)の縦軸は、前位台車3aに対する車体2の前方部分2aの傾斜角度の目標値(図9(c)では「前位台車に対する傾斜角度目標値」と表記)を表す。図9(d)の縦軸は、後位台車3bの位置での線路の曲率(図9(d)では「後位台車位置での線路の曲率」と表記)を示し、図9(e)の縦軸は、後位台車3bの位置での線路のカント(図9(e)では「後位台車位置での線路のカント」と表記)を示し、図9(f)の縦軸は、後位台車3bに対する車体2の後方部分2bの傾斜角度の目標値(図9(f)では「後位台車に対する傾斜角度目標値」と表記)を表す。
【0259】
図9(g)の縦軸は、前位台車3aの位置での線路のカントから後位台車3bの位置での線路のカントを減じた値(図9(g)では「前位後位台車位置間のカントの差)と表記)を示し、図9(h)の縦軸は、車体2のねじれ角(図9(h)では「車体のねじれ角」と表記)を示している。また、図9(a)乃至図9(h)の各々の横軸では、時間を「時刻」と表記している。また、図9では、鉄道車両が、直線区間1、曲線区間1、曲線区間2及び直線区間2を順次走行する場合を示している。
【0260】
前位台車3aの位置での線路の曲率及びカントの各々をそれぞれ示す図9(a)及び図9(b)のグラフと、後位台車3bの位置での線路の曲率及びカントの各々をそれぞれ示す図9(d)及び図9(e)のグラフと、を比べると、前位台車3a及び後位台車3bの各々が曲線区間に進入するタイミングが異なることが分かる。特に、前位台車3aの位置での線路のカントを示す図9(b)のグラフと、後位台車3bの位置での線路のカントを示す図9(e)のグラフと、を比べると、図9(g)に示すように、前位台車3aの位置と後位台車3bの位置との間で線路のカントの差、即ち前後台車のカントの差が発生していることが分かる。
【0261】
また、前位台車3aに対する車体2の前方部分2aの傾斜角度の目標値を示す図9(c)と、後位台車3bに対する車体2の後方部分2bの傾斜角度の目標値を示す図9(f)と、を比べると、ある時刻における前方部分2aの傾斜角度の目標値が、その時刻における後方部分2bの傾斜角度の目標値と異なっているときがあることが分かる。
【0262】
前述したように、また、図9(c)に示すように、ある時刻において、前位台車3aの位置での線路のカントから後位台車3bの位置での線路のカントを減じた値が正の場合には、その時刻において、前位台車3aの位置での線路のカントから後位台車3bの位置での線路のカントを減じた値の絶対値を、前位台車3aの位置での線路のカントが後位台車3bの位置での線路のカントと等しいときの傾斜角度の目標値の上限値から減じた値が、前位台車3aに対する車体2の前方部分2aの傾斜角度の目標値の実際の上限値になる。
【0263】
前述したように、また、図9(c)に示すように、ある時刻において、前位台車3aの位置での線路のカントから後位台車3bの位置での線路のカントを減じた値が負の場合には、その時刻において、前位台車3aの位置での線路のカントから後位台車3bの位置での線路のカントを減じた値の絶対値を、前位台車3aの位置での線路のカントが後位台車3bの位置での線路のカントと等しいときの傾斜角度の目標値の下限値に加えた値が、前位台車3aに対する車体2の前方部分2aの傾斜角度の目標値の実際の下限値になる。
【0264】
即ち、図9(c)では、図9(g)に示す前後台車のカントの差を考慮した前位台車3aに対する車体2の前方部分2aの傾斜角度の目標値の上限値以下で且つ下限値以上になるように、前位台車の位置における評価関数F(φ(t))と、後位台車の位置における評価関数F(φ(t))と、の和を最小にする、前位台車3aに対する車体2の前方部分2aの傾斜角度の目標値φm1(t)を算出した。
【0265】
このとき、算出された前位台車3aに対する車体2の前方部分2aの傾斜角度の目標値φm1(t)については、上記数式(19)で表されるように、後位台車3bの位置での線路のカントC(t)の値から前位台車3aの位置での線路のカントC(t)の値を減じた値(C(t)-C(t))を線路の軌間Gで除して得られる値((C(t)-C(t))/G)を、更に前位台車3aに対する車体2の前方部分2aの傾斜角度の目標値φm1(t)に加えることになる。また、図9(f)に示すように、前位台車の位置における評価関数F(φ(t))と、後位台車の位置における評価関数F(φ(t))と、の和を最小にする、後位台車3bに対する車体2の後方部分2bの傾斜角度の目標値φm2(t)を算出した。即ち、車体2の前方部分2aの傾斜角度をφ(t)、車体2の後方部分2bの傾斜角度をφ(t)、前後台車中心のカントの差をΔC(t)、線路の軌間をGとしたとき、φ(t)=φ(t)+ΔC(t)/Gの条件で、目標値φm1(t)及び目標値φm2(t)を算出した。
【0266】
これにより、図9(h)に示すように、任意の時刻において、車体のねじれ角は、0degに保持され、図9(g)に示す前後台車のカントの差にも関わらず、車体のねじれ角が打ち消された。
【0267】
例えば上記特許文献1に記載された技術では、前位台車及び後位台車の各々に対して車体の進行方向における中央部1箇所における傾斜角度の目標値を出力して傾斜角度を制御するだけである。そのため、上記特許文献1に記載された技術を用いた傾斜角度制御方法を前述した比較例1とすると、比較例1の傾斜角度制御方法を用いた場合、車体のねじれ角は、図9(g)に示す前後台車のカントの差に等しくなり、前後台車のカントの差が0degでない時、車体のねじれ角を0degに保持することができない。
【0268】
また、上記特許文献2に記載された技術でも、車体の進行方向における中央部1箇所における傾斜角度の目標値を、前位台車用及び後位台車用として、時間をずらして出力するだけである。そのため、上記特許文献2に記載された技術を用いた傾斜角度制御方法を比較例2とすると、比較例2の傾斜角度制御方法を用いた場合でも、車体のねじれ角を0degに保持することができない。
【0269】
一方、実施例1の傾斜角度制御方法を用いた場合、前位台車3aの位置での車両運動の評価関数と、後位台車3bの位置での車両運動の評価関数と、を別々に決定するものの、後位台車3bの位置での乗り心地評価関数に、φ(t)=φ(t)+ΔC(t)/Gを代入することにより、後位台車3bの位置での乗り心地評価関数を、後位台車3bの位置での傾斜角度の目標値φ(t)の関数から、前位台車3aの位置での傾斜角度の目標値φ(t)の関数に変換する。そのため、車体2のねじれ角を0degに保持しつつ、前位台車3aの位置での傾斜角度の目標値φm1(t)、及び、後位台車3bの位置での傾斜角度の目標値φm2(t)の各々を、精度良く、且つ、演算量を増加させることなく、算出することができる。
【0270】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0271】
本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0272】
例えば、前述の各実施の形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除若しくは設計変更を行ったもの、又は、工程の追加、省略若しくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0273】
本発明は、車体を台車に対して傾斜させる傾斜角度を制御する傾斜角度制御装置、傾斜角度制御方法及びその傾斜角度制御装置を備えた鉄道車両に適用して有効である。
【符号の説明】
【0274】
1、1a 鉄道車両
2 車体
2a 前方部分
2b 後方部分
3 台車
3a 前位台車
3b 後位台車
4 傾斜機構
4a 前位傾斜機構
4b 後位傾斜機構
5 中央部
11、11a、11b 車輪
12、12a、12b 車軸
13、13a、13b 台車枠
14、14a、14b 振子装置
15、15a、15b 振子梁
20、20a 傾斜角度制御装置
21、21a、21b 動作部
22、22a データベース
23、23a 処理部
24、24a データ取得処理部
25、25a 演算処理部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9