(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】多発性骨髄腫におけるヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC6)バイオマーカー
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6886 20180101AFI20230614BHJP
C12Q 1/6813 20180101ALI20230614BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20230614BHJP
C12N 15/52 20060101ALI20230614BHJP
A61K 31/505 20060101ALI20230614BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z
C12Q1/6813 Z
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/52 Z
A61K31/505
A61P35/00
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021083064
(22)【出願日】2021-05-17
(62)【分割の表示】P 2016541577の分割
【原出願日】2014-12-19
【審査請求日】2021-06-14
(32)【優先日】2014-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2013-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512190767
【氏名又は名称】アセチロン ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ACETYLON PHARMACEUTICALS,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ミン・ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ディヴィッド・リー・タマング
(72)【発明者】
【氏名】サイモン・エス・ジョーンズ
【審査官】小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/135459(WO,A2)
【文献】国際公開第2013/158984(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/018499(WO,A2)
【文献】Neuropsychopharmacology, 2014, Vol. 39, pp. 389-400
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多発性骨髄腫を有する対象にてヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC6)阻害剤の治療効率をモニターする方法であって、
(a)治療上有効な量のHDAC6阻害剤を受けた対象から採取された生物試料を提供することと、
(b)試料中における、配列番号26の核酸配列を有するHDAC6バイオマーカーRNA(リボ核酸)の量を測定することと、
(c)配列番号26の核酸配列を有するHDAC6バイオマーカーRNAが下方調節されるのであれば、HDAC6の治療は効率的であると結論付けることと
を含み、
ヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC6)阻害剤が、
式Iの化合物
【化1】
であり、式中、
環Bはアリールまたはヘテロアリールであり、
R
1は、OH、ハロ、またはC
1-6アルキルによって任意で置換されてもよいアリールまたはヘテロアリールであり、
RはHまたはC
1-6アルキルである、前記方法。
【請求項2】
HDAC6阻害剤が化合物A
【化2】
である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
試料が骨髄腫試料である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
試料が骨髄試料である請求項1に記載の方法。
【請求項5】
HDAC6阻害剤が化合物B
【化3】
である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
工程(c)が、前記HDAC6バイオマーカーRNAが2倍以上、下方調節されれば、HDAC6の治療が効率的であると結論付けることを含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
多発性骨髄腫を有する対象にてヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC6)阻害剤の治療効率をモニターする方法であって、
(a)治療上有効な量のHDAC6阻害剤を受けた対象から採取された生物試料を提供することと、
(b)試料中における、配列番号
27の核酸配列を有するHDAC6バイオマーカーRNA(リボ核酸)の量を測定することと、
(c)配列番号
27の核酸配列を有するHDAC6バイオマーカーRNAが下方調節されるのであれば、HDAC6の治療は効率的であると結論付けることと
を含み、
ヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC6)阻害剤が、
式Iの化合物
【化4】
であり、式中、
環Bはアリールまたはヘテロアリールであり、
R
1は、OH、ハロ、またはC
1-6アルキルによって任意で置換されてもよいアリールまたはヘテロアリールであり、
RはHまたはC
1-6アルキルである、前記方法。
【請求項8】
HDAC6阻害剤が化合物A
【化5】
である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
試料が骨髄腫試料である請求項7に記載の方法。
【請求項10】
試料が骨髄試料である請求項7に記載の方法。
【請求項11】
HDAC6阻害剤が化合物B
【化6】
である請求項7に記載の方法。
【請求項12】
工程(c)が、前記HDAC6バイオマーカーRNAが2倍以上、下方調節されれば、HDAC6の治療が効率的であると結論付けることを含む請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、それぞれその全体が参照によって本明細書に組み入れられる2013年12月20日に出願されたUS61/918,934及び2014年10月16日に出願されたUS62/064,586に対して優先権を主張する。
【0002】
配列表
本出願はASCII形式で電子的に提出されており、その全体が参照によって本明細書に組み入れられる配列表を含有する。2014年12月10日に創られた前記ASCIIコピーは564044ACT-021PC_SL.txtと名付けられ、6,616バイトのサイズである。
【0003】
本明細書で提供されるのは多発性骨髄腫におけるヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)バイオマーカーである。具体的には、これらのバイオマーカーは、mRNA、マイクロRNA及び他の低分子ノンコーディングRNAを含む薬剤特異的な、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)またはHDAC6のRNAバイオマーカーである。本発明はまた、HDAC6阻害剤の治療効率を判定するためのキット、及びヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC6)の阻害剤を特定するためにキットにも関する。本発明はさらに、対象におけるHDAC阻害剤の治療効率をモニターする方法に関する。
【背景技術】
【0004】
癌は米国で及び世界中で主な死亡原因の1つである。
【0005】
癌は生体にて正常な細胞から生じる。正常な細胞は生体がそれを必要とすると増殖し、生体がそれを必要としないと死ぬ。癌は生体で細胞が増え、制御不能に増殖する場合に生じる。
【0006】
たとえば、発癌性化学物質への曝露、タバコの使用、過剰なアルコール摂取、環境毒素への曝露、過剰な日光への曝露、遺伝的な問題、肥満、放射線及びウイルスのような多数の癌の原因がある。加えて、多数の癌の原因は未知のままである。
【0007】
多数の異なる種類の癌があり、それらは生体のどんな臓器または組織でも発生することができる。癌の種類の1つは多発性骨髄腫である。
【0008】
形質細胞骨髄腫またはカーラー(Kahler)病としても知られる多発性骨髄腫は形質細胞の癌である。多発性骨髄腫では、異常な形質細胞の集まりが骨髄にて蓄積し、それらが正常な血液細胞の産生を妨害する。
【0009】
多数の臓器が骨髄腫によって冒され得るので、症状及び兆候は大きく変化する。骨髄腫の影響には、カルシウムの上昇、腎不全、貧血及び骨病変が挙げられる。
【0010】
骨髄腫は一般に治療可能ではあるが、治癒可能ではないと考えられている。寛解は、ステロイド、化学療法、プロテアソーム阻害剤、たとえば、サリドマイドまたはレナリドミドのような免疫調節剤、及び幹細胞移植によって誘導され得る。
【0011】
骨髄腫は年間100,000人当たり1~4人に発生する。従来の治療によって生存中央値は3~4年であり、それは先進治療によって5~7年以上に延ばされ得る。多発性骨髄腫は米国では2番目に最も一般的な血液悪性腫瘍であり(非ホジキンリンパ腫に次いで)、癌すべての1%を構成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、多発性骨髄腫の治療効率を示すバイオマーカーを迅速に且つ信頼性を持って特定するニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このニーズ及び他のニーズを満たすために、本明細書で提供されるのは多発性骨髄腫におけるヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)のバイオマーカー及びそのようなバイオマーカーの使用方法である。具体的には、バイオマーカーは、多発性骨髄腫のための薬剤特異的な、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)またはHDAC6のバイオマーカーRNAである。
【0014】
本発明の実施形態は、配列番号1~27から成る群から選択されるヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC6)バイオマーカーRNA(リボ核酸)に特異的に結合する検出剤と、配列番号1~27から成る群から選択される核酸配列を含むHDAC6バイオマーカーRNAの発現レベルを測定するための指示書とを含む、多発性骨髄腫を有する対象にてHDAC6阻害剤の治療効率を判定するためのキットを提供する。
【0015】
本発明の別の実施形態は、多発性骨髄腫細胞または骨髄間質細胞と、配列番号1~27から成る群から選択されるヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC6)バイオマーカーRNA(リボ核酸)に特異的に結合する検出剤と、配列番号1~27から成る群から選択される核酸配列を含むHDAC6バイオマーカーRNAの発現レベルを測定するための指示書とを含む、多発性骨髄腫の治療にて有用であるHDAC6阻害剤を特定するためのキットを提供する。
【0016】
特定の実施形態では、バイオマーカーRNAは、配列番号1~23から成る群から選択される核酸配列を含むmiRNAである。具体的な実施形態では、配列番号1~11から成る群から選択される核酸配列を含むmiRNAはHDAC6阻害剤によって下方調節される。具体的な実施形態では、miRNAはHDAC6阻害剤によって3倍以上、下方調節される。具体的な実施形態では、配列番号12~23から成る群から選択される核酸配列を含むmiRNAはHDAC6阻害剤によって上方調節される。具体的な実施形態では、miRNAはHDAC6阻害剤によって3倍以上、上方調節される。
【0017】
特定の実施形態では、バイオマーカーRNAは配列番号24~25から成る群から選択される核酸配列を含むmRNAである。具体的な実施形態では、配列番号24の核酸配列を含むmRNAはHDAC6阻害剤によって下方調節される。具体的な実施形態では、mRNAはHDAC6阻害剤によって2倍以上、下方調節される。具体的な実施形態では、配列番号25の核酸配列を含むmRNAはHDAC6阻害剤によって上方調節される。具体的な実施形態では、mRNAはHDAC6阻害剤によって2倍以上、上方調節される。
【0018】
特定の実施形態では、バイオマーカーRNAは配列番号26~27から成る群から選択される核酸配列を含む低分子ノンコーディングRNAである。具体的な実施形態では、配列番号26~27から成る群から選択される核酸配列を含む低分子ノンコーディングRNAはHDAC6阻害剤によって下方調節される。具体的な実施形態では、低分子ノンコーディングRNAはHDAC6阻害剤によって2倍以上、下方調節される。
【0019】
本発明の実施形態は、(a)治療上有効な量のヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC6)阻害剤を対象に投与することと、(b)対象から生物試料を採取することと、(c)試料において配列番号1~27から成る群から選択される核酸配列を含むHDAC6バイオマーカーRNA(リボ核酸)の量を測定することと、(d)配列番号1~11、24及び26~27から成る群から選択される核酸配列を含むHDAC6バイオマーカーRNAが下方調節される、及び/または配列番号12~23及び25から成る群から選択される核酸配列を含むHDAC6バイオマーカーRNAが上方調節されるのであれば、HDAC6の治療が効率的であると結論付けることとを含む、対象にてHDAC6の治療効率をモニターする方法を提供する。
【0020】
具体的な実施形態では、HDAC6阻害剤は化合物Aまたは化合物Dである。
【0021】
具体的な実施形態では、試料は骨髄腫試料である。他の具体的な実施形態では、試料は骨髄試料である。
【0022】
具体的な実施形態では、工程(d)は、配列番号1~11から成る群から選択される核酸配列を含むHDAC6バイオマーカーRNAが3倍以上、下方調節されるのであればHDAC6の治療が効率的であると結論付けることを含む。
【0023】
具体的な実施形態では、工程(d)は、配列番号24及び26~27から成る群から選択される核酸配列を含むHDAC6バイオマーカーRNAが2倍以上、上方調節されるのであればHDAC6の治療が効率的であると結論付けることを含む。
【0024】
具体的な実施形態では、工程(d)は、配列番号12~23から成る群から選択される核酸配列を含むHDAC6バイオマーカーRNAが3倍以上、上方調節されるのであればHDAC6の治療が効率的であると結論付けることを含む。
【0025】
具体的な実施形態では、工程(d)は、配列番号25から成る群から選択される核酸配列を含むHDAC6バイオマーカーRNAが2倍以上、上方調節されるのであればHDAC6の治療が効率的であると結論付けることを含む。
【0026】
方法のさらに別の実施形態では、方法はさらに、工程3でHDAC6の治療が効率的ではないと判定されれば、追加のHDAC6阻害剤で対象を治療する工程(e)を含んでもよい。
【0027】
本発明の実施形態は、配列番号1~27から成る群から選択される核酸配列を含むバイオマーカーリボ核酸(RNA)を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
定義
特に定義されない限り、本明細書で使用される専門用語及び科学用語はすべて当業者によって共通して理解されるものと同じ意味を有する。
【0029】
冠詞「a」及び「an」は冠詞の文法的目的の1以上(すなわち、少なくとも1)を指すように本明細書で使用される。例として「aバイオマーカー」は1つのバイオマーカーまたは1を超えるバイオマーカーを意味する。
【0030】
用語「約」は一般に、値の10%、5%または1%以下の見込まれる変動を示す。たとえば、「約25mg/kg」は一般に最も広い意味で22.5~27.5mg/kg、すなわち、25±2.5mg/kgの値を示すであろう。
【0031】
用語「投与する」または「投与」は、物質が体外に存在するのでその物質(たとえば、本発明の製剤)を、たとえば、粘膜、皮内、静脈内、筋肉内への送達によって、及び/または本明細書で記載される若しくは当該技術で既知の物理送達の他の方法によって、患者に注入するまたはさもなければ物理的に送達する行為を指す。疾患またはその症状が治療されている場合、物質の投与は通常、疾患またはその症状の発症後に生じる。疾患またはその症状が予防されている場合、物質の投与は通常、疾患またはその症状の発症前に生じる。
【0032】
用語「アルキル」は、特定の実施形態ではそれぞれ、1~6の間、または1~8の間の炭素原子を含有する飽和した直鎖または分岐鎖の炭化水素部分を指す。C1-6アルキル部分の例には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、tert-ブチル、ネオペンチル、n-ヘキシルの部分が挙げられるが、これらに限定されず;C1-8アルキル部分の例には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、tert-ブチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、ヘプチル、及びオクチルの部分が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
アルキル置換基における炭素原子の数は、接頭辞「Cx-y」によって示すことができ、その際、xは置換基における炭素原子の最小数であり、yは最大数である。同様に、Cx鎖はx個の炭素原子を含有するアルキル鎖を意味する。
【0034】
用語「アルコキシ」は-O-アルキル部分を指す。
【0035】
用語「シクロアルキル」または「シクロアルキレン」は、単環式または多環式の飽和または部分不飽和の炭素環の環化合物に由来する一価の基を示す。C3-C8-シクロアルキル例には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル及びシクロオクチルが挙げられるが、これらに限定されず;C3-C12-シクロアルキルの例には、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル、及びビシクロ[2.2.2]オクチルが挙げられるが、これらに限定されない。熟考されるのはまた、単一の水素原子の取り外しによる少なくとも1つの炭素/炭素二重結合を有する単環式または多環式の炭素環の環化合物に由来する一価の基である。そのような基の例には、シクロプロペニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル、シクロオクテニル等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
用語「アリール」は、フェニル、ナフチル、テトラヒドロナフチル、インダニル、インデニル等を含むが、これらに限定されない1以上の縮合したまたは縮合しない芳香環を有する単環式または多環式の炭素環の環系を指す。一部の実施形態では、アリール基は6個の炭素原子を有する。一部の実施形態では、アリール基は6~10の炭素原子を有する。一部の実施形態では、アリール基は6~16の炭素原子を有する。
【0037】
用語「ヘテロアリール」は、少なくとも1つの芳香環を有する単環式または多環式の(たとえば、二環式、または三環式以上)縮合したまたは縮合しない部分または環系を指し、その際、環形成原子の1以上が、たとえば、酸素、イオウ、または窒素のようなヘテロ原子である。一部の実施形態では、ヘテロアリール基は、約1~6の炭素原子を有し、さらなる実施形態では、1~15の炭素原子を有する。一部の実施形態では、ヘテロアリール基は5~16の環原子を含有し、そのうち1つの環原子は酸素、イオウ及び窒素から選択され;ゼロ、1、2、または3の環原子は酸素、イオウ及び窒素から独立して選択される追加のヘテロ原子であり;残りの環原子は炭素である。ヘテロアリールには、ピリジニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、チアジアゾリル、オキサジアゾリル、チオフェニル、フラニル、インドリル、キノリル、イソキノリニル、ベンズイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、キノキサリニル、アクリジニル等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
用語「ハロ」は、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素のようなハロゲンを指す。
【0039】
用語「HDAC」はヒストン脱アセチル化酵素を指し、それはコアヒストンにてリジン残基からアセチル基を取り外すので、濃縮され、転写上サイレントにされたクロマチンの形成をもたらす酵素である。現在、4つの群に分類される18の既知のヒストン脱アセチル化酵素がある。HDAC1、HDAC2、HDAC3、及びHDAC8を含むクラスIのHDACは、酵母のRPD3遺伝子に関係する。HDAC4、HDAC5、HDAC6、HDAC7、HDAC9、及びHDAC10を含むクラスIIのHDACは、酵母のHda1遺伝子に関係する。サーチュインとしても知られるクラスIIIのHDACはSir2遺伝子に関係し、SIRT1-7を含む。HDAC11のみを含有するクラスIVのHDACは、クラスI及びクラスIIのHDAC双方の特徴を有する。用語「HDAC」は、特定されない限り、18の既知のヒストン脱アセチル化酵素のいずれか1以上を指す。
【0040】
用語「HDAC6に特異的な」は、HDAC1またはHDAC2のようなHDAC酵素の他の型に比べて、たとえば、5×、10×、15×、20×以上のように実質的に大きな程度に、化合物がHDAC6に結合することを意味する。すなわち、化合物はHDAC酵素の他の型よりもHDAC6に対して選択性である。たとえば、10nMのIC50でHDAC6に結合し、且つ50nMのIC50でHDAC1に結合する化合物はHDAC6に特異的である。一方、50nMのIC50でHDAC6に結合し、且つ60nMのIC50でHDAC1に結合する化合物はHDAC6に特異的ではない。
【0041】
用語「阻害剤」は用語「アンタゴニスト」と同義である。
【0042】
用語「生物試料」は一般に個体、体液、細胞株、組織培養物、または他の供給源から得られる生物試料を意味するべきである。体液は、たとえば、血液、リンパ液、血清、血漿、尿、精液、滑液、及び脊髄液である。哺乳類から組織生検及び体液を得る方法は当該技術で周知である。用語「試料」が単独で使用されるのであれば、それは依然として、「試料」が「生物試料」であること、すなわち、用語は相互交換可能に使用されることを意味するべきである。
【0043】
用語「組成物」及び「製剤」は、任意で特定された量での特定された成分(たとえば、HDAC阻害剤)を含有する製品、と同様に任意で特定された量での特定された成分の組み合わせから直接または間接的に生じる製品を包含するように意図される。
【0044】
用語「賦形剤」は薬剤のための希釈剤、溶媒、保存剤、結合剤、安定剤等として一般に使用される不活性物質を指し、それには、タンパク質(たとえば、血清アルブミン等)、アミノ酸(たとえば、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジン等)、脂肪酸及びリン脂質(たとえば、アルカリスルホネート、カプリル酸塩等)、界面活性剤(たとえば、SDS、ポリソルベート、非イオン性界面活性剤等)、糖類(たとえば、スクロース、マルトース、トレハロース等)及びポリオール(たとえば、マンニトール、ソルビトール等)が挙げられるが、これらに限定されない。その全体が参照によって本明細書に組み入れられるRemingtonのPharmaceutical Sciences(1990),Mack Publishing Co.,Easton,Pa.も参照のこと。
【0045】
語句「HDAC阻害剤による治療に応答する」または「HDAC6阻害剤による治療に応答する」または類似の語句は、HDAC阻害剤(たとえば、HDAC6阻害剤)による治療からまたは治療の結果、たとえば、癌のような疾患または状態を患う患者に付与される臨床利益を指す。臨床利益には、HDAC阻害剤による治療からのまたは治療の結果としての、完全寛解、部分寛解、安定な疾患(進行しない)、無増悪生存、無病生存、(病勢)進行までの時間における改善、死亡までの時間における改善、または患者の生存時間全体の改善が挙げられる。治療法に対する応答を判定するための基準があり、それらの基準によって代替治療との有効性の比較が可能になる(Slapak及びKufe,Principles of Cancer Therapy,in Harrisons’s Principles of Internal Medicine,第13版.Isselbacherら,McGraw-Hill,Inc.,1994)。たとえば、癌の完全応答または完全寛解は検出可能な悪性疾患すべての消失である。癌の部分応答または部分寛解は、たとえば、1以上の病変の直交に交わる最大径の生成物の約50%の縮小、または病変のサイズが増えない若しくは新しい病変が出現しない場合であってもよい。
【0046】
用語「癌の進行」は、転移、癌の再発、1つの病変の直交に交わる最大径の生成物の約25%の増大、または新しい病変の出現を含み、それらを指してもよい。癌の進行は、癌の再発または転移が減る、遅い、遅延する、または妨げられるならば、「抑制される」。
【0047】
用語「バイオマーカーRNA」は多発性骨髄腫における治療効率の有用な指標であるRNAである。
【0048】
「キット」は、バイオマーカーRNAを特異的に検出するための少なくとも1つの試薬、たとえば、検出剤を含む製品(たとえば、包装または容器)である。
【0049】
用語「mRNA」は、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであるメッセンジャーRNAを指す。従来、mRNAの基本成分には、少なくともコーディング領域、5’UTR、3’UTR、5’キャップ及びポリAテールが含まれる。メッセンジャーRNAはDNAからリボソームに遺伝情報を運ぶRNA分子の大きなファミリーであり、それらは遺伝子発現のタンパク質産物のアミノ酸配列を特定する。RNAポリメラーゼによる一次転写物mRNA(プレ-mRNA)の転写に続いて、プロセッシングされた成熟mRNAはタンパク質に翻訳される。
【0050】
用語「miRNA」は植物及び動物にて見いだされた、遺伝子発現の転写調節及び転写後調節で機能する低分子ノンコーディングRNA(約22のヌクレオチド)であるマイクロRNAを指す。真核細胞の核DNAにコードされて、miRNAはmRNA分子内の相補性配列との塩基対合を介して機能し、普通、転写抑制または標的分解を介して遺伝子のサイレンシングを生じる。ヒトのゲノムは1000を超えるmiRNAをコードしてもよく、それは哺乳類遺伝子の約60%を標的とする可能性があり、多数のヒト細胞型にて豊富である。
【0051】
用語「ノンコーディングRNA」はタンパク質に翻訳されない機能的なRNA分子を指す。あまり頻繁には使用されない同義語は、非タンパク質コーディングRNA(npcRNA)、非メッセンジャーRNA(nmRNA)及び機能的RNA(fRNA)である。用語、小分子RNA(sRNA)は短分子ncRNAについて使用されることが多い。ノンコーディングRNAが転写されるDNA配列はRNA遺伝子と呼ばれることが多い。ノンコーディングRNA遺伝子には、たとえば、転移RNA(tRNA)及びリボソームRNA(rRNA)、と同様たとえば、snoRNA、マイクロRNA、siRNA、snRNA、exRNA、及びpiRNAのようなRNA並びにたとえば、Xist及びHOTAIRのような例を含む長鎖ncRNAのような高度に豊富で且つ機能的に重要なRNAが挙げられる。ヒトのゲノム内にコードされるncRNAの数は未知であるが、最近のトランスクリプトーム及びバイオインフォマティクスの研究は、何千ものncRNAの存在を示唆している。新しく特定されたncRNAの多くはその機能について検証されていないので、多数が機能的ではない可能性がある。
【0052】
用語「核酸」は、デオキシヌクレオチド、リボヌクレオチド、または修飾されたヌクレオチド、及び一本鎖または二本鎖の形態でのそれらのポリマーを指す。その用語は、合成である、天然に存在する及び天然に存在しない、参照核酸に類似する結合特性を有する、且つ参照ヌクレオチドに類似する方法で代謝される既知のヌクレオチド類似体または修飾された主鎖残基または結合を含有する核酸を包含する。そのような類似体の例には限定しないで、ホスホロチオエート、ホスホルアミダイト、ホスホン酸メチル、キラルホスホン酸メチル、2-O-メチルリボヌクレオチド及びペプチド核酸(PNA)が挙げられる。
【0053】
用語「ヌクレオチド」は、当該技術で認識されるように使用されて、且つ天然の塩基(標準)及び修飾された塩基を含む。そのような塩基は一般にヌクレオチドの糖部分の1’位に位置する。ヌクレオチドは一般に塩基、糖及びリン酸基を含む。ヌクレオチドは糖部分、リン酸部分及び/または塩基部分で未修飾であることができ、又は修飾することができる(相互交換可能に、ヌクレオチド類似体、修飾されたヌクレオチド、非天然のヌクレオチド、非標準のヌクレオチド等とも呼ばれ、たとえば、そのそれぞれが全体として参照によって本明細書に組み入れられるEcksteinら,WO92/07065;及びUsmanら,WO93115187を参照のこと)。Limbachら,Nucleic Acids Res.22:2183,1994によって要約されたように当該技術で既知の修飾された核酸塩基の幾つかの例がある。核酸分子に導入することができる塩基修飾の非限定例の一部には、ヒポキサンチン、プリン、ピリジン-4-オン、ピリジン-2-オン、フェニル、偽ウラシル、2,4,6-トリメトキシベンゼン、3-メチルウラシル、ジヒドロウリジン、ナフチル、アミノフェニル、5-アルキルシチジン(たとえば、5-メチルシチジン)、5-アルキルウリジン(たとえば、リボチミジン)、5-ハロウリジン(たとえば、5-ブロモウリジン)または6-アザピリミジンまたは6-アルキルピリミジン(たとえば、6-メチルウリジン)、プロピン等が挙げられる(Burginら,Biochemistry,35:14090,1996)。
【0054】
用語「修飾された塩基」は1’位でのアデニン、グアニン、シトシン、チミジン及びウラシルまたはその同等物以外のヌクレオチド塩基を意味する。
【0055】
用語「修飾されたヌクレオチド」はヌクレオシド、核酸塩基、ペントース環またはリン酸基に対して1以上の修飾を有するヌクレオチドを指す。たとえば、修飾されたヌクレオチドは、アデノシン一リン酸、グアノシン一リン酸、ウリジン一リン酸、及びシチジン一リン酸を含有するリボヌクレオチド、並びにデオキシアデノシン一リン酸、デオキシグアノシン一リン酸、デオキシチミジン一リン酸及びデオキシシチジン一リン酸を含有するデオキシリボヌクレオチドを除外する。修飾には、たとえば、メチルトランスフェラーゼのような、ヌクレオチドを修飾する酵素による修飾の結果生じる天然に存在するものが含まれる。修飾されたヌクレオチドには、合成のヌクレオチドまたは天然に存在しないヌクレオチドも含まれる。ヌクレオチドにおける合成の修飾または天然に存在しない修飾には、2’修飾、たとえば、2’-メトキシエトキシ、2’-フルオロ、2’-アリル、2’-O-[2-(メチルアミノ)-2-オキソエチル]、4’-チオ、4’-CH2-O-2’-架橋、4’-(CH2)2-O-2’-架橋、2’-LNA、及び2’-O-(Nメチルカルバメート)によるもの、または塩基類似体を含むものが挙げられる。本明細書で記載される2’-修飾されたヌクレオチドと関連して、用語「アミノ」は、修飾することができ、または未修飾であることができる2’-NH2または2’-O-NH2を意味する。そのような修飾された基は、たとえば、Ecksteinら,US5,672,695及びMatulic-Adamicら,US6,248,878にて記載されている。
【0056】
用語「塩基類似体」は、核酸二本鎖に取り込むことができる修飾されたヌクレオチドにおけるヌクレオチドの糖部分の1’位(または核酸二本鎖に取り込むことができるヌクレオチドの糖部分の置換における同等の位置)に位置するヘテロ環部分を指す。塩基類似体は一般に、共通の塩基、グアニン(G)、シトシン(C)、アデニン(A)、チミン(T)及びウラシル(U)を除外するプリン塩基またはピリミジン塩基のいずれかである。塩基類似体はdsNAにて他の塩基または塩基類似体と二本鎖を形成することができる。塩基類似体には本発明の化合物及び方法で有用なものが含まれ、たとえば、そのそれぞれが全体として参照によって本明細書に組み入れられる、BennerへのUS5,432,272及びUS6,001,983及びManoharanへのUS2008/0213891にて開示されたものが含まれる。塩基の非限定例には、ヒポキサンチン(I)、キサンチン(X)、3-β-D-リボフラノシル-(2,6-ジアミノピリミジン)(K)、3-β-D-リボフラノシル-(1-メチル-ピラゾロ[4,3-d]ピリミジン-5,7(4H,6H)-ジオン)(P)、イソ-シトシン(イソ-C)、イソ-グアニン(イソ-G)、1-β-D-リボフラノシル-(5-ニトロインドール)、1-β-D-リボフラノシル-(3-ニトロピロール)、5-ブロモウラシル、2-アミノプリン、4-チオ-dT、7-(2-チエニル)-イミダゾ[4,5-b]ピリジン(Ds)及びピロール-2-カルボアルデヒド(Pa)、2-アミノ-6-(2-チエニル)プリン(S)、2-オキサピリジン(Y)、ジフルオロトリル、4-フルオロ-6-メチルベンズイミダゾール、4-メチルベンズイミダゾール、3-メチルイソカルボスチリリル、5-メチルイソカルボスチリリル、及び3-メチル-7-プロピニルイソカルボスチリリル、7-アザインドリル、6-メチル-7-アザインドリル、イミジゾピリジニル、9-メチル-イミジゾピリジニル、ピロロピリジニル、イソカルボスチリリル、7-プロピニルイソカルボスチリリル、プロピニル-7-アザインドリル、2,4,5-トリメチルフェニル、4-メチルインドリル、4、6-ジメチルインドリル、フェニル、ナフタレニル、アントラセニル、フェナントラセニル、ピレニル、スチルベンジル、テトラセニル、ペンタセニル、及びそれらの構造的誘導体が挙げられる(Schweitzerら,J.Org.Chem.,59:7238-7242(1994);Bergerら,Nucleic Acids Research,28(15):2911-2914(2000);Moranら,J.Am.Chem.Soc.,119:2056-2057(1997);Moralesら,J.Am.Chem.Soc.,121:2323-2324(1999);Guckianら,J.Am.Chem.Soc.,118:8182-8183(1996);Moralesら,J.Am.Chem.Soc.,122(6):1001-1007(2000);McMinnら,J.Am.Chem.Soc.,121:11585-11586(1999);Guckianら,J.Org.Chem.,63:9652-9656(1998);Moranら,Proc.Natl.Acad.Sci.,94:10506-10511(1997);Dasら,J.Chem.Soc.,Perkin Trans.,1:197-206(2002);Shibataら,J.Chem.Soc.,Perkin Trans.,1:1605-1611(2001);Wuら,J.Am.Chem.Soc.,122(32):7621-7632(2000);O’Neillら,J.Org.Chem.,67:5869-5875(2002);Chaudhuriら,J.Am.Chem.Soc.,117:10434-10442(1995);及びUS6,218,108)。塩基類似体はユニバーサル塩基であってもよい。
【0057】
用語「ユニバーサル塩基」は、核酸二本鎖に存在する場合、二本鎖らせん構造(たとえば、リン酸主鎖の構造)を変えることなく1を超える型の塩基の反対側に位置することができる、修飾されたヌクレオチドにおけるヌクレオチドの糖部分の1’位またはヌクレオチドの糖部分の置換における同等の位置に位置付けられるヘテロ環部分を指す。さらに、ユニバーサル塩基は、それが標的核酸に二本鎖化するように存在する一本鎖核酸の能力を破壊しない。標的核酸を二本鎖化するユニバーサル塩基を含有する一本鎖核酸の能力は当業者に明らかな方法(たとえば、UV吸光度、円偏光二色性、ゲルシフト、一本鎖ヌクレアーゼの感度等)によってアッセイすることができる。さらに、二本鎖形成が観察される条件を変化させて二本鎖の安定性または形成を測定してもよく、たとえば、融解温度(Tm)としての温度は核酸二本鎖の安定性に相関する。標的核酸に対して正確に相補性である参照一本鎖核酸と比べて、ユニバーサル塩基を含有する一本鎖核酸は、相補性の核酸によって形成された二本鎖よりも低いTmを有する標的核酸と二本鎖を形成する。しかしながら、ユニバーサル塩基が塩基で置換されて単一のミスマッチを生じている参照一本鎖核酸と比べて、ユニバーサル塩基を含有する一本鎖核酸は、ミスマッチ塩基を有する核酸によって形成された二本鎖よりも高いTmを有する標的核酸と二本鎖を形成する。
【0058】
一部のユニバーサル塩基は、塩基対形成の条件下でユニバーサル塩基と塩基グアニン(G)、シトシン(C)、アデニン(A)、チミン(T)及びウラシル(U)のすべてとの間で水素結合を形成することによって塩基対合することが可能である。ユニバーサル塩基はたった1つの単一の相補性塩基との塩基対を形成する塩基ではない。二本鎖では、ユニバーサル塩基は、二本鎖の対向する鎖におけるそれに対抗するG、C、A、T及びUのそれぞれと水素結合を形成しなくてもよく、水素結合を1つ形成してもよく、または1を超える水素結合を形成してもよい。好ましくは、ユニバーサル塩基は二本鎖の対向する鎖におけるそれに対抗する塩基とは相互作用しない。二本鎖では、ユニバーサル塩基との塩基対合は、リン酸主鎖の二本鎖らせん構造を変えることなく生じる。ユニバーサル塩基はスタッキング相互作用によって同じ核酸鎖上の隣接ヌクレオチドにおける塩基とも相互作用してもよい。そのようなスタッキング相互作用は、特に、ユニバーサル塩基が二本鎖の対向する鎖におけるそれに対向して位置付けられた塩基との水素結合を形成しない状況では、二本鎖を安定化する。ユニバーサル結合のヌクレアーゼヌクレオチドの非限定例には、イノシン、1-β-D-リボフラノシル-5-ニトロインドール、及び/または1-β-D-リボフラノシル-3-ニトロピロールが挙げられる(US20070254362;Van Aerschotら,An acyclic 5-nitroindazole nucleoside analogue as ambiguous nucleoside.Nucleic Acids Res.1995;23(21):4363-70;Loakesら,3-Nitropyrrole and 5-nitroindole as universal bases in primers for DNA sequencing and PCR.Nucleic Acids Res.1995;23(13):2361-6;Loakes及びBrown,5-Nitroindole as a universal base analogue.Nucleic Acids Res.1994;22(20):4039-43)。
【0059】
用語「オリゴヌクレオチド」は一本鎖核酸分子を意味する。オリゴヌクレオチドはリボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、修飾されたヌクレオチド(たとえば、2’修飾を伴うヌクレオチド、合成塩基類似体等)、またはそれらの組み合わせを含んでもよい。そのような修飾されたオリゴヌクレオチドは、たとえば、高い細胞取り込み及びヌクレアーゼの存在下での高い安定性のような特性のためにネイティブ形態よりも好まれ得る。
【0060】
用語「リボヌクレオチド」は天然の及び合成の、未修飾の及び修飾されたリボヌクレオチドを包含する。修飾には、糖部分に対する、塩基部分に対する、及び/またはオリゴヌクレオチドにおけるリボヌクレオチド間の結合に対する変化が挙げられる。本明細書で使用されるとき、用語「リボヌクレオチド」は特に、2’リボース環の位置で単一のプロトン基を持つヌクレオチドであるデオキシリボヌクレオチドを排除する。
【0061】
用語「デオキシリボヌクレオチド」は、天然の及び合成の、未修飾の及び修飾されたデオキシリボヌクレオチドを包含する。修飾には、糖部分に対する、塩基部分に対する、及び/またはオリゴヌクレオチドにおけるデオキシリボヌクレオチド間の結合に対する変化が挙げられる。
【0062】
用語「小分子」は、実験室で合成されるまたは自然界で見いだされる非ペプチドの、非オリゴマーの有機化合物を指す。小分子は本明細書で使用されるとき、「天然物様」である化合物を指すことができるが、用語「小分子」は「天然物様」の化合物に限定されない。むしろ、小分子は通常、この特徴付けが本発明の目的を限定するように意図されることはないが、幾つかの炭素/炭素結合を含有し、1500未満の分子量を有することを特徴とする。自然界に存在する「小分子」の例にはタキソール、ジネミシン及びラパマイシンが挙げられるが、これらに限定されない。特定の他の好まれる実施形態では、天然物様の小分子が利用される。
【0063】
用語「単離される」、「精製される」または「生物学的に純粋な」は、そのネイティブな状態で見いだされるような通常それに伴う成分を実質的にまたは本質的に含まない物質を指す。純度及び均質性は通常、たとえば、ポリアクリルアミドゲル電気泳動または高速液体クロマトグラフィのような分析化学の技法を用いて決定される。特に実施形態では、化合物は少なくとも85%純粋であり、さらに好ましくは少なくとも90%純粋であり、さらに好ましくは少なくとも95%純粋であり、最も好ましくは少なくとも99%純粋である。
【0064】
用語「RNA」はリボ核酸を指す。RNAは核酸で構成される。RNAはヌクレオチドの鎖として組み立てられ、普通、一本鎖である。
【0065】
用語「特異的に結合する」は、特定のRNAに結合するが、他のRNAには結合しないことを指す。
【0066】
用語「治療法」は、疾患の予防、管理、治療及び/または改善に使用することができるプロトコール、方法及び/または作用剤を指す。
【0067】
用語「治療上有効な量」は、対象にて測定可能な効果を生じる薬剤の量、たとえば、腫瘍細胞を殺傷するまたはその増殖を阻害するのに有効な量を意味する。
【0068】
「治療する」、「治療すること」及び「治療」は疾患及び/または付随する症状を緩和するまたは弱める方法を指す。
【0069】
用語「治療効率」は、薬剤がどのように上手く役目を果たすのか、すなわち、どのように上手く標的に作用して治療効果を生じるのかを意味する。
miRNA/mRNAのアレイ
【0070】
ヒトmiRNome完全RT2miRNAのPCRアレイは、Sanger miRBase Release14によって注釈がつけられたように、ヒトmiRNAゲノム(miRNome)における752の最も豊富に発現されており、且つ最も特徴付けられているマイクロRNA(miRNA)配列の発現を描いている。
【0071】
Illumina遺伝子発現Beadchipの内容は、上手く特徴付けられた遺伝子、遺伝子候補及びスプライス変異体のゲノムの広さの転写適用範囲を提供する。BeadChipの各アレイは、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)のRefSEqリリース38(2009年11月7日)及び他の供給源に由来する47,000を超えるプローブを標的とする。
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤
【0072】
本明細書でのmiRNA/mRNAのアレイ法及びその実施例で有用なHDAC阻害剤は、たとえば、小分子有機化合物、抗体、siRNA、アプタマー、核酸、タンパク質またはペプチドのような任意のHDAC阻害剤であることができる。好ましくは、HDAC阻害剤は小分子有機化合物である。
【0073】
好ましくは、HDAC阻害剤はHDAC6阻害剤である。これは、HDAC阻害剤がHDACの他の形態よりもHDAC6を選択的に阻害することを意味する。
【0074】
一部の実施形態では、HDAC6に特異的な阻害剤は式I:
【化1】
の化合物または薬学上許容可能なその塩であり、式中、
環Bはアリールまたはヘテロアリールであり、
R
1は、そのそれぞれがOH、ハロ、またはC
1-6アルキルによって任意で置換されてもよいアリールまたはヘテロアリールであり、
RはHまたはC
1-6アルキルである。
【0075】
式Iの代表的な化合物には
【化2】
または薬学上許容可能なその塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
式Iに係る選択的HDAC6阻害剤の調製及び特性は、その全体的な内容が参照によって本明細書に組み入れられるPCT/US2011/021982にて提供されている。
【0077】
他の実施形態では、HDAC6に特異的な阻害剤は式II
【化3】
の化合物または薬学上許容可能なその塩であり、式中、
R
x及びR
yはそれぞれ結合される炭素と一緒に、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、またはシクロオクチルを形成し;
R
Aはそれぞれ独立してC
1-6-アルキル、C
1-6-アルコキシ、ハロ、OH、-NO
2、-CN、または-NH
2であり;且つ
mは0、1、または2である。
【0078】
式IIの代表的な化合物には
【化4】
または薬学上許容可能なその塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
式IIに係る選択的HDAC6阻害剤の調製及び特性は、その全体的な内容が参照によって本明細書に組み入れられるPCT/US2011/060791にて提供されている。
【0080】
HDAC阻害剤は以下の特性の1以上を有する:化合物は少なくとも1つのヒストン脱アセチル化酵素を阻害することが可能である;化合物はHDAC6を阻害することが可能である;化合物は選択的なHDAC6阻害剤である;化合物はHDAC6のポリユビキチン結合ドメインに結合する;化合物は癌細胞(特に、多発性骨髄腫細胞、非ホジキンリンパ腫(NML)細胞、乳癌細胞、急性骨髄性白血病(AML)細胞)にてアポトーシスを誘導することが可能である;及び/または化合物はアグリソーム形成を阻害することが可能である。
【0081】
HDAC阻害剤は、金属結合部分、好ましくは、たとえば、ヒドロキサム酸塩のような亜鉛結合部分を含んでもよい。特定のヒドロキサム酸塩は、HDAC6活性の強力な阻害剤であり;理論に束縛されることを望まないで、これらヒドロキサム酸塩の有効性は少なくとも部分的には化合物の亜鉛を結合する能力によるものと考えられる。HDAC阻害剤は、アグリソーム経路に関与する生物標的、たとえば、チューブリン脱アセチル化酵素(TDAC)の活性またはHDAC、たとえば、HDAC6の活性を有する生物標的について選択性を付与することができる少なくとも1つの部分または領域を含んでもよい。従って、一部のHDAC阻害剤には、生物標的に結合することに関与する分子の他の部分から間隔を空けて亜鉛結合部分が含まれる。
バイオマーカー
【0082】
本明細書の実施例で示されるように、miRNA/mRNAアレイ法を用いて特定のセットの細胞が何故殺傷されるのかを我々に知らせてくれるバイオマーカーを特定してもよい。すなわち、バイオマーカーは骨髄腫においてHDAC阻害剤及び細胞死を示す。
【0083】
細胞のそのセットは細胞の対照群と細胞の試験群とを含有してもよい。細胞のこのセットによって特定の薬剤が特定の型の癌細胞でどのように機能するのかを決定するのが可能になる。
【0084】
態様の1つでは、本明細書で提供されるのは、多発性骨髄腫のためのヒストン脱アセチル化酵素(HDAC6)のバイオマーカーRNAである。バイオマーカーRNAは配列番号1~27から成る群から選択される核酸配列を含む。
【0085】
一実施形態では、バイオマーカーRNAは、配列番号1~23から成る群から選択される核酸配列を含むmiRNAである。
【0086】
配列番号1~11から成る群から選択される核酸配列を含むmiRNAはHDAC6阻害剤(たとえば、化合物D)によって下方調節することができる。具体的な実施形態では、それらのmiRNAはHDAC6阻害剤によって3倍以上、下方調節される。
【0087】
配列番号12~23から成る群から選択される核酸配列を含むmiRNAはHDAC6阻害剤(たとえば、化合物D)によって上方調節することができる。具体的な実施形態では、それらのmiRNAはHDAC6阻害剤によって3倍以上、上方調節される。
【0088】
別の実施形態では、バイオマーカーRNAは配列番号24~25から成る群から選択される核酸配列を含むmRNAである。
【0089】
配列番号24の核酸配列を含むmRNAはHDAC6阻害剤(たとえば、化合物D)によって下方調節することができる。具体的な実施形態では、mRNAはHDAC6阻害剤によって2倍以上、下方調節される。
【0090】
配列番号25の核酸配列を含むmRNAはHDAC6阻害剤(たとえば、化合物D)によって上方調節することができる。具体的な実施形態では、mRNAはHDAC6阻害剤によって2倍以上、上方調節される。
【0091】
さらに別の実施形態では、バイオマーカーRNAは配列番号26~27から成る群から選択される核酸配列を含む低分子ノンコーディングRNAである。
【0092】
配列番号26~27から成る群から選択される核酸配列を含む低分子ノンコーディングRNAは、HDAC6阻害剤(たとえば、化合物D)によって下方調節することができる。具体的な実施形態では、低分子ノンコーディングRNAはHDAC6阻害剤によって2倍以上、下方調節される。
【0093】
好ましくは、バイオマーカーは表1におけるRNAから選択される。
キット
【0094】
本発明の特定の実施形態は、ヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC6)阻害剤を特定するために、または薬剤特異的な及び/または疾患特異的なバイオマーカーを特定するために実験方法にて使用されてもよいキットを含む。
【0095】
本発明の実施形態は、配列番号1~27から成る群から選択されるヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC6)のバイオマーカーRNA(リボ核酸)に特異的に結合する検出剤と、配列番号1~27から成る群から選択される核酸配列を含むHDAC6バイオマーカーRNAの発現レベルを測定するための指示書とを含む、多発性骨髄腫を有する対象にてHDAC6阻害剤の治療効率を判定するためにキットを提供する。HDAC6バイオマーカーRNAは本明細書で提供されるようなHDAC6バイオマーカーRNAの1つであることができる。細胞は骨髄腫細胞(たとえば、MM.1SまたはRPMI8226)または骨髄間質細胞(たとえば、HS-5)であることができる。
【0096】
本発明の実施形態は、配列番号1~27の核酸の少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11、少なくとも12、少なくとも13、少なくとも14、少なくとも15、少なくとも16、少なくとも17、少なくとも18、少なくとも19、少なくとも20、少なくとも21、少なくとも22、少なくとも23、少なくとも24、少なくとも25、少なくとも26、または少なくとも27から成るヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC6)バイオマーカーRNA(リボ核酸)に特異的に結合する1以上の検出剤と、配列番号1~27から成る群から選択される核酸配列を含むHDAC6バイオマーカーRNAの発現レベルを測定するための指示書とを含む、多発性骨髄腫を有する対象にてHDAC6阻害剤の治療効率を判定するためのキットを提供する。細胞は骨髄腫細胞(たとえば、MM.1SまたはRPMI8226)または骨髄間質細胞(たとえば、HS-5)であることができる。
【0097】
本発明の別の実施形態は、多発性骨髄腫細胞または骨髄間質細胞と、配列番号1~27から成る群から選択されるヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC6)バイオマーカーRNA(リボ核酸)に特異的に結合する検出剤と、配列番号1~27から成る群から選択される核酸配列を含むHDAC6バイオマーカーRNAの発現レベルを測定するための指示書とを含む、多発性骨髄腫の治療に有用であるHDAC6阻害剤を特定するためのキットを提供する。骨髄腫細胞は、MM.1S細胞またはRPMI8226細胞であることができる。骨髄間質細胞はHS-5細胞であることができる。
方法
【0098】
本発明の実施形態は、対象における薬剤の治療効率をモニターする方法を提供する。対象は細胞または哺乳類であることができる。好ましくは薬剤はHDAC6阻害剤である。
【0099】
態様の1つでは、本明細書で提供されるのは、
(a)治療上有効な量のヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC6)阻害剤を対象に投与することと、
(b)対象から生物試料を採取することと、
(c)試料にて配列番号1~27から成る群から選択される核酸配列を含むHDAC6バイオマーカーRNAの量を測定することと、
(d)配列番号1~11、24及び26~27から成る群から選択される核酸配列を含むHDAC6バイオマーカーRNAが下方調節されるならば、及び/または配列番号12~23及び25から成る群から選択される核酸配列を含むHDAC6バイオマーカーRNAが上方調節されるならば、HDAC6の治療が効率的であると結論付けることとを含む、対象にてHDAC6阻害剤の治療効率をモニターする方法である。
【0100】
方法は、対象が受けているHDAC治療が効率的であるかどうかをモニターするであろう。すなわち、方法はHDAC6の阻害及び細胞死を示すであろう。
【0101】
上記で議論したように、HDAC6阻害剤は当該技術で既知のHDAC6阻害剤であってもよい。好ましくは、HDAC6阻害剤は化合物Aまたは化合物Dである。
【0102】
治療上有効な量及び投与の任意の経路を用いてHDAC6阻害剤が投与されてもよい。
【0103】
試料は、骨髄腫細胞(MM.1SまたはRPMI8226)または骨髄間質細胞(HS-5)であることができる。
【0104】
対象は哺乳類であることもできる。
【0105】
特定の疾患を持つ対象にて治療効率を判定するために、方法には対象(たとえば、ヒト)から生物試料を採取することが関与する。たとえば、生物試料は、全血、血液血清、血液血漿、精液、尿、粘液、骨髄または他の生体試料に由来する試料であってもよい。一実施形態では、生物試料は骨髄試料である。別の実施形態では、生物試料は骨髄腫試料である。
【0106】
方法の一実施形態では、工程(d)は、配列番号1~11から成る群から選択される核酸配列を含むHDAC6バイオマーカーRNAが3倍以上、下方調節されるのであれば、HDAC6の治療は効率的であると結論付けることを含む。
【0107】
方法の別の実施形態では、工程(d)は、配列番号24及び26~27から成る群から選択される核酸配列を含むHDAC6バイオマーカーRNAが2倍以上、下方調節されるのであれば、HDAC6の治療は効率的であると結論付けることを含む。
【0108】
方法のさらに別の実施形態では、工程(d)は、配列番号12~23から成る群から選択される核酸配列を含むHDAC6バイオマーカーRNAが3倍以上、上方調節されるのであれば、HDAC6の治療は効率的であると結論付けることを含む。
【0109】
方法のその上別の実施形態では、工程(d)は、配列番号25から成る群から選択される核酸配列を含むHDAC6バイオマーカーRNAが2倍以上、上方調節されるのであれば、HDAC6の治療は効率的であると結論付けることを含む。
【0110】
判定する工程は、本発明のヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC6)バイオマーカーRNAを特定するための当該技術で既知の手段または検出剤を使用してもよい。
【0111】
方法のその上別の実施形態では、方法はさらに、工程(3)でHDAC6の治療が効率的ではないと判定したならば追加のHDAC6阻害剤で対象を治療する工程(e)を含んでもよい。
【0112】
本発明のさらなる実施形態は、ヒストン脱アセチル化酵素6(HDAC6)阻害剤を対象に投与することを含む、配列番号1~27から成る群から選択されるHDAC6バイオマーカーリボ核酸(RNA)の1以上を発現する多発性骨髄腫の対象を治療する方法を含む。特定の実施形態では、配列番号1~11、24または26~27のHDAC6バイオマーカーRNAは下方調節され、及び/または配列番号12~23または25のHDAC6バイオマーカーRNAは上方調節される。
【0113】
本明細書で言及される特許、特許出願及び出版物はすべて、その全体がそれぞれ参照によって本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0114】
本発明の特定の具体的な実施形態を説明する目的で且つそれを記載するために実施例が以下で示されている。しかしながら、クレームの範囲は本明細書で示される実施例によって決して限定されるべきではない。開示される実施形態への種々の変化及び改変は当業者に明らかであろうし、本発明の化学構造、置換基、誘導体、製剤及び/または方法に関するものを含むが、これらに限定されないそのような変化及び改変は本発明の精神及び添付のクレームの範囲から逸脱することなく為され得る。本明細書のスキームにおける構造上の変数の定義は、本明細書で提示される式における位置に相当するものと同等である。
【0115】
当該技術の技量の範囲内である分子生物学及び核酸/タンパク質化学の従来の技法が文献で説明され、本発明の実践で使用される。たとえば、そのすべてが参照によって本明細書に組み入れられるSambrook,J.ら,モルecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1989;Gait,M.J.(ed.),Oligonucleotide synthesis--a practical approach,IRL Press Limited,1984;Hames,B.D.及びHiggins,S.J.(eds.),Nucleic acid hybridisation--a practical approach, IRL Press Limited,1985;並びにa series,Methods in Enzyモルogy,Academic Press,Inc.を参照のこと。
【0116】
式Iの化合物の合成は、その全体が参照によって本明細書に組み入れられるPCT/US2011/021982にて提供されている。式IIの化合物の合成は、その全体が参照によって本明細書に組み入れられるPCT/US2011/060791にて提供されている。式IIIの化合物の合成は、それぞれその全体が参照によって本明細書に組み入れられるUS5,635,517;US6,281,230;US6,335,349;及びUS6,476,052;並びにPCT/US97/013375にて提供されている。
実施例1:2-(ジフェニルアミノ)-N-(7-(ヒドロキシアミノ)-7-オキソヘプチル)ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物A)の合成
【0117】
【0118】
中間体2の合成
【化7】
アニリン(3.7g、40ミリモル)とエチル 2-クロロピリミジン-5-カルボキシレート1(7.5g、40ミリモル)とK
2CO
3(11g、80ミリモル)のDMF(100ml)における混合物をN
2のもとで一晩120℃にて脱気し、撹拌した。反応混合物を室温に冷却し、EtOAc(200mL)で希釈し、飽和ブライン(200mL×3)で洗浄した。有機層を分離し、Na
2SO
4上で乾燥させ、乾燥するまで蒸発させ、シリカゲルクロマトグラフィ(石油エーテル/EtOAc=10/1)によって精製して白色固形物として所望の生成物(6.2g、64%)を得た。
【0119】
中間体3の合成
【化8】
化合物2(6.2g、25ミリモル)とヨードベンゼン(6.12g、30ミリモル)とCuI(955mg、5.0ミリモル)とCs
2CO
3(16.3g、50ミリモル)のTEOS(200ml)における混合物を脱気し、窒素でパージした。得られた混合物を140℃で4時間撹拌した。室温に冷却した後、残留物をEtOAc(200ml)及び95%EtOH(200ml)で希釈し、シリカゲル[50g、NH
4F(100g)の水溶液(1500ml)をシリカゲル(500g、100-200メッシュ)に添加することによって事前に調製した]上のNH
4F-H
2Oを加え、得られた混合物を室温で2時間保持し、固化した物質を濾別し、EtOAcで洗浄した。乾燥するまで濾液を蒸発させ、残留物をシリカゲルクロマトグラフィ(石油エーテル/EtOAc=10/1)によって精製して黄色固形物(3g、38%)を得た。
【0120】
中間体4の合成
【化9】
化合物3(3.0g、9.4ミリモル)のEtOH(200ml)溶液に2NのNaOH(200ml)を加えた。混合物を60℃で30分間撹拌した。溶媒の蒸発後、溶液を2NのHClで中和して白色沈殿物を得た。懸濁液をEtOAc(2×200ml)で抽出し、有機層を分離し、水(2×100ml)、ブライン(2×100ml)で洗浄し、Na
2SO
4上で乾燥させた。溶媒の除去によって茶色固形物(2.5g、92%)を得た。
【0121】
中間体6の合成
【化10】
化合物4(2.5g、8.58ミリモル)とアミノヘプタノエート5(2.52g、12.87ミリモル)とHATU(3.91g、10.30ミリモル)とDIPEA(4.43g、34.32ミリモル)の混合物を室温で一晩撹拌した。反応混合物を濾過した後、濾液を乾燥するまで蒸発させ、残留物をシリカゲルクロマトグラフィ(石油エーテル/EtOAc=2/1)によって精製して茶色固形物(2g、54%)を得た。
【0122】
2-(ジフェニルアミノ)-N-(7-(ヒドロキシアミノ)-7-オキソヘプチル)ピリミジン-5-カルボキサミドの合成
【化11】
化合物6(2.0g、4.6ミリモル)と水酸化ナトリウム(2N、20mL)のMeOH(50ml)とDCM(25ml)における混合物を0℃で10分間撹拌した。ヒドロキシルアミン(50%)(10ml)を0℃に冷却し、混合物に加えた。得られた混合物を室温で20分間撹拌した。溶媒を除去した後、混合物を1MのHClで中和し、白色の沈殿物を得た。粗精製物を濾過し、プレHPLCによって精製して白色固形物(950mg、48%)を得た。
実施例2:2-((2-クロロフェニル)(フェニル)アミノ)-N-(7-(ヒドロキシアミノ)-7-オキソヘプチル)ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物B)の合成
【化12】
【0123】
【0124】
中間体2の合成
実施例1における中間体2の合成を参照のこと。
【0125】
中間体3の合成
化合物2(69.2g、1当量)と1-クロロ-2-ヨードベンゼン(135.7g、2当量)とLi2CO3(42.04g、2当量)とK2CO3(39.32g、1当量)とCu(1当量,45μm)のDMSO(690ml)における混合物を脱気し、窒素でパージした。得られた混合物を140℃で撹拌した。反応物の後処理によって93%の収率で化合物3を得た。
【0126】
中間体4の合成
実施例1における中間体4の合成を参照のこと。
【0127】
中間体6の合成
実施例1における中間体6の合成を参照のこと。
【0128】
2-((2-クロロフェニル)(フェニル)アミノ)-N-(7-(ヒドロキシアミノ)-7-オキソヘプチル)ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物B)の合成
実施例1における化合物Aの合成を参照のこと。
実施例3:2-((1-(3-フルオロフェニル)シクロヘキシル)アミノ)-N-ヒドロキシピリミジン-5-カルボキサミド(化合物C)の合成
【0129】
【化14】
1-(3-フルオロフェニル)シクロヘキサンカルボニトリルの合成
2-(3-フルオロフェニル)アセトニトリル(100g、0.74モル)の無水DMF(1000ml)溶液に1,5-ジブロモペンタン(170g、0.74モル)を加え、氷槽にて一滴ずつNaH(65g、2.2当量)を加えた。添加の後、得られた混合物を50℃で一晩激しく撹拌した。氷水で慎重に懸濁液の反応を止め、酢酸エチル(3×500ml)で抽出した。合わせた有機溶液を濃縮して粗精製物を得、それをフラッシュカラムにて精製して淡色固形物(100g、67%)として1-(3-フルオロフェニル)シクロヘキサンカルボニトリルを得た。
【0130】
1-(3-フルオロフェニル)シクロヘキサンカルボキサミドの合成
1-(3-フルオロフェニル)シクロヘキサンカルボニトリル(100g、0.49モル)のPPA(500ml)溶液を110℃で5~6時間加熱した。完了した後、得られた混合物を飽和NaHCO3溶液でpH=8~9まで慎重に塩基性化した。沈殿物を回収し、水(1000ml)で洗浄して白色固形物として1-(3-フルオロフェニル)シクロヘキサンカルボキサミド(95g、87%)を得た。
【0131】
1-(3-フルオロフェニル)シクロヘキサンアミンの合成
1-(3-フルオロフェニル)シクロヘキサンカルボキサミド(95g、0.43モル)のn-BuOH(800ml)溶液にNaClO(260ml、1.4当量)加え、次いで3NのNaOH(400ml、2.8当量)を0℃で加え、反応物を室温で一晩撹拌した。得られた混合物をEA(2×500ml)で抽出し、合わせた有機溶液をブラインで洗浄し、乾燥させて粗精製物を得、それをさらにHCl塩による処理で精製して白色粉末(72g、73%)を得た。
【0132】
エチル 2-(1-(3-フルオロフェニル)シクロヘキシルアミノ)ピリミジン-5-カルボキシレートの合成
1-(3-フルオロフェニル)シクロヘキサンアミン塩酸塩(2.29g、10ミリモル)のジオキサン(50ml)溶液にエチル 2-クロロピリミジン-5-カルボキシレート(1.87g、1.0当量)とDIPEA(2.58g、2.0当量)を加えた。混合物を110~120℃で一晩加熱した。得られた混合物をシリカゲルカラムで直接精製して白色固形物としてカップリング生成物(1.37g、40%)を得た。
【0133】
2-((1-(3-フルオロフェニル)シクロヘキシル)アミノ)-N-ヒドロキシピリミジン-5-カルボキサミドの合成
エチル 2-(1-(3-フルオロフェニル)シクロヘキシルアミノ)ピリミジン-5-カルボキシレート(100mg、0.29ミリモル)のMeOH/DCM(10ml、1:1)溶液に50%NH
2OH水溶液(2ml、過剰)加え、次いで0℃にて飽和NaOHのMeOH溶液(2ml、過剰)を加え、3~4時間撹拌した。完了した後、得られた混合物を濃縮し、2NのHClでpH=4~5に酸性化した。沈殿物を回収し、水(10ml)で洗浄してNH
2OHを除き、白色粉末として2-((1-(3-フルオロフェニル)シクロヘキシル)アミノ)-N-ヒドロキシピリミジン-5-カルボキサミド(70mg、73%)を得た。
実施例4:N-ヒドロキシ-2-((1-フェニルシクロプロピル)アミノ)ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物D)の合成
【化15】
【0134】
【0135】
中間体2の合成
化合物1とベンゾニトリル(250g、1.0当量.)とTi(OiPr)4(1330ml、1.5当量.)のMBTE(3750ml)溶液を窒素雰囲気下で約-10℃~-5℃に冷却した。EtMgBr(1610ml、3.0M、2.3当量)を60分間かけて一滴ずつ加え、その間、反応物の内部温度を5℃未満に保持した。反応混合物を1時間15~20℃に温めた。BF3-エーテル(1300ml、2.0当量)を60分間かけて一滴ずつ加え、その間、内部温度を15℃未満に維持した。反応混合物を15~20℃で1~2時間撹拌し、低レベルのベンゾニトリルが残っていたら反応を止めた。内部温度を30℃未満に維持しながら、1NのHCl(2500ml)を一滴ずつ加えた。依然として内部温度を30℃未満に維持しながら、NaOH(20%、3000ml)を一滴ずつ加えてpHを約9.0にした。反応混合物をMTBE(3L×2)及びEtOAc(3L×2)で抽出し、合わせた有機層を無水Na2SO4上で乾燥させ、減圧下(45℃未満)で濃縮して赤色の油を得た。MTBE(2500ml)を油に加え、透明な溶液を得、無水HCl気体を通すと、固形物が沈殿した。固形物を濾別し、真空で乾燥させて143gの化合物2を得た。
【0136】
中間体4の合成
化合物2(620g、1.0当量)とDIPEA(1080g、2.2当量)をNMP(3100ml)に溶解し、20分間撹拌した。化合物3(680g、1.02当量)を加え、反応混合物を85~95℃に4時間加熱した。溶液をゆっくり室温に冷却した。この溶液をH2O(20L)に注ぎ、強い撹拌によって固形物の多くは溶液から析出した。混合物を濾過し、50℃にて減圧下でケーキを24時間乾燥させ、896gの化合物4(固形物、86.8%)を得た。
【0137】
N-ヒドロキシ-2-((1-フェニルシクロプロピル)アミノ)ピリミジン-5-カルボキサミド(化合物D)の合成
MeOH(1000ml)の溶液を撹拌しながら約0~5℃に冷却した。NH2OH HCl(1107g、10当量)を加え、その後、NaOCH3(1000g、12.0当量)を慎重に加えた。得られた混合物を0~5℃で1時間撹拌し、濾過して固形物を除いた。化合物4(450g、1.0当量)を反応混合物に一気に加え、化合物4が消費されるまで10℃で2時間撹拌した。HCl(6N)の添加を介して反応混合物を約8.5~9のpHに合わせ、沈殿を生じた。混合物を減圧下で濃縮した。強く撹拌しながら水(3000ml)を残留物に加え、濾過によって沈殿物を回収した。45℃のオーブンで一晩生成物を乾燥させた(340g、収率79%)。
実施例5:マイクロRNA及びmRNAのアレイ
【0138】
化合物Dを骨髄腫細胞株(MM.1SまたはRPMI8226)または骨髄間質細胞株(HS-5)と共に37℃で6時間インキュベートした。化合物Dの濃度は2μMだった。
【0139】
或いは、化合物Aを骨髄腫細胞株MM.1Sと共に37℃で6時間インキュベートした。
【0140】
全RNAを処理した細胞(たとえば、MM.1S細胞またはRPMI8226細胞)から抽出し、マイクロRNAアッセイを用いて分析した。
【0141】
これらの試験の結果を以下の表1にて示す。
【0142】
表1の最初の列は化合物Aまたは化合物Dで処理された細胞を示す。
【0143】
表1の2番目の列は、列1の相当する細胞におけるmiRNA及びmRNAを含む、特定されたRNAバイオマーカーを示す。
【0144】
表1の3番目の列(化合物D)及び4番目の列(化合物A)は対照細胞に比べた処理された細胞におけるRNAバイオマーカーの発現を示す。示された数は対照細胞における相当するバイオマーカーの発現レベルに対して基準化されている。たとえば、バイオマーカーhsa-miR-346の発現レベルは0.26だったが、それは処理されたMM.1S細胞におけるこのバイオマーカーの発現レベルがMM.1S対照細胞におけるこのバイオマーカーの発現レベルの26%だったことを意味する。逆に、バイオマーカーhsa-miR-145の発現レベルは3.09だったが、それは処理されたMM.1S細胞におけるこのバイオマーカーの発現レベルがMM.1S対照細胞におけるこのバイオマーカーの発現レベルの3.09倍だったことを意味する。従って、1未満の数は相当するバイオマーカーが化合物Dによって下方調節されることを示し、且つ1を超える数は相当するバイオマーカーが化合物Dによって上方調節されることを示す。
【0145】
間質HS-5細胞では、バイオマーカーHIF-1aは、処理された細胞におけるその発現レベルが対照細胞における発現レベルの49%だったので化合物Dによって下方調節された。逆に、バイオマーカーPTPRUは、処理された細胞におけるその発現レベルが対照細胞における発現レベルの2.52倍だったので化合物Dによって上方調節された。
【表1-1】
【表1-2】
【配列表】