(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】船尾用付加物、船尾用付加物を有した船尾形状、及び船舶
(51)【国際特許分類】
B63H 5/16 20060101AFI20230615BHJP
B63B 1/08 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
B63H5/16 D
B63H5/16 C
B63B1/08 Z
(21)【出願番号】P 2019120641
(22)【出願日】2019-06-28
【審査請求日】2022-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】一ノ瀬 康雄
(72)【発明者】
【氏名】川島 英幹
(72)【発明者】
【氏名】川北 千春
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3213165(JP,U)
【文献】特開2018-94959(JP,A)
【文献】特開2016-175635(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第2177365(GB,A)
【文献】梶谷尚ら,“3.省エネルギー船のための要素技術”,日本造船学会誌,日本造船学会,1982年02月,第632号,pp.32-55
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 5/16
B63B 1/02
B63B 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体の船尾に取り付けたプロペラの前方に取り付けられる船尾用付加物であって、前記プロペラのプロペラ軸の上部に主要部を設けた部分円形状を成すダクトと、前記ダクトを前記船尾に取り付ける複数の支柱と、少なくとも前記プロペラ軸の下部に設けた前記船尾に取り付けるフィンとを備え、前記プロペラ軸に対する前記フィンのねじり角を前記支柱のねじり角よりも大きく設定
するとともに、前記フィンと前記支柱の断面形状を翼型であって、異なる前記断面形状に形成したことを特徴とする船尾用付加物。
【請求項2】
前記フィンのねじり角を前記プロペラへ向かう流れが対向流となるように前記プロペラとは逆方向にねじって設定したことを特徴とする請求項1に記載の船尾用付加物。
【請求項3】
前記支柱が前記プロペラ軸の前後方向のラインに平行に形成されたものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の船尾用付加物。
【請求項4】
前記支柱の前記翼型のコード長に対する最大翼厚の翼厚比を、前記フィンの前記翼厚比よりも大きく設定したことを特徴とする請求項
1に記載の船尾用付加物。
【請求項5】
複数の前記フィンの一部が、前記ダクトの内部に配置されることを特徴とする請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の船尾用付加物。
【請求項6】
前記ダクトの外殻よりも前記フィンが突出していることを特徴とする請求項
5に記載の船尾用付加物。
【請求項7】
前記ダクトの前記部分円形状が、120度から240度の角度範囲であることを特徴とする請求項1から請求項
6のいずれか1項に記載の船尾用付加物。
【請求項8】
前記ダクトの前記部分円形状が半円筒状を成し、前記船体の後方から前方視した場合にダクト本体の後縁が、前記プロペラの軸心を略中心とする半円を左右両側にずらした上部の中央に平行部を有した形状であることを特徴とする請求項1から請求項
7のいずれか1項に記載の船尾用付加物。
【請求項9】
前記ダクトの前記部分円形状の仮想半径が、前記プロペラのプロペラ半径の40%から100%の範囲であることを特徴とする請求項1から請求項
8のいずれか1項に記載の船尾用付加物。
【請求項10】
請求項
9に記載の船尾用付加物を有した船尾形状であって、前記船体がV型船尾形状を有し、前記ダクトの前記部分円形状を成す前記仮想半径が、前記プロペラ半径の40%から60%の範囲であることを特徴とする船尾用付加物を有した船尾形状。
【請求項11】
請求項
9に記載の船尾用付加物を有した船尾形状であって、前記船体がU型船尾形状を有し、前記ダクトの前記部分円形状を成す前記仮想半径が、前記プロペラ半径の70%から100%の範囲であることを特徴とする船尾用付加物を有した船尾形状。
【請求項12】
請求項1から請求項
9のいずれか1項に記載の船尾用付加物、又は請求項
10若しくは請求項
11に記載の船尾用付加物を有した船尾形状を前記船体に備えたことを特徴とする船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船尾用付加物、船尾用付加物を有した船尾形状、及び船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶における省エネ装置の一つに、プロペラの前方に取り付けられるダクト等の船尾用付加物がある。
特許文献1には、船尾のスクリュープロペラの前方に、プロペラ軸を囲むボスから放射状に突出し、プロペラへ流入する流れの向きを、プロペラの回転方向と逆向きに変換するように形成した複数個のフィンを備えたリアクションフィンにおいて、プロペラの翼が下方へ移動する側にあってはフィンのプロペラ軸中心線に対する取付角を後縁上りにボスの取付部からフィンの先端にむかって大きくなるように捩り、翼が上方へ移動する側にあってはフィンの取付角を後縁下りにボスの取付部からフィンの先端まで同一にするとともにフィン間およびフィンとスタンフレームとの間を固着する補強材をプロペラ軸中心線を通る水線面と交叉しないように配設した船舶推進性能向上装置が開示されている。
また、特許文献2には、流れ案内面部を含み、少なくとも1つの第1フィンが流れ案内面部から突出し、第1フィンの第1端部は流れ案内面部に固定されており、第1フィンの第2端部は自由端として構成されている、船舶の所要駆動力を減らすための装置が開示されている。
また、特許文献3には、前方ノズルと、4つのフィンとを備え、フィンはそれぞれ、内側部分及び外側部分を備え、フィンの内側部分は、プロペラシャフトが取付られたシャフトブラケットから前方ノズルまで延びており、フィンの外側部分は、前方ノズルからフィンの自由端まで延びており、フィンは、それぞれの内側部分においてシャフトブラケットに固定して接続され、前方ノズルに固定して接続される、二軸船の所要駆動力を低減する装置が開示されている。
また、特許文献4には、船体の船尾に取り付けたプロペラの前方に取り付けられる船尾用ダクトにおいて、ダクト本体を180度から270度の角度範囲の略円弧状に形成し、船体を後方から前方視した状態でプロペラの上下方向のプロペラ中心線に対してダクト本体のダクト中心線がプロペラの回転方向に傾き角を有するように、ダクト本体を支持手段にて船尾に取り付けることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭58-493号公報
【文献】特表2016-520474号公報
【文献】特開2016-175635号公報
【文献】特開2015-221652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~特許文献4は、ダクトの形状及び配置とフィンの配置に加え、ダクトの支柱のねじり角とフィンのねじり角との関係に着目して省エネ効果を向上させようとするものではない。
そこで本発明は、より省エネ効果の高い船尾用付加物、その船尾用付加物を有した船尾形状、及びそれらを備えた船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載に対応した船尾用付加物においては、船体の船尾に取り付けたプロペラの前方に取り付けられる船尾用付加物であって、プロペラのプロペラ軸の上部に主要部を設けた部分円形状を成すダクトと、ダクトを船尾に取り付ける複数の支柱と、少なくともプロペラ軸の下部に設けた船尾に取り付けるフィンとを備え、プロペラ軸に対するフィンのねじり角を支柱のねじり角よりも大きく設定するとともに、フィンと支柱の断面形状を翼型であって、異なる断面形状に形成したことを特徴とする。
請求項1に記載の本発明によれば、ダクトの主要部をプロペラ軸の上部に設けることで流れの剥離を低減すると共に、プロペラ軸下部のエネルギーをフィンで回収することができる。また、プロペラ軸に対するフィンのねじり角を支柱のねじり角よりも大きく設定することで、効率的に省エネ効果を高めることができる。また、支柱はダクトの構造強度の保証、フィンは推進性能の向上、というそれぞれの目的に合わせて適切な形状に形成しやすくなる。
【0006】
請求項2記載の本発明は、フィンのねじり角をプロペラへ向かう流れが対向流となるようにプロペラとは逆方向にねじって設定したことを特徴とする。
請求項2に記載の本発明によれば、プロペラの逆転流を形成し、二重反転効果によるプロペラとの干渉により省エネ効果を高めることができる。
【0007】
請求項3記載の本発明は、支柱がプロペラ軸の前後方向のラインに平行に形成されたものであることを特徴とする。
請求項3に記載の本発明によれば、支柱は、ダクトを支える強度部材であり、かつダクト製造の基準となるものであるから、プロペラ軸の前後方向のラインと平行に形成してねじり角を0度とすることで、ダクトを安価に製作することができる。
【0008】
請求項4記載の本発明は、支柱の翼型のコード長に対する最大翼厚の翼厚比を、フィンの翼厚比よりも大きく設定したことを特徴とする。
請求項4に記載の本発明によれば、支柱はダクトの構造強度の保証、フィンは推進性能の向上、というそれぞれの目的に合わせて、より一層適切な形状に形成することができる。
【0009】
請求項5記載の本発明は、複数のフィンの一部が、ダクトの内部に配置されることを特徴とする。
請求項5に記載の本発明によれば、フィンをダクトの内部にも設けることで、省エネ効果を高めることができる。
【0010】
請求項6記載の本発明は、ダクトの外殻よりもフィンが突出していることを特徴とする。
請求項6に記載の本発明によれば、省エネ効果をより一層高めることができる。
【0011】
請求項7記載の本発明は、ダクトの部分円形状が、120度から240度の角度範囲であることを特徴とする。
請求項7に記載の本発明によれば、プロペラ軸の下方の流れの剥離を低減し、船長方向の推力を得やすくなる。
【0012】
請求項8記載の本発明は、ダクトの部分円形状が半円筒状を成し、船体の後方から前方視した場合にダクト本体の後縁が、プロペラの軸心を略中心とする半円を左右両側にずらした上部の中央に平行部を有した形状であることを特徴とする。
請求項8に記載の本発明によれば、ダクトによる省エネ効果を高めることができる。
【0013】
請求項9記載の本発明は、ダクトの部分円形状の仮想半径が、プロペラのプロペラ半径の40%から100%の範囲であることを特徴とする。
請求項9に記載の本発明によれば、ダクトを適切な大きさにして省エネ効果を高めることができる。
【0014】
請求項10記載に対応した船尾形状においては、船尾用付加物を有した船尾形状であって、船体がV型船尾形状を有し、ダクトの部分円形状を成す仮想半径が、プロペラ半径の40%から60%の範囲であることを特徴とする。
請求項10に記載の本発明によれば、V型船型においてダクトを適切な大きさにして省エネ効果を高めることができる。
【0015】
請求項11記載に対応した船尾形状においては、船尾用付加物を有した船尾形状であって、船体がU型船尾形状を有し、ダクトの部分円形状を成す仮想半径が、プロペラ半径の70%から100%の範囲であることを特徴とする。
請求項11に記載の本発明によれば、U型船型においてダクトを適切な大きさにして省エネ効果を高めることができる。
【0016】
請求項12記載に対応した船舶においては、船尾用付加物を有した船尾形状を船体に備えたことを特徴とする。
請求項12に記載の本発明によれば、省エネ効果に優れた船舶を提供することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の船尾用付加物によれば、ダクトの主要部をプロペラ軸の上部に設けることで流れの剥離を低減すると共に、プロペラ軸下部のエネルギーをフィンで回収することができる。また、プロペラ軸に対するフィンのねじり角を支柱のねじり角よりも大きく設定することで、効率的に省エネ効果を高めることができる。また、フィンと支柱の断面形状を翼型であって、異なる断面形状に形成することで、支柱はダクトの構造強度の保証、フィンは推進性能の向上、というそれぞれの目的に合わせて適切な形状に形成しやすくなる。
【0018】
また、フィンのねじり角をプロペラへ向かう流れが対向流となるようにプロペラとは逆方向にねじって設定した場合には、プロペラの逆転流を形成し、二重反転効果によるプロペラとの干渉により省エネ効果を高めることができる。
【0019】
また、支柱がプロペラ軸の前後方向のラインに平行に形成されたものである場合には、支柱は、ダクトを支える強度部材であり、かつダクト製造の基準となるものであるから、プロペラ軸の前後方向のラインと平行に形成してねじり角を0度とすることで、ダクトを安価に製作することができる。
【0020】
また、支柱の翼型のコード長に対する最大翼厚の翼厚比を、フィンの翼厚比よりも大きく設定した場合には、支柱はダクトの構造強度の保証、フィンは推進性能の向上、というそれぞれの目的に合わせて、より一層適切な形状に形成することができる。
【0021】
また、複数のフィンの一部が、ダクトの内部に配置される場合には、フィンをダクトの内部にも設けることで、省エネ効果を高めることができる。
【0022】
また、ダクトの外殻よりもフィンが突出している場合には、省エネ効果をより一層高めることができる。
【0023】
また、ダクトの部分円形状が、120度から240度の角度範囲である場合には、プロペラ軸の下方の流れの剥離を低減し、船長方向の推力を得やすくなる。
【0024】
また、ダクトの部分円形状が半円筒状を成し、船体の後方から前方視した場合にダクト本体の後縁が、プロペラの軸心を略中心とする半円を左右両側にずらした上部の中央に平行部を有した形状である場合には、ダクトによる省エネ効果を高めることができる。
【0025】
また、ダクトの部分円形状の仮想半径が、プロペラのプロペラ半径の40%から100%の範囲である場合には、ダクトを適切な大きさにして省エネ効果を高めることができる。
【0026】
また、本発明の船尾形状によれば、V型船型においてダクトを適切な大きさにして省エネ効果を高めることができる。
【0027】
また、本発明の船尾形状によれば、U型船型においてダクトを適切な大きさにして省エネ効果を高めることができる。
【0028】
また、本発明の船舶によれば、省エネ効果に優れた船舶を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図6】船体の肥大度と区分角度(V型船型とU型船型を分ける角度)との関係を示す図
【
図7】本発明の他の実施形態による船尾用付加物の構成図
【
図9】同左舷下方に設けたフィンのねじり角を示す図
【
図10】同左舷下方に設けたフィンにおけるねじり角と馬力削減率の関係図
【
図11】同左舷下方に設けたフィンにおけるねじり角と推力減少係数の関係図
【
図12】同左舷上方に設けたフィンのねじり角を示す図
【
図13】同左舷上方に設けたフィンにおけるねじり角と馬力削減率の関係図
【
図14】同左舷上方に設けたフィンにおけるねじり角と推力減少係数の関係図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態による船尾用付加物、船尾用付加物を有した船尾形状、及び船舶について説明する。
【0031】
図1は本実施形態による船舶の構成図である。
船舶1において、船体10の船尾にはプロペラ20が取り付けられている。プロペラ10の前方には船尾用付加物30が取り付けられている。プロペラ10の後方には舵40が取り付けられている。また、舵40にはフィン型省エネ付加物50が設けられている。
なお、「A.P.」は船尾垂線を示し、「F.P.」は船首垂線を示し、「L.P.P.」は船長(垂線間長)を示している。
【0032】
図2は本実施形態による船尾用付加物の構成図であり、
図2(a)は中心角180度のダクトを周方向に傾けることなく設けた例を示し、
図2(b)は中心角150度のダクトを周方向に傾けて設けた例を示している。
プロペラ軸21は船尾管で支持されており、その周囲は船尾管外殻で覆われている。船体10の一部である船尾管部11は、船尾管と船尾管外殻で構成されている。
船尾用付加物30は、筒状のダクト31と、複数の支柱32と、複数のフィン33を備える。なお、支柱32とフィン33はそれぞれ複数であってよく、単数であってもよく、複数と単数を組み合わせたものであってもよい。
ダクト31は、船体10の後方から前方視すると円形状ダクトの一部を切り取ったような部分円形状を成し、プロペラ20のプロペラ軸21の上部に主要部を設けている。ここで、「プロペラ軸21の上部に主要部を設け」とは、ダクト31の外殻の1/2以上がプロペラ軸21の上方側にあることをいう。また、ここでいうプロペラ軸21は、プロペラ軸21の軸心であることが好ましいが、プロペラ軸21の上端、又は下端であってもよい。
【0033】
支柱32は、ダクト31を船体10のうちの船尾管部11に支持するものであり、ダクト31は、支柱32を介して船尾に取り付けられている。支柱32の断面形状は翼型としている。
支柱32は、一方の支柱32aと他方の支柱32bとからなる。一方の支柱32aは、一端が船体10の船尾管部11に接続され、他端がダクト31の一端に接続されている。他方の支柱32bは、一端が船体10の船尾管部11に接続され、他端がダクト31の他端に接続されている。なお、支柱32の一端は、船尾管部11以外の船体10の他の部分に接続してもよい。また、3つ以上の支柱32を設けることもできる。
【0034】
フィン33は、プロペラ軸21の下部に少なくとも一つ設けられる。フィン33の断面形状は翼型としている。船体前後方向におけるダクト31の位置とフィン33の位置は略同一である。
図2(a)においては、フィン33として、第一フィン33a、第二フィン33b及び第三フィン33cを船尾管部11に取り付けた例を示している。
第一フィン33a及び第二フィン33bは、プロペラ軸21の下部でダクト31のない箇所に設けられ、第三フィン33cはプロペラ軸21の上部に設けられている。第一フィン33a及び第二フィン33bは、一端は船体10と接続しており、プロペラ軸21よりも下方に位置する他端は他部材と接続していない。すなわち、第一フィン33a及び第二フィン33bは、片持状態で取り付けられている。
第三フィン33cは、一端は船体10と接続しており、プロペラ軸21よりも上方に位置する他端はダクト31の外殻から突き出ている。
【0035】
図2(b)においては、フィン33として、第一フィン33d及び第二フィン33eを船尾に取り付けた例を示している。第一フィン33dはプロペラ軸21の下部でダクト31のない箇所に設けられ、第二フィン33eはプロペラ軸21と同じ高さでダクト31のない箇所に設けられている。第一フィン33d及び第二フィン33eは、一端は船体10と接続しており、プロペラ軸21よりも下方又は側方に位置する他端は他部材と接続していない。すなわち、第一フィン33d及び第二フィン33eは、片持状態で取り付けられている。
【0036】
ダクト型の省エネ付加物を設けることによる省エネ効果の要因は、ダクトが船体推進方向に出す推力である。そして、殆どの推力はダクト上部で出される。ここで、仮にダクトを円形状とした場合には、ダクト下部で流れが剥離してしまい推力が減少して性能悪化の懸念がある。特に、本実施形態のように、舵40にフィン型省エネ付加物50を設けている場合には、舵40の前方に円形状ダクトを設置すると、円形状ダクトの下部(プロペラ軸21よりも下側)で流れが大規模に剥離してフィン型省エネ付加物50への流れが阻害されることによりフィン型省エネ付加物50の性能が悪化してしまう。
そこで本実施形態では、ダクト31を円形状ではなく部分円形状とし、ダクト31の大部分(少なくとも1/2以上、好ましくは3/4以上)をプロペラ軸21よりも上方に設けることで、流れの剥離を低減させ省エネ効果を高めている。また、プロペラ軸21の下部には下方へ向けて配置されるフィン33を設けることで、プロペラ軸21の下方におけるエネルギーを回収し、さらに省エネ効果を高めている。なお、
図2(b)に示すように、ダクト31の一部がプロペラ軸21よりも下方にある場合であっても、ダクト31が配置されていない位置にフィン33を設けることが好ましい。
【0037】
プロペラ軸21に対するフィン33のねじり角は、プロペラ軸21に対する支柱32のねじり角よりも大きく設定している。
ここで、プロペラ軸21に対するフィン33のねじり角は、フィン33の翼断面の翼弦線(コードライン)とプロペラ軸21との角度と定義する。フィン33の翼断面の翼弦線とプロペラ軸21が平行なときが0度で、プロペラ20が作る流れと反対方向の流れを作るねじり角の方向を正とする。なお、フィン33の翼断面の翼弦線とプロペラ軸21との角度は、2つのベクトルの内積から角度が一意に算定される。
同様に、プロペラ軸21に対する支柱32のねじり角は、支柱32の翼断面の翼弦線とプロペラ軸21との角度と定義する。
支柱32をねじることによる省エネ効果は、フィン33をねじることによる省エネ効果よりも小さい。また、支柱32はダクト31を支える強度部材であり、かつダクト31を製造する際の基準となるため、ねじり角を小さくすることで製作コストを抑えることができる。
一方、フィン33は、ダクト31を支える強度部材ではない。また、フィン33は、一翼ずつ製作して、一端を船体10に溶接等で接合する際にねじり角を設定できるので、流れに対して適切な翼性能を発揮する角度に容易にねじり角を設定できる。
したがって、プロペラ軸21に対するフィン33のねじり角を支柱32のねじり角よりも大きく設定することで、効率的に省エネ効果を高めることができる。
【0038】
フィン33のねじり角は、プロペラの逆転流を作る必要からプロペラ20へ向かう流れが対向流となるようにプロペラ20とは逆方向にねじり角を設定することが好ましい。
これによりプロペラ20の逆転流を形成し、二重反転効果によるプロペラ20との干渉により省エネ効果を高めることができる。
【0039】
図2(a)に示す第三フィン33cのように、複数のフィン33の一部は、ダクト31の内部に配置することができる。フィン33を複数設ける場合は、一部のフィン33をダクト31の内部にも設けることで、省エネ効果を高めることができる。
この場合において、ダクト31の内部に配置したフィン33cは、ダクト31の外殻よりも突出させてもよい。これにより、省エネ効果をより一層高めることができる。なお、フィン33cは、ダクト31の外殻よりも突出する部分と、ダクト31の内部に配置する部分を構造的に別体で構成することもできる。この場合、外殻よりも突出する部分と、ダクト31の内部に配置する部分をずらして配置することもできる。
【0040】
支柱32は、プロペラ軸21の前後方向のラインに平行に形成することで、ねじり角を無し(0度)とすることが好ましい。
上述のように、支柱32は、ねじることによる省エネ効果は小さく、支柱32の配置によっては、ねじり角を設けると、ねじり角を0度とする場合よりも性能が悪化することもある。よって、支柱32のねじり角を0度とすることで、省エネ効果の低下を防止できる。また、支柱32は、ダクト31を支える強度部材であり、かつダクト製造の基準となるものであるから、支柱32のねじり角を0度とすることで、ダクト31を安価に製作することができる。
【0041】
図3は本実施形態によるフィン又は支柱の断面図である。
上述のように、支柱32及びフィン33の断面形状は共に翼型として推進性能を向上させているが、支柱32の断面形状とフィン33の断面形状は異ならせることが好ましい。なお、支柱32の断面形状は矩形や楕円形等の翼型以外の形状としたり、翼型や翼型以外の形状を組み合わせて構成することも可能である。
支柱32とフィン33とで断面形状を異ならせることで、支柱32はダクト31の構造強度の保証、フィン33は推進性能の向上、というそれぞれの目的に合わせて適切な形状に形成しやすくなる。
【0042】
また、支柱32の翼型のコード長Aに対する最大翼厚Bの翼厚比を、フィン33の翼厚比よりも大きく設定することが好ましい。
これにより、支柱32はダクト31の構造強度の保証、フィン33は推進性能の向上、というそれぞれの目的に合わせて、より一層適切な形状に形成することができる。
また、支柱32は、ダクト31の構造強度の保証という観点から、一端から他端にかけて翼厚比の変化がない一定の厚さとすることがさらに好ましい。
また、片持ち状態で保持されるフィン33は、船体10に取り付けている一端から自由端である他端に向かうにつれ翼厚比が小さくなるように変化させることが好ましい。これによりフィン33を軽量化することができる。なお、フィン33を複数有する場合、それぞれのフィン33の翼厚比を同一とすることも異ならすこともできる。また、それぞれのフィン33のねじり角を同一とすることも異ならせることもできる。それぞれのフィン33のねじり角を異ならせる場合、フィン33の最小のねじり角よりも支柱32のねじり角を小さくすることが好ましい。
【0043】
ダクト31の部分円形状は、120度から240度の角度範囲であることが好ましい。
ダクト31の中心角を120度から240度の範囲とすることにより、プロペラ軸21の下方の流れの剥離を低減し、船長方向の推力を得やすくなる。
【0044】
ダクト31の部分円形状の仮想半径r(
図2参照)は、プロペラ20のプロペラ半径の40%から100%の範囲であることが好ましい。
これにより、ダクト31を適切な大きさにして省エネ効果を高めることができる。
【0045】
また、船体10がV型船尾形状を有する場合には、ダクト31の部分円形状を成す仮想半径rが、プロペラ半径の40%から60%の範囲とすることが好ましい。
これにより、V型船型においてダクト31を適切な大きさにして省エネ効果を高めることができる。
【0046】
また、船体10がU型船尾形状を有する場合には、ダクト31の部分円形状を成す仮想半径rが、プロペラ半径の70%から100%の範囲とすることが好ましい。
これにより、U型船型においてダクト31を適切な大きさにして省エネ効果を高めることができる。
【0047】
ここでV型船型とU型船型の定義について説明する。
図4は、本実施形態において船体10の肥大度Cbが0.80の場合の例であり、船体10を前後方向(船長方向)に輪切りにしたときにできる曲面の断面を示す船尾線図である。なお、肥大度Cbは、船体10の排水量を、船長と船幅と喫水で乗算した値で除して得られる無次元数である。
図4において、線100はU型船型を示し、線110はV型船型を示している。線120はU型線型とV型船型とを分ける線であり、線130はプロペラ20のプロペラ軸(軸心)21と水平な線である。
また、「A.P.」は舵40の回転の中心を通る垂直線である船尾垂線の位置を示し、「S.S.□」は、垂線間長(船長)L.P.P.全体を10としたときの船尾垂線A.P.からの位置を示す。すなわち、「S.S.1」は、船尾垂線A.P.から垂線間長L.P.P.の10%前方の位置である。
なお、「S.S.1/2」と船尾垂線A.P.の位置における線100及び線110は省略している。
この
図4のように、船体10の肥大度Cbが0.80の場合は、線130と、「S.S.1」の位置において線100と線110が交わる点を通る線100又は線110の接線との成す接線角度θ
1、θ
2が、84度を超える場合の船型をU型船型、84度以下の場合の船型をV型船型と定義している。なお、
図4においてはU型船型の線100の接線角度θ
1は92度であり、V型船型の線110の接線角度θ
2は82度である。
図5は、本実施形態において船体10の肥大度Cbが0.87の場合の例であり、船体10を前後方向(船長方向)に輪切りにしたときにできる曲面の断面を示す船尾線図である。円140はプロペラ円を示している。なお、
図4で説明した事項と実質的に同様な点は、説明を省略する。
この
図5のように、船体10の肥大度Cbが0.87の場合は、線130と、「S.S.1」の位置において線100と線110が交わる点を通る線100又は線110の接線との成す接線角度θ
1、θ
2が、57度を超える場合の船型をU型船型、57度以下の場合の船型をV型船型と定義している。なお、
図5においてはU型船型の線100の接線角度θ
1は75度であり、V型船型の線110の接線角度θ
2は40度である。
このように、V型船型とU型船型は、船尾垂線A.P.から船長(垂線間長)L.P.P.の10%前方の位置における船体10のプロペラ軸(軸心)21を通る水平な線と船体10の接線との成す接線角度と、船体10の肥大度Cbにより区分して定義される。
図6(a)、(b)は、船体10の肥大度Cbと区分角度(V型船型とU型船型を分ける角度)との関係を示す図である。
図6(a)において、船体10の肥大度Cbと、船尾垂線A.P.から船長(垂線間長)L.P.P.の10%前方の位置における船体10のプロペラ軸(軸心)21を通る水平な線130と船体10の接線との成す接線角度θ
1、θ
2が、線150以下となるものをV型船尾形状(V型船型)として定義して取り扱う。肥大度Cbが0.783以下では、区分角度である90度以下の接線角度のものがV型船尾形状に相当する。また、肥大度Cbが0.783を超え0.914未満の範囲においては、区分角度=-342.86Cb+358.29 により得られる数値の区分角度以下が、V型船尾形状に相当する。また、肥大度Cbが0.914以上では、区分角度である45度以下のものがV型船尾形状に相当する。なお、
図6(b)の数値は、より簡便に肥大度とV型船型とU型船型の関係を区別するためのものであり、実際は肥大度Cb、区分角度とも各数値の間の値を取ることもできる。
【0048】
図7は、本発明の他の実施形態による船尾用付加物の構成図である。なお、上記した実施形態と同一構成要素については重複説明を省略する。
本実施形態では、ダクト31の部分円形状が半円筒状を成し、船体10の後方から前方視した場合にダクト本体の後縁が、プロペラ20の軸心を略中心とする半円を左右両側にずらした上部の中央に平行部34を有した形状としている。
図7において点線で示す円α及び円βは、ダクト本体の後縁の半円の仮想内周を示している。円α及び円βは、プロペラ20の軸心(プロペラ軸)21を略中心とする円を左右両側にずらしたものであり、ダクト本体は、円α及び円βの一部を構成する半円に平行部34を連ねて外殻を構成して形成される。
これにより、ダクト31による省エネ効果を高めることができる。特にダクト31を周方向に傾けないで取り付ける場合に有効である。
なお、平行部34は、ほぼ平らな形状であり、ダクト31を周方向に傾けないで取り付けた状態において略水平となる。平行部34の左右水平方向の幅Wは、プロペラ20の直径の5%以上25%以下とすることが好ましい。
【0049】
次に、プロペラ軸21に対するフィン33のねじり角と支柱32のねじり角との関係を数値解析した結果について説明する。
数値解析においては、3次元の非圧縮性レイノルズ平均ナビエ・ストークス方程式を離散的に解いて、船体10周りの流場をシミュレーションした。使用した計算格子は850万セル程度の非構造格子であり、船長6m相当の模型船周りの流場をシミュレーションした。
【0050】
図8は、数値解析に用いた船尾用付加物の構成図である。なお、プロペラ20は図示を省略している。
ダクト31は、ダクト本体が180度の略円弧状に形成されており、周方向に傾けることなく設けている。ダクト31は、一方の支柱32aと他方の支柱32bによって船体10に支持されている。左舷下方の第一フィン33a及び右舷下方の第二フィン33bは、プロペラ軸21の下部でダクト31のない箇所に設けられ、左舷上方の第三フィン33cはプロペラ軸21の上部に設けられている。
ダクト31の支柱32のねじり角は0度に設定し、左舷下方の第一フィン33a及び左舷上方の第三フィン33cのねじり角をそれぞれ-10度から+15度の範囲で変化させ、そのときの船尾用付加物の効果による実船の馬力削減率を数値シミュレーションで推定した。
なお、左舷下方の第一フィン33a及び左舷上方の第三フィン33cの標準ねじり角は共に5度とし、馬力削減率の基準は、左舷下方-10度、左舷上方5度の馬力算定結果とした。これは、標準の左舷下方5度、左舷上方5度の条件では計算が発散し、結果がないためである。
【0051】
図9は、左舷下方に設けたフィンのねじり角を示す図である。
図10は、左舷下方に設けたフィンにおけるねじり角と馬力削減率の関係図である。
図11は、左舷下方に設けたフィンにおけるねじり角と推力減少係数の関係図である。
まず、
図9に示すように、左舷下方の第一フィン33aのねじり角を-10度から15度まで変更し、そのときの馬力削減率を算定した。なお、右舷下方の第二フィン33bのねじり角、及び左舷上方の第三フィン33cのねじり角は、5度に固定とした。
結果は、
図10に示すように、6度程度で馬力削減率が最大となり、2度から10度で好ましい馬力削減率が得られた。なお、計算結果の不安定性を考慮し結果を2次関数で補間している。
また、これらの馬力削減効果の要因は、
図11に示すように、ダクト31及びフィン33が船体推進方向へ発生させる推力により改善する推力減少係数(1-t)の改善である。
【0052】
図12は、
図9とは反対側から見た左舷上方に設けたフィンのねじり角を示す図である。
図13は、左舷上方に設けたフィンにおけるねじり角と馬力削減率の関係図である。
図14は、左舷上方に設けたフィンにおけるねじり角と推力減少係数の関係図である。
次に、
図12に示すように、左舷上方の第三フィン33cのねじり角を-5度と15度に変更し、そのときの馬力削減率を算定した。なお、左舷下方の第一フィン33aのねじり角、及び右舷下方の第二フィン33bのねじり角は、5度に固定とした。
結果は、
図13に示すように、15度で馬力削減率が最大となった。
これらの馬力削減効果の要因は、先ほどと同様に、
図14に示すように、ダクト31及びフィン33が船体推進方向へ発生させる推力により改善する推力減少係数(1-t)の改善である。
【0053】
数値解析の結果、馬力削減率は、左舷下方の第一フィン33a、及び左舷上方の第三フィン33cともに、6度から15度程度の正の角度で高いことが分かる。支柱32は上述のように製造上の観点等から0度であることが好ましいことから、プロペラ軸21に対するフィン33のねじり角を支柱32のねじり角よりも大きくすることで、効率的に省エネ効果を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の船尾用付加物、船尾用付加物を有した船尾形状、及び船舶は、1軸船のみならず2軸船や他軸船にも適用可能であり、また、単胴船のみならず双胴船や多胴船にも適用可能である。
【符号の説明】
【0055】
1 船舶
10 船体
20 プロペラ
21 プロペラ軸
30 船尾用付加物
31 ダクト
32 支柱
33 フィン
34 平行部
A コード長
B 最大翼厚
r 仮想半径