(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】厚膜抵抗ペースト
(51)【国際特許分類】
H01B 1/22 20060101AFI20230614BHJP
H01C 7/00 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
H01B1/22 A
H01C7/00 310
H01C7/00 322
(21)【出願番号】P 2021566312
(86)(22)【出願日】2021-02-05
(86)【国際出願番号】 CN2021075363
(87)【国際公開番号】W WO2021244060
(87)【国際公開日】2021-12-09
【審査請求日】2021-11-11
(31)【優先権主張番号】202010487423.6
(32)【優先日】2020-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202010571482.1
(32)【優先日】2020-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】512045825
【氏名又は名称】潮州三環(集団)股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】CHAOZHOU THREE-CIRCLE (GROUP) CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】Complex Building,Sanhuan Industrial District,Fengtang Chaozhou, Guangdong, China
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】邱 基華
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-249332(JP,A)
【文献】特開2003-132735(JP,A)
【文献】国際公開第2007/072894(WO,A1)
【文献】特開2006-299385(JP,A)
【文献】特表2014-512671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
H01C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ag粉末、Pt粉末及びAg-Pt合金粉末のうち少なくとも2つを含み、前記Pt粉末又はAg-Pt合金粉末は、ハニカム球状、綿状、球状及び略球形のうち少なくとも1つであり、前記Pt粉末又はAg-Pt合金粉末において、少なくとも90wt%のPt粉末又はAg-Pt合金粉末の長軸と短軸との長さの比が、長軸:短軸=1~3であ
り、
前記厚膜抵抗ペーストは、30~80wt%の固相成分と、20~70wt%の有機成分とを含み、固相成分を100wt%とする場合、前記固相成分は、10~40wt%のAgと、0.1~20wt%のPtと、20~50wt%のRuO
2
と、20~60wt%のガラス成分と、0~5wt%の無機フィラーとを含む、ことを特徴とする、厚膜抵抗ペースト。
【請求項2】
前記Pt粉末及びAg-Pt合金粉末において、X線回折法により測定されたPtの(111)結晶面の結晶子径が7~50nmである、ことを特徴とする、請求項1に記載の厚膜抵抗ペースト。
【請求項3】
前記Pt粉末の粒子径は、10nm~1μmであり、前記Pt粉末の比表面積は、0.3m
2/g~25m
2/gであり、前記Ag-Pt合金粉末の粒子径は、200nm~1μmであり、前記Ag-Pt合金粉末の比表面積は、0.3m
2/g~15m
2/gである、ことを特徴とする、請求項1に記載の厚膜抵抗ペースト。
【請求項4】
前記ガラス成分は、ガラス組成物1、ガラス組成物2、ガラス組成物3及びガラス組成物4のうち少なくとも1つであり、
前記ガラス組成物1は、重量百分率で、PbO 10~50%、SiO
2 35~55%、CaO 5~30%、Al
2O
3 1~20%、B
2O
3 1~10%及びZnO 0~10%を含み、前記PbO、SiO
2、CaO、Al
2O
3、B
2O
3及びZnOのガラス組成物1における重量百分率での含有量の合計が、少なくとも95%であり、
前記ガラス組成物2は、重量百分率で、SiO
2 40~75%、BaO 0~15%、SrO 0~20%、Na
2O 0~10%、K
2O 0~10%、Al
2O
3 1~15%、B
2O
3 1~25%及びZnO 0~10%を含み、前記SiO
2、BaO、SrO、Na
2O、K
2O、Al
2O
3、B
2O
3及びZnOのガラス組成物2における重量百分率での含有量の合計が、少なくとも95%であり、
前記ガラス組成物3は、重量百分率で、PbO 50~88%、SiO
2 10~30%、Al
2O
3 1~10%、B
2O
3 1~10%及びZnO 0~10%を含み、前記PbO、SiO
2、Al
2O
3、B
2O
3及びZnOのガラス組成物3における重量百分率での含有量の合計が、少なくとも95%であり、
前記ガラス組成物4は、重量百分率で、PbO 60~88%、SiO
2 10~35%、Al
2O
3 1~10%、B
2O
3 1~10%及び遷移金属酸化物0~20%を含み、前記遷移金属酸化物は、CuO、MnO
2、Nb
2O
5、Ta
2O
5、TiO
2及びZrO
2のうち少なくとも1つを含む、
ことを特徴とする、請求項
1~3のいずれか一項に記載の厚膜抵抗ペースト。
【請求項5】
前記有機成分は、有機担体と、有機溶媒とを含み、前記有機担体が、メチルセルロース、エチルセルロース、アクリル樹脂及びエポキシ樹脂のうち少なくとも1つであり、前記有機溶媒が、テルピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、ジエチレングリコールジブチルエーテル及びアルコールエステル系のうち少なくとも1つである、ことを特徴とする、請求項
1~3のいずれか一項に記載の厚膜抵抗ペースト。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の厚膜抵抗ペーストにより製造される、抵抗器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電ペーストに関し、具体的に、厚膜抵抗ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
厚膜チップ抵抗器(chip resistor)は、厚膜抵抗器電子部品、厚膜ハイブリッド回路等に広く用いられており、シート型厚膜抵抗器は、主に組成物を絶縁基板の表面に形成された導線パターン又は電極に印刷して、その後850℃±20℃の温度で印刷物を焼成することにより、厚膜抵抗器を得る。
【0003】
厚膜抵抗ペーストは、導電成分と無機バインダーを有機媒体(担体)に分散することにより製造するものである。そして、スクリーン印刷の方法により厚膜抵抗ペーストは絶縁の基板に堆積される。厚膜抵抗器の電気性能は、主に堆積層における無機バインダーと導電成分の性質によって決定される。無機バインダーは、主な成分がガラスであり、その役割は、主に導電成分を一緒に粘着させて導電パスとなり、厚膜抵抗の完全性を維持することであり、かつ、基板との接着の点で重要な役割を果たす。有機媒体は、分散媒体であり、主にペーストの応用特性、特にレオロジー特性に影響する。
【0004】
従来の厚膜抵抗器は、シート抵抗が100Ω/□(オーム・パー・スクエア)未満の低抵抗範囲において(例えば、10Ω/□、1Ω/□、0.1Ω/□の抵抗範囲、或いは0.01Ω/□のようなさらに低い抵抗範囲)、導電相としてAg、Pd、RuO2を利用するが、その課題は、抵抗温度係数(temperature coefficient of resistance、TCRとも略称する)性能を向上させるために、貴金属であるPdの含有量を増加させる必要となり、コストが大幅に増えてしまうことにある。
【0005】
従来の低抵抗範囲の配合において、無機バインダーとして主に鉛含有の鉛珪酸塩ガラスを利用し、導電成分としてAg、Pd、RuO2の3つの導電相を利用することが多く、一般的にAg、Pdで抵抗値及びTCRを制御し、Pd含有量が高くなるほど、より低いTCRが得られるが、抵抗値の低下が難しくなり、近年、低抵抗範囲の厚膜抵抗器への要求が高まっているため、低コストで高性能の抵抗ペーストが求められる。
【0006】
従来の低抵抗範囲の厚膜抵抗器は、貴金属であるPd粉末の含有量を増加することによりTCRを低下させるが、Pd粉末の含有量を増加すると、一般的に抵抗値が大きくなり、そしてAgの含有量を増加する必要があり、しかし、この場合、TCRが向上するため、さらにPd粉末の含有量を増加し、所望の抵抗値とTCR性能を達成するまで同様にすればよいが、このような方法の大きな課題として、このような煩雑な方法で所望の抵抗値とTCR性能を達成することが難しいことにある。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、従来技術にある不足を克服し、抵抗値が低く、TCR性能により優れた厚膜抵抗ペーストを提供することにある。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の実施形態は、Ag粉末、Pt粉末及びAg-Pt合金粉末のうち少なくとも2つを含み、前記Pt粉末又はAg-Pt合金粉末は、ハニカム球状、綿状、球状及び略球形のうち少なくとも1つであり、前記Pt粉末又はAg-Pt合金粉末において、少なくとも90wt%のPt粉末又はAg-Pt合金粉末の長軸と短軸との長さの比が、長軸:短軸=1~3である、厚膜抵抗ペーストである。
【0009】
従来の配合では、中低抵抗範囲、特にシート抵抗が100Ω/□未満の抵抗器のTCRは、主に貴金属であるPdの含有量に関係する。Pdには上記の欠点が存在するため、本発明では、Pdの代わりにPtを使用する手段を採用した。元素の周期表において、Ptは、Pdと同じ主族の元素であり、両者の物理・化学的性能が極めて類似し、純度、希少性及び耐久性の面で、両者が互いに置換されてもよく、純Ptは、良好な高温耐酸化性及び化学安定性を有する。常温で、Ptは、厚膜抵抗ペーストにおいて安定的に存在することができ、かつ850℃での焼結後、ペーストにおけるAgとAg-Pt二元系合金を形成することができ、その結果、厚膜抵抗器においてAg-Pt二元系合金の結晶相として存在する。また、PtとPd粉末との最も大きな相違点は、以下のとおりである。Pdは、室温~850℃で酸化・分解の過程が存在し、300~400℃の温度範囲に酸化し始めてPdOを形成し、800℃程度で分解し始めてPdを形成するが、PdOの完全分解温度が850℃を超え、850℃での焼結後、一部の未分解のPdOが残存する可能性もあり、PdOの存在により抵抗値及びTCRに大きな影響を与え、未分解のPdOの含有量が多くなるほど、抵抗値が高くなり、Pdの含有量が比較的に低下し、TCR値が高くなる。一方、Pt粉末は、酸化・分解の過程が存在せず、一定の温度まで焼結する際に、Agと直接Ag-Pt二元系合金を形成することができ、そのため、抵抗値が低く、TCR性能に優れた厚膜抵抗ペーストを得ることができる。
【0010】
そのため、発明者らは、以下のことを見出した。Pd粉末の代わりにPt粉末を使用した場合、シート抵抗が100Ω/□未満の抵抗器のTCRが低下することから、Pt粉の使用によりTCR性能を向上させることができ、これによりコストを低下させかつTCR性能を向上させる目的を達成できることがわかった。そして、特定の形状のPt粉末又はAg-Pt合金粉末を利用した場合、TCRの温度依存性(TCRの焼結温度による影響)及びTCRサイズ効果(サイズの大きさによる影響)が向上する。そして、Pd粉末の代わりにPt粉末を使用した場合、厚膜抵抗器の短時間過負荷性能が一定に保持され又はより優れたものになることが保証される。
【0011】
Pt粉末又はAg-Pt合金粉末のモルフォロジーは、厚膜抵抗器の電気性能に大きな影響を与え、ハニカム球状、綿状、球状以及略球形のPt粉末又はAg-Pt合金粉末を使用することにより、その他の成分と有機担体において均一に混合して、良好なレオロジー性能を示すことができる。同時に、上述のようなモルフォロジーを有するPt粉末は、ガラス相及びAg粒子と良好に接触することができ、焼結過程において、Ag-Pt合金の形成に有利となり、かつガラス相がそれに対して良好な湿潤過程を示し、同様に、上述のようなモルフォロジーを有するAg-Pt合金粉末も、ガラス相と良好な接触となり、これにより、ガラス相がそれに対して良好な湿潤過程を示す。シート状粉体を使用すると、Pt粉末/Ag-Pt合金粉末がその他の成分において分散しにくく、分散が不均一となり、スクリーン印刷の過程において目詰まりの現象が発生する可能性があり、かつ、焼結した後、熱応力により厚膜抵抗器の表面にクラックやボイドなどの欠陥が発生することがある。
【0012】
Pt粉末又はAg-Pt粉末は、長軸(a)と短軸(b)との長さの比a/bが3を超える場合、その粉体のモルフォロジーが針状モルフォロジーに近いものとなり、このようなモルフォロジーの場合、製造工程において分散しにくく、その他の導電相、ガラス相と有機担体において分散が不均一となる現象が発生しやすく、それにより厚膜抵抗器の電気性能及その他の性能に影響を与える。a/bが1~3であるPt粉末又はAg-Pt粉末は、その他の成分と有機担体において均一に混合して、良好なレオロジー性能を示すことができ、性能に優れた厚膜抵抗器が得られる。
【0013】
好ましくは、前記Pt粉末及びAg-Pt合金粉末において、X線回折法により測定されたPtの(111)結晶面の結晶子径が7~50nmである。
【0014】
好ましくは、前記Pt粉末の粒子径が、10nm~1μmであり、前記Pt粉末の比表面積が、0.3m2/g~25m2/gであり、前記Ag-Pt合金粉末の粒子径が、200nm~1μmであり、前記Ag-Pt合金粉末の比表面積が、0.3m2/g~15m2/gである。結晶子径が高すぎると、粒子径が大きくなるほど、比表面積が小さくなり、Pt粉末又はAg-Pt合金粉末を同じ質量で添加する場合の体積割合が小さくなり、導電相の体積割合は、厚膜抵抗器の電気性能に直接影響を与える。同様に、結晶子径が低すぎると、粒子径が小さくなるほど、比表面積が大きくなり、製造工程において集塊を形成しやすくなり、焼結過程においてガラス相が集塊内部の粉体を湿潤させることができなくなり、その結果、焼結過程において、熱応力作用により厚膜抵抗器の表面にクラックやボイドが発生し、このような欠陥は、厚膜抵抗器の電気性能に直接影響を与える。そのため、Ptの(111)結晶面の結晶子径が7~50nmである場合、性能に優れかつ表面にクラックやボイド等の欠陥がない厚膜抵抗器が得られる。
【0015】
好ましくは、前記厚膜抵抗ペーストは、30~80wt%の固相成分と、20~70wt%の有機成分とを含み、固相成分を100wt%とする場合、前記固相成分は、10~70wt%のAgと、0.1~60wt%のPtと、0~50wt%のRuO2と、5~60wt%のガラス成分と、0~5wt%の無機フィラーとを含む。
【0016】
好ましくは、固相成分を100wt%とする場合、前記固相成分は、30~70wt%のAgと、5~60wt%のPtと、0~20wt%のRuO2と、5~35wt%のガラス成分と、0~5wt%の無機フィラーとを含む。当該固相成分は、特に、0.1Ω/□の抵抗範囲(本願では、0.1Ω/□の抵抗範囲とは、実質的に、0.08~0.8Ω/□の範囲の抵抗範囲を示す。)の厚膜抵抗ペーストの製造に適用する。
【0017】
好ましくは、固相成分を100wt%とする場合、前記固相成分は、20~60wt%のAgと、5~50wt%のPtと、0~20wt%のRuO2と、10~40wt%のガラス成分と、0~5wt%の無機フィラーとを含む。当該固相成分は、特に、1Ω/□の抵抗範囲(本願では、1Ω/□の抵抗範囲とは、実質的に、0.8~10Ω/□の範囲の抵抗範囲を示す。)の厚膜抵抗ペーストの製造に適用する。
【0018】
好ましくは、固相成分を100wt%とする場合、前記固相成分は、10~40wt%のAgと、0.1~20wt%のPtと、20~50wt%のRuO2と、20~60wt%のガラス成分と、0~5wt%の無機フィラーとを含む。当該固相成分は、特に、10Ω/□の抵抗範囲(本願では、10Ω/□の抵抗範囲とは、実質的に、10~30Ω/□の範囲の抵抗範囲を示す。)の厚膜抵抗ペーストの製造に適用する。
【0019】
シート抵抗が100Ω/□未満の抵抗器において、抵抗ペーストにおけるPtの含有量が所定の上限を超えると、まず、抵抗率が低いAg粉末の相対含有量が低下し、そのシート抵抗が所定の要求に満たしにくく、そして、ガラス相の相対含有量が低下し、ガラス相が少なすぎて多くの導電相を湿潤させることができなく、これにより、厚膜抵抗器の表面にクラックやボイドが発生し、その電気性能がさらに悪化する。Ptの含有量が所定の下限未満であると、TCR性能、STOL性能及その他の電気性能が要求に満たしにくく、そのため、全ての要求に満たすために、適切な添加範囲を選択する必要がある。
好ましくは、前記ガラス成分は、ガラス組成物1、ガラス組成物2、ガラス組成物3及びガラス組成物4のうち少なくとも1つであり、
【0020】
前記ガラス組成物1は、重量百分率で、PbO 10~50%、SiO2 35~55%、CaO 5~30%、Al2O3 1~20%、B2O3 1~10%及びZnO 0~10%を含み、前記PbO、SiO2、CaO、Al2O3、B2O3及びZnOのガラス組成物1における重量百分率での含有量の合計が、少なくとも95%であり、
前記ガラス組成物2は、重量百分率で、SiO2 40~75%、BaO 0~15%、SrO 0~20%、Na2O 0~10%、K2O 0~10%、Al2O3 1~15%、B2O3 1~25%及びZnO 0~10%を含み、前記SiO2、BaO、SrO、Na2O、K2O、Al2O3、B2O3及びZnOのガラス組成物2における重量百分率での含有量の合計が、少なくとも95%であり、
前記ガラス組成物3は、重量百分率で、PbO 50~88%、SiO2 10~30%、Al2O3 1~10%、B2O3 1~10%及びZnO 0~10%を含み、前記PbO、SiO2、Al2O3、B2O3及びZnOのガラス組成物3における重量百分率での含有量の合計が、少なくとも95%であり、
前記ガラス組成物4は、重量百分率で、PbO 60~88%、SiO2 10~35%、Al2O3 1~10%、B2O3 1~10%及び遷移金属酸化物0~20%を含み、前記遷移金属酸化物は、CuO、MnO2、Nb2O5、Ta2O5、TiO2及びZrO2のうち少なくとも1つを含む。
前記無機フィラーは、Nb2O5、MnO2、CuO、TiO2及びTa2O5のうち少なくとも1つである。
【0021】
好ましくは、前記有機成分は、有機担体と、有機溶媒とを含み、前記有機担体が、エチルセルロース、メチルセルロース、アクリル樹脂及びエポキシ樹脂のうち少なくとも1つであり、前記有機溶媒が、テルピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、ジエチレングリコールジブチルエーテル及びアルコールエステル系のうち少なくとも1つである。
【0022】
本発明のもう一つの目的は、前記厚膜抵抗ペーストにより製造される抵抗器を提供することにある。
【0023】
本発明の有益な効果は、以下のとおりである。本発明は、厚膜抵抗ペーストを提供し、本発明に係る厚膜抵抗ペーストにおける導電相成分は、Pdの代わりにPtを使用し、特定のモルフォロジーを有するPt粉末又はAg-Pt合金粉末を利用した後、シート抵抗が100Ω/□未満の抵抗器のTCRが低下し、かつTCRの温度依存性(TCRの焼結温度による影響)及びTCRサイズ効果(サイズの大きさによる影響)が向上し、これからわかるように、特定のモルフォロジーを有するPt粉末によりTCR性能を向上させることができ、コストを低下させかつTCR性能を向上させる目的を達成できる。そして、Pd粉末の代わりにPtを使用した後、厚膜抵抗器の短時間過負荷性能が一定に保持され又はより優れたものになることが保証される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の目的、実施形態及び利点をよりよく説明するため、以下、具体的な実施例を参照しながら本発明についてさらに説明する。
実施例及び比較例に係るPt粉末のタイプは、表1に示す。
【表1】
注:表の中のPt(111)面の粒子径及び粒子の長軸と短軸との比とは、走査電子顕微鏡により測定された写真において80%以上の粒子の粒子径が当該Pt(111)面の粒子径及び粒子の長軸と短軸との比の範囲内にあることを示す。一般的には、抵抗ペーストに使用される白金粉末の一次粒子径は、基本的にX線回折法により測定された結晶子径と同等であるとみなし、結晶子径D(nm)は、Scherrerの式により算出され:D(nm)=(K・γ)/(B・cosθ)、ここで、KはScherrer定数であり、0.89とし、γ(nm)はX線の波長であり、Bは(111)面のピークの半値幅であり、θは回折角である。実施例に係るPt粉末の結晶子径は、X線回折法により測定された相対強度が最も高いピーク値から算出される。
実施例及び比較例に係るガラス成分は、表2に示し、単位はwt%である。
【表2】
ここで、遷移金属酸化物はCuO、MnO
2、Nb
2O
5、Ta
2O
5、TiO
2及びZrO
2の混合物であり、前記CuO、MnO
2、Nb
2O
5、Ta
2O
5、TiO
2及びZrO
2の重量の比は、1:1:1:1:1:1である。
【0025】
実施例及び比較例において、有機成分は、以下の重量百分率含有量での成分を含み:エチルセルロース及びテルピネオール、エチルセルロースとテルピネオールとの重量比=1:4である。
【0026】
抵抗範囲が0.1Ω/□である厚膜抵抗ペーストの配合は、表3に示す。
【表3】
【0027】
抵抗範囲が1Ω/□である厚膜抵抗ペーストの配合は、表4に示す。
【表4】
【0028】
抵抗範囲が10Ω/□である厚膜抵抗ペーストの配合は、表5に示す。
【表5】
【0029】
厚膜抵抗ペーストを850℃で焼結してチップ抵抗器を製造した後、その性能を測定した。
a.0603の規格を印刷し、全面における全てのチップ抵抗器の抵抗値の標準偏差を測定すると、SD<4%であった。
b.0.8*0.8の規格のチップ抵抗器のTCR性能を測定した。一般的には、25℃を基準として、125℃の条件で10min保温して測定した抵抗値をR
125とし、-55℃の条件で10min保温して測定した抵抗値をR
-55とし、
により測定したH(C)TCR性能が以下のとおりであった:0.1Ω/□<800ppm、1Ω/□<500ppm、10Ω/□が±100ppm範囲内にあった。
c.短時間過負荷(STOL)性能を測定した。0.8*0.8サイズの厚膜抵抗器に5sの2.5倍の定格電流(10Ω/□以下)或いは2.5倍の定格電圧(10Ω/□)を印加し、30分間放置して、
(ここで、R
0、R
1は、それぞれ、印加前後の抵抗値である。)によりその前後の抵抗値の変化を確認し、ΔR変化絶対値が1%未満であるものを合格とし、そうしないものを不合格とした。定格電圧が
であり、定格電流が
(Rが、対応するチップ抵抗器の抵抗値である。)である。
【0030】
抵抗範囲が0.1Ω/□である厚膜抵抗ペーストの性能測定結果は、表6に示す。
【表6】
【0031】
抵抗範囲が1Ω/□である厚膜抵抗ペースト性能測定結果は、表7に示す。
【表7】
【0032】
抵抗範囲が10Ω/□である厚膜抵抗ペースト性能測定結果は、表8に示す。
【表8】
【0033】
比較例5
本比較例と実施例5との相違点は、本比較例において、実施例5におけるPtの代わりにPdを使用し、このPd粉末のモルフォロジー及び粒子径範囲が実施例5のPt粉末と同じであったことのみにある。
【0034】
比較例6
本比較例と実施例14との相違点は、本比較例において、実施例14におけるPtの代わりにPdを使用し、このPd粉末のモルフォロジー及び粒子径範囲が実施例14のPt粉末と同じであったことのみにある。
【0035】
比較例7
本比較例と実施例21との相違点は、本比較例において実施例21におけるPtの代わりにPdを使用し、このPd粉のモルフォロジー及び粒子径範囲が実施例21のPt粉末と同じであったことのみにある。
【0036】
比較例5~7の測定結果は、表9に示す。
【表9】
表6~9からわかるように、厚膜抵抗器は、低い抵抗範囲である1Ω/□、0.1Ω/□、或いはより低い抵抗範囲、例えば0.01Ω/□の場合、Pt粉末又はAg-Pt合金のモルフォロジー、比表面積及び粒子径を制御し、Pd粉末の代わりに同等の質量百分率のPt粉末を使用することにより、より優れたTCR性能が得られた。10Ω/□の場合、Pd粉末の代わりに同等の質量百分率のPt粉末を使用することにより、より優れたTCR温度依存特性及び小さいTCRサイズ効果が得られた。
【0037】
実施例25
実施例7との相違点は、本実施例において実施例7におけるPtの代わりにf型Ptを使用したことのみにある。
【0038】
実施例26
実施例15との相違点は、本実施例において実施例15におけるPtの代わりにg型Ptを使用したことのみにある。
【0039】
実施例27
実施例10との相違点は、本実施例において実施例10におけるPtの代わりにh型Ptを使用したことのみにある。
【0040】
実施例28
実施例17との相違点は、本実施例において実施例17におけるPtの代わりにi型Ptを使用したことのみにある。
【0041】
比較例8
実施例5との相違点は、本比較例において実施例5におけるPtの代わりにj型Ptを使用したことのみにある。
【0042】
比較例9
実施例14との相違点は、本比較例において実施例14におけるPtの代わりにj型Ptを使用したことのみにある。
【0043】
比較例10
実施例21との相違点は、本比較例において実施例21におけるPtの代わりにj型Ptを使用したことのみにある。
【0044】
実施例25~28及び比較例8~10の測定結果は、表10に示す。
【表10】
【0045】
表10からわかるように、Ptの(111)結晶面の結晶子径が7~50nmの範囲内にない場合、STOL及び抵抗値の集中度が要求に満たしにくく、Pt粉末又はAg-Pt合金粉末の長軸と短軸との長さの比が3を超える(比較例10)場合、CTCR及びSDが要求に満たしにくかった。
【0046】
異なる焼結温度で厚膜抵抗ペーストからチップ抵抗器を製造した後、上記の方法に従って0.8*0.8規格のチップ抵抗器のTCR性能を測定したところ、測定の結果を、表11~15に示す。
【表11】
【表12】
【表13】
【表14】
【表15】
【0047】
表11~15からわかるように、Pt粉末を使用した抵抗ペーストにより製造された抵抗器は、Pd粉末を使用したものよりも、優れたTCR温度依存性を有し、抵抗ペーストにおいて、Ptの(111)結晶面の結晶子径が7~50nm範囲内にあり、Pt粉末又はAg-Pt合金粉末の長軸と短軸との長さの比が3の範囲内にあり、このような抵抗ペーストにより製造された抵抗器は、より優れたTCR温度依存性を有する。
【0048】
厚膜抵抗ペーストを850℃で焼結してチップ抵抗器を製造した後、上記の方法に従って異なる規格のチップ抵抗器のTCR性能を測定した。測定結果は、表16~20に示す。
【表16】
【表17】
【表18】
【表19】
【表20】
【0049】
表16~20からわかるように、Pt粉末を使用した抵抗ペーストにより製造された抵抗器は、Pd粉末を使用したものよりも、優れたTCRサイズ効果を有し、抵抗ペーストにおいて、Ptの(111)結晶面の結晶子径が7~50nmの範囲内にあり、Pt粉末又はAg-Pt合金粉末の長軸と短軸との長さの比が3の範囲内にあり、このような抵抗ペーストにより製造された抵抗器は、より優れたTCRサイズ効果を有する。
【0050】
なお、以上の実施例は、本発明の範囲を制限するものではなく、本発明の技術的手段を説明するためのものであり、好適な実施例を参照して本発明を詳細に説明したが、当業者は、本発明の技術的手段の本質と範囲から逸脱することなく、本発明の技術的手段に対して修正または均等物による置換を行うことができることを理解するであろう。