(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】凹凸転写方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/02 20060101AFI20230615BHJP
B21D 37/20 20060101ALI20230615BHJP
B21D 31/00 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
B21D22/02 A
B21D37/20 Z
B21D31/00 A
B21D31/00 B
(21)【出願番号】P 2019161790
(22)【出願日】2019-09-05
【審査請求日】2022-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 泰晴
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-074594(JP,A)
【文献】特開2008-246570(JP,A)
【文献】特開平09-164435(JP,A)
【文献】特開2004-034045(JP,A)
【文献】特開平02-037930(JP,A)
【文献】特開2019-147318(JP,A)
【文献】特開2019-137051(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0320240(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/02
B21D 37/20
B21D 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟質材の表面に顔料を含む着色剤によって凸部を形成し、
前記着色剤によって凸部を形成した前記軟質材の表面と金属製の被加工材の加工面とを重ねて加圧することによって前記被加工材の加工面に凹凸を形成する凹凸転写方法。
【請求項2】
前記着色剤によって凸部を形成した前記軟質材の表面と前記被加工材の加工面とを重ねて前記軟質材と前記被加工材とを一対の金型に挟んで加圧する請求項1に記載の凹凸転写方法。
【請求項3】
前記着色剤によって凸部を形成した前記軟質材の表面と前記被加工材の加工面とを重ねて前記軟質材と前記被加工材とを一対のロールの間に通過させて加圧する請求項1に記載の凹凸転写方法。
【請求項4】
一対の金型の間に外形が円柱状である前記被加工材を挟み込み、
少なくとも一方の前記金型の前記被加工材側の面に前記着色剤によって凸部を形成した前記軟質材が表面を前記被加工材側に向けて保持されており、
一対の前記金型を相対的に移動させることによって前記被加工材を回転させつつ加圧する請求項1に記載の凹凸転写方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は凹凸転写方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は従来のプレス加工金型が開示されている。このプレス加工金型は圧印加工(コイニング加工)を行うものである。このプレス加工金型は金属製の被加工材に転写したい所望の形状の凹凸が金型の表面に形成されている。金属製の被加工材の加工面に微細な凹凸を圧印加工する際に利用される金型は、一般的に切削、型彫り放電加工、レーザー加工、電子ビーム加工、及びエッチング等によって、微細な凹凸が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、金型に微細な凹凸を形成する加工は、加工コストが高く、加工時間を長く要する。このように、微細な凹凸が形成された金型を利用して金属製の被加工材に微細な凹凸を形成しようとすると、金型の加工コストが高くなるため、多品種少量生産には向いていない。一方、微細な凹凸が形成された金型を大量生産に利用した場合、金型の微細な凹凸の摩耗が進行し、定期的に金型を修正、更新しなければならない。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、金属製の被加工材に高精細、高精度の凹凸を安価に形成することができる凹凸転写方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の凹凸転写方法は、軟質材の表面に顔料を含む着色剤によって凸部を形成し、前記着色剤によって凸部を形成した前記軟質材の表面と金属製の被加工材の加工面とを重ねて加圧することによって前記被加工材の加工面に凹凸を形成する。
【0007】
この凹凸転写方法は、顔料を含む着色剤によって軟質材の表面に凸部を容易に形成することができる。特に、顔料を含む着色剤によって凸部を形成するため、微細な凹凸を所望する形状で軟質材の表面に容易に形成することができる。このため、この凹凸転写方法は、多品種少量生産に利用しても製造コストを抑えることができる。また、この凹凸転写方法は、軟質材の凹凸が摩耗すれば、同じ凹凸が形成された軟質材を容易に製造することができる。本発明における顔料を含む着色剤は、トナー等の固体、インク等の液体であり、レーザープリンタやインクジェットプリンタ等に利用して印刷することができる。
【0008】
したがって、本発明の凹凸転写方法は、金属製の被加工材に高精細、高精度の凹凸を安価に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1のプレス加工に応用した際の概略図である。
【
図2】(a)は実施例1の同心円パターンであり、(b)は軟質材に同心円パターンを印刷した写真である。
【
図3】(a)はPETフィルムに印刷した同心円パターンの一部を示す3次元表面画像であり、(b)はその断面形状である。
【
図4】各種軟質材を使用して凹凸を転写した第1試験片の表面写真である。
【
図5】各種軟質材を使用して凹凸を転写した第2試験片の表面写真である。
【
図6】凹凸を転写した第2試験片の測定位置と測定長さを示す表面写真である。
【
図7】各平均圧力で加圧して凹凸が形成された第2試験片の各測定部の断面形状である。
【
図8】各平均圧力で加圧して凹凸が形成された第3試験片の断面形状である。
【
図9】実施例2の圧延加工に応用した際の概略図である。
【
図10】圧延加工によって凹凸が転写された純アルミニウム材を示す写真である。
【
図11】実施例3の転造加工に応用した際の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
【0011】
本発明の凹凸転写方法は、前記着色剤によって凸部を形成した前記軟質材の表面と前記被加工材の加工面とを重ねて前記軟質材と前記被加工材とを金型に挟んで加圧してもよい。このように、本発明の凹凸転写方法はプレス加工に応用することができる。
【0012】
本発明の凹凸転写方法は、前記着色剤によって凸部を形成した前記軟質材の表面と前記被加工材の加工面とを重ねて前記軟質材と前記被加工材とを一対のロールの間に通過させて加圧してもよい。このように、本発明の凹凸転写方法は圧延加工に応用することができる。
【0013】
本発明の凹凸転写方法は、一対の金型の間に外形が円柱状である前記被加工材を挟み込み、少なくとも一方の前記金型の前記被加工材側の面に前記着色剤によって凸部を形成した前記軟質材が表面を前記被加工材側に向けて保持されており、一対の前記金型を相対的に移動させることによって前記被加工材を回転させつつ加圧してもよい。このように、本発明の凹凸転写方法は転造加工に応用することができる。ここで、外形が円柱状とは、被加工材が円柱状であるだけでなく、被加工材が円筒状であり中心の空間に芯金が挿入された状態の被加工材も含まれる。
【0014】
次に、本発明の凹凸転写方法を具体化した実施例1~実施例3について、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
<実施例1>
実施例1の凹凸転写方法は、
図1に示すように、金属製の平行平板型10を用いたプレス加工に応用したものである。平行平板型10が一対の金型に相当する。この凹凸転写方法は、先ず、レーザープリンタで軟質材20の表面に印刷することによって、所望する形状の凸部30を軟質材20の表面に形成する。そして、軟質材20の表面と金属製の被加工材40の加工面とを重ねて軟質材20と被加工材40とを平行平板型10に挟み、プレス機等で矢印F方向に加圧して、被加工材に凹凸を転写する。
【0016】
このようにプレス加工に応用した凹凸転写方法において、軟質材20の種類の影響、及び加圧力の影響について実験を行った。その内容を以下に説明する。
【0017】
軟質材20は、普通紙,ケント紙,コート紙(連量90kg、135kg)、及びポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの5種類を使用した。レーザープリンタによって、
図2(a)及び(b)に示すように、最大円の直径が36mmであり、1.2mm間隔の同心円パターンを各軟質材の表面に印刷した。レーザープリンタのトナーが顔料を含む着色剤に相当する。
図3(a)及び(b)に示すように、レーザープリンタによって印刷された線が凸部30を形成している。この凸部30の平均厚さは5.6μmであり、平均幅は305μmである。
【0018】
金属製の被加工材40としての試験片は、初期板厚さが1mmであり、直径が36mmの純アルミニウム(A1050-O)材である。この試験片の初期表面は圧延痕が残ったままのものを使用した。この試験片の加工面の算術平均粗さRaは0.23μmである。試験片はアセトン中での超音波洗浄した後に使用した。
【0019】
金型である金属製の平行平板型10は、直径60mm、高さ25mmであり、鏡面仕上げとし、TiCN(炭窒化チタン)コーティングを施してある。材質は合金工具鋼(SKD11)である。この平行平板型10をアムスラー型万能試験機によって加圧した。
【0020】
直径と厚さとの比(直径/厚さ)が24である第1試験片の加工面に対し、レーザープリンタによって同心円パターンを表面に印刷した各軟質材20の表面を平均圧力295MPaで加圧した。このようにして加工面に凹凸が転写された第1試験片の顕微鏡写真を
図4に示す。
図4において、左側が第1試験片の中央であり、右側が第1試験片の端部である。いずれの軟質材を利用した場合においても同心円状の模様が確認できる。特に凹凸が顕著に確認できるものは非印刷部の表面が平滑であるPETフィルムを利用したものである。
【0021】
また、直径と厚さとの比(直径/厚さ)が36である第2試験片の加工面に対し、レーザープリンタによって同心円パターンを表面に印刷した各軟質材20の表面を平均圧力295MPaで加圧した。このようにして加工面に凹凸が転写された第2試験片の顕微鏡写真を
図5に示す。
図5において、左側が第2試験片の中央であり、右側が第2試験片の端部である。いずれの軟質材を利用した場合においても同心円状の模様が確認できる。特に凹凸が顕著に確認できるものは非印刷部の表面が平滑であるPETフィルムを利用したものである。
【0022】
次に、直径と厚さとの比(直径/厚さ)が36である第2試験片の加工面、及び直径と厚さとの比(直径/厚さ)が12である第3試験片の加工面に対し、レーザープリンタによって同心円パターンを表面に印刷したPETフィルムの表面を異なる圧力で加圧した。
【0023】
図6に示すように、第2試験片の転写後の凹凸を中央部(A)、中間部(B)、端部(C)の3か所で測定した。中央部(A)は中心から放射方向に3mm離れた位置まで延びた直線である。中間部(B)及び端部(C)は中央部(A)の延長線上に位置している。中央部(A)と中間部(B)との間隔、及び中間部(B)との間隔端部(C)との間隔は4.5mmである。また、中間部(B)及び端部(C)の測定幅は3mmである。
【0024】
51.1MPa、98.7MPa、147.9MPa、197.0MPa、246.6MPa、及び299.6MPaの各平均圧力で加圧した際の第2試験片の上記3カ所の凹凸形状を
図7に示す。平均圧力が51.1MPaにおいて、中央部の凹凸は明瞭ではないものの、端部へ近づくに従い凹凸が確認できるようになる。平均圧力が大きくなっても概ね端部(C)の凹凸は中央部(A)よりも比較的明瞭に転写できる傾向がみられるが、197.0MPa以上の平均圧力ではそれぞれの位置において凹凸の深さはほとんど変わらない。
【0025】
36.0MPa、71.0MPa、106.4MPa、及び138.7MPaの各平均圧力で加圧した際の第3試験片の凹凸形状を
図8に示す。上述した第2試験片と同様に、中央部よりも端部の方が凹凸を明瞭に転写できていることがわかる。また、平均圧力が大きくなるに従い、明瞭に凹凸を転写できる傾向にあることがわかる。106.4MPa以上では比較的均一に凹凸が分布している。
【0026】
全体的に凹凸が転写できるようになる平均圧力は上述した第2試験片では200MPa程度、第3試験片では100MPa程度であり、直径と厚さとの比(直径/厚さ)が小さい方が必要な平均圧力は小さくなる。一般的な圧印加工と同様に、この凹凸転写方法においても被加工材が塑性流動し得る応力状態とすれば、凹凸の転写が可能である。塑性流動は金型との摩擦の影響を受けるため、金型と被加工材あるいは軟質材の界面に潤滑剤を導入することで、被加工材の塑性流動を容易にさせ、低い平均圧力においても凹凸を転写できると考える。
【0027】
<実施例2>
実施例2の凹凸転写方法は、
図9に示すように、圧延加工に応用したものである。この凹凸転写方法は、先ず、レーザープリンタで軟質材であるPETフィルム120の表面に印刷することによって、所望する形状の凸部130をPETフィルム120の表面に形成する。そして、PETフィルム120の表面と金属製の被加工材140の加工面とを重ねてPETフィルム120と被加工材140とを一対のロール110の間に通過させて加圧して被加工材140を塑性変形させ、被加工材140に凹凸を転写する。
【0028】
レーザープリンタによって、1mmピッチの格子状のパターンをPETフィルム120の表面に印刷した。レーザープリンタのトナーが顔料を含む着色剤に相当する。金属製の被加工材140は、幅が約30mm、長さが約80mmの純アルミニウム(A1050-O)材である。各ロール110はクロムモリブデン鋼で直径43mmであり、研削仕上げされたものである。圧下率5%程度で圧延した被加工材140の表面の外観を
図10に示す。被加工材140の表面の全領域において格子状のパターンを転写できていることがわかる。
【0029】
<実施例3>
実施例3の凹凸転写方法は、
図11に示すように、転造加工に応用したものである。この凹凸転写方法は、先ず、レーザープリンタで軟質材220の表面に印刷することによって、所望する形状の凸部230を軟質材の表面に形成する。レーザープリンタのトナーが顔料を含む着色剤に相当する。平行平板型210の間に外形が円柱状である金属製の被加工材240を挟み込む。平行平板型210が一対の平板状の金型に相当する。平行平板型210の対向する面の夫々に、凸部230を形成した軟質材220が表面を被加工材240側に向けて保持されている。そして、平行平板型210の夫々を相対的に矢印M1,M2方向に移動させることによって被加工材を回転させつつ矢印F1,F2方向から加圧して、被加工材240の外周面に凹凸を転写する。
【0030】
以上、説明したように実施例1~実施例3の凹凸転写方法は、軟質材20,120,220の表面にレーザープリンタを利用してトナーによる凸部30,130,230を形成する。トナーによって凸部30,130,230を形成した軟質材20,120,220の表面と金属製の被加工材40,140,240の加工面とを重ねて加圧することによって被加工材40,140,240の加工面に凹凸を形成する。
【0031】
この凹凸転写方法は、トナーによって凸部30,130,230を容易に形成することができる。特にトナーによって凸部30,130,230を形成するため、微細な凹凸を所望する形状で軟質材20,120,220の表面に容易に形成することができる。このため、この凹凸転写方法は、多品種少量生産に利用しても製造コストを抑えることができる。また、軟質材20,120,220の凹凸が摩耗すれば、同じ凹凸が形成された軟質材20,120,220を容易に製造することができる。
【0032】
したがって、実施例1~実施例3の凹凸転写方法は、金属製の被加工材40,140,240に高精細、高精度の凹凸を安価に形成することができる。
【0033】
実施例1の凹凸転写方法は、トナーによって凸部30を形成した軟質材20の表面と被加工材40の加工面とを重ねて軟質材20と被加工材40とを平行平板型10に挟んで加圧する。このように、この凹凸転写方法はプレス加工に応用することができる。
【0034】
実施例2の凹凸転写方法は、トナーによって凸部130を形成した軟質材120の表面と被加工材140の加工面とを重ねて軟質材120と被加工材140とを一対のローラの間に通過させて加圧する。このように、この凹凸転写方法は圧延加工に応用することができる。
【0035】
実施例3の凹凸転写方法は、平行平板型210の間に外形が円柱状である金属製の被加工材240を挟み込み、平行平板型210の被加工材240側の面にトナーによって凸部230を形成した軟質材220が表面を被加工材240側に向けて保持されており、平行平板型210を相対的に移動させることによって、被加工材240を回転させつつ加圧する。このように、この凹凸転写方法は転造加工に応用することができる。
【0036】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例1~実施例3に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施例1~実施例3の軟質材は普通紙,ケント紙,コート紙、及びPETフィルム以外であっても、顔料を含む着色剤で凸部が形成することができ、加圧時に凸部の形状を維持することができるものであればよい。
(2)実施例1~実施例3では、着色剤はトナーであったが、顔料を含んだインクであってもよい。この場合、インクジェットプリンタを利用して軟質材に顔料を含んだインクを印刷してもよい。
(3)実施例1及び実施例2では、被加工材の片面に軟質材の凸部が形成された表面を重ねて加圧し、被加工材の片面に凹凸を転写したが、被加工材の両面に軟質材の凸部が形成された表面を重ねて加圧し、一度に被加工材の両面に凹凸を転写してもよい。
(4)実施例3では、平行平板型の対向する面の夫々に被加工材を保持したが、平行平板型の対向する面の少なくとも一方の面に凸部を形成した軟質材の表面が被加工材側を向くようにして被加工材を保持してもよい。
【符号の説明】
【0037】
10,210…平行平板型(金型)
20,120,220…軟質材
30,130,230…凸部
40,140,240…被加工材
110…ロール