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▶ パブリクノエ アクツィオネルノエ オブシチェストヴォ“ノヴォシビルスキー ザヴォッド シムコンシントラトフ”(ピーエーオー エヌゼットエイチケー)の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】原子炉用の燃料アセンブリの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G21C 21/00 20060101AFI20230615BHJP
   G21C 21/02 20060101ALI20230615BHJP
   G21C 19/12 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
G21C21/00 100
G21C21/02 120
G21C19/12
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020573550
(86)(22)【出願日】2019-07-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-24
(86)【国際出願番号】 RU2019000502
(87)【国際公開番号】W WO2021010852
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】521001180
【氏名又は名称】パブリクノエ アクツィオネルノエ オブシチェストヴォ“ノヴォシビルスキー ザヴォッド シムコンシントラトフ”
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】弁理士法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユディナ エレナ ヴァシレヴナ
(72)【発明者】
【氏名】ゼレンコフ エフゲニー ゲナディエヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ストルコフ アレクサンドル ウラジミロヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ブイモフ セルゲイ アナトリエヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ティールスチー アナトリー サヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ムスタファエフ ラシム ファルマノグリ
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】ロシア特許発明第2140674(RU,C1)
【文献】ロシア特許発明第2537951(RU,C2)
【文献】ロシア特許発明第2357992(RU,C2)
【文献】特開昭54-16089(JP,A)
【文献】特表2009-509024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 21/00
G21C 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉用の燃料アセンブリの製造方法であって、
燃料要素を製造し、オペレーションを制御するステップと、
各燃料要素に保護コーティング剤を塗布するステップと、
準備された燃料要素を燃料アセンブリ内に設置するステップと、
上端部及び底部のノズルを取り付けるステップと、
保護コーティング剤を洗い流し、乾燥させるステップとを含み、
アセンブリスタンド上の燃料アセンブリ内に燃料要素を設置する間に、グリッドのセルに対する自身の軸に沿って水平方向に、各燃料要素を移動させることによって、アセンブリスタンドに設置された保護コーティング剤塗布装置を通して、保護コーティング剤を塗布するステップ及び燃料アセンブリ内に燃料要素を取り付けるステップのオペレーションが組み合わされ、
保護コーティング剤として、ノニルフェノールエトキシレートと一塩基性不飽和脂肪酸からなる水溶性潤滑剤が用いられる
ことを特徴とする燃料アセンブリの製造方法。
【請求項2】
保護層は、室温で加圧下で水ジェットを使用して洗い流される
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料アセンブリの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力産業に関し、主に水冷式及び液体金属冷却式の原子炉用の燃料アセンブリを製造する企業に適用される。
【背景技術】
【0002】
燃料アセンブリの製造工程は、アセンブリ用に準備された燃料要素をグリッドの同軸セルを通して押し込むという、燃料要素の据付け操作を含むことが知られている。グリッドは互いに平行に配置され、ガイドチャネルに沿って燃料アセンブリフレームを形成する(非特許文献1参照)。燃料要素は、原子力発電炉心の最も臨界的で最も応力のかかる構造要素である。燃料要素を覆う鞘による気密の信頼性及び保持性、並びに、燃料アセンブリの製造中におけるフレーム内での安全な保持は、燃料アセンブリ製造工程において、燃料アセンブリ及び原子炉全体の操作上の信頼性及び安全性を確実にする。燃料要素の鞘は、ジルコニウム合金で構成されており、ジルコニウム合金は、表面にすり傷、ひっかき傷による損傷領域があると、その損傷領域で腐食が進む傾向があることが知られている(非特許文献2参照)。燃料アセンブリフレームへの取付け過程における、燃料要素の表面損傷を防止するべく、燃料要素を保護フィルムで覆っていた。
【0003】
原子炉燃料アセンブリの公知の製造方法の1つは、ジルコニウムにより被覆された燃料要素の表面処理を含む。フィルム形成を伴う燃料要素の表面処理は、燃料要素を保持しながらポリビニル水系ラッカーの熱溶液に垂直に浸漬することにより行われる。続いて水溶性グリセリンの水溶液でコーティングし、熱水中の生蒸気による燃料アセンブリの包装に先立ってフィルムを除去する(特許文献1)。
【0004】
従来の燃料要素製造方法の欠点は、ポリビニル水系ラッカー熱溶液に浸漬するため、燃料要素を保持している間、燃料要素が鉛直方向のどこに位置するかで、燃料要素の長手方向に沿ったラッカー被覆層の厚みが不均一になり、燃料要素上部におけるフィルムの薄膜化をもたらして、膜保護特性の劣化を招いてしまうことである。また、ポリビニル水ベースのラッカー溶液の消費量が多く、準備が複雑なので取り扱いが難しい。ラッカー塗布設備を並べるのに大きな空間が必要になるので、製造プロセス最適化を妨げてしまう。結果として、金属消費およびエネルギー消費が顕著になり、製造工程の自動化が低いレベルに留まったままになる。
【0005】
原子炉燃料アセンブリ製造方法は知られている。その実装は以下の事実によって特徴付けられる。燃料アセンブリへの燃料要素の取り付けの準備は、ラッカー塗布装置で燃料要素をラッカーを接触させることにより、燃料要素の表面にラッカーコーティングすることにより実行される。そして燃料要素自体の軸に沿った水平方向において、ラッカー塗布装置のラッカー塗布領域および乾燥領域を通って連続的に燃料要素を移動させることでなされる。燃料要素が、ラッカー塗布領域を通過する際、燃料要素の円筒表面は、細孔がラッカーで満たされた密着型の弾性毛管多孔性要素から供給されたラッカーで湿らされる。燃料要素の移動は、ラッカー塗布領域の前および乾燥領域において、2つの支持体で形成された複数のローラを用いてなされる(特許文献2)。
【0006】
この方法の欠点は、ラッカーコーティング層の厚さが、長さに沿う方向だけでなく、各燃料要素セクションにおいて、不均一化をもたらすことである。当該不均一化は、乾燥工程において、膨れおよび剥離をもたらす。結果として、燃料要素の表面がむき出しになって、組立中に粗い裂け目及び起伏の出現をもたらす。それに加え、複雑な自動化パッケージの装備した、寸法がかさばるマルチコンポーネントプラントの据付けが必要になり、リンクした組み立てのため、燃料要素に表面処理を施す期間、特にドライフィルムコーティングを重合させ得る、完全な乾燥の保証が、必要になる。
【0007】
技術的な本質、及び、達成すべき結果の観点からして本願に最も近い先行技術は、特許文献3に記載された燃料要素バンドルの製造方法である。プロトタイプは、燃料要素の製造および制御操作、燃料アセンブリへの燃料要素の据付け前の各燃料要素上へのラッカーコーティングおよび乾燥、組立スタンドの燃料アセンブリへの燃料要素の据付け、上端部および底部ノズルの取り付け、保護コーティングの洗流しおよび乾燥を含む。
【0008】
この方法の欠点は、燃料要素の保護コーティングとしてポリビニルアルコールを用いた蒸留水溶液の形でラッカー混合物を適用することが不可欠になっていて、製造工程の効率化の観点が欠けていることである。燃料要素の保護コーティングとして、蒸留水と、ポリビニルアルコールとの溶液の形の混合物の塗布が必要になることから、製造プロセスの効率性を欠く。コート塗布の工程は、アナログ式のかさばるハードウエアを必要とし、コーティング適用後にフィルムの乾燥が必要であり、これは時間や人件費を必要とする。後続する燃料アセンブリの取り付けにおいて、粗い裂け目、起伏などがないことを保証する、均一層の塗布及び乾燥が難しいせいで、燃料要素バンドルの製造方法は、塗布層の品質は満足のゆくものではなかった。ラッカーコーティングの不連続性を取り除くことはできない。それらは、燃料要素の交換の原因となる30μmを超す裂け目、又は、固定具を使って手動で取り去るべき起伏を引き起こし得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】ロシア国特許第2265903号明細書
【文献】ロシア国特許第2537951号明細書
【文献】ロシア国特許第2140674号明細書
【非特許文献】
【0010】
【文献】B.A. Dementiev, Nuclear-power reactors. -Moscow, Energoatomizdat, 1990, p.42-44
【文献】Zirconium metallurgy (translation from English), eds. G.A. Meerson and Yu.A. Gagarinsky-Moscow, "Inostrannaya Literatura" publishing house, 1959, p.298
【発明の概要】
【0011】
本発明で解決すべき技術的課題は、原子炉燃料アセンブリの製造品質を確保し、同時に製造プロセス効率、及び、関連する燃料アセンブリの製造コストの低下を確保することである。
【0012】
この問題を解決することを意図した原子炉用の燃料アセンブリの製造方法は、燃料要素を製造し、オペレーションを制御するステップと、各燃料要素に保護コーティング剤を塗布するステップと、準備された燃料要素を燃料アセンブリ内に設置するステップと、上端部及び底部のノズルを取り付けるステップと、保護コーティング剤を洗い流し、乾燥させるステップとを含み、アセンブリスタンド上の燃料アセンブリ内に燃料要素を設置する間に、グリッドのセルに対する自身の軸に沿って水平方向に、各燃料要素を移動させることによって、アセンブリスタンドに設置された保護コーティング剤塗布装置を通して、保護コーティング剤を塗布するステップ及び燃料アセンブリ内に燃料要素を取り付けるステップのオペレーションが組み合わされ、水溶性潤滑剤は、20~45%のノニルフェノールエトキシレートと80~55%の量の一塩基性不飽和脂肪酸からなり、これを保護コーティングとして使用する。
【0013】
上記問題はまた、室温の圧力下でウォータージェットを使用して保護層を洗い流すことで解決される。
【0014】
提案された原子炉用の燃料アセンブリの製造方法の実施により、必要な品質レベルでの燃料アセンブリ製造からなるタスクを実行でき、原子炉内での安全な燃料アセンブリの操作を保証する。また、これと同時に、製造プロセス効率の向上と製造コストの削減を実現する。
【0015】
保護コーティングとして使用される提案された組成の水溶性潤滑剤は、燃料要素周囲を潤滑剤飽和材料で単一に包装することにより、燃料要素の表面全体にわたり、薄い均一の層を形成する。乾燥はもはや必要でなくなる。燃料要素表面に高い品質の保護コーティングを施しつつも、アセンブリスタンド上で直接燃料アセンブリを製造すべく、連続的に移動する燃料要素表面に潤滑剤を塗布できる。
【0016】
潤滑剤組成物における、ノニルフェノールエトキシレートの形態の添加剤の添加は、潤滑剤が流出してしまう流出傾向がないこと、又は、不均一なコーティングが形成される傾向がないことを保証する。塩基性不飽和脂肪酸との混合は、燃料要素を覆う鞘の長さ方向全体にわたり均一となる混合分布をもたらす。
【0017】
添加剤の存在は、燃料要素を燃料アセンブリに取り付ける過程において、必要な潤滑剤の粘度を提供し、また、ジルコニウム合金を含む合金への潤滑剤の付着量を増加させる。燃料要素がグリッドのピンファスナーに接触した場合、選択した組成の水溶性潤滑剤は、グリッドのピンファスナーと燃料要素の間の接点から移動しないため、ひっかき傷、裂け目および燃料要素表面上の起伏形成のリスクは除去される。
【0018】
従って、提案された組成の潤滑剤の使用は、製造プロセス効率の増加に寄与する。燃料組立スタンドへの燃料要素の組立に先立って、燃料アセンブリの製造プロセスで以前は避けられなかった作業、すなわち、インターオペレーションカセットの分解、非常に長いラッカー塗布ユニットへの燃料要素の取り付け、15~20分間の予備洗浄、単品位ポリビニル水ベースで調製された溶液への浸漬、70~90℃の温度での燃料要素の12~15分間の乾燥、インターオペレーションカセットでの後続のアセンブリをなくすことができる。そのため、組立スタンドにおける燃料アセンブリへの燃料要素の取り付けを、保護コーティング塗布と組み合わせることができる。
【0019】
潤滑剤組成物中の脂肪酸の存在は、コーティング塗布品質およびその完全な除去の両方に寄与する。したがって、品質を損なうことなく、燃料アセンブリ製造プロセスを最適化し、そのコストを低減するという目的が達成される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
原子炉用の燃料アセンブリの製造方法は、次の通り実施される。
【0021】
主にジルコニウム合金で作られた長いチューブの形態をなし、両端が密封され、燃料ペレットが事前に充填され、すべての検査操作に合格した燃料要素は、一つの束に集約される。複数の燃料要素のセットは、1つのカセット(燃料集合体)に組み立てることを目的とし、内部操作用のカセットに梱包され、FA組立スタンドに輸送される。
【0022】
組立スタンド上の燃料集合体への燃料要素の取り付けは、次のように実施される。保護コーティング塗布装置及びグリッドセルを介して、自身の軸に沿って水平方向に、燃料アセンブリフレームに、押し込みメカニズムによって、動かされた燃料要素を押すことによって。保護コーティング塗布装置は、例えば、提案する組成の水溶性潤滑剤が飽和した状態の多孔質弾性材料で内面が覆われた絞りダイであるとしてもよく、フレーム内で、燃料要素の移動方向に存在する最初のグリッド、又は、提案する組成の潤滑剤で満たされた同様の場所に存在し、燃料要素が通過するための同軸の開口を備えるコンテナの前に、直ちに組立スタンドに設置してもよい。
【0023】
単一の燃料アセンブリを形成する全ての燃料要素を取り付けた後、上端部と底部のノズルが燃料アセンブリに取り付けられる。
【0024】
次に、水溶性潤滑剤が、ジェット洗浄ユニット上で室温の圧力下でウォータージェットを使用して燃料アセンブリから洗い流される。ジェット洗浄ユニットで洗い流すことも可能であり、その後、カセットを室温の水でレトルトに配置し、30分間バブリングしてから水を排出する。洗い流しを2回繰り返し、最後の洗い流しは、80~90℃の熱水で行う。
【0025】
燃料アセンブリは、100-120℃の温度で40分間乾燥される。
【0026】
(産業上の利用可能性)
ラッカー塗布の代わりに、提案された組成の水溶性潤滑剤を保護コーティング層として使用する原子炉用の燃料アセンブリの製造方法は、生産環境での型式試験に合格した。
【0027】
保護コーティング塗布装置を介してアセンブリスタンド上を移動したダミー燃料アセンブリを、ガイドチャネルと中央チューブに取り付けられたグリッドで構成されるTVS-2Mフレームのグリッドに押し込んだ。この移動にあたり、フレームの長さ方向に沿った押圧力を記録した。潤滑剤を用いてTVS-2Mフレームによる型式試験を実施した際、ダミー燃料アセンブリに加わる押圧力の統計的特徴は、次のとおりであった:
平均値-244.7 N;
平均値からの標準偏差-47.9N;
最小値-68.6 N
最大値-358.5 N
30%のノニルフェノールエトキシレートおよび70%の一塩基性脂肪酸混合物を含有するタイプの潤滑剤が使用された。
【0028】
潤滑剤コーティングの塗布品質は、組み立ての過程で制御された。制御の結果は、燃料要素表面上にその保持に必要かつ十分な潤滑剤の粘度値及びグリッドのばね要素に接触した際の完全性を証明しており、これにより燃料要素表面上に潤滑剤を一度だけの塗布で済ますことを許している。組立作業に合格した燃料要素の検査は、鋳造法を用いて測定したひっかき傷の最大の深さが9~13μmであることを示した。ほとんどのひっかき傷は、機械的損傷(30μm)および腐食の潜在的危険性に関して許容値を超えない5~8μmの深さになる。起伏及び裂け目は観察されなかった。
【0029】
燃料要素表面を薄層で覆う潤滑剤の能力は、製造工程における潤滑剤消費量の最小化を保障する。具体的にいうと、潤滑剤の消費量は、1つの燃料アセンブリのアセンブルにつき、1.0~1.5リットルになる。
【0030】
提案された組成の潤滑剤を用いて燃料アセンブリに燃料要素を取り付ける操作は、既存の組立スタンドの設計変更を必要とせず、標準装備による組み立てが可能である。
【0031】
従って、提案された原子炉用の燃料アセンブリの製造方法の実施は、上述した問題解決が可能であり、燃料アセンブリを製造するにあたっての製造品質を確保し、同時に、製造プロセスの効率化を確保して、製造コストの低下を確実にもたらすことができる。この方法は、燃料要素の製造及びその燃料アセンブリへの据付けの連続したサイクルを可能とする機会を提供する。