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特許7296043微生物密度の推定方法、及び微生物密度推定用マイクロアレイ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】微生物密度の推定方法、及び微生物密度推定用マイクロアレイ
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6874 20180101AFI20230615BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20230615BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20230615BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230615BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
C12Q1/6874 Z ZNA
C12N15/09 200
C12M1/00 A
G01N33/53 M
G01N37/00 102
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019539004
(86)(22)【出願日】2018-06-20
(86)【国際出願番号】 JP2018023392
(87)【国際公開番号】W WO2019044126
(87)【国際公開日】2019-03-07
【審査請求日】2021-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2017165287
(32)【優先日】2017-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154184
【弁理士】
【氏名又は名称】生富 成一
(72)【発明者】
【氏名】大津 貴義
(72)【発明者】
【氏名】道志 弘輝
(72)【発明者】
【氏名】一色 淳憲
【審査官】中村 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-542712(JP,A)
【文献】特開2015-039320(JP,A)
【文献】特表2006-518189(JP,A)
【文献】特開2016-183916(JP,A)
【文献】特開2009-229210(JP,A)
【文献】特開2017-006012(JP,A)
【文献】特開2006-042817(JP,A)
【文献】統合ゲノミクスのためのマイクロアレイ データアナリシス,2006年,p. 78-81, 117-119
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
C12N 15/00- 15/90
C12Q 1/00- 3/00
G01N 33/53
G01N 37/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象の微生物が試料中に存在する密度を、マイクロアレイを用いて推定する微生物密度の推定方法であって、
前記検査対象の微生物が、フザリウム・オキシスポラムであり、
前記検査対象の微生物の遺伝子における分析対象領域のDNAと特異的にハイブリダイズする、前記マイクロアレイに固定された以下の(a)及び(b)に規定するオリゴヌクレオチドプローブを用いて、これらのプローブが前記DNAとハイブリダイズした程度を示すSN比値を測定し、前記SN比値にもとづいてパターン(1)~(3)を判定することにより、前記微生物密度を推定することを特徴とする微生物密度の推定方法。
プローブ(a):配列番号1に示す塩基配列からなり、試料中に存在する該微生物の密度が特定の微生物密度(α)の場合に陽性を示すSN比値を示すものとして予め対応付けられたプローブ
プローブ(b):配列番号2又は3に示す塩基配列からなり、試料中に存在する該微生物の密度が前記微生物密度(α)よりも小さい特定の微生物密度(β)の場合に陽性を示すSN比値を示すものとして予め対応付けられた1つ以上のプローブ
パターン(1):前記プローブ(a)及び前記プローブ(b)におけるSN比値が、両方ともに陽性を示す場合
微生物密度は、前記微生物密度(α)以上
パターン(2):前記プローブ(a)におけるSN比値が、陰性を示し、かつ、前記プローブ(b)におけるSN比値が、陽性を示す場合
微生物密度は、前記微生物密度(β)以上、前記微生物密度(α)未満
パターン(3):前記プローブ(a)及び前記プローブ(b)におけるSN比値が、両方ともに陰性を示す場合
微生物密度は、前記微生物密度(β)未満
【請求項2】
検査対象の微生物が試料中に存在する密度を、マイクロアレイを用いて推定する微生物密度の推定方法であって、
前記検査対象の微生物が、アルタナリア・アルタナータであり、
前記検査対象の微生物の遺伝子における分析対象領域のDNAと特異的にハイブリダイズする、前記マイクロアレイに固定された以下の(a)及び(b)に規定するオリゴヌクレオチドプローブを用いて、これらのプローブが前記DNAとハイブリダイズした程度を示すSN比値を測定し、前記SN比値にもとづいてパターン(1)~(3)を判定することにより、前記微生物密度を推定することを特徴とする微生物密度の推定方法。
プローブ(a):配列番号4に示す塩基配列からなり、試料中に存在する該微生物の密度が特定の微生物密度(α)の場合に陽性を示すSN比値を示すものとして予め対応付けられたプローブ
プローブ(b):配列番号5又は6に示す塩基配列からなり、試料中に存在する該微生物の密度が前記微生物密度(α)よりも小さい特定の微生物密度(β)の場合に陽性を示すSN比値を示すものとして予め対応付けられた1つ以上のプローブ
パターン(1):前記プローブ(a)及び前記プローブ(b)におけるSN比値が、両方ともに陽性を示す場合
微生物密度は、前記微生物密度(α)以上
パターン(2):前記プローブ(a)におけるSN比値が、陰性を示し、かつ、前記プローブ(b)におけるSN比値が、陽性を示す場合
微生物密度は、前記微生物密度(β)以上、前記微生物密度(α)未満
パターン(3):前記プローブ(a)及び前記プローブ(b)におけるSN比値が、両方ともに陰性を示す場合
微生物密度は、前記微生物密度(β)未満
【請求項3】
検査対象の微生物が試料中に存在する密度を、マイクロアレイを用いて推定する微生物密度の推定方法であって、
前記検査対象の微生物が、バーティシリウム・ダーリエであり、
前記検査対象の微生物の遺伝子における分析対象領域のDNAと特異的にハイブリダイズする、前記マイクロアレイに固定された以下の(a)及び(b)に規定するオリゴヌクレオチドプローブを用いて、これらのプローブが前記DNAとハイブリダイズした程度を示すSN比値を測定し、前記SN比値にもとづいてパターン(1)~(3)を判定することにより、前記微生物密度を推定することを特徴とする微生物密度の推定方法。
プローブ(a):配列番号7に示す塩基配列からなり、試料中に存在する該微生物の密度が特定の微生物密度(α)の場合に陽性を示すSN比値を示すものとして予め対応付けられたプローブ
プローブ(b):配列番号8又は9に示す塩基配列からなり、試料中に存在する該微生物の密度が前記微生物密度(α)よりも小さい特定の微生物密度(β)の場合に陽性を示すSN比値を示すものとして予め対応付けられた1つ以上のプローブ
パターン(1):前記プローブ(a)及び前記プローブ(b)におけるSN比値が、両方ともに陽性を示す場合
微生物密度は、前記微生物密度(α)以上
パターン(2):前記プローブ(a)におけるSN比値が、陰性を示し、かつ、前記プローブ(b)におけるSN比値が、陽性を示す場合
微生物密度は、前記微生物密度(β)以上、前記微生物密度(α)未満
パターン(3):前記プローブ(a)及び前記プローブ(b)におけるSN比値が、両方ともに陰性を示す場合
微生物密度は、前記微生物密度(β)未満
【請求項4】
前記陽性を示すSN比値が、3以上であり、前記陰性を示すSN比値が、3未満であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の微生物密度の推定方法。
【請求項5】
前記プローブ(b)の塩基配列が、前記プローブ(a)の塩基配列と少なくとも1塩基以上の共通配列を含み、かつ、前記共通配列の5’末端若しくは3’末端、又はその両端に合計で3~25塩基付加された配列であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の微生物密度の推定方法。
【請求項6】
前記プローブ(b)が複数存在し、かつ、前記微生物密度(β)が複数存在する場合、前記パターンにおいて、最小の微生物密度(β)を使用することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の微生物密度の推定方法。
【請求項7】
環境中から採取された微生物の遺伝子を前記検査対象の微生物の遺伝子として使用し、該遺伝子をPCR法によって増幅して、前記分析対象領域のDNAを得ることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の微生物密度の推定方法。
【請求項8】
請求項記載の微生物密度の推定方法に用いるための微生物密度推定用マイクロアレイであって、
フザリウム・オキシスポラムの遺伝子における分析対象領域のDNAと特異的にハイブリダイズする、
列番号1に示す塩基配列からなるプローブと、
列番号2に示す塩基配列からなるプローブ及び配列番号3に示す塩基配列からなるプローブと、が固定された
ことを特徴とする微生物密度推定用マイクロアレイ。
【請求項9】
請求項記載の微生物密度の推定方法に用いるための微生物密度推定用マイクロアレイであって、
アルタナリア・アルタナータの遺伝子における分析対象領域のDNAと特異的にハイブリダイズする、
列番号4に示す塩基配列からなるプローブと、
列番号5に示す塩基配列からなるプローブ及び配列番号6に示す塩基配列からなるプローブと、が固定された
ことを特徴とする微生物密度推定用マイクロアレイ。
【請求項10】
請求項記載の微生物密度の推定方法に用いるための微生物密度推定用マイクロアレイであって、
バーティシリウム・ダーリエの遺伝子における分析対象領域のDNAと特異的にハイブリダイズする、
配列番号7に示す塩基配列からなるプローブと、
配列番号8に示す塩基配列からなるプローブ及び配列番号9に示す塩基配列からなるプローブと、が固定された
ことを特徴とする微生物密度推定用マイクロアレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の検査技術に関し、特に環境中に存在する微生物の密度の推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品製造現場や臨床現場、農業現場、文化財保護環境等において、真菌や細菌などの微生物が存在するか否かを検査して安全性、健全性を確認するとともに、その繁殖を防止することが重要となっている。
このような微生物の検査において、遺伝子を用いた同定法が行われている。すなわち、環境中から採取した微生物からDNAを抽出して、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法などにより標的領域を増幅し、その増幅産物を解析することで、環境中の微生物を同定することが行われている。増幅産物を解析する方法としては、電気泳動によって増幅産物のサイズを分析する方法や、増幅産物と相補的に結合するプローブを配置したマイクロアレイを用いる方法などが提案されている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5670623号公報
【文献】特許第5196848号公報
【文献】特許第4291143号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、環境中の微生物を同定すると共に、その環境中における微生物の密度を把握できれば有益である。
例えば、農薬を散布して土壌消毒を行うような場合、農作物に病気が生じる程に病原性微生物が土壌に存在していない場合であっても、安心感を得るために、農薬が散布されることがある。しかしながら、このような農薬の散布は本来無駄であり、また環境に悪影響を与えるという問題もある。
具体的には、アブラナ科野菜の根こぶ病などでは、根こぶ病菌(Plasmodiophora brassicae)が所定の土壌条件下において一定の密度以下しか存在しない場合には、農薬を散布する必要がないことが知られている。このため、環境中における微生物の密度が簡単に推定できれば、有益である。
【0005】
ここで、環境中における微生物の密度の推定に使用できそうな候補として、上述したマイクロアレイを用いる方法における、ハイブリダイゼーションの程度を示すシグナル値であるSN比値を挙げることができる。
ところが、SN比値自体にもとづいて、環境中における微生物の密度を推定することは困難であった。その理由は、SN比値には、ばらつきが生じ易いという特性があるためである。
【0006】
すなわち、検査対象の微生物からDNAを抽出してPCRを行う場合、DNAの増幅に伴って、プライマーの反応性や酵素の反応性の相違、DNA抽出効率の相違が増幅され、SN比値が大きくなると、大きなばらつきが生じるため、SN比値にもとづき環境中における微生物の密度を推定することは難しかった。
なお、SN比値が小さくなればなる程、そのばらつきが小さくなることから、微生物の存否を判定に用いられる閾値の近辺においては、SN比値のばらつきは比較的小さいと考えられる。
【0007】
そこで、本発明者らは鋭意研究して、感度の異なる2種類のプローブを使用することにより、SN比値を用いて微生物密度の推定を可能にする手法を開発した。
感度の異なる2種類のプローブを使用することについて記載された技術先行文献としては、特許文献3に記載のプローブを挙げることができる。
すなわち、この特許文献3に記載のプローブによれば、感度の異なる2種類のプローブで計測されたシグナル値を合算することによって、検出感度を向上させることが可能になっている。
しかしながら、この技術は、環境中における微生物の密度を推定するために適用可能なものではなかった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、環境中における微生物の密度を推定可能な微生物密度の推定方法、及びこれに用いるための微生物密度推定用マイクロアレイの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の微生物密度の推定方法は、検査対象の微生物が試料中に存在する密度を推定する微生物密度の推定方法であって、
検査対象の微生物の遺伝子における分析対象領域のポリヌクレオチドと特異的にハイブリダイズする、以下の(a)及び(b)に規定するオリゴヌクレオチドプローブを用いて、これらのプローブが前記ポリヌクレオチドとハイブリダイズした程度を示すシグナル値を測定し、前記シグナル値と所定の閾値にもとづいてパターン(1)~(3)を判定することにより、前記微生物密度を推定することを特徴とする微生物密度の推定方法。
プローブ(a):前記ポリヌクレオチドと特異的にハイブリダイズする塩基配列からなり、試料中に存在する該微生物の密度が特定の微生物密度(α)の場合に前記所定の閾値以上の前記シグナル値を示すものとして予め対応付けられたプローブ
プローブ(b):前記ポリヌクレオチドと特異的にハイブリダイズする塩基配列からなり、試料中に存在する該微生物の密度が前記微生物密度(α)よりも小さい特定の微生物密度(β)の場合に前記所定の閾値以上の前記シグナル値を示すものとして予め対応付けられた1つ以上のプローブ
パターン(1):前記プローブ(a)及び前記プローブ(b)におけるシグナル値が、両方ともに前記所定の閾値以上の場合
微生物密度は、前記微生物密度(α)以上
パターン(2):前記プローブ(a)におけるシグナル値が、前記所定の閾値未満であり、かつ、前記プローブ(b)におけるシグナル値が、前記所定の閾値以上の場合
微生物密度は、前記微生物密度(β)以上、前記微生物密度(α)未満
パターン(3):前記プローブ(a)及び前記プローブ(b)におけるシグナル値が、両方ともに前記所定の閾値未満の場合
微生物密度は、前記微生物密度(β)未満
【0010】
また、本発明の微生物密度推定用マイクロアレイは、上記の微生物密度の推定方法に用いるための微生物密度推定用マイクロアレイであって、前記(a)のプローブとして、配列番号1に示す塩基配列からなるプローブが配置され、前記(b)のプローブとして、配列番号2に示す塩基配列からなるプローブ及び/又は配列番号3に示す塩基配列からなるプローブが配置されたものとしてある。
【0011】
また、本発明の微生物密度推定用マイクロアレイは、上記の微生物密度の推定方法に用いるための微生物密度推定用マイクロアレイであって、前記(a)のプローブとして、配列番号4に示す塩基配列からなるプローブが配置され、前記(b)のプローブとして、配列番号5に示す塩基配列からなるプローブ及び/又は配列番号6に示す塩基配列からなるプローブが配置されたものとしてある。
【0012】
また、本発明の微生物密度推定用マイクロアレイは、上記の微生物密度の推定方法に用いるための微生物密度推定用マイクロアレイであって、前記(a)のプローブとして、配列番号7に示す塩基配列からなるプローブが配置され、前記(b)のプローブとして、配列番号8に示す塩基配列からなるプローブ及び/又は配列番号9に示す塩基配列からなるプローブが配置されたものとしてある。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、環境中における微生物の密度を推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る微生物密度の推定方法の検出パターンを示す説明図である。
図2】本発明の実施形態に係る微生物密度の推定方法に関する実験において使用したオリゴヌクレオチドプローブの塩基配列を示す図である。
図3】本発明の実施形態に係る微生物密度の推定方法に関する実験において使用したオリゴヌクレオチドプライマーの塩基配列を示す図である。
図4】本発明の実施形態に係る微生物密度の推定方法に関する実験1において使用したオリゴヌクレオチドプローブ毎の、様々な微生物密度についてのSN比値を示す図である。
図5】本発明の実施形態に係る微生物密度の推定方法に関する実験2において使用したオリゴヌクレオチドプローブ毎の、様々な微生物密度についてのSN比値を示す図である。
図6】本発明の実施形態に係る微生物密度の推定方法に関する実験3において使用したオリゴヌクレオチドプローブ毎の、様々な微生物密度についてのSN比値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の微生物密度の推定方法の一実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の本実施形態及び後述する実施例の具体的な内容に限定されるものではない。
【0016】
本実施形態の微生物密度の推定方法は、検査対象の微生物が試料中に存在する密度を推定する微生物密度の推定方法であって、検査対象の微生物の遺伝子における分析対象領域のポリヌクレオチドと特異的にハイブリダイズする、以下の(a)及び(b)に規定するオリゴヌクレオチドプローブを用いて、これらのプローブがポリヌクレオチドとハイブリダイズした程度を示すシグナル値を測定し、シグナル値と所定の閾値にもとづいてパターン(1)~(3)を判定することにより、微生物密度を推定することを特徴とする。
プローブ(a):ポリヌクレオチドと特異的にハイブリダイズする塩基配列からなり、試料中に存在する該微生物の密度が特定の微生物密度(α)の場合に所定の閾値以上のシグナル値を示すものとして予め対応付けられたプローブ
プローブ(b):ポリヌクレオチドと特異的にハイブリダイズする塩基配列からなり、試料中に存在する該微生物の密度が微生物密度(α)よりも小さい特定の微生物密度(β)の場合に所定の閾値以上のシグナル値を示すものとして予め対応付けられた1つ以上のプローブ
パターン(1):プローブ(a)及びプローブ(b)におけるシグナル値が、両方ともに所定の閾値以上の場合
微生物密度は、微生物密度(α)以上
パターン(2):プローブ(a)におけるシグナル値が、所定の閾値未満であり、かつ、プローブ(b)におけるシグナル値が、所定の閾値以上の場合
微生物密度は、微生物密度(β)以上、微生物密度(α)未満
パターン(3):プローブ(a)及びプローブ(b)におけるシグナル値が、両方ともに所定の閾値未満の場合
微生物密度は、微生物密度(β)未満
【0017】
本実施形態の微生物密度の推定方法において、検査対象とする微生物は、真菌や細菌などとすることができるが、この「微生物」は、これらに限定されず、環境中におけるその密度を推定することに有益性が認められるその他のものを含めることができる。例えば、ダニなどの極小型の動物やウイルス等を含めることができる。
また、環境中とは、例えば食品製造現場や臨床現場、農業現場、文化財保護環境等の各種検査対象となり得る場所を意味し、これらの場所から採取された試料を環境と見なすことができる。
【0018】
微生物密度とは、環境中、すなわち試料内に存在する微生物の密度を意味する。これを意味するものであればその単位は特に限定されないが、例えば微生物をカビの胞子とする場合、「個/g乾土」によって表すことができる。
【0019】
本実施形態の微生物密度の推定方法において使用するオリゴヌクレオチドプローブは、検査対象の微生物の遺伝子における分析対象領域のポリヌクレオチドと特異的にハイブリダイズするものであれば特に限定されないが、微生物毎に、相対的に低感度のオリゴヌクレオチドプローブ1種類と、相対的に高感度のオリゴヌクレオチドプローブ1種類とからなる2種類のプローブのセットから構成される。すなわち、次の(a)及び(b)のプローブのセットから構成される。
プローブ(a):ポリヌクレオチドと特異的にハイブリダイズする塩基配列からなり、試料中に存在する該微生物の密度が特定の微生物密度(α)の場合に所定の閾値(SN比値を用いる場合は3)以上のシグナル値を示すものとして予め対応付けられたプローブ(以下、プローブ(a)を単に低感度プローブと称する場合がある。)
プローブ(b):ポリヌクレオチドと特異的にハイブリダイズする塩基配列からなり、試料中に存在する該微生物の密度が微生物密度(α)よりも小さい特定の微生物密度(β)の場合に所定の閾値以上のシグナル値を示すものとして予め対応付けられた1つ以上のプローブ(以下、プローブ(b)を単に高感度プローブと称する場合がある。)
【0020】
すなわち、低感度プローブは、試料中に存在する該微生物の密度が特定の微生物密度(α)の場合に、陽性を示すことが事前に確認されたプローブである。このとき、微生物密度(α)は、低感度プローブを用いた場合に陽性となる最小の密度が選択される。例えば、後述する実験1で示されるように、低感度プローブにより密度が1800000、180000、及び18000で陽性が示される場合、微生物密度(α)として最小の18000が選択される。
【0021】
また、高感度プローブは、試料中に存在する該微生物の密度が微生物密度(α)よりも小さい特定の微生物密度(β)の場合に、陽性を示すことが事前に確認されたプローブである。このとき、微生物密度(β)は、高感度プローブを用いた場合に陽性となる最小の密度が選択される。例えば、後述する実験1で示されるように、高感度プローブにより密度が1800000、180000、18000、及び1800で陽性が示される場合、微生物密度(β)として1800が選択される。
【0022】
さらに、高感度プローブが複数存在し、かつ、微生物密度(β)が複数存在する場合には、最小の微生物密度(β)を推定に使用する。
例えば、実験1において、仮に高感度プローブ2により密度が180で陽性が示される場合には、微生物密度(β)として、最小の180が選択される。
【0023】
高感度プローブの塩基配列は、低感度プローブの塩基配列と少なくとも1塩基以上の共通配列を含み、かつ、5’末端若しくは3’末端、又はその両端に合計で3~25塩基が付加されたものとすることが好ましく、5~22塩基が付加されたものとすることがより好ましく、7~20塩基が付加されたものとすることがさらに好ましく、7~10塩基が付加されたものとすることが特に好ましい。なお、低感度プローブの塩基配列長は、例えば20~40塩基とすることができる。
【0024】
高感度プローブの塩基配列長は、低感度プローブの塩基配列長よりも長いため、同一のポリヌクレオチドに対する水素結合力が低感度プローブよりも強い。このため、特にSN比値が閾値に近い値を示す微生物密度の範囲において、高感度プローブは、低感度プローブに比較して高いSN比値を示す。
このSN比値が閾値に近い値を示す微生物密度の範囲としては、高感度プローブによるSN比値が閾値となる密度からその10倍程度とすることができる。
【0025】
また、高感度プローブをGC配列のみからなるもの、又はGC配列を低感度プローブよりも多く含むものとすることによって、同一のポリヌクレオチドに対する水素結合力を低感度プローブよりも強いものとすることも可能である。
【0026】
本実施形態の微生物密度の推定方法において、オリゴヌクレオチドプローブとして、後述する実施例で用いた図2に示すプローブを使用することができるが、本発明の技術的思想の特徴上、これらに限定されるものではないことは言うまでもない。
すなわち、具体的な例として、本実施形態の微生物密度の推定方法において使用するオリゴヌクレオチドプローブとして、配列番号1~9によりそれぞれ特定される塩基配列からなる核酸断片を用いることができる。
【0027】
すなわち、フザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)を検出するための配列番号1~3に示す塩基配列からなるプローブのセットを用いることができる。
また、アルタナリア・アルタナータ(Alternaria alternata)を検出するための配列番号4~6に示す塩基配列からなるプローブのセットを用いることができる。
さらに、バーティシリウム・ダーリエ(Verticillium dahliae)を検出するための配列番号7~9に示す塩基配列からなるプローブのセットを用いることができる。
なお、これらのプローブは、それぞれの微生物のrDNA遺伝子ITS領域から選択されたものである。
【0028】
本実施形態の微生物密度の推定方法において、プローブがポリヌクレオチドとハイブリダイズした程度を示すシグナル値としては、例えばSN比値(Signal to Noise ratio)を用いることができる。S/N比値にもとづいて、環境中における検査対象の微生物の存否(測定結果が陽性であるか陰性であるか)を精度高く判定することができるためであり、一般にS/N比値が3以上の場合に、陽性と判定することができる。本明細書中に記載のS/N比値は、(メディアン蛍光強度値-バックグラウンド値)÷バックグラウンド値にて算出される。なお、このシグナル値はSN比値に限定されず、その他の指標を用いることもできる。
【0029】
本実施形態の微生物密度の推定方法において、パターン(1)~(3)の判定は、次のように行われる。
パターン(1):プローブ(a)及びプローブ(b)におけるシグナル値が、両方ともに所定の閾値以上の場合
微生物密度は、密度(α)以上
パターン(2):プローブ(a)におけるシグナル値が所定の閾値未満であり、かつ、プローブ(b)におけるシグナル値が所定の閾値以上の場合
微生物密度は、密度(β)以上、密度(α)未満
パターン(3):プローブ(a)及びプローブ(b)におけるシグナル値が、両方ともに所定の閾値未満の場合
微生物密度は、密度(β)未満
【0030】
すなわち、図1に示すように、低感度プローブ及び高感度プローブが陽性を示す場合、推定される微生物密度は密度(α)以上であると判定する。
また、低感度プローブが陰性を示し、高感度プローブが陽性を示す場合、推定される微生物密度は密度(β)以上、密度(α)未満であると判定する。
また、低感度プローブ及び高感度プローブが陰性を示す場合、推定される微生物密度は密度(β)未満である判定する。
これにより、本実施形態の微生物密度の推定方法によれば、感度の異なる2種類のプローブを用いることにより、環境中に存在する微生物の密度の大凡の範囲を、比較的簡易に推定することが可能になっている。
【0031】
本実施形態の微生物密度の推定方法において使用されるオリゴヌクレオチドプローブは、一般的なDNA合成装置により合成できる。後述する実施例で用いた配列番号1~9に示す塩基配列からなるプローブは、いずれもDNA合成装置により合成したものを使用した。なお、実施例でPCRに用いた配列番号10~13に示す塩基配列からなるプライマーも、DNA合成装置により合成したものを使用した。
【0032】
また、本実施形態の微生物密度の推定方法において、オリゴヌクレオチドプローブをマイクロアレイ上に配置して、使用可能にすることも好ましい。
このような微生物密度推定用マイクロアレイは、例えば、配列番号1~9に示す塩基配列を有するプローブを用いて、既存の一般的な方法で製造することができる。
【0033】
具体的には、このマイクロアレイとして、貼り付け型のDNAチップを作成する場合は、DNAスポッターによりプローブをガラス基板上に固定化して、各プローブに対応するスポットを形成することにより作成することができる。また、合成型DNAチップを作成する場合は、光リソグラフィ技術により、ガラス基板上で上記配列を備えた一本鎖オリゴDNAを合成することにより作成することができる。さらに、基板はガラス製に限定されず、プラスチック基板やシリコンウエハー等を用いることもできる。また、基板の形状は平板状のものに限定されず、様々な立体形状のものとすることもでき、その表面に化学反応が可能となるように官能基を導入したものなどを用いることもできる。
【0034】
また、この微生物密度推定用マイクロアレイには、例えば配列番号1~9に示す塩基配列を有するプローブの全部を配置しても良く、微生物毎のプローブのセットのみをそれぞれ配置したものとすることもできる。
【0035】
本実施形態の微生物密度の推定方法は、例えば以下の事前準備を含めて好適に行うことができる。
まず、微生物を含む検体を環境中から採取する。このとき、必要に応じて、乾燥、破砕、ふるいがけ、及び濃縮等を行う。
【0036】
次に、採取された微生物からDNAを抽出する。そして、抽出したゲノムDNAにおける標的領域を、例えばPCR法により増幅させる。
そして、得られた増幅産物を微生物密度推定用マイクロアレイに滴下して、これに配置されたプローブにハイブリダイズした増幅産物の標識を検出する。この標識として蛍光強度などを用いて、ハイブリダイズした程度を示すシグナル値としてSN比値等を算出する。
【0037】
本実施形態の微生物密度の推定方法では、環境中における微生物の密度の大凡の範囲を推定することを可能としている。特に、微生物密度が中程度であるのか、又は小さいのかを簡易に判別し得るため、例えば病原菌が一定の密度以下しか存在しないことを明らかにして、薬剤の散布などを抑制できる場合がある点で有益である。
【実施例
【0038】
以下、本発明の実施形態に係る微生物密度の推定方法の適用事例を示す実験について、具体的に説明する。
[実験1]
検出対象の微生物として、独立行政法人製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジー本部 生物遺伝資源部門(NITE Biological Resource Center)から入手した菌株のものを使用した。具体的には、次の3種類のカビを使用した。
(1)フザリウム・オキシスポラム(Fusarium oxysporum)(NBRC 31629)
(2)アルタナリア・アルタナータ(Alternaria alternata)(NBRC 106339)
(3)バーティシリウム・ダーリエ(Verticillium dahliae)(NBRC 9435)
【0039】
また、これらのカビを検出して、その密度を推定可能にするための微生物密度推定用マイクロアレイを作成した。具体的には、ジーンシリコン(R)(東洋鋼鈑株式会社製)を用い、これに図2に示す配列番号1~9のプローブを配置したものを使用した。各プローブは、シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社により合成したものを使用した。また、各プローブの基板への固定化は、マイクロアレイヤーにより行った。
【0040】
実験1では、微生物密度推定用マイクロアレイにおける、フザリウム・オキシスポラムを検出するための配列番号1~3に示す塩基配列からなるプローブを微生物密度の推定に使用した。
すなわち、配列番号1に示す塩基配列からなるプローブは、フザリウム・オキシスポラムの密度を推定するための低感度プローブであり、配列番号2に示す塩基配列からなるプローブと配列番号3に示す塩基配列からなるプローブは、フザリウム・オキシスポラムの密度を推定するための高感度プローブである。
高感度プローブにおける低感度プローブと相違する配列部分を図2において太字二重下線で示している。図2におけるその他のカビを検出するためのプローブについても同様である。
【0041】
また、フザリウム・オキシスポラムを、PDA培地を配置した培養プレート上で、25℃の暗所で7日間培養して胞子を形成させた。
次に、胞子が形成された培養プレート上に0.05%Tween80生食水を10 mL注ぎ、コンラージ棒で胞子を軽く撫でてそぎ落とし、水溶液中に分散させた。次いで、胞子を分散させた水溶液をピペットで回収し、滅菌ガーゼでろ過して菌糸を取り除いた後、ろ液を3,000gで10分間遠心して上清を取り除いた。沈殿した胞子に水溶液を100 μL加えて懸濁したものを胞子液とした。そして、胞子液をトーマ血球計算盤で計数することによって、10^8から10^0の胞子を含む10倍段階希釈系列胞子液を作成した。
【0042】
次に、得られた胞子液を土壌と混和させて土壌サンプルを作成し、土壌サンプルを用いてDNAの抽出を行った。具体的には、乾燥させた市販土壌0.2 g(ニッピ園芸培土1号)と直径1 mmのガラスビーズ 0.2 gを添加したチューブに、10^6~10^0 胞子/g乾土のカビ胞子密度となるよう胞子液を添加することで土壌サンプルを調製した。
各土壌サンプルを、0.2 g/mLスキムミルク 80 μL、100 mM Tris-HCl,40 mM EDTA バッファー 250 μL、10%SDS 50 μL、塩化ベンジル 150 μLと共に、ビードビーターを使用して、4,200 rpmで1分間破砕した。
【0043】
そして、60℃、15 分間加熱した破砕サンプルに3M sodium acetate 150 μLを添加した後、15分間氷冷して、市販DNAキット(FAVORGEN Plant Genomic DNA Extraction Mini Kit)を使用してDNAを抽出し、精製DNAを得た。
得られた精製DNAを用いて、PCR法により、フザリウム・オキシスポラムのITS領域を増幅した。このとき、既存のプロトコルをそのまま用いたため、PCR用の反応液として、図3に示すITS領域を増幅させるための配列番号10に示す塩基配列からなるフォワードプライマーと配列番号11に示す塩基配列からなるリバースプライマーとからなるプライマーセットと、βチューブリン遺伝子を増幅させるための配列番号12に示す塩基配列からなるフォワードプライマーと配列番号13に示す塩基配列からなるリバースプライマーとからなるプライマーセットが含まれるものを使用したが、使用したプローブに対応する増幅対象領域は、ITS領域のみである。これらのプライマーは、シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社により合成した。
【0044】
PCR用反応液としては、Ampdirect(R)(株式会社島津製作所製)を使用し、菌株毎に、次の組成のものを20μl作成した。
1.Ampdirect(G/Crich) 4.0μl
2.Ampdirect(addition-4) 4.0μl
3.dNTPmix 1.0μl
4.Cy-5dCTP 0.2μl
5.ITS領域フォワードプライマー(2.5μM) 1.0μl
6.ITS領域リバースプライマー(2.5μM) 1.0μl
7.βチューブリン遺伝子フォワードプライマー(10μM) 1.0μl
8.βチューブリン遺伝子リバースプライマー(10μM) 1.0μl
9.NovaTaq HotStart DNA polymerase 0.2μl
10.Template DNA 4.0μl
11.水(全体が20.0μlになるまで加水)
【0045】
上記各PCR用反応液を使用して、核酸増幅装置(TaKaRa PCR Thermal Cycler Dice(R) Gradient タカラバイオ株式会社製)により、次の条件でDNAの増幅を行った。
(a)95℃ 10分
(b)95℃ 30秒
(c)56℃ 30秒
(d)72℃ 60秒((b)~(d)を40サイクル)
(e)72℃ 10分
【0046】
次に、PCR増幅産物に緩衝液(3×SSCクエン酸-生理食塩水+0.3%SDS)を混合して、94℃で5分間加温し、上記の微生物密度推定用マイクロアレイに滴下した。このマイクロアレイを45℃で1時間静置し、上記の緩衝液を用いてハイブリダイズしなかったPCR産物を洗い流した。
そして、標識検出装置(BIOSHOT(R),東洋鋼鈑株式会社製)を用いて、微生物密度推定用マイクロアレイに配置された各プローブにおける蛍光強度(プローブに結合した増幅産物の蛍光強度)を測定して、各プローブにおけるS/N比値((メディアン蛍光強度値-バックグラウンド値)÷バックグラウンド値)を取得した。その結果を図4に示す。
【0047】
なお、微生物密度推定用マイクロアレイには、各プローブをスポッティングしたスポットを1個ずつ配置した。そして、上記操作を3反復行うことで取得した各スポットにおけるSN比値の平均値を図4におけるSN比値とした。以下においても同様である。なお、SN比値の判定方法として、各スポットにおける平均値を用いることなく、3反復全てのSN比値が3以上の場合に陽性とすることも可能である。
【0048】
図4を参照すると、低感度プローブと高感度プローブにおけるSN比値が、両方ともに陽性(3以上)となっているのは、試料3であり、これは図1におけるパターン(1)に相当する。
したがって、低感度プローブと高感度プローブが、当該パターンを示す場合、試料中におけるフザリウム・オキシスポラムの密度は、微生物密度(α)に対応する18000(個/g乾土)以上であると推定される。
【0049】
また、低感度プローブにおけるSN比値が陰性(3未満)であり、高感度プローブにおけるSN比値が陽性となっているのは、試料4であり、これは図1におけるパターン(2)に相当する。
したがって、低感度プローブと高感度プローブが、当該パターンを示す場合、試料中におけるフザリウム・オキシスポラムの密度は、微生物密度(β)に対応する1800(個/g乾土)以上、18000(個/g乾土)未満であると推定される。
【0050】
さらに、低感度プローブと高感度プローブにおけるSN比値が、両方ともに陰性となっているのは、試料5であり、これは図1におけるパターン(3)に相当する。
したがって、低感度プローブと高感度プローブが、当該パターンを示す場合、試料中におけるフザリウム・オキシスポラムの密度は、1800(個/g乾土)未満であると推定される。
【0051】
ここで、現実の各種環境下からサンプルを採取して、微生物密度を推定する場合、各試料における微生物密度は不明である。
そして、本実施形態の微生物密度の推定方法により、低感度プローブと高感度プローブにおけるSN比値にもとづき上記のパターンを判別することによって、同様に、その微生物密度が、18000(個/g乾土)以上であるのか、1800(個/g乾土)以上、18000(個/g乾土)未満であるのか、又は、1800(個/g乾土)未満であるのかということを大凡把握することが可能になっている。これは、以下の実験においても同様である。
【0052】
また、図4において、仮に、高感度プローブ2における試料5のSN比値が3以上であった場合、微生物密度の推定パターン(2)及び(3)において、最小の微生物密度(β)(この場合、180(個/g乾土))が用いられる。
すなわち、この場合、低感度プローブとこの高感度プローブ2が微生物密度の推定に使用されて、微生物密度が、18000(個/g乾土)以上であるのか、180(個/g乾土)以上、18000(個/g乾土)未満であるのか、又は、180(個/g乾土)未満であるのかということを判定することが可能である。
【0053】
なお、本実験では、微生物密度(α)として18000(個/g乾土)を用い、微生物密度(β)として1800(個/g乾土)を用いたが、例えば、横軸を微生物密度、縦軸をSN比値として、低感度プローブ及び高感度プローブにおけるSN比値の実測データをプロットして、それぞれのグラフを作成し、低感度プローブのグラフとSN比値=3との交点を微生物密度(α)、高感度プローブのグラフとSN比値=3との交点を微生物密度(β)として算出して決定することもできる。
微生物密度(α)及び微生物密度(β)をこのように決定すれば、微生物密度の推定精度をより向上させることが可能となる。
【0054】
[実験2]
実験2では、実験1と同じ微生物密度推定用マイクロアレイにおける、アルタナリア・アルタナータを検出するための配列番号4~6に示す塩基配列からなるプローブを微生物密度の推定に使用した。
すなわち、配列番号4に示す塩基配列からなるプローブは、アルタナリア・アルタナータの密度を推定するための低感度プローブであり、配列番号5に示す塩基配列からなるプローブと配列番号6に示す塩基配列からなるプローブは、アルタナリア・アルタナータの密度を推定するための高感度プローブである。
【0055】
また、アルタナリア・アルタナータを、実験1と同様に培養して胞子を形成させ、10倍段階希釈系列胞子液を作成した。また、得られた胞子液を土壌と混和させて土壌サンプルを作成し、土壌サンプルを用いてDNAの抽出を行った。
次に、得られた精製DNAを用いて、実験1と同様に、PCR法により、当該カビのITS領域を増幅した。
そして、PCR増幅産物と、上記の微生物密度推定用マイクロアレイを使用して、実験1と同様に各プローブにおけるS/N比値を取得した。その結果を図5に示す。
【0056】
図5を参照すると、低感度プローブと高感度プローブにおけるSN比値が、両方ともに陽性となっているのは、試料6であり、これは図1におけるパターン(1)に相当する。
したがって、低感度プローブと高感度プローブが、当該パターンを示す場合、試料中におけるアルタナリア・アルタナータの密度は、微生物密度(α)に対応する1500000(個/g乾土)以上であると推定される。
【0057】
また、低感度プローブにおけるSN比値が陰性であり、高感度プローブにおけるSN比値が陽性となっているのは、試料7であり、これは図1におけるパターン(2)に相当する。
したがって、低感度プローブと高感度プローブが、当該パターンを示す場合、試料中におけるアルタナリア・アルタナータの密度は、微生物密度(β)に対応する150000(個/g乾土)以上、1500000(個/g乾土)未満であると推定される。
【0058】
さらに、低感度プローブと高感度プローブにおけるSN比値が、両方ともに陰性となっているのは、試料8であり、これは図1におけるパターン(3)に相当する。
したがって、低感度プローブと高感度プローブが、当該パターンを示す場合、試料中におけるアルタナリア・アルタナータの密度は、150000(個/g乾土)未満であると推定される。
【0059】
[実験3]
実験3では、実験1と同じ微生物密度推定用マイクロアレイにおける、バーティシリウム・ダーリエを検出するための配列番号7~9に示す塩基配列からなるプローブを微生物密度の推定に使用した。
すなわち、配列番号7に示す塩基配列からなるプローブは、バーティシリウム・ダーリエの密度を推定するための低感度プローブであり、配列番号8に示す塩基配列からなるプローブと配列番号9に示す塩基配列からなるプローブは、バーティシリウム・ダーリエの密度を推定するための高感度プローブである。
【0060】
また、バーティシリウム・ダーリエを、実験1と同様にして培養して胞子を形成させ、10倍段階希釈系列胞子液を作成した。また、得られた胞子液を土壌と混和させて土壌サンプルを作成し、土壌サンプルを用いてDNAの抽出を行った。
次に、得られた精製DNAを用いて、実験1と同様に、PCR法により、当該カビのITS領域を増幅した。
そして、PCR増幅産物と、上記の微生物密度推定用マイクロアレイを使用して、実験1と同様に各プローブにおけるS/N比値を取得した。その結果を図6に示す。
【0061】
図6を参照すると、低感度プローブと高感度プローブにおけるSN比値が、両方ともに陽性となっているのは、試料13であり、これは図1におけるパターン(1)に相当する。
したがって、低感度プローブと高感度プローブが、当該パターンを示す場合、試料中におけるバーティシリウム・ダーリエの密度は、微生物密度(α)に対応する75000(個/g乾土)以上であると推定される。
【0062】
また、低感度プローブにおけるSN比値が陰性であり、高感度プローブにおけるSN比値が陽性となっているのは、試料14であり、これは図1におけるパターン(2)に相当する。
したがって、低感度プローブと高感度プローブが、当該パターンを示す場合、試料中におけるバーティシリウム・ダーリエの密度は、微生物密度(β)に対応する7500(個/g乾土)以上、75000(個/g乾土)未満であると推定される。
【0063】
さらに、低感度プローブと高感度プローブにおけるSN比値が、両方ともに陰性となっているのは、試料15であり、これは図1におけるパターン(3)に相当する。
したがって、低感度プローブと高感度プローブが、当該パターンを示す場合、試料中におけるバーティシリウム・ダーリエの密度は、7500(個/g乾土)未満であると推定される。
【0064】
本発明は、以上の実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、本実施形態の微生物密度の推定方法で使用するオリゴヌクレオチドプローブは、実施例に示したもののみならず、その他のプローブを用いても良く、適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、環境検査、食品検査、疫学的環境検査、臨床試験、家畜衛生、植物病害診断等において、環境中に存在する微生物の密度の大凡の範囲を簡易に推定する場合に好適に利用することが可能である。
【0066】
この明細書に記載の文献及び本願のパリ優先の基礎となる日本出願明細書の内容を全てここに援用する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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