(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】ヒト褐色脂肪由来幹細胞およびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/077 20100101AFI20230615BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20230615BHJP
A61L 27/36 20060101ALI20230615BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20230615BHJP
A61K 35/35 20150101ALI20230615BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20230615BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20230615BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20230615BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
C12N5/077
C12N5/0775
A61L27/36 100
A61K35/28
A61K35/35
A61P3/00
A61P3/04
A61P3/10
A61L27/38 300
(21)【出願番号】P 2022015511
(22)【出願日】2022-02-03
(62)【分割の表示】P 2021123173の分割
【原出願日】2014-04-17
【審査請求日】2022-02-03
(32)【優先日】2013-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2013-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514005227
【氏名又は名称】バイオリストーラティブ セラピーズ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】シルバ, フランシスコ ハビエル
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0071360(US,A1)
【文献】日本臨床細胞学会雑誌,2002年,Vol.41, No.6,pp.427-432
【文献】J. Anat.,1972年,Vol.112, No.1,pp.35-39
【文献】Cell Transplant.,2013年,Vol.22,pp.507-511
【文献】Cell,2007年,Vol.131,pp.242-256
【文献】Exp. Cell Res.,1985年,Vol.159,pp.261-266
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00-7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植可能なコンストラクトであって、
足場;および
単離されたヒト新生児褐色脂肪組織の幹細胞から分化したヒト新生児褐色脂肪組織分化細胞
を備え、
前記単離されたヒト新生児褐色脂肪組織の幹細胞が、フィブロネクチンIII型ドメイン含有タンパク質5(FNDC5)を含む培養培地中で成長させられて、前記ヒト新生児褐色脂肪
組織分化細胞に分化しており、
ここで、UCP-1、ELOVL3およびPGC1A遺伝子発現は、FNDC5を含まない培養培地中で培養された前記単離されたヒト新生児褐色脂肪組織の幹細胞から得られたヒト新生児褐色脂肪組織分化細胞と比較して前記ヒト新生児褐色脂肪組織分化細胞においてアップレギュレートされている、
移植可能なコンストラクト。
【請求項2】
前記足場が多孔性細胞外マトリックスを含む、請求項1に記載の移植可能なコンストラクト。
【請求項3】
前記ヒト新生児褐色脂肪組織分化細胞がヒト褐色脂肪細胞である、請求項1に記載の移植可能なコンストラクト。
【請求項4】
前記単離されたヒト新生児褐色脂肪組織の幹細胞が、一日齢の雄性新生児に由来する、請求項1に記載の移植可能なコンストラクト。
【請求項5】
前記単離されたヒト新生児褐色脂肪組織の幹細胞が、CREB1、DIO2、IRS1、MAPK14、NRF1、FOXC2、PPARD、PGC1-B、PRDM16、SRC、およびWNT5Aのうちの少なくとも1つをさらに発現する、請求項1に記載の移植可能なコンストラクト。
【請求項6】
前記単離されたヒト新生児褐色脂肪組織の幹細胞が、一日齢の雄性新生児に由来する、請求項5に記載の移植可能なコンストラクト。
【請求項7】
前記単離されたヒト新生児褐色脂肪組織の幹細胞が、PPARGC1AおよびSIRT3のうちの少なくとも1つをさらに発現する、請求項1に記載の移植可能なコンストラクト。
【請求項8】
前記単離されたヒト新生児褐色脂肪組織の幹細胞が、一日齢の雄性新生児に由来する、請求項7に記載の移植可能なコンストラクト。
【請求項9】
前記単離されたヒト新生児褐色脂肪組織の幹細胞が、以下の細胞表面マーカー:CD9、SSEA4、CD44、CD90、CD166、およびCD73について陽性であり、以下の細胞表面マーカー:CD14、CD34、CD45、およびSTRO-1について陰性である、請求項1に記載の移植可能なコンストラクト。
【請求項10】
前記単離されたヒト新生児褐色脂肪組織の幹細胞が、一日齢の雄性新生児に由来する、請求項9に記載の移植可能なコンストラクト。
【請求項11】
患者における代謝障害を処置するための、前記患者に移植されることを特徴とする、請求項1に記載の移植可能なコンストラクト。
【請求項12】
患者における肥満症を処置するための、前記患者に移植されることを特徴とする、請求項1に記載の移植可能なコンストラクト。
【請求項13】
患者における糖尿病を処置するための、前記患者に移植されることを特徴とする、請求項1に記載の移植可能なコンストラクト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、それぞれ、2013年11月19日に出願された米国仮特許出願第61/906,087号および2013年4月19日に出願された米国仮特許出願第61/813,771号への優先権を主張し;この米国仮特許出願の各々の内容は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は一般に、細胞培養の分野、およびより具体的には細胞タイプ決定の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
褐色脂肪組織(BAT)は、哺乳動物におけるエネルギーホメオスタシスの根底にある進化上保存された機構において重要な役割を果たす。それは、5~10ミクロン直径の脂肪空胞および熱発生の調節に中心的な脱共役タンパク質1(UCP1)の発現によって特徴付けられる。ヒト新生児において、BATの貯蔵場所は、代表的には、脈管構造および固形器官の周りに集まっている。これらの貯蔵場所は、血液をこれが末梢に運ばれる前に温めることによって寒冷曝露の間に体温を維持する。それらはまた、固形器官内の生化学反応に最適な温度を確保する。BATは、小児期および青年期の間を通じて消失すると考えられてきた。しかし、近年の研究では、成人において活発な褐色脂肪組織の存在とともに、例えば、頸部、鎖骨上、縦隔、傍脊椎および/もしくは副腎の領域に貯蔵場所があることが確認された。また、BAT(あるいはベージュ脂肪ともいわれる)が白色脂肪組織(WAT)内で見出され得ることもまた、報告された。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
要旨
本発明は、部分的に、一日齢の雄性新生児から単離された、単離されたヒト褐色脂肪組織の幹細胞系に関する。一実施形態において、上記単離されたヒト褐色脂肪組織の幹細胞系は、CREB1、DIO2、IRS1、MAPK14、NRF1、FOXC2、PPARD、PGC1-A、PGC1-B、PRDM16、SRC、UCP1、およびWNT5Aなどのマーカーを発現する。別の実施形態において、上記細胞はまた、アンチ白色脂肪組織遺伝子(例えば、GATA2、KLF2、およびKLF3)のより高いレベルを発現する。さらに別の実施形態において、上記単離されたヒト褐色脂肪組織の幹細胞系は、骨芽細胞、軟骨細胞、および脂肪細胞へと分化することができる。さらになお別の実施形態において、上記系は、一日齢の雄性新生児に由来する。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
単離されたヒト新生児褐色脂肪組織の幹細胞系。
(項目2)
前記単離されたヒト新生児褐色脂肪組織の幹細胞系は、一日齢の雄性新生児に由来する、項目1に記載の単離されたヒト新生児褐色脂肪組織の幹細胞系。
(項目3)
骨芽細胞、軟骨細胞、および脂肪細胞に分化することができる、項目1に記載の単離されたヒト新生児褐色脂肪組織の幹細胞系。
(項目4)
CREB1、DIO2、IRS1、MAPK14、NRF1、FOXC2、PPARD、PGC1-A、PGC1-B、PRDM16、SRC、UCP1、及びWNT5Aを発現する、単離されたヒト新生児褐色脂肪組織の幹細胞系。
(項目5)
前記単離されたヒト新生児褐色脂肪組織の幹細胞系は、一日齢の雄性新生児に由来する、項目4に記載の単離されたヒト新生児褐色脂肪組織の幹細胞系。
(項目6)
骨芽細胞、軟骨細胞、および脂肪細胞に分化することができる、項目4に記載の単離されたヒト新生児褐色脂肪組織の幹細胞系。
(項目7)
遺伝子UCP1、PPARGC1A、NRF1、FOXC2、CREB1、SIRT3、およびWNT5A(REFX)を発現する単離されたヒト新生児褐色脂肪組織の幹細胞系。
(項目8)
前記単離されたヒト新生児褐色脂肪組織の幹細胞系は、一日齢の雄性新生児に由来する、項目7に記載の単離されたヒト新生児褐色脂肪組織の幹細胞系。
(項目9)
骨芽細胞、軟骨細胞、および脂肪細胞に分化することができる、項目7に記載の単離されたヒト新生児褐色脂肪組織の幹細胞系。
(項目10)
CD14、CD34、CD45、およびSTRO-1を発現せず、CD9、SSEA4、CD44、CD90、CD166、およびCD73を発現する、単離されたヒト新生児褐色脂肪組織の幹細胞系。
(項目11)
前記単離されたヒト新生児褐色脂肪組織の幹細胞系は、一日齢の雄性新生児に由来する、項目10に記載の単離されたヒト新生児褐色脂肪組織の幹細胞系。
(項目12)
骨芽細胞、軟骨細胞、および脂肪細胞に分化することができる、項目10に記載の単離されたヒト新生児褐色脂肪組織の幹細胞系。
(項目13)
不死化されたヒト新生児褐色脂肪組織の幹細胞系。
(項目14)
トランスフェクトされたヒト新生児褐色脂肪組織の幹細胞系。
(項目15)
ヒト新生児褐色脂肪由来細胞を含む薬物スクリーニングアッセイを含む組成物。
(項目16)
前記ヒト新生児褐色脂肪由来細胞が不死化される、項目15に記載の組成物。
(項目17)
薬物化合物をスクリーニングする方法であって、
項目15に記載の組成物を提供する工程;
候補薬物化合物と前記ヒト新生児褐色脂肪由来細胞を接触させる工程;および
該ヒト新生児褐色脂肪由来細胞に対する該薬物化合物の効果を観察する工程
を含む方法。
(項目18)
移植可能なコンストラクトであって
足場;および
該足場上で培養された単離されたヒト新生児褐色脂肪組織の幹細胞系
を備える移植可能なコンストラクト。
(項目19)
前記足場が多孔性細胞外マトリックスを含む、項目18に記載の移植可能なコンストラクト。
【図面の簡単な説明】
【0005】
特許ファイルもしくは特許出願ファイルは、カラーで仕上げられた少なくとも1つの図面を含む。カラー図面付きのこの特許もしくは特許出願公開のコピーは、要請および必要な料金の支払いがあれば、当局によって提供される。本明細書で記載される本教示は、添付の図面と一緒に読まれれば、種々の例証的実施形態の以下の記載からより完全に理解される。以下に記載される図は、例証目的に過ぎず、本教示の範囲を制限することを如何様にも意図するものではないことが理解されるものとする。
【0006】
【
図1】
図1は、成体における18F-FDG取り込みのPETスキャンである。
【0007】
【
図2A】
図2(a)は、新生児からの縦隔脂肪組織の写真である。
【0008】
【
図2B】
図2(b)は、56歳齢からの縦隔脂肪組織の写真である。
【0009】
【
図2C】
図2(c)は、80歳齢からの縦隔脂肪組織の写真である。
【0010】
【0011】
【0012】
【0013】
【
図3A-1】
図3(a)は、新生児褐色脂肪由来幹細胞上の細胞表面マーカーに関する、一連のフローサイトメトリーおよび免疫細胞化学のグラフである。
【
図3A-2】
図3(a)は、新生児褐色脂肪由来幹細胞上の細胞表面マーカーに関する、一連のフローサイトメトリーおよび免疫細胞化学のグラフである。
【
図3A-3】
図3(a)は、新生児褐色脂肪由来幹細胞上の細胞表面マーカーに関する、一連のフローサイトメトリーおよび免疫細胞化学のグラフである。
【0014】
【
図3B】
図3(b)は、新生児の褐色脂肪由来幹細胞および白色脂肪由来幹細胞に関する種々のマーカーの発現レベルの比較表である。
【0015】
【
図3C】
図3(c)は、新生児褐色脂肪由来幹細胞(BADSC)および白色脂肪由来幹細胞(WADSC)についての遺伝子発現プロフィールである。
【0016】
【
図4A】
図4(a)は、多孔性細胞外マトリクス足場上で培養した褐色脂肪由来幹細胞の走査型電子顕微鏡検査(SEM)である。
【0017】
【
図4B】
図4(b)は、足場上で方向性分化した褐色脂肪細胞のSEMである。
【0018】
【
図5A】
図5(a)は、新生児褐色脂肪由来幹細胞を不死化するために使用される第1の形質転換コンストラクトのマップである。
【0019】
【
図5B】
図5(b)は、新生児褐色脂肪由来幹細胞を不死化するために使用される第2の形質転換コンストラクトのマップである。
【0020】
【
図5C】
図5(c)は、新生児褐色脂肪由来幹細胞を不死化するために使用される第3の形質転換コンストラクトのマップである。
【0021】
【
図5D】
図5(d)は、新生児褐色脂肪由来幹細胞を不死化するために使用される第4の形質転換コンストラクトのマップである。
【0022】
【
図5E】
図5(e)は、新生児褐色脂肪由来幹細胞を不死化するために使用される第5の形質転換コンストラクトのマップである。
【0023】
【
図6】
図6は、継代による細胞成長速度のグラフである。
【0024】
【
図7】
図7は、トランスフェクトした細胞およびコントロール細胞のテロメラーゼ活性のグラフである。
【0025】
【
図8】
図8は、正常な細胞形態を示すトランスフェクトされたBADSCの顕微鏡写真である。
【0026】
【
図9】
図9は、白色脂肪形成、褐色脂肪形成を受けたBADSCの顕微鏡写真である。
【0027】
【
図10】
図10は、骨形成を受けたBADSCの顕微鏡写真である。
【0028】
【
図11】
図11は、軟骨形成を受けたBADSCの顕微鏡写真である。
【0029】
【
図12A】
図12(a)は、BADSC/足場を移植したマウスおよびコントロールのマウスのグルコースレベルのグラフである。
【0030】
【
図12B】
図12(b)は、BADSC/足場を移植したマウスおよびコントロールのマウスの体重のグラフである。
【0031】
【
図13】
図13は、化合物のハイスループット分析の工程の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
詳細な説明
代謝的に活発な褐色脂肪組織幹細胞の集団は、一日齢の雄性新生児から単離された。上記幹細胞集団は、「新生児褐色脂肪由来幹細胞」(新生児BADSC)と称され、以下に対する潜在性を明らかに示した:(1)インビトロで増える;(2)多系統の潜在性を示す;および(3)代謝的に活発な褐色脂肪細胞へ機能的に分化する。このような幹細胞集団は、肥満症および関連代謝障害の処置のために、エネルギーホメオスタシスをインビボで回復および増強する新たな細胞ベースの手段を提供し得る。これらの幹細胞はまた、脂肪組織生物学を研究するための有用なツールである。
【0033】
新生児縦隔褐色脂肪貯蔵場所内の幹細胞集団を同定するために、外植片を生成し、組織培養プレートにプレーティングした。接着性の細胞が、上記褐色脂肪組織外植片から成功裡に得られ、これらの初代細胞培養物を、DMEM低グルコース、1×Glutamax、1×NEAA、および10% 血小板溶解物を含む培地を3日毎に供給した。細胞のクローン性集団を規定するために、細胞系を、96ウェルプレート中に単一細胞をプレーティングすることによって得た。6日間でコンフルエントに達し、上記細胞は、
図8で示されるように、間葉系幹細胞(MSC)様の形態を示した。56歳齢および80歳齢からの縦隔褐色脂肪組織を、新生児縦隔褐色脂肪組織(
図2aで示されるとおり)との比較のために、それぞれ
図2bおよび
図2cに示す。褐色脂肪組織の減少が顕著である。
図2d~2fは、それぞれ、
図2a~2cの生検組織からとったH/E切片の顕微鏡写真である。
【0034】
クローン性細胞集団の増殖動態は、上記集団が90継代より長い間成長し得ることを明らかに示した。7継代めでの上記クローン性細胞集団の核型決定は、染色体異常なしの正常な二倍体細胞を実証した。
【0035】
図3(a)および図(3b)を参照して、これらの新生児BADSCをさらに特徴付けるために、フローサイトメトリーおよび免疫細胞化学を使用した。上記新生児BADSCは、他のMSCに類似するが同一ではない特徴を示すことが見出された。例えば、上記新生児BADSCは、CD9、SSEA4、CD44、CD90、CD166、およびCD73に関して陽性であったが、造血マーカーであるCD14、CD34、およびCD45に関しては陰性であった。さらに、上記新生児BADSCは、STRO-1(これは、種々の組織に由来する間葉系幹細胞において発現されることが以前から見出されている)を発現しなかった。
【0036】
2継代目の新生児BADSCの遺伝子発現プロフィールの分析は、上記新生児BADSCが、
図3(c)で示されるように、白色脂肪由来幹細胞との比較において別個の遺伝子発現プロフィールを有することを実証する。発現がBADSCにおいて富化される遺伝子としては、例えば、CREB1、DIO2、IRS1、MAPK14、NRF1、FOXC2、PPARD、PGC1-A、PGC1-B、PRDM16、SRC、UCP1、およびWNT5Aなどの前褐色脂肪選択遺伝子(pro-brown adipose selective gene)が挙げられる。上記細胞はまた、より高レベルのアンチ白色脂肪組織遺伝子(例えば、GATA2、KLF2、およびKLF3)を発現する。重要なことには、これらの前褐色選択遺伝子の発現は、褐色脂肪由来幹細胞を、白色脂肪貯蔵場所に由来する幹細胞から区別し得る。
【0037】
2継代目の新生児BADSCを、骨細胞系統、軟骨細胞系統、白色脂肪形成細胞系統および褐色脂肪形成細胞系統への分化を誘導し、多系統の潜在性を決定した。誘導の3週間後、上記細胞は、骨芽細胞、軟骨細胞、および脂肪細胞への分化能を明らかに示した。骨形成促進条件下で分化するように誘導した場合、上記細胞は、石灰化した基質を形成した。これを、アリザリンレッド染色法;オステオカルシンの免疫細胞化学染色、ならびにオステオポンチン、オステオネクチンおよびアルカリホスファターゼのRT-PCR分析によって確認し、分化をさらに確認した。軟骨形成分化を、誘導した細胞ペレット上の硫酸化プロテオグリカンのアルシアンブルー染色によって確認した。RT-PCRは、軟骨形成分化のマーカーであるコラーゲン2A、バイグリカン(biglycan)、およびA6の発現を確認した。白色脂肪形成分化を、脂肪小滴のオイルレッドO染色によって確認した。免疫細胞化学は、FABP4の発現を確認し、RT PCRは、脂肪形成分化のマーカーであるFABP4、LPL、およびPPARγの発現を確認した。
【0038】
新生児褐色脂肪分化細胞のリアルタイムqPCRは、非FNDC5分化細胞と比較して、UCP1のアップレギュレーション、超長鎖脂肪酸様(very long chain fatty acids like)-3(ELOVL3)およびペルオキシソーム増殖因子活性化レセプター(peroxisome proliferator-activated receptor)γ1-α(PGC1A)(ミトコンドリア生物発生の主要な調節因子)の伸長を実証した。逆に、レプチン(白色脂肪発達と関連する遺伝子)は、褐色脂肪分化細胞においてダウンレギュレートされる。これらの褐色脂肪細胞マーカー遺伝子のより高い発現レベルが、成熟褐色脂肪細胞運命と一致する。これらの知見は、新生児の褐色脂肪貯蔵場所が成体褐色脂肪貯蔵場所、皮下脂肪および内臓脂肪貯蔵場所において見出される幹細胞より特有な特性を有し、複数の細胞タイプに分化する能力を有する幹細胞源であることを実証する。
【0039】
BADSCは一般に、
図4(a)で示されるように、足場上で成長し得、それによって、移植および他の実験のためにより取り扱いやすいようになっている。
【0040】
さらに、種々のBADSC系が、トランスフェクションによって不死化された。一実施形態において、BADSC150系を使用した。
【0041】
図5(a)~5(e)で示されるように、5つの異なるプラスミドコンストラクトを作った。これらは、以下であった:Blas-Tといわれ、TERT発現を駆動するEEF1プロモーターをコードする7286bpのコンストラクト、Blas-Bといわれ、BMI-1発現を駆動するEEF1プロモーターをコードする4868bpのコンストラクト;Blas-B-F-Tといわれ、BMI1およびTERT両方の発現を駆動するEEF1プロモーターをコードする8348bpのコンストラクト、pBlas-BITといわれ、TERTおよびBsrS2両方を駆動するEEF1a1 プロモーターをコードする8348bpのコンストラクト、ならびにpUCP1-CP-BfTといわれ、BMI1の発現を駆動するEEF1A1プロモーターならびにレポーター遺伝子cherry pickerの発現を駆動するTERTおよびUCP1プロモーターをコードする16,243bpのコンストラクト。
【0042】
一実施形態において、トランスフェクションには、Lipofectamine LTXおよびPLUS試薬を使用した。第2の実施形態において、トランスフェクションには、製造業者の推奨プロトコルに従って、Fugene HD、Xfect Adult Stem Cell Transfection ReagentおよびLipofectamine LTXとPLUS試薬を使用した。各試薬を、効率について試験した。Fugene HDは、細胞に対して最小の毒性であり、BMI1およびTERT(BMI1-TERT FMDV2自己プロセシングポリペプチドおよびTERT-BMI1 FMDV2自己プロセシングポリペプチド)の発現を駆動するEEF1プロモーターをコードするコンストラクトBlas-BFTでトランスフェクトされたBADSC150初代細胞に関して、最高のトランスフェクション効率を生じた。上記自己プロセシングポリペプチドの2つの配向が、細胞系に依存して異なる効率で機能するので、両方の形態を任意の所定の実験で試験した。
【0043】
他の実施形態において、上記BADSC150系を、以下で列挙されるコンストラクトの以下の組み合わせでトランスフェクトした。ブラストサイジン耐性遺伝子でトランスフェクトした細胞を、濃度6μg/mlのブラストサイジンで選択した。安定な不死化褐色脂肪由来幹細胞系を生成し、機能的分化潜在能に関して試験した。
【0044】
EEF1A1制御下では、全4種の耐性選択肢が利用可能であった:
pUNO-hpf ハイグロマイシン;
pUNO-pur ピューロマイシン;
pUNO-zeo ゼオシン;および
pUNO-bla ブラストサイジン。
【0045】
以下の単一のレポーター系を使用した:
*mCherryのみ;
*NanoLuc(NL)のみ;および
*Secreted NanoLuc(sNL)のみ。
【0046】
以下の組み合わせレポーター系も使用した:
CP1-NL FMDV2自己プロセシングポリペプチド;
CP1-sNL FMDV2自己プロセシングポリペプチド;
NL-CP1 FMDV2自己プロセシングポリペプチド;および
sNL-CP1 FMDV2自己プロセシングポリペプチド。
【0047】
他の実験では、上記EEF1プロモーターをまた、前褐色特異的遺伝子(すなわち、PRDM16、PGC-1α、C/EBPβ、Plac8およびUCP-1)および前白色特異的遺伝子(すなわち、PPARγ、C/EBPα、およびAKT-1)で置き換え、上記レポーター系の種々の組み合わせとともに使用した。これらのコンストラクトの全ては、BMI1およびTERTの発現を駆動するEEF1プロモーターを含む。
【0048】
いったんBDSC150細胞系をトランスフェクトおよび選択した後、それを、長期の継代の効果を決定するために試験した。BADSC150 BMI1-TERT FMDV2自己プロセシングポリペプチド(
図5(d))およびTERT-BMI1 FMDV2自己プロセシングポリペプチドを、p20まで継代した(
図6)。細胞は、コントロール(トランスフェクトしなかったBADSC150)には存在しなかったテロメラーゼ活性を発現し(
図7)、正常な細胞形態を保持した(
図8)。
【0049】
不死化BADSC150細胞をまた、機能的に分化するそれらの能力を決定するために試験した。細胞を誘導して、白色脂肪形成、褐色脂肪形成(
図9)、骨形成(
図10)および軟骨形成(
図11)を受けさせた。これらのコンストラクトの種々の組み合わせを有するこの細胞系を、低分子のライブラリーおよび褐色脂肪誘導物質(すなわち、FNDC5、BMP7、レチノイン酸)をスクリーニングするために使用し得る。
【0050】
上記コンストラクトがUCP1-CherryPicker BfT(
図5(e))である1つの組み合わせにおいて、EEF1A1は、Bmi1およびTert1の発現を駆動している。このコンストラクトを、細胞を不死化するために使用する。UCP1は、CherryPicker(蛍光顕微鏡法によってモニターされ得、特異的抗体を使用して磁性ビーズに捕捉され得るキメラ膜アンカーCherryPicker蛍光タンパク質)の発現を駆動している。この実施形態において、このコンストラクトを有するBADSC150細胞は不死であり、CherryPickerは、UCP1が誘導される場合にのみ活性化される。UCP1の誘導は、褐色脂肪組織特異的遺伝子をアップレギュレートする天然に存在するかもしくは合成いずれかの低分子にこの細胞集団を曝露することによって、達成され得る。
【0051】
別の実施形態において、CherryPickerは、分泌型nanoluc(sNL)で置き換えられる。このコンストラクトにおいて、sNLは、上記プロモーターが「オン」になったときのみ合成される。一実施形態において、上記プロモーターは、UCP1である。sNLは上記細胞から細胞培養培地へと分泌されるので、上記化合物が、どの程度効率的にUCP1を「オン」にして続いてsNLを生成するように誘導するかを定量分析するために、sNLのレベルについて上記培地をアッセイし得る。この系は、一度に種々の濃度で数千もの低分子のハイスループットスクリーニングを可能にする。
【0052】
コンストラクトの全ての組み合わせをまた、白色脂肪を褐色脂肪に変換するか、または代謝活性を増加させる分子を同定する目的で、白色脂肪幹細胞へとトランスフェクトした。この細胞系は、そのレポーター系と連携して、褐色脂肪生物学の動態;具体的には、UCP1アップレギュレーションおよび増加した代謝活性の根底にある機構の効率的な研究を可能にする。このヒト褐色脂肪幹細胞系は、マウスおよびヒトUCP1のアミノ酸組成が80%未満であり、それによって、マウス褐色脂肪細胞系を、褐色脂肪特異的遺伝子を活性化する化合物を同定するのに不適切にしているという事実に起因して、貴重である。
【0053】
さらに、移植可能な不死BADSCの集団は、ヒトにおいて代謝調節を助け得る褐色脂肪組織の集団を提供する。
図12(a)および
図12(b)を参照すると、2つのグラフは、マウスに移植した足場上のBADSCの効果を示す。
図12(a)は、移植後の週数単位で、高カロリー飼料を与えたコントロールマウスの基底血糖レベルが、同じ飼料を与えたがBADSCを移植したマウスより有意に高い(約66%)ことを示す。同様に、
図12(b)において、上記コントロールマウスの体重は、移植物を有するマウスの体重より約40%重い。このことは、BADSCが代謝障害(例えば、糖尿病および肥満症)を処置するのに有用であり得ることを示す。
【0054】
本発明はまた、ヒト新生児褐色脂肪由来細胞を含む細胞培養プレートを提供する。上記プレートは、例えば、マルチウェルプレートであり得る。上記細胞培養プレートの1以上のウェルに、ヒト新生児褐色脂肪由来細胞が播種され得る。上記細胞は、分化した褐色脂肪細胞であり得る。上記細胞はまた、不死化され得る。上記細胞培養プレートは、上記細胞と候補薬物化合物とを接触させ、上記ヒト新生児褐色脂肪由来細胞に対する上記薬物化合物の効果を観察することによって、薬物化合物をスクリーニングするために有用である。
【0055】
図13を参照すると、種々の潜在的薬物のためのこのようなスクリーニング法が、ウェルに、トランスフェクトされたBADSC細胞(例えば、BADSC150FS.UCP1-sNL-BfT)もしくは白色脂肪幹細胞(例えば、WADSCFS.UCP1-sNL-Bft)のいずれかをプレーティングすることによって開始する(工程1)。次いで、目的の化合物を上記ウェルに添加し(工程2)、上記ウェルをプレートリーダーで読み取り、その培地を、例えば、分泌型nanolucについてアッセイする(工程3)。nanolucの存在は、上記薬物が上記幹細胞を活性化したことを示す。
【0056】
本発明の図面および記載が、本発明を明確に理解することに関連する要素を例証するために、明瞭さを目的として他の要素を排除しながら単純化されていることは、理解されるべきである。しかし、当業者は、これらおよび他の要素が望ましいものであり得ることを認識する。しかし、このような要素は当該分野で周知であり、それらは本発明のよりよい理解を促進しないので、このような要素の考察は、本明細書では提供されない。図面は例証目的で呈示され、構造設計図として呈示されるのではないことが認識されるものとする。省略された詳細および改変もしくは代替の実施形態は、当業者の範囲内である。
【0057】
本発明は、その趣旨からも本質的な特徴からも逸脱することなく、他の具体的形態で具現化され得る。従って、前述の実施形態は、本明細書で記載される発明に対する制限ではなく、全て例証的な観点から解釈されるべきである。従って、本発明の範囲は、前述の記載によってではなく添付の特許請求の範囲によって示され、請求項の意味および均等論の範囲内に入る全ての変更は、そこに包含されるものと解釈される。