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特許7296189ブドウ種子抽出物を含む更年期障害改善剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】ブドウ種子抽出物を含む更年期障害改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/87 20060101AFI20230615BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20230615BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230615BHJP
   A61P 15/12 20060101ALI20230615BHJP
【FI】
A61K36/87
A23L33/105
A61P3/10
A61P15/12
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2016144770
(22)【出願日】2016-07-22
(65)【公開番号】P2018012677
(43)【公開日】2018-01-25
【審査請求日】2019-03-06
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】593213504
【氏名又は名称】株式会社エーゼット
(74)【代理人】
【識別番号】100109553
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 一郎
(72)【発明者】
【氏名】麻生 義則
(72)【発明者】
【氏名】庭野 吉己
(72)【発明者】
【氏名】菅野 太郎
【合議体】
【審判長】冨永 みどり
【審判官】森井 隆信
【審判官】岡崎 美穂
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/155166(WO,A1)
【文献】再公表特許第2011/108762(JP,A1)
【文献】特開2000-44472(JP,A)
【文献】J.Nutrit.Biochem.,2010年,Vol.21,pp.961-967
【文献】日本更年期医学会雑誌,2008年,Vol.16,Suppl.,p.100(Abst No.49)
【文献】第9回日本抗加齢医学会総会 プログラム・抄録集,2009年,p.277(Abst No.P-168)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K36/00
JSTPLUS/JMEDPLUS/JST7580(JDreamIII)
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
更年期障害期におけるエストロゲンの分泌減少により生じる耐糖能の低下症状を軽減するための主要成分としてブドウ種子抽出物を含む耐糖能低下症状軽減剤。
【請求項2】
更年期障害期におけるエストロゲンの分泌減少により生じる耐糖能の低下症状を軽減するための主要成分としてブドウ種子抽出物を含む耐糖能低下症状軽減用飲食物。
【請求項3】
更年期障害期におけるエストロゲンの分泌減少により生じる耐糖能の低下症状を軽減するための主要成分としてブドウ種子抽出物を含む耐糖能低下症状軽減用サプリメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、更年期障害期に生じる腸内細菌叢の悪玉化を抑制し、更年期障害期に生じる腸内細菌叢の悪玉化に起因する体重増加症状、及び更年期障害期に生じる耐糖能の低下症状を軽減するための主成分としてブドウ種子抽出物を含む更年期障害改善剤、飲食物、サプリメントに関する。
【背景技術】
【0002】
更年期は、一般に閉経をはさんだ前後約10年間のことを指し、年齢としては、45歳~55歳くらいの時期が該当する。更年期には、いわゆる更年期障害として、疲労感、微熱感、頭痛、ほてり、のぼせ、耳鳴り、多汗、めまい、しびれ感などの種々の不定愁訴の症状が現れることがある。更年期障害は、卵巣機能の低下によるエストロゲンなどの女性モルモンの減少に起因すると考えられている。近年では、女性の社会進出に伴い、20~40歳の女性においてもストレスや喫煙、ダイエット等によりホルモンバランスが乱れ、更年期障害に類似の症状が現れるケースが増えており、若年性更年期障害と呼ばれている。
【0003】
また、女性は更年期のころからポッチャリしたいわゆるリンゴ型の肥満体形になる傾向がある。更年期には、卵巣機能の低下に伴い、女性ホルモンのひとつであるエストロゲンが急激に減少する。エストロゲンは、妊娠・出産のための働きをするだけでなくコレステロール値を正常にして脂肪の代謝を促進する働きがあり、更年期時期のエストロゲン減少は女性が太りやすくなる原因のひとつである。その他にも加齢とともに筋肉が低下し基礎代謝が下がることや普段の生活で運動量が減っていくことなどが原因していると考えられている。
【0004】
女性ホルモンのエストロゲンには、脂肪の代謝を促進する作用以外にも、インスリンを効きやすくする性質がある。更年期に入ってエストロゲンの分泌が徐々に減少していくと、インスリンが効きづらくなり血糖値が下がりにくくなる。すなわち、耐糖能が低下する傾向にある。そこに体重増加による肥満が加わると、生活習慣病のひとつである糖尿病にかかる危険性が高まってしまう。
【0005】
このような更年期障害の治療法としては、不足している女性ホルモンを飲み薬や皮膚に貼って補充するホルモン補充療法(HRT)があるが、長期的に使用すると乳がんや子宮がんの発生リスクを高める可能性があると指摘されている。また、植物成分としては、分子構造がヒトのエストロゲンに似ている大豆イソフラボンが、エストロゲンに似た作用を生じることが知られている(特許文献1)。しかし、大豆イソフラボン等の植物エストロゲンについては、乳がん等エストロゲンに感受性の高いがんにおける発生リスクが懸念されている。そこで、副作用リスクの少ない更年期障害改善剤が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-2831
【非特許文献】
【0007】
【文献】生活習慣病予防のための健康情報サイト <URL:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-001.html>
【文献】腸内細菌額雑誌 24:193-201,2010
【文献】Proc Natl Acad Sci U S A 102:11070-11075,2005
【文献】Nature 444:1022-1023,2006
【文献】Science 341 6150,2013
【文献】日本化学療法学会雑誌 50(2):118-125, 2002
【文献】日本食品工業会雑誌 54(5):229-232, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
肥満は糖尿病や高血圧・心筋疾患などの生活習慣病を始めとして数多くの疾患のもとになることが叫ばれ、厚生労働省においても、健康づくりにおいて肥満の予防・対策は重要な位置づけを持つとして、食事や運動などの生活習慣の見直しを提唱している(非特許文献1)。一方で、肥満と腸内細菌叢との関係について多くの研究がなされ、腸内細菌叢が肥満や生活習慣病に関係しているこが明らかになってきている(非特許文献2)。
【0009】
人の腸内には、常在細菌である腸内細菌が、数にして600~1000兆、種類としては1000種以上も棲息しているといわれている。腸内細菌叢とは、腸の中に棲息する腸内細菌の群生であり、人によりその構成は大きく異なるが腸管内で一定のバランスを保っている。腸内細菌叢の構成は、宿主により異なり加齢によっても変化する。
【0010】
腸内細菌叢は、大きくわけてアクチノバクテリア門、バクテロイデス門、プロテオバクテリア門、フィルミクテス門に分けられる。また、「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」の3種類に分類されることもある。乳酸菌、ビフィズス菌などのアクチノバクテリア門は善玉菌といわれ、主に食物繊維を餌に増え、乳酸や酢酸を分泌して、消化吸収をよくしたり、腸の免疫細胞を刺激して免疫力を活発化している。大腸菌などのプロテオバクテリア門は、アンモニアやアミンなどの毒素を作り出し、消化吸収を妨げるので、悪玉菌といわれている。腸内細菌叢の大部分を占めるバクテロイデス門とフィルミクテス門は日和見菌といわれ、普段はほとんど影響を与えないが、善玉菌、悪玉菌のどちらか優勢なほうに加勢することが知られている。日和見菌のうち、バクテロイデス門は善玉菌が優勢となると善玉菌に加勢し、フィルミクテス門は逆に、悪玉菌が優勢となると悪玉菌に加勢する傾向にある。腸内細菌叢において、これらがバランスよく共存していることが重要であり、それぞれの菌は互いに共存しているため悪玉菌がいないと善玉菌は動かないし、悪玉菌の中にはO‐157を排除する菌も存在している。
【0011】
また、腸内細菌叢が、肥満体重と正常体重でことなることがわかってきている。Gordonらのグループは、肥満マウスでは正常体重マウスに比較してバクテロイデス門に属する菌数が50%少なく、それに比例してフィルミクテス門に属する菌数が高いことを報告している(非特許文献3)。ヒトにおいても肥満者は、フィルミクテス門が多いと同時にバクテロイデス門が少ないことが報告されている(非特許文献4)。
【0012】
さらに、肥満の人から腸内細菌を移植された無菌マウスは、痩せた人の腸から細菌を与えられた無菌マウスに比べて体重が増加し、より多くの脂肪が蓄積することも示されており、腸内細菌叢が肥満に影響することも示めされている(非特許文献5)。すなわち、肥満により腸内細菌叢は変化し、肥満により変化した腸内細菌叢により、さらに体重が増加し脂肪が蓄積されるという悪循環に陥ってしまうと考えられるのである。したがって、体重増加を防ぐためのひとつの方法は、フィルミクテス門に属する菌を増やさないこと、及びフィルミクテス門に対するバクテロイデス門の比を維持、又は増加させ、肥満型の腸内細菌叢の構成に移行させないことが大切であると考えられる。
【0013】
緑茶に多く含まれるカテキンには、抗菌・殺菌作用があることが知られているが(非特許文献6)、カテキンなどのポリフェノールが腸内細菌叢のバランス、特に日和見菌であるフィルミクテス門とバクテロイデス門の割合に与える影響については報告がなされていない。一方で、カテキンなどのポリフェノールが、脂肪の吸収や代謝に関与していることや体重増加、血糖値上昇抑制作用があることも示されている。例えば、小嶋らは、高脂肪食餌と同時に小豆ポリフェノール飲料を与えたマウスの体重増加が抑制されることを報告し、同時に小豆ポリフェノールに脂肪を分解するリパーゼ活性を抑制する働きがあることをin vitro実験により示し、体重増加の抑制は小豆ポリフェノールが脂肪の消化・吸収を抑制し、脂肪が便とともに排出されたことによると推定している(非特許文献7)。
【0014】
更年期の体重増加を抑制するためにポリフェノールを取れば食事から摂取した脂肪の消化・吸収を抑えることはできると考えられるが、上述したように更年期の体重増加の原因は食事にのみ起因するものではない。そこで、我々はポリフェノールの一種であるカテキン類を多く含むブドウ種子抽出物に注目し、更年期時期に主成分としてブドウ種子抽出物を含む更年期障害改善剤等を摂取することで、フィルミクテス門の増加を抑え、あるいは、フィルミクテス門に対するバクテロイデス門の割合を維持、増加させ、更年期前後で腸内細菌叢のバランスを変化させずに維持することができないかと考えた。このような腸内細菌叢の悪化を抑制することができれば、更年期時期の体重増加の原因のひとつを排除できるので、肥満予防につながり、ひいては生活習慣病の予防ができるのではなかと考えたからである。
【0015】
上記の事情を鑑み、本発明は、更年期障害期に生じる腸内細菌叢の悪玉化を抑制し、更年期障害期に生じる腸内細菌叢の悪玉化に起因する体重増加症状、及び更年期障害期に生じる耐糖能の低下症状を軽減するための主成分としてブドウ種子抽出物を含む更年期障害改善剤、飲食物、及びサプリメントを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための手段として、以下の発明などを提供する。すなわち、更年期障害期に生じる腸内細菌叢のフィルミクテス門の増加を抑制するための主要成分としてブドウ種子抽出物を含む更年期障害改善剤、飲食物、及びサプリメントを第一の発明として提供する。
【0017】
第二の発明として、更年期障害期に生じる腸内細菌叢のフィルミクテス門に対するバクテロイデス門の割合を維持又は増加するための主要成分としてブドウ種子抽出物を含む更年期障害改善剤、飲食物、及びサプリメントを提供する。
【0018】
第三の発明として、更年期障害期の腸内菌叢の悪玉化に起因する体重増加症状を軽減するための主要成分としてブドウ種子抽出物を含む更年期障害改善剤、飲食物、及びサプリメントを提供する。
【0019】
第四の発明として、更年期障害期に生じる耐糖能の低下症状を軽減するための主成分としてブドウ種子抽出物を含む更年期障害改善剤、飲食物、及びサプリメントを提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、更年期障害期に生じる腸内細菌叢の悪玉化を抑制し、更年期障害期に生じる腸内細菌叢の悪玉化に起因する体重増加症状、及び更年期障害期に生じる耐糖能の低下症状を軽減するための主成分としてブドウ種子抽出物を含む更年期障害改善剤、飲食物、サプリメント提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】更年期障害期モデルマウスの腸内細菌叢の解析の一例を示す図
図2】更年期障害期モデルマウスの腸内細菌叢の解析の一例を示す図
図3】体重変化の比較の一例を示す図
図4】体重変化の比較の一例を示す図
図5】糖負荷試験による耐糖能の比較の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明は、これらの実施形態に何ら限定されるべきものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得る。
<概要>
【0023】
本発明は、更年期障害期に生じる腸内細菌叢の悪玉化を抑制し、更年期障害期に生じる腸内細菌叢の悪玉化に起因する体重増加症状、及び更年期障害期に生じる耐糖能の低下症状を軽減するための主成分としてブドウ種子抽出物を含む更年期障害改善剤、飲食物、及びサプリメントに関する。
<実施形態 構成>
【0024】
本件発明の更年期障害改善剤、飲食物、及びサプリメントは、更年期障害期に生じる腸内細菌叢のフィルミクテス門の増加を抑制するための主要成分としてブドウ種子抽出物を含む。さらに、本件発明の更年期障害改善剤、飲食物、及びサプリメントは、更年期障害期に生じる腸内細菌叢のフィルミクテス門に対するバクテロイデス門の割合を維持又は増加するための主要成分としてブドウ種子抽出物を含む。また、さらに、本件発明の更年期障害改善剤、飲食物、及びサプリメントは、更年期障害期の腸内菌叢の悪玉化に起因する体重増加症状を軽減するための主要成分としてブドウ種子抽出物を含む。また、本件発明の更年期障害改善剤、飲食物、及びサプリメントは、更年期障害期に生じる耐糖能の低下症状を軽減するための主要成分としてブドウ種子抽出物を含む。
【0025】
本件発明において、「更年期障害期」とは、卵巣機能が衰えはじめる閉経前後以降のエストロゲンが欠乏した状態の期間を指す。また、20~40歳の女性にもホルモンバランスの乱れに起因する更年期障に類似の症状が現れることがあるが、若年性更年期障害におけるホルモンバランスの崩れた期間も「更年期障害期」に含むものとする。
【0026】
本件発明において、「腸内細菌叢の悪玉化」とは、フィルミクテス門が増加すること、ひいてはフィルミクテス門に対するバクテロイデス門の割合が減少することを指す。バクテロイデス門は善玉化しやすく、脂肪の吸収を妨げる短鎖脂肪酸を産出する性質があるのに対し、フィルミクテス門は、悪玉菌と呼ばれるプロテオバクテリア門が優勢となると悪玉菌に加勢する性質があり、肥満に伴い増加し肥満に伴う肝臓がんの原因ともいわれているからである。
【0027】
本件発明において、「耐糖能の低下症状」とは、糖負荷試験において、血糖値が急激に上昇し正常値まで低下する時間が正常よりも長いことをいい、糖の分解に対する感度が低下し血糖値が下がりにくくなっている症状をいうものとする。
【0028】
ブドウ種子抽出物はブドウ種子から抽出されるものである。ブドウ種子は、ブドウ科ブドウの種子であり、ブドウの由来や産地は特に限定されない。ブドウ種子は、ワイン製造プロセス、ブドウジュース製造後に残った種子を含む搾りかすを原料としてもよい。また、ブドウ種子を原料として製造されるグレープシードオイルの搾りかすを原料とすることもできる。
【0029】
ブドウ種子から抽出物を得る方法については、様々な抽出方法および精製方法が開示されているが、例えば、ブドウ種子を熱水を用いて加熱しブドウ種子スラリーを得た後、不要物を濾してブドウ抽出液を得ることができる。さらに、ブドウ抽出液に酵素や酵母を加えて処理することもできる。本件発明に用いるブドウ種子抽出物は、この製造方法に限定されるものではない。また、ブドウ種子抽出物は、ブドウ種子成分を含む原料から得られる抽出液、その希釈液、濃縮液、エキス、乾燥物を含むが、これらに限定されるものではない。
【0030】
本件発明の更年期障害改善剤、飲食物、サプリメントに主要成分として含まれるブドウ種子抽出物は、Folin-Denis法(Schanderl SH. Tannins and related phenolics. In: Joslyn MA, editor. Methods in Food Analysis New York: Academic Press, 1970. pp 701-724.)にて測定した総カテキン類換算量がブドウ種子抽出物中の80重量%以上であることが好ましい。さらに好ましくは、95重量%以上含まれることが望ましい。
【0031】
本件発明の更年期障害改善剤、飲食物、サプリメントに主要成分として含まれるブドウ種子抽出物として、例えば、インデナ社のロイコセレクト(登録商標)を使用することができる。ロイコセレクト(登録商標)は、カテキン類の化学組成が一定しており、(-)-エピカテキン、(+)-カテキンの総量が15%、(-)-エピカテキンのガレート型、2量体~4量体とそのガレート型の総量が80%、5量体~7量体とそのガレート型の総量が5%であることがHPLC-UV(紫外検出器を用いた高速液体クロマトグラフィー分析)、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー分析)、HPLC-TSP-MS(液体クロマトグラフ質量分析)により確認されたことが示されている。
【0032】
カテキン類は、ポリフェノールの中のフラボノイド、その中でもフラバノール類(フラバン-3-オール類)の一群である。フラバン-3-オール骨格の炭素環には、2位と3位に不斉炭素を有するため、フラバン-3-オールのモノマーはシス型とトランス型の立体異性体が存在し、さらに、同骨格の5´位に水酸基が結合したものも存在する。また、同骨格の3位に没食子酸エステルが結合したものはガレート型と呼ばれている。フラバン-3-オールのモノマーが4位と8位の炭素環で縮合したオリゴマーも多数、存在している。このように、カテキンは立体異性体、モノマー、オリゴマー、ガレート型などの様々な構造を有する化合物が知られている。
【0033】
ブドウ種子抽出物に含まれるフラバン-3-オールのモノマーとは、具体的には、(-)-エピカテキン、(+)-カテキン、(-)-エピガロカテキンおよび(+)-ガロカテキンとこれらのガレート型である。(-)-エピカテキン、(-)-エピガロカテキンはシス型で、(+)-カテキン、(+)-ガロカテキンはトランス型である。
【0034】
本件発明の更年期障害改善剤、飲食物、サプリメントに主要成分として含まれるブドウ種子抽出物は、総カテキン中に(-)-エピカテキン、(+)-カテキン、(-)-エピガロカテキンおよび(+)-ガロカテキンを5~40重量%含むことが好ましい。
【0035】
ブドウ種子抽出物に含まれるフラバン-3-オールのモノマーのガレート型とは、(-)-エピカテキンガレート、(+)-カテキンガレート、(-)-エピガロカテキンガレートおよび(+)-ガロカテキンガレートである。ブドウ種子抽出物に含まれるフラバン-3-オールのオリゴマーとは、具体的には、フラバン-3-オールのモノマーが、炭素環の4位と6位あるいは4位と8位の炭素環で縮合したオリゴマーであって、2量体以上のものをいい、具体的には、2~15量体程度の縮合体を指す。フラバン-3-オールのオリゴマーのガレート型とは、フラバン-3-オールのオリゴマーのガレート型である。
【0036】
本件発明の更年期障害改善剤、飲食物、サプリメントに主要成分として含まれるブドウ種子抽出物は、総カテキン中にフラバン-3-オールのモノマーのガレート型、フラバン-3-オールのオリゴマー、およびフラバン-3-オールのオリゴマーのガレート型の総量として60~95重量%含むことが好ましい。
【0037】
本件発明の更年期障害改善剤、飲食物、サプリメントに主要成分として含まれるブドウ種子抽出物は、ガレート型カテキンを含むことが好ましい。
【0038】
カテキン類は、上記のしたように立体異性体、モノマー、オリゴマー、ガレート型などの多数の化合物が知られているが、その化学構造により生理活性や高次構造が異なることがクロマトグラフィーの溶出挙動やlogP値(オクタノール/水二相系における分配係数Pの対数で、有機化合物の疎水性を評価する指標として汎用される数値)などの物性の面からも明らかにされつつある。例えば抗酸化作用に着目すれば、水酸基およびフェノール環の多いオリゴマー、ガレート型の化学構造が、抗酸化能が高いことを示唆する。また、東海林らは「カテキンモノマーとそのオリゴマーの比較では、重合度の増加に伴いlogP値が大きく減少することを報告しているが(BUNSEKI KAGAKU 53,953-958,2004)、logP値を指標とすれば重合度の増加により親水性はより強まることになる。これはフェノール性水酸基が極性の置換基であるために重合度が増すとフェノール性水酸基の数も増えることに起因していると考えられる。一方で、東海林らの報告では、カテキンオリゴマーはlogP値が低いにもかかわらず、逆相HPLCでは比較的強く保持されたことから、重合度の増加に伴い形成される高次構造は、分子表面の親水性を高めると同時に、逆相HPLCの固定相のODS鎖と立体的に強く相互作用することができる疎水性領域を分子内に有していることを示している。このことから、カテキンオリゴマーのlogP値が低い値を示すのは、あくまで化合物の表面の親水性が増していることを表し、分子内部は疎水性が高まり、脂質二重層からなる細胞膜と相互作用する可能性を示唆している。
【0039】
一方で、東海林らはカテキンモノマーのlogP値は高いことも報告しており、カテキンモノマーは疎水性であるため、脂質二重層を通過し、細胞内に入り込みやすく、細胞内部で作用を発揮していることが予想される。したがって、カテキンモノマーは細胞内部、オリゴマーは細胞表層というように作用部位が異なることが想定される。
【0040】
本件発明の更年期障害改善剤、飲食物、サプリメントに主要成分として含まれるブドウ種子抽出物は、フラバン-3-オールのモノマー、フラバン-3-オールのモノマーのガレート型、フラバン-3-オールのオリゴマー、およびフラバン-3-オールのオリゴマーのガレート型といった種々のカテキン類が含まれていることが知られており(特許5424641号)、このようなブドウ種子抽出物中のカテキン類が、細胞内部および細胞表層で作用するため、腸内細菌叢に対する作用や耐糖能の低下症状を軽減する効果が高いと考えられる。
【0041】
本件発明の更年期障害改善剤は、主要成分としてブドウ種子抽出物を含む健康食品、食品添加物、医薬品、化粧品、医薬部外品などとして応用することが可能である。例えば、医薬品や医薬部外品とする場合には、主要成分としてブドウ種子抽出物を粉体や粒体としカプセルに充填したり、あるいは、賦形剤、結合剤、崩壊剤などを添加して打錠機等を用いて錠剤としてもよい。また、食品添加物や健康食品とする場合には、医薬品などのようにカプセルや錠剤のような形態で提供してもよいし、飲料、調味料、菓子等の各種の食品に添加した態様で提供することもできる。
【0042】
飲食物とは、一般的な食べ物、飲み物のほかに、広く口から摂取可能な個体状・液体状物質を指す。本件発明の飲食物は、既知の方法を用いることにより、主要成分としてブドウ種子抽出物を含む飲食物として提供することが可能である。例えば、飲料、調味料、菓子、惣菜、冷凍食品、アイスクリーム、レトルト食品、缶詰、瓶詰、ハム、ソーセージ、チーズなどが挙げられるが、これらの飲食物の種類に限定されるものではない。
【0043】
本件発明のサプリメントは、本実施形態のブドウ種子抽出物を粉体や粒体としカプセルに充填したり、あるいは、賦形剤、結合剤、崩壊剤などを添加して打錠機等を用いて製造することができる。また、飲料、調味料、菓子等の各種の食品にブドウ種子抽出物を添加した態様で提供することもできる。
【実施例1】
【0044】
次に、更年期障害期モデルマウスの腸内細菌叢の解析、更年期障害期モデルマウスを用いた体重増加の比較試験、糖負荷試験による耐糖能の比較をした結果を調製例および実施例により詳しく説明する。なお、本発明はこれらの調製例および実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施しうる。なお、本実施例では更年期障害期モデルマウスとして外科手術により卵巣を摘出したマウスを用いた。
【0045】
<調製例1>ブドウ種子抽出物を含むマウス用飼料の調製
マウス用飼料のクレア ロデット ダイエット CE-2(日本クレア社製)5kgに対し10gのブドウ種子抽出物を混錬後、成形し、ブドウ種子抽出物を含むマウス用飼料を調製した。ブドウ種子抽出物には、インデナ社のロイコセレクト(登録商標)を用いた。ブドウ種子抽出物を含むマウス用飼料は、目視で確認したところ着色はなく、混錬前の飼料とくらべ差はみられなかった。マウス用飼料にブドウ種子抽出物が混錬されていることを確認するために、以下の方法で(-)-エピカテキンと(+)-カテキンの分析を行った。ブドウ種子抽出物を含むマウス用飼料を粉砕、メタノールを添加後、激しく攪拌して、カテキン類を抽出した。抽出液を遠心分離(10000rpmで15分間)した後、LC-MS(液体クロマトグラフ質量分析)で上清を分析したところ、(-)-エピカテキンと(+)-カテキンが確認された。
【0046】
<実施例1>更年期障害期モデルマウスを用いた腸内細菌叢解析
(マウスの給餌条件等)
C57系雌性マウス(三協ラボサービス株式会社)7週齢を温度23~25℃、湿度70%、照明は12時間/日に設定された施設で1週間予備飼育後、手術を行った。1群5匹とし、卵巣の摘出手術をおこなったマウスを更年期障害期モデルとして用いた。更年期障害期モデルとしてのマウスに調製例1のブドウ種子抽出物を含むマウス用飼料を与えたものを試験群1とし、更年期障害期モデルとしてのマウスにブドウ種子抽出物を含まない通常の飼料(マウス用飼料のクレア ロデット ダイエット CE-2(日本クレア社製))を給餌したものを対照群1とした。試験群1は手術前日から調製例1のブドウ種子抽出物を含むマウス用飼料の給餌を開始したが、手術前々日まではブドウ種子抽出物を含まない通常の飼料を給餌した。対照群2は、開腹手術(sham手術)のみをおこない、対照群1と同様に手術前後でブドウ種子抽出物を含まない通常の飼料を与えた。手術後1~2週間おきに各マウスの体重を測定した。なお、マウスは8週後も成長により体重が自然増加することが知られている。
【0047】
(手術)
試験群1及び対照群1の卵巣摘出手術は次のようにおこなった。麻酔(2,2,2-トリブロモエタノール(Sigma)1.2%溶液をマウス10gあたり0.2ml)下にマウスを腹臥位とし、背部に切開を加え、卵巣を露出、これを除去した。対照群2に施したsham手術は、皮膚、後腹膜切開を加えるが、卵巣を摘出せず、創を縫合した。
【0048】
(腸内細菌叢解析試験)
手術8週後、1日(24時間)分の糞便をマウスごとに採取し、-80℃で保存した。腸内細菌叢解析は、コスモ・バイオ株式会社に依頼して行った。-80℃で保存した糞便をコスモ・バイオ株式会社に送付し、糞便からDNAをマウスごとに抽出し、16SrDNA領域配列をもちいたリアルタイムPCR法により全菌種、フィルミクテス門、バクテロイデス門の解析を行った。解析して得られたCP値から比較Ct法により、全菌種に対する相対比率(%)を算出した。
【0049】
(結果)
図1及び図2は、更年期障害期モデルマウスの腸内細菌叢の解析の一例を示す図である。図1はそれぞれの群の5匹のマウスについてフィルミクテス門とバクテロイデス門の全菌種に対する相対比率を比較した図であり、フィルミクテス門を塗りつぶしで、バクテロイデス門を白抜きで示した。図2は腸内細菌叢のフィルミクテス門に対するバクテロイデス門の割合の各群の平均値を比較した図である。
【0050】
フィルミクテス門の相対比率を比較すると、試験群1の平均値13.08に対し、対照群1の平均値は21.52であり、試験群1は対照群1とくらべて顕著に低かった。卵巣を切除した更年期障害期モデルマウスでは、ブドウ種子抽出物を含むマウス用飼料の摂餌によりフィルミクテス門の値が低く抑えられることがわかった。一方で、ブドウ種子抽出物を含まないマウス用飼料を摂餌した対照群1と対照群2をくらべると、対照群1の平均値は対照群2の平均値15.21とくらべ高く、卵巣摘出によりフィルミクテス門が増加することが示された。また、試験群1の平均値と対照群2の平均値を比較すると試験群1のほうがやや高い値となった。
【0051】
これらの結果は、更年期障害期のモデルとして卵巣摘出マウスは、通常の餌を摂取しているとフィルミクテス門が増加してしまうが、ブドウ種子抽出物を含む餌を摂取することによりフィルミクテス門の増加が抑制され、卵巣摘出前の状態が維持されることを示している。すなわち、更年期障害期直後からの主成分としてブドウ種子抽出物を含む更年期障害改善剤等を摂取することで、フィルミクテス門の増加が抑制され更年期障害期前の状態を維持できることが認められた。
【0052】
バクテロイデス門を比較すると、試験群1の平均値30.24に対し、対照群1の平均値は24.40であり、試験群1のほうが高かった。卵巣を切除した更年期障害期モデルマウスでは、ブドウ種子抽出物を含むマウス用飼料の摂餌によりバクテロイデス門の値が増えることがわかった。一方で、ブドウ種子抽出物を含まないマウス用飼料を摂餌した対照群1と対照群2をくらべると、対照群1の平均値は対照群2の平均値29.68とくらべ低く、卵巣摘出によりバクテロイデス門が減少することが示された。また、試験群1の平均値と対照群2の平均値を比較すると試験群1のほうがやや高い値となった。
【0053】
これは、更年期障害期のモデルとして卵巣摘出マウスは、通常の餌を摂取しているとバクテロイデス門が減少してしまうが、ブドウ種子抽出物を含む餌を摂取することによりバクテロイデス門の減少が抑制され、卵巣摘出前の状態が維持されることを示している。すなわち、更年期障害期直後からの主成分としてブドウ種子抽出物を含む更年期障害改善剤等を摂取することで、バクテロイデス門の減少が抑制され更年期障害期前の状態を維持することができることが認められた。
【0054】
各群のフィルミクテス門に対するバクテロイデス門の割合の平均値を比較したものが図2である。試験群1の割合は1.75~3.36で平均値は2.46に対し、対照群1の割合は0.93~1.46で平均値は1.14で、試験群1は対照群1とくらべ顕著に高い値であった。卵巣を切除した更年期障害期モデルマウスでは、ブドウ種子抽出物を含むマウス用飼料の摂餌によりフィルミクテス門に対するバクテロイデス門の割合が増加することがわかった。一方で、ブドウ種子抽出物を含まないマウス用飼料を摂餌した対照群1と対照群2をくらべると、対照群2の割合は1.05~3.85で平均値は、2.18であり、対照群1は対照群2とくらべ低く、卵巣摘出によりフィルミクテス門に対するバクテロイデス門の割合が減少することが示された。また、試験群1と対照群2を比較すると、試験群1の値は、対照群の値の最高値3.85から最低値1.05の範囲内であり、平均値はやや高い値となった。
【0055】
この結果は更年期障害期のモデルとしての卵巣摘出マウスは、通常の餌を摂取していると腸内細菌叢のフィルミクテス門に対するバクテロイデス門の割合が減少してしまうが、ブドウ種子抽出物を含む餌の摂取により腸内細菌叢のフィルミクテス門に対するバクテロイデス門の割合は維持又は増加し、卵巣摘出前の状態が維持されることを示している。すなわち、更年期障害期直後から主成分としてブドウ種子抽出物を含む更年期障害改善剤等を摂取することで、腸内細菌叢のフィルミクテス門に対するバクテロイデス門の割合が維持又は増加するので、更年期障害期前の状態を維持できることが示された。
【0056】
なお、本実施例は、更年期障害期のモデルとして卵巣摘出マウスを用い、卵巣を摘出することにより、腸内細菌叢のフィルミクテス門が増加し、それに伴いフィルミクテス門に対するバクテロイデス門の割合が減少すること、すなわち、腸内細菌叢が悪玉化することを初めて明らかにした報告である。さらにブドウ種子抽出物を含むマウス用飼料の給餌することで、卵巣摘出マウスの腸内細菌叢の悪玉化が防げることも明らかにし、卵巣機能が低下する更年期障害期に主成分としてブドウ種子抽出物を含む更年期障害改善剤等を摂取することで、更年期障害期に生じる腸内細菌叢の悪玉化が抑えられることを示したのである。
【0057】
本試験例の結果から、更年期障害期から主成分としてブドウ種子抽出物を含む更年期障害改善剤等を摂取することで、更年期障害期に生じる腸内細菌叢のフィルミクテス門の増加を抑制できること、及び腸内細菌叢のフィルミクテス門に対するバクテロイデス門の割合を維持又は増加できることが認められた。
【0058】
図3は、実施例1に供したマウスの体重変化(1群5匹の平均値)の比較の一例を示す図である。試験群1は、対照群1にくらべて体重増加が抑えられており、ブドウ種子抽出物を含むマウス用飼料の給餌より体重増加が抑制されることが示された。また、対照群1は対照群2にくらべて体重増加が著しく、卵巣切除により体重が増加することが示された。本実施例により更年期障害期において、ブドウ種子抽出物を含む更年期障害改善剤等を摂取することにより体重増加が抑制されることが明らかとなった。
【0059】
一方で、試験群1と対照群2の術後8週の腸内細菌叢には顕著に差があり、卵巣を切除した対照群2の腸内細菌叢は悪玉化することが認められた。そこで、実施例2において、マウスの腸内細菌叢のみが体重増加に与える影響を調べるために、実施例1に供したマウスの糞便を移植して体重変化を調べることとした。
【0060】
<実施例2>更年期障害期モデルマウスを用いた体重増加の比較試験
(抗生剤含有水の調製)
アンピシリン300mg、ネオマイシン300mg、メトロニダゾール300mg、バンコマイシン150mgを300mlの飲料水に溶解した。
(マウスの給餌条件等)
【0061】
C57系雌性マウス(三協ラボサービス株式会社)7週齢を温度23~25℃、湿度70%、照明は12時間/日に設定された施設で2週間、水の代わりに抗生剤含有水を自由摂取させながら飼育をおこなった。餌はブドウ種子抽出物を含まない通常の飼料(マウス用飼料のクレア ロデット ダイエット CE-2(日本クレア社製))を与えた。1群6~8匹とし、実施例1の試験群1の糞便を移植する群を試験群2、同じく対照群1の糞便を移植する群を対照群3、同じく対照群2の糞便を移植する群を対照群4とした。
【0062】
抗生剤を2週間投与することで、試験に供するマウス中の腸内を無菌化した後、抗生剤の投与を休止し、3日後に新鮮糞便を投与した。糞便を供給するマウスごとに1日(24時間)分の糞便200mgを5mlのPBS(リン酸緩衝液食塩水)に入れて3分間攪拌後、室温で2分間静置した。上清200μlをゾンデにて経口投与した。糞便の採集は、いずれも試験例1のマウスの術後9週後におこなった。糞便移植により、試験群2は試験群1と、対照群3は対照群1と、対照群4は対照群2のマウスの腸内細菌叢とそれぞれ同じ構成になったと考えられる。糞便移植後、各マウスの体重を6~9日ごとに測定した。抗生剤の投与休止後は、抗生剤を含まない通常の水及び飼料を自由に摂取させた。なおマウスは、通常の飼育環境で飼育した場合において、9週以降も成長による自然体重増加がみられることが知られている。
(結果)
【0063】
図4は、実施例1に供したマウスの糞便を移植されたマウスの体重変化の比較の一例を示す図である。実施例2は、腸内を無菌化したマウスに実施例1に供したマウスの新鮮糞便を移植し、腸内細菌叢のみが異なる条件下でマウスの体重変化を測定し、ブドウ種子抽出物を含む飼料の摂餌と卵巣切除が腸内細菌を介して体重増加に及ぼす影響を調査したものである。
【0064】
試験群2は、実施例1に供した試験群1のマウスの糞便を移植されているので、腸内細菌叢が試験群1と同様な構成となり、いわゆる悪玉化していない状態であることが予想される。一方、対照群1のマウスの糞便を移植された対照群3は、腸内細菌叢は、試験群1と同様に腸内細菌叢のフィルミクテス門が増加し、それに伴いフィルミクテス門に対するバクテロイデス門の割合が減少している、いわゆる腸内細菌叢が悪玉化した状態であることが予想される。対照群4は、実施例1に供した試験群2のマウスの糞便を移植されているので、試験群2と同様にいわゆる悪玉化していない状態であることが予想される。
【0065】
図4に示されるようにブドウ種子抽出物を含むマウス用飼料を給餌された更年期障害期のモデルとしての卵巣摘出マウスである試験群1の糞便を移植された試験群2のマウスの体重増加は、通常の飼料を給餌された更年期障害期のモデルとしての卵巣摘出マウスである対照群1の糞便を移植された対照群3のマウスにくらべ顕著に低かった。また、対照群3は、通常の飼料を給餌され、卵巣を摘出されていないマウスである対照群2の糞便を移植された対照群4のマウスにくらべ顕著に高かった。対照群3と対照群4の体重変化の差は、卵巣摘出による腸内細菌叢の変化が宿主の体重増加をもたらすことが示している。また、この結果に加え、試験群2と対照群3の体重変化の相違から、卵巣摘出を施されたマウスの腸内細菌叢であっても、ブドウ種子抽出物を含む飼料を摂取することで、いわゆる悪玉化していない状態であるので、体重増加が是正され、卵巣摘出していないマウスと同じような体重変化となることが示された。
【0066】
実施例1により卵巣摘出8週後のマウスの比較において、腸内細菌叢が変化することが示されているが、その影響は術後すぐに変化するのではなく徐々に変わっていくことが予想される。図3の特に4週目までにおいて、試験群1と対照群2の体重増加の差が顕著に現れていなかったのは、対照群2の腸内細菌叢にまだ大きな変化が生じていなかったことによるのかもしれない。
【0067】
更年期障害期の体重増加にはいくつかの原因があるが、実施例1により更年期障害期に腸内細菌叢が変化することを初めて明らかにし、実施例2によりその変化が宿主の体重増加をもたらすことを確認した。したがって、実施例1及び2により更年期障害期から主成分としてブドウ種子抽出物を含む更年期障害改善剤等を摂取することで、腸内細菌叢の変化を抑制し、悪玉化に起因する体重増加症状を軽減できることを確認することができた。
【0068】
試験例1及び2の結果から、更年期障害期から主成分としてブドウ種子抽出物を含む更年期障害改善剤等を摂取することで、更年期障害期の腸内菌叢の悪玉化に起因する体重増加症状を軽減できることが認められた。
【0069】
なお、本発明の実施例では、更年期障害期のモデルとしての卵巣摘出マウスを用いているため、女性ホルモンは急激に減少すると想定されるが、実際の更年期障害期では卵巣機能は徐々に衰え、それに伴い腸内細菌叢も徐々に変化していくと考えられる。したがって、本発明の主成分としてブドウ種子抽出物を含む更年期障害改善剤等を更年期障害期の初期から摂取することがより効果的であり好ましい。
【0070】
<実施例3>更年期障害期モデルマウスを用いた糖負荷試験による耐糖能の比較
(マウスの給餌条件等)
【0071】
マウスの飼育方法は、実施例1と同様である。卵巣の摘出手術をおこなった更年期障害期モデルマウスにブドウ種子抽出物を含むマウス用飼料を給餌した群を試験群3とし、更年期障害期モデルマウスにブドウ種子抽出物を含まない通常の飼料を給餌した群を対照群5とした。試験群3は手術前日から調製例1のブドウ種子抽出物を含むマウス用飼料の給餌を開始したが、手術前々日まではブドウ種子抽出物を含まない通常の飼料を給餌した。対照群6は、開腹手術のみをおこない、対照群5と同様に手術前後でブドウ種子抽出物を含まない通常の飼料を与えた。手術は、実施例1と同様におこなった。
【0072】
(糖負荷試験)
手術後5週後、16時間絶食後、尾静脈から採血後、直ちにマウスの体重1g当たり1mgのグルコースをゾンデにて経口投与し、30分間隔で尾静脈から採血した血中グルコース濃度を4回測定した。血中グルコース濃度は自己検査用グルコースキット グルテストNEOセンサーおよび自己検査用グルコース測定器 グルテストNEOアルファを用いて測定した。
【0073】
(結果)
図5は、糖負荷試験による耐糖能の比較の一例を示す図である。卵巣を摘出した対照群5は、卵巣を摘出していない対照群6にくらべ、血糖値が急激に上昇し正常値まで低下する時間が長くなっており、耐糖能が低下していることが示された。しかし、図5に示す通り、試験群3では、対照群5に比し耐糖能の低下症状は軽度であった。このことは、更年期障害期のモデルとして用いた卵巣摘出マウスでは、ブドウ種子抽出物の投与によって、耐糖能の低下症状が改善したことを示している。更年期障害時の耐糖能の低下症状は、インスリン抵抗性の増大に起因すると考えられることから、ブドウ種子抽出物は、直接的にあるいは腸内細菌叢への作用などを介して間接的に肝臓や筋肉、脂肪細胞などでインスリンが正常に働くように作用していることが考えられる。
【0074】
本試験例の結果から、更年期障害期から主成分としてブドウ種子抽出物を含む更年期障害改善剤等を摂取することで、更年期障害期に生じる耐糖能の低下症状を軽減できることが認められた。
【0075】
本発明は、更年期障害期に生じる症状に対し早期に対策することで、正常体重の腸内細菌叢の構成を維持し、体重増加を抑制し、ひいては糖尿病などの生活習慣病の予防に貢献できると考えられる。ところで、高橋は、閉経後は心血管系疾患が増加するが、心血管系疾患の発生にはエストロゲンの減少以外に加齢という生物学的老化現象も関与するため、エストロゲンの投与がすべての年齢における動脈硬化の発生の抑制につながるものではないこと、及び、閉経後であっても年齢の低い段階でHRTをおこなうことが効果的で、女性のQOL向上に貢献できることが考えられると報告している。(日本生殖内分泌学会雑誌 18:11-15, 2013)このように疾病の種類によっては、症状が悪化する前に早期に対応することで、効果をあげることができることが分かってきている。具体的な症状が現れる前から対策し、健康状態を長期に継続させようとする健康管理法が提唱され始めており、本発明はこのような見地からも有用であると期待される。
図1
図2
図3
図4
図5