(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】食品の冷凍装置及び食品の冷凍方法並びに冷凍食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 3/36 20060101AFI20230615BHJP
A23L 7/10 20160101ALI20230615BHJP
A23L 7/109 20160101ALI20230615BHJP
F25C 1/00 20060101ALI20230615BHJP
F25C 1/145 20180101ALI20230615BHJP
F25D 3/02 20060101ALI20230615BHJP
F25D 9/00 20060101ALI20230615BHJP
F25D 17/02 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
A23L3/36 A
A23L7/10 G
A23L7/109 C
A23L7/109 J
F25C1/00 D
F25C1/145 A
F25D3/02
F25D9/00 B
F25D17/02 302
(21)【出願番号】P 2019067913
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】518403539
【氏名又は名称】ブランテックインターナショナル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【氏名又は名称】古部 次郎
(72)【発明者】
【氏名】廣兼 美雄
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-041585(JP,A)
【文献】特開2018-021745(JP,A)
【文献】特開2017-023145(JP,A)
【文献】国際公開第2015/186190(WO,A1)
【文献】特開平05-336903(JP,A)
【文献】特開平07-274880(JP,A)
【文献】特開2016-135147(JP,A)
【文献】特表2013-533908(JP,A)
【文献】特開平11-076059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 3/36- 3/375
A23L 7/00- 7/10
F25C 1/00- 1/10
F25D 11/00-16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液を急速冷凍し溶質と溶媒とに分離する時間を与えられる間もなく凍結された氷と、当該水溶液とを混合し氷スラリーを製造する氷スラリー製造装置と、
前記氷スラリー製造装置により製造された氷スラリーを-10℃以下に維持した状態で貯留する冷凍槽と、
αデンプンを含む被冷凍食品を前記冷凍槽に貯留された氷スラリー内に保持させるハンガーと、
前記冷凍槽内に
前記氷スラリー製造装置により製造された氷スラリーを供給する氷スラリー供給手段と、
前記被冷凍食品に対して氷スラリーが所定の相対速度以上で衝突するように氷スラリーを流動させる流動手段と、
を備え、
前記被冷凍食品は、にぎり寿司等の米飯食品又はうどん等の麺類である、
食品の冷凍装置。
【請求項2】
前記被冷凍食品は、真空パックされている、
請求項1に記載の食品の冷凍装置。
【請求項3】
αデンプンを含む被冷凍食品を急速冷凍する食品の冷凍方法であって、
冷凍槽内に
水溶液を急速冷凍し溶質と溶媒とに分離する時間を与えられる間もなく凍結された氷と、当該水溶液とを混合して製造される氷スラリーを-10℃以下に維持した状態で貯留し、前記冷凍槽内の氷スラリー内で前記被冷凍食品をハンガーによって保持し、前記被冷凍食品に対して氷スラリーが所定の相対速度以上で衝突するように氷スラリーを流動させることにより、被冷凍食品を急速冷凍し、
前記被冷凍食品は、にぎり寿司等の米飯食品又はうどん等の麺類である、
食品の冷凍方法。
【請求項4】
前記被冷凍食品は、真空パックされている、
請求項3に記載の食品の冷凍方法。
【請求項5】
αデンプンを含む被冷凍食品を急速冷凍する冷凍食品の製造方法であって、
冷凍槽内に水溶液を急速冷凍し溶質と溶媒とに分離する時間を与えられる間もなく凍結された氷と、当該水溶液とを混合して製造される氷スラリーを-10℃以下に維持した状態で貯留し、前記冷凍槽内の氷スラリー内で前記被冷凍食品をハンガーによって保持し、前記被冷凍食品に対して氷スラリーが所定の相対速度以上で衝突するように氷スラリーを流動させることにより、被冷凍食品を急速冷凍し、
前記被冷凍食品は、α化されたデンプンが全デンプン中の80%以上であり、
前記被冷凍食品は、米飯食品又は麺類である、
冷凍食品の製造方法。
【請求項6】
前記米飯食品は、酢飯に魚介類が載せられたにぎり寿司であり、前記魚介類のK値が20以下である、
請求項5に記載の
冷凍食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、にぎり寿司やおにぎり等の米飯食品、あるいは、うどんやそば、ラーメン等の麺類、その他の食品を冷凍するための食品の冷凍装置及び食品の冷凍方法並びに冷凍食品に関する。
【背景技術】
【0002】
米飯食品や麺類等(以下、主として「米飯食品」という。)の主成分は、ブドウ糖が多数集まってできたデンプンである。デンプンは、アミロースとアミロペクチンという2種類の高分子から構成された炭水化物である。アミロースは、グルコースが直鎖状に連なった高分子である。アミロペクチンは、グルコースが枝分かれした高分子である。デンプンは、加熱されたり冷却されたりすることで、変態する。生のデンプンは、アミロースとアミロペクチンが一方向に硬く並んだ配列構造(ミセル構造)となっている。このような状態のデンプンは、βデンプンと呼ばれる。βデンプンは、水や酵素がなじみにくい状態であり、保存に向くものの、消化されにくい。
【0003】
βデンプンは、水が加えられ、加熱されると、ネバネバした糊状になる。これは、水分子がアミロースとアミロペクチンとの間に入り込み、長い鎖状の分子の束が緩んだ膨潤状態となるからである。この現象は、デンプンのα化又は糊化(こか)と呼ばれる。α化したデンプンは、αデンプンと呼ばれる。αデンプンは、アミロースとアミロペクチンが規則性を失っていることから、硬く結合しておらず、その隙間に水分子が入り込む。αデンプンは、消化酵素の影響を受けやすく、消化吸収されやすくなる。αデンプンを含む米飯食品は、美味である。なお、βデンプンを含む米をα化するには、水分が30%以上、20分以上、100℃での加熱が必要である。
【0004】
β化からα化への変態は、可逆反応である。αデンプンは、温度が下がるにつれ、硬くなり、βデンプンに似た状態になる。この現象は、デンプンのβ化又は老化と呼ばれる。β化は、60℃以上でほとんど起きず、2~4℃(0~3℃という説もある。)で最も進む。βデンプンを含む米飯食品は、粘り気がなく、美味でない。
【0005】
α化されたデンプンがβ化しないようにするための方法として、急速冷凍が知られている。急速冷凍は、食品の品温が最大氷結晶生成帯(通常の場合は-5℃~-1℃の温度帯)を短時間(通常の場合は30分以内)で通過する方法で凍結することを指す。急速冷凍では、食品内の水分が凍る温度帯を素早く通過して凍結することにより、凍結に際して氷の成長が抑制される。このような急速冷凍は、米飯食品だけでなく、魚肉等を含めた種々の食品で採用される。急速冷凍された冷凍食品は、解凍されたときに、鮮度や風味、食感を維持することができ、急速冷凍前の良好な食味や品質を解凍時に再現することができる。
【0006】
にぎり寿司を急速冷凍するための冷凍機兼解凍機が特許文献1に記載されている。特許文献1に記載された冷凍機兼解凍機は、にぎり寿司(特許文献1では「握り鮨」)を-30℃前後で20分も掛からずに急速冷凍したり、-8℃で解凍したりするための冷凍解凍処理槽(処理槽)等を備えている。処理槽には、-8℃や-30℃等に冷却された冷却解凍処理水(処理水)が貯留(特許文献1では「充填」)される。処理水には、氷点を下げるためにエチルアルコールが添加される。さらに、処理水には、食味をよくするために食品プロテアーゼ酵素が添加される。
【0007】
にぎり寿司は、ラップフィルムで完全に脱気するように又はわずかな空気が残存するように真空パックされる。真空パックされたにぎり寿司は、処理槽に貯留された処理水中に20分もかからず潜水通過することで、急速瞬間冷凍される。
【0008】
急速瞬間冷凍されたにぎり寿司は、低温空気冷凍庫で冷凍保管される。急速瞬間冷凍されたにぎり寿司は、処理槽内の-8℃前後の処理水中で10~15分かけて解凍される。このようにして解凍されたにぎり寿司は、冷凍時の鮮度をそのまま再現できるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載された冷凍機兼解凍機は、酢を含む酢飯(シャリ)に魚介類を載せたにぎり寿司を急速瞬間冷凍する。特許文献1に記載された冷凍機兼解凍機によって製造された冷凍にぎり寿司は、エチレンアルコール添加の処理水によって-5℃~-1℃の温度帯を20分もかからない程度に通過して冷凍される。しかし、このように冷凍されたにぎり寿司は、解凍されたときに、シャリがぼろぼろとした固い食感となる場合がある。
【0011】
このことは、小麦粉を原料とするうどんやラーメン等の麺類も同じである。特許文献1に記載された冷凍機兼解凍機によって麺類を製造すれば、この麺類は、解凍された時に、必ずしも食味が保存されたものにならない場合がある。
【0012】
本発明は、米飯食品や麺類等の食品を急速冷凍しても、急速冷凍前のような食味が得られるようにした食品の冷凍装置及び食品の冷凍方法並びに冷凍食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る食品の冷凍装置は、水溶液を急速冷凍し溶質と溶媒とに分離する時間を与えられる間もなく凍結された氷と、当該水溶液とを混合し氷スラリーを製造する氷スラリー製造装置と、前記氷スラリー製造装置により製造された氷スラリーを-10℃以下に維持した状態で貯留する冷凍槽と、αデンプンを含む被冷凍食品を前記冷凍槽に貯留された氷スラリー内に保持させるハンガーと、前記冷凍槽内に前記氷スラリー製造装置により製造された氷スラリーを供給する氷スラリー供給手段と、前記被冷凍食品に対して氷スラリーが所定の相対速度以上で衝突するように氷スラリーを流動させる流動手段と、を備え、前記被冷凍食品は、にぎり寿司等の米飯食品又はうどん等の麺類である。
【0015】
前記本発明に係る食品の冷凍装置において、前記被冷凍食品は、真空パックされている。
【0016】
本発明に係る食品の冷凍方法は、αデンプンを含む被冷凍食品を急速冷凍する食品の冷凍方法であって、冷凍槽内に水溶液を急速冷凍し溶質と溶媒とに分離する時間を与えられる間もなく凍結された氷と、当該水溶液とを混合して製造される氷スラリーを-10℃以下に維持した状態で貯留し、前記冷凍槽内の氷スラリー内で前記被冷凍食品をハンガーによって保持し、前記被冷凍食品に対して氷スラリーが所定の相対速度以上で衝突するように氷スラリーを流動させることにより、被冷凍食品を急速冷凍し、前記被冷凍食品は、にぎり寿司等の米飯食品又はうどん等の麺類である。
【0018】
前記本発明に係る食品の冷凍方法において、前記被冷凍食品は、真空パックされている。
【0019】
本発明に係る冷凍食品の製造方法は、αデンプンを含む被冷凍食品を急速冷凍する冷凍食品の製造方法であって、冷凍槽内に水溶液を急速冷凍し溶質と溶媒とに分離する時間を与えられる間もなく凍結された氷と、当該水溶液とを混合して製造される氷スラリーを-10℃以下に維持した状態で貯留し、前記冷凍槽内の氷スラリー内で前記被冷凍食品をハンガーによって保持し、前記被冷凍食品に対して氷スラリーが所定の相対速度以上で衝突するように氷スラリーを流動させることにより、被冷凍食品を急速冷凍し、前記被冷凍食品は、α化されたデンプンが全デンプン中の80%以上であり、前記被冷凍食品は、米飯食品又は麺類である。
【0020】
前記本発明に係る冷凍食品の製造方法において、前記米飯食品は、酢飯に魚介類が載せられたにぎり寿司であり、前記魚介類のK値が20以下である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、米飯食品や麺類等の食品を急速冷凍しても、急速冷凍前のような食味が得られるようにした食品の冷凍装置及び食品の冷凍方法並びに冷凍食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係る食品の冷凍装置の一実施形態を示す概略正面図である。
【
図2】本発明に係る食品の冷凍装置の一実施形態を示す概略平面図である。
【
図3】本発明に係る食品の冷凍装置を構成している冷凍槽の一実施形態を示す概略平面図である。
【
図4】本発明に係る食品の冷凍装置を構成している冷凍槽及び氷スラリー供給手段の一実施形態を示す概略断面側面図である。
【
図5】フレークアイス製造装置の概要を示す断面斜視図である。
【
図6】フレークアイス製造システムの概要を示す模式図である。
【
図7】被冷凍食品の一例としてのにぎり寿司を示す概略斜視図である。
【
図8】本発明に係る食品の冷凍方法の概要を示す模式図であり、(a)は真空パックされる途中を示す被冷凍食品の模式図であり、(b)は真空パックされた被冷凍食品を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本実施形態の食品の冷凍装置は、被冷凍食品を-10℃以下に維持された氷スラリーによって急速冷凍する。被冷凍食品は、αデンプンを含む米飯食品や麺類等の食品である。米飯食品としては、にぎり寿司やいなり寿司のような寿司だけでなく、種々のおにぎりのような米飯加工食品等、多数のご飯粒が固められている食品であってもよい。麺類としては、うどんやラーメンだけでなく、種々のパスタ等であってもよい。さらに、被冷凍食品は、ピザやお好み焼き、たこ焼き、ベビーカステラ等、αデンプンを含むものであれば、限定されない。
【0024】
図7及び
図8に示すように、本実施形態における被冷凍食品Fは、にぎり寿司Fとして説明する。
図7は、被冷凍食品Fの一例としてのにぎり寿司Fを示す概略斜視図である。
図8は、本発明に係る食品の冷凍方法の概要を示す模式図であり、(a)は真空パックされる途中を示す被冷凍食品Fの模式図であり、(b)は真空パックされた被冷凍食品Fを示す模式図である。
【0025】
図7に示すように、にぎり寿司Fは、盛皿Tに複数貫載せられた状態で急速冷凍される。図示しないが、盛皿Tには、生姜(ガリ)やバランが載せられていてもよい。
図7では、12貫のにぎり寿司F2列に並べられている。しかし、にぎり寿司Fは、1貫でもよいし、1列又は3列以上に並べられてもよい。いずれにしても、にぎり寿司Fの酢飯(シャリ)は、にぎられる等成形された直後において多くのαデンプンを含んでいる。シャリの水分含有量は、60~70%に設定されている。シャリの水分含有量をこの範囲の値に設定することにより、解凍後の食味をよいものにすることができる。
図8に示すように、盛皿Tに載せられたにぎり寿司Fは、透明なフィルムのような包材Pによってラッピングされる。
【0026】
図8(a)に示すように、盛皿Tに載せられたにぎり寿司Fは、包材P内に包まれる。シート状の包材Pが盛皿Tに載せられたにぎり寿司Fを包んでもよいし、袋状の包材P内に盛皿Tに載せられたにぎり寿司Fが入れられるようにしてもよい。
図8(b)に示すように、盛皿Tに載せられたにぎり寿司Fをラッピングした包材P内は、真空引きされる。この包材Pは、盛皿Tに載せられたにぎり寿司Fと盛皿Tとに密着(図面では、見やすくするため密着していない。)する。このように、盛皿Tに載せられ、包材P内が真空引きされたにぎり寿司Fを「ラッピングにぎり寿司W」という。
【0027】
ラッピングにぎり寿司Wを急速冷凍するための氷スラリーは、ハイブリッドアイス(後述する)をフレーク(剥片)状に加工したフレークアイス(固体)と、溶質を含有する水溶液(ブライン)とを所定の比率で混合させたシャーベット状の混合物で、流動性を有している。氷スラリーにフレークアイスを加えることにより、氷スラリーに含まれるフレークアイスとブラインとの構成比率を容易に調整することができる。
【0028】
ハイブリッドアイスは、溶質を含有する水溶液(ブライン)を、溶質の濃度がほぼ均一となるように凝固させた氷である。
ハイブリッドアイスは、少なくとも
(a)融解完了時の温度が0℃未満、
かつ、
(b)融解過程で氷が融解した水溶液(ブライン)の溶質濃度の変化率(以下、「溶質濃度の変化率」と略称する場合がある)が30%以内、
という条件を満たし、被冷凍品を効率よく冷凍することができるという特性を有している。
【0029】
ハイブリッドアイスに含まれる溶質の種類は、水を溶媒としたときの溶質であれば特に限定されず、所望の凝固点や使用する氷の用途等に応じて適宜選択することができる。溶質としては、固体状の溶質、あるいは液状の溶質等が挙げられるが、固体状の溶質として代表的なものには、塩類(無機塩、有機塩等)が挙げられる。
【0030】
特に、塩類のうち食塩(NaCl)は、凝固点の温度を過度に低下させることがないため、にぎり寿司のネタやシャリ等として使われる生鮮動植物又はその一部の冷凍に適している。また、食塩は海水に含まれているため、調達が容易であるという点でも適している。また、液状の溶質としては、エチレングリコール等が挙げられる。なお、溶質は1種単独で含まれてもよく、2種以上含まれてもよい。
【0031】
ブラインとは、例えば、塩化ナトリウム水溶液(塩水)や塩化カルシウム水溶液、塩化マグネシウム水溶液、エチレングリコール水溶液等のように溶質を含有し、凝固点の低い水溶液である。フレークアイスの原料となるブラインは、特に限定されないが、溶質として食塩を使用する場合、海水、海水に塩を追加した水、又は海水の希釈水であることが好ましい。海水、海水に塩を追加した水、又は海水の希釈水は、調達が容易であるため、調達コストを削減することができるからである。
【0032】
また、食塩を溶質とするブライン(塩水)の熱伝導率は、約0.58W/m Kであるが、食塩を溶質とするブラインが凍結したフレークアイスの熱伝導率は約2.2W/m Kである。即ち、熱伝導率は、ブライン(液体)よりもフレークアイス(固体)の方が高いため、フレークアイス(固体)の方が被冷凍品であるラッピングにぎり寿司Wを早く冷凍することができることになる。
【0033】
しかしながら、フレークアイス(固体)のままではラッピングにぎり寿司Wと接触する面積が小さくなってしまう。そこで、フレークアイスとブラインとを混合させて氷スラリーの状態とすることにより流動性を持たせる。これにより、ラッピングにぎり寿司Wに対し万遍なくフレークアイス(固体)を接触させることができるようになり、ラッピングにぎり寿司Wを素早く冷凍することが可能となる。
【0034】
フレークアイスを含有する氷スラリーは、さらに、フレークアイスより高い熱伝導率を有する固体を含有してもよく、含有しなくてもよいが、含有することが好ましい。
通常、短時間で被冷凍品を冷凍しようとする場合、熱伝導率の高い固体を冷媒として利用することができるが、この場合、その固体自身も短時間で冷熱エネルギーを失い温度が上がりやすくなるため、長時間の冷凍には不適である。
即ち、長時間の冷凍には、熱伝導率の高い固体を冷媒として利用しない方がよいということになるが、短時間でラッピングにぎり寿司Wを冷凍しようとする場合に不適である。
【0035】
しかしながら、フレークアイスは、冷凍能が高いため、熱伝導率の高い固体による短時間の冷凍能を得つつ、さらに長時間の冷凍も可能としている点で有用である。
なお、フレークアイスよりも高い熱伝導率を有する固体としては、例えば、金属(アルミニウム、銀、銅、金、ジュラルミン、アンチモン、カドミウム、亜鉛、すず、ビスマス、タングステン、チタン、鉄、鉛、ニッケル、白金、マグネシウム、モリブデン、ジルコニウム、ベリリウム、インジウム、ニオブ、クロム、コバルト、イリジウム、パラジウム)、合金(鋼、ニッケルクロム合金、アルミ青銅、砲金、黄銅、マンガニン、洋銀、コンスタンタン、はんだ、アルメル、クロメル、モネルメタル、白金イリジウム等)、ケイ素、炭素、セラミックス、大理石、レンガ等が挙げられる。
【0036】
また、フレークアイスよりも高い熱伝導率を有する固体は、熱伝導率が2.3W/m K以上の固体であることが好ましく、熱伝導率が10W/m K以上の固体であることがより好ましく、熱伝導率が50W/m K以上の固体であることがさらに好ましく、熱伝導率が100W/m K以上の固体であることがより一層好ましく、熱伝導率が200W/m K以上の固体であることがなお好ましく、熱伝導率が200W/m K以上の固体であることがなお好ましく、熱伝導率が400W/m K以上の固体であることが特に好ましい。
【0037】
フレークアイスを含有する氷スラリーが、フレークアイスよりも高い熱伝導率を有する固体を含有する場合、上述したとおり、多くの固体を含んだとしても長時間の冷凍に適している。例えば、フレークアイスよりも高い熱伝導率を有する固体の質量/氷スラリーに含まれるフレークアイスの質量(又は氷スラリーに含まれるフレークアイスとブラインとの合計質量)は、1/100000以上であってもよい。なお、上記固体は、どのような形状であってもよいが、粒子状である方が好ましい。氷スラリーに接する面積が大きくなり、また加工し易い等のメリットがあるからである。
【0038】
また、上記固体は、フレークアイスの内部に含まれた形態で存在してもよく、また、フレークアイスの外部に存在してもよいが、フレークアイスの外部に存在した方がラッピングにぎり寿司Wに直接接し易くなるため、冷凍能が高くなる。このことから、上記個体は、氷の外部に存在した方が好ましい。また、フレークアイスを含有する氷スラリーが上記固体を含有する場合、後述のフレークアイス製造装置によりフレークアイスを製造した後に上記固体を混合させてもよく、あるいは、あらかじめ原料となるブラインに上記個体を混合させてフレークアイスを製造してもよい。
【0039】
氷スラリーに含まれるフレークアイスとブラインとは、いずれも同じ溶質を含んでいる。氷スラリー中のフレークアイスの濃度(IPF:Ice Packing Factor)は、「IPF=(フレークアイスの質量)/(フレークアイスの質量+ブラインの質量)」で算出され、所定の範囲になるように制御される。フレークアイスの溶質濃度と、ブラインの溶質濃度とは、近い値である方が好ましい。その理由は、以下のとおりである。
【0040】
即ち、フレークアイスの溶質濃度がブラインの溶質濃度よりも高い場合、フレークアイスの温度がブラインの飽和凍結点よりも低くなるため、溶質濃度が低いブラインを混合させた直後にブラインが凍結する。
【0041】
これに対して、フレークアイスの溶質濃度がブラインの溶質濃度より低い場合、フレークアイスの飽和凍結点よりもブラインの飽和凍結点の方が低くなる。このため、フレークアイスとブラインとを混合させた氷スラリーの温度は低下する。したがって、フレークアイスとブラインとの混合物の状態(氷スラリーの状態)を変動させないようにするためには、上述のとおり、混合するフレークアイスとブラインの溶質濃度を同程度とすることが好ましい。
【0042】
また、氷スラリーの状態である場合、ブラインは、フレークアイスが融解したものであってもよく、別途調製したものであってもよいが、フレークアイスが融解してなるものであることが好ましい。
【0043】
ここで、氷スラリーによってラッピングにぎり寿司Wを急速冷凍する冷凍装置の一実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係る冷凍装置400の一実施形態を示す概略正面図である。
図2は、本発明に係る冷凍装置400の一実施形態を示す概略平面図である。
【0044】
図1に示すように、氷スラリーによってラッピングにぎり寿司Wを急速冷凍する冷凍装置400は、冷凍槽410と、スクリューコンベア420と、移動手段430と、氷スラリー再生手段450と、氷スラリー供給管456と、フレークアイス製造システム300(
図6参照)とを備えている。スクリューコンベア420、氷スラリー再生手段450、氷スラリー供給管456及びフレークアイス製造システム300は、特許請求の範囲における「氷スラリー供給手段」に対応する。
【0045】
冷凍槽410は、氷スラリーSを-10℃以下の状態で貯留して、ラッピングにぎり寿司Wを冷凍する。氷スラリーSを-10℃の状態で貯留する場合、13.6%の濃度の食塩水がブラインとして利用される。氷スラリーSを-15℃の状態で貯留する場合、は、17.5%の濃度の食塩水がブラインとして利用される。また、ブラインとして23.5%の濃度の食塩水が利用される場合、氷スラリーSは-21.3℃の状態で貯留可能となる。移動手段430は、ラッピングにぎり寿司Wを冷凍槽410に貯留された氷スラリーS内で移動させる。移動手段430は、ラッピングにぎり寿司Wに対して氷スラリーSが所定の相対速度以上で衝突するように氷スラリーSを移動させる流動手段となる。
【0046】
図1及び
図2に示すように、移動手段430は、ラッピングにぎり寿司Wを載せる複数枚のトレーのようにラッピングにぎり寿司Wを保持するハンガー431と、このハンガー431を間隔をあけて積み重ねた状態に保持するラック432と、このラック432を吊り下げて移動させるコンベア433とを備えている。
【0047】
コンベア433は、ラック432を冷凍槽410に貯留された氷スラリーS内を冷凍槽410の上流側から下流側へ移動し、ラック432が上流側で氷スラリーS内に浸漬するように下降し、下流側でラック432を氷スラリーS内から引き上げ、冷凍槽410に沿う横側で冷凍槽410の上流側へ戻すように、ラック432を巡回させる。
【0048】
コンベア433は、上昇したラック432を冷凍槽410の下流端へ戻し、循環するように配備されている。即ち、コンベア433は、ラック432が冷凍槽410内を上流端から下流端へ移動する往路と、この往路に隣接した位置でラック432を冷凍槽410の上流端へ戻す復路とを有している。上流端においてラッピングにぎり寿司Wを載せたハンガー431がラック432内に置かれ、下流端においてラッピングにぎり寿司Wを急速冷凍したハンガー431がラック432から取り出される。
【0049】
冷凍槽410は、底面部411と一対の側面部412と一対の端部413とを一体化したバスタブのような形状をしている。ただし、底面部411と一対の側面部412と一対の端部413が隣り合っている各境界部分は、曲面状に滑らかに連続している。
【0050】
底面部411は、ラック432の幅よりも広い幅で、かつ、ハンガー431に載せられたラッピングにぎり寿司Wが氷スラリー内を移動して、冷凍されるために必要な長さを有している。冷凍槽410は、当然ながら、複数段、重ねられたハンガー431の全部が氷スラリー内に浸漬されるようにする深さを有している。
【0051】
冷凍槽410のボトム側の少なくとも底面部411には、氷スラリーが噴出して供給されるようにするための多数の氷スラリー噴出口414が形成されている。氷スラリー噴出口414は、冷凍槽410の側面部412の底面部411側にも形成されてよい。氷スラリー噴出口414は、コンベア433に吊り下げられて移動するラック432の移動方向に対向するように氷スラリーSを噴出するように構成されている。
【0052】
冷凍槽410の一方の端部413、例えば下流側の端部413には、冷凍槽410内の氷スラリーを排出する氷スラリー排出口415が形成されている。冷凍槽410は、上側を除いた周囲が断熱材440によって囲われている。
【0053】
このような冷凍槽410内には、氷スラリーSがスクリューコンベア420から供給側配管422へ送られて供給される。スクリューコンベア420は、複数の小孔(採番せず)を形成した筒状体(採番せず)と、この筒状体(採番せず)内で周方向に回転するスクリュー(採番せず)とを備えている。氷スラリーは、筒状体内に充填され、スクリューの回転によって筒状体内を軸方向に圧送されるように移動する。
【0054】
供給側配管422は、
図1及び
図3に示すように、スクリューコンベア420の小孔と冷凍槽410の氷スラリー噴出口414との間に架け渡される。供給側配管422は、氷スラリーがハンガー431の移動方向と反対方向、すなわち、下流側から上流側へ向かって流れるように斜め向きとされている。
【0055】
冷凍槽410の氷スラリー排出口415には、冷凍槽410内で貯留された氷スラリーSを再生するための氷スラリー再生手段450が接続されている。ここでの「再生」とは、冷凍槽410内に供給されてラッピングにぎり寿司Wを冷凍した後、ブライン状になりつつある氷スラリーSを廃棄することなく再利用したり、ブラインを分離してこのブラインをフレークアイスに混合して氷スラリーSを製造するために再利用することをいう。
【0056】
氷スラリー再生手段450は、氷スラリー混合容器451と、氷スラリー戻管452とを備えている。氷スラリー混合容器451には、フレークアイス製造装置200(
図5参照)を含むフレークアイス製造システム300(
図6参照)によって製造されたフレークアイスから製造された氷スラリーSが配管453によって注入される。氷スラリー混合容器451には、氷スラリー戻管452によって冷凍槽410から排出された氷スラリーSも注入される。
【0057】
氷スラリー戻管452の上流端は、冷凍槽410の氷スラリー排出口415に接続されている。氷スラリー戻管452の途中には、分離手段454が備えられている。分離手段454には、ブライン分離管455が接続されている。分離手段454は、冷凍槽410から排出され、氷スラリー戻管452内を流れている氷スラリーSを、氷スラリー混合容器451へ送る氷スラリーSと、ブラインとに分離する。そのため、分離手段454は、その内部にフィルタ(例えば荒目の網)を備えていて、排出された氷スラリーSを、フィルタ上に氷スラリーS、フィルタ下にブラインというように分離するものであってよい。分離されたブラインは、ブライン分離管455へ送られる。
【0058】
ブライン分離管455へ送られたブラインは、フレークアイスの製造及び氷スラリーSの製造の少なくともいずれか一方に再利用される。すなわち、ブライン分離管455へ送られたブラインは、フレークアイス製造システム300に備えられたブライン貯留タンク40(
図6参照)に注入され、フレークアイスを製造する原料として再利用される。あるいは、ブライン分離管455へ送られたブラインは、フレークアイスと所定の比率で混合されることで、氷スラリーSの製造に再利用される。ただし、このブラインは、汚れ具合によってブライン貯留タンク40へ送られたり、フレークアイスと混合されたりすることなく廃棄される。
【0059】
氷スラリー混合容器451とスクリューコンベア420との間は、氷スラリー供給管456によって接続されている。この氷スラリー供給管456によって氷スラリー混合容器451内の氷スラリーSがスクリューコンベア420へ送られる。
【0060】
図5は、フレークアイス製造装置200の概要を示す断面斜視図である。フレークアイス製造装置200は、
図5に示すように、ドラム21と、回転軸22と、噴射部23と、剥取部24と、ブレード25と、フレークアイス排出口26と、上部軸受部材27と、噴射制御部28と、防熱保護カバー29と、ギヤードモータ30と、ロータリージョイント31と、冷媒クリアランス34と、ブッシュ38と、冷媒供給部39と、回転制御部37とを備える。
【0061】
ドラム21は、内筒32と、この内筒32を囲繞する外筒33と、内筒32と外筒33との間に形成される冷媒クリアランス34とで構成される。また、ドラム21の外周面は、円筒状の防熱保護カバー29によって覆われている。冷媒クリアランス34には、冷媒供給部39から冷媒配管45を介して内筒冷凍冷媒が供給される。これにより内筒32の内周面が冷凍される。
【0062】
回転軸22は、ドラム21の中心軸上に配置され、上部軸受部材27の上方に設置されたギヤードモータ30を動力源として、当該中心軸を軸として材軸回りに回転する。なお、ギヤードモータ30の回転速度は、後述の回転制御部37によって制御される。
【0063】
噴射部23は、内筒32の壁面に向けてブラインを噴射する噴射孔23aを先端部に有する複数のパイプで構成され、回転軸22と共に回転する。噴射孔23aから噴射されたブラインは、冷媒によって冷凍された内筒32の壁面に付着し、溶質と溶媒とに分離する時間も与えられずに急速に凍結する。噴射部23を構成する複数のパイプは、回転軸22からドラム21の半径方向に放射状に延出している。
【0064】
剥取部24は、内筒32の内周面に生成されたハイブリッドアイスを剥取るブレード25を先端部に備える複数のアームによって構成される。なお、剥取部24は、ドラム21の半径方向に延出し、回転軸22と共に回転する。剥取部24を構成する複数のアームは、回転軸22に関して対称となるように装着されている。なお、
図1に示すフレークアイス製造装置200の剥取部24は、2本のアームによって構成されているが、アームの本数は特に限定されない。
【0065】
また、アームの先端に装着されているブレード25は、内筒32の全長(全高)に略等しい長さを有する部材からなり、内筒32の内周面に対向する端部には複数の鋸歯25aが形成されている。
【0066】
内筒32の内周面に生成されたハイブリッドアイスは、ブレード25によって剥取られることによりフレークアイスとなる。フレークアイスは、フレークアイス排出口26から落下する。フレークアイス排出口26から落下したフレークアイスは、フレークアイス製造装置200の直下に配置されたフレークアイス貯留タンク44(
図6参照)内に貯えられる。
【0067】
また、噴射部23から噴射されるブラインの量を調節することにより、製造されるフレークアイスの量を調節してもよい。即ち、噴射部23から噴射されるブラインの量を増やすことにより、製造されるフレークアイスの量を増やすことができる。また反対に、噴射部23から噴射されるブラインの量を減らすことにより、製造されるフレークアイスの量を減らすことができる。
【0068】
上部軸受部材27は、鍋を逆さにした形状からなり、ドラム21の上面を封止している。上部軸受部材27の中心部には、回転軸22を支持するブッシュ38が嵌装されている。なお、回転軸22は、上部軸受部材27にのみ支持され、回転軸22の下端部は軸支されていない。即ち、ドラム21の下方には、ブレード25によって剥ぎ取られたフレークアイスが落下する際に障害となる物がないため、ドラム21の下面はフレークアイスを排出するフレークアイス排出口26となる。
【0069】
噴射制御部28は、噴射部23によるブラインの噴射時に、噴射部23から噴射されるブラインの量を調節する。なお、噴射部23から噴射させるブラインの量を調節する具体的な手法は特に限定されない。例えば、噴射部23を構成する複数のパイプの夫々について、ブラインを噴射させるパイプの数とブラインを噴射させないパイプの数とを調節することにより、噴射されるブラインの量を調節してもよい。また例えば、ブラインを噴射させる複数のパイプに送り込むブラインの量を増減させることにより、噴射されるブラインの量を調節してもよい。
【0070】
また、噴射制御部28は、噴射部23によるブラインの噴射時に、噴射圧力の可変制御を実行する。ブラインの噴射圧力を可変制御できるようにすることにより、内筒32の内周面に付着するブラインの体積をコントロールすることができる。即ち、ブラインを強い圧力で霧状に噴射させた場合に比べ、ブラインを弱い圧力で液状に噴射させた場合の方が、内筒32の内周面に付着するブラインの粒子が大きくなる。このため、ブラインを弱い圧力で液状に噴射させることにより生成されるハイブリッドアイスは、内筒32の内周面の温度よりも高いドラム21内部の空気の温度の影響を受け難くなる。
【0071】
これにより、ブラインを弱い圧力で液状に噴射させることにより生成されるハイブリッドアイスは、ブラインを強い圧力で霧状に噴射させることにより生成される場合よりも溶け難いものとなる。なお、噴射制御部28がブラインの噴射圧力を可変制御する具体的な手法は特に限定されない。例えば、ブラインを噴射させる複数のパイプの噴射口(図示なし)の口径を調節することにより噴射圧力を可変制御してもよい。
【0072】
防熱保護カバー29は、円筒形状からなり、ドラム21の側面を封止している。
冷媒供給部39は、冷媒クリアランス34に対して、内筒32の内周面を冷凍する内筒冷凍冷媒を、冷媒配管45を介して供給する。
冷媒クリアランス34に供給される冷媒は、冷媒クリアランス34と冷媒供給部39との間を冷媒配管45を介して循環する。これにより、冷媒クリアランス34に供給された内筒冷凍冷媒を冷凍能が高い状態で維持させることができる。
【0073】
図6は、フレークアイス製造システムの概要を示す模式図である。フレークアイス製造システム300は、ブライン貯留タンク40と、ポンプ41と、ブライン配管42と、ブラインタンク43と、フレークアイス貯留タンク44と、冷媒配管45と、凍結点調節部46と、フレークアイス製造装置200とを含むように構成されている。
【0074】
ブライン貯留タンク40は、ハイブリッドアイスの原料となるブラインを貯える。ブライン貯留タンク40に貯えられたブラインは、ポンプ41を作動させることにより、ブライン配管42を介して噴射部23に供給される。噴射部23に供給されたブラインは、ハイブリッドアイスを生成するための原料となる。
【0075】
ブラインタンク43は、ブライン貯留タンク40内に貯留されたブラインが少なくなると、ブライン貯留タンク40に対しブラインを供給する。なお、内筒32の内周面で凍結することなく流下したブラインは、ブライン貯留タンク40に貯えられ、ポンプ41が作動されることによって再びブライン配管42を介して噴射部23に供給される。
【0076】
フレークアイス貯留タンク44は、フレークアイス製造装置200の直下に配置され、フレークアイス製造装置200のフレークアイス排出口26から落下したフレークアイスを貯える。
【0077】
凍結点調節部46は、ブラインタンク43からブライン貯留タンク40に供給されるブラインの凍結点を調節する。例えばブラインが塩水である場合には、塩水の凍結点は濃度によって異なる。このため、凍結点調節部46は、ブライン貯留タンク40に貯えられている塩水の濃度を調節する。
【0078】
ここで、本冷凍装置400を使用してラッピングにぎり寿司Wを氷スラリーSによって急速冷凍する方法について説明する。氷スラリーSは、フレークアイス製造システム300に備えられたフレークアイス製造装置200によって製造されるフレークアイスにブラインを混合することで製造する。
【0079】
そこで、まず、フレークアイス製造装置200を含むフレークアイス製造システム300の動作について、ブラインが塩水であることを前提として説明する。
【0080】
まず、フレークアイス製造装置200において、冷媒供給部39が冷媒クリアランス34に冷媒を供給し、内筒32の内周面の温度を塩水の凍結点より-10℃程度低くなるように設定する。これにより、内筒32の内周面に付着した塩水を凍結させることができる。
【0081】
内筒32の内周面が冷凍されると、ポンプ41は、ブライン貯留タンク40からブライン配管42を介して、噴射部23にブラインである塩水を供給する。噴射部23に塩水が供給されると、噴射部23は、内筒32の内周面に向けて塩水を噴射する。噴射部23から噴射された塩水は、内筒32の内周面に接触すると、溶質である塩と溶媒である水とに分離する時間を与えられる間もなく瞬時に凍結しハイブリッドアイスとなる。このようにしてハイブリッドアイスが生成される。
【0082】
内筒32の内周面に生成されたハイブリッドアイスは、内筒32内を回転する剥取部24によって剥ぎ取られる。剥取部24によって剥ぎ取られたハイブリッドアイスは、フレークアイスとしてフレークアイス排出口26から落下する。フレークアイス排出口26から落下したフレークアイスは、フレークアイス製造装置200の直下に配置されたフレークアイス貯留タンク44内に貯えられる。
【0083】
また上述したように、凍結してハイブリッドアイスになることなく内筒32の内周面を流下した塩水は、ブライン貯留タンク40に貯えられ、ポンプ41を作動させることによりブライン配管42を介して噴射部23に再び供給される。なお、ブライン貯留タンク40内の塩水が少なくなると、ブラインタンク43からブライン貯留タンク40に塩水が供給される。
【0084】
氷スラリー製造装置は、このようにして製造されたフレークアイスとブラインとを所定の比率で混合させて氷スラリーSを製造する。氷スラリーに、フレークアイス(個体)を加えることにより、氷スラリーに含まれるフレークアイス(個体)とブライン(液体)との構成比率を容易に調整することもできる。氷スラリーは、流動性を有するため、硬いフレークアイスの状態よりもラッピングにぎり寿司Wの包材Pに対し万遍なく接触することができる。
【0085】
この氷スラリーSは、(a)融解完了時の温度が0℃未満、かつ、(b)融解過程で氷が融解したブラインの溶質濃度の変化率が30%以内という条件を満たしている。氷スラリーSは、融解する際に大量の潜熱を周囲から奪うことができるが、融解が完全に完了せずにハイブリッドアイスが残存している間は温度が上昇することがない。従って、長時間に亘ってラッピングにぎり寿司Wを急速冷凍し続けることができる。
【0086】
氷スラリーSは、フレークアイスとして製造された状態で細かな空隙部(即ち空気の部分)を多く含むため、この空隙部がハイブリッドアイス内で縦横無尽に連結した状態であり、雪状に調製したり、シャーベット状に調製したりすることができる。雪状又はシャーベット状に調製されたハイブリッドアイスは、全体として柔軟性を備えているため、ラッピングにぎり寿司Wを傷つけることがなく、むしろラッピングにぎり寿司Wを保護する緩衝材としてのスポンジのような役割を果たす。
【0087】
また、氷スラリーSは、多くの空隙部(空気部分)を有する状態であっても、あるいは氷スラリーSの融解によって当該空隙部にブラインが充填された状態であっても、氷スラリーS全体として十分な流動性(柔軟性)を保持することができる。このため、氷スラリーSは、ラッピングにぎり寿司Wをより効率良く急速冷凍することができる。
【0088】
ここで、氷スラリーS全体の体積に対する空隙部(空気部分)の体積の割合を「空隙率」と定義した場合、空隙率は、より低い方が(即ち嵩密度が高い方が)蓄冷効果が高くなる。したがって、ラッピングにぎり寿司Wの急速冷凍を目的として氷スラリーSを使用する場合には、空隙率が高い(即ち嵩密度が低い)氷スラリーSを生成する。なお、冷熱エネルギーの運搬を目的として氷スラリーSを使用する場合には、空隙率が低い(即ち嵩密度が高い)氷スラリーを生成する。
【0089】
また、食塩を溶質とするブライン(塩水)の熱伝導率は約0.58W/m Kであるが、食塩を溶質とするブラインが凍結したフレークアイスの熱伝導率は約2.2W/m Kである。即ち、熱伝導率は、ブライン(液体)よりもフレークアイス(固体)の方が高いため、フレークアイス(固体)の方がラッピングにぎり寿司Wを早く急速冷凍することができることになる。
【0090】
しかしながら、フレークアイス(固体)のままではラッピングにぎり寿司Wと接触する面積が小さくなってしまう。そこで、フレークアイスとブラインとを混合させて氷スラリーSの状態とすることにより流動性を持たせる。これにより、ラッピングにぎり寿司Wに対し万遍なくフレークアイス(固体)を接触させることができるようになり、ラッピングにぎり寿司Wを素早く冷凍することが可能となる。
【0091】
ここで、氷スラリーSの嵩密度について、具体的な数値を示す。氷スラリーSとして定義可能な嵩密度は、0.48g/cm3~0.78g/cm3となる。生鮮食料品の冷凍を目的として氷スラリーSを使用する場合には、0.69g/cm3~0.78g/cm3の嵩密度とするのが好適である。
【0092】
なお、ラッピングにぎり寿司Wの冷蔵を目的として氷スラリーSを使用する場合には、0.48g/cm3~0.54g/cm3の嵩密度とするのが好適である。また、冷熱エネルギーの運搬を目的として氷スラリーSを使用する場合には、飽和食塩水を用いた氷をさらに機械的に圧縮して0.75g/cm3~0.95g/cm3の嵩密度としてもよい。
【0093】
従来から、溶媒に溶質を溶解させると、その水溶液の凝固点は、溶質を溶解させる前の溶媒の凝固点よりも低くなることが知られている(凝固点降下現象)。つまり、食塩等の溶質を溶解させた水溶液を凍結させた氷は、真水(即ち、食塩等の溶質が溶解していない水)を凍結させた氷よりも低い温度(即ち0℃未満)で凍結した氷となる。
【0094】
ここで、固体としての氷が、液体としての水に変化(融解)するときに必要となる熱を「潜熱」という。この潜熱は温度変化を伴わないため、ハイブリッドアイスは、融解時に真水の凝固点(0℃)未満の温度で安定した状態を維持し続けることができる。このため、冷熱エネルギーを蓄えた状態を持続させることができる。
【0095】
つまり、本来であれば、食塩等の溶質を溶解させた水溶液を凍結させた氷の冷凍能は、真水を凍結させた氷よりも高くなるはずである。しかしながら、食塩等の溶質を溶解させた水溶液を凍結させた氷を製造しようとしても、実際には、水溶液(例えば塩水)がそのまま凍結することは殆どなく、まず溶質(食塩等)を含まない真水の部分が先に凍結してしまう。
【0096】
このため、食塩等の溶質を溶解させた水溶液を凍結させた結果、生成される物質は、溶質(食塩等)を含まない真水が凍結した氷と、溶質(例えば食塩等の結晶)との混合物となってしまう。また、たとえ凝固点が低下した氷(塩水等が凍結した氷)が生成されたとしても、その量はほんの僅かであり実用性がない。このように、氷スラリーSは、真水の凝固点(0℃)未満の凝固点を有する[氷]であるが、フレークアイス製造システムによって、製造することができる。
【0097】
氷スラリーSは、上述したような(a)融解完了時の温度が0℃未満であるという条件を満たしている。氷スラリーSは、溶質(食塩等)を含む水溶液(塩水等)であるため、氷スラリーSの凝固点は、溶質が溶解していない真水の凝固点よりも低い。このため、氷スラリーは、融解完了時の温度が0℃未満であるという条件を満たしている。
【0098】
なお、「融解完了時の温度」とは、氷スラリーSを融点以上の環境下(例えば、室温、大気圧下)に置くことにより氷スラリーSの融解を開始させ、全ての氷スラリーSが融解しきって水溶液(ブライン)になった時点におけるその水溶液の温度をいう。
【0099】
他方、氷スラリーSの凝固点を、ラッピングにぎり寿司Wの凍結点に近づけた方が好ましい場合もある。例えば、ラッピングにぎり寿司Wの損傷を防ぐため等の理由がある場合には、融解完了時の温度が高すぎない方が好ましく、例えば、-21℃以上であることが好ましい。
【0100】
氷スラリーSは、上述したような(b)融解過程で氷が融解した水溶液の溶質濃度の変化率が30%以内であるという条件を満たしている。氷スラリーSは、融解過程で氷が融解した水溶液の溶質濃度の変化率(以下、本明細書において「溶質濃度の変化率」と略称する場合がある)が30%以内であるという特徴を有する。従来からある技術を用いた場合であっても、凝固点が僅かに低下した氷が生成される場合もあるが、その殆どは、溶質を含まない水の氷と溶質の結晶との混合物に過ぎないため、冷凍能が十分ではない。
【0101】
このように、溶質を含まない水を凍結させた氷と、溶質の結晶との混合物である場合には、氷を融解条件下に置くと、融解に伴い溶質が溶出する速度が不安定となる。具体的には、融解開始に近いタイミングであればある程、溶質が多く溶出する。そして、融解の進行に伴い、溶質が溶出する量は少なくなっていく。即ち、融解完了に近いタイミングであればある程、溶質の溶出量が少なくなる。
【0102】
これに対し、ハイブリッドアイスは、溶質を含む水溶液を凍結させた氷であるため、融解過程における溶質の溶出速度の変化が少ないという特徴を有する。具体的には、ハイブリッドアイスが融解する過程でハイブリッドアイスが融解した水溶液の溶質濃度の変化率は30%である。ここで、「融解過程でハイブリッドアイスが融解した水溶液の溶質濃度の変化率」とは、融解過程の任意のタイミングで融解した水溶液における溶質濃度に対する、融解完了時における水溶液の濃度の割合を意味する。なお、「溶質濃度」とは、水溶液に溶解している溶質の質量の割合を意味する。
【0103】
ハイブリッドアイスにおける溶質濃度の変化率は30%以内であれば特に限定されないが、その変化率は少なければ少ない程、純度が高いハイブリッドアイス、即ち、冷凍能が高いハイブリッドアイスであることを意味する。
【0104】
ハイブリッドアイスは、冷凍能に優れているため、ラッピングにぎり寿司Wを急速冷凍し凍結させるための冷媒としての使用に適している。ラッピングにぎり寿司Wを急速冷凍する低温の冷媒としては、ハイブリッドアイス以外に、エタノール等の不凍液として使用される有機溶媒が挙げられる。しかしながら、これらの不凍液よりもハイブリッドアイスの方が熱伝導率が高く、比熱が高い。このため、ハイブリッドアイスは、不凍液のような他の0℃未満の冷媒よりも冷凍能が優れている点で有用である。
【0105】
図1に示すように、フレークアイス製造システム300によって製造された氷スラリーSは、配管453から氷スラリー混合容器451内に注入される。この氷スラリーSは、氷スラリー供給管456によってスクリューコンベア420に注入される。氷スラリーSは、スクリューコンベア420の筒状体内をスクリューによって圧送され、供給側配管422内を通って冷凍槽410の底面部411から冷凍槽410内に噴出され、供給される。
【0106】
供給側配管422が斜め向きとされ、氷スラリー噴出口414がラック432の移動方向に対向するように氷スラリーSを噴出するように構成されていることから、氷スラリーSは冷凍槽410内に下流向きの水流が生じるように噴出させて供給される。氷スラリーSは、冷凍槽410内に-10℃以下に維持した状態で貯留される。冷凍槽410内では、氷スラリーSの水流が生じているため、底面部411には、氷スラリーS中の溶質が滞留しない。
【0107】
冷凍槽410は、断熱材440によって囲まれているため、冷凍槽410内の氷スラリーSが融けることはない。また、冷凍槽410の底面部411と側面部412(ボトム側)と端部413が隣り合っている境界部分は曲面状に滑らかに連続していることから、この境界部分に氷スラリーSが滞留することがなく、氷スラリーS中の溶質が沈殿することもない。
【0108】
冷凍槽410内では、移動手段430のハンガー431がラック432にセットされて上流側から下流側へ移動している。ハンガー431には、ラッピングにぎり寿司Wが載せられている。ハンガー431は、ラック432にセットされ、ラック432がコンベア433に吊り下げられていることにより、冷凍槽410内を移動する。移動手段430は、ハンガー431を冷凍槽410内で移動させることで、ラッピングにぎり寿司Wに対して氷スラリーSが所定の相対速度以上で相対するように氷スラリーSを流動させる流動手段となる。
【0109】
冷凍槽410内では、氷スラリーSが供給側配管422によって上流側から下流側に向けて注入されていることにより、ハンガー431上のラッピングにぎり寿司Wが氷スラリーSの流れに逆らって進行する状態となる。したがって、氷スラリーSは、冷凍槽410内で乱流が生じる状態となり、ラッピングにぎり寿司Wを急速冷凍する。
【0110】
ラッピングにぎり寿司Wは、冷凍槽410内を上流側から下流側へ移動している間に、-15℃以下の氷スラリーSによってラッピングにぎり寿司Wに含まれる水分が急速冷凍される。氷スラリーSは、熱伝導率及び熱容量が大きいため、ラッピングにぎり寿司Wを冷凍する速度が非常に速い。したがって、ラッピングにぎり寿司Wのシャリは、水が凍る直前の4~2℃の温度帯を速やかに通過し、4℃あたりから-7℃までの温度帯を速やかに通過することで、αデンプンがβ化しないうちに急速冷凍される。また、ラッピングにぎり寿司Wのネタは、細胞壁が崩れず、しかも、シャリに含有されている60~70%によってドリップが発生しない。ラッピングにぎり寿司Wの包材Pに隙間があり、にぎり寿司に氷スラリーSが付着することがあるとしても、氷スラリーSは無害であるため、食品安全上の問題はない。
【0111】
このようにして急速冷凍されたラッピングにぎり寿司Wは、冷凍槽410の下流端で氷スラリーS内から吊り上げられる。そして、ハンガー431がラック432から取り出される。ハンガー431上のラッピングにぎり寿司W品は、ハンガー431上から取り出される。ラッピングにぎり寿司Wは、急速冷凍されることで、急速冷凍前に多く含んでいたシャリ中のα化されたデンプンは、ほとんどβ化しない。急速冷凍後にα化されたままのデンプンは、全デンプン中の80%以上、好ましくは90%以上である。食品にαデンプンが含まれる場合、αデンプンがβ化されないようにすることができる。食品に肉や魚が含まれる場合、肉や魚の細胞が破壊されないようにすることができる。
【0112】
また、にぎり寿司のネタである魚介類は、K値によって品質の状態が判別される。K値は、魚の死後、魚身内のATP(アデノシン三リン酸)が魚自身のもつ酵素によって分解される程度を表したものである。K値が大きくなるほど(ATP由来の呈味成分であるイノシン酸が分解されるほど)、鮮度が落ちていることを示している。急速冷凍されたラッピングにぎり寿司Wのネタである魚介類のK値は20以下、好ましくは10以下である。したがって、ラッピングにぎり寿司Wのネタは、新鮮な状態が維持される。
【0113】
急速冷凍されたラッピングにぎり寿司Wは、冷凍庫で保管され、必要時に冷凍庫から取り出され、解凍される。急速冷凍されたラッピングにぎり寿司Wは、貯留された水道水に漬けられることで解凍することができる。解凍されたラッピングにぎり寿司Wは、包材Pが説かれることで、皿に載せられたにぎり寿司Fとなる。このにぎり寿司Fは、シャリがαデンプンを多く含み、ネタがK値の十分に低いものであることから、良好な食味を有している。
【0114】
ラッピングにぎり寿司Wを載せていないハンガー431は、冷凍槽410の上流側へ戻される。ラック432は、コンベア433の復路を移動して冷凍槽410の上流端へ戻る。このラック432内に次の新たなラッピングにぎり寿司Wを載せたハンガー431がセットされる。
【0115】
氷スラリーSは、スクリューコンベア420から供給側配管422を通って冷凍槽410内に次々と供給される一方、冷凍槽410内からは氷スラリー戻管452へ排出される。排出される氷スラリーSは、ラッピングにぎり寿司Wを冷凍したことによってブライン状になっている。また、氷スラリー戻管452に排出される氷スラリーSは、多少濁ることがある。
【0116】
ブライン状になった氷スラリーSは、氷スラリー戻管452内を流れ、分離手段454によって氷スラリーSとブラインとに分離される。分離手段454で分離されたブラインは、濁っている場合がある。濁っているブラインについては、不純物を除去する。例えば、氷スラリー再生手段450は、濁っているブラインを貯留するブライン槽(図示せず)を備える。このブライン槽には、ブラインがブライン分離管455の下流端から注入される。ブライン槽内で不純物が沈殿し、上澄みとなったきれいなブラインが分離される。
【0117】
きれいなブラインは、フレークアイス製造システム300のブライン貯留タンク40に送られたり、製造されたフレークアイスと混合されたりすることで、新たな氷スラリーSが製造される。この新たな氷スラリーSは、配管453から氷スラリー混合容器451内に注入される。
【0118】
分離手段454で分離された氷スラリーSは、氷スラリー戻管452から氷スラリー混合容器451に注入される。氷スラリー混合容器451では、フレークアイス製造システム300によって製造された氷スラリーSと混合される。氷スラリー混合容器451内で混合された氷スラリーSは、氷スラリー供給管456からスクリューコンベア420に注入され、冷凍槽410内に再び噴出させて供給される。
【0119】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。また本発明の要旨を逸脱しない範囲内であれば種々の変更や上記実施の形態の組み合わせを施してもよい。
【0120】
例えば、上述した実施形態における冷凍装置400は、氷スラリー再生手段450を備えているが、氷スラリーSを循環させて冷凍槽410内に供給し続けることができる場合等にあっては、必ずしも氷スラリー再生手段450を備えなくてもよい。また、一旦使用した氷スラリーSをすべて廃棄する場合は、氷スラリー戻管452を備えず、氷スラリーSを冷凍槽410からオーバーフローさせてもよい。
【0121】
この場合は、フレークアイス製造システム300によって製造された氷スラリーSが直接、スクリューコンベア420へ送られる。この場合は、スクリューコンベア420、氷スラリー供給管456及びフレークアイス製造システム300が特許請求の範囲における氷スラリー供給手段に対応する。
【0122】
上述した実施形態における冷凍槽410は、底面部411と一対の側面部412と備えているが、底面部411と側面部412とが区別できないような樋状の形状としてもよい。この場合の樋形状とは、下向きに膨らんだ円弧状部を備えている形状のことである。
【0123】
上述した実施形態におけるスクリューコンベア420は、スクリューを備えているが、スクリューコンベア420に替えて単なる筒状体として、筒状部材内の氷スラリーSを強制的に移動させる吸引手段を備えてもよい。
【0124】
上述した実施形態における供給側配管422は、ハンガー431の移動方向と反対方向、すなわち、下流側から上流側へ向かう方向に氷スラリーSを供給するように冷凍槽410に接続されたが、氷スラリーSの状態や供給側配管422の内径等によっては、冷凍槽410に対する方向は適宜変更してよい。
【0125】
上述した実施形態では、ラッピングにぎり寿司Wは氷スラリーS内を移動することによって冷凍されるとしたが、ラッピングにぎり寿司Wはハンガーによって昇降されるようにして、ハンガー431が下降することで氷スラリーSに氷漬けにされた状態として、上昇したハンガー431から出し入れされるようにしてもよい。
【0126】
上述した実施形態における移動手段430は、ラック432やハンガー431を備えているが、ラック432を備えず、ハンガー431が移動するようにしてもよい。さらに、移動手段430は、ハンガー431に替えて、ラッピングにぎり寿司Wを直接、引っ掛けるようなフックや多数のフックを直列的に繋げる索状体等で構成してもよい。
【0127】
上述した実施形態における冷凍槽410は、バスタブのような形状とし、ハンガー431が上流側から下流側へ移動するとした。しかし、図示しないが、冷凍槽410は、氷スラリーSが循環する環状の流路としてもよい。流路は、2本の並列した直線ラインと、この2本の直線ラインの隣り合った各端部同士を接続する2本の曲線ラインとを有するようにしてもよい。流路は、氷スラリーSの供給口と、氷スラリーSの排出口とを備える。
【0128】
この場合においては、ハンガー431が流路内を移動してもよいし、定位置に停止していてもよい。ハンガー431が停止する場合は、流路内の氷スラリーSに水力を与える推進手段が備えられる。推進手段は、ラッピングにぎり寿司Wに対して氷スラリーSが所定の相対速度以上で衝突するように氷スラリーSを流動させる流動手段となる。推進手段は、少なくともいずれか一方の直線ラインの上流側と曲線ラインの下流側との境界部に配置され、直線ラインがラッピングにぎり寿司Wを冷凍する領域とされ、ハンガー431が昇降する。また、少なくともいずれか一方の曲線ラインを複数のレーンに分割するガイドベーンを備えてもよい。
【0129】
上述した実施形態における被冷凍品Fは、ラッピングにぎり寿司Wとした。しかし、被冷凍品Fは、αデンプンを多く含み、β化が抑制されるものであれば、うどんやラーメンだけでなく、種々のパスタ等の麺類であってもよいし、ピザやお好み焼き、たこ焼き、ベビーカステラ等、限定しない。上述したラッピングにぎり寿司Wを含む食品は、真空引きされているとしたが、特に型崩れしないような被冷凍食品Fにあっては、必ずしも真空パックしなくてもよい。
【0130】
以上まとめると、本発明が適用される食品の冷凍装置は、次のような構成を取れば足り、各種各様な実施形態を取ることができる。
即ち、本発明が適用される食品の冷凍装置400は、
氷スラリーSを-10℃以下に維持した状態で貯留する冷凍槽410と、
αデンプンを含む被冷凍食品Fを前記冷凍槽410に貯留された氷スラリーS内に保持させるハンガー431と、
前記冷凍槽410内に氷スラリーSを供給する氷スラリー供給手段420,450,456,300と、
前記被冷凍食品Fに対して氷スラリーSが所定の相対速度以上で衝突するように氷スラリーを流動させる流動手段130と、
を備えている。
【0131】
冷凍槽410内に貯留された氷スラリーSは、熱伝導率及び熱容量が大きく、冷凍速度が非常に大きいという特長を有している。食品の冷凍装置400は、冷凍槽410内に-20℃以下に維持した状態で貯留された氷スラリーS内でハンガー431が被冷凍食品Fを保持し、被冷凍食品Fに対して氷スラリーSが所定の相対速度以上で衝突するようにする。こうすることで、αデンプンを多く含んだ被冷凍食品Fは、デンプンのβ化が進みやすい温度帯、すなわち、水が凍る直前の2~4℃の温度帯を急速に通過するようにして急速冷凍され、多くのαデンプンがβ化しない。急速冷凍された被冷凍食品Fは、冷凍保管され、必要時に解凍される。解凍された食品は、αデンプンを多く含み、良好な食味が得られる。
【0132】
本発明が適用される食品の冷凍装置400の一態様は、
前記被冷凍食品Fは、にぎり寿司等の米飯食品やうどん等の麺類である。
にぎり寿司等の米飯食品又はうどん等の麺類は、米飯食品自体又は麺類自体の食味が直接的に味わえるため、解凍された食品に多く含まれるαデンプンによる旨味が発揮される。にぎり寿司Wのシャリの水分含有量が60~70%であっても、本発明の食品の冷凍装置は、急速冷凍することができる。
【0133】
本発明が適用される食品の冷凍装置400の他態様は、
前記被冷凍食品Fは、真空パックされている。
真空パックされた被冷凍食品Fは、氷スラリーSに直接、接触しないため、氷スラリーSによって、味が変わらないようにすることができる。また、被冷凍食品Fがにぎり寿司にあっては、酢飯がバラバラにならず、所望の固さでまとめられた状態が維持される。
【0134】
本発明が適用される食品の冷凍方法は、
αデンプンを含む被冷凍食品を急速冷凍する食品の冷凍方法であって、
冷凍槽内に氷スラリーSを-10℃以下に維持した状態で貯留し、前記冷凍槽内の氷スラリー内で前記被冷凍食品をハンガーによって保持し、前記被冷凍食品に対して氷スラリーSが所定の相対速度以上で衝突するように氷スラリーSを流動させることにより、被冷凍食品Fを急速冷凍する。
【0135】
冷凍槽410内に貯留された氷スラリーSは、熱伝導率及び熱容量が大きく、冷凍速度が非常に大きいという特長を有している。これにより、αデンプンを多く含む被冷凍食品Fが冷凍槽410内に-10℃以下に維持された氷スラリーS内で、ハンガー431によって保持され、被冷凍食品Fに対して氷スラリーSが所定の相対速度以上で衝突することで、デンプンのβ化が進みやすい温度帯、すなわち、水が氷る直前の2~4℃の温度帯を急速に通過して急速冷凍させるため、多くのαデンプンを含む被冷凍品がβ化しないようにすることができる。したがって、急速冷凍された被冷凍品が解凍された冷凍食品は、αデンプンを多く含み、良好な食味が得られる。
【0136】
本発明が適用される食品の冷凍方法の一態様において、
前記被冷凍食品Fは、にぎり寿司等の米飯食品又はうどん等の麺類である。
にぎり寿司等の米飯食品又はうどん等の麺類は、米飯食品自体又は麺類自体の食味が食されるため、解凍された食品に多く含まれるαデンプンによる旨味を食することができる。にぎり寿司Wのシャリの水分含有量が60~70%であっても、本発明の食品の冷凍装置は、急速冷凍することができる。
【0137】
本発明が適用される食品の冷凍方法の他態様において、
前記被冷凍食品は、真空パックされている。
真空パックされた被冷凍食品Fは、氷スラリーSに直接、接触しないため、氷スラリーSによって、味が変わらないようにすることができる。また、被冷凍食品Fがにぎり寿司にあっては、酢飯がバラバラにならず、所望の固さでまとめられた状態が維持される。
【0138】
本発明が適用される冷凍食品は、
α化されたデンプンを含む被冷凍食品Fが急速冷凍された冷凍食品であって、
α化されたデンプンが全デンプン中の80%以上である。
【0139】
被冷凍食品Fが急速冷凍された冷凍食品は、全デンプン中の80%以上がαデンプンを含むため、食味が良好なものとなる。
【0140】
本発明が適用される冷凍食品の冷凍方法の一態様において、前記被冷凍食品Fは、米飯食品又は麺類である。
米飯食品又は麺類は、米飯食品自体又は麺類自体の食味が食されるため、解凍された食品に多く含まれるαデンプンによる食味が発揮される。にぎり寿司Wのシャリの水分含有量が60~70%であっても、本発明の食品の冷凍装置は、急速冷凍することができる。
【0141】
本発明が適用される冷凍食品の冷凍方法の一態様の前記米飯食品は、酢飯に魚介類が載せられたにぎり寿司であり、前記魚介類のK値が20以下である。
本発明の冷凍食品は、にぎり寿司の魚介類が氷スラリーSによって-3~-7℃の温度帯を速やかに通過するため、魚介類のK値が20以下にされることにより、解凍されたにぎり寿司について新鮮な食味を味わうことができる。
【符号の説明】
【0142】
1:蓄冷剤冷凍装置、40:ブライン貯留タンク、200:フレークアイス製造装置、300:フレークアイス製造システム、400:冷凍装置、410:冷凍槽、411:底面部、412:側面部、414:氷スラリー噴出口、415:氷スラリー排出口、420:スクリューコンベア、422:供給側配管、430:移動手段(流動手段)、431:ハンガー、433:コンベア、440:断熱材、450:氷スラリー再生手段、451:氷スラリー混合容器、452:氷スラリー戻管、453:配管、454:分離手段、455:ブライン分離管、456:氷スラリー供給管、F:被冷凍食品(にぎり寿司)、S:氷スラリー、W:ラッピングにぎり寿司