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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】細胞培養膜、及び生体組織の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20230615BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20230615BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12N5/071
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021207731
(22)【出願日】2021-12-22
【審査請求日】2023-03-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154184
【弁理士】
【氏名又は名称】生富 成一
(74)【代理人】
【識別番号】100105795
【弁理士】
【氏名又は名称】名塚 聡
(72)【発明者】
【氏名】大槻 梓
(72)【発明者】
【氏名】國則 正弘
(72)【発明者】
【氏名】市川 健太郎
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-115262(JP,A)
【文献】特表2017-504320(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0230415(US,A1)
【文献】特開2008-263863(JP,A)
【文献】特開2020-28305(JP,A)
【文献】繊維学会誌,2015年,71巻,10号,pp.297-301
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
C12N 1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の培養領域を両面に備えた細胞培養膜であって、重量平均分子量が190,000~400,000のメチルセルロースを主成分とし、溶解温度調整剤を含有することを特徴とする細胞培養膜。
【請求項2】
前記溶解温度調整剤が、スチレンスルホン酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、又はトルエンスルホン酸ナトリウムの少なくともいずれかであることを特徴とする請求項記載の細胞培養膜。
【請求項3】
難溶解性材料が付加されたことを特徴とする請求項1又は2記載の細胞培養膜。
【請求項4】
前記難溶解性材料が、ポリエチレンテレフタレート、ガラス繊維、セルロースエステル、ポリフッ化ビニリデン、又はポリカーボネートの少なくともいずれかであることを特徴とする請求項記載の細胞培養膜。
【請求項5】
前記難溶解性材料が、ポリスチレン、シクロオレフィンポリマー、又はシクロオレフィンコポリマーの少なくともいずれかであることを特徴とする請求項記載の細胞培養膜。
【請求項6】
当該細胞培養膜の少なくとも一方の表面に細胞の足場材料を備えることを特徴とする請求項記載の細胞培養膜。
【請求項7】
前記足場材料が、コラーゲン、マトリゲル、フィブロネクチン、ラミニン、キトサン、又はシルクの少なくともいずれかであることを特徴とする請求項記載の細胞培養膜。
【請求項8】
当該細胞培養膜の少なくとも一方の表面が表面処理されてなることを特徴とする請求項記載の細胞培養膜。
【請求項9】
接着性細胞を含有することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の細胞培養膜。
【請求項10】
複数の細胞層を有する生体組織の製造方法であって、
細胞の培養領域を両面に備え、細胞が培養された後に複数の細胞層の間に配置される、重量平均分子量が20,000~190,000のメチルセルロースを主成分とする細胞培養膜と、前記細胞培養膜によって区分けされた2つの培養空間とを備えた生体組織形成装置における前記2つの培養空間に細胞及び培養液を供給する工程と、
前記2つの培養空間において前記細胞を培養し、前記細胞培養膜の両面に細胞層を形成する工程と、
前記細胞培養膜におけるメチルセルロースを15℃以下で溶解させる工程と、を有する
ことを特徴とする生体組織の製造方法。
【請求項11】
複数の細胞層を有する生体組織の製造方法であって、
細胞の培養領域を両面に備え、細胞が培養された後に複数の細胞層の間に配置される、重量平均分子量が190,000~400,000のメチルセルロースを主成分とし、溶解温度調整剤を含有する細胞培養膜と、前記細胞培養膜によって区分けされた2つの培養空間とを備えた生体組織形成装置における前記2つの培養空間に細胞及び培養液を供給する工程と、
前記2つの培養空間において前記細胞を培養し、前記細胞培養膜の両面に細胞層を形成する工程と、
前記細胞培養膜におけるメチルセルロースを20℃以下で溶解させる工程と、を有する
ことを特徴とする生体組織の製造方法。
【請求項12】
前記溶解させる工程を、10分以下で行うことを特徴とする請求項10又は11記載の生体組織の製造方法。
【請求項13】
前記細胞培養膜に難溶解性材料を付加し、メチルセルロースの溶解後、当該難溶解性材料に細胞層を支持させることを特徴とする請求項10~12のいずれかに記載の生体組織の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の細胞層を形成するために用いる細胞培養膜と、これを用いた生体組織の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生体組織を製造するにあたって、細胞培養膜の両面を培養領域として用いて細胞培養を行うことにより、複数の細胞層を備える生体組織を得ることの可能な両面培養が行われている。両面培養は、それぞれ異なる種類の細胞からなる複数の細胞層を形成させることができるため、異種細胞間の相互作用の解析などにおいて有用なものとなっている。
【0003】
例えば、臓器チップなどを用いて、両面培養を行うことができる。臓器チップは、2枚の基板と細胞培養膜を積層して構成され、基板にそれぞれ流路(マイクロ流路)が形成され、細胞培養膜によって各流路が隔てられて、各流路において同一の細胞や異なる細胞を培養できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2017-504320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、細胞培養膜として樹脂製の半透膜が広く使用されているところ、細胞層の形成によって次第に半透膜の孔が塞がれてしまい、細胞培養膜を介する液性成分の透過性が低下する結果、上記の相互作用の解析などに適切に使用できなくなるという問題があった。
一方、孔径の大きい(例えば10μm以上)細胞培養膜を使用すると、細胞の播種時に細胞が細胞培養膜を通過してしまい、細胞培養膜の両側に細胞層を適切に形成できないという問題があった。
【0006】
また、細胞培養膜に形成された細胞層を細胞培養膜から分離して取り出すことが難しいという問題もあった。
例えば、トリプシンなどの酵素を用いて酵素処理を行うと、細胞がバラバラになり、
細胞層として細胞培養膜から分離することができなかった。
一方、ポリ N-イソプロピルアクリルアミド(pNIPAM)からなる細胞培養膜に細胞層を形成させ、これを溶解させることによって酵素処理を行うことなく細胞培養膜から細胞層を分離することは可能である。しかしながら、pNIPAMの溶解には、モノマーの毒性が懸念されるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明者らは鋭意研究して、上記問題を解消可能な細胞培養膜を開発することに成功した。具体的には、メチルセルロースを主成分とし、細胞培養膜に細胞層が形成された後に、低温化させることでメチルセルロースを溶解させ、これによって細胞層間における液性成分の透過が妨げられない細胞培養膜を得ることができた。また、この細胞培養膜によれば、細胞培養膜から細胞層を分離する場合に、毒性が生じる虞がなくなった。
【0008】
ところで、メチルセルロースの溶解には、通常1時間以上もの時間がかかるという問題があった。しかしながら、形成された細胞層を異種細胞間の相互作用の解析などで使用する場合においては、メチルセルロースの溶解はできるだけ迅速に行われることが望ましく、10分以下で行われることが望ましい。低温環境に長時間置いておくほど細胞へのダメージが大きくなるためである。
【0009】
そこで、本発明者らはさらに研究して、10分以下で溶解可能なメチルセルロースの重量平均分子量と温度範囲を特定すると共に、それ以上の重量平均分子量のメチルセルロースについて、細胞培養膜に溶解温度調整剤を含有させ、10分以下で溶解可能なメチルセルロースの重量平均分子量と温度範囲を特定することにも成功した。
【0010】
ここで、特許文献1において、低剪断マイクロ流体デバイスに経時的に溶解する生体適合性素材を細胞培養膜として用いることが記載されている。
しかしながら、このように細胞培養膜が経時的に溶解することによっては、細胞層を異種細胞間の相互作用の解析などにおいて適切に使用することはできず、また細胞培養膜から細胞層を分離するために用いることもできない。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、細胞培養膜の両側に細胞層を形成させた後、当該細胞培養膜を容易に分解させることの可能な細胞培養膜、及びこれを用いた生体組織の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の細胞培養膜は、細胞の培養領域を両面に備えた細胞培養膜であって、重量平均分子量が20,000~190,000のメチルセルロースを主成分とする構成としてある。
また、本発明の細胞培養膜は、細胞の培養領域を両面に備えた細胞培養膜であって、重量平均分子量が190,000~400,000のメチルセルロースを主成分とし、溶解温度調整剤を含有する構成としてある。
【0013】
また、本発明の細胞培養膜を、前記溶解温度調整剤が、スチレンスルホン酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、又はトルエンスルホン酸ナトリウムの少なくともいずれかである構成とすることが好ましい。
また、本発明の細胞培養膜を、前記難溶解性材料が、ポリエチレンテレフタレート、ガラス繊維、セルロースエステル、ポリフッ化ビニリデン、又はポリカーボネートの少なくともいずれかである構成とすることが好ましい。
【0014】
また、本発明の細胞培養膜を、前記難溶解性材料が、ポリスチレン、シクロオレフィンポリマー、又はシクロオレフィンコポリマーの少なくともいずれかである構成とすることが好ましい。
また、当該細胞培養膜の少なくとも一方の表面に細胞の足場材料を備える構成とすることがより好ましく、前記足場材料が、コラーゲン、マトリゲル、フィブロネクチン、ラミニン、キトサン、又はシルクの少なくともいずれかである構成とすることがさらに好ましい。
【0015】
また、当該細胞培養膜の少なくとも一方の表面が表面処理されてなる構成とすることがより好ましい。
また、本発明の細胞培養膜を、接着性細胞を含有する構成とすることも好ましい。
【0016】
また、本発明の生体組織の製造方法は、複数の細胞層を有する生体組織の製造方法であって、細胞の培養領域を両面に備え、細胞が培養された後に複数の細胞層の間に配置される、重量平均分子量が20,000~190,000のメチルセルロースを主成分とする細胞培養膜と、前記細胞培養膜によって区分けされた2つの培養空間とを備えた生体組織形成装置における前記2つの培養空間に細胞及び培養液を供給する工程と、前記2つの培養空間において前記細胞を培養し、前記細胞培養膜の両面に細胞層を形成する工程と、前記細胞培養膜におけるメチルセルロースを15℃以下で溶解させる工程とを有する方法としてある。
【0017】
また、本発明の生体組織の製造方法は、複数の細胞層を有する生体組織の製造方法であって、細胞の培養領域を両面に備え、細胞が培養された後に複数の細胞層の間に配置される、重量平均分子量が190,000~400,000のメチルセルロースを主成分とし、溶解温度調整剤を含有する細胞培養膜と、前記細胞培養膜によって区分けされた2つの培養空間とを備えた生体組織形成装置における前記2つの培養空間に細胞及び培養液を供給する工程と、前記2つの培養空間において前記細胞を培養し、前記細胞培養膜の両面に細胞層を形成する工程と、前記細胞培養膜におけるメチルセルロースを20℃以下で溶解させる工程とを有する方法としてある。
【0018】
また、本発明の生体組織の製造方法を、前記溶解させる工程を10分以下で行う方法とすることが好ましい。
また、本発明の生体組織の製造方法を、前記細胞培養膜に難溶解性材料を付加し、メチルセルロースの溶解後、当該難溶解性材料に細胞層を支持させる方法とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、細胞培養膜の両側に細胞層を形成させた後、当該細胞培養膜を容易に分解させることの可能な細胞培養膜、及びこれを用いた生体組織の製造方法の提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第一実施形態及び第二実施形態に係る細胞培養膜による細胞層の形成工程を示す模式図である。
図2】本発明の第三実施形態に係る細胞培養膜による細胞層の形成工程を示す模式図である。
図3】本発明の第三実施形態に係る細胞培養膜の作製工程(第一の方法)を示す模式図である。
図4】本発明の第三実施形態に係る細胞培養膜の作製工程(第二の方法)を示す模式図である。
図5】本発明の各実施形態に係る細胞培養膜を使用可能なマイクロ流体デバイスの構成部材を示す模式図である。
図6】本発明の各実施形態に係る細胞培養膜を使用可能なマイクロ流体デバイスの構成を示す模式図である。
図7】本発明の各実施形態に係る細胞培養膜を使用可能なマイクロ流体デバイスの部分断面を示す模式図である。
図8】本発明の第一実施形態及び第二実施形態に係る細胞培養膜の溶解条件を確認するために行った実験1の結果を示す図である。
図9】本発明の第一実施形態及び第二実施形態に係る細胞培養膜の溶解条件を確認するために行った実験2の結果を示す図である。
図10】本発明の第一実施形態及び第二実施形態に係る細胞培養膜の溶解条件を確認するために行った実験3の結果を示す図である。
図11】従来の細胞培養膜による細胞層の形成工程を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の細胞培養膜、及び生体組織の製造方法の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態及び実施例の具体的な内容に限定されるものではない。
【0022】
[第一実施形態]
まず、本発明の第一実施形態に係る細胞培養膜について説明する。
本実施形態の細胞培養膜は、温度応答性の細胞培養基材であり、一定の温度以下に所定の時間保つことによって、溶解させることが可能なものである。
【0023】
具体的には、本実施形態の細胞培養膜は、細胞の培養領域を両面に備えた細胞培養膜であって、重量平均分子量(Mw)が20,000~190,000のメチルセルロースを主成分とすることを特徴とする。
本実施形態の細胞培養膜は、フィルム状に形成され、その両面が、細胞の培養領域(培養部)として使用される。
【0024】
メチルセルロースは、生体適合性に優れる材料であり、60℃以上でゲル化し、30℃以下で溶解する性質を有している。また、メチルセルロースは、その水溶液を乾燥させることによって、容易にフィルム状に形成することができる。
本実施形態の細胞培養膜におけるメチルセルロースの重量平均分子量は、20,000~190,000としてある。
このような重量平均分子量のメチルセルロースを主成分とすることによって、本実施形態の細胞培養膜は、15℃、又はそれ以下の温度にすることによって、10分間程度の短時間で容易に溶解させることが可能となっている。
【0025】
すなわち、細胞は低温環境に長時間置いておくほどダメージが大きくなるため、できるだけ低くない温度で短時間にメチルセルロースを溶解させることが望ましい。
このため、本実施形態の細胞培養膜は、0℃~15℃で溶解させることが好ましく、5℃~15℃で溶解させることがより好ましく、10℃~15℃で溶解させることがさらに好ましい。
【0026】
また、本実施形態の細胞培養膜を用いて培養する細胞としては、例えば人工多能性幹細胞(iPS細胞など)や胚性幹細胞(ES細胞)等を用いることができる。
【0027】
ここで、図11に示すように、細胞の培養領域を両面に備えた従来の細胞培養膜100としては、一般的にポリエステル等の半透膜が用いられ、この半透膜を介して2つの培養空間200,200’の間で細胞間相互作用や液性成分の交換が行われていた。
すなわち、従来は、培養空間200に培養液を充填して半透膜の一方の表面上で細胞300を培養すると共に、培養空間200’に培養液を充填して半透膜の他方の表面上で細胞300’を培養して、2つの細胞層を形成していた。
【0028】
ところが、本実施形態において培養する細胞のサイズは、一般的に8~10μmであるのに対し、半透膜の孔径は3μm程度であるため、従来は、細胞層間における細胞同士の接触が妨げられ、細胞層間の相互作用が低下するという問題や、細胞が増殖するに従って、半透膜の孔が塞がるため、液性成分の交換効率が低くなるという問題があった。
一方、孔径が10μm以上の細胞培養膜を使用すると、播種時に細胞が通過してしまうため、細胞培養膜に2つの細胞層を適切に形成することができなかった。
【0029】
これに対して、図1に示すように、本実施形態の細胞培養膜10は、培養空間20に培養液を充填して細胞培養膜10の一方の表面上で細胞30を培養すると共に、培養空間20’に培養液を充填して細胞培養膜10の他方の表面上で細胞30’を培養して、2つの細胞層を形成することができる。
そして、2つの細胞層が形成された後、細胞培養膜10を溶解することで細胞層間において細胞同士が接触でき、細胞層間の相互作用が低下するという問題を解消することができ、2つの細胞層間の液性成分の交換効率が低くなるという問題も解消できるようになっている。次の第二実施形態の細胞培養膜を用いる場合も同様の効果を得ることが可能である。
【0030】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態の細胞培養膜について説明する。
本実施形態の細胞培養膜は、温度応答性の細胞培養基材であり、比較的大きい重量平均分子量のメチルセルロースを主成分とし、一定の温度以下に所定の時間保つことによって、溶解させることが可能なものである。
【0031】
具体的には、本実施形態の細胞培養膜は、細胞の培養領域を両面に備えた細胞培養膜であって、重量平均分子量(Mw)が190,000~400,000のメチルセルロースを主成分とし、溶解温度調整剤を含有することを特徴とする。また、重量平均分子量が190,000~500,000のメチルセルロースを主成分とすることもでき、重量平均分子量が190,000~390,000のメチルセルロースを主成分とすることがより好ましく、重量平均分子量が190,000~330,000のメチルセルロースを主成分とすることがさらに好ましい。
溶解温度調整剤としては、スチレンスルホン酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、又はトルエンスルホン酸ナトリウムの少なくともいずれかを用いることが好ましい。
【0032】
本実施形態では、メチルセルロースの重量平均分子量を190,000~400,000とし、かつ、溶解温度調整剤を含有することによって、20℃、又はそれ以下の温度にすることによって、10分間程度の短時間で容易に溶解させることが可能となっている。
また、本実施形態の細胞培養膜は、0℃~20℃で溶解させることが好ましく、5℃~20℃で溶解させることがより好ましく、10℃~20℃で溶解させることがさらに好ましく、15℃~20℃で溶解させることが特に好ましい。低温環境による細胞へのダメージをできるだけ抑止するためである。
【0033】
ここで、上述のように、メチルセルロースは30℃以下で溶解する性質を有しているが、重量平均分子量が大きくなるほど、溶解させるために長時間低温に保つことが必要であった。しかしながら、低温環境に長時間置いておくほど細胞へのダメージが大きくなるため、降温後のメチルセルロースの溶解はできるだけ早急に完了させることが望ましく、10分以下であれば、細胞へのダメージを抑止できるための好ましい。
【0034】
そこで、本発明者らは後述する実施例に示すように、様々な重量平均分子量のメチルセルロースのサンプルを使用して、10分間で溶解可能な重量平均分子量、及び溶解条件について検討した。
そして、メチルセルロースの重量平均分子量が20,000~190,000の範囲である場合は、15℃に降温することで10分以下で細胞培養膜を溶解できることが分かった。
【0035】
一方、メチルセルロースの重量平均分子量が190,000~400,000の範囲である場合は、15℃に降温して10分間保持しても、細胞培養膜を溶解できなかった。
しかしながら、細胞培養膜に溶解温度調整剤を含有させることによって、20℃に降温することで10分以下で細胞培養膜を溶解できることが分かった。
【0036】
このように本実施形態の細胞培養膜によれば、比較的大きい重量平均分子量のメチルセルロースを主成分とした場合でも、細胞培養膜に溶解温度調整剤を含有させることで、10分以下で溶解させることが可能である。
また、本実施形態の細胞培養膜は、20℃という第一実施形態よりも高い温度で細胞培養膜を溶解することができるため、形成された細胞層における細胞にダメージを与える虞をより低減させることが可能となっている。
【0037】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態の細胞培養膜について説明する。
本実施形態の細胞培養膜は、第一実施形態の細胞培養膜、又は第二実施形態の細胞培養膜に難溶解性材料が付加されたことを特徴とする。その他の点は、各実施形態とそれぞれ同様である。
【0038】
難溶解性材料としては、細胞接着性のあるもの、又は、細胞接着性のないものを用いることができる。
細胞接着性のある難溶解性材料としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ガラス繊維、セルロースエステル、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリカーボネート等を好適に用いることができる。
細胞接着性のない難溶解性材料としては、ポリスチレン、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)等を好適に用いることができる。
【0039】
難溶解性材料として細胞接着性のないものを用いる場合は、表面に細胞を好適に接着させるために、細胞の足場材料を設けることが好ましい。
すなわち、細胞培養膜の表面に細胞の足場材料を付加した後、細胞を接着させて培養を行うことが好ましい。
細胞の足場材料としては、例えばコラーゲン、マトリゲル、フィブロネクチン、ラミニン、キトサン、シルク等を好適に用いることができ、またこれらの2つ以上の材料を併せて使用することもできる。
【0040】
細胞培養膜の表面に細胞足場材料を付加する方法としては、表面にコーティングする方法、難溶解性材料と細胞足場材料を混合する方法、カップリング剤などの試薬を用いて難溶解性材料に細胞足場材料を化学結合させる方法、又はコラーゲンやキトサンを予めファイバー状に加工したものを細胞培養膜の表面に貼り付ける方法等を挙げることができる。
【0041】
また、難溶解性材料として細胞接着性のないものを用いる場合に、細胞培養膜の少なくとも一方の表面に表面処理を行うことも好ましい。表面処理としては、コロナ処理、エキシマ処理、又はプラズマ処理等を行うことが好ましい。
このような表面処理を行うことで、細胞培養膜の表面の親水性を向上させることができ、細胞の細胞培養膜の表面への接着性を向上させることができる。
【0042】
図2に示すように、本実施形態の細胞培養膜11は、培養空間21に培養液を充填して細胞培養膜11の一方の表面上で細胞31を培養すると共に、培養空間21’に培養液を充填して細胞培養膜11の他方の表面上で細胞31’を培養して、2つの細胞層を形成することができる。
そして、細胞層が形成された後にメチルセルロース111を溶解させることによって、細胞培養膜11における難溶解性材料112のみが細胞層の支持体として残存するようになっている。これによって、細胞培養膜11を貫通する孔が形成される。
【0043】
すなわち、メチルセルロース111の溶解後、難溶解性材料112は、細胞層の支持体とされる。
また、メチルセルロース111の溶解後の難溶解性材料からなる多孔膜の孔径としては、直径10ミクロン以上であることが好ましい。該孔径をこのようにすれば、2つの細胞層間における細胞間相互作用や液性成分の交換を高効率にさせることができる。
【0044】
このように、本実施形態の細胞培養膜11によれば、細胞層の形成後にメチルセルロース111を溶解させることで、複数の細胞層の間において細胞間相互作用や液性成分の透過を好適に行わせることが可能である。
また、細胞培養膜11における難溶解性材料112を複数の細胞層の間に残存させることができ、難溶解性材料112を支持体として細胞層を壊れ難くすることが可能である。
【0045】
本実施形態の細胞培養膜11は、例えば以下の2通りの方法で作製することができる。
まず、第一の方法では、図3(A)に示すように、基材40a上に難溶解性材料112aからなる支持体を作製する。次に、この難溶解性材料112aにメチルセルロース111aを塗布することによって、基材40a上に難溶解性材料112aを備えた細胞培養膜11aを形成させることができる。図3(B)に得られた細胞培養膜11aの断面を示す。
【0046】
このような細胞培養膜11aの両面に細胞層を形成させて、メチルセルロース111aを溶解させると、2つの細胞層は、難溶解性材料112aによって支持されると共に、メチルセルロース111aの溶解によって生じる孔を介して細胞間相互作用や液性成分の交換を行うことが可能になっている。
【0047】
次に、第二の方法では、図4(A)に示すように、基材40b上に難溶解性材料112bからなる支持体を作製する。また、これとは別個にメチルセルロース111bからなる膜を作製する。そして、難溶解性材料112bからなる支持体を基材40bから取り外し、メチルセルロース111bからなる膜に積層させることによって、難溶解性材料112bを備えた細胞培養膜11bを形成させることができる。図4(B)に得られた細胞培養膜11bの断面を示す。
【0048】
このような細胞培養膜11bの両面に細胞層を形成させて、メチルセルロース111bを溶解させると、細胞培養膜11bの上側に形成された細胞層が難溶解性材料112bによって支持され、細胞培養膜11bの下側に形成された細胞層は難溶解性材料112bによって支持されない形態にすることができる。
【0049】
このような細胞培養膜11bによれば、メチルセルロース111bの溶解によって2つの細胞層間における細胞間相互作用や液性成分の交換をより効率的に行うことが可能である。
また、最初に細胞培養膜11bの上側にのみ細胞層を形成させた後にメチルセルロース111bを溶解させ、次いで細胞培養膜11bの下側に細胞層を形成させるといった使用方法を行うことも可能である。
【0050】
なお、上述した各実施形態の細胞培養膜を、接着性細胞を含有して形成されたものとすることも好ましい。このとき、接着性細胞を細胞培養膜の表面に固定して有する構成としてもよく、接着性細胞を細胞培養膜に内包させて有する構成としてもよい。
細胞培養膜をこのような構成にすれば、次に説明する生体組織の製造方法において、培養空間への細胞の供給を省略することができる。
【0051】
[生体組織の製造方法]
本発明の実施形態に係る生体組織の製造方法は、複数の細胞層を有する生体組織の製造方法であって、以下の工程を有することを特徴とする。
(A1)細胞の培養領域を両面に備え、細胞が培養された後に複数の細胞層の間に配置される、重量平均分子量が20,000~190,000のメチルセルロースを主成分とする細胞培養膜と、細胞培養膜によって区分けされた2つの培養空間とを備えた生体組織形成装置における2つの培養空間に細胞及び培養液を供給する工程
(A2)2つの培養空間において細胞を培養し、細胞培養膜の両面に細胞層を形成する工程
(A3)細胞培養膜におけるメチルセルロースを15℃以下で溶解させる工程
【0052】
また、本実施形態に係る生体組織の製造方法を、以下の工程を有するものとすることも好ましい。
(B1)細胞の培養領域を両面に備え、細胞が培養された後に複数の細胞層の間に配置される、重量平均分子量が190,000~400,000のメチルセルロースを主成分とし、溶解温度調整剤を含有する細胞培養膜と、細胞培養膜によって区分けされた2つの培養空間とを備えた生体組織形成装置における2つの培養空間に細胞及び培養液を供給する工程
(B2)2つの培養空間において細胞を培養し、細胞培養膜の両面に細胞層を形成する工程
(B3)細胞培養膜におけるメチルセルロースを20℃以下で溶解させる工程
【0053】
さらに、本実施形態に係る生体組織の製造方法を、以下の構成を有するものとすることも好ましい。
すなわち、(A3)及び(B3)の溶解させる工程を、それぞれ10分以下で行う方法とすることが好ましい。
また、細胞培養膜に難溶解性材料を付加し、メチルセルロースの溶解後、当該難溶解性材料に細胞層を支持させる方法とすることが好ましい。
【0054】
本実施形態の生体組織の製造方法において使用する細胞培養膜としては、上述した実施形態における細胞培養膜のいずれかを用いることができる。また、培養する細胞も上述した実施形態におけるものと同様のものを用いることができる。
【0055】
本実施形態の生体組織の製造方法の(A3)の工程において、メチルセルロースを0℃~15℃で溶解させることが好ましく、5℃~15℃で溶解させることがより好ましく、10℃~15℃で溶解させることがさらに好ましい。
細胞は低温環境に長時間置いておくほどダメージが大きくなるため、できるだけ低くない温度で短時間にメチルセルロースを溶解させることが望ましいからである。
【0056】
また、同様の理由から、本実施形態の生体組織の製造方法の(B3)の工程において、メチルセルロースを0℃~20℃で溶解させることが好ましく、5℃~20℃で溶解させることがより好ましく、10℃~20℃で溶解させることがさらに好ましく、15℃~20℃で溶解させることが特に好ましい。
【0057】
また、本実施形態の生体組織の製造方法において、生体組織形成装置としては、例えば臓器チップやマイクロ流体デバイスなどを好適に用いることができる。
ただし、本実施形態の生体組織の製造方法は、これらのデバイスを用いる場合に限定されるものではなく、上記各実施形態の細胞培養膜を当該方法に使用するその他全ての装置を用いる場合が含まれる。
【0058】
本実施形態の生体組織の製造方法において、生体組織形成装置としてマイクロ流体デバイスを用いる場合は、例えば図5図7に示すものを用いることができる。図7は、図6に示す本実施形態のマイクロ流体デバイス50の長軸方向中央を垂直方向に切断した断面中央の部分断面を示している。
【0059】
具体的には、上記各実施形態の細胞培養膜を使用可能なマイクロ流体デバイス50は、上部基板51と細胞培養膜10(又は細胞培養膜11)と下部基板52を積層して構成することができる。
上部基板51は流路511を備え、下部基板52は流路521を備えており、これらの流路が細胞培養膜10によって隔てられている。
上部基板51と細胞培養膜10、及び下部基板52と細胞培養膜10は、それぞれ接着シート53によって接着されている。また、接着シート53における流路511,521に対応する位置にも流路531が備えられている。
【0060】
本実施形態のマイクロ流体デバイス50は、上部基板51、細胞培養膜10、及びこれらを接着する接着シート53のそれぞれにおいて、流路511,521に送液を行うための送液孔を備えており、これらの送液孔を介して培地や試薬などを送液することが可能になっている。
【0061】
上記各実施形態の細胞培養膜をこのようなマイクロ流体デバイス50に用いることで、各種の生体組織を好適に製造することができ、例えば尿細管上皮細胞からなる組織と血管内皮細胞からなる組織を備えた近位尿細管モデルにおける生体組織や、糸球体モデル、小腸モデル、肝臓モデル、肺モデルにおける生体組織など様々な生体組織を製造することが可能である。
【0062】
以上説明したように、本実施形態の細胞培養膜、及び生体組織の製造方法によれば、細胞培養膜の両側に細胞層を形成させた後、当該細胞培養膜を容易に分解させることができる。このため、細胞層間における細胞間相互作用や液性成分の透過が妨げられることを防止することが可能である。
【0063】
また、本実施形態の細胞培養膜、及び生体組織の製造方法によれば、異なる範囲の重量平均分子量のメチルセルロースを含有する細胞培養膜について、いずれも10分以下の短時間で細胞培養膜を溶解させることができる。このため、形成された細胞層において、低温環境による細胞へのダメージを抑止することが可能である。
【実施例
【0064】
以下、本発明の実施形態に係る細胞培養膜の溶解条件を確認するために行った実験について説明する。
[実験1]
まず、様々な重量平均分子量のメチルセルロースを用いて、本実施形態の細胞培養膜に利用できる条件を確認するための実験を行った。
具体的には、メチルセルロースとして、粘度の異なる5種類のものを準備し、サンプル名をそれぞれMC-4(粘度η=3.2~4.8,信越化学工業株式会社製,MCE-4)、MC-400(粘度η=280~560,信越化学工業株式会社製,MCE-400)、MC-1500(粘度η=1000~1800,東京化成工業株式会社製,M0294)、MC-4000(粘度η=2800~5600,信越化学工業株式会社製,MCE-4000)、MC-10000(粘度η=7000~10000,東京化成工業株式会社製,M0295)とした。
【0065】
また、次の式を用いて、各サンプルの重量平均分子量Mwを粘度η(mPa・s)にもとづき算出した。
重量平均分子量Mw=40000×(Logη)+880×(Logη)4
その結果、MC-4の重量平均分子量は20,263~27,439であり、MC-400の重量平均分子量は129,446~160,123であり、MC-1500の重量平均分子量は191,280~229,028であり、MC-4000の重量平均分子量は262,145~323,615であり、MC-10000の重量平均分子量は346,163~385,280であった。
【0066】
なお、粘度η=4に対応する重量平均分子量は24,198、粘度η=400に対応する重量平均分子量は144,424、粘度η=1500に対応する重量平均分子量は216,591であり、粘度η=4000に対応する重量平均分子量は292,227であり、粘度η=10000に対応する重量平均分子量は385,280であった。
【0067】
次に、それぞれのメチルセルロースの2%水溶液20mlを調製し、これらを添加剤無しのサンプルとした。また、それぞれのメチルセルロースの2%水溶液20mlにスチレンスルホン酸ナトリウム(NaSS,富士フイルム和光純薬株式会社製,192-03292)を0.1Mになるように添加したものを調製し、これらを添加剤有りのサンプルとした。
【0068】
そして、各溶液を1.5cm角の枠に注入して乾燥させて厚みを調製し、サンプルごとに1.5cm角の細胞培養膜を作製した。各サンプルの厚みは、10~30μm程度にすることを目標とした。
それぞれのサンプルを1週間37℃の温水中に保管して膨潤させた後、温水から取り出して15℃で10分間静置させた状態における各サンプルの溶解の状態を目視により確認した。なお、温水から取り出した直後においては、各サンプルは1.5cm角の膜の状態を保持していた。
【0069】
実験1の結果を図8に示す。同図において、サンプルが完全に溶解しているものを◎とし、ゲル状態での溶け残りが存在するものを△とし、膜状態での溶け残りが存在するものを×とした。これは、以降の実験の結果においても同様である。
図8に示されるように、添加剤無しの場合、MC-4とMC-400のサンプルは溶解したが、MC-1500、MC-4000、及びMC-10000のサンプルは十分に溶解しなかった。一方、添加剤有りの場合は、全てのサンプルが溶解した。
【0070】
すなわち、重量平均分子量がおよそ20,000~190,000のメチルセルロースは、添加剤無しの場合に15℃で10分間で溶解させることが可能であった。
また、重量平均分子量がおよそ190,000~400,000のメチルセルロースは、添加剤有りの場合に15℃で10分間で溶解させることが可能であった。
【0071】
[実験2]
次に、様々な重量平均分子量のメチルセルロースを用いて、本実施形態の細胞培養膜を溶解できる温度条件を確認するための実験を行った。
本実験では、メチルセルロースとして、MC-4、MC-400、MC-1500、及びMC-4000の4種類を準備し、添加剤無しのサンプルと添加剤有りのサンプルをそれぞれ3つずつ実施例1と同様に調製した。
そして、各サンプルを1週間37℃の温水中に保管して膨潤させた後、温水から取り出して、15℃、20℃、25℃の各温度で10分間静置させたときの各サンプルの溶解の状態を目視により確認した。
【0072】
実験2の結果を図9に示す。同図に示されるように、添加剤無しの場合、15℃で10分間静置させたときに、MC-4とMC-400のサンプルは溶解したが、MC-1500とMC-4000のサンプルは十分に溶解しなかった。また、20℃又は25℃で10分間静置させたときは、全てのサンプルが十分に溶解しなかった。
一方、添加剤有りの場合は、15℃又は20℃で10分間静置させたときに、MC-400、MC-1500、及びMC-4000の全てのサンプルが溶解した。また、25℃で10分間静置させたときは、これら全てのサンプルが十分に溶解しなかった。
【0073】
すなわち、重量平均分子量がおよそ20,000~190,000のメチルセルロースは、添加剤無しの場合に15℃で10分間で溶解させることが可能であった。
また、重量平均分子量がおよそ190,000~330,000のメチルセルロースは、添加剤有りの場合に15℃及び20℃で10分間で溶解させることが可能であった。
【0074】
[実験3]
さらに、本実施形態の細胞培養膜に含有させる添加剤の各種濃度にもとづいて、細胞培養膜を溶解できるかを確認するための実験を行った。
本実験では、メチルセルロースとしてMC-4000を準備し、メチルセルロースの2%水溶液20mlにスチレンスルホン酸ナトリウム(NaSS,富士フイルム和光純薬株式会社製,192-03292)をそれぞれ0.05M、0.1M、0.3M、0.5Mになるように添加したサンプルを実施例1と同様に調製した。
そして、各サンプルを1週間37℃の温水中に保管して膨潤させた後、温水から取り出して、15℃、20℃の各温度で10分間静置させたときの各サンプルの溶解の状態を目視により確認した。
【0075】
実験3の結果を図10に示す。同図に示されるように、全てのサンプルが溶解していた。
ここで、添加剤を0.5M添加したサンプルでは、細胞培養膜が脆く、取り扱いが煩雑であった。このため、細胞培養膜に含有させる添加剤の濃度は、0.05M~0.5Mとすることができ、0.05M~0.3Mとすることが好ましく、0.05M~0.2Mとすることがより好ましいことが分かった。
【0076】
本発明は、以上の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、難溶解性材料が付加された細胞培養膜の作製方法を上記以外の方法としたり、細胞培養膜をマイクロ流体デバイス以外の生体組織形成装置に使用するなど適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、複数の細胞層を含む生体組織を製造する場合などにおいて、好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0078】
10,11,11a,11b 細胞培養膜
101,111,111a,111b メチルセルロース
112,112a,112b 難溶解性材料
20,20’,21,21’ 培養空間
30,30’,31,31’ 細胞
40a,40b 基材
50 マイクロ流体デバイス
51 上部基板
511 流路
512 送液孔
52 下部基板
521 流路
53 接着シート
531 流路
【要約】
【課題】 細胞培養膜の両側に細胞層を形成させた後、当該細胞培養膜を容易に分解させることの可能な細胞培養膜の提供を可能とする。
【解決手段】 細胞の培養領域を両面に備えた細胞培養膜であって、重量平均分子量が20,000~190,000のメチルセルロースを主成分とする、又は、重量平均分子量が190,000~400,000のメチルセルロースを主成分とし、かつ、溶解温度調整剤を含有する細胞培養膜。溶解温度調整剤は、スチレンスルホン酸ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、又はトルエンスルホン酸ナトリウムの少なくともいずれかであることが好ましい。また、細胞培養膜は、難溶解性材料が付加されたものとすることが好ましい。
【選択図】 なし
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11