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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-13
(45)【発行日】2023-06-21
(54)【発明の名称】マスキング剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20230614BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20230614BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20230614BHJP
   A23L 33/19 20160101ALI20230614BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20230614BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20230614BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20230614BHJP
   A61K 8/9794 20170101ALI20230614BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20230614BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20230614BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230614BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20230614BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20230614BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230614BHJP
【FI】
A23L5/00 M
A23L5/00 H
A23L27/00 101A
A23L33/105
A23L33/19
A61K8/60
A61K8/64
A61K8/9789
A61K8/9794
A61K38/00
A61K38/17
A61K47/26
A61K47/46
A61P3/02
A61P21/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023511717
(86)(22)【出願日】2022-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2022016574
(87)【国際公開番号】W WO2022211038
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-04-05
(31)【優先権主張番号】P 2021059249
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113398
【弁理士】
【氏名又は名称】寺崎 直
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 拓真
(72)【発明者】
【氏名】三原 優子
(72)【発明者】
【氏名】橋本 唯史
【審査官】正 知晃
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-023219(JP,A)
【文献】特開昭61-249362(JP,A)
【文献】特開2005-245438(JP,A)
【文献】特開平11-290018(JP,A)
【文献】特開昭63-102651(JP,A)
【文献】特開2005-336078(JP,A)
【文献】特開2001-299264(JP,A)
【文献】国際公開第2017/014253(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0124053(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第112205478(CN,A)
【文献】韓国登録特許第10-1969809(KR,B1)
【文献】植物たんぱく臭軽減,化学工業日報,2020年07月20日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-グルコシル化ステビア抽出物及び米発酵エキスを少なくとも含有する、ホエイプロテイン及び/又はカゼインプロテイン由来プロテイン臭のマスキング剤。
【請求項2】
前記α-グルコシル化ステビア抽出物が、レバウディオサイドA誘導体およびステビオサイド誘導体を含む、請求項1に記載のプロテイン臭のマスキング剤。
【請求項3】
前記α-グルコシル化ステビア抽出物が、レバウディオサイドA誘導体を50~95重量%、ステビオサイド誘導体を5~50重量%の範囲で含有することを特徴とする請求項1に記載のプロテイン臭のマスキング剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のマスキング剤と、ホエイプロテイン及び/又はカゼインプロテインを含みプロテイン臭を有する組成物の1種以上とを含有することを特徴とする経口用組成物。
【請求項5】
該経口用組成物中、ホエイプロテイン及び/又はカゼインプロテイン1重量%に対し、前記α-グルコシル化ステビア抽出物がステビオール配糖体として1~1000ppmの割合で含まれる、請求項4に記載の経口用組成物。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか一項に記載のマスキング剤と、ホエイプロテイン及び/又はカゼインプロテインを含みプロテイン臭を有する組成物の1種以上とを含有することを特徴とする外用組成物。
【請求項7】
該外用組成物中、プロテイン1重量%に対し、前記α-グルコシル化ステビア抽出物がステビオール配糖体として1~1000ppmの割合で含まれる、請求項6に記載の外用組成物。
【請求項8】
ホエイプロテイン及び/又はカゼインプロテインを含みプロテイン臭を有する組成物のプロテイン臭をマスキングする方法であって、
前記プロテイン臭を有する組成物に、α-グルコシル化ステビア抽出物及び米発酵エキスを添加することを含み、
前記α-グルコシル化ステビア抽出物は、前記プロテイン1重量%に対し、ステビオール配糖体として1~1000ppm含まれるように添加する、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プロテインのマスキング剤及び前記マスキング剤を含む組成物に関するものであり、異味・特異臭を有する天然由来素材を含有する飲食物、医薬品、医薬部外品、化粧品などの経口摂取または口内利用可能な製品にこれを添加することにより、製品の異味・特異臭を改善し、効果的な摂取を可能にするものである。
【背景技術】
【0002】
近年、健康および美容に関する意識は向上しており、健康維持、栄養補給、ストレスや加齢によるトラブルの緩和、また美容を期待して、各種の機能性素材を含有する製品が望まれ、提供されている。例えば各種動植物エキス、アミノ酸、ペプチド、ポリフェノール類、ビタミン類、ミネラル類、食物繊維や機能性糖質などを含有する医薬品類、医薬部外品類、飲食物、生体材料等がそれである。
【0003】
また、テレビでの筋肉体操番組の大ヒットにともない筋トレがブームから一般化するとともに、コロナ禍によりマラソンや他競技の大会がなくなりアスリートが自宅でできるトレーニングに切り替え、ジム通いや家トレをする人口が急増している。それにより筋肉に効果的なプロテインの愛用者も増加している。
【0004】
しかし、プロテイン製品は特有の臭いや味のために連用する際の妨げとなることもあり、かかるプロテインを多量に配合する飲食品では、濃厚な味付けを行う等してプロテイン臭をマスキングする必要がある。
【0005】
プロテイン臭への対策としては、一般に、香料等の添加により改良する方法や、砂糖や異性化糖などの糖類を用いて甘味を付与するとともに異味・特異臭をマスキングする方法、調味料や無機酸・有機酸を添加する方法などが採られている。
【0006】
しかし、香料の添加のみではプロテイン製品の不快なプロテイン臭を十分に改善することは困難で、かつ過剰の添加はかえって製品全体の風味を損なわせる恐れがある。
【0007】
また糖類での甘味付けにより改善する方法においては、プロテインの異味・特異臭を抑制するには効果が低いばかりか、過剰の添加は製品の味わいのバランスを損ないやすく、特に糖類の場合はカロリーが付与されるので、近年の低カロリー志向にそぐわないばかりか、虫歯の誘発等の好ましくない結果を招く。
【0008】
カロリーを上昇させないために、低カロリー甘味料、例えばエリスリトール、キシリトール、マルチトール、還元水飴等の糖アルコール類、スクラロース、アセスルファムK、アスパルテーム、一般的なステビア等の高甘味度甘味料を添加する方法も考えられる。このような方法としては例えば、特許文献1、2に記載されている方法が挙げられる。しかし、これらのなかには効果は十分とはいえないものであった。また、ステビア抽出物には、コラーゲン臭をマスキングする効果も知られている(特許文献3)。さらにステビア抽出物とスクラロースからなる甘味組成物がタンパク質の不快臭をマスキングする効果も知られている(特許文献4)。しかしながら、少量の添加ではマスキング効果が必ずしも十分ではなく、他方、多量に添加するとそれらの異質または人工的な甘味質が強く感じられるようになり必ずしも好ましいとは言えないという意見も一部から聞かれたため、従来品と異なる選択肢の提供など、更なる改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第00/24273号パンフレット
【文献】特開2005-87184号公報
【文献】特開2008-037758号公報
【文献】特開2017-205133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的の1つは、プロテイン臭に対して効果的なマスキング剤を提供することにある。本発明の更なる目的は、プロテイン臭を有する組成物を高濃度含有し、しかも風味の良好な飲食物、医薬品、医薬部外品、化粧品などの経口摂取または口内利用可能な製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、ステビア抽出物および穀物発酵エキスの併用が、プロテイン臭を効果的にマスキングできることを見出し、かかる知見に基づいてさらに研究を進めることによって本発明を完成するに至った。なお、本開示中に提示される発明は、多面的にいくつかの態様として把握することができ、課題を解決するための手段として、例えば、下記のように具現化された態様を含みうる。なお、本開示中に提示される発明のことを「本発明」ともいう。
【0012】
すなわち本発明は、以下の〔1〕~〔12〕のような態様でありうる。
〔1〕 ステビア抽出物及び穀物発酵エキスを少なくとも含有することを特徴とするプロテイン臭のマスキング剤。
〔2〕 前記穀物発酵エキスが、米発酵エキスであることを特徴とする、上記〔1〕に記載のプロテイン臭のマスキング剤。
〔3〕 前記ステビア抽出物が、α-グリコシル化ステビア抽出物であることを特徴とする、上記〔1〕または〔2〕に記載のプロテイン臭のマスキング剤。
〔4〕 前記ステビア抽出物が、レバウディオサイドA誘導体を50~95重量%、ステビオサイド誘導体を5~50重量%の範囲で含有することを特徴とする、上記〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載のプロテイン臭のマスキング剤。
〔5〕 前記プロテイン臭が、ホエイプロテイン及び/又はカゼインプロテイン由来であることを特徴とする、上記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載のプロテイン臭のマスキング剤。
〔6〕 上記〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載のマスキング剤と、プロテインを含みプロテイン臭を有する組成物の1種以上とを含有することを特徴とする経口用組成物。
〔7〕 前記プロテインが、ホエイプロテイン及び/又はカゼインプロテインである、上記〔6〕に記載の経口用組成物。
〔8〕 該経口用組成物中、プロテイン1重量%に対し、前記ステビア抽出物がステビオール配糖体として1~1000ppmの割合で含まれる、上記〔6〕または〔7〕に記載の経口用組成物。
〔9〕 上記〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載のマスキング剤と、プロテインを含みプロテイン臭を有する組成物の1種以上とを含有することを特徴とする外用組成物。
〔10〕 前記プロテインが、ホエイプロテイン及び/又はカゼインプロテインである、上記〔9〕に記載の外用組成物。
〔11〕 該外用組成物中、プロテイン1重量%に対し、前記ステビア抽出物がステビオール配糖体として1~1000ppmの割合で含まれる、上記〔9〕または〔10〕に記載の外用組成物。
〔12〕 プロテインを含みプロテイン臭を有する組成物のプロテイン臭をマスキングする方法であって、
前記プロテイン臭を有する組成物に、ステビア抽出物及び穀物発酵エキスを添加することを含み、
前記ステビア抽出物は、前記プロテイン1重量%に対し、ステビオール配糖体として1~1000ppm含まれるように添加する、前記方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一又は複数の態様によれば、不快なプロテイン臭を効果的にマスキングできる。また、本発明の一または複数の態様によれば、プロテイン臭を高濃度含有する各種組成物に含有することにより、組成物のプロテイン臭を低減させるとともに、自然な甘味を付与することができ風味を良好にすることができる。結果としてプロテインの性能を期待通り発揮させることができ、健康増進に貢献できる。そして、本発明のマスキング剤は、天然由来であるため安全性が高い。
【発明を実施するため形態】
【0014】
以下に本発明の実施形態について詳細に説明する。
なお、本開示において、特に断らない限り、数値範囲に関し、「AA~BB」という記載は、「AA以上BB以下」を示すこととする(ここで、「AA」および「BB」は任意の数値を示す)。また、下限および上限の単位は、特に断りない限り、後者(すなわち、ここでは「BB」)の直後に付された単位と同じである。また、本開示において、「Xおよび/またはY」との表現は、XおよびYの双方、またはこれらのうちのいずれか一方のことを意味する。
【0015】
本発明の一実施形態は、ステビア抽出物および穀物発酵エキスを少なくとも含有することを特徴とするプロテイン臭のマスキング剤である。
【0016】
<ステビア抽出物>
本発明の実施形態において、使用しうるステビア抽出物は、キク科植物ステビアの葉部から抽出されるもので、ステビオサイド及びレバウディオサイドAを甘味の主成分として含有するものであり、ステビアに関しては産地や種に限定されることはない。抽出条件としては従来適応されてきたステビア甘味成分を取得する方法で良く、水、熱水、もしくは含水あるいは無水のメタノール、エタノールなどの有機溶媒にて抽出可能である。特には、抽出温度5~100℃、抽出時間1~24時間の範囲の条件で行うのが好ましい。また、特開昭51-23300号公報に記載されているように、水あるいは熱水抽出時に、甘味成分の抽出を効果的に行うために、石灰等でpHを10程度に調整することがあるが、これらの補助薬剤の使用については、特に制限はない。
【0017】
上記方法にて取得したステビア抽出物は、抽出終了後、抽出液から残渣を分離除去したものを用いる。この残渣を分離する方法としては、自然沈降分離あるいは強制ろ過等から適宜選択できるが、効率を優先する場合には、加圧ろ過が好適である。残渣を分離除去した抽出液はこのままでも利用可能であるが、必要に応じて濃縮あるいは乾燥させて用いる。また、この濃縮液を水で希釈あるいは乾燥物を水に再溶解した後、吸着法、例えばイオン交換樹脂を用いて不純物を除去したものや、ハイポーラスポリマー(例えば、アンバーライトXAD-2、オルガノ社製)のカラムに吸着させた後、親水性溶媒で溶出し濃縮したもの、あるいはこれらを乾燥させたものも使用できる。また、ステビア抽出物はステビア甘味料としてとして認可、販売されているものでも利用可能である。
【0018】
本発明の一実施形態において、ステビア抽出物(甘味料)は、ステビア抽出物全量に対し、レバウディオサイドAが50~95重量%の範囲で含まれることが好ましく、60~95重量%がさらに好ましく、65~95重量%がより好ましい。
【0019】
またステビア抽出物全量に対し、ステビオサイドが5~50重量%の範囲で含まれることが好ましく、5~40重量%がさらに好ましく、5~30重量%がより好ましい。
【0020】
またステビア抽出物全量に対し、レバウディオサイドA及びステビオサイドの混合物(レバウディオサイドA+ステビオサイド)が50~100重量%の範囲で含まれることが好ましく、60~100重量%がさらに好ましく、70~100重量%がより好ましい。(なお、レバウディオサイドA+ステビオサイド+その他ステビア抽出成分=100重量%とする)レバウディオサイドAとステビオサイドが上記範囲にあることで、本発明の一または複数の効果をより効果的に得ることができる。
【0021】
さらに、ステビア抽出物が糖変性されていることが好ましく、そのような物としてはα-グルコシル化糖化合物を糖供与体として、α-グルコシル糖転移酵素を用いて糖を転移させたもの、及び付加した糖数をアミラーゼなどにより調節して製造したα-グルコシル化ステビア抽出物を用いることができる。具体的な製法については、特公平5-22498号公報、特公昭57-18779号公報に記載されている。酵素反応にて製造したα-グルコシル化ステビア抽出物は、デキストリンなどの糖供与体を除去しない未精製のものでも樹脂等によってこれらを精製したものでも利用可能である。また、ステビア甘味料として認可、販売されているものでも利用可能である。
【0022】
その様なα-グルコシル化ステビア抽出物には、α-グルコシル基が1から15~20個程度付加した甘味成分が存在し、α-グルコシル平均付加数は特公平5-22498号公報や月刊フードケミカル1995年1月p.36に開示されているように次式(1)で求められる。
【0023】
【数1】
【0024】
その様なα-グルコシル化ステビア抽出物に含まれる、レバウディオサイドA誘導体(レバウディオサイドA及びその変性物)は、50~95重量%の範囲で含まれることが好ましく、50~90重量%がさらに好ましく、60~90重量%がより好ましい。
【0025】
またステビオサイド誘導体(ステビオサイド及びその変性物)は、5~50重量%の範囲で含まれることが好ましく、5~30重量%がさらに好ましく、5~20重量%がより好ましい。(なお、レバウディオサイドA誘導体+ステビオサイド誘導体+その他ステビア抽出成分の誘導体=100重量%とする。)
【0026】
またレバウディオサイドA誘導体及びステビオサイド誘導体の混合物(レバウディオサイドA誘導体+ステビオサイド誘導体)は、50~100重量%の範囲で含まれることが好ましく、60~100重量%がさらに好ましく、70~100重量%がより好ましい。(なお、レバウディオサイドA誘導体+ステビオサイド誘導体+その他ステビア抽出成分の誘導体=100重量%とする。)
【0027】
さらに、α-グルコシル化ステビア抽出物は、例えば、デキストリン、乳糖、その他一般に使用される倍散剤と混合し製剤化してもよい。その形態は、錠剤、粉末、シロップなど、いかなる形状でもかまわない。倍散剤との混合製剤を本発明の一又は複数の目的に使用するときは、製剤中の甘味強度を考慮して添加量を決めればよい。
【0028】
本発明の実施形態において、用いられる穀物発酵エキスは、例えば、穀物を原料に麹菌、酵母、乳酸菌などの微生物を用いて発酵、熟成、抽出することによって作られる天然物で、自体公知の方法により製造できるほか、市販のものを用いてもよい。穀物発酵エキスとしては、米発酵エキス、麦芽発酵エキス、大豆発酵エキスなどがあげられる。
【0029】
その様な穀物発酵エキスは、経口用組成物や外用組成物中のプロテインの含有量が1.0重量%に対して、穀物発酵エキスは0.1重量%~3.0重量%の割合で含まれることが好ましく、0.5重量%~1.5重量%がさらに好ましい。穀物発酵エキスとしての添加量が0.1重量%より少ないと、マスキング効果を発揮しない可能性がある。また、1.5重量%より多いと、過剰になってステビア抽出物との相乗効果が発現しにくくなる傾向が現れてくる。
【0030】
またレバウディオサイドA誘導体及びステビオサイド誘導体の混合物(ステビア抽出物+穀物発酵エキス)は、経口用組成物や外用組成物中のプロテインの含有量が1.0重量%に対して、0.1%重量%~4.0重量%含まれることが好ましく、0.1重量%~2.0重量%がより好ましく、0.5重量%~1.5重量%がさらに好ましい。
【0031】
本開示において、「プロテイン臭」とは、プロテインを含む製品(プロテインを含む組成物)が有する特異で且つ不快な臭い及び異味のことを意味する。本開示において、マスキング剤の対象は、プロテイン臭を有する組成物である。プロテイン臭を有する組成物例として、例えば、ホエイタンパク質、カゼインタンパク質などが挙げられる。以下においては、粉末飲食物が粉末状プロテイン(タンパク質)を含む場合を例に説明する。粉末飲食物がプロテイン飲料に用いられる場合、粉末状のタンパク質として、たとえば、ホエイタンパク質、カゼインタンパク質、ホエイタンパク質とカゼインタンパク質とが所定の割合で配合されたミルクプロテイン、大豆タンパク質、ピータンパク質、および卵タンパク質を含んでいてもよい。これらは粉末飲食物中に単独で含まれてもよいし、複数組み合わせて用いられていてもよい。本開示において、粉末プロテインという場合、蛋白分解物、ポリペプチド、ペプチドなどの形態も含まれうる。また、粉末飲食物は、粉末状プロテインの他に、たとえば炭水化物やBCAA(分岐鎖を有するアミノ酸)を含んでいてもよい。
かかるプロテイン素材の一例としては、例えば、「カゼイン臭」を有する粉末化乳タンパク質、「大豆臭」を有する粉末化大豆タンパク質等が挙げられる。
【0032】
本発明の一実施形態であるマスキング剤は、プロテイン臭を有する組成物に適用することにより、各種の組成物、例えば経口用組成物、外用組成物として利用することができる。経口用組成物、外用組成物として具体的には、例えば、飲食物、医薬品、医薬部外品、化粧品などの経口摂取または口内利用可能な製品が挙げられる。
【0033】
本開示でいう飲食物は、粉末、固形状、半固形状、液状いずれの形状をとるものであってかまわない。また医薬品および医薬部外品は、各種の経口摂取、口内利用可能な製品を挙げることができる。その剤形としては、粉末などの固形製剤、シロップ等の液状製剤等特に限定されない。また適用部位についても特に限定されず、化粧水、マウスウォッシュ、歯磨き等顔面をはじめとする外皮・口腔などに用いられるものであれば特に限定されることはない。
【0034】
プロテイン臭を有する組成物中のプロテインの含有量は、特に限定されるものではなく目的とする機能を発揮する量であればよい。例えば、応用剤型の種類、使用法、期待する作用の程度によって多少異なるが、通常、固形分として0.001重量%以上であることが好ましく、特に好ましくは同0.001~30重量%、中でも好ましくは0.01~20.00重量%である。
【0035】
プロテイン臭を有する組成物中のプロテインの含有量が、当該組成物全体に対して0.001重量%未満であると、健康増進作用を十分に発揮することが困難であり好ましくなく、逆に、同30重量%を超えて配合しても、配合量の増加に見合った、前記効果の増強を見込めなくなる傾向がみられるようになり、また呈味の点で異味・特異臭が顕著になり摂取が困難になる等の問題を生じることがある。
【0036】
本発明の実施形態において、用いうるステビア抽出物等は、天然物に含有される天然甘味料であり、各種食品の甘味料として広く使用されており安全性も極めて高いものである。従って、使用にあたり如何なる制限もない。よって、経口用組成物、又は外用組成物への添加量は、含有されるプロテインの特異臭・不快臭や異味をマスキングする量であれば特に限定されないが、組成物中のプロテインの含有量が1重量%として、ステビオール配糖体として1ppm以上であれば充分な効果を得ることが可能である。また、添加量に特に上限はないが、経済性、添加効果及び本来の風味に与える影響を考慮すると1重量%以下が好ましい。
【0037】
本発明の他の実施形態である経口用組成物や外用組成物中の、上記マスキング剤の含有量は、経口用組成物や外用組成物中のプロテインの含有量が1重量%に対して、ステビオール配糖体として1ppm~1000ppmの割合で添加することが好ましい。更に好ましくは、甘味をほとんど感じられない濃度である10ppm~40ppmである。更に他の実施形態として、マスキング剤を、プロテイン臭を有する組成物に対して、ステビオール配糖体として50ppm以上添加してもよく、この場合には、プロテイン臭のマスキング効果とともに甘味を付与することもできる。付与された甘味は自然で違和感がない。下限は特に限定されないが、ステビオール配糖体としての添加量が1ppmより少ないと、マスキング効果を発揮しない可能性がある。また、1000ppmより多いと、マスキング機能が飽和して、増量に見合う効果が見込みにくくなる傾向があり、また嗜好にもよるが、甘味が過剰になって添加する組成物の味質のバランスを乱すこともありうる。
【0038】
本発明の実施形態である組成物には、副材料として、一般的な食品や医薬品原料、無機酸、有機酸、甘味料、香料などの添加物が添加されていてもかまわない。無機酸としては、例えば、炭酸、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸等があげられるが、特に、炭酸、塩酸、リン酸等が好ましい。また、有機酸としては、例えば、クエン酸、無水クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、アスコルビン酸、酢酸、乳酸、コハク酸、マレイン酸、マロン酸、L-グルタミン酸塩酸塩等があげられるが、特に、クエン酸、無水クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、アスコルビン酸、酢酸等が好ましい。
【0039】
本発明の実施形態において、併用できる甘味料としては、例えば、:砂糖、果糖、異性化糖、グルコース、マルトース、パラチノース、トレハロース、及びフラクトオリゴ糖などの糖類・オリゴ糖類;マンニトール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、及びマルチトール等の糖アルコール類;アスパルテーム、サッカリン、サッカリンナトリウム、アセスルファムK、及びスクラロースなどの合成甘味料;並びに、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸モノアンモニウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、及びグリチルリチン酸三ナトリウムなどの天然高甘味度甘味料、等があげられる。
【0040】
本発明の実施形態において、マスキング剤と、プロテイン臭を有する組成物との混合は、撹拌翼を有する溶解槽、高圧ホモジナイザー、混練機など、飲食物、医薬品、医薬部外品、化粧品の製造時に通常使用される機器を使用してできる。また、飲食物、医薬品、医薬部外品、化粧品に通常使用できるいかなる製造用剤および原材料を含んでいても良い。
本発明の実施形態において、マスキング剤の組成物への添加については、工程のどの段階で添加してもよく、作業性を考えて適宜選択すればよい。
【実施例
【0041】
以下により具体的な実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
[プロテインの異味・特異臭低減効果、及び組成物の甘味質の判定基準]
官能試験は、10人のパネラーで以下の判定基準に基づいて判定し、その平均を算出して評価結果とした
【0043】
異味・特異臭判定基準
低減効果 なし:0
低減効果 弱 :1
低減効果 中 :2
低減効果 強 :3
【0044】
[実施例1~2、比較例1~3]
プロテイン粉末として、下記(1)~(4)の市販プロテイン粉末を用いた。
(1)ホエイプロテイン(製品名:PROVON190、日成共益社より販売)
(2)ソイプロテイン(製品名:プロリーナ250、不二製油社より販売)
(3)ピープロテイン(製品名:Harvest Pro PeaProtein85、日成共益社より販売)
(4)カゼインプロテイン(製品名:Caseinate180、日成共益社より販売)
上記各プロテイン粉末の5%水溶液(W/V)をそれぞれ調製し、α-グルコシル化ステビア抽出物として「SKスイートGRA(日本製紙社製、ステビア純度95%以上)」を、米発酵エキスとして「マスキットEX(モリタ食材開発研究所)」を添加した溶液を調製した。また砂糖を添加した溶液を調製した。これらのプロテイン水溶液の官能評価を行った。結果を表1に示す。表1中、マスキットEXおよびSK-GRAの含有量の単位は、%(W/W)およびppm(W/W)である。
【0045】
表1の結果から明らかなように、ステビア抽出物及び米発酵エキスを配合することにより、プロテイン臭をマスキングすることもでき、また、その甘味質は自然で良好なものであった。
【0046】
【表1】