(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-14
(45)【発行日】2023-06-22
(54)【発明の名称】環状アセタール化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 319/06 20060101AFI20230615BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230615BHJP
【FI】
C07D319/06
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2018519233
(86)(22)【出願日】2017-05-18
(86)【国際出願番号】 JP2017018729
(87)【国際公開番号】W WO2017204086
(87)【国際公開日】2017-11-30
【審査請求日】2020-03-25
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2016105538
(32)【優先日】2016-05-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 英之
(72)【発明者】
【氏名】岡本 淳
【合議体】
【審判長】阪野 誠司
【審判官】野田 定文
【審判官】関 美祝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/104341(WO,A1)
【文献】特開2016-13986(JP,A)
【文献】国際公開第2014/171511(WO,A1)
【文献】特開平3-38585(JP,A)
【文献】特開昭59-134788(JP,A)
【文献】特開昭59-148776(JP,A)
【文献】特開2007-99681(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物Aと水との混合物
(ただし、イソブチルアルデヒドとホルムアルデヒドとからのヒドロキシピバルアルデヒド反応生成液を除く。)と、酸触媒と、下記一般式(2)で表される化合物Bと、を含有する系内において、前記化合物Aと前記化合物Bとを脱水環化反応させて、下記一般式(3)で表される環状アセタール化合物を製造する工程を有し、
前記混合物に含まれる水の含有量は、その水と前記化合物Aとの合計量に対して20質量%以上であり、
前記環状アセタール化合物を製造する工程において、前記混合物に含まれる水と前記脱水環化反応により生成した水とを、同時に前記系内から除去する、
環状アセタール化合物の製造方法。
【化1】
【化2】
【化3】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4はそれぞれ独立に、炭素数1~6の直鎖若しくは分岐のアルキル基、又はヒドロキシメチル基を示す。)
【請求項2】
前記環状アセタール化合物を製造する工程において、有機化合物と水との共沸により、前記混合物に含まれる水と前記脱水環化反応により生成した水とを、同時に前記系内から除去する、請求項1に記載の環状アセタール化合物の製造方法。
【請求項3】
前記有機化合物が、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、リグロイン及び石油エーテルからなる群より選ばれる1種以上である、請求項2に記載の環状アセタール化合物の製造方法。
【請求項4】
前記化合物Aが、3-ヒドロキシ-2,2-ジメチル-プロピオンアルデヒドである、請求項1~3のいずれか1項に記載の環状アセタール化合物の製造方法。
【請求項5】
前記化合物Bが、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン及びペンタエリスリトールからなる群より選ばれる1種以上の化合物である、請求項1~4のいずれか1項に記載の環状アセタール化合物の製造方法。
【請求項6】
前記化合物Bが、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール及び2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールからなる群より選ばれる1種以上の化合物である、請求項1~5のいずれか1項に記載の環状アセタール化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状アセタール化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アセタール化は、反応性の高い水酸基やアミノ基をカルボニル基により保護したり、カルボニル基を水酸基により保護したりする方法として古くから用いられている。また、アセタール化合物は、医薬品や農薬などの合成中間体として利用されている。さらに、アセタール化合物そのものは、有機溶剤や合成潤滑油、界面活性剤などとして広く使用されている。
【0003】
アセタール化合物の一般的な合成法としては、カルボニル化合物とアルコールからの酸触媒による脱水反応、及び、低級アルコールからなるアセタール化合物を介した、酸触媒によるアセタール交換反応が広く知られている。どちらの場合においても反応は平衡反応であるから、反応転化率を高めるためには反応中に副生する水又は低級アルコールを除去する操作が必要となる。水を除去する方法としては、非水溶性又は難水溶性であり、かつ、水と共沸混合物を形成する有機溶媒を、アセタール化の反応溶媒として選択し、デカンタ槽から2層分離したうちの水のみを反応系内から除去する反応蒸留方式が一般に利用されている。また、低級アルコールを除去する方法としては、反応器に精留塔を設置し、生成する低級アルコールのみを反応系内から除去する方法が一般的である。
【0004】
アセタール化合物の原料となるカルボニル化合物やアルコールは、工業的には化学的安定性の向上や使用時のハンドリングの容易さといった目的から、含水品、すなわち水との混合物の形態としているものも多い。例えば、ホルムアルデヒドはその濃度が40%前後の水溶液(ホルマリン)として、グルタルアルデヒドはその濃度が2~20%の水溶液として、広く流通している。3-ヒドロキシ-2,2-ジメチル-プロピオンアルデヒド(別名:ヒドロキシピバルアルデヒド)は、安定性向上のため、その濃度が30~80%の含水品として生産される。また、ブドウ糖(D-グルコース)は約9%の結晶水を含んだものが、D-ソルビットはその濃度が70%の水溶液品が、それぞれ甘味料や医薬品原料として用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-228566号公報
【文献】特表2006-515576号公報
【文献】特開平3-38585号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Ettore Santoro, Journal of the Chemical Society, Perkin Transactions II,3巻,189-192ページ、1978年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アセタール化合物の原料であるカルボニル化合物は反応性が高く、無触媒での加熱や常温での長期保存中でも副生成物が生成することがある。例えば、下記一般式(1)で表わされるアルデヒド化合物から、ティシチェンコ反応と呼ばれる2量化によって、対応するエステル化合物(下記一般式(4)で表わされる化合物)が生成することが知られている。また、そのアルデヒド化合物から、カニッツァロ反応と呼ばれる2分子の不均化によって、アルコールとカルボン酸が生成することが知られている。また、3-ヒドロキシ-2,2-ジ置換-プロピオンアルデヒドのように、カルボニル化合物が同一分子内に水酸基を有する場合、ヘミアセタール結合を介して2量化ないし高分子量化する事例が報告されている(非特許文献1参照)。この場合、生成した2量体ないし高分子量体を含むアルデヒドを原料として用いてアセタール合成を行うと、所望のアセタール化の進行を阻害することがある。
【化1】
【化2】
【0008】
アルコール及び/又はカルボニル化合物と共に水を含む混合物(含水品)を原料として用いて、アセタール化合物を合成する場合、原料由来の水を予め取り除くことができれば、アセタール化反応の反応時間の短縮や釜効率の改善といった、工業生産における利点があると考えられる。しかしながら、工業的に可能な脱水方法である、非水溶性又は難水溶性の有機溶媒にアセタール原料を溶解させて2層分離させる方法では、反応容器とは別の容器が必要となる。また、一般的な物理的脱水方法である風乾法、減圧法、又は加熱法等では、脱水に時間がかかる。さらに、そのような物理的脱水方法は、安定性向上のために水が添加されている場合には利用できない。そこで、実際には、アセタール化合物の原料である含水品をそのままアセタール反応装置に導入し、アセタール化反応の前に原料由来の水分を除去したり、アセタール化反応によって生成する水分と原料由来の水分とを同時に除去したりする場合が多い(特許文献1及び2参照)。
【0009】
しかしながら、反応性の高いカルボニル化合物をアセタール化合物の原料として使用する場合、原料由来の水を取り除く脱水工程中にも、上述したような副生成物が生成する。そして、その副生成物は、そのままアセタール化反応の系内に残存してしまう。さらに、原料として選択したアルコールの種類によっては、アセタール化合物と副生成物の物理的性質が互いに近くなる。その結果、一般的な精製法である蒸留精製法や再結晶法ではアセタール化合物と副生成物との分離が困難な場合がある。例えば、特許文献3には、含水の粗2,2-ジアルキル-3-ヒドロキシプロパナール及び1,3-プロパンジオール類縁体からの環状アセタール合成が報告されているが、副生成物については記載がなく、また、全ての実施例において蒸留精製を行っている。その結果、特許文献3に記載のような手法では、所望のアセタール化合物の収量が低下したり、煩雑な精製設備を要したりするといった問題が生じる。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、原料である所定のカルボニル化合物を水と共に含む混合物を用いてアセタール化合物を合成する際に、副生成物の生成を抑制し、所望のアセタール化合物を工業生産可能な手段で、かつ高純度で得る製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、原料であるアルデヒド化合物と水とを含む混合物を用いて、酸触媒存在下、環状アセタール化合物を合成する際に、上記混合物由来の水を共存させた状態でアセタール化反応を行うことで、副生成物の生成を抑制し、所望のアセタール化合物が高純度にて得られることを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち本発明は、下記のとおりである。
[1]下記一般式(1)で表される化合物Aと水との混合物
(ただし、イソブチルアルデヒドとホルムアルデヒドとからのヒドロキシピバルアルデヒド反応生成液を除く。)と、酸触媒と、下記一般式(2)で表される化合物Bと、を含有する系内において、前記化合物Aと前記化合物Bとを脱水環化反応させて、下記一般式(3)で表される環状アセタール化合物を製造する工程を有し、前記混合物に含まれる水の含有量は、その水と前記化合物Aとの合計量に対して20質量%以上であり、前記環状アセタール化合物を製造する工程において、前記混合物に含まれる水と前記脱水環化反応により生成した水とを、同時に前記系内から除去する、環状アセタール化合物の製造方法。
【化3】
【化4】
【化5】
(式中、R
1、R
2、R
3及びR
4はそれぞれ独立に、炭素数1~6の直鎖若しくは分岐のアルキル基、又はヒドロキシメチル基を示す。)
[2]前記環状アセタール化合物を製造する工程において、有機化合物と水との共沸により、前記混合物に含まれる水と前記脱水環化反応により生成した水とを、同時に前記系内から除去する、[1]に記載の環状アセタール化合物の製造方法。
[3]前記有機化合物が、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、リグロイン及び石油エーテルからなる群より選ばれる1種以上である、[2]に記載の環状アセタール化合物の製造方法。
[4]前記化合物Aが、3-ヒドロキシ-2,2-ジメチル-プロピオンアルデヒドである、[1]~[3]のいずれかに記載の環状アセタール化合物の製造方法。
[5]前記化合物Bが、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン及びペンタエリスリトールからなる群より選ばれる1種以上の化合物である、[1]~[4]のいずれかに記載の環状アセタール化合物の製造方法。
[6]前記化合物Bが、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール及び2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールからなる群より選ばれる1種以上の化合物である、[1]~[5]のいずれかに記載の環状アセタール化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、原料である所定のカルボニル化合物を水と共に含む混合物を用いてアセタール化合物を合成する際に、副生成物の生成を抑制し、所望のアセタール化合物を工業生産可能な手段で、かつ高純度で得る製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。本実施形態のアセタール化合物の製造方法は、下記一般式(1)で表される化合物A(以下、「原料アルデヒド」ともいう。)と水との混合物と、酸触媒と、下記一般式(2)で表される化合物B(以下、「原料アルコール」ともいう。)と、を含有する系内において、化合物Aと化合物Bとを脱水環化反応させて、下記一般式(3)で表される環状アセタール化合物を製造する工程を有し、上記混合物に含まれる水の含有量は、その水と化合物Aとの合計量に対して20質量%以上であり、上記環状アセタール化合物を製造する工程において、上記混合物に含まれる水と脱水環化反応より生成した水とを、同時に上記系内から除去するものである。ここで、式(1)、(2)及び(3)中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立に、炭素数1~6の直鎖若しくは分岐のアルキル基、又はヒドロキシメチル基を示す。炭素数1~6の直鎖若しくは分岐のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基(n-プロピル基及びイソプロピル基)、ブチル基(n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基及びtert-ブチル基)、ペンチル基(n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、3-ペンチル基、tert-ペンチル基及びネオペンチル基)、並びにヘキシル基(1-メチルペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、sec-ヘキシル基、tert-ヘキシル基及びネオヘキシル基)が挙げられる。
【0015】
脱水環化反応により上記環状アセタール化合物を製造する工程(以下、「脱水環化工程」という。)では、化合物Aと水との混合物であって化合物Aと水との合計量に対して水を20質量%以上含む混合物と、酸触媒と、化合物Bとを含有する系内において、化合物Aと化合物Bとを脱水環化反応させる。化合物Aは3-ヒドロキシ-2,2-ジ置換-プロピオンアルデヒドであり、その具体例として、3-ヒドロキシ-2,2-ジメチル-プロピオンアルデヒド、3-ヒドロキシ-2,2-ジエチル-プロピオンアルデヒド、3-ヒドロキシ-2-メチル-2-エチル-プロピオンアルデヒド、3-ヒドロキシ-2-メチル-2-プロピル-プロピオンアルデヒド、3-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブチル-プロピオンアルデヒド、3-ヒドロキシ-2-メチル-2-ペンチル-プロピオンアルデヒド、3-ヒドロキシ-2-エチル-2-プロピル-プロピオンアルデヒド、3-ヒドロキシ-2-エチル-2-ブチル-プロピオンアルデヒド、3-ヒドロキシ-2-エチル-2-ペンチル-プロピオンアルデヒド、3-ヒドロキシ-2-エチル-2-ヘキシル-プロピオンアルデヒド、3-ヒドロキシ-2-ジプロピル-プロピオンアルデヒド、3-ヒドロキシ-2-プロピル-2-ブチル-プロピオンアルデヒド、3-ヒドロキシ-2-プロピル-2-ペンチル-プロピオンアルデヒド、3-ヒドロキシ-2-プロピル-2-ヘキシル-プロピオンアルデヒド、3-ヒドロキシ-2-ジブチル-プロピオンアルデヒド、3-ヒドロキシ-2-ブチル-2-ペンチル-プロピオンアルデヒド、3-ヒドロキシ-2-ブチル-2-ヘキシル-プロピオンアルデヒド、3-ヒドロキシ-2-ジペンチル-プロピオンアルデヒド、3-ヒドロキシ-2-ペンチル-2-ヘキシル-プロピオンアルデヒド、3-ヒドロキシ-2-ジヘキシル-プロピオンアルデヒド、及び3-ヒドロキシ-2-メチル-2-ヘキシル-プロピオンアルデヒドのようなモノアルコールアルデヒド、2,2-ビスヒドロキシメチル-アセトアルデヒド、2,2-ビスヒドロキシメチル-プロピオンアルデヒド、2,2-ビスヒドロキシメチル-ブチルアルデヒド、2,2-ビスヒドロキシメチル-バレルアルデヒド及び2,2-ビスヒドロキシメチル-ヘキシルアルデヒドのようなジアルコールアルデヒド、並びに、2,2,2-トリスヒドロキシメチル-アセトアルデヒドのようなトリアルコールアルデヒドが挙げられる。これらの中では、本発明による効果をより有効かつ確実に奏する観点から、モノアルコールアルデヒドとして、3-ヒドロキシ-2,2-ジメチル-プロピオンアルデヒド、3-ヒドロキシ-2,2-ジエチル-プロピオンアルデヒド、3-ヒドロキシ-2-メチル-2-エチル-プロピオンアルデヒド、3-ヒドロキシ-2-メチル-2-プロピル-プロピオンアルデヒド、3-ヒドロキシ-2-メチル-2-ブチル-プロピオンアルデヒド、3-ヒドロキシ-2-エチル-2-ブチル-プロピオンアルデヒド、3-ヒドロキシ-2-プロピル-2-ペンチル-プロピオンアルデヒド、及び3-ヒドロキシ-2-メチル-2-ヘキシル-プロピオンアルデヒドが好ましく、3-ヒドロキシ-2,2-ジメチル-プロピオンアルデヒドがより好ましい。また、同様の観点から、ジアルコールアルデヒドとして、2,2-ビスヒドロキシメチル-アセトアルデヒド、2,2-ビスヒドロキシメチル-プロピオンアルデヒド、2,2-ビスヒドロキシメチル-バレルアルデヒド及び2,2-ビスヒドロキシメチル-ヘキシルアルデヒドが好ましい。さらに、同様の観点から、モノアルコールアルデヒド、ジアルコールアルデヒド及びトリアルコールアルデヒドの中では、モノアルコールアルデヒドが好ましい。プロピオンアルデヒド骨格の2位の炭素原子に結合した置換基が、環状アセタール化合物の構造を示す一般式(3)におけるR
1及びR
2に該当する。
【化6】
【0016】
化合物Aである3-ヒドロキシ-2,2-ジ置換-プロピオンアルデヒドの製造方法については特に制限はなく、従来公知の方法で製造されたものを用いることができる。例えば、3-ヒドロキシ-2,2-ジメチル-プロピオンアルデヒドは、イソブチルアルデヒド及びホルマリンからのアルドール縮合で合成されることが知られている。この場合、生成する3-ヒドロキシ-2,2-ジメチル-プロピオンアルデヒドの保存安定性向上のため、その化合物と水との総量に対して水を70~20質量%含む混合物として市場に流通されている。本実施形態では、例えばこのような混合物(含水品)を利用してアセタール合成を行うことができる。化合物Aと水との混合物における水の含有量は、それらの合計量に対して20質量%以上であれば、すなわち20質量%以上100質量%未満であれば特に限定されず、例えば、20質量%以上70質量%以下であってもよく、20質量%以上50質量%以下であってもよく、20質量%以上40質量%以下であってもよい。
【0017】
化合物Bは2,2-ジ置換-1,3-プロパンジオールである。その具体例としては、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-ペンチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-ペンチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-ヘキシル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジプロピル-1,3-プロパンジオール、2-プロピル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2-プロピル-2-ペンチル-1,3-プロパンジオール、2-プロピル-2-ヘキシル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジブチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-ペンチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-ヘキシル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジペンチル-1,3-プロパンジオール、2-ペンチル-2-ヘキシル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジヘキシル-1,3-プロパンジオール、及び2-メチル-2-ヘキシル-1,3-プロパンジオールのようなジオール類、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、トリメチロールペンタン及びトリメチロールヘキサンのようなトリオール類、並びにペンタエリスリトールのようなテトラオールが挙げられる。これらの中では、本発明による効果をより有効かつ確実に奏する観点から、ジオール類としては、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2-プロピル-2-ペンチル-1,3-プロパンジオール、及び2-メチル-2-ヘキシル-1,3-プロパンジオールが好ましく、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール及び2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオールがより好ましい。同様の観点から、トリオール類としては、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、トリメチロールペンタン及びトリメチロールヘキサンが好ましい。さらに、同様の観点から、ジオール類、トリオール類及びテトラオールの中ではジオール類が好ましい。1,3-プロパンジオールの2位の炭素原子に結合した置換基が、環状アセタール化合物の構造を示す一般式(3)におけるR
3及びR
4に該当する。
【化7】
【0018】
脱水環化工程において、化合物Aの使用量に対する化合物Bの使用量は、所望の環状アセタール化合物を生成できる量であれば特に限定されない。ただし、脱水環化反応後に生成物を精製せずに次の反応へと進む場合、未反応又は過剰分の化合物Bはそのまま生成物中に残存してしまうため、次の反応に悪影響を与える場合がある。また、脱水環化反応後に生成物を精製して未反応分を回収する場合でも、可能な限り、未反応分が少ないことが工業的に有利である。これらの観点から、化合物Aの使用量に対する化合物Bの使用量は、モル基準で1.00当量以上3.00当量以上であると好ましく、1.05当量以上2.00当量以下であるとより好ましい。
【0019】
本実施形態に係る下記一般式(3)で表される環状アセタール化合物としては、上記の化合物A及び化合物BにおけるR
1、R
2、R
3及びR
4と同じR
1、R
2、R
3及びR
4を有するものであればよく、いずれの組み合わせであってもよい。
【化8】
【0020】
脱水環化工程において、脱水環化反応(アセタール化反応)に用いられる酸触媒としては、公知の酸触媒であってもよく、特に制限はない。そのような酸触媒として、具体的には、パラトルエンスルホン酸及びメタンスルホン酸のような有機酸類、塩酸及び硫酸のような鉱酸類、並びに、ナフィオン(Sigma-Aldrich社製商品名)及び陽イオン交換樹脂のような固体酸触媒が挙げられる。これらの中では、本発明による効果をより有効かつ確実に奏する観点から、有機酸類がより好ましく、パラトルエンスルホン酸がより好ましい。脱水環化工程における酸触媒の使用量としては特に限定されないが、原料アルデヒドの量に対して、モル基準で0.00001当量以上0.01当量以下であると好ましい。酸触媒の使用量は、原料アルデヒドの量に対して、反応時間の観点からは、モル基準で0.00001当量以上が好ましく、0.0001当量以上がより好ましい。酸触媒の使用量は、原料アルデヒドの量に対して、副生物の生成抑制や触媒除去の観点からは、モル基準で0.01当量以下が好ましく、0.001当量以下がより好ましい。
【0021】
本実施形態において、上記系内に有機化合物(ただし、上記の各化合物のうち有機化合物に該当するものを除く。)が含まれていてもよい。ここで使用できる有機化合物は、室温で液体であり、かつ脱水環化反応の反応時の温度で原料アルデヒド及び原料アルコール、並びに生成する環状アセタール化合物を均一に溶解させる有機溶媒であると好ましく、水と共沸混合物を形成し得るものであるとより好ましい。また、非水溶性又は難水溶性であり、原料アルデヒド及び原料アルコール、並びに生成する環状アセタール化合物に対して不活性であることが望ましい観点から、有機化合物として、炭化水素系溶媒が更に好適に用いられる。かかる炭化水素系溶媒としては、例えば、パラフィン類、芳香族炭化水素類及び脂環式炭化水素類が挙げられる。より具体的には、炭化水素系溶媒として、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、リグロイン及び石油エーテルが挙げられる。かかる有機化合物(好ましくは炭化水素系溶媒)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。ここで、「非水溶性又は難水溶性」とは、室温における水に対する溶解度が2g/L以下未満である性質をいう。
【0022】
有機化合物の使用量は特に限定されないが、原料アルデヒド及び原料アルコールの総量100質量部に対して、10質量部以上1000質量部以下であることが好ましく、より好ましくは20質量部以上500質量部以下、さらに好ましくは30質量部以上300質量部以下である。有機化合物の使用量が上記数値範囲内にあることにより、有機化合物が水と共沸混合物を形成し得るものである場合に、より有効かつ確実に水を上記系内から除去することができる。
【0023】
本実施形態の脱水環化工程において、脱水環化反応の反応温度は、上記有機化合物を含む場合にはその沸点にもよるが、50℃以上180℃以下であってもよく、好ましくは70℃以上150℃以下の温度である。反応温度が50℃以上であると反応時間をより短くすることができ、反応温度が180℃以下であると、着色に起因する望まない副反応をより有効かつ確実に抑制することができる。また、脱水環化反応の反応圧力は、上記反応温度において、脱水環化反応が進行するような圧力であれば特に限定されず、常圧であってもよく、場合によっては、減圧下で反応を行うことも有効である。この反応時の反応系周囲の雰囲気は特に限定されず、例えば、空気雰囲気下、窒素雰囲気下、及び窒素流通下のいずれであってもよい。反応時間は、触媒量や反応温度によって適宜調整すればよいが、通常2時間以上48時間以下であると好ましい。
【0024】
本実施形態の脱水環化工程において、上記混合物に含まれる水と脱水環化反応により生成した水とを、同時に系内から除去する。水を系内から除去する方法としては、特に限定されず、脱水反応において生成する水を反応系内から除去する方法として、一般に知られている方法であってもよい。例えば、非水溶性又は難水溶性であり、かつ、水と共沸混合物を形成し得る有機化合物を反応系内に含有させ、有機化合物と水とを共沸留分として留去した後、2層分離した水のみを上記系内から除去する方法であってもよい。また、水と共沸混合物を形成し得る有機化合物とを用いた場合の水を除去する温度は、水及び有機化合物が共沸するような温度であれば特に限定されない。
【0025】
本実施形態の製造方法によって得られた環状アセタール化合物は、中和、ろ過、洗浄、及び濃縮等の適当な後処理の後、更に公知の精製方法によって単離することができる。そのような単離方法として、具体的には、蒸留、晶析、吸着処理、カラムクロマトグラフィー、分取HPLC(液体クロマトグラフィー)、及び分取ガスクロマトグラフィーが挙げられる。また、本実施形態の製造方法によれば、高純度で環状アセタール化合物を得ることができるので、反応の後処理のみを行い、更なる環状アセタール化合物の単離操作を行うことなく、その次の反応や用途に用いることができる。そして、本実施形態によれば、上記の原料アルデヒドと水との混合物を用いて環状アセタール化合物を合成する際に、副生成物の生成を抑制して高純度のアセタール化合物を得ることができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により特に限定されるものではない。なお、例中の「%」の表示は、特記しない限り、質量基準である。また、原料中の水の含有量及び反応成績は、ガスクロマトグラフィー(GC)を用い、TCD検出器にて内部標準法により定量した結果から導き出した。
【0027】
(実施例1)
水と3-ヒドロキシ-2,2-ジメチル-プロピオンアルデヒド(ヒドロキシピバルアルデヒド、化合物(1))との混合物(三菱瓦斯化学株式会社製、水の含有量:31%)642.3gと、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(ネオペンチルグリコール、化合物(2)、東京化成工業株式会社製試薬)456.6gと、トルエン(和光純薬工業株式会社製試薬)1414gと、パラトルエンスルホン酸一水和物(和光純薬工業株式会社製試薬)0.42gとを5リットルの丸底フラスコに収容し、常圧下で90℃~125℃に加熱して脱水環化反応を行った。その温度にて、系内の水(混合物に含有されていた水及び反応にて生成した水を少なくとも含む。)をトルエンと共沸させながら、ディーン・スターク・トラップを用いて系内から系外へ除去して、水の留出が止まるまで反応させた。水を除去した後の反応液をGCにて測定したところ、2-(5,5-ジメチル-[1,3]ジオキサン-2-イル)-2-メチル-プロパン-1-オール(化合物(3))が98.7%、3-ヒドロキシ-2,2-ジメチル-プロピオンアルデヒドが0.1%、3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロピル-3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロピオネート(以下、「エステルグリコール」と表記する。)が0.5%であった。反応液を濃縮及び冷却することにより、2-(5,5-ジメチル-[1,3]ジオキサン-2-イル)-2-メチル-プロパン-1-オールの一次晶650.9gを得た。下記に実施例1の反応スキームを示す。
【化9】
【0028】
(比較例1)
水と3-ヒドロキシ-2,2-ジメチル-プロピオンアルデヒドとの混合物(三菱瓦斯化学株式会社製、水の含有量:31%)758.1gと、トルエン(和光純薬工業株式会社製試薬)1000gとを5リットルの丸底フラスコに収容し、常圧下で90℃~125℃に加熱して、混合物に含有されていた水をトルエンと共沸させながら、ディーン・スターク・トラップを用いて、水の留出が止まるまで系内から系外へ除去した。水を除去した後の液をGCにて測定したところ、3-ヒドロキシ-2,2-ジメチル-プロピオンアルデヒドが82.1%、エステルグリコールが17.9%であった。フラスコ内を30℃まで冷却した後、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(東京化成工業株式会社製試薬)221.5gと、パラトルエンスルホン酸一水和物(和光純薬工業株式会社製試薬)0.20gとを新たに系内に追加し、常圧下で再び100℃~125℃に加熱して反応させた。その温度にて、反応にて生成した水をトルエンと共沸させながら、ディーン・スターク・トラップを用いて系内から系外へ除去して、水の留出が止まるまで反応させた。水を除去した後の反応液をGCにて測定したところ、2-(5,5-ジメチル-[1,3]ジオキサン-2-イル)-2-メチル-プロパン-1-オールが88.8%、3-ヒドロキシ-2,2-ジメチル-プロピオンアルデヒドが0.2%、エステルグリコールが8.9%であった。
【0029】
(比較例2)
水と3-ヒドロキシ-2,2-ジメチル-プロピオンアルデヒドとの混合物(三菱瓦斯化学株式会社製、水の含有量:31%)21.0gと、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(東京化成工業株式会社製試薬)15.2gと、トルエン(和光純薬工業株式会社製試薬)46.5gとを0.2リットルの丸底フラスコに収容し、常圧下で90℃~125℃に加熱して、混合物に含有されていた水をトルエンと共沸させながら、ディーン・スターク・トラップを用いて、水の留出が止まるまで系内から系外へ除去した。水を除去した後の液をGCにて測定したところ、3-ヒドロキシ-2,2-ジメチル-プロピオンアルデヒドが44.9%、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールが52.1%、エステルグリコールが3.1%であった。
【0030】
(実施例2)
2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール456.6gを2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール(東京化成工業株式会社製試薬)702.5gに変更した以外は実施例1と同様の条件にて、脱水環化反応及び系内からの水の除去を行った。水を除去した後の反応液をGCにて測定したところ、2-(5-エチル-5-ブチル-[1,3]ジオキサン-2-イル)-2-メチル-プロパン-1-オールが94.8%(異性体の合算値として)、3-ヒドロキシ-2,2-ジメチル-プロピオンアルデヒドが0.1%、エステルグリコールが0.5%であった。反応液をアルカリ洗浄した後、減圧蒸留して、2-(5-エチル-5-ブチル-[1,3]ジオキサン-2-イル)-2-メチル-プロパン-1-オール(GCの測定による異性体の合算値として99.0%)を得た。下記に実施例2の反応スキームを示す。
【化10】
【0031】
(比較例3)
2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール221.5gを2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール(東京化成工業株式会社製試薬)341.3gに変更した以外は比較例1と同様の条件にて、反応及び系内からの水の除去を行った。水を除去した後の液をGCにて測定したところ、2-(5-エチル-5-ブチル-[1,3]ジオキサン-2-イル)-2-メチル-プロパン-1-オールが87.0%(異性体の合算値として)、3-ヒドロキシ-2,2-ジメチル-プロピオンアルデヒドが0.2%、エステルグリコールが7.8%だった。
【0032】
(比較例4)
2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール15.2gを2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール(東京化成工業株式会社製試薬)23.1gに変更した以外は比較例3と同様の条件にて、反応及び系内からの水の除去を行った。水を除去した後の液をGCにて測定したところ、3-ヒドロキシ-2,2-ジメチル-プロピオンアルデヒドが42.8%、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオールが53.2%、エステルグリコールが4.0%だった。
【0033】
以上の結果から、環状アセタール化合物を合成する際に本発明を利用することで、副生成物の生成を抑制し、所望の環状アセタール化合物を高純度にて得られることが分かった。
【0034】
本出願は、2016年5月26日出願の日本特許出願(特願2016-105538)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の製造方法によって得られる環状アセタール化合物は、例えば、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアミド及びポリオキシメチレン等の末端封止材やモノマー原料として、並びに、樹脂添加剤や医農薬の中間体原料としても利用できる。また、本発明の製造方法によって得られる環状アセタール化合物は高純度であるため、蒸留や再結晶といった特段の精製工程を設けず、未精製のまま次の工程での反応を行うことも可能である。本発明は、そのような分野において産業上の利用可能性がある。