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  • 特許-焼菓子の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】焼菓子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 8/02 20060101AFI20230615BHJP
   A21D 10/02 20060101ALI20230615BHJP
   A23G 3/34 20060101ALI20230615BHJP
   A23L 19/18 20160101ALI20230615BHJP
   A23L 19/12 20160101ALI20230615BHJP
【FI】
A21D8/02
A21D10/02
A23G3/34 102
A23L19/18
A23L19/12 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018084123
(22)【出願日】2018-04-25
(65)【公開番号】P2019187312
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000165284
【氏名又は名称】月島食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】弁理士法人創成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 圭一
【審査官】川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-144056(JP,A)
【文献】特開平11-089516(JP,A)
【文献】特表2011-510636(JP,A)
【文献】特開昭61-096950(JP,A)
【文献】米国特許第05188859(US,A)
【文献】特開2014-117280(JP,A)
【文献】特開2013-048575(JP,A)
【文献】特開2010-187644(JP,A)
【文献】特開2016-167987(JP,A)
【文献】特開2009-082004(JP,A)
【文献】国際公開第2013/145601(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/133303(WO,A1)
【文献】特開2001-245594(JP,A)
【文献】特開平08-322501(JP,A)
【文献】五十嵐敏夫,洋菓子製法大全集(上巻),第7版,1975年01月05日,p.292
【文献】五十嵐敏夫,洋菓子製法大全集(中巻),第7版,1975年01月05日,p.105
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00-17/00
A23G 1/00- 9/52
A23L 7/00- 7/10
A23L 19/00-19/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糊化又はα化の処理が施されていない澱粉質原料を含有する生地を焙焼して焼菓子を得る焼菓子の製造方法であって、該方法は、前記生地の表面に油脂を付着させる工程と、前記生地の表面を吸湿させる工程とを含み、前記生地の表面に油脂を付着させる工程において、該付着は、前記油脂の噴霧又は塗布により行ない、前記生地の表面を吸湿させる工程において、該吸湿は、水の噴霧、水の塗布、又は加湿環境下におくことにより行なう、焼菓子の製造方法。
【請求項2】
糊化又はα化の処理が施されていない澱粉質原料を含有する生地を焙焼して焼菓子を得る焼菓子の製造方法であって、前記生地は、前記澱粉質原料の乾燥固形分100質量部のうちの90質量部以上100質量部以下を小麦粉以外の澱粉質原料が占める該澱粉質原料を含有するものであり、該方法は、前記生地の表面に油脂を付着させる工程と、前記生地の表面を吸湿させる工程とを含み、前記生地の表面を吸湿させる工程において、該吸湿は、水の噴霧、水の塗布、又は加湿環境下におくことにより行なう、焼菓子の製造方法。
【請求項3】
前記生地の表面に油脂を付着させる工程において、該付着は、前記油脂の噴霧又は塗布により行なう、請求項2記載の焼菓子の製造方法。
【請求項4】
糊化又はα化の処理が施されていない澱粉質原料を含有する生地を焙焼して焼菓子を得る焼菓子の製造方法であって、前記生地は、実質的にグルテンを含まないものであり、該方法は、前記生地の表面に油脂を付着させる工程と、前記生地の表面を吸湿させる工程とを含み、前記生地の表面を吸湿させる工程において、該吸湿は、水の噴霧、水の塗布、又は加湿環境下におくことにより行なう、焼菓子の製造方法。
【請求項5】
前記生地の表面に油脂を付着させる工程において、該付着は、前記油脂の噴霧又は塗布により行なう、請求項4記載の焼菓子の製造方法。
【請求項6】
前記生地の表面を吸湿させる工程の前に、前記生地の表面に油脂を付着させる工程を行う、請求項1~5のいずれか1つに記載の焼菓子の製造方法。
【請求項7】
前記生地が、シート状に圧延し型抜きしてから焙焼される、請求項1~6のいずれか1つに記載の焼菓子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼菓子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードビスケットやクラッカーなどの焼菓子は、一般に、小麦粉を含む原料からなる生地をシート状に圧延し型抜きして、これを焙焼して製造されている。このタイプの焼菓子は、“サクサク”とした食感を呈するうえ、粉っぽさがなく口どけがよいことが、消費者に受容されるべく食感にかかる重要な性質である。
【0003】
一方、焼菓子の製造方法に関し、例えば、特許文献1には、蒸し、噴霧、又は浸漬の手段でビスケットの生地に加水して、その加水過程を経た生地を焼き上げることにより、糊化度を高めたビスケットを得ることが記載されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、小麦粉とイーストを含む生地を、間に油脂が塗布された2枚重ねシート状に成形した後、切断成型を行い、次いで発酵させ、焼成することによって得られた焼成菓子が、大きな中空部を形成しており、しかも膨張剤を含んでいなくともカリッとした食感を呈することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-330694号公報
【文献】特開2015-100314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年では、小麦を配合しない、いわゆるグルテンフリーの食品への要望もある。この点、ハードビスケットやクラッカーなどの焼菓子では、原料の小麦粉に含まれる澱粉粒が、適度にα化されて残り、それが “サクサク”とした食感につながっているものと考えられる。よって、例えば、配合中にコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、米粉、コーンフラワー、乾燥ポテトなど、小麦粉以外の澱粉質原料を多量に配合すると、焙焼後もα化されない澱粉粒が多量に残り、粉っぽさを感じさせるとともに、食感も“サクサク”としたハードビスケットやクラッカーなどの焼菓子に求められる食感にはならずに、硬くて“ボソボソ”とした食感になるものと考えられる。また、このタイプの焼菓子では、油分、糖分の配合量が比較的少ないので粉っぽさがより感じられてしまうものと考えられる。
【0007】
以上の着眼点に立ち、本発明者らが研究したところ、小麦粉以外の澱粉質原料を使用した場合に、澱粉質原料の一部または全てを湯捏ねなどの方法でα化することで、粉っぽさがある程度は解消されるが、その食感がせんべいのような“ガリガリ”としたものとなる傾向があった。また、加水を増すことによっても、粉っぽさがある程度は解消されるが、生地が軟らかくなり、シート状に圧延し型抜きする製造方法では、圧延ロールに巻きついたり、抜型に付着したりして、成形しづらくなる傾向があった。
【0008】
本発明の目的は、小麦粉以外の澱粉質原料を使用した場合も、“サクサク”とした食感を呈し、粉っぽさがなく、口どけがよく、生地の成形も良好に行うことが可能である、という性質において優れた焼菓子を得ることができる、焼菓子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、以下の構成からなる本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、澱粉質原料を含有する生地を焙焼して焼菓子を得る焼菓子の製造方法であって、該方法は、前記生地の表面に油脂を付着させる工程と、前記生地の表面を吸湿させる工程とを含むことを特徴とする焼菓子の製造方法を提供するものである。
【0011】
また、上記焼菓子の製造方法において、前記生地の表面を吸湿させる工程の前に、前記生地の表面に油脂を付着させる工程を行う、該焼菓子の製造方法を提供するものである。
【0012】
また、上記焼菓子の製造方法において、前記生地の表面に油脂を付着させる工程において、該付着は、前記油脂の噴霧又は塗布により行なう、該焼菓子の製造方法を提供するものである。
【0013】
また、上記焼菓子の製造方法において、前記生地の表面を吸湿させる工程において、該吸湿は、水の噴霧、水の塗布、又は加湿環境下におくことにより行なう、該焼菓子の製造方法を提供するものである。
【0014】
また、上記焼菓子の製造方法において、前記生地は、前記澱粉質原料の乾燥固形分100質量部のうちの90質量部以上100質量部以下を小麦粉以外の澱粉質原料が占める、該澱粉質原料を含有するものである、該焼菓子の製造方法を提供するものである。
【0015】
また、上記焼菓子の製造方法において、前記生地は、実質的にグルテンを含まないものである、該焼菓子の製造方法を提供するものである。
【0016】
また、上記焼菓子の製造方法において、前記生地が、シート状に圧延し型抜きしてから焙焼される、該焼菓子の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、小麦粉以外の澱粉質原料を使用した場合も、“サクサク”とした食感を呈し、粉っぽさがなく、口どけがよく、生地の成形も良好に行うことが可能である、という性質において優れた焼菓子を得ることができる、焼菓子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明にかかる焼菓子の製造方法の一実施形態を説明するブロック工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明が適用される焼菓子としては、澱粉質原料を含有する生地を焙焼して得られる焼菓子にかかるものであればよく、特に制限はない。例えば、ハードビスケット、クラッカー、ポテトスナック、澱粉を主体とするスナック等が挙げられる。これらのタイプの焼菓子は、通常、小麦粉を澱粉質原料として含み、その大量生産に際しては、生地をシート状に圧延し型抜きしてから焙焼するなどの方法が一般的である。本発明によれば、後述の実施例で示されるように、澱粉質原料として小麦粉以外のものを用いた場合にも、“サクサク”とした食感を呈し、粉っぽさがなく口どけがよい、という性質において優れた焼菓子を得ることができる。また、通常の加水量で生地を調製すればよいので、シート状に圧延し型抜きしてから焙焼するような方法の場合でも、生地の取り扱い性に支障がなく、既存の製造設備での大量生産への適用が可能である。
【0020】
しかるに、本発明によれば、グルテンを含まないかその含有量を低減させた焼菓子への適用が好ましくなし得る。これによれば、健康志向の消費者や小麦アレルギーを避けたい消費者に向けて、好適な焼菓子を提供し得る。その場合、澱粉質原料の乾燥固形分100質量部のうちの90質量部以上100質量部以下を小麦粉以外の澱粉質原料が占めるようにすることが好ましく、小麦粉以外の澱粉質原料が95質量部以上100質量部以下占めるようにすることがより好ましく、小麦粉以外の澱粉質原料が100質量部占めるようにすることが更により好ましい。また、焼菓子のための生地が、実質的にグルテンを含まないものであることが好ましい。
【0021】
本発明に使用可能な、小麦粉以外の澱粉質原料としては、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、米粉、コーンフラワー、乾燥ポテト等が挙げられる。また、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、米澱粉、トウモロコシ澱粉、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、くず澱粉等の澱粉や、これら澱粉に、酸処理、酵素処理、エステル化、エーテル化、架橋化等の化学的処理、あるいは高周波処理、湿熱処理、放射線処理等の物理的処理を、単独もしくは複数施してなる加工澱粉等が挙げられる。このうち澱粉としては、更にα化処理したものを用いてもよい。これら澱粉質原料は単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0022】
本発明が適用される、焼菓子のための生地には、上記澱粉質原料以外にも、その他の原料が含まれ得る。そして、通常取り得る配合や調製方法にて、その生地を調製すればよい。また、必要に応じて、通常では小麦粉を使用するところを、上記小麦粉以外の澱粉質原料によりその一部又は全部を置換して、その生地を調製するようにしてもよい。
【0023】
焼菓子のための生地に含有せしめる、例えば粉体原料としては、大豆粉、小麦フスマ、アーモンドプードル、全粒玄米粉、エンドウ豆粉、黄色エンドウ豆粉、ひよこ豆粉、トウモロコシ繊維等が挙げられる。
【0024】
また、例えば油脂原料としては、マーガリン、ショートニング、バター、ファットスプレッド、サラダ油、白絞油、ラード、ヘッド、鶏油等が挙げられる。
【0025】
また、例えば膨化剤としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、焼ミョウバン、フマル酸、ピロリン酸二水素カルシウム、L-酒石酸水素カリウム、リン酸二水素カルシウム等が挙げられる。
【0026】
また、例えば乳化剤としては、レシチン類、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0027】
上記以外にも、焼菓子のための生地に含有せしめる副原料として、例えば、砂糖、グラニュー糖、上白糖、三温糖、ぶどう糖果糖液糖、果糖ぶどう糖液糖、デキストリン、フルクトース、トレハロース、グルコース、乳糖、オリゴ糖、糖アルコール等の糖類、牛乳、クリーム、カゼイン、ホエー、脱脂粉乳、全脂粉乳等の乳や乳製品、全卵、卵黄、卵白、殺菌卵、乾燥全卵等の卵類、食塩、醤油、アミノ酸、グルタミン酸ナトリウム等の調味料、リキュール類、酒類、味醂類、クロレラ粉末、海老粉末、果汁、チョコレート、ココア、コーヒー、抹茶等の風味原料、青のり、フレーバー、等を更に含有せしめることに特に制限はない。
【0028】
本発明にかかる製造方法は、焼菓子の生地に特定の処理を施したうえ、焙焼して焼菓子を得るものである。以下、図面を参照しつつその製造方法について更に詳細に説明する。ただし、本発明の範囲は、以下に説明する具体的手段に制限されるものではない。
【0029】
図1には、本発明にかかる焼菓子の製造方法の一実施形態を説明するブロック工程図を示す。この図に示されるように、本発明においては、焼菓子の生地を焙焼して焼菓子を得る際に、生地の表面に油脂を付着させ(図中、符号1で示す工程)、且つ、生地の表面を吸湿させたうえ(図中、符号2で示す工程)、そのような処理を施した生地を焙焼する(図中、符号3で示す工程))。ただし、生地の表面に油脂を付着させる工程と、生地の表面を吸湿させる工程とは、実質的に生地の焙焼が完了する前に行えばよく、焙焼のためのオーブン内を加湿環境にすることで、生地の表面を吸湿させる工程と焼成工程とを、ほぼ同時進行で行ってもよい。
【0030】
油脂としては、食用油脂であれば特に制限はない。常温で液状である油脂を使用すれば塗布、噴霧等の作業性に優れる。あるいは常温で固体である油脂を使用すれば溶解させる必要はあるが保存性に優れ、良好な食感を菓子に付与することができる。常温で液状である油脂としては、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、米油、オリーブ油、落花生油、べに花油、サフラワー油、ヒマワリ油、等が挙げられるが、これらの油脂に対し、水素添加、分別、エステル交換等の処理を施した油脂についても、得られた加工油脂が常温で液状であれば、そのような液状油脂として使用することができる。また、得られた加工油脂が常温で固体の油脂であっても、それらを分別することで得られた軟質部であって常温で液状である油脂も、そのような液状油脂として使用することができる。常温で固体である油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、シア脂、サル脂、カカオ脂、乳脂、牛脂、豚脂、等が挙げられるが、これらの油脂に対し、水素添加、分別、エステル交換等の処理を施した油脂についても、得られた加工油脂が常温で固体であれば、そのような固体油脂として使用することができる。また、得られた加工油脂が常温で液状の油脂であっても、それらを分別することで得られた硬質部であって、常温で固体である油脂も、そのような固体油脂として使用することができる。
【0031】
生地の表面に油脂を付着させる方法としては、噴霧や塗布であってよい。生地への適用量としては、湿潤生地質量1gあたり0.02g以上0.30g以下の範囲であることが好ましく、0.03g以上0.25g以下の範囲であることがより好ましく、0.04g以上0.20g以下の範囲であることが更により好ましい。また、生地表面積(上面のみ)の1cm2あたり0.0019g以上0.0846g以下の範囲であることが好ましく、0.0029g以上0.0705g以下の範囲であることがより好ましく、0.0038g以上0.0564g以下の範囲であることが更により好ましい。生地への適用量は、上記範囲未満であると本発明の作用効果が奏されにくい。一方、上記範囲を超えると生地への染込み量が多くなり油っぽい食感となったり、染込みきれない油が生地からこぼれてしまう傾向がある。
【0032】
生地の表面を吸湿させる方法としては、水の噴霧や塗布であってよい。生地への適用量としては、湿潤生地質量1gあたり0.013g以上0.20g以下の範囲であることが好ましく、0.014g以上0.18g以下の範囲であることがより好ましく、0.015g以上0.17g以下の範囲であることが更により好ましい。また、生地表面積(上面のみ)の1cm2あたり0.002g以上0.025g以下の範囲であることが好ましく、0.003g以上0.020g以下の範囲であることがより好ましく、0.004g以上0.017g以下の範囲であることが更により好ましい。生地への適用量は、上記範囲未満であると本発明の作用効果が奏されにくい。一方、上記範囲を超えると生地が緩くなり得られる菓子の帆形成が担保できなくなる傾向がある。
【0033】
生地の表面を吸湿させる方法としては、生地を加湿環境下におくことであってもよい。例えば、生地を所定の容器内に載置し、その庫内に水蒸気を吹き込んだり、充満させたりする等して、その容器内を加湿環境下におくことができ、これにより生地の表面を吸湿さることができる。あるいは、また、生地を焙焼するためのオーブン内の所定位置に上面が開放した容器に水を入れて載置し、その水をオーブンの加熱により沸騰させつつ、生地を焙焼したり、あるいは所定の加湿環境をオーブン内に作出する仕様のオーブンの場合には、適宜その仕様に則り、生地の表面を吸湿させつつ、焙焼を行うようにしてもよい。
【0034】
加湿環境下としては、容器内に単位時間あたりに供給される水蒸気量が、庫内容積1m3あたり10g/分以上470g/分以下の範囲が好ましく、21g/分以上235g/分以下の範囲であることがより好ましく、42g/分以上118g/分以下であることが更により好ましい。
【0035】
上記油脂の付着と吸湿による作用効果を最大限に享受するには、生地は、厚さ0.50mm以上3.50mm以下の範囲に成形されていることが好ましく、厚さ0.60mm以上3.20mm以下の範囲に成形されていることがより好ましく、厚さ0.70mm以上3.00mm以下の範囲に成形されていることが更により好ましい。生地の厚さは、上記範囲未満であると、得られる焼菓子の保形性が担保できない傾向となる。一方、上記範囲を超えると、上記油脂の付着と吸湿による作用効果を、得られる焼菓子の内部に届けにくい傾向となる。生地成形の方法としては、特に制限はないが、例えば、シート状に圧延し型抜きする方法が、好ましく例示される。なお、上記生地の成形においては、焙焼時に生じる水蒸気やガスの逃げ場をつくり、火ぶくれを防ぐため、ミシン目を入れたり針穴を開けたりしてもよい。
【0036】
本発明においては、上記のようにして、生地の表面に油脂を付着させる処理と、生地の表面を吸湿させる処理とを行ったうえ、焙焼することにより焼菓子を得ることができる。焙焼の方法としては、焼菓子の製造のための既存の設備を使用すればよく、特に制限はない。例えば、ハードビスケットやクラッカーの場合には、上火と下火とを独立に調節可能なトンネル型オーブンや、あるいは所望の場合には、オーブン内に水蒸気を充満させることが容易な、所定のオーブン庫内を備えるオーブンなどを使用して、上述したように、生地の表面を吸湿させつつ、焙焼を行うようにしてもよい。
【実施例
【0037】
以下に実施例を挙げて本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、以下に示される具体的態様に制限されるものではない。
【0038】
[試験例1]
表1の配合にて、ビスケットを作製した。
【0039】
【表1】
【0040】
具体的には、原料(1)を混合、撹拌し、これに水に溶解させた原料(2)を加えて、更にふるった原料(3)を加え、撹拌した。得られた生地は、4つ折りを2回行い、厚さ2.5~3mmのシート状に圧延して、直径60mmの型抜きにより成形した。
【0041】
成形した生地72枚(約8.0g/枚)を、天板に配置し、下記のいずれかの製法態様により焙焼し、ビスケットを得た。
【0042】
(製法態様)
・比較例1
オーブン(三幸機械株式会社製コンポオーブン)でタンパーを閉め上火210℃/下火200℃で約11分間焙焼した。
【0043】
・比較例2
成形生地の表面に、60℃で溶解した食品コーティング用油脂(「ベストオイル」月島食品工業製)を生地100質量部に対して5質量部塗布したうえ、比較例1と同様にオーブンで焙焼した。
【0044】
・比較例3
成形生地の表面に、水を生地100質量部に対して3.0質量部噴霧したうえ、比較例1と同様にオーブンで焙焼した。
【0045】
・比較例4
オーブン内の4隅に上面が開放した容器に水を入れて載置し、その水が沸騰してから比較例1と同様に焙焼した。焙焼後、各容器とも約50gの水が減少していた。
【0046】
・実施例1
比較例2と同様に成形生地の表面に油脂を塗布し、更にその表面に比較例3と同様に水を噴霧したうえ、比較例1と同様に焙焼した。
【0047】
・実施例2
比較例2と同様に成形生地の表面に油脂を塗布し、更に比較例4と同様にとオーブン内に容器に入れた水を載置して沸騰させたうえ、比較例1と同様に焙焼した。焙焼後、各容器とも約50gの水が減少していた。
【0048】
・実施例3
比較例2と同様に成形生地の表面に油脂を塗布し、更にその表面に比較例3と同様に水を噴霧し、更に比較例4と同様にとオーブン内に容器に入れた水を載置して沸騰させたうえ、比較例1と同様に焙焼した。焙焼後、各容器とも約50gの水が減少していた。
【0049】
得られたビスケットについて、10名のパネルにより、「サクサク感」、「粉っぽさ」、「口どけ」について官能試験を行った。具体的には、各パネルに下記基準に従いスコア付けしてもらい、10名のスコアの平均点を評価点とした。
【0050】
(スコア基準)
4 比較例1のビスケットよりもかなり良好な食感を感じる。
3 比較例1のビスケットよりも良好な食感を感じる。
2 比較例1のビスケットよりはやや良好な食感を感じる。
1 比較例1のビスケットと同等の食感を感じる。
【0051】
表2には、それぞれ製法態様とともに、その結果を示す。
【0052】
【表2】
【0053】
その結果、実施例1~3にみられるように、生地表面への油脂塗布に加えて、その表面への水噴霧か、あるいは焙焼中の水蒸気処理により、ビスケットの「サクサク感」、「粉っぽさ」、「口どけ」の評価において、比較例1に比べて顕著に良好な評価が得られた。これに対して、比較例2~4に見られるように、上記処理のそれぞれを単独で行っても、評価はあまり芳しくなかった。なお、比較例4について焙焼後に油脂を塗布しても評価はあまり芳しくなかった。
【0054】
[試験例2]
表3の配合にて、ポテトスナックを作製した。
【0055】
【表3】
【0056】
具体的には、原料(1)を混合、撹拌し、これに水に溶解させた原料(2)を加えて、更に原料(3)を加え、撹拌した。得られた生地は、4つ折りを2回行い、厚さ0.75mmのシート状に圧延して、直径60mmの型抜きにより成形した。
【0057】
成形の生地を、64枚(約2.7g/枚)を、ライトメッシュ板に配置し、下記のいずれかの製法態様により焙焼し、ポテトスナックを得た。
【0058】
(製法態様)
・比較例5
オーブン(三幸機械株式会社製コンポオーブン)でタンパーを閉め上火210℃/下火200℃で約8分間焙焼した。
【0059】
・比較例6
成形生地の表面に、60℃で溶解した食品コーティング用油脂(「ベストオイル」月島食品工業製)を生地100質量部に対して5質量部塗布したうえ、比較例5と同様にオーブンで焙焼した。
【0060】
・比較例7
成形生地の表面に、水を生地100質量部に対して8.7質量部噴霧したうえ、比較例5と同様にオーブンで焙焼した。
【0061】
・比較例8
オーブン内の4隅に上面が開放した容器に水を入れて載置し、その水が沸騰してから比較例5と同様に焙焼した。焙焼後、各容器とも約40gの水が減少していた。
【0062】
・実施例4
比較例6と同様に成形生地の表面に油脂を塗布し、更にその表面に比較例7と同様に水を噴霧したうえ、比較例5と同様に焙焼した。
【0063】
・実施例5
比較例6と同様に成形生地の表面に油脂を塗布し、更に比較例8と同様にとオーブン内に容器に入れた水を載置して沸騰させたうえ、比較例5と同様に焙焼した。焙焼後、各容器とも約40gの水が減少していた。
【0064】
・実施例6
比較例6と同様に成形生地の表面に油脂を塗布し、更にその表面に比較例7と同様に水を噴霧し、更に比較例8と同様にとオーブン内に容器に入れた水を載置して沸騰させたうえ、比較例5と同様に焙焼した。焙焼後、各容器とも約40gの水が減少していた。
【0065】
得られたポテトスナックについて、10名のパネルにより、「サクサク感」、「粉っぽさ」、「口どけ」について官能試験を行った。具体的には、各パネルに下記基準でスコア付けしてもらい、10名のスコアの平均点を評価点とした。
【0066】
(スコア基準)
4 比較例5のポテトスナックよりもかなり良好な食感を感じる。
3 比較例5のポテトスナックよりも良好な食感を感じる。
2 比較例5のポテトスナックよりはやや良好な食感を感じる。
1 比較例5のポテトスナックと同等の食感を感じる。
【0067】
表4には、それぞれ製法態様とともに、その結果を示す。
【0068】
【表4】
【0069】
その結果、実施例4~6にみられるように、生地表面への油脂塗布に加えて、その表面への水噴霧か、あるいは焙焼中の水蒸気処理により、ポテトスナックの「サクサク感」、「粉っぽさ」、「口どけ」の評価において、比較例1に比べて顕著に良好な評価が得られた。これに対して、比較例6~8に見られるように、上記処理のそれぞれを単独で行っても、評価はあまり芳しくなかった。なお、比較例8について焙焼後に油脂を塗布しても評価はあまり芳しくなかった。
【0070】
[まとめ]
試験例1と試験例2の結果をみると、焼菓子の生地の表面に水分と油分とを作用させると、その水分による澱粉質原料の澱粉粒のα化が、その油分により促進されて、小麦粉以外の澱粉質原料を主体とした焼菓子であっても、“サクサク”とした食感を呈し、粉っぽさがなく、口どけがよく、生地の成形も良好に行うことが可能である、という性質において優れた焼菓子が得られたものと考えられた。
【符号の説明】
【0071】
1 生地の表面に油脂を付着させる工程
2 生地の表面を吸湿させる工程
3 焙焼工程
図1