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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】栗の収穫機
(51)【国際特許分類】
   A01D 51/00 20060101AFI20230615BHJP
【FI】
A01D51/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023015375
(22)【出願日】2023-02-03
【審査請求日】2023-03-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター「戦略的スマート農業技術等の開発・改良(栗園における労働軽減のための収穫・運搬ロボットの開発)」、産業技術力強化法 第17条の適用を受けるもの
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(73)【特許権者】
【識別番号】520225749
【氏名又は名称】公立大学法人熊本県立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】596009788
【氏名又は名称】株式会社末松電子製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】湯治 準一郎
(72)【発明者】
【氏名】山下 徹
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕一
(72)【発明者】
【氏名】松添 直隆
(72)【発明者】
【氏名】末松 謙一
(72)【発明者】
【氏名】槌山 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】本村 有貴秀
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3120258(JP,U)
【文献】特開2005-328819(JP,A)
【文献】実開昭48-61049(JP,U)
【文献】特開平3-206814(JP,A)
【文献】米国特許第7698882(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0264865(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01D 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部材の周囲に放射状に配置された棒状部材を設けたブラシホイールを複数重ねた多重ブラシホイール部と、
前記多重ブラシホイール部の両端の軸に連結された持手部と、
前記多重ブラシホイール部の回転方向に向かって開口部を設けた収容部と、を有する栗の収穫機であって、
前記多重ブラシホイール部が、前記棒状部材が硬質部材である硬質ブラシホイールと、前記多重ブラシホイール部における複数の前記硬質ブラシホイールの間に配置された、前記棒状部材が弾性の軟質部材である軟質ブラシホイールと、を有する栗の収穫機。
【請求項2】
前記棒状部材が、外周の先端側に引掛け部を有する、
前記硬質ブラシホイールおよび/または前記軟質ブラシホイールの前記棒状部材のピッチ間隔が、15mm~40mmである、請求項1に記載の収穫機。
【請求項3】
前記硬質ブラシホイールおよび前記軟質ブラシホイールの前記棒状部材間に配置され、前記かごに連結された爪を有する、請求項1または2に記載の収穫機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、栗の収穫機に関する。
【背景技術】
【0002】
栗は、日本においてもほぼ全都道府県で栽培可能な食料である。栗は、日本における国土面積の多くを占めている中山間地域で栽培され、地域経済を支える重要な作物である。しかし、栗の栽培は機械化が進んでいない。また、栗の生産の従事者は、高齢化も進み、減少傾向にもある。栗の産地を維持するために、栗の生産にあたっての作業の省力化や軽労化は急務である。栗の生産において、特に栗の収穫の負担が大きい。栗の収穫は、終日、樹園地をまわり、地面に落下した毬栗から、屈んで果実を拾い出すという特有の作業である。
【0003】
特許文献1は、栗の木の樹下に樹列に沿って配置され、栗の木から落下した毬栗を捕集する用に供される栗の収穫装置であって、栗の実が通過しない網目寸法に設定された毬栗捕集用ネットを備えて形成され、この毬栗捕集用ネットは、両側端部に毬栗捕集用ネットを幅方向に横断する一対の端部ポールと、これら端部ポール間に毬栗捕集用ネットを幅方向に横断する所定本数の中間部ポールとを有したものを開示している。
【0004】
特許文献2は、人が立った状態で地面に届く長さの支柱の上部端部に、グリップとレバーを備えた支柱の下端部に固定挟み具を取り付け、その固定挟み具に向かい合わせるように可動挟み具を組み合わせるとともに、その可動挟み具にスプリングを介在して、前記したレバーと可動挟み具を作動棒で連結して成る木の実の採取具を開示している。
【0005】
また、栗に関するものではないが、特許文献3は、グランド上を走行可能にする車輪を備えた本体フレームと、この本体フレームに支承した収集軸に左右で対峙状に配置した弾性ある挟持円盤相互間に、挟持円盤径に比し小径にした余剰ボール排除盤を配して成る複数の挟持部を配列したボール収集機構と、下端縁がグランド面に近接し、挟持部に対応した間隔幅員で、本体フレームから支持ステー部によって配列支持した複数のボール整列板から成るボール整列機構と、挟持部の回転によって上方位置に持ち来たしたゴルフボールを挟持部から排出案内板で取り外して集積するよう、ボール収集機構の前方位置の本体フレーム上に設けた収集ボックスとを備えるゴルフボール収集装置を開示している。
【0006】
また、非特許文献1は、栗の収穫機を開示している。この収穫機は、手押し式で、ブラシ部分が栗をつまみとって、バスケットに容れる形状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-313023号公報
【文献】登録実用新案第3120258号公報
【文献】特開2012-34884号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Bag-A-Nut(商標)Harveters 、[online]、[令和4年1月16日検索]、インターネット<URL:https://baganut.com/product-cat/harvesters/chestnuts/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の手法は、予めネットを配置する必要があり、生産面積が広くなる場合は大量のネットが必要となる。また、木の配置や、農場の立地によっては適切なネットの配置ができない。このため、利用できる条件が揃った場面は限られている。また、特許文献2は、農場の状況に合わせて利用できるが、栗を一つずつ拾う必要がある。特許文献3は、そもそも栗用のものではなく転用を容易に想到できるような技術分野のものではなく栗用の設計とされたものでもない。
【0010】
非特許文献1の収穫機は、手押し式で操作でき、この機具を農場で使用者が押したり、引いたりしながら歩くことで栗を収穫できる。
【0011】
ここで栗は、「毬栗」と、その果実である「栗の実」とが収穫対象であり、栗の農場では、収穫期には、いずれも存在するため、両方の回収が求められる。しかし、非特許文献1の収穫機は、毬栗を収穫するときは、毬栗用としてブラシの間隔をあけるスペーサーを配置した状態で利用する必要がある。一方、栗の実を収穫するときは、栗の実用としてブラシを密に配置した状態で利用する必要がある。毬栗用の状態は、ブラシ間が広すぎて栗の実を収穫できない。一方で栗の実用の状態は、毬栗を絡めとることができずに、毬栗に乗り上げるような状態で通りすぎるか、毬栗が引っ掛かり軸部材の回転を止めてしまう。このため、いずれかが収穫できないか、作業を複数回に分けて別々に行うなどの追加の対策なども必要なものとなっていた。
【0012】
かかる状況下、本発明は、毬栗と、栗の実とを、同時に収穫できる収穫機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
【0014】
<1> 軸部材の周囲に放射状に配置された棒状部材を設けたブラシホイールを複数重ねた多重ブラシホイール部と、前記多重ブラシホイール部の両端の軸に連結された持手部と、前記多重ブラシホイール部の回転方向に向かって開口部を設けた収容部と、を有する栗の収穫機であって、
前記多重ブラシホイール部が、前記棒状部材が硬質部材である硬質ブラシホイールと、前記硬質ブラシホイール間に配置された、前記棒状部材が軟質部材である軟質ブラシホイールと、を有する栗の収穫機。
<2> 前記棒状部材が、外周の先端側に引掛け部を有する、前記硬質ブラシホイールおよび/または前記軟質ブラシホイールの前記棒状部材のピッチ間隔が、15mm~40mmである、前記<1>に記載の収穫機。
<3> 前記硬質ブラシホイールおよび前記軟質ブラシホイールの前記棒状部材間に配置され、前記かごに連結された爪を有する、前記<1>または<2>に記載の収穫機。
【発明の効果】
【0015】
本発明の収穫機は、毬栗と、栗の実とを、同時に収穫できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の収穫機の第一の実施形態にかかる側面視した断面概要図である。
図2】本発明の収穫期の第一の実施形態にかかる多重ブラシホイール部を正面視した概要図である。
図3】ブラシホイールの概要図である。
図4】ブラシホイールの撓み量を計測する状態を示す概要図である。
図5】軟質ブラシホイールに用いる棒状部材の製造例の像である。
図6】軟質の棒状部材の製造例を軸部材に複数取り付けた軟質ブラシホイールの一部の像である。
図7】本発明の参考とする従来の収穫機の斜視図である
図8】従来の収穫機で毬栗の収穫用とした状態の多重ブラシホイール部の背面図である。
図9】従来の収穫機で栗の実の収穫用とした状態の多重ブラシホイール部の背面図等である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を変更しない限り、以下の内容に限定されない。なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値を含む表現として用いる。
【0018】
[本発明の収穫機]
本発明の収穫機は、軸部材の周囲に放射状に配置された棒状部材を設けたブラシホイールを複数重ねた多重ブラシホイール部と、前記多重ブラシホイール部の両端の軸に連結された持手部と、前記多重ブラシホイール部の回転方向に向かって開口部を設けた収容部と、を有する栗の収穫機であって、
前記多重ブラシホイール部が、前記棒状部材が硬質部材である硬質ブラシホイールと、前記多重ブラシホイール部における複数の前記硬質ブラシホイールの間に配置された、前記棒状部材が軟質部材である軟質ブラシホイールと栗の収穫機である。
【0019】
[本発明の収穫機]
図1は、本発明の収穫機10の第一の実施形態にかかる側面視した断面概要図である。図2は、本発明の収穫機の第一の実施形態にかかる多重ブラシホイール部20を正面視した概要図である。図1の収穫機10は、多重ブラシホイール部20(図2)の軟質ブラシホイール4の部分で断面視した概要図である。
【0020】
収穫機10は、多重ブラシホイール部20と、持手部5と、収容部1とを有する。多重ブラシホイール部20は、硬質ブラシホール3と、軟質ブラシホイール4とを有する。収穫機10は、図7(a)等に示す、従来の栗の収穫機に準じる構造とすることができる。
【0021】
収穫機10は、使用者が持手部5を持って引っ張ることで、栗を収穫することができる。この栗は、毬栗911、912と栗の実92のいずれも収穫できる。使用者は持手部5を持って、多重ブラシホイール部20から収容部1側に向けて引っ張る。これは、図1における図の右に向けての移動である。これにより多重ブラシホイール部20の軟質ブラシホイール4等は、図1で右回り・時計回りに回転する。軟質ブラシホイール4等は、回転しながら栗を絡めとるように取り上げて、収容部1に栗を送りこむ。このような動きで、収穫機10は、地面に落ちている栗を収容部1に収穫することができる。
【0022】
軟質ブラシホイール4は、軟質部材で成形された軟質の棒状部材を多数有しており、この棒状部材間に栗の実92を挟むことができる。また、毬栗911、912のように栗の実92よりも大きいものを拾うときは、軟質の棒状部材が曲がって、ブラシ間のスペースを広げて毬栗911、912を挟む。
【0023】
毬栗912は、棒状部材41Eと棒状部材41Fが、地面上にあった毬栗912と接したとき、この毬栗912の大きさに合わせて曲がってその隙間を拡げて挟んでいる。また、毬栗911は、軟質ブラシホイール4の棒状部材41Aと棒状部材41Bに挟まれて、軟質ブラシホイール4の回転に伴って上部に移動している。また、棒状部材41Cと棒状部材41Dは、栗の実92を挟む程度に広がっている。軟質ブラシホイール4等に挟まれて地面から取り上げられた、毬栗911、912や、栗の実92は、爪11ではじかれるように外れて、収容部1に収容される。
【0024】
[持手部5]
持手部5は、収穫機10を用いるときに使用者が持つ部分である。持手部5は、軸部材2の両端の軸に連結されている。また、持手部5は、ブラシホイールの径よりも長く、かごの先から使用者が持てるような形状となっており、使用者の腰や胸程度の高さで持ちやすい長さである。
【0025】
[収容部1]
収容部1は、収穫機10を用いるときに栗を収容する部分である。収容部1は、多重ブラシホイール部の回転方向に向かって開口部を設けたものである。図1の収穫機10においては、軟質ブラシホイール4(多重ブラシホイール部20)は、右回りに回転するため、軟質ブラシホイール4の上部で左から右に棒状部材や栗の実92、毬栗911、912は移動するため、これらの回転に向かうように開口されている。なお、収容部1は、単に上面を全て開口することでこのような構造としてもよいし、収容している栗の落下を防止するために、図1の右側は閉じたものとしてもよい。
【0026】
収容部1は、栗の収穫を行うとき、多重ブラシホイール部20に先行してその前を移動する配置とすることができる。このため、収容部1の下部は、栗を避けるように、栗の大きさよりも高い位置に配置されるかごを支持するフレームや、持手部5と連結されたフレームにより持手部5を持ちあげることに連動して栗よりも高い位置となるような構造とすることが好ましい。
【0027】
[爪11]
爪11は、収容部1の手前に設けられ、軟質ブラシホイール4等の棒状部材間に配置されている(図2参照)。爪11の一端は、収容部1の開口部に連結されている。爪11の他端は、多重ブラシホイール部20の軸部材2の上端付近に配置されるものとすることができる。この爪11により、多重ブラシホイール部20に巻き込まれている栗は、爪11にはじかれるように多重ブラシホイール部20から外れて、収容部1に送り込まれるように収容される。
【0028】
[多重ブラシホイール部20]
多重ブラシホイール部20は、図2等に示すように複数のブラシホイールを重ねた形状となるものである。多重ブラシホイール部20は、硬質ブラシホイール3と、軟質ブラシホイール4とを有する。図2に示すように、硬質ブラシホイール3の間に、軟質ブラシホイール4は配置される。
【0029】
[ブラシホイール]
図3は、ブラシホイールの概要図である。ブラシホイールは、硬質部材で棒状部材等を成形した硬質ブラシホイール3と、軟質部材で棒状部材等を成形した軟質ブラシホイール4を含む。硬質ブラシホイール3と、軟質ブラシホイール4は、それぞれを成形するために用いる部材が異なる以外は、同様の形状のものとしてもよい。本願において、硬質ブラシホイール3と軟質ブラシホイール4とで共通する形状とできる部分については、単に「ブラシホイール」として説明する場合がある。
【0030】
ブラシホイールは、中心の軸部材となる軸部材2の周囲に、放射状に多数の棒状部材31(41)を設けたものである。ブラシホイールは、プレート状の軸部材に、棒状部材を取り付ける部分を設けたプレート状のものを多数積み重ねるような形状として、多重ブラシホイール部20となるものとしてもよい。または、胴長の軸部材に、棒状部材を取り付ける部分を段状に設け、各段に軟質の棒状部材を設ける段と、硬質の棒状部材を設ける段とを層状に配置していくことで多重ブラシホイール部20となるものとしてもよい。
【0031】
ブラシホイールの大きさや、棒状部材の配置本数は、栗園の状況や収穫機10の大きさなどに合わせて適宜設定することができる。これらは、棒状部材のピッチ間隔(図3のP1、図2のP21、P22)等に応じて適宜設定される。図3に示すその全体の長さL1は、例えば40~80cm程度などとすることができる。
【0032】
[硬質ブラシホイール3]
硬質ブラシホイール3は、棒状部材31が硬質部材で成形されたものである。硬質部材としては、高強度で硬度が高い樹脂材などを用いることができる。例えば、ABSなどを用いることができる。この硬質ブラシホイール3は、従来の非特許文献1に開示されている「Bag-A-Nut(商標)Chestnut Harvesters」(Bag-A-Nut, LLC.)のブラシホイールをそのまま用いることや、これに準じるものを利用することができる。
【0033】
[軟質ブラシホイール4]
軟質ブラシホイール4は、棒状部材41が軟質部材で成形されたものである。軟質部材は、複数の棒状部材41で毬栗などを挟み込むことができる程度の変形ができるものであればよい。いわゆるゴムライクの樹脂などを用いることができる。例えば、熱可塑性エラストマーなどを用いることができ、より具体的な例としては、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)などを用いることができる。
【0034】
軟質ブラシホイール4は、その柔軟性は、複数の棒状部材により毬栗を挟み込むことができる程度に撓むことができるものであればよい。一方で、毬栗を収容部1に回収したあとは、次に栗の実か、毬栗かを収容することができるようにピッチ間隔を元に戻したほうがよいため、弾性を有することが好ましい。なお、軟質ブラシホイールの棒状部材も長期利用するときの耐摩耗性を考慮すると、表面はある程度の硬さを有することが好ましい。なお、硬質ブラシホイールは、強く引っ張るなどすると変形して曲げることができる場合があるが、強い力が必要で毬栗に乗り上げる程度の荷重では十分には撓まず、過剰な負荷で曲げると根元等が白化し、塑性変形する場合がある。
【0035】
軟質ブラシホイールに用いる棒状部材が適当な弾性と柔軟性を有するかの評価にあたっては、例えば次のように評価することができる。図4は、この手法でブラシホイールの撓み量を計測する状態を示す概要図である。棒状部材41b0を、ブラシホイールの軸部材に固定したときと同様に土台部45を固定部8に固定して棒状部材41b0の軸を略水平に配置した状態を初期状態の基準位置h0とする。そして、先端の球状部42に重り81を吊るしたときに、たわみ位置h1の高さまで撓んだ棒状部材41b1となる。この撓んだ棒状部材41b1の先端が、基準位置h0から撓んだ量である基準位置h0と撓み位置h1の鉛直方向の長さを、撓み量H01とすることができる。おもりを50gとしたときのこの撓み量(50gf)が、10mm以上や、15mm以上、20mm以上撓むことができるものであることが好ましい。または、先端の球状部に20gの重りを吊るしたときに、その棒状部材の先端が初期位置から撓んだ量を、撓み量とすることができる。この撓み量(20gf)が、10mm以上や、15mm以上、20mm以上撓むことができるものとしてもよい。また、この棒状部材は、重りを外して荷重を開放したときに、先端が初期位置近傍(初期位置±3mm以内や、±2mm程度)に復帰できる程度の弾性を有する。撓み量(50gf、20gf)の上限は、棒状部材の長さ等から必然的に限界があるため特に定めなくてもよいが、弾性の指標の一つとすることも想定して、50mm以下や、40mm以下などを上限としてもよい。
【0036】
本実施形態では、BASF社製Ultrafuse TPU85Aを用いて、3Dプリンターで成形した軟質部材を用いており、この軟質部材の棒状部材は、前述した手法による撓み量(50gf)が25mm程度であり、撓み量(20gf)が20mm程度であり、荷重開放後に原点に復帰した。一方、硬質ブラシホイールに用いている部材は、前述した手法によっては、撓み量(50gf)でも1mm未満程度でほとんど撓みが生じなかった。
【0037】
軟質ブラシホイール4は、硬質ブラシホイール3間に配置されている。硬質ブラシホイール3と軟質ブラシホイール4の数は、使用環境などに応じて、適宜設定することができる。硬質ブラシホイールに、軟質ブラシホイールを複数段(例えば1~5段や、2~4段程度)重ね、硬質ブラシホイールで挟み、さらに軟質ブラシホイールを複数段重ね、さらに硬質ブラシホイールで挟む。これを繰り返して、設計に合わせたブラシホイール部の幅W1に相当する段数重ねる。
【0038】
図2に示すようにブラシホイール部の幅W1は、使用する栗園の広さなどに合わせて適宜設計することができる。W1は、例えば30cm~1.5m程度や、40cm~1.2m程度とすることができる。
【0039】
代表的な大きさとして、幅約40cm程度とする場合、棒状部材のピッチ間隔(P21、P22)は約2cm程度として、19段程度のブラシホイールを重ねるとすれば、硬質1段、軟質2段、さらに硬質1段、軟質2段などのように重ねていき、両端を硬質ブラシホイールとすることなどができる。
【0040】
[ピッチ間隔]
硬質ブラシホイールや軟質ブラシホイールの棒状部材のピッチ間隔は、15mm~40mmや、18mm~30mm、20~28mm程度とすることができる。ピッチ間隔は、図2に示すように、重ね合わせるように配置されている隣り合うブラシホールの棒状部材間のピッチ間隔P21、P22として設定する部分がある。また、図3に示すように、同一ブラシホイール内で、放射状に配置されている棒状部材の隣り合う先端間のピッチ間隔P1として設定する部分がある。これらのピッチ間隔P21、P22、P1は、同じ程度として設定してもよいし、それぞれの間隔を設定してもよい。
【0041】
軟質ブラシホイールが変形することで、栗の実に合わせた棒状部材のピッチ間よりも大きい毬栗であっても挟むことができる。一方で、ブラシホイール部は、収穫機10を移動させるときの車輪としても機能する。このため、軟質ブラシホイールのみでブラシホイールを設計すると、移動中に収穫機10の自重などで棒状部材が変形して移動しにくくなる場合がある。このブラシホイール部に硬質ブラシホイールも用いることで、硬質ブラシホイールが車輪としての主たる強度を保つことができる。また、硬質ブラシホイールを、複数段おきに配置することで、軟質ブラシホイールの過剰な変形を抑制することもできる。
【0042】
[棒状部材]
図5は、本発明の収穫機の軟質ブラシホイールに用いる棒状部材の製造例の像である。棒状部材は、外周の先端側に引掛け部を有するものとすることが好ましい。棒状部材41aは、軸部材(図6等参照)に挿し込んで取り付けて用いることを想定した形状である。図5の左端が、ブラシホイールの外径の先端となる部分である。棒状部材41aは、棒状の軸部44の左端先端に第一引掛け部42を有し、さらに、先端からやや内側となる右側に第二引掛け部43を有する。また、棒状部材41aは、軸部44の右端は、軸部材への取付部46を有する。
【0043】
棒状部材41aを例に、寸法の例を以下に説明する。
L11は、軸部材から先の棒状部材の長さに相当する長さである。L11は、ブラシホイール全体の径や、軸部材の径などに応じて、十分に撓む範囲で適宜設定する。例えば、50mm~120mm程度を目安とすることができ、下限は60mm以上や、70mm以上程度、上限は、110mm以下や、100mm以下としてもよい。
L21は、第一の引掛け部42と、第二の引掛け部43の中央間距離である。L21は、毬栗や栗の実を挟んだ状態で安定するために適宜設定する。例えば、10mm~25mmや、15mm~20mm、16mm~18mm程度を目安とすることができる。
L22は、第二の引掛け部43と軸部材に挿し込んだ時の軸部材の端部となる位置までの長さである。L22は、棒状部材の長さ全体に関するL11等を踏まえて適宜設定できる。例えば、30mm~80mm程度や、35mm~70mm程度、45~60mm程度を目安とすることができる。
D11やD12は、略球状で設計したそれぞれの引掛け部の径に相当する幅であり、棒状部材の軸の幅W21よりも大きい。D11、D12は、6mm~10mm程度や、7mm~9mm程度を目安とすることができる。
W21は、棒状部材の軸の太さに相当する幅である。この軸の太さは、撓みやすさに影響を与える部分であり、引掛け部との段差があることで、引掛け部に栗が引っ掛かる。W21は、3mm~6mm程度や、4mm~5mm程度を目安とすることができる。
【0044】
図5に示す製造例では、L11は75mm、L21は中心間距離16.9mm、L22は、50mm、D11は8.5mm、W21は4.6mm、D12は8.3mmとして製造した。
【0045】
図5(b)の棒状部材41bは、棒状部材41aに準じる他の棒状部材の製造例である。ここでは、第二の引掛け部43は、長円形状のものとしている。また、土台側の安定性を考慮して、土台部45を有するものとしている。
【0046】
棒状部材41a、41bの先端に、球状や長円形状の引掛け部42と、引掛け部43とを設けることで、先端から内側にかけて、凹凸があるものとなり、これらが引掛け部として機能する。
【0047】
図6は、本発明にかかる軟質ブラシとして利用する図5(a)に示す棒状部材41aの製造例を、軸部材に複数取り付けた軟質ブラシホイールの像である。ここでは、溝に横から挿し込む形状で、抜けにくいものとしている。図6(a)~(c)は、軟質ブラシホイールの一部を拡大した像に相当する。図6(d)~(f)は、硬質ブラシホイール(緑色、像内の濃色部分)を両端の層として設けて、軟質ブラシホイール(白色、像内の薄色部分)を4層分を設けている。
【0048】
図6(a)に示すように、この製造例では、軸部材の手前と奥にそれぞれ棒状部材を挿し込むことができるものとしている。そして、棒状部材を放射状に取り付けたとき、棒状部材の先端のピッチ間隔は約3cm程度となるものとしている。
【0049】
図6(b)は、栗の実を挟み込むときの例である。栗の実は、約3cm程度のため、ブラシホイールは、棒状部材間に栗の実が入り込み、引掛け部に引っ掛かり挟むように栗の実を取り上げることができる。
【0050】
図6(c)は、毬栗を挟み込むときの例である。毬栗は、約8cm程度のため、ピッチ間隔3cm程度の中に入り込みにくい程度に大きい。しかし、棒状部材を軟質部材で成形しているため、棒状部材の軸部などが変形して、毬栗に合わせて隙間が広がるものとなる。これにより、毬栗の先端が、ブラシホイールの先端外径よりもはみ出しにくくなり、毬栗を取りあげることができる。なお、毬栗の全体形状は、毬も含んだ大きさのため、中央の包みは収容している栗複数個分の大きさである。このため、ピッチ間隔は約5cm~8cm程度の広さに広がることができれば毬栗の毬は棒状部材間の隙間にあり、毬栗を挟むことができると考えられる。
【0051】
図6(d)~(f)は、多重ブラシホイール部のユニット例である。硬質ブラシホイール間に、軟質ブラシホイールを配置した構成により、毬栗と、栗の実のモデル品を回転により巻き込みながら挟み込むことができるか検証した。この結果、毬栗も栗の実も挟み込むことができることが確認できた。
【0052】
このように、本発明の収穫機によれば、栗と毬栗を同時に収穫する事ができる。これは、硬質ブラシホイール間に、軟質ブラシホイールを配置しており、この軟質ブラシホイールが変形することで毬栗を巻き込むように取り上げることができるためであると考えられる。
【0053】
[栗]
本発明の収穫機は、毬栗や栗の実といった、栗を収穫することができる。栗は、品種や栽培環境、期間、個体差などに寄り様々な大きさとなるが、概ね、次のような大きさである。毬栗は、一般的に約7cm~12cm程度の大きさである。また、栗の実は、約2cm~5cm程度の大きさである。栗の実は、Sサイズが29mm未満、Mサイズが29mm~32mm未満、Lサイズが32mm~35mm未満、2Lサイズが35mm~39mm未満、3Lサイズが39mm以上、4Lサイズが43mm以上のように分類される場合がある。使用する栗園の栗の大きさに合わせて、棒状部材の先端のピッチ間隔などを適宜設定することで、このような様々な大きさの栗の収穫に適用することができる。
【0054】
[収穫機(参考例)]
図7は、本発明の参考とする従来の収穫機の斜視図である。図8は、従来の収穫機で毬栗の収穫用とした状態の多重ブラシホイール部の背面図である。図9は、従来の収穫機で栗の実の集約用とした状態の多重ブラシホイール部の背面図等である。この図7~9に示す栗の収穫機を、以下、参考例の収穫機として説明する。本発明の収穫機は、適宜、この参考例の収穫機の構造を参照することができ、参考例の収穫機の課題を解決するものである。
【0055】
図7(a)は、収穫機の全体像を示す斜視図である。この収穫機は、長さ約100cm、幅約60cm、高さ約110cm程度の大きさである。なお、ここでは持手部を左側に倒しているが、使用時には持手部は、図7(a)における右側に倒して引っ張る。持手部を引っ張ることで、図7(a)左側の多重ブラシホイール部で栗を絡めとるように上げて、右側のかごに栗を収容する。図7(b)は、多重ブラシホイール部に用いられるブラシホイールの例である。このブラシホイールは、中央の軸部材部の周囲に63本の放射状に棒状部材を配置している。隣り合う棒状部材の先端間は、栗の実の大きさ程度である約2cmである。図7(b)のブラシホイールは、本発明の硬質ブラシホイールに相当する硬い樹脂で成形されている。
【0056】
図8は、毬栗の収穫用の状態とした収穫機である。この状態は、硬質ブラシホイール間に、スペーサーとなる軸部材を配置した多重ブラシホイール部としたものである。スペーサーは、外形が円柱状で厚み約5cm程度である。スペーサーは、ブラシホイールの棒状部材を設けない中央の軸部材部分のみである。このため、硬質ブラシホイール間は、棒状部材が無い隙間となり、毬栗が入り込むことができる。毬栗は、硬質ブラシホイールのブラシ(棒状部材)に引っかかるように巻き込んで取り上げられる。一方で、スペーサー部分の隙間が大きすぎるため、通常2.5cm程度である栗の実は、ブラシ間にはさまれにくく、収穫することができない。
【0057】
図9は、栗の実の収穫用の状態とした収穫機である。この状態は、図7(b)に示すような硬質ブラシホイールを、多重ブラシホイール部として敷き詰めるように配置したものである。この状態は、一般的に棒状部材の先端のピッチ間が約2cm~3cm程度であり、硬質ブラシホイール間に栗の実が効率よく引っかかるように巻き込んで取り上げられる。一方で、毬栗は大きすぎて棒状部材間に十分に入り込むことができず、毬栗の上を多重ブラシホイール部が通ると、毬栗に乗り上げるような状態となる。収穫機の多重ブラシホイール部は、収穫機の移動時の車輪のような役割も兼ねている。このため、毬栗があると収穫機が浮いたような状態となって、運転が不安定になる。また、毬栗は、十分に多重ブラシホイール部に絡まらずに地面に落ちたままで収穫することはできない。
【0058】
前述したように、栗の収穫・運搬作業は機械化が進んでいない。したがって栗園の維持には労働時間の大幅削減や軽労化が必須である。本発明の収穫機は、安定して毬栗や栗の実を収穫することができ、栗園における収穫・運搬・集荷作業の無人化や軽労化、農業機械の電気化の推進といった目的にも貢献することができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、栗の収穫に利用することができ、産業上有用である。
【符号の説明】
【0060】
10 収穫機
1 かご
11 爪
2 軸部材
20 多重ブラシホイール部
3 硬質ブラシホイール
4 軟質ブラシホイール
31、41、41A~41F、41a、41b 棒状部材
42 球状部
43 長円形状部
44 軸部
45 土台部
46 取付部
5 持手部
8 固定部
81 おもり
911、912 毬栗
92 栗の実
【要約】
【課題】毬栗と、栗の実とを、同時に収穫できる収穫機を提供する。
【解決手段】軸部材2の周囲に放射状に配置された棒状部材41A~41Fを設けたブラシホイールを複数設けた多重ブラシホイール部20と、軸部材2の両端の軸に連結された持手部5と、多重ブラシホイール部20の回転方向に向かって開口部を設けた収容部1と、を有する栗の収穫機10であって、多重ブラシホイール部20が、棒状部材41A~41Fが硬質部材である硬質ブラシホイールと、多重ブラシホイール部20における複数の前記硬質ブラシホイールの間に配置された、棒状部材41A~41Fが弾性の軟質部材である軟質ブラシホイール4と、を有する栗の収穫機10。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9