(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】関節の固縮の特性評価のためのシステム及びデバイス
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20230614BHJP
A61B 5/22 20060101ALI20230614BHJP
A61H 1/02 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
A61B5/11 230
A61B5/22 210
A61H1/02 K
(21)【出願番号】P 2021510498
(86)(22)【出願日】2019-05-03
(86)【国際出願番号】 AU2019050408
(87)【国際公開番号】W WO2019210372
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2022-05-02
(32)【優先日】2018-05-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】519044955
【氏名又は名称】ザ・バイオニクス・インスティテュート・オブ・オーストラリア
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】トゥシャラ・ペレラ
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス・シンクレア
(72)【発明者】
【氏名】デヴィッド・アンガス・ベグ
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-193936(JP,A)
【文献】特開平10-127714(JP,A)
【文献】特開2004-222777(JP,A)
【文献】国際公開第2004/058359(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/11
A61B 5/22
A61H 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の身体領域と第2の身体領域との間の関節の固縮の特性評価をするためのシステムであって、前記システムは、
前記第1の身体領域に連結されるように構成された参照部分と、
前記第2の身体領域に連結され、連結されたときに前記第2の身体領域が前記第1の身体領域に対して第1の方向に移動できるように構成された可動部分と、
前記可動部分を前記参照部分に対して前記第1の方向に移動させるように構成された移動源と、
前記可動部分と前記第2の身体領域との間の力を判定するように構成された第1のセンサと、
前記移動源によって消費される電力を判定するように構成された第2のセンサと、
プロセッサと、を含むセンサのセットと、を備え、
前記プロセッサは、そのセンサからの判定を示す前記センサのセットから信号のセットを受信し、少なくとも前記信号のセットに基づいて前記関節の前記固縮を示す出力信号を伝達するように構成される、
前記システム。
【請求項2】
前記関節が中手指節関節である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記センサのセットが、前記参照部分に対する前記可動部分の
変位を判定するように構成された第3のセンサをさらに備える、請求項1~2のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項4】
前記センサのセットが、前記システムの慣性運動を判定するように構成された第4のセンサをさらに備える、請求項1~3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記出力信号が臨床評価を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記プロセッサが、ルックアップテーブルに基づいて前記臨床評価を判定する、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記出力信号は、力率、ピークの力、仕事、ピーク電流、及び電荷のうちの1つまたは複数を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記プロセッサは、
前記第1のセンサの出力の閾値変化率を含む所定の基準に基づいて
、前記信号のセットの一部を破棄するように構成される、請求項1~7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記所定の基準は、前記第1のセンサの出力の変化の閾値率を含む、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
第1の身体領域と第2の身体領域との間の関節の固縮の特性評価をするためのデバイスであって、前記デバイスは、
前記第1の身体領域に連結されるように構成された参照部分と、
前記第2の身体領域に連結され、連結されたときに前記第2の身体領域が前記第1の身体領域に対して第1の方向に移動できるように構成された可動部分と、
前記可動部分を前記参照部分に対して前記第1の方向に移動させるように構成された移動源と、
前記可動部分と前記第2の身体領域との間の力を判定するように構成された第1のセンサと、
前記移動源によって消費される電力を判定するように構成された第2のセンサと、
を含む、前記デバイス。
【請求項11】
前記第1のセンサは、前記可動部分の表面上に配置される、請求項
10に記載のデバイス。
【請求項12】
前記可動部分が指と連結されるように構成され、前記参照部分が手のひらに連結されるように構成されている、請求項
10又は11に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2018年5月4日に出願された豪州仮特許出願第2018901532号の優先権を主張するものであり、その内容のすべてが参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、関節の特性評価のためのシステム、デバイス、及び方法に関する。例えば、本開示は、パーキンソン病または関節炎の診断及び/または滴定などのための関節の固縮の測定及び評価に関連し得る。
【背景技術】
【0003】
いくつかの病状及び/または疾患は、その患者(複数可)の1つまたは複数の特徴に影響を及ぼし得る。逆に、患者の症状の重症度は、疾患及び/または病状の状態の特性評価をするために評価され得る。
【0004】
測定されてきたそのような特性の1つは、関節の固縮である。臨床医は固縮の測定に関心を寄せる場合がある。これは、一部の臨床医によって受動運動に対する抵抗として定義される場合がある。例えば、臨床医は、そのような測定に少なくとも部分的に基づいて、疾患を診断し、及び/または治療を滴定することができる。
【0005】
パーキンソン病(PD)の患者の中には、通常、振戦、固縮、姿勢の不安定性、及び/または寡動(遅いこと)の症状を経る者がいる。そのような患者は、対応する筋緊張の増加(伸筋と屈筋の共収縮)に応じて固縮の増加を経る可能性があり、固縮のそのような変化の測定は、臨床医にとって有用な指標となり得る。
【0006】
PDの例では、固縮は患者に共通しており、治療法の変更や疾患の進行によって影響を受ける最初の症状の1つであることが多い。そのため、固縮の正確な評価は、疾患の進行を監視したり、治療の有効性を評価したりするのに有用な場合がある。固縮の定量化は、有利な場合がある。例えば、PDの診断と管理のための臨床的な相談の間、新しい治療的介入が調査される臨床試験、及び/または病態生理学に関する機構の洞察を判定するための研究がある。
【0007】
PD症状の重症度は、Movement Disorder Society’s Unified Parkinson’s Disease Rating Scale(UPDRS、またはMDS-UPDRS)などの臨床評価尺度を使用して評価されている。これには、運動障害の専門家が観察に基づき0~4の順序で症状を評価またはスコアリングする必要がある。この方法では、臨床医は患者の手足を操作し、UPDRSに記載されているインストラクションを使用して、関節の全範囲に沿った移動を完了するために必要な力を、主観で測定する。得られる評価は、PDの診断と療法の滴定に使用される。
【0008】
しかし、このような方法は、1つ以上の固有の問題をはらむ場合がある。それらには、(順不同で)主観的な臨床評価による評価の変動性及び/またはサンプリングによる変動性、感度の欠如、及び運動障害の専門家が存在するという要件が含まれる。
【0009】
また、上記の臨床評価の主観的な性質は、二次的な困難を引き起こす可能性がある。すなわち、特に繰り返し行うことで複数の専門家が必要になる場合、1人または複数の独立した運動障害の専門家を採用すると、患者にとって高額であり、時間を要し、及び/または疲労の可能性があり、また臨床試験のために行う必要がある場合、複数の専門家の採用において、スケジューリングの困難が生じる潜在的な可能性がある。もう1つの潜在的なリスクは、5点の0~4 UPDRSスケールに十分な分解能がない可能性があるということであり、例えば症状の重症度の小さな変化の検出を妨げる。これは、患者の困難や欲求不満を増大させるだけでなく、新しい介入を試みている研究者にとっても懸念事項となる可能性がある。
【0010】
また、PDの症状は、薬物動態、心理的要因(ストレス、注意、疲労など)、及び他の要因、例えば概日リズムにより、重症度が変動する可能性がある。したがって、臨床医へ1回訪問している最中の測定など、データの限られたサンプリングでは、治療の助言を得るのに十分な情報が提供されない場合がある。
【0011】
関節(例えば人間の関節)の固縮をより適切に判断するために、多くの努力がなされてきた。例えば、特殊な変換器を使用して手足にかかる力を測定しながら、参加者の反復可能な強制的な屈曲作業を引き出す振子ベースのシステムがある。かような努力は、大まかに自動または半手動のいずれかに潜在的に分類でき、この場合自動的なアプローチでは、電気モータを使用して、出力測定である変位と力/トルクにより、反復可能な方法で、手足(手首など)の屈曲を駆動する。半自動的なアプローチには、視覚的合図または可聴メトロノームに合わせて力変換器を介して参加者の手足を操作する調査者が含まれ得る。
【0012】
そのようなアプローチは問題が皆無というわけではなかった。1つには、関節を屈曲するのに足る速度で十分なトルクを供給するために比較的大きなモータが必要となる場合があり、それは患者の不安を引き起こすだけでなく、発生する騒音に起因して病院という環境でのその有用性を制限する可能性がある。また、患者はデバイスを積極的に助けようとする可能性があり、それによって見出された結果が交絡する。半手動的な方法は、バイアスの問題を解決できない可能性があるが、変動が大きくなる傾向がある。
【0013】
他の筋電図検査(EMG)などのアプローチも調査されてきたが、モーションのアーティファクトや対象間の変動などの交絡要素のため、それほど有望視されていなかった。
【0014】
本明細書に含まれている文書、行為、材料、デバイス、物品などのいかなる説明も、それが本願の各特許請求の範囲の優先日より前に存在していたとき、これらの事項のいずれかまたはすべてが、先行技術の基礎の部分を形成するか、本開示に関連する分野において共通の一般知識であったことの承認としてみなされるべきではない。
【発明の概要】
【0015】
本開示の特定の態様は、手首、肘、足首、膝、または指の関節などの関節の特性評価をするためのシステム、デバイス、及び方法に関する。いくつかの例では、システムは、移動源によって互いに対して移動されるように接続及び構成された、参照部分及び可動部分を備え得る。参照部分は、手のひらまたは前腕などの身体の第1の領域に連結することができ、可動部分は、例えば、中手指節関節または手首それぞれの特性評価をするために、それぞれ指または手のひらなどの身体の第2の領域に連結することができる。
【0016】
本開示で言及される関節の特性評価は、手首の固縮などの固縮の判定、及び/または振戦、寡動または不安定性などの他の関節パラメータまたは行動の判定に関連し得る。「関節の固縮」が言及されている場合、それは必ずしも分離して「関節」の固縮に限定されるわけではないなく、別のものに関して(例えば、第2の身体領域に関して第1の身体領域)、1つの身体領域の移動(例えば回転)に対する抵抗を指す場合があることを理解されたい。言い換えれば、「手首の固縮」は、単に隣接する前腕に対する手の受動運動に対する抵抗を単に言及している場合がある。例として、「肘の固縮」は、前腕の1つの筋肉または筋肉群の状態の機能、ならびに肘領域自体の状態の機能であり得る。
【0017】
システムは、システムが原位置に配置されている間、参照部分と可動部分との間での移動に関連する1つまたは複数の測定値のセットを収集するように構成された1つまたは複数のセンサのセットを備え得る。
【0018】
これに続いて、本開示の一態様では、第1の身体領域と第2の身体領域との間の関節の特性評価をするためのシステムが提供され、システムは、第1の身体領域に連結されるように構成された参照部分と、第2の身体領域に連結され、連結されたときに第2の身体領域が第1の身体領域に対して第1の方向に移動できるように構成された可動部分と、可動部分を参照部分に対して第1の方向に移動させるように構成された移動源と、参照部分と可動部分との間の移動に関連する1つまたは複数の測定値のセットを収集するように構成された1つまたは複数のセンサのセットと、1つまたは複数の測定値に基づいて関節を特性評価をするためのプロセッサと、を含む。
【0019】
さらに、本開示の一態様は、第1の身体領域と第2の身体領域との間の関節の特性評価をするための方法に関し、方法は、第1の身体領域に連結された参照部分を提供することと、第2の身体領域に連結された可動部分を提供することと、関節の移動方向に参照部分に対して可動部分を移動するように構成された移動源を提供することと、第2の領域に対する第1の身体領域の移動方向での移動を実行し、1つまたは複数のセンサのセットを使用して、参照部分と可動部分との間の移動に関連する測定値を収集し、1つまたは複数の測定値に基づいて関節を特性評価することと、を含む。
【0020】
さらに、本開示の一態様は、第1の身体領域と第2の身体領域との間の関節の特性評価をするためのデバイスに関し、デバイスは、第1の身体領域に連結されるように構成された参照部分と、第2の身体領域に連結され、連結されたときに第2の身体領域が第1の身体領域に対して第1の方向に移動できるように構成された可動部分と、可動部分を参照部分に対して第1の方向に移動させるように構成された移動源と、参照部分と可動部分との間の移動に関連する1つまたは複数の測定値のセットを収集するように構成された1つまたは複数のセンサのセットと、を含む。
【0021】
測定値のセットを使用して、可動部分を動かすのに必要なトルク、及び/または該移動中に指によって加えられる力を判定することができる。次に、判定されたトルク及び/または力を使用して、例えば、臨床評価を生成することによって、関節を特性評価することができる。このシステムを使用すると、内部で誘発された動きまたは努力(例えば、患者が開始した努力)が説明される、そうでなければ、特性評価の精度が低下する可能性がある。
【0022】
いくつかの実施形態では、トルクは、移動源によって消費される電力から判定され得る。いくつかの実施形態では、消費される電力は、移動源の電流の引き込み(current draw)の測定に基づいて判定され得る。
【0023】
センサのセットは、力変換器、電流変換器、変位変換器、及び慣性運動ユニットのうちの1つまたは複数を含み得る。センサのセットは、プロセッサがそこから臨床評価を生成するための測定値のセットを生成することができる。プロセッサは、ルックアップテーブル及び/または伝達関数のうちの1つまたは複数を使用して臨床評価を生成することができ、ルックアップテーブル及び/または伝達関数は、回帰モデルを使用して導出することができる。ルックアップテーブル及び/または伝達関数は、プロセッサによってアクセスされるためにメモリに検索可能に保存されることなどによって、事前に判定され得る。
【0024】
本開示の一態様は、第1の身体領域と第2の身体領域との間の関節の固縮の特性評価をするためのシステムに関し、このシステムは、第1の身体領域に連結されるように構成された参照部分と、第2の身体領域に連結され、連結されたときに第2の身体領域が第1の身体領域に対して第1の方向に移動できるように構成された可動部分と、可動部分を参照部分に対して第1の方向に移動させるように構成された移動源と、可動部分と第2の身体領域との間の力を判定するように構成された第1のセンサと、移動源によって消費される電力を判定するように構成された第2のセンサと、及びプロセッサを含むセンサのセットと、を備え、プロセッサは、そのセンサからの判定を示すセンサのセットから信号のセットを受信し、少なくとも信号のセットに基づいて関節の固縮を示す出力信号を伝達するように構成される。
【0025】
関節は中手指節関節であり得る。センサのセットは、参照部分に対する可動部分の位置を判定するように構成された第3のセンサをさらに含み得る。センサのセットは、システムの慣性運動を判定するように構成された第4のセンサをさらに含み得る。出力信号は、臨床評価を含み得る。プロセッサは、ルックアップテーブルに基づいて臨床評価を判定することができる。出力信号は、力率(force rate)、ピークの力、仕事(work)、ピーク電流、及び電荷のうちの1つまたは複数を含み得る。プロセッサは、所定の基準に基づいて信号のセットの一部を破棄するように構成され得る。所定の基準は、第1のセンサの出力の閾値変化率を含み得る。
【0026】
本開示の一態様は、関節の特性評価のために、第1の身体領域と第2の身体領域との間の関節の固縮を判定するための方法に関し、この方法は、第1の身体領域に連結された参照部分を提供することと、第2の身体領域に連結された可動部分を提供することと、関節の移動方向に参照部分に対して可動部分を移動するように構成された移動源を提供することと、第2の領域に対する第1の身体領域の移動方向での移動を実行することであって、センサのセットは、可動部分と第2の領域との間の力及び移動源によって消費される電力を示すセンサ出力のセットを伝達する、実行することと、プロセッサを使用して、センサ出力に少なくとも部分的に基づいて関節の固縮を判定することと、を含む。
【0027】
関節は指の関節でもよい。関節の固縮は、ルックアップテーブルを使用して判定できる。移動は、関節の複数の屈曲サイクルを含み得る。移動は、20~40回の屈曲サイクルで構成される。関節の固縮は、臨床評価として判定される場合がある。センサ出力のセットは、関節で発生している振戦をさらに示し得る。センサ出力のセットは、可動部分の位置をさらに示すことができる。センサ出力のセットは、100Hzでの測定に基づく場合がある。移動は、実質的に一定の速度であり得る。
【0028】
本開示の一態様は、第1の身体領域と第2の身体領域との間の関節の固縮の特性評価をするためのデバイスに関し、このデバイスは、第1の身体領域に連結されるように構成された参照部分と、第2の身体領域に連結され、連結されたときに第2の身体領域が第1の身体領域に対して第1の方向に移動できるように構成された可動部分、可動部分を参照部分に対して第1の方向に移動させるように構成された移動源、可動部分と第2の身体領域との間の力を判定するように構成された第1のセンサ、及び移動源によって消費される電力を判定するように構成された第2のセンサを備える。
【0029】
システム、方法、またはデバイスのいくつかの形態では、本開示の態様によれば、第1のセンサは可動部分の表面に配置され、及び/または可動部分は指に連結されるように構成され、参照部分は手のひらに連結するように構成されている。
【0030】
システム、方法、またはデバイスのいくつかの形態では、本開示の態様によれば、参照部分は、患者の手のひらに連結されるように構成され得て、一方で可動部分は、患者の第2指に連結されるように構成され得る。参照部分は、患者の手のひらに連結された手のひら支持部と、手のひら支持部から延びる1つまたは複数の指支持延長部とを含み得る。患者の第2指及び/または可動部分を動かすことができる指支持延長部の間にギャップが存在し得る。指支持部の1つは、患者の第1指をサポートし得る。指支持部の1つは、患者の第3指及び第4指を支持し得る。参照部分に対して指を動かないように保持するために、1つまたは複数の固定デバイスを備えることができる。1つまたは複数の固定デバイスは、面ファスナ、接着剤、テープ、スリーブ、ストラップ、ロッキングピン、ラチェット及び爪機構、及び/または他の適切な固定機構を含み得る。
【0031】
本明細書を通じて、「comprise(含む)」、「含む(include)」、及び「有する(have)」という単語、または「含む(comprises)」もしくは「含む(comprising)」「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(has)」及び「有する(having)」などの変形は、記載された要素、整数またはステップ、または要素群、整数群もしくは諸ステップを包含するが、いかなる他の要素、整数またはステップ、または要素群、整数群または諸ステップをも排除することを意味するものではないことが理解されよう。
【0032】
ここで、本開示の実施形態は、付随の図面を参照して、ほんの一例として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】本開示の実施形態によるシステムの斜視図を示す。
【
図2】本開示の実施形態によるシステムの出力から判定された予測データをプロットし、MDS-UPDRSによる臨床評価の検証データセットに対してプロットされた検証研究結果のグラフ、及びオーバーレイされた線形回帰グラフを示す。
【
図3】可動部分が使用者の第2指に連結され、参照部分が使用者の手のひらに連結されている、原位置での本開示の実施形態によるシステムの正面図を示す。
【
図4】
図3に示したシステムの側面図を示している。
【
図5】本開示の実施形態によるシステムの相互接続性を概説する例示的なブロック図を示す。
【
図6】本開示のシステムの実施形態の動作中に測定された力のデータを示す例示的なグラフを示す。
【
図7】本開示のシステムの実施形態の動作中に測定された電流のデータを示す例示的なグラフを示す。
【
図8】本開示の別の実施形態によるシステムの斜視図を示す。
【
図10】パーキンソン病と対照群の脳深部刺激療法の使用及び不使用の固縮を示すための独立した測定として使用される力率と仕事の推定の一連の棒グラフを示している。
【
図11】A~Cは、脳深部刺激療法不使用(灰色の影付きの領域で示されている)と脳深部刺激療法を使用して測定された、力率、仕事の推定、及び臨床固縮評価をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、剛性ポリマー本体などの参照部分100、モータなどの移動源200、可動部分300及び接続部分400を含む、本開示の実施形態によるシステムを示す。
図1はさらに、可動部分300と接続部分400が互いに枢動可能に接続されていることを示している。参照部分100は、手のひらなどの第1の身体領域に連結されるように構成され、可動部分300は、同じ手の第2指などの第2の身体領域に連結させるように構成される。
【0035】
システムは、第1の身体領域と第2の身体領域とを含む及び/またはその間に位置する関節の特性評価をするために、第2の身体領域に対する第1の身体領域の移動を可能にするように構成され得る。関節が指の中手指節関節である場合、例えば、移動は手のひらに対する指の屈曲及び伸展を含み得、最終的に中手指節関節の固縮を判定するために使用され得る。別の例として、関節は手首であり得、前腕に対する手の屈曲の移動は、手首の固縮の特性評価をするために使用され得る。
図1では、接続部分400は、参照部分100及び可動部分300に回転式に連結され、移動源200は、接続部分400に回転式に連結され、必要に応じて屈曲を駆動できるようにする。
【0036】
図示の実施形態では、参照部分100は、患者の手のひらに連結されるように構成され、一方で可動部分300は、患者の第2指に連結されるように構成される。
図3及び
図4に見られるように、参照部分100は、患者の手のひらに対して実質的に平らに置かれている。この実施形態では、参照部分は、患者の手のひらに連結された手のひら支持部120と、手のひら支持部120から延びる一対の指支持延長部121、122とを含む。延長部の1つが患者の第1指を支持する一方で、他方の延長部が患者の第3指と第4指を支持する。患者の第2指及び/または可動部分300を動かすことができる指支持延長部の間にギャップが存在する。支持された指は、それらが参照部分100に対して動かないように、延長部121、122に連結されている。
図3に示すように、第3指と第4指の支持部121は、第1指(または人差し指)の支持部122の幅の約2倍である。これらの指支持延長部は、可動部分300が移動源200によって動かされたときに参照部分を安定させ、参照部分の揺れまたはぐらつきを防止し、したがって、システムによって得られる測定の精度を高めることができる。
【0037】
参照部分100及び可動部分300は、任意の数の異なる方法で、それぞれ第1及び第2の身体領域に連結することができる。例えば、それらは、1つまたは複数の固定デバイス600を使用して連結することができる。いくつかの実施形態では、固定デバイスは、面ファスナタイプの留め具であり得る。面ファスナは、参照部分100を第1の身体領域に繋げ、可動部分300を第2の身体領域に繋げることができる。代替的に、または追加的に、接着剤、テープ(例えば、両面テープ)またはスリーブなどの他の手段を使用することができる。例えば、生体適合性の可溶性接着剤を使用して、参照部分100を第1の身体領域に一時的に接着させることができる。外側スリーブは、可動部分300に接着して、第2の身体領域をそこに挿入することができる。別の例では、
図8及び
図9に示されるように、参照部分100は、ストラップを固定するためのロッキングピン620を備えた調整可能な可撓性ストラップ610を含む固定デバイスによって第1の身体領域に連結され得る。この構成により、システムがより広い範囲の身体領域サイズに適合すること、システムの迅速な適用と削除をもたらすこと、システムが摩耗や断裂に対してより堅牢になるようにすること、及び/または使用後のシステムの消毒または洗浄を容易にすること、が可能になる。
【0038】
この実施形態では、可動部分300は、線形ラチェット型調整機構630及び剥離可能な爪機構640を含むクイックリリースコネクタを介して第2指に固定されている。ラチェット調整機構630は、ストラップを締めて、可動部分を第2の身体領域に確実に固定することを可能にし、クランプ力の容易で正確な調整をもたらす。クイックリリース爪機構640は、デバイスを第2の身体領域から迅速に容易に取り外すことを可能にする。
【0039】
図8に示されるように、システムは、参照部分100と第1の身体領域との間にクッションを設けるために、快適なアンダーレイ700をさらに含み得る。アンダーレイは取り外し可能で、例えば、洗浄して再利用することができる。他の実施形態では、アンダーレイは単回使用の使い捨ての品目であり得る。他の実施形態では、アンダーレイ700は、参照部分100に取り外し不可能に固定され得る。アンダーレイ700は、例えば、シリコーンゲル、発泡体層、または緩衝効果をもたらすのに適した代替材料の層を含み得る。快適なアンダーレイは、参照部分と第1の身体領域との間の圧力を低下させることにより、システムと接触している患者の快適さを向上させることができる。これにより、患者の倦怠感が軽減され、そのためシステムをより長い期間使用できるようになる。
【0040】
図8及び
図9に示される実施形態では、システムは、オンボードバッテリ電源を収容するためのバッテリコンパートメント810と、オンボード電子機器を収容するための電子機器コンパートメント820とをさらに備える。この実施形態では、バッテリコンパートメント810は、第1指(人差し指)のための指支持延長部122を含む参照部分100の一部に配置されるまたは設けられ、一方、電子機器コンパートメント820は、手のひら支持部分120を含む参照部分100の一部に配置されるまたは設けられる。
【0041】
このシステムは無線で操作でき、ワークフローの改善に至り、また患者と臨床医双方の動きの自由が得られる。
【0042】
システムは、1つまたは複数のセンサのセットをさらに含み得、センサのセットは、例えば、各センサからの測定値を示す1つまたは複数の信号のセットを生成するように構成される。
【0043】
システムは、可動部分300と第2の身体領域との間の力を判定するように構成された力センサを備え得る。力センサは、
図5に示されるような力変換器5010であり得、力感知抵抗器、ひずみセンサ、または圧力センサであり得る。力センサは、第1の身体領域及び第2の身体領域の相対的な移動に沿った方向の力を判定するように構成され得る。一例では、力センサは、第2指と接触するように構成されるように、可動部分300の表面上に配置することができる。
【0044】
システムは、参照部分100に対してなど、可動部分300の位置を判定するように構成された変位センサを備えることができる。変位センサは、
図5に示されるように変位変換器5030であり得るが、近接センサ、光学センサ、ロータリーエンコーダ、またはホール効果センサであり得る。変位センサは、少なくとも部分的に可動部分300上に配置され得、例えば、可動部分300及び参照部分100に取り付けられ得る。ただし、他の任意の数の配置が適切な場合がある。
【0045】
システムはまた、モータの電流の引き込みを測定することなどによって、移動源200によって消費される電力を判定するように構成され得る。一構成では、システムは、移動源200によって消費される電力を判定するための電力センサを備え得る。電力センサは、例えば、
図5に示されるような電流変換器5020であり得、移動源200とは別個であり得るか、またはその一体部分であり得る。例えば、移動源200が電気モータである場合、電力センサは、モータの電流の引き込みを監視することができる。
【0046】
センサのセットの1つまたは複数は、測定されている特性を示す出力データを伝達するように構成され得る。例えば、力変換器5010は、可動部分300に加えられた力を示す出力を伝達することができ、変位変換器5030は、可動部分300の変位を示す出力を伝達することができ、電流変換器5020は、モータによって消費される電力を示す出力を伝達するよう構成できる。
【0047】
いくつかの形式では、問題の特性を概算または推定するために、1つまたは複数のセンサを別の入力に置き換えることができる。一例では、変位センサは、モータの出力によって置き換えることができ、可動部分300の位置は、モータの1つまたは複数の出力から推測することができる。
【0048】
センサのセットの各々は、1つの共通の周波数または異なる周波数でデータを記録するように構成できる。屈曲サイクル全体で十分なデータが確実に取得されるようにするために、各周波数は閾値周波数を超えるようにし得る。例として、閾値周波数を100Hzに設定することができ、システムの各センサは、250Hzでサンプリングするように構成することができる。いくつかの実施形態では、サンプリング周波数は、関節が動かされる速度などのシステム動作の速度に基づいて設定され得る。
【0049】
少なくとも一部の患者にとって、関節の固縮は、関節が作動している速度に応じて異なる可能性がある。システムは、可動部分300(及び対応する身体領域)を実質的に一定の速度で動作させて、一貫した制御された結果を得るように構成することができる。システムの1つの適切な動作速度は、約1Hz、または毎秒1回の屈曲サイクルであり得る。いくつかの形態では、適切な実質的に一定の速度は、周波数としてではなく、絶対速度(線形または角度)として定義され得る。
【0050】
参照部分100は、屈曲サイクルを通して比較的安定した構成で第1の身体領域を保持するように構成され得る。参照部分100は、プラスチック(例えば、ポリカーボネート)素材などの比較的剛性の材料を含み得る。参照部分100は、
図1に示されるような1つまたは複数の硬化リブ101、または任意の数の他の補強機構を含み得る。参照部分100は、全体が剛性である必要はない。いくつかの形態では、参照部分100は、測定のための参照箇所を提示し、及び/またはそれに構成要素を取り付けることを可能にしながら、ユーザビリティの改善のためなどで、可撓性または柔らかい構成要素を含み得る。要素100が参照部分を提供するが、システムは、1つまたは複数の他の要素を参照部分として採用または利用することができる。いくつかの実施形態では、参照部分は、複数の構成要素を含み得る。
【0051】
参照部分100は、第1の身体領域(例えば、手のひらまたは前腕)及び/または移動源200、例えば、モータハウジングまたはマウントに対して固定するためなどで、取り付け箇所のセットを含み得る。例えば、参照部分100は、
図1に示されるように、1セットのスロット110を含み得、各々が固定デバイス600を収容するよう構成されている(例えば、
図3~
図4に示されるように)。上記のように、固定デバイス600は、面ファスナであり得るが、他の固定または連結の構成があり得るように、他の多くのファスナのタイプが適切であり得る。
【0052】
移動源200は、ロボット工学で一般的に使用されるサーボモータなどのモータであり得る。モータは、第2の身体領域(例えば、指、または手)を駆動するのに適し、好ましくはノイズ出力を制限しながら正確な位置決めを可能にする、ある範囲のトルク及び速度を提供するように構成され得る。本明細書の他の場所でさらに説明されるように、移動源200は、一貫ベースで関節の固縮を判定するために、実質的に一定の速度で可動部分300を駆動するように構成され得る。サーボモータに加えて、他の多くのタイプのモータ、または他の多くのタイプの移動源が適切な場合がある。
【0053】
図1に示されるものなどのいくつかの実施形態では、システムは、指関節の特性評価をするために構成される。そのような実施形態では、比較的小さくて静かなモータが適切であり得る。そのような実施形態は、病院などの環境において、または大きさや騒音が懸念される家庭での使用のために特に有利であり得る。さらに、そのような実施形態は、使用者の不安及び混乱を減らすことによって、患者からいっそう広く採用されることを達成するのに役立つ可能性がある。システムの実施形態は、ユーザビリティの改善及び煩わしさを低減するために、長期間にわたってデータを収集するために使用され得る。
【0054】
システムは、関節の固縮を示す1つまたは複数の出力を受信、判定、及び/または伝達するように構成されたプロセッサ(例えば、
図5に示されるマイクロプロセッサ5500)をさらに備え得る。1つまたは複数の出力は、少なくとも部分的に、力変換器5010、変位変換器5030、及び/または電流変換器5020からの測定に基づくことができる。センサ出力は、関節の移動に対する抵抗のレベルを示し得る。この移動に対する抵抗は、力率、ピークの力、仕事、ピーク電流、または電荷の1つまたは複数の観点から測定できる。
【0055】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの出力は、
図5に示されるように、臨床評価5900であり得る。出力は、スマートフォンまたはタブレットなどのハンドヘルド出力デバイス5800を介して通信され得る。出力は、音声信号、テキストメッセージ、電子メール、または電子信号を含むがこれらに限定されない1つまたは複数の形式で通信することができる。いくつかの実施形態では、出力は、モニタ、遠隔に配置されたコンピュータ、またはプリンタなどの出力デバイスに送信され得る。
【0056】
出力の判定は、
図5に示すような慣性運動ユニット(IMU)5090からのような1つまたは複数の追加の入力を利用することができる。IMU5090は、例えば患者の手に存在するいずれの振戦も検出するため、システムの特定の力及び角の移動速度の1つまたは複数を判定することができる。一部のPD患者は振戦を示すことがあり、これは固縮に関連する測定値に影響を与える可能性がある。IMU5090からの1つまたは複数の出力は、プロセッサによる入力として使用されて、フィルタリングされ、それによって振戦を説明することができる。これにより、他の方法で可能な場合よりも正確な関節の固縮の判定が可能になり得る。例えば、IMU5090の1つまたは複数の出力は、力変換器5010などの他のセンサから、または電流変換器5020から得た測定値から、差し引くことができる。
【0057】
本開示によるシステムの実施形態の使用の例示的な方法は以下の通りである。システムは、例えば、
図3~
図4に示すように、可動部分300を使用者の指に結び付け、参照部分100を使用者の手のひらに結び付けることによって、特性を評価する指関節に連結することができる。この時点で、患者は、手のひらを開いた状態など、開始位置に手を動かすことができる。次に、臨床医は、コントローラを用いて実験を開始することができ、それにより、プロセッサは、モータ200を操作して、関節の可動域を通して可動部分300を移動させ始めることができる。関節は、実質的に一定の速度、例えば、1秒あたり1回の屈曲サイクル(1Hz)で移動することができる。
【0058】
可動部分300が関節の可動域に沿って移動するとき、1つまたは複数のセンサのセットは、測定値のセットを記録及び/または出力することができる。測定値は、指と可動部分300との間の力、モータ200によって適用されるトルク、及び/または可動部分300の位置を示し得る。
【0059】
1つの測定セットは、10、20、30、40、50、またはそれらの間の任意の数などの複数の屈曲サイクルを含み得る。いくつかの形式では、測定セットは、上記で指定されたものよりも少ないまたは多いサイクル数からなる場合がある。一例では、測定セットは30サイクルからなり得、完了するのに約30秒を要する。複数のサイクルを測定することにより、関節の状態のいずれかの変化(例えば、硬直または緩み)を捉えて、結果として生じる固縮の判定を行うことができる。
【0060】
場合によっては、患者は複数のサイクルの初期段階で徐々に弛緩し、測定セット全体で一貫性のない結果をもたらす可能性がある。システムは、測定セット全体にわたってそのような変化を検出し、初期段階に対応する測定を破棄または無視するように構成することができる。一例では、30回の屈曲サイクルを測定セットに取り込むことができ、臨床評価の判定において初期段階(例えば、最初の5または10サイクル)を無視することができる。
【0061】
次に、測定値のセットは、プロセッサ5500によって受信され、1つまたは複数の出力のセット、例えば、臨床評価を判定するために使用される1つまたは複数のルックアップテーブル及び/または伝達関数への入力として適用され得る。
図5に示される例に説明されているように、プロセッサはまた、移動源200を制御することができる。
【0062】
システムは、データ収集または較正モードで動作可能であり得る。較正モードでは、測定値のセットを回帰モデル5400が使用して、入力を処理するために使用される1つまたは複数のルックアップテーブル及び/または伝達関数を生成することができる。
【0063】
伝達関数の形式の例示的な形式を以下に示す。
【0064】
【0065】
この例では、Aは係数、cは定数、rは休止状態の上付き文字識別子、aは対側活性化状態の上付き文字識別子、eは延長サイクルの上付き文字識別子、fは屈曲サイクル用の上付き文字識別子である。変数は、力率のF、ピークの力のP、仕事のW、ピーク電流のM、及び電荷のQである。
【0066】
伝達関数のいくつかの形式が適切である可能性があることが理解されよう。
【0067】
一部のシステムは、当該の関節の移動を実行するために必要な力または必要なトルクのみを判定することによって、関節の固縮の特性評価をするよう試みた。結果は、変位あたりの力のグラフに到達するなど、変位の観点から提示され得た。しかし、このような測定では、関節の外部と内部で誘発された動きを区別できない場合がある。言い換えれば、肘の固縮の特性評価をしようとしている臨床医は、測定された前腕の抵抗レベルが、システムが前腕を移動することによるものか、患者が開始する前腕の移動/努力によるものか、またはそれらの何らかの組み合わせによるものかを区別できない場合がある。同様に、手首の固縮の特性評価をしようとしている臨床医は、測定された手首の固縮のどれだけが、患者が(意識的または無意識的に)自分の手を移動するなど、内的に誘発された(すなわち、使用者によって誘発された)動きに起因する可能性があるかを、判断できない場合がある。結果として、そのような測定は、関節の状態を適切に表さない可能性がある固縮の測定値を生成する可能性があり、その結果、治療のための適切な診断及び/または滴定につながらない可能性がある。
【0068】
いくつかの実施形態では、本開示によるシステムは、第1の身体領域によって加えられる力を示す少なくとも第1のデータセットと、第1の身体領域と第2の身体領域との間に加えられるトルクを示す第2のデータセットとを組み合わせ、第1の身体領域と第2の身体領域との間の関節の固縮の改善された基準を判定する。第1のデータセットは、力変換器5010からのものであり得、第2のデータセットは、電流変換器5020からのものであり得る。
【0069】
システムは、精度を向上させるなどの特定の基準に基づいて、1つまたは複数のセンサのセットによって測定されたデータを破棄または拒否するように構成され得る。
【0070】
例えば、使用者は、第2指を自発的に動かすことによって、第2指の中手指節関節の固縮の特性評価をする試験を実行する臨床医を、意識せずに補助し始める場合がある。そのような変化は、力を示す第1のデータセットに見られる力の著しい減少によって検出され得るが、トルクを示す第2のデータセットにはほとんどまたは全く変化が認められない。このような試験から得られたデータが破棄され得る。または、変化がリアルタイムで検出された場合、試行を切り上げて即座に繰り返すことができる。したがって、2つのデータセットの組み合わせにより、関節のより信頼性の高い特性評価が得られる可能性がある。
【0071】
別の例では、データセットの1つを使用して、別のデータセットを補完、修正、または補償することができる。例えば、力のデータセットを使用して、修正版のトルクのデータセットを生成することができ、別段で1つのトルクまたは力のデータセットのみで可能であるよりも、高い精度の特性評価に到達する。
【0072】
プロセッサは、入力データセットを使用して出力データセットを生成することができ、出力データセットは、関節の固縮の記述子の集合モデルで使用されるように、1つまたは複数のデータサブセット及び/またはその中のポイントを含む。
【0073】
サブセット及び/またはデータポイントは、力率、ピークの力、仕事、ピーク電流、及び/または電荷のうちの1つまたは複数を含み得る。力率は、関節を曲げるのに必要な、単位(例えば度)あたりの平均力として定義でき、例えば、度あたりのニュートンの出力になる。ピークの力は、例えばニュートンで測定された、移動の持続時間全体にわたって測定された力の最大値であり得る。仕事(例えば、ニュートンメートルまたはJの単位)は、変位に関する力の積分を捉え得る(別段には変位の観点から力をプロットする場合、「曲線の下側の総面積」として定義される)。ピーク電流(トルクの代理として)は、ピークの力と同様に、例えばアンペアで測定された、移動の持続時間全体にわたって測定された電流の最大値を測定する場合がある。電荷は仕事に類似しており、時間の経過に伴う電流の積分を測定し、例えばクーロンまたはアンペアー時間で測定される。
【0074】
上記の正確な単位を変更またはスケーリングすることができ、代理の測定値が上記の測定値またはデータの1つまたは複数に対して容易に利用可能であり得ることは、当業者によって容易に理解される。
【0075】
次に、出力データセットを所定のスケールと比較するか、モデルに入力して、関節の特性評価をすることができる。
【0076】
一例では、出力データセットは、
図5の例示的なブロック図に示されるように、臨床評価5900に到達するようにさらに処理でき、臨床評価5900は、UPDRSに基づいて0~4のスケールでスケーリングされる。しかし、上記の概説された制限と比較して、精度と再現性を向上させることができる。
【0077】
システムは、力センサ及びトルクセンサの出力に基づいて判定される、力率、ピークの力、仕事、ピーク電流及び電荷のうちの1つまたは複数を含む出力セットを使用して、関節の特性評価を可能にし得る。上記のように使用されるか、または単一の臨床評価へのさらなる入力として使用されるかにかかわらず、出力セットは、従来技術と比較して改善された特性評価を表す。これは、測定の忠実度が向上し、関節が弛緩した状態で、内部で誘発された動きや抵抗を関節の固縮から分離できるためと考えられる。
【0078】
いくつかの形態では、システムは、1つまたは複数の所定のルックアップテーブルまたは所定の伝達関数(検証データに基づく回帰モデルを使用して生成されるものなど)を含み、本開示を通して説明されているように、臨床評価などの出力のセット、または任意の他の適切な出力を生成することができる。システムは、メモリ(例えば、非一時的メモリ)をさらに含み得、1つまたは複数のルックアップテーブル及び/または伝達関数は、プロセッサによる検索のために保存され得る。ルックアップテーブル及び/または伝達関数は、1つまたは複数の場所、例えば、ハンドヘルドデバイス5800またはシステムの外部のリモートコンピューティングデバイスに保存することができる。
【0079】
プロセッサは、センサのセットから信号のセットを受信することができ、これは、1つまたは複数のルックアップテーブルの入力のセット、及び/または出力のセットを生成するための伝達関数として使用することができる。さらなるデータの収集に基づいて、回帰モデル及び/または伝達関数を再判定または更新することも可能であり得る。
【0080】
他の実施形態では、1つまたは複数の信号を、関節の固縮の連続的な定量的測定のための独立した測定として使用することができる。例えば、力率、ピークの力、仕事の推定、または電荷をそれぞれ個別に使用して、関節の固縮の独立した測定値を提供することができる。
【0081】
本開示の実施形態は、様々な設定で使用され得る潜在可能性がある。例えば、臨床の設定では、固縮の客観的な測定を容易に行うことができ、臨床医が患者の手足を物理的に操作することなく、疾患の重症度を評価することができる。
【0082】
代替的にまたは追加的に、患者が自己測定を行うことができる可能性もある。例えば、患者は自宅で毎日測定を行い、疾患の進行と新たな介入の有効性を追跡できる。この例では、結果は遠隔での監視とフォローアップのために臨床医に報告され得る。
【0083】
さらに、そのようなシステムは、手術中または臨床試験中など、ある期間にわたって複数の測定が必要とされる場合に使用することができる。例えば、PDの症状を改善するために標的領域の微小電極刺激によって電極の位置が確認される脳深部刺激手術中に、そのようなシステムは、その再現性のある客観的な出力のために利用され得る。臨床試験では、分解能を高めた客観的な測定値の作成が役立つ場合がある。
【0084】
システムのいくつかの形態は、臨床医が患者または使用者から遠隔で研究を実行するためなどのコントローラをさらに含み得る。システムは、データを送信するため、またはシステムを制御するためなど、1つまたは複数の無線通信機能を備え得る。
【0085】
代替の実施形態では、システム、デバイス、及び方法は、手首、肘、足首、膝などの他の関節を監視及び/または特性評価するために適合させることができる。
【0086】
さらに、代替の実施形態では、本開示のシステムまたはデバイスは、振戦、寡動、または姿勢の不安定性のうちの1つまたは複数に関連する出力信号を伝達するように構成または適合され得る。
【0087】
振戦を示す出力信号は、例えば、フィルタリング戦略を適用することによって、センサからの生データから抽出することができる。識別された振戦の信号は、振幅、速度、加速度、ならびにピーク周波数とパワースペクトル密度によって特性評価され得る。例として、次の方法を使用して、デバイスを装着した状態で4種類の振戦を定量化できる。
A)静置時振戦:患者は支持面(テーブルまたは膝)に手を置き、筋肉を弛緩させる。
B)姿勢時振戦:患者は重力に逆らう位置に腕を保持する(例えば、腕を伸ばした状態)。
C)本態性振戦:患者は、重力に逆らう姿勢で腕を保持しながら、繰り返し自発的な動きを実行する(例えば、肘の屈曲と伸展の繰り返し)。及び
D)意図振戦:患者は、目的に向かって自発的な到達作業を繰り返し実行する(例えば、参加者に「指-鼻」運動、つまり、対象から約1m離れたところで保持される参加者の鼻と検査者の指に交互に到達することを実行するように求める)。
【0088】
寡動(動作が遅いこと)は、従来、クリニックでは、指のタッピングや手首の回転などの繰り返しの動きを観察することで特性評価されている。移動の振幅、速度、及び一貫性が、臨床医によって記録される。システムの実施形態の慣性運動ユニットを使用して、そのような運動に関連する測定値を取得することができる。システムの実施形態を使用して寡動を評価するために、参加者は、デバイスを装着している間、手のひらを上にした位置と手のひらを下に向けた位置(回内/回外)の間で手首を繰り返し回転するように求められ得る。次に、システムによって生成されたモーションデータを分析して、振幅、速度、加速度、及び時間の経過に伴う移動速度と1秒あたりに実行されるサイクル数(周波数)の減衰を判定できる。これらの測定基準は、寡動の重症度を判断するために使用できる。
【0089】
姿勢の不安定性はまた、本発明の実施形態によるシステムを使用して評価され得る。デバイスを手に装着している間、患者は胸で腕を組むように求められることがある。次に、このシステムを使用して体幹の移動を監視し、重心の代理測定値を確認することができる。姿勢の不安定性は、次の2つの条件下で評価できる。
A)静的バランス:患者は、目を開いて壁の特徴(絵画など)を凝視した状態で、静かで快適な姿勢で直立する。このこの作業中の体幹の移動は、システムを使用して一定期間、例えば30秒間記録することができる。バランスを保つために、重心(揺れ)の微妙な移動が発生する。中毒によって誘発されるバランスの調整の喪失と同様に、揺れの程度とパターンを使用して、疾患の特性評価をすることができる。姿勢の揺れは一般に0.01~2 Hzの周波数範囲で発生するため、より高い周波数帯域で発生する振戦による外部の動きを減衰させることができる。姿勢の揺れは、揺れのデータの90%をカバーする楕円の面積(C90面積)、揺れの範囲/大きさ、ピーク周波数、パワースペクトル密度などの従来の測定基準によって定量化できる。さらに、システムの実施形態によって生成されたデータを使用する計算モデリングを使用して、フィードバック機構の欠陥を推定及び定量化するのに使用することができる(例えば、倒立振子モデリング人間スタンスの比例-積分-微分(PID)コントローラ)。
B) 動的バランス:患者は静かで快適な姿勢で直立し、検査官は患者の後ろに立って、患者の肩を後方に勢いよく引っ張る。これは、プルテストと呼ばれる従来の臨床検査であり、バランス反射を観察及び評価するために使用される。体幹及び足の反射などのこれらのバランス反射は、適用された引っ張り及び体幹/足の反射応答の開始を検出するための信号閾値を設定することによって、システムの実施形態を使用して定量化することができる。応答のタイミングと大きさを使用して、バランスの欠陥を検出及び定量化することができる。
【0090】
[実施例]
本開示の態様の検証研究が実施されており、以下に詳細に説明されている。
【0091】
この研究は、弛緩した状態と「活性化作業」を実行している(つまり、通常、静置側の固縮を高める反対側の手の移動)間の両方において参加者から収集されたデータに基づいていた。上記の出力データセットを静置時と活性化の両方の試験に対して適用し、ステップワイズ多重線形回帰を実行することにより、固縮をモデル化し、臨床評価を満足のいく一致で整合させることが可能であることが見出せた。モデルは、例えば、50回の反復による層化10分割交差検定を使用して検証され、残差は正規分布である。
図2は、臨床医が作成したMDS-UPDRSデータのセット(横軸)と予測データのセット(縦軸)を比較した1つの検証結果のセットを示している。
【0092】
図6及び
図7は、調査中に行われた測定の例示的な出力を示している。これらの例はそれぞれ、1人の患者からのデータを示している。各追跡の1つの違いは、治療(脳深部刺激療法)が患者に適用されているかどうかである。脳深部刺激療法(DBS)は、患者の関節の固縮に影響を与える可能性がある。この変化を
図6及び7に示す。両方の図で、点線は治療なしの結果を示し、実線は治療が適用されている間の結果を示している。
【0093】
[方法]
両側視床下核脳深部刺激療法(DBS)を受けているレボドパ反応性パーキンソン病と診断された8名の参加者(平均標準偏差年齢53.6 5.7歳;女性2名)が一次研究コホートとして採用された。年齢を整合させた健常な志願者(N=8、54.1 7.3歳;女性2名)と若い健常の対象(N=8、30.9 4.8歳;女性2名)が対照となった。参加者には、(それぞれのコホートのパーキンソン症状以外には)既知の筋骨格系またはその他の神経学的障害がなかった。
【0094】
本開示の実施形態によるシステムを使用して、本研究で関節の固縮を特性評価した。この実施形態は、中手指節関節の周りで手の第2指を屈曲する、
図3及び
図4に示されるような手のひら装着デバイスを含む。小型の搭載電気モータが自動的に指を曲げ伸ばしする。固縮を増すには、指を屈曲するためのより大きな力が必要であった。
【0095】
研究に利用されたシステムでは、フィンガーハーネスの下に取り付けられた力変換器が屈曲力と伸展力を測定する。さらに、電子センサは、トルクの代理としてモータによって引き出される電流を監視する。一般に、モータ電流はモータのトルク出力に線形に比例する。この実施形態のモータは、毎秒1回の伸長/屈曲サイクルの継続した速度で指を45度屈曲させるのに十分なトルクに関する一体型ギアを備えている。さらに、モータには内部フィードバック制御があり、正確な位置決めが可能である。マイクロプロセッサがモータを作動させ、タイムスタンプ付きのモータ位置(変位)、力、及び電流データを250サンプル/秒で収集し、その後オフラインでの分析のためにコンピュータに送信する。
【0096】
参加者が手のひら装着デバイスに慣れてから、正式な評価の前に模擬試験が実施された。各固縮評価は、手のひら装着デバイスを取り外さずに適用された15回の連続的な伸展/屈曲サイクルで構成されていた。移動が起こらなかった保持期間はなかった。最初の5サイクルは、反対のパラトニア(不随意の抵抗の移動)といずれかの驚愕効果による交絡を避けるために破棄された。残りのサイクルの50%超で異常に低い力(<10mN)が検出された場合、評価全体を拒絶した。これにより、促進性パラトニア(受動運動を不随意に補助する)が存在した可能性のある試行を除いた。各伸展/屈曲サイクルでは、慣性力の交絡を避けるために、移動の開始と方向の変化に関連する期間が除外された。いずれかのベースラインのオフセットが差し引かれた。次の特徴は、伸展と屈曲について別々に10サイクルの平均から抽出された。
1)力率-指を動かすのに必要な1度あたりの力を表す力対変位の曲線の傾き(
図6)
2)ピークの力-力対変位の曲線の最大値
3)仕事の推定-力対変位の曲線の下側の総面積
4)電荷-電流対時間の曲線の下側の総面積(
図7)。
【0097】
連続的で定量化可能な固縮の基準を推定するために、屈曲力率と仕事の推定が選択され、その後の分析で単独の固縮の基準として使用された。これらの測定基準には重要な単位があり、値が高いほど固縮が高いことを示していて解釈が容易である。
【0098】
パーキンソン病の参加者は、従来の臨床評価を使用して評価された。MDS-UPDRS項目3.3の指示に従って、上肢の固縮の評価は、力のない手首と肘の関節をゆっくりと動かすことによって実行された。参加者はリラックスした状態で快適に座り、体をできるだけ弛緩させるように指導された。活性化操作では、参加者は対側の腕を使用して空中に大きな想像上の円を描くように指導された。首と下肢は検査しなかった。運動障害とMDS-UPDRSの経験がある2人の理学療法士(「評価者」)は、MDS-UPDRSの記述子に従って、0(正常)から4(重度)のスケールで固縮を評価した。両方の評価者はプロトコルに対して盲検化され、研究が終了するまで評価について互いに論じないように指示された。評価者は、評価を実行するために評価領域のみを対象とした。その後の分析で、2人の理学療法士の平均臨床評価を使用した。
【0099】
パーキンソン病の参加者は、一晩離脱した後、DBS使用ドーパミン作動薬不使用の診療所に到着した。両腕の固縮は、最初に、手のひら装着デバイスを含むシステムを使用して、次に2人の評価者がベースライン(DBS使用)ですばやく連続して、また1時間の期間の治療中止(DBS不使用)後10分間隔で測定した。次に、30分間の期間にわたるDBSの再開後、5分間隔で当システムのみで固縮を評価した。この期間内の最後の試行で、2人の評価者も固縮を評価した。このプロトコルは、DBSのウォッシュアウト及びウォッシュインの影響を監視しようとした。
【0100】
すべての健常な志願者は手のひら装着デバイスを付けて評価され、臨床検査は実施しなかった。各人の利き手を、当人が静置している間、または対側活性化作業を実行している(前述の通り)間に評価した。10回の試行(静置5回、活性化5回)がランダムな順序で実行された。参加者は着席し、体を極力弛緩させるように求められた。
【0101】
[統計的分析]
DBS療法と対側活性化作業が固縮に影響を与えるかどうかを判断するために、二元配置反復測定分散分析(RM-ANOVA)が実施された。事後対応t検定を適用して、差をさらに規定した。健常な志願者(年齢を整合させた志願者と若者志願者の両方でコード化)とパーキンソン病者の間に差があるかどうか、及び活性化作業からいずれかの生じる影響があるかを推測するために、二元配置ANOVAが実行された。コホート内のいずれの特定の違いをも評価するために、事後独立t検定が実行された。コーエンのdを、効果量を示すために事後の比較ごとに計算した。dの値は、効果量が非常に小さい(0.01)、中程度(0.5)、大きい(0.8)、及び特大(2.0)であると解釈できる。
【0102】
コーエンのカッパ(κ)を使用して、評価者間の信頼性を判定した。試験-再試験信頼性は、手のひら装着デバイスを含むシステムと、ベースラインでの最初の評価とDBS再開後の最後の評価のデータを使用した臨床スコアの両方について、二元配置ランダム単一測定級内相関係数(ICC)を使用して計算された。
【0103】
[結果]
全体として、パーキンソン病の8名の参加者の両手で8つの臨床評価が記録され、128の観察のデータセットが得られた。参加者4名の左手のデータ(8回の観察)が、デバイスの機械の故障のために除外された。参加者5名の左手のデータ(8回の観察)が、指の関節の可動域が限られているため除外された。促進性パラトニア(力<10mNが検出)のためにさらに22の観測が削除され、観測の総数は90になった。2名の検査者の評価間の信頼性は公平であった。臨床スコア、力率、及び仕事の推定の試験-再試験信頼性は良好であった。
【0104】
[MDS-UPDRS及び予測特徴との一致]
ステップワイズ線形回帰から得られるモデルが開発された。予測された推定と臨床評価の比較は、モデルが適度に良好に機能することを示した。層化10分割交差検証では、成績がわずかに低下しただけであり、モデルがデータに適合しなかったことを示している。さらに、モデルの残差は正規分布であり、基礎となるパターンや外れ値の発生がないことを示している。モデルに最も大きな影響を与えた条件は、手の静置状態で指を屈曲している最中の力率、活性化作業で進展させている最中の力のピーク、活性化作業の状態で進展させている最中の仕事、及び力率とピークの相互作用であった。
【0105】
その後の分析では、2つの測定基準(指の屈曲時の力率と仕事の推定)を使用して固縮を特性評価した。これらの測定基準は、単独では臨床評価との一致度が比較的低かったが、継続的なスケールで定量化可能な固縮の測定値を提供する。重要なのは、両方の測定基準がステップワイズ線形回帰分析の重要な条件として浮上したことである。
図10に示すように、力率を使用して、治療状態を区別し、疾患の特性評価をすることができる。双方向RM-ANOVAは、DBS設定(使用と不使用)及び検定条件(静置と活性化)に対して統計的に有意な主効果を示した。事後検定では、DBS療法がない場合、力率がより高くなり、対側活性化運動により、DBSの使用と不使用の両方で力率が増加することを明示した(
図10a)。双方向RM-ANOVAは、仕事の推定を使用して治療状態を区別できるが、静置と活性化を区別できないことを示した。事後検定では、DBS療法が仕事の推定を有意に減少させることを明示した。
【0106】
[健常なコホートとパーキンソン症候群のコホートの区別可能性]
力率の双方向ANOVAは、コホート(パーキンソン病のDBS不使用対年齢を整合させた対照対若者対照)及び検定条件(静置対活性化)に対して統計的に有意な主効果を明らかにした。事後検定では、静置と活性化作業両方の間に、年齢を整合させた対照と比較した場合、パーキンソン病に起因する力率の有意な増加を明示した(
図10b)。年齢を整合させた対照は、活性化作業中に若者対照よりも高い力率を備えていたが、静置時の力率に差はなかった。また、静置と比較した対側活性化は、年齢を整合させた群では力率の増加をもたらしたが、若者対照ではそうではなかった。パーキンソン病のコホートでのDBS療法は、治療効果を示唆する年齢を整合させた対照で見られるレベルに向かって力率を低下させたが、静置状態では有意差が依然存在していた。
【0107】
二元配置ANOVAは、仕事の推定を使用して研究コホートを区別できるが、静置条件と活性化条件を区別できないことを示した。事後検定では、年齢を整合させた対照とパーキンソン病の対照との間で仕事の推定に有意差は明示しなかった。ただし、年齢を整合させた対照は、若者志願者と比較して仕事の推定が低かった。
【0108】
[DBSのウォッシュイン/ウォッシュアウトの一時的な影響]
DBSの一時的なウォッシュイン/ウォッシュアウトの効果は、それぞれ
図11A~
図11Cに示すように、力率、仕事の推定、及び臨床評価を使用して文書化された。DBSの停止により、1時間にわたって固縮が着実に増加し、DBSの再開により、ベースラインのレベルに向かって戻る固縮が、概ね即座に改善された。仕事の推定は、力率よりも大きな変動を示した。
【0109】
[考察]
この実現可能性の研究では、手のひら装着デバイスを含むシステムは、臨床的固縮評価と中程度の一致があり、治療条件、対側活性化運動、及び参加者のパーキンソン病の有無で差を区別できることを見出した。デバイスから派生した多数の測定基準が臨床評価を予測するために回帰モデルで使用されたが、単一の測定基準(力率)が、さらなる特性評価をもたらすのに十分であった。DBSが停止した1時間の間に、ある程度の指の屈曲ごとに必要な力の量である力率が増加することを見出した。DBS療法を再開すると、5分以内に力率がベースラインレベルへと戻る方へ減少した。さらに、パーキンソン病の参加者では、年齢を整合させた健常な対照と比較して、力率が著しく増加した。仕事の推定は治療状態を区別することができたが、対側活性化に対する感度が低く、年齢を整合させた対照とパーキンソン病の対照を区別できずにいた。
【0110】
この例で達成された中程度の一致は、固縮の計装化された定量化における以前の試みに匹敵する。適度な適合と大きなRMSEは、システムが固縮のすべての側面を捉えていなかったか、臨床評価に固有の不正確性があり、システムが受動運動に対する抵抗の変動に対してより感度が高いことを示唆している。さらに、臨床的測定及びデバイスの測定が2つの異なる起源(中手指節関節を使用する手のひら装着デバイスが起源のことと、MDS-UPDRSガイドラインに従って手首と肘を使用する臨床医が起源のこと)であるとすると、中程度の関連が予想できる。神経活動の増加はパーキンソン病の筋緊張を媒介するため、これはすべての近位の筋肉に一般化できる可能性がある。しかし、固縮の影響は、各筋肉群に様々な影響を与える可能性がある。治療の変化を検出する感度は、臨床的な応用にとって根本的に重要であり、これは手のひら装着デバイスを使用して実証されている。
【0111】
筋肉の弾性、粘性、慣性、及び摩擦剛性は、臨床検査中の受動運動に対する抵抗として感じられる全体的な固縮に寄与する独立した構成要素である。力率は主に弾性剛性を定量化し、通常は1度あたりのトルク(Nm /度)の単位で表される。現在開示されている方法は、受動運動に対する不随意筋肉反射を検出する可能性があるため、弾性剛性に固有ではない可能性がある。これはまた、臨床評価との適度な一致を説明する可能性がある。トルクへの変換は、通常、力が加えられるピボット(関節)からの距離を判定するために、評価中の手足のセグメントの長さの測定を伴う。この測定は誤りが発生しやすいため、個々に繰り返す必要がある。この例では、フィンガーハーネスは、力が中手指節関節を回転させるために加えられる距離を標準化するように設計されているため、力の結果は容易に単純なスケーリングでトルクに簡単に変換できる。
【0112】
この研究では、治療、対側活性化、及び疾患の結果として力率が増加することが判明した(パーキンソン病対対照)。これは、トルク角度の傾斜が通常、固縮が悪化するにつれて急になるという研究の先行報告と一致している。
【0113】
仕事の推定または「固縮仕事スコア」は、多くの場合、単位(N-度)で表示されるか、可動域(N-度/度)で正規化される。仕事の推定は、対照とパーキンソン病者、及び対側活性化と静置を区別することが以前に示されている。この研究の結果は、おそらくいくつかの方法論の違いのために、これらの知見を支持していない。特に、同等の研究では、手首または肘の関節を使用して仕事の推定を判定した。さらに、それらは本研究よりも広い可動域と遅い移動速度を採用しており、両方の要因が固縮の評価に影響を与えることが既知である。
【0114】
中手指節関節の固縮を調査する先行研究では、腕を大きな器具に固定する必要があるベンチトップに取り付けられた器具を利用していた。電動技術では、手足を動かすのに十分なトルクを生成するために、大型の強力なモータが必要であった。重要なことに、手足のセグメントは、単一の関節と軸への移動を制限するために、支持面に対して引き締めを行う必要がある。この例で使用されている手のひら装着器具は、指を駆動するためのギアでの出力を備えた小型モータを組み込んでおり、器具のベースはサポート面として機能し、手のひらにつながれている。これにより、関節の移動の制限が最小限に抑えられる。その結果、本研究の評価者は、手のひらからデバイスを取り外すことなく、手首と肘で標準のMDS-UPDRSの評価を実行することができた。さらに、参加者は大きな器具に繋がれずに、静置期間に腕を自由に動かしていた。
【0115】
知見は、計装された固縮の測定が従来の臨床評価を凌ぐ利点を提供するという概念を支持している。これは、DBSの手術を誘導し、刺激の術中の効果を評価し、最適な治療ウィンドウを判定し、治療作用の機序への洞察を提供するために使用できる。重要なことに、計装化の方法は継続的な監視を可能にし、症状の変化の時間的な特性への洞察を提供する。
【0116】
この例は、開示されたシステムがパーキンソン病における指の固縮を定量化できることを示している。このシステムは、臨床観察と中等度に一致して、時間の経過とともに固縮を追跡できる。重要なことに、治療的介入から生じる変化を検出できることは、臨床試験で、または症状の変動を追跡するための在宅モニタリングツールとして有用であると証明される可能性がある。
【0117】
多くの変形例及び/または修正は、本開示の広い一般的な範囲から逸脱することなく、上記の実施形態になされ得ることが、当業者によって理解されるであろう。したがって、本実施形態は、あらゆる点で例示的であり、限定的ではないとみなすべきである。
【符号の説明】
【0118】
10 測定セット
20 測定セット
30 測定セット
40 測定セット
50 測定セット